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特開2022-68828香料の残香性評価方法、残香性付与剤及び残香性改良方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022068828
(43)【公開日】2022-05-10
(54)【発明の名称】香料の残香性評価方法、残香性付与剤及び残香性改良方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/15 20060101AFI20220427BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20220427BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20220427BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20220427BHJP
   A61K 8/35 20060101ALI20220427BHJP
   A61K 8/33 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
G01N33/15 Z
C11B9/00 N
C11B9/00 K
A61L9/01 Q
A61Q13/00 101
A61K8/35
A61K8/33
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124121
(22)【出願日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2020177031
(32)【優先日】2020-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年10月24日発行の「第64回 香料・テルペンおよび精油化学に関する討論会 講演要旨集」において公開
(71)【出願人】
【識別番号】591011410
【氏名又は名称】小川香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100106769
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 信輔
(72)【発明者】
【氏名】川島 大輝
(72)【発明者】
【氏名】庄司 靖隆
(72)【発明者】
【氏名】熊沢 賢二
【テーマコード(参考)】
4C083
4C180
4H059
【Fターム(参考)】
4C083AB352
4C083AC102
4C083AC122
4C083AC132
4C083AC152
4C083AC182
4C083AC211
4C083AC212
4C083AC302
4C083AC352
4C083AC392
4C083AC432
4C083AC442
4C083AC472
4C083AC482
4C083AC532
4C083AC662
4C083AC692
4C083AC712
4C083AC842
4C083AD042
4C083AD202
4C083AD532
4C083BB41
4C083CC01
4C083DD23
4C083DD27
4C083DD28
4C083KK02
4C180AA02
4C180CA01
4C180EB03X
4C180EB04X
4C180EC01
4C180EC02
4H059BA12
4H059BA23
4H059BA36
4H059BB44
4H059BB45
4H059DA09
4H059EA31
4H059EA36
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、匂い物質の香気成分に含まれる残香性の高い香気化合物を特定するための残香性評価方法、香気寄与度と残香性評価値とから香気化合物の香気特性を評価する方法、フレグランス製品に残香性を付与する方法など残香性に関する新たな手法や残香性付与剤を提供することである。
【解決手段】以下の工程、
工程1.匂い物質を、温度と湿度を一定条件にした空間で静置する工程、
工程2.静置開始から所定の時間後に匂い物質に含まれる香気成分を抽出する工程、
工程3.抽出された香気成分をガスクロマトグラフィー・オルファクトメトリー(GCO)分析に供し、香気成分を構成する香気化合物毎に匂いの有無を検出する工程、
工程4.匂い物質を構成する各香気化合物の匂いが検出できる最長の静置時間(T)を香気化合物毎に測定する工程、及び、
工程5.工程4において、特定の香気化合物Aの匂いが検出できる最長の静置時間(Ta)、および、匂い物質を構成する香気化合物中、Tが最長である香気化合物Xの、匂いが検出できる最長の静置時間(Tx)を用い、Ta/Tx値を匂い物質に含まれる香気化合物Aの残香性評価値とする工程、
を含むことを特徴とする、匂い物質に含まれる香気化合物の残香性の高い化合物を選定するための残香性評価方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程、
工程1.匂い物質を、温度と湿度を一定条件にした空間で静置する工程、
工程2.静置開始から所定の時間後に匂い物質に含まれる香気成分を抽出する工程、
工程3.抽出された香気成分をガスクロマトグラフィー・オルファクトメトリー(GCO)分析に供し、香気成分を構成する香気化合物毎に匂いの有無を検出する工程、
