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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022068626
(43)【公開日】2022-05-10
(54)【発明の名称】風味改善剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20220427BHJP
   A23L 27/24 20160101ALI20220427BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020177409
(22)【出願日】2020-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】000208086
【氏名又は名称】大洋香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(72)【発明者】
【氏名】山岡 優
(72)【発明者】
【氏名】青石 晃宏
【テーマコード(参考)】
4B047
【Fターム(参考)】
4B047LB07
4B047LE01
4B047LG22
4B047LG24
4B047LG38
4B047LG56
4B047LP19
(57)【要約】      (修正有)
【課題】糖類濃度やアルコール濃度を抑えつつ、ボディ感を向上させることができる風味改善剤を提供する。
【解決手段】クエン酸を多く含むことを特徴とする果汁を原料とし、クエン酸を資化できない酵母を使用して発酵を行い、発酵後の糖類の濃度が1%未満、アルコール濃度が1%未満である風味改善剤である。酵母は、サッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属、クルイベロマイセス属、キャンディダ属、ジゴサッカロマイセス属、ブレタノマイセス属から選ばれる一種又は二種以上を使用することができ、クエン酸を多く含むことを特徴とする果汁は、レモン、ライム、梅、カボス、すだち、シークワーサー、ゆず、アセロラから選ばれる一種又は二種以上を使用することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料としてクエン酸を多く含むことを特徴とする果汁を使用し、酵母で発酵を行い、発酵後の糖類の濃度が1%未満、アルコール濃度が1%未満であることを特徴とする風味改善剤。
【請求項2】
発酵前の糖類の濃度が1.5%未満であることを特徴とする請求項1に記載の風味改善剤。
【請求項3】
クエン酸を資化できない酵母を使用することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の風味改善剤。
【請求項4】
使用する酵母がサッカロマイセス属(Saccharomyces)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)、クルイベロマイセス属(Kluyveromyces)、キャンディダ属(Candida)、ジゴサッカロマイセス属(ZygoSaccharomyces)、ブレタノマイセス属(Brettanomyces)から選ばれる一種または二種以上であることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかに記載の風味改善剤。
【請求項5】
クエン酸を多く含むことを特徴とする果汁のBrix(°)あたりのクエン酸換算滴定酸度(%)(%/°)が0.20以上であることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかに記載の風味改善剤。
【請求項6】
クエン酸を多く含むことを特徴とする果汁のBrix(°)あたりのクエン酸換算滴定酸度(%)(%/°)が0.40以上であることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかに記載の風味改善剤。
【請求項7】
クエン酸を多く含むことを特徴とする果汁がレモン、ライム、梅、カボス、すだち、シークワーサー、ゆず、アセロラから選ばれる一種または二種以上であることを特徴とする請求項1~請求項6のいずれかに記載の風味改善剤。
【請求項8】
前記の糖類の種類がグルコース、フルクトース、スクロースであることを特徴とする請求項1~請求項7のいずれかに記載の風味改善剤。
【請求項9】
酵母発酵を16時間~72時間行うことを特徴とする請求項1~請求項8のいずれかに記載の風味改善剤。
【請求項10】
改善する風味がボディ感であることを特徴とする、請求項1~請求項9のいずれかに記載の風味改善剤。
【請求項11】
改善する風味がボディ感及び後味の切れの向上による味のバランスであることを特徴とする請求項1~請求項10のいずれかに記載の風味改善剤。
【請求項12】
請求項1~請求項11のいずれかに記載の風味改善剤が含まれてなる飲食品。
【請求項13】
原料としてクエン酸を多く含むことを特徴とする果汁を使用し、酵母で発酵を行い、発酵後の糖類の濃度が1%未満、アルコール濃度が1%未満であることを特徴とする風味改善剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品の風味を改善する風味改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では消費者の健康志向が高まり、飲料や冷菓等の幅広い食品で低糖質を訴求したものの需要が高まっている。また、飲料においては、上記に加えてアルコール濃度1%未満のノンアルコール飲料も同様に需要が高まっている。このような飲食品では、糖質やアルコール濃度を抑えるために原料を多量に配合することが難しいため、ボディ感をはじめとした喫食時の風味の物足りなさが課題となっている。このため、糖質やアルコールが少なく、かつ風味の補正ができる素材が求められている。
【0003】
風味の物足りなさを改善する方法として、一般的にみりんやワイン等の醸造酒を添加する方法が挙げられるが、これらは糖類やアルコールを多く含んでおり、また、繊細な風味を持つ飲料や冷菓等には風味が重くなりすぎるため適さないという欠点があった。また、ワインを40~60℃で熟成後に減圧濃縮しアルコール1.5~4.0%とする低アルコール濃縮ワインを用いる方法(特許文献1)、Brix26~70°の糖液類を、酵母を利用した固定化生体触媒により低温処理して得る低アルコール発酵飲食品用素材(特許文献2)等も知られている。しかしながら、前者の方法では減圧濃縮により糖分濃度が高くなってしまうこと、後者の方法では高濃度の糖液類を使用することから、低糖質を訴求する飲食品への風味補正には適さないという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4399576号公報
