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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022068481
(43)【公開日】2022-05-10
(54)【発明の名称】移乗介助装置
(51)【国際特許分類】
   A61G 7/14 20060101AFI20220427BHJP
   A61G 5/14 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
A61G7/14
A61G5/14
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020177188
(22)【出願日】2020-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】598071910
【氏名又は名称】中尾 忠浩
(71)【出願人】
【識別番号】593089736
【氏名又は名称】ナカオ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100171941
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 忠行
(74)【代理人】
【識別番号】100150762
【弁理士】
【氏名又は名称】阿野 清孝
(72)【発明者】
【氏名】中尾 忠浩
(72)【発明者】
【氏名】中尾 正廣
【テーマコード(参考)】
4C040
【Fターム(参考)】
4C040AA08
4C040HH01
4C040JJ02
4C040JJ09
(57)【要約】      (修正有)
【課題】被介助者を安定して吊上げるとともに、吊上げた状態で被介助者の姿勢を変えることのできる移乗介助装置を提供する。
【解決手段】移乗介助装置は、床Lに置かれる柱体2と、柱体2の上部に突設された横梁体7と、横梁体7に水平旋回自在に枢支された旋回棒13と、旋回棒13の第1吊下げ位置13Aに吊下げられた腋支持部材14と、旋回棒13の第2吊下げ位置13Bに吊下げられた膝支持部材15と、腋昇降機構16と、腋昇降機構16とは独立駆動の膝昇降機構17と、を備えて成り、第1吊下げ位置13Aと第2吊下げ位置13Bとが水平方向に離間して配置され、旋回棒13の枢支位置13Cが第1吊下げ位置13Aと第2吊下げ位置13Bとの間に配置されているものである。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
起立状態で床に置かれる柱体と、
前記柱体の上部に前向きに突設された横梁体と、
前記横梁体に水平旋回自在に枢支された旋回棒と、
前記旋回棒の一端部に吊下げられて被介助者の腋下を支える腋支持部材と、
前記旋回棒の他端部に吊下げられて被介助者の膝下を支える膝支持部材と、
前記腋支持部材を昇降させる腋昇降機構と、
前記腋昇降機構とは独立に前記膝支持部材を昇降させる膝昇降機構と、を備えて成り、
前記旋回棒において前記腋支持部材を吊下げる一端部の第1吊下げ位置と前記膝支持部材を吊下げる他端部の第2吊下げ位置とが水平方向に離間して配置され、前記横梁体による前記旋回棒の枢支位置が前記旋回棒における前記第1吊下げ位置と前記第2吊下げ位置との間に配置されていることを特徴とする移乗介助装置。
【請求項2】
前記旋回棒における前記第1吊下げ位置と前記第2吊下げ位置の間の距離が、被介助者の膝下と腋下の間の距離よりも大きく設定されていることを特徴とする請求項1に記載の移乗介助装置。
【請求項3】
前記膝支持部材が、前記旋回棒の第1吊下げ位置に吊り下げられる条体と、前記条体に取り付けられて被介助者の腋下に装着されるベルト体と、を備えて成り、前記被介助者の腋下への装着時に前記被介助者の頸部ないし頭部を載せて支持する支持板部が、前記ベルト体に付設されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の移乗介助装置。
【請求項4】
