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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022068448
(43)【公開日】2022-05-10
(54)【発明の名称】電動車椅子
(51)【国際特許分類】
   A61G 5/04 20130101AFI20220427BHJP
   B60L 15/00 20060101ALI20220427BHJP
   B60K 1/00 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
A61G5/04 710
B60L15/00 Z
A61G5/04 701
A61G5/04 707
B60K1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020177122
(22)【出願日】2020-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 由之
(72)【発明者】
【氏名】粂野 俊貴
(72)【発明者】
【氏名】北本 弘
(72)【発明者】
【氏名】竹内 彰啓
(72)【発明者】
【氏名】長山 陸
【テーマコード(参考)】
3D235
5H125
【Fターム(参考)】
3D235AA22
3D235BB32
3D235CC12
3D235CC13
3D235CC14
3D235DD12
3D235HH13
3D235HH32
5H125AA16
5H125AB01
5H125AC12
5H125FF01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】車体本体が一定の方向へ走行する場合において駆動輪の駆動を制限することができる電動車椅子を提供する。
【解決手段】電動車椅子は、自在輪20と、自在輪20を駆動するモータと、モータを駆動制御する駆動制御部と、車体フレームの進行方向に追従して自在輪20を旋回可能に支持する支持部と、モータ及び駆動制御部の間で電力又は信号を伝達する伝達機構とを備える。伝達機構は、モータに接続され自在輪20とともに旋回軸S2回りに回動する回動シャフト90に周方向所定範囲に亘って設けられた回動端子92a1~92b5と、駆動制御部に接続され回動シャフト90の回動に応じて回動端子92a1~92b5に摺接可能な主ブラシ94a1~94b5とを備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体本体と、
駆動輪と、
前記駆動輪を駆動するモータと、
前記モータを駆動制御する駆動制御部と、
前記車体本体に設けられ、前記車体本体の進行方向に追従して前記駆動輪を旋回可能に支持する支持部と、
前記モータと、前記駆動制御部との間で電力又は信号を伝達する伝達機構と、を備え、
前記伝達機構は、
前記モータに接続され、前記駆動輪とともに旋回軸回りに回動するシャフトの外周側に周方向所定範囲に亘って設けられた回動端子と、
前記駆動制御部に接続され、前記シャフトの回動に応じて前記回動端子に摺接可能なブラシと、を備える
電動車椅子。
【請求項2】
前記所定範囲は、前記駆動輪の向きが、前記車体本体を前進させる旋回角度範囲外である場合に、前記回動端子と前記ブラシとが離隔するように設定された範囲である
請求項1に記載の電動車椅子。
【請求項3】
前記ブラシは、前記モータの駆動電力を出力する、前記駆動制御部の出力端子に接続され、
前記回動端子は、前記駆動電力が与えられる前記モータの入力端子に接続されている
請求項1又は請求項2に記載の電動車椅子。
【請求項4】
前記モータは、三相ブラシレスモータであり、
前記回動端子は、各相に対応して前記シャフトの軸方向に並べて3つ設けられ、
前記ブラシは、3つの前記回動端子に対応して3つ設けられる
請求項3に記載の電動車椅子。
【請求項5】
前記伝達機構は、3つの前記ブラシの周方向位置と異なる周方向位置に設けられた、3つの前記回動端子に摺接可能な3つの他のブラシをさらに備え、
前記所定範囲は、3つの前記ブラシと、前記3つの他のブラシとが、3つの前記回動端子に同時に摺接しないように設定された範囲であり、
前記3つの他のブラシは互いに接続されている
請求項4に記載の電動車椅子。
【請求項6】
前記伝達機構は、前記シャフトの外周側に設けられた、3つの前記ブラシが摺接可能な3つの他の回動端子をさらに備え、
前記3つの他の回動端子は、前記所定範囲以外の周方向範囲に設けられ、3つの前記回動端子と3つの前記ブラシとが摺接したときの前記モータの回転方向と逆の回転方向になる配置となるように前記モータに接続されている
請求項4に記載の電動車椅子。
【請求項7】
前記回動端子は、前記モータが有するセンサに接続され、
前記ブラシは、前記駆動制御部のセンサ用端子に接続されている
請求項1又は請求項2に記載の電動車椅子。
【請求項8】
前記センサと前記センサ用端子とを繋ぐ信号線路は、前記センサへ動作電圧を供給する動作電圧線路、前記センサからの出力を前記駆動制御部へ与える出力線路、及び、接地線路を含み、
前記回動端子及び前記ブラシは、前記動作電圧線路、前記出力線路、及び、前記接地線路のそれぞれに対応して複数設けられ、
前記伝達機構は、前記シャフトの外周側に設けられた他の回動端子をさらに備え、
前記他の回動端子は、前記所定範囲以外の周方向の範囲に設けられ、前記動作電圧線路に対応する前記ブラシ及び前記接地線路に対応する前記ブラシのいずれか一方と、前記出力線路に対応する前記ブラシとに摺接し、これらブラシを互いに接続する
請求項7に記載の電動車椅子。
【請求項9】
前記モータは、前記駆動輪に一体に設けられたロータと、前記駆動輪の中心軸に沿って設けられたステータとを備える
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の電動車椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、一対の主輪と、一対の主輪よりも小径の一対の前輪とを備えた電動車椅子が開示されている。この電動車椅子は、一対の前輪をモータによって駆動するように構成されている。一対の前輪は上方に延びるハンドルを操作することで旋回操作可能であり、搭乗者はハンドル操作によって電動車椅子の方向を転換する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-14473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車椅子の前輪は、キャスタが用いられることが一般的であり、車椅子の進行方向に追従して旋回可能に設けられている。
