(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069183
(43)【公開日】2022-05-11
(54)【発明の名称】マイクロデバイス、マイクロデバイスの製造方法及び免疫分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20220428BHJP
G01N 33/536 20060101ALI20220428BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
G01N33/543 511A
G01N33/536 D
G01N33/543 511M
G01N37/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020178217
(22)【出願日】2020-10-23
(71)【出願人】
【識別番号】303018827
【氏名又は名称】Tianma Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100183955
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 悟郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100180334
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 洋美
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(74)【代理人】
【識別番号】100174067
【弁理士】
【氏名又は名称】湯浅 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136342
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 成美
(72)【発明者】
【氏名】溝口 親明
(72)【発明者】
【氏名】重村 幸治
(72)【発明者】
【氏名】住吉 研
(57)【要約】
【課題】少ない工数で免疫分析を行うことができるマイクロデバイス、マイクロデバイスの製造方法及び免疫分析方法を提供する。
【解決手段】マイクロデバイス10は、複数の検量線用溶液と、複数の検量線用溶液のそれぞれを充填されている複数の第1マイクロ流路22と、測定対象溶液を充填される少なくとも1つの第2マイクロ流路24と、第1マイクロ流路22の開口部26を密閉して、検量線用溶液を密封している封止部材30と、を備える。検量線用溶液は、それぞれ、互いに異なる予め設定された濃度の測定対象物質と、測定対象物質に特異的に結合する抗体と、測定対象物質を蛍光標識し、測定対象物質と競合して抗体に特異的に結合する蛍光標識誘導体とを含む。測定対象溶液は、濃度が未知の測定対象物質と、抗体と、蛍光標識誘導体とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる予め設定された濃度の測定対象物質と、前記測定対象物質に特異的に結合する抗体と、前記測定対象物質を蛍光標識し、前記測定対象物質と競合して前記抗体に特異的に結合する蛍光標識誘導体とを含む、複数の検量線用溶液と、
前記複数の検量線用溶液のそれぞれを充填されている、複数の第1マイクロ流路と、
濃度が未知の前記測定対象物質と、前記抗体と、前記蛍光標識誘導体とを含む測定対象溶液を充填される、少なくとも1つの第2マイクロ流路と、
前記第1マイクロ流路の開口部を密閉して、前記検量線用溶液を密封している封止部材と、を備える、
マイクロデバイス。
【請求項2】
前記封止部材は撥水性を有する、
請求項1に記載のマイクロデバイス。
【請求項3】
前記封止部材は、可撓性を有する基材と、撥水性を有する粘着層とを有する、
請求項1又は2に記載のマイクロデバイス。
【請求項4】
前記検量線用溶液は、硫酸亜鉛とアジ化ナトリウムの少なくとも一方を含む、
請求項1から3のいずれか1項に記載のマイクロデバイス。
【請求項5】
密封された前記複数の検量線用溶液の偏光度を測定して得られる、偏光度と前記測定対象物質の濃度との検量線の決定係数が、0.99よりも大きい、
請求項1から4のいずれか1項に記載のマイクロデバイス。
【請求項6】
複数の第1マイクロ流路と、濃度が未知の測定対象物質と前記測定対象物質に特異的に結合する抗体と前記測定対象物質を蛍光標識し前記測定対象物質と競合して前記抗体に特異的に結合する蛍光標識誘導体とを含む測定対象溶液を充填される、少なくとも1つの第2マイクロ流路とを形成する工程と、
