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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069059
(43)【公開日】2022-05-11
(54)【発明の名称】異常判定システムおよび異常判定方法
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20220428BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
G06T7/00 350B
G06T7/00 610C
G06T1/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020178009
(22)【出願日】2020-10-23
(71)【出願人】
【識別番号】599133026
【氏名又は名称】株式会社的
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】特許業務法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢農 正紀
(72)【発明者】
【氏名】大木 康寛
(72)【発明者】
【氏名】松本 良太
(72)【発明者】
【氏名】北泉 信洋
(72)【発明者】
【氏名】三田 聡
【テーマコード(参考)】
5B057
5L096
【Fターム(参考)】
5B057BA02
5B057CA08
5B057CA12
5B057CA16
5B057CB08
5B057CB12
5B057CB16
5B057CE04
5B057DA03
5B057DB02
5B057DB09
5B057DC32
5B057DC40
5L096BA03
5L096CA02
5L096HA01
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】検査対象の物体における異常の有無を適切に判定することができる異常判定システムおよび異常判定方法を提供する。
【解決手段】異常判定システムは、検査対象の物体が撮像された元画像G0に対して特異値分解による低ランク近似を実行して入力画像G1を生成する画像処理部と、機械学習の結果に基づいて、入力画像から低ランク近似が実行される前の画像を推定し、推定結果の画像G2を生成する画像生成部4と、検査対象の物体の異常を判定するためのデータとして、少なくとも推定結果の画像を提供するデータ提供部と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象の物体が撮像された元画像に対して特異値分解による低ランク近似を実行して入力画像を生成する画像処理部と、
機械学習の結果に基づいて、前記入力画像から前記低ランク近似が実行される前の画像を推定し、推定結果の画像を生成する画像生成部と、
前記検査対象の物体の異常を判定するためのデータとして、少なくとも前記推定結果の画像を提供するデータ提供部と、
を備えることを特徴とする異常判定システム。
【請求項2】
更に、前記元画像と前記推定結果の画像との差異に基づいて前記検査対象の物体における異常の有無を判定する判定部を備え、
前記データ提供部は、前記判定部に対して前記元画像および前記推定結果の画像を提供する
請求項1に記載の異常判定システム。
【請求項3】
前記画像生成部は、正常である前記検査対象の物体を撮像した第一画像を正解データとし、前記第一画像に対して前記低ランク近似を実行して生成された第二画像を入力データとした機械学習によって生成される
請求項1または2に記載の異常判定システム。
【請求項4】
検査対象の物体が撮像された元画像に対して特異値分解による低ランク近似を実行して入力画像を生成するステップと、
機械学習の結果に基づいて、前記入力画像から前記低ランク近似が実行される前の画像を推定し、推定結果の画像を生成するステップと、
前記推定結果の画像に基づいて前記検査対象の物体における異常の有無を判定するステップと、
を含むことを特徴とする異常判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常判定システムおよび異常判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、異常を判定するシステムや方法がある。特許文献1には、正常か異常かが未知の第4のデータをニューラルネットワークに入力し、第4のデータが正常か異常かを判定する、ニューラルネットワークを用いた異常検知方法の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-61577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
検査対象の物体を撮像した画像に基づいて、適切に異常の判定を行える技術が望まれている。例えば、検査対象の物体における局所的な異常の有無を判定できることが好ましい。