工程4.匂い物質を構成する各香気化合物の匂いが検出できる最長の静置時間(T)を香気化合物毎に測定する工程、及び、
工程5.工程4において、特定の香気化合物Aの匂いが検出できる最長の静置時間(Ta)、および、匂いを構成する香気化合物中、Tが最長である香気化合物Xの、匂いが検出できる最長の静置時間(Tx)を用い、Ta/Tx値を匂い物質に含まれる香気化合物Aの残香性評価値とする工程、
を含むことを特徴とする、匂い物質に含まれる香気化合物の残香性の高い化合物を選定するための残香性評価方法。
【請求項2】
匂い物質に含まれる香気化合物Aの香気寄与度と、請求項1の方法で得られる香気化合物Aの残香性評価値(Ta/Tx)とから、香気化合物Aの香気特性を評価する方法。
【請求項3】
下記式1
【化1】
で表されるジヒドロカラノン及び/又は
下記式2
【化2】
で表される2-イソプロピリデン-10-メチル-スピロ[4,5]-6-デセン-6-カルバルデヒドを有効成分とする残香性付与剤。
【請求項4】
請求項3に記載の残香性付与剤を含む香料組成物(ただし、沈香精油を含有する香料組成物を除く)。
【請求項5】
請求項3に記載の残香性付与剤を配合することで、香料組成物(ただし、沈香精油を含有する香料組成物を除く)に残香性を付与する方法。
【請求項6】
香料組成物中に式1で表されるジヒドロカラノンを0.00001~1%になるように配合することで、香料組成物(ただし、沈香精油を含有する香料組成物を除く)に残香性を付与する方法。
【請求項7】
請求項4に記載の香料組成物が配合された、残香性が向上したフレグランス製品。
【請求項8】
フレグランス製品が、香水、メイクアップ製品、スキンケア製品、ヘアケア製品、トイレタリー製品であるパーソナルケア製品、ハウスホールド製品または医薬部外品である請求項7に記載のフレグランス製品。
【請求項9】
請求項4に記載の香料組成物を配合することで、フレグランス製品に残香性を付与する方法。
【請求項10】
フレグランス製品中に式1で表されるジヒドロカラノンを0.2ppb~1000ppmになるように配合することで、フレグランス製品に残香性を付与する方法。
【請求項11】
フレグランス製品が、香水、メイクアップ製品、スキンケア製品、ヘアケア製品、トイレタリー製品であるパーソナルケア製品、ハウスホールド製品または医薬部外品である、請求項10に記載の残香性を付与する方法。
【請求項12】
以下の工程、
工程1:匂い物質の香気を構成する各香気化合物について、請求項1の方法による残香性評価値(P)、香気寄与度(Q)及び香調を特定する工程、
工程2:各香気化合物について、0<P<0.5かつ0<Q<0.5である化合物を化合物群A、0<P<0.5かつ0.5≦Q≦1である化合物を化合物群B、0.5≦P≦1かつ0<Q<0.5である化合物を化合物群C、0.5≦P≦1かつ0.5≦Q≦1である化合物を化合物群Dとして分類する工程、
工程3:化合物群Bに分類された香気化合物bを、化合物群Dに分類されかつ香気化合物bの香調と類似している香気化合物dに置換する工程、
を含むことを特徴とする匂い物質の香気改良方法。
【請求項13】
多数の香気化合物に関して、請求項12の方法による残香性評価値と香調との相関関係をデータベース化する工程;
次いで、時間経過に伴い香調が変化する香料組成物を設計する際に、前記データから構成成分を選択する工程;
を含むことを特徴とする香料組成物の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、匂い物質、例えば天然香料といった香気化合物の混合物の中から、残香性の高い香気化合物、また残香性が高く且つ香気への寄与度も高い香気化合物を探索するための評価方法であり、また、この方法を用いて見出された残香性付与剤、さらに、この方法を用いて香気成分の特性を解析して、同様の香調を有しつつ、より残香性を高める香料組成物の改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
香水、メイクアップ製品、スキンケア製品、ヘアケア製品、トイレタリー製品、ハウスホールド製品、芳香剤等に代表される芳香製品において、香りが長時間持続すること(残香性がある)は、消費者の満足感や気分の爽快感、高揚感をもたらし、また商品価値を高める上で重要な要素である。そのため、芳香製品の残香性を向上させることは、芳香製品に用いられる香粧品香料 (フレグランス)の開発にとって重要である。ここで、残香性とは、香りが長時間持続すること、または持続する性質を言う。
【0003】
香料業界では、揮発性が高い又は残留性が低い香料成分を使用する際に、短時間で香りが消失する問題点を克服するために、香料成分をマイクロカプセルに封入して物理的に香料成分の揮発を抑制する方法(特許文献1)、活性成分の効果を延長可能な誘導体(プロフレグランス)を使用する方法(特許文献2)が検討されてきた。
【0004】
しかし、カプセル化香料やプロフレグランスに使用されるカプセルやポリマーは、物理的に壊れ難く、生分解性が低いので自然環境に負荷を与えるという問題点が提起されている。
また、匂いに対する快感、不快感は、個々人の感覚に左右されるものであるが、嗜好性に優れ万人向きの香りは、多くの人に不快感を与えにくい。そこで、経験的に、フレグランス製品に使用する香料として、残香性と嗜好性の双方に優れる香料を使用してきた。
