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特開2022-68535上向流部に複管を備えた改良型ベント管伏越し構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022068535
(43)【公開日】2022-05-10
(54)【発明の名称】上向流部に複管を備えた改良型ベント管伏越し構造
(51)【国際特許分類】
   E03F 3/02 20060101AFI20220427BHJP
【FI】
E03F3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020177275
(22)【出願日】2020-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】598003829
【氏名又は名称】株式会社東京設計事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100067448
【弁理士】
【氏名又は名称】下坂 スミ子
(74)【代理人】
【識別番号】100213746
【弁理士】
【氏名又は名称】川成 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100221752
【弁理士】
【氏名又は名称】古川 雅与
(72)【発明者】
【氏名】亀田 一平
(72)【発明者】
【氏名】古屋敷 直文
(72)【発明者】
【氏名】成原 正行
【テーマコード(参考)】
2D063
【Fターム(参考)】
2D063AA07
2D063BA37
(57)【要約】
【課題】ベント管内に付着または堆積する夾雑物を、日常的な下水流下力のみで効率的に流下除去させることができるベント管伏越し構造を提供する。
【解決手段】上向流部ベント管は、同じ勾配を有する第1および第2上向流部ベント管から成り、この第2上向流部ベント管は、上記第1上向流部ベント管の内壁または外壁に沿って配置され、かつ、上記第1上向流部ベント管の管径よりも小さいとともに、 上向流部ベント管に沈降性夾雑物除去手段を備えることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川や地下道等の障害物の下を通り抜けるベント管と、
このベント管内に付着または堆積する夾雑物を除去する沈降性夾雑物除去手段とを備え、
上記ベント管は、
上流側下水管の下流側端部から下流方向下向きに傾斜して延びる下向流部ベント管と、
上記下向流部ベント管の下方端部から障害物の下を通って下流方向に延びる横向流部ベント管と、
上記横向流部ベント管の下流側端部から下流側下水管の上流側端部へ下流方向上向きに傾斜して延びる上向流部ベント管とを含み、
上記上向流部ベント管は、同じ勾配を有する第1上向流部ベント管および少なくとも1本の第2上向流部ベント管から成り、
この第2上向流部ベント管は、
上記第1上向流部ベント管の内壁または外壁に沿って或いは内外両壁にそれぞれ沿って配置され、
かつ、上記第1上向流部ベント管の管径よりも小さい、
ベント管伏越し構造。
【請求項2】
上記沈降性夾雑物除去手段は、
上記上向流部ベント管の上流側端部から下流側へそれぞれ所定の間隔を隔てた位置で下流方向に向けて開口する少なくとも1つの空気吐出孔と、
この空気吐出孔それぞれに連通する空気管とを有し、
上記空気吐出孔は、上記第1上向流部ベント管内に開口する低段空気吐出孔と、
この低段空気吐出孔よりも下流側の位置で上記第2上向流部ベント管内に開口する高段空気吐出孔の少なくともいずれかの一方を含み、
上記低段空気吐出孔に連通する低段空気管の管径は、
上記高段空気吐出孔に連通する高段空気管の管径よりも小さく、
上記低段空気吐出孔および高段空気吐出孔からそれぞれ連通した空気管を介して下流方向に向けて、適宜、所定の時間、圧縮空気が供給される
ことを特徴とする請求項1に記載のベント管伏越し構造。
【請求項3】
上記下向流部ベント管の傾斜角が30度以下であるとともに、
上記上流側下水管の所定区間に整流区間を備え、
この整流区間の管径は、上記下向流部ベント管の管径以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のベント管伏越し構造
【請求項4】
下向流部ベント管に浮遊性夾雑物除去手段を備え、
この浮遊性夾雑物除去手段は、
下向流部ベント管の止水時水面付近に開口する少なくとも1つの圧力水吐出孔と、
この圧力水吐出孔に連通する圧力水注入管とを有し、
上記圧力水吐出孔から上記圧力水注入管を介して、
上記下向流部ベント管内の止水時水面付近に向けて、
適宜、所定の時間、圧力水が供給される
ことを特徴とする請求項3に記載のベント管伏越し構造。
【請求項5】
下向流部ベント管に設けられた複数の上記圧力水吐出孔が、
下向流部ベント管の止水時水面付近および、
上流側または下流側へ所定の間隔を隔てた位置に設けられている
請求項4に記載のベント管伏越し構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川や地下道等の障害物の下を潜り抜ける下水の伏越し構造に関し、特に分流式下水道ベント管の通路内に夾雑物が付着または堆積することを防ぐとともに、維持管理コストおよび建設コストを低減できる伏越し構造に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭の生活排水や産業施設の廃水等の汚水は、分流式の下水管によって排水処理するが、流路の途中に河川や地下道等の障害物がある場合には、この障害物の下を潜り抜けるベント管を備えた伏越し構造が採用されている。図14に、従来技術による下水の伏越し構造を示す。図示のように、河川を挟む上流側下水管305と下流側下水管306との間は、河川の下を潜り抜けるベント管301で連結される。ベント管301は、入口側から順に、下方に傾斜する下向流部311と、この下向流部に連通しかつ上記障害物の下をほぼ水平に潜り抜ける水平流部又は横向流部312と、この水平流部312に連通して上方に傾斜する上向流部313とを有している。そして、上流側下水管の断面の底部と、下流側下水管の断面の底部との間に、伏越し経路の損失水頭に相当する伏越し落差ΔHを付け、この落差に基づく下水の静水圧によって、ベント管301内に下水を流下させている。
【0003】
このように構成された伏越し構造における水流は、河川や地下道等の障害物の下を通り抜けるベント管(伏越し部)301に入ると、ベント管内では満管の状態で流れることになるため、自由水面を持つ上流側下水管における流速より遅くなる。この流速の低下は、固形物等の夾雑物の堆積を招くことから、伏越し部301の管径を上流側下水管305の管径より小さくして、夾雑物の掃流に必要な流速、すなわち掃流力を確保することが一般的に行われている。
【0004】
しかるに生活排水である下水には、油等の浮遊性の夾雑物や、土砂等の沈降性の夾雑物が多量に混入している。このため、従来のベント管伏越しにおける掃流力は十分とは言えず、水平流部312と上向流部313の接合部分では、沈降性の夾雑物がこの部分に滞留して沈殿堆積し易い。すなわち、下水の流下力のみでは上向流部を駆け上って下流側下水管306まで達することのできない沈降性の大きな砂利等がこの部分に溜まることとなる。そして、下水の流量が少なくなる夜間等に、沈殿堆積した砂礫の間隙へ粘性土の細粒分が入り込んで浸潤することで固結し堆積層を形成する。この堆積層は長期間放置されることで、より強固な堆積層を形成することになり、やはりベント管301を閉塞させるおそれがあった。
【0005】
一方、下水道は計画下水量に対して常に2倍の流下能力を備えるように設計されている。このため下水量が少ない場合は、下向流部311内に下水が充満せず、この下向流部の水位が低くなって、上述した伏越し落差ΔHが確保できなくなってしまう。このため下水を押し流す静水圧が低くなり、さらに下水量が少ないことが重なって、下水に混入した油等の浮遊性の夾雑物が、下向流部311の水面に浮遊集積し長時間滞留する。このため、油等の浮遊性の夾雑物が下水に多量に混入している場合は、この浮遊性の夾雑物が、下向流部311の水面近傍において肥大化及び固形化して、堆積層を形成する。さらに堆積層によって下水の流下力が低下することも相俟って、ついには、この堆積層がベント管301を閉塞させることになる。
【0006】
これに対し、出願人はかつて、ベント管の管内へ圧縮空気を供給することで夾雑物を除去する方法を特開2011-220106号公報において提案した。ここで提案した浮遊性夾雑物対策としては、下向流部ベント管311の管壁に設けた開口孔から所定の期間毎に所定の時間だけ圧縮空気を供給することで、下向流部ベント管の水面付近に堆積し固結している浮遊性夾雑物を粉砕し、流下除去させる技術を、そして更に、沈降性夾雑物対策として、上記上向流部ベント管313の流路内に、所定の期間毎に所定の時間だけ圧縮空気を供給することによって、上記上向流部313の底面付近に付着または堆積する沈降性夾雑物を浮揚させることで流下除去させる技術を開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-220106号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】成原富士郎著「下水道管渠エレガントな設計でコスト縮減を」山海堂 2005年
【非特許文献2】「2019年版下水道施設計画・設計指針と解説」公益社団法人日本下水道協会