前記複数の第1マイクロ流路のそれぞれに、互いに異なる予め設定された濃度の前記測定対象物質と、前記抗体と、前記蛍光標識誘導体とを含む、複数の検量線用溶液のそれぞれを充填する工程と、
前記検量線用溶液を充填された前記第1マイクロ流路の開口部を封止部材により密閉して、前記複数の検量線用溶液を密封する工程と、を含む、
マイクロデバイスの製造方法。
【請求項7】
密封された前記複数の検量線用溶液の偏光度を測定して、偏光度と前記測定対象物質の濃度との検量線を作成する工程、を含む、
請求項6に記載のマイクロデバイスの製造方法。
【請求項8】
5℃以下の温度で保存された、請求項1から5のいずれか1項に記載のマイクロデバイスの温度を、予め設定されている測定温度にする工程と、
前記第2マイクロ流路に前記測定対象溶液を充填する工程と、
前記複数の検量線用溶液と前記第2マイクロ流路に充填された前記測定対象溶液から出射される蛍光の偏光度を求める工程と、
求められた前記複数の検量線用溶液から出射される蛍光の偏光度から、偏光度と前記測定対象物質の濃度との検量線を作成する工程と、
求められた前記測定対象溶液から出射される蛍光の偏光度と作成された前記検量線から、前記測定対象溶液に含まれる前記測定対象物質の濃度を求める工程と、を含む、
免疫分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マイクロデバイス、マイクロデバイスの製造方法及び免疫分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光を用いた免疫分析法として、抗原抗体反応を利用して測定対象物質を検出する蛍光偏光免疫分析法(FPIA:Fluorescence Polarization Immunoassay)が知られている。例えば、特許文献1は、測定された蛍光の偏光度から測定抗原(測定対象物質)の濃度を求める方法を開示している。
【0003】
また、マイクロデバイスを用いた免疫分析法が知られている。例えば、特許文献2は、微小構造物が流路に配置された免疫分析マイクロチップを開示している。微小構造物は一次抗体を表面に固相化されたビーズを保持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3-103765号公報
【特許文献2】特許第4717081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の流路を有するマイクロデバイスを用いた蛍光偏光免疫分析法では、検量線を作成するための複数のサンプル(例えば、標準溶液を段階的に希釈した複数の希釈溶液)と、測定対象物質を含むサンプルとを一括で測定することにより、測定の信頼度を向上できる。この免疫分析法では、測定ごとに、検量線を作成するための複数のサンプルを流路に充填するので、偏光度の測定を開始するまでの工数が多くなる。
【0006】
本開示は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、少ない工数で免疫分析を行うことができるマイクロデバイス、マイクロデバイスの製造方法及び免疫分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示の第1の観点に係るマイクロデバイスは、
互いに異なる予め設定された濃度の測定対象物質と、前記測定対象物質に特異的に結合する抗体と、前記測定対象物質を蛍光標識し、前記測定対象物質と競合して前記抗体に特異的に結合する蛍光標識誘導体とを含む、複数の検量線用溶液と、
前記複数の検量線用溶液のそれぞれを充填されている、複数の第1マイクロ流路と、
濃度が未知の前記測定対象物質と、前記抗体と、前記蛍光標識誘導体とを含む測定対象溶液を充填される、少なくとも1つの第2マイクロ流路と、
前記第1マイクロ流路の開口部を密閉して、前記検量線用溶液を密封している封止部材と、を備える。
【0008】
本開示の第2の観点に係るマイクロデバイスの製造方法は、
複数の第1マイクロ流路と、濃度が未知の測定対象物質と前記測定対象物質に特異的に結合する抗体と前記測定対象物質を蛍光標識し前記測定対象物質と競合して前記抗体に特異的に結合する蛍光標識誘導体とを含む測定対象溶液を充填される、少なくとも1つの第2マイクロ流路とを形成する工程と、
前記複数の第1マイクロ流路のそれぞれに、互いに異なる予め設定された濃度の前記測定対象物質と、前記抗体と、前記蛍光標識誘導体とを含む、複数の検量線用溶液のそれぞれを充填する工程と、
前記検量線用溶液を充填された前記第1マイクロ流路の開口部を封止部材により密閉して、前記複数の検量線用溶液を密封する工程と、を含む。
【0009】
本開示の第3の観点に係る免疫分析方法は、