【0005】
本発明の目的は、検査対象の物体における異常の有無を適切に判定することができる異常判定システムおよび異常判定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の異常判定システムは、検査対象の物体が撮像された元画像に対して特異値分解による低ランク近似を実行して入力画像を生成する画像処理部と、機械学習の結果に基づいて、前記入力画像から前記低ランク近似が実行される前の画像を推定し、推定結果の画像を生成する画像生成部と、前記検査対象の物体の異常を判定するためのデータとして、少なくとも前記推定結果の画像を提供するデータ提供部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る異常判定システムは、検査対象の物体の異常を判定するためのデータとして、少なくとも推定結果の画像を提供するデータ提供部を有する。検査対象の物体が正常である場合、再現度の高い推定結果の画像が得られる。一方、検査対象の物体に異常が存在する場合、推定結果の画像における再現度が低くなる。本発明に係る異常判定システムによれば、検査対象の物体における異常の有無を適切に判定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係る異常判定システムのブロック図である。
図2図2は、実施形態における画像処理の流れを示す図である。
図3図3は、検査対象の物体に異常が存在する場合に生成される画像の一例を示す図である。
図4図4は、実施例の機械学習について説明する図である。
図5図5は、実施例の評価用データを示す図である。
図6図6は、実施例のテストデータおよび結果画像を示す図である。
図7図7は、第三テストデータについての元画像、入力画像、および推定結果の画像を示す図である。
図8図8は、第一テストデータおよび第三テストデータを示す図である。
図9図9は、第五結果画像および第六結果画像を示す図である。
図10図10は、画像の分割方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態に係る異常判定システムおよび異常判定方法につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0010】
[実施形態]
図1から図10を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、異常判定システムおよび異常判定方法に関する。図1は、実施形態に係る異常判定システムのブロック図、図2は、実施形態における画像処理の流れを示す図、図3は、検査対象の物体に異常が存在する場合に生成される画像の一例を示す図、図4は、実施例の機械学習について説明する図、図5は、実施例の評価用データを示す図、図6は、実施例のテストデータおよび結果画像を示す図、図7は、第三テストデータについての元画像、入力画像、および推定結果の画像を示す図、図8は、第一テストデータおよび第三テストデータを示す図、図9は、第五結果画像および第六結果画像を示す図、図10は、画像の分割方法の一例を示す図である。
【0011】
図1に示すように、本実施形態に係る異常判定システム1は、異常判定装置10を有する。異常判定装置10は、取得部2、画像処理部3、画像生成部4、データ提供部5、判定部6、および出力部7を有する。異常判定装置10は、カメラ20により撮像された画像に基づいて、検査対象の物体における異常の有無を判定する。検査対象の物体は、例えば、工業製品である。異常判定装置10は、例えば、製品を製造する工場の検査工程に配置される。本実施形態では、検査対象の物体がワイヤハーネスWHである場合について異常判定システム1の説明を行なう。
【0012】
カメラ20は、検査対象の物体を撮像して元画像G0を生成する。元画像G0は、検査対象の物体の全体または検査対象の物体の一部が撮像された画像である。カメラ20は、例えば、RGBの三色を有するカラー画像を生成する。
【0013】
本実施形態に係る異常判定システム1の概要について、図2を参照して説明する。図2には、元画像G0、入力画像G1、および推定結果の画像G2が示されている。元画像G0は、検査対象の物体が撮像された画像であり、カメラ20によって生成される。入力画像G1は、元画像G0に対して特異値分解による低ランク近似がなされて生成される画像である。つまり、入力画像G1は、特異値分解でぼかされた画像である。
【0014】
推定結果の画像G2は、人工知能が入力画像G1に基づいて生成する画像である。人工知能である画像生成部4は、機械学習の結果に基づいて、低ランク近似が実行される前の画像を推定し、推定結果の画像G2を生成する。言い換えると、画像生成部4は、入力画像G1に基づいて、低ランク近似が実行される前の画像を復元する。異常判定システム1では、元画像G0および推定結果の画像G2に基づいて検査対象の物体に異常が存在するか否かが判定される。