このような旋回可能な前輪をモータによって駆動した場合、前輪(駆動輪)の向き(進行方向)が車椅子の後方を向いているときに駆動されることが考えられる。
この場合、電動車椅子は、後方に向かって走行することになり、搭乗者に不安感を与えることがある。
このため、電動車椅子が一定の方向へ走行する場合において駆動輪の駆動を制限することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る電動車椅子は、
車体本体と、
駆動輪と、
前記駆動輪を駆動するモータと、
前記モータを駆動制御する駆動制御部と、
前記車体本体に設けられ、前記車体本体の進行方向に追従して前記駆動輪を旋回可能に支持する支持部と、
前記モータと、前記駆動制御部との間で電力又は信号を伝達する伝達機構と、を備え、
前記伝達機構は、
前記モータに接続され、前記駆動輪とともに旋回軸回りに回動するシャフトの外周側に周方向所定範囲に亘って設けられた回動端子と、
前記駆動制御部に接続され、前記シャフトの回動に応じて前記回動端子に摺接可能なブラシと、を備える。
【0006】
上記構成によれば、シャフトの回動に応じて、周方向所定範囲に亘って設けられた回動端子とブラシとが摺接及び離隔するので、駆動輪の向きに応じて、直接的に又は間接的にモータと駆動制御部との間を電気的に断続することができる。
これにより、例えば、モータと駆動制御部との間が接続される旋回角度範囲に駆動輪が向けば、モータによる駆動輪の駆動が可能となり、モータと駆動制御部との間が切断される旋回角度範囲に駆動輪が向けば、モータによる駆動輪の駆動が制限される。
この結果、駆動輪の向きに応じてモータによる駆動輪の駆動を制限することができ、車体本体が一定の方向へ走行する場合において駆動輪の駆動を制限することができる。
【0007】
上記電動車椅子において、
前記所定範囲は、前記駆動輪の向きが、前記車体本体を前進させる旋回角度範囲外である場合に、前記回動端子と前記ブラシとが離隔するように設定された範囲であることが好ましい。
この場合、駆動輪の向きが、車体本体を前進させる旋回角度範囲内である場合に駆動輪を駆動可能とし、それ以外の範囲においては、駆動輪の駆動を制限することができる。この結果、車体本体が前進する方向以外の方向へ走行する場合において駆動輪の駆動を制限することができる。
【0008】
上記電動車椅子において、
前記ブラシは、前記モータの駆動電力を出力する、前記駆動制御部の出力端子に接続され、
前記回動端子は、前記駆動電力が与えられる前記モータの入力端子に接続されていてもよい。
この場合、伝達機構は、駆動輪の向きに応じて、モータと駆動制御部との間の駆動電力の供給を断続することができ、駆動輪の駆動を制限することができる。
【0009】
また、上記電動車椅子において、
前記モータは、三相ブラシレスモータであり、
前記回動端子は、各相に対応して前記シャフトの軸方向に並べて3つ設けられ、
前記ブラシは、3つの前記回動端子に対応して3つ設けられていてもよい。
この場合、各相それぞれ個別に給電を断続することができる。
【0010】
また、上記電動車椅子において、
前記伝達機構は、3つの前記ブラシの周方向位置と異なる周方向位置に設けられた、3つの前記回動端子に摺接可能な3つの他のブラシをさらに備え、
前記所定範囲は、3つの前記ブラシと、前記3つの他のブラシとが、3つの前記回動端子に同時に摺接しないように設定された範囲であり、
前記3つの他のブラシは互いに接続されていてもよい。
この場合、3つのブラシが3つの回動端子に摺接しているときは、モータに給電されてモータによる駆動輪の駆動が可能となる。また、3つの他のブラシが3つの回動端子に摺接しているときは、モータ側の各相が接続され、モータにブレーキをかけることができる。
これにより、駆動電力の供給が遮断される方向に駆動輪が向いたときに、駆動輪にブレーキをかけることができる。
【0011】
上記電動車椅子において、
前記伝達機構は、前記シャフトの外周側に設けられた、3つの前記ブラシが摺接可能な3つの他の回動端子をさらに備え、
前記3つの他の回動端子は、前記所定範囲以外の周方向範囲に設けられ、3つの前記回動端子と3つの前記ブラシとが摺接したときの前記モータの回転方向と逆の回転方向になる配置となるように前記モータに接続されていてもよい。
この場合、駆動輪の向きが3つの回動端子と3つのブラシとが摺接する際の向きの反対向きになったとしても、3つの他の回動端子と3つのブラシとが摺接することで、モータを逆方向に回転させるので、駆動輪の向きに関わらず、車体本体を同じ方向へ走行させるようにモータを駆動することができる。この結果、車体本体が一定の方向へ走行する場合において駆動輪の駆動を制限することができる。
【0012】
上記電動車椅子において、
前記回動端子は、前記モータが有するセンサに接続され、
前記ブラシは、前記駆動制御部のセンサ用端子に接続されていてもよい。
この場合、伝達機構は、駆動輪の向きに応じて、センサと駆動制御部との間の信号を断続することができる。
センサからの信号が途絶えたり一定になったりするといった信号異常が生じるとモータを停止させるように駆動制御部に制御させれば、駆動輪の向きに応じて駆動輪の駆動を制限することができる。
【0013】
上記電動車椅子において、前記前記センサと前記センサ用端子とを繋ぐ信号線路は、前記センサへ動作電圧を供給する動作電圧線路、前記センサからの出力を前記駆動制御部へ与える出力線路、及び、接地線路を含み、
前記回動端子及び前記ブラシは、前記動作電圧線路、前記出力線路、及び、前記接地線路のそれぞれに対応して複数設けられ、
前記伝達機構は、前記シャフトの外周側に設けられた他の回動端子をさらに備え、
前記他の回動端子は、前記所定範囲以外の周方向の範囲に設けられ、前記動作電圧線路に対応する前記ブラシ及び前記接地線路に対応する前記ブラシのいずれか一方と、前記出力線路に対応する前記ブラシとに摺接し、これらブラシを互いに接続するように構成されていてもよい。
この場合、ブラシと他の回動端子とが摺接する方向に駆動輪が向けば、出力線路に対応するブラシは、動作電圧線路又は接地線路と同じ電圧レベルとなり、モータの回転に関係なく一定の信号が駆動制御部に与えられることとなる。
センサからの信号が一定になるとモータを停止させるように駆動制御部に制御させれば、駆動輪の向きに応じて駆動輪の駆動を制限することができる。
【0014】
