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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069039
(43)【公開日】2022-05-11
(54)【発明の名称】接着剤組成物及び光半導体デバイス
(51)【国際特許分類】
   C09J 163/00 20060101AFI20220428BHJP
   C09J 163/02 20060101ALI20220428BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20220428BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
C09J163/00
C09J163/02
C09J11/06
C09J11/04
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020177974
(22)【出願日】2020-10-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000102739
【氏名又は名称】エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 和典
(72)【発明者】
【氏名】村越 裕
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040EC021
4J040EC041
4J040EC061
4J040HA306
4J040HD01
4J040HD30
4J040HD35
4J040JA01
4J040JA03
4J040JB07
4J040JB08
4J040KA13
4J040KA42
4J040LA01
4J040LA06
4J040MA01
4J040NA17
4J040NA20
4J040PA32
(57)【要約】
【課題】高い接着力を有し、優れた実装性を発現する紫外線硬化型の接着剤組成物、及び、当該組成物を用いて得られる光半導体デバイスを提供すること。
【解決手段】本開示に係る紫外線硬化型の接着剤組成物は、〔A〕ビスフェノール型ジグリシジルエーテル化合物と、〔B〕脂環式エポキシ化合物と、〔C〕オキセタン化合物と、〔D〕重量平均分子量が1000以上30000以下のエポキシ樹脂と、〔E〕光カチオン重合開始剤と、〔F〕シランカップリング剤と、〔G〕シリカ粒子と、を含有し、上記〔A〕~〔F〕の合計量100質量部に対して、〔B〕の含有量が20質量部以上50質量部以下、〔D〕の含有量が10質量部以上40質量部以下、〔G〕の含有量が150質量部以上300質量部以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
〔A〕ビスフェノール型ジグリシジルエーテル化合物と、
〔B〕脂環式エポキシ化合物と、
〔C〕オキセタン化合物と、
〔D〕重量平均分子量が1000以上30000以下のエポキシ樹脂と、
〔E〕光カチオン重合開始剤と、
〔F〕シランカップリング剤と、
〔G〕シリカ粒子と、
を含有し、
前記〔A〕、〔B〕、〔C〕、〔D〕、〔E〕及び〔F〕の合計量100質量部に対して、前記〔B〕の含有量が20質量部以上50質量部以下、前記〔D〕の含有量が10質量部以上40質量部以下、前記〔G〕の含有量が150質量部以上300質量部以下である、紫外線硬化型の接着剤組成物。
【請求項2】
前記〔D〕の重量平均分子量が、2000以上20000以下である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
25℃における粘度が、5Pa・s以上170Pa・s以下である、請求項1又は請求項2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
