(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022068614
(43)【公開日】2022-05-10
(54)【発明の名称】操船システム及び船舶
(51)【国際特許分類】
B63H 20/00 20060101AFI20220427BHJP
B63H 21/21 20060101ALI20220427BHJP
B63H 25/42 20060101ALI20220427BHJP
B63H 25/36 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
B63H20/00 803
B63H21/21
B63H25/42 B
B63H25/36
B63H20/00 823
B63H20/00 610
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020177388
(22)【出願日】2020-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】門林 義幸
(57)【要約】
【課題】トローリングモータと、トローリングモータとは別の推進機とを含み、熟練を要する操船技術を必要としなくても、きめ細かな操作を不要とした操船ができる操船システム及び船舶を提供する。
【解決手段】操船システム3は、船体2に設けられる船外機4等の推進機と、船体2に外付けされるトローリングモータ5と、ジョイスティック13等の第1操作子と、コントローラ6とを含む。ジョイスティック13は、船外機4が船体2に加えるべき推進力の大きさ及び方向の少なくとも一方を指令するために操船者によって操作される。トローリングモータ5が第1推進力を発生している状態において、ジョイスティック13による指令に応じて、コントローラ6が、第2推進力を発生するように船外機4を制御する。さらに、コントローラ6が、第1推進力が変化するようにトローリングモータ5を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体に設けられる推進機と、
前記船体に外付けされるトローリングモータと、
前記推進機が船体に加えるべき推進力の大きさ及び方向の少なくとも一方を指令するために操船者によって操作される第1操作子と、
前記トローリングモータが第1推進力を発生している状態において、前記第1操作子による指令に応じて、第2推進力を発生するように前記推進機を制御するとともに、前記第1推進力が変化するように前記トローリングモータを制御するコントローラとを含む、操船システム。
【請求項2】
前記トローリングモータが前記第1推進力を発生している状態において、前記第1操作子による指令に応じて、前記コントローラが、前記第2推進力を発生するように前記推進機を制御するとともに、前記第1推進力の大きさが前記第2推進力の大きさと異なるように前記トローリングモータを制御する、請求項1に記載の操船システム。
【請求項3】
前記トローリングモータが前記第1推進力を発生している状態において、前記第1操作子による指令に応じて、前記コントローラが、前記第2推進力を発生するように前記推進機を制御するとともに、前記第1推進力の方向が前記第2推進力の方向と異なるように前記トローリングモータを制御する、請求項1又は2に記載の操船システム。
【請求項4】
前記トローリングモータが前記第1推進力を発生している状態において、前記コントローラが、前記第1操作子による指令に応じて、前記第1推進力が低下するように前記トローリングモータを制御する、請求項1~3のいずれか一項に記載の操船システム。
【請求項5】
前記トローリングモータが前記第1推進力を発生している状態において、前記コントローラが、前記第1操作子による指令に応じて、前記トローリングモータを停止させる、請求項1~3のいずれか一項に記載の操船システム。
【請求項6】
前記コントローラが、前記第1操作子による指令に応じて、前記第2推進力を発生するように前記推進機を制御し、前記第1推進力が前記第2推進力による前記船体の挙動を促進する推進力になるように前記トローリングモータを制御する、請求項1~3のいずれか一項に記載の操船システム。
【請求項7】
前記トローリングモータが、前記船体に対する推進力の方向を変化させる転舵ユニットを含み、
前記船体の方位又は位置の保持を指令するために操船者によって操作される第2操作子をさらに含み、
前記コントローラが、前記第2操作子による指令に応じて、前記第1推進力が前記船体の方位又は位置を保持するための大きさ及び方向の推進力になるように前記トローリングモータを制御し、
前記トローリングモータが前記第1推進力を発生している状態において、前記第1操作子による指令があると、前記コントローラが、前記第2操作子による指令を無効にする、請求項4~6のいずれか一項に記載の操船システム。
【請求項8】
前記推進機が、前記船体に設けられるただ一つの推進機である、請求項1~7のいずれか一項に記載の操船システム。
【請求項9】
前記推進機が、前記船体の船尾に設けられ、
前記トローリングモータが、前記船体おいて前記推進機よりも前方の部分に外付けされる、請求項1~8のいずれか一項に記載の操船システム。
【請求項10】
前記トローリングモータが、前記船体の船首に外付けされる、請求項9に記載の操船システム。
【請求項11】
船体と、
前記船体に搭載される請求項1~10のいずれか一項に記載の操船システムとを含む船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操船システム、及び、これを含む船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、主推進モータ及びトローリングモータを備えたボートを開示している。ボートの操船者は、ボート内で主推進モータ及びトローリングモータから離れた位置において光学送信機を使用することによって、主推進モータ及びトローリングモータを遠隔制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のボートでは、操船者は、光学送信機によって主推進モータ及びトローリングモータの両方を遠隔制御できるが、トローリングモータを使用している状況で主推進モータの推進力を利用したいときには、操作が煩雑になる。具体的には、操船者は、トローリングモータを停止する操作を行い、その後に主推進モータから推進力を発生させるための操作を行う必要がある。トローリングモータを停止しなければ、主推進モータを作動させたときに、トローリングモータの推進力の影響を受けるので、操船者には、きめ細かな操作が求められる。トローリングモータを停止させるのではなく、その推進力の大きさ又は方向を調整して、トローリングモータの推進力を利用しながら、主推進モータの推進力を併せて利用することができるかもしれない。しかし、その場合も、トローリングモータの推進力を調整する操作を行い、かつ主推進モータの推進力を調整する操作を行わなければならないから、きめ細かな操作が求められる。しかも、主推進モータおよびトローリングモータの両方の推進力を利用して所望の船体挙動を得るためには、相応の操船技術が必要であり、操船者には、熟練を要する。
【0005】
また、特許文献1に具体的な記載はないが、トローリングモータが発生する推進力は、主推進モータが発生する推進力よりも小さいのが一般的である。そのため、例えばトローリングモータが発生する推進力によって停止中又は低速移動中の船舶を急発進させたい場合には、操船者は、トローリングモータよりも主推進モータを優先して駆動させようとするはずである。このときに主推進モータの駆動だけでなくトローリングモータの駆動も考慮すれば、ボートの挙動を操船者の意図に近付けるための改善を見込める。
【0006】
そこで、本発明の一実施形態は、トローリングモータと、トローリングモータとは別の推進機とを含み、熟練を要する操船技術を必要としなくても、きめ細かな操作を不要とした操船ができる操船システム及び船舶を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態は、船体に設けられる推進機と、前記船体に外付けされるトローリングモータと、第1操作子と、コントローラとを含む、操船システムを提供する。前記第1操作子は、前記推進機が船体に加えるべき推進力の大きさ及び方向の少なくとも一方を指令するために操船者によって操作される。前記トローリングモータが第1推進力を発生している状態において、前記第1操作子による指令に応じて、前記コントローラが、第2推進力を発生するように前記推進機を制御する。さらに、前記コントローラが、前記第1推進力が変化するように前記トローリングモータを制御する。