上記電動車椅子において、前記モータは、前記駆動輪に一体に設けられたロータと、前記駆動輪の中心軸に沿って設けられたステータとを備えていてもよい。
この場合、モータと駆動輪とを一体的に設けることができ、小型化が可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車体本体が一定の方向へ走行する場合において駆動輪の駆動を制限することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本実施形態に係る電動車椅子の斜視図である。
図2図2は、図1中のキャスタの断面図である。
図3図3は、電動車椅子における、モータの動作制御を行うための構成例を示すブロック図である。
図4図4は、第1実施形態に係る伝達機構を示した図であり、図4(a)は、伝達機構を正面からみたときの図、図4(b)は、伝達機構を上方からみたときの図である。
図5図5(a)は、本実施形態の自在輪の向きが電動車椅子の右方であるときの伝達機構を上方からみたときの図であり、図5(b)は、本実施形態の自在輪の向きが電動車椅子の右方よりもさらに後方へ回動したときの伝達機構を上方からみたときの図である。
図6図6は、第2実施形態に係る伝達機構を示した図であり、図6(a)は、伝達機構を正面からみたときの図、図6(b)は、伝達機構を上方からみたときの図である。
図7図7は、第3実施形態に係る伝達機構を示した図であり、図7(a)は、伝達機構を正面からみたときの図、図7(b)は、伝達機構を上方からみたときの図である。
図8図8は、図7(b)中の回動シャフトが回動したときの伝達機構の図である。
図9図9は、第3実施形態の変形例に係る伝達機構を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、好ましい実施形態について図面を参照しつつ説明する。
〔全体構成〕
図1は、本実施形態に係る電動車椅子の斜視図である。この電動車椅子1は、当該電動車椅子1の搭乗者又は介助者が手動操作によって電動車椅子1を走行させるときに、回動自在に設けられた自在輪20(駆動輪)に駆動力を与え、搭乗者又は介助者の手動操作を補助する機能を有する。
【0018】
電動車椅子1は、主に金属製のパイプ等で構成された車体フレーム2(車体本体)と、車体フレーム2に左右に設けられた一対の主輪3と、同じく車体フレーム2に設けられた一対のキャスタ4とを備える。
車体フレーム2には、搭乗者が着座する座部10と、背もたれ部12と、搭乗者の肘を支持するアームレスト14と、搭乗者の足を支持するフットレスト16とが設けられている。
【0019】
本実施形態の電動車椅子1は、主として、搭乗者が正面を向く方向に走行する。よって、以下の説明では、電動車椅子1の搭乗者が正面を向く方向(背もたれ部12が向く方向)を前方、その反対方向を後方とする。また、搭乗者から見て左側へ向く方向を左方、搭乗者から見て右側へ向く方向を右方とする。
【0020】
背もたれ部12の上方には、介助者が握るグリップ18が設けられている。介助者は、電動車椅子1の後方に立ち、グリップ18を握り、電動車椅子1を前方へ押すことで、電動車椅子1を走行させることができる。
【0021】
一対の主輪3は、車体フレーム2の左右両側に回転自在に設けられている。主輪3の外方には、ハンドリム3aが設けられている。ハンドリム3aは主輪3に同心かつ一体に設けられている。搭乗者はハンドリム3aを手でこぐことで主輪3を回転駆動することができ、電動車椅子1を走行させることができる。
このように本実施形態の電動車椅子1は、搭乗者又は介助者が手動操作によって走行させることができる。
一対の主輪3には、搭乗者又は介助者が操作可能なブレーキ(図示省略)が設けられている。
搭乗者又は介助者は、前記ブレーキを用いて制動をかけることもできるし、ハンドリム3aによって主輪3の回転を止めるように制動をかけることもできる。
【0022】
一対のキャスタ4は、一対の主輪3の前方に設けられている。キャスタ4は、自在輪20と、支持部22とを含んでいる。
支持部22は、車体フレーム2に設けられたブラケット2aに取り付けられている。ブラケット2aは、車体フレーム2の下側において前後方向に延びる下フレーム2bに設けられている。
支持部22は、自在輪20を回転自在に支持するフォーク24と、自在輪20及びフォーク24を旋回可能に支持する旋回支持部26と、を含む。
フォーク24は、自在輪20を自在輪20の中心軸S1回りに回転自在に支持する。
また、旋回支持部26は、旋回軸S2回りに旋回可能に支持する。旋回軸S2はフォーク24を旋回支持部26に沿って上下方向に延びている。これにより、支持部22は、車体フレーム2の進行方向に追従して自在輪20をヨー方向に旋回可能に支持する。
【0023】
さらに、自在輪20の中心軸S1は、旋回軸S2に対して直交せずにずれた位置となっている。図1では、中心軸S1は、旋回軸S2に対して後方にずれている。よって、自在輪20は、所定のキャスタ角が付与された状態で支持部22に支持される。これにより、支持部22は、自在輪20の向きが車体フレーム2の進行方向に追従するように旋回可能に支持する。
【0024】
〔キャスタの構成〕
図2は、図1中のキャスタ4の断面図である。図2に示すキャスタ4は、図1中車体フレーム2の右側に設けられたキャスタ4を示している。以下では、車体フレーム2の右側に設けられたキャスタ4について説明するが、車体フレーム2の左側に設けられたキャスタ4も同様の構成である。
また、上述したように、中心軸S1と旋回軸S2とは、前後方向にずれているが、図2では、自在輪20については、中心軸S1を含む断面、旋回支持部26については旋回軸S2を含む断面を示している。
【0025】
図2に示すように、フォーク24は、自在輪20の軸方向両側に延びる一対のアーム24aを備える金属製の部材である。一対のアーム24aの先端には、孔24bが設けられている。孔24bには中空シャフト28が挿通されている。
中空シャフト28は、自在輪20を支持するための部材である。中空シャフト28の両端は、一対のナット30によって固定されている。これにより、中空シャフト28は、中心軸S1回りに回転しないように一対のアーム24aに固定される。
中空シャフト28の外周側には、自在輪20と、自在輪20を駆動するモータ32とが設けられている。モータ32は、いわゆるインホイールモータであり、自在輪20と一体に設けられている。
【0026】
モータ32は、ハウジング34と、ハウジング34内に設けられたロータ36と、ステータ38と、センサ82とを備える。