そのような技術として、例えば、調合香料の香料素材と使用される天然及び合成香料を、それぞれ匂い紙に付けて2時間まで、6時間まで、6時間以上、匂い紙に匂いが残る香料を選択してフレグランスを調合する方法が提案されている(特許文献3)。
【0005】
また、フレグランス香料に残香性を付与する目的で天然香料を配合する場合、優れた香調と残香性の両立は難しい。
これは、多種多様の香気成分から構成される天然香料中の残香性寄与成分が解明されていない上、残香性に不必要な成分も含まれるため、残香性と目的とする香調とのバランスを取ることが難しいためである。
そのため、使用する天然香料の選択、配合量の調整に膨大な試行錯誤を要し、製品開発にかかるコストにも影響していた。
【0006】
そこで、天然香料を使用しないでも、残香性だけを高める技術が検討されてきた。例えば、有香物質の保留性を調整するための保留剤を加えることでフローラル・フルーティー・グリーンタイプの香りを持続させる方法(特許文献4)、ビニルピロリドン/ビニルアセテートコポリマーを芳香延長剤として使用する方法(特許文献5)、芳香性が高い1‐メチル‐3,4‐ジオキシ(シクロアセトニル)ベンゼンを使用する方法(特許文献6)、計算ログ値(ClogP)≧3.0(Pはオクタノール/水分配係数)および沸点≧250℃の成分を含む持続性香料組成物を使用する方法(特許文献7)、25℃の温度において固形状で揮発性が低い香料成分を用いて残香性の高い香料組成物を作成する方法(特許文献8)などが提案されている。
【0007】
近年、嗜好性が高く且つ自然環境への負荷の少ない天然の香料成分を使用することが注目され要望されている。しかし、天然香料から持続性の高い香気化合物を探索して評価し、そのデータに基づき香料組成物を改良する、あるいは残香性の高い香料組成物を開発する手段はこれまでなかった。
【0008】
一方、天然香料中のそれぞれの香気成分の香気特性を分析する方法として、ガスクロマトグラフィー(GC)でコーヒー香気濃縮物中の香気成分を分離し、評価用のコーヒー抽出物と混合して官能評価を行うことで、分離された香気成分の寄与を測定する方法(特許文献9)、GCで分離したコーヒー香気濃縮物中の香気成分とコーヒー抽出物のヘッドスペース試料を連続的に混合しその香気を評価する方法(特許文献10)、GCで分離した香気成分を嗅覚で官能評価(オルファクトメトリー)するGCO分析法とアロマエキストラクト・ダイリューション・アナリシス(AEDA)とを組み合わせて各香気成分のFDファクターを求め、そのFDファクターに各香気成分の閾値を積算して、コーヒー豆中の微量香気成分の濃度を換算する方法(特許文献11)が提案されている。
【0009】
しかしながら、上記のいずれの方法においても、含有する香気成分とそれを構成する香気化合物の定性化、定量化を行うことはできるが、天然香料中の香気化合物の残香性を的確に評価する方法ではなく、かつ、残香性と嗜好性の双方が高い香料成分を探索するまでには至らなかった。
要するに、一般的に、香調の評価は官能評価法が使用され、香気成分の分析にはガスクロマトグラフィー(GC)の分析技術が用いられるが、これらの方法では、天然香料に含まれる残香性に寄与する有効成分や香気化合物の特定、および残香性の高い成分や香気化合物を網羅的に探索することが困難であった。
【0010】
そこで、本発明者は、古来より使用されてきて慣れ親しんだ香料、あるいはナチュラルな芳香で多くの人が好感を抱くような香料、すなわち嗜好性の高い天然香料に含まれる多くの成分の中から、残香性が高い香気化合物を探索し評価する新たな方法を見出し提供するに至った。
さらに、当該残香性評価方法によって得られる数値化されたデータと、当該化合物の天然香料における香気特徴の寄与度に関する数値化データの相関関係に基づき香気特性を評価する方法、当該方法で見出された残香性付与剤、フレグランス製品に残香性を付与する方法、残香性及び嗜好性の双方に優れる香気改良方法、並びに新たな方法を用いて香料組成物を開発する方法を見出し提供するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2010-520928号公報
【特許文献2】特表2008-531761号公報
【特許文献3】特開2002-327193号公報
【特許文献4】特許第5025845号公報
【特許文献5】特表2017-520543号公報
【特許文献6】特許第5011254号公報
【特許文献7】特表平10-507789号公報
【特許文献8】特開2009-242298号公報
【特許文献9】特開2007-163198号公報
【特許文献10】特開2003-107067号公報
【特許文献11】特開2004-325116号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】堀内哲嗣郎「分析機器による香りの測定最前線」、日本化粧品技術者会誌、Vol.32、No.3(1998年9月号)、第253~262頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、匂い物質に含まれる残香性の高い化合物を特定して数値化するための残香性評価方法、香気寄与度と残香性評価値を基に匂い物質に含まれる香気化合物の香気特性を評価する方法、並びに残香性付与剤といったフレグランスの残香性向上のための新たな諸手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
〔1〕以下の工程、
工程1.匂い物質を、温度と湿度を一定条件にした空間で静置する工程、