実装基板と、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の接着剤組成物の硬化物を介して、前記実装基板上に実装された光学部品と、を備える光半導体デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、接着剤組成物及び光半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光源から出射されたレーザ光を平行光に変換、若しくは集光するレンズを備えるレーザモジュールが知られている。従来型のレーザモジュールでは、光学部品やレーザーチップ等を金属製筐体に収容し、半田材料によって実装基板に固定することにより、モジュール化を行っていた。一方で、金属製の筐体は、レーザモジュールの小型化及び低コスト化を実現する上で障害となる。更に、レーザモジュールの高機能化が進み、小型の筐体内に光学部品が高密度に実装される状況が進み、筐体の材質も金属筐体からプラスチック製筐体へ移行しつつある。そのため、これまでハーメチックシールされた環境下に存在したレーザモジュール構成部品が、大気に暴露されることとなり、レーザモジュール構成部品に耐湿性が求められる。一方で、レーザ光源(LDチップ等)を所定の実装基板に固定させる為に、実装段階において高い実装精度が求められる。
【0003】
光学部品を集積密度の高い実装基板上に実装させる場合には、一般的に紫外線硬化型の接着剤を用い、紫外線を照射させる事によって当該光学部品の仮固定を行い、その後加熱工程において、仮固定された光学部品の接着力をアップさせる実装手法が広く知られており、集積密度の高いレーザモジュール作製にも採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-117905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
集積度の高いレーザモジュールでは、当該モジュール内部に載置される光学部品同士を、近接した位置関係で光学部品の実装を行う必要があり、光部品同士が高密度に集積されている故、仮固定に必要な紫外線が当該接着剤に対して十分に照射されない状況にある。仮固定された接着剤に熱を付与し、実装基板との接着性を高めることも行われるが、熱を付与することにより、光学部品の実装位置が大きくずれてしまうことがある。また、従来は、金属製パッケージ内部にレーザモジュールが載置され、当該パッケージ全体を金属部品によって気密封止する技術が採用されているが、高価な金属部品を多用するため、低コスト化の妨げとなっている。この金属製パッケージに変わり、エンジニアリングプラスチック(例:ポリエーテルイミド)製のパッケージに変更する動向があり、気密性が保持されない状況下で、実装する光部品の固定強度を担保する必要が生じている。
【0006】
本開示は、高い接着力を有し、優れた実装性を発現する紫外線硬化型の接着剤組成物、及び、当該組成物を用いて得られる光半導体デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る紫外線硬化型の接着剤組成物は、〔A〕ビスフェノール型ジグリシジルエーテル化合物と、〔B〕脂環式エポキシ化合物と、〔C〕オキセタン化合物と、〔D〕重量平均分子量が1000以上30000以下のエポキシ樹脂と、〔E〕光カチオン重合開始剤と、〔F〕シランカップリング剤と、〔G〕シリカ粒子と、を含有し、上記〔A〕、〔B〕、〔C〕、〔D〕、〔E〕及び〔F〕の合計量100質量部に対して、〔B〕の含有量が20質量部以上50質量部以下、〔D〕の含有量が10質量部以上40質量部以下、〔G〕の含有量が150質量部以上300質量部以下である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、高い接着力を有し、優れた実装性を発現する紫外線硬化型の接着剤組成物、及び、当該組成物を用いて得られる光半導体デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、光送信モジュールの構成を示す図である。
図2図2は、実装精度の評価方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施形態の内容を列記して説明する。本開示の一態様に係る紫外線硬化型の接着剤組成物は、〔A〕ビスフェノール型ジグリシジルエーテル化合物と、〔B〕脂環式エポキシ化合物と、〔C〕オキセタン化合物と、〔D〕重量平均分子量が1000以上30000以下のエポキシ樹脂と、〔E〕光カチオン重合開始剤と、〔F〕シランカップリング剤と、〔G〕シリカ粒子と、を含有し、上記〔A〕、〔B〕、〔C〕、〔D〕、〔E〕及び〔F〕の合計量100質量部に対して、〔B〕の含有量が20質量部以上50質量部以下、〔D〕の含有量が10質量部以上40質量部以下、〔G〕の含有量が150質量部以上300質量部以下である。
【0011】
本実施形態に係る接着剤組成物は、上記構成を有することにより、高い接着力を有し、優れた実装性を発現することができる。
【0012】
接着剤組成物の硬化時に架橋密度を調整して、硬化歪みを抑制する観点から、〔D〕の重量平均分子量は、2000以上20000以下であってもよい。
【0013】