ハウジング34は、中空シャフト28の外周側に配置されている。ハウジング34は、自在輪20の内周面20aに内嵌固定されており、自在輪20と一体回転可能である。ハウジング34は、円筒部34aと、円筒部34aの軸方向両端縁から径方向内方に延びる一対の円環部34bとを備える。円筒部34aの外周面34a1には自在輪20が設けられる。円筒部34aの内周面34a2には、ロータ36が固定されている。
一対の円環部34bの内周面34b1と、中空シャフト28の外周面28aとの間には一対の転がり軸受40が設けられている。一対の転がり軸受40は、中空シャフト28の外周面28aに外嵌尾固定されるとともに、円環部34bの内周面34b1に内嵌固定されている。これにより、一対の転がり軸受40は、中空シャフト28に対してハウジング34及び自在輪20を一体回転可能に支持する。
【0027】
ロータ36は、円筒部34aの内周面34a2に固定されたロータヨークや磁石等を含んで構成されている。よって、ロータ36は、中空シャフト28に対してハウジング34とともに一体回転可能である。
【0028】
ステータ38は、鉄心38aや巻線38bを含んで構成されている。ステータ38は、ロータ36に対して所定の隙間をおいて対向するように配置されている。ステータ38は、中空シャフト28の外周面28aに固定されている。よって、ステータ38とロータ36とは、互いに対向した状態で相対回転可能である。
モータ32が駆動制御されると、ロータ36が回転し、ロータ36と一体回転可能な自在輪20も回転する。このようにモータ32は、自在輪20を駆動する。
【0029】
センサ82は、ホールセンサであり、中空シャフト28側に3つ固定されている。3つセンサ82は、ロータ36に近接して配置されており、ステータ38に対するロータ36の回転状態を検出する。
モータ32(巻線38b)に供給される電力及びセンサ82の出力は、中空シャフト28の孔部28bを通過して外部へ延びる給電線42a(給電線路42)及び信号線44a(信号線路44)を介して、車体フレーム2に設けられたコントロールボックス78内の駆動制御部74(後に説明する)へ与えられる。
【0030】
旋回支持部26は、フォーク24に固定されている。また、旋回支持部26は、ブラケット2aから横方向に延びる支持プレート46に固定されている。
旋回支持部26は、スピンドル50と、一対の転がり軸受52,53と、プレッシャリング54と、スピンドルナット56とを備える。
スピンドル50は、旋回軸S2に沿う円筒状の部材であり、大径部58と、大径部58の上端に繋がる小径部60とを有する。
スピンドル50の大径部58の下端には、径方向外方へ突出する鍔部58aが設けられている。
大径部58は、フォーク24の上板部24cに設けられた孔部24c1に挿通されている。鍔部58aは、上板部24cの下面24c2に当接している。
【0031】
プレッシャリング54は、中心孔54aに小径部60が挿入されることでスピンドル50に取り付けられる。スピンドルナット56は、小径部60の外周面60aに設けられたねじ部に螺合し、プレッシャリング54をスピンドル50に固定する。
大径部58の外周側には、一対の転がり軸受52,53及び支持プレート46が配置されている。
大径部58は、支持プレート46に設けられた孔部46aに挿通されている。
転がり軸受52は支持プレート46の上側に配置されている。転がり軸受53は支持プレート46の下側に配置されている。
【0032】
フォーク24の上板部24cと、転がり軸受53との間には、環状の回動側スペーサ62が介在している。回動側スペーサ62は、転がり軸受53の内輪53aに当接しており、
上板部24cと転がり軸受53の内輪53aとの間に介在している。
また、支持プレート46と、転がり軸受53との間には、環状の固定側スペーサ64が介在している。固定側スペーサ64は、転がり軸受53の外輪53bに当接しており、支持プレート46と転がり軸受53の外輪53bとの間に介在している。
【0033】
支持プレート46と、転がり軸受52との間には、環状の固定側スペーサ66が介在している。固定側スペーサ66は、転がり軸受52の外輪52bに当接しており、支持プレート46と転がり軸受52の外輪52bとの間に介在している。
また、プレッシャリング54と、転がり軸受52との間には、環状の回動側スペーサ68介在している。回動側スペーサ68は、転がり軸受52の内輪52aに当接しており、プレッシャリング54と、転がり軸受52の内輪52aとの間に介在している。
【0034】
スピンドルナット56が締め付けられることによって、プレッシャリング54は、一対の転がり軸受52,53、支持プレート46、回動側スペーサ62,68、及び固定側スペーサ64,66を、鍔部58aとの間で挟み込んでいる。
これにより、一対の転がり軸受52,53の外輪52b,53bは、支持プレート46に固定された状態となり、一対の転がり軸受52,53の内輪52a,53a、及びフォーク24は、スピンドル50に固定された状態となる。
よって、内輪52a,53a、フォーク24、及びスピンドル50は、支持プレート46に固定された状態の外輪52b,53bに対して一体に相対回転可能となる。
【0035】
このように、スピンドル50及びフォーク24は、一体回転可能とされ、一対の転がり軸受52,53によって、支持プレート46に対して旋回軸S2回りに回動可能に支持されている。
また、スピンドル50及びフォーク24は、自在輪20及びモータ32を旋回軸S2回りに旋回可能に支持する。
【0036】
大径部58の内周空間には、伝達機構70が設けられている。伝達機構70は、モータ32と、車体フレーム2に搭載された駆動制御部74との間で、電力及び信号を伝達する機能を有する。
伝達機構70は、駆動制御部74と、モータ32とを繋ぐ給電線路42及び信号線路44に接続されている。
伝達機構70は、自在輪20が旋回したとしても、電線等を捻ることなく、電力及び信号をモータ32と駆動制御部74との間で伝達するために設けられている。
伝達機構70は、回動シャフト90と、回動シャフト90の外周面に設けられた複数の回動端子92と、複数の回動端子92に摺接可能な複数の主ブラシ94とを備える。
【0037】
回動シャフト90は、スピンドル50に一体回転可能に設けられており、スピンドル50とともに旋回軸S2回りに回動する。
回動端子92は、回動シャフト90の外周面に設けられている。回動端子92は、給電線路42を構成する給電線42a及び信号線路44を構成する信号線44aを介してモータ32に接続されている。