【特許文献2】特開昭61-128874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
糖類濃度やアルコール濃度を抑えつつ、自然に風味を補正する方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、クエン酸を多く含むことを特徴とする果汁を原料とし、クエン酸を資化できない酵母を使用して長時間培養することで、糖類濃度とアルコール濃度を低く抑えつつ強い風味改善効果を有することを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0007】
すなわち、前記課題を解決する手段は、以下のとおりである。
〔1〕原料としてクエン酸を多く含むことを特徴とする果汁を使用し、酵母で発酵を行い、発酵後の糖類の濃度が1%未満、アルコール濃度が1%未満であることを特徴とする風味改善剤。
〔2〕発酵前の糖類濃度が1.5%未満であることを特徴とする〔1〕に記載の風味改善剤。
〔3〕クエン酸を資化できない酵母を使用することを特徴とする〔1〕または〔2〕に記載の風味改善剤。
〔4〕使用する酵母がサッカロマイセス属(Saccharomyces)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)、クルイベロマイセス属(Kluyveromyces)、キャンディダ属(Candida)、ジゴサッカロマイセス属(ZygoSaccharomyces)、ブレタノマイセス属(Brettanomyces)から選ばれる一種または二種以上であることを特徴とする〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の風味改善剤。
〔5〕クエン酸を多く含むことを特徴とする果汁のBrix(°)あたりのクエン酸換算滴定酸度(%)(%/°)が0.20以上であることを特徴とする〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の風味改善剤。
〔6〕クエン酸を多く含むことを特徴とする果汁のBrix(°)あたりのクエン酸換算滴定酸度(%)(%/°)が0.40以上であることを特徴とする〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の風味改善剤。
〔7〕クエン酸を多く含むことを特徴とする果汁がレモン、ライム、梅、カボス、すだち、シークワーサー、ゆず、アセロラから選ばれる一種または二種以上であることを特徴とする〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の風味改善剤。
〔8〕前記の糖類の種類がグルコース、フルクトース、スクロースであることを特徴とする〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の風味改善剤。
〔9〕酵母発酵を16時間~72時間行うことを特徴とする〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の風味改善剤。
〔10〕改善する風味がボディ感であることを特徴とする、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の風味改善剤。
〔11〕改善する風味がボディ感及び後味の切れの向上による味のバランスであることを特徴とする〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の風味改善剤。
〔12〕〔1〕~〔11〕のいずれかに記載の風味改善剤が含まれてなる飲食品。
〔13〕原料としてクエン酸を多く含むことを特徴とする果汁を使用し、酵母で発酵を行い、発酵後の糖類の濃度が1%未満、アルコール濃度が1%未満であることを特徴とする風味改善剤の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、糖類及びアルコール濃度の低い、飲食品のボディ感、味のキレ、味のバランスを向上させることができる風味改善剤を提供することができる。
【0009】
本発明に係る風味改善剤を飲食品に添加することで、ボディ感、味のキレ、味のバランスの全てで呈味の向上効果が得られ、飲食品の総合的な官能評価の向上と共に、飲みごたえ感、もしくは食べごたえ感を付加させることができる。
【0010】
特に、本発明に係る風味改善剤を、クエン酸を多く含む果実の風味を有する飲食品に添加すると、明確にボディ感と味のキレ、味のバランスを向上させることができる。これにより、クエン酸を多く含む果実の風味を有する飲食品に対して、十分な飲みごたえ感、若しくは食べごたえ感を付加させることができる。また、クエン酸等の酸味料の一部を本発明に係る風味改善剤に置き換えることで、味のバランスを崩さずボディ感を向上させることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、清涼飲料水に本発明の発酵レモン果汁を添加した場合の官能評価の生データを示す。
図2図2は、低アルコール飲料に本発明の発酵レモン果汁を添加した場合の官能評価の生データを示す。
図3図3は、ぶどう果汁入り清涼飲料に本発明の発酵レモン果汁を添加した場合の官能評価の生データを示す。
図4図4は、低糖質氷菓に本発明の発酵レモン果汁を添加した場合の官能評価の生データを示す。
図5図5は、氷菓に本発明の発酵レモン果汁を添加した場合の官能評価の生データを示す。
図6図6は、清涼飲料水に本発明の発酵ライム果汁を添加した場合の官能評価の生データを示す。
図7図7は、清涼飲料水に本発明の発酵梅果汁を添加した場合の官能評価の生データを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体的に説明する。本発明の風味改善剤は、クエン酸を多く含む果汁を主原料とする酵母発酵液である。
【0013】
従来、糖類濃度やアルコール濃度を抑えつつ酵母発酵を行って風味付与するためには、原料配合を少なくして糖類の濃度を減らす方法や、酵母発酵時間を短く抑える方法が知られていた。しかし、前者では原料配合を少なくしなければならず、酵母発酵により生じる風味が弱くなってしまうという欠点があった。後者でも同様に、酵母発酵時間が短いために発酵風味が弱くなるという欠点があった。一方、本発明では、酵母が資化できないクエン酸を多く含む果汁を原料として用いることで、原料配合を増やして長時間の酵母発酵を行っても糖類濃度とアルコール濃度を抑えることができ、強い発酵風味を付与することが可能となる。
【0014】