【非特許文献3】「管渠内堆積物の掃流特性に関する模型実験 1 」2006年5月 下水道協会誌論文集 Vol.43.No.523、公益社団法人日本下水道協会下水道協会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された沈降性夾雑物対策においては、空気を上向流部ベント管内に供給することに伴う以下の問題があった。すなわち、特許文献1に開示された沈降性夾雑物対策は、ベント管の流路断面下半分(管底側)に開口した開口孔から流路の中心に向けて圧縮空気を供給するものであるため、供給された空気はその浮力によってベント管の流路断面上半分(管頂側)へ向かい、管内の管頂側に沿って上方へ移動していくこととなる。このため、ベント管内の底部(流路断面下半分)に堆積している沈降性夾雑物を流下除去させる掃流力が弱く、沈降性夾雑物の一部は相変わらずベント管底部に沈降したままとなり易かった。この現象は、上向流部ベント管の勾配が大きい場合や内径が250mm以上であるような場合に、特に起こり易い問題であった。
【0010】
また、特許文献1に開示された浮遊性夾雑物対策では次のような問題が生じる場合があった。すなわち、ベント管伏越しにおける下向流部ベント管に集積堆積する浮遊性夾雑物は、不溶性であるプラスチック類、紙類、繊維類等に、下水中の油類や膠質等が付着することで浸潤して固結し、ベント管内の止水時水面付近に集積堆積したものである。
特許文献1に開示された浮遊性夾雑物対策は、この浮遊性夾雑物へ向けて圧縮空気を吐出することで、夾雑物から油類や膠質等を剥離させるものである。圧縮空気の作用により油類や膠質等が剥離され固結が解かれた夾雑物は、その浮力が勝るため圧縮空気の作用のみでは流下除去させることは困難な物が多い。このため、浮遊性夾雑物は固結が解かれた状態で相変わらず水面を漂い続けることとなり、再び下水中の油類や膠質等によって固結してしまうこととなる。このため、特許文献1に開示された浮遊性夾雑物対策では、圧縮空気の供給を頻繁に行うこととなり、作業量および費用が増大してしまうという問題があった。
【0011】
また、上向流部ベント管が下水管の最小管径(非特許文献2参照)内径200mm以下と細い管である場合には、以下のようなエアロック状態を生じる問題もあった。
すなわち、ベント管内に供給された空気はベント管の管頂方向へ浮上し管内壁に衝突することとなるが、ここで空気の浮力が勝ったものは下流側に浮上するが、一部は下水流の流れに逆らって上流側に移動してしまう現象が起きる。この場合、上流側へ向かった空気は横向流部ベント管へ侵入し、所要の損失水頭Hによる静水圧との均衡点まで進むこととなる。このとき、静水圧は空気を圧縮することだけに作用するので、空気はそこに留まっていわゆるエアロック状態が生じることとなり、ベント管内の流れを妨げることとなる。
【0012】
また、下水管では、管閉塞事故や清掃時を考慮して、予備管方式を採用したものがある。予備管方式とは、本管と並列して、事故や清掃のときにのみ使用する予備管を設けることで、ベント管伏越し構造の流路全体を複管構成として、清掃時等には流路を予備管へ切り換えることで、下水の流れを止めることなく作業が可能となるように構成する方式である。この予備管は、本管と同径、同傾斜角、同長の管が用いられることが多い。予備管を設けることで、清掃時には本管に下水流がない状態で作業できるというメリットがある反面、予備管に下水が流れない状態が長期に渡り続くことになるために、予備管内に残存する下水(汚水)が時間とともに腐敗して硫化水素ガス等が発生し、悪臭の原因となるのみならず、コンクリートとの腐食を促進して伏越し施設全体の劣化をも促すこととなる。また、伏越し建設時にも、予備管を設けることで建設費が倍以上必要となる費用面のデメリットもある。更に、予備管への切り替えゲートは、法定耐用年数が長くて15年であるため、所定期間後に更新工事が必要となる欠点もある。このように、予備管方式には、平常時には予備管が使用されないことによる種々の問題が起こり易いものであった。
【0013】
以上の問題点から、浮遊性夾雑物および沈降性夾雑物のいずれに対しても、日常的な下水の流下力のみでこれらの夾雑物を確実に流下除去でき、万が一、想定を越えるような多量の夾雑物の下水管への流入があった場合でも、一本のベント管を稼働させながら事故や清掃に対応できるようなベント管伏越し構造が望まれていた。
【0014】
そこで本発明の目的は、清掃用の予備管を必要とせず、かつ、日常的な下水の流下力のみでこれらの夾雑物を確実に流下除去できると共に、多量の夾雑物が下水管に流入するような非常時であっても簡単な操作のみで夾雑物を流下除去することが可能となるベント管伏越し構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、鋭意検討した結果、上向流部ベント管を2条管構成とし、これまでとは異なる供給方法で圧縮空気を噴出させる手段を設けることで、日常的に沈降性夾雑物が滞留し難く、また不測の事態により想定以上の沈降性夾雑物の流入が生じた際にも簡便にそれを流下除去できるベント管伏越し構造を見出した。更に、上流側下水管に所定の整流区間を設け、下向流部ベント管を所定の傾斜とすると共に、圧縮空気ではなく圧力水を所定の方法で所定の場所に噴出させることで、日常的に浮遊性夾雑物が滞留し難く、また不測の事態により想定以上の浮遊性夾雑物の流入が生じた際にも簡便にそれを流下除去できるベント管伏越し構造を見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
上記課題を解決するために、本発明のベント管伏越し構造は、
河川や地下道等の障害物の下を通り抜けるベント管と、
このベント管内に付着または堆積する夾雑物を除去する沈降性夾雑物除去手段とを備え、
上記ベント管は、
上流側下水管の下流側端部から下流方向下向きに傾斜して延びる下向流部ベント管と、
上記下向流部ベント管の下方端部から障害物の下を通って下流方向に延びる横向流部ベント管と、
上記横向流部ベント管の下流側端部から下流側下水管の上流側端部へ下流方向上向きに傾斜して延びる上向流部ベント管とを含み、上記上向流部ベント管は、同じ勾配を有する第1上向流部ベント管および少なくとも1本の第2上向流部ベント管から成り、
この第2上向流部ベント管は、上記第1上向流部ベント管の内壁または外壁に沿って或いは内外両壁にそれぞれ沿って配置され、
かつ、上記第1上向流部ベント管の管径よりも小さいことを特徴としている。
【0017】
上記沈降性夾雑物除去手段は、
上記上向流部ベント管の上流側端部から下流側へそれぞれ所定の間隔を隔てた位置で下流方向に向けて開口する少なくとも1つの空気吐出孔と、
この空気吐出孔それぞれに連通する空気管とを有し、
上記空気吐出孔は、上記第1上向流部ベント管内に開口する低段空気吐出孔と、
この低段空気吐出孔よりも下流側の位置で上記第2上向流部ベント管内に開口する高段空気吐出孔の少なくともいずれかの一方を含み、
上記低段空気吐出孔に連通する低段空気管は、
上記高段空気吐出孔に連通する高段空気管の管径よりも小さく、
上記低段空気吐出孔および高段空気吐出孔からそれぞれ連通した空気管を介して下流方向に向けて、適宜、所定の時間、圧縮空気が供給される。
【0018】
上記下向流部ベント管の傾斜角は30度以下であるとともに、
上記上流側下水管の所定区間に整流区間を備え、
この整流区間の管径は、上記下向流部ベント管の管径以下であることが望ましい。
【0019】
下向流部ベント管には浮遊性夾雑物除去手段を備え、
この浮遊性夾雑物除去手段は、
下向流部ベント管の止水時水面付近に開口する少なくとも1つの圧力水吐出孔と、
この圧力水吐出孔に連通する圧力水注入管とを有し、
上記圧力水吐出孔から上記圧力水注入管を介して、
上記下向流部ベント管内の止水時水面付近に向けて、
適宜、所定の時間毎に所定の時間、圧力水が供給される。
【0020】
更に、下向流部ベント管に設けられた複数の上記圧力水吐出孔は、
下向流部ベント管の止水時水面付近および、
上流側または下流側へ所定の間隔を隔てた位置に設けられていることが望ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明のベント管伏越し構造によれば、日常的な下水の掃流力のみで下水に流入した夾雑物を流下除去できるため、頻繁に清掃を行わずとも管閉塞を起こす危険性が極めて低く、清掃用の予備管の設置が不要となる。また、増水時や地震時等の非常時に一時的に下水への夾雑物の流入が増大する事態が発生した場合でも、本発明が備える夾雑物除去手段を作動させることで、このような夾雑物を簡単な操作のみで流下除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】ベント管伏越し構造の概略断面図である。
図2】(a)は本発明のベント管伏越し構造における上向流部ベント管の構造の一実施態様を示す概略断面図であり、(b)は(a)のX-X線における拡大断面図である
図3】(a)は本発明のベント管伏越し構造における上向流部ベント管の構造の他の実施態様を示す概略断面図であり、(b)は(a)のY-Y線における拡大断面図である。
図4】本発明のベント管伏越し構造における上向流部ベント管の構造の一実施態様を示す拡大断面図である。
図5】本発明のベント管伏越し構造における上向流部ベント管の構造の他の実施態様を示す拡大断面図である。
図6】本発明のベント管伏越し構造における上流側下水管と整流区間の接続を示す拡大断面図であり、(a)改良前の接続状態を示す図、(b)改良後の一実施態様の接続状態を示す図である。
図7】本発明のベント管伏越し構造における上流側下水管と整流区間の接続を示す図であり、(a)は拡大平面図、(b)は(a)におけるZ-Z線における拡大断面図である。
図8】本発明のベント管伏越し構造の一実施態様である、整流区間に他の下水管が合流する場合を示す概略図である。
図9】本発明のベント管伏越し構造における下向流部ベント管の構造の一実施態様を示す概略断面図である。
図10】本発明のベント管伏越し構造の一実施態様における下向流部ベント管と横向流部ベント管の接続状態を示す概略断面図である。
図11】本発明のベント管伏越し構造の他の実施態様を示す概略図である。
図12】本発明のベント管伏越し構造の更に他の実施態様を示す概略図である。
