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  • 特開-排尿動態解析装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069203
(43)【公開日】2022-05-11
(54)【発明の名称】排尿動態解析装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/20 20060101AFI20220428BHJP
【FI】
A61B5/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020178257
(22)【出願日】2020-10-23
(71)【出願人】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100146064
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 玲子
(72)【発明者】
【氏名】内藤 泰行
(72)【発明者】
【氏名】浮村 理
(72)【発明者】
【氏名】安食 淳
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038DD06
(57)【要約】
【課題】 従来から可能であった排尿の評価に加えて、膀胱機能や尿道の状態、そして外尿道口の状態を反映する尿線そのものの形態学的評価ができ、さらに患者(被検者)にとって肉体的・精神的に負担の少ない自宅や介護施設等の場所での検査も可能となるような排尿動態解析装置を提供する。
【解決手段】 複数の撮像器1と、撮像器1を固定する複数の撮像器固定部3と、撮像器固定部3を支持する支持部5と、制御部11とを有し、撮像器固定部3は、撮像器1の各々の角度を調整する角度調整部7を備え、支持部5は、排尿時の被検者P1の臍から膝までの領域が撮像範囲となるように、撮像対象物と撮像器固定部3との距離の調整が可能であり、複数の撮像器1は、尿流画像を、少なくとも2方向からの同時撮像により記録し、制御部11は、記録された尿流画像から排尿動態を解析することを特徴とする。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の撮像器と、前記撮像器を固定する複数の撮像器固定部と、前記撮像器固定部を支持する支持部と、制御部とを有し、
前記撮像器固定部は、前記撮像器の各々の角度を調整する角度調整部を備え、
前記支持部は、排尿時の被検者の臍から膝までの領域が撮像範囲に含まれるように、撮像対象物と前記撮像器固定部との距離の調整が可能であり、
複数の前記撮像器は、尿流画像を、少なくとも2方向からの同時撮像により記録し、
前記制御部は、記録された前記尿流画像から排尿動態を解析することを特徴とする排尿動態解析装置。
【請求項2】
前記撮像器固定部は、1つの撮像器の撮像領域に他の撮像器の少なくとも1つが含まれるように、撮像器相互の撮像領域を調整可能である、請求項1記載の排尿動態解析装置。
【請求項3】
さらに、撮像時の音声を記録する音声記録部を有している、請求項1または請求項2記載の排尿動態解析装置。
【請求項4】
前記撮像器固定部は、前記被検者の体幹を中心として排尿方向を12時方向としたときの、9時方向から3時方向の範囲内の位置に配置されている、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の排尿動態解析装置。
【請求項5】
前記支持部は、前記撮像器固定部に対して回動可能である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の排尿動態解析装置。
【請求項6】