【0008】
この構成により、船体挙動がトローリングモータの第1推進力によって実現されている状態において、船体挙動が主に推進機の推進力によって実現されるように変更したい操船者は、第1操作子を操作すればよい。操船者が第1操作子を操作すると、推進機が第2推進力を発生するとともに、トローリングモータの第1推進力が変化する。このように、第1操作子を操作すると、その指令に応答して推進機及びトローリングモータが統合制御されるので、操船者には、トローリングモータの第1推進力と推進機の第2推進力とを個別に調整するような熟練を要する操船技術が必要とされない。そして、第1推進力の変化に応じて、第1推進力が船体挙動に与える影響が低下すれば、船体挙動は、主に第2推進力によって自動的に実現されるので、操船者は、きめ細かな操作を不要とした操船ができる。
【0009】
本発明の一実施形態においては、前記トローリングモータが前記第1推進力を発生している状態において、前記第1操作子による指令に応じて、前記コントローラが、前記第2推進力を発生するように前記推進機を制御する。さらに、前記コントローラが、前記第1推進力の大きさが前記第2推進力の大きさと異なるように前記トローリングモータを制御する。
【0010】
この構成により、船体挙動がトローリングモータの第1推進力によって実現されている状態において、船体挙動が主に推進機の推進力によって実現されるように変更したい操船者は、第1操作子を操作すればよい。操船者が第1操作子を操作すると、推進機が第2推進力を発生するとともに、トローリングモータの第1推進力の大きさが第2推進力の大きさと異なるように変化する。第1推進力の大きさの変化に応じて、第1推進力が船体挙動に与える影響が低下すれば、船体挙動は、主に第2推進力によって自動的に実現されるので、操船者は、きめ細かな操作を不要とした操船ができる。
【0011】
本発明の一実施形態においては、前記トローリングモータが前記第1推進力を発生している状態において、前記第1操作子による指令に応じて、前記コントローラが、前記第2推進力を発生するように前記推進機を制御する。さらに、前記コントローラが、前記第1推進力の方向が前記第2推進力の方向と異なるように前記トローリングモータを制御する。
【0012】
この構成により、船体挙動がトローリングモータの第1推進力によって実現されている状態において、船体挙動が主に推進機の推進力によって実現されるように変更したい操船者は、第1操作子を操作すればよい。操船者が第1操作子を操作すると、推進機が第2推進力を発生するとともに、トローリングモータの第1推進力の方向が第2推進力の方向と異なるように変化する。第1推進力の方向の変化に応じて、第1推進力が船体挙動に与える影響が低下すれば、船体挙動は、主に第2推進力によって自動的に実現されるので、操船者は、きめ細かな操作を不要とした操船ができる。
【0013】
本発明の一実施形態においては、前記トローリングモータが前記第1推進力を発生している状態において、前記コントローラが、前記第1操作子による指令に応じて、前記第1推進力が低下するように前記トローリングモータを制御する。
この構成により、トローリングモータの第1推進力によって実現されている船体挙動を主に推進機の推進力によって実現されるように変更したい操船者が第1操作子を操作すると、推進機が第2推進力を発生するとともに、第1推進力が低下する。第1推進力の低下に応じて、第1推進力が船体挙動に与える影響が低下する。これにより、船体挙動は、主に第2推進力によって自動的に実現されるので、操船者は、きめ細かな操作を不要とした操船ができる。
【0014】
本発明の一実施形態においては、前記トローリングモータが前記第1推進力を発生している状態において、前記コントローラが、前記第1操作子による指令に応じて、前記トローリングモータを停止させる。
この構成により、トローリングモータの第1推進力によって実現されている船体挙動を主に推進機の推進力によって実現されるように変更したい操船者が第1操作子を操作すると、推進機が第2推進力を発生するとともに、トローリングモータが停止する。トローリングモータの停止に応じて第1推進力が零になるので、第1推進力が船体挙動に与える影響が消滅する。これにより、船体挙動は、第2推進力によって自動的に実現されるので、操船者は、きめ細かな操作を不要とした操船ができる。
【0015】
本発明の一実施形態においては、前記コントローラが、前記第1操作子による指令に応じて、前記第2推進力を発生するように前記推進機を制御する。さらに、前記コントローラが、前記第1推進力が前記第2推進力による前記船体の挙動を促進する推進力になるように前記トローリングモータを制御する。
この構成により、トローリングモータの第1推進力によって実現されている船体挙動を主に推進機の推進力によって実現されるように変更したい操船者は、第1操作子を操作すればよい。操船者が第1操作子を操作すると、推進機が第2推進力を発生するとともに、第1推進力が、第2推進力による船体挙動を促進する推進力に自動的になるので、操船者は、きめ細かな操作を不要とした操船ができる。
【0016】
本発明の一実施形態においては、前記トローリングモータが、前記船体に対する推進力の方向を変化させる転舵ユニットを含む。前記操船システムが、前記船体の方位又は位置の保持を指令するために操船者によって操作される第2操作子をさらに含む。前記コントローラが、前記第2操作子による指令に応じて、前記第1推進力が前記船体の方位又は位置を保持するための大きさ及び方向の推進力になるように前記トローリングモータを制御する。前記トローリングモータが前記第1推進力を発生している状態において、前記第1操作子による指令があると、前記コントローラが、前記第2操作子による指令を無効にする。
【0017】
この構成により、操船者が第2操作子を操作すると、トローリングモータの第1推進力が、船体の向き又は位置を保持するための大きさ及び方向の推進力になるので、船体の向き又は位置が第1推進力によって保持される。この状態において、船体の向きや位置の保持をキャンセルして船体挙動が主に推進機の推進力によって実現されるように変更したい操船者は、第1操作子を操作すればよい。操船者が第1操作子を操作すると、先ほどの第2操作子の操作による指令が無効になるので、トローリングモータの第1推進力によって船体の向き又は位置が保持されなくなり、推進機が第2推進力を発生する。これにより、第1推進力が船体挙動に与える影響が低下して、船体挙動は、主に第2推進力によって自動的に実現されるので、操船者は、きめ細かな操作を不要とした操船ができる。
【0018】
本発明の一実施形態においては、前記推進機が、前記船体に設けられるただ一つの推進機である。この構成により、船体挙動がトローリングモータの第1推進力によって実現されている状態において、船体挙動が主に推進機の推進力によって実現されるように変更したい操船者は、第1操作子を操作すればよい。操船者が第1操作子を操作すると、ただ一つの推進機が第2推進力を発生するとともに、トローリングモータの第1推進力が変化する。第1推進力の変化に応じて、第1推進力が船体挙動に与える影響が低下すれば、船体挙動は、主に第2推進力によって自動的に実現されるので、操船者は、きめ細かな操作を不要とした操船ができる。
【0019】
本発明の一実施形態においては、前記推進機が、前記船体の船尾に設けられ、前記トローリングモータが、前記船体おいて前記推進機よりも前方の部分に外付けされる。この構成により、船体において推進機よりも前方の部分に外付けされるトローリングモータの第1推進力によって船体挙動が実現されている状態において、船体挙動が主に推進機の推進力によって実現されるように変更したい操船者は、第1操作子を操作すればよい。操船者が第1操作子を操作すると、推進機が第2推進力を発生するとともに、トローリングモータの第1推進力が変化する。第1推進力の変化に応じて、第1推進力が船体挙動に与える影響が低下すれば、船体挙動は、主に第2推進力によって自動的に実現されるので、操船者は、きめ細かな操作を不要とした操船ができる。