長期保存安定性の観点から、接着剤組成物の25℃における粘度は、5Pa・s以上170Pa・s以下であってもよい。
【0014】
本開示の一態様に係る光半導体デバイスは、実装基板と、上述の接着剤組成物の硬化物を介して、実装基板上に実装された光学部品と、を備える。本開示に係る接着剤組成物を、光学部品・電子部品群が高度に密集した状況で、所定箇所に光学部品をアクティブアライメントさせた場合にも、より少ない紫外線量によって、光学部品の仮固定に必要な硬化反応が進行し、追加的な紫外線照射又は熱硬化によって、当該光学部品が殆ど実装ズレを生じさせることなく、優れた光学特性を有する光通信デバイスを提供できる。
【0015】
[本開示の実施形態の詳細]
本実施形態に係る接着剤組成物及び光半導体デバイスの具体例を、必要により図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されず、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
(接着剤組成物)
本実施形態に係る接着剤組成物は、成分〔A〕~〔G〕を含有する紫外線硬化型の接着剤組成物である。以下、接着剤組成物が含有する各成分について詳述する。
【0017】
(1)成分〔A〕
成分〔A〕は、ビスフェノール型ジグリシジルエーテル化合物であり、ビスフェノール骨格及び2個のグリシジルエーテル基を有する。成分〔A〕により、光学部品の固定に必要な機械強度、耐久性等を接着剤組成物に付与することができる。
【0018】
成分〔A〕は、重量平均分子量(Mw)が1000未満である点において、少なくとも成分〔D〕と異なる。成分〔A〕のMwは、接着剤組成物の硬化性及び粘度の観点から、300以上900以下が好ましく、300以上500以下がより好ましい。本実施形態に係る各成分のMwは、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0019】
成分〔A〕としては、例えば、ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル、ビスフェノールF型ジグリシジルエーテル、ビスフェノールAD型ジグリシジルエーテル、及びビスフェノールS型ジグリシジルエーテルが挙げられる。成分〔A〕は、ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル又はビスフェノールF型ジグリシジルエーテルを含むことが好ましく、ビスフェノールA型ジグリシジルエーテルを含むことがより好ましい。
【0020】
成分〔A〕の市販品としては、例えば、新日鉄住金化学株式会社製のYD-115、YP-115CA、YD-127、YD-128、YDF-170、YDF-170N、YDF-2001、YDF-2004、YD-8125、YDF-8170C、YD-825GS、YD-870GS、YP-128;三菱ケミカル株式会社製のjER806、jER806H、jER807、jER825、jER827、jER828、jER1010;DIC株式会社製のEPCLON 830、830-S、835、840、840-S、850、850-Sが挙げられる。
【0021】
(2)成分〔B〕
成分〔B〕は、脂環構造とエポキシ基とを有する脂環式エポキシ化合物である。成分〔B〕は、接着剤組成物の希釈性モノマーとして機能する。本実施形態に係る成分〔B〕は、接着剤組成物の粘度を下げることができ、流動性を向上することができる。
【0022】
脂環式エポキシ化合物として、例えば、脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(脂環エポキシ基)を有する化合物、及び脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物が挙げられる。脂環エポキシ基を有する化合物としては、公知のものから選択して使用することができる。脂環エポキシ基としては、シクロヘキセンオキシド基が好ましい。
【0023】
本実施形態に係る脂環式エポキシ化合物は、接着剤組成物の硬化速度(高精度実装)及び耐湿性の点から、下記式(1)で表される化合物を含んでもよい。
【化1】
【0024】
式(1)中のXは、単結合、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)又は炭素数1~3のアルキレン基を示す。当該アルキレン基は、-CH-、-CH(CH)-又は-C(CH-を表わされる基であってもよい。
【0025】