5℃以下の温度で保存された、本開示の第1の観点に係るマイクロデバイスの温度を、予め設定されている測定温度にする工程と、
前記第2マイクロ流路に前記測定対象溶液を充填する工程と、
前記複数の検量線用溶液と前記第2マイクロ流路に充填された前記測定対象溶液から出射される蛍光の偏光度を求める工程と、
求められた前記複数の検量線用溶液から出射される蛍光の偏光度から、偏光度と前記測定対象物質の濃度との検量線を作成する工程と、
求められた前記測定対象溶液から出射される蛍光の偏光度と作成された前記検量線から、前記測定対象溶液に含まれる前記測定対象物質の濃度を求める工程と、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、少ない工数で免疫分析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係るマイクロデバイスを示す上面図である。
【
図2】
図1に示すマイクロデバイスをA-A線で矢視した断面図である。
【
図3】実施形態に係る検量線用溶液を示す模式図である。
【
図4】実施形態に係る封止部材を示す断面図である。
【
図5】実施形態に係るマイクロデバイスの製造方法を示すフローチャートである。
【
図6】実施形態に係る第2基板と隔壁とを一体に形成する工程を説明するための模式図である。
【
図7】実施形態に係る分析装置の構成を示す図である。
【
図8】実施形態に係る分析装置を示す模式図である。
【
図9】実施形態に係る免疫分析方法を示すフローチャートである。
【
図10】実施形態に係る免疫分析方法における測定対象溶液の充填を説明するための模式図である。
【
図11】実施例と比較例に係る濃度と偏光度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態に係るマイクロデバイスについて、図面を参照して説明する。
【0013】
<実施形態>
図1~
図10を参照して、本実施形態に係るマイクロデバイス10を説明する。マイクロデバイス10は、例えば、蛍光偏光免疫分析法を用いた測定対象物質Ag1の検出に使用される。
【0014】
マイクロデバイス10は、
図1、
図2に示すように、第1基板12と第2基板14と隔壁16と9つのマイクロ流路20と封止部材30とを備える。また、マイクロデバイス10は、後述する5つの検量線用溶液CCL1~CCL5を備える。第1基板12と第2基板14と隔壁16は、マイクロ流路20を形成する。封止部材30は、マイクロ流路20の開口部26を密閉する。検量線用溶液CCL1~CCL5は、9つのマイクロ流路20のうちの5つのマイクロ流路20のそれぞれに、充填されている。
【0015】
本明細書では、検量線用溶液を総称して、検量線用溶液CCLと記載する場合がある。また、検量線用溶液CCLを充填されているマイクロ流路20を第1マイクロ流路22とし、その他のマイクロ流路20を第2マイクロ流路24とする。理解を容易にするため、
図1におけるマイクロデバイス10の右方向(紙面の右方向)を+X方向、上方向(紙面の上方向)を+Y方向、+X方向と+Y方向に垂直な方向(紙面の奥方向)を+Z方向として説明する。
【0016】
マイクロデバイス10の第1基板12は、平板状の石英ガラス基板である。蛍光偏光免疫分析法における励起光ELが、第1基板12からマイクロデバイス10に入射する。励起光ELは、
図1に示す測定領域Sに照射され、第1基板12の第1主面12aに垂直に入射する。
【0017】
マイクロデバイス10の第2基板14は、平板状の基板である。第2基板14は、自家蛍光が小さい材料から形成される。本実施形態では、第2基板14は、カーボンブラックを含むポリジメチルシロキサン(PDMS:Polydimethylsiloxane)から形成されている。第2基板14は第1基板12に対向し、第2基板14と第1基板12は隔壁16を挟む。
【0018】
マイクロデバイス10の隔壁16は、第1基板12と第2基板14に挟まれてマイクロ流路20を形成する。隔壁16は、自家蛍光が小さい材料から形成される。また、隔壁16は、励起光EL、蛍光FL等の光を吸収する材料から形成されることが好ましい。本実施形態では、隔壁16は、カーボンブラックを含むポリジメチルシロキサンから、第2基板14と一体に形成されている。
【0019】
マイクロデバイス10のマイクロ流路20は、測定領域S内において、X方向に平行に延びる。測定領域S内におけるマイクロ流路20の幅(すなわち、Y方向の長さ)は、例えば、200μmである。マイクロ流路20は、それぞれ、第2基板14と隔壁16とを貫通する2つの開口部26を有する。検量線用溶液CCL又は後述する測定対象溶液MTLが、開口部26から充填又は排出される。
