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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022068769
(43)【公開日】2022-05-10
(54)【発明の名称】カテーテル
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/00 20060101AFI20220427BHJP
   A61L 29/08 20060101ALI20220427BHJP
   A61L 29/04 20060101ALI20220427BHJP
   A61L 29/16 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
A61M25/00 530
A61L29/08 100
A61L29/04 100
A61L29/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020177627
(22)【出願日】2020-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】500409219
【氏名又は名称】学校法人関西医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】591140938
【氏名又は名称】テルモ・クリニカルサプライ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201732
【弁理士】
【氏名又は名称】松縄 正登
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100194515
【弁理士】
【氏名又は名称】南野 研人
(72)【発明者】
【氏名】狩谷 秀治
(72)【発明者】
【氏名】谷川 昇
(72)【発明者】
【氏名】権 貴龍
(72)【発明者】
【氏名】長尾 重義
(72)【発明者】
【氏名】名倉 伸之亮
【テーマコード(参考)】
4C081
4C267
【Fターム(参考)】
4C081AC08
4C081BA14
4C081CA082
4C081DA03
4C081DC03
4C267AA02
4C267BB02
4C267BB05
4C267BB31
4C267CC08
4C267GG02
4C267GG42
4C267HH08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】抗菌薬を用いなくても、血流感染を抑制しうるカテーテルを提供する。
【解決手段】カテーテル1は、先端から基端まで連通する内腔23を有する管状体2と、生体適合性材料とを備え、前記管状体2の先端側L1の内周面および外周面の少なくとも一方は、凹凸面を有し、前記生体適合性材料25は、前記凹凸面の凹部24に配置される。前記生体適合性材料25は、生体適合性ポリマーであってよく、ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)を含んでもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端から基端まで連通する内腔を有する管状体と、生体適合性材料とを備え、
前記管状体の先端側の内周面および外周面の少なくとも一方は、凹凸面を有し、
前記生体適合性材料は、前記凹凸面の凹部に配置されている、カテーテル。
【請求項2】
前記管状体において、生体管腔内に配置される管状体の内周面および外周面の少なくとも一方は、凹凸面である、請求項1記載のカテーテル。
【請求項3】
前記凹凸面は、前記管状体の表面において、前記外周面から内周面方向に形成された多数の凹部および前記内周面から外周面方向に形成された多数の凹部の少なくとも一方により構成される、請求項1または2記載のカテーテル。
【請求項4】
前記生体適合材料は、前記管状体の外周面および外周面の少なくとも一方の表面に生体適合性材料層を形成している、請求項1から3のいずれか一項に記載のカテーテル。
【請求項5】
前記生体適合性材料は、生体適合性ポリマーである、請求項1から4のいずれか一項に記載のカテーテル。
【請求項6】
前記生体適合性材料は、ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のカテーテル。
【請求項7】
前記カテーテルは、血管留置カテーテルである、請求項1から6のいずれか一項に記載のカテーテル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
血管内への継続的な薬液等の投与のために、中心静脈、末梢静脈等に対して、留置カテーテル(PICC)が、留置されることがある。
【0003】
前記PICCでは、留置中に細菌等の菌のバイオフィルムが形成され、血流感染が生じるケースがあり(カテーテル由来血流感染症、CRBSI:catheter-related bloodstream infection)、大きな問題となっている。また、このような血流感染は、カテーテルの留置期間が長い場合、特に問題となる。
【0004】
前記PICCにおけるバイオフィルムの形成を介した血流感染は、以下のステップで生じると考えられている(非特許文献1)。まず、血流中の高分子が、カテーテルに付着する。ついで、高分子が付着した部位に、血流中の菌が付着し、菌同士の相互作用の発生およびバイオフィルムの形成が生じる。そして、前記バイオフィルムは、血流中の栄養成分の消費、他の菌および細胞の誘引によって成長し、肥大化する。すると、バイオフィルムに対する剪断応力が増加するため、バイオフィルムの一部が剥離し、血流に放出されることにより、血流感染が生じる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】James D. Bryers, “Medical Biofilms”. 2008, Biotechnology and Bioengineering, Vol. 100, No. 1, pages 1-18