前記支持部は、位置決め部材を有しており、前記位置決め部材は、前記被検者の身体に当接させる部材である、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の排尿動態解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排尿動態解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排尿動態の検査方法には様々なものがあり、その代表的検査に尿流量検査(ウロフロメトリー)がある。従来のウロフロメトリーでは、病院の検査室等に設置された重量変化の計測が可能である尿器に排尿をすることで、尿の重量を経時的に測定して、1回の排尿量、排尿時間、尿の勢い等を排尿障害の指標として解析し、横軸に時間、縦軸に単位時間当たりの尿量(尿流率)を示すグラフを得るものがある。前記尿器としては、トイレに設置できる便器状のタイプの排尿検査用便器が開発されており、通常の排尿環境に近い状態で実施できるようになってきている(例えば、特許文献1参照)。しかし、依然として病院に設置されている排尿検査用便器を使用する必要がある。そのため、検査の際には病院に来院し、検査用便器に向かって排尿するように促されて行うため、時間的にタイミングが合わない状態であったり、緊張やストレスを感じることが少なくない。この緊張やストレスによりいつも通りの排尿ができないことが、しばしばみられるのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6471892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、排尿障害には、外尿道口からの尿線(尿の流れ)が2つに分かれる、四方八方に飛び散る、途中で途切れる、ぽたぽた落ちる等の、形態学的に評価が必要なタイプがある。この形態学的な評価は、臨床的には重要なポイントである。しかしながら、尿の重量を経時的に測定する従来の方法では、動的な尿流動態の検知および評価は行うことができない。したがって、形態学的な評価においては、患者からの問診によって判断するしかなかった。そこで、自宅でも実施でき、特別な検査用便器を要さず、緊張やストレスのない日常のタイミングで排尿動態を観察し、解析可能な手段が求められている。
【0005】
そこで、本発明は、従来から可能であった排尿の評価に加えて、膀胱機能や尿道の状態、そして外尿道口の状態を反映する尿線そのものの形態学的評価ができ、さらに患者(被検者)にとって肉体的・精神的に負担の少ない自宅や介護施設等の場所での検査も可能となるような排尿動態解析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の排尿動態解析装置は、複数の撮像器と、前記撮像器を固定する複数の撮像器固定部と、前記撮像器固定部を支持する支持部と、制御部とを有し、前記撮像器固定部は、前記撮像器の各々の角度を調整する角度調整部を備え、前記支持部は、排尿時の被検者の臍から膝までの領域が撮像範囲に含まれるように、撮像対象物と前記撮像器固定部との距離の調整が可能であり、複数の前記撮像器は、尿流画像を、少なくとも2方向からの同時撮像により記録し、前記制御部は、記録された前記尿流画像から排尿動態を解析することを特徴とする。
【0007】
本発明の排尿動態解析装置において、前記撮像器固定部は、1つの撮像器の撮像領域に他の撮像器の少なくとも1つが含まれるように、撮像器相互の撮像領域を調整可能であることが好ましい。
【0008】
本発明の排尿動態解析装置において、さらに、撮像時の音声を記録する音声記録部を有していることが好ましい。
【0009】
本発明の排尿動態解析装置において、前記撮像器固定部は、前記被検者の体幹を中心として排尿方向を12時方向としたときの、9時方向から3時方向の範囲内の位置に配置されていることが好ましい。
【0010】
本発明の排尿動態解析装置において、前記支持部は、前記撮像器固定部に対して回動可能であることが好ましい。
【0011】
本発明の排尿動態解析装置において、前記支持部は、位置決め部材を有しており、前記位置決め部材は、前記被検者の身体に当接させる部材であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、従来から可能であった排尿の評価に加えて、膀胱機能や尿道の状態、そして外尿道口の状態を反映する尿線そのものの形態学的評価ができ、さらに患者にとって肉体的・精神的に負担の少ない自宅や介護施設等の場所での検査も可能となるような排尿動態解析装置を提供することができる。本発明の排尿動態解析装置は、尿流動態的検査のみならず形態的検査も行うことができ、さらに、遠隔医療にも好適に使用できる。本発明によると、検査や診断を行う側の医師等にとっても、検査の際に尿意とのタイミングが合わないといった事情による検査の延期等が解消されて負担が軽減され、また、患者のいつも通りの排尿の状態を確認することができるというメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の排尿動態解析装置の一例を模式的に示した図である。
