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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022068830
(43)【公開日】2022-05-10
(54)【発明の名称】セラミック電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20220427BHJP
   C04B 35/468 20060101ALI20220427BHJP
【FI】
H01G4/30 515
H01G4/30 511
H01G4/30 517
H01G4/30 201L
H01G4/30 201K
H01G4/30 311Z
C04B35/468
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021133601
(22)【出願日】2021-08-18
(31)【優先権主張番号】10-2020-0137682
(32)【優先日】2020-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0054242
(32)【優先日】2021-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】594023722
【氏名又は名称】サムソン エレクトロ-メカニックス カンパニーリミテッド.
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、ドン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】リー、 デ ヒー
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ユン
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AE04
5E001AH08
5E001AH09
5E001AJ02
5E082AA01
5E082AB03
5E082BC19
5E082BC23
5E082BC35
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE25
5E082EE26
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082GG10
5E082GG28
5E082GG30
5E082PP01
5E082PP03
(57)【要約】
【課題】セラミック電子部品を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態によるセラミック電子部品は、誘電体層及び内部電極を含む本体と、上記本体に配置され、上記内部電極と連結される外部電極と、を含むセラミック電子部品であって、上記誘電体層は、複数の結晶粒と、隣接した結晶粒の間に配置された結晶粒界と、を含み、上記結晶粒のMgの含有量(C1)に対する上記結晶粒界のMgの含有量(C2)の比(C2/C1)が3以上である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層及び内部電極を含む本体と、
前記本体に配置され、前記内部電極と連結される外部電極と、を含むセラミック電子部品であって、
前記誘電体層は、複数の結晶粒と、隣接した結晶粒の間に配置された結晶粒界と、を含み、
前記結晶粒のMgの含有量(C1)に対する前記結晶粒界のMgの含有量(C2)の比(C2/C1)が3以上である、セラミック電子部品。
【請求項2】
前記C2/C1が10以下である、請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記結晶粒界のMgの含有量(C2)は、結晶粒界の中央でのMgの含量であり、前記結晶粒のMgの含有量(C1)は、結晶粒界の中央から、前記結晶粒界に垂直な方向に30nm離隔した位置でのMgの含有量である、請求項1または2に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記誘電体層及び内部電極はNi-Mg-O系二次相を含まない、請求項1~3のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記結晶粒界でのMgの含有量(C2)が0.2at%以上0.6at%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
前記結晶粒でのMgの含有量(C1)が0.01at%以上0.15at%以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
前記複数の結晶粒のうち少なくとも1つ以上はコア-シェル構造を有し、
シェルのMgの含量に対する前記結晶粒界のMgの含有量の比が3以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項8】
前記コアのMgの含有量が0.01at%以下である、請求項7に記載のセラミック電子部品。
【請求項9】
前記結晶粒界はDyをさらに含み、前記Dyの含有量が0.5at%以上2.0at%以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項10】
前記結晶粒界はSiをさらに含み、前記Siの含有量が1.0at%以上5.0at%以下である、請求項9に記載のセラミック電子部品。
【請求項11】
Mgを含む誘電体組成物を用いてセラミックグリーンシートを得る段階と、
前記セラミックグリーンシート上に内部電極用導電性ペーストを塗布して内部電極パターンを形成する段階と、
前記内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートを複数個積層して積層体を得る段階と、
前記積層体を還元雰囲気で焼成した後、還元雰囲気で再酸化することで、誘電体層及び内部電極を含む本体を製造する段階と、