主ブラシ94は、大径部58の内部周空間に配置された円筒状のブラケット96に設けられ、回動シャフト90の外周側に配置されている。ブラケット96は、車体フレーム2に固定されており、小径部60を通過してスピンドル50の内部に配置されている。つまり、主ブラシ94は、ブラケット96を介して車体フレーム2に固定されている。よって、主ブラシ94は、自在輪20が旋回したとしても旋回軸S2回りに回動せず、回動シャフト90の外周面90a又は回動端子92に摺接する。
主ブラシ94は、給電線路42を構成する給電線42b及び信号線路44を構成する信号線44bを介して駆動制御部74に接続されている。
よって、主ブラシ94と、回動端子92とが接触している場合、モータ32と駆動制御部74との間は接続される。一方、主ブラシ94と回動端子92とが離隔している場合、モータ32と駆動制御部74との間は切断される。
伝達機構70については、後に詳述する。
【0038】
〔駆動制御に関する構成〕
図3は、電動車椅子1における、モータ32の動作制御を行うための構成例を示すブロック図である。
電動車椅子1は、モータ32の動作制御を行うための装置類として、バッテリ72、駆動制御部74、及び制御装置76を備える。
バッテリ72、駆動制御部74、及び制御装置76は、背もたれ部12に固定されているコントロールボックス78(図1)に収容されている。
図3に示すように、駆動制御部74は、一対のキャスタ4それぞれに対応する一対のモータ32それぞれに対応して設けられる。
【0039】
バッテリ72は、一対のモータ32や、動作電力を必要とする各部に電力を供給する。
制御装置76は、一対の駆動制御部74を制御し、一対の駆動制御部74に一対のモータ32の制御を行わせる。制御装置76は、搭乗者や介助者の操作をアシストするように駆動制御部74を制御する。
駆動制御部74は、モータ32を制御するとともにモータ32に駆動電力を供給し駆動するための回路である。駆動制御部74は、バッテリ72及びモータ32に接続されている。駆動制御部74は、バッテリ72からの電流をモータ32へ与えるインバータや、モータ32の回転状態に応じてモータ32の動作制御を行う回路等を含む。
【0040】
モータ32は、例えば、三相ブラシレスDCモータであり、ロータやステータ等を含むモータ本体80と、上述のセンサ82とを備える。
モータ32(モータ本体80)は、給電線路42を介して駆動制御部74に接続されている。
センサ82は、信号線路44を介して駆動制御部74に接続されている。
駆動制御部74は、給電線路42を通じてモータ32へ電力を供給するとともに、信号線路44を通じてセンサ82との間で信号を授受する。駆動制御部74は、モータ32の回転状態を示すセンサ82からの信号出力等に基づいてモータ32の駆動制御を行う。
給電線路42は、駆動制御部74の出力端子74aと、モータ本体80の入力端子80aとの間を接続する。出力端子74aはモータ32の駆動電力を出力するための端子である。入力端子80aは駆動制御部74からの駆動電力を受け付けるための端子である。
信号線路44は、駆動制御部74のセンサ用端子74bと、センサ82との間を接続する。センサ用端子74bは、駆動制御部74がセンサ82との間で信号及び電力の授受を行うための端子である。
【0041】
伝達機構70は、給電線路42及び信号線路44に接続されている。伝達機構70は、駆動制御部74の出力端子74aから延びる給電線42bと、モータ32の入力端子80aから延びる給電線42aとを切断可能に接続する。また、伝達機構70は、駆動制御部74のセンサ用端子74bから延びる信号線44bと、センサ82から延びる信号線44aとを切断可能に接続する。
【0042】
〔第1実施形態に係る伝達機構の構成〕
図4は、第1実施形態に係る伝達機構70を示した図であり、図4(a)は、伝達機構70を正面からみたときの図、図4(b)は、伝達機構70を上方からみたときの図である。
図4(a)に示すように、複数の回動端子92(92a1~92a3,92b1~92b5)は、銅板等からなる帯状の端子であり、回動シャフト90の外周面90aに周方向に沿って設けられている。また、複数の回動端子92は、それぞれ軸方向に並べて設けられている。
また、複数の主ブラシ94(94a1~94a3,94b1~94b5)は、複数の回動端子92に対応して軸方向に並べられており、複数の回動端子92に摺接可能に設けられている。
複数の主ブラシ94は、弾性を有するアーム部94sとアーム部94sの一端に設けられた接触部94tとを有している。複数の主ブラシ94は、アーム部94sの弾性によって接触部94tを回動シャフト90の外周面90aに押圧した状態を維持する。また、アーム部94sの他端は、ブラケット96(図2)を介して車体フレーム2側に固定されている。これにより、複数の主ブラシ94は、回動シャフト90の回動に応じて複数の回動端子92に摺接可能に配置されている。
【0043】
複数の回動端子92及び複数の主ブラシ94は、給電線路42及び信号線路44それぞれに対応して設けられている。
また、本実施形態のモータ32は、上述したように、三相ブラシレスDCモータであり、給電線路42は、各相に対応した3つの線路を含む。
さらに、本実施形態のモータ32は、上述したように、3つのセンサ82を備えており、信号線路44は、センサ82へ動作電圧を供給する動作電圧線路、3つのセンサ82からの出力を駆動制御部74へ与える3つの出力線路、及び接地線路を含む。
複数の回動端子92は、これら各線路に対応して8つ設けられている。また、複数の主ブラシ94も、これら各線路に対応して8つ設けられている。
【0044】
複数の回動端子92に繋がる給電線42aは、U相、V相及びW相に対応するU線42a1、V線42a2、及びW線42a3を含む。
また、複数の回動端子92に繋がる信号線44aは、動作電圧線路に対応する電圧線44a1、3つの出力線路に対応する出力線44a2,44a3,44a4、及び接地線路に対応する接地線44a5を含む。
【0045】
8つの回動端子92のうち、3つの回動端子92a(92a1,92a2,92a3)は、給電線42aに接続されている。3つの回動端子92aは、給電線42aを介してモータ32の入力端子80aに接続されている。
回動端子92a1はU線42a1に接続され、回動端子92a2はV線42a2に接続され,回動端子92a3はW線42a3に接続される。
【0046】
8つの回動端子92のうち、5つの回動端子92b(92b1,92b2,92b3,92b4,92b5)は、信号線44aに接続されている。5つの回動端子92bは、信号線44aを介してセンサ82に接続されている。