本実施形態に係る脂環式エポキシ化合物は、接着剤組成物の硬化速度(高精度実装)の点から、下記式(2a)、(2b)、(2c)又は(2d)で表される化合物を含んでもよい。
【化2】
【0026】
式(1)で表される化合物としては、例えば、株式会社ダイセル製の商品名「セロキサイド8000」(3,4,3’,4’-ジエポキシビシクロヘキサン)が挙げられる。式(2a)、(2b)又は(2c)で表される化合物としては、例えば、株式会社ダイセル製の商品名「セロキサイド2021P」(3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)」、及び商品名「セロキサイド2081」(ε-カプロラクトン変性3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)」が挙げられる。また、式(2d)で表される化合物としては、例えば、サンケミカル株式会社の商品名「グレードTTA22(1,2-エポキシ-4-エポキシエチルシクロヘキサン)」が挙げられる。
【0027】
成分〔B〕は、Mwが1000未満である点において、少なくとも成分〔D〕と異なる。成分〔B〕のMwは、接着剤組成物の粘度を調整する観点から、800以下又は500以下であってもよく、100以上又は150以上であってもよい。成分〔B〕の粘度は、接着剤組成物の粘度を調整する観点から、25℃で0.05Pa・s以上1Pa・s以下が好ましい。
【0028】
(3)成分〔C〕
成分〔C〕は、オキセタン基を有するオキセタン化合物である。成分〔C〕は、接着剤組成物の希釈性モノマーとして機能する。本実施形態に係るオキセタン化合物は、接着剤組成物の粘度を下げて、流動性を向上することができる。オキセタン化合物は、成分〔B〕の脂環式エポキシ化合物に比べ、樹脂中への吸湿性を抑制できる。
【0029】
オキセタン化合物としては、例えば、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン(オキセタンアルコール)(例えば、東亞合成社製のOXT-101)、2-エチルヘキシルオキセタン(例えば、東亞合成社製のOXT-212)、キシリレンビスオキセタン(例えば、東亞合成社製OXT-121)、3-エチル-3{[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル}オキセタン(例えば、東亞合成社製のOXT-221)、オキセタニルシルセスキオキセタン(例えば、東亜合成社製のOXT-191)、フェノールノボラックオキセタン(例えば、東亜合成社製のPHOX)、及び3-エチル-3-フェノキシメチルオキセタン(POX:例えば、東亞合成社製のOXT-211)が挙げられる。
【0030】
オキセタン化合物は、下記式(3)又は(4)で表される化合物であってもよい。式(3)中、Rは、各々同じでも異なってもよく、水素原子、メチル基又はエチル基を示し、nは1~3である。式(4)中、RもR同様に、各々同じでも異なってもよく、水素原子、メチル基又はエチル基を示す。
【化3】

【化4】
【0031】
(4)成分〔D〕
成分〔D〕は、Mwが1000以上30000以下のエポキシ樹脂である。成分〔D〕として、成分〔A〕~〔C〕よりもMwの高いエポキシ樹脂を用いることで、接着剤組成物の紫外線照射時の硬化歪みの低減することができる。成分〔D〕は、成分〔A〕、成分〔B〕又は成分〔C〕を重合したプレポリマーであってもよく、入手性の観点から、成分〔A〕を重合したプレポリマー、又は、成分〔B〕を重合したプレポリマーであってもよい。成分〔D〕は、成分〔B〕との相溶性を高める観点から、脂環式エポキシ化合物に基づく構造を有するエポキシ樹脂を含むことが好ましく。成分〔B〕に基づく構造を有するエポキシ樹脂を含むことがより好ましい。
【0032】
成分〔D〕は、下記式(5a)、(5b)、(5c)、(5d)、又は(5e)で表される化合物に基づく構造単位を有するエポキシ樹脂を含んでもよい。式(5e)中、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基又はエトキシ基を示す。
【化5】
【0033】
成分〔D〕は、下記式(6a)又は(6b)で表される化合物に基づく構造単位を有するエポキシ樹脂を含んでもよい。
【化6】
【0034】
成分〔D〕のMwは、1000以上30000以下であり、接着剤組成物の硬化時に架橋密度を調整して、硬化歪みを抑制する観点から、2000以上、3000以上、又は4000以上であってもよく、他の成分との相溶性を高める観点から、20000以下、15000以下、又は10000以下であってもよい。
【0035】
(5)成分〔E〕