【0020】
本発明の一実施形態においては、前記トローリングモータが、前記船体の船首に外付けされる。この構成により、船体の船首に外付けされるトローリングモータの第1推進力によって船体挙動が実現されている状態において、船体挙動が主に推進機の推進力によって実現されるように変更したい操船者は、第1操作子を操作すればよい。操船者が第1操作子を操作すると、推進機が第2推進力を発生するとともに、トローリングモータの第1推進力が変化する。第1推進力の変化に応じて、第1推進力が船体挙動に与える影響が低下すれば、船体挙動は、主に第2推進力によって自動的に実現されるので、操船者は、きめ細かな操作を不要とした操船ができる。
【0021】
本発明の一実施形態は、船体と、前記船体に搭載される前記操船システムとを含む船舶を提供する。この構成により、船舶では、船体挙動がトローリングモータの第1推進力によって実現されている状態において、船体挙動が主に推進機の推進力によって実現されるように変更したい操船者は、第1操作子を操作すればよい。操船者が第1操作子を操作すると、推進機が第2推進力を発生するとともに、トローリングモータの第1推進力が変化する。第1推進力の変化に応じて、第1推進力が船体挙動に与える影響が低下すれば、船体挙動は、主に第2推進力によって自動的に実現されるので、操船者は、きめ細かな操作を不要とした操船ができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、トローリングモータと、トローリングモータとは別の推進機とを含み、熟練を要する操船技術を必要としなくても、きめ細かな操作を不要とした操船ができる操船システム及び船舶を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係る船舶の構成を説明するための概念図である。
【
図2】船舶に備えられた推進機の構成を説明するための図解的な断面図である。
【
図5】第1例に係る操船による船舶の挙動を説明するための図である。
【
図6】第2例に係る操船による船舶の挙動を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、本発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る船舶1の構成を説明するための概念図である。図中、船舶1の前進方向(船首方向)を矢印FWDで示し、その後進方向(船尾方向)を矢印BWDで示してある。さらに、船舶1の右舷(スターボードサイド)方向を矢印RIGHTで表し、その左舷(ポートサイド)方向を矢印LEFTで表してある。この実施形態における船舶1は、最大で25フィート程度の全長を有する小型又は中型のフィッシングボートである。
【0025】
船舶1は、船体2と、船体2に搭載される操船システム3とを含む。操船システム3は、推進機の一例としての船外機4と、船外機4とは別に設けられて船体2に外付けされるトローリングモータ5と、これらを制御するコントローラ6とを含む。
船舶1は、船外機4を一つだけ備えている。つまり、船外機4は、トローリングモータ5以外に船体2に設けられるただ一つの推進機である。船外機4は、船舶1における主推進機である。船外機4は、船体2の瞬間的な旋回中心P(後述する
図5等を参照)よりも後方で推進力を船体2に作用させるように設計されている。この実施形態では、船外機4は、船体2の船尾(トランサム)2Aにおいて左右方向における中央部に設けられている。船体2の中心線Cは、船尾2Aの中央部と船首2Bとを通っている。船外機4には、電子制御ユニット(以下では「ECU」という。)7が内蔵されている。ただし、
図1では、便宜上、船外機4とECU7とは分離して表してある(後述するECU57についても同様)。この実施形態におけるECU7は、船外機4に内蔵されたエンジン29(後述する)の動作を主に制御するECU7Aと、後述する操舵角に関して船外機4を制御するステアリング制御ユニットであるECU7Bとに分かれている。
【0026】
船体2の操船席には、操船のための操船台10が設けられている。操船台10には、舵取りのために操作されるステアリング操作部11と、船外機4の出力調整のために操作されるスロットル操作部12と、舵取り及び船外機4の出力調整のために操作されるジョイスティック13とが備えられている。ステアリング操作部11、スロットル操作部12及びジョイスティック13は、船外機4が船体2に加えるべき推進力の大きさ及び方向の少なくとも一方をコントローラ6やECU7等に指令するために操船者によって操作される第1操作子の一例である。第1操作子は、操船システム3に含まれる。操船台10では、例えば、ステアリング操作部11が左寄りの位置に配置され、スロットル操作部12が右寄りの位置に配置され、ジョイスティック13がステアリング操作部11とスロットル操作部12との間に配置されている。なお、操船台10におけるステアリング操作部11、スロットル操作部12及びジョイスティック13のレイアウトは任意に変更できる。
【0027】
ステアリング操作部11は、左右に回動可能なステアリングハンドル11Aを備えている。スロットル操作部12は、前後方向に所定角度範囲で回動可能なスロットルレバー12Aを備えている。スロットルレバー12Aを中立位置から前方へ所定量傾倒させたときのスロットルレバー12Aの傾倒位置は、前進シフトイン位置である。スロットルレバー12Aを中立位置から後方へ所定量傾倒させたときのスロットルレバー12Aの傾倒位置は、後進シフトイン位置である。スロットルレバー12Aの頭部は、この実施形態では、ほぼ水平な把持部を形成しているが、当該頭部の形状は任意に変更できる。
【0028】
ジョイスティック13は、操船台10から突設されたレバーである。ジョイスティック13は、操船者の操作によって前後左右の自由な方向に傾倒させることができる。ジョイスティック13の頭部には、ジョイスティック13の軸線まわりに回動操作することができるノブ13Aが設けられている。ノブ13Aの代わりに、ジョイスティック13全体が、その軸線まわりに回動操作できてもよい。
【0029】
コントローラ6は、マイクロコンピュータを含むBCU(基本制御ユニット)であり、航走制御装置とも呼ばれる。コントローラ6は、船体2内に配置された通信バス14を介して、ECU7との間で通信を行う。具体的には、操船システム3は、コントローラ6とECU7とを中継する別のECU8をさらに含む。通信バス14は、例えばCAN(Control Area Network)によって構成されている。通信バス14は、コントローラ6とECU8とをつなぐ第1通信バス14Aと、ECU7とECU8とをつなぐ第2通信バス14Bとを含む。ステアリング操作部11は、第2通信バス14Bに接続されている。スロットル操作部12及びジョイスティック13のそれぞれは、第1通信バス14Aに接続されている。スロットル操作部12は、有線又は無線の通信線15を介してECU8にローカル接続されている。
【0030】
この実施形態では、ステアリング操作部11及びスロットル操作部12を用いた操船(以下では「ステアリング操船」という。)と、ジョイスティック13を用いた操船(以下では「ジョイスティック操船」という。)とが可能である。ステアリング操船の場合、ステアリングハンドル11Aの操作量を表わす信号と、スロットルレバー12Aの操作量を表す信号とが、ECU7に入力される。これらの信号は、目標シフト位置(前進、ニュートラル、後進)、目標スロットル開度及び目標操舵角を表すデータ(以下では「目標データ」という。)を含む。ジョイスティック操船の場合、ジョイスティック13の傾倒量及びノブ13Aの回動操作量を表す信号が、コントローラ6に入力される。この信号は、目標データを含む。コントローラ6は、ECU7に対して、目標データを与える。
【0031】
図2は、船外機4の構成を説明するための図解的な断面図である。船外機4は、その本体をなす推進ユニット20と、推進ユニット20を船尾2Aに取り付ける取り付け機構21とを含む。取り付け機構21は、船尾2Aに着脱自在に固定されるクランプブラケット22と、クランプブラケット22に水平回動軸としてのチルト軸23を中心に回動自在に結合されたスイベルブラケット24とを備えている。推進ユニット20は、スイベルブラケット24に、垂直回動軸としての操舵軸25まわりに回動自在に取り付けられている。これにより、推進ユニット20を操舵軸25まわりに回動させることによって、操舵角を変化させることができる。操舵軸25は、平面視において船体2の中心線C上に配置されている。操舵角は、船体2の中心線Cに対する船外機4の推進力の方向である。また、スイベルブラケット24をチルト軸23まわりに回動させることによって、推進ユニット20のトリム角を変化させることができる。トリム角は、船体2に対する船外機4の取り付け角に対応する。