【0015】
元画像G0と推定結果の画像G2との間の差異が大きい場合、検査対象の物体に異常が存在すると判定される。一方、元画像G0と推定結果の画像G2との間の差異が小さい場合、検査対象の物体に異常が存在しないと判定される。
【0016】
図3の元画像G0では、検査対象の物体であるワイヤハーネスWHに異常が存在する。具体的には、電線W1の被覆の色が正常な電線W0(図2参照)の色とは異なる。つまり、コネクタ30に対して誤った電線W1が接続されている。この場合、図3に示すように、推定結果の画像G2にノイズが生じる。例えば、推定結果の画像G2において、右下の領域A4に乱れが生じている。推定結果の画像G2にノイズが生じていることで、ワイヤハーネスWHに異常が存在すると判定することができる。本実施形態に係る異常判定システム1によれば、検査対象の物体における異常の有無を適切に判定することができる。
【0017】
異常判定システム1の詳細について説明する。図1に示す異常判定装置10は、例えば、メモリ、演算装置、通信インタフェース等を有するコンピュータによって構成されている。取得部2は、通信インタフェースを介してカメラ20によって生成された元画像G0を取得する。取得部2は、カメラ20との通信によって元画像G0を取得してもよく、サーバ等に記録された元画像G0を取得してもよい。取得部2が取得した元画像G0は、メモリ等に記憶される。
【0018】
画像処理部3は、元画像G0に対して特異値分解による低ランク近似を実行して入力画像G1を生成する。画像処理部3は、下記[数1]に示すように、元画像G0の行列Aを三つの行列に分解する。
【数1】
【0019】
[数1]の行列Sは、対角成分の値が特異値σ、σ、…、σであり、かつ対角成分以外の要素の値が0である行列である。特異値σ(i=1,2,…,r)は、σ≧σ≧…≧σの関係を満たす。画像処理部3は、整数q(但し、q<r)を設定し、σq+1以降の特異値σを0にする低ランク近似を行う。なお、画像処理部3は、画像の解像度を落とさずに近似を行なう。整数qの値は、入力画像G1を画素単位で見たときに、色や輝度のばらついている箇所が残るように定められる。後述する実施例では、q=1である。ただし、qの値は、1には限定されない。qの値は、例えば、1以上5以下の範囲から選択されてもよい。本願の発明者は、qの値が4または5の場合であってもq=1の場合と同様に異常の有無を判定できることを確認した。
【0020】
画像生成部4は、入力画像G1から低ランク近似が実行される前の画像を推定し、推定結果の画像G2を生成する。画像生成部4は、図4を参照して説明する機械学習により生成される。図4には、第一画像T1および第二画像T2が示されている。第一画像T1は、正常であるワイヤハーネスWHを撮像した画像である。第二画像T2は、第一画像T1に対して低ランク近似を実行して生成された画像である。
【0021】
画像生成部4は、第二画像T2を入力データとし、第一画像T1を正解データとした機械学習によって生成される。使用される機械学習の手法は、例えば、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)である。画像生成部4は、第二画像T2に基づいて第一画像T1を推定できるように、第一画像T1および第二画像T2の組を教師データとして機械学習を行う。
【0022】
データ提供部5は、検査対象の物体の異常を判定するためのデータを提供する。より詳しくは、データ提供部5は、少なくとも推定結果の画像G2を提供する。本実施形態のデータ提供部5は、判定部6に対して、元画像G0と推定結果の画像G2とを組み合わせたデータセットを提供する。なお、データ提供部5は、異常を判定するためのデータを外部の機器に提供してもよい。データ提供部5は、例えば、モニタ50にデータを提供する。モニタ50は、提供されたデータの画像を表示する。データ提供部5は、元画像G0および推定結果の画像G2の両方をモニタ50に提供してもよく、推定結果の画像G2のみをモニタ50に提供してもよい。作業者は、モニタ50に表示された画像に基づいて異常判定を行なう。
【0023】
判定部6は、元画像G0と推定結果の画像G2との差異に基づいて検査対象の物体における異常の有無を判定する。本実施形態の判定部6は、ピーク信号対雑音比(PSNR:Peak Signal-to-Noise Ratio)を評価指標として、異常の有無を判定する。判定部6は、元画像G0を原画像とし、推定結果の画像G2を変換後の画像として、PSNRの値を算出する。PSNRの値は、元画像G0に対する推定結果の画像G2の再現性の高さを示す。判定部6は、例えば、PSNRの値が閾値未満である場合に元画像G0に撮像されている検査対象の物体に異常が存在すると判定する。判定部6は、判定結果を出力部7に提供する。
【0024】