工程2.静置開始から所定の時間後に匂い物質に含まれる香気成分を抽出する工程、
工程3.抽出された香気成分をガスクロマトグラフィー・オルファクトメトリー(GCO)分析に供し、香気成分を構成する香気化合物毎に匂いの有無を検出する工程、
工程4.匂い物質を構成する各香気化合物の匂いが検出できる最長の静置時間(T)を香気化合物毎に測定する工程、及び、
工程5.工程4において、特定の香気化合物Aの匂いが検出できる最長の静置時間(Ta)、および、匂いを構成する香気化合物中、Tが最長である香気化合物Xの、匂いが検出できる最長の静置時間(Tx)を用い、Ta/Tx値を匂い物質に含まれる香気化合物Aの残香性評価値とする工程、
を含むことを特徴とする、匂い物質に含まれる香気化合物の残香性の高い化合物を選定するための残香性評価方法。
【0015】
〔2〕匂い物質に含まれる香気化合物Aの香気寄与度と、請求項1の方法で得られる香気化合物Aの残香性評価値(Ta/Tx)とから、香気化合物Aの香気特性を評価する方法。
〔3〕下記式1
【化1】
で表されるジヒドロカラノン及び/又は
下記式2
【化2】
で表される2-イソプロピリデン-10-メチル-スピロ[4,5]-6-デセン-6-カルバルデヒドを有効成分とする残香性付与剤。
【0016】
〔4〕上記3に記載の残香性付与剤を含む香料組成物(ただし、沈香精油を含有する香料組成物を除く)。
〔5〕上記3に記載の残香性付与剤を配合することで、香料組成物(ただし、沈香精油を含有する香料組成物を除く)に残香性を付与する方法。
〔6〕香料組成物中に式1で表されるジヒドロカラノンを0.00001~1%になるように配合することで、香料組成物(ただし、沈香精油を含有する香料組成物を除く)に残香性を付与する方法。
〔7〕上記4に記載の香料組成物が配合された、残香性が向上したフレグランス製品。
〔8〕フレグランス製品が、香水、メイクアップ製品、スキンケア製品、ヘアケア製品、トイレタリー製品であるパーソナルケア製品、ハウスホールド製品または医薬部外品である上記7に記載のフレグランス製品。
【0017】
〔9〕上記4に記載の香料組成物を配合することで、フレグランス製品に残香性を付与する方法。
〔10〕フレグランス製品中に式1で表されるジヒドロカラノンを0.2ppb~1000ppmになるように配合することで、フレグランス製品に残香性を付与する方法。
〔11〕フレグランス製品が、香水、メイクアップ製品、スキンケア製品、ヘアケア製品、トイレタリー製品であるパーソナルケア製品、ハウスホールド製品または医薬部外品である、上記10に記載の残香性を付与する方法。
【0018】
〔12〕以下の工程、
工程1:匂い物質の香気を構成する各香気化合物について、上記1の方法による残香性評価値(P)、香気寄与度(Q)及び香調を特定する工程、
工程2:各香気化合物について、0<P<0.5かつ0<Q<0.5である化合物を化合物群A、0<P<0.5かつ0.5≦Q≦1である化合物を化合物群B、0.5≦P≦1かつ0<Q<0.5である化合物を化合物群C、0.5≦P≦1かつ0.5≦Q≦1である化合物を化合物群Dとして分類する工程、
工程3:化合物群Bに分類された香気化合物bを、化合物群Dに分類されかつ香気化合物bの香調と類似している香気化合物dに置換する工程、
を含むことを特徴とする匂い物質の香気改良方法。
【0019】
〔13〕多数の香気化合物に関して、上記12の方法による残香性評価値と香調との相関関係をデータベース化する工程;
次いで、時間経過に伴い香調が変化する香料組成物を設計する際に、前記データから構成成分を選択する工程;
を含むことを特徴とする香料組成物の設計方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、天然香料や天然精油のような複雑な組成であっても、残香性と香気への寄与度の両面で重要性が高い成分を探索して解明でき、それにより見出された香気化合物を残香性付与剤として、他の香料組成物に添加することで、不快さを感じさせず残香性を向上させることができる。
従って、フレグランス製品用の新たな香料組成物の開発や従来製品の改良、改善において、従来より香料の選択や配合量決定に必要とされてきた膨大な試行錯誤の作業や工程を大幅に短縮化、簡素化、効率化及び省力化することができる。
その結果、製品開発に費やす労力、時間やコストを大幅に低減することができ、しかも、消費者ニーズに応じた製品設計、開発、改良を短時間でタイムリーに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】静置時間とサンプル番号の概略図である。
図2】残香性評価値と香気寄与度の相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明においては、任意の時間静置された匂い物質の試料に残る香気化合物をガスクロマトグラフィー(GC)の排出口で匂いを嗅ぎ、得られた情報をGC情報に重ね合わせるガスクロマトグラフィー・オルファクトメトリー(GC-Olfactometry;略称GCO)分析法を活用することで残香性を有する香気化合物を探索してその強さ(香りの持続性)を数値化し評価する。
さらに、AEDA(Aroma Extract Dilution Analysis)により各香気化合物の匂い全体に対する寄与度を数値化して評価し、残香性評価値と香気寄与度の二値データで香気化合物を分類(仕分け)することで、天然香料に含まれる多くの香料成分の中から、その香気寄与度と残香性の高い有効成分を特定し選択することができる。
