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特開2022-68778腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物及びこれを含む飲食品
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  • 特開-腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物及びこれを含む飲食品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022068778
(43)【公開日】2022-05-10
(54)【発明の名称】腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物及びこれを含む飲食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/135 20160101AFI20220427BHJP
   A23L 33/21 20160101ALI20220427BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20220427BHJP
   A61K 35/744 20150101ALI20220427BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20220427BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20220427BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220427BHJP
   A61P 37/00 20060101ALI20220427BHJP
   A61K 31/715 20060101ALI20220427BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220427BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20220427BHJP
   A23K 10/10 20160101ALI20220427BHJP
   A23K 20/163 20160101ALI20220427BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20220427BHJP
【FI】
A23L33/135
A23L33/21
A23L33/125
A61K35/744
A61P1/00
A61P3/00
A61P25/00
A61P37/00
A61K31/715
A61P43/00 121
A61K35/74 A
A23K10/10
A23K20/163
A23K10/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020177645
(22)【出願日】2020-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】505164690
【氏名又は名称】有限会社バイオ研
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 良子
(72)【発明者】
【氏名】生天目 由里子
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 卓巳
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
2B150AA06
2B150AB03
2B150AC01
2B150AE02
2B150AE12
2B150AE13
2B150CE14
2B150DC15
2B150DD42
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4B018LB07
4B018LB08
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4B018LE02
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4C087ZC21
4C087ZC41
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(57)【要約】
【課題】腸内における短鎖脂肪酸、特に、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の産生を促す効果を有する、新たな機能性素材を提供する。
【解決手段】乳酸菌死菌体と食物繊維及び/又は難消化性オリゴ糖とを含有する腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物である。この組成物は、酢酸、プロピオン酸、及び酪酸からなる群から選ばれた1種又は2種以上の短鎖脂肪酸の腸内産生量を増加させるために用いられてよい。また、腸内細菌叢を改善するために用いられてよい。また、飲食品、飲食品添加用素材、医薬品、医薬品添加用素材、動物飼料、又は動物飼料添加用素材であってよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌死菌体と、食物繊維及び/又は難消化性オリゴ糖とを含有することを特徴とする腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物。