回動端子92b1は電圧線44a1に接続され、回動端子92b2,92b3,92b4は出力線44a2,44a3,44a4に接続され、回動端子92b5は接地線44a5に接続される。
【0047】
複数の主ブラシ94に繋がる給電線42bは、U相、V相及びW相に対応するU線42b1、V線42b2、及びW線42b3を含む。
また、複数の主ブラシ94に繋がる信号線44bは、動作電圧線路に対応する電圧線44b1、3つの出力線路に対応する出力線44b2,44b3,44b4、及び接地線路に対応する接地線44b5を含む。
【0048】
8つの主ブラシ94のうち、3つの主ブラシ94a(94a1,94a2,94a3)は、給電線42bに接続されている。3つの主ブラシ94aは、給電線42bを介して駆動制御部74の出力端子74aに接続されている。
回動端子92a1に摺接可能な主ブラシ94a1はU線42b1に接続され、回動端子92a2に摺接可能な主ブラシ94a2はV線42b2に接続され,回動端子92a3に摺接可能な主ブラシ94a3はW線42b3に接続される。
【0049】
また、8つの主ブラシ94のうち、5つの主ブラシ94b(94b1,94b2,94b3,94b4,94b5)は、信号線44bに接続されている。5つの主ブラシ94bは、信号線44bを介して駆動制御部74のセンサ用端子74bに接続されている。
回動端子92b1に摺接可能な主ブラシ94b1は電圧線44b1に接続され、回動端子92b2,92b3,92b4に摺接可能な主ブラシ94b2,94b3,94b4は出力線44b2,44b3,44b4に接続され、回動端子92b5に摺接可能な主ブラシ94b5は接地線44b5に接続される。
【0050】
8つの回動端子92のうち、信号線路44に対応する5つの回動端子92bは、回動シャフト90の外周面90aの全周に亘って設けられている。
よって、信号線路44に対応する5つの主ブラシ94bは、回動シャフト90の回動に関わらず、5つの回動端子92bに摺接する。よって、伝達機構70は、自在輪20の向きに関わらず、信号線44aと信号線44bとを接続し、モータ32と駆動制御部74との間で信号の授受を行うことが可能となる。
【0051】
8つの回動端子92のうち、給電線路42に対応する3つの回動端子92aは、回動シャフト90の外周面90aの周方向の範囲B(周方向所定範囲)に亘って設けられている。
図4(b)は、3つの回動端子92aと、主ブラシ94aとの関係を示している。
範囲Bは、自在輪20の向きが、電動車椅子1(の車体フレーム2)を前進させる旋回角度範囲外である場合に、3つの回動端子92aと、3つの主ブラシ94aとが離隔するように設定されている。
【0052】
ここで、自在輪20の向きとは、自在輪20が進行する進行方向をいう。本実施形態では、図4(b)に示すように、旋回軸S2を通過しかつ中心軸S1に直交する直線L1に沿う方向であって、中心軸S1側から旋回軸S2側へ向く方向Dを自在輪20の進行方向とする。以下、方向Dは、自在輪20の向きDともいう。
【0053】
図4(b)では、自在輪20の向きDが、電動車椅子1の前方に一致している場合を示している。この場合、電動車椅子1は前方へ向かって走行する。
一方、電動車椅子1が前進する際の自在輪20の向きDには一定の幅がある。
本実施形態では、旋回軸S2を中心とした角度範囲である旋回角度範囲のうちの電動車椅子1の前方を中心に左右両側80度の角度範囲内に自在輪20の向きDが位置する場合、電動車椅子1を前進させるものとする。つまり、図4(b)に示す角度範囲A内に自在輪20の向きDが位置する場合、電動車椅子1は前進するものとする。
【0054】
この場合、範囲Bは、自在輪20の向きDを中心に左右両側80度の範囲(全体で160度の範囲)に設定される。よって、自在輪20の向きDが電動車椅子1の前方に一致している場合、範囲Bは、図4(b)に示すように、角度範囲Aと一致する範囲となる。
これにより、自在輪20の向きDが角度範囲A内である場合、3つの主ブラシ94aは、3つの回動端子92aに摺接し、モータ32と駆動制御部74との間を繋ぐ給電線路42は接続される。
一方、自在輪20の向きDが角度範囲A外である場合、3つの主ブラシ94aと、3つの回動端子92aとは離隔し、給電線路42は切断される。
このように、範囲Bは、自在輪20の向きDを中心に左右両側80度の角度範囲に設定されることで、自在輪20の向きDが角度範囲A外である場合に、3つの回動端子92aと、3つの主ブラシ94aとが離隔するように設定される。
【0055】
上記構成によれば、回動シャフト90の回動(自在輪20の旋回)に応じて、範囲B(周方向所定範囲)に亘って設けられた回動端子92aと主ブラシ94aとが摺接及び離隔するので、自在輪20の向きに応じて、モータ32と駆動制御部74との間を繋ぐ給電線路42を断続することができる。
これにより、モータ32と駆動制御部74との間が接続される旋回角度範囲(角度範囲A)に自在輪20が向けば、モータ32による自在輪20の駆動が可能となり、モータ32と駆動制御部74との間が切断される旋回角度範囲に自在輪20が向けば、モータ32への駆動電力が遮断され、モータ32による自在輪20の駆動が制限される。
この結果、自在輪20の向きに応じてモータ32による自在輪20の駆動を制限することができ、電動車椅子1(車体フレーム2)が一定の方向(角度範囲A以外の方向)へ走行する場合において自在輪20の駆動を制限することができる。
【0056】
また、本実施形態において、範囲Bは、自在輪20の向きDが、電動車椅子1(の車体フレーム2)を前進させる角度範囲A外である場合に、回動端子92aと、主ブラシ94aとが離隔するように設定されている。
これにより、自在輪20の向きが、電動車椅子1を前進させる角度範囲A内である場合に自在輪20を駆動可能とし、それ以外の範囲においては、自在輪20の駆動を制限することができる。この結果、電動車椅子1が前進する方向以外の方向へ走行する場合において自在輪20の駆動を制限することができる。
【0057】
また、本実施形態では、主ブラシ94aが駆動制御部74の出力端子74aに接続され、回動端子92aが、モータ32の入力端子80aに接続されているので、伝達機構70は、自在輪20の向きに応じて、モータ32と駆動制御部74との間の駆動電力の供給を断続することができ、自在輪20の駆動を制限することができる。
また、本実施形態において、回動端子92aは、各相に対応して軸方向に並べて3つ設けられ、主ブラシ94aは、3つの回動端子92aに対応して設けられているので、各相それぞれ個別に断続することができる。
【0058】