以下に、本発明を実施の形態に即して詳細に説明する。
【0023】
〔1〕残香性評価方法
本発明の、匂い物質に含まれる残香性の高い化合物を特定するための残香性評価方法は、以下の工程(ステップ)から構成される。
工程1では、匂い物質を、温度と湿度を一定条件にした空間で静置する。
工程2では、静置開始から所定の時間後に匂い物質に含まれる香気成分を抽出する。
工程3では、抽出された香気成分をガスクロマトグラフィー・オルファクトメトリー(GCO)分析に供し、香気成分を構成する香気化合物毎に匂いの有無を検出する。
工程4では、匂い物質を構成する各香気化合物の匂いが検出できる最長の静置時間(T)を香気化合物毎に測定する。
工程5では、工程4において、特定の香気化合物Aの匂いが検出できる最長の静置時間(Ta)、および、匂い物質を構成する香気化合物中、Tが最長である香気化合物Xの、匂いが検出できる最長の静置時間(Tx)を用い、Ta/Tx値を匂い物質に含まれる香気化合物Aの残香性評価値とする。
以下、上記工程をさらに詳細に説明する。
【0024】
(1)工程1について
評価の対象となる匂い物質とは、花、果物、果汁、樹木、野菜、実、種子、スパイス等から得られる植物性天然香料、龍涎香(アンバーグリス)、じゃ香(ムスク)、節類等から得られる動物性天然香料、化学的、微生物的な手法で得られ、2つ以上の香気化合物で構成される合成香料、市場で入手できる匂いを有している飲食品、香粧品等があげられる
。これら匂い物質は、香料分野における公知の方法、例えば、抽出、浸出、圧搾、蒸留などの方法により精製して用いてもよい。
【0025】
評価にあたり、まず、匂い物質をろ紙に滲み込ませた試料を作成し、次いで、フレグランス製品の使用環境を考慮して、温度、湿度、照度などが静置している間、一定の条件を保つように調整する。静置する空間は、例えば、恒温室、恒温機、デシケーター等である。
静置する際の温度、湿度、照度などを適宜設定することで、様々な環境下での残香性を評価することができる。例えば、温度0~30℃、相対湿度40~90%、照度0~100,000ルクスである。
試料作成の際に、ろ紙に代えて毛髪を使うことで、染毛剤などヘアケア製品用のフレグランスの残香性を的確に評価でき、また、衣類の布地を使うことで洗剤や柔軟仕上げ剤などのハウスホールド製品用のフレグランスの残香性を的確に評価することができる。
【0026】
ここで、フレグランス製品とは、以下に示すような、香水、芳香剤、メイクアップ製品、トイレタリー製品、スキンケア製品、ヘアケア製品、ハウスホールド製品を指す。
「香水」は、オードトワレ、オードパルファム、オーデコロンなどをいい、用途に合わせてボトルタイプ、ロールタイプ、スプレータイプがある。
【0027】
「メイクアップ製品」は、顔を美しく見せる美的役割、肌を守る保護的役割、楽しみや満足感をもたらす目的で使用する。
ファンデーション、口紅、リップクリーム、頬紅、アイライナー、マスカラ、アイシャドー、眉墨、アイブロー、粉おしろい、固形おしろい、ネイルエナメル等のメイクアップ化粧品、マニキュア、マニキュアリムーバーなどがある。
【0028】
「スキンケア製品」は、汗や汚れを取り除き、肌を引きしめ、適正な栄養分や水分を維持し、正常な肌の状態を補助したり、紫外線から肌を守るなどの作用をする。
ウォッシングクリーム、バニシングクリーム、洗顔クリーム、クレンジングクリーム、コールドクリーム、サンスクリーンクリーム、乳液、化粧水、パック剤、メイク落とし、アフターシェービングローション、タルカムパウダー、リップクリーム、ハンドクリーム、制汗剤、フェイスケア(洗顔フォーム・メイク落とし・クレンジングオイル・あぶらとり紙など)がある。
【0029】
「ヘアケア製品」は、毛髪や頭皮の洗浄・保護や毛髪のセットなどに用いられるもので、シャンプー、リンス・コンディショナー、頭皮の血行をよくするトニックやヘアオイル、ポマード、チック、ヘアリキッド、セットローション、ヘアジェル、ヘアスプレー、ヘアフォーム、ヘアワックスなどの整髪剤、ヘアカラー、ヘアマニキュア、ブリーチ、白髪染めなどの染毛剤、パーマ、カーリング剤などの毛髪変形剤、ヘアトリートメントなどの養毛剤育毛剤、などがある。
【0030】
「トイレタリー製品」は、石けん、ハンドソープ、入浴剤、ボディシャンプー、リップクリームなどのボディケア製品、日焼け止め、制汗デオドラント剤、シェービング(剃刀・むだ毛処理剃刀・シェービングフォームなど)、歯磨き、洗口液、デンタルフロス、義歯洗浄剤などのオーラルケア製品、ウェットティッシュ、紙おむつ、生理用品、などがある。
【0031】
「ハウスホールド製品」は、一般の家庭で利用されている洗剤や柔軟仕上げ剤などの衣料用製品、クリーナーやワックスなどの住居・家具用製品、漂白剤や生ゴミ消臭剤などの台所用製品、事務糊、塗料などの日用雑貨製品などで、衣料用液体洗剤、衣料用粉末洗剤、衣料用固形石鹸、衣料用柔軟仕上剤、衣料用漂白剤、台所用洗剤、食器乾燥機用洗剤、
バスクリーナー、ガラスクリーナー、カビ取り剤、排水管用洗浄剤、燻煙剤、蚊取り線香、殺虫剤、防虫剤、トイレクリーナーなどがある。
【0032】
「芳香剤」は、水性液体芳香剤、油性液体芳香剤、水性ゲル状芳香剤、油性ゲル状芳香剤、芳香スプレー、芳香エアゾール、含浸芳香剤、線香、芳香消臭剤、消臭スプレー、消臭エアゾールなどがある。
【0033】
(2)工程2について