【請求項2】
前記乳酸菌死菌体は、エンテロコッカス・フェカリスの死菌体である、請求項1記載の腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物。
【請求項3】
前記食物繊維は、レジスタントスターチである、請求項1又は2記載の腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物。
【請求項4】
少なくとも、酢酸、プロピオン酸、及び酪酸からなる群から選ばれた1種又は2種以上の短鎖脂肪酸の腸内産生量を増加させるために用いられる、請求項1~3のいずれか一項に記載の腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物。
【請求項5】
飲食品、飲食品添加用素材、医薬品、医薬品添加用素材、動物飼料、又は動物飼料添加用素材である、請求項1~4のいずれか一項に記載の腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物を含む、飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内における短鎖脂肪酸、特に、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の産生を促す効果を有する機能性素材に関する。
【背景技術】
【0002】
食と健康は密接に関わっている。近年、腸内細菌環境が腸疾患、免疫疾患、代謝疾患、精神疾患といった多岐にわたる疾患に関与していると報告されている。腸内細菌叢と宿主はお互いに作用しあいながら恒常性を保っているが、腸内細菌叢は摂取する食品によっても変化する。腸内細菌は、難消化性成分であるオリゴ糖や食物繊維などヒトの小腸で消化されずに大腸に達したものを資化することでエネルギーを得ているため、その人が摂取した食品によって腸内環境は変化する。
【0003】
また、腸内細菌が難消化性成分を分解した際に、発酵産物として短鎖脂肪酸が生成する。この短鎖脂肪酸は大腸粘膜のエネルギーとなるのみでなく、インスリン抵抗性の改善やインスリン分泌促進ホルモン、グルカゴンペプチド-1(GLP-1)の分泌促進など糖代謝に関連し、腸内環境の改善は糖尿病をはじめとする生活習慣病の予防にも有効となる可能性が示唆されている。
【0004】
一方、このような短鎖脂肪酸の重要な役割に着眼して、特許文献1には、ラクトバシルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)及び/又はビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)の菌体を有効成分とする腸内酪酸濃度上昇促進剤の発明が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、動物の腸内から分離される細菌の死菌体を有効成分として含有することを特徴とする腸内酪酸生成促進剤の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-84909号公報
【特許文献2】特開2004-346043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、ラクトバシルス・アシドフィルスやビフィドバクテリウム・ロンガムの菌体を含む飼料をラットに摂取させると、ラットの盲腸内の酪酸濃度が上昇することが記載されているが、酪酸以外の短鎖脂肪酸については明らかにされていない。
【0008】
また、特許文献2では、エンテロコッカス・フェカリスの菌体を餌に配合してブタに給餌すると、盲腸内の酪酸濃度が対照に比べて増加することが記載されているが、酪酸以外の酢酸やプロピオン酸については有意な変化が得られずに、総短鎖脂肪酸濃度の経時的な変化も認められなかったことが記載されている(特許文献2の段落0046)。
【0009】
本発明の目的は、従来技術にかんがみ、腸内における短鎖脂肪酸、特に、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の産生を促す効果を有する、新たな機能性素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明者らは、種々研究した結果、乳酸菌死菌体と食物繊維及び/又は難消化性オリゴ糖とを併用すると、腸内における短鎖脂肪酸の産生を促す作用効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、乳酸菌死菌体と、食物繊維及び/又は難消化性オリゴ糖とを含有することを特徴とする腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物を提供するものである。
【0012】
前記乳酸菌死菌体は、エンテロコッカス・フェカリスの死菌体であることが好ましい。また、前記食物繊維は、レジスタントスターチであることが好ましい。
【0013】
本発明にかかる腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物は、少なくとも、酢酸、プロピオン酸、及び酪酸からなる群から選ばれた1種又は2種以上の短鎖脂肪酸の腸内産生量を増加させるために用いることができる。