【0032】
推進ユニット20のハウジングは、トップカウリング26とアッパケース27とロアケース28とで構成されている。トップカウリング26内には、駆動源となるエンジン29が、そのクランク軸の軸線が上下方向となるように設置されている。エンジン29のクランク軸下端に連結される動力伝達用のドライブシャフト30は、上下方向にアッパケース27内を通ってロアケース28内にまで延びている。
【0033】
ロアケース28の下部後方には、推進力発生部材となるプロペラ31が回転自在に装着されている。ロアケース28内には、プロペラ31の回転軸であるプロペラシャフト32が水平方向に通されている。プロペラシャフト32には、ドライブシャフト30の回転が、クラッチ機構としてのシフト機構33を介して伝達される。
シフト機構33は、ドライブシャフト30の下端に固定された駆動ギヤ33Aと、プロペラシャフト32上に回動自在に配置された前進ギヤ33B及び後進ギヤ33Cと、前進ギヤ33B及び後進ギヤ33Cの間に配置されたドッグクラッチ33Dとを含む。駆動ギヤ33A、前進ギヤ33B及び後進ギヤ33Cのそれぞれは、ベベルギヤからなる。前進ギヤ33Bは、前方から駆動ギヤ33Aに噛合しており、後進ギヤ33Cは後方から駆動ギヤ33Aに噛合している。そのため、前進ギヤ33B及び後進ギヤ33Cは互いに反対方向に回転される。
【0034】
ドッグクラッチ33Dは、プロペラシャフト32にスプライン結合されている。すなわち、ドッグクラッチ33Dは、プロペラシャフト32に対してその軸方向に摺動自在であるけれども、プロペラシャフト32に対する相対回動はできず、プロペラシャフト32とともに回転する。ドッグクラッチ33Dは、ドライブシャフト30と平行に上下方向に延びるシフトロッド34の軸周りの回動によって、プロペラシャフト32上で摺動される。これにより、ドッグクラッチ33Dは、前進ギヤ33Bと結合した前進位置と、後進ギヤ33Cと結合した後進位置と、前進ギヤ33B及び後進ギヤ33Cのいずれとも結合されないニュートラル位置とのいずれかのシフト位置に制御される。
【0035】
ドッグクラッチ33Dが前進位置にあるとき、前進ギヤ33Bの回転がドッグクラッチ33Dを介してプロペラシャフト32に伝達される。これにより、プロペラ31は、一方向に回転し、船体2を前進させる方向(前進方向)の推進力を発生する。このときのプロペラ31の回転を「正回転」という。一方、ドッグクラッチ33Dが後進位置にあるとき、後進ギヤ33Cの回転がドッグクラッチ33Dを介してプロペラシャフト32に伝達される。後進ギヤ33Cは、前進ギヤ33Bとは反対方向に回転するため、プロペラ31は、反対方向に回転し、船体2を後進させる方向(後進方向)の推進力を発生する。このときのプロペラ31の回転を「逆回転」という。ドッグクラッチ33Dがニュートラル位置にあるとき、ドライブシャフト30の回転はプロペラシャフト32に伝達されない。すなわち、エンジン29とプロペラ31との間の駆動力伝達経路が遮断されるので、いずれの方向の推進力も生じない。
【0036】
エンジン29に関連して、このエンジン29を始動させるためのスタータモータ35が配置されている。スタータモータ35は、ECU7Aによって制御される。また、エンジン29のスロットルバルブ36を作動させてスロットル開度を変化させ、エンジン29の吸入空気量を変化させるためのスロットルアクチュエータ37が備えられている。スロットルアクチュエータ37は、電動モータからなっていてもよい。スロットルアクチュエータ37の動作は、ECU7Aによって制御される。エンジン29には、さらに、スロットル開度を検出してECU7Aに入力するスロットル開度センサ38が備えられている。
【0037】
シフトロッド34に関連して、シフトロッド34を回動させてドッグクラッチ33Dのシフト位置を変化させるためのシフトアクチュエータ39(クラッチ作動装置)が設けられている。シフトアクチュエータ39は、例えば、電動モータからなり、ECU7Aによって動作制御される。
推進ユニット20には、例えば前方へ延びる操舵ロッド40が固定されている。操舵ロッド40には、ECU7Bによって制御される操舵アクチュエータ41が結合されている。操舵アクチュエータ41は、例えば、DCサーボモータ及び減速器を含む構成とすることができる。操舵アクチュエータ41を駆動することによって、推進ユニット20を操舵軸25まわりに回動させることができ、舵取り操作を行うことができる。このように、操舵アクチュエータ41、操舵ロッド40及び操舵軸25は、船外機4において操舵角を変化させる転舵ユニット42を構成している。転舵ユニット42には、操舵角を検出してECU7Bに入力する操舵角センサ43が備えられている。操舵角センサ43は、例えば、ポテンショメータからなる。
【0038】
推進ユニット20は、エンジン29の作動によるドライブシャフト30の回転に連動して作動するジェネレータ44をさらに含む。ジェネレータ44の一例は、モータであり、この実施形態では、作動することによって直流電力を発電する。このように、推進ユニット20は、エンジン29によって推進力及び電力を発生する。
クランプブラケット22とスイベルブラケット24との間には、例えば液圧シリンダを含み、ECU7によって制御されるトリムアクチュエータ45が設けられている。トリムアクチュエータ45は、チルト軸23まわりにスイベルブラケット24を回動させることにより、推進ユニット20をチルト軸23まわりに回動させる。これらは、推進ユニット20のトリム角を変化させるためのトリムユニットを構成している。トリム角は、トリム角センサ46によって検出される。トリム角センサ46の出力信号はECU7に入力される。
【0039】
図3は、船舶1の船首部分の側面図である。トローリングモータ5は、大型の船舶の製造時に船体の船首に組み込まれるバウスラスタ(図示せず)とは異なり、完成した船舶1に後から外付けされるアフターパーツである。トローリングモータ5は、トローリングモータ5を通って上下方向に延びる回転軸線Jまわりの任意の方向の推進力を船体2に与えるように設計された推進機である。
【0040】
この実施形態におけるトローリングモータ5は、電動である。トローリングモータ5は、PWM(Pulse Width Modulation)制御される電動モータ50と、電動モータ50により回転駆動されることによって推進力を発生するプロペラ51とを含む。プロペラ51は、電動モータ50から露出されるように電動モータ50に取り付けられてもよいし、いわゆるダクトプロペラのように電動モータ50内に内蔵されてもよい。
【0041】
トローリングモータ5は、回転軸線Jを通って電動モータ50から上方へ延びる回転軸52と、船首2Bに固定されて回転軸52を回転軸線Jまわりに回転可能に支持するブラケット53とをさらに含む。回転軸52の上部は、ブラケット53よりも上方へ突出している。回転軸52の上端部には、水中におけるプロペラ51の向きを示すインジケータ(図示せず)等を有する操作盤54が設けられている。ブラケット53の上面には、操船者がトローリングモータ5を直接操縦するために足で操作するフットペダル等の操作部55が設けられている。
【0042】
トローリングモータ5は、例えばブラケット53に内蔵されて回転軸52及び電動モータ50を回転軸線Jまわりに回転させる電動の転舵ユニット56と、例えば操作盤54に内蔵されて電動モータ50及び転舵ユニット56を制御するECU57と、操作盤54につながったハーネス58とをさらに含む。
転舵ユニット56は、例えばサーボモータで構成されている。転舵ユニット56は、電動モータ50を回転軸線Jまわりに回転させて電動モータ50の向きを360度の範囲内で変えることによって、回転するプロペラ51が発生する推進力の方向を変える。これにより、船体2の中心線Cに対するトローリングモータ5の推進力の方向(以下、「転舵角」という。)が変化する。ハーネス58は、操作盤54内でECU57に接続され、回転軸52内を通って電動モータ50及び転舵ユニット56にも接続されている。