成分〔E〕は、光重合反応の開始物質である光カチオン重合開始剤である。本実施形態に係る光カチオン重合開始剤は、エネルギー線又は放射線の照射により酸を発生することが可能な化合物であれば特に限定されないが、好ましくは、エネルギー線の照射によってルイス酸を放出するオニウム塩である。オニウム塩は、陽イオンと陰イオンの塩であってよい。
【0036】
オニウム塩として、例えば、スルホニウム塩が挙げられる。陽イオンは、スルホニオ基を有する化合物であってよい。スルホニオ基を構成する硫黄原子は、芳香環に結合していることが好ましい。芳香環は、フッ素原子、エチレングリコール等によって置換されていてもよい。陽イオンとして、例えば、下記式(7a)及び(7b)で表される化合物が挙げられる。
【化7】
【0037】
成分〔E〕の陰イオンは、一般式:LM で表すことができる。Lは、金属又は半金属であり、B、P、As、Sb、Fe、Sn、Bi、Al、Ca、In、Ti、Zn、Sc、V、Cr、Mn、Co等の元素が挙げられる。Mは、ハロゲン原子であり、bは、3~7の整数である。
【0038】
陰イオンとして、感度及び入手容易性の点から、例えば、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラ(3,5-ジフルオロ-4-メトキシフェニル)ボレート、テトラフルオロボレート(BF )、ヘキサフルオロホスフェート(PF )、ヘキサフルオロアンチモネート(SbF )、ヘキサフルオロアルセネート(AsF )及びヘキサクロロアンチモネート(SbCl )が挙げられる。
【0039】
成分〔E〕としては、例えば、下記式(8a)、(8b)、(9a)及び(9b)で表される化合物が挙げられる。
【化8】

【化9】
【0040】
接着剤組成物を調製する際に、成分〔E〕と、成分〔A〕~〔D〕との相溶性を向上させる目的で、成分〔E〕をアセトニトリル、プロピレンカーボネート等に溶解して使用してもよい。
【0041】
(6)成分〔F〕
成分〔F〕は、基板等との接着性向上を目的として接着剤組成物に配合されるシランカップリング剤である。成分〔F〕としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、及び3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも1種のシランカップリング剤が好ましく、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランがより好ましい。
【0042】
(7)成分〔G〕
成分〔G〕は、シリカ粒子である。成分〔G〕は、樹脂成分との相溶性・反応性、及び充填率を考えて選択するのが好ましい。シリカ粒子は、その表面が有機物で表面修飾された疎水性シリカ成分で構成されてよい。成分〔G〕の形状は、本質的に球状であるものを採用することが好ましい。
【0043】
シリカ粒子の粒径は、シリカ粒子同士が凝集し難く、接着剤組成物を用いた硬化物が所望の機械特性を得られ易いことから、0.5μm以上であってよく、接着剤組成物の硬化物の厚みを調整して、高精度な光学部品へ実装し易いことから、10μm以下であってよい。
【0044】
各シリカ粒子の平均粒子径は、周知技術(レーザー回折法・レーザー散乱法)によって計測することができる。
【0045】
本実施形態に係る接着剤組成物は、成分〔A〕~〔G〕に加え、必要により、熱カチオン重合開始剤、充填剤、消泡剤、レベリング剤、溶剤等を含有してもよい。紫外線照射による応力低減の観点から、紫外線の照射後の接着剤組成物の硬化物を一定時間(例えば、30~120分間)、熱硬化(例えば、80~120℃)させてもよい。これにより、接着剤組成物の硬化物と基板又は光学部品との接着力が高まる場合もある。
【0046】
接着剤組成物中における成分〔A〕の含有量は、成分〔A〕、〔B〕、〔C〕、〔D〕、〔E〕及び〔F〕(以下、「成分〔A〕~〔F〕」と表記する。)の合計量100質量部に対して、接着剤組成物の硬化物の靱性を高める観点から、10質量部以上が好ましく、接着剤組成物のUV照射時の硬化速度を高める観点から、40質量部以下が好ましい。
【0047】
接着剤組成物中における成分〔B〕の含有量は、成分〔A〕~〔F〕の合計量100質量部に対して、20質量部以上50質量部以下である。成分〔B〕の含有量が20質量部より少ないと、硬化物のTgが低くなり、耐熱性が低下する傾向にある。成分〔B〕の含有量が50質量部を超えると、硬化物の吸湿性が高くなり、信頼性に影響を与える可能性がある。
【0048】