図2図2は、前記排尿動態解析装置の使用時の状態の一例を説明する図である。図2(A)は、被検者が排尿動態解析装置を自身で保持して使用する場合の状態を示す図である。図2(B)は、排尿動態解析装置の使用時の位置を説明する図である。
図3図3は、前記排尿動態解析装置の使用時の状態の他の例を説明する図である。
図4図4は、本発明の排尿動態解析装置の他の例を模式的に示した図である。図4(A)は、位置決め部材を備えている態様、図4(B)は、支点脚を備えている態様である。
図5図5は、排尿の形態学的評価を説明する模式図であり、外尿道口Mから排尿される尿の流れ(尿線)を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の排尿動態解析装置の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は、以下の例に限定および制限されない。なお、以下で参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された物体の寸法の比率などは、現実の物体の寸法の比率などとは異なる場合がある。図面相互間においても、物体の寸法比率等が異なる場合がある。
【0015】
図1は、本発明に係る排尿動態解析装置の一例を模式的に示した図である。排尿動態解析装置100は、撮像器1を固定する複数の撮像器固定部3を備え、撮像器固定部3は支持部5によって支持されている。本態様においては、制御部11を兼ねている2台の撮像器1を備えており、各々の撮像器が撮像器固定部3に固定される。
【0016】
図1において、支持部5は、2つの撮像器固定部3を支持するU字状部材から、手持ち用のグリップが設けられた保持部が延設されているが、この形状に限られるものではない。撮像器固定部3は、固定した撮像器1の各々の角度を調整する角度調整部7を備えている。角度調整部7は、例えば、支持部5との接続箇所において、ボールジョイント構造の接続パーツを用いることで、図1中の矢印に示すように前後左右に撮像器の向きを調整することができる。
【0017】
支持部5は、排尿時の被検者の臍から膝までの領域が撮像範囲に含まれるように、撮像対象物と前記撮像器固定部との距離の調整が可能である。外尿道口からではなく臍からを撮像範囲に含まれるようにすることで、後述するような有効な解析が可能となる。なお、本発明においては、尿流全体が地面(尿器)に落下するまでを撮影する必要はなく、およそ膝までの領域でのデータがあれば十分である。支持部5は、長さ調整が可能な伸縮部を備えていてもよい。また、複数の撮像器固定部3間の相互の距離を調整できるように、U字状部材の開き角を変更できるようにしてもよい。また、支持部5が、図1中の破線部に示すように撮像器固定部3に対して回動可能であると、支持部5自体の長さ調整ができない態様であっても、撮像対象物の斜め方向から保持できるように支持部5を回動させることで、撮像対象物と撮像器固定部3すなわち撮像器1との距離の調整は可能である。
【0018】
2台の撮像器1は、尿流画像を、2方向からの同時撮像により記録し、制御部11は、記録された尿流画像から、排尿動態を解析する。尿流画像の記録を排尿開始から排尿終了までを行うことで、後述の形態学的評価が可能となるデータに加え、排尿量や尿乳率等のデータを得ることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、排尿中のある瞬間のみの画像記録によっても、形態学的評価が可能となるデータを得ることができる。さらに、排尿の前後の状態を記録することで、排尿後尿滴下や遷延性排尿困難の客観的評価が可能なデータを得ることもできる。制御部11は、撮像器1に内蔵されていてもよいが、通信インターフェイスを介して撮像器1と接続されるサーバー等に設けてもよい。
【0019】