次いで、図1に示すように、静置開始から一定時間(Tn)後、ろ紙に残る匂い物質(Sn)を回収する。静置時間の間隔は目的に応じ適宜調整できるが、間隔が短すぎると実験数が増えて煩雑となり、逆に長すぎると香気化合物間の残香性の差が出にくくなるため結果の精度が低くなる。数十分から数時間程度で、等差または等比間隔で設定するのが好ましい。
回収方法は、溶剤抽出、ヘッドスペースガスの固相抽出、ヘッドスペースガスの直接注入法などから適宜選択される。
【0034】
(3)工程3~5について
本発明の残香性評価方法においては、従来知られたGCO分析により、静置開始(To)からn時間経過後(Tn)の匂い物質(Sn)中の香気成分の定性分析を行う。
ここで、GCO分析とは、ガスクロマトグラフィーと人の嗅覚による検出手段を組み合わせた分析手法であり、ガスクロマトグラフのカラムの排出口を分岐させ、一方は検出器(FID、MSなど)に, もう一方は匂いを嗅ぐことができるポートヘと接続し、検出器と匂い嗅ぎポートで同時に検出できるように装置をコントロールして匂い特性を分析する手法である(非特許文献1)。
GCO分析用の装置は、市販のものを適宜使用することができる。
【0035】
各香気成分について匂いがしなくなるまで静置並びにGCO分析を継続し、いずれかの成分の匂いを感じる最長の静置時間(Tx)を測定する。
静置開始後、特定の香気化合物Aの匂いが検出できる最長の静置時間(Ta)、および、匂い物質を構成する香気化合物中、匂いが検出できる最長の香気化合物Xの静置時間(Tx)とした場合、Ta/Tx値(0を超え1までの範囲の値である)を匂い物質に含まれる香気化合物Aの残香性評価値とする。
【0036】
〔2〕残香性評価値と香気寄与度を併用する評価方法
匂い物質に含まれる香気化合物の残香性評価値と、当該香気化合物の香気寄与度を併用することにより、当該香気化合物の香気特性をより正確に評価することができ、匂い物質の香気改良や新たな香料の開発に役立てることができる。
すなわち、匂い物質に含まれる香気化合物Aの香気寄与度の評価を行って得られる香気寄与度と、前述した香気化合物Aの残香性評価値(Ta/Tx)から、匂い物質に含まれる香気化合物Aの香気特性を評価する方法である。
【0037】
香気寄与度を測る方法は、希釈分析法が活用できる。希釈分析法は、GCのカラムから溶出する香気成分を人間の鼻でかぐGCOを用いた手法であり、AEDA(Aroma Extract Dilution Analysis)やCHARM(Combined Hedonic Aroma Response Measurement)分析などがある。
【0038】
AEDAによる香気寄与度とは、分析対象物の匂い物質を順次、所定の倍率で希釈し、順次希釈倍率をあげて各成分について匂いがしなくなるまでGCO分析を繰り返し、各成分について匂いを感じる最後の希釈倍率をその成分のFDファクターとする。つまり、最後まで匂いが感じられる成分を寄与度の高い成分と同定する方法である。
【0039】
CHARM分析による香気寄与度とは、AEDAを行いながら香りを感じている時間を同時に記録し各成分の匂いの寄与度をクロマトグラムのピーク面積(Charm Value)として二次元的に記録する方法である。
【0040】
静置後の匂い物質中の香気成分をGCO分析したことで得られる残香性Ta/Txと、希釈分析法で求められる香気寄与度を整理することで、匂い物質中に含まれる各香気化合物の残香性と寄与度を網羅的に評価することができる。
【0041】
残香性評価値(Ta/Tx)と香気寄与度による評価例を図2に示した。
図2においてAからDの分類は、以下のとおりである。
A:残香性評価値が低く香気寄与度も低い香気化合物
B:残香性評価値は低いが香気寄与度の高い香気化合物
C:残香性評価値は高いが香気寄与度の低い香気化合物
D:残香性評価値が高くかつ香気寄与度も高い香気化合物
【0042】
さらに、残香性評価値をP、香気寄与度をQとして数値化すると(ここで、0<P≦1、0<Q≦1である)、
0<P<0.5かつ0<Q<0.5である化合物を化合物群A、
0<P<0.5かつ0.5≦Q≦1である化合物を化合物群B、
0.5≦P≦1かつ0<Q<0.5である化合物を化合物群C、
0.5≦P≦1かつ0.5≦Q≦1である化合物を化合物群D、
として分類することができる。そして、P値が0.5より高いほど(例えば、P>0.7)残香性に優れ、Q値が0.5より高いほど(例えば、P>0.7)香気寄与に優れる化合物である。
【0043】
〔3〕香気付与剤
本発明者は、前述の残香性評価方法、残香性評価値と香気寄与度の二次元評価方法を駆使して、古来より使用され嗜好性の高い沈香(代表的な香木)に含まれる種々の香気化合物を分析、検討した。
そして沈香に含まれる香気化合物の中から、ジヒドロカラノンと2-イソプロピリデン-10-メチル-スピロ[4,5]-6-デセン-6-カルバルデヒドがフレグランスの残香性付与剤として有効であることを見出した。特に、ジヒドロカラノンは残香性と香気寄与度の双方に優れていた。
沈香はジンチョウゲ科のAquilaria属などが基原植物であり、木に生じた傷に対し、菌の侵入を防御するために樹皮から出される樹液である。沈香から抽出される精油にはテルペンアルコールなど多くの成分が含まれている。
【0044】
ジヒドロカラノンは、下記式1の構造を有し、ウッディー、燻蒸香を有する。香木の伽羅などに含まれる香気成分であることが知られているものの、香気化合物としての用途は知られていない。
【化3】
【0045】