【0043】
使用状態のトローリングモータ5は、電動モータ50及びプロペラ51が水面Wよりも下方に位置するように、船体2において船外機4よりも前方の部分に外付けされている。この実施形態では、トローリングモータ5は、船体2の船首2Bに外付けされている。なお、トローリングモータ5を使用しない場合には、回転軸52が、例えば前後方向に傾くことによって、電動モータ50及びプロペラ51が水面Wよりも上方に配置されてもよい。
【0044】
図4は、操船システム3の電気的構成を示すブロック図である。操船システム3は、船舶1の前進速度及び後進速度を検出してコントローラ6に入力する速度センサ60と、船舶1の現在位置信号を生成してコントローラ6に入力する位置検出装置61とをさらに含む。速度センサ60は、ピトー管を用いて構成することができる。速度センサ60は、対水速度を検出するものでも、対地速度を検出するものでもよい。位置検出装置61は、船舶1の現在位置信号を生成するものであり、例えば、GPS(Global Positioning System)衛星からの電波を受信して現在位置情報を生成するGPS受信機で構成することができる。現在位置信号は、船体2の方位(舳先の向き)の情報を含んでもよい。位置検出装置61は、トローリングモータ5に搭載されてもよい。
【0045】
操船システム3は、ステアリングハンドル11Aの回動操作位置を検出してECU7に入力するステアリングセンサ62をさらに含む。操船システム3は、スロットルレバー12Aの前後方向の傾倒量を検出してECU7に入力するスロットルセンサ63をさらに含む。ステアリングセンサ62及びスロットルセンサ63は、それぞれ、ポテンショメータで構成することができる。
【0046】
操船システム3は、前後方向におけるジョイスティック13の傾倒位置を検出してコントローラ6に入力する前後センサ64と、左右方向におけるジョイスティック13の傾倒量を検出してコントローラ6に入力する左右センサ65とをさらに含む。操船システム3は、ノブ13Aの操作位置(回動操作方向及び回動操作量)を検出してコントローラ6に入力する回動センサ66をさらに含む。前後センサ64、左右センサ65及び回動センサ66は、それぞれ、ポテンショメータで構成することができる。
【0047】
操船システム3は、船体2の回頭を抑制して船体2の方位を保持するために操船者によって押下操作される方位保持ボタン67と、船体2の位置を現在位置に保持するために操船者によって押下操作される定点保持ボタン68とをさらに含む。方位保持ボタン67及び定点保持ボタン68は、船体2の方位又は位置の保持をコントローラ6に指令するために操船者によって操作される第2操作子の一例である。方位保持ボタン67及び定点保持ボタン68は、例えば、ジョイスティック13に設けられている(
図1参照)。方位保持ボタン67が押下操作されると、その旨を示す信号がコントローラ6に入力される。定点保持ボタン68が押下操作されると、その旨を示す信号がコントローラ6に入力される。
【0048】
操船システム3は、船体2に搭載されてトローリングモータ5に電力を供給するバッテリ69と、船外機4のジェネレータ44が発生する電力をバッテリ69の充電用の電力に変換するコンバータ70とをさらに含む。バッテリ69は、例えば、直列接続された2つのバッテリ(定格出力:12V)を含む。バッテリ69は、船外機4が発生する電力によって充電される。トローリングモータ5のハーネス58に含まれる電力供給線58Aが、直接又はケーブル71を介してバッテリ69につながっている。トローリングモータ5は、バッテリ69からの電力で駆動されることによって推進力を発生する。具体的には、トローリングモータ5では、電動モータ50が、バッテリ69の電力供給を受けてプロペラ51を回転させ、バッテリ69の電力供給が遮断されることによってプロペラ51の回転速度を低下させる。トローリングモータ5では、転舵ユニット56が、バッテリ69の電力を受けて作動する。バッテリ69の電力の残量を示すインジケータ(図示せず)が、操船台10やトローリングモータ5の操作盤54に設けられてもよい。
【0049】
バッテリ69とコンバータ70とは、ケーブル72を介してつながっている。コンバータ70とジェネレータ44とは、ケーブル73を介してつながっている。この実施形態におけるコンバータ70は、ジェネレータ44が発生した直流電力を昇圧するDC-DCコンバータである。コンバータ70は、第1通信バス14Aにも接続されている(
図1参照)。操船システム3は、トローリングモータ5の出力(消費電力等)を検出してコントローラ6に入力する出力センサ74をさらに含む。ケーブル73の途中には、別のバッテリ76(定格出力:12V)が設けられている。バッテリ76は、船外機4に駆動電力を供給する。
【0050】
ハーネス58に含まれる信号線58Bは、直接又は通信バス14を介してコントローラ6につながっている。コントローラ6は、トローリングモータ5のECU57に対して、電動モータ50のPWM制御に関する指令や、転舵ユニット56の動作内容(電動モータ50の回転軸線Jまわりの回転方向及び回転角度)に関する指令を与える。電動モータ50のPWM制御に関する指令は、トローリングモータ5の出力についての指令値を含み、この指令値は、トローリングモータ5に入力される。指令値が入力されたトローリングモータ5では、ECU57が、PWM制御によって、この指令値に応じた推進力を発生するように電動モータ50を制御する。操船システム3は、電動モータ50の回転角度、つまり前述した転舵角を検出してECU57に入力する転舵角センサ75をさらに含む。転舵角センサ75は、例えば、ポテンショメータからなる。
【0051】
コントローラ6は、プロセッサ(CPU)及びメモリを含むマイクロコンピュータを備えていて、コントローラ6では、メモリに格納されたプログラムに従ってプロセッサが演算及び制御を実行することによって、各種機能が実現される。コントローラ6は、実質的に複数の機能処理部として動作する。これらの機能処理部には、船体2に作用させるべき推進力の目標値を設定する目標値設定部と、この目標値に応じて船外機4及びトローリングモータ5がそれぞれ発生すべき推進力についての個別の目標値を演算する推進力配分部とが含まれている。目標値設定部と推進力配分部とは、1つの機能処理部として一体化されてもよい。複数の機能処理部は、コントローラ6に集約されてもよいし、コントローラ6とECU8とに分散されてもよい。つまり、ECU8をコントローラ6の一部とみなしてもよい。ECU7及びECU57もコントローラ6の一部とみなしてもよい。
【0052】
以下では、操船に伴う船舶1の各部の動きについて説明する。船舶1では、トローリングモータ5が停止した状態で船外機4を作動させて、船外機4の推進力だけを用いた操船が可能である。船外機4の推進力だけを用いる場合には、ステアリング操作部11及びスロットル操作部12を用いたステアリング操船や、ジョイスティック13を用いたジョイスティック操船が可能である。操船者がステアリングハンドル11A、スロットルレバー12A及びジョイスティック13のいずれかを操作すると、コントローラ6又は船外機4のECU7には、操船者による操船要求が入力される。
【0053】
ステアリング操船の場合、操船要求がECU7に入力される。操船要求が入力されたECU7は、ステアリングセンサ62によって検出されるステアリングハンドル11Aのハンドル舵角(回動操作量及び回動方向)に応じて、目標操舵角を設定する。具体的には、中立位置から右方向へのステアリングハンドル11Aの回動操作に対しては、ECU7のECU7Bは、右旋回のための目標操舵角を設定する。同様に、中立位置から左方向へのステアリングハンドル11Aの回動操作に対しては、ECU7Bは、左旋回のための目標操舵角を設定する。いずれの場合も、中立位置からのステアリングハンドル11Aの回動操作量が大きいほど、目標操舵角は、その絶対値(中立位置からの偏角)が大きな値とされる。ECU7Bは、操舵角センサ43によって検出される操舵角が目標操舵角に一致するように、操舵アクチュエータ41を制御する。
【0054】