本発明において「ボディ感」とは、単一の香りや、単純なうま味やコク味による味覚のみで表現されるものでなく、さまざまな香り、風味の複雑さよりくる、質感について表す言葉である。「ボディ」とは、例えばワインの質感を表現する言葉としても使用されることがある。ワインにおいてはアルコール度数やタンニン、ワイン造りに使用するぶどう由来の香りに加え、保存に使用する樽の香りなどが合わさり、複雑な味や香りが寄与することが知られている。なお、一般に言われる食品の「コク味」とは明確な定義がないが、「口中での風味の持続性、広がり、濃厚感」等が該当すると考えられ、前記のボディ感は異なる評価項目を意味する。
【0015】
本発明に係る発酵処理に使用される酵母は、クエン酸を資化できないこと、あるいは資化する速度が非常に遅くクエン酸からのアルコール生産能が無視できる程度に小さいことが必要である。クエン酸を資化できない、あるいは資化が非常に遅い酵母を用いることで、過剰なアルコール増加を抑えつつ、長時間の発酵を行うことが可能となる。加えて、酵母が果汁に含まれる糖類を資化することで、糖類の濃度を低減させつつ酵母発酵に由来する複雑な風味の付与が行われる。例えば、クエン酸を資化することが可能な一部のピキア属(Pichia)の酵母では、クエン酸を多く含む果汁を発酵させると高濃度のアルコールが生じてしまい、本発明には使用することができない。尚、以降はクエン酸が資化できない酵母と、クエン酸を資化する速度が非常に遅い酵母を合わせて、クエン酸を資化できない酵母と記載する。
【0016】
酵母のクエン酸資化に関しては、クエン酸のみを炭素源とした培地での培養試験を行うことで検証が可能である。本発明では、以下に示す方法で酵母のクエン酸資化性を評価した。即ち、炭素源以外の酵母培養に必要な栄養素を含むディフコイーストナイトロジェンベース(日本ベクトン・ディッキンソン(株)を使用し、これに炭素源を添加しない培地(以下、ブランク培地とする)、クエン酸を終濃度1.5%となるように添加した培地(以下、クエン酸添加培地とする)、グルコースを終濃度1.5%となるように添加した培地(以下、グルコース添加培地とする)を調製する。各培地は、塩酸または水酸化ナトリウムにて、事前にpH5.4±0.2に調整しておく。試験酵母は洗浄菌体を滅菌生理食塩水にて懸濁し、上記の各培地に初発OD660=0.05~0.2となるように接種し、30℃または37℃にて72時間静置培養した。培養開始時、及び培養終了時点でのOD660を測定し、培養終了時点の測定値から培養開始時の測定値を差し引き、OD660の増加値を各培地での生育として評価した。クエン酸添加培地でのOD660増加値をブランク培地でのOD660増加値で割った値が1.5以下となり、かつグルコース添加培地でのOD660増加値をブランク培地でのOD660増加値で割った値が2.5以上となった酵母を、クエン酸が資化できない菌株とした。
【0017】
本発明に係る発酵処理に使用される酵母はクエン酸資化能がなければ特に限定されないが、サッカロマイセス属(Saccharomyces)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)、クルイベロマイセス属(Kluyveromyces)、キャンディダ属(Candida)、ジゴサッカロマイセス属(ZygoSaccharomyces)、ブレタノマイセス属(Brettanomyces)等が好ましい。本発明に係る発酵処理に使用される酵母は、一種または二種以上を使用することができる。
【0018】
上記の菌種の菌株としては、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)としては、サッカロマイセス・セレビシエNBRC10217等の菌株が、サッカロマイセス・ユニスポラス(Saccharomyces unisporus)としてはサッカロマイセス・ユニスポラスNBRC724等の菌株が挙げられる。サッカロマイセス・セルバジー(Saccharomyces servazii)としてはサッカロマイセス・セルバジーNBRC1838等の菌株が、サッカロマイセス・エクシグス(Saccharomyces exiguus)としてはサッカロマイセス・エクシグスNBRC271等の菌株が挙げられる。シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)としてはシゾサッカロマイセス・ポンベNBRC345等の菌株が挙げられ、クルイベロマイセス・マルキシアナス(Kluyveromyces marxianus)としてはクルイベロマイセス・マルキシアナスNBRC1735等の菌株が挙げられる。キャンディダ・ユティリス(Candida utilis)としては、キャンディダ・ユティリスNBRC10707等の菌株が、ジゴサッカロマイセス・ロキシー(ZygoSaccharomyces roxii)としては、ジゴサッカロマイセス・ロキシーNBRC493等の菌株が、ブレタノマイセス・アノマルス(Brettanomyces anomalus)としては、ブレタノマイセス・アノマルスNBRC627等の菌株が挙げられる。以上の菌株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構生物遺伝資源部門、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターなど国内外の公的微生物保存機関から分譲を受けることが可能である。また、サッカロマイセス・セレビシエとしては、サッカロマイセス・セレビシエFY-229等の菌株が挙げられる。なお、サッカロマイセス・セレビシエFY-229株はサッカロマイセス・セレビシエFY-229株(NITE P-02668)として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託されている。
【0019】
本発明に用いられる果汁は、クエン酸を多く含むことを特徴とする果汁である。このような果汁としては、クエン酸を高濃度で含有するものであることが好ましく、例えば、果汁のBrix(°)あたりのクエン酸換算での滴定酸度(%/°)が0.2以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.4以上である果汁が好ましい。このような果汁としては、例えば、レモン、ライム、梅、柚子、かぼす、パッションフルーツ、ブラックカラント、ラズベリー、ストロベリー、グレープフルーツ、ブルーベリー、みかん、オレンジ、ピーチ、マンゴー、パイナップル、りんご、メロン、プルーン、西洋なし、ライチ、ぶどう等が好ましく、より好ましくは、レモン、ライム、梅、柚子、かぼす、パッションフルーツ、ブラックカラント、ラズベリー、ストロベリー、グレープフルーツ、ブルーベリーが挙げられ、さらに好ましくはレモン、ライム、梅、柚子、かぼす、パッションフルーツが挙げられる。これらの果汁は、濃縮度合、清澄化の有無は問われない。
【0020】
