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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022068940
(43)【公開日】2022-05-11
(54)【発明の名称】摩擦材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20220428BHJP
   F16D 69/02 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
C09K3/14 520C
C09K3/14 520F
C09K3/14 520M
F16D69/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020177782
(22)【出願日】2020-10-23
(71)【出願人】
【識別番号】309014573
【氏名又は名称】日清紡ブレーキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146927
【弁理士】
【氏名又は名称】船越 巧子
(74)【代理人】
【識別番号】100188640
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 圭次
(72)【発明者】
【氏名】大澤 悠花
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA41
3J058BA16
3J058BA21
3J058BA23
3J058BA41
3J058EA16
3J058FA01
3J058GA23
3J058GA26
3J058GA28
3J058GA52
3J058GA92
(57)【要約】
【課題】
ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、有機摩擦調整材、無機摩擦調整材、潤滑材を含み、銅成分を含有しないNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、クリープ異音や錆固着の発生が無く、十分なブレーキ効きと耐摩耗性を有する摩擦材を提供する。
【解決手段】
摩擦材組成物として、無機摩擦調整材としてケイ酸カルシウム粒子を摩擦材組成物全量に対し2~10重量%と、無機摩擦調整材として非ウィスカー状チタン酸塩を摩擦材組成物全量に対し15~30重量%と、潤滑材として金属硫化物を1~9重量%と、潤滑材として黒鉛を3~10重量%とを摩擦材組成物を使用する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、有機摩擦調整材、無機摩擦調整材、潤滑材を含み、銅成分を含有しないNAO材の摩擦材組成物を成型してなる摩擦材において、前記摩擦材組成物は、
無機摩擦調整材としてケイ酸カルシウム粒子を摩擦材組成物全量に対し2~10重量%と、
無機摩擦調整材として非ウィスカー状チタン酸塩を摩擦材組成物全量に対し15~30重量%と、
潤滑材として金属硫化物を1~9重量%と、
潤滑材として黒鉛を3~10重量%含有することを特徴とする摩擦材。
【請求項2】
前記非ウィスカー状チタン酸塩は6チタン酸カリウムおよび/またはチタン酸リチウムカリウムであることを特徴とする請求項1に記載の摩擦材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、有機摩擦調整材、無機摩擦調整材、潤滑材を含み、銅成分を含まないNAO(Non-Asbestos-Organic)材の摩擦材組成物を成型した摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗用車の制動装置としてディスクブレーキが使用されており、その摩擦部材として金属製のベース部材に摩擦材が貼り付けられたディスクブレーキパッドが使用されている。
【0003】
近年においてはブレーキの静寂性が求められており、繊維基材としてスチール繊維やステンレス繊維等のスチール系繊維を含まないNAO材の摩擦材を使用したディスクブレーキパッドが広く使用されるようになってきている。
【0004】
従来のNAO材の摩擦材には、要求される性能を確保するため、銅や銅合金の繊維又は粒子等の銅成分が必須成分として摩擦材組成物全量に対し、5~20重量%程度添加されている。
【0005】
しかし近年、このような摩擦材は制動時に摩耗粉として銅を排出し、この排出された銅が河川、湖、海洋に流入することにより水域を汚染する可能性があることが示唆されており、特許文献1のような銅成分を削減したNAO材の摩擦材が開発されている。
【0006】
一方で摩擦材には、低周波のノイズ、所謂クリープ異音の改善が求められている。