前記本体に外部電極を形成する段階と、を含むセラミック電子部品の製造方法であって、
前記焼成時における還元雰囲気の起電力は、Ni/NiO平衡分圧起電力に50mVを加えた値以上であり、前記Ni/NiO平衡分圧起電力に90mVを加えた値以下である、セラミック電子部品の製造方法。
【請求項12】
前記再酸化時における還元雰囲気の起電力は、前記Ni/NiO平衡分圧起電力以上であり、前記Ni/NiO平衡分圧起電力に10mVを加えた値以下である、請求項11に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項13】
前記誘電体層は、複数の結晶粒と、隣接した結晶粒の間に配置された結晶粒界と、を含み、
前記結晶粒のMgの含有量(C1)に対する前記結晶粒界のMgの含有量(C2)の比(C2/C1)が3以上である、請求項11または12に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項14】
前記誘電体組成物はBaTiOを主成分として含み、前記MgをBaTiO100モルに対して0.2~3モル含む、請求項11~13のいずれか一項に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項15】
前記内部電極用導電性ペーストはNiを含む、請求項11~14のいずれか一項に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項16】
前記誘電体組成物は、BaTiO100モルに対してDyを0.5~2モル含む、請求項11~15のいずれか一項に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項17】
前記誘電体組成物は、BaTiO100モルに対してSiを1~5モル含む、請求項16に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック電子部品の1つである積層セラミックコンデンサ(MLCC:Multi-Layered Ceramic Capacitor)は、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)及びプラズマディスプレイパネル(PDP:Plasma Display Panel)などの映像機器、コンピューター、スマートフォン、及び携帯電話などの種々の電子製品のプリント回路基板に取り付けられ、電気を充電または放電させる役割を果たすチップ形態のコンデンサである。
【0003】
かかる積層セラミックコンデンサは、小型でありながらも高容量が保障され、且つ実装が容易であるという利点を有するため、種々の電子装置の部品として用いられることができる。近年、コンピューター、モバイル機器などの各種電子機器の小型化、高出力化に伴い、積層セラミックコンデンサに対する小型化及び高容量化の要求も増大している。
【0004】
積層セラミックコンデンサの小型化及び高容量化を達成するためには、誘電体層及び内部電極の厚さを薄くし、積層数を増加させる必要がある。現在、誘電体層の厚さは、約0.6μmレベルまで達している状態であり、薄層化が進みつつある。しかし、誘電体層の厚さが薄くなるほど、同一の作動電圧で誘電体に印加される電界が大きくなるため、誘電体の信頼性を確保することが必須である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の様々な目的の1つは、信頼性に優れたセラミック電子部品を提供することにある。
【0006】
本発明の様々な目的の1つは、絶縁抵抗が向上したセラミック電子部品を提供することにある。
【0007】
本発明の様々な目的の1つは、高温信頼性に優れたセラミック電子部品を提供することにある。
【0008】
但し、本発明の目的は上述の内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程でより容易に理解することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態によるセラミック電子部品は、誘電体層及び内部電極を含む本体と、上記本体に配置され、上記内部電極と連結される外部電極と、を含むセラミック電子部品であって、上記誘電体層は、複数の誘電体結晶粒と、隣接した誘電体結晶粒の間に配置された結晶粒界と、を含み、上記結晶粒のMgの含有量(C1)に対する上記結晶粒界のMgの含有量(C2)の比(C2/C1)が3以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の様々な効果の一効果として、誘電体粒界にMgを配置することで、信頼性を向上させることができる。
【0011】
但し、本発明の多様で且つ有益な利点と効果は上述の内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程でより容易に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態によるセラミック電子部品の斜視図を概略的に示したものである。
図2図1のI-I'の断面図を概略的に示したものである。
図3図1のII-II'の断面図を概略的に示したものである。
図4】本発明の一実施形態によるセラミック電子部品の本体を分解して概略的に示した分解斜視図である。
図5図2のP領域を拡大した図である。
図6】試験番号1の幅方向の中央で切断した長さ及び厚さ方向の断面の中央部を9900倍率で撮影したSTEM-EDSマッピング画像である。
図7】試験番号2の幅方向の中央で切断した長さ及び厚さ方向の断面の中央部を9900倍率で撮影したSTEM-EDSマッピング画像である。
図8】結晶粒界が電子線に対し平行に立っているSTEM-HAADF画像である。
図9】試験番号1及び2の印加電圧によるリーク電流の変化量を示したグラフ(I-V curve)である。