クエン酸を多く含むことを特徴とする果汁の配合量は、長時間の酵母発酵を行ってもアルコール濃度を1%未満とするため、糖類の合計濃度が1.5%未満となる様に調整する点が本発明の特徴である。クエン酸を多く含むことを特徴とする果汁は、相対的に糖類の濃度が少なく、糖類の合計濃度を1.5%未満となる様に配合した際も比較的果汁の配合率を高くすることが可能となる。発酵終了時点のアルコール濃度は、通常は約0.01~約0.9%、好ましくは約0.1%~約0.8%、さらに好ましくは約0.2~0.7%であるが、これらの濃度に限定されない。具体的な発酵終了時点でのアルコール濃度は、例えば、約0.01、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、および0.9%である。本発明では、発酵終了時点でのアルコール濃度が低いため、発酵後に蒸留等の加工を加えてアルコールを除去しなくとも、アルコール濃度1%未満とすることが可能である。
【0021】
本発明では、酵母発酵を行う前の果汁には、必要に応じてpH調整、香料添加などを行うことも可能である。pH調整の範囲、使用する物質は特に限定されず、水酸化ナトリウムや炭酸カリウム等の無機塩の他、乳酸やクエン酸、リンゴ酸、酢酸等の有機酸を使用し、酵母発酵に適したpH帯に調整することができる。使用する香料の種類や量も特に限定されず、必要な風味に合わせて調整することができる。
【0022】
培地には、一部の酵母が生育に必要とするアミノ酸類等の栄養素を添加することも可能である。これらはそのまま用いることも、これらを含有する酵母エキス等の食品を添加することも可能である。
【0023】
培地は、必要に応じて酵素処理を行うことも可能である。例えば、プロテアーゼを用いて、タンパク質から遊離状態のアミノ酸を生じさせる処理等が挙げられる。この際に使用する酵素の種類や酵素処理の条件は、酵素によって適宜選択することが可能である。
【0024】
本発明における発酵時間は、原料果汁、使用微生物、発酵温度、目的とする風味などにより適宜選択することができ、通常は約4時間~約108時間、好ましくは約8時間~約96時間、より好ましくは約16時間~約72時間であるが、これらの時間に限定されない。具体的な発酵時間は、例えば、約8、10、12、14、16、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、48、60、72、84、96、および108時間である。
【0025】
本開示における発酵処理の前に当業者は適宜スターターを作製することができる。スターターを作製する培養時間は、原料、使用微生物、発酵温度、および目的とする風味などにより適宜選択することができ、通常は約8時間~約108時間、好ましくは約12時間~約96時間、より好ましくは約16時間~約72時間またはこれらの間の任意の数であるが、これらの時間に限定されない。具体的な発酵時間は、例えば、約8、10、12、14、16、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、48、60、72、84、96、および108時間である。
【0026】
本発明における発酵温度は、原料、使用微生物、発酵温度、目的とする風味などにより適宜選択することができ、通常は約15~約45℃、好ましくは約18~約43℃、より好ましくは約20~約40℃であるが、これらの温度に限定されない。具体的な発酵時間は、例えば、約20、25、30、35、37、40、43、および45℃である。
【0027】
本開示における発酵開始時のpHは、原料、使用微生物、発酵温度、および目的とする風味などにより適宜選択することができ、通常は約pH2-7、好ましくは約pH2.5-6、より好ましくは約pH3-5またはこれらの間の任意の数であるが、これらのpHに限定されない。具体的なpHは、例えば、約2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、および7.0である。
【0028】
前記発酵処理にて作成された風味改善剤は、酵母が生きた状態で用いることも、殺菌した状態で用いることも可能である。
【0029】
前記発酵処理にて作成された風味改善剤は、容器に充填されて冷蔵庫等において冷却された状態で保存することができる。あるいは、冷凍庫等で冷凍された状態でも保存することができる。
【0030】
本発明の発酵処理物は、製造してそのまま風味改善剤としてもよいし、乾燥、ろ過、透析等により濃縮、または粉末化してもよい。本開示の風味改善剤の形態は特に限定されず、用途に応じて様々な形状とすることができる。例えば、液体、シロップ、ペースト、キューブ、顆粒、および粉末等とすることができる。
【0031】
本発明における発酵処理物のpHは、原料、使用微生物、発酵温度、および目的とする風味などにより適宜選択することができ、通常は約pH2-7、好ましくは約pH2.5-6、より好ましくは約pH3-5またはこれらの間の任意の数であるが、これらのpHに限定されない。具体的なpHは、例えば、約2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、および7.0である。
【0032】
本発明の風味改善剤は、クエン酸およびリンゴ酸、酢酸、コハク酸などの有機酸、ジアセチル、アセトイン、アセトアルデヒド、エタノールおよび2-メチルアルコールなどの香気成分、またはL-アラニン、L-アスパラギン酸などのアミノ酸を含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0033】
本発明の風味改善剤の製造において、上記の発酵処理以外に、当業者が適宜追加の工程を単独、または組み合わせて実施してもよい。このような追加の工程の例として、他原料の添加、均質化処理、ろ過、透析、加熱、冷却、加圧、および減圧等が挙げられる。
【0034】
本発明における風味改善剤のpHは、原料、使用微生物、発酵温度、および目的とする風味などにより適宜選択することができ、通常は約pH2-7、好ましくは約pH2.5-6、より好ましくは約pH3-5またはこれらの間の任意の数であるが、これらのpHに限定されない。具体的なpHは、例えば、約2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、および7.0である。
【0035】
本発明の風味改善剤は、食品に添加して使用することができる。本発明において、食品はすべての飲食物をいい、特に限定されないが固形、半固形、または液体のものが含まれ、特に低糖質のものや低アルコールの物が適する。飲食物は特に制限されないが、例えば清涼飲料水、および低アルコール飲料等の飲料類、氷菓やラクトアイス等の冷菓類、発酵乳や乳酸菌飲料、乳飲料、チーズ等の乳を含む飲食品類、ゼリーやプリン、ケーキ、チョコレート等のデザート類、キャンディーやケーキ、チューイングガム等の菓子類等が例示できる。また、本発明の風味改善剤は糖類の濃度が少ないため、低糖質を訴求した食品への使用にも適する。飲食物への該風味改善剤の添加量としては、風味改善効果を示せれば特に限定されないが、飲食物100gに対し、風味改善剤を0.01g~10g用いるのが好ましく、より好ましくは0.05g~5g、さらに好ましくは0.1g~2g用いるのが好ましい。一実施形態では、各種飲食物に対してクエン酸と置き換えつつ風味改善剤を添加することで、飲食品の風味のバランスを崩さずにボディ感や後味の切れを増強することも可能になる。