撮像器固定部3は、1つの撮像器の撮像領域に他の撮像器の少なくとも1つが含まれるように、撮像器相互の撮像領域を調整可能であることが好ましい。撮像器が2台である場合には、互いに他の撮像器が撮影範囲に入るように位置を調整するとよい。また、撮像器が3台以上ある場合には、2台の撮像器によって対象となる撮像範囲を撮像可能なように位置を調整したうえで、3台目の撮像器では、前記2台の撮像器が撮像範囲に入るように位置を調整すればよい。このように位置調整を行うことで、撮像器相互の位置関係や撮像対象物との距離を、得られた画像から求めることができ、三次元解析を容易にするとともに、解析精度を向上させることができる。
【0020】
あるいは、撮像範囲内のいずれかの箇所に、マーカーを付与しておき、そのマーカーを複数の撮像器の画角に入るように同時に撮影を行うことで、撮像器相互の位置関係や撮像対象物との距離を求めることもできる。この場合、例えば被検者の臍付近に、シール状のマーカーを貼付するとよい。また、撮像時に、背景に格子状のスケールといった標準画像を写すようにしてもよい。これによって解析の精度をより向上させることができる。
【0021】
図2は、排尿動態解析装置100の使用時の状態の一例を説明する図である。図2(A)は、被検者(患者)P1が排尿動態解析装置100を自身で保持して使用する場合の状態を示す図である。被検者自身で排尿動態解析装置100を使用する際には、支持部5のグリップ方向を撮像器1の撮像方向側に向けて保持する。
【0022】
図2(B)は、排尿動態解析装置100の使用時の被検者P1に対する位置を説明する図である。同図は、被検者P1を上から見た図である。複数の撮像器固定部3(撮像器1の位置)は、被検者P1の体幹を中心として排尿方向(図中矢印)を12時方向としたときの、9時方向から12時方向を通り3時方向の範囲内の位置に配置されていることが好ましい。この範囲内に配置されることで、外尿道口から続く尿流の体外排出の開始部を好適に記録することができる。撮像器固定部3は、10時方向から2時方向の範囲内の位置に配置されていることがより好ましい。
【0023】
2台の撮像器における撮像(記録)は、記録開始のタイミングを必ずしも同時としなくてもよい。時刻の記録を行えば、2つの映像の時間軸を容易に合わせることができるからである。自動撮影モードや2台を同時に制御できるシャッターボタン等の制御手段を用いることにより、被検者単独でも容易に記録を行うことができる。
【0024】
さらに、撮像時の音声を記録する音声記録部を備えた撮像器を用いて、排尿の開始や終了を音声記録することも好ましい。画像情報からは、尿の吐出の開始および終了の時点の把握は可能である。しかし、排尿障害としては、排尿の意図があっても排尿が始まるまでに時間がかかる遷延性排尿という症状があり、単に現象としての排尿を観察するだけではこの症状を見つけることはできない。排尿が終了した後に、少量の尿が本人の意図とは別に漏れ出る状態である排尿後尿滴下等についても同様である。そこで、被検者の「開始」、「終了」といった発声を同時に記録して、被検者の排尿の意図と実際の排尿の状態との関係についても記録し解析することで、これらの症状も客観的に評価することが可能となる。なお、音声記録部を備えていない撮像器の場合であっても、例えば、撮像器に向かって、開始時や終了時に手をかざすなど、画像のみの記録で上記の評価を行うことが可能である。また、被検者に、腹圧の測定が可能なセンサを装着させ、腹圧の変化から排尿の意図を判断することも可能である。
【0025】
図3は、排尿動態解析装置100の使用時の状態の他の例を説明する図である。同図は、被検者P2が小児であるなど、排尿動態解析装置100を自身で保持して使用することが困難な場合の使用の状態を示す図である。被検者P2の排尿時には、補助者Sが対面から排尿動態解析装置100を保持して、撮像を行うことができる。このとき、排尿動態解析装置100の支持部5のグリップ方向を、撮像器1の撮像方向背面側に向くように、支持部5を撮像器固定部3に対して回動させて用いればよい。
【0026】
支持部5は、位置決め部材を備えることが好ましく、特に、被検者の身体に当接させる位置決め部材21を有することが好ましい。支持部を手に持った状態では、撮像時に撮像範囲が動いてしまうこともあり得る。そこで、図4(A)の排尿動態解析装置200に示すように、被検者の身体に当接する位置決め部材21を設けることで、保持状態を安定化させて揺れを防止するとともに、撮影範囲の固定化が可能となる。位置決め部材21は、被検者の局所付近や腹部等に当てて用いる。位置決め部材21は、長さ調整が可能な伸縮部を備えていてもよい。図4(A)では、支持部5を被検者自身が持った状態で撮像する状態の排尿動態解析装置を示しているが、これに限られない。支持部5を図1で破線で示した位置に回動させて、図3に示すように、支持部5を補助者Sが保持した状態で使用する場合にも位置決め部材21があると、撮像をより安定させて行うことができる。位置決め部材21の形状は、図4(A)に示すものに限定されない。例えば、尿道口を通した状態で身体に当接できるように孔を設けた形状とした、局所当てであってもよい。