図10】試験番号1及び2のBDVのWeibull分布を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、添付の図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。しかし、本発明の実施形態は様々な他の形態に変形することができ、本発明の範囲は以下で説明する実施形態に限定されない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。したがって、図面における要素の形状及び大きさなどはより明確な説明のために拡大縮小表示(または強調表示や簡略化表示)されることがある。
【0014】
なお、本発明を明確に説明すべく、図面において説明と関係ない部分は省略し、図面に示された各構成の大きさ及び厚さは説明の便宜のために任意で示したものであり、本発明が必ずしも図示されたものに限定されない。また、同一思想の範囲内において機能が同一である構成要素に対しては同一の参照符号を用いて説明する。さらに、明細書全体において、ある構成要素を「含む」というのは、特に異なる趣旨の説明がされていない限り、他の構成要素を除外する趣旨ではなく、他の構成要素をさらに含むことができるということを意味する。
【0015】
図面において、第1方向は、積層方向または厚さ(T)方向、第2方向は、長さ(L)方向、第3方向は、幅(W)方向と定義される。
【0016】
セラミック電子部品
図1は本発明の一実施形態によるセラミック電子部品の斜視図を概略的に示したものであり、図2図1のI-I'の断面図を概略的に示したものであり、図3図1のII-II'の断面図を概略的に示したものであり、図4は本発明の一実施形態によるセラミック電子部品の本体を分解して概略的に示した分解斜視図であり、図5図2のP領域を拡大した図である。
【0017】
以下、図1から図5を参照して、本発明の一実施形態によるセラミック電子部品100について詳細に説明する。また、セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサ(Multi-layered Ceramic Capacitor、以下、「MLCC」という)について説明するが、本発明がこれに限定されるものではなく、セラミック材料を用いる様々なセラミック電子部品、例えば、インダクター、圧電体素子、バリスター、またはサーミスターなどにも適用可能である。
【0018】
本発明の一実施形態によるセラミック電子部品100は、誘電体層111及び内部電極121、122を含む本体110と、上記本体に配置され、上記内部電極と連結される外部電極131、132と、を含み、上記誘電体層111は、複数の結晶粒111aと、隣接した結晶粒の間に配置された結晶粒界111bと、を含み、上記結晶粒のMgの含有量(C1)に対する上記結晶粒界のMgの含有量(C2)の比(C2/C1)が3以上である。
【0019】
本体110は、誘電体層111及び内部電極121、122が交互に積層されている。
【0020】
本体110の具体的な形状は特に制限されないが、図示されたように、本体110は、六面体形状またはそれに類似の形状からなる。焼成過程における、本体110に含まれているセラミック粉末の収縮により、本体110は、完全な直線を有する六面体形状ではないが、実質的に六面体形状を有する。
【0021】
本体110は、第1方向に互いに対向する第1及び第2面1、2と、上記第1及び第2面1、2と連結されて第2方向に互いに対向する第3及び第4面3、4と、第1及び第2面1、2と連結され、且つ第3及び第4面3、4と連結されて第3方向に互いに対向する第5及び第6面5、6と、を有する。
【0022】
本体110を成す複数の誘電体層111は焼成された状態であって、隣接する誘電体層111の間の境界は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いずには確認が困難な程度に一体化されていることができる。
【0023】
誘電体層111は、複数の結晶粒111aと、隣接した結晶粒の間に配置された結晶粒界111bと、を含み、上記結晶粒のMgの含有量(C1)に対する上記結晶粒界のMgの含有量(C2)の比(C2/C1)が3以上であることを特徴とする。
【0024】
セラミック電子部品の1つである積層型セラミックコンデンサ(MLCC:multi-layer ceramic capacitor)は高容量化及び薄層化する傾向にある。誘電体層の厚さが薄くなるほど、同一の作動電圧で誘電体に印加される電界が大きくなるため、誘電体の信頼性を確保することが必須である。
【0025】
誘電体の信頼性を表す最も重要な指標は絶縁抵抗(Insulation Resistance、IR)であり、MLCCの信頼性を確保するために、絶縁抵抗の劣化挙動に関する研究が活発に行われてきた。絶縁抵抗を構成する主要成分は、誘電体の結晶粒界(grain boundary、粒界)に存在するショットキー(Schottky)タイプのエネルギー障壁による粒界抵抗であることが知られている。粒界抵抗により絶縁抵抗を決定する主要変数であるため、MLCCの信頼性を向上させるために、粒成長を抑制して粒界数を増加させる方向の技術開発が行われてきた。しかし、粒成長を抑制する場合、誘電率の低下を伴うため、高容量化が困難であった。
【0026】
したがって、本発明では、粒成長を過度に抑制させることなく、かつ結晶粒界の組成を制御することで、信頼性を向上させることを目的とする。粒界抵抗は、誘電体の結晶粒界に存在するカチオンにより生成され得る。結晶粒界に析出されたか固溶されなかったカチオンにより空間電荷層(space charge layer)が形成され、エネルギー障壁を作って粒界抵抗が増加する。したがって、BaTiO(BT)誘電体の特性を制御するために添加する添加剤の固溶度を低下させた場合において、粒界抵抗を強化することができる。
【0027】
Mgは、結晶粒界に分布されるか、コア-シェル構造を有する誘電体結晶粒のシェル領域に分布され、他の元素が誘電体結晶粒の内部に固溶することを抑制する役割を果たす。本発明の一実施形態によると、結晶粒のMgの含量(C1)に対する結晶粒界のMgの含量(C2)の比(C2/C1)を3以上にすることにより、粒成長を過度に抑制させることなく、かつ他の元素が誘電体結晶粒の内部に固溶することを抑制することができ、これにより、粒界抵抗を向上させることが可能となる。