接着剤組成物中における成分〔C〕の含有量は、成分〔A〕~〔F〕の合計量100質量部に対して、10質量部以上30質量部以下が好ましい。成分〔C〕の含有量が10質量部以上であると、接着剤組成物の硬化後の耐湿性を向上し易くなる。成分〔C〕の含有量が30質量部以下であると、UV照射時の硬化速度が低下し難くなる。
【0049】
接着剤組成物中における成分〔D〕の含有量は、成分〔A〕~〔F〕100質量部とした場合、10質量部以上40質量部以下が好ましい。成分〔D〕の含有量が10質量部以上であると、UV照射時の硬化収縮を低減し難くなる。
【0050】
接着剤組成物中の成分〔E〕の含有量は、成分〔A〕~〔F〕の合計量100質量部に対して、0.1質量部以上0.5質量部以下が好ましい。成分〔E〕が0.1質量部以上であると、カチオン重合反応が進行し易くなり、紫外線の照射時間を短くすることができるため、生産性を向上することができる。成分〔E〕が0.5質量部以下であると、紫外線の照射時の副生成物に由来するアウトガスの発生を抑制することができる。
【0051】
接着剤組成物中の成分〔F〕の含有量は、成分〔A〕~〔F〕の合計量100質量部に対して、0.5質量部以上1.0質量部以下が好ましい。成分〔F〕が0.5質量部以上であると、光学部品を実装基板に固定する際の接着力を高め易くなる。成分〔F〕が1.0質量部以下であると、成分〔F〕同士の凝集による硬化阻害を抑制し易くなる。
【0052】
接着剤組成物中の成分〔G〕の含有量は、成分〔A〕~〔F〕の合計量100質量部に対して、150質量部以上300質量部以下である。成分〔G〕の含有量が150質量部より少ないと、硬化物の機械特性が(例:線膨張係数)不十分なものとなり、当該接着剤組成物を用いた光半導体デバイスが、所望の光学性能(例:光出力)を発揮し難くなる。成分〔G〕の含有量が300質量部より多いと、十分な接着力が得られず、高温高湿下に長期間放置する試験で接着強度が低下する傾向にある。
【0053】
本実施形態に係る接着剤組成物は、長期保存安定性の観点から、常温下(25℃)における粘度(樹脂粘度)が、5Pa・s以上170Pa・s以下であることが好ましく、10Pa・s以上160Pa・s以下であることがより好ましく、15Pa・s以上150Pa・s以下であることが更に好ましい。接着剤組成物の粘度は、粘度計(例えば、東機産業社製のTV-22型粘度計)を用いて測定することができる。本実施形態の接着剤組成物は、前述の各成分を含有し、上記の様な粘度を有することによってチキソ性(構造粘性)を示す。接着剤組成物のチキソ係数は、塗布時における接着組成物の形態安定性の観点から、1.0~3.0であることが好ましい。
【0054】
光学部品が、紫外線照射により硬化する接着剤を介して、実装基板上の所定箇所に略ズレなく固定されるためには、紫外線照射時に接着剤の硬化収縮により、光学部品と接着剤との接触面で発生する応力が不均一化しないことが重要であり、応力の不均一化を防ぐため、光学部品底面を接着剤で隙間なく均一に濡らすことが重要となる。また、複数の光学部品を取り扱う場合、後から実装を行う光学部品は、先に実装された光学部品が存在することで、一種の遮蔽効果をもたらし、後に実装される光学部品の仮固定に必要な接着強度を得ることができず、実装精度が悪化する虞がある。弱い紫外線でも高い実装精度を得るには、弱い光でも所定の実装位置で樹脂固定できる実装性能、つまり高い硬化速度を有する接着剤が必須となる。
【0055】
前述の実装精度に加えて、金属製筐体からプラスチック製筐体への移行に伴い、光学部品を固定していた接着剤にも耐湿性が要求されることになる。すなわち、当該接着剤が高温高湿環境下に暴露されることで、例えば加水分解性の高い樹脂成分を使用することで、実装されている光学部品が外れてしまう可能性がある。また、加水分解性に至らずとも、吸湿性の高い樹脂成分を使用することで、接着剤が膨潤して光学部品の固定精度が低下する可能性がある。
【0056】
これに対して、本実施形態に係る接着剤組成物は、成分〔A〕~〔F〕で構成されるベース樹脂に、成分〔G〕を高充填させることで、紫外線照射時でも高い実装精度を有しつつ、高温高湿下でも高い耐久性を有することができる。
【0057】
(光半導体デバイス)
本実施形態に係る光半導体デバイスは、実装基板と、上記接着剤組成物の硬化物を介して実装基板上に実装された光学部品と、を備えるものである。本開示に係る接着剤組成物は、光送受信デバイス内に実装される光学部品群を所定の基板上に高精度に固定する際、好適に使用される。
【0058】