操船要求が入力されたECU7は、スロットルセンサ63によって検出されるスロットルレバー12Aの傾倒量に応じて、船外機4のための目標シフト位置及び目標スロットル開度を設定する。具体的には、スロットルレバー12Aの前方への傾倒量が前進シフトイン位置に相当する値以上であれば、ECU7Aは、船外機4の目標シフト位置を前進位置とする。スロットルレバー12Aが前進シフトイン位置を超えてさらに前方へ傾倒されると、ECU7Aは、その傾倒量が大きいほど、大きな目標スロットル開度を設定する。同様に、スロットルレバー12Aの後方への傾倒量が後進シフトイン位置に相当する値以上であれば、ECU7Aは、船外機4の目標シフト位置を後進位置とする。スロットルレバー12Aが後進シフトイン位置を超えてさらに後方へ傾倒されると、ECU7Aは、その傾倒量が大きいほど、大きな目標スロットル開度を設定する。
【0055】
スロットルレバー12Aの傾倒位置が前進シフトイン位置と後方シフトイン位置との間にあるときは、ECU7Aは、船外機4の目標シフト位置をニュートラル位置とする。このとき、エンジン29の駆動力はプロペラ31に伝達されないので、船外機4からの推進力は発生しない。すなわち、前進シフトイン位置と後進シフトイン位置との間の操作領域は、推進力の発生に関与しない不感帯である。
【0056】
このように目標シフト位置及び目標スロットル開度が設定されると、ECU7Aは、ドッグクラッチ33Dが目標シフト位置に配置されるように、シフトアクチュエータ39を制御する。ECU7Aは、スロットル開度センサ38によって検出されるスロットル開度が目標スロットル開度に一致するように、スロットルアクチュエータ37を制御する。
ジョイスティック操船の場合、操船要求が入力されたコントローラ6は、操船者によるジョイスティック13の前後方向の操作に応じて船外機4の目標シフト位置及び目標スロットル開度を生成する。また、コントローラ6は、操船者によるノブ13Aの回動操作に応じて船外機4の目標操舵角を生成する。別の動作例として、コントローラ6は、ジョイスティック13の前後方向の操作に応じて目標シフト位置及び目標スロットル開度を設定する一方で、ジョイスティック13の左右方向の操作に応じて目標操舵角を生成してもよい。
【0057】
具体的に、コントローラ6は、ジョイスティック13の前後方向の傾倒量に応じて目標シフト位置及び目標スロットル開度を生成する。より具体的には、ジョイスティック13の前方への傾倒量が前進シフトイン位置に相当する値以上であれば、コントローラ6は、目標シフト位置を前進位置とする。ジョイスティック13が前進シフトイン位置を超えてさらに前方へ傾倒されると、コントローラ6は、その傾倒量が大きいほど、大きな目標スロットル開度を設定する。同様に、ジョイスティック13の後方への傾倒量が後進シフトイン位置に相当する値以上であれば、コントローラ6は、目標シフト位置を後進位置とする。ジョイスティック13が後進シフトイン位置を超えてさらに後方へ傾倒されると、コントローラ6は、その傾倒量が大きいほど、大きな目標スロットル開度を設定する。ジョイスティック13の前後方向の傾倒位置が前進シフトイン位置と後方シフトイン位置との間にあるときは、コントローラ6は、目標シフト位置をニュートラル位置とする。
【0058】
コントローラ6は、ノブ13Aの回動操作量及び回動方向に応じて、目標操舵角を設定する。具体的には、右方向へのノブ13Aの回動操作に対しては、右旋回のための目標操舵角が設定され、その絶対値(中立位置からの偏角)は、中立位置からの回動操作量が大きいほど大きくされる。同様に、左方向へのノブ13Aの回動操作に対しては、左旋回のための目標操舵角が設定され、その絶対値は、中立位置からの回動操作量が大きいほど大きくされる。
【0059】
ジョイスティック13の左右への傾倒を目標操舵角の設定に用いる場合には、コントローラ6は、ジョイスティック13の右方向への傾倒操作に対しては、右旋回のための目標操舵角を設定する。同様に、ジョイスティック13の左方向への傾倒操作に対しては、コントローラ6は、左旋回のための目標操舵角を設定する。いずれの場合も、ジョイスティック13の中立位置からの傾倒量が大きいほど、目標操舵角は、その絶対値(中立位置からの偏角)が大きな値とされる。
【0060】
コントローラ6は、このように設定した目標値(目標シフト位置、目標スロットル開度及び目標操舵角)を船外機4のECU7に与える。ECU7Aは、ドッグクラッチ33Dが目標シフト位置に配置されるように、シフトアクチュエータ39を制御する。ECU7Aは、スロットル開度センサ38によって検出されるスロットル開度が目標スロットル開度に一致するように、スロットルアクチュエータ37を制御する。ECU7Bは、操舵角センサ43によって検出される操舵角が目標操舵角に一致するように、操舵アクチュエータ41を制御する。
【0061】
船舶1では、船外機4単独による操船(以下、「第1単独操船」という。)だけでなく、トローリングモータ5単独による操船(以下、「第2単独操船」という。)も可能である。例えば、釣り場に到着して船舶1を一旦停止させた操船者が、船舶1の方位や位置を微調整するために船首2Bに立ってトローリングモータ5の操作部55を足で操作する。すると、トローリングモータ5では、操船者による操作部55の操作に応じた大きさ及び向きの推進力が発生するように、ECU57が、電動モータ50及び転舵ユニット56を制御する。これにより、船舶1が、第2単独操船により、釣り場において操船者が望むポイントまで低速移動する。このとき、船外機4が停止せずにアイドリング状態にあって、ドッグクラッチ33Dがニュートラル位置にあってもよい。
【0062】
なお、操作部55は、取り外し可能なリモコンであってもよく、その場合には、操船者は、操船台10の周辺にいたままの状態で操作部55によってトローリングモータ5を遠隔操作することができる。また、操船者は、操作部55でなく、ジョイスティック13を操作することによって、トローリングモータ5を遠隔操作することもできる。以下では、ジョイスティック13によるトローリングモータ5の操作について説明する。
【0063】
船舶1では、船外機4とトローリングモータ5との連携による操船(以下、「連携操船」という。)も可能である。連携操船には、この実施形態ではジョイスティック13が用いられる。つまり、この実施形態では、連携操船は、前述したジョイスティック操船の一例である。もちろん、ジョイスティック13の代わりに、ステアリングハンドル11A及びスロットル操作部12が用いられてもよい。操船システム3は、操船モードを第1単独操船、第2単独操船及び連携操船のいずれかに切り替えるためのセレクタ80をさらに含む。セレクタ80は、それぞれの操船モードに応じたスイッチ80Aを含み、第1通信バス14Aに接続されている(
図1参照)。コントローラ6は、船外機4のエンジン29の駆動状態とスイッチ80Aの操作状態との組み合わせに応じて、それぞれの操船モードを実現する。
【0064】
一例として、コントローラ6は、操船モードを第2単独操船から連携操船に切り替える。この場合、コントローラ6は、ジョイスティック13の操作、つまりジョイスティック13による指令に応じて、船外機4及びトローリングモータ5の推進力の目標値を設定する。コントローラ6は、各推進機(具体的には各推進機のECU)を、個別の目標推進力(零の場合もある。)を発生するように制御することによって操船モードの切り替えを実現する。
【0065】
図5は、第1例に係る操船による船舶1の挙動を説明するための模式図である。船外機4の操舵角は、船体2の中心線Cに対する船外機4のプロペラ31の回転軸線の偏角であり、船首2Bから船尾2Aに向かう方向を0度とし、これに対して右回り(反時計回り)方向を正にとり、左回り(時計回り)方向を負にとったものである。プロペラ31の回転軸線は、船外機4が発生する推進力の作用線と、平面視で一致する。トローリングモータ5の転舵角も、操舵角と同様に定義でき、トローリングモータ5のプロペラ51の回転軸線は、トローリングモータ5が発生する推進力の作用線と、平面視で一致する。
【0066】
釣り場において所望のポイントに到着した操船者が、このポイントで釣りをするために方位保持ボタン67又は定点保持ボタン68を押下操作すると、これらの操作による保持指令が、コントローラ6に入力される。この指令の入力に応じて、コントローラ6は、船体2の位置又は方位を保持するための推進力の目標値を演算する。