【0028】
結晶粒のMgの含有量(C1)に対する結晶粒界のMgの含有量(C2)の比(C2/C1)が3未満である場合には、Mgによる粒界抵抗の向上効果、他の添加剤が結晶粒内に固溶されることを防止する効果が十分ではない。
【0029】
これに対し、結晶粒のMgの含有量(C1)に対する結晶粒界のMgの含有量(C2)の比(C2/C1)の上限は特に限定する必要はないが、結晶粒のMgの含量(C1)に対する結晶粒界のMgの含有量(C2)の比(C2/C1)が10を超える場合には、Mgによる粒界抵抗の向上効果、他の添加剤が結晶粒内に固溶されることを防止する効果が飽和される。したがって、結晶粒のMgの含有量(C1)に対する結晶粒界のMgの含有量(C2)の比(C2/C1)の上限は、10であることが好ましい。
【0030】
ここで、結晶粒のMgの含有量(C1)及び結晶粒界のMgの含有量(C2)は、本体の長さ及び厚さ方向の中央部に配置された3つの誘電体層において、それぞれ任意の10箇所の位置の組成を、STEM-EDSを用いて分析し平均した値とすることができる。図5を参照すると、結晶粒界のMgの含有量(C2)は、結晶粒界の中央である○で表示した位置で測定されたものであり、結晶粒のMgの含有量(C1)は、結晶粒界の中央から、結晶粒界に垂直な方向に30nm離隔した位置であるXで表示した位置で測定されたものである。結晶粒界の中央とは、結晶粒界に垂直な方向にSTEM-EDSによりライン-プロファイル(Line-profile)を行った結果、Siの含量が最も高い位置を意味する。
【0031】
一実施形態において、結晶粒界のMgの含有量(C2)は、結晶粒界の中央でのMgの含有量であり、結晶粒のMgの含有量(C1)は、結晶粒界の中央から結晶粒界に垂直な方向に30nm離隔した位置でのMgの含有量である。
【0032】
この際、結晶粒界のMgの含有量(C2)は、0.2at%以上0.6at%以下であり、0.25at%以上0.55at%以下であることがより好ましい。
【0033】
また、結晶粒のMgの含有量(C1)は、0.01at%以上0.15at%以下であり、0.05at%以上0.1at%以下であることがより好ましい。
【0034】
結晶粒のMgの含有量(C1)に対する結晶粒界のMgの含有量(C2)の比(C2/C1)を3以上に制御する方法は、特に限定する必要はない。但し、一般に、MgをMgOの形態で誘電体組成物に添加する場合、MgOは、BaTiOに比べてNiOへより容易に固溶される性質を有するため、Niの内部電極が酸化され得る雰囲気では、Ni-Mg-Oの二次相が形成されて凝集され、Mgを結晶粒界に分布させることが困難となり、これにより、他の元素が誘電体結晶粒の内部に固溶することを抑制する効果が期待できなくなる可能性がある。したがって、Niが熱力学的に酸化できない焼成雰囲気で焼成を行うことで、Niの内部電極の酸化を防止することにより、MgがNi-Mg-Oの二次相を形成したり、偏析されることを防止してMgを結晶粒界に均一に分布させ、これにより、結晶粒のMgの含有量(C1)に対する結晶粒界のMgの含有量(C2)の比(C2/C1)を3以上に制御することができる。
【0035】
一実施形態において、内部電極121、122及び誘電体層111は、Ni-Mg-Oの二次相を含まないことが望ましい。Ni-Mg-Oの二次相が形成される場合、Mgを結晶粒界に分布させることが困難であるため、他の元素が誘電体結晶粒の内部に固溶することを抑制する効果が期待できなくなるためである。
【0036】
ここで、Ni-Mg-Oの二次相の有無は、図6及び図7のように、幅方向の中央で切断した長さ及び厚さ方向の断面の中央部を9900倍率で撮影したSEM-EDSマッピング画像から確認可能である。図7において、丸で表示した部分に存在する、10nmサイズ以上にMgが偏析された領域が観察される場合、Ni-Mg-Oの二次相が存在すると判断される。
【0037】
一実施形態において、結晶粒界111bはDyをさらに含む。この際、Dyの含有量は特に限定する必要はないが、好ましくは、Dyの含有量は0.5at%以上2.0at%以下であり、0.7at%以上1.8at%以下であることがより好ましい。結晶粒にもDyが含まれても良いがが、本発明によって、Mgが結晶粒に比べて結晶粒界に3倍以上含まれる場合、Dyが誘電体結晶粒の内部に固溶されることを抑制することができるため、結晶粒でのDyの含有量は0.5at%以下であることが望ましい。
【0038】
一実施形態において、結晶粒界111bはSiをさらに含む。この際、Siの含量は特に限定する必要はないが、好ましくは、Siの含有量は1.0at%以上5.0at%以下であり、1.6at%以上3.7at%以下であることがより好ましい。結晶粒にもSiが含まれていてもよいが、本発明によって、Mgが結晶粒に比べて結晶粒界に3倍以上含まれる場合、Siが誘電体結晶粒の内部に固溶されることを抑制されるため、結晶粒でのSiの含有量は0.5at%以下である。
【0039】
一実施形態において、複数の結晶粒のうち少なくとも1つ以上は、コア-シェル構造を有する。結晶粒がコア-シェル構造を有する場合、結晶粒のMgの含有量(C1)はシェル領域でのMgの含有量を意味し、結晶粒界の中央から、結晶粒界に垂直な方向に30nm離隔した位置でのMgの含有量を測定したものである。すなわち、シェルのMgの含量に対する、結晶粒界のMgの含有量の比が3以上であると定義することができる。
【0040】
また、コアのMgの含有量は0.01at%以下であることが望ましい。コアのMgの含有量は、コア領域の中央で測定したものであることが望ましい。
【0041】
一実施形態において、誘電体層111はBaTiOを主成分として含むことができる。
【0042】
一方、誘電体層111の厚さtdは特に限定する必要はない。
【0043】
但し、一般に、誘電体層を0.6μm未満の厚さで薄く形成する場合、特に、誘電体層の厚さが0.5μm以下である場合には、信頼性が低下する恐れがあった。