また、本実施形態では、モータ32をインホイールモータによって構成したので、モータ32と自在輪20とを一体的に設けることができ、小型化が可能となる。
【0059】
図4(a),(b)に示すように、伝達機構70は、回動端子92aに摺接可能な3つの副ブラシ98a,98b,98c(総括して副ブラシ98ともいう)をさらに備える。
3つの副ブラシ98は、3つの回動端子92aに対応して軸方向に並べられている。
3つの副ブラシ98は、弾性を有するアーム部98sとアーム部98sの一端に設けられた接触部98tとを有している。3つの副ブラシ98は、アーム部98sの弾性によって接触部98tを回動シャフト90の外周面90aに押圧した状態を維持する。また、アーム部98sの他端は、ブラケット96(図2)を介して車体フレーム2側に固定されている。これにより、3つの副ブラシ98は、回動シャフト90の回動に応じて複数の回動端子92に摺接可能に配置されている。
【0060】
図4(b)に示すように、3つの副ブラシ98は、3つの主ブラシ94aに対して旋回軸S2を挟んで対称な周方向位置に配置されている。言い換えると、3つの副ブラシ98は、旋回軸S2を中心としたときの旋回角度範囲において、3つの主ブラシ94aに対して180度の間隔を置いて配置されている。
3つの回動端子92aが設けられている範囲Bは、旋回軸S2を中心とする160度の角度範囲である。よって、3つの主ブラシ94aと、3つの副ブラシ98とは、同時に摺接しない。
つまり、範囲Bは、3つの主ブラシ94aと、3つの副ブラシ98とが、同時に摺接しないように設定されている。
【0061】
また、3つの副ブラシ98a,98b,98cは、図4(a)に示すように互いに接続されている。
よって、3つの副ブラシ98a,98b,98cが、3つの回動端子92aに摺接しているときは、モータ32の各相が接続され、モータ32にブレーキ(相短絡ブレーキ)をかけることができる。
これにより、モータ32への駆動電力の供給が遮断され、モータ32による駆動が制限される方向に自在輪20が向いたときに、自在輪20にブレーキをかけることができる。
【0062】
図4(a)及び図4(b)に示すように、自在輪20の向きDが前方である場合、3つの回動端子92aには、3つの主ブラシ94aが摺接している。よって、駆動制御部74からモータ32へ給電可能であり、自在輪20は駆動可能である。
【0063】
図5(a)は、本実施形態の自在輪20の向きDが電動車椅子1の右方であるときの伝達機構70を上方からみたときの図である。
この場合、3つの回動端子92aには、3つの主ブラシ94a、及び、3つの副ブラシ98のいずれも摺接していない。
よってこの場合、モータ32への給電が遮断され、自在輪20の駆動は制限される。
【0064】
図5(b)は、本実施形態の自在輪20の向きDが電動車椅子1の右方よりもさらに後方へ回動したときの伝達機構70を上方からみたときの図である。
この場合、3つの回動端子92aには、3つの副ブラシ98が摺接している。よってこの場合、モータ32の各相が接続され、モータ32にブレーキがかかる。
【0065】
このように、本実施形態によれば、自在輪20の向きに応じてモータ32による自在輪20の駆動を制限することができ、電動車椅子1が角度範囲A以外の方向へ走行する場合において自在輪20の駆動を制限することができる。
【0066】
〔第2実施形態について〕
図6は、第2実施形態に係る伝達機構70を示した図であり、図6(a)は、伝達機構70を正面からみたときの図、図6(b)は、伝達機構70を上方からみたときの図である。
図6に示すように、本実施形態の伝達機構70は、副ブラシ98を備えていない点、及び、3つの主ブラシ94aが摺接する3つの副回動端子100a,100b,100cを備えている点において第1実施形態と相違する。
図6(b)は、回動端子92a、副回動端子100、及び主ブラシ94aの関係を示している。
【0067】
3つの副回動端子100a,100b,100cは、範囲B以外の周方向範囲に設けられている。例えば、3つの副回動端子100a,100b,100cは、旋回軸S2を基準に、3つの回動端子92aに対して点対称に設けられている。
3つの副回動端子100a,100b,100cのうち、副回動端子100aは、V相に対応するV線42a2(図4(a))に接続されている。また、副回動端子100bは、U相に対応するU線42a1(図4(a))に接続されている。
よって、3つの副回動端子100a,100b,100cの3相の配置と、3つの回動端子92a1,92a2,92a3の3相の配置とが異なっている。
このため、3つの主ブラシ94aが副回動端子100a,100b,100cに摺接すると、3つの回動端子92aと3つの主ブラシ94aとが摺接したときの回転方向と逆の方向に回転するように、モータ32に対して電力が供給される。
【0068】
つまり、3つの副回動端子100a,100b,100cは、3つの回動端子92aと3つの主ブラシ94aとが摺接したときのモータ32の回転方向と逆の回転方向になる配置となるようにモータ32に接続されている。
これにより、自在輪20の向きDが角度範囲Aの反対側に向いてしまったとしても、3つの副回動端子100a,100b,100cと3つの主ブラシ94aとが摺接すれば、モータ32を逆方向に回転させる。よって、このときに、自在輪20をモータ32によって駆動したとしても、電動車椅子1は、角度範囲Aの反対側へは進行せず、角度範囲Aの範囲の方向へ進行する。
このように、本実施形態では、自在輪20の向きに関わらず、電動車椅子1を角度範囲Aの方向へ進行させることができるので、角度範囲A以外の方向へ走行する場合において自在輪20の駆動を制限することができる。
【0069】
〔第3実施形態について〕
図7は、第3実施形態に係る伝達機構70を示した図であり、図7(a)は、伝達機構70を正面からみたときの図、図7(b)は、伝達機構70を上方からみたときの図である。
本実施形態は、3つの回動端子92aが回動シャフト90の外周面90aの全周に亘って設けられている点、信号線路44に対応する5つの回動端子92bが回動シャフト90の外周面90aの周方向の範囲B(周方向所定範囲)に亘って設けられている点、及び、主ブラシ94bが摺接する副回動端子102が設けられている点において第1実施形態と相違する。
図7(b)は、回動端子92b、副回動端子102、及び主ブラシ94bの関係を示している。
【0070】
本実施形態では、自在輪20の向きDが角度範囲A内である場合、5つの主ブラシ94b(94b1,94b2,94b3,94b4,94b5)は、5つの回動端子92b(92b1,92b2,92b3,92b4,92b5)に摺接し、モータ32と駆動制御部74との間を繋ぐ信号線路44は接続される。
