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特開2022-68595異常診断モデルの構築方法、異常診断方法、異常診断モデルの構築装置および異常診断装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022068595
(43)【公開日】2022-05-10
(54)【発明の名称】異常診断モデルの構築方法、異常診断方法、異常診断モデルの構築装置および異常診断装置
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/70 20060101AFI20220427BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20220427BHJP
【FI】
B21B37/70
G01M99/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020177364
(22)【出願日】2020-10-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 昌史
(72)【発明者】
【氏名】平田 丈英
【テーマコード(参考)】
2G024
4E124
【Fターム(参考)】
2G024AD01
2G024AD08
2G024BA11
2G024BA22
2G024BA27
2G024FA06
2G024FA11
4E124AA17
4E124CC03
4E124CC06
4E124GG10
(57)【要約】
【課題】製造プロセスで取得した大量の計測値から異常状態を検知し、一対一に対応しない多数の異常の原因の候補を分類、選別することにより、異常の原因を早期に究明することができる異常診断モデルの構築方法、異常診断方法、異常診断モデルの構築装置および異常診断装置を提供すること。
【解決手段】異常診断モデルの構築方法は、金属材料を複数の設備で順次処理するプロセスの異常診断モデルの構築方法であって、複数の設備について、予め定めた所定の計測周期で同時刻に計測された計測値を利用して、同時刻の計測値と異常との関係を学習させた第一の異常診断モデルを作成する第一のモデル作成ステップと、複数の設備について計測された計測値が金属材料の位置ごとに編集された、金属材料の同じ位置ごとの計測値を利用して、同位置の計測値と異常との関係を学習させた第二の異常診断モデルを作成する第二のモデル作成ステップと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料を複数の設備で順次処理するプロセスの異常診断モデルの構築方法であって、
前記複数の設備について、予め定めた所定の計測周期で同時刻に計測された計測値を利用して、同時刻の計測値と異常との関係を学習させた第一の異常診断モデルを作成する第一のモデル作成ステップと、
前記複数の設備について計測された計測値が前記金属材料の位置ごとに編集された、前記金属材料の同じ位置ごとの計測値を利用して、同位置の計測値と異常との関係を学習させた第二の異常診断モデルを作成する第二のモデル作成ステップと、
を含む異常診断モデルの構築方法。
【請求項2】
前記金属材料は、圧延材であり、
前記設備は、圧延機である、
請求項1に記載の異常診断モデルの構築方法。
【請求項3】
前記同位置の計測値は、最終の圧延機の出側における前記圧延材の全長と、最終以外の圧延機の出側における前記圧延材の全長との比に基づいて、前記最終以外の圧延機の出側における前記圧延材の位置を換算することにより算出される、
請求項2に記載の異常診断モデルの構築方法。
【請求項4】
前記圧延機の出側における前記圧延材の全長は、前記圧延機のロール速度と先進率とから前記圧延材の通板速度を算出し、前記通板速度を時間積分することにより算出される、
請求項3に記載の異常診断モデルの構築方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の異常診断モデルの構築方法によって構築された異常診断モデルを用いた異常診断方法であって、
第一の異常診断モデルに対して、同時刻の計測値間の関係を示すデータを入力することにより、異常診断を行う第一の異常診断ステップと、
第二の異常診断モデルに対して、同位置の計測値間の関係を示すデータを入力することにより、異常診断を行う第二の異常診断ステップと、
前記第一の異常診断ステップにおける第一の診断結果と、前記第二の異常診断ステップにおける第二の診断結果とに基づいて、異常の原因を判定する異常判定ステップと、
を含む異常診断方法。
【請求項6】
前記異常判定ステップは、前記第一の診断結果と前記第二の診断結果とを関連づけて異常の原因を示す異常診断テーブルに基づいて、異常の原因を判定する請求項5に記載の異常診断方法。
【請求項7】
金属材料を複数の設備で順次処理するプロセスの異常診断モデルの構築装置であって、
前記複数の設備について、予め定めた所定の計測周期で同時刻に計測された計測値を利用して、同時刻の計測値と異常との関係を学習させた第一の異常診断モデルを作成する第一のモデル作成手段と、
前記複数の設備について計測された計測値が前記金属材料の位置ごとに編集された、前記金属材料の同じ位置ごとの計測値を利用して、同位置の計測値と異常との関係を学習させた第二の異常診断モデルを作成する第二のモデル作成手段と、
を備える異常診断モデルの構築装置。
【請求項8】
請求項7に記載の異常診断モデルの構築装置によって構築された異常診断モデルを用いた異常診断装置であって、
第一の異常診断モデルに対して、同時刻の計測値間の関係を示すデータを入力することにより、異常診断を行う第一の異常診断手段と、
第二の異常診断モデルに対して、同位置の計測値間の関係を示すデータを入力することにより、異常診断を行う第二の異常診断手段と、
前記第一の異常診断手段における診断結果と、前記第二の異常診断手段における診断結果とに基づいて、異常の原因を判定する異常判定手段と、
を備える異常診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常診断モデルの構築方法、異常診断方法、異常診断モデルの構築装置および異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製造プロセスの製造状態、特に異常状態を診断する方法としては、モデルベースアプローチとデータベースアプローチとがある。モデルベースアプローチは、製造プロセスにおける物理的または化学的な現象を数式で表現したモデルを構築し、構築したモデルを用いて製造プロセスの製造状態を診断するアプローチである。一方、データベースアプローチは、製造プロセスで得られた操業データから統計解析的なモデルを構築し、構築したモデルを用いて製造プロセスの製造状態を診断するアプローチである。
【0003】
鉄鋼プロセスのような製造プロセスでは、一つの製造ラインで多品種、多サイズの製品が製造されるため、操業パターンが多数存在する。また、高炉のような製造プロセスでは、鉄鉱石やコークス等のような自然物を原材料として用いるために、製造プロセスのばらつきが大きい。このため、鉄鋼プロセスのような製造プロセスの製造状態を診断する場合、モデルベースアプローチのみによるアプローチでは限界がある。
【0004】
データベースアプローチとしては、過去の異常発生時の操業データをデータベース化して現在の操業データとの類似性を判定する診断方法や、逆に正常時の操業データをデータベース化して現在の操業データとの違いを判定する診断方法がある。ところが、鉄鋼プロセスのような製造プロセスでは、製造に用いられる設備点数が多い上に、特に日本のように老朽化が進んだ設備が多い場合、過去に前例のないトラブルが発生することが少なくない。このため、過去のトラブル事例をベースとする前者のような診断方法では異常状態の予知に限界がある。
【0005】
一方、後者の診断方法(正常時の操業データを用いた診断方法)としては、特許文献1~4に記載されているものがある。具体的には、特許文献1,2には、正常時の操業データを用いて作成されたモデルによる予測に基づき製造プロセスの異常状態を予知または検知する方法が記載されている。また、特許文献3,4には、正常時の操業データからパターンを抽出、ライブラリ化し、取得した操業データとライブラリ化されたパターンとの違いを判定することにより、いつもと違う状況を早期に検知する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013/011745号
【特許文献2】特許第4922265号公報
【特許文献3】特許第5651998号公報
【特許文献4】特許第5499900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鉄鋼の製造プロセス等では、多数のセンサによる計測値を扱える一方で、その多くは操業管理や機器制御を目的として計測されている。そのため、特許文献1~4のように、設備状態や異常の原因を直接示す計測値を、必ずしも十分に取得できるとは限らない。また、そのような異常の原因と一対一で対応する計測値があったとしても、それだけですべての異常を網羅することは到底できない状況にある。
【0008】
一方で、近年のデータ収集、解析技術の発展により、ビッグデータと呼ばれるような大量のデータを取り扱う環境が整ってきている。前述の状況を鑑みると、大量のデータから網羅的に精度よく異常状況を検知し、異常に関連しているデータを提示、迅速な保全アクションに繋げていくことが、安定な操業を維持するために必要であるといえる。この場合、大量のデータは、必ずしも特許文献1~4のような異常の原因と一対一に対応するものではなく、そのため、提示する異常の内容も一つとは限らなくなる。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、製造プロセスで取得した大量の計測値から異常状態を検知し、一対一に対応しない多数の異常の原因の候補を分類、選別することにより、異常の原因を早期に究明することができる異常診断モデルの構築方法、異常診断方法、異常診断モデルの構築装置および異常診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る異常診断モデルの構築方法は、金属材料を複数の設備で順次処理するプロセスの異常診断モデルの構築方法であって、前記複数の設備について、予め定めた所定の計測周期で同時刻に計測された計測値を利用して、同時刻の計測値と異常との関係を学習させた第一の異常診断モデルを作成する第一のモデル作成ステップと、前記複数の設備について計測された計測値が前記金属材料の位置ごとに編集された、前記金属材料の同じ位置ごとの計測値を利用して、同位置の計測値と異常との関係を学習させた第二の異常診断モデルを作成する第二のモデル作成ステップと、を含む。
【0011】
また、本発明に係る異常診断モデルの構築方法は、上記発明において、前記金属材料が、圧延材であり、前記設備が、圧延機である。
【0012】
また、本発明に係る異常診断モデルの構築方法は、上記発明において、前記同位置の計測値が、最終の圧延機の出側における前記圧延材の全長と、最終以外の圧延機の出側における前記圧延材の全長との比に基づいて、前記最終以外の圧延機の出側における前記圧延材の位置を換算することにより算出される。
【0013】
また、本発明に係る異常診断モデルの構築方法は、上記発明において、前記圧延機の出側における前記圧延材の全長が、前記圧延機のロール速度と先進率とから前記圧延材の通板速度を算出し、前記通板速度を時間積分することにより算出される。
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る異常診断方法は、上記の異常診断モデルの構築方法によって構築された異常診断モデルを用いた異常診断方法であって、第一の異常診断モデルに対して、同時刻の計測値間の関係を示すデータを入力することにより、異常診断を行う第一の異常診断ステップと、第二の異常診断モデルに対して、同位置の計測値間の関係を示すデータを入力することにより、異常診断を行う第二の異常診断ステップと、前記第一の異常診断ステップにおける診断結果と、前記第二の異常診断ステップにおける診断結果とに基づいて、異常の原因を判定する異常判定ステップと、を含む。
【0015】
また、本発明に係る異常診断方法は、上記発明において、前記異常判定ステップが、前記第一の診断結果と前記第二の診断結果とを関連づけて異常の原因を示す異常診断テーブルに基づいて、異常の原因を判定する。
【0016】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る異常診断モデルの構築装置は、金属材料を複数の設備で順次処理するプロセスの異常診断モデルの構築装置であって、前記複数の設備について、予め定めた所定の計測周期で同時刻に計測された計測値を利用して、同時刻の計測値と異常との関係を学習させた第一の異常診断モデルを作成する第一のモデル作成手段と、前記複数の設備について計測された計測値が前記金属材料の位置ごとに編集された、前記金属材料の同じ位置ごとの計測値を利用して、同位置の計測値と異常との関係を学習させた第二の異常診断モデルを作成する第二のモデル作成手段と、を備える。
【0017】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る異常診断装置は、上記の異常診断モデルの構築装置によって構築された異常診断モデルを用いた異常診断装置であって、第一の異常診断モデルに対して、同時刻の計測値間の関係を示すデータを入力することにより、異常診断を行う第一の異常診断手段と、第二の異常診断モデルに対して、同位置の計測値間の関係を示すデータを入力することにより、異常診断を行う第二の異常診断手段と、前記第一の異常診断手段における診断結果と、前記第二の異常診断手段における診断結果とに基づいて、異常の原因を判定する異常判定手段と、を備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る異常診断モデルの構築方法、異常診断方法、異常診断モデルの構築装置および異常診断装置によれば、二種類の異常診断モデルを構築することにより、例えば設備の機械・制御系の異常と、製品の品質・形状起因の異常とを、それぞれ区別して診断することができる。従って、異常の原因を早期に究明することができ、設備の停止時間を低減することができるとともに、効率的かつ効果的な異常対策に繋げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の実施形態に係る異常診断装置およびモデル構築装置の概略的な構成を示す図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る異常診断装置およびモデル構築装置において、同時刻関係データの作成処理の手順を示すフローチャートである。
図3図3は、本発明の実施形態に係る異常診断装置およびモデル構築装置において、同位置関係データの作成処理の手順を示すフローチャートである。
図4図4は、本発明の実施形態に係る異常診断装置が実行する異常診断方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態に係る異常診断モデルの構築方法、異常診断方法、異常診断モデルの構築装置および異常診断装置について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
〔異常診断装置/モデル構築装置〕
まず、本発明の実施形態に係る異常診断装置および異常診断モデルの構築装置(以下、「モデル構築装置」という)の構成について、図1を参照しながら説明する。異常診断装置およびモデル構築装置は、金属材料を複数の設備で順次処理するプロセスに適用される。本実施形態では、鋼板等の圧延材を複数の圧延機によって順次圧延する圧延プロセスに適用した例について説明する。なお、以下の説明では、圧延機のことを「スタンド」とも表記する。
【0022】
異常診断装置1は、入力部10と、記憶部20と、演算部30と、表示部40と、を備えている。なお、異常診断装置1の構成要素のうち、異常判定テーブル25、同時刻関係診断部34、同位置関係診断部35および異常判定部36を除いた構成要素により、「モデル構築装置」が実現される。
【0023】
入力部10は、演算部30に対する入力手段であり、診断対象設備の実操業データ(時系列データ)を情報・制御系ネットワークを介して受信し、所定のフォーマットで演算部30に入力する。
【0024】
記憶部20は、EPROM(Erasable Programmable ROM)、ハードディスクドライブ(Hard Disk Drive:HDD)およびリムーバブルメディア等の記録媒体から構成される。リムーバブルメディアとしては、例えばUSB(Universal Serial Bus)メモリ、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、BD(Blu-ray(登録商標) Disc)のようなディスク記録媒体が挙げられる。記憶部20には、オペレーティングシステム(Operating System:OS)、各種プログラム、各種テーブル、各種データベース等が格納可能である。
【0025】
記憶部20には、同時刻関係データ定義テーブル21、同位置関係データ定義テーブル22、同時刻関係診断モデル(第一の異常診断モデル)23、同位置関係診断モデル(第二の異常診断モデル)24および異常判定テーブル25が格納されている。
【0026】
同時刻関係データ定義テーブル21は、同時刻関係データ作成部31による同時刻関係データの作成に必要な設定が記述されたテーブルである。同時刻関係データ定義テーブル21は、例えば下記表1に示すようなテーブルである。
【0027】
【表1】
【0028】
表1に示すように、同時刻関係データ定義テーブル21では、実操業に関する時系列データの切り出し対象信号ごとに、切り出しの開始および終了のタイミングを指示する信号が規定されている。
【0029】
同位置関係データ定義テーブル22は、同位置関係データ作成部32による同位置関係データの作成に必要な設定が記述されたテーブルである。同位置関係データ定義テーブル22は、例えば下記表2に示すようなテーブルである。
【0030】
【表2】
【0031】
表2に示すように、同位置関係データ定義テーブル22では、実操業に関する時系列データの切り出し対象信号ごとに、切り出しの開始および終了のタイミングを指示する信号、信号が属するミル(圧延機)のロール速度を指示する信号、信号が属するミルの先進率を指示する信号、が規定されている。
【0032】
同時刻関係診断モデル23は、同時刻関係診断部34による同時刻関係データの異常診断処理で参照されるモデルである。同時刻関係診断モデル23は、同時刻の計測値と異常との関係を学習させた学習済モデルであり、後記するモデル作成部33によって作成される。
【0033】
同位置関係診断モデル24は、同位置関係診断部35による同位置関係データの異常診断処理で参照されるモデルである。同位置関係診断モデル24は、同位置の計測値と異常との関係を学習させた学習済モデルであり、後記するモデル作成部33によって作成される。
【0034】
異常判定テーブル25は、異常判定部36による異常判定処理で参照されるテーブルである。異常判定テーブル25は、過去の操業における事例等を元に作成され、例えば以下の表3に示すように、異常の原因の分類表によって構成される。
【0035】
表3に示した異常判定テーブル25は、左の列から順に、異常として観測される項目、同時刻関係データから異常判定される場合の異常の原因、同位置関係データから異常判定される場合の異常の原因、同時刻関係データおよび同位置関係データから異常判定される場合の異常の原因、に関する情報を有している。
【0036】
【表3】
【0037】
例えば、同時刻関係診断部34による同時刻関係データの異常診断処理の結果が「差荷重:異常あり、圧延荷重:異常あり、スタンド間張力:異常なし」であり、同位置関係診断部35による同位置関係データの異常診断処理の結果が「差荷重:異常あり、圧延荷重:異常なし、スタンド間張力:異常あり」である場合、異常判定部36は、差荷重の異常の原因が「圧力計不良」であり、圧延荷重の異常の原因が「圧下保障制御過不足」であり、スタンド間張力の異常の原因が「板厚過変動」であると判定する。
【0038】
このように、実施形態に係る異常診断装置1では、同時刻関係データから異常が検知された場合、同位置関係データから異常が検出された場合、両方のデータから異常が検知された場合のそれぞれについて、懸念される異常の原因を予め異常判定テーブル25として準備しておき、異常判定処理において、当該異常判定テーブル25を参照することにより、異常の原因の分類を行う。
【0039】
演算部30は、例えばCPU(Central Processing Unit)等からなるプロセッサと、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等からなるメモリ(主記憶部)と、によって実現される。
【0040】
演算部30は、プログラムを主記憶部の作業領域にロードして実行し、プログラムの実行を通じて各構成部等を制御することにより、所定の目的に合致した機能を実現する。演算部30は、前記したプログラムの実行を通じて、同時刻関係データ作成部31、同位置関係データ作成部32、モデル作成部(第一、第二のモデル作成手段)33、同時刻関係診断部(第一の異常診断手段)34、同位置関係診断部(第二の異常診断手段)35および異常判定部(異常判定手段)36として機能する。なお、図1では、例えば一つのコンピュータによって各部の機能を実現する例を示しているが、各部の機能の実現手段は特に限定されず、例えば複数のコンピュータによって各部の機能をそれぞれ実現してもよい。
【0041】
同時刻関係データ作成部31は、入力部10から入力される時系列データを加工し、同時刻の計測値間の関係を示す同時刻関係データを作成する。同時刻関係データ作成部31は、具体的には、同時刻関係データ定義テーブル21を参照して同時刻関係データを作成する。また、同時刻関係データ作成部31は、オフラインで同時刻関係診断モデル23を作成する際と、同時刻関係診断モデル23によってオンラインで(操業中に)異常診断を行う際、の二つの場面で同時刻関係データを作成する。以下、同時刻関係データの作成方法の一例について、図2を参照しながら説明する。
【0042】
まず、同時刻関係データ作成部31は、実操業に関する時系列データから、異常診断の開始を決める開始スタンドの圧延開始時刻と、異常診断の終了を決める最終スタンドの圧延終了時刻とを検索する(ステップS1,S2)。ステップS1,S2では、例えば7スタンドで構成された仕上げ連続圧延機の場合、F7スタンドを開始スタンド、F1スタンドを終了スタンドと定義することにより、全スタンドで圧延中の圧延材(コイル)の定常部についての同時刻関係データを抽出することができる。
【0043】
続いて、同時刻関係データ作成部31は、検索した開始時刻から終了時刻までの間において、各スタンドの圧延データ(センサデータ)を切り出すことにより(ステップS3)、同時刻関係データを作成する(ステップS4)。
【0044】
同位置関係データ作成部32は、入力部10から入力される時系列データを加工し、同位置の計測値間の関係を示す同位置関係データを作成する。同位置関係データ作成部32は、具体的には、同位置関係データ定義テーブル22を参照して同位置関係データを作成する。また、同位置関係データ作成部321は、オフラインで同位置関係診断モデル24を作成する際と、同位置関係診断モデル24によってオンラインで(操業中に)異常診断を行う際、の二つの場面で同位置関係データを作成する。以下、同位置関係データの作成方法の一例について、図3を参照しながら説明する。
【0045】
まず、同位置関係データ作成部32は、実操業に関する時系列データから、診断対象とする各スタンドの圧延開始時刻と、圧延終了時刻とを検索する(ステップS11,S12)。続いて、同位置関係データ作成部32は、検索した開始時刻から終了時刻までの間において、対象のスタンドの圧延データ(センサデータ)、圧延速度(ミル速度)および先進率のデータを切り出す(ステップS13,S14)。
【0046】
続いて、同位置関係データ作成部32は、切り出したデータから、各スタンドにおける圧延材の全長(各圧延機の出側における圧延材の全長)を算出する(ステップS15)。例えばi番目のスタンドの圧延開始時刻をti0、時刻tにおける先進率をf(t)、圧延材の通板速度(以下、「圧延速度」という)をv(t)とすると、時刻tに取得されるデータの圧延材先端からの位置Li(t)は、下記式(1)のように示すことができる。なお、圧延材の通板速度は、圧延機のロール速度と先進率とから算出することができる。
【0047】
【数1】
【0048】
上記式(1)において、tを圧延終了時刻とすることにより、対象のスタンドにおける圧延材の全長を算出することができる。そして、最終スタンドに着目することにより、最終製品の全長を算出することができる。
【0049】
ここで、異なるスタンドで収集されるデータを同位置関係データとして併合する場合、各スタンドにおける圧延材の全長が異なる。そこで、同位置関係データ作成部32は、圧延材の長さの基準を最終製品、つまり最終的なコイル長さに設定し、最終スタンドの出側における圧延材の全長と、対象のスタンド(最終スタンド以外のスタンド)の出側における圧延材の全長との比に基づいて、対象の圧延機の出側における圧延材の位置を換算することにより(ステップS16)、同位置関係データを作成する(ステップS17)。
【0050】
なお、例えば圧延データが定周期サンプリングで収集されている場合、得られるデータは、圧延材の全長で見ると等間隔なデータとはならない。そのため、この場合は、補間処理を施すことにより、等間隔の同位置関係データを得る必要がある。その際の補間の方法としては、例えば隣接する二点に着目する場合は線形補間を、三点以上に着目する場合はスプライン補間等を用いることができる。
【0051】
このように、同位置関係データ作成部32による同位置関係データの作成処理では、圧延機のロール速度および先進率から算出される圧延材の通板速度を時間積分することにより、圧延材の全長を算出する。そして、最終スタンドから同様に算出される圧延材の全長と、対象のスタンドにおける圧延材の全長との比に基づいて、最終スタンドの出側に相当する、対象のスタンドの圧延方向の位置に関するデータを作成する。これにより、異なるスタンドで計測するデータを、最終製品の先端からの圧延方向の位置に関するデータへと編集することが可能となる。
【0052】
モデル作成部33は、複数の圧延機について、予め定めた所定の計測周期で同時刻に計測された計測値、すなわち同時刻関係データ作成部31によって作成された同時刻関係データを利用して、同時刻の計測値と異常との関係を学習させた同時刻関係診断モデル23を作成する。
【0053】
また、モデル作成部33は、複数の圧延機について計測された計測値が圧延材の位置ごとに編集された、圧延材の同じ位置ごとの計測値、すなわち同時刻関係データ作成部31によって作成された同位置関係データを利用して、同位置の計測値と異常との関係を学習させた同位置関係診断モデル24を作成する。
【0054】
なお、モデル作成部33におけるモデルの作成方法は特に限定されず、例えば線形回帰、局所回帰、Lasso回帰、Ridge回帰、主成分回帰、PLS回帰、ニューラルネットワーク、回帰木、ランダムフォレスト、XGBoost等の回帰モデルで導出する推定量と実績量との乖離の大きさから異常検知する手法や、オートエンコーダ等の生成モデルによる復元誤差から異常検知する手法等を用いることができる。また、モデル作成部33は、作成した同時刻関係診断モデル23および同位置関係診断モデル24を、記憶部20にそれぞれ格納する。
【0055】
同時刻関係診断部34は、同時刻関係診断モデル23を用いた異常診断を行う。同時刻関係診断部34は、同時刻関係診断モデル23に対して、同時刻関係データ作成部31によって作成された同時刻関係データを入力することより、異常診断を行う。同時刻関係診断部34による異常診断結果は、例えば「差荷重:異常あり/なし、圧延荷重:異常あり/なし、スタンド間張力:異常あり/なし」のように、異常として観測される項目(表3の左列参照)と、当該項目の異常の有無とを組み合わせた情報となる。また、同時刻関係診断部34による異常診断では、主に設備の機械・制御系の異常を検知することができる。
【0056】
同位置関係診断部35は、同位置関係診断モデル24を用いた異常診断を行う。同位置関係診断部35は、同位置関係診断モデル24に対して、同位置関係データ作成部32によって作成された同位置関係データを入力することより、異常診断を行う。同位置関係診断部35による異常診断結果は、例えば「差荷重:異常あり/なし、圧延荷重:異常あり/なし、スタンド間張力:異常あり/なし」のように、異常として観測される項目(表3参照)と当該項目の異常の有無とを組み合わせた情報となる。また、同位置関係診断部35による異常診断では、主に製品の品質・形状起因の異常を検知することができる。
【0057】
異常判定部36は、同時刻関係診断部34における診断結果(第一の診断結果)と、同位置関係診断部35における診断結果(第二の診断結果)とに基づいて、異常の原因を判定する。異常判定部36は、同時刻関係診断部34における診断結果と、同位置関係診断部35における診断結果とを関連付けて異常の原因を示す異常判定テーブル25に基づいて、異常の原因を判定する。
【0058】
異常判定部36は、具体的には、同時刻関係診断部34および同位置関係診断部35における診断結果に基づいて、異常の有無を判定する。続いて、異常判定部36は、同時刻関係診断部34および同位置関係診断部35における診断結果を、異常判定テーブル25(表3参照)に照らし合わせることにより、異常の原因を分類する。そして、異常判定部36は、これらの判定結果を表示部40に出力する。
【0059】
表示部40は、例えばLCDディスプレイ、CRTディスプレイ等の表示装置によって実現される。表示部40は、演算部30から入力される表示信号をもとに、例えば同時刻関係診断部34における診断結果、同位置関係診断部35における診断結果、異常判定部36における判定結果、等を表示することにより、オペレータにガイダンスを行う。
【0060】
〔異常診断方法〕
本発明の実施形態に係る異常診断装置1による異常診断方法について、図4を参照しながら説明する。なお、異常診断方法は、圧延プロセスにおいて、一本の圧延材の圧延が終了するごとに実施される。
【0061】
まず、同時刻関係データ作成部31および同位置関係データ作成部32は、圧延材の圧延が終了したか否かを判定する(ステップS21)。ステップS21において、圧延材の圧延が終了したか否かは、例えば圧延材を巻き取る設備の巻き取り完了信号等に基づいて判定することができる。圧延材の圧延が終了していないと判定した場合(ステップS21でNo)、同時刻関係データ作成部31および同位置関係データ作成部32は、ステップS1に戻る。一方、圧延材の圧延が終了したと判定した場合(ステップS21でYes)、同時刻関係データ作成部31および同位置関係データ作成部32は、イベント待ちの状態から診断プロセスへと遷移し、実操業に関する時系列データを収集する(ステップS22)。
【0062】
続いて、同時刻関係データ作成部31は、同時刻関係データ定義テーブル21を参照して同時刻関係データを作成する(ステップS23)。ステップS23における同時刻関係データの作成手順は、図2と同様である。続いて、同位置関係データ作成部32は、同位置関係データ定義テーブル22を参照して同位置関係データを作成する(ステップS24)。ステップS24における同位置関係データの作成手順は、図3と同様である。なお、ステップS23,S24は、どちらを先に行ってもよく、あるいは両方を同時に行ってもよい。
【0063】
続いて、異常診断モデルによって診断を行う(ステップS25)。ステップS25では、同時刻関係診断部34による同時刻関係データの異常診断処理と、同位置関係診断部35による同位置関係データの異常診断処理と、を行う。
【0064】
続いて、異常判定部36は、ステップS25における二つの診断結果に基づいて、異常の有無を判定する(ステップS27)。ステップS27において、異常判定部36は、例えばステップS25における二つの診断結果のいずれかに「異常あり」の項目が含まれる場合に、異常ありと判定する。
【0065】
異常ありと判定した場合(ステップS26でYes)、異常判定部36は、異常判定テーブル25(表3参照)を参照して異常の原因を分類する(ステップS27)。続いて、異常判定部36は、異常の分類結果、すなわち異常の原因の候補を表示部40に表示することにより、オペレータへのガイダンスを行う(ステップS28)。そして、異常判定部36は、本処理を終了し、イベント待ちの初期状態へと遷移する。なお、ステップS26において、異常なしと判定した場合(ステップS26でNo)、異常判定部36は、本処理を終了し、イベント待ちの初期状態へと遷移する。
【0066】
以上説明した実施形態に係る異常診断モデルの構築方法、異常診断方法、異常診断モデルの構築装置および異常診断装置1では、鉄鋼の圧延プロセスにおいて、稼働中の圧延機からセンサ等で計測する時系列データについて、圧延材の先端からの圧延方向の位置に関する情報を付与し、同位置の計測値間の関係を示すデータと、同時刻の計測値間の関係を示すデータの二種類のデータ群を作成し、二種類の異常診断モデルを構築する。
【0067】
このように、二種類の異常診断モデルを構築することにより、例えば設備の機械・制御系の異常と、製品の品質・形状起因の異常とを、それぞれ区別して診断することができる。従って、異常の原因を早期に究明することができ、設備の停止時間を低減することができるとともに、効率的かつ効果的な異常対策に繋げることができる。
【0068】
以上、本発明に係る異常診断モデルの構築方法、異常診断方法、異常診断モデルの構築装置および異常診断装置1について、発明を実施するための形態および実施例により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【0069】
例えば、実施形態に係る異常診断装置1では、二種類の異常診断モデル(同時刻関係診断モデル23、同位置関係診断モデル24)を用いて異常診断を行っていたが、どちらか一方の異常診断モデルのみを用いて最初に異常診断を行い、必要に応じて他方の異常診断モデルによる異常診断を行ってもよい。
【0070】
また、実施形態に係る異常診断装置1では、圧延プロセスに適用した例について説明したが、圧延プロセス以外にも、例えば表面処理プロセス等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 異常診断装置
10 入力部
20 記憶部
21 同時刻関係データ定義テーブル
22 同位置関係データ定義テーブル
23 同時刻関係診断モデル
24 同位置関係診断モデル
30 演算部
31 同時刻関係データ作成部
32 同位置関係データ作成部
33 モデル作成部
34 同時刻関係診断部
35 同位置関係診断部
36 異常判定部
40 表示部
図1
図2
図3
図4