【0044】
上述のように、本発明の一実施形態によると、結晶粒のMgの含有量(C1)に対する結晶粒界のMgの含有量(C2)の比(C2/C1)を3以上にし、Mg粒界分布を誘導することで、粒界抵抗を高め、信頼性を向上させることができるため、誘電体層111の厚さが0.5μm以下である場合にも、優れた信頼性を確保することができる。
【0045】
したがって、誘電体層111の厚さが0.5μm以下である場合、本発明による信頼性の向上効果がより顕著になる。
【0046】
上記誘電体層111の厚さtdは、上記第1内部電極121と第2内部電極122との間に配置される誘電体層111の平均厚さを意味する。
【0047】
上記誘電体層111の平均厚さは、本体110の長さ及び厚さ方向(L-T)の断面を走査型電子顕微鏡(SEM、Scanning Electron Microscope)でイメージスキャンして測定される。
【0048】
例えば、本体110の第3方向(幅方向)の中央部で切断した第1及び第2方向(長さ及び厚さ方向)の断面を走査型電子顕微鏡(SEM、Scanning Electron Microscope)によりスキャンした画像から抽出された任意の誘電体層において、長さ方向に等間隔である30個の地点でその厚さを測定し、平均値を求めることができる。
【0049】
上記等間隔である30個の地点で測定した厚さは、第1及び第2内部電極121、122が互いに重なる領域を意味する容量形成部Acで測定される。
【0050】
本体110は、本体110の内部に配置され、誘電体層111を挟んで互いに対向するように配置される第1内部電極121及び第2内部電極122を含み、容量が形成される容量形成部Acと、上記容量形成部Acの第1方向の上部及び下部に形成されたカバー部112、113と、を含むことができる。
【0051】
また、上記容量形成部Acは、コンデンサの容量形成に寄与する部分であり、誘電体層111を挟んで複数の第1及び第2内部電極121、122を繰り返し積層することで形成される。
【0052】
カバー部112、113は、上記容量形成部Acの第1方向の上部に配置される上部カバー部112と、上記容量形成部Acの第1方向の下部に配置される下部カバー部113と、を含むことができる。
【0053】
上記上部カバー部112及び下部カバー部113は、単一の誘電体層または2つ以上の誘電体層を容量形成部Acの上下面にそれぞれ厚さ方向に積層することで形成することができ、基本的に、物理的または化学的ストレスによる内部電極の損傷を防止する役割を果たす。
【0054】
上記上部カバー部112及び下部カバー部113は、内部電極を含まず、誘電体層111と同一の材料を含んでもよい。
【0055】
すなわち、上記上部カバー部112及び下部カバー部113はセラミック材料を含むことができ、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO)系セラミック材料を含んでもよい。
【0056】
一方、カバー部112、113の厚さは特に限定する必要はない。但し、セラミック電子部品の小型化及び高容量化をより容易に達成するために、カバー部112、113の厚さtpは20μm以下であることが好ましい。
【0057】
また、上記容量形成部Acの側面にはマージン部114、115が配置されてもよい。
【0058】
マージン部114、115は、本体110の第5面5に配置されたマージン部114と、第6面6に配置されたマージン部115と、を含まれることが望ましい。すなわち、マージン部114、115は、上記セラミック本体110の幅方向の両側面に配置されることが好ましい。
【0059】
マージン部114、115は、図3に示されたように、上記本体110を幅-厚さ(W-T)方向に切断した断面において、第1及び第2内部電極121、122の両端と本体110の境界面の間の領域を意味する。
【0060】
マージン部114、115は、基本的に、物理的または化学的ストレスによる内部電極の損傷を防止する役割を果たす。
【0061】
マージン部114、115は、セラミックグリーンシート上に、マージン部が形成されるべき箇所を除いて導電性ペーストを塗布して内部電極を形成することにより形成することができる。
【0062】
また、内部電極121、122による段差を抑えるために、積層後に内部電極が本体の第5及び第6面5、6に露出するように切断した後、単一の誘電体層または2つ以上の誘電体層を容量形成部Acの両側面に幅方向に積層することでマージン部114、115が形成されてもよい。
【0063】
内部電極121、122は、誘電体層111と交互に積層される。
【0064】
内部電極121、122は第1及び第2内部電極121、122を含むことができる。第1及び第2内部電極121、122は、本体110を構成する誘電体層111を挟んで互いに対向するように交互に配置され、本体110の第3及び第4面3、4にそれぞれ露出することができる。
【0065】
図2を参照すると、第1内部電極121は、第4面4から離隔して第3面3を介して露出し、第2内部電極122は、第3面3から離隔して第4面4を介して露出することができる。
【0066】
この際、第1及び第2内部電極121、122は、その間に配置された誘電体層111により互いに電気的に分離される。
【0067】
図4を参照すると、本体110は、第1内部電極121が印刷されたセラミックグリーンシートと、第2内部電極122が印刷されたセラミックグリーンシートとを交互に積層した後、焼成することで形成される。
【0068】
内部電極121、122はNiを含むことができる。但し、内部電極121、122を形成する材料は特に制限されず、電気伝導性に優れた材料を用いることができる。例えば、内部電極121、122は、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、スズ(Sn)、タングステン(W)、チタン(Ti)、及びこれらの合金のうち1つ以上を含むことができる。
【0069】