一方、自在輪20の向きDが角度範囲A外である場合、5つの主ブラシ94bと、5つの回動端子92bとは離隔し、信号線路44は切断される。
【0071】
上記構成によれば、回動シャフト90の回動(自在輪20の旋回)に応じて、範囲Bに亘って設けられた回動端子92bと主ブラシ94bとが摺接及び離隔するので、自在輪20の向きに応じて、モータ32と駆動制御部74との間を繋ぐ信号線路44を断続することができる。
よって、センサ82からの信号が途絶えたり一定になったりするといった信号異常が生じるとモータ32を停止させるように駆動制御部74に制御させれば、自在輪20の向きに応じて自在輪20の駆動を制限することができる。
【0072】
第1実施形態及び第2実施形態では、伝達機構70によって給電線路42を断続するように構成したので、モータ32への駆動電力の供給を直接的に断続し、モータ32による自在輪20の駆動を制限したが、本実施形態では、伝達機構70のよって信号線路44を断続するように構成し、信号線路44からの出力に応じて駆動制御部74にモータ32の駆動を制限させることで、モータ32への駆動電力の供給を間接的に断続し、モータ32による自在輪20の駆動を制限することができる。
【0073】
また、本実施形態では、範囲B以外の周方向範囲に、副回動端子102が設けられている。例えば、副回動端子102は、旋回軸S2を基準に、5つの回動端子92bに対して点対称に設けられている。
副回動端子102は、主ブラシ94b1から主ブラシ94b4までの4つの主ブラシ94b1,94b2,94b3,94b4が同時に摺接可能な幅寸法とされ、4つの主ブラシ94b1,94b2,94b3,94b4が同時に摺接可能な位置に配置されている。
よって、4つの主ブラシ94b1,94b2,94b3,94b4が副回動端子102に摺接すると、4つの主ブラシ94b1,94b2,94b3,94b4は、副回動端子102によって互いに接続される。
【0074】
主ブラシ94b1は、上述したように、電圧線44b1(図4(a))に接続されている。
よって、図8に示すように、回動シャフト90が回動し、自在輪20の向きが電動車椅子1の後方を向いている場合、4つの主ブラシ94b1,94b2,94b3,94b4が副回動端子102に摺接すると、副回動端子102、及び主ブラシ94b2,94b3,94b4の電圧は、センサ82の動作電圧となる。駆動制御部74には、主ブラシ94b2,94b3,94b4を通じてセンサ82の動作電圧がセンサ82の出力として与えられる。
つまり、モータ32の回転に関係なく一定の電圧レベルの信号がセンサ82の出力として駆動制御部74へ与えられることとなる。
よって、センサ82からの信号が一定の電圧レベルになるとモータ32を停止させるように駆動制御部74に制御させれば、自在輪20の向きに応じて自在輪20の駆動を制限することができる。
【0075】
このように、本実施形態では、4つの主ブラシ94b1,94b2,94b3,94b4に摺接することで、これらブラシを互いに接続するように構成された副回動端子102を設けることで、自在輪20の向きに応じて自在輪20の駆動を制限することができる。
【0076】
図9は、第3実施形態の変形例に係る伝達機構70を示す図である。
本変形例では、副回動端子102が、主ブラシ94b2から主ブラシ94b5までの4つの主ブラシ94b2,94b3,94b4,94b5が同時に摺接可能な幅寸法とされ、4つの主ブラシ94b2,94b3,94b4,94b5が同時に摺接可能な位置に配置されている点において第3実施形態と相違する。
【0077】
4つの主ブラシ94b2,94b3,94b4,94b5が副回動端子102に摺接すると、4つの主ブラシ94b2,94b3,94b4,94b5は副回動端子102によって互いに接続される。
【0078】
主ブラシ94b5は、上述したように、接地線44b5(図4(a))に接続されている。
よって、図9に示すように、4つの主ブラシ94b2,94b3,94b4,94b5が副回動端子102に摺接すると、副回動端子102、及び主ブラシ94b2,94b3,94b4の電圧は、接地電圧となる。よって、モータ32の回転に関係なく接地電圧で一定の信号がセンサ82の出力として駆動制御部74へ与えられることとなる。
よって、本変形例においても第3実施形態と同様、自在輪20の向きに応じて自在輪20の駆動を制限することができる。
【0079】
〔その他〕
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。
例えば、上記各実施形態において、回動端子92が設けられる範囲である、回動シャフト90の外周面90aの周方向の範囲B(周方向所定範囲)を、自在輪20の向きDを中心に左右両側80度の範囲に設定した場合を例示したが、これに限定されることはなく、より狭い範囲としてもよいし、主ブラシ94の位置に応じて自在輪20の向きDに対する周方向の位置を適宜変更することができる。
また、角度範囲Aも、範囲Bや電動車椅子1の使用態様等に応じて、適宜変更することができる。
【0080】
また、本実施形態では、モータ32としてインホイールモータを用いた場合を例示したが、出力シャフトから出力される回転力によって自在輪20を駆動するモータをキャスタ4に設けてもよい。
【0081】
また、上記各実施形態では、回動端子92を回動シャフト90の外周面90aに設けた場合を例示したが、スピンドル50の外周面に設け、スピンドル50の外周側に主ブラシ94を設けてもよい。
【0082】
本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0083】
1 電動車椅子 2 車体フレーム 4 キャスタ
20 自在輪(駆動輪) 22 支持部 32 モータ
70 伝達機構 74 駆動制御部 74a 出力端子
74b センサ用端子 80a 入力端子 82 センサ
90 回動シャフト
92,92a,92a1,92a2,92a3,92b,92b1,92b2,92b3,92b4,92b5 回動端子
94,94a,94a1,94a2,94a3,94b,94b1,94b2,94b3,94b4,94b5 主ブラシ
98,98a,98b,98c 副ブラシ
100a,100b,100c,102 副回動端子
B 範囲(周方向所定範囲) S2 旋回軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9