【0020】
9つのマイクロ流路20のうちの平面視において+Y側に位置する5つの第1マイクロ流路22には、検量線用溶液CCLが充填されている。9つのマイクロ流路20のうちの平面視において-Y側に位置する4つの第2マイクロ流路24には、何ら充填されていない。蛍光偏光免疫分析における偏光度Pの測定の前に、測定対象溶液MTLが第2マイクロ流路24に充填される。
【0021】
マイクロデバイス10の検量線用溶液CCLは、
図3に示すように、測定対象物質Ag1と抗体Ab1と蛍光標識誘導体AgF1とを含む。検量線用溶液CCLは、蛍光偏光免疫分析における検量線(すなわち、偏光度Pと測定対象物質Ag1の濃度との検量線)の作成に用いられる。検量線は、検量線用溶液CCL1~CCL5から出射される蛍光FLの偏光度Pと、検量線用溶液CCL1~CCL5の測定対象物質Ag1の濃度とを、ロジスティック関数にフィッティングすることにより、得ることができる。この場合、フィッティングの決定係数が0.99よりも大きいことが、好ましい。
【0022】
検量線用溶液CCL1~CCL5のそれぞれは、開口部26を介して、第1マイクロ流路22のそれぞれに充填されている。検量線用溶液CCL1~CCL5は、それぞれ、互いに異なる予め設定された濃度(第1濃度~第5濃度)の測定対象物質Ag1と、予め設定された濃度(第6濃度)の抗体Ab1と、予め設定された濃度(第7濃度)の蛍光標識誘導体AgF1とを含んでいる。
【0023】
測定対象物質Ag1は、蛍光を用いた免疫分析法で検出可能な化合物であればよい。測定対象物質Ag1として、抗生物質、生理活性物質、カビ毒等が挙げられる。具体的な測定対象物質Ag1として、プロスタグランジンE2、β-ラクトグロブリン、クロラムフェニコール、デオキシニレバノール等が挙げられる。例えば、検量線用溶液CCL1~CCL5の測定対象物質Ag1の濃度(第1濃度~第5濃度)は、それぞれ、50ng/ml、25ng/ml、12.5ng/ml、6.25ng/ml、3.125ng/mlである。
【0024】
抗体Ab1は、抗原抗体反応により、測定対象物質Ag1と特異的に結合する。抗体Ab1は、例えば、測定対象物質Ag1を宿主動物(例えば、ねずみ、牛)に接種した後、宿主動物が産生した血液中の抗体を回収し精製することにより、得られる。また、抗体Ab1として、市販されている抗体も利用できる。
【0025】
蛍光標識誘導体AgF1は、測定対象物質Ag1を蛍光標識した誘導体である。蛍光標識誘導体AgF1は、抗原抗体反応により、抗体Ab1に測定対象物質Ag1と競合して特異的に結合する。蛍光標識誘導体AgF1は、公知の方法を用いて、測定対象物質Ag1に蛍光物質を結合することにより得られる。蛍光物質は、フルオレセイン(励起光ELの波長:494nm、蛍光FLの波長:521nm)、ローダミンβ(励起光ELの波長:550nm、蛍光FLの波長:580nm)等である。
【0026】
ここで、測定対象溶液MTLについても説明する。測定対象溶液MTLは、蛍光偏光免疫分析において測定対象となる溶液である。測定対象溶液MTLは、濃度が未知の測定対象物質Ag1と、検量線用溶液CCLと同濃度の抗体Ab1と蛍光標識誘導体AgF1とを含む。測定対象溶液MTLは、開口部26から第2マイクロ流路24に充填される。
【0027】
マイクロデバイス10の封止部材30は、第2基板14の第1主面14aに設けられ、マイクロ流路20の開口部26を密閉する。封止部材30は、
図4に示すように、基材32と粘着層34とを有する。基材32は、例えば、シリコン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等から形成される。粘着層34は、例えば、シリコン粘着層である。本実施形態では、粘着層34が第2基板14の第1主面14aに密着して、9つのマイクロ流路20(すなわち、5つの第1マイクロ流路22と4つの第2マイクロ流路24)のすべての開口部26を密閉している。
【0028】
本実施形態では、第1マイクロ流路22の開口部26が封止部材30により密閉され、第1マイクロ流路22に充填された検量線用溶液CCLは封止部材30により第1マイクロ流路22内に密封される。これにより、マイクロデバイス10が低温(例えば、5℃以下)で保存される場合、検量線用溶液CCLの経時変化が抑制される。すなわち、マイクロデバイス10では、検量線用溶液CCLの長期間の安定した保存が、低温で可能となる。
【0029】
マイクロデバイス10は、低温で、検量線用溶液CCLを安定して長期間保存できるので、測定対象溶液MTLを第2マイクロ流路24に充填するだけで、蛍光偏光免疫分析法により、検量線の作成と共に測定対象溶液MTLの測定対象物質Ag1を検出できる。したがって、マイクロデバイス10を用いることにより、少ない工数で免疫分析を行うことができる。