出力部7は、判定部6による判定結果を出力する。異常判定装置10は、例えば、モニタ50に判定結果を表示する。異常判定装置10は、ランプや音声等によって判定結果を通知してもよい。
【0025】
[実施例]
実施例について説明する。実施例では、評価用データおよびテストデータを使用して、判定部6が異常の有無を適切に判定できるかを検証した。実施例において、各画像の解像度は、256画素×256画素である。学習用の第一画像T1および第二画像T2の解像度も同じである。実施例の画像生成部4は、100枚の第一画像T1および100枚の第二画像T2を教師データとして機械学習を行なって生成された。
【0026】
図5には、評価用のデータVDが示されている。評価用のデータVDは、正常であるワイヤハーネスWHを撮像した画像であって、かつ画像生成部4の教師データに使用されていない画像である。評価用のデータVDは、学習用の第一画像T1を撮像したときと同様の条件において撮像された画像である。なお、同様の条件において撮像された複数の画像から無作為に抽出した一部の画像を第一画像T1とし、他の一部の画像を評価用のデータVDとしてもよい。実施例では、互いに異なる20枚の評価用データVDを元画像G0として20枚の入力画像G1を生成した。画像生成部4は、20枚の入力画像G1から20枚の推定結果の画像G2を生成する。よって、元画像G0と推定結果の画像G2との組合せが20個得られる。判定部6は、20組の元画像G0および推定画像G2のそれぞれの組について、PSNRの値を算出した。その結果、評価用データにおいて、PSNRの最大値が21.15[dB]であり、最小値が19.30[dB]であった。
【0027】
図6に示すように、テストデータは、第一テストデータD1、第二テストデータD2、第三テストデータD3、および第四テストデータD4を有する。各テストデータD1,D2,D3,D4は、教師データとして撮像されたワイヤハーネスWHと同じワイヤハーネスWHを撮像して生成される。
【0028】
第一テストデータD1は、教師データの第一画像T1と同様にして撮像された画像である。つまり、第一テストデータD1は、評価用データVDと同様の画像データである。第二テストデータD2は、コネクタ30を裏返してワイヤハーネスWHを撮像した画像である。言い換えると、第二テストデータD2は、コネクタ30を裏面側から撮像した画像である。
【0029】
第三テストデータD3は、ワイヤハーネスWHにおけるコネクタ30とは反対側の端部を撮像した画像である。ワイヤハーネスWHは、電線Wと、電線Wの一端に接続されたコネクタ30と、電線Wの他端に接続されたコネクタ40と、を有する。第二テストデータD2には、コネクタ40における表側の面が撮像されている。第四テストデータD4は、コネクタ40を裏返してワイヤハーネスWHを撮像した画像である。つまり、第四テストデータD4は、コネクタ40を裏面側から撮像した画像である。
【0030】
実施例では、各テストデータD1,D2,D3,D4を20枚ずつ用いて、PSNRが算出された。例えば、20枚の第一テストデータD1を元画像G0として入力画像G1が生成される。そして、20枚の入力画像G1に基づいて、画像生成部4によって20枚の推定結果の画像G2が生成される。図6には、第一結果画像R1、第二結果画像R2、第三結果画像R3、および第四結果画像R4が示されている。第一結果画像R1は、第一テストデータD1に対応する推定結果の画像G2である。同様に結果画像R2,R3,R4は、テストデータD2,D3,D4に対応する推定結果の画像G2である。
【0031】
判定部6は、20組の第一テストデータD1および第一結果画像R1についてPSNRを算出する。同様に、テストデータD2,D3,D4についても、それぞれ20個のPSNRの値が算出される。
【0032】
第一テストデータD1について、PSNRの最大値が21.01[dB]であり、最小値が19.32[dB]であった。評価用データに対するPSNRの値と同様の値である。テストデータD2,D3,D4について、PSNRの最大値が19.17[dB]であり、最小値が17.64[dB]であった。つまり、評価用データおよび第一テストデータD1に対するPSNRの値の分布範囲(19.30~21.15)と、テストデータD2,D3,D4に対するPSNRの値の分布範囲(17.64~19.17)とが不連続である。従って、判定部6は、正常であるワイヤハーネスWHが撮像された画像と、異常を有するワイヤハーネスWHが撮像された画像とを区別することができる。
【0033】
図7には、第三テストデータD3の一つについて、元画像G0、入力画像G1、および推定結果の画像G2が示されている。推定結果の画像G2では、画像全体に乱れが生じている。つまり、推定結果の画像G2には、目視によって明確に異常が判別できるほどのノイズが生じている。このデータでは、PSNRの値が18.27[dB]であった。
【0034】