具体的には、コントローラ6は、位置検出装置61が生成した船舶1の現在位置信号に基いて、船舶1の位置の瞬間的な変化量を演算し、この変化量から、船舶1に作用している波や波等による外力を演算する。そして、コントローラ6は、演算した外力に釣り合う大きさ及び方向の推進力の目標値を算出する。そして、コントローラ6は、目標値に基いて推進力を発生するようにトローリングモータ5を制御して駆動させる。この状態の操船モードは第2単独操船であり、トローリングモータ5が発生する推進力(以下、「第1推進力F1」という。)が目標値になることによって、船体2の回頭や漂流が抑制された状態で、船体2の方位又は位置が保持される。
【0067】
なお、操船者が方位保持ボタン67又は定点保持ボタン68を再び押下操作すると、方位保持又は定点保持の中止を表わす中止命令がコントローラ6に入力される。中止命令の入力があると、コントローラ6は、トローリングモータ5を停止させて、次の指令の入力を待機する。
釣り場の人気ポイントには、多数の船舶1が集中するので、方位又は位置の保持中の船舶1に別の船舶が接近することがある。この場合、方位又は位置を保持中の船舶1の操船者は、接近してくる別の船舶を回避したい場合には、回避したい方向へジョイスティック13を操作すればよい。船体2の方位又は位置の保持のためにトローリングモータ5が第1推進力F1を発生している状態において、ジョイスティック13の操作による指令があると、コントローラ6は、先ほどの方位保持ボタン67又は定点保持ボタン68による指令を無効にする。
【0068】
方位保持ボタン67又は定点保持ボタン68による指令を無効にしたコントローラ6は、操船モードを連携操船に切り替える。操船モードの切り替えに応じて、コントローラ6は、ジョイスティック13の操作に応じた目標値を設定して船外機4のECU7に与える。ECU7は、前述したように船外機4のシフトアクチュエータ39、スロットルアクチュエータ37及び操舵アクチュエータ41を制御することによって、目標値に応じた推進力(以下、「第2推進力F2」という。)を船外機4に発生させる。
【0069】
そして、コントローラ6は、第1推進力F1が従前の状態(第2単独操船での推進力)から変化して第2推進力F2と異なるようにトローリングモータ5を制御する。具体的には、コントローラ6は、第1推進力F1の大きさが第2推進力F2の大きさと異なるようにトローリングモータ5を制御したり、第1推進力F1の方向が第2推進力F2の方向と異なるようにトローリングモータ5を制御したりする。コントローラ6は、第1推進力F1の大きさ及び方向が第2推進力F2の大きさ及び方向とそれぞれ異なるようにトローリングモータ5を制御してもよい。
【0070】
コントローラ6は、第1推進力F1が変化するようにトローリングモータ5を制御するために、第1推進力F1を低下させてもよいし、トローリングモータ5を停止させて第1推進力F1を零にしてもよい。または、コントローラ6は、第1推進力F1が第2推進力F2による船体2の挙動を促進する推進力になるようにトローリングモータ5を制御してもよい。この場合、
図5では、第2推進力F2による船体2の左旋回を促進するように、コントローラ6は、左向きの第1推進力F1をトローリングモータ5に発生させる。
【0071】
以上のように、この実施形態によれば、トローリングモータ5が第1推進力F1を発生している状態において、ジョイスティック13等の第1操作子による指令に応じて、コントローラ6が、第2推進力F2を発生するように船外機4を制御する。この際、コントローラ6が、第1推進力F1が従前の状態から変化するようにトローリングモータ5を制御する。
【0072】
この構成により、船体2の挙動がトローリングモータ5の第1推進力F1によって実現されている状態において、船体2の挙動が主に船外機4の推進力によって実現されるように変更したい操船者は、第1操作子を操作すればよい。操船者が第1操作子を操作すると、船外機4が第2推進力F2を発生するとともに、トローリングモータ5の第1推進力F1が第2推進力F2と異なるように変化する。このように、第1操作子を操作すると、その指令に応答して船外機4及びトローリングモータ5が統合制御されるので、操船者には、トローリングモータ5の第1推進力F1と船外機4の第2推進力F2とを個別に調整するような熟練を要する操船技術が必要とされない。そして、第1推進力F1の変化に応じて、第1推進力F1が船体2の挙動に与える影響が低下すれば、船体2の挙動は、主に第2推進力F2によって自動的に実現されるので、操船者は、きめ細かな操作を不要とした操船ができる。
【0073】
特に、船舶1では、船外機4及びトローリングモータ5についての操船インターフェースが、第1操作子に統一されている。この場合、操船者は、前述したように接近してくる別の船舶を回避したい場合において、トローリングモータ5の操作部55を操作してトローリングモータ5を停止させてから第1操作子に持ち替えて船外機4を動かすといった操作から解放される。つまり、操船者が操船インターフェースを持ち替えずに直感的な操船を実現できるので、操船者の操作性の向上を図ることができる。なお、操作部55自体が存在しなくてもよい。
【0074】
この実施形態においては、トローリングモータ5が第1推進力F1を発生している状態において、第1操作子による指令に応じて、コントローラ6が、第2推進力F2を発生するように船外機4を制御する。さらに、コントローラ6が、第1推進力F1の大きさが第2推進力F2の大きさと異なるようにトローリングモータ5を制御する。
この構成により、船体2の挙動がトローリングモータ5の第1推進力F1によって実現されている状態において、船体2の挙動が主に船外機4の推進力によって実現されるように変更したい操船者は、第1操作子を操作すればよい。操船者が第1操作子を操作すると、船外機4が第2推進力F2を発生するとともに、トローリングモータ5の第1推進力F1の大きさが第2推進力F2の大きさと異なるように変化する。第1推進力F1の大きさの変化に応じて、第1推進力F1が船体2の挙動に与える影響が低下すれば、船体2の挙動は、主に第2推進力F2によって自動的に実現されるので、操船者は、きめ細かな操作を不要とした操船ができる。
【0075】
この実施形態においては、トローリングモータ5が第1推進力F1を発生している状態において、第1操作子による指令に応じて、コントローラ6が、第2推進力F2を発生するように船外機4を制御する。さらに、コントローラ6が、第1推進力F1の方向が第2推進力F2の方向と異なるようにトローリングモータ5を制御する。
この構成により、船体2の挙動がトローリングモータ5の第1推進力F1によって実現されている状態において、船体2の挙動が主に船外機4の推進力によって実現されるように変更したい操船者は、第1操作子を操作すればよい。操船者が第1操作子を操作すると、船外機4が第2推進力F2を発生するとともに、トローリングモータ5の第1推進力F1の方向が第2推進力F2の方向と異なるように変化する。第1推進力F1の方向の変化に応じて、第1推進力F1が船体2の挙動に与える影響が低下すれば、船体2の挙動は、主に第2推進力F2によって自動的に実現されるので、操船者は、きめ細かな操作を不要とした操船ができる。
【0076】
この実施形態においては、トローリングモータ5が第1推進力F1を発生している状態において、コントローラ6が、第1操作子による指令に応じて、第1推進力F1が低下するようにトローリングモータ5を制御する。
この構成により、トローリングモータ5の第1推進力F1によって実現されている船体2の挙動を主に船外機4の推進力によって実現されるように変更したい操船者が第1操作子を操作すると、船外機4が第2推進力F2を発生するとともに、第1推進力F1が低下する。第1推進力F1の低下に応じて、第1推進力F1が船体2の挙動に与える影響が低下する。これにより、船体2の挙動は、主に第2推進力F2によって自動的に実現されるので、操船者は、きめ細かな操作を不要とした操船ができる。
【0077】
前述したように、トローリングモータ5が第1推進力F1を発生している状態において、コントローラ6が、第1操作子による指令に応じて、トローリングモータ5を自動停止させてもよい。