また、内部電極121、122は、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、スズ(Sn)、タングステン(W)、チタン(Ti)、及びこれらの合金のうち1つ以上を含む内部電極用導電性ペーストをセラミックグリーンシートに印刷することで形成される。上記内部電極用導電性ペーストの印刷方法としては、スクリーン印刷法またはグラビア印刷法などを用いることができるが、本発明がこれに限定されるものではない。
【0070】
一方、内部電極121、122の厚さteは、特に限定する必要はない。
【0071】
但し、一般に、内部電極を0.6μm未満の厚さで薄く形成する場合、特に、内部電極の厚さが0.5μm以下である場合には、信頼性が低下する恐れがあった。
【0072】
上述のように、本発明の一実施形態によると、結晶粒のMgの含有量(C1)に対する結晶粒界のMgの含有量(C2)の比(C2/C1)を3以上にし、Mg粒界分布を誘導することで、粒界抵抗を高め、信頼性を向上させることができるため、内部電極121、122の厚さが0.5μm以下である場合にも優れた信頼性を確保することができる。
【0073】
したがって、内部電極121、122の厚さが0.5μm以下である場合に、本発明による効果をより顕著にすることができ、セラミック電子部品の小型化及び高容量化をより容易に達成することができる。
【0074】
上記内部電極121、122の厚さteは、内部電極121、122の平均厚さを意味する。
【0075】
上記内部電極121、122の平均厚さは、本体110の長さ及び厚さ方向(L-T)の断面を走査型電子顕微鏡(SEM、Scanning Electron Microscope)でイメージスキャンして測定することができる。
【0076】
例えば、本体110の第3方向(幅方向)の中央部で切断した第1及び第2方向(長さ及び厚さ方向)の断面を走査型電子顕微鏡(SEM、Scanning Electron Microscope)によりスキャンした画像から抽出された任意の第1及び第2内部電極121、122において、長さ方向に等間隔である30個の地点でその厚さを測定し、平均値を求めることができる。
【0077】
上記等間隔である30個の地点は、内部電極121、122が互いに重なる領域を意味する容量形成部Acで測定される。
【0078】
外部電極131、132は、本体110の第3面3及び第4面4に配置される。
【0079】
外部電極131、132は、本体110の第3及び第4面3、4にそれぞれ配置され、第1及び第2内部電極121、122とそれぞれ連結された第1及び第2外部電極131、132を含むことができる。
【0080】
図1を参照すると、外部電極131、132はサイドマージン部114、115の第2方向の両端面を覆うように配置される。
【0081】
本実施形態では、セラミック電子部品100が2個の外部電極131、132を有する構造を説明しているが、外部電極131、132の個数や形状などは、内部電極121、122の形態やその他の目的によって変わっても良い。
【0082】
一方、外部電極131、132は、金属などのように電気伝導性を有するものであれば如何なる物質を用いて形成されてもよく、電気的特性、構造的安定性などを考慮して具体的な物質が決定することができ、さらには、多層構造を有することができる。
【0083】
例えば、外部電極131、132は、本体110に配置される電極層131a、132aと、電極層131a、132a上に形成されためっき層131b、132bと、を含むことができる。
【0084】
電極層131a、132aのより具体的な例としては、電極層131a、132aは、導電性金属及びガラスを含む焼成(firing)電極であってもよく、導電性金属及び樹脂を含む樹脂系電極であってもよい。
【0085】
また、電極層131a、132aは、本体上に焼成電極及び樹脂系電極が順に形成された形態であることができる。また、電極層131a、132aは、本体上に導電性金属を含むシートを転写する方式により形成されてもよく、焼成電極上に導電性金属を含むシートを転写する方式により形成されてもよい。
【0086】
電極層131a、132aに含まれる導電性金属として、電気伝導性に優れた材料を用いることができるが、特に限定されない。例えば、導電性金属は、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、及びこれらの合金のうち1つ以上を用いることができる。
【0087】
めっき層131b、132bは、実装特性を向上させる役割を果たす。めっき層131b、132bの種類は特に限定されず、Ni、Sn、Pd、及びこれらの合金のうち1つ以上を含むめっき層であることができ、複数の層で形成される。
【0088】
めっき層131b、132bのより具体的な例としては、めっき層131b、132bは、Niめっき層またはSnめっき層であることができ、電極層131a、132a上にNiめっき層及びSnめっき層が順に形成された形態であってもよく、Snめっき層、Niめっき層、及びSnめっき層が順に形成された形態であってもよい。また、めっき層131b、132bは、複数のNiめっき層及び/または複数のSnめっき層を含んでもよい。
【0089】
セラミック電子部品100のサイズは特に限定する必要はない。
【0090】
但し、小型化及び高容量化をともに達成するためには、誘電体層及び内部電極の厚さを薄くし、積層数を増加させる必要があるため、1005(長さ×幅、1.0mm×0.5mm)以下のサイズを有するセラミック電子部品100において、本発明による信頼性及び絶縁抵抗の向上効果をより顕著にすることができる。
【0091】
したがって、製造誤差、外部電極のサイズなどを考慮すると、セラミック電子部品100の長さが1.1mm以下であり、幅が0.55mm以下である場合、本発明による信頼性の向上効果をより顕著にすることができる。ここで、セラミック電子部品100の長さは、セラミック電子部品100の第2方向のサイズを意味し、セラミック電子部品100の幅は、セラミック電子部品100の第3方向のサイズを意味する。
【0092】