【0030】
さらに、本実施形態では、第2マイクロ流路24の開口部26も封止部材30により密閉されるので、測定対象溶液MTLを充填される第2マイクロ流路24へのゴミ、不純物等の混入を防ぐことができる。
【0031】
次に、
図5、
図6を参照して、マイクロデバイス10の製造方法を説明する。
図5は、マイクロデバイス10の製造方法を示すフローチャートである。マイクロデバイス10の製造方法は、複数の第1マイクロ流路22と少なくとも1つの第2マイクロ流路24とを形成する工程(ステップS10)と、複数の第1マイクロ流路22のそれぞれに、複数の検量線用溶液CCL1~CCL5のそれぞれを充填する工程(ステップS20)と、検量線用溶液CCL1~CCL5を充填された第1マイクロ流路22の開口部26を封止部材30により密閉して、複数の検量線用溶液CCL1~CCL5を密封する工程(ステップS30)と、を含む。
【0032】
ステップS10は、
図5に示すように、第2基板14と隔壁16とを一体に形成する工程(ステップS12)と、開口部26を形成する工程(ステップS14)と、隔壁16を第1基板12に接合する工程(ステップS16)とを含む。
【0033】
ステップS12では、
図6に示すように、第2基板14と隔壁16の形状に対応した鋳型62を型枠64内に配置する。そして、型枠64内に、カーボンブラックを含むポリジメチルシロキサン樹脂を流し込む。型枠64内に流し込んだポリジメチルシロキサン樹脂を硬化させることにより、第2基板14と隔壁16が一体に形成される。鋳型62は、シリコン基板をフォトリソグラフィー加工することにより、作製される。なお、以下では、第2基板14と隔壁16が一体に形成された部材を、隔壁16を有する第2基板14と記載する場合がある。
【0034】
図5に戻り、ステップS14では、治具を用いて、隔壁16を有する第2基板14の所定の位置に貫通孔を開けることにより、開口部26を形成する。
【0035】
ステップS16では、隔壁16の上に第1基板12を配置した後、第1基板12を隔壁16に押圧することにより、隔壁16を第1基板12に接合する。これにより、第1マイクロ流路22と第2マイクロ流路24が、第1基板12と第2基板14と隔壁16から形成される。
【0036】
ステップS20では、マイクロピペットを用いて、第1マイクロ流路22のそれぞれに、開口部26を介して、検量線用溶液CCL1~CCL5のそれぞれを充填する。検量線用溶液CCL1~CCL5は、例えば、測定対象物質Ag1を含む標準溶液を段階的に希釈して調製される。なお、検量線用溶液CCLにおける抗体Ab1に対する測定対象物質Ag1と蛍光標識誘導体AgF1との競合反応は、平衡状態に達している。
【0037】
ステップS30では、封止部材30の粘着層34を第2基板14の第1主面14aに貼り付けることにより、第1マイクロ流路22の開口部26を封止部材30により密閉して、検量線用溶液CCL1~CCL5を密封する。本実施形態では、第2マイクロ流路24の開口部26も封止部材30により密閉される。以上により、マイクロデバイス10を作製できる。作製されたマイクロデバイス10は、低温(例えば5℃以下)で保存される。
【0038】
次に、マイクロデバイス10を用いた測定対象物質Ag1の免疫分析方法(すなわち、測定対象物質Ag1の検出)について、説明する。まず、測定対象物質Ag1を検出する分析装置100を説明する。
【0039】
分析装置100は、
図7、
図8に示すように、照射部110とダイクロイックミラー120と対物レンズ130と検出部140と制御部150とを備える。
【0040】
分析装置100の照射部110は、
図8に示すように、直線偏光の励起光ELを-X方向に出射する。照射部110は、
図7、
図8に示すように、光源112と、偏光フィルタ116と、励起光フィルタ、集光レンズ等の光学部品(図示せず)とを備える。光源112は、励起光ELを-X方向に出射する。光源112は、例えばLED素子から構成される。偏光フィルタ116は励起光ELを直線偏光に変換する。
【0041】
分析装置100のダイクロイックミラー120は、
図8に示すように、照射部110から出射された直線偏光の励起光ELを、マイクロデバイス10が配置されている方向(+Z方向)に反射する。また、ダイクロイックミラー120は、マイクロデバイス10から出射された蛍光FLを透過する。
【0042】
マイクロデバイス10は、ダイクロイックミラー120の+Z側に、第1基板12を-Z方向に向けて配置される。ダイクロイックミラー120に反射された直線偏光の励起光ELは、マイクロデバイス10の第1基板12からマイクロ流路20に入射する。また、マイクロデバイス10は蛍光FLを-Z方向に出射する。