【0036】
本発明の風味改善剤は、減圧濃縮、膜濃縮、ドラムドライ、エアードライ、噴霧乾燥、真空乾燥もしくは凍結乾燥、またはそれらの組み合わせ等により、濃縮品または乾燥品とすることができる。
【0037】
本発明における糖類とは、原料の果汁中に含まれ、酵母が資化可能なものを示す。このため、クエン酸が多く含まれる果汁に含まれ、かつサッカロマイセス属(Saccharomyces)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)、クルイベロマイセス属(Kluyveromyces)、キャンディダ属(Candida)、ジゴサッカロマイセス属(ZygoSaccharomyces)、ブレタノマイセス属(Brettanomyces)等の酵母が資化可能な糖であるグルコース、フルクトース、スクロースを示す。なお、一般に言われる糖質とは、グルコース、フルクトース、スクロースのような単糖類、二糖類に加えて、デンプン等の多糖類、ソルビトール等の糖アルコールも含まれる。
【0038】
本発明におけるアルコールとは、特に説明がない場合はエタノールを示す。また、アルコール濃度とは、特に説明がない場合は発酵終了時点での値を示す。酵母発酵での主要な生成物は一般的にエタノールであるが、他にもイソアミルアルコール等のアルコール類が同時に生じることが知られている。
【0039】
本明細書において「約」とは記載の数値の±10%、好ましくは±5%の範囲を意味する。
【0040】
以下、本開示に係る実施例を説明するが、本開示の技術的範囲はこの説明に限定されるものではない。
【実施例0041】
<酵母のクエン酸資化性の評価例>
前記[0016]に記載の方法にて、サッカロマイセス・セレビシエFY-229株、サッカロマイセス・エクシグスNBRC271株、シゾサッカロマイセス・ポンベNBRC345株、クルイベロマイセス・マルキシアナスNBRC1735株、キャンディダ・ユティリスNBRC10707株、ジゴサッカロマイセス・ロキシーNBRC493株、ブレタノマイセス・アノマルスNBRC627株のクエン酸資化性を評価した。培養温度は、クルイベロマイセス・マルキシアナスNBRC1735株のみ37℃とし、他の菌株はすべて30℃とした。培養開始直後と、培養後72時間目での各培地におけるOD660を表1に記載する。いずれの菌株も、クエン酸添加培地でのOD660上昇はブランク培地とほぼ同様であり、かつグルコース添加培地にて高いOD660上昇が見られ、クエン酸を資化しないと判断した。
【0042】
【表1】
【0043】
<酵母スターターの調製例>
水97.5重量部、濃縮白ぶどう果汁(55°BX白ブドウ透明果汁 日本果実加工株式会社)、酵母エキス(粉体)0.5重量部からなる培養基を調製し、該培養基を121℃で15分間殺菌し、その後30℃まで冷却した。次いで冷却後の培養基にサッカロマイセス・セレビシエFY-229株0.02重量部を接種して生菌数1.0×10~1.0×10cfu/ml程度とし、30℃で20時間培養させた発酵物をFY-229スターターとした。
【0044】
水97.5重量部、濃縮白ぶどう果汁(55°BX白ブドウ透明果汁 日本果実加工株式会社)、酵母エキス(粉体)0.5重量部からなる培養基を調製し、該培養基を121℃で15分間殺菌し、その後30℃まで冷却した。次いで冷却後の培養基にサッカロマイセス・エクシグスNBRC271株0.02重量部を接種して生菌数1.0×10~1.0×10cfu/ml程度とし、30℃で20時間培養させた発酵物をNBRC271スターターとした。
【0045】
水97.5重量部、濃縮白ぶどう果汁(55°BX白ブドウ透明果汁 日本果実加工株式会社)、酵母エキス(粉体)0.5重量部からなる培養基を調製し、該培養基を121℃で15分間殺菌し、その後30℃まで冷却した。次いで冷却後の培養基にシゾサッカロマイセス・ポンベNBRC345株0.02重量部を接種して生菌数1.0×10~1.0×10cfu/ml程度とし、30℃で20時間培養させた発酵物をNBRC345スターターとした。
【0046】
水97.5重量部、濃縮白ぶどう果汁(55°BX白ブドウ透明果汁 日本果実加工株式会社)、酵母エキス(粉体)0.5重量部からなる培養基を調製し、該培養基を121℃で15分間殺菌し、その後37℃まで冷却した。次いで冷却後の培養基にクルイベロマイセス・マルキシアナスNBRC1735株0.02重量部を接種して生菌数1.0×10~1.0×10cfu/ml程度とし、37℃で20時間培養させた発酵物をNBRC1735スターターとした。
【0047】
水97.5重量部、濃縮白ぶどう果汁(55°BX白ブドウ透明果汁 日本果実加工株式会社)、酵母エキス(粉体)0.5重量部からなる培養基を調製し、該培養基を121℃で15分間殺菌し、その後30℃まで冷却した。次いで冷却後の培養基にキャンディダ・ユティリスNBRC10707株0.02重量部を接種して生菌数1.0×10~1.0×10cfu/ml程度とし、30℃で20時間培養させた発酵物をNBRC10707スターターとした。
【0048】
水97.5重量部、濃縮白ぶどう果汁(55°BX白ブドウ透明果汁 日本果実加工株式会社)、酵母エキス(粉体)0.5重量部からなる培養基を調製し、該培養基を121℃で15分間殺菌し、その後30℃まで冷却した。次いで冷却後の培養基にジゴサッカロマイセス・ロキシーNBRC493株0.02重量部を接種して生菌数1.0×10~1.0×10cfu/ml程度とし、30℃で20時間培養させた発酵物をNBRC493スターターとした。
【0049】
水97.5重量部、濃縮白ぶどう果汁(55°BX白ブドウ透明果汁 日本果実加工株式会社)、酵母エキス(粉体)0.5重量部からなる培養基を調製し、該培養基を121℃で15分間殺菌し、その後30℃まで冷却した。次いで冷却後の培養基にブレタノマイセス・アノマルスNBRC627株0.02重量部を接種して生菌数1.0×10~1.0×10cfu/ml程度とし、30℃で20時間培養させた発酵物をNBRC627スターターとした。
【0050】
<実施例1-1:発酵レモン果汁の調製例>