セラミック電子部品の製造方法
以下、本発明の他の側面によるセラミック電子部品の製造方法について詳細に説明する。但し、重複説明を避けるために、セラミック電子部品で説明した内容と重複される内容は省略する。
【0093】
本発明の他の側面によるセラミック電子部品の製造方法は、Mgを含む誘電体組成物を用いてセラミックグリーンシートを得る段階と、上記セラミックグリーンシート上に内部電極用導電性ペーストを塗布して内部電極パターンを形成する段階と、上記内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートを複数個積層して積層体を得る段階と、上記積層体を還元雰囲気で焼成した後、還元雰囲気で再酸化することで、誘電体層及び内部電極を含む本体を製造する段階と、上記本体に外部電極を形成する段階と、を含み、上記焼成時における還元雰囲気の起電力は、Ni/NiO平衡分圧起電力に50mVを加えた値以上であり、上記Ni/NiO平衡分圧起電力に90mVを加えた値以下である。
【0094】
先ず、Mgを含む誘電体組成物を用いてセラミックグリーンシートを得る。
【0095】
この際、上記誘電体組成物はBaTiOを主成分として含み、上記MgをBaTiO100モルに対して0.2~3モル含まれることが好ましい。Mgの含量が0.2モル未満である場合には、BaTiOの粒成長を制御しにくく、結晶粒のMgの含有量(C1)に対する結晶粒界のMgの含有量(C2)の比(C2/C1)を3以上に制御することが困難となる恐れがある。これに対し、Mgの含有量が3モルを超える場合には、粒成長が過度に抑制される恐れがある。
【0096】
Mgの他に副成分として含まれる元素の含有量は特に限定する必要はなく、所望の特性を得るために適宜制御することができる。
【0097】
例えば、上記誘電体組成物は、副成分として、BaTiO100モルに対してDyを0.5~2モル含むことが好ましい。また、上記誘電体組成物は、副成分として、BaTiO100モルに対してSiを1~5モル含むことが好ましい。この他にも、一般に添加される副成分が加えられても良い。
【0098】
この際、主成分粉末に副成分を添加した後、エタノールとトルエンを溶媒として分散剤とともに混合した後、バインダーを混合してセラミックシートを製作することができる。一方、MgはMgOの形態で添加されることができ、SiはSiOの形態で添加されることができ、DyはDyの形態で添加してもよい。
【0099】
次に、上記セラミックグリーンシートに内部電極用導電性ペーストを印刷した後、積層することで積層体を得ることができる。この際、内部電極用導電性ペーストはNiを含むことができる。
【0100】
次に、上記内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートを複数個積層して積層体を得ることができる。この際、積層体をチップ単位に切断する工程をさらに行うことができる。
【0101】
次に、上記積層体を還元雰囲気で焼成した後、還元雰囲気で再酸化することで、誘電体層及び内部電極を含む本体を製造することができる。
【0102】
上記焼成時における還元雰囲気の起電力は、Ni/NiO平衡分圧起電力に50mVを加えた値以上であり、上記Ni/NiO平衡分圧起電力に90mVを加えた値以下にするることが好ましい。
【0103】
一般に、MLCCのNi内部電極の酸化を防止し、かつBaTiOの還元をできる限り抑制するために、焼成雰囲気は、Ni/NiO平衡分圧と類似の酸素分圧に維持するようになる。Ni/NiO平衡分圧と類似の酸素分圧に維持する場合、Ni内部電極の酸化を完全に防止することが困難であり、内部電極のNiが一部酸化してNiOが形成される可能性があり、MgOはBaTiOに比べてNiOにより溶解されやすい性質を有するため、Ni-Mg-Oの二次相が形成されて凝集されるため、Mgを結晶粒界に分布させることが困難である。これにより、粒界抵抗を高めることが困難であり、信頼性が向上することが困難となる。
【0104】
これに対し、本発明の一実施形態によって、焼成時における還元雰囲気の起電力がNi/NiO平衡分圧起電力に50mVを加えた値以上である場合、Ni内部電極が熱力学的に酸化できないため、Ni-Mg-Oの二次相の形成を抑制可能であり、Mgを結晶粒界に均一に分散させることができる。これにより、結晶粒のMgの含有量(C1)に対する結晶粒界のMgの含有量(C2)の比(C2/C1)を3以上に制御することができるため、粒界抵抗を向上させ、信頼性を向上させることが可能となる。
【0105】
但し、焼成時における還元雰囲気の起電力がNi/NiO平衡分圧起電力に90mVを加えた値以下である場合には、酸素空孔が過多形成され、信頼性が劣化する恐れがある。
【0106】
Ni/NiO平衡分圧起電力は、Niの酸化特性であって、材料固有の特性であり、イットリア安定化ジルコニア(yttria-stabilized zirconia、YSZ)のような酸素イオン伝導性セラミックを用いた固体電気化学セルを構成して測定することができる。
【0107】
一実施形態において、上記再酸化時における還元雰囲気の起電力は、上記Ni/NiO平衡分圧起電力以上であり、上記Ni/NiO平衡分圧起電力に10mVを加えた値以下にすることができる。再酸化工程では、焼成工程で生成されて信頼性を劣化させ得る酸素空孔をできる限り除去する必要があるため、できる限り平衡分圧と類似の雰囲気で行うことが好ましい。この際、Ni酸化を根本的に防止するために、理論的平衡起電力よりは再酸化起電力が高く維持される必要があるため、10mV以内の範囲で、平衡点よりやや高い起電力で再酸化を行うことが好ましい。
【0108】
次に、上記本体に外部電極を形成してセラミック電子部品を得ることができる。
【0109】
(実験例)