【0014】
本発明にかかる腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物は、飲食品、飲食品添加用素材、医薬品、医薬品添加用素材、動物飼料、又は動物飼料添加用素材であることができる。
【0015】
本発明は、別の観点では、上記腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物を含む飲食品を提供することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、乳酸菌死菌体と食物繊維及び/又は難消化性オリゴ糖とを利用して、腸内における短鎖脂肪酸、特に、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の産生を促す効果を有する、新たな機能性素材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】試験例1において、乳酸菌死菌体と食物繊維をそれぞれ単独で又は併用して飼料に混ぜてラットに摂取させたときの、ラットの盲腸内容物中の短鎖脂肪酸濃度を測定した結果を示す図表である。
図2】試験例2において、乳酸菌死菌体と食物繊維をそれぞれ単独で又は併用して飼料に混ぜてマウスに摂取させたときの、マウスの盲腸内容物中の短鎖脂肪酸濃度を測定した結果を示す図表である。
図3】試験例2において、乳酸菌死菌体と食物繊維をそれぞれ単独で又は併用して飼料に混ぜてマウスに摂取させたときの、マウスの盲腸内容物の量を測定した結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に用いる乳酸菌は、特に制限はないが、例えば、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)等のエンテロコッカス属に属する微生物、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)等のラクトバチルス属に属する微生物、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)等のビフィドバクテリウム属に属する微生物、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptcoccus thermophilus)等のストレプトコッカス属に属する微生物、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)等のラクトコッカス属に属する微生物等が挙げられる。なかでも、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、及びラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)からなる群から選択された1種又は2種以上であることが好ましく、特に好ましくはエンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)である。乳酸菌は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0019】
乳酸菌の培養、菌体の維持等は、様々な技術によって行うことができる。例えば、乳酸菌の培養に適した培地としては、脱脂粉乳培地が挙げられ、あるいは、酵母エキス、ペプトン、肉エキス、塩類、ミネラル類等を含む液体培地が挙げられる。市販の培地として「MRSブイヨン MERCK」(商品名、Chemicals社)、「Difco Lactobacilli MRS Broth」(商品名、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)などがあり、そのような市販の培地を用いてもよい。
【0020】
乳酸菌の培養は、制限されないが、例えば、静置で行なうことができる。また、乳酸菌の代謝産物(乳酸等)によるpHの低下を抑制するように、培地にアルカリ剤を添加してpH調整しながら、培養(中和培養)を行ってもよい。その場合、添加するアルカリ剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の水溶液や、アンモニアなどを用いることができる。培養におけるpHは、pH5.0~7.5の範囲であってよく、あるいはpH6.0~7.0の範囲であってよく、そのpHに調整、維持することが好ましい。pH調整は手動で行ってもよいが、pH自動制御装置(pHスタット)などを利用すれば簡便で正確である。
【0021】
本発明においては、乳酸菌は、培養液の状態から菌体が濃縮された菌体濃縮液を調製してもよく、あるいは、好ましくは賦形剤を加えたうえ凍結乾燥してもよい。菌体濃縮液は、培養液をそのまま濃縮して調製することもできるが、好ましくは、遠心分離やろ過などの手段によって集菌し、この菌体を更に精製水などによって洗浄し、所定の菌体濃度になるように精製水などに懸濁させることによって調製することができる。菌体濃縮液100質量%中の乳酸菌の菌体の含有量は、乾燥菌体換算で0.1~30質量%の範囲であってよく、0.5~20質量%の範囲であってよく、1~10質量%の範囲であってよい。
【0022】
また、菌体濃縮液には賦形剤を含有せしめてもよい。これによれば、凍結したり、凍結乾燥したりした後にも、水と再構成した後に生きた菌としての性質が維持されやすくなる。また、別の態様として、菌体を粉砕・分散した場合、得られる乳酸菌末の再凝集を防止することができる。賦形剤の含有量としては、乾燥物換算で10~99質量%の範囲であってよく、20~95質量%の範囲であってよく、50~90質量%の範囲であってよい。