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記CRBSIを防止するため、リファンピシン等の抗菌薬を放出(溶出)可能なPICCが開発されている。前記抗菌薬溶出型のPICCは、血流中の菌の付着、菌同士の相互作用、バイオフィルム形成等を阻害する。また、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)から、前記抗菌薬溶出型のPICCが、CRBSIの防止に有効であるとのガイドラインが公表されている。しかしながら、前記抗菌薬溶出型のPICCを用いた場合、耐性菌が容易に出現するという問題が生じる。
【0007】
そこで、本発明は、抗菌薬を用いなくても、血流感染を抑制しうるカテーテルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明のカテーテルは、先端から基端まで連通する内腔を有する管状体と、生体適合性材料とを備え、
前記管状体の先端側の内周面および外周面の少なくとも一方は、凹凸面を有し、
前記生体適合性材料は、前記凹凸面の凹部に配置されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、抗菌薬を用いなくても、血流感染を抑制しうる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態1におけるカテーテルの一例を示す模式図である。
図2図2は、実施形態1におけるカテーテルの製造装置の一例を示す模式図である。
図3図3は、実施形態1におけるカテーテルの他の例を示す模式断面図である。
図4図4は、実施形態2におけるカテーテルの一例を示す模式図である。
図5図5は、実施形態2におけるカテーテルの製造装置に用いる芯線の一例を示す模式図である。
図6図6は、実施形態2におけるカテーテルの他の例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは鋭意研究の結果、CRBSIが生じるステップにおいて、血流中の高分子のカテーテルへの付着と、血流中の菌のカテーテルへの付着との間に、新たなステップが存在することを見出した。すなわち、本発明者らは、血流中の高分子がカテーテルに付着後、前記カテーテルの高分子の付着部位において、フィブリンシース(タンパク質析出体)が形成され、前記フィブリンシースの形成により、血流中の菌が、効果的にカテーテルへ付着することを見出した。また、本発明者らは、カテーテルにおいて、血液との接触部位に、生体適合性材料を配置することにより、前記フィブリンシースの形成を抑制でき、これにより、バイオフィルムの形成の抑制およびCRBSIを抑制ができること見出し、本発明を確立するに至った。本発明によれば、前記生体適合性材料を用いることにより、フィブリンシースの形成を阻害(抑制、低減、低下、および/または減少ともいう。)できるため、抗菌薬を用いなくても、血流感染を抑制しうる。
【0012】
本発明において、「抗菌」は、バイオフィルムの形成を阻害することにより、細菌または真菌に起因する感染を抑制できることを意味する。
【0013】
本発明において、「菌」は、細菌でもよいし、真菌でもよい。
【0014】
本発明において、「生体適合性」は、例えば、生体における組織および/または器官と親和性があり、異物反応や拒絶反応等が、異物反応や拒絶反応が惹起される物と比較して、抑制されている、または生じないことを意味する。前記「生体適合性」のない材料は、例えば、生体適合性材料による被覆が行なわれていない材料であり、具体例として、治療として留置したもの、意図せず体内に入ったもの等の体内異物反応を惹起する物があげられる。
【0015】
本発明において、「フィブリンシース」は、例えば、血小板の付着から始まり血液中の凝固因子の働きによって形成されたカテーテル表面を覆うフィブリン網の膜を意味する。
【0016】
本発明において、「先端」は、体腔、管腔部等の生体の管腔(生体管腔)に挿入する側の端部を意味する。また、本発明において、「先端側」は、前記管腔に挿入する側を意味する。
【0017】
本発明において、「基端」は、カテーテル等の医療器具を操作する使用者の手元側の端部を意味する。また、本発明において、「基端側」は、カテーテル等の医療器具を操作する使用者の手元側を意味する。
【0018】
前記生体管腔は、胸腔、腹腔、後腹膜腔、脳室等の体腔;消化管、尿道、尿管、腎孟、胆管、胆のう等の管腔部;血管、リンパ管、心腔等があげられる。
【0019】
以下、本発明のカテーテルおよびカテーテルの製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の説明に限定されない。なお、以下の図1図6において、同一部分には、同一符号を付し、その説明を省略する場合がある。また、図面においては、説明の便宜上、各部の構造は適宜簡略化して示す場合があり、各部の寸法比等は、実際とは異なり、模式的に示す場合がある。
【0020】
(実施形態1)
実施形態1は、本発明のカテーテルおよびカテーテルの製造方法の一例である。図1に、実施形態1のカテーテル1を示す。図1において、(A)は、カテーテル1の模式図を示し、図1(B)は、カテーテル1における、図1(A)のL1領域の長軸方向の模式断面図であり、図1(C)は、カテーテル1における、図1(A)のL2領域の長軸方向の模式断面図であり、図1(D)は、図1(A)におけるI-I’方向の模式断面図であり、図1(E)は、カテーテル1を、皮膚S下に存在する血管B内に留置した場合の模式図である。
【0021】
図1(A)に示すように、実施形態1のカテーテル1は、カテーテルシャフト2およびハブ3を備える。カテーテルシャフト2は、基端側でハブ3と液密に接続されている。図1(B)に示すように、カテーテルシャフト2は、本体部22と、内腔23とを備え、内腔23の先端は、開口部21と連通している。ハブ3は、先端から基端まで連通する内腔を有し、ハブ3の内腔の先端は、カテーテルシャフト2の内腔23の基端と連通している。図1(B)および(D)に示すように、本体部22は、先端側の領域L1において、その外周面(外周表面)に多数の凹部24が形成されることにより、本体部22の領域L1には、凹凸面が形成されている。凹部24には、生体適合性材料25が配置(充填)されている。