図13】本発明のベント管伏越し構造における下向流部ベント管に設けられた浮遊性夾雑物除去手段の一実施態様を示す概略断面図である。
図14】従来例による下水管の伏越し構造の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0024】
本発明のベント管伏越しの基本構造は、図1に示すように、河川や地下道等の障害物の下を通り抜けるベント管伏越し構造1と、このベント管伏越し構造1のベント管内に堆積する夾雑物を除去する沈降性夾雑物除去手段8を備え、更に必要に応じて、ベント管内に付着する夾雑物を除去する浮遊性夾雑物除去手段7を備える。ベント管伏越し構造1は、上流側下水管5の下流側端部から下流方向下向きに傾斜して延びる下向流部ベント管2と、この下向流部ベント管2の下方端部から障害物の下を通って下流方向に延びる横向流部ベント管3と、この横向流部ベント管3の下流側端部から下流側下水管6の上流側端部へ下流方向上向きに傾斜して延びる上向流部ベント管4とを含んでいる。そして、下向流部ベント管2の上流側に接続する上流側下水管5の所定区間に整流区間51を備えてもよい。
【0025】
前述したように、一般的に、ベント管伏越し構造では下向流部ベント管2の止水時水面付近に木片や落ち葉、プラスチック、紙類、油等の浮遊性夾雑物が水面に積層した状態で堆積し易く、また、横向流部ベント管3と上向流部ベント管4の連結部分付近では、土砂等の沈降性夾雑物が堆積し易い。これらは、長期間放置することで浮遊性夾雑物が油等と混じりあってベント管内に付着したり、沈降性夾雑物が固着状態で固まってしまう等して、ベント管閉塞の原因ともなる。そこで、本発明のベント管伏越し構造は、これらの夾雑物対策として以下の構成を有するものである。
【0026】
まず、沈降性夾雑物対策として、本発明のベント管伏越し構造では、通常は1条管である上向流部ベント管4を、同じ勾配を有する少なくとも2本の上向流部ベント管41、42で構成している。そして、上向流部ベント管4には沈降性夾雑物除去手段8として、上記の少なくとも2本の上向流部ベント管41、42に圧縮空気をそれぞれ供給する空気吐出孔81a、82aとこの空気吐出孔にそれぞれ連通する空気管81、82を備えるものである。そして、浮遊性夾雑物対策として、下向流部ベント管2の傾斜角θ1が30度以下であるとともに、下向流部ベント管2の上流側に接続する上流側下水管5の所定区間に整流区間51を備え、この整流区間51の管径は、下向流部ベント管2の管径以下とするものである。更に、本発明のベント管伏越し構造1では、ベント管伏越しへの夾雑物の流入量が増大する豪雨災害時等の非常事態への備えとして、圧力水の供給により浮遊性夾雑物を流下除去させる浮遊性夾雑物除去手段7として、下向流部ベント管2の止水時水面付近に開口する圧力水吐出孔と、この圧力水吐出孔に連通する圧力水注入管を備えることもできる。
【0027】
次に、本発明のベント管伏越し構造特有のこれらの各構成について、その好ましい構造および作用についてより詳細に説明する。
【0028】
最初に、横向流部ベント管3と上向流部ベント管4の連結部分付近に堆積し易い沈降性夾雑物対策として、本発明のベント管伏越し構造1が有する、二連管または二重管とした上向流部ベント管4について図2~5を参照しながら説明する。本発明の上向流部ベント管4は、通常は1条管とされる上向流部ベント管4を、同じ勾配を有する少なくとも2本(図示の場合、2本)の上向流部ベント管41、42としたものである。2本の上向流部ベント管は、それぞれ管径が異なるベント管で構成され、説明の便宜のために以下、管径の太い方の上向流部ベント管を第1上向流部ベント管41と称し、管径の細い方の上向流部ベント管を第2上向流部ベント管42と称する。よって、第1上向流部ベント管41がいわゆる本管となる。これらは、図2に示すように、第1上向流部ベント管41の外壁に沿って流路断面を増幅する第2上向流部ベント管42を配置するいわゆる二連管構造のものと、図3に示すように、第1上向流部ベント管41の内壁に沿って流路断面を分割する第2上向流部ベント管42を配置するいわゆる二重管構造のもののいずれか一方、もしくは両方を組み合わせた構成とすることができる。このように、本発明のベント管伏越し構造1は、ベント管のうち、下向流部ベント管2と横向流部ベント管3は1条管とし、上向流部ベント管4のみを同じ勾配を有する2条管構成41、42とするものである。
【0029】
具体的には、第2上向流部ベント管42は、第1上向流部ベント管41の内径にかかわらず、内径略100mm以下とすることが好ましい。第1上向流部ベント管41の外壁もしくは内壁に、内径略100mm以下の第2上向流部ベント管42を添接して、上向流部ベント管を二連管または二重管とした2条管構成とすることで、第1上向流部ベント管41の内径が大きな場合でも、第2上向流部ベント管42によって土砂等の堆積物を効率よく掻き揚げて下流へ流下させることができる。特に、深夜の下水の流量が少ない場合であっても、第2上向流部ベント管42は、内径が100mm以下と細いことにより相応の下水流が発生することとなり、沈降性夾雑物の沈殿やベント管への付着を継続的に防止することが可能となる。これにより、機械力に頼ることなく沈降性夾雑物の堆積滞留を日常的に防止する、いわゆるメンテナンスフリーの状態を創出することができる。
本構成は、下水の流下量が少ないために長期間に亘って下水流量が少ない状態にある伏越しや、上流の下水道が整備途中である伏越しの場合でも、容易に土砂等の堆積を防止する効果を発揮するものである。また、第1上向流部ベント管41と第2上向流部ベント管42は、同じ勾配で設けられるため、伏越し構造の施工時においても、掘削範囲が1条管構成の伏越し構造の場合と大きく変わることがなく経済的である。
【0030】
第2上向流部ベント管42は、第1上向流部ベント管41の内径によって、二連管構造と二重管構造のそれぞれを単独もしくは両方を組合わせて採用することが可能である。また、二連管構造と二重管構造のいずれの場合も、第2上向流部ベント管42は必要に応じて複数管とすることができる。例えば、第1上向流部ベント管41の内径が250~350mmの場合には、第2上向流部ベント管42が1本である二連管構造として、第2上向流部ベント管42の内径は80mmに設定することもできる。また、第1上向流部ベント管41の内径が400mm以上の場合には、二重管構造とすることもできる。更に、第1上向流部ベント管41の内径が1300mm以上の場合には、二連管構造と二重管構造を組み合わせた構造とすることもできる。尚、内径100mmの第2上向流部ベント管42に対して第1上向流部ベント管41の内径が2000mmである場合のように、第1上向流部ベント管41の内径が第2上向流部ベント管42の内径の約20倍以上となる場合には、第2上向流部ベント管42を2乃至3本として、それぞれを第1上向流部ベント管41の外壁に添接した三連管や四連管構造とすることも可能である。第1上向流部ベント管41の内径に合わせて、第2上向流部ベント管42を上記のような構成とすることにより、伏越し構造の有する所要の損失水頭Hによる位置エネルギーにより、粒径5mm以下の砂等であっても下流側下水管6まで掻き上げて流下除去することが可能となる。すなわち、本管である第1上向流部ベント管は下水流の流下能力確保の機能を主に担当し、第2上向流部ベント管は沈降性夾雑物を流下除去させる機能を主に担当することとなる。
【0031】
また、第2上向流部ベント管42を上記のような構成とすることにより、今後予想される一般家庭へのディスポーザーの普及にも十分に対応することができる。すなわち、ディスポーザーの導入により下水管に流入することが予想される粉砕された卵殻や貝殻等についても、本発明である2条管構成とした上向流部ベント管構造では滞留させることなく流下除去させることが可能である。非特許文献3によれば、ディスポーザーで粉砕した沈降性夾雑物の中で特に注意を要する卵殻と貝殻は粒径0.85~4.75mmの間に集中し、比重は卵殻:2.65、貝殻:2.84であったと報告されている。これは、本発明の2条管構成とした上向流部ベント管構造において流下除去可能である5mm以下の砂等よりも粒径、比重共に小さいものであるため、問題なく流下除去されると判断される。また、ディスポーザーが生ゴミを「すり潰す」構造であることを考えると繊維質のものはそのまま残ると予想される。このため、ディスポーザーの普及に伴い排水詰まりの原因になり得るとされているタマネギの皮、タケノコの皮、バナナのヘタ、枝豆のサヤ等が下水に流入する事態が増えることが懸念される。しかし、これらの繊維質は、砂等に比べて比重が軽いことを考えれば、粒径5mm以下の砂等を流下除去できる能力を有する本発明のベント管構造1ではなんら問題は生じないと判断される。
【0032】
本発明における第2上向流部ベント管42として用いる管は、内径略100mm以下の硬質塩化ビニル管、硬質ポリ塩化ビニル管、下水道内挿用強化プラスチック複合管等を用いることができる。
【0033】
上向流部ベント管4を二連管構造とする場合における、第2上向流部ベント管42の配置は、第1上向流部ベント管41の外壁に第2上向流部ベント管42を添接させることが好ましい。具体的な添接方法としては、第2上向流部ベント管42の長さと伏越し設置場所の地盤条件を考慮して、第1上向流部ベント管41の底面方向の外壁に第2上向流部ベント管42を接着接合する方法、第1上向流部ベント管41と第2上向流部ベント管42の間に建築用の隙間材を充填して埋め戻す方法、または、第1上向流部ベント管41の底部を含めて第2上向流部ベント管42をコンクリートで全巻きして一体化構造とする方法等を採用することができる。
【0034】