【0007】
クリープ異音は、オートマチック(AT)車において、クリープ現象によって進行方向にトルクが発生して、摩擦材とその相手材であるディスクロータ間の相対速度の変化に伴って発生する振動が足回り、車体に伝わり、放射することで発生する不快な低周波のノイズである。
【0008】
クリープ異音の発生は、次のようなメカニズムにより発生すると考えられている。
ブレーキ制動の繰り返しにより、摩擦材のディスクロータとの摩擦により発生する摩耗粉及び摩耗粉の分解物が皮膜となってロータ表面に付着する。皮膜が過度の厚さや大きさに成長すると、皮膜が破壊される際のブレーキトルクの抜けが大きくなる。これにより、スティックスリップ現象が大きくなり、低周波の異音が発生する。
【0009】
特許文献2には繊維基材、摩擦調整材および重金属材料の銅を少なくとも含む摩擦材であって、ヒドロキシアパタイトの少なくとも1種と、1~10体積%のゼオライト、さらに0.5~2体積%のゾノトライト型合成含水ケイ酸カルシウムを含有する摩擦材が記載されている。
【0010】
特許文献2の発明によれば、銅金属イオンを吸着するヒドロキシアパタイトを含有することにより摩擦材中の銅金属による環境汚染を抑えるとともに、気孔率の向上により、優れたフェード特性を有し、ノイズ発生が少ない摩擦材を提供することができる。
【0011】
しかし、特許文献2の摩擦材は銅を含むものであり、ヒドロキシアパタイトが銅金属イオンを吸着したとしても、そのヒドロキシアパタイトが銅金属イオンとともに摩耗粉として放出されれば環境が汚染される懸念がある。
【0012】
なお、特許文献2にはゾノトライト型合成含水ケイ酸カルシウムの具体的な形状について記載は無いが、ゾノトライト型合成含水ケイ酸カルシウムは通常、繊維状を呈しているものであり、特許文献2に記載のゾノトライト型合成含水ケイ酸カルシウムも繊維状物と解することができる。
【0013】
特許文献3には、平均粒径が25~300μm、かつ細孔容積が30~300mm/gである造粒へマタイト焼成粒子を含有し、かつ、銅成分の含有量が0.5質量%以下である摩擦材が記載されている。
【0014】
特許文献3の発明によれば、銅成分の含有量を低減した摩擦材において軽負荷制動を一定数以上繰り返した場合でもクリープ異音を低減し、かつ十分な耐フェード性を確保し、相手材攻撃性を抑制できる摩擦材を提供することができる。
【0015】
しかし、特許文献3に記載の造粒ヘマタイト焼成粒子は鉄成分を含有するため、摩擦材に多量に添加すると、自動車がパーキングブレーキ状態で長期間放置された後に、ヘマタイトの鉄成分が起点となりディスクロータの摩耗粉と摩擦材の摩耗粉を含む摩耗粉成分が錆を含む被膜を摩擦材とディスクロータの界面に生成し、摩擦材とディスクロータが錆で固着する所謂錆固着現象が起こるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2017-88727号公報
【特許文献2】特開2010-285558号公報
【特許文献3】特開2019-31616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、ディスクブレーキパッドに使用される、銅成分を含有しないNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、クリープ異音や錆固着の発生が無く、十分なブレーキ効きと耐摩耗性を有する摩擦材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、ディスクブレーキパッドに使用される銅成分を含有しないNAO材の摩擦材組成物を成型してなる摩擦材において、無機摩擦調整材としてケイ酸カルシウム粒子を摩擦材組成物全量に対し2~10重量%と、無機摩擦調整材として非ウィスカー状チタン酸塩を摩擦材組成物全量に対し15~30重量%と、潤滑材として金属硫化物を1~9重量%と、潤滑材として黒鉛を3~10重量%含有する摩擦材組成物を使用することにより、クリープ異音や錆固着の発生を抑制しながら、十分なブレーキ効きと耐摩耗性を有する摩擦材が得られることを知見し、本発明を完成した。
【0019】
本発明は、自動車等のディスクブレーキパッドに使用される、銅成分を含有しないNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材であって、以下の技術を基礎とするものである。
【0020】
(1)ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、有機摩擦調整材、無機摩擦調整材、潤滑材を含み、銅成分を含有しないNAO材の摩擦材組成物を成型してなる摩擦材において、前記摩擦材組成物は、無機摩擦調整材としてケイ酸カルシウム粒子を摩擦材組成物全量に対し2~10重量%と、無機摩擦調整材として非ウィスカー状チタン酸塩を摩擦材組成物全量に対し15~30重量%と、潤滑材として金属硫化物を1~9重量%と、潤滑材として黒鉛を3~10重量%含有する摩擦材。