光半導体デバイスは、具体的には次のようにして作製される。まず、実装基板を準備し、実装基板の所定の位置に対し、接着面に接着剤組成物を塗布した光学部品を載置する。次いで、低照度の紫外線(例えば、50mW/cm)を一定時間(例えば、20秒間)照射し、光学部品の仮固定を行う。次に、高照度の紫外線(例えば、400mW/cm)を一定時間(例えば、60秒間)照射し、光学部品の本固定を行う。最後に、紫外線照射による熱歪を解放させ、実装基板と接着剤組成物との接着強度を向上させるべく、所定の熱硬化(例えば、付与温度120℃で放置時間は1時間)を行う。
【0059】
これにより、実装基板と、紫外線硬化による接着剤組成物の硬化物によって実装基板上に実装された光学部品と、を備える光半導体デバイスを得ることができる。なお、実装基板としては、窒化アルミ、アルミナ、合金類(例:Kovar)、石英、シリコン、ポリエーテルイミド等が挙げられる。また、光半導体デバイスとしては、TOSA(Transmitter Optical Sub-assembly)、ROSA(Reciver Optical Sub-assembly)等の光送受信モジュールが挙げられる。
【0060】
図1は、光送信モジュール1の構成を示す図であり、光送信モジュール1である集積TOSAのふたを取った状態の内部の部品配置を上から見た図である。光送信モジュール1は、パッケージ2と、実装基板3と、回路部4と、光出射部5と、光合波部6と、を備える。パッケージ2は、パッケージ2の内側に、実装基板3と回路部4と光出射部5と光合波部6とを収容する。実装基板3と回路部4とは、基準軸Axの方向に沿って、設けられている。基準軸Axは、実装基板3の実装面3aに平行に延びている。基準軸Axは、実装基板3の端部1a(第1の端部)から実装基板3の端部1b(第2の端部)に延びている。光出射部5と光合波部6とは、実装面3aに設けられている。光出射部5と光合波部6とは、基準軸Axに沿って、設けられている。光出射部5は、実装基板3の端部1bの側に設けられている。光合波部6は、実装基板3の端部1aの側に設けられている。図1に、x軸、y軸、z軸を備える直交座標系OSが記載されている。基準軸Axは、x軸に平行である。実装面3aは、xy面に沿って延びている。
【0061】
実装基板3の上に光学部品として、光源71,72,73,74(71~74)、光反射板8、波長選択フィルタ91,92、偏波回転部品10、光サブアセンブリ11が搭載されている。これらの光学部品は、接着剤組成物を用いて、実装基板3上に固定される。光出射部5は、光源71~74と、光反射板8と、波長選択フィルタ91,92と、偏波回転部品10とを備える。光源71~74と、光反射板8と、波長選択フィルタ91,92と、偏波回転部品10とは、実装面3aに設けられている。実装面3aは、溝M1~M3を備える。溝M1は、波長選択フィルタ91、及び、波長選択フィルタ92に、ほぼ接している。溝M2は、偏波回転部品10、及び、光反射板8に、ほぼ接している。溝M3は、光サブアセンブリ11、及び、偏波回転部品10に、ほぼ接している。光源71~74は、実装基板3の端部1bの側(回路部4の側)に設けられている。偏波回転部品10は、実装基板3の端部1aの側(光合波部6の側)に設けられている。光反射板8と、波長選択フィルタ91,92とは、光源71~74と、偏波回転部品10との間に設けられている。光合波部6は、光サブアセンブリ11を備える。光サブアセンブリ11は、偏波回転部品10とスリーブ12との間に設けられている。
【実施例0062】
以下、本開示に係る実施例及び比較例を用いた評価試験の結果を示し、本開示を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0063】
[接着剤組成物の調製]
以下の各成分を、表1に示す配合量(質量部)で混合して、実施例の接着剤組成物を調製し、表2に示す配合量(質量部)で混合して、比較例の接着剤組成物を調製した。
成分〔A〕:ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル(Mw≒382.6)
成分〔B1〕:3,4-エポキシシクロヘキセニルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカーボネート(Mw≒252.3)
成分〔B2〕:1,2-エポキシ-4-エポキシエチルシクロヘキサン(Mw≒140.18)
成分〔C〕:3-エチル-3-オキセタンメタノール
成分〔D1〕:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(Mw≒5000)
成分〔D2〕:2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物(Mw≒5000)