二連管構造とする場合の、第1上向流部ベント管41および第2上向流部ベント管42の下流側端部は、図2に示すように、下流側下水管の上流側端部に設けられている下流側マンホールCの底部に接続する。また、第2上向流部ベント管42の他端である上流側端部は、図2に示すように、第1上向流部ベント管41の上流寄りの位置で、第1上向流部ベント管41の底面側本管壁を穿孔し、その孔に90度または45度のエルボ(ロング)形状の継手を介して連接される。この継手部は、地盤条件や施工深さにより、コンクリートで全巻して第1上向流部ベント管41と一体化構造としてもよい。
【0035】
次に、上向流部ベント管4を二重管構造とする場合における、第2上向流部ベント管42の配置について説明する。二重管構造とする場合には、第1上向流部ベント管41の内壁底面側に第2上向流部ベント管42を接着接合することで添接させて二重管とすることが好ましい。
【0036】
二重管構造とする場合、第1上向流部ベント管41および第2上向流部ベント管42の下流側端部は、図3に示すように、下流側下水管6の上流側端部に設けられている下流側マンホールCの底部に接続する。ここで、二重管構造とする場合の第2上向流部ベント管42の下流側端部は、図3に示すように、その先端を斜め切り口として開口する。また、第2上向流部ベント管42の他端である上流側端部は、図3に示すように、第1上向流部ベント管41の上流側端部寄りの位置まで延伸し、第1上向流部ベント管41の底部側内壁で、小口を流路の中心方向へ向けて先端斜め切り口で開口する。このように二重管構造における第2上向流部ベント管42の上流側先端を斜め切り口とすることで、下水に流入した大きめの紙類や衣類片等が第2上向流部ベント管端部の小口に引っ掛かって滞留することを防止できる。第2上向流部ベント管42先端は、面取り加工されていることが更に好ましい。
【0037】
以上のように、ベント管伏越し構造における上向流部ベント管4を、太い第1上向流部ベント管41とそれよりも細い第2上向流部ベント管42を組み合わせた2条管構成とすることで、細い管である第2上向流部ベント管42には粒径5mm以下の砂粒が上向流部ベント管を駆け上がるに足る掃流力が発生し、横向流部ベント管3と上向流部ベント管4の接続部に滞留沈殿し易い沈降性夾雑物を、日常的な下水の流力のみで流下除去させることが可能となる。なお、ここにおいて、沈降性夾雑物を流下除去するに足る掃流力の基準として「粒径5mmの砂粒」を用いたのは、非特許文献1の頁271~272における「堆積物排出のための必要流速」の考察によるものである。
【0038】
次に、図2~5を参照しながら、上向流部ベント管4に設けられる沈降性夾雑物除去手段8について説明する。本発明の沈降性夾雑物除去手段8は、上記の2本の上向流部ベント管41、42のそれぞれに圧縮空気を供給する空気吐出孔81a、82aと、この空気吐出孔にそれぞれ連通する空気管81、82を備えるものである。なお、図2(a)および図3(a)は模式図であり、2本の上向流部ベント管41、42と空気管81、82の位置関係を正確に図示するものではないことに留意されたい。具体的な実施形態としては、例えば、図2(b)、図3(b)や図4図5に図示されたように空気管81、82を設けることができる。この構成により、2本の上向流部ベント管41、42のそれぞれに圧縮空気を供給することで、主に横向流部ベント管3と上向流部ベント管4の繋ぎ部分付近に沈殿堆積している沈降性夾雑物を、空気吐出孔81a、82aから噴出させた空気の浮遊力により掻揚げ、下水の流下力により沈降性夾雑物を下流へ流下させて除去させるものである。
【0039】
本発明の沈降性夾雑物除去手段8の具体的な構成は、例えば図4に示すように、上向流部ベント管(第1上向流部ベント管41)の上流側端部から、それぞれ下流側方向へ所定の間隔を隔てた位置で、下水流の下流方向に向けて開口する少なくとも1つの空気吐出孔81a、82aと、この空気吐出孔81a、82aにそれぞれ連通する空気管81、82とを有し、連通した空気管81、82を介して空気吐出孔81a、82aから下流方向に向けて、適宜、所定の時間、圧縮空気を噴出させるものである。
【0040】
空気吐出孔81a、82aとこの空気吐出孔に連通する空気管81、82の好ましい具体的な構成態様としては、第1上向流部ベント管41内の上流側の内壁底面側に開口する空気吐出孔(以下、低段空気吐出孔81aと称する)と、この低段空気吐出孔81aよりも下流側の位置で第2上向流部ベント管42内に開口する空気吐出孔(以下、高段空気吐出孔82aと称する)を含み、低段空気吐出孔81aに連通する低段空気管81は、高段空気吐出孔82aに連通する高段空気管82の管径よりも小さい管径とすることが好ましい。このような構成で上向流部ベント管4に設けられた沈降性夾雑物除去手段8は、上述した同じ勾配を有する2条管構成とした上向流部ベント管41、42の掃流力をさらに増強し高機能化するものである。すなわち、日常的に継続して沈降性夾雑物の流下除去の役割を果たす上向流部ベント管の2条管構成41、42と、豪雨災害時や地震時等の非常時における下水への一時的な夾雑物流入の増大に対する緊急対応的な役割を果たすための圧縮空気の噴出機構を備えた沈降性夾雑物除去手段8とを組み合わせることによって、ベント管伏越しの維持管理を容易かつ有効に行うものである。このため、この両者を併設することにより、相乗効果を発揮するものである。
【0041】
図2および図4に示した沈降性夾雑物除去手段8の一実施態様では、上向流部ベント管4の上流側の内壁底面側から突出して圧縮空気を吐出する、U型配管からなる低段空気吐出孔81aと、それより下流側の位置で上記第2上向流部ベント管上流側端部の小口へ突出しているU型配管からなる高段空気吐出孔82aの、少なくとも2箇所の空気吐出孔81a、82aを備える。そして、圧縮空気を供給するための空気管は、低段空気吐出孔81aに連通する低段空気管81と、高段空気吐出孔82aに連通する高段空気管82より構成され、図2に示すように、そのいずれも下流側端部は、上向流部ベント管4と下流側下水管6の接続部に設けられる下流マンホールCの蓋の下に設けられた空気バルブ83まで延びている。圧縮空気の注入時には、この空気バルブに1本の空気管84を介して、例えば携行用エンジン付きコンプレッサーDを接続することで、空気吐出孔81a、82aへ向けて圧縮空気を送り込むこととなる。ここで、空気管84は、空気バルブ83部分で低段空気管81と高段空気管82に分岐しているので、注入された空気は同時に同圧で低段空気管81と高段空気管82に分岐して注入されることとなり、それぞれ低段空気管吐出孔81aと高段空気吐出孔82aから同時に圧縮空気が吐出されることとなる。なお、下流側マンホールCは、一般的には公道の下に埋設されている。このため、蓋を開けて圧縮空気注入作業等を行うことが道路交通の支障となる場合もある。このような場合には、道路交通の支障にならない地点に水道用のハンドホール等を設け、このハンドホール内に空気管と接続するための空気バルブを取り付けるようにしてもよい。
【0042】
空気管については、コンプレッサーに接続された1本の空気管84から分岐される低段空気管81と高段空気管82をそれぞれ管径が異なる空気管とすることが好ましい。これにより、コンプレッサーから同じ空気圧で空気を注入した場合に細い空気管の方が少ない空気量を力強く吐出する特性を利用することができる。すなわち、上向流部ベント管4の底部側で開口する低段空気吐出孔81aに連通する低段空気管81を、高段空気管82より細い管とすることで、低段空気吐出孔81aからは空気をより力強く吐出させて、ベント管底部に滞留し固着している沈降性夾雑物を効果的に巻き上げることが可能となる。
【0043】
低段空気吐出孔81aは、図4に示すように上向流部ベント管4の上流側端部からやや上流側位置の第1上向流部ベント管41の底部側に設けられる。この位置に低段空気吐出孔81aを設けることで、沈降性夾雑物が堆積滞留し易い横向流部ベント管3と上向流部ベント管4の接続部付近に堆積した礫質土を掘り起こして下水の水流中に攪乱し、第2上向流部ベント管42に設けられる高段空気吐出孔82a付近にまで礫質土等の沈降性夾雑物を移送させて流下除去することが可能となる。低段空気吐出孔81aを設ける位置は、このような効果を発揮できる範囲で、横向流部ベント管3と上向流部ベント管4の接続部付近の適切な位置に適宜設定することが可能である。一般的に、許容されるベント管の閉塞率は、管の内径の30%を上限として設定される。本発明の沈降性夾雑物除去手段8を実施するにあたっては、沈降性夾雑物の堆積による管閉塞がこの許容閉塞率内となるように、ベント管伏越しの規模や設置条件に合わせて低段空気吐出孔81aの数および位置を適宜設定することになる。
【0044】
なお、この堆積礫質土は、下水の流量が少なくなる夜間等に砂礫の間隙へ粘性土の細粒分が入り込むことで固結し堆積層を形成したものである。長期間放置された場合には、経年的な変化を起こして、より強固な堆積層になり易い。このような堆積層に対しては、そこへ圧縮空気を噴出することによって、掘削するとともに空気の浮力をも利用して流下させることが効果的である。更に、上述のように、低段空気管81を、高段空気管82よりも細い管として、両管に同時に圧縮空気を注入する方法を採用することにより、細い方の空気管と連通する低段空気吐出孔81aからは、より少ない空気量で力強く空気が噴出させることができるため、このように固結した堆積層に対してより効果的である。具体的には、第1上向流部ベント管の41内径が350mm以下の場合は、低段空気管81は内径2mm程度とすることが効果的である。また、第1上向流部ベント管41が内径略400mm以上であるような場合には、低段空気管81として更に8~10mm程太い管、すなわち内径略10~13mmのものを用いると共に、低段空気吐出孔81aを2乃至3箇所設けて、分岐させた低段空気管81をそれぞれの低段空気吐出孔81aに連通する構成とすることが望ましい。このように、太い空気管を介して複数の吐出孔から圧縮空気を噴出させることにより、第1上向流部ベント管41が太い場合でもベント管底部に固結した堆積礫質土を掘削して流下させる効果を顕著に発揮することができる。このように空気吐出孔81aを複数箇所設ける場合には、各空気吐出孔は、上向流部ベント管の上流側端部から下流側へ2~5cm離れた区間の間に、約1cm程度の間隔で高低差を設けて設置することが好ましい。