(2)前記非ウィスカー状チタン酸塩は6チタン酸カリウムおよび/またはチタン酸リチウムカリウムである(1)の摩擦材。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ディスクブレーキパッドに使用される、銅成分を含有しないNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、クリープ異音や錆固着の発生が無く、十分なブレーキ効きと優れた耐摩耗性を有する摩擦材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明では、ディスクブレーキパッドに使用される、銅成分を含有しないNAO材の摩擦材組成物を成型してなる摩擦材において、摩擦材組成物として無機摩擦調整材としてケイ酸カルシウム粒子を摩擦材組成物全量に対し2~10重量%と、無機摩擦調整材として非ウィスカー状チタン酸塩を摩擦材組成物全量に対し15~30重量%と、潤滑材として金属硫化物を1~9重量%と、潤滑材として黒鉛を3~10重量%含有する摩擦材組成物を使用する。
【0023】
無機摩擦調整材としてケイ酸カルシウム粒子を摩擦材組成物全量に対し2~10重量%添加する。
工業的に利用されるケイ酸カルシウムとしては、ゾノトライト(Xonotlite)型とトバモライト(Tobermorite)型が挙げられる。
ゾノトライトの示性式はCa(Si17)(OH)で表され、その内部に針状の結晶が存在する多孔質の粒子であり、その表面に物質を吸着する特性を有している。
トバモライト型の示性式はCa(Si18)・8HOまたはCa(Si18)・4HOで表され、カードハウス状と呼ばれる板状結晶構造の多孔質の粒子であり、同様にその表面に物質を吸着する特性を有している。
【0024】
このようなケイ酸カルシウム粒子を摩擦材組成物に添加することにより、摩擦材の摩擦面に存在するケイ酸カルシウム粒子がディスクロータ表面の皮膜を形成する物質を吸着し、皮膜の過度の成長を抑制することができる。その結果、クリープ異音の発生が抑制される。なお、ケイ酸カルシウム粒子は、鉄成分を含有する造粒ヘマタイト焼成粒子のように、ヘマタイト粒子の鉄成分が起点となって錆固着現象が起こることはないが、発錆の原因となる水分を吸着することから、添加量はディスクブレーキの発錆に影響しない程度とすることが好ましい。
【0025】
ケイ酸カルシウム粒子としては、ゾノトライト型合成含水ケイ酸カルシウム粒子であるプロマット社製「プロマクソン」(商品名、平均粒径35~85μm)を使用することができる。
【0026】
クリープ異音を改善するためにケイ酸カルシウム粒子を摩擦材組成物に比較的多量に添加すると、それにより摩擦材の気孔率が増大し、摩擦材の耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0027】
そこで本発明では、上記ケイ酸カルシウム粒子と共に無機摩擦調整材として非ウィスカー状チタン酸塩を摩擦材組成物全量に対し15~30重量%と、潤滑材として金属硫化物を1~9重量%と、潤滑材として黒鉛を3~10重量%添加する。
非ウィスカー状チタン酸塩、金属硫化物、黒鉛の添加量を上記の範囲とすることにより、良好な耐摩耗性を得ることができる。
【0028】
非ウィスカー状チタン酸塩は、6チタン酸カリウム、8チタン酸カリウム、チタン酸マグネシウムカリウム、チタン酸リチウムカリウムが挙げられ、これらを1種または2種以上組み合わせて使用することができる。
その中でも6チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウムをそれぞれ単独か、または6チタン酸カリウムとチタン酸リチウムカリウムを組み合わせて使用するのがブレーキ効き向上、耐摩耗性向上の観点から好ましい。
チタン酸塩の含有量が15重量%よりも少なくなると、ディスクロータへのチタン酸塩の移着被膜の形成が不均一となりやすく、摩擦材の摩擦係数が不安定となり、ブレーキの効きに影響を及ぼすおそれがある。
また、チタン酸塩の含有量が30重量%よりも多くなると、ディスクロータへのチタン酸塩の移着被膜の形成が増大し、チタン酸塩で形成される被膜が厚くなり過ぎて、ブレーキ制動時に、被膜に亀裂が入り部分的に剥離することがある。そのため、摩擦材と相手材の接触が安定せず、摩擦材の摩擦係数が不安定となり、クリープ異音が発生するおそれがある。
【0029】