【0023】
賦形剤としては、特に限定されず、例えば、デキストリン;マルトデキストリン;キサンタンガム;ラクチトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール等の糖アルコール類;デキストロース、フルクトース、グルコース、ラクトース、ショ糖等の糖類;アジピン酸、クエン酸、フマル酸、グルタル酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸等の有機酸類等が挙げられる。
【0024】
乳酸菌は、粉砕・分散の処理を施してもよい。例えば、菌体濃縮液を、攪拌、ミキサー、ホモゲナイザー、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、ジェネレーター等の手段を用いて粉砕・分散することができる。
【0025】
本発明に用いる乳酸菌は、上記のようにして調製され得る乳酸菌であって、その死菌体を用いる。例えば、菌体濃縮液を粉砕・分散する工程の前又は後に、菌体濃縮液に加熱処理を施すことができる。更に、菌体濃縮液を粉砕・分散する工程の後に、乾燥粉末化することができる。乾燥粉末化方法としては、凍結乾燥、減圧噴霧乾燥、熱風を用いた噴霧乾燥等の手法が挙げられる。なお、熱風を用いた噴霧乾燥(スプレードライ)を行うことで、通常、乳酸菌は滅失し、死菌体を得ることができる。
【0026】
一方、本発明に用いる食物繊維としては、特に制限はないが、例えば、ハイアミロースコーンスターチ、ペクチン、キチン、グルコマンナン、アルギン酸、βグルカン、イヌリン、難消化性デキストリン、カラギーナン、フコイダン、グアガム、キサンタンガム、ジェランガム、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、結晶セルロース等が挙げられる。特に好ましくはハイアミロースコーンスターチである。
【0027】
ハイアミロースコーンスターチとしては、例えば、J-オイルミルズ社「アミロファイバーSH」、イングレディオン社「ハイメイズ1043」、日本食品化工社「ロードスター」、三和澱粉工業社「アミロジェルHB-450」等、市販のものを利用してもよい。また、例えば、特開平10-195104、WO2008/155892に示されるように熱処理等を施して、食物繊維含量を高めたものを用いることもできる。例えば、食物繊維含量が40質量%以上に高められたものを用いることが好ましく、50質量%以上に高められたものと用いることがより好ましく、60質量%以上に高められたものを用いることが更により好ましい。なお、食物繊維含量は、食品表示法収載の「酵素-重量法」や「酵素-HPLC法」法などによって測定することができる。
【0028】
他方、本発明に用いる難消化性オリゴ糖としては、特に制限はないが、例えば、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ラフィノース、イソマルトオリゴ糖等が挙げられる。特に好ましくはガラクトオリゴ糖である。
【0029】
上記に例示したような水溶性の食物繊維や難消化性オリゴ糖であれば、腸内で有効に腸内細菌の栄養源となるので、上記乳酸菌死菌体が腸内細菌叢を改善する効果と相まって、腸内短鎖脂肪酸の産生を促す効果が高い。
【0030】
本発明にかかる腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物は、上記のようにして調製することができる乳酸菌死菌体と、食物繊維及び/又は難消化性オリゴ糖とを有効成分として用いて、これをヒト又はヒト以外の動物に投与することで、腸内における短鎖脂肪酸の産生を促進するものである。投与方法は、特に制限はないが、例えば、経口的に投与することが好ましい。腸内の短鎖脂肪酸とは、具体的には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、カプロン酸、乳酸、コハク酸等である。本発明の腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物は、特に、大腸内の細菌叢による酢酸、プロピオン酸、及び/又酪酸の産生を促進することで、酢酸、プロピオン酸、及び/又酪酸の濃度を上昇させると考えられる。
【0031】
本発明にかかる腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物は、腸内の短鎖脂肪酸を増加させることで、具体的には、例えば、酢酸、プロピオン酸によるミネラルの吸収促進や、酪酸による大腸がん発症抑制の作用効果を得ることができる(下記参考文献1参照)。また、例えば、腸管のバリア機能の向上や、腸管粘膜で制御性T細胞(Treg)への作用により、過剰免疫を抑制することができ、アレルギー症状や感染性腸炎の症状を緩和することができる(下記参考文献2参照)。また、例えば、腸管L細胞に発現し短鎖脂肪酸の受容体として知られるGPR41等を介して、エネルギー消費を高めることができる(下記参考文献2参照)。また、例えば、同じく腸管L細胞に発現し短鎖脂肪酸の受容体として知られるGPR43等を介して、脂肪蓄積を抑制することができる(下記参考文献2参照)。
【0032】
・文献1:原博著、「プレバイオティクスから大腸で産生される短鎖脂肪酸の生理効果」、腸内細菌学雑誌(2002)16:pp.35-42