上記のような異常検出は、例えば、ワイヤハーネスWHの差し込み間違いの検出に適用可能である。例えば、コネクタ30が裏返された状態で相手方の装置に接続された場合には、第二テストデータD2と同様の画像がカメラ20によって撮像される。また、コネクタ30が接続されるべき箇所にコネクタ40が接続された場合、第三テストデータD3または第四テストデータD4と同様の画像がカメラ20によって撮像される。
【0035】
テストデータD2,D3,D4の画像では、第一テストデータD1の画像と比較して、局所的な異常が各部で生じている。図8には、第一テストデータD1の画像および第三テストデータD3の画像が示されている。図8から分かるように、第三テストデータD3の画像において、各電線の位置や色が第一テストデータD1の画像における各電線の位置や色と異なっている。言い換えると、第三テストデータD3の画像は、複数の局所的な異常を含んだ画像である。よって、画像生成部4は第三テストデータD3の画像を正確に復元できず、図7に示すように推定結果の画像G2に発生するノイズが大きくなる。
【0036】
このように、本実施形態の異常判定装置10は、局所的な異常を有する物体を撮像した画像に基づいて、異常を有する物体であることを判定することができる。第二テストデータD2および第四テストデータD4についても同様に局所的な異常を有する物体を精度よく判定することができる。従って、異常判定装置10は、コネクタ30,40の誤接続を精度よく検出することができる。つまり、異常判定装置10は、ワイヤハーネスWHにおける局所的な異常の有無を適切に判定することができる。
【0037】
次に、コネクタ30の近傍における一部分の異常を判定する例について説明する。上記のように、図3の元画像G0は、電線W1の被覆の色が正常な電線W0(図2参照)の色とは異なる。電線W0の色は緑色であり、電線W1の色は黄色である。図3のワイヤハーネスWHにおいて、電線W1以外の電線は、正常な電線である。つまり、図3のワイヤハーネスWHには、一本の電線W1が本来の電線W0とは異なるという局所的な異常が存在する。この場合、図3に示すように、推定結果の画像G2には、一瞥して認識できるノイズが発生する。よって、元画像G0と推定結果の画像G2との差異に基づいて局所的な異常の判定が可能である。
【0038】
図9には、第五結果画像R5および第六結果画像R6が示されている。第五結果画像R5は、図2に示す推定結果の画像G2であり、第六結果画像R6は、図3に示す推定結果の画像G2である。第六結果画像R6では、電線の形状が乱れており、特に、右下の領域A4において電線の形状の乱れが顕著である。図9に示す第六結果画像R6と、図7に示す第三結果画像R3とを比較すると、第三結果画像R3では乱れの生じている範囲が広い。第三結果画像R3では、画像の全体が乱れており、ノイズが大きいと考えられる。このため、第六結果画像R6では、第三結果画像R3と比較してPSNRの値が大きくなり、PSNRに基づく異常検出の精度が低下する可能性がある。
【0039】
元画像G0および推定結果の画像G2に基づく異常の判定は、例えば、作業者の目視により実行されてもよい。この場合、異常判定装置10は、作業者に対して元画像G0および推定結果の画像G2を組み合わせたデータセットを提供する。提供される元画像G0および推定結果の画像G2は、例えば、モニタ50に並べて表示される。作業者は、元画像G0および推定結果の画像G2を見比べて異常の有無を判定する。
【0040】
異常判定装置10は、PSNRの値が所定の範囲である場合に、作業者による最終判定を求めてもよい。異常判定装置10は、例えば、PSNRの値が異常と判定する閾値よりも高く、かつ正常と判定できる基準値よりも低い場合に、作業者に対して目視による判定を求めてもよい。このようにすることで、判定作業に関する作業者の負担が軽減される。基準値は、例えば、複数の評価用データから得られたPSNRの値の分布に基づいて統計的に定められる。基準値は、評価用データから得られたPSNRの値の中間値や平均値とされてもよい。
【0041】
なお、異常判定装置10は、画像の領域毎にPSNRを算出してもよい。例えば、図9に示す第六結果画像R6では、第四象限に当たる右下の領域A4において画像の乱れが顕著である。この領域は、異常である電線W1が撮像された領域である。つまり、局所的な異常が存在する場合、その異常が撮像された領域においてノイズが大きくなると考えられる。
【0042】
異常判定装置10は、推定結果の画像G2を複数の領域に分割して異常判定を行なってもよい。例えば、推定結果の画像G2は、図10に示すように四つの領域A1,A2,A3,A4に分割される。分割線は、例えば、画像縦方向の中間線、および画像横方向の中間線である。元画像G0についても同様に四つの領域に分割される。判定部6は、各領域A1,A2,A3,A4について、元画像G0の対応する領域と比較してPSNRの値を算出する。判定部6は、例えば、算出される四つのPSNRの値のうち、少なくとも一つの値が閾値未満である場合に検査対象の物体に異常があると判定する。
【0043】