【0045】
高段空気吐出孔82aは、例えば図4に示すように第2上向流部ベント管42の上流側端部付近に、第2上向流部ベント管内で下流方向に向けて偏って作用する圧縮空気が噴出するように開口させて設けられる。具体的には、上向流部ベント管を二連管構造に構成する場合には、図4に示すように、上向流部ベント管の上流側端部から、第1上向流部ベント管41の内径の0.2~1.0倍の長さ分だけ上流側へ離れた位置に高段空気吐出孔82aが設けられる。この位置は、第2上向流部ベント管42の上流側端部、すわなち、第1上向流部ベント管41と第2上向流部ベント管42の接続部が設定される位置であり、本実施形態では90度乃至45度のエルボ形状継手を用いて接続部が形成されている。図4に示すように、この継手の管頂部にU型配管により高段空気吐出孔82aが設けられる。
【0046】
また、高段空気吐出孔82aに連通する高段空気管82は、図4に示したように、下流側マンホールCの底部から第1上向流部ベント管41の外壁に添接して上流側に延伸し、第2上向流部ベント管42の上流側端部の開口部手前で、第1上向流部ベント管41の底部側管壁を貫通して一旦、第1上向流部ベント管内に入るように構成し、その先端を第2上向流部ベント管内に入り込み下流方向を向くように曲がるU型配管とし、もっぱら下流方向へ作用する高段空気吐出孔82aを設けることができる。
【0047】
また、二重管構成で第2上向流部ベント管42を設ける場合には、高段空気吐出孔82aは、図5に示すように、第2上向流部ベント管42の管内に設けられる。より詳細には、高段空気吐出孔82aは、先端斜め切断とした第2上向流部ベント管42の上流側端部である上流側開口部の小口付近に、第2上向流部ベント管内で下流側方向に向けて開口するように設けられる。
【0048】
ここで、沈降性夾雑物除去手段8としての圧縮空気の注入について考察すると、圧縮空気を1条管構成のベント管に直接注入する場合や、2条管構成においても管径の太い方のベント管に直接注入する場合に比べて、2条管構成における細い方のベント管に直接注入する方が、より効率的に沈降性夾雑物を除去することができる。上述のように、沈降性夾雑物を日常的に有効に流下除去するために、第2上向流部ベント管42の内径は、第1上向流部ベント管41より細い内径100mm以下に設定される。沈降性夾雑物除去手段8として、この細い方の第2上向流部ベント管42に直接空気を注入する構成とすることは、上記効果のみならず圧縮空気の注入効果においても有利となる。すなわち、注入する圧縮空気量や注入圧が同じ場合で比較しても、内径が100mm以下のより細いベント管に注入することで圧縮空気がより強く作用することになるため、特に重く大きな礫質土等であっても第2上向流部ベント管42を駆け上がって流下除去させることが可能となる。更には、金属片やガラス片の流入にも対応可能であるため、より大きな夾雑物が下水に混入するおそれのある非常時の対応も容易になる。
【0049】
本発明の沈降性夾雑物除去手段8は、このように同じく本発明である上向流部ベント管の2条管構成と同時に実施されることが望ましいものである。このため、以下、上向流部ベント管を2条管構成とした場合を例とした実施態様について述べるが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の沈降性夾雑物除去手段8の空気管の実際の設置の一態様について説明する。上向流部ベント管を2連構造とした場合の設置の一例を図2(b)断面図に示した。また、上向流部ベント管を2重構造とした場合の設置の一例を図3(b)断面図に示した。このように、実際の設置では、沈降性夾雑物除去手段の空気管について、高段空気管82、低段空気管81のいずれも第1上向流部ベント管41と第2上向流部ベント管42の添接部の隙間部分に設置することができる。この設置方法は、隙間部分に貼付ける等の他、公知の添接手段で設置することができる。また、図4および図5に示すように、高段空気管82、低段空気管81を、第1上向流部ベント管41もしくは第2上向流部ベント管42の底面外壁に沿った状態で添接させて結束することで設置してもよい。
【0050】
本実施態様では、空気吐出孔として、上向流部の上流側底面から圧縮空気を吐出させる低段空気吐出孔81aと、それよりも下流側の位置で第2上向流部ベント管の上流側端部の小口へ空気を吐出させる高段空気吐出孔82aを備えている。空気吐出孔は、流路断面底辺の一点から下流側にのみ作用するU型配管が使用され、この空気吐出孔から下流方向に向けて、略1.0MPa(メガパスカル)で圧縮空気が噴出される。この圧縮空気の供給によって、粒径5mmの砂より大きい粒径の砂や小石が上記第2ベント管42から掻き上げられ流下除去されることとなる。よって地震や豪雨災害時等の非常時に、所定の時間、圧縮空気を第2上向流部ベント管42へ供給することによって、ベント管伏越しの維持管理をさらに向上させることとなる。
【0051】
ところで、特開2011-220106号公報で開示されている圧縮空気注入手段における空気吐出孔(開口孔)は、90度曲管(エルボ)の空気管で構成されていた。ここで、上向流部ベント管の内径が200mmの場合には、ベント管の管厚は6.5mmであるので、この管厚6.5mmを糊しろとして空気吐出孔が設けられることとなる。このように接着面が薄い部分から略1.0MPaの圧力で流路に直交する方向へ圧縮空気を噴出させると、反力の作用によって開口孔の接着面に亀裂や剥離が生じるおそれがあった。開口孔接着面の亀裂や剥離が生じると、その隙間から土砂がベント管内に入り込むこととなるため、ベント管の閉塞リスクを増幅させることとなる。この点を改善すべく、本発明の沈降性夾雑物除去手段8を設定するにあたっては、低段空気吐出孔81a、高段空気吐出孔82aともに、上述のように流路断面底辺の一点から下流側にのみ作用するU型配管とすることが望ましい。これにより、圧縮空気吐出時の反力に耐えると共に、上向流部ベント管4への空気管の接続に伴う歪応力の発生もなく、かつ下流方向に向けて注入する圧縮空気の全量が下流側に作用する。また、地震や地盤沈下等による上向流部ベント管と空気管の相対的位置ズレが発生した場合にも上向流部ベント管の破損を防止することができる。
【0052】
低段空気管81は、エアファイバ用チューブ、外径略1.8mm、内径略1.2mm、耐圧略1.47Mpのものを特に好ましく用いることができる。他にも膨潤現象のないシリコンチューブや樹脂チューブを好ましく用いることができる。また、高段空気管82は、ポリウレタンチューブ、外径略10mm、内径略6mmのものを特に好ましく用いることができる。他にも膨潤現象のないシリコンチューブや樹脂チューブを好ましく用いることができる。
【0053】
なお、出願人の経験上、伏越し構造に使用されたポリウレタンチューブの経年劣化が問題となった事例はないが、より安全を期するために鞘管を使用することは好ましい。具体的には、鞘管として耐衝撃性硬質ポリ塩化ビニル管内径13mm、外径18mmの水道管を使用し、ここに外径略10mm、内径略6mmのポリウレタンチューブを空気管82として挿入することで、外径18mm、内径略6mmの二重管としたものを高段空気管82として用いることができる。更に、超長期間使用が想定される場合等には更に安全を期して、高段空気吐出孔82aとポリウレタンチューブの継手部をねじ式とすることが好ましい。このような構成とすることで、万が一、ポリウレタンチューブに劣化が認められた場合には、空気管82の上流側端部が接続される、下流側マンホールCの蓋下に設けられた空気バルブ部83から、劣化したポリウレタンチューブのみを引き抜くことが可能となる。ポリウレタンチューブを引き抜いた後は、残存している鞘管である13mm水道管を引き続き高段空気管82として使用することが可能となる。
【0054】
なお、第1上向流部ベント管41が内径略2000mm以上であるような場合には、上述のように上向流部ベント管4を二重管構造とすることに加えて、第2上向流部ベント管42を2乃至3本増加させてもよい。その場合は、増加させた2乃至3本の第2上向流部ベント管42は、第1上向流部ベント管41の内壁もしくは外壁の一方、または内壁と外壁の両方へ添接するように設けることができる。そして更に、高段空気管82を8mm程太い管、すなわち内径略14mmのものとし、更に、高段空気吐出孔82aを2乃至3箇所設けると共に、高段空気管82を分岐させてそれぞれの高段空気吐出孔に連通する構成とすることが望ましい。このように、第1上向流部ベント管41に対して複数の第2上向流部ベント管42を設置すると共に、太い空気管を介して複数の吐出孔から圧縮空気を噴出させることにより、内径が大きいベント管においても、ベント管底部に堆積している沈降性夾雑物を流下除去させる効果を確実に発揮することができる。このように空気吐出孔を複数箇所設ける場合には、各空気吐出孔の配置は例えば次のようにすることができる。吐出孔を3か所設ける場合、第2上向流部ベント管42の管内最底面部に1か所の空気吐出孔を設け、この吐出孔から円周方向それぞれ反対側に離反する位置に他の2か所の空気吐出孔を設ける。各吐出孔の間隔は、例えば7.8cmとすることができる。また、吐出孔を2か所設ける場合には、上記の3か所設ける場合における管内最底面部に1か所を省略した2か所とし、吐出孔の間隔は例えば5.2cmとすることができる。
【0055】