【0027】
また、図4(B)の排尿動態解析装置300に示すように、三脚等の支点脚31を設けることで、この解析装置をより安定させて使用することができる。図4(B)では、支点脚31のみを追加した態様を示しているが、本発明においては、位置決め部材21とともに支点脚31を設けると、より好ましい。同図では、支点脚31は1本である態様を示しているが、支点脚31は2本以上あってもよい。また、支点脚31は、長さ調整が可能な伸縮部を備えていてもよい。支点脚31が複数本あり排尿動態解析装置が自立可能である場合、例えば、撮像器固定部3が便器を囲むような位置に排尿動態解析装置を設置して、排尿の記録を行うこともできる。
【0028】
尿流は、膀胱と尿道の機能、および外尿道口の形状に依存する特殊な性質を有する流体であり、排尿中に時間によって変化する尿流を画像化することで、膀胱機能解析、尿道の形態解析、外尿道口の形態解析が可能である。排尿の障害の症状には、蓄尿症状、排尿症状および排尿後症状がある。本発明の排尿動態解析装置では、主に排尿症状および排尿後症状を解析可能である。これらに加えて、例えば、排尿が始まるまでに時間のかかる遷延性排尿についても、その症状を画像で捉えることが可能である。
【0029】
図5は、排尿の形態学的評価を説明する模式図であり、外尿道口Mから排尿される尿の流れ(尿線)を示したものである。図5(A)は、正常尿線を示す。図5(B)~(F)は、何らかの異常が見られる尿線のパターンを例示したものである。図5(B)は尿線分割を、図5(C)は尿線散乱を、図5(D)は尿線途絶を、図5(E)滴下尿線を、図5(F)は排尿後尿滴下を例示した模式図である。図5においては、排尿の形態学的評価のパターンの例を示したが、本発明により解析可能なパターンはこれらに限られるものではない。
【0030】
尿線分割、尿線散乱、尿線途絶、および、滴下尿線は、前立腺肥大症に代表される尿道の通過障害にみられる症状である。また、膀胱の機能そのものが悪い神経因性膀胱にもみられる症状である。本発明によって可能となる排尿の形態学的評価は、前立腺肥大症や神経因性膀胱の診断に有効であり、かつ治療前後での評価にも有用である。さらに、尿線分割および尿線散乱は、上記に加えて、尿道の出口部が狭窄を起こす外尿道口狭窄や、嚢胞ができる外尿道口嚢胞にもよくみられる症状である。これらの症状は、尿道下裂という先天的に尿道の形成不全を持った子供にもみられ、また、包茎の状態でもみられる。したがって、本発明によって可能となる排尿の形態学的評価は、これら外尿道口狭窄や嚢胞、尿道下裂、包茎の診断や手術の前後での排尿状態の評価にも有用である。
【0031】
排尿の形態学的評価により、鑑別として挙げられる疾患は次のとおりである。例えば、尿線分割がみられると、その患者には「前立腺肥大症、神経因性膀胱、外尿道口狭窄、尿道下烈、包茎」などの病気があるのではないかということがわかる。
[尿線分割]
前立腺肥大症に代表される尿道の通過障害、神経因性膀胱、外尿道口狭窄、外尿道口嚢胞、尿道下裂、包茎
[尿線散乱]
前立腺肥大症に代表される尿道の通過障害、神経因性膀胱、外尿道口狭窄、外尿道口嚢胞、尿道下裂、包茎
[尿線途絶]
前立腺肥大症に代表される尿道の通過障害、神経因性膀胱
[滴下尿線]
前立腺肥大症に代表される尿道の通過障害、神経因性膀胱
【0032】
図5(F)に示される排尿後尿滴下とは、排尿が終了した後に、少量の尿が本人の意図とは別に漏れ出る状態であって、排尿後の残尿感と並び、排尿後症状といわれ、排尿困難を示す重要な症状の一つである。排尿後尿滴下は、排尿中にみられる滴下排尿とは違い、あくまで排尿後にみられる症状であり、従来は患者からの自己申告により判断することでしか診断ができなかった。しかし、本発明によると、排尿の終了を画像や音声で記録することで、排尿後尿滴下についても客観的に評価が可能となる。