前記柱体は、床に置かれる脚部と、前記脚部に立設された柱本体と、から構成され、前記脚部は、被介助者を乗せた車椅子を導入可能な前方開口を有して平面視でUの字状、Vの字状またはコの字状に形成され、且つ、脚先端部がベッド下隙間に挿入可能な大きさに形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の移乗介助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腋下および膝下を支持した被介助者を吊上げて例えば車椅子とベッドの間で移乗させる移乗介助装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の移乗介助装置としては、例えば下記の特許文献1に記載されているものが知られている。その移乗介助装置は、腋下を支える腋支持部材と、膝下を支える膝支持部材とをそれぞれの上端部で一つに纏め、この纏め部分をリフトで移動用レールに吊り下げ、腋と膝を一体的に吊上げて被介助者を移送するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-38584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記した従来の移乗介助装置においては、腋支持部材および膝支持部材はひとつに纏めて吊下げられているので、一か所の吊下げ位置を中心に前後左右に揺れて円錐状の歳差状揺動をしやすい。このような歳差状揺動は、吊上げられた被介助者を不安にさせ安定感を阻害する。また、膝支持部材と腋支持部材は一体同時に昇降駆動されるので、吊上げた状態で被介助者の姿勢を変えることはできない。従って、座った姿勢で吊上げられた被介助者は座った姿勢のままで移送されるし、寝た姿勢で吊上げられた被介助者は寝た姿勢のまま移送されるしかなかったのである。すなわち、被介助者を車椅子とベッドとの間で移送する場合に、その移送途中で被介助者の姿勢を変えられなかったので、車椅子とベッド間の移乗に多大な労力と手間を必要としたのである。
【0005】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、被介助者を揺らさず安定に吊上げるとともに、吊上げた状態で被介助者の姿勢を変えることのできる移乗介助装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る移乗介助装置は、起立状態で床に置かれる柱体と、柱体の上部に前向きに突設された横梁体と、横梁体に水平旋回自在に枢支された旋回棒と、旋回棒の一端部に吊下げられて被介助者の腋下を支える腋支持部材と、旋回棒の他端部に吊下げられて被介助者の膝下を支える膝支持部材と、腋支持部材を昇降させる腋昇降機構と、腋昇降機構とは独立に膝支持部材を昇降させる膝昇降機構と、を備えて成り、旋回棒において腋支持部材を吊下げる一端部の第1吊下げ位置と膝支持部材を吊下げる他端部の第2吊下げ位置とが水平方向に離間して配置され、横梁体による旋回棒の枢支位置が旋回棒における第1吊下げ位置と第2吊下げ位置との間に配置されていることを特徴とする構成にしてある。
【0007】
また、前記構成において、旋回棒における第1吊下げ位置と第2吊下げ位置の間の距離が、被介助者の膝下と腋下の間の距離よりも大きく設定されていることを特徴とするものである。
【0008】
そして、前記した各構成において、膝支持部材が、旋回棒の第1吊下げ位置に吊り下げられる条体と、条体に取り付けられて被介助者の腋下に装着されるベルト体と、を備えて成り、被介助者の腋下への装着時に被介助者の頸部ないし頭部を載せて支持する支持板部が、ベルト体に付設されていることを特徴とするものである。
【0009】
更に、前記した各構成において、柱体は、床に置かれる脚部と、脚部に立設された柱本体と、から構成され、脚部は、被介助者を乗せた車椅子を導入可能な前方開口を有して平面視でUの字状、Vの字状またはコの字状に形成され、且つ、脚先端部がベッド下隙間に挿入可能な大きさに形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る移乗介助装置によれば、旋回棒における腋支持部材と膝支持部材の吊下げ位置が離間した2か所であり、横梁体による旋回棒の枢支位置が旋回棒の第1吊下げ位置と第2吊下げ位置との間に配置されているので、あたかも天秤棒状の支持形態を採ることができる。従って、腋支持部材と膝支持部材とがひとつに纏められて吊下げられる従来技術のように腋支持部材および膝支持部材が一か所の吊下げ位置を中心として大きく揺動したり歳差運動をしたりするといったことがなく、この移乗介助装置は安定な吊下げ状態を維持できる。また、膝支持部材が腋支持部材とは別個独立に昇降駆動されるので、吊上げた状態の被介助者の姿勢変更、すなわち座った姿勢の被介助者を吊上げたのちに膝だけを持ち上げて体全体を寝かせた姿勢に変えるといったことができ、その寝かせた姿勢で移送できる。無論、寝た姿勢から座った姿勢へと逆の姿勢変更も可能である。