濃縮レモン果汁(レモン果汁透明6392TN 雄山株式会社)10重量部と水89重量部を混合し、湯煎にて90℃で1分間殺菌し、その後30℃まで冷却した。冷却した原料混合物に対し、上記で調製したFY-229スターターを1重量部接種し、30℃で16時間発酵させた。発酵の停止は80℃で1分間加熱することで行った。得られた発酵物を実施例1-1とした。尚、使用した濃縮レモン果汁はBrix42.0°、クエン酸換算酸度31.5%となり、Brix(°)あたりのクエン酸換算酸度(%)は0.75となった。
【0051】
<実施例1-2:発酵レモン果汁の調製例>
濃縮レモン果汁(レモン果汁透明6392TN 雄山株式会社)10重量部と水89重量部を混合し、湯煎にて90℃で1分間殺菌し、その後30℃まで冷却した。冷却した原料混合物に対し、上記で調製したNBRC271スターターを1重量部接種し、30℃で16時間発酵させた。発酵の停止は80℃で1分間加熱することで行った。得られた発酵物を実施例1-2とした。
【0052】
<実施例1-3:発酵レモン果汁の調製例>
濃縮レモン果汁(レモン果汁透明6392TN 雄山株式会社)10重量部と水89重量部を混合し、湯煎にて90℃で1分間殺菌し、その後30℃まで冷却した。冷却した原料混合物に対し、上記で調製したNBRC345スターターを1重量部接種し、30℃で16時間発酵させた。発酵の停止は80℃で1分間加熱することで行った。得られた発酵物を実施例1-3とした。
【0053】
<実施例1-4:発酵レモン果汁の調製例>
濃縮レモン果汁(レモン果汁透明6392TN 雄山株式会社)10重量部と水89重量部を混合し、湯煎にて90℃で1分間殺菌し、その後37℃まで冷却した。冷却した原料混合物に対し、上記で調製したNBRC1735スターターを1重量部接種し、37℃で16時間発酵させた。発酵の停止は80℃で1分間加熱することで行った。得られた発酵物を実施例1-4とした。
【0054】
<実施例1-5:発酵レモン果汁の調製例>
濃縮レモン果汁(レモン果汁透明6392TN 雄山株式会社)10重量部と水89重量部を混合し、湯煎にて90℃で1分間殺菌し、その後30℃まで冷却した。冷却した原料混合物に対し、上記で調製したNBRC10707スターターを1重量部接種し、30℃で16時間発酵させた。発酵の停止は80℃で1分間加熱することで行った。得られた発酵物を実施例1-5とした。
【0055】
<実施例1-6:発酵レモン果汁の調製例>
濃縮レモン果汁(レモン果汁透明6392TN 雄山株式会社)10重量部と水89重量部を混合し、湯煎にて90℃で1分間殺菌し、その後30℃まで冷却した。冷却した原料混合物に対し、上記で調製したNBRC493スターターを1重量部接種し、30℃で16時間発酵させた。発酵の停止は80℃で1分間加熱することで行った。得られた発酵物を実施例1-6とした。
【0056】
<実施例1-7:発酵レモン果汁の調製例>
濃縮レモン果汁(レモン果汁透明6392TN 雄山株式会社)10重量部と水89重量部を混合し、湯煎にて90℃で1分間殺菌し、その後30℃まで冷却した。冷却した原料混合物に対し、上記で調製したNBRC627スターターを1重量部接種し、30℃で48時間発酵させた。発酵の停止は80℃で1分間加熱することで行った。得られた発酵物を実施例1-7とした。
【0057】
<実施例1-8:短時間発酵レモン果汁の調製例>
前記実施例1-1のうち、酵母発酵工程の時間を5時間として、それ以外では同様の操作を行い、短時間発酵レモン果汁を実施例1-8として調製した。
【0058】
<実施例1-9:長時間発酵レモン果汁の調製例>
前記実施例1-1のうち、酵母発酵工程の時間を72時間として、それ以外では同様の操作を行い、長時間発酵レモン果汁を実施例1-9として調製した。
【0059】
<比較例1:未発酵レモン果汁の調製例>
前記実施例1-1のうち、FY-229スターターを水で置き換え、酵母発酵工程以外で同様の操作を行い、未発酵液を比較例1-1として調製した。
【0060】
<実施例2:発酵ライム果汁の調製例>
濃縮ライム果汁(レモン果汁透明5316TN 雄山株式会社)6重量部と水93重量部を混合し、湯煎にて90℃で1分間殺菌し、その後30℃まで冷却した。冷却した原料混合物に対し、上記で調製したFY-229スターターを1重量部接種し、30℃で16時間発酵させた。発酵の停止は80℃で1分間加熱することで行った。得られた発酵物を実施例2とした。尚、使用した濃縮ライム果汁はBrix50.0°、クエン酸換算酸度26.5%となり、Brix(°)あたりのクエン酸換算酸度(%)は0.53となった。
【0061】
<比較例2:未発酵ライム果汁の調製例>
前記実施例2のうち、FY-229スターターを水で置き換え、酵母発酵工程以外で同様の操作を行い、未発酵液を比較例2として調製した。
【0062】
<実施例3:発酵梅果汁の調製例>
濃縮梅果汁(うめ5倍濃縮果汁 中野BC株式会社)14.4重量部と水84.6重量部を混合し、湯煎にて90℃で1分間殺菌し、その後30℃まで冷却した。冷却した原料混合物に対し、上記で調製したFY-229スターターを1重量部接種し、30℃で16時間発酵させた。発酵の停止は80℃で1分間加熱することで行った。得られた発酵物を実施例3とした。尚、使用した濃縮梅果汁はBrix31.0°、クエン酸換算酸度18.5%となり、Brix(°)あたりのクエン酸換算酸度は0.60となった。
【0063】
<比較例3:未発酵梅果汁の調製例>
前記実施例3のうち、FY-229スターターを水で置き換え、酵母発酵工程以外で同様の操作を行い、未発酵液を比較例3として調製した。
【0064】
<糖類の測定>
実施例1-1~1-6(発酵レモン果汁)、実施例2(発酵ライム果汁)、実施例3(発酵梅果汁)、並びに比較例1~3中の糖類の量は、次に示すキャピラリー電気泳動法により分析した。
【0065】
まず、それぞれの実施例に係る液体状の発酵物に対し、遠心分離機にかけて得られる上清を0.45μmセルロースアセテート製メンブレンフィルター(アドバンテック社製)でろ過した。発酵物に含まれる糖の量に応じ、上清を直接もしくは蒸留水にて2倍から20倍に希釈したものを試料とすることができる。
【0066】
前記分析用試料を用いて、キャピラリー電気泳動(ベックマン・コールター株式会社)による糖分析を行った。また、分析にあたり単糖分析キット(ベックマン・コールター株式会社)を使用した。分析の結果を表1に示す。
【0067】
<有機酸の分析>
実施例1-1~1-6(発酵レモン果汁)、実施例2(発酵ライム果汁)、実施例3(発酵梅果汁)、並びに比較例1~3中の有機酸の量は、前記[0041]で示した分析用試料を用いて、キャピラリー電気泳動(ベックマン・コールター株式会社)により分析を行った。有機酸分析においては、分析用試料は蒸留水にて10倍から200倍に希釈したものを試料とすることができる。また、分析にあたりアニオン分析キット(ベックマン・コールター株式会社)を使用した。分析の結果を表1に示す。
【0068】
<エタノールの分析>