以上説明したように、本実施形態に係る異常判定システム1は、画像処理部3と、画像生成部4と、データ提供部5と、を有する。画像処理部3は、検査対象の物体が撮像された元画像G0に対して特異値分解による低ランク近似を実行して入力画像G1を生成する。画像生成部4は、機械学習の結果に基づいて、入力画像G1から低ランク近似が実行される前の画像を推定し、推定結果の画像G2を生成する。データ提供部5は、検査対象の物体の異常を判定するためのデータとして、少なくとも推定結果の画像G2を提供する。本実施形態の異常判定システム1によれば、推定結果の画像G2に基づいて適切に検査対象の物体の異常を判定することができる。
【0044】
本実施形態の異常判定システム1は、更に、判定部6を有する。判定部6は、元画像G0と推定結果の画像G2との差異に基づいて検査対象の物体における異常の有無を判定する。データ提供部5は、判定部6に対して元画像G0および推定結果の画像G2を提供する。元画像G0と推定結果の画像G2との差異を示す指標は、例えば、PSNRであるが、これには限定されない。本実施形態の異常判定システム1によれば、判定部6によって自動的に異常の判定を行なうことが可能である。判定部6は、検査対象の物体における局所的な異常の有無を判定することができる。
【0045】
本実施形態の画像生成部4は、第一画像T1を正解データとし、第二画像T2を入力データとした機械学習によって生成される。第一画像T1は、正常である検査対象の物体を撮像した画像である。第二画像T2は、第一画像T1に対して低ランク近似を実行して生成された画像である。よって、画像生成部4は、正常である検査対象の物体に関して、入力画像G1から低ランク近似が実行される前の画像を精度よく推定することができる。一方、画像生成部4は、異常を有する検査対象の物体に関しては、入力画像G1から低ランク近似が実行される前の画像を精度よく推定することができない。その結果、検査対象の物体における異常の有無が容易に判定可能となる。
【0046】
本実施形態に係る異常判定方法は、入力画像G1を生成するステップと、推定結果の画像G2を生成するステップと、異常の有無を判定するステップと、を含む。入力画像G1を生成するステップでは、検査対象の物体が撮像された元画像G0に対して特異値分解による低ランク近似が実行されて入力画像G1が生成される。本実施形態では、画像処理部3が入力画像G1を生成するステップを実行する。
【0047】
推定結果の画像G2を生成するステップでは、機械学習の結果に基づいて、入力画像G1から低ランク近似が実行される前の画像が推定され、推定結果の画像G2が生成される。本実施形態では、画像生成部4が推定結果の画像G2を生成するステップを実行する。異常の有無を判定するステップでは、推定結果の画像G2に基づいて検査対象の物体における異常の有無が判定される。異常の有無を判定するステップは、例えば、判定部6によって実行される。この場合、異常の有無を判定するステップでは、元画像G0と推定結果の画像G2との差異に基づいて異常の有無が判定される。
【0048】
異常の有無を判定するステップは、作業者によって実行されてもよい。この場合、元画像G0を用いずに、推定結果の画像G2に基づいて異常の有無が判定されてもよい。作業者は、推定結果の画像G2における乱れに基づいて異常の有無を判定することが可能である。異常の有無を判定するステップにおいて、作業者は、元画像G0と推定結果の画像G2とを見比べて異常の有無を判定してもよい。
【0049】
[実施形態の変形例]
検査対象の物体は、工業製品には限定されない。本実施形態の異常判定システム1は、例えば、食品の検査に適用されてもよい。異常判定システム1は、様々な物体に関して局所的な異常の有無を判定することができる。
【0050】
カメラ20は、検査対象の物体を撮像してモノクロ画像を生成してもよい。検査対象の物体における異常は、元画像G0における輝度分布の異常として現れる。よって、異常判定システム1は、モノクロ画像に基づいて、検査対象の物体における異常の有無を適切に判定することができる。
【0051】
上記の実施形態および変形例に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 異常判定システム
2 取得部
3 画像処理部
4 画像生成部
5 データ提供部
6 判定部
7 出力部
10 異常判定装置
20 カメラ
30,40 コネクタ
50 モニタ
WH ワイヤハーネス
A1,A2,A3,A4 領域
D1:第一テストデータ、 D2:第二テストデータ、 D3:第三テストデータ
D4:第四テストデータ
G0:元画像、 G1:入力画像、 G2:推定結果の画像
R1:第一結果画像、 R2:第二結果画像、 R3:第三結果画像
R4:第四結果画像、 R5:第五結果画像、 R6:第六結果画像
T1:第一画像、 T2:第二画像
VD 評価用のデータ
W0,W1 電線
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