【0011】
また、旋回棒における第1吊下げ位置と第2吊下げ位置の間の距離が、被介助者の膝下と腋下の間の距離よりも大きく設定されているものでは、腋支持部材と膝支持部材とによる被介助者の吊上げ態様が側面から視て略逆さ台形状になるから、吊上げられた被介助者が前後左右に歳差状揺動をしにくくなって安定した状態に保たれ、被介助者に安心感を与える。これにより、吊上げた被介助者を所望降下位置の上方に正確に位置決めしやすくなり、所望位置に確実に降ろすことができる。
【0012】
そして、膝支持部材のベルト体に支持板部が付設されているものでは、被介助者の腋下へのベルト体の装着時に、支持板部が被介助者の頸部ないし頭部を載せて支持することができる。従って、体力が弱っている被介助者であっても、吊上げ時に頭部がその重みで後向きに垂れ下がることを防ぎ、安全且つ安心に移送することができる。
【0013】
更に、柱体の脚部が車椅子を導入可能な前方開口を有し、且つ、脚先端部がベッド下隙間に挿入可能な大きさに形成されているものでは、車椅子を前方開口から脚部内に車椅子を導入することができる。従って、横梁体や旋回棒の下方位置で被介助者に対する各支持部材の装着・取外し作業や吊上げ作業を楽に行なうことができる。また、被介助者の吊上げ後は装置全体を移動させて脚先端部をベッド下の隙間に挿入できるから、ベッドの上方位置に被介助者の確実に移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る移乗介助装置の正面図である。
図2】前記移乗介助装置の平面図である。
図3】前記移乗介助装置の側面図である。
図4図1における軸受部周辺を拡大して示す部分正断面図である。
図5】前記移乗介助装置のベルト体を示す図であって、(a)は展開した正面図、(b)は平面図である。
図6】車椅子に座っている被介助者に前記移乗介助装置の腋支持部材と膝支持部材を装着した状態を側面から視た使用態様図である。
図7図6に示した状態から膝支持部材を持ち上げて被介助者を車椅子から吊上げた状態を側面から視た使用態様図である。
図8図7に示した状態から車椅子を除け前記移乗介助装置および被介助者を前進させて被介助者をベッドの直上位置まで移動させた状態を側面から視た使用態様図である。
図9図8に示した状態から旋回棒を手で旋回させて被介助者をベッドの長手方向に向けさせた状態を背面から視た使用態様図である。
図10図9に示した状態から腋支持部材および膝支持部材を降ろして被介助者をベッド上に寝かした状態を背面から視た使用態様図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下に述べる実施形態は本発明を具体化した一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。ここに、図1は本発明の一実施形態に係る移乗介助装置の正面図、図2は前記移乗介助装置の平面図、図3は前記移乗介助装置の側面図であり図1,2から旋回棒を90度回転させたものである。
各図において、この実施形態に係る移乗介助装置1は、起立状態で床L上に置かれる柱体2と、柱体2の上部に前向きに突設された横梁体7と、横梁体7の先端部7Aに軸受部12を介して水平旋回自在に枢支された旋回棒13と、旋回棒13の一端部に吊下げられて被介助者Mの腋下を支える腋支持部材14と、旋回棒13の他端部に吊下げられて被介助者Mの膝下を支える膝支持部材15と、腋支持部材14を昇降させる腋昇降機構16と、腋昇降機構16とは別個独立に膝支持部材15を昇降させる膝昇降機構17と、を備えて構成されている。
【0016】