チタン酸バリウム(BaTiO)を主成分として含み、BaTiO100モルに対して、MgO1モル、SiO3.375モル、及びDy0.8モルを含む誘電体組成物を準備した後、上記誘電体組成物を含むセラミックグリーンシート上に、Niを含む内部電極用導電性ペーストを塗布して内部電極パターンを形成した。次に、上記内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートを積層して得た積層体をチップ単位に切断した後、下記表1に記載の焼成雰囲気条件で焼成した。次に、再酸化熱処理をして、プロトタイプの積層セラミックコンデンサ(Proto-type MLCC)を製造した。
【0110】
上記誘電体層に含まれた誘電体結晶粒及び結晶粒界のMg及びDyの含量を分析し、Ni-Mg-Oの二次相の形成有無を観察して下記表1に記載した。また、高温加速寿命試験結果を下記表1に記載した。
【0111】
Mg及びDyの含量は、エネルギー分散形X線分析装置(EDS)が搭載された走査型透過電子顕微鏡(STEM、FEI社Osirisモデル)を用いて、加速電圧200kV、プローブ径1nmの条件で測定した。
【0112】
先ず、マイクロサンプリング(Microsampling)法を用いて、本体の幅方向の中央部で長さ及び厚さ方向に切断した断面に該当する薄層化した試験片を準備した。
【0113】
結晶粒界111bの組成は、上記試験片をSTEMにより観察し、電子線に対し平行に立っている結晶粒界を探して組成を分析した。具体的には、STEM-HAADF画像でデフォーカスした際に現れるフレネル縞(Fresnel fringe)が、図8のように、結晶粒界の両端で左右対称に観察される場合に、結晶粒界が電子線に対し、平行に立っていると判断した。
【0114】
結晶粒111aの組成は、結晶粒界の中央から、結晶粒界に垂直な方向に30nm離隔した位置を分析した。
【0115】
本体の長さ及び厚さ方向の中央部に配置された3つの誘電体層において、結晶粒界及び結晶粒のそれぞれの任意の10個所の位置をSTEM-EDSにより分析して平均した値を下記表1に記載した。
【0116】
下記表1の二次相の有無は、図6及び図7のように、本体の幅方向の中央部で長さ及び厚さ方向に切断した断面の中央部を10μm×10μmの範囲で観察したSTEM-EDSマッピング画像で、Ni-Mg-Oの二次相の形成有無を分析したものである。
【0117】
高温加速寿命試験は、各試験番号当たり30個のサンプルチップを準備し、105℃で12時間、9.45Vの電圧を印加した後、絶縁抵抗が初期値の1/10以下に低下したサンプルチップを不良であると判断し、不良であると判定されたチップの個数を記載した。
【0118】
【表1】
【0119】
Ni/NiO平衡分圧起電力に50mVを加えた値以上である焼成雰囲気で焼成した試験番号1、3、及び5は、Mg(粒界)/Mg(粒内)が3以上であり、Ni-Mg-Oの二次相も観察されなかったため、Mgが粒界に均一に分布されたことが確認できる。このことから、高温加速寿命特性にも優れていることが確認できる。
【0120】
これに対し、Ni/NiO平衡分圧起電力に50mVを加えた値未満である焼成雰囲気で焼成した試験番号2、4、及び6は、Mg(粒界)/Mg(粒内)が3未満と低く分析され、Ni-Mg-Oの二次相が観察されて、Mgが偏析されていることが確認できる。このことから、高温加速寿命特性にも劣っていることが確認できる。
【0121】
図6は、試験番号1の幅方向の中央で切断した長さ及び厚さ方向の断面の中央部を9900倍率で撮影したSTEM-EDSマッピング画像である。図7は、試験番号2の幅方向の中央で切断した長さ及び厚さ方向の断面の中央部を9900倍率で撮影したSTEM-EDSマッピング画像である。試験番号1ではNi-Mg-Oの二次相が観察されなかったが、試験番号2では、丸で表示した部分にNi-Mg-Oの二次相が観察されたことが確認できる。
【0122】
図9は、試験番号1及び2の、印加電圧によるリーク電流の変化量を示したグラフ(I-V curve)である。
【0123】
印加電圧によるリーク電流の変化量を高精度に測定するために、stairway測定法を適用してパルスの形態で電圧を印加し、各電圧で、5秒間電圧を印加(充電)し、5秒間放電した後に電流を測定し、各電圧でのリーク電流を測定した。電圧によるリーク電流の変化をdouble logグラフ(logI vs. logV)で示すと、勾配によって、IRが劣化しないOhmic区間(S1の勾配を有する、点線で表示した区間)と、粒界抵抗の劣化による遅い劣化区間(S2の勾配を有する、実線で表示した区間)と、粒界抵抗が劣化した後の速い劣化区間と、に区分することができる。この際、粒界抵抗による遅い劣化区間が高電圧まで現れるほど、粒界抵抗が強化されたと判断することができる。
【0124】
図9の分析結果のように、試験番号1では遅い劣化区間が高電界まで現れ、速い劣化区間への進入が遅延されることが確認できる。したがって、焼成雰囲気の制御によりMg粒界分布を誘導した場合に、粒界抵抗が強化されることが確認できる。
【0125】
図10は、試験番号1及び2のBDVのWeibull分布を示したグラフである。BDV平均値が、試験番号2は68Vであり、試験番号1は88Vであって、大きい差があることが分かり、スケールファクター(scale factor)も4.9から12.8に向上し、散布も改善されていることが確認できる。
【0126】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態及び添付図面により限定されず、添付の特許請求の範囲により限定しようとする。よって、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想から外れない範囲内で、当技術分野の通常の知識を有する者による多様な形態の置換、変形、及び変更が可能であり、これも本発明の範囲に属するといえる。
【符号の説明】
【0127】
100 セラミック電子部品
110 本体
111 誘電体層
111a 結晶粒
111b 結晶粒界
112、113 カバー部
114、115 サイドマージン部
121、122 内部電極
131、132 外部電極
131a、132a 電極層
131b、132b めっき層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10