・文献2:Hidenori Shimizu, Ryuji Ohue-Kitano, Ikuo Kimura「Regulation of host energy metabolism by gut microbiota-derived short-chain fatty acids」Glycative Stress Research 2019; 6 (3): 181-191
【0033】
本発明の別の態様においては、本発明にかかる腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物は、また、例えば、腸内細菌のうちのファーミキューテス属(Firmicutes)に属する微生物の割合を抑えることができる。あるいは、例えば、腸内細菌のうちのバクテロイデテス属(Bacteroidetes)に属する微生物の割合を高めることができる。これにより、ファーミキューテス属(Firmicutes)/バクテロイデテス属(Bacteroidetes)比を減少させて、腸内細菌叢のバランスを整えることができる。
【0034】
本発明にかかる腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物の投与量は、対象者の健康状態や年齢、あるいはどの程度の腸内短鎖脂肪酸の産生促進の作用効果を必要としているかなどに応じて、適宜設定すればよい。典型的には、乳酸菌死菌体の乾燥物換算での摂取量にして、0.001mg~100mg/日/kg体重の範囲であってよく、0.01mg~20mg/日/kg体重の範囲であってよく、0.1mg~10mg/日/kg体重の範囲であってよい。また、食物繊維及び/又は難消化性オリゴ糖の乾燥物換算での摂取量にして、
1mg~1000mg/日/kg体重の範囲であってよく、5mg~500mg/日/kg体重の範囲であってよく、10mg~300mg/日/kg体重の範囲であってよい。
【0035】
本発明にかかる腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物は、腸内短鎖脂肪酸産生促進用の飲食品として提供されるものであってもよい。すなわち、上記した乳酸菌死菌体と食物繊維及び/又は難消化性オリゴ糖とを、そのまま、あるいは他の飲食品用原料を組み合わせて、飲食品と成してもよい。上記した乳酸菌死菌体と食物繊維及び/又は難消化性オリゴ糖とに組み合わせる飲食品用原料としては、例えば、各種糖質や乳化剤、甘味料、酸味料、果汁、フレーバー等が挙げられる。より具体的には、グルコース、シュークロース、フラクトース、蜂蜜等の糖類、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット等の糖アルコール、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン糖脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤が挙げられる。この他にも、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンE等の各種ビタミン類やハーブエキス、穀物成分、野菜成分、乳成分等が挙げられる。
【0036】
飲食品としては、例えば、クッキー、せんべい、ゼリー、ようかん、ヨーグルト、まんじゅう等の菓子類、清涼飲料、栄養飲料、スープ等が挙げられるが、これらに限られるものではない。また、飲食品の他の例としては、腸内短鎖脂肪酸産生促進用の健康食品、サプリメント、特定保健用食品、ないし機能性表示食品が挙げられ、例えば、錠剤、顆粒、粉末、カプセル、ドリンク、ゼリーなどの形態で提供されてもよい。
【0037】
一方、本発明にかかる腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物は、上記のような飲食品に添加されるものとして利用される、腸内短鎖脂肪酸産生促進用の飲食品添加用素材として提供されてもよい。
【0038】
本発明にかかる腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物は、腸内短鎖脂肪酸産生促進用の医薬品として提供されてもよい。すなわち、上記した乳酸菌死菌体と食物繊維及び/又は難消化性オリゴ糖とを、そのまま、あるいは他の医薬用原料と組み合わせて、医薬用の組成物と成してもよい。上記した乳酸菌死菌体と食物繊維及び/又は難消化性オリゴ糖とに組み合わせる他の医薬用原料に特に制限はなく、必要に応じて、薬学的に許容される基材や担体を添加して、公知の製剤方法によって、例えば錠剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、散剤、液剤、粉末剤、ゼリー状剤、飴状剤等の形態にして、これを経口剤として利用することができる。
【0039】
一方、本発明にかかる腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物は、そのような医薬品に添加されるものとして利用される、腸内短鎖脂肪酸産生促進用の医薬品添加用素材であってもよい。
【0040】
本発明にかかる腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物は、腸内短鎖脂肪酸産生促進用の動物飼料であってもよい。すなわち、例えば、上記した乳酸菌死菌体と食物繊維及び/又は難消化性オリゴ糖とを、そのまま、あるいは他の動物飼料用原料と組み合わせて、動物食餌用の組成物と成してもよい。例えば、家畜、競走馬、鑑賞用動物、ペット等、動物用の飼料に利用してもよい。