そして、この移乗介助装置1では、旋回棒13において、腋支持部材14を吊下げる一端部の第1吊下げ位置13Aと、膝支持部材15を吊下げる他端部の第2吊下げ位置13Bとが、水平方向に離間して配置されている。また、横梁体7において旋回棒13に対する枢支位置13Cが、旋回棒13における第1吊下げ位置13Aと第2吊下げ位置13Bとの間に位置している。すなわち、横梁体7に対して旋回棒13は天秤棒状に配置されている。この旋回棒13における第1吊下げ位置13Aと第2吊下げ位置13Bとの間の距離Kは、吊下げ状態にある被介助者Mの膝下と腋下との間の距離K1(図7参照)よりも大きな距離に設定されている。
【0017】
前記した柱体2は、床L上に置かれる脚部3と、脚部3に立設された柱本体4と、から構成されている。脚部3は、被介助者Mを乗せた車椅子Sを導入可能な前方開口3Aを有して平面視でコの字状に形成されている。また、脚先端部3CはベッドBのベッド下隙間BA(図8他参照)に挿入可能な大きさおよび厚さに形成されている。脚部3の左右脚と脊側脚とに囲まれた領域の上方空間は、車椅子S(図6他参照)および被介助者Mの足を収容可能な収容空間3Bとなっている。
【0018】
そして前記した柱本体4は、この例では脚部3上に立設された角筒状で鋼材製の固定柱5と、固定柱5の筒内に装入されて上下移動自在の移動柱6と、から構成されている。移動柱6の上端部には、横梁体7が前向きに突設されている。横梁体7の下面における移動柱6の近傍位置には、垂下杆8が垂設されている。
【0019】
横梁体7の先端部7Aには、図4に示すように、上下に延びる円筒状の軸支筒部18が溶接などで固設されている。軸支筒部18の上端部には、軸支筒部18の上部を装入される軸受穴19Dを有する下側部材19Bと、軸受穴19Cを有する上側部材19Aとから一体に構成された受座19が固設されている。上側部材19Aの上面には、スラストボールベアリング45の下ハウジング45Aが固設されている。軸支筒部18の下端部には、軸受穴10Aを有して水平方向に延びるフラット板10が固設されている。一方、旋回棒13の上面には、枢支軸44が立設されている。この枢支軸44は、旋回棒13の上面に予め固設された補強用板11の軸受穴11Aに装着固定されることにより起立姿勢を補強されている。補強用板11には、水平旋回するフラット板10と干渉して旋回棒13の旋回範囲を規制するための係止用ピン9が立設されている。前記した枢支軸44は、フラット板10の軸受穴10A、軸支筒部18の軸受穴18A、受座19の軸受穴19C、スラストボールベアリング45の上下ハウジング45B,45Aの軸受穴を通されてワッシャ20を嵌装される。そうして、ワッシャ20から突出した枢支軸44上端の雄ネジ部44Dに、ナット21A,21Bが螺止されることにより、横梁体7および軸支筒部18に対し、旋回棒13および枢支軸44が軸心C回りに回動自在に軸支される。
【0020】
前記した軸受部12は、フラット板10の軸受穴10Aと、軸支筒部18の軸受穴18Aと、受座19の上側部材19Bの軸受穴19Cと、スラストボールベアリング45の軸受穴と、これらの軸受穴に一連に挿通された枢支軸44と、から構成されている。この軸受部12は、枢支軸44を介して、横梁体7に対し旋回棒13を略垂直の軸心C回りすなわち略水平方向に旋回自在に枢支している。
【0021】
前記した腋支持部材14は、旋回棒13の第1吊下げ位置13Aに固設された吊下用板26と、吊下用板26の穴部に吊り下げられたリング27と、リング27に吊り下げられたロープなどの条体28と、条体28に取り付けられて被介助者Mの腋下に装着されるベルト体22と、から構成されている。前記のベルト体22は、図5に示すように、重ね合わせた2枚の可撓性生地の周縁を縫目49のように縫製して成る袋状の帯部23と、帯部23に付設された支持板部25と、帯部23の両端部に形成されて条体28を取り付けられる紐穴24,24と、から構成されている。前記の支持板部25は例えばプラスチック製であり、上側の受部25Aで被介助者Mの頭部Hや頸部Nを支持可能な剛性を有していて、下側の基部25Bが帯部23の開口部23Aから袋内50に挿入され留具47,47,47,47で帯部23に固定されている。帯部23における紐穴24,24の周囲には、鳩目48,48が装着されている。前記の支持板部25は、被介助者Mの腋下への装着時に被介助者Mの頸部Nおよび頭部Hを載せて支持するものである。
【0022】