実施例1-1~1-6(発酵レモン果汁)、実施例2(発酵ライム果汁)、実施例3(発酵梅果汁)、並びに比較例1~3中の糖類の量は、前記[0041]で示した分析用試料を用いて、F-キット エタノール(株式会社JKインターナショナル)を用いて分析を行った。エタノール分析においては、分析用試料は蒸留水にて10倍から200倍に希釈したものを試料とすることができる。分析の結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
表2より、未発酵の比較例1~3では、グルコース、フルクトース、スクロースの合計濃度がいずれも1%を超えていた。一方、酵母発酵を行った実施例1-1~1-9、実施例2、及び実施例3の全てで、前記糖類の合計濃度は1%を下回っており、かつエタノール濃度は1%未満となっていた。これらから、酵母発酵を行いつつ、糖類とアルコール濃度を1%未満に抑えた風味改良剤を調製することができた。
【0071】
<風味改善剤を添加した飲食品の呈味官能試験>
前記実施例1-1~1-9、実施例2、及び実施例3に係る風味改善剤を添加した飲食品の呈味について、前記比較例1~3を添加した飲食品の呈味と比較しつつ、官能試験を行った。
【0072】
表3~7に官能評価の対象とした評価試験区の処方の一覧を示す。なお、表3~4、表7においては、ブランクとなる食品100重量部に対して、実施例1-1~1-9、実施例2、及び実施例3に係る風味改善剤、並びに比較例1~3のいずれかを0.5重量部添加して調製した。表5においては、50%クエン酸溶液の一部を、酸度が同等となるように実施例1-1に係る風味改善剤、並びに比較例1に置き換えたぶどう果汁入り清涼飲料を調製し、官能試験を行った。同じく表6においては、50%クエン酸溶液の一部を、酸度が同等となるように実施例1-1に係る風味改善剤、並びに比較例1に置き換えたレモン果汁入り低糖質氷菓を調製し、官能試験を行った。
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
【表5】
【0076】
【表6】
【0077】
【表7】
【0078】
各評価試験区を官能評価試験に供した。具体的には良く訓練され、日常飲食品の評価を行っているパネラー10人(n=10)が飲食品を評価し、ボディ感、後味の切れ、味のバランス、総合評価について採点し、10人がつけた点数の平均値を評価として採用した。後味の切れは、食品を飲み込んだ際に、違和感なくスッキリと風味が消えること、特に人口甘味料等で感じられる飲み込んだ後のべたつくような違和感がないことを基準として評価した。味のバランスは、食品を口に含んでから飲み込んだ後までの呈味の強さが違和感なく感じされることを基準として評価した。また、総合評価は前記のボディ感、後味の切れ、味のバランスの平均にて算出した。なお、評価点は、対象となる飲食品そのもの(ブランク1、2、5~7)、もしくは実施例及び比較例を添加していない飲食品(ブランク3、4)の各項目の評価点を一律に3.0とし、この3.0点を基準として各比較例及び実施例における各項目の呈味が良い評価であれば大きい点をつけることとして、「1、2、3、4、5」のいずれかの点数をつけることによって採点した。
【0079】
表8には、レモン風味飲料に係るブランクとして低糖質の清涼飲料水(アサヒビール株式会社製 スタイルバランス レモンサワーテイスト)を使用したもの(以下、ブランク1という。)の前記評価項目を3.0とした場合の、ブランク1に実施例1-1~1-9に係る発酵レモン果汁を添加したものを表3の処方に従って作製して実施例4-1~4-9としたもの、及び、ブランク1に比較例1に係る未発酵レモン果汁を添加したものを表3の処方に従って作製して比較例4としたものの官能評価結果を示す。
【0080】
【表8】
【0081】
表8の結果より、実施例4-1~4-9は、いずれの評価項目においても評価基準としたブランク1の評価点3.0を上回り、かつ比較例4以上の結果を得た。ここで、実施例4-1と実施例4-8、実施例4-9を比較すると、実施例4-1と実施例4-9はいずれの評価項目においても実施例4-8を上回っていた。実施例4-1と実施例4-8、実施例4-9は添加した発酵レモン果汁の酵母発酵時間のみが異なっており、16~72時間の酵母発酵を行うことで、評価結果がより向上することが示された。
【0082】
表9には、レモン風味飲料に係るブランクとして低糖質の低アルコール飲料(サントリーホールディングス株式会社製 ストロングゼロ ダブルレモン)を使用したもの(以下、ブランク2という。)の前記評価項目を3.0とした場合の、ブランク2に実施例1-1~1-9に係る発酵レモン果汁を添加したものを表4の処方に従って作製して実施例5-1~5-9としたもの、及び、ブランク1に比較例1に係る未発酵レモン果汁を添加したものを表4の処方に従って作製して比較例5としたものの官能評価結果を示す。
【0083】
【表9】
【0084】
表9の結果より、実施例5-1~5-9は、いずれの評価項目においても評価基準としたブランク2の評価点3.0を上回り、かつ比較例5以上の結果を得た。ここで、実施例5-1と実施例5-8、実施例5-9を比較すると、実施例5-1と実施例5-9はいずれの評価項目においても実施例5-8を上回っていた。実施例5-1と実施例5-8、実施例5-9は添加した発酵レモン果汁の酵母発酵時間のみが異なっており、16~72時間の酵母発酵を行うことで、低糖質の清涼飲料水のみでなく低糖質の低アルコール飲料においても評価結果がより向上することが示された。
【0085】
表10には、表5の処方に従って作成したレモン果汁未配合のぶどう果汁配合清涼飲料(以下ブランク3という。)の前記評価項目を3.0とした場合の、ブランク3の50%クエン酸溶液の一部を表4の処方に従い実施例1-1に係る発酵レモン果汁に置き換えたものを作成し実施例6としたもの、及び、ブランク3の50%クエン酸溶液の一部を表5の処方に従い比較例1に係る未発酵レモン果汁に置き換えたものを作製して比較例6としたものの官能評価結果を示す。
【0086】
【表10】
【0087】
表10の結果より、実施例6は、いずれの評価項目においても評価基準としたブランク3の評価点3.0を上回り、かつ比較例6以上の結果を得た。表10の結果より、本発明に係る発酵果汁は、糖類を含む一般的な清涼飲料に対しても、顕著なボディ感増強効果を有することが示された。更に、クエン酸を多く含むことを特徴とする果汁を配合していない飲食品に対しても、同様に顕著なボディ感増強効果を有することが示された。
【0088】
表11には、表6の処方に従って作成したレモン風味の低糖質氷菓(以下ブランク4という。)の前記評価項目を3.0とした場合の、ブランク4の50%クエン酸溶液の一部を表5の処方に従い実施例1-1に係る発酵レモン果汁に置き換えたものを作成し実施例7としたもの、及び、ブランク4の50%クエン酸溶液の一部を表6の処方に従い比較例1に係る未発酵レモン果汁に置き換えたものを作製して比較例7としたものの官能評価結果を示す。