本発明のベント管伏越し構造1では、浮遊性夾雑物対策として、図1に示したように、伏越しの上流側に接続している上流側下水管5の所定区間に整流区間51を設けることが望ましい。ここで、整流区間51とは、上流側下水管5の所定の区間において、その管径を下向流部ベント管2の管径以下とした区間のことをいう。これまで、ベント管伏越し構造においては、伏越し部の掃流力を確保するために、伏越し部の管径は上流側下水管の管径より小さく設定されるのが一般的である。すなわちこれは、通常では下水がベント管伏越し構造1に入る地点、すなわち下向流部ベント管2の上流側端部において管径が変化し、その地点から下流側の下水管(ベント管伏越し構造1)は上流側下水管5より細い下水管となることを意味する。これに対して本発明では、上流側下水管5の所定区間に整流区間51を設けることにより、管径が変化する地点は、整流区間51の上流側端部、すなわち、下水が伏越し部に入る地点である下向流部ベント管2の上流側端部より整流区間51の長さ分だけ更に上流側の地点となる。これにより、本発明のベント管伏越し構造1では、伏越し部より手前の上流側下水管5の途中から、通常の上流側下水管5より細い、伏越しベント管の管径と同等以下の管径の下水管となる。このように、上流側下水管5の所定区間に整流区間51を設けることで、下水流が上流側下水管5の大きな断面積に馴致した状態のままで、断面積の小さいベント管へ流れ込むことによって下向流部ベント管2の流路内で夾雑物が偏った過密状態で水面付近に付着・堆積することを防止することができる。すなわち、整流区間51を設けることで、下水中の夾雑物の混ざり具合(夾雑物の序列)を伏越しベント管に入る手前で整えてから下向流部ベント管2へ下水を流入させ、夾雑物の集合や偏在化を防止することができるものである。
【0056】
より具体的な実施態様について図1を参照しながら、以下に説明する。図1に示したように、整流区間51は、例えば上流側下水管5の途中に設けられたマンホールAを境界点として、そこから下流側に向かって延びる下水管の管径を、下向流部ベント管2の管径と同等以下の管径とすることにより設けられる。本実施態様では、整流区間51の下流側端部は、下向流部ベント管2の上流側端部となっており、そこには上流側マンホールBが設けられている。整流区間51の区間距離としては、伏越しの規模に合わせて略1.5~20mとすることが、伏越しへ流入する手前で夾雑物の序列を十分に整えることが可能となり好ましい。
【0057】
このように、本実施態様では、マンホールAのある境界点(整流区間51の上流側端部、すなわち整流区間入口)で、下水管の管径が、その境界点より上流側の下水管5より細い下水管に変わり、その細い管径を維持したまま下向流部ベント管2に接続している。具体的な整流区間51の下水管の管径は、計画下水流量の管径内余裕値を考慮して次のように決定される。計画下水流量の管径内余裕値の規定値は50%とされるが(非特許文献2参照)、本発明の整流区間51を設ける場合には、下水管形状が円形管あるいは馬蹄形渠の場合には管径の80%を最高水位とし、正方形渠の場合には管径の90%を最高水位として設定することで、整流区間51の管径および勾配を決定することが好ましいと言える。例えば、上流下水管5が内径400mmであれば、整流区間51および伏越しベント管の内径は350mmとすることが好ましい。実際の施工では、下水管は規格品を用いることとし、整流区間51の下水管は上流側下水管5より1ランク内径の小さい下水管を使用することが施工コストの点で望ましい。
【0058】
なお、整流区間51の管勾配を決定するにあたっては、下水管の理想的な流速も考慮する必要がある。下水管における理想的な流速は1.0~1.8m/sとされる(非特許文献2参照)。例えば、上流側下水管5の内径が400mmであり、下向流部ベント管2の内径が350mmであるベント管伏越しの場合を考えると、上流側下水管の流速が、理想的な流速の上限値である1.8m/sであると、このまま下向流部ベント管2に流入した場合には、下向流部ベント管内に空気が引き込まれる危険性がある。これを避けるためには、上流側下水管5(内径400mm)の管勾配を千分の7.0とすることで、理想的な流速の範囲内である流速1.79m/sとすることができる。しかし、この内径400mmの上流側下水管5(勾配:千分の7.0)に、内径350mmの整流区間51を設ける場合、この条件では整流区間内の水位が管断面の80%の高さに達する点も考慮する必要がある。仮に、整流区間51の勾配を、上流側下水管5の勾配(千分の7.0)を引き継ぐ設定とした場合を想定し、流速を求めるために一般的に用いられるマニングの流量計算式に当てはめると、整流区間内の流速は、理想的な流速の上限値である1.8m/sを超えてしまうことになる。このため、内径400mmの上流側下水管5(勾配千分の7.0)に、内径350mmの整流区間51を設けるためには、整流区間51の勾配は千分の6.5に減じる必要がある。勾配を減じることによって、流速の値は1.58m/sとなり、理想的な流速の範囲内となることが確認できた。なお、マニングの流量計算式によると、整流区間51の流速が、依然として略1.8m/s以上となる場合には、整流区間51の下流側端部から、上流側に向かって2から5m程度の区間を勾配ゼロのLevel区間とすることが好ましい。
【0059】
整流区間51を設定するにあたっては、下水管内の水位WLについても考慮する必要がある。すなわち、図6(a)に示すように、上流側下水管5の管内水位(WL1)よりも、その下流側となる整流区間51での管内水位(WL2)の方が高くなってしまうような、いわゆる水位の逆勾配が生じることを避ける必要がある。例えば、上流側下水管5は内径400mmの円形管、整流区間51の下水管は内径350mmの円形管であるとき、上流側下水管5と整流区間51の境界にマンホールAが設けられている場合について、それぞれの下水管断面での余裕値を考慮すると以下の考察となる。このケースでは、境界にあるマンホールAを堺として、その上流側である上流側下水管5における管内水位(WL1)は、内径400mmの1/2である200mmとなる。対して、マンホールAより下流側となる整流区間51における管内水位(WL2)は、内径350mmの80%である280mmとなる。このため、上流側下水管5と整流区間51との間には、WL2-WL1=280mm-200mm=80mmの水位の逆勾配が生じることとなる。
【0060】
この水位の逆勾配は、以下のように設定することで解消することができる。まず、伏越しの損失水頭Hに80mm以上の余裕がある場合には、上流側下水管5と整流区間51が水面接合となるように、境界にあるマンホールAの下流側最外縁に相当する位置の下水管底部(ロ)の地点で、整流区間51の管底を80mm下げることで水位の逆勾配を解消することができる(図6(b))。また、伏越しの損失水頭Hに80mm以上の余裕がない場合には、マンホールAの(イ)の地点において、上流側下水管5の管底を80mm上げる設定とする。具体的には、(イ)の地点で、上流側下水管5の管底が80mm上がるに足る距離の管勾配を千分の7.0から千分の6.5に減ずることで、水位の逆勾配の原因となる水位差(80mm)を解消することができる。
【0061】
なお、このように上流側下水管5における管勾配を千分の6.5にしてもなお水位差を解消できない場合には、下水管の流速を、理想的な流速の下限値(1.0m/s)を下回らない範囲で下げるべく、上流側下水管5の勾配を通常より下げることで、水位の逆勾配を解消することが好ましい。更に、このように上流側下水管5の勾配を下限値まで下げる設定をしてもなお、計画下水流量に対する流下能力の関係から水位の逆勾配が解消されない場合には、上流側下水管5と整流区間51の境界点となるマンホールAを下流側に移動させて整流区間51の長さ(延長)を短くすることで対応することができる。具体的には、この場合には、整流区間51は延長15m程度とすることが適切である。
【0062】
上述の理想的な流速:1.0~1.8m/sの下限値1.0m/sでの検討は以下のようになる。内径400mmの上流側下水管5で管勾配が千分の2.2、流速が1.0m/s、50%水位の計画下水流量0.061m/sの場合について、これを内径350mmの整流区間51で管勾配が千分の2.6、流速が1.0m/s、73%水位、管内流量0.061m/sへ引き継ぐと、管内水位は、マンホールAの(イ)地点で+200mm、(ロ)の地点で256mmとなるため、56mmの水位の逆勾配が生じることとなる。この場合、流速は既に理想的な流速の下限値である1.0m/sであるため、下水管勾配を調整して水位の逆勾配の解消を試みることは望ましくない。よって、マンホールAにおける(ロ)の地点で管底を56mm下げる設定を行うことで水面接合として、理想的な流速を確保しつつ水位の順勾配を達成することが望ましいと言える。
【0063】
以上述べてきたように、上流側下水管5の区間内に、上流側より下流側の管径が細くなる整流区間51を設けることで、理想的な流速の確保が難しくなることや、水位の逆勾配が発生する等のデメリットを生じることが想定される。しかし、整流区間51を設けることで、伏越しへの下水の流れは、伏越しに流入するより手前から、例えば内径350mmでは管内水位73~80%と整流され、その流れが同径管である伏越しベント管(350mm)に100%の管内水位(満管)となって流入する効果により、伏越しへの流入地点での流体の急縮を回避し夾雑物の過度の偏在を防止してベント管内の止水時水面での夾雑物の集積を防止することが可能になるという大きなメリットがある。したがって、整流区間51を設けることで逆勾配や非理想的な流速が生じるとしても、それは上述した対策、すなわち上流側下水管5および整流区間51における管内径、管勾配、流量、流速、整流区間の区間長(延長)等を総合的に調整することで対応することが望ましい。そのように考えると、整流区間51を設ける場合の伏越し構造の設計は、まず整流区間の条件(内径、延長等)の決定を行って、その後にそれに応じた伏越しベント管の内径を選択することが好ましいと言える。
【0064】
本発明の整流区間51を設けるにあたっては、図6(a)に示すように、上流側下水管5と整流区間51の境界には、マンホールAを設置することが望ましい。ただし、既設管内に整流区間51を設ける場合には、マンホールの設置を省略することもできる。
【0065】