前記した膝支持部材15は、旋回棒13の第2吊下げ位置13Bに垂設された吊下用板33と、吊下用板33の係止ピンにフック部46で取り付けられたレバーホイストなど手動式の昇降駆動機34と、昇降駆動機34の駆動歯車に噛合して上下動するチェーン29と、チェーン29の一端に設けられたフック部37に吊り下げられたロープなどの条体38と、条体38に取り付けられて被介助者Mの膝下に装着されるベルト体30と、から構成されている。ベルト体30は、可撓性を有する長尺の帯部31と、帯部31の両端部に形成されて条体38を取り付けられる紐穴32,32と、から構成されている。図中符号36は、チェーン29の他端に設けられた端リングである。
【0023】
前記した昇降駆動機34は膝昇降機構17を構成しており、本体ケーシング内の駆動歯車に掛け回されたチェーン29が、手動レバー35の手動の揺動動作により本体ケーシングに出し入れされて本体ケーシングを昇降させるようになっている。チェーン29の昇方向と降方向の切り替えは、本体ケーシングに設けられた切り替えレバーの操作による。
そして、固定柱5の上端部5A近傍には、ワイヤーウインチなど手動式の昇降駆動機41の本体ケーシングが固定用金具40を介して取り付けられている。この昇降駆動機41では、一端が垂下杆8下端の輪部43につながれたワイヤー39が、手動レバー42の手動の揺動動作により本体ケーシング内の駆動ロールに巻き上げられるようになっている。この昇降駆動機41でも、昇方向と降方向の切り替えは、本体ケーシングに設けられた切り替えレバーの操作による。前記したようなワイヤー39の巻き上げ操作により、垂下杆8、横梁体7、移動柱6、前端梁9、支持部材10、受板部材11、軸受部12および旋回棒13が一体的に持ち上げられるのである。すなわち、前記の垂下杆8、横梁体7、移動柱6、軸受部12、旋回棒13、ワイヤー39および昇降駆動機41から成る構成が、腋支持部材14を昇降させる腋昇降機構16の構成である。
【0024】
上記のように構成された移乗介助装置1の作用を次に説明する。図6に示すように、例えば車椅子Sに乗った被介助者Mに対し、腋支持部材14のベルト体22を腋下に装着したのち、昇降駆動機41の手動レバー42を揺動操作し腋昇降機構16の全体構成を少し引き上げて(矢印U方向)条体28を展張させ、ベルト体22の帯部23を腋下に密着させる。すると、ベルト体22の支持板部25が頭部Hを後方からしっかり支持する。続いて、膝支持部材15のベルト体30を被介助者Mの膝下に装着し、昇降駆動機34の手動レバー35を手で揺動させてチェーン29を引き上げる(矢印P方向)。
【0025】
そうして、図7に示すように、被介助者Mの膝下を腋下の高さもしくは腋下以上に持ち上げると(矢印V方向)、被介助者Mは寝た姿勢になる。このとき、第1吊下げ位置13Aと第2吊下げ位置13Bの間の距離Kは腋と膝の間の距離K1よりもはるかに大きい。従って、腋支持部材14と膝支持部材15とによる被介助者Mの吊上げ態様が側面から視て略逆さ台形状になる。これにより、吊上げられた被介助者Mは前後左右への歳差状揺動がしにくくなり安定な状態に保たれる。その結果、吊上げた被介助者Mに安心感を与えるとともに、被介助者Mを所望位置に正確に位置決めしやすくなり、その所望位置に確実に降ろすことができる。
【0026】
前記のように被介助者Mを吊上げた移乗介助装置1は、図8に示すように、操作者により前方(矢印F方向)に押されて、脚部3の脚先端部3CがベッドBのベッド下隙間BAに挿入される。このとき、被介助者MはベッドBの長手方向と直角の向きでベッドBの上方位置にある。この状態から、操作者は手で旋回棒13などを持って軸受部12の軸心C回り例えば平面視時計回り方向(矢印R方向)に略90度旋回させる。
【0027】
すると、被介助者Mは、図9に示すように、吊下げられた状態でベッドBの長手方向と平行の向きになる。その後、操作者は、昇降駆動機41を操作しワイヤー39を繰り出させてベルト体22を含む腋昇降機構16全体を降下させる(図10中の矢印D方向)。これにより、被介助者Mの臀部がベッドB上に着床し、次いで腰、背中、頭部Hと順次着床していく。更に、操作者は、昇降駆動機34を操作しチェーン29を繰り出させてベルト体30を降下させる。これにより、被介助者Mの踵がベッドB上に着床して脚が延び、図10に示すように、膝下が着床する。このとき、横梁体7は固定柱5の上端部5A近くまで降下している。
一方、ベッドB上に寝ている被介助者Mを車椅子Sに移乗させる場合は、図10に示した状態から逆の手順で、図9図8図7を順次経て、図6に示した状態まで持って行き、被介助者Mから腋支持部材14と膝支持部材15を取り外せばよい。