成分〔E〕:ビス〔4-(ジフェニルスルホニオ)フェニル〕スルフィドヘキサフルオロアンチモネート
成分〔F〕:3-グリシドプロピルトリメトキシシロキサン
成分〔G〕:疎水性シリカ粒子(平均粒径≒4.5μm)
【0064】
[評価]
各実施例及び比較例で得られた接着剤組成物に対し、以下の評価を行った。結果を表1及び2に示す。
【0065】
(1)接着剤組成物の粘度
接着剤組成物を冷凍環境下に24時間放置した後、TV-22型粘度計(東機産業株式会社製)を用い、接着剤組成物の25℃における粘度(Pa・s)をロータ回転数5rpmで測定した。
【0066】
(2)光軸変位量
図2は、実装精度の評価方法を示す模式図である。実装基板30上の位置決めマークに対し、光源(例:半導体レーザー)70を載置して半田等で固定した。そして、実装基板30上に実装するコリメートレンズ20の集光点を考慮にいれ、光源70の光出射方向であって、光源70から所定の箇所に一定量の接着剤組成物100を塗布した。その後、プローブ等を光源70に接触させ、微弱な電流を流した状態で、コリメートレンズ20を調芯設備で把持し、光学レンズを塗布した接着剤組成物上で位置を調整した。この際、レーザ光源の出射端面近傍に配置されている非球面レンズは、レーザ光源から出射されたレーザ光を平行光に変換し、平行光に変換されたレーザ光を一定距離空間中飛ばし、所定の近赤外CCDカメラ(C3077-80/浜松ホトニクス株式会社製)40に導いた。近赤外CCDカメラ40を介して得られる紫外線照射時における平行光の変化量から、コリメートレンズ20の変位量を換算した。なお、変位量の換算にあたっては、紫外線照射による接着剤組成物100の固定に先立ち、所定の調芯装置を用いてレンズを操作・移動させ、カメラに表示されるコリメート光中心部の変位量を読み取った。この読み取り値の換算量から、紫外線照射後におけるレンズの変位量(μm)を算出した。光軸変位量は、調芯時とUV照射後(固定後)とにおける、平行光の像の中心位置の変位量である。光軸変位量が小さいほど、実装精度がよい。
【0067】
(3)接着力
所定の実装基板(例:アルミナ)上に一定量の接着剤組成物(80~100μg)を塗布した後、調心装置(福興システム株式会社製)を用いて、光学部品(1.0×1.0×0.6mm形状のコリメートレンズ/アルプス電気株式会社製)の底面部(1.0×0.6mm)と実装基板とを接触させた後、紫外線を照射し、オフライン下で熱硬化を行い、評価用のサンプルを作製した。次に、当該サンプルを所定のダイシアテスタ(XYZTEC製/CondorEZシリーズ)を使用して、実装基板上に固定された光学部品に、光学部品の側方から力をかけた。光学部品が実装基板から剥がれたときの力の大きさを、接着剤組成物の硬化物の破壊強度(kg)として、温度25±2℃、湿度50±10%の雰囲気下で計測した。計測値の平均値をもって、接着剤組成物の接着力とした。
【0068】
(4)耐湿性
(3)で作製した評価用のサンプルを高温高湿(85℃、85%)環境下で500時間保管した後、シア強度(接着力)を測定した。高温高湿下で保管したサンプルのシア強度を、高温高湿下で保管していないサンプルのシア強度で除した値を、強度保持率(%)と定義した。シア強度の測定方法は、(3)に準じた。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【符号の説明】
【0071】
1 光送信モジュール
10 偏波回転部品
11 光サブアセンブリ
111,91a,92a 入射面
112,91b,92b 出射面
11a ガラスブロック、
11b,91,92 波長選択フィルタ
11c 光反射膜
12 スリーブ
12a アイソレータ
12b 光学レンズ
12c フェルール
1a,1b 端部
2 パッケージ
20 コリメートレンズ
3,30 実装基板
3a 実装面
4 回路部
40 近赤外CCDカメラ
5 光出射部
6 光合波部
70,71,72,73,74 光源
71a,72a,73a,74a 光源装置
71b,72b,73b,74b 光学レンズ
8 光反射板
8a 反射面
911,921 フィルタガラス
912,922 WDMフィルタ
91a1,91a2,91b1,91b2,92a1,92a2,92b1,92b2 端
91c,91d,92c,92d 側面
100 接着剤組成物
Ax 基準軸
F ファイバ
L1a,L1b,L2a,L2b,L2c,L3a,L3b,L4a,L4b,L5 光路
M1,M2,M3 溝
OS 直交座標系
S1a,S1b,S2a,S2b,S2c,S3a,S4a,S5 光信号
図1
図2