この構成により、トローリングモータ5の第1推進力F1によって実現されている船体2の挙動を主に船外機4の推進力によって実現されるように変更したい操船者が第1操作子を操作すると、船外機4が第2推進力F2を発生するとともに、トローリングモータ5が停止する。トローリングモータ5の停止に応じて第1推進力F1が零になるので、第1推進力F1が船体2の挙動に与える影響が消滅する。これにより、船体2の挙動は、第2推進力F2によって自動的に実現されるので、操船者は、きめ細かな操作を不要とした操船ができる。
【0078】
この実施形態においては、コントローラ6が、第1操作子による指令に応じて、第2推進力F2を発生するように船外機4を制御する。さらに、コントローラ6が、第1推進力が第2推進力F2による船体2の挙動を促進する推進力になるようにトローリングモータ5を制御させてもよい。
この構成により、トローリングモータ5の第1推進力F1によって実現されている船体2の挙動を主に船外機4の推進力によって実現されるように変更したい操船者は、第1操作子を操作すればよい。操船者が第1操作子を操作すると、船外機4が第2推進力F2を発生するとともに、第1推進力F1が、第2推進力F2による船体2の挙動を促進する推進力に自動的になるので、操船者は、きめ細かな操作を不要とした操船ができる。
【0079】
この実施形態においては、操船者が方位保持ボタン67又は定点保持ボタン68を操作すると、トローリングモータ5の第1推進力F1が、船体2の向き又は位置を保持するための大きさ及び方向の推進力になる。これにより、船体2の向き又は位置が第1推進力F1によって保持される。この状態において、船体2の向きや位置の保持をキャンセルして船体2の挙動が主に船外機4の推進力によって実現されるように変更したい操船者は、第1操作子を操作すればよい。操船者が第1操作子を操作すると、先ほどの方位保持ボタン67又は定点保持ボタン68の操作による指令が無効になるので、トローリングモータ5の第1推進力F1によって船体2の向き又は位置が保持されなくなり、船外機4が第2推進力F2を発生する。これにより、第1推進力F1が船体2の挙動に与える影響が低下して、船体2の挙動は、主に第2推進力F2によって自動的に実現されるので、操船者は、きめ細かな操作を不要とした操船ができる。なお、操船者が方位保持ボタン67及び定点保持ボタン68の両方を操作することによって、船体2の向き及び位置の両方を保持できてもよい。
【0080】
この実施形態においては、船外機4が、船体2に設けられるただ一つの船外機4であり、船体2の船尾2Aに設けられ、トローリングモータ5が、船体2おいて船外機4よりも前方の部分(具体的には船首2B)に外付けされる。このような構成において、船体2の挙動がトローリングモータ5の第1推進力F1によって実現されている状態において、船体2の挙動が主に船外機4の推進力によって実現されるように変更したい操船者は、第1操作子を操作すればよい。操船者が第1操作子を操作すると、船外機4が第2推進力F2を発生するとともに、トローリングモータ5の第1推進力F1が変化する。第1推進力F1の変化に応じて、第1推進力F1が船体2の挙動に与える影響が低下すれば、船体2の挙動は、主に第2推進力F2によって自動的に実現されるので、操船者は、きめ細かな操作を不要とした操船ができる。
【0081】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明は、さらに他の形態で実施することもできる。いくつかの例を以下に列記する。
例えば、船外機4を一つだけ備えるタイプ(いわゆるシングル艇)である船舶1では、船外機4の推進力を船体2に対して左方のみ又は右方のみへ作用させることができないので、船外機4の推進力だけで船体2を左右へ並進移動させることはできない。「並進移動」とは、船体2の旋回中心Pまわりの回頭を伴わない直線移動である。小型又は中型のシングル艇は、入門モデルであることが多いが、並進移動の際には相応の操船技術が必要であり、操船者には熟練が要求される。
【0082】
しかし、船舶1では、船外機4及びトローリングモータ5による連携操船によって、船体2を左右へ並進移動させることができる。以下では、船舶1の船体2を、例えば右方へ並進移動させるための第2例に係る操船について説明する。
図6は、第2例に係る操船による船舶1の挙動を説明するための図である。
例えば、接岸のために操船者がジョイスティック13を右方へ傾倒させると、左右センサ65が検出した右方へのジョイスティック13の傾倒量を表す信号が、並進移動指令としてコントローラ6に入力される。このときに、コントローラ6は、船体2に与える推進力についての目標値を演算する。具体的には、ジョイスティック13の傾倒量に応じた右方への推進力Fが船体2に作用すれば、操船者が所望する速度で船体2を右方へ並進移動させることができる。そのためには、船外機4の第2推進力F2とトローリングモータ5の第1推進力F1との合力が、推進力Fになる必要がある。さらに、第2推進力F2による旋回中心Pまわりのヨーイングモーメント(以下、「モーメント」という。)と、第1推進力F1による旋回中心Pまわりのモーメントとが打ち消し合うように、第1推進力F1及び第2推進力F2の大きさを設定する必要がある。
【0083】
コントローラ6は、推進力Fの目標値を、ジョイスティック13の傾倒量に応じて設定する。そして、コントローラ6は、推進力Fが目標値になるために必要な第1推進力F1及び第2推進力F2のそれぞれの目標値を、トローリングモータ5の最大推進力等に基いて演算する。具体的には、コントローラ6は、トローリングモータ5について第1推進力F1及び転舵角θの目標値を演算し、船外機4について第2推進力F2及び操舵角λのそれぞれの目標値を演算する。その後の処理については、前述した通りである。
【0084】
船体2を右方へ並進移動させる場合には、コントローラ6は、第1推進力F1の作用線L1と第2推進力F2の作用線L2との交差位置Xが前後方向で旋回中心Pと一致し且つ旋回中心Pより右方に位置するように、転舵角θ及び操舵角λを変化させる。具体的には、コントローラ6は、転舵角θ及び操舵角λの互いの絶対値が同じになるように、船外機4の推進ユニット20を左方へ回動させ、トローリングモータ5のプロペラ51を平面視で時計回りまたは反時計回りさせる。そして、コントローラ6は、船外機4には前進方向の第2推進力F2を発生させ、トローリングモータ5には後進方向の第1推進力F1を発生させる。
【0085】
これにより、第1推進力F1と第2推進力F2との合力が右方への推進力Fとなって、船体2に作用する。このようにスラストベクタリングが実行されることにより、ジョイスティック13を操作した操船者が所望する速度で船体2が右方へ並進移動する。
船体2の並進移動について、右方への並進移動について説明したが、このような横移動は一例に過ぎず、連携操船は、斜め移動等の左右方向成分を含む全ての方向への並進移動に適用できる。もちろん、連携操船は、並進移動以外の移動(例えば通常航走中における旋回)にも適用できる。
【0086】
船外機4は、内燃機関であるエンジン29を備えたエンジン式の船外機でなく、エンジン29の代わりの電動モータによってプロペラ31を回転させる電動船外機であってもよい。また、船外機4は、複数設けられ、左右方向に並んだ状態で船尾2Aに取り付けられてもよい。また、トローリングモータ5が、電動でなく、エンジン式であってもよい。
船外機4の代わりに、船内外機や、ウォータージェットドライブを推進機の一例として用いてもよい。船内外機は、原動機が船内に配置され、推進力発生部材及び舵切り機構を含むドライブユニットが船外に配置されたものである。船内機は、原動機及びドライブユニットがいずれも船体に内蔵され、ドライブユニットからプロペラシャフトが船外に延び出た形態を有する。この場合、舵取り機構は別途設けられる。ウォータージェットドライブは、船底から吸い込んだ水をポンプで加速し、船尾の噴射ノズルから噴射することで推進力を得るものである。この場合、舵取り機構は、噴射ノズルと、この噴射ノズルを水平面に沿って回動させる機構とで構成される。
【0087】
以上で説明した様々な特徴は、適宜組み合わされてもよい。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0088】
1:船舶、2:船体、2A:船尾、2B:船首、3:操船システム、4:船外機、5:トローリングモータ、6:コントローラ、11:ステアリング操作部、12:スロットル操作部、13:ジョイスティック、56:転舵ユニット、67:方位保持ボタン、68:定点保持ボタン、F1:第1推進力、F2:第2推進力