2-イソプロピリデン-10-メチル-スピロ[4,5]-6-デセン-6-カルバルデヒド(J-GLOBALID: 200907023404424459, Nikkaji number:J664.750B)は、下記式2の構造を有し、ウッディー香を有する香気成分である。これまで香気化合物としての用途は知られていない。
【化4】
【実施例0046】
次に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
〔試験例1〕沈香精油
(サンプル調製)
タイ産の沈香精油(市販品)を直径1cmのろ紙に5μL滴下した匂い物質を7枚準備し、室温25℃で、静置直後、6時間、12時間、24時間、48時間、96時間、192時間静置した各ろ紙をバイアルに回収し、それに1mLのジクロロメタンを添加し、10分間溶媒抽出を行いサンプルS0、S6、S12,S24,S48、S96、S192を得た。
【0048】
(残香性の評価)
各経過時間後に抽出したサンプルを、以下に記載した条件でGCO分析に供し、匂いの有無、強度、香調(キャラクター)などを評価した。
香気成分Aの匂いが感じられる最長の静置時間をTa、匂い物質の中で、最も長い時間、匂いが検出できる香料成分の静置時間をTxとし、残香性評価値(Ta/Tx)を求めた。なお、試験例1では、Txは96であった。
【0049】
(香気寄与度の評価)
タイ産沈香精油をGCOに供し、匂いが感じられる各成分のFDファクターをAEDA法を用いて決定した。
タイ産沈香精油を1mLのジクロロメタンで256倍に希釈しサンプルを得た。次いで
、このサンプルを4倍ずつ順次希釈し、GCOで匂いが感じられなくなるまで測定した。さらに、各香気化合物の匂いが感じられなくなる時の希釈率(1/4n)よりFDファクターnを求めた。
ついで、匂い物質中で最も高いFDファクターに対する各香気化合物のFDファクターの比率を香気寄与度(Q)として評価した。
【0050】
(GCO分析条件)
装置: Agilent 6850 series gas chromatograph
検出器:Thermal Conductivity Detector (TCD)
(Agilent Technologies, Palo Alto, USA)
カラム:Fused silica column (30m×0.25mm i.d.,coated with a 0.25 μm film of DB-Wax; J & W Scientific, Folsom, USA)
昇温条件:40℃ to 210℃ at the rate of 5℃/min
キャリアガス:He (1ml/min)
【0051】
沈香精油から検出された各香気化合物について残香性評価値と香気寄与度を表1にまとめた。表中の「RI」はRetention Indexを示す。
【0052】
【表1】
【0053】
上記の結果から、各香気化合物について、残香性評価値と香気寄与度の関係を図2にならって分類した。
香気寄与度が高い、つまり沈香精油の中で香気に対する香気寄与度が高くかつ残香性評価値の高い香気化合物をD、香気寄与度は低いが残香性評価値の高い香気化合物をC、香気寄与度は高いが残香性評価値の低い香気化合物をB、香気寄与度が低く残香性評価値も低い香気化合物をAとして分類した。次いで、A~Dに分類され同定できた香気化合物を表2にまとめた。
【0054】
A~Dの分類は、下記に示すとおりである。
A:0<残香性評価値<0.5かつ0<香気寄与度<0.5である化合物、
B:0<残香性評価値<0.5かつ0.5≦香気寄与度≦1である化合物、
C:0.5≦残香性評価値≦1かつ0<香気寄与度<0.5である化合物、
D:0.5≦残香性評価値≦1かつ0.5≦香気寄与度≦1である化合物
【0055】
【表2】
【0056】
〔試験例2〕フローラルタイプ香料組成物
表4に記載の処方で調製したフローラルタイプ香料組成物(小川香料株式会社製)に、試験例1で香気寄与度が高くかつ残香性も高い香気化合物として分類されたジヒドロカラノン(小川香料株式会社製)を表3に記載の濃度で混合し、試験例1と同様にろ紙に滴下し、同様の条件で12時間静置後の残香性を、事前に訓練を行った10名の専門パネラーで評価した。
評価結果を後記の表5に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
【表4】
【0059】
【表5】
【0060】
評価内容は、以下の通りである。
残香性評価:表中の数字は、評価者の人数を表す。
評価1:残香性は比較例1と同じ。
評価2:残香性がわずかに上がった。
評価3:残香性が著しく上がった。
ジヒドロカラノンの配合は0.00001~1%が適しており、好ましくは0.00001~0.1%、更に好ましくは0.00001~0.01%、特に好ましくは0.00005~0.005%、殊更好ましくは0.0001~0.002%であった。
【0061】
〔試験例3〕ムスクタイプ香料組成物
表7に記載の処方で調製したムスクタイプ香料組成物(小川香料株式会社製)に、試験例1で分類したジヒドロカラノン(小川香料株式会社製)を表6に記載の濃度で混合した。試験例1と同様にろ紙に滴下し、同様の条件で12時間静置後の残香性を、事前に訓練を行った10名の専門パネラーで評価した。
評価結果を後記の表8に示す。
【0062】
【表6】
【0063】
【表7】
【0064】
【表8】
【0065】
評価の内容は、以下の通りである。
残香性評価:表中の数字は、評価者の人数を表す。
評価1:残香性は比較例4と同じ。
評価2:残香性がわずかに上がった。