【0022】
カテーテルシャフト2は、先端から基端まで連通する内腔(ルーメン)23を有する管状体である。カテーテルシャフト2は、生体管腔内に留置した際に、前記生体管腔への傷害を抑制できることから可撓性を有することが好ましい。実施形態1のカテーテル1が、カテーテル組立体を構成する場合、カテーテルシャフト2には、前記生体管腔への挿入時には、針先を有し、中空の管状体である内針が内腔23内に着脱可能(挿通可能)に配置され、かつ前記内針の針先がカテーテルシャフト2の先端の開口部21から露出するように配置される。そして、カテーテルシャフト2の前記生体管腔への留置および前記内針のカテーテル1からの離脱後において、カテーテル1は、ハブ3の基端の開口から薬液等の液体を導入することにより、ハブ3の基端の開口からハブ3の内腔、ハブ3の先端、内腔23、および開口部21を介して、前記生体管腔内に液体を導入できる。すなわち、カテーテルシャフト2は、液体の導入路として機能する。なお、穿刺針として内針を用いる場合を例にあげて留置方法について説明したが、カテーテル1は、内針以外の穿刺針を用いて、前記生体管腔内に配置されてもよい。この場合、前記穿刺針は、カテーテル1とは別個に備えられており、実施形態1のカテーテル1は、例えば、カテーテルキットということもできる。
【0023】
実施形態1において、カテーテルシャフト2は、長尺状の管状体であるが、カテーテルシャフト2の長さおよび径(外径、内径)、ならびに内腔23の径は、これに制限されず、例えば、カテーテル1の用途に応じて適宜設定できる。具体例として、径が0.36mmの内針を挿通可能に、カテーテルシャフト2を構成する場合、カテーテルシャフト2の外径(本体部22の外径)は、例えば、1.13mm以下であり、内径(本体部22の内径または内腔23の径)は、例えば、0.4~0.6mmである。カテーテルシャフト2の長さは、例えば、20~500mm、30~400mm、100~300mmである。
【0024】
カテーテルシャフト2の長さは、例えば、中心静脈カテーテル、PICC、ミッドラインカテーテル、末梢静脈カテーテル等のカテーテルシャフトの長さよりも長くなるように設定してもよい。
【0025】
カテーテルシャフト2の構成材料は、例えば、樹脂材料であり、好ましくは、軟質樹脂材料、すなわち、可撓性を有する樹脂材料があげられる。前記軟質樹脂材料は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)等のフッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂またはこれらの混合物、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルナイロン樹脂、前記オレフィン系樹脂とエチレン-酢酸ビニル共重合体との混合物等があげられる。
【0026】
カテーテルシャフト2は、全部または一部の内部を視認できるように、透明性を有する樹脂で構成されてもよい。また、カテーテルシャフト2は、放射線(X線)不透過材(例えば、酸化バリウム等)を含んで造影機能を有してもよい。
【0027】
カテーテルシャフト2は、先端側のL1領域および基端側のL2領域を有する。カテーテルシャフト2は、L1領域において、本体部22の外周面に多数の凹部24が形成されることにより、凹凸面が形成されている。他方、カテーテルシャフト2は、L2領域において、本体部22の外周面は平滑である。また、カテーテルシャフト2の内周面(内周表面)、すなわち、本体部22の内腔23側の面は、L1領域およびL2領域の全てにおいて、平滑である。カテーテルシャフト2において、「凹凸面」は、生体適合性材料25を凹部24に配置可能な程度に、対象の面が凹凸を有することを意味し、具体的には、図1(B)に示すように、略一定の深さの凹部および/または略一定の高さの凸部が、面上において連続的に多数個存在していることを意味する。前記凹凸面は、例えば、前記略一定の深さの凹部および/または略一定の高さの凸部が、均質に配置されているということもできる。カテーテルシャフト2では、カテーテルシャフト2の表面に凹凸面が形成され、前記凹凸面の凹部24内に生体適合性材料25が配置されることで、カテーテル1が生体管腔に留置されて、カテーテルシャフト2が体液と接触した際に、生体適合性材料25と前記体液との接触面積を低減できる。このため、カテーテルシャフト2は、表面が全て平滑なカテーテルシャフトと比較して、生体適合性材料25の前記体液への溶出量を低減できることにより溶出時間を長くでき、これにより、カテーテルシャフト2と前記体液との接触面に生体適合性材料25をより長期間保持できるため、より長期間カテーテルシャフト2表面におけるフィブリンシースの形成を阻害できる、すなわち、持続的にカテーテルシャフト2表面におけるフィブリンシースの形成を阻害できる。また、カテーテルシャフト2では、カテーテルシャフト2の表面に凹凸面が形成されることで、カテーテルシャフト2の表面積は、相対的に広くなる。このため、カテーテルシャフト2の前記凹凸面の凹部24内に生体適合性材料25が配置されることで、カテーテルシャフト2と、生体適合性材料25との接触面積が広くなる。したがって、実施形態1のカテーテル1では、カテーテルシャフト2への生体適合性材料25の接着性が向上し、体液と接触した際に溶出する生体適合性材料25の溶出量を低減できることにより、カテーテルシャフト2と前記体液との接触面に生体適合性材料25をより長期間保持できる。これにより、実施形態1のカテーテル1は、より長期間カテーテルシャフト2表面におけるフィブリンシースの形成を阻害できる、すなわち、持続的にカテーテルシャフト2表面におけるフィブリンシースの形成を阻害できる。
【0028】
