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特開2022-69217Xkr4ポリペプチド、XRCC4ポリペプチド、および目的とする表現型に対応する遺伝子を特定する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069217
(43)【公開日】2022-05-11
(54)【発明の名称】Xkr4ポリペプチド、XRCC4ポリペプチド、および目的とする表現型に対応する遺伝子を特定する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20220428BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20220428BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220428BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220428BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220428BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220428BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220428BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20220428BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20220428BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
C12N15/12
C07K14/47 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N1/15
C12Q1/6869 Z
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
G01N33/50 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020178281
(22)【出願日】2020-10-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的先端研究開発支援事業、ソロタイプ「画期的医薬品等の創出をめざす脂質の生理活性と機能の解明」研究開発領域、「細胞膜における脂質動態の制御機構の解明とその応用」、及び2019年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的先端研究開発支援事業ステップタイプ(FORCE)、「細胞膜脂質動態の異常による神経疾患発症の理解並びにその治療戦略の提案」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100165892
【弁理士】
【氏名又は名称】坂田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳
(72)【発明者】
【氏名】圓岡 真宏
(72)【発明者】
【氏名】チョウ・パンパン
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045DA14
4B063QA13
4B063QQ02
4B063QQ04
4B063QQ05
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QS36
4B063QX02
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA83X
4B065AA87X
4B065AA87Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】      (修正有)
【課題】脂質スクランブル活性に関係する分子を特定すること、並びに、Xkr4ポリペプチドまたはXRCC4ポリペプチド、それらをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを含む宿主細胞、Xkr4の脂質スクランブル活性を調節する物質のスクリーニング方法の提供。
【解決手段】Xkr4ポリペプチドであって特定のアミノ酸配列を有し、かつXRCC4ポリペプチドとの相互作用なしに細胞膜において脂質スクランブル活性を示し得るポリペプチドである、Xkr4ポリペプチド。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Xkr4ポリペプチドであって、
(A)配列番号3~5および37~39のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;または
(B)前記(A)のポリペプチドのアミノ酸配列において、欠失、置換、または付加もしくはそれらの組合せを含むアミノ酸配列を有し、かつ前記(A)のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を示し、かつXRCC4ポリペプチドとの相互作用なしに細胞膜において脂質スクランブル活性を示し得るポリペプチド
である、Xkr4ポリペプチド。
【請求項2】
XRCC4ポリペプチドであって、
(a)配列番号7~12および42のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;または
(b)前記(a)のポリペプチドのアミノ酸配列において、欠失、置換、または付加もしくはそれらの組合せを含むアミノ酸配列を有し、かつ前記(a)のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を示し、かつC末端切断型Xkr4ポリペプチドとの相互作用により細胞膜における脂質スクランブル活性を誘発し得るポリペプチド
である、XRCC4ポリペプチド。
【請求項3】
配列番号6に記載のアミノ酸配列のアミノ酸残基の番号付けに従って、270位のアルギニンを含む、請求項2に記載のXRCC4ポリペプチド。
【請求項4】
配列番号6に記載のアミノ酸配列のアミノ酸残基の番号付けに従って、265位にメチオニンを含まない、請求項2または3に記載のXRCC4ポリペプチド。
【請求項5】
請求項1に記載のXkr4ポリペプチド、あるいは請求項2~4のいずれか一項に記載のXRCC4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項5に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項7】
請求項5に記載のポリヌクレオチドを含む宿主細胞、または請求項6に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項8】
請求項2~4のいずれか一項に記載のXRCC4ポリペプチド;前記XRCC4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド;および前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターからなる群より選択される少なくとも1つを含む、Xkr4を活性化するための組成物。
【請求項9】
アポトーシスの抑制が関与する状態または疾患の治療または予防用である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
Xkr4の脂質スクランブル活性を調節する物質のスクリーニング方法であって、以下の工程:
(1)請求項1に記載のXkr4ポリペプチドを発現する細胞と、Xkr4の脂質スクランブル活性を調節する可能性のある候補物質とを接触させること;
(2)前記候補物質と接触させた前記細胞における脂質スクランブル活性を測定すること;および
(3)前記脂質スクランブル活性が、前記候補物質を接触させていない前記細胞における脂質スクランブル活性と比較して、低い場合または高い場合に、前記候補物質をXkr4の脂質スクランブル活性を調節する物質として選択すること;
を含む、スクリーニング方法。
【請求項11】
前記Xkr4の脂質スクランブル活性を調節する物質が、前記比較において、前記脂質スクランブル活性が前記候補物質を接触させていない前記細胞における脂質スクランブル活性よりも低い場合、前記調節する物質は、アポトーシスの促進が関与する状態または疾患の治療または予防のための薬剤候補である、請求項10に記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
Xkr4の脂質スクランブル活性を誘発する物質のスクリーニング方法であって、以下の工程:
(1)C末端切断型Xkr4ポリペプチドであって、(α)配列番号2または36に記載のアミノ酸配列からなるC末端切断型Xkr4ポリペプチド、または(β)前記(α)ポリペプチドのアミノ酸配列において、欠失、置換、または付加もしくはそれらの組合せを含むアミノ酸配列を有し、かつ前記(α)のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を示し、かつXRCC4ポリペプチドとの相互作用により細胞膜において脂質スクランブル活性を示し得るC末端切断型Xkr4ポリペプチドを発現する細胞と、Xkr4の脂質スクランブル活性を誘発する可能性のある候補物質とを接触させること;
(2)前記候補物質と接触させた前記細胞における脂質スクランブル活性を測定すること;および
(3)前記脂質スクランブル活性が、前記候補物質を接触させていない前記細胞における脂質スクランブル活性と比較して高い場合に、前記候補物質をXkr4の脂質スクランブル活性を誘発する物質として選択すること;
を含む、スクリーニング方法。
【請求項13】
Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する物質のスクリーニング方法であって、以下の工程:
(1)請求項2~4のいずれか一項に記載のXRCC4ポリペプチドが導入され、C末端切断型Xkr4ポリペプチドを発現する細胞と、Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する可能性のある候補物質とを接触させること;
(2)前記細胞における脂質スクランブル活性を測定すること;および
(3)前記脂質スクランブル活性が、前記候補物質と接触させていな前記細胞における脂質スクランブル活性よりも低い場合に、前記候補物質をXkr4の脂質スクランブル活性を阻害する物質として選択すること;
を含む、スクリーニング方法。
【請求項14】
Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する物質のスクリーニング方法であって、以下の工程:
(1)Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する可能性のある候補物質の存在下で、請求項2~4のいずれか一項に記載のXRCC4ポリペプチドと、C末端切断型Xkr4ポリペプチドとを接触させること;
(2)前記XRCC4ポリペプチドと前記C末端切断型Xkr4ポリペプチドとの結合を測定すること;および
(3)前記XRCC4ポリペプチドと前記C末端切断型Xkr4ポリペプチドとの前記結合が、前記候補物質の非存在下で前記XRCC4ポリペプチドと前記C末端切断型Xkr4ポリペプチドとを接触させた場合の結合よりも低い場合に、前記候補物質を、Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する物質として選択すること;
を含む、スクリーニング方法。
【請求項15】
前記脂質スクランブル活性が、リン脂質または糖脂質の取込み活性、または細胞膜の内側に位置するリン脂質の露出活性である、請求項10~14のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項16】
請求項14または15に記載のXkr4の脂質スクランブル活性を阻害する物質のスクリーニングのためのキットであって、
請求項2~4のいずれか一項に記載のXRCC4ポリペプチド;前記XRCC4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド;前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター;および前記ポリヌクレオチドを含む宿主細胞、または前記発現ベクターを含む宿主細胞からなる群より選択される少なくとも1つを含む、キット。
【請求項17】
目的とする表現型に対応する遺伝子を特定する方法であって、
(a)細胞のゲノムDNAの複数種の遺伝子のヌクレオチド配列に対応する少なくとも1種のガイド配列を含むガイドRNAを含む、ガイドRNAライブラリーを準備すること;
(b)前記ガイドRNAライブラリーが導入された細胞集団を得ること;
(c)前記細胞集団から目的とする表現型に基づいて細胞を選択すること;
(d)選択した細胞からゲノムDNAを回収すること;
(e)工程(b)~(d)が所定回数実施されるまで、回収したゲノムDNAから新たなガイドRNAライブラリーを準備し、前記新たなガイドRNAライブラリーを用いて工程(b)~(d)を実施すること;
(f)工程(b)~(d)が所定回数実施された場合に、回収したゲノムDNA中のガイド配列を決定すること;および
(g)決定されたガイド配列に対応する遺伝子を、前記目的とする表現型に対応する遺伝子として特定する工程を含み、
前記所定回数が少なくとも2回である、特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、Xkr4ポリペプチドまたはXRCC4ポリペプチド、それらをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、あるいは前記ポリヌクレオチドまたは発現ベクターを含む宿主細胞に関する。本開示はまた、Xkr4の脂質スクランブル活性を調節(例えば阻害または誘発)する物質のスクリーニング方法に関する。本開示はまた、Xkr4を活性化するための組成物に関する。本開示はまた、Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する物質のスクリーニングするためのキットに関する。本開示はさらに、目的とする表現型に対応する遺伝子を特定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳の発生段階では、多数の細胞死が観察され、その細胞死のほとんどがアポトーシスである。アポトーシスは、核の断片化、細胞質の凝集および分断を特徴する細胞死である。アポトーシスでは、ネクローシスなどの他の細胞死と比べて、細胞が組織からすみやかに除去される。脳の発生段階におけるアポトーシスの欠陥は、注意欠陥・多動性障害(ADHD)を含む神経発達障害または行動障害と関連し得る。過剰なアポトーシスは、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)および筋委縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患と関連し得る。
【0003】
真核生物のもつ細胞膜はリン脂質二重膜から構成され、リン脂質が非対称に分布している。このリン脂質の非対称的な分布は、ホスファチジルセリンなどのアミノリン脂質を細胞膜の内側(細胞質側)に輸送する酵素であるフリッパーゼにより維持されていると考えられている。細胞がアポトーシス刺激を受けると、リン脂質の非対称的な分布が崩壊し、細胞膜の内側にあったホスファチジルセリンが細胞表面に露出され、食細胞に貪食される。アポトーシスによるホスファチジルセリンの露出に関与するタンパク質であるXkr8が同定された(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO 2014/077279
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、脂質スクランブル活性に関係する分子を特定することを1つの目的とする。本開示は、脂質スクランブル活性に関係する分子をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、前記ポリヌクレオチドまたは発現ベクターを含む宿主細胞を提供することを1つの目的とする。本開示は、脂質スクランブル活性を調節(例えば阻害または誘発)する物質をスクリーニングする方法を提供することを1つの目的とする。本開示は、Xkr4を活性化するための組成物を提供することを1つの目的とする。本開示は、脂質スクランブル活性を阻害する物質のスクリーニングするためのキットを提供することを目的とする。本開示はさらに、目的とする表現型に対応する遺伝子を特定する方法を提供することを1つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の発明を提供する。
[項1]
Xkr4ポリペプチドであって、
(A)配列番号3~5および37~39のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;または
(B)前記(A)のポリペプチドのアミノ酸配列において、欠失、置換、または付加もしくはそれらの組合せを含むアミノ酸配列を有し、かつ前記(A)のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を示し、かつXRCC4ポリペプチドとの相互作用なしに細胞膜において脂質スクランブル活性を示し得るポリペプチド
である、Xkr4ポリペプチド。
[項2]
XRCC4ポリペプチドであって、
(a)配列番号7~12および42のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド;または
(b)前記(a)のポリペプチドのアミノ酸配列において、欠失、置換、または付加もしくはそれらの組合せを含むアミノ酸配列を有し、かつ前記(a)のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を示し、かつC末端切断型Xkr4ポリペプチドとの相互作用により細胞膜における脂質スクランブル活性を誘発し得るポリペプチド
である、XRCC4ポリペプチド。
[項3]
配列番号6に記載のアミノ酸配列のアミノ酸残基の番号付けに従って、270位のアルギニンを含む、項2に記載のXRCC4ポリペプチド。
[項4]
配列番号6に記載のアミノ酸配列のアミノ酸残基の番号付けに従って、265位にメチオニンを含まない、項2または3に記載のXRCC4ポリペプチド。
[項5]
項1に記載のXkr4ポリペプチド、あるいは項2~4のいずれか一項に記載のXRCC4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド。
[項6]
項5に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
[項7]
項5に記載のポリヌクレオチドを含む宿主細胞、または項6に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
[項8]
項2~4のいずれか一項に記載のXRCC4ポリペプチド;前記XRCC4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド;および前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターからなる群より選択される少なくとも1つを含む、Xkr4を活性化するための組成物。
[項9]
アポトーシスの抑制が関与する状態または疾患の治療または予防用である、項8に記載の組成物。
【0007】
[項10]
Xkr4の脂質スクランブル活性を調節する物質のスクリーニング方法であって、以下の工程:
(1)項1に記載のXkr4ポリペプチドを発現する細胞と、Xkr4の脂質スクランブル活性を調節する可能性のある候補物質とを接触させること;
(2)前記候補物質と接触させた前記細胞における脂質スクランブル活性を測定すること;および
(3)前記脂質スクランブル活性が、前記候補物質を接触させていない前記細胞における脂質スクランブル活性と比較して、低い場合または高い場合に、前記候補物質をXkr4の脂質スクランブル活性を調節する物質として選択すること;
を含む、スクリーニング方法。
[項11]
前記Xkr4の脂質スクランブル活性を調節する物質が、前記比較において、前記脂質スクランブル活性が前記候補物質を接触させていない前記細胞における脂質スクランブル活性よりも低い場合、前記調節する物質は、アポトーシスの促進が関与する状態または疾患の治療または予防のための薬剤候補である、項10に記載のスクリーニング方法。
[項12]
Xkr4の脂質スクランブル活性を誘発する物質のスクリーニング方法であって、以下の工程:
(1)C末端切断型Xkr4ポリペプチドであって、(α)配列番号2または36に記載のアミノ酸配列からなるC末端切断型Xkr4ポリペプチド、または(β)前記(α)ポリペプチドのアミノ酸配列において、欠失、置換、または付加もしくはそれらの組合せを含むアミノ酸配列を有し、かつ前記(α)のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を示し、かつXRCC4ポリペプチドとの相互作用により細胞膜において脂質スクランブル活性を示し得るC末端切断型Xkr4ポリペプチドを発現する細胞と、Xkr4の脂質スクランブル活性を誘発する可能性のある候補物質とを接触させること;
(2)前記候補物質と接触させた前記細胞における脂質スクランブル活性を測定すること;および
(3)前記脂質スクランブル活性が、前記候補物質を接触させていない前記細胞における脂質スクランブル活性と比較して高い場合に、前記候補物質をXkr4の脂質スクランブル活性を誘発する物質として選択すること;
を含む、スクリーニング方法。
【0008】
[項13]
Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する物質のスクリーニング方法であって、以下の工程:
(1)項2~4のいずれか一項に記載のXRCC4ポリペプチドが導入され、C末端切断型Xkr4ポリペプチドを発現する細胞と、Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する可能性のある候補物質とを接触させること;
(2)前記細胞における脂質スクランブル活性を測定すること;および
(3)前記脂質スクランブル活性が、前記候補物質と接触させていな前記細胞における脂質スクランブル活性よりも低い場合に、前記候補物質をXkr4の脂質スクランブル活性を阻害する物質として選択すること;
を含む、スクリーニング方法。
[項14]
Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する物質のスクリーニング方法であって、以下の工程:
(1)Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する可能性のある候補物質の存在下で、項2~4のいずれか一項に記載のXRCC4ポリペプチドと、C末端切断型Xkr4ポリペプチドとを接触させること;
(2)前記XRCC4ポリペプチドと前記C末端切断型Xkr4ポリペプチドとの結合を測定すること;および
(3)前記XRCC4ポリペプチドと前記C末端切断型Xkr4ポリペプチドとの前記結合が、前記候補物質の非存在下で前記XRCC4ポリペプチドと前記C末端切断型Xkr4ポリペプチドとを接触させた場合の結合よりも低い場合に、前記候補物質を、Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する物質として選択すること;
を含む、スクリーニング方法。
[項15]
前記脂質スクランブル活性が、リン脂質または糖脂質の取込み活性、または細胞膜の内側に位置するリン脂質の露出活性である、項10~14のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【0009】
[項16]
項14または15に記載のXkr4の脂質スクランブル活性を阻害する物質のスクリーニングのためのキットであって、
項2~4のいずれか一項に記載のXRCC4ポリペプチド;前記XRCC4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド;前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター;および前記ポリヌクレオチドを含む宿主細胞、または前記発現ベクターを含む宿主細胞からなる群より選択される少なくとも1つを含む、キット。
[項17]
目的とする表現型に対応する遺伝子を特定する方法であって、
(a)細胞のゲノムDNAの複数種の遺伝子のヌクレオチド配列に対応する少なくとも1種のガイド配列を含むガイドRNAを含む、ガイドRNAライブラリーを準備すること;
(b)前記ガイドRNAライブラリーが導入された細胞集団を得ること;
(c)前記細胞集団から目的とする表現型に基づいて細胞を選択すること;
(d)選択した細胞からゲノムDNAを回収すること;
(e)工程(b)~(d)が所定回数実施されるまで、回収したゲノムDNAから新たなガイドRNAライブラリーを準備し、前記新たなガイドRNAライブラリーを用いて工程(b)~(d)を実施すること;
(f)工程(b)~(d)が所定回数実施された場合に、回収したゲノムDNA中のガイド配列を決定すること;および
(g)決定されたガイド配列に対応する遺伝子を、前記目的とする表現型に対応する遺伝子として特定する工程を含み、
前記所定回数が少なくとも2回である、特定方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1(a)は、PLB細胞(parental)における脂質スクランブルアッセイを示すグラフである。図1(b)は、Xkr4WTを発現するPLB細胞における脂質スクランブルアッセイを示すグラフである。図1(c)はXkr4ΔCを発現するPLB細胞における脂質スクランブルアッセイを示すグラフである。図1(d)は、PLB細胞(parental)における蛍光アネキシンV染色アッセイの結果を示すグラフである。図1(e)は、Xkr4WTを発現するPLB細胞における蛍光アネキシンV染色アッセイの結果を示すグラフである。図1(f)はXkr4ΔCを発現するPLB細胞における蛍光アネキシンV染色アッセイの結果を示すグラフである。薄い灰色はSTS処理なし(コントロール)を示し、濃い灰色はSTS処理あり(アポトーシス刺激)を示す。バーはPC取込み、PS露出が陽性の領域を示す。
図2図2上段は、生き状態のXkr4WT-GFPを発現するPLB細胞をそれぞれ示す顕微鏡写真である。図2下段は、生き状態のXkr4ΔC-GFPを発現するPLB細胞をそれぞれ示す共焦点顕微鏡写真である。図2左列は、GFP由来の蛍光を示す顕微鏡写真である。図2中列は、微分干渉コントラスト(DIC)を示す顕微鏡写真である。図2右は、蛍光写真とDIC写真との重合せ写真を示す。スケールバーは10μmを示す。
【0011】
図3図3(a)は、カスパーゼ阻害剤の非存在下でのXkr4WT発現細胞における脂質スクランブルアッセイの結果を示すグラフである。図3(b)は、カスパーゼ阻害剤の存在下でのXkr4WT発現細胞における脂質スクランブルアッセイの結果を示すグラフである。図3(c)は、カスパーゼ阻害剤の非存在下でのXkr4Δ発現細胞における脂質スクランブルアッセイの結果を示すグラフである。図3(d)は、カスパーゼ阻害剤の存在下でのXkr4ΔC発現細胞における脂質スクランブルアッセイの結果を示すグラフである。薄い灰色は、STS処理なし(コントロール)を示し、濃い灰色はSTS処理あり(アポトーシス刺激)を示す。バーはPC取込みが陽性の領域を示す。
図4図4(a)は、Xkr4WTまたはXkr4ΔC発現細胞からの細胞膜溶解物のBN-PAGE後のウェスタンブロッティングを示す写真である。黒矢頭はXkr4単量体を示し、灰色矢頭はXkr4二量体を示す。図4(b)上段は、Xkr4WTまたはXkr4ΔC発現細胞からの細胞膜溶解物のSDS-PAGE後のウェスタンブロッティングを示す写真である。図4(b)下段はローディングコントロールとしてのCBB染色したPVDFメンブレンを示す写真ある。
【0012】
図5図5(a)は、2種類のユビキタスなスクランブラーゼであるXkr8およびTMEM16Fが欠失したBa/F3細胞(BDKO)を用いて恒常的に脂質スクランブル活性を示す細胞を樹立するストラテジーを示す模式図である。図5(b)は、Xkr4ΔCを発現するBDKO細胞集団からの恒常的にPCを取り込む細胞を選別するストラテジーの結果を示す一連のグラフである。
図6図6(a)は、Xkr4ΔCを発現するトランスフェクタント(parental)におけるPC取込みを示すグラフである。図6(b)は、6回ソーティングを行ったPC6におけるPC取込みを示すグラフである。図6(c)は、Xkr4に対するsgRNAを発現するPC細胞(PC6+sgXkr4)におけるPC取込みを示すグラフである。図6(d)上段は、Xkr4を検出するためのウェスタンブロッティングを示す写真である。図6(d)下段はローディングコントロールとしてのCBB染色したPVDFメンブレンを示す写真ある。
図7図7(a)は、1LPC0における脂質スクランブルアッセイの結果を示すグラフである。図7(b)は、1LPC3における脂質スクランブルアッセイの結果を示すグラフである。図7(c)は、2LPC0における脂質スクランブルアッセイの結果を示すグラフである。図7(d)は、2LPC1における脂質スクランブルアッセイの結果を示すグラフである。バーはPC取込みが陽性の領域を示す。
【0013】
図8図8(a)は、Xkr4全長または各種Xkr4バリアントを発現するBDKO細胞におけるPC取込みアッセイの結果を示すグラフである。図8(b)は、蛍光アネキシンV染色アッセイの結果を示すグラフである。バーはPS露出が陽性の領域を示す。
図9図9(a)上段は、Xkr4バリアントを発現するトランスフェクタントの細胞ライセートのBN-PAGE後のウェスタンブロッティングを示す写真である。黒矢頭はXkr4単量体を示し、灰色矢頭はXkr4二量体を示す。図9(a)中段は、所定のXkr4バリアントを発現するトランスフェクタントの細胞ライセートのSDS-PAGE後のウェスタンブロッティングを示す写真である。図9(a)下段はローディングコントロールとしてのCBB染色したPVDFメンブレンを示す写真ある。図9(b)上段は、所定のXkr4バリアントを発現するトランスフェクタントの細胞ライセートのSDS-PAGE後のウェスタンブロッティングを示す写真である。図9(b)下段はローディングコントロールとしてのCBB染色したPVDFメンブレンを示す写真ある。
【0014】
図10図10(a)は、細胞外にマグネシウムイオンもカルシウムイオンも含まない条件下でのPC取込みを示すグラフである。図10(b)は、細胞外にマグネシウムイオンを含むがカルシウムを含まない条件下でのPC取込みを示すグラフである。図10(c)は、細胞外にマグネシウムイオンを含まないがカルシウムイオンを含む条件下でのPC取込みを示すグラフである。図10(d)は、細胞外にマグネシウムイオンもカルシウムイオンも含む条件下でのPC取込みを示すグラフである。図10(a)~(d)において、バーはPC取込みが陽性の領域を示す。図10(e)は、細胞外カルシウム濃度に依存するPC取込みを示すグラフである。
図11図11(a)は、PC取込みに対するカルシウムイオノフォアの影響を示すグラフである。図11(b)は、Fluo4-AMに対する細胞外カルシウム、ならびにカルシウムイオノフォアの影響を示すグラフである。図11(c)は、Xkr4WTまたはXkr4ΔCを発現するトランスフェクタントにおけるPC取込み活性を示す一連のグラフである。図11(c)において、薄い灰色はSTS処理なしを示し、濃い灰色はSTS処理ありを示し、バーはPC取込みが陽性の領域を示す。
図12図12はリバイバルスクリーニングのフロー図である。
【0015】
図13図13(a)は樹立されたCAD KO PLB細胞のシーケンス分析を示す。CAD+/+において下線を付した配列はsgRNAターゲット配列を示す。CAD-/-において破線で示した領域は両方の対立遺伝子で削除されたヌクレオチド(7bps)を示す。図13(b)上段はCADのウェスタンブロッティングを示す写真である。親細胞およびCAD KO PLB細胞からの全細胞ライセートをSDS-PAGEに適用した後、抗CAD抗体を使用したウェスタンブロッティングに適用した。図13(b)下段はローディングコントロールとしてのCBB染色したPVDFメンブレンを示す写真ある。図13(c)はDNA断片化アッセイを示す写真である。親細胞およびCAD KO PLB細胞をSTSで4時間刺激し、可溶化バッファーで可溶化し、アガロースゲルに適用した。
図14図14(a)は、リバイバルスクリーニングにおいてXkr4ΔC-RFPが陽性であり、PC取込みが陰性である細胞を含む細胞集団(sgPC0:ソートなし)のフローサイトメトリーの結果を示すグラフである。図14(b)は、リバイバルスクリーニングにおいてXkr4ΔC-RFP陽性かつPC取込み陰性の細胞を含む細胞集団(sgPC2:2回ソート)のフローサイトメトリーの結果を示すグラフである。図14(c)は、リバイバルスクリーニングにおいてXkr4ΔC-RFP陽性かつPC取込み陰性の細胞を含む細胞集団(sgPC3:3回ソート)のフローサイトメトリーの結果を示すグラフである。バーはPC取込みが陰性の領域を示す。
【0016】
図15図15は、sgPC4細胞集団のゲノムDNAに組み込まれたsgRNA全体のNGS分析を示すグラフである。X軸は、6種のターゲットsgRNAのうち3種超のターゲットsgRNAが回収された遺伝子のリストを示す。Y軸は、リードにおいて同じ遺伝子に対応する異なるsgRNAの合計値を示す。シトクロムC(CYCS)およびAPAF1に対応するドット付近に各用語(CYCS、APAF1)を表記する。
図16図16(a)はsgPC6細胞集団のフローサイトメトリーによるPC取込みを示すグラフである。図16(b)はsgPC6細胞集団のフローサイトメトリーによるカスパーゼ3活性を示すグラフである。実線で囲んだ領域はソートされた領域を示す。
図17図17は、sgPC4細胞におけるターゲットsgRNAの読取り合計値に対するsgPC7細胞におけるターゲットsgRNAの読取り合計値の比を示す棒グラフである。
【0017】
図18図18(a)上段はPLB細胞におけるカスパーゼ3活性を示すグラフである。図18(a)下段はPLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図18(b)上段はXRCC4に対するsgRNAを用いたPLB細胞におけるカスパーゼ3活性を示すグラフである。図18(b)下段はXRCC4に対するsgRNAを用いたPLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図18(c)上段はCYCSに対するsgRNAを用いたPLB細胞におけるカスパーゼ3活性を示すグラフである。図18(c)下段はCYCSに対するsgRNAを用いたPLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図18(d)上段はAPAF1に対するsgRNAを用いたPLB細胞におけるカスパーゼ3活性を示すグラフである。図18(d)下段はAPAF1に対するsgRNAを用いたPLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図18(a)~(d)上段におけるバーは、カスパーゼ3活性陽性の領域を示す。図18(a)~(d)下段におけるバーはPC取込み陽性の領域を示す。
【0018】
図19図19(a)は、XRCC4ノックアウトPLB細胞の配列分析を示す図である。XRCC4+/+において下線を付したヌクレオチド配列は、XRCC4に対するsgRNAターゲット配列を示す。XRCC4-/-における破線は削除されたヌクレオチド(4bp)配列を示し、下線を付したヌクレオチドは追加されたヌクレオチド(1pb)を示す。図19(b)はCAD、V5およびXRCC4のウェスタンブロッティングを示す写真である。Parental細胞、CAD KO(CAD-/-)PLB細胞か、CAD/XRCC4ダブルKO(CAD-/- XRCC4-/-)PLB細胞、およびV5-Xkr4ΔC-FLAGの発現を発現するCAD-/- XRCC4-/- PLB細胞から全細胞ライセートを調製し、調製した全細胞ライセートをSDS-PAGEにかけた後、抗V5抗体、抗CAD抗体、および抗XRCC4抗体を用いたウェスタンブロッティングを行った。図19(b)下段はローディングコントロールとしてのCBB染色したPVDFメンブレンを示す写真ある。図19(c)上段は、XRCC4に関するウェスタンブロッティングを示す写真である。図19(c)中段は、活性化型カスパーゼ3に関するウェスタンブロッティングを示す写真である。C末端にRFPを融合したXRCC4 WTまたはXRCC4 2DAを発現するPLB細胞を、STSを用いてアポトーシス刺激を与えた。前記細胞からの全細胞ライセートを調製し、細胞ライセートをSDS-PAGEにかけた後、所定の抗体を用いたウェスタンブロッティングを行った。図19(c)下段はローディングコントロールとしてのCBB染色したPVDFメンブレンを示す写真ある。
【0019】
図20図20(a)はXRCC4-/-細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図20(b)はXRCC4 WTを発現するXRCC4-/-細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図20(c)はXRCC4 2DAを発現するXRCC4-/-細胞におけるPC取込みを示すグラフである。薄い灰色はコントロールを示し、濃い灰色はSTS処理ありを示す。バーはPC取込みが陽性の領域を示す。図20(d)はXkr4ΔC Q332E発現細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図20(e)はXRCC4に対するsgRNAを導入したXkr4ΔC Q332E発現細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図20(f)はCYCSに対するsgRNAを導入したXkr4ΔC Q332E発現細胞におけるPC取込みを示すグラフである。薄い灰色は、sgRNAを導入していないXkr4ΔCQ332E発現細胞におけるPC取込みを示す。
図21図21(上段)はV5(Xkrs)のウェスタンブロッティングを示す写真である。図21(中段)はRFP(XRCC4)のウェスタンブロッティングを示す写真である。XRCC4 WT-RFPを共発現するまたは発現しないN末端にV5をタグ付けしたXkrを発現するXRCC4 KO PLB細胞からの総細胞ライセートを、SDS-PAGEおよびウェスタンブロッティングに適用した。図21下段はローディングコントロールとしてのCBB染色したPVDFメンブレンを示す写真ある。
【0020】
図22図22(a)は、Xkr4を発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図22(b)は、Xkr8を発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図22(c)は、Xkr9を発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図22(d)は、Xkr4およびXCCR4 WTを共発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図22(e)は、Xkr8およびXCCR4 WTを共発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図22(f)は、Xkr9およびXCCR4 WTを共発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図22(a)~(f)において、薄い灰色はSTS処理なし(コントロール)を示し、濃い灰色はSTS処理あり(アポトーシス刺激)を示し、バーはPC取込みが陽性の領域を示す。図22(g)は、Xkr4を発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるカスパーゼ3活性を示すグラフである。図22(h)は、Xkr8を発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるカスパーゼ3活性を示すグラフである。図22(i)は、Xkr9を発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるカスパーゼ3活性を示すグラフである。図22(j)は、Xkr4およびXRCC4を共発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるカスパーゼ3活性を示すグラフである。図22(k)は、Xkr8およびXRCC4を共発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるカスパーゼ3活性を示すグラフである。図22(l)は、Xkr9およびXRCC4を共発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるカスパーゼ3活性を示すグラフである。図22(g)~(l)において、薄い灰色はSTS処理なし(コントロール)を示し、濃い灰色はSTS処理あり(アポトーシス刺激)を示し、バーはカスパーゼ3活性が陽性の領域を示す。
【0021】
図23図23(a)はC末端にRFPをタグ付けしたXRCC4 WT(XRCC4 WT-RFP)を発現するトランスフェクタントの顕微鏡写真である。図23(b)はN末端にRFPをタグ付けしたXRCC4 WT(RFP-XRCC4 WT)を発現するトランスフェクタントの顕微鏡写真である。図23(c)はC末端にRFPをタグ付けしたXRCC4 2DA(XRCC4 2DA-RFP)を発現するトランスフェクタントの顕微鏡写真である。図23(d)はN末端にRFPをタグ付けしたXRCC4 2DA(RFP-XRCC4 2DA)を発現するトランスフェクタントの顕微鏡写真である。矢頭は細胞質XRRC4を示す。スケールバーは10μmを示す。
【0022】
図24図24(a)上段はRFP-XRCC4 WTまたは2DAのウェスタンブロッティングを示す写真である。V5-Xkr4ΔC-FLAGおよびN末端にRFPを融合したXRCC4 WTを発現するXRCC4 KO PLB細胞、およびV5-Xkr4ΔC-FLAGおよびN末端にRFPを融合したカスパーゼ非切断型XRCC4 2DAを発現するXRCC4 KO PLB細胞に対してSTSによるアポトーシス刺激を与えた。前記細胞からの総細胞ライセートを調製し、前記細胞ライセートをSDS-PAGEにかけた後、抗RFP抗体を用いたウェスタンブロッティングにかけた。図24(a)下段はローディングコントロールとしてのCBB染色したPVDFメンブレンを示す写真ある。図24(b)はV5-Xkr4ΔC-FLAGおよびN末端RFP融合XRCC4 WTを発現するXRCC4 KO PLB細胞のPC取込み活性を示すグラフである。図24(c)はV5-Xkr4ΔC-FLAGおよびN末端RFP融合XRCC4 2DAを発現するXRCC4 KO PLB細胞のPC取込み活性を示すグラフである。図24(b)および(c)において、薄い灰色はSTS処理なし(コントロール)を示し、濃い灰色はSTS処理あり(アポトーシス刺激)を示し、バーはPC取込みが陽性の領域を示す。
図25図25はXRCC4ドメインの略図である。XLFはXLFバインディングドメインを示す。Dimerは二量化ドメインを示す。DNA Lig IVはDNA LigIV結合ドメインを示す。アミノ酸265位と266位との間はカスパーゼ認識サイトである。アミノ酸270-275は核局在化シグナル(NLS)領域を示す。
【0023】
図26図26(a)はXRCC4 KO PLB細胞(XRCC4-/-)におけるPC取込みを示すグラフである。図26(b)はXRCC4 WT(1-336)を発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図26(c)はN末端が部分的に欠失したXRCC4(116-336)を発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図26(d)はN末端が部分的に欠失したXRCC4(156-336)を発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図26(e)はN末端が部分的に欠失したXRCC4(204-336)を発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図26(f)はN末端が部分的に欠失したXRCC4(248-336)を発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図26(g)はN末端が部分的に欠失したXRCC4(256-336)を発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図26(h)はN末端が部分的に欠失したXRCC4(226-336)(「ΔN」ともいう)を発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図26(i)はC末端が部分的に欠失したXRCC4(1-305)を発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図26(j)はC末端が部分的に欠失したXRCC4(1-285)を発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図26(k)はC末端が部分的に欠失したXRCC4(1-265)(「ΔC」ともいう)を発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図26(l)はPC取込みを引き起こすXRCC4断片(「Mini」ともいう)を発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。PC取込みアッセイは10μM STSを用いて実施した。薄い灰色はSTS処理なし(コントロール)を示し、濃い灰色はSTS処理あり(アポトーシス刺激)を示す。バーはPC取込みが陽性の領域を示す。
【0024】
図27図27(a)上段はN末端が部分的に欠失したXRCC4-RFPのウェスタンブロッティングを示す写真である。白抜き矢頭は、XRCC4-RFPの予想タンパク質サイズを示す。黒矢頭は、カスパーゼで切断されたXRCC4のC末端断片を示す。アスタリスクは、分解産物を示す。図27(b)はXRCC4の天然変性領域(IDR)分析を示す。XRCC4のアミノ酸配列をソフトウェアIUPred2Aで解析し、そのスコアを示す。矢印は、カスパーゼ3切断部位を示す。図27(c)はC末端が部分的に欠失したXRCC4-RFPのウェスタンブロッティングを示す写真である。図27(d)はXRCC4ΔC-RFPおよびXRCC4ΔN-RFPのウェスタンブロッティングを示す写真である。図27(e)は所定の生物種におけるXRCC4アミノ酸配列のアライメントを示す。下線は、ヒトのXRCC4においてカスパーゼ切断部位の後のイソロイシンを示し、該イソロイシンはいくつかの生物種において同様の疎水性アミノ酸バリンに変更されている。実線で囲ったアミノ酸配列は所定の生物種において保存されている。図27(f)はXRCC4(Mini)-RFPのウェスタンブロッティングを示す写真である。図27(a、c、dおよびf)において、Xkrc4およびC末端にRFPが融合された所定のXRCC4を発現するXRCC4 KO PLB細胞にSTSによるアポトーシス刺激を与えた。前記細胞からの総細胞ライセートを調製し、前記細胞ライセートをSDS-PAGEにかけた後、抗RFP抗体を用いたウェスタンブロッティングにかけた。図27(a、c、dおよびf)下段はローディングコントロールとしてのCBB染色したPVDFメンブレンを示す写真ある。全細胞ライセートのローディング量を下部に示す(μg)。
【0025】
図28図28(a)は合成ペプチドC20およびC21のアミノ酸配列を示す図である。下線は、カスパーゼ認識サイトを示す。実線で囲ったアミノ酸配列はNLSを示す。図28(b)は合成ペプチドC20およびC21を用いたPSを露出するスクランブル活性を示すグラフである。図28(c)PS露出活性の定量化(任意単位 AU)を示す棒グラフである。1(AU)はC20を導入したXkr4ΔC発現細胞の蛍光強度に対応する。
図29図29(a)はRFPをC末端に融合したXRCC4 WTの細胞内分布を示す顕微鏡写真である。図29(b)はRFPをC末端に融合したXRCC4変異体(R270A)の細胞内分布を示す顕微鏡写真である。図29(c)はRFPをC末端に融合したXRCC4変異体(K271A)の細胞内分布を示す顕微鏡写真である。図29(d)はRFPをC末端に融合したXRCC4変異体(R272A)の細胞内分布を示す顕微鏡写真である。図29(e)はRFPをC末端に融合したXRCC4変異体(R273A)の細胞内分布を示す顕微鏡写真である。図29(f)はRFPをC末端に融合したXRCC4変異体(R275A)の細胞内分布を示す顕微鏡写真である。V5-Xkr4ΔC-FLAGを発現するXRCC4 KO PLB細胞を、所定のRFP融合XRCC4変異体でトランスフェクトし、前記RFP融合XRCC4変異体の細胞内分布を共焦点顕微鏡で分析した。核染色にはDRAQ5を使用した。DICは微分干渉コントラストを示す。スケールバーは20μmを示す。
【0026】
図30図30(a)はXRCC4 WTを発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図30(b)はXRCC4変異体(R270A)を発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図30(c)はXRCC4変異体(K271A)を発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図30(d)はXRCC4変異体(R272A)を発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図30(e)はXRCC4変異体(R273A)を発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。図30(f)はXRCC4変異体(R275A)を発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。PC取込みアッセイは10μM STSを用いて実施した。薄い灰色はSTS処理なし(コントロール)を示し、濃い灰色はSTS処理あり(アポトーシス刺激)を示す。バーはPC取込みが陽性の領域を示す。
【0027】
図31図31(a)上段はXRCC4変異体のウェスタンブロッティングを示す写真である。V5-Xkr4ΔC-FLAGおよびXRCC4-RFPを発現するXRCC4 KO PLB細胞に対してSTSによるアポトーシス刺激を与えた。前記細胞からの全細胞ライセートを調製し、前記細胞ライセートをSDS-PAGEにかけた後、抗RFP抗体を用いたウェスタンブロッティングにかけた。図31(a)下段はローディングコントロールとしてのCBB染色したPVDFメンブレンを示す写真ある。図31(b)は合成ペプチドを用いたPSを露出させるスクランブル活性を示す棒グラフである。下線はアラニン置換したアミノ酸部位を示す。XRCC4断片の変異体 C20-R270AおよびC20-K271Aを、BDKO細胞またはV5-Xkr4ΔC-FLAG(ΔC)を発現する細胞にエレクトロポレーションにて導入し、PS露出アッセイを行った。PS露出活性の定量化は、C20を導入したV5-Xkr4ΔC-FLAG発現細胞の蛍光強度を1(任意単位 AU)として示す。エラーバーは3重サンプルの平均値±S.D.を示す。P値はスチューデントのt検定に従って計算した。NSは有意でないことを示す。
図32図32(a)上段はSPOT-Xkr4ΔC-FLAGおよびXRCC4-WT-2A-RFPまたはXRCC4-R270A-2A-RFPを発現するXRCC4 KO PLB細胞の坑FLAG抗体を用いたウェスタンブロッティングを示す写真である。図32(b)中段はSPOT-Xkr4ΔC-FLAGおよびXRCC4-WT-2A-RFPまたはXRCC4-R270A-2A-RFPを発現するXRCC4 KO PLB細胞の坑XRCC4抗体を用いたウェスタンブロッティングを示す写真である。図32(c)下段はローディングコントロールとしてのCBB染色したPVDFメンブレンを示す写真ある。図32(b)はSPOT-Xkr4ΔC-FLAGおよびXRCC4-WT-2A-RFPまたはXRCC4-R270A-2A-RFPを発現するXRCC4 KO PLB細胞におけるPC取込みを示すグラフである。PC取込みアッセイは10μM STSを用いて実施した。図32(b)において、薄い灰色はSTS処理なし(コントロール)を示し、濃い灰色はSTS処理あり(アポトーシス刺激)を示し、バーはPC取込みが陽性の領域を示す。蛍光強度の中央値は、WTにおいて139であり、R270Aにおいて29.2であった。
図33図33はXkr4相互作用物質に関するラベルフリー定量を示す分布図である。PLB細胞の細胞膜画分を可溶化し、抗SPOTナノボディ結合ビーズを用いて免疫沈降させて、Xkr4相互作用物質を沈殿させた。その後、沈殿物を質量分析にかけた。X軸は、STSを用いたXRCC4 WTのペプチド数を、STSを用いていないXRCC4 WTのペプチド数で除した値を示す。Y軸は、STSを用いたXRCC4 WTのペプチド数を、STSを用いたXRCC4 R270Aのペプチド数で除した値を示す。
図34図34(a)はXkr4を用いて免疫沈降して同定された2つのXRCC4ペプチドの領域を示す模式図である。図34(b)はXRCC4ペプチド1の遷移の抽出イオンクロマトグラムである。ペプチド1を、PRMメソッドを用いたターゲット質量分析によって分析した。図34(c)はXRCC4の相対量をXkr4の相対量で標準化した値を示す棒グラフである。図34(d)はXRCC4ペプチド2の遷移の抽出イオンクロマトグラムである。ペプチドを、PRMメソッドを用いたターゲット質量分析によって分析した。図34(e)はXRCC4の相対量をXkr4の相対量で標準化した値を示す棒グラフである。図34(c)および(e)において、生細胞においてXkr4で沈殿させたXRCC4の相対量が1となるように、XRCC4の相対量をXkr4の相対量を用いて標準化した。
図35図35(a)はXkr4免疫沈降物におけるXRCC4の検出を示すウェスタンブロッティングの写真である。SPOT融合Xkr4と共に回収されたXRCC4 WT免疫沈殿物が検出された。図35(b)はXRCC4ペプチドの局在を示す顕微鏡写真である。C20-TMRをエレクトロポレーションにより、Xkr4WT-GFPまたはXkr4ΔC-GFPを発現するHCT116細胞に導入した。得られた細胞を共焦点顕微鏡で観察した。図35(c)は、図35(b)右列(Marged)に示す写真中、白点線矢印に沿ってラインスキャン分析した結果を示すグラフである。GFP由来の蛍光強度およびTMR由来の蛍光強度を示す。図35(c)において、Y軸は任意単位(AU)を示し、スケールバーは20μmを示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
Xkr4ポリペプチド
「Xkr4」は、Xkrファミリーに属し、10回膜貫通領域を有する膜タンパク質である。Xkr4は、特定の組織、例えば脳または皮膚で発現する。Xkr4は、例えばヒト、マウス、ブタを含む哺乳動物由来のXkr4であってよい。Xkr4は、例えば鳥類、爬虫類、両生類または魚類におけるXkr4の相同タンパク質であってよい。Xkr4のアミノ酸配列は、例えば公的に提供されるデータベースから入手可能であり、例えばGeneBnakから入手可能である。理論に拘泥するものではないが、Xkr4は、例えばアポトーシス刺激を受けた細胞において、カスパーゼによりその一部が切断され、二量体を形成し得る。二量体を形成したC末端切断型のXkr4は、後述するXRCC4ポリペプチドとの相互作用を通じて、脂質スクランブル活性を示し得る。
【0029】
Xkr4は、例えば以下に示す配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるまたは含むマウス由来のXkr4である。

【0030】
Xkr4は、例えば以下に示す配列番号35に記載のアミノ酸配列からなるまたは含むヒト由来のXkr4である。

【0031】
Xkr4は、例えば配列番号1または35に記載のアミノ酸配列において、1~100個、1~50個、1~30個、1~20個、1~10個、1~5個、4個、3個、2個または1個のアミノ酸欠失、置換、または付加もしくはそれらの組合せを含むアミノ酸配列からなる、または含む。Xkr4は、例えば配列番号1または35に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%または99%の配列同一性を示すアミノ酸配列からなる、または含む。
【0032】
「Xkr4ポリペプチド」は、(A)配列番号3~5および37~39のいずれかに記載のアミノ酸配列(具体的なアミノ酸配列を以下に示す)からなるポリペプチド;または(B)前記(A)のポリペプチドのアミノ酸配列において、欠失、置換、または付加もしくはそれらの組合せを含むアミノ酸配列を有し、かつ前記(A)のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を示し、かつXRCC4ポリペプチドとの相互作用なしに細胞膜において脂質スクランブル活性を示し得るポリペプチドである。


【0033】

【0034】
配列番号3に記載のアミノ酸配列は、配列番号2に記載のアミノ酸配列と比較して、配列番号1に記載のアミノ酸配列のアミノ酸残基の番号付けに従って、322位におけるイソロイシン(I)がセリン(S)に置換されている(I322S)。
【0035】
配列番号4に記載のアミノ酸配列は、配列番号2に記載のアミノ酸配列と比較して、配列番号1に記載のアミノ酸配列のアミノ酸残基の番号付けに従って、331位におけるロイシン(L)がフェニルアラニン(F)に置換されている(L331F)。
【0036】
配列番号5に記載のアミノ酸配列は、配列番号2に記載のアミノ酸配列と比較して、配列番号1に記載のアミノ酸配列のアミノ酸残基の番号付けに従って、332位におけるグルタミン(Q)がグルタミン酸(E)に置換されている(Q332E)。
【0037】
配列番号37に記載のアミノ酸配列は、配列番号36に記載のアミノ酸配列と比較して、配列番号35に記載のアミノ酸配列のアミノ酸残基の番号付けに従って、325位におけるイソロイシン(I)がセリン(S)に置換されている(I325S)。
【0038】
配列番号38に記載のアミノ酸配列は、配列番号36に記載のアミノ酸配列と比較して、配列番号35に記載のアミノ酸配列のアミノ酸残基の番号付けに従って、334位におけるロイシン(L)がフェニルアラニン(F)に置換されている(L334F)。
【0039】
配列番号39に記載のアミノ酸配列は、配列番号36に記載のアミノ酸配列と比較して、配列番号35に記載のアミノ酸配列のアミノ酸残基の番号付けに従って、335位におけるグルタミン(Q)がグルタミン酸(E)に置換されている(Q335E)。
【0040】
Xkr4ポリペプチドは、後述するXRCC4ポリペプチドとの相互作用なしに、細胞膜において脂質スクランブル活性を示すことができる。Xkr4ポリペプチドによる脂質スクランブル活性は、例えばヒトPLB985細胞(本明細書中「PLB細胞」ともいう)(文献26)における脂質スクランブル活性(例えばPC取込み活性)である。
【0041】
「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」は、ペプチド結合または修飾ペプチド結合によって互いに連結されたアミノ酸を含み、任意の長さのアミノ酸のポリマーを意味する。「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」は、互換性があるように使用される。アミノ酸は、遺伝子によってコードされる20種のアミノ酸、およびそれ以外の修飾アミノ酸を含む。ペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質は、例えば、天然源(細胞)由来であってもよく、遺伝子組み換え技術などにより人工的に調製されたものであってよい。ペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質は、例えば天然源または人工的に調製した後の試薬から単離または精製されたものであってよい。ペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質を単離する方法または精製する方法は、周知であり、例えばHPLCを用いてよい。
【0042】
本明細書において、前記(B)に係るXkr4ポリペプチドを「Xkr4ポリペプチドの変異体」ともいう。
【0043】
Xkr4ポリペプチドは、例えば遺伝子工学技術により調製することができる。Xkr4ポリペプチドは、例えば本明細書に記載のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドから、転写および翻訳させることにより調製することができる。Xkr4ポリペプチドは、例えば後述するXkr4の脂質スクランブル活性を阻害または誘発する物質のスクリーニング方法に利用することができる。
【0044】
Xkr4ポリペプチドの変異体は、例えば配列番号1に記載のアミノ酸配列において、配列番号1に記載のアミノ酸配列のアミノ酸残基の番号付けに従って、322位のイソロイシンに代えてセリン、331位のロイシンに代えてフェニルアラニン、および332位のグルタミンに代えてグルタミン酸からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を有する。Xkr4ポリペプチドの変異体は、例えば配列番号35に記載のアミノ酸配列において、配列番号35に記載のアミノ酸配列のアミノ酸残基の番号付けに従って、325位のイソロイシンに代えてセリン、334位のロイシンに代えてフェニルアラニン、および335位のグルタミンに代えてグルタミン酸からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を有する。
【0045】
アミノ酸の「欠失」は、所定のアミノ酸配列における任意の位置のアミノ酸残基が失われていること意味する。Xkr4ポリペプチドの変異体は、例えば前記(A)に係るXkr4ポリペプチドのアミノ酸配列において、そのN末端、C末端、および/またはN末端とC末端の間のアミノ酸配列におけるアミノ酸が失われていてもよい。1つの実施形態において、前記アミノ酸の欠失を有するXkr4ポリペプチドの変異体は、前記(A)に係るXkr4ポリペプチドのアミノ酸配列において、そのN末端またはN末端とC末端の間のアミノ酸配列におけるアミノ酸が失われていてもよい。
【0046】
配列番号3~5のいずれかに記載のアミノ酸配列においてアミノ酸の欠失を有するXkr4ポリペプチドの変異体は、例えば500~563アミノ酸長、520~563アミノ酸長、540~563アミノ酸長、550~563アミノ酸長、560~563アミノ酸長、561アミノ酸長、562アミノ酸長、または563アミノ酸長であってよい。配列番号37~38のいずれかに記載のアミノ酸配列においてアミノ酸の欠失を有するXkr4ポリペプチドの変異体は、例えば500~566アミノ酸長、520~566アミノ酸長、540~566アミノ酸長、550~566アミノ酸長、560~566アミノ酸長、565または566アミノ酸長であってよい。
【0047】
アミノ酸の「付加」は、所定のアミノ酸配列における任意の位置にアミノ酸残基が追加または挿入されていることを意味する。Xkr4ポリペプチドの変異体は、例えば前記(A)に係るXkr4ポリペプチドのアミノ酸配列において、そのN末端、C末端、および/またはN末端とC末端の間のアミノ酸配列においてアミノ酸が追加または挿入されていてもよい。1つの実施形態において、Xkr4ポリペプチドの変異体は、前記(A)に係るXkr4ポリペプチドのアミノ酸配列において、そのN末端またはN末端とC末端の間のアミノ酸配列においてアミノ酸が付加または挿入されていてもよい。
【0048】
配列番号3~5のいずれかに記載のアミノ酸配列においてアミノ酸の付加を有するXkr4ポリペプチドの変異体は、例えば565~600アミノ酸長、565~590アミノ酸長、565~580アミノ酸長、565~570アミノ酸長、569アミノ酸長、568アミノ酸長、567アミノ酸長、566アミノ酸長、または565アミノ酸長であってよい。配列番号37~38のいずれかに記載のアミノ酸配列においてアミノ酸の付加を有するXkr4ポリペプチドの変異体は、例えば568~600アミノ酸長、568~590アミノ酸長、568~580アミノ酸長、568~570アミノ酸長、569アミノ酸長、または568アミノ酸であってよい。
【0049】
アミノ酸の「置換」は、所定のアミノ酸配列における任意の位置のアミノ酸残基が別のアミノ酸残基に置き換えられていることを意味する。アミノ酸の置換は、例えば保存的置換であってよい。アミノ酸の「保存的置換」は、ポリペプチド内のアミノ酸残基が、側鎖について類似の特徴(例えば、電荷、側鎖サイズ、疎水性/親水性)を有するアミノ酸の群のうちの他のアミノ酸残基で置き換えられていることを意味する。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸の群は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシンからなる; 脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸の群は、セリンおよびスレオニンからなる; アミド含有側鎖を有するアミノ酸の群は、アスパラギンおよびグルタミンからなる; 芳香族側鎖を有するアミノ酸の群は、フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンからなる; 塩基性側鎖を有するアミノ酸の群は、リジン、アルギニン、およびヒスチジンからなる; 酸性側鎖を有するアミノ酸の群は、グルタミン酸塩およびアスパラギン酸からなる; 並びに硫黄含有側鎖を有するアミノ酸の群は、システインおよびメチオニンからなる。例示的なアミノ酸の保存的置換は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、およびアスパラギン-グルタミンである。
【0050】
Xkr4ポリペプチドは、機能的なポリペプチド(例えばSPOTまたはFLAGなどのタグ配列、もしくは緑色蛍光タンパク質などの標識タンパク質)が融合されていてもよい。融合タンパク質におけるXkr4ポリペプチドの変異体は、前記融合タンパク質のアミノ酸配列から機能的なポリペプチドのアミノ酸配列を除いた、アミノ酸配列を有する。
【0051】
「配列同一性」は、最適にアライメント(整列)された2つのポリヌクレオチド配列間または2つのアミノ酸列間の配列類似性を意味する。2つの比較される配列の両方における位置が同一の塩基またはアミノ酸である場合、前記2つの分子はその位置において同一である。同一性の割合(%)は、2つの配列において同一である位置の数を、比較される位置の総数で割り算し、100を掛け算した値である。配列同一性は、商業的または公的に入手可能なソフトウェア、例えばBLAST+を用いて算出することができる。
【0052】
1つの実施形態において、Xkr4ポリペプチドの変異体のアミノ酸配列とXkr4ポリペプチドのアミノ酸配列との配列同一性は、Xkr4ポリペプチドの変異体のアミノ酸配列と、配列番号3~5および37~39(例えば配列番号37)のいずれかに記載のアミノ酸配列とから算出される。
【0053】
「アミノ酸残基の番号付け」は、特定の配列においてN末端(左端)からC末端(右端)から昇順に数字を割り当てることで設定される。例えばASGの配列において、左端のアミノ酸であるアラニン(A)には1位を割り当て、右端のアミノ酸であるグリシン(G)には3位が割り当てられる。
【0054】
Xkr4の「脂質スクランブル活性」は、例えばリン脂質または糖脂質の取込み活性、または細胞膜の内側に位置するリン脂質の露出活性を含む。「リン脂質」は、細胞膜を構成するリン脂質である。リン脂質は、例えばホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリンまたはホスファチジルイノシトールである。「糖脂質」は、細胞膜を構成する糖脂質である。糖脂質は、例えばグリセロ糖脂質またはスフィンゴ糖脂質である。
【0055】
リン脂質または糖脂質の「取込み活性」は、細胞外に存在するリン脂質または糖脂質を、前記細胞の細胞膜に取り込む作用である。リン脂質または糖脂質の取込み活性は、例えば蛍光標識したリン脂質または糖脂質を用いて測定することができる。リン脂質または糖脂質の取込み活性は、例えば、蛍光標識化リン脂質または糖脂質をXkr4ポリペプチドを発現する細胞(たとえばPLB細胞)の培養培地に添加し、蛍光標識化リン脂質または糖脂質が前記細胞の細胞膜に取り込ませた後に、取り込まれた蛍光標識したリン脂質または糖脂質に由来する蛍光を検出することにより測定することができる。蛍光標識としては、例えばニトロベンゾオキサジアゾール(NBD)およびTopFluorなどの蛍光物質を用いることができる。リン脂質または糖脂質への蛍光標識は、公知の方法を用いて実施することができる。蛍光標識化リン脂質または糖脂質は商業的に入手可能である。
【0056】
リン脂質または糖脂質の取込み活性は、例えば、Xkr4ポリペプチドを恒常的に発現するPLB細胞を、マイクロウェルプレートにて培養し、その培養液に蛍光標識化リン脂質または糖脂質を添加して、細胞膜に取り込ませる。所定時間経過後に、未反応の蛍光標識化リン脂質または糖脂質を含む培養培地を新たな培養培地に交換した後に、例えばプレートリーダーにて細胞膜に取り込まれた蛍光標識化リン脂質または糖脂質由来の蛍光を測定することができる。測定した蛍光強度を、陰性対照由来の蛍光強度と比較して、リン脂質または糖脂質の取込みの有無または程度を決定することができる。Xkr4ポリペプチドを恒常的に発現するPLB細胞における蛍光強度が、例えば陰性対照における蛍光強度よりも高い、例えば少なくとも2倍、3倍、5倍、または10倍高い場合に、リン脂質または糖脂質の取込みがあると判定してよい。
【0057】
リン脂質または糖脂質の取込み活性は、例えば、上記と同様にして、蛍光標識化リン脂質または糖脂質を取り込ませたXkr4ポリペプチドを恒常的に発現するPLB細胞を、マイクロウェルプレートから回収し、回収した細胞懸濁液をフローサイトメトリー法にて測定することができる。所定の蛍光強度を示す細胞集団の割合を、陰性対照由来の細胞集団の割合と比較して、リン脂質または糖脂質の取込みの有無または程度を決定することができる。所定の蛍光強度を示す細胞集団の割合は、例えば1個の細胞あたりの蛍光強度を示す細胞の分布図において、所定のゲートを設け、そのゲートを上回る細胞数を測定した細胞の総数で除することで算出することができる。所定のゲートは、例えば陰性対照の1個の細胞あたりの蛍光強度を示す細胞の分布図において、所定の蛍光強度を示す細胞集団の割合が3%以下となる位置に設定することができる。Xkr4ポリペプチドを恒常的に発現するPLB細胞における前記所定のゲート中の細胞集団の割合が、例えば陰性対照における前記所定のゲート中の細胞集団の割合よりも高い、例えば少なくとも2倍、3倍、5倍、または10倍高い場合に、リン脂質または糖脂質の取込みがあると判定してよい。
【0058】
1つの実施形態において、リン脂質または糖脂質の取込み活性は、NBDで標識したホスファチジルコリン(NBD-PC)またはホスファチジルセリン(NBD-PS)を用いた、PC、PS取込み活性であってよい。
【0059】
リン脂質の「露出活性」は、リン脂質の非対称性を示す細胞膜において、その内側に位置するホスファチジルセリン(PS)またはホスファチジルエタノールアミン(PE)を、細胞膜の外側に露出させる作用である。リン脂質の露出活性は、例えばPSまたはPEに結合する分子に蛍光標識した検出試薬を用いて測定することができる。リン脂質の露出活性は、例えば検出試薬をXkr4ポリペプチドを発現する細胞(たとえばPLB細胞)の培養培地に添加して、所定時間経過後に、細胞膜に結合した検出試薬に由来する蛍光を検出することにより測定することができる。蛍光標識としては、例えばCy5、Alexa657などの蛍光物質を用いることができる。PSまたはPEに結合する分子としては、例えばアネキシンVを用いることができる。PSまたはPEへの蛍光標識は、公知の方法を用いて実施することができる。蛍光標識されたアネキシンVは商業的に入手可能である。
【0060】
リン脂質の露出は、例えばXkr4ポリペプチドを恒常的に発現するPLB細胞を、マイクロウェルプレートにて培養し、その培養液に検出試薬を添加して、細胞膜の外側に露出したPSまたはPEに結合させる。所定時間経過後に、未反応の検出試薬を含む培養培地を新たな培養培地に交換した後に、例えばプレートリーダーにて細胞膜に結合した検出試薬由来の蛍光を測定することができる。測定した蛍光強度を、陰性対照由来の蛍光強度と比較して、リン脂質の露出活性の有無または程度を決定することができる。陰性対照としては、例えば野生型のPLB細胞(Xkr4ポリペプチドを発現していない)を用いたことを除いて同様にして試験を行った結果であってよい。
【0061】
リン脂質の露出活性は、例えば、上記と同様にして、検出試薬を結合させた、Xkr4ポリペプチドを恒常的に発現するPLB細胞を、マイクロウェルプレートから回収し、回収した細胞懸濁液をフローサイトメトリー法にて測定することができる。所定の蛍光強度を示す細胞集団の割合を、陰性対照由来の細胞集団の割合と比較して、リン脂質の露出活性の有無または程度を決定することができる。所定の蛍光強度を示す細胞集団の割合は、例えば1個の細胞あたりの蛍光強度を示す細胞の分布図において、所定のゲートを設け、そのゲートを上回る細胞数を測定した細胞の総数で除することで算出することができる。所定のゲートは、例えば陰性対照の1個の細胞あたりの蛍光強度を示す細胞の分布図において、所定の蛍光強度を示す細胞集団の割合が3%以下となる位置に設定することができる。
【0062】
1つの実施形態において、Xkr4ポリペプチドの変異体は、例えば配列番号1に記載のアミノ酸配列における連続する500~600アミノ酸長、520~580アミノ酸長、530~570アミノ酸長、540~570アミノ酸長、または550~570のアミノ酸長のアミノ酸配列からなり、かつ前記アミノ酸長のアミノ酸配列において、配列番号1に記載のアミノ酸配列のアミノ酸残基の番号付けに従って、322位のイソロイシンに代えてセリン、331位のロイシンに代えてフェニルアラニン、および332位のグルタミンに代えてグルタミン酸からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を有し、かつ前記変異体のアミノ酸配列とXkr4ポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%または99%の配列同一性を有し; および前記変異体が、XRCC4ポリペプチドとの相互作用なしに細胞膜において脂質スクランブル活性を示す。
【0063】
1つの実施形態において、Xkr4ポリペプチドの変異体は、例えば配列番号35に記載のアミノ酸配列における連続する500~600アミノ酸長、520~580アミノ酸長、530~570アミノ酸長、540~570アミノ酸長、または550~570のアミノ酸長のアミノ酸配列からなり、かつ前記アミノ酸長のアミノ酸配列において、配列番号35に記載のアミノ酸配列のアミノ酸残基の番号付けに従って、325位のイソロイシンに代えてセリン、334位のロイシンに代えてフェニルアラニン、および335位のグルタミンに代えてグルタミン酸からなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を有し、かつ前記変異体のアミノ酸配列とXkr4ポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%または99%の配列同一性を有し; および前記変異体が、XRCC4ポリペプチドとの相互作用なしに細胞膜において脂質スクランブル活性を示す。
【0064】
「XRCC4ポリペプチドとの相互作用なしに細胞膜において脂質スクランブル活性を示し得る」は、Xkr4ポリペプチドの変異体が、後述するXRCC4ポリペプチドが存在しない状況下、Xkr4ポリペプチドの変異体を発現する細胞の細胞膜において、PC取込み活性を示すことを意味する。例えば、Xkr4ポリペプチドの変異体は、XRCC4ポリペプチドが存在しない状況下での、Xkr4ポリペプチドの変異体(例えば配列番号37に記載のアミノ酸配列からなる)を発現するPLB細胞(被検体)におけるPC取込み活性と、前記Xkr4ポリペプチドの変異体を発現しないことを除いて同一のPLB細胞(陰性対照)におけるPC取込み活性とを比較し、陰性対照のPC取込み活性よりも被検体のPC取込み活性が高い場合、例えば少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、または10倍高い場合、XRCC4ポリペプチドとの相互作用なしに細胞膜において脂質スクランブル活性を示し得ると特定される。前記PC取込み活性は、本明細書に開示した方法(例えばフローサイトメトリーを利用した方法)により測定することができる。
【0065】
Xkr4ポリペプチドの変異体に関する用語「陰性対照の細胞」は、Xkr4ポリペプチドの変異体を発現していないことを除いて、PC取込み活性の測定に用いたXkr4ポリペプチドの変異体を発現する細胞と同じ細胞である。前記陰性対照の細胞としては、例えば野生型のPLB細胞(Xkr4ポリペプチドを発現していない)であってよい。
【0066】
Xkr4ポリペプチドの変異体は、例えば本明細書に開示したアミノ酸長、アミノ酸置換、配列同一性、および脂質スクランブル活性(例えばPC取込み活性)の任意の組合せを有する。
【0067】
XRCC4ポリペプチド
「XRCC4」は、DNA修復タンパク質であり、ヒトではXRCC4遺伝子にコードされている。XRCC4は、核内に局在し得る。XRCC4は、例えばヒト、マウス、ブタを含む哺乳動物由来のXRCC4であってよい。XRCC4は、例えば鳥類、爬虫類、両生類または魚類におけるXRCC4の相同タンパク質であってよい。XRCC4のアミノ酸配列は、例えば公的に提供されるデータベースから入手可能であり、例えばGeneBnakから入手可能である。理論に拘泥するものではないが、XRCC4は、例えばアポトーシス刺激を受けた細胞において、カスパーゼによりその一部が切断され、切断されたXRCC4ポリペプチドが、細胞質に拡散する。XRCC4ポリペプチドは、二量体を形成したC末端切断型のXkr4との相互作用を通じて、Xkr4の脂質スクランブル活性を誘発し得る。
【0068】
XRCC4は、例えば以下に示す配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるまたは含むヒト由来のXRCC4である。

【0069】
XRCC4は、例えば配列番号6に記載のアミノ酸配列において、1~50個、1~30個、1~20個、1~10個、1~5個、4個、3個、2個または1個のアミノ酸欠失、置換、または付加もしくはそれらの組合せを含むアミノ酸配列からなる、または含む。XRCC4は、例えば配列番号6に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%または99%の配列同一性を示すアミノ酸配列からなる、または含む。
【0070】
「XRCC4ポリペプチド」は、(a)配列番号7~12および42のいずれかに記載のアミノ酸配列(具体的なアミノ酸配列を以下に示す)からなるポリペプチド;または(b)前記(a)のポリペプチドのアミノ酸配列において、欠失、置換、または付加もしくはそれらの組合せを含むアミノ酸配列を有し、かつ前記(a)のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を示し、かつC末端切断型Xkr4ポリペプチドとの相互作用により細胞膜における脂質スクランブル活性を誘発し得るポリペプチドである。


【0071】
配列番号7に記載のアミノ酸配列は、配列番号6に記載のアミノ酸配列のうち、配列番号6に記載のアミノ酸配列の番号付けに従って、266位~285位の連続する20アミノ酸長のアミノ酸配列である。
【0072】
配列番号8に記載のアミノ酸配列は、配列番号7に記載のアミノ酸配列と比較して、配列番号6に記載のアミノ酸配列の番号付けに従って、271位におけるリジン(K)がアラニン(A)に置換されている(K271A)。
【0073】
配列番号9に記載のアミノ酸配列は、配列番号7に記載のアミノ酸配列と比較して、配列番号6に記載のアミノ酸配列の番号付けに従って、272位におけるアルギニン(R)がアラニン(A)に置換されている(R272A)。
【0074】
配列番号10に記載のアミノ酸配列は、配列番号7に記載のアミノ酸配列と比較して、配列番号6に記載のアミノ酸配列の番号付けに従って、273位におけるアルギニン(R)がアラニン(A)に置換されている(K273A)。
【0075】
配列番号11に記載のアミノ酸配列は、配列番号7に記載のアミノ酸配列と比較して、配列番号6に記載のアミノ酸配列の番号付けに従って、275位におけるアルギニン(R)がアラニン(A)に置換されている(K275A)。
【0076】
配列番号12に記載のアミノ酸配列は、配列番号6に記載のアミノ酸配列の番号付けに従って、256位~285位の連続する30アミノ酸長のアミノ酸配列である。
【0077】
配列番号42に記載のアミノ酸配列は、配列番号6に記載のアミノ酸配列の番号付けに従って、256位~336位の連続する81アミノ酸長のアミノ酸配列である。
【0078】
XRCC4ポリペプチドは、二量体を形成したC末端切断型のXkr4との相互作用により、細胞膜においてXkr4の脂質スクランブル活性を示し得る。XRCC4ポリペプチドによるXkr4の脂質スクランブル活性は、例えばPLB細胞における脂質スクランブル活性(例えばPC取込み活性)である。
【0079】
本明細書において、前記(b)に係るXRCC4ポリペプチドを「XRCC4ポリペプチドの変異体」ともいう。
【0080】
XRCC4ポリペプチドは、例えば公知の方法(例えば遺伝子工学技術または化学合成技術)に従って調製することができる。XRCC4ポリペプチドは、例えば本明細書に記載のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドから、転写および翻訳させることにより調製することができる。XRCC4ポリペプチドは、例えば後述するXkr4の脂質スクランブル活性を阻害する物質のスクリーニング方法に、またはXkr4を活性化するための組成物の1つの成分として利用することができる。
【0081】
XRCC4ポリペプチドの変異体は、例えば18~100アミノ酸長、18~80アミノ酸長、18~60アミノ酸長、または18~50アミノ酸長;19~100アミノ酸長、19~80アミノ酸長、19~60アミノ酸長、または19~50アミノ酸長;あるいは20~100アミノ酸長、20~80アミノ酸長、20~60アミノ酸長、または20~50アミノ酸長のアミノ酸配列からなる。XRCC4ポリペプチドの変異体は、例えば、配列番号42に記載のアミノ酸配列における連続する50~80のアミノ酸配列を含み、かつ50~100アミノ酸長、60~100アミノ酸長、または70~100アミノ酸長;50~90アミノ酸長、60~90アミノ酸長、または70~90アミノ酸長;あるいは70~100アミノ酸長、70~90アミノ酸長、75~90アミノ酸長、または75~85アミノ酸長のアミノ酸配列からなる。XRCC4ポリペプチドの変異体は、例えば、配列番号7または12に記載のアミノ酸配列を含み、かつ18~100アミノ酸長、18~80アミノ酸長、18~60アミノ酸長、または18~50アミノ酸長;19~100アミノ酸長、19~80アミノ酸長、19~60アミノ酸長、または19~50アミノ酸長;あるいは20~100アミノ酸長、20~80アミノ酸長、20~60アミノ酸長、または20~50アミノ酸長のアミノ酸配列からなる。
【0082】
XRCC4ポリペプチドの変異体は、例えば、配列番号7または12に記載のアミノ酸配列を含み、かつ配列番号6に記載のアミノ酸配列における連続する18~100アミノ酸長、18~80アミノ酸長、18~60アミノ酸長、または18~50アミノ酸長;19~100アミノ酸長、19~80アミノ酸長、19~60アミノ酸長、または19~50アミノ酸長;あるいは20~100アミノ酸長、20~80アミノ酸長、20~60アミノ酸長、または20~50アミノ酸長のアミノ酸配列からなる。
【0083】
XRCC4ポリペプチドの変異体は、例えばその変異体のアミノ酸長が20~50である場合、前記(a)に係るXRCC4ポリペプチドのアミノ酸配列において1~5個、1~4個、1~3個、2個または1個のアミノ酸付加、置換または欠失もしくはそれらの組合せを含む。XRCC4ポリペプチドの変異体は、例えばその変異体のアミノ酸長が51~100である場合、前記(a)に係るXRCC4ポリペプチドのアミノ酸配列において1~15個、1~10個、1~5個、1~4個、1~3個、2個または1個のアミノ酸付加、置換または欠失もしくはそれらの組合せを含む。
【0084】
1つの実施形態において、XRCC4ポリペプチドの変異体は、配列番号6に記載のアミノ酸配列のアミノ酸残基の番号付けに従って、270位のアルギニンを含む。1つの実施形態において、XRCC4ポリペプチドの変異体は、配列番号6に記載のアミノ酸配列のアミノ酸残基の番号付けに従って、265位にメチオニンを含まない。1つの実施形態において、XRCC4ポリペプチドの変異体は、配列番号6に記載のアミノ酸配列のアミノ酸残基の番号付けに従って、270位のアルギニンを含み、かつ、265位にメチオニンを含まない。
【0085】
1つの実施形態において、XRCC4ポリペプチドの変異体は、以下の群より選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含む:配列番号6に記載のアミノ酸配列の番号付けに従って、K271A、R272A、K273AおよびK275A。1つの実施形態において、XRCC4ポリペプチドの変異体は、例えば配列番号6に記載のアミノ酸配列のアミノ酸残基の番号付けに従って、270位のアルギニンおよび以下の群より選択される少なくとも1つのアミノ酸置換のいずれか一方または両方を含み、かつ265位にメチオニンを含まない:配列番号6に記載のアミノ酸配列の番号付けに従って、K271A、R272A、K273AおよびK275A。
【0086】
XRCC4ポリペプチドは、機能的なポリペプチド(例えばSPOTまたはFLAGなどのタグ配列、もしくは緑色蛍光タンパク質などの標識タンパク質)が融合されていてもよい。融合タンパク質におけるXRCC4ポリペプチドの変異体は、前記融合タンパク質のアミノ酸配列から機能的なポリペプチドのアミノ酸配列を除いた、アミノ酸配列を有する。
【0087】
XRCC4ポリペプチドの変異体は、配列番号7~12のいずれかに記載のアミノ酸配列において欠失、置換、または付加もしくはそれらの組合せを含むアミノ酸配列を有し;前記変異体が、18~100アミノ酸長、18~80アミノ酸長、18~60アミノ酸長、または18~50アミノ酸長;19~100アミノ酸長、19~80アミノ酸長、19~60アミノ酸長、または19~50アミノ酸長;あるいは20~100アミノ酸長、20~80アミノ酸長、20~60アミノ酸長、または20~50アミノ酸長のアミノ酸配列からなり;前記変異体のアミノ酸配列とXRCC4ポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%または99%の配列同一性を有し;および前記変異体が、C末端切断型Xkr4ポリペプチドとの相互作用により細胞膜において脂質スクランブル活性を誘発し得る。
【0088】
1つの実施形態において、XRCC4ポリペプチドの変異体のアミノ酸配列とXRCC4ポリペプチドのアミノ酸配列との配列同一性は、XRCC4ポリペプチドの変異体のアミノ酸配列と、配列番号7~12(例えば配列番号12)のいずれかに記載のアミノ酸配列とから算出される。
【0089】
「C末端切断型Xkr4ポリペプチドとの相互作用により細胞膜において脂質スクランブル活性を誘発し得る」は、XRCC4ポリペプチドの変異体が導入され、かつC末端切断型Xkr4ポリペプチドを発現する細胞の細胞膜において、前記XRCC4ポリペプチドの変異体がPC取込み活性を誘発することを意味する。例えば、XRCC4ポリペプチドの変異体が導入され、かつ配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるC末端切断型Xkr4ポリペプチドを発現するPLB細胞(被検体)におけるPC取込み活性と、前記変異体が導入されていないことを除いて同一のPLB細胞(陰性対照)におけるPC取込み活性とを比較し、陰性対照のPC取込み活性よりも被検体のPC取込み活性が高い場合、例えば少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、または10倍高い場合、前記XRCC4ポリペプチドの変異体はC末端切断型Xkr4ポリペプチドとの相互作用により細胞膜において脂質スクランブル活性を誘発し得ると特定される。前記PC取込み活性は、本明細書に開示した方法(例えばフローサイトメトリーを利用した方法)により測定することができる。
【0090】
XRCC4ポリペプチドの変異体は、例えば本明細書に開示したアミノ酸長、アミノ酸置換、配列同一性、および脂質スクランブル活性(例えばPC取込み活性)の任意の組合せを有する。
【0091】
ペプチドまたはタンパク質の細胞への「導入」または「導入する」は、前記ペプチドまたはタンパク質を細胞内に存在させることである。前記ペプチドまたはタンパク質の細胞への導入は、前記ペプチドまたはタンパク質を細胞外から細胞内に入れること、および前記ペプチドまたはタンパク質を細胞内で発現させることを含む。前記ペプチドまたはタンパク質の細胞への導入は、公知の方法に従って実施することができる。前記ペプチドまたはタンパク質を細胞外から細胞内に入れることは、例えばリポフェクションまたはエレクトロポレーションによって実施することができる。前記ペプチドまたはタンパク質を細胞内で発現させることは、例えば前記ペプチドまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドまたは前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを用いて細胞をトランスフェクトし、前記細胞内で前記ペプチドまたはタンパク質を発現させることによって、実施することができる。1つの実施形態において、XRCC4ポリペプチドまたはXRCC4ポリペプチドは、リポフェクションまたはエレクトロポレーションにより細胞内に導入することができる。
【0092】
ポリヌクレオチド
「ポリヌクレオチド」は、あらゆる長さのヌクレオチドの重合体形態であり、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドである。ポリヌクレオチドは、例えば一本鎖、二本鎖または多鎖のDNAまたはRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA-RNAハイブリッド、またはプリンおよびピリミジン塩基もしくは他の天然の、化学的もしくは生化学的に修飾された、非天然の、もしくは誘導体化されたヌクレオチド塩基を含む重合体を含む。ポリヌクレオチドは、一本鎖のポリヌクレオチド(センスまたはアンチセンス等)および二本鎖のポリヌクレオチドを含む。所定のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドは、例えば公知の方法(例えば遺伝子工学技術または化学合成技術)に従って調製することができ、または商業的に入手可能である。
【0093】
1つの実施形態において、ポリヌクレオチドは、本明細書に開示したXkr4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。1つの実施形態において、ポリヌクレオチドは、本明細書に開示したXRCC4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。1つの実施形態において、ポリヌクレオチドは、Xkr4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列およびXRCC4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を、同一のポリヌクレオチドに含んでもよく、別個のポリヌクレオチドに含んでもよい。
【0094】
発現ベクター
「発現ベクター」は、宿主細胞中にて外来ポリヌクレオチドの導入、複製または発現を可能にする遺伝要素である。発現ベクターは、例えば別のポリヌクレオチド、すなわちインサートがプロモーターに作動可能に連結されることで、宿主細胞内において前記別のポリヌクレオチドの複製、転写または発現を行わせ得る。発現ベクターは、例えば宿主細胞のゲノムに安定に組込まれるかまたは独立の遺伝要素(たとえばエピソーム、プラスミド)として存在してよい。発現ベクターは、例えばプラスミド、ファージ、ウイルスまたはコスミドである。別のポリヌクレオチドを連結するための発現ベクターは、例えば公知の方法(例えば遺伝子工学技術)に従って調製することができ、または商業的に入手可能である。
【0095】
「作動可能に連結された」は、連結されたポリヌクレオチドが、意図された様式にて機能できること、すなわち意図された様式にて転写され、場合により翻訳されることを示す。意図された様式は、例えばテトラサイクリンなどの添加物が存在した場合に、連結されたポリヌクレオチドの転写、場合により翻訳を可能にするような条件、または高発現または低発現などの発現量を示す。
【0096】
1つの実施形態において、発現ベクターは、本明細書に開示したポリヌクレオチドを含む。1つの実施形態において、発現ベクターは、本明細書に開示したXkr4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを含む。1つの実施形態において、発現ベクターは、本明細書に開示したXRCC4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを含む。1つの実施形態において、発現ベクターは、Xkr4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、およびXRCC4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを、同一の発現ベクターに含んでもよく、別個の発現ベクターに含んでもよい。
【0097】
宿主細胞
「宿主細胞」は、ベクター分子を挿入できる細胞、即ち真核細胞または原核細胞である。宿主細胞は、例えば真核細胞または原核細胞である。真核細胞としては、例えば哺乳類、鳥類および魚類由来の細胞、または植物細胞(例えば真核性藻類細胞を含む)を含む。哺乳類宿主細胞は、例えばヒトPLB985細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、COS細胞、Vero細胞、SP2/0細胞、NS/0骨髄腫細胞、ヒト胚性腎(HEK293)細胞および幼若ハムスター腎(BHK)細胞、HeLa細胞、ヒトB細胞、CV-1/EBNA細胞、L細胞、3T3細胞、HEPG2細胞、PerC6細胞およびMDCK細胞を含む。原核細胞の宿主細胞は、例えば酵母細胞および大腸菌細胞を含む。宿主細胞は、例えば脳または皮膚由来の細胞である。宿主細胞は、例えば神経系の細胞である。宿主細胞は、例えばXRCC4およびXkr4のいずれか一方または両方がノックアウトされた細胞であってよい。宿主細胞は、例えば公的機関から入手可能であり、または商業的に入手可能である。
【0098】
1つの実施形態において、宿主細胞は、本明細書に開示したポリヌクレオチドまたは発現ベクターを含む。宿主細胞は、例えば前記ポリヌクレオチドの一部または全部が組込まれたゲノムを含む。宿主細胞は、例えば前記発現ベクターの一部または全部が組込まれたゲノムを含む。宿主細胞は、例えばゲノムとは独立した遺伝要素として前記発現ベクターを含む。
【0099】
Xkr4を活性化するための組成物
「Xkr4を活性化するための組成物」は、Xkr4による脂質スクランブル活性を誘発することができる要素を含む。前記成分は、例えば本明細書に開示したXRCC4ポリペプチド、それらをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、または前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターである。前記組成物は、例えば前記要素を、賦形剤、保存剤、緩衝剤、pH調製剤などの添加剤と混合することにより調製することができる。
【0100】
1つの実施形態において、Xkr4を活性化するための組成物は、本明細書に開示したXRCC4ポリペプチド;前記XRCC4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド;および前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターからなる群より選択される少なくとも1つを含む。Xkr4を活性化するための組成物は、例えば後述するアポトーシスの抑制が関与する状態または疾患を治療または予防するために利用することができる。
【0101】
「アポトーシスの抑制が関与する状態または疾患」は、アポトーシスの抑制によって誘発され得る状態または疾患である。アポトーシスの抑制が関与する状態または疾患は、例えば神経系の臓器または細胞においてアポトーシスの抑制によって誘発され得る状態または疾患である。アポトーシスの抑制が関与する状態または疾患は、例えば神経系の臓器もしくは細胞におけるがん、甲状腺刺激ホルモンの上昇、または注意欠陥・多動性障害(ADHD)を含む神経発達障害または行動障害である。
【0102】
「治療」は、所定の状態または症状を維持し、低減し、または消失させることを目的して、処置を行うことを意味する。所定の状態または症状を維持し、低減し、または消失させることを目的して行う処置は、例えば所定の組成物を投与することを含む。治療を目的とする組成物は、例えば状態または疾患の発症中または発症後に投与することができる。
【0103】
「予防」は、所定の状態または症状の発症を抑制することを目的して、処置を行うことを意味する。所定の状態または症状の発症を抑制することを目的して行う処置は、例えば所定の組成物を投与することを含む。予防を目的とする組成物は、例えば状態または疾患の発症前に投与することができる。
【0104】
Xkr4の脂質スクランブル活性を調節する物質のスクリーニング方法
Xkr4の脂質スクランブル活性を調節する物質のスクリーニング方法は、(1)本明細書に開示したXkr4ポリペプチドを発現する細胞と、Xkr4の脂質スクランブル活性を調節する可能性のある候補物質とを接触させること;(2)前記候補物質と接触させた前記細胞における脂質スクランブル活性を測定すること;および(3)前記脂質スクランブル活性が、前記候補物質を接触させていない前記細胞における脂質スクランブル活性と比較して、低い場合または高い場合に、前記候補物質をXkr4の脂質スクランブル活性を調節する物質として選択することを含む。
【0105】
「Xkr4ポリペプチドを発現する細胞」は、本明細書に開示したXkr4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドまたは前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを宿主細胞に導入することにより、調製することができる。1つの実施形態において、前記細胞は、アポトーシス刺激(例えばスタウロスポリン(STS)を用いたアポトーシス刺激)を受けることなく、Xkr4ポリペプチドを発現する。
【0106】
「Xkr4の脂質スクランブル活性を調節する可能性のある候補物質」は、例えばC末端切断型Xkr4ポリペプチドに直接的または間接的に影響して、Xkr4の脂質スクランブル活性を誘発もしくは増加、または阻害もしくは低減させることが期待される物質である。前記調節する可能性のある候補物質は、例えば、低分子化合物、タンパク質(例えば抗体)、DNA、RNA、低分子干渉RNA、またはアンチセンスオリゴヌクレオチドであってよい。
【0107】
前記調節する可能性のある候補物質は、Xkr4の脂質スクランブル活性を誘発する可能性のある候補物質またはXkr4の脂質スクランブル活性を阻害する可能性のある候補物質を含む。「Xkr4の脂質スクランブル活性を誘発する可能性のある候補物質」は、細胞または動物においてXkr4の脂質スクランブル活性を誘発もしくは増加させることが期待される物質である。「Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する可能性のある候補物質」は、細胞または動物においてXkr4の脂質スクランブル活性を阻害もしくは低減させることが期待される物質である。
【0108】
前記細胞と前記候補物質との「接触」または「接触させる」ことは、前記細胞と、Xkr4の脂質スクランブル活性を調節(例えば誘発または阻害)する可能性のある候補物質と両者の接触が可能な状況下に置くことである。前記接触させることは、例えば、前記細胞を培養する培養液中に、前記候補物質を添加することであってよい。
【0109】
脂質スクランブル活性は、例えばリン脂質または糖脂質の取込み活性、または細胞膜の内側に位置するリン脂質の露出活性である。脂質スクランブル活性の測定は、本明細書に開示した方法(例えばフローサイトメトリーを利用した方法)に従って測定することができる。
【0110】
1つの実施形態において、Xkr4の脂質スクランブル活性を調節する物質のスクリーニング方法は、Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する物質のスクリーニング方法である。Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する物質のスクリーニング方法は、例えば(1)本明細書に開示したXkr4ポリペプチドを発現する細胞と、Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する可能性のある候補物質とを接触させること;(2)前記候補物質を接触させた前記細胞における脂質スクランブル活性を測定すること;および(3)前記脂質スクランブル活性が、前記候補物質を接触させていない前記細胞における脂質スクランブル活性と比較して50%、40%、30%、20%、10%、または5%以下である場合に、前記候補物質をXkr4の脂質スクランブル活性を阻害する物質として選択することを含む。Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する可能性のある候補物質は、アポトーシスの促進が関与する状態または疾患の治療または予防のための薬剤候補として利用することができる。
【0111】
「アポトーシスの促進が関与する状態または疾患」は、アポトーシスの促進によって誘発され得る状態または疾患である。アポトーシスの促進が関与する状態または疾患は、例えば神経系の臓器においてアポトーシスの促進によって誘発され得る状態または疾患である。アポトーシスの促進が関与する状態または疾患は、例えばアルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)および筋委縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患である。
【0112】
1つの実施形態において、Xkr4の脂質スクランブル活性を調節する物質のスクリーニング方法は、Xkr4の脂質スクランブル活性を誘発する物質のスクリーニング方法である。Xkr4の脂質スクランブル活性を誘発する物質のスクリーニング方法は、例えば(1)本明細書に開示したXkr4ポリペプチドを発現する細胞と、Xkr4の脂質スクランブル活性を誘発する可能性のある候補物質とを接触させること;(2)前記候補物質を接触させた前記細胞における脂質スクランブル活性を測定すること;および(3)前記脂質スクランブル活性が、前記候補物質を接触させていない前記細胞における脂質スクランブル活性と比較して少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、7倍、9倍、または10倍高い場合に、前記候補物質をXkr4の脂質スクランブル活性を誘発する物質として選択することを含む。Xkr4の脂質スクランブル活性を誘発する可能性のある候補物質は、アポトーシスの抑制が関与する状態または疾患の治療または予防のための薬剤候補として利用することができる。
【0113】
「アポトーシスの抑制が関与する状態または疾患」は、アポトーシスの促進によって誘発され得る状態または疾患である。アポトーシスの促進が関与する状態または疾患は、例えば神経系の臓器においてアポトーシスの促進によって誘発され得る状態または疾患である。アポトーシスの促進が関与する状態または疾患は、例えば本明細書に開示した状態または疾患、例えばADHDであってよい。
【0114】
Xkr4の脂質スクランブル活性を誘発する物質のスクリーニング方法
Xkr4の脂質スクランブル活性を誘発する物質のスクリーニング方法は、(1)C末端切断型Xkr4ポリペプチドであって、(α)配列番号2または36に記載のアミノ酸配列からなるC末端切断型Xkr4ポリペプチド、または(β)前記(α)ポリペプチドのアミノ酸配列において、欠失、置換、または付加もしくはそれらの組合せを含むアミノ酸配列を有し、かつ前記(α)のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を示し、かつXRCC4ポリペプチドとの相互作用により細胞膜において脂質スクランブル活性を示し得るC末端切断型Xkr4ポリペプチドを発現する細胞と、Xkr4の脂質スクランブル活性を誘発する可能性のある候補物質とを接触させること;(2)候補物質と接触させた前記細胞における脂質スクランブル活性を測定すること;および(3)前記脂質スクランブル活性が、前記候補物質を接触させていない前記細胞における脂質スクランブル活性と比較して高い場合に、前記候補物質をXkr4の脂質スクランブル活性を誘発する物質として選択することを含む。
【0115】
「C末端切断型Xkr4ポリペプチド」は、細胞の細胞膜中で二量体を形成し得るXkr4の断片である。理論に拘泥するものではないが、C末端切断型Xkr4ポリペプチドは、本明細書に開示したXRCC4ポリペプチドとの相互作用を通じて、脂質スクランブル活性を示し得る。C末端切断型Xkr4ポリペプチドは、例えば本明細書に開示したXkr4がカスパーゼにより切断されたポリペプチドである。
【0116】
C末端切断型Xkr4ポリペプチドは、例えば(α)配列番号2または36に記載のアミノ酸配列(具体的なアミノ酸配列を以下に示す)からなるC末端切断型Xkr4ポリペプチド、または(β)前記(α)ポリペプチドのアミノ酸配列において、欠失、置換、または付加もしくはそれらの組合せを含むアミノ酸配列を有し、かつ前記(α)のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を示し、かつXRCC4ポリペプチドとの相互作用により細胞膜において脂質スクランブル活性を示し得るポリペプチドである。


【0117】
C末端切断型Xkr4ポリペプチドは、例えば遺伝子工学技術により調製することができる。C末端切断型Xkr4ポリペプチドは、例えば本明細書に記載のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドから、転写および翻訳させることにより調製することができる。
【0118】
C末端切断型Xkr4ポリペプチドは、例えば配列番号2に記載のアミノ酸配列において、配列番号1に記載のアミノ酸配列のアミノ酸残基の番号付けに従って、322位がセリン、331位がフェニルアラニン、および332位がグルタミンではない。C末端切断型Xkr4ポリペプチドは、例えば配列番号36に記載のアミノ酸配列において、配列番号35に記載のアミノ酸配列のアミノ酸残基の番号付けに従って、325位がセリン、334位がフェニルアラニン、および335位がグルタミン酸ではない。
【0119】
C末端切断型Xkr4ポリペプチドは、例えば配列番号2または36に記載のアミノ酸配列において、1~100個、1~50個、1~30個、1~20個、1~10個、1~5個、4個、3個、2個または1個のアミノ酸欠失、置換、または付加もしくはそれらの組合せを含むアミノ酸配列からなる、または含む。C末端切断型Xkr4ポリペプチドは、例えば配列番号2または36に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%または99%の配列同一性を示すアミノ酸配列からなる、または含む。
【0120】
本明細書において、前記(β)に係るC末端切断型Xkr4ポリペプチドを「C末端切断型Xkr4ポリペプチドの変異体」ともいう。
【0121】
C末端切断型Xkr4ポリペプチドは、例えば本明細書において、Xkr4ポリペプチドについて開示したアミノ酸長、アミノ酸置換、および配列同一性の任意の組合せを有する。
【0122】
「XRCC4ポリペプチドとの相互作用により細胞膜において脂質スクランブル活性を示し得る」は、本願明細書に開示したXRCC4ポリペプチドの存在下、C末端切断型Xkr4ポリペプチドの変異体を発現する細胞の細胞膜において、前記C末端切断型Xkr4ポリペプチドの変異体がPC取込み活性を示すことを意味する。例えば、C末端切断型Xkr4ポリペプチドの変異体は、C末端切断型Xkr4ポリペプチドの変異体を発現するPLB細胞による、XRCC4ポリペプチドが存在する状況下でのPC取込み活性が、前記XRCC4ポリペプチドが存在しないことを除いて同一の条件下でのPC取込み活性よりも高い場合、例えば少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、または10倍高い場合、XRCC4ポリペプチドとの相互作用により細胞膜において脂質スクランブル活性を示し得ると特定される。前記PC取込み活性は、本明細書に開示した方法(例えばフローサイトメトリーを利用した方法)により測定することができる。
【0123】
XRCC4ポリペプチドとの相互作用により細胞膜において脂質スクランブル活性を示し得ると特定された候補物質は、アポトーシスの抑制が関与する状態または疾患の治療または予防のための薬剤候補として利用することができる。
【0124】
Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する物質のスクリーニング方法
1つの実施形態において、Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する物質のスクリーニング方法は、(1)本明細書に開示したXRCC4ポリペプチドが導入され、C末端切断型Xkr4ポリペプチドを発現する細胞と、Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する可能性のある候補物質とを接触させること;(2)前記細胞における脂質スクランブル活性を測定すること;および(3)前記脂質スクランブル活性が、前記候補物質と接触させていな前記細胞における脂質スクランブル活性よりも低い場合に、前記候補物質をXkr4の脂質スクランブル活性を阻害する物質として選択することを含む。
【0125】
「XRCC4ポリペプチドが導入され、C末端切断型Xkr4ポリペプチドを発現する細胞」は、例えばC末端切断型Xkr4ポリペプチドを発現する細胞に、XRCC4ポリペプチドまたその変異体をリポフェクションまたはエレクトロポレーションにより細胞内に入れることによって調製することができる。XRCC4ポリペプチドまたその変異体が導入され、C末端切断型Xkr4ポリペプチドを発現する細胞は、例えばXRCC4ポリペプチドまたその変異体およびC末端切断型Xkr4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む1つまたは2つ以上のポリヌクレオチドまたは前記ポリヌクレオチドを含む1つまたは2つ以上の発現ベクターを、宿主細胞に導入することによって調製することができる。
【0126】
前記細胞と、Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する可能性のある候補物質との接触は、例えば、前記細胞を培養する培養液に、前記候補物質を添加することによって実施することができる。前記細胞と、Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する可能性のある候補物質との接触は、例えば前記候補物質を添加した所定時間経過後に、未反応の候補物質を取り除くために、前記培養培地を取り除くことを含んでよい。
【0127】
前記実施形態において、Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する物質として選択された物質は、例えば細胞膜中で二量体を形成したXRCC4ポリペプチドと、XRCC4ポリペプチドとの直接的または間接的な相互作用を阻止または低減させ得る物質である。
【0128】
1つの実施形態において、Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する物質のスクリーニング方法は、(1)Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する可能性のある候補物質の存在下で、本明細書に開示したXRCC4ポリペプチドと、C末端切断型Xkr4ポリペプチドとを接触させること;(2)前記XRCC4ポリペプチドと前記C末端切断型Xkr4ポリペプチドとの結合を測定すること;および(3)前記XRCC4ポリペプチドと前記C末端切断型Xkr4ポリペプチドとの前記結合が、前記候補物質の非存在下で前記XRCC4ポリペプチドと前記C末端切断型Xkr4ポリペプチドとを接触させた場合の結合よりも低い場合に、例えば50%、40%、30%、20%、10%、または5%以下である場合に、前記候補物質を、Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する物質として選択することを含む。
【0129】
前記実施形態に係る工程(1)は、例えば支持体に固定したC末端切断型Xkr4ポリペプチドに、Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する可能性のある候補物質およびXRCC4ポリペプチドを添加することであってよい。一例において、前記実施形態に係る工程(1)は、例えばマイクロウェルプレートのプレート面(支持体)にC末端切断型Xkr4ポリペプチドに吸着などにより固定する。C末端切断型Xkr4ポリペプチドが固定されたマイクロウェルプレートに、Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する可能性のある候補物質と、蛍光物質で標識されたXRCC4ポリペプチドを含む溶液を添加することであってよい。この例において、工程(2)は、未結合の蛍光物質で標識されたXRCC4ポリペプチドを除去した後に、マイクロウェルプレートに残存する蛍光物質標識化XRCC4ポリペプチド由来の蛍光を測定することであってよい。
【0130】
スクリーニング用のキット
Xkr4の脂質スクランブル活性を阻害する物質のスクリーニングのためのキットが提供される。前記キットは、本明細書に開示したXRCC4ポリペプチド;前記XRCC4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド;前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター;および前記ポリヌクレオチドを含む宿主細胞、または前記発現ベクターを含む宿主細胞からなる群より選択される少なくとも1つ、2つ、または3つを含む。
【0131】
前記キットの構成要素は、例えば別々の容器内に存在してもよく、または単一の容器に混合されてもよい。前記キットは、例えばXkr4の脂質スクランブル活性を阻害する物質のスクリーニングに用いるための説明書を含んでもよい。
【0132】
目的とする表現型に対応する遺伝子を特定する方法
本発明の1つの実施形態は、目的とする表現型に対応する遺伝子を特定する方法を提供する。
【0133】
「表現型」は、所定の環境下で遺伝子の働きの結果つくられる生物の形質を意味する。目的とする表現型は、例えばアポトーシス過程での脂質スクランブル活性などの反応、特定の物質の存在下で誘導されるタンパク質、特定の刺激後に分泌される物質であってよい。
【0134】
「遺伝子」は、遺伝現象において形質を支配する基本単位を意味する。遺伝子は、例えばタンパク質をコードする遺伝情報を担う単位である。遺伝子は、生体を構成するタンパク質または酵素をコードする構造遺伝子と、構造遺伝子の発現を制御するタンパク質因子をコードする調節遺伝子とに大別される。1つの形質は、複数の構造遺伝子と調節遺伝子とによって支配される。
【0135】
目的とする表現型に「対応する遺伝子」は、目的とする表現型に影響を与える遺伝子である。対応する遺伝子は、例えば目的とする表現型に直接的に作用するものでも、間接的に作用するものであってよい。目的とする表現型が特定の環境下で発現するタンパク質である場合、そのタンパク質をコードする構造遺伝子は、前記目的とする表現型に直接的に作用する遺伝子としてよい。前記例において、そのタンパク質の発現を制御するタンパク質因子をコードする調節遺伝子は、前記目的とする表現型に間接的に作用する遺伝子としてよい。
【0136】
<工程a>
前記特定方法は、(a)細胞のゲノムDNAの複数種の遺伝子のヌクレオチド配列に対応する少なくとも1種のガイド配列を含むガイドRNAを含む、ガイドRNAライブラリーを準備することを含む。
【0137】
細胞の「ゲノムDNA」は、細胞が有する遺伝子全体を意味する。ゲノムDNAに関する各遺伝子の配列情報、動物種に関する情報、および遺伝子に対応する表現型(例えばタンパク質)に関する情報を含む情報は、例えば公的に提供されるデータベースから入手可能である。細胞のゲノムDNAは、例えば特定の生物種由来の細胞のゲノムDNAである。細胞のゲノムDNAは、例えば特定の生物種のある特定の個体由来の均質なゲノムDNAであっても、特定の生物種の複数の別個体由来の不均一なゲノムDNAであってもよい。1つの実施形態において、細胞のゲノムDNAは、特定の生物種のある特定の個体由来の均質なゲノムDNAである。1つの実施形態において、細胞のゲノムDNAは、特定の生物種の複数の別個体由来の不均一なゲノムDNAであってもよい。
【0138】
「ガイドRNA」は、ガイド配列に連結されたcrRNA(CRISPR-RNA)とtracrRNA(trans-activatingcrRNA)とが連結されたsgRNA(single-guideRNA)である。ガイドRNAは、例えばCas9をコードするヌクレオチド配列を含む。ゲノムDNAに組み込まれたガイドRNAと表現する場合、ガイドRNAは、ガイドRNAに転写されるヌクレオチド配列を含むDNAを包含する。
【0139】
「Cas9」は、RISPR associated protein 9と称されるヌクレアーゼであり、約160キロダルトンの分子量を有する。Cas9のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列は公知であり、それらの配列は公的に提供されるデータベースから入手することができる。Cas9をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドは、商業的に入手可能である。
【0140】
「ガイド配列」は、特定の生物種のゲノムDNAの所定の遺伝子のヌクレオチド配列中の標的配列にハイブリダイズすることができる、前記標的配列に相補的な配列を含む。ガイド配列は、例えば10~30ヌクレオチド長、15~25ヌクレオチド長、18~22ヌクレオチド長、20~21ヌクレオチド長を有する。ガイド配列とその対応する標的配列との間の配列同一性は、例えば80%~100%、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、99%以上または100%である。ガイド配列と標的配列の最適なアライメントは、配列を整列させるための任意のアルゴリズム(例えばNCBIBLAST)を用いて決定することができる。
【0141】
「ガイドRNAライブラリー」は、細胞のゲノムDNAの複数種の遺伝子のヌクレオチド配列中の少なくとも1種の標的配列に対するガイドRNAを含む。ガイドRNAライブラリーの各ガイドRNAは、例えばレンチウイルスまたはレトロウイルス内部に格納された状態であってよい。この場合、ガイドRNAライブラリーは、ウイルス型のガイドRNAライブラリー(例えばレンチウイルス型またはレトロウイルス型のガイドRNAライブラリー)とも称する。例えば、特定の生物種の細胞がそのゲノムDNAに22,000種の遺伝子を含み、ガイドRNAライブラリーが前記ゲノムDNAの個々の遺伝子に対するガイドRNAを含む場合であって、ガイドRNAが各遺伝子につき異なる6種類の標的配列に対するガイド配列を含む場合、前記ガイドRNAライブラリーは、132,000種類のsgRNAを含むこととなる。ガイドRNAライブラリーは、公知の方法に従って調製することができ、ガイドRNAライブラリーは、例えばWang, et al. (2014). Genetic screens in human cells using the CRISPR-Cas9 system. Science 343, 80に記載の方法に従って、調製することができる。ガイドRNAライブラリーは、例えば商業的に入手可能である。レンチウイルス型のガイドRNAライブラリーは、例えばGecko sgRNAライブラリー(Addgene#1000000049)であってよい。
【0142】
ガイドRNAライブラリーの「準備」または「準備する」は、例えばガイドRNAライブラリーの細胞への導入が可能な状態に置くこと含む。例えばガイドRNAライブラリーが液中で凍結されている場合、ガイドRNAライブラリーを含む凍結物を溶かすことを含む。ガイドRNAライブラリーの準備は、例えばガイドRNAライブラリーを調製することを含んでもよい。
【0143】
<工程b>
前記特定方法は、(b)前記ガイドRNAライブラリーが導入された細胞集団を得ることを含む。
【0144】
ガイドRNAライブラリーの「導入」または「導入する」は、例えばガイドRNAライブラリー(例えばレンチウイルス型のガイドRNAライブラリー)と細胞集団とを接触させることを含む。ガイドRNAライブラリーが導入された細胞集団は、細胞のゲノムに導入されたガイドRNAが組み込まれる。ガイドRNAライブラリーが導入された細胞集団は、例えば細胞1個あたり1種類のガイドRNAが導入されるような割合で、ガイドRNAライブラリーが導入される。細胞1個あたり1種類のガイドRNAが導入されるような割合は、例えば、前記ガイドRNAライブラリーを構成するガイドRNAの個数に対して、前記細胞集団を構成する細胞の個数が例えば5倍、10倍または15倍となるようにして、ガイドRNAライブラリーを細胞集団に導入することによって実施することができる。
【0145】
ウイルス型のガイドRNAライブラリーを用いる場合、細胞集団に前記ウイルス型のガイドRNAライブラリーを感染させることにより、ガイドRNAライブラリーを細胞集団に導入することができる。レンチウイルス型のガイドRNAライブラリーを用いる場合、ガイドRNAを細胞のゲノムに効率的に組み込むことができる。レンチウイルス型のガイドRNAライブラリーを用いる場合、細胞集団は、増殖率が低いまたはほとんど増殖しない細胞(例えば、神経細胞、アポトーシス過程の細胞、組織中の細胞)の集団であっても、ガイドRNAを細胞のゲノムに効率的に組み込むことができる。1つの実施形態において、ガイドRNAライブラリーが導入された細胞集団は、増殖率が低いまたはほとんど増殖しない細胞の集団である。
【0146】
ガイドRNAライブラリーが導入された細胞集団は、Cas9を発現する。前記Cas9は、例えばCas9をコードするヌクレオチド配列を含むガイドRNAが前記細胞集団の細胞のゲノムDNAに組み込まれることで発現されよい。前記Cas9は、例えばガイドRNAライブラリーが導入される細胞集団のゲノムDNAに、Cas9をコードするヌクレオチド配列が組み込まれることで発現されてよい。
【0147】
ガイドRNAライブラリーが導入される「細胞集団」は、例えば培養細胞または組織中の細胞集団であってよい。組織中の細胞集団は、例えば、体外に取り出された組織中の細胞集団;非ヒト哺乳類、鳥類、爬虫類、魚類の動物における組織中の細胞集団;組織培養により構築された組織中の細胞集団であってよい。細胞集団が培養細胞である場合、前記培養細胞は、Cas9をコードするヌクレオチド配列が組み込まれていてよい。細胞集団が組織中の細胞集団である場合、前記細胞集団に導入されるガイドRNAライブラリー中のガイドRNAは、Cas9をコードするヌクレオチド配列を含んでいてよい。
【0148】
ガイドRNAライブラリーが導入された細胞集団に、例えば、所定の刺激を与えて、目的とする表現型を誘発してもよい。例えば目的とする表現型がアポトーシス過程で観察される作用(例えば脂質スクランブル活性)である場合、ガイドRNAライブラリーが導入された細胞集団にアポトーシス刺激(例えばスタウロスポリン(STS)添加によるアポトーシス刺激)を与えてもよい。
【0149】
<工程c>
前記特定方法は、(c)前記細胞集団から目的とする表現型に基づいて細胞(cells)を選択することを含む。工程(c)で選択された細胞(cells)に導入されているガイドRNAのバラエティーは、工程(b)の細胞集団に導入されているガイドRNAのバラエティーと比べて、目的とする表現型に対応する遺伝子の配列に相補的な配列を含むガイドRNAが富化されていることが期待される。
【0150】
工程(c)は、例えば、目的とする表現型を示す細胞と、前記表現型を示さない細胞とを区別して、目的とする表現型を示さない細胞を回収することを含む。工程(c)は、例えば、目的とする表現型を示す細胞と、前記表現型を示さない細胞とを区別して、目的とする表現型を示す細胞を回収することを含む。前記細胞集団が個々に分離された細胞の集団である場合、工程(c)は、例えば蛍光活性化セルソーティング(Fluorescence activated cell sorting:FACS)または磁気活性化セルソーティング(Magnetic adtivated cell sorting:MACS)を用いて実施することができる。例えば、目的とする表現型を示す細胞に結合する蛍光試薬を用いた場合、前記蛍光試薬由来の蛍光が所定の値以上を示す細胞と、それ未満の値を示す細胞とを区別して、目的とする表現型を示さない細胞を回収することができる。
【0151】
前記細胞集団が組織中の細胞の集団である場合、工程(c)は、例えばレーザーマイクロダイセクション用いて実施することができる。例えば、目的とする表現型を示さない細胞に結合する蛍光試薬を用いた場合、顕微鏡下で前記蛍光試薬由来の蛍光を発する細胞または領域を、前記蛍光を発していない細胞または領域とを区別して、目的とする表現型を示さない細胞をレーザーで切り出すことによって回収することができる。
【0152】
<工程d>
前記特定方法は、(d)選択した細胞からゲノムDNAを回収することを含む。工程(d)で回収されたゲノムDNAでは、工程(b)で細胞集団に導入されたガイドRNAのバラエティーと比べて、目的とする表現型に対応する遺伝子の配列に相補的な配列を含むガイドRNAが富化されている。
【0153】
ゲノムDNAの回収は、公知の方法に従って、調製することができる。ゲノムDNAの回収は、例えばエタノール沈殿法または商業的に入手可能なゲノムDNA抽出キットを用いて実施することができる。
【0154】
<工程e>
前記特定方法は、工程(b)~(d)が所定回数実施されるまで、回収したゲノムDNAから新たなガイドRNAライブラリーを準備し、前記新たなガイドRNAライブラリーを用いて工程(b)~(d)を実施することを含む。工程(b)~(d)を所定回数実施することで、目的とする表現型に対応する遺伝子の配列に相補的な配列を含むガイドRNAがより富化されることが期待される。
【0155】
「所定回数」は、少なくとも2回、例えば2回、3回、4回または5回以上であってよい。所定回数は、多いほど目的とする表現型に対応する遺伝子の配列に相補的な配列を含むガイドRNAがより富化されることが期待されるが、一方で、実施により多くの労力が必要とされる。1つの実施形態において、所定回数は、3回である。
【0156】
「新たなガイドRNAライブラリー」は、工程(d)で回収したゲノムDNAに組み込まれたガイドRNAを回収し、回収したガイドRNAを用いて調製されたガイドRNAライブラリーを意味する。ゲノムDNAに組み込まれたガイドRNAは、例えばガイドRNAを含む領域をPCRにより増幅し、増幅したPCR産物を回収することによって、回収することができる。この例では、ガイドRNAは、PCRによってガイドRNAを増幅するための配列をさらに含む。レンチウイルス型のガイドRNAライブラリーを調製する場合、回収したガイドRNAをレンチウイルスベクターに挿入してプラスミドを調製する。調製したプラスミドを用いて宿主細胞にトランスフェクトし、トランスフェクトした宿主細胞を培養して、レンチウイルスを生成させることにより、レンチウイルス型のガイドRNAライブラリーを調製することができる。
【0157】
<工程f>
前記特定方法は、(f)工程(b)~(d)が所定回数実施された場合に、回収したゲノムDNA中のガイド配列を決定することを含む。工程(f)は、例えば、工程(d)で回収したゲノムDNAに組み込まれたガイドRNAを含む領域を、PCRにより増幅し、増幅したPCR産物をシークエンサーにかけることにより、ガイドRNAに含まれるガイド配列を決定することができる。
【0158】
<工程g>
前記特定方法は、(g)決定されたガイド配列に対応する遺伝子を、前記目的とする表現型に対応する遺伝子として特定する工程を含む。工程(g)は、例えば工程(f)で決定したガイドRNAのガイド配列と所定の配列同一性(例えば90%、95%、97%、98%、99%または100%)を示す配列を含む遺伝子は、工程(a)の細胞(特定の生物種の細胞)のゲノムDNAに関する情報を含むデータベースを検索することで見出すことができ、見出された遺伝子を、目的とする表現型に対応する遺伝子と特定することによって実施することができる。
【0159】
本明細書に開示した目的とする表現型に対応する遺伝子を特定する方法を実施することにより、目的とする表現型に対応する遺伝子が特定された細胞に富んだ細胞集団が得られる。本発明の1つの実施形態は、目的とする表現型に対応する遺伝子が特定された細胞に富んだ細胞集団を製造する方法を提供する。また、本明細書に開示した目的とする表現型に対応する遺伝子を特定する方法を実施することにより、目的とする表現型に対応する遺伝子が特定された細胞であって、前記表現型を示すまたは示さない細胞に富んだ細胞集団が得られる。本発明の1つの実施形態は、目的とする表現型に対応する遺伝子が特定された細胞であって、前記表現型を示すまたは示さない細胞に富んだ細胞集団を製造する方法を提供する。
【0160】
本明細書中で述べた用語の定義または具体例は、本明細書に開示した任意の態様または実施形態における対応する用語に適宜適用される。
【0161】
以下に、本発明を例示することを意図したて実施例を記載するが、下記実施例は本発明をいかようにも限定するものではない。実施例に記載されている組成物および方法は本発明の一部を構成する。
【0162】
[実施例]
材料および方法
後述する実施例において、下記する材料および方法を用いた。
(細胞培養)
マウスインターロイキン3(IL-3)に依存性のBa/F3細胞(文献24)は、10%FCS(Gibco)、抗生物質(Nacalai)、55μMのβ2-メルカプトエタノールおよび45units/mlのIL-3を含有するRPMI1640(WAKO)中で培養した(文献25)。ヒトPLB985細胞は、10%FCS、抗生物質および55μMのβ2-メルカプトエタノールを含有するRPMI1640中で培養した。HEK293TおよびHCT116(理研バイオリソースセンター)細胞は、10%FCSおよび抗生物質を含有するDMEM(WAKO)で維持した。
【0163】
(プラスミド)
単量体のEGFPがN末端およびC末端にタグ付けされたマウスXkr4、およびそのカスパーゼ切断型のXkr4ΔCをコードするDNAを、Cas9およびBlastを除去したlentiCas9-blastベクター(本明細書中「plenti」ともいう)に導入した(文献15、Addgene#52962)。N末端にV5がタグ付けされ、かつC末端にFLAGがタグ付けされたマウスXkr4(V5-Xkr4-FLