(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022068602
(43)【公開日】2022-05-10
(54)【発明の名称】ボンド磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20220427BHJP
H01F 1/059 20060101ALI20220427BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20220427BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/059 160
B22F3/00 C
B22F3/02 R
B22F3/02 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020177373
(22)【出願日】2020-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】才賀 裕太
(72)【発明者】
【氏名】小山内 健太
(72)【発明者】
【氏名】福本 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】和田 耕昇
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 輝雄
(72)【発明者】
【氏名】石原 千生
(72)【発明者】
【氏名】竹内 一雅
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K018AA27
4K018BA18
4K018BC12
4K018CA02
4K018CA04
4K018CA08
4K018CA09
4K018CA11
4K018FA08
4K018GA04
4K018KA46
4K018KA63
5E040AA03
5E040BB05
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5E040NN17
5E062CD04
5E062CE04
5E062CF04
5E062CG02
(57)【要約】
【課題】高配向度及び高密度のボンド磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】配向成形工程S1、高密度成形工程S2、硬化工程S3を行うことにより、ボンド磁石を製造する。配向成形工程S1では、成形型2内で、バインダ材とSmFeN磁粉とを含む混合粉11をバインダ材の粘度が5Pa・s以下となるように加熱し、かつ混合粉11に圧力を印加しながら、混合粉11に一方向に磁場を印加する。高密度成形工程S2では、成形体12における磁粉充填率が70%以上となるように、磁場の印加方向と直交方向に成形体12に圧力を印加する。硬化工程S3では、成形体12を不活性雰囲気下で加熱する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型(2)内で、熱硬化性樹脂を含有するバインダ材とSmFeN磁粉とを含む混合粉(11)を、上記バインダ材の粘度が5Pa・s以下となるように加熱し、かつ上記混合粉に圧力を印加しながら、上記混合粉に一方向に磁場を印加することにより、上記SmFeN磁粉が配向した、磁粉充填率50体積%以下の成形体(12)を得る配向成形工程と、
上記成形体における磁粉充填率が70体積%以上となるように、上記磁場の印加方向と直交方向に上記成形体に圧力を印加する高密度成形工程(S2)と、
該高密度成形工程後に、上記成形体を不活性雰囲気下で加熱することにより上記熱硬化性樹脂を硬化させる硬化工程(S3)と、を有する、ボンド磁石(1)の製造方法。
【請求項2】
上記配向成形工程では、非磁性材料から構成された第1成形型(21)内でのパルス磁場の印加により上記混合粉に上記磁場を発生させ、
上記高密度成形工程では、超硬合金から構成された第2成形型(22)内で上記成形体に上記圧力を印加する、請求項1に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項3】
上記配向成形工程では、強度6テスラ以上の上記パルス磁場を1回以上印加する、請求項2に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項4】
温度100℃における上記バインダ材の溶融粘度が1~50Pa・sである、請求項1~3のいずれか1項に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項5】
上記配向成形工程後の上記成形体の圧壊強度が10MPa以上となる上記熱硬化性樹脂を用いる、請求項1~4のいずれか1項に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項6】
上記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である、請求項1~5のいずれか1項に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項7】
上記バインダ材が、上記熱硬化性樹脂と、アミノ基を有するカップリング剤とを含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のボンド磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SmFeN系ボンド磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SmFeN磁石は、高価な原料を使うことなく製造が可能であり、優れた特性を示す。しかしSmFeN磁石の原料磁粉は高温500℃付近で構造の劣化が生じ、既存製法である焼結化が難しい。そのため、SmFeN磁石は、ボンド磁石として、例えばモータ製品に適用されている。
【0003】
ボンド磁石は、例えば圧縮成形により製造される。圧縮成形では圧力印加により磁粉充填率を上げることができ、磁石の重要な特性の1つである残留磁束密度(つまりBr)の向上が磁粉充填率の向上によって達成される。
【0004】
特許文献1では、An、Cu等の金属バインダを含むSmFeN系磁石粉末を、1~5GPaという高圧力で冷間圧密成形する技術が提案されており、特許文献1によれば、高Brが実現できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁石(具体的には、成形体)Brと、磁粉Brと、磁粉充填率と、配向度とは、下記式(I)の関係を満足する。式(I)において、Brの単位は、テスラ(T)であり、磁粉充填率の単位は体積%(なお、以下では磁粉充填率の単位を「%」と表記する)であり、配向度の単位は%である。
成形体Br=磁粉Br×磁粉充填率×配向度 ・・・(I)
【0007】
配向度は、式(I)に示される通り、Brの従属変数である。配向度は、磁束密度-磁界の強さ曲線(所謂、B-H曲線)において角型性を決める特性でもある。角型性が悪い磁石を、例えばモータにおけるロータ内の界磁として配置した場合には、ステータから発生する磁界や熱によって減磁しやすくなる。したがって、例えばモータに適用される磁石には、高い配向度が要求される。しかし、例えば先行技術のように圧縮成形での成形圧力を高くすると、ボンド磁石の高密度化の過程において磁粉間や磁粉-金型間の摩擦によって配向が乱れる。これにより、配向度の低下を免れない。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、高配向度及び高密度のボンド磁石の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、成形型(2)内で、熱硬化性樹脂を含有するバインダ材とSmFeN磁粉とを含む混合粉(11)を、上記バインダ材の粘度が5Pa・s以下となるように加熱し、かつ上記混合粉に圧力を印加しながら、上記混合粉に一方向に磁場を印加することにより、上記SmFeN磁粉が配向した、磁粉充填率50%以下の成形体(12)を得る配向成形工程と、
上記成形体における磁粉充填率が70%以上となるように、上記磁場の印加方向と直交方向に上記成形体に圧力を印加する高密度成形工程(S2)と、
該高密度成形工程後に、上記成形体を不活性雰囲気下で加熱することにより上記熱硬化性樹脂を硬化させる硬化工程(S3)と、を有する、ボンド磁石(1)の製造方法にある。
【発明の効果】
【0010】
上記配向成形工程では、上記のごとく、成形型内で混合粉を加熱、加圧しながら、混合粉に一方向に磁場を印加する。磁場を印加する際に、混合粉に含まれるバインダ材の粘度が上記所定値以下となるように加熱を行い、成形型内でSmFeN磁粉が一方向に配向し易くなる。また、加圧を、成形体の磁粉充填率が50%以下となるように行うことによっても、SmFeN磁粉が一方向に配向し易くなる。これにより、配向度の高い成形体が得られる。
【0011】
上記高密度成形工程では、上記のごとく、磁場の印加方向と直交方向に成形体に圧力を印加する。圧力の印加は、磁粉充填率が上記所定値以上となるように圧力の印加を行う。これにより、上記成形体の配向度の低下を抑制しつつ、成形体の密度を高めることができる。
【0012】
上記硬化工程では、上記成形体を不活性雰囲気下で加熱する。これにより、熱硬化性樹脂が硬化する。このようにして、上記製造方法によれば、高配向度及び高密度のボンド磁石が得られる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1(a)は配向成形工程の概略図であり、
図1(b)は高密度成形工程の概略図であり、
図1(c)は硬化工程の概略図である。
【
図2】
図2(a)は第1成形型のテーパリングの模式図であり、
図2(b)は第1成形型のダイスの側面図であり、
図2(c)は、ダイスの正面図であり、
図2(d)は一対のパンチの模式図であり、
図2(e)はスペーサの模式図である。
【
図3】
図3は、ダイスにパンチを組み付けた組立品の模式図である。
【
図4】
図4(a)は、第1成形型の組立品の模式図であって、スペーサを途中まで押し込んだ状態の模式図であり、
図4(b)は、第1成形型の組立品の模式図であって、スペーサを完全に押し込んだ状態の模式図である。
【
図5】
図5は、粘度と配向度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態1)
ボンド磁石1の製造方法に係る実施形態について、図面を参照して説明する。本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後に記載される数値あるいは物理値を含む意味で用いることとする。また、上限、下限として記載した数値あるいは物理値は、その値を含む意味で用いることとする。
【0015】
本実施形態の製造方法では、
図1に示すごとく、配向成形工程と高密度成形工程と硬化工程とを行うことにより、ボンド磁石1を製造する。
図1(a)に示すように、配向成形工程では、成形型2内で、混合粉11に一方向に磁場Mを印加する。配向成形工程では、磁場Mの印加により、混合粉11中のSmFeN磁粉を配向させる。
【0016】
磁場Mの印加方法としては、例えば、パルス磁場を印加する方法、静磁場を印加する方法等が挙げられる。好ましくは、パルス磁場を印加する方法がよい。この場合には、瞬間的な磁場を発生させることができるため、電流による発熱量を抑えることができる。その結果、大きな磁場発生が可能となり、SmFeN磁粉を十分に配向させやすい。
【0017】
配向成形工程では、強度6テスラ以上のパルス磁場を1回以上印加することが好ましい。つまり、パルス方式で6テスラ以上の磁場強度を1回以上混合粉11に付与することが好ましい。この場合には、SmFeN磁粉が十分に配向した成形体12が得られる。配向度をより向上させるという観点から、パルス磁場の強度は、8テスラ以上がより好ましい。パルス方式の磁場発生装置で発生させることができる商業用で取り扱われるものは強度限界やコストの観点から、パルス磁場強度の上限は、12テスラ程度である。また、配向度をより向上させるという観点から、配向成形工程では、パルス磁場を2回以上印加することが好ましい。
【0018】
配向成形工程での磁場の印加は、混合粉11を加熱、加圧しながら行われる。
図1(a)に示されるように、混合粉11に、例えばY方向に圧力を加え、磁粉を配向させるために例えばX方向に外部から磁場Mを印加することができる。
【0019】
配向成形工程での加熱は、バインダ材の粘度が5Pa・s以下となるまで行う。これにより、混合粉11のバインダが溶融状態となるため、SmFeN磁粉が配向し易くなる。配向度をより向上させるという観点から、混合粉11の加熱は、バインダ材の粘度が3Pa・s以下となるまで行うことが好ましく、1Pa・s以下となるまで行うことがより好ましい。また、配向成形工程後の成形体12の保形性の観点から、バインダ材の粘度の下限は、0.5Pa・sである。配向成形工程での具体的な加熱温度は、上記粘度となるように、混合粉11の配合組成、バインダ材の種類などに応じて変更される。
【0020】
バインダ材の溶融粘度は、Anton Paar社製レオメータMCR301を用いて測定される。具体的には、バインダ材の粘度と、加熱温度との関係を予め求めておくことにより、上記のごとくバインダ材の粘度が5Pa・s以下となる加熱温度を知ることができる。
【0021】
配向成形工程では、磁粉充填率50%以下の成形体を得る。つまり、配向成形工程後の成形体の磁粉充填率は50%以下であり、さらに配向成形工程では、磁粉充填率50%以下の状態でパルスが印加される。これにより、成形型2内でSmFeN磁粉が配向し易くなる。
【0022】
配向成形工程では、混合粉11にパルス磁場を1回以上印加することができる。パルス磁場を2回以上印加することにより、ボンド磁石1の配向度をより向上させることができる。配向成形工程では、少なくとも1回目のパルス磁場を、磁粉充填率が例えば35%~44%の範囲内にあるときに印加することが好ましい。これにより、配向度をより向上させることができる。また、成形体12の保形性の観点から、配向成形工程後の成形体12の磁粉充填率は、35%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましい。
【0023】
配向成形工程で混合粉11に印加される圧力は、上記磁粉充填率となるように、混合粉11の配合組成、バインダ材の種類などに応じて変更されるが、通常1GPa未満である。配向成形工程での圧力は、成形型21が例えばカーボンからなる場合には、成形型21の強度の観点から、200MPa以下であることが好ましく、100MPa以下であることがより好ましい。
【0024】
磁粉充填率とは、成形体における磁粉体積の割合のことであり、単位は体積%である。磁粉充填率は、以下の式(II)で算出される。ただし、VMは磁粉体積、V0は成形体体積、VRはバインダ材体積、Vvは空隙体積、ρは成形体密度であり、ρ=(VMρM+VRρR)/(VM+VR+VV)、ρ0は混合粉密度であり、ρ0=(VMρM+VRρR)/(VM+VR)、ρMは磁粉密度、ρRはバインダ材密度、VM/(VM+VR)は混合粉における磁粉体積比率である。
磁粉充填率=VM/V0=VM/(VM+VR+VV)=ρ/ρ0×{VM/(VM+VR)}・・・(II)
式(II)において、ρは、成形体の寸法と重量とを測定し、その測定値から算出される。ρ0=(VMρM+VRρR)/(VM+VR)は計算値であり、ρM、ρR、VM/(VM+VR)の値を用いて算出される。なお、VR/(VM+VR)=1-VM/(VM+VR)である。今回は、ρM=7.61g/cc、ρR=1.00g/cc、VM/(VM+VR)=0.7593、VR/(VM+VR)=0.2407という値を用いて計算した。
【0025】
SmFeN磁粉とバインダ材とを配合することにより、混合粉11を得ることができる。SmFeN磁粉とバインダ材との配合比率は、体積比率で、80:20~74:26(ただし、SmFeN磁粉:バインダ)であることが好ましい。配合比率を上記範囲とすることにより、成形体12の磁場成形時の保形性と機械的強度、磁粉の配向度、成形体12の密度を向上させることができる。この効果が向上するという観点から、SmFeN磁粉とバインダ材との配合比率は、体積比率で、77:23~75:25であることがより好ましい。
【0026】
バインダ材は、SmFeN粒子の結合材としての機能を有し、少なくとも熱硬化性樹脂を含有する。熱硬化性樹脂としては、例えば100℃における溶融粘度が1Pa・s以上のものを用いることができる。
【0027】
また、バインダ材は、100℃における溶融粘度が50Pa・s以下であることが好ましい。この場合には、成形型2内でのSmFeN粒子とバインダ材との間の摩擦(具体的には界面摩擦)が低減される。したがって、混合粉11から成形体12が形成される過程において、SmFeN粒子が動き易くなり、磁場の印加により粒子がより配向し易くなる。
【0028】
溶融粘度の測定はAnton Paar社製レオメータMCR301を用いて測定される。昇温速度10℃/分で30℃から100℃までバインダ材を昇温させ、100℃で30分間保持する。そして、溶融粘度の最も低い時の値を100℃の溶融粘度とする。
【0029】
配向成形工程では、加熱、加圧下での磁場の印加後に、例えば室温まで冷却することにより、成形体12(つまり固体)が得られる。バインダ材としては、配向成形工程後の成形体12の圧壊強度が10MPa以上とすることが可能な熱硬化性樹脂、又は熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物を用いることが好ましい。圧壊強度の測定方法は、実験例にて説明する。
【0030】
流動性に優れてという観点から、熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂であることが好ましい。エポキシ樹脂は、常温(具体的には、25℃)で固体である。エポキシ樹脂としては、上述のように100℃での溶融粘度が1Pa・s以上50Pa・s以下となるバインダ材を形成できるものが好ましい。
【0031】
また、バインダ材は、エポキシ樹脂の硬化剤としてフェノールノボラック樹脂を含有することが好ましい。この場合には、ガラス転移点が高いエポキシ樹脂の硬化物が得られ易い。その結果、成形体12の耐熱性及び機械的強度が向上する。
【0032】
また、バインダ材は、アミノ基を有するカップリング剤をさらに含有することが好ましい。この場合には、配向成形工程でのSmFeN磁粉を配向させやすくする。また、この場合には、成形体12の強度が高くなり、成形型2から成形体12を取り出すときに成形体12が破損することを防止できる。これは、配向成形工程で温度が上昇した際に、カップリング剤のアミノ基は、エポキシ樹脂と一部反応することにより、バインダ材の粘度が高くなるためである。また、アミノ基を有するカップリング剤は、SmFeN粒子の分散を安定化させ、加熱処理後の強度保持にも寄与する。
【0033】
アミノ基を有するカップリング剤としては、例えばシランカップリング剤を用いることができる。具体的には、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等を用いることができる。これらの中でも、混合粉11の保存安定性、SmFeN粒子とバインダ材との安定な分散性の観点からN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0034】
配向成形工程では、上記のごとくバインダ材が溶融状態となって粘度が低くなる温度かつ低圧下で磁場を印加する。これにより、SmFeN磁粉が動き易くなるため、高配向度の成形体12が得られる。
【0035】
図1(b)に示されるように、高密度成形工程では、配向成形工程後の成形体12に圧力を印加する。高密度成形工程での圧力の印加方向は、配向成形工程における磁場の印加方向と直交方向であり、具体的には、配向成形工程における圧力印加方向と同様のY方向でもよいし、Z方向でもよい。なお、Z方向は、
図1(b)における紙面と直交方向である。高密度成形工程での加圧は、磁粉充填率が70%以上の成形体12が得られるように行われる。これにより、高密度の成形体12が得られる。高密度成形工程で混合粉11に印加される圧力は、上記磁粉充填率となるように、混合粉11の配合組成、バインダ材の種類などに応じて変更されるが、通常1GPa~2.5GPaである。
【0036】
配向成形工程と高密度成形工程では、同じ成形型2を使用することも可能であるが、材質が異なる成形型2を使用することが好ましい。具体的には、配向成形工程では、非磁性材料から構成された第1成形型21を使用することが好ましい。この場合には、パルス印加により混合粉11に磁場を付与することができる。非磁性材料は、例えば、カーボン、セラミック、又は樹脂である。これらの非磁性材料の中でも、カーボンから構成された第1成型体を使用することがより好ましい。この場合には、カーボンは電気抵抗率が高いため、パルス磁場による渦電流の発生が抑制される。その結果、所望の磁束密度で磁場を印加させることができる。一方、高密度成形工程では、超硬合金から構成された第2成形型22を使用することが好ましい。この場合には、高密度成形工程での成形型の破損を防止することができる。
【0037】
高密度成形工程後には、硬化工程を行う。
図1(c)に示すように、硬化工程では、成形体12を不活性雰囲気下で加熱する。これにより熱硬化性樹脂を硬化させ、ボンド磁石1を得る。不活性雰囲気としては、特に限定されないが、例えばアルゴンガス雰囲気、窒素ガス雰囲気である。
【0038】
本実施形態の製造方法によれば、高配向度及び高密度のボンド磁石1の製造が可能である。その具体例を、以下の実験例にて説明する。なお、以降の説明において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0039】
(実験例)
本例では、ボンド磁石を製造し、その製造条件、特性等を評価する。なお、実験例における各種測定方法は次の通りである。
【0040】
(バインダ材の溶融粘度)
以下のようにして溶融粘度測定用のバインダ材を作製した。まず、300mlナス型フラスコに混合粉の作製に用いたものと同じエポキシ樹脂(エポキシ当量192)5.12g、フェノール樹脂(水酸基当量108)2.88g、アミノ基を有するカップリング剤(N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン)0.6g、硬化触媒(テトラ(n-ブチル)ホスホニウムテトラフェニルボレート)0.248gを秤量し、アセトン50mlに溶解した。材料が完全に溶解した後にエバポレータにより25℃でアセトンを留去した。液体がほぼ見られなくなった時点でフラスコを、減圧乾燥機に入れ、常温で真空にして1日間、真空乾燥した。このようにして、溶融粘度測定用のバインダ材を得た。100℃でのバインダ材の溶融粘度は、実施形態1に記載の方法により測定した。
【0041】
(圧壊強度)
圧壊強度は、例えば次のようにして測定される。まず、油圧プレス機を用い、金型温度が100℃の状態で100MPaの成形圧力で30分間保持しながら、測定対象の混合粉を圧縮成形し、7mm×7mm×7mmの立方体形状の圧縮成形体(つまり試験片)を作製した。次いで、万能圧縮試験機(具体的には、(株)島津製作所製、AG-10TBR)を使用して、25℃環境下の試験片を高さ方向から圧縮圧力を印加し、圧縮圧力により試験片が破壊されたときの圧縮圧力の最大値を求めた。この最大値を圧壊強度(MPa)とした。
【0042】
(成形体の磁粉充填率)
磁粉充填率は、実施形態1に記載の式により算出した。
【0043】
(配向度、Br)
下記式(III)により配向度を算出した。式(III)において、磁粉Br(T)の値は、メーカ値を採用することができる。本例では、磁粉Brは1.33Tである。なお、メーカ値が不明な場合には、磁粉Brは、粉末用の磁束密度を計測することができるカンタムデザイン社製の振動試料型磁力計VSMにより測定される。また、式(III)において、成形体Br(T)は、電子磁器工業株式会社製の着磁コイルE3925A、着磁電源CM-4040-30を用いて5Tで作製したボンド磁石成形体に対して配向方向へ着磁を行い、東英工業株式会社製の直流自記磁束計DC-BHトレーサにより測定した。また磁粉充填率は成形体の重量と寸法から実測密度を見積もり、その値を使い、上述の式(II)から算出した。
配向度=成形体Br/(磁粉Br×磁粉充填率)・・・(III)
【0044】
ボンド磁石は、実施形態1に示す工程を行うことにより製造される。ボンド磁石の製造にあたり、まず以下のようにして、バインダ材とSmFeN磁粉とを含む混合粉を作製した。具体的には、まず、300mlナス型フラスコにエポキシ樹脂(エポキシ当量192)5.12g、フェノール樹脂(水酸基当量108)2.88g、アミノ基を有するカップリング材(N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン)0.6g、硬化触媒(テトラ(n-ブチル)ホスホニウムテトラフェニルボレート)0.248gを秤量し、アセトン50mlに溶解した。材料が完全に溶解した後にSmFeN粉(日亜化学株式会社製)192gを加えて10分間、撹拌した後にエバポレータにより25℃でアセトンを留去した。液体がほぼ見られなくなった時点で塊をほぐした後に再度エバポレータで30分間、減圧した。内容物をバット上に広げ、減圧乾燥機に入れ、常温で真空にして1日間、真空乾燥した。乾燥後、ビニール袋に入れた塊をハンマーで粉砕し、混合粉とした。
【0045】
次に、混合粉を第1成形型21のキャビティに充填した。第1成形型21としては、
図2~
図4に示されるカーボン製の型を使用した。なお、
図2~
図4に示される第1成形型21は、一例であり、例えば混合粉に圧力を印加しながら磁場を付与できる構成であれば、
図2~4に示される成形型に限定されるものではない。
図2~
図4に示されるように、第1成形型21は、テーパリング211と、ダイス212と、パンチ213、スペーサ214とから構成されている。
【0046】
図2(a)に示すように、テーパリング211は、下面211bから上面211aに向けて幅が小さくなるテーパ面211cを内部に有する筒状体である。
図2(b)、
図2(c)に示されるように、ダイス212は、側面を貫通する貫通穴を有しており、この貫通穴がキャビティ212aであり、キャビティ212aには、混合粉11が充填される。
図2(d)、
図3に示されるように、キャビティには、一対のパンチ213a、213bが挿入される。パンチ213a、213bには、テーパ面213a、213bがそれぞれ形成されている。スペーサ214は、所定の高さhを有している。この高さは、テーパリングにダイス212、パンチ213、スペーサ214を組み付けた際に、キャビティ213a内の混合粉11に所定の圧力が加わるように調整される。
【0047】
図3に示すように、ダイス212のキャビティ212aに、所定量(例えば2g)の混合粉11を充填し、キャビティ212aの両側の開口部からパンチ213a、213bを挿入する。次いで、パンチ213a、213bが組み付けられたダイス212をテーパリング211に挿入する。このとき、パンチ213a、213bのテーパ面213a、213bが、テーパリング211のテーパ面211cに沿って移動する際にパンチ213a、213bによりキャビティ212aの体積が小さくなり混合粉11が押圧される。次いで、
図4(a)、
図4(b)に示すように、スペーサ214をダイスの下部の取り付け、ダイス212をテーパリング212内に押し込んで一体化させる。このようにして、第1成形型21を組み立てる。第1成形型21では、21テーパリングのテーパ面の角度、パンチ213a、213bのテーパ面213c、213dの角度、スペーサ214の高さなどを調整することにより、キャビティ212a内に充填された混合粉に所定の圧力を印加することができる。
【0048】
また、筒状のテーパリング211の外側面には、図示しないコイルが巻回される。このコイルに電流が流されることにより、キャビティ212a内に磁場が発生する。なお、パルス磁場を印加するときの磁粉充填率は圧力によってではなく、充填する混合粉11の重量とキャビティ212aの体積によって制御される。具体的には上述のような第1成形型21では、ダイス212の下部にスペーサ214を取り付け、その高さhによってキャビティ212aの体積が調整され、これにより、キャビティ212a内の混合粉11の磁粉充填率が所望値になるように調節される。
【0049】
このような第1成形型21を用いて、100℃に加熱しながら混合粉に圧力を印加し、さらに混合粉に一方向にパルス磁場を印加し、成形体を得た(配向成形工程)。圧力条件を変更することにより、後述の表1~2に示すごとく、磁粉充填率の異なる複数の成形体を作製した。なお、以降の説明では「磁粉充填率」を単に「充填率」と記載する。
【0050】
本例では、配向成形工程後に、硬化工程を行って作製したボンド磁石と、配向成形工程後に高密度成形工程、硬化工程を順次行って作製したボンド磁石とを準備した。高密度成形工程を行う場合には、第1成形型21から取り出した成形体を、超硬合金製の第2成形型22内で成形した(高密度成形工程)。成形は、成形体に圧力を印加することにより行った。硬化工程では、窒素ガス雰囲気で、温度180℃で30分間、成形体を加熱した(硬化工程)。このようにして、ボンド磁石の試験片を作製した。
【0051】
本例では、ボンド磁石の試験片として、表1に示す試験片No1~15、表2に示す試験片No1’、6’、13’、14’、15’を作製した。試験片No1~15は配向成形工程後に硬化工程を行って作製した試験片である。試験片No1’、6’、13’、14’、15’はNo1、6、13、14、15と同様の磁場印加条件で配向成形工程を行い、その後、高密度成形工程、硬化工程を順に行って作製した試験片である。
【0052】
【0053】
【0054】
表1より理解されるように、試験片No.1~5及び15は、パルス磁場の印加回数が1回のときの配向成形工程を用いて作製した一群である。例えば、試験片1の配向成形工程では、充填率36%(X-12%、X=48.0%)のときに、100℃でパルス磁場8Tを印加し、その後、充填率48.0%まで加圧した。硬化処理を行った後に、成形体Brと密度の測定を行い、充填率48.0%での配向度91.0%を見積もった。試験片No1~4では充填率36%でのパルス磁場強度が高いほど、配向成形後の配向度は高いことがわかる。また、試験片No5は、パルス磁場8Tを充填率46.9%のときに印加して作製したものである。同じ1回のパルス磁場8Tの印加でも、試験片No1とNo5とを比較すると試験片No5の方が、配向度が高い。このことから、充填率が低い状態の方が磁粉同士の摩擦が少なくなり、配向しやすくなるといえる。試験片No1でのパルス磁場印加直後の配向度はかなり向上すると予想されるが、低い充填率(X-12%)から配向成形の最終的な充填率X%に加圧されるときに配向度の低下があり、91.0%の配向度に留まったと考えられる。試験片No5はNo1よりも配向しにくい状態にもかかわらず、配向度が95.6%まで向上した。しかし、試験片No15のようにカーボン成形型の限界強度に近い圧力が必要となる充填率50%を超えたときにはパルス磁場8Tを印加しても配向度が83.4%に留まることから、パルス磁場を印加するときの充填率が高すぎると十分な配向度を得られないこともわかる。
【0055】
さらに配向度を向上させるためには試験片No6~12のようにパルス磁場の印加回数を2回へ増やすことが有効である。試験片No6~9と試験片No10~12では、パルス磁場を最初に印加するときの充填率が異なるが、パルス磁場の強度が同じであれば、両試験片群での配向度の違いはほとんどない。試験片No9及び12のように2Tと8Tの磁場強度であっても、最終的な配向度は96%を超える。しかし磁場を2回印加したとしても試験片No14のようにパルス磁場を最初に印加するときの充填率が50%を超えているときは、配向度が88.4%に留まる。
試験片No13ではパルス磁場8Tを4回印加しており、そのときの配向度はほぼ100%であり、完全に配向していることがわかる。ただし、パルス磁場の印加回数を過剰に増やすことは、コスト的なデメリットがある。したがって、パルス磁場の印加回数は、4回以下が好ましく、3回以下がより好ましく、2回以下がさらに好ましい。
【0056】
表2では表1で示した試験片と同じパルス磁場印加条件で配向成形工程を行った後、高密度成形工程を経て、硬化処理工程を行った試験片を成形体Br、配向度、充填率を示す。例えば、表2で示される試験片No1’は表1での試験片No1と同じ配向成形工程を行い、作製されたものである。表2から理解されるように、高密度成形工程を行うことにより、配向度が5~6%低下することがわかる。そのため、配向度90%以上で充填率72%程度のボンド磁石を得るためには、配向成形工程後の配向度が96%以上であることが好ましい。
【0057】
また、
図5には、試験片の配向度とバインダ材の溶融粘度との関係を示す。なお、試験片は、溶融粘度の異なるバインダ材とSmFeN磁粉の混合粉を使い、配向成形工程後に硬化工程を行って作製したものである。配向成形工程では、磁粉充填率がおよそ36%、40%、44%、48%の時にパルス磁場8Tをそれぞれ印加した。つまり、合計4回のパルス磁場を印加した。試験片の作製にあたっては、配向成形工程後に上記のように硬化工程を行った。
図5より理解されるように、配向成形工程では、バインダ材の溶融粘度が5Pa・s以下となるように加熱することにより、配向度を十分に向上させることができる。
【0058】
本発明は上記実施形態、実験例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。