次に、上流側下水管5と整流区間51の境界の接合について説明する。境界の接合部分の管底部形状は、図7(a)平面図および(b)断面図に示したように、上流側から下流側に向かって徐々に管径が狭くなる(図7(a))半円形の溝(図7(b))を設定している。通常、円滑な流下のために、断面の変更点にはマンホールを設置しその底面には半円形の溝(インバート)が設けられる。本発明では、そのインバートを、図7に示したように上流側から下流側に向かって徐々に細くなるインバートとして急縮小に対応している。なお、既設管に整流区間51を設ける場合には、既設管の内部に整流区間51の内径とする径と同径のヒューム管(半割管)、もしくは塩化ビニル管を挿入することで整流区間51を設けることも可能である。
【0066】
次に、図8に示すように、整流区間51の途中で別の下水管52を合流させる場合について説明する。下水道は市街地にあっては全て道路下に敷設されるため、整流区間51の途中の箇所へ下水管を合流させなければならない場合もある。その場合には、合流による流下量の増大に対応するために、図8に示すように整流区間51の途中である合流点に、会合点合流マンホールB2を設置する。以下、説明の便宜のために、その上流側を整流区間51aとし、下流側を整流区間51bと称する。ここで、整流区間51bの管径は、整流区間51aの管径よりも大きいものとする(図示せず)。また、これに伴い、下向流部ベント管2の管径も、整流区間51bと同径の下水管とする。具体的には、例えば上流側下水管5の管径が400mmの場合には、整流区間51aの管径は350mmとし、整流区間51bの管径は400mmとして、下向流部ベント管2の管径はそれと同径の400mmとするのが好ましい。このように、本発明の整流区間51を設定するにあたり、整流区間内で別の下水管52の合流がある場合には、合流点の上流側と下流側で整流区間51の下水管の内径が異なることとなる。すなわち、整流区間51の下水管の内径は、合流点の上流側整流区間51aでは下向流部ベント管2の内径以下の内径となり、合流点の下流側整流区間51bでは下向流部ベント管2の内径と同等の内径となる。実際の施工において、このように整流区間51を設けるにあっては、整流区間51aで上流側下水管5より1ランク下の規格品内径の管を使用し、整流区間51bでは、整流区間51aより1ランク上の規格品内径の管を使用するようにすると、設計施工上、簡便かつコスト的に有利である。
【0067】
更に、本発明のベント管伏越し構造1では、図9に示すように上述の整流区間51の設定と共に下向流部ベント管2の傾斜角(ベント角)θ1を30度以下とすることが望ましい。一般的に、ベント管伏越し構造における下向流部ベント管の傾斜角θ2は45度に設定される。この傾斜角を30度以下とすることで、以下に説明するように、浮遊性夾雑物に対する掃流力を高めることができる。
【0068】
本発明では、上流側下水管5の所定区間に整流区間51を設け、かつ下向流部ベント管2の傾斜角を30度以下とすることで、上流側下水管5からベント管へ流入する接点の乱流状態を緩和し、ベント管内の気泡の発生を防止することで所要の損失水頭Hによる位置エネルギーが減殺されることを防ぐ。これにより、機械力に頼らずとも下水自体の流下力によって常時、浮遊性夾雑物を流下除去することが可能となる。また豪雨災害時において、想定していた以上の浮遊性夾雑物等が流入し、その除去が必要となった場合にも、後述する本発明の浮遊性夾雑物除去手段による圧力水の噴射の効果を高めることによって、より効果的に下水中の浮遊性夾雑物を流下除去できる状態を創出する効果を有する。更に、下向流部ベント管2の傾斜角が一般的な45度の場合に比べると、傾斜角を30度以下とした場合には、下向流部ベント管2の入口部水面w1も止水時水面w2も共に水面面積が広くなる(図9)。よって、浮遊性夾雑物の積層厚が薄くなる効果を期待でき、必要とされる単位掃流力を小さくすることができる。また更に、下向流部ベント管2の傾斜角を30度以下とすることで下流側に流下する流れの水平方向の分力を大きくして夾雑物が支障なく通過し易くなる効果がある。すなわち、水平方向の分力を比較すると、下向流部ベント管2の傾斜角が45度ではcos45=1/√2となり、傾斜角30度ではcos30=√3/2であるため、より大きな力が発生して浮遊物除去効果に有利となる利点がある。
【0069】
なお、下向流部ベント管2の傾斜角を30度以下に設定する場合には、ベント管の内径、伏越し構造毎の損失水頭H値、下向流部ベント管の長さ、ベント管の材質等の諸条件に影響されることがないため、どのような場合にあっても下向流部ベント管2の傾斜角を30度以下とすることが好ましい。具体的角度は、伏越し構造を設置する現場の諸条件によるが、条件の許す限りより小さい角度として下向流部ベント管の傾斜を緩やかにすることが望ましい。
【0070】
以下、下向流部ベント管2を傾斜角30度以下に設定する場合の、具体的な一実施態様について説明する。下向流部ベント管2を傾斜角30度以下に設定するには、図10に示したように、所望の角度を構成するための自在曲管(短管)21とゴム輪継手を、下向流部ベント管2と横向流部ベント管3の接続部に用いることで設定される。内径150~300mmの下向流部ベント管2の傾斜角を30度以下に設定する場合には、可撓止水継手からなる下水道用硬質塩化ビニル管の規格品を、この自在曲管として使用することができる。更に、ゴム輪継手は、前後左右方向へ15度以内の可動域を有するため、曲管の曲率に加えてこのゴム輪継手の可動域を利用することができる。すなわち、15度もしくは30度の自在曲管にゴム輪継手を組み合わせることによって、下向流部ベント管2の傾斜角は、30度以下の端数を有する所望の角度に設定することも可能である。また、これにより、1本の曲管で傾斜角30度以下を保ちつつ縦断流路以外の流路を有する伏越し構造の建設をも可能にする。例えば、図11に示したようにL字型流路の他、T字型、コの字型等の多様な線形の流路が必要な場合であっても対応可能である。
【0071】
また、下向流部ベント管2の内径が350mm以上である場合には、特殊曲管(フランジ曲管)やダクタイル鋳鉄任意曲管(内面コーティング)等を用いることで、規格品として1度~5度5/8~11度1/4~22度1/2~30度の曲管が1度毎に存在するので、同様に、傾斜角を30度以下の端数を有する所望の角度に設定することができる。しかし、ここで、ベント管の内径が350mm以上である場合には、自在曲管の規格品(下水道用硬質塩化ビニル管規格品)が存在しないことを考慮する必要がある。このため、ベント管を縦断流路方向へ傾斜角を設けるのみならず、同時に平面線形方向にも屈曲させるためには2本の曲管を連結して使用する必要がある。例えば、図11に示すように、下水管が河川等と並行方向になるようにベント管をL字型とする場合には、60度曲管を横向流部ベント管3に連接させ、1つの屈曲点で所望の傾斜角が設定されるようにする。ここで、傾斜角に2つの屈曲点を作ってしまうことのないように、平面線形方向の曲がりを60度曲管を用いて設定してから、傾斜角30度以下の縦断方向の曲がりを設定するような工法は避けるべきである。そのような工法では、水平方向の60度屈曲点と縦断方向の30度以下の屈曲点が発生することとなり、屈曲点が増えることにより伏越し経路の損失水頭に相当する伏越し落差ΔHを大きくしてしまうこととなる。
【0072】
更に、一般には公道下に埋設される下水管を河川等を通過させる場合において、橋梁部分での地震時等の橋台等の付加荷重を避けるために図12に示すように、道路の橋梁部分の真下を避けて下水管が建設される場合について説明する。図12のように、上流側下水管5および下流側下水管6は道路の真下に建設されるが、ベント管伏越し構造の横向流部ベント管3を道路の橋梁部分の真下を避けて一般河床に埋設させる構造とする場合がある。この構造では、下向流部ベント管2は道路真下から徐々に外れ、一般河床に埋設された横向流部ベント管3へと向かい、上向流部ベント管4は横向流部ベント管が埋設されている一般河床から徐々に外れ、道路真下へと戻る構造となっており、縦断的方向と平面的方向に同時に曲がる曲管構造が必要となる。しかし、下水管内径が350mm以上の場合には、下水道用硬質塩化ビニル管規格品としての自在曲管が存在しないために、例えば、横向流部ベント管3と下向流部ベント管2の接合部分では、下段に60度曲管を水平方向へ曲げるように装着してから、その上段に30度曲管を上向きに曲げるように連接させることで、縦断的方向と平面的方向に曲がる曲管構造が施工されるおそれがあるため、必要損失水頭を適宜、大きくすることになる。このように施工された横向流部ベント管3と上向流部ベント管4の接合部の曲管構造において、上向流部ベント管4に設けられる前述の沈降性夾雑物除去手段8によって圧縮空気の供給を行うと、次のような問題が生じることとなる。すなわち、接合部下段の水平方向に曲がる60度曲管に圧縮空気を供給しても、供給位置が横向流部ベント管3と同じ標高であるために効果が期待できない。また、接合部上段の30度曲管へ圧縮空気を供給しても、沈降性夾雑物の堆積層から離れた位置での供給となるため、沈降性夾雑物を浮遊させる効果を十分に発揮することができない。
【0073】
しかしながら、内径150~300mmのベント管の場合には、可撓止水継手からなる下水道用硬質塩化ビニル管の規格品を自在曲管として使用し、また、ベント管の内径が350mm以上である場合には、特殊曲管(フランジ曲管)やダクタイル鋳鉄任意曲管(内面コーティング)等を用いることで、縦断的方向と平面的方向へ同時に曲がる曲管とすることが可能となる。また、このように下水管の設置が橋梁部分を避ける構造とした場合には、必然的に下向流部ベント管2と上向流部ベント管4の長さを長くすることとなるため、本発明で求められる30度以下の下向流部ベント管の傾斜角をより小さく確保することが容易となる利点もある。以上より、本発明のベント管伏越し構造の採用は、このような橋梁部分を避けて下水管を設置する場合でも、効果的な夾雑物除去手段を備えつつ、橋梁基礎および下水管のいずれへも地震荷重等の影響を受けにくいベント管伏越し構造とすることができる。