【0033】
本発明によると、遷延性排尿困難の評価も可能である。遷延性排尿困難とは、排尿開始までの時間が延長するという症状であり、自分では排尿を始めているつもりでも、なかなか始まらない状態である。本発明では、本人が全く自覚していなくても、客観的にこの状態をとらえることができる。
【0034】
現在は、排尿日誌をつけてもらうことで、記録を行っている場合もある。しかし、このような記録は、主観によるとともに文章での記録となることで、詳細が分からない場合もあり得る。しかし、画像により記録することで、客観的な状態を把握することができる。例えば、臍部分からを撮像範囲とすることにより、下腹部の腹壁の動きや外性器の様子から、患者にとっては無意識に腹圧がかかっている様子を客観的にとらえることができる。腹圧排尿はそれ自体が病的なものとされる。また、排尿を促すために、下腹部を押さえる行為(タッピング)は、腎臓にも悪影響を及ぼすため、よくない行為とされているが、患者が無意識に行っていることがある。このように無意識に行っている前記行為も客観的にとらえることができ、診断につなげることが可能となる。また、経時的な状態の変化も容易に把握することが可能である。
【0035】
また、本発明によると、外尿道口Mの形を、尿道口から出た瞬間の尿線の形状から評価することもできる。従来は、手術後の形状は、目視で把握したり、尿道口にカテーテルを導入して、どの太さのカテーテルが導入できるかで尿道口径を把握することが多かった。しかし、カテーテルの導入では、尿道口をカテーテルの形状に広げてしまうことになるため、実際の排尿時の尿道口形状を評価できるものではなかった。本発明では、手術前後の外尿道口Mの形状を、自然な状態で確認することが可能となる。
【0036】
制御部11では、従来のウロフロメトリー装置で得られるデータと尿流画像データとの相関データを学習データとして保存して参照することが好ましい。これにより、尿流の画像から計算負荷少なく排尿量等の解析データを得ることが可能となる。
【0037】
制御部11は、学習データによる撮影部位の認識機能を有することも好ましい。撮像器1をかざしてスタンバイ状態とした段階で認識機能を発動させ、所望の撮影対象が画角内に存在するか否かを判定し、画角内に撮影対象が検知されれば確認音を発生させたり、記録開始時や記録中に画角内に撮影対象が検知されない状態であれば、アラームが鳴るようにすると、確実な記録のためのサポートを行わせることが可能となる。
【0038】
また、制御部11は、排尿の形態学的評価のための尿線のパターンを学習データとして備え、当該学習データを参照して、得られた尿流画像がいずれのパターンに近いものであるかの判定を行うことも好ましい。
【0039】
本発明では、排尿(尿線)を複数の撮像器により、少なくともビジュアルとして記録する。カメラやスマートフォンなどの撮像器が1台であると、得られる情報は二次元であるため、尿線の画像からは体積が分からない。しかし、尿流画像を複数の撮像器によって撮像することで、形態学的評価のみならず、尿線の三次元画像解析、画像解析による尿量の算出、最大尿流率、平均尿流率、尿の方向等の解析も可能である。最大尿流率となるのは、尿が最も遠方に到達する時であるので、画像からも最大尿流率となる瞬間を把握することができる。
【0040】
また、自宅など、日常の排尿タイミングでの検査が可能であり、医療従事者等の立ち合いは不要である。病院の検査室等に設置された特殊な計測用尿器に排尿する必要もない。したがって、検査そのものが被検者にとって緊張やストレス(医療機関等で強制的に排尿させられるというストレス)が大きいという従来の課題を克服することができる。また、撮像時に、手ぶれや撮像範囲の動きがあったとしても、被検者の臍から膝までの領域が撮像範囲に含まれていれば、複数画像間の解析には影響がないので、被検者または補助者の負担は軽減される。このように、ウェアラブルの生体モニタ装置のように随時データを得ることができ、排尿場所や排尿の時間帯に制約がなくなるので、遠隔医療としての排尿動態解析が可能となる。
【符号の説明】
【0041】
100、200、300 排尿動態解析装置
1 撮像器
3 撮像器固定部
5 支持部
7 角度調整部
11 制御部
21 位置決め部材
31 支点脚
P1、P2 被検者(患者)
S 補助者
M 外尿道口
図1
図2
図3
図4
図5