【0028】
上記したように、この実施形態の移乗介助装置1によれば、腋支持部材14と膝支持部材15の吊下げ位置13A,13Bが離間した2か所であるから、腋支持部材と膝支持部材とがひとつに纏められて吊下げられる従来技術のように腋支持部材および膝支持部材が吊下げ位置を中心として大きく揺動したり歳差運動をしたりするといったことがなく、安定した吊下げ状態に保持でき被介助者Mに安心感を与える。また、膝支持部材14が腋支持部材15とは別個独立に昇降駆動されるので、吊上げた状態の被介助者Mの姿勢変更、すなわち座った姿勢の被介助者Mを吊上げたのちに膝だけを持ち上げて体全体を寝かせた姿勢に変えるといったことができ、その寝かせた姿勢で移送することができる。
【0029】
また、腋支持部材のベルト体22には支持板部25が付設されているので、被介助者Mの腋下へのベルト体22の装着時に、支持板部25が被介助者Mの頸部Nおよび頭部Hを載せて後方から支持することができる。これにより、体力が弱っている被介助者Mであっても、吊上げ時に頭部Hがその重みで後向きに垂れ下がるといったことを防ぐことができ、安全に移送できる。
【0030】
そして、柱体2の脚部3は車椅子Sを導入可能な前方開口3Aを有しているので、その前方開口3Aから脚部3内の収容空間3Bに車椅子Sを導入することができる。従って、横梁体7や旋回棒13の下方位置において、被介助者Mに対する各支持部材14,15の装着作業や吊上げ作業を楽に行なうことができる。また、脚先端部3Cがベッド下隙間BAに挿入可能な大きさおよび厚さに形成されているので、被介助者Mの吊上げ後は装置1全体を移動させて脚先端部3Cをベッド下隙間BAに挿入できるから、吊上げたままの被介助者MをベッドBの上方位置に確実に移動させることができる。
【0031】
そうして、この移乗介助装置1は、腋昇降機構16および膝昇降機構17がいずれも手動式の昇降駆動器具34,41を備えているので、製品コストが安価で済み電源などの外部動力が不要であるから、極めて安価で汎用性の高い装置を提供できたのである。
【0032】
尚、上記の実施形態では、ベルト体に付設される支持板部として、被介助者Mの頸部Nおよび頭部Hの双方を載せて支持する支持板部25を例示したが、本発明はそれに限定されるものでない。例えば、頭部Hまでは届かないが頸部Nのみを載せて支持するような支持板部であっても構わない。
また、上記では、柱体の脚部として平面視でコの字状の脚部3を例示したが、本発明の脚部としては、平面視でUの字状またはVの字状などの形態のものであってもよい。
そして、上記では、ベルト体22側の昇降駆動機41としてワイヤー39利用のワイヤーウインチを用い、ベルト体30側の昇降駆動機34としてチェーン29利用のレバーホイストを用いた例を示している。しかしながら、これらを逆に組み替えて、ベルト体22側にレバーホイストを用いベルト体30側にワイヤーウインチを用いるようにしても構わない。あるいは、昇降駆動機41,34は腋昇降機構および膝腋昇降機構の構成要素として手動式のものを用いているが、これらは手動式に限られるものでなく、例えば電動式の昇降駆動機を用いることもできる。
【0033】
そして、本発明は、上記した諸々の実施形態に限定されるものでない。すなわち、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る、各種変形、修正を含む、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0034】
1 移乗介助装置
2 柱体
3 脚部
3A 前方開口
3C 脚先端部
4 柱本体
5 固定柱
5A 上端部
6 移動柱
7 横梁体
12 軸受部
13 旋回棒
13A 第1吊下げ位置
13B 第2吊下げ位置
13C 枢支位置
14 腋支持部材
15 膝支持部材
16 腋昇降機構
17 膝昇降機構
22 ベルト体
23 帯部
25 支持板部
28 条体
29 チェーン
34,41 昇降駆動機
39 ワイヤー
B ベッド
BA ベッド下隙間
C 軸心
H 頭部
K,K1 距離
L 床
M 被介助者
N 頸部
S 車椅子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10