なお、非ウィスカー状チタン酸塩としては、大塚化学株式会社製のテラセスTF-S(板状の6チタン酸カリウム)、テラセスJP(複数の凸部を有する不定形状の6チタン酸カリウム)、テラセスL(鱗片状のチタン酸リチウムカリウム)、テラセスPS(鱗片状のチタン酸マグネシウムカリウム)、クボタ株式会社製のTXAX-MA(板状の6チタン酸カリウム)、TXAX-A(板状の6チタン酸カリウム)、東邦チタニウム株式会社製のTOFIX-S(粒子状の6チタン酸カリウム)、TOFIX-SNR(粒子状の6チタン酸カリウム)等を使用することができる。
【0030】
金属硫化物としては、硫化亜鉛、二硫化モリブデン、三硫化アンチモン、硫化鉄、硫化スズから選ばれる1種または2種以上の組み合わせを使用するのが好ましい。
【0031】
黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛をそれぞれ単独で、または両者を組み合わせて使用することができる。
【0032】
本発明の摩擦材は、上記のケイ酸カルシウム粒子、非ウィスカー状チタン酸塩、金属硫化物、黒鉛の他に、通常摩擦材に使用される結合材、繊維基材、潤滑材、無機摩擦調整材、有機摩擦調整材、pH調整材、充填材等を含む摩擦材組成物から成る。
【0033】
結合材として、ストレートフェノール樹脂、カシューオイル変性フェノール樹脂、アクリルゴム変性フェノール樹脂、シリコーンゴム変性フェノール樹脂、ニトリルゴム(NBR)変性フェノール樹脂、フェノール・アラルキル樹脂(アラルキル変性フェノール樹脂)、フルオロポリマー分散フェノール樹脂、シリコーンゴム分散フェノール樹脂等の摩擦材に通常用いられる結合材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。結合材の含有量は摩擦材組成物全量に対して4~9重量%とするのが好ましく、5~8重量%とするのがより好ましい。
【0034】
繊維基材としては、アラミド繊維、セルロース繊維、ポリ-パラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、アクリル繊維等の摩擦材に通常使用される有機繊維が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。繊維基材の含有量は摩擦材組成物全量に対して1~7重量%とするのが好ましく、2~4重量%とするのがより好ましい。
【0035】
潤滑材としては、上記の金属硫化物、黒鉛の他に、弾性黒鉛化カーボン、石油コークス、活性炭、酸化ポリアクリロニトリル繊維粉砕粉等の炭素質系潤滑材等の摩擦材に通常使用される潤滑材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。潤滑材の含有量は上記の金属硫化物、黒鉛と合わせて摩擦材組成物全量に対して5~20重量%とするのが好ましく、7~16重量%とするのがより好ましい。
【0036】
無機摩擦調整材としては、上記のケイ酸カルシウム粒子、非ウィスカー状チタン酸塩の他に、金雲母、白雲母、四三酸化鉄、ガラスビーズ、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、安定化酸化ジルコニウム、ケイ酸ジルコニウム、γ―アルミナ、α―アルミナ、炭化ケイ素、スズ粒子、亜鉛粒子、アルミニウム粒子等の粒子状無機摩擦調整材や、ウォラストナイト、セピオライト、バサルト繊維、ガラス繊維、生体溶解性人造鉱物繊維、ロックウール等の繊維状無機摩擦調整材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。無機摩擦調整材の含有量は、上記のケイ酸カルシウム、非ウィスカー状チタン酸塩と合わせて摩擦材組成物全量に対して40~70重量%とするのが好ましく、45~65重量%とするのがより好ましい。
【0037】
有機摩擦調整材として、カシューダスト、タイヤトレッドゴム粉砕粉や、ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム等の加硫ゴム粉末又は未加硫ゴム粉末等の摩擦材に通常使用される有機摩擦調整材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。有機摩擦調整材の含有量は摩擦材組成物全量に対して2~8重量%とするのが好ましく、3~7重量%とするのがより好ましい。
【0038】
pH調整材として水酸化カルシウム等の通常摩擦材に使用されるpH調整材を使用することができる。pH調整材は、摩擦材組成物全量に対して1~7重量%とするのが好ましく、2~4重量%とするのがより好ましい。
【0039】
摩擦材組成物の残部としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の充填材を使用する。
【0040】