【0089】
【表11】
【0090】
表11の結果より、実施例7は、いずれの評価項目においても評価基準としたブランク4の評価点3.0を上回り、かつ比較例7以上の結果を得た。表11の結果より、本発明に係る発酵果汁は、低糖質の氷菓に対しても顕著なボディ感増強効果を有することが示された。
【0091】
表12には、レモン風味冷菓に係るブランクとして氷菓(フタバ食品株式会社製 サクレ レモン)を使用したもの(以下、ブランク5という。)の前記評価項目を3.0とした場合の、ブランク5に実施例1-1に係る発酵レモン果汁を添加したものを表7の処方に従って作製して実施例8としたもの、及び、ブランク5に比較例1に係る未発酵レモン果汁を添加したものを表7の処方に従って作製して比較例8としたものの官能評価結果を示す。
【0092】
【表12】
【0093】
表12の結果より、実施例8は、いずれの評価項目においても評価基準としたブランク5の評価点3.0を上回り、かつ比較例8以上の結果を得た。この結果より、糖質を含む一般的な冷菓においても風味改善効果が得られることが示された。
【0094】
表13には、ライム風味飲料に係るブランクとして清涼飲料水(サントリーホールディングス株式会社製 オールフリー ライムショット)を使用したもの(以下、ブランク6という。)の前記評価項目を3.0とした場合の、ブランク6に実施例2に係る発酵ライム果汁を添加したものを表7の処方に従って作製して実施例9としたもの、及び、ブランク6に比較例2に係る未発酵ライム果汁を添加したものを表7の処方に従って作製して比較例9としたものの官能評価結果を示す。
【0095】
【表13】
【0096】
表13の結果より、実施例9は、いずれの評価項目においても評価基準としたブランク6の評価点3.0を上回り、かつ比較例9以上の結果を得た。
【0097】
表14には、梅風味飲料に係るブランクとして清涼飲料水(チョーヤ梅酒株式会社製 酔わないウメッシュ)を使用したもの(以下、ブランク7という。)の前記評価項目を3.0とした場合の、ブランク7に実施例3に係る発酵梅果汁を添加したものを表7の処方に従って作製して実施例10としたもの、及び、ブランク7に比較例3に係る未発酵梅果汁を添加したものを表7の処方に従って作製して比較例10としたものの官能評価結果を示す。
【0098】
【表14】
【0099】
表14の結果より、実施例10は、いずれの評価項目においても評価基準としたブランク7の評価点3.0を上回り、かつ比較例10以上の結果を得た。
【0100】
実施例4-1~実施例10の全てにおいて、いずれの項目においても評価点3.5を上回っており、ブランクに対して明確な味の向上が得られたことを示すものである。ブランク1~7の飲食品(評価点3.0)に対して本発明に係る風味改善剤を添加して実施例4-1~10を調製すると、その全てにおいてボディ感と後切れ、味のバランスが向上し、いずれの飲食品にも十分な飲みごたえ感、食べ応え感を付与しつつ後切れが付与されており、自然な風味バランスを維持する効果を発揮できることが明らかとなった。
【0101】
一方、比較例4~比較例10の全てにおいて、いずれの項目においても評価点3.5を上回るものはなかった。これより、これらの項目の評価点が4.0を上回った実施例4-1~4-7、実施例4-9、実施例5-1~5-7、実施例5-9、実施例6~10との顕著な差異が明らかとなった。
【0102】
また、実施例4-8、実施例5-8においては、いずれの項目においても評価点3.5を上回っており、クエン酸を多く含む果汁に対して短時間の酵母発酵を行ったものを添加することで、ブランクに対してボディ感、後味の切れ、味のバランスが向上することが明確に示された。さらに、実施例4-8と実施例4-1及び実施例4-9、実施例5-8と実施例5-1及び実施例5-9を比較すると、それぞれ同じ原料と酵母菌株を用いているにも関わらず、いずれの項目においても実施例4-1と実施例4-9および実施例5-1と実施例5-9のほうが高い評価点を示した。すなわち、発酵時間を16~72時間と長くすることで、より多くの発酵生産物が生じ、さらにボディ感、後味の切れ、味のバランスが向上することが示された。また、実施例4-1と実施例4-9、実施例5-1と実施例5-9を比較すると、いずれも評価点に大きな差は見られず、16時間での発酵で大半の発酵生産物が生じており、それ以上の延長はそれほど大きな変化は及ぼさないものと推測された。
【0103】
表2を見ると、16時間以上の酵母発酵を行った実施例1-1~7、実施例1-9、実施例3、及び実施例3では、未発酵の比較例1~3と比較して有機酸の組成も変化している結果が得られている。すなわち、未発酵の果汁では、多量のクエン酸と微量のリンゴ酸しか検出されていないが、16時間以上の酵母発酵により、わずかながらコハク酸、酢酸といった有機酸が生成されていた。コハク酸はアサリ等の貝等に含まれる旨味成分であり、酢酸はやや刺激を持つ酸味を付与する。これのような成分が微量ずつ生じることで、後味の切れのみではなく、複雑な風味がもたらすボディ感にも寄与したと考えられる。さらに有機酸類に加え、酵母発酵で生じる香気成分も同様にボディ感の付与に寄与したと考えられる。例えば、イソアミルアルコールといった醸造酒的な風味に繋がるアルコール類や、酢酸エチルといったフルーティな風味を持つエチルエステル類が生じることで、未発酵の果汁では得られないボディ感の付与が可能になったと考えられる。
【0104】
用いる菌株により、評価結果の傾向がやや異なっていた点も、それぞれの発酵生産物の種類や量が異なっていることが原因と考えられる。例えば、実施例1-1~1-7での発酵レモン果汁調製において、FY-229株やNBRC271株では比較的特徴が抑えられた自然でフルーティな香気が、NBRC1735株やNBRC10707株ではフローラルな華やかさを伴う香気が生じていた。また、NBRC345株やNBRC493株、NBRC627株では、華やかな香気は弱めであったが、自然な熟成感を伴う香気が感じられた。有機酸組成の変化のみでなく、このような菌株によって異なる香気成分が生じることで、飲食品へ添加した際にボディ感や後味の切れへ影響を及ぼしていると考えられる。クエン酸を資化できない酵母菌株であれば、その用途と特徴に合わせて菌株を選択することで、より目的に適した風味改善剤を調製することが可能となる。
【0105】
本発明に係る風味改善剤を添加することによって、幅広い飲食品に対して、ボディ感と後味の切れを向上させ、全体としての風味のバランスを向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、飲食品の製造等の分野において利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7