【0074】
次に、図13を参照しながら、下向流部ベント管に設けられる浮遊性夾雑物除去手段7について説明する。本発明の浮遊性夾雑物除去手段7は、下向流部ベント管2の止水時の水面付近に開口する少なくとも1つの圧力水吐出孔72から下向流部ベント管2内の止水時水面付近に向けて、必要に応じて、所定の時間、圧力水を噴出させることにより、下向流部ベント管2の止水時水面付近に積層堆積した浮遊性夾雑物を流下除去させるものである。
【0075】
本発明のベント管伏越し構造では、日常的に下水へ流入してくる浮遊性夾雑物に対しては、上述した整流区間51の設定および下向流部ベント管の傾斜角の調整により、浮遊性夾雑物が下向流部ベント管2の止水時水面付近に積層堆積してしまうことを防止する。これに対して、ここで説明する浮遊性夾雑物除去手段7は、豪雨災害時や地震時等において、通常では考えられない程多量の木の葉や枯れ草等や衣類等の大きな流下物がベント管伏越しに流入してしまった場合等の不測の事態への備えとして設けられるものである。また、他にも、大量の油脂類等の流入や、非水溶性紙類の流入といった非日常的な不測の事態に対しても対応し得るものである。このように、本発明の浮遊性夾雑物除去手段7は、上記の整流区間51の設定および下向流部ベント管傾斜角の調整のみでは対応しきれないような事態が生じたときに、非常時の緊急手段として作動させることにより、浮遊性夾雑物を流下除去する能力を一時的に増大させるためのものと位置付けられる。したがって、本発明の浮遊性夾雑物除去手段7は、日常的に常時稼働させるものではなく、必要が生じた際に所定時間、圧力水を噴出させることで、このような非日常的な夾雑物の積層堆積に対応するものと言える。
【0076】
出願人はかつて、下向流部ベント管2の止水時の水面付近に堆積し易い浮遊性夾雑物の除去手段として、圧縮空気を供給して流下除去させる手段を提案した(特開2011-220106号公報)。しかしながら、圧縮空気を吐出させるこの方法では、供給した圧縮空気はその浮力のため下水の流下力に逆らって下向流部ベント管の入口(上流側端部)方向へ浮上しようとする。このため、浮遊性夾雑物の除去手段としては効果が低くなる。また、従来の伏越し構造では、下向流部ベント管の傾斜角(ベント角)は45度に設定されるため、供給された空気は下向流部ベント管の上流側端部に設けられるマンホールへと逃げることとなり排気の問題を生じることはないが、本発明の伏越し構造を採用する場合では、上述のように下向流部ベント管2の傾斜角は30度以下に設定されるため空気の浮力が働きにくくなっている。このため、特開2011-220106号公報において開示した圧縮空気による浮遊性夾雑物除去手段を本発明のベント管伏越し構造に適用すると、下向流部ベント管2の内部に吐出させた空気がベント管内に残留して空気塊が発生してしまうという問題がある。ベント管内において空気塊が発生すると、ベント管伏越し経路の損失水頭に相当する所要の損失水頭H分の水柱の相対密度が減少することとなり、ベント管に作用する静水圧が減じることで位置エネルギーが小さくなって下水の流下力が低減されてしまうことになる。このため、下向流部ベント管2の傾斜角を30度以下に設定する本発明のベント管伏越し構造においては、空気を吐出させる以外の方法による浮遊性夾雑物除去手段が必要となる。
【0077】
本発明の浮遊性夾雑物除去手段7は、下向流部ベント管2の止水時の水面付近に開口する少なくとも1つの圧力水吐出孔72とこの圧力水吐出孔72に連通する圧力水注入管71とを有し、圧力水注入管71を介して圧力水吐出孔72から、下向流部ベント管内の止水時水面付近に向けて、必要に応じて所定の時間、圧力水が供給されるものである。ここで、止水時の水面とは、下水が流れていない場合における下向流部ベント管内の水面の位置のことであり、これはすなわち、ベント管伏越し構造の下流側に設けられる上向流部ベント管4の下流側端部における下流側下水管6の底部の標高に対応する、下向流部ベント管2内の標高位置となる。
【0078】
このような構成で、圧縮空気ではなく圧力水を下向流部ベント管2の止水時水面付近に供給することで、ベント管断面内の同一流路内に流速がより大きい部分を創出することができる。この流速が大きい部分へ浮遊性夾雑物を含む緩い流速の流れが引き寄せられて、渦流となり、浮遊性夾雑物を流下除去させるものである。このように強力な作用によって、特開2011-220106号公報で開示した圧縮空気吐出による夾雑物除去手段では、流下除去にまで至らなかった夾雑物をも流下除去させることが可能となるものである。
【0079】
本発明の浮遊性夾雑物除去手段7は、上述のように日常的に作動させるものではないため、圧力水として供給される水は、以下のような構成により貯蔵された雨水を利用することが好ましい。図1に示すように、ベント管伏越し構造においては、上流側下水管5の水位の変動による空気の排気や吸気の移動に対応するために脱臭型吸排気槽9が設けられる。この脱臭型吸排気槽9の下部構造に、例えば略0.1~0.3立方メートル程度の地下水槽91を設けて雨水を貯蔵できる構成にし、必要時に、例えば携行用ミニ増圧ポンプを接続することでこの貯留水を浮遊性夾雑物除去手段7に供給可能とするように構成することが好ましい。なお、脱臭型吸排気槽9に設ける地下水槽91は、図13に示すように、水槽上方に漏斗状の集水部92を設け、雨水が上面のグレーチングを通過して地下水槽91に溜まる構造にすることが望ましい。この漏斗状集水部92の円錐先端から下方に伸びるいわゆる足と呼ばれる管の先端を地下水槽底面よりやや上方(例えば、底面より略5cmの高さ)まで伸ばした構造とすることが好ましい。このように構成することで、降雨時に集められた雨水は地下水槽91の底面付近に流入し、余剰水は地下水槽91の上部オーバーフロー管から側溝や排水路に流れることになるため、降雨の発生毎に貯留水の入れ替えが行われることとなり、貯留水の管理上好ましいと言える。
【0080】
次に、本発明の浮遊性夾雑物除去手段7の圧力水吐出孔72について説明する。圧力水吐出孔72は、下向流部ベント管2の止水時水面付近へ向けて圧力水を噴出するように設けられるものであり、本発明の浮遊性夾雑物除去手段7においては少なくとも1つの圧力水吐出孔72が、下向流部ベント管2の管頂部に下水の流れ方向(すなわち下流側方向)に向けて開口するように設けられる。具体的には、ベント管の内径に合わせて1~3個の圧力水吐出孔72を設けることが好ましい。複数個の圧力水吐出孔72を設ける場合には、下向流部ベント管2の止水時水面を中心として、上流側または下流側に所定の間隔を隔てた位置に設けることが好ましく、以下、圧力水吐出孔72の位置について詳述する。
【0081】
具体的には、下向流部ベント管2の内径が200mm以下の場合には、下向流部ベント管2の止水時水面の高さに第1圧力水吐出孔72aのみの1か所に設けるのが好ましい。
そして、下向流部ベント管の内径が250mmから350mmの場合には、下向流部ベント管の止水時水面の高さの第1圧力水吐出孔72aに加えて、この第1圧力水吐出孔72aから上流側に所定の間隔を隔てた位置、すなわち止水時水面より上方の高さに第2圧力水吐出孔72bを設けて、計2か所で開口するように構成するのが好ましい。更に、下向流部ベント管の内径が400mm以上の場合には、上述の第1圧力水吐出孔72aと第2圧力水吐出孔72bの2か所に加えて、第1圧力水吐出孔72aより下流側に所定の間隔を隔てた位置、すなわち止水時水面より下方の位置である止水時水中となる位置に、第3圧力水吐出孔72cを設けて、計3か所で開口するように構成することが好ましい。なお、ここでいう所定の間隔とは、例えば概ね5cm程度が適当である。
【0082】
以上のような構成とすることで、本発明のベント管伏越し構造では、夾雑物がベント管内に積層堆積や沈殿固結することが極めて少なくなるため、いわばメンテナンスフリーの状態を創出することができる。このため、清掃用の予備管を併設する必要がなく、予備管設置に伴って必要となる、ベント管起点に設けられる下水の予備管への切り換え堰や仕切り弁の設置も不要となる。このことは、これらの堰や弁による必要損失水頭の増加が生じないことを意味する。更に、堰や弁を設けることによる下水管の内径変化も生じないため、下水は下水管での状態を維持したまま伏越しベント管へ流入することになる。これにより、下水管における自然流下から圧力管であるベント管へ流入する境界点における浮遊性夾雑物の抵抗が少なくなるので、より滑らかに浮遊性夾雑物を下流へ流下させることが可能となる。このように、本発明のベント管伏越し構造の構成を総合的に採用し、清掃用予備管の設置を省くことで、本発明のベント管伏越し構造が有する夾雑物を流下除去させる能力を更に有利に発揮させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
下水管の伏越し構造に関する産業に広く利用可能である。
【符号の説明】
【0084】
1 ベント管伏越し構造
2 下向流部ベント管
21 自在曲管(短管)
3 横向流部ベント管
4 上向流部ベント管
41 第1上向流部ベント管
42 第2上向流部ベント管
5 上流側下水管
51 整流区間
6 下流側下水管
7 浮遊性夾雑物除去手段
71 圧力水注入管
72a 第1圧力水吐出孔
72b 第2圧力水吐出孔
72c 第3圧力水吐出孔
8 沈降性夾雑物除去手段
81 低段空気管
81a 低段空気吐出孔
82 高段空気管
82a 高段空気吐出孔
83 空気バルブ
84 空気管
9 脱臭型吸排気槽
91 地下水槽
92 集水部
A、B 上流側マンホール
C 下流側マンホール
D 携行用エンジン付きコンプレッサー
図1
図2
図3
図4
図5
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