【0043】
分析装置100の対物レンズ130は、
図8に示すように、ダイクロイックミラー120とマイクロデバイス10との間に配置される。対物レンズ130は、励起光ELと蛍光FLとを集光する。
【0044】
分析装置100の検出部140は、
図8に示すように、ダイクロイックミラー120の-Z側に配置される。検出部140は、マイクロデバイス10から出射された蛍光FLを検出する。検出部140は、
図7、
図8に示すように、偏光調整素子144と、撮像素子146と、吸収フィルタ、結像レンズ等の光学部品(図示せず)とを備える。偏光調整素子144は、蛍光FLの偏光方向を調整する。偏光調整素子144は、蛍光FLの偏光方向を、照射部110から出射される励起光ELの偏光方向と平行な方向と、照射部110から出射される励起光ELの偏光方向と垂直な方向とに調整する。偏光調整素子144は、例えば、液晶素子である。撮像素子146は、偏光調整素子144から出射された蛍光FLを画像として検出する。撮像素子146は、例えば、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサである。
【0045】
分析装置100の制御部150は、照射部110と検出部140とを制御する。また、制御部150は、撮像素子146が検出した蛍光FLの画像から、第1マイクロ流路22に充填された検量線用溶液CCLと第2マイクロ流路24に充填された測定対象溶液MTLから出射された蛍光FLの偏光度Pを求める。制御部150は、検量線用溶液CCL1~CCL5から出射された蛍光FLの偏光度Pと検量線用溶液CCL1~CCL5の測定対象物質Ag1の濃度から、偏光度Pと測定対象物質Ag1の濃度との検量線を作成する。さらに、測定対象溶液MTLから出射された蛍光FLの偏光度Pと作成された検量線から、測定対象溶液MTLの測定対象物質Ag1の濃度を求める。
【0046】
制御部150は、各種の処理を実行するCPU(Central Processing Unit)152と、プログラムとデータとを記憶しているROM(Read Only Memory)154と、データを記憶するRAM(Random Access Memory)156と、各部の間の信号を入出力する入出力インタフェース158とを備える。制御部150の機能は、CPU152が、ROM154に記憶されたプログラムを実行することによって、実現される。入出力インタフェース158は、CPU152と、照射部110と検出部140との間の信号を入出力する。
【0047】
マイクロデバイス10を用いた免疫分析方法を説明する。
図9は、免疫分析方法を示すフローチャートである。免疫分析方法は、5℃以下の温度で保存されたマイクロデバイス10の温度を予め設定された測定温度にする工程(ステップS110)と、マイクロデバイス10の第2マイクロ流路24に測定対象溶液MTLを充填する工程(ステップS120)とを含む。さらに、免疫分析方法は、検量線用溶液CCL1~CCL5と測定対象溶液MTLから出射される蛍光FLの偏光度Pを求める工程(ステップS130)と、求められた検量線用溶液CCL1~CCL5から出射される蛍光FLの偏光度Pから、偏光度Pと測定対象物質Ag1の濃度との検量線を作成する工程(ステップS140)と、求められた測定対象溶液MTLから出射される蛍光FLの偏光度Pと作成された検量線から、測定対象溶液MTLに含まれる測定対象物質Ag1の濃度を求める工程(ステップS150)と、を含む。
【0048】
ステップS110では、5℃以下の温度で保存されたマイクロデバイス10の温度を、偏光度Pを測定する測定温度にする。測定温度は、例えば20℃である。
【0049】
ステップS120では、まず、検量線用溶液CCLと同濃度の抗体Ab1と蛍光標識誘導体AgF1とを含む溶液に、測定対象物質Ag1を含む溶液を加えて、測定対象溶液MTLを準備する。次に、測定対象溶液MTLにおいて、抗体Ab1に対する測定対象物質Ag1と蛍光標識誘導体AgF1との競合反応が平衡状態に達した後、第2マイクロ流路24に測定対象溶液MTLを充填する。具体的には、マイクロデバイス10の封止部材30を剥離した後、マイクロピペットを用いて、第2マイクロ流路24に測定対象溶液MTLを充填する。本実施形態では、
図10に示すように、4つの第2マイクロ流路24のそれぞれに、測定対象溶液MTL1~MTL4のそれぞれを充填する。
【0050】