本発明のディスクブレーキに使用される摩擦材は、所定量配合した摩擦材組成物を、混合機を用いて均一に混合する混合工程、得られた摩擦材原料混合物と、別途、予め洗浄、表面処理し、接着材を塗布したバックプレートとを重ねて熱成形型に投入し、加熱加圧して成型する加熱加圧成型工程、得られた成型品を加熱して結合材の硬化反応を完了させる熱処理工程、粉体塗料を塗装する静電粉体塗装工程、塗料を焼き付ける塗装焼き付け工程、回転砥石により摩擦面を形成する研磨工程を経て製造される。なお、加熱加圧成型工程の後、塗装工程、塗料焼き付けを兼ねた熱処理工程、研磨工程の順で製造する場合もある。
【0041】
必要に応じて、加熱加圧成型工程の前に、摩擦材原料混合物を造粒する造粒工程、摩擦材原料混合物を混練する混練工程、摩擦材原料混合物又は造粒工程で得られた造粒物、混練工程で得られた混練物を予備成型型に投入し、予備成型物を成型する予備成型工程が実施され、加熱加圧成型工程の後にスコーチ工程が実施される。
【実施例0042】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
[実施例1~15・比較例1~8の摩擦材の製造方法]
表1~3に示す組成の摩擦材組成物をレディゲミキサーにて5分間混合し、成型金型内で30MPaにて10秒間加圧して予備成型をした。この予備成型物を、予め洗浄、表面処理、接着材を塗布した鋼鉄製のバックプレート上に重ね、熱成型型内で成型温度150℃、成型圧力40MPaの条件下で10分間成型した後、研磨して摩擦面を形成し、この摩擦面を除く部位に塗料を塗装し、200℃で5時間熱処理を行い、熱硬化性樹脂の硬化反応を完了させると同時に塗装工程で塗布した塗料を焼き付けることにより、乗用車用ディスクブレーキパッドを作製した。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
得られた摩擦材において、クリープ異音、耐錆固着性、ブレーキ効き、耐摩耗性を評価した。
【0047】
<クリープ異音>
実車を使用し、JASO C406相当の摺り合わせを実施し、一晩屋外放置後、クリープ異音の音圧レベルの比較試験を行った。なお、クリープ異音の評価は、パッド面圧1.0MPaにて車両停止中の状態でブレーキペダルを徐々に緩め、車両が動き出した際のブレーキペダルの踏み下げ力を維持し、その際に発生するクリープ異音を騒音計で測定することにより行った。この手順を10回繰り返した。
評価基準は以下のとおりである。
優: 異音発生全くなし
良: 異音発生はあるが音圧レベルが57dB以下
可: 異音発生はあるが音圧レベルが57dBより高く73dBより低い
不可: 異音発生があり音圧レベルが73dB以上
【0048】
<耐錆固着性>
JIS D4414「さび固着試験方法」に準拠し、錆固着試験を行い、錆固着力を下記基準にて評価した。
評価基準は以下のとおりである。
優: 50N未満
良: 50N以上 150N未満
可: 150N以上 250N未満
不可: 250N以上
【0049】
得られた摩擦材において、通常の使用領域でのブレーキ効き、耐摩耗性を評価した。
<ブレーキ効き>
JASO C406「乗用車-ブレーキ装置-ダイナモメータ試験方法」に準拠し、一般性能に規定される第2効力試験の、初速度50km/hから液圧4MPaにて制動した試験を5回行い、そのときの平均μを求めた。
評価基準は以下のとおりである。
優:0.42以上0.45未満
良:0.39以上 0.42未満
可:0.36以上 0.39未満
不可:0.36未満
【0050】
<耐摩耗性>
JASO C427 「自動車-ブレーキライニング及びディスクブレーキパッド-ダイナモメータ摩耗試験方法」に準拠し、制動初速度50km/h、制動減速度0.3G、制動回数適宜、制動前ブレーキ温度200℃の条件で、摩擦材の摩耗量(mm)を測定し、制動回数1000回あたりの摩耗量に換算し、評価した。
評価基準は以下のとおりである。
優:0.15mm未満
良:0.15mm以上 0.20mm未満
可:0.20mm以上 0.50mm未満
不可:0.50mm以上
【0051】
評価結果を表4、表5、表6に示す。
【0052】
【表4】
【0053】
【表5】
【0054】
【表6】
【0055】
各表より見てとれるように、本発明の組成を満足する組成物は、クリープ異音や錆固着の発生が無く、十分なブレーキ効きと耐摩耗性を有するという良好な評価結果が得られている。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、本発明によれば、ディスクブレーキパッドに使用される、銅成分を含有しないNAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、クリープ異音や錆固着の発生が無く、十分なブレーキ効きと耐摩耗性を有する摩擦材を提供することができ、きわめて実用的価値の高いものである。