【0041】
一方、本発明にかかる腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物は、そのような動物飼料に添加されるものとして利用される、腸内短鎖脂肪酸産生促進用の動物飼料添加用素材であってもよい。
【0042】
本発明にかかる腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物において、上記した乳酸菌死菌体と食物繊維及び/又は難消化性オリゴ糖との含有量は、各種の形態とした場合に、それが使用される量と有効投与量との関係を勘案して適宜定めればよい。典型的には、乳酸菌死菌体の乾燥物換算での含有量にして、0.001~99.9質量%の範囲であってよく、0.1~50質量%の範囲であってよく、10~30質量%の範囲であってよい。また、菌体数に換算した含有量にして、1×10~1×10cfu/gの範囲であってよく、1×10~5×10cfu/gの範囲であってよく、1×10~3.3×10cfu/gの範囲であってよい。また、食物繊維及び/又は難消化性オリゴ糖の乾燥物換算での含有量にして、0.1~99.9質量%の範囲であってよく、1~50質量%の範囲であってよく、10~30質量%の範囲であってよい。
【実施例0043】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0044】
<試験例1>
乳酸菌死菌体としてエンテロコッカス・フェカリスの加熱殺菌菌体(商品名「ナノ型乳酸菌nEF(Enterococcus faecalis KH2)」、有限会社バイオ研製)を用いた。また、食物繊維としてハイアミロースコーンスターチ(商品名「ハイメイズ1043」、イングレディオンジャパン株式会社製)を用いた。
【0045】
ラットの飼育用飼料に、乳酸菌死菌体(「nEF」と表記する場合がある。)としては0.005質量%の配合濃度となるように、ハイアミロースコーンスターチ(「HACS」と表記する場合がある。)としては8質量%の配合濃度となるように、それぞれ添加した。
【0046】
試験動物としてWister系雄性ラット(9週齢)を、飼料に被験試料を添加しない試験群として(1)「コントロール(Control)」、乳酸菌死菌体のみ添加する試験群として(2)「nEF」、ハイアミロースコーンスターチのみ添加する試験群として(3)「HACS」、乳酸菌死菌体とハイアミロースコーンスターチを添加する試験群として(4)「HACS+nEF」の4群に分け(n=6)、各飼料で3週間飼育を行った。
【0047】
(盲腸内容物中の短鎖脂肪酸量の測定)
盲腸内容物約0.3gを90%エタノール溶液に溶解し、測定まで-18℃で保存した。YMC-Pack FAラベル化試薬(株式会社ワイエムシィ製)のマニュアルに従い、ラベル化後、HPLCで分析した。泳動相は、アセトニトリル/メタノール/水=30:16:54(pH4.5)とし、カラムはYMC-Pack FAカラム(4.6×250)、1.2mL/min、400nmで検出した。
【0048】
【表1】
【0049】
その結果、表1及び図1に示されるように、ラットに通常の飼料とともにハイアミロースコーンスターチを摂取させると、酢酸、プロピオン酸、n-酪酸等の腸内短鎖脂肪酸の濃度の増加傾向がみられた。一方、乳酸菌死菌体とハイアミロースコーンスターチの併用摂取によれば、特にn-酪酸においてその増加がより顕著であった。
【0050】
<試験例2>
乳酸菌死菌体としては、試験例1同様、エンテロコッカス・フェカリスの加熱殺菌菌体(商品名「ナノ型乳酸菌nEF(Enterococcus faecalis KH2)」、有限会社バイオ研製)を用いた。また、難消化性オリゴ糖としてガラクトオリゴ糖(富士フィルム和光純薬株式会社製)を用いた。
【0051】
マウスの飼育用飼料に、乳酸菌死菌体としては0.08質量%の配合濃度となるように、ガラクトオリゴ糖(「GOS」と表記する場合がある。)としては5質量%の配合濃度となるように、それぞれ添加した。
【0052】
試験動物としてBALB/cマウス(7週齢)を、飼料に被験試料を添加しない試験群として(1)「コントロール(Control)」、乳酸菌死菌体のみ添加する試験群として(2)「nEF」、ガラクトオリゴ糖のみ添加する試験群として(3)「GOS」、乳酸菌死菌体とガラクトオリゴ糖を添加する試験群として(4)「GOS+nEF」の4群に分け(n=3)、各飼料で3週間飼育を行った。盲腸を採取し、内容物中の重量を測定し、試験例1と同様にして短鎖脂肪酸の濃度を測定した。
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
その結果、表2及び図2に示されるように、マウスに通常の飼料とともにガラクトオリゴ糖を摂取させると、酢酸、プロピオン酸、n-酪酸等の腸内短鎖脂肪酸の濃度の増加傾向がみられた。一方、乳酸菌死菌体とガラクトオリゴ糖の併用摂取によれば、その増加がより顕著であった。また、表3及び図3に示されるように、盲腸内容物の総量の変化とも整合しており、腸内発酵の促進により短鎖脂肪酸量が増加したものと考えられた。
【0056】
以上から、乳酸菌死菌体は、難消化性の成分と併用すると、単独で摂取するより腸内における短鎖脂肪酸の産生を促す作用効果が顕著に高められることが明らかとなった。
図1
図2
図3