ステップS130では、まず、封止部材30を剥離され測定対象溶液MTL1~MTL4を充填されたマイクロデバイス10を、分析装置100にセットする。次に、分析装置100の照射部110から直線偏光の励起光ELを出射して、直線偏光の励起光ELをマイクロデバイス10の測定領域Sに照射する。そして、分析装置100の検出部140により検出された蛍光FLの画像から、分析装置100の制御部150によって、検量線用溶液CCL1~CCL5と測定対象溶液MTL1~MTL4から出射される蛍光FLの偏光度Pを求める。
【0051】
ここで、蛍光FLの偏光度Pは、励起光ELの偏光方向と平行な偏光方向を有する蛍光FLの強度をIh、励起光ELの偏光方向と垂直な偏光方向を有する蛍光FLの強度をIvとすると、P=(Ih-Iv)/(Ih+Iv)と表される。測定対象物質Ag1と蛍光標識誘導体AgF1は抗体Ab1に対して競合反応を起こすので、測定対象物質Ag1の濃度が高いほど、抗体Ab1に結合していない蛍光標識誘導体AgF1が増加して、蛍光FLの偏光度Pは小さくなる。
【0052】
ステップS140では、分析装置100の制御部150によって、偏光度Pと測定対象物質Ag1の濃度との検量線を作成する。具体的には、制御部150は、検量線用溶液CCL1~CCL5から出射される蛍光FLの偏光度Pと検量線用溶液CCL1~CCL5の測定対象物質Ag1の濃度とを、ロジスティック関数にフィッティングすることにより、偏光度Pと測定対象物質Ag1の濃度との検量線を作成する。この場合、フィッティングの決定係数が0.99よりも大きいことが、好ましい。
【0053】
ステップS150では、分析装置100の制御部150によって、測定対象溶液MTL1~MTL4から出射される蛍光FLの偏光度Pと作成された検量線から、測定対象溶液MTL1~MTL4に含まれる測定対象物質Ag1の濃度を求める。以上により、測定対象溶液MTL1~MTL4に含まれる測定対象物質Ag1の濃度を得ることができる。
【0054】
以上のように、マイクロデバイス10では、第1マイクロ流路22に充填された検量線用溶液CCLは封止部材30により密封されるので、検量線用溶液CCLの経時変化が抑制され、検量線用溶液CCLの長期間の安定した保存が低温で可能となる。これにより、測定対象溶液MTLを第2マイクロ流路24に充填するだけで、検量線の作成と共に測定対象溶液MTLの測定対象物質Ag1を検出できる。したがって、マイクロデバイス10を用いることにより、少ない工数で、測定の信頼度が高い免疫分析を行うことができる。さらに、多量の検量線用溶液CCLを準備して、多量のマイクロデバイス10を製造することにより、検量線用溶液CCLのバラツキ、ユーザによる作業のバラツキ等を抑えて、測定精度を向上できる。
【0055】
<変形例>
以上、実施形態を説明したが、本開示は、要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0056】
実施形態の第1基板12は石英ガラス基板であるが、第1基板12は励起光ELと蛍光FLとを透過する他の材料から形成されてもよい。
【0057】
実施形態では、第2基板14と隔壁16が一体に形成されているが、第2基板14と隔壁16は別々に形成されてもよい。第2基板14と隔壁16は、カーボンブラックを含むポリジメチルシロキサンから形成されているが、これらは、他の材料から形成されてもよい。例えば、ポリジメチルシロキサンは、カーボンブラックの代わりに、酸化第二鉄を含んでもよい。また、隔壁16は撥水性を有することが、好ましい。これにより、マイクロデバイス10は、検量線用溶液CCLの経時変化をより抑えて、検量線用溶液CCLをより長期間保存できる。例えば、隔壁16はシリコン樹脂から形成されることが、好ましい。
【0058】
マイクロ流路20の幅は、500μm以下が好ましく、300μm以下が更に好ましい。
【0059】
実施形態では、マイクロデバイス10は5つの第1マイクロ流路22と4つの第2マイクロ流路24とを備えるが、第1マイクロ流路22の数は検量線を作成できる数であればよい。また、マイクロデバイス10は、少なくとも1つの第2マイクロ流路24を備えればよい。
【0060】
マイクロデバイス10は複数の封止部材30を備え、複数の封止部材30のそれぞれが開口部26を密閉してもよい。
【0061】
実施形態では、封止部材30は第1マイクロ流路22と第2マイクロ流路24の開口部26を密閉しているが、封止部材30は第1マイクロ流路22の開口部26を密閉すればよい。封止部材30は第2マイクロ流路24の開口部26を密閉しなくともよい。
【0062】
実施形態の封止部材30は基材32と粘着層34とを有するが、封止部材30は基材32のみから形成されてもよい。例えば、封止部材30は、第2基板14に密着するシリコン樹脂から形成されてもよい。
【0063】