カテーテルシャフト2は、その外周面が凹凸面であるL1領域と、その外周面が平滑面であるL2領域とから構成されているが、L2領域は、任意の構成であり、あってもよいし、なくてもよい。カテーテルシャフト2におけるL1領域およびL2領域の占める割合は、特に制限されず、例えば、カテーテルシャフト2において管腔内に配置される領域の長さに応じて適宜設定できる。具体例として、図1(E)に示すように、カテーテル1を生体管腔内に留置すると、カテーテルシャフト2のL領域が、生体管腔内に配置される場合、カテーテルシャフト2のL1領域の長軸方向の長さ、すなわち、カテーテルシャフト2の先端から凹凸面の基端側の端部までの長軸方向の長さは、L領域の長軸方向の長さと同じ、またはL領域の長軸方向の長さより長く設定することが好ましい。これにより、カテーテル1の表面におけるフィブリンシースの形成を効率よく阻害できる。また、カテーテルシャフト2では、カテーテルシャフト2の外周面の全面に生体適合性材料25を配置してもよい。この場合、カテーテルシャフト2の外周面の表面に、生体適合性材料25を含む生体適合性材料層が積層されている。
【0029】
カテーテルシャフト2は、L1領域を1つ有するが、L1領域は1つ以上あればよく、任意の数とできる。また、カテーテルシャフト2は、L2領域を1つ有するが、2つ以上としてもよい。カテーテルシャフト2において、複数のL1領域および1以上のL2領域が存在する場合、前記L1領域およびL2領域は、例えば、交互に配置される。カテーテルシャフト2において、L1領域およびL2領域は、先端側にL1領域、基端側にL2領域が配置されているが、L1領域の一部または全部が、前記生体管腔内に留置されるように構成される範囲で、L1領域の位置は任意の位置に設定してもよい。
【0030】
カテーテルシャフト2において、前記凹凸面は、L1領域の外周面全体に形成されているが、本発明は、これに限定されず、L1領域の一部に形成してもよい。この場合、前記凹凸面は、L1領域に規則性をもって配置されてもよいし、不規則(ランダム)に配置されてもよい。
【0031】
カテーテルシャフト2において、本体部22は、1層から構成されているが、本体部22は、複数層から構成されてもよい。この場合、本体部22の各層の構成材料は、同じでもよいし、異なってもよい。
【0032】
図1(D)に示すように、内腔23の軸方向に垂直方向の断面形状は、円形である。ただし、内腔23の断面形状は、任意の形状とでき、正円、楕円、半円等の円形状;多角形;等の任意の形状とすることができる。内腔23は、1つの空間として構成されているが、複数の空間に分離されてもよい。後者の場合、内腔23は、例えば、先端から基端まで連通する複数の内腔を有する。実施形態1のカテーテル1は、内腔23を複数の空間に分割することにより、例えば、内腔23を介して、体液への液体の導入および体液の導出が可能に構成できる。
【0033】
カテーテルシャフト2において、L1領域の外周面の凹凸面は、カテーテルシャフト2の外周面に多数の凹部24を設けることにより形成されているが、凹凸面は、カテーテルシャフト2の外周面(外周表面)に多数の凸部を設けることにより形成してもよいし、カテーテルシャフト2の外周面(外周表面)に、多数の凹部および/または多数の凸部を設けることにより形成してもよい。前記凹部および/または凸部の数は、例えば、L1領域の大きさと、凹部および/または凸部の大きさに応じて適宜設定できる。前記凹部は、例えば、カテーテルシャフト2の外周面から内周面方向に形成された窪みということもできる。また、前記凸部は、カテーテルシャフト2の外周面から、内周面から外周面方向に形成された突起ということもできる。カテーテルシャフト2において、多数の凸部を設ける場合、凹部24は、前記凸部の間に形成される窪みということもできる。
【0034】
前記L1領域の外周面において設ける凹部24の数は、例えば、L1領域の表面積を考慮し、フィブリンシースの形成阻害機能を有する範囲で適宜設定できる。
【0035】
カテーテルシャフト2において、内周面は、平滑であるが、これに限定されず、凹凸面としてもよい。カテーテルシャフト2の内周面を凹凸面とし、その凹部24に生体適合性材料25を配置することで、フィブリンシースの形成をより効果的に阻害できる。
【0036】
カテーテルシャフト2のL1領域において、多数の凹部24は、規則性を持って配置されているが、不規則(ランダム)に配置されてもよい。
【0037】
カテーテルシャフト2において、凹部24の大きさおよび深さは、カテーテルシャフト2のフィブリンシースの形成阻害機能の持続期間に応じて適宜設定できる。具体的には、凹部24では、凹部24の大きさ(開口の大きさ)を相対的に小さくすることにより、凹部24内の生体適合性材料25の溶出速度を低減できるため、フィブリンシースの形成阻害機能の持続期間を相対的に長くできる。また、凹部24では、凹部24の深さ(長さd)を相対的に大きくすることにより、凹部24内の生体適合性材料25の溶出が終わるまでの時間を長くできるため、フィブリンシースの形成阻害機能の持続期間を相対的に長くできる。
【0038】
各凹部24の大きさおよび深さは、同じでもよいし、異なってもよい。前者の場合、凹部24は、例えば、後述のレーザ処理によりカテーテルシャフト2の外周面を凹凸加工処理することにより形成できる。後者の場合、凹部24は、例えば、後述のブラスト処理によりカテーテルシャフト2の外周面を凹凸加工処理することにより形成できる。
【0039】
各凹部24の形状は、特に制限されず、任意の形状とできる。各凹部24の形状は、例えば、後述の実施形態1のカテーテル1の製造方法における表面の凹凸加工処理の方法の選択により調整できる。
【0040】
凹部24には、生体適合性材料25が配置されている。実施形態1において、凹部24の窪み全体に、生体適合性材料25が充填されているが、凹部24の窪みの一部に生体適合性材料25が充填されてもよい。また、実施形態1のカテーテル1では、全ての凹部24に生体適合性材料25が配置されているが、一部の凹部24に対して生体適合性材料25を配置してもよい。実施形態1のカテーテル1では、全ての凹部24に生体適合性材料25を配置することにより、フィブリンシースの形成をより効果的に阻害している。
【0041】
生体適合性材料25は、例えば、体液等の水性溶媒中において、中間水層を形成することにより、体液中のタンパク質等の高分子の中間水層と干渉することにより、前記体液中の高分子が対象物に付着および/または対象物上で析出するのを防止できると考えられている。このため、生体適合性材料25は、例えば、前記高分子が、疎水結合等を介してカテーテルシャフト2の表面に付着することを阻害でき、これにより、カテーテルシャフト2表面でのバイオフィルムの形成を阻害できる。生体適合性材料25は、例えば、アガロース、デキストラン、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、キトサン、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヒアルロン酸、アルギン酸等の多糖類;ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)(PMEA)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)ポリマー、PMCA ポリ(3-メトキシプロピルアクリレート)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)、ポリアルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリメチルビニルエーテル(PVME)、poly(tetrahydrofurfurylacrylate)(PTHFA)、poly[2(2ethoxyethoxy)ethylacrylate](PEEA)等のpoly(oligoethyleneglycol(meth)acrylate)等の生体適合性ポリマー等があげられ、体液中の高分子の付着をより効果的に抑制できることから、好ましくは、生体適合性ポリマーであり、より好ましくは、ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)(PMEA)である(但し、フィブリンまたはその前駆体(フィブリノーゲン)は、除く)。生体適合性材料25の構成材料は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0042】
生体適合性材料25は、前述のように、中間水層を形成することにより、体液中の高分子付着を阻害できると推定される。このため、生体適合性材料25は、体液等の水性溶媒中において、中間水層を形成する生体適合性材料が好ましい、前記中間水層を形成可能な生体適合性材料25は、例えば、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)(PMEA)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)ポリマー、PMCA ポリ(3-メトキシプロピルアクリレート)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)、ポリアルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリメチルビニルエーテル(PVME)、poly(tetrahydrofurfurylacrylate)(PTHFA)、poly[2(2ethoxyethoxy)ethylacrylate](PEEA)等のpoly(oligoethyleneglycol(meth)acrylate)等があげられる。
【0043】
ハブ3は、カテーテルシャフト2の基端に液密に固定されている。カテーテルシャフト2とハブ3とは、例えば、カシメ、融着(熱融着、高周波融着等)、接着剤による接着等を用いて固定されている。ハブ3は、図1(A)に示すように、先細りとなる筒状に形成される。なお、実施形態1のカテーテル1は、ハブ3を備えるが、ハブ3は、任意の構成であり、あってもよいし、なくてもよい。ハブ3は、例えば、輸液製剤の接続部、シリンジ等との接続に用いられる。
【0044】
ハブ3の構成材料は、特に制限されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリアセタール、エポキシ樹脂等の樹脂材料があげられる。
【0045】
図1(E)に示すように、ハブ3は、カテーテルシャフト2の領域Lが血管B等の生体管腔に穿刺された状態で、皮膚S上に露出し、テープ等により皮膚Sに貼付けられることで、留置される。このため、ハブ3は、カテーテルシャフト2と比較して、硬質の構成材料によって構成されることが好ましい。この場合、ハブ3の構成材料は、好ましくは、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルホン、ポリアリレート、メタクリレート-ブチレン-スチレン共重合体等の熱可塑性樹脂;エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂;等があげられる。
【0046】
つぎに、実施形態1のカテーテルの製造方法について説明する。実施形態1のカテーテルの製造方法は、外周面に凹凸面を有するカテーテルシャフト2を形成する形成工程と、前記凹凸面の凹部24に生体適合性材料25を配置する配置工程とを含む。
【0047】
前記形成工程は、一例として、図2に示す、押出成形機100により形成した管状体の外表面に対して、レーザ処理および/またはブラスト処理等の表面の凹凸加工処理を行なうことで、実施できる。前記レーザ処理は、例えば、レーザ加工機を用いて実施できる。前記形成工程において前記レーザ処理を実施する場合、凹部24の大きさおよび深さは、例えば、前記レーザ加工機から投射されるレーザ光のエネルギー量およびスポット径を調整することにより、制御できる。また、前記ブラスト処理は、例えば、ウェットブラスト洗浄機を用いて実施できる。前記形成工程において前記ブラスト処理を実施する場合、凹部24の大きさおよび深さは、例えば、前記ウェットブラスト洗浄機から射出されるブラストの大きさを調整することにより、制御できる。なお、以下、押出成形法を例にあげて管状体の形成方法について説明するが、管状体の成型方法は、これに限定されず、例えば、樹脂を含む溶剤に芯線を浸漬する方法、他の管状体に対して、シュリンク加工により形成する方法等により実施してもよい。
【0048】
まず、カテーテルシャフト2の内径と等しい外径であり、長尺の芯線50を準備する。芯線50の構成材料は、例えば、銅線、ステンレス軟線等の延伸可能な金属線;ポリアミド(PA)等の樹脂ストランド;等があげられる。芯線50の断面は、例えば、カテーテルシャフト2の内腔23の断面形状に応じて設定でき、例えば、楕円、半円等の円形状;多角形;等の任意の形状とすることができる。
【0049】
つぎに、押出成形機100を用いて、所定の成形温度(ダイス温度)で所定の引き取り速度で押出成形することで、カテーテルシャフト2を構成する管状体を形成できる。押出成形機100を用いることにより、実施形態1のカテーテル1の製造方法では、略同一肉厚の押出成形体(本体部22)を得ることができる。なお、押出成形機100における引き取り速度を調整することで、部位に応じて肉厚を変化させることもできる。
【0050】
押出成形機100を用いた押出成形法について、より具体的に説明する。まず、図2に示すような一般的な押出成形機100を用いて、芯線50上に熱可塑性樹脂等の材料の層(本体部22)を成形する。押出成形機100は、押出機101と、押出口102を有する金型103と、引取機105と、供給ロール106と、回収ロール107とを備える。押出機101は、加熱溶融した材料を押し出す。金型103は、押出口102から、押出機101から押し出された樹脂を押し出す。引取機105は、金型103を貫通して押出口102の中心に位置する、芯線50を引き取る。供給ロール106は、芯線50が巻回されて保持し、かつ金型103へ芯線50を供給する。回収ロール107は、押出成形が完了した芯線50を回収する。押出成形機100を用いて、芯線50上に材料を押出成形する際には、押出機101は、加熱溶融した材料を金型103に供給する。つぎに、押出成形機100は、供給ロール106から送り出されて押出口102に位置する芯線50を引取機105により引き取りつつ、押出口102から芯線50上に材料を連続的に供給して、芯線50上に材料を被覆させる。材料が被覆された芯線50は、被覆された材料が固化した後に回収ロール107に巻回されて回収される。押出成形機100では、引取機105による引き取り速度を変更することで、押し出される成形品の外径を任意に変更することができる。なお、押出成形機100では、供給ロール106に巻き取られた芯線50を供給しているが、実施形態1のカテーテル1の製造方法は、これに限定されず、前工程から芯線50を直接受け取り、後工程へ熱可塑性樹脂等の材料が被覆された芯線50を直接引き渡してもよい。この場合、押出成形機100は、供給ロール106および回収ロール107を備えなくてもよい。
【0051】
つぎに、回収ロール107に巻き取られた材料が被覆された芯線50に対して、凹凸加工処理を実施する。具体的には、芯線50に被覆した材料において、L1領域となる領域に対して、レーザ処理および/またはブラスト処理等の表面の凹凸加工処理を実施することにより、カテーテルシャフト2のL1領域となる外周面の凹凸面を形成する。これにより、外周面に凹凸面が形成された管状体を製造できる。なお、実施形態1のカテーテル1の製造方法では、管状体を形成後に、外周面に対して凹凸加工処理を実施したが、管状体の形成時にあわせて外周面の凹凸加工処理を実施してもよい。この場合、押出成形機100の押出口102から押し出された材料に対して、凹凸面を有する金型等を押し当て成型することにより、外周面の凹凸加工処理を実施できる。
【0052】
つぎに、前記配置工程では、外周面に凹凸面が形成された管状体の凹部24に対して、生体適合性材料25を配置する。生体適合性材料25の配置は、前記管状体が被覆された巻線50を、生体適合性材料25を含有する溶媒に浸漬することにより実施できる。前記溶媒における生体適合性材料25の濃度は、例えば、各生体適合性材料25のフィブリンシースの形成阻害能に応じて設定できる。前記浸漬後、前記管状体の外表面に付着している溶媒を除去することにより、凹部24に生体適合性材料25を配置できる。これにより、実施形態1のカテーテル1を製造できる。なお、管状体が複数のカテーテル1を含むように製造される場合、前記配置工程後に、前記管状体を切断し、各カテーテル1を形成してもよい。
【0053】
実施形態1のカテーテル1では、カテーテルシャフト2の外周面の一部に多数の凹部24が形成され、凹部24内には、生体適合性材料25が充填されている。このため、実施形態1のカテーテル1において、カテーテルシャフト2は、表面が全て平滑なカテーテルシャフトと比較して、生体適合性材料25の前記体液への溶出時間を長くすることができ、これにより、カテーテルシャフト2と前記体液との接触面に生体適合性材料25をより長期間保持できるため、より長期間カテーテルシャフト2表面におけるフィブリンシースの形成を阻害できる、すなわち、持続的にカテーテルシャフト2表面におけるフィブリンシースの形成を阻害できる。したがって、実施形態1のカテーテル1によれば、抗菌薬を用いなくても、血流感染を抑制しうる、すなわち、抗菌性を示しうる。
【0054】
実施形態1のカテーテル1では、凹部24の内部にのみ生体適合性材料25を配置したが、図3に示すように、カテーテルシャフト2の外周面全体に生体適合性材料25を配置してもよい。この場合、生体適合性材料25は、凹部24の内部を含むカテーテルシャフト2の外周面上に、生体適合性材料層を形成している。生体適合性材料25をカテーテルシャフト2の外周面全体に配置することにより、生体適合性材料25の前記体液への溶出時間を長くすることができ、これにより、カテーテルシャフト2と前記体液との接触面に生体適合性材料25をさらに長期間保持できるため、さらに長期間カテーテルシャフト2表面におけるフィブリンシースの形成を阻害できる、すなわち、さらに持続的にカテーテルシャフト2表面におけるフィブリンシースの形成を阻害できる。また、実施形態1のカテーテル1では、L1領域の凹部24のみに生体適合性材料25を配置したが、本発明はこれに限定されず、L2領域の外周面および/または内周面に生体適合性材料25を配置してもよい。この場合、L2領域の外周面および/または内周面における生体適合性材料25は、例えば、生体適合性材料層を形成している。これにより、カテーテル1は、例えば、カテーテルシャフト2の外周面および内周面への体液中の高分子の付着をより効率よく防止できるため、カテーテルシャフト2表面におけるフィブリンシースの形成をより効率よく阻害できる。
【0055】
実施形態1のカテーテル1において、全ての凹部24に、生体適合性材料25を配置したが、本発明はこれに限定されず、凹部24の一部に生体適合性材料25を配置してもよい。この場合、カテーテルシャフト2のL領域に存在する凹部24の一部または全部に、生体適合性材料25が配置されることが好ましい。
【0056】
実施形態1のカテーテル1において、凹部24は、点状(スポット状)の凹部としたが、凹部24の形状は、生体適合性材料25が配置可能な凹凸面を形成可能な形状であればよく、例えば、周方向の断面が円状、多角形状の点(スポット);溝(スリット)等としてもよい。
【0057】
本実施形態では、カテーテルを例にあげて説明したが、本発明における凹凸面および前記凹凸面における凹部への生体適合性材料の配置により得られる効果は、他の医療機器においても得ることができる。このため、本発明は、例えば、生体管腔内に配置または留置しうる、すなわち、体液と接触しうる他の医療機器の表面構造としても適用できる。前記医療機器は、例えば、カテーテル、ペースメーカー、人工関節、ボルト、脳室腹腔シャント、人工血管、ステント、ステントグラフト、フィルター、バーシャント等があげられる。前記体液は、例えば、血液、リンパ液、脳髄液、組織液、体腔液、尿、消化液、精液等があげられる。
【0058】
(実施形態2)
実施形態2は、本発明のカテーテルおよびカテーテルの製造方法の他の例である。図4に、実施形態2のカテーテル1aを示す。図4において、(A)は、カテーテル1aの模式図を示し、図4(B)は、カテーテル1aにおける、図4(A)のL1領域の長軸方向の模式断面図であり、図4(C)は、カテーテル1aにおける、図4(A)のL2領域の長軸方向の模式断面図であり、図4(D)は、図4(A)におけるII-II’方向の模式断面図である。
【0059】
実施形態2のカテーテル1aでは、カテーテルシャフト2aにおいて、本体部22aの内周面に多数の凹部24aが形成されることにより、凹凸面を備える。また、実施形態2のカテーテル1aでは、本体部22aの内周面の各凹部24a内に、生体適合性材料25aが配置されている。これらの点を除き、実施形態2のカテーテル1aは、実施形態1のカテーテル1と同様の構成を有し、その説明を援用できる。
【0060】
実施形態2のカテーテル1aにおいて、カテーテルシャフト2aの外周面の凹部24aの大きさおよび深さと、内周面の凹部24aの大きさおよび深さとは、同じでもよいし異なってもよい。また、実施形態2のカテーテル1aにおいて、カテーテルシャフト2aの先端から外周面における凹凸面の基端側の端部までの長軸方向の長さと、カテーテルシャフト2aの先端から内周面における凹凸面の基端側の端部までの長軸方向の長さとは、同じでもよいし、異なってもよい。また、カテーテルシャフト2aの先端から外周面における凹凸面の基端側の端部までの長軸方向の長さと、カテーテルシャフト2aの先端から内周面における凹凸面の基端側の端部までの長軸方向の長さとは、カテーテル1aを生体管腔内に留置した際に、カテーテルシャフト2aにおいて、前記生体管腔内に留置される領域の長軸方向の長さと同じ、または長軸方向の長さより長く設定することが好ましい。これにより、カテーテル1aの表面におけるフィブリンシースの形成をさらに効率よく阻害できる。また、カテーテルシャフト2aでは、カテーテルシャフト2aの外周面および/または内周面の全面に生体適合性材料25を配置してもよい。この場合、カテーテルシャフト2aの外周面および/または内周面の表面に、生体適合性材料25aを含む生体適合性材料層が積層されている。
【0061】
つぎに、実施形態2のカテーテル1aの製造方法について、説明する。実施形態2のカテーテル1aは、外周面および内周面に凹凸面を有するカテーテルシャフト2aを形成する形成工程と、前記凹凸面の凹部24aに生体適合性材料25aを配置する配置工程とを含む。
【0062】
前記形成工程では、例えば、内周面に凹凸面を有するカテーテルシャフト2aを形成し、ついで外周面に凹凸面を形成し、外周面および内周面に凹凸面を有するカテーテルシャフト2aを形成できる。具体的には、実施形態1の押出成形機100において、芯線50に代えて、図5に示す外周面に凹凸面を有する芯線50aを用いる以外は同様にして、前述の材料に被覆された芯線50aを製造する。つぎに、実施形態1のカテーテル1の製造方法における形成工程と同様にして、前記材料に被覆された芯線50aの外表面に対して、凹凸面を形成する。
【0063】
つぎに、芯線50a上に形成された管状体から、芯線50aを抜去し、得られた管状体について、実施形態1のカテーテル1の製造方法における配置工程と同様にして、生体適合性材料25aを含有する溶媒に浸漬する。そして、前記浸漬後、前記管状体の外表面および内表面に付着している溶媒を除去することにより、凹部24aに生体適合性材料25aを配置できる。これにより、実施形態2のカテーテル1aを製造できる。なお、前記管状体が複数のカテーテル1aを含むように製造される場合、前記配置工程後に、前記管状体を切断し、各カテーテル1aを形成してもよい。
【0064】
実施形態2のカテーテル1aでは、カテーテルシャフト2aの外周面および内周面の一部に多数の凹部24aが形成され、凹部24a内には、生体適合性材料25aが充填されている。このため、実施形態2のカテーテル1aは、カテーテルシャフト2aの外周面および内周面への体液中の高分子の付着を防止できるため、カテーテルシャフト2a表面におけるフィブリンシースの形成も阻害できる。このため、実施形態2のカテーテル1aによれば、より効果的に、カテーテルシャフト2a表面におけるフィブリンシースの形成を阻害できる。したがって、実施形態2のカテーテル1aによれば、抗菌薬を用いなくても、より効率よく血流感染を抑制しうる、すなわち、抗菌性を示しうる。
【0065】
実施形態2のカテーテル1aでは、凹部24aの内部にのみ生体適合性材料25aを配置したが、図6に示すように、カテーテルシャフト2aの外周面および内周面全体に生体適合性材料25aを配置してもよい。この場合、生体適合性材料25aは、凹部24aの内部を含むカテーテルシャフト2aの外周面および内周面上に、生体適合性材料層を形成している。生体適合性材料25aをカテーテルシャフト2aの外周面および内周面全体に配置することにより、生体適合性材料25aの前記体液への溶出時間を長くすることができ、これにより、カテーテルシャフト2aと前記体液との接触面に生体適合性材料25aをさらに長期間保持できるため、さらに長期間カテーテルシャフト2a表面におけるフィブリンシースの形成を阻害できる、すなわち、さらに持続的にカテーテルシャフト2a表面におけるフィブリンシースの形成を阻害できる。また、実施形態2のカテーテル1aでは、L1領域の凹部24aのみに生体適合性材料25aを配置したが、本発明はこれに限定されず、L2領域の外周面および/または内周面に生体適合性材料25aを配置してもよい。この場合、L2領域の外周面および/または内周面における生体適合性材料25aは、例えば、生体適合性材料層を形成している。これにより、カテーテル1aは、例えば、カテーテルシャフト2aの外周面および内周面への体液中の高分子の付着をより効率よく防止できるため、カテーテルシャフト2a表面におけるフィブリンシースの形成をより効率よく阻害できる。
【0066】
実施形態2のカテーテル1aでは、カテーテルシャフト2aの内周面および外周面の凹凸面が形成されているが、本発明はこれに限定されず、カテーテルシャフト2aの内周面および/または外周面に凹凸面が形成されていればよい。
【0067】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0068】
<付記>
上記の実施形態および実施例の一部または全部は、以下の付記のように記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
先端から基端まで連通する内腔を有する管状体と、生体適合性材料とを備え、
前記管状体の先端側の内周面および外周面の少なくとも一方は、凹凸面を有し、
前記生体適合性材料は、前記凹凸面の凹部に配置されている、カテーテル。
(付記2)
前記管状体において、生体管腔内に配置される管状体の内周面および外周面の少なくとも一方は、凹凸面である、付記1記載のカテーテル。
(付記3)
前記凹凸面は、前記管状体の表面において、前記外周面から内周面方向に形成された多数の凹部および前記内周面から外周面方向に形成された多数の凹部の少なくとも一方により構成される、付記1または2記載のカテーテル。
(付記4)
前記生体適合材料は、前記管状体の外周面および外周面の少なくとも一方の表面に生体適合性材料層を形成している、付記1から3のいずれかに記載のカテーテル。
(付記5)
前記生体適合性材料は、生体適合性ポリマーである、付記1から4のいずれかに記載のカテーテル。
(付記6)
前記生体適合性材料は、ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)を含む、付記1から5のいずれかに記載のカテーテル。
(付記7)
前記カテーテルは、血管留置カテーテルである、付記1から6のいずれかに記載のカテーテル。
(付記8)
付記1から7のいずれかに記載のカテーテルと、内針とを備え、
前記内針は、前記カテーテル内に、前記カテーテルの内腔を挿通可能に配置されている、カテーテル組立体。
(付記9)
内周面および外周面の少なくとも一方に凹凸面を有する管状体を形成する形成工程と、
前記凹凸面の凹部に生体適合性材料を配置する配置工程とを含む、カテーテルの製造方法。
(付記10)
前記形成工程は、凹凸部を有する棒状の鋳型と、前記管状体の構成材料とを用いて、前記内周面に凹凸面を有する管状体を形成する内周面形成工程を含む、付記9記載の製造方法。
(付記11)
前記形成工程は、凹凸部を有する棒状の鋳型と前記管状体の構成材料とを用いて、押出成形により、前記内周面に凹凸面を有する管状体を形成する内周面形成工程を含む、付記10記載の製造方法。
(付記12)
前記形成工程は、前記管状体の外周面に対して、レーザ処理および/またはブラスト処理により、前記管状体の外周面に凹凸面を形成する、外周面形成工程を含む、付記9から11のいずれかに記載の製造方法。
(付記13)
医療器具の体液接触面におけるタンパク質析出体の形成の抑制方法であって、
前記医療器具の体液接触面に凹凸面を形成する工程と、
前記凹凸面の凹部に、生体適合性材料を配置する工程とを含む、方法。
(付記14)
前記タンパク質析出体は、フィブリンを含むタンパク質析出体である、付記13記載の方法。
(付記15)
医療器具の体液接触面における菌の付着の抑制方法であって、
前記医療器具の体液接触面に凹凸面を形成する工程と、
前記凹凸面の凹部に、生体適合性材料を配置する工程とを含む、方法。
(付記16)
医療器具の体液接触面におけるバイオフィルム形成の抑制方法であって、
前記医療器具の体液接触面に凹凸面を形成する工程と、
前記凹凸面の凹部に、生体適合性材料を配置する工程とを含む、方法。
(付記17)
前記医療器具は、体内留置用医療器具である、付記13から16のいずれかに記載の方法。
(付記18)
前記医療器具は、カテーテル、ペースメーカー、人工関節、ボルト、脳室腹腔シャント、人工血管、ステント、ステントグラフト、フィルター、およびバーシャントからなる群から選択された少なくとも1つである、付記13から17のいずれか一項に記載の方法。
(付記19)
前記体液は、血液、リンパ液、脳髄液、組織液、体腔液、尿、消化液、および精液からなる群から選択された少なくとも1つである、付記13から18のいずれかに記載の方法
(付記20)
前記生体適合性材料は、生体適合性ポリマーである、付記13から19のいずれかに記載の方法。
(付記21)
前記生体適合性材料は、ポリ(2-メトキシエチルアクリレート)を含む、付記13から20のいずれかに記載の方法。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上のように、本発明によれば、カテーテルにおけるフィブリンシースの形成を抑制できるため、抗菌薬を用いなくても、血流感染を抑制しうる。このため、本発明は、例えば、管腔内に配置される医療器具分野等において極めて有用である。

図1
図2
図3
図4
図5
図6