評価3:残香性が著しく上がった。
ジヒドロカラノンの配合は0.00001~1%が適しており、好ましくは0.00001~0.1%、更に好ましくは0.00001~0.01%、特に好ましくは0.00005~0.005%、殊更好ましくは0.0001~0.002%であった。
【0066】
〔試験例4〕オリエンタルタイプの香料組成物
表10に記載の処方で調製したオリエンタルタイプの香料組成物(小川香料株式会社製)に、試験例1で分類したジヒドロカラノン(小川香料株式会社製)を表9記載の濃度で混合し、試験例1と同様にろ紙に滴下し、同様の条件で12時間静置後の残香性を、事前に訓練を行った10名の専門パネラーで評価した。
評価結果を後記の表11に示す。
【0067】
【表9】
【0068】
【表10】
【0069】
【表11】
【0070】
評価の内容は、以下の通りである。
残香性評価:表中の数字は、評価者の人数を表す。
評価1:残香性は比較例7と同じ。
評価2:残香性がわずかに上がった。
評価3:残香性が著しく上がった。
ジヒドロカラノンの配合は0.00001~1%が適しており、好ましくは0.00001~0.1%、更に好ましくは0.00001~0.01%、特に好ましくは0.00005~0.005%、殊更好ましくは0.0001~0.002%であった。
【0071】
上記以外の香調のフルーティータイプ、シトラスタイプ、アンバータイプ、ハーバルタイプ香料組成物において、同様の評価試験を行い、いずれの香調タイプでもジヒドロカラノンを配合することによって、香料組成物の残香性を向上させる効果がもたらされることを確認した。
【0072】
さらに、前記試験例1において、寄与度は低いが残香性の高い香気化合物として分類された2-イソプロピリデン-10-メチル-スピロ[4,5]-6-デセン-6-カルバルデヒドについても、ジヒドロカラノンと同様の評価試験を行い、各種タイプの香料組成物に配合することによって同様の残存性向上効果があること、ジヒドロカラノンと2-イソプロピリデン-10-メチル-スピロ[4,5]-6-デセン-6-カルバルデヒドを併用しても効果があることを確認した。
【0073】
本発明の残香性評価技術を用いることで残香性の高い香気化合物およびその香調を容易にスクリーニングすることが可能になる。それにより、図2の香料中に望ましいD群がない場合には、それに代えてB群の香調で残香性の高い香気化合物を、香料に補うことで香料の香気改良が可能になる。
また、残香性が異なる香気化合物を使うことで、経時的に香調が変わる香粧品香料の開発も可能になる。
スクリーニングした残香性と香調をデーターベース化することで、使用する香気化合物を、残香性という観点で選択することで、新たな香料開発が可能となる。
【0074】
〔実施例16〕香水へのジヒドロカラノンの応用
下記の表12の処方に従い、前記試験例2の実施例5で作成したフローラル香料とエタノールを混合して香料サンプルを調製した。
当該香料サンプルは、フローラルタイプの香調の香水のまま、好ましい残香が持続した。
【0075】
【表12】
【0076】
〔実施例17〕芳香剤へのジヒドロカラノンの応用
表13の処方に従い、メチルパラベン、実施例2で作成したフローラル香料、ポリオキシエチレン(POE)硬化ひまし油、エタノール、水を順に混合してスプレータイプの芳香剤を調製した。
フローラルタイプの香調の芳香剤のまま、好ましい残香が持続した。
【0077】
【表13】
【0078】
〔実施例18〕スキンケア製品へのジヒドロカラノンの応用
表14の処方に従い、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、パラオキシ安息香酸メチルをエタノールに溶解させ、水と混合して作製したローション基剤に、予め均一混合したPEG-20ソルビタンココエートと実施例1で作成したフローラルタイプの香料を添加し、ローションを調製した。
フローラルタイプの香調のローションのまま、好ましい残香が持続した。
【0079】
【表14】
【0080】
〔実施例19〕ヘアケア製品へのジヒドロカラノンの応用
表15の処方に従い、水系ベースをビーカーにはかり取り、85℃で加温しながら均一に混合した後、撹拌しながらココイルグルタミン酸Naなどの活性剤を添加して均一溶解させ、1%クエン酸水及び水を添加して均一混合した。最後に、得られた混合物に実施例2のフローラルタイプの香料を添加してシャンプーを調製した。
フローラルタイプの香調のシャンプーのまま、好ましい残香が持続した。
【0081】
【表15】
【0082】
〔実施例20〕ハウスホールド製品へのジヒドロカラノンの応用
表16の処方に従い、A相をビーカーにはかり取り、80℃で加温しながら均一に混合した後、80℃で均一に混合したB相を添加し、ホモミキサーで攪拌した。
最後に、得られた混合物に実施例2の香料を添加して柔軟剤を調製した。
フローラルタイプの香調の柔軟剤のまま、好ましい残香が持続した。
【0083】
【表16】
【0084】
残香性付与剤としてジヒドロカラノンを含有した香料組成物は、フレグランス製品中に香料の添加濃度が0.2%(実施例18)~10%(実施例16)になるように配合したフレグランス製品で残香性の持続が確認された。
したがって、フレグランス製品中のジヒドロカラノンの配合は0.2ppb~1000ppmが適しており、好ましくは0.2ppb~100ppm、更に好ましくは0.2ppb~10ppm、特に好ましくは1ppb~5ppm、殊更好ましくは2ppb~2ppmであった。
図1
図2