また、基材32は可撓性を有することが、好ましい。これにより、封止部材30は、第2基板14により密着して、開口部26をより強固に密閉できる。さらに、封止部材30の開口部26を塞ぐ面は撥水性を有することが、好ましい。例えば、封止部材30の粘着層34は撥水性を有することが、好ましい。これにより、マイクロデバイス10は、検量線用溶液CCLの経時変化をより抑えて、検量線用溶液CCLをより長期間保存できる。
【0064】
検量線用溶液CCLは、防腐剤として、硫酸亜鉛とアジ化ナトリウムの少なくとも一方を含んでもよい。
【0065】
検量線の作成において、フィッティングする関数はロジスティック関数に限られない。例えば、フィッティングする関数は、ボルツマン関数、シグモイドワイブル関数等であってもよい。
【0066】
マイクロデバイスの製造方法では、ステップS30の後に、密封された検量線用溶液CCLの偏光度Pを測定して、偏光度Pと測定対象物質Ag1の濃度との検量線を作成する工程を実施してもよい。これにより、検量線の精度を予め確認できる。この場合、フィッティングの決定係数が0.99よりも大きいことが、好ましい。
【0067】
以上、好ましい実施形態について説明したが、本開示は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、本開示には、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲が含まれる。
【実施例0068】
以下の実施例により、本開示をさらに具体的に説明するが、本開示は実施例によって限定されるものではない。
【0069】
9つのマイクロ流路20のうちの7つのそれぞれに、7つの検量線用溶液CCLのそれぞれを充填したマイクロデバイス10を作製した。そして、マイクロデバイス10の作製当日と、マイクロデバイス10を5℃で保存して30日後と60日後の、7つの検量線用溶液CCLから出射される蛍光FLの偏光度Pを、分析装置100を用いて測定した。
【0070】
また、7つの検量線用溶液CCLのそれぞれを、ポリプロピレン製マイクロチューブ(5mm径)内に5℃で保存した。そして、保存されていた7つの検量線用溶液CCLのそれぞれを、30日後にマイクロデバイス10の空のマイクロ流路20に充填し、保存されていた7つの検量線用溶液CCLから出射される蛍光FLの偏光度Pを、比較例として分析装置100を用いて測定した。
【0071】
作製したマイクロデバイス10のマイクロ流路20の幅は200μmである。また、封止部材30として、シリコン樹脂製の基材32とシリコン粘着層(粘着層34)とを有する可撓性フィルムを用いた。7つの検量線用溶液CCLは、市販のプロスタグランジンE2測定キットを用いて調製した。7つの検量線用溶液CCLの調製直後に、7つの検量線用溶液CCLのそれぞれを、マイクロ流路20に充填し、また、マイクロチューブ内に保存した。7つの検量線用溶液CCLのプロスタグランジンE2の濃度は、それぞれ、100ng/ml、50ng/ml、25ng/ml、12.5ng/ml、6.25ng/ml、3.125ng/ml、1.5625ng/mlである。なお、残りのマイクロ流路20のうちの1つには、PBS(Phosphate Buffered Saline)を充填した。
【0072】
図11は、実施例と比較例において測定された、プロスタグランジンE2の濃度と偏光度Pとの関係を示す。実施例では、5℃で60日間保存しても、偏光度Pの経時変化はほとんどない。一方、比較例では、特に、25ng/mlと12.5ng/mlの濃度で偏光度Pが大きくなっており、偏光度Pの経時変化が生じている。したがって、封止部材30が、第1マイクロ流路22の開口部26を密閉して検量線用溶液CCLを密封することによって、低温で、検量線用溶液CCLの経時変化を抑制でき、検量線用溶液CCLを安定して長期間保存できる。
10 マイクロデバイス、12 第1基板、12a 第1基板の第1主面、14 第2基板、14a 第2基板の第1主面、16 隔壁、20 マイクロ流路、22 第1マイクロ流路、24 第2マイクロ流路、26 開口部、30 封止部材、32 基材、34 粘着層、62 鋳型、64 型枠、100 分析装置、110 照射部、112 光源、116 偏光フィルタ、120 ダイクロイックミラー、130 対物レンズ、140 検出部、144 偏光調整素子、146 撮像素子、150 制御部、152 CPU、154 ROM、156 RAM、158 入出力インタフェース、Ab1 抗体、Ag1 測定対象物質、AgF1 蛍光標識誘導体、CCL1~CCL5(CCL) 検量線用溶液、MTL1~MTL4(MTL) 測定対象溶液、EL 励起光、FL 蛍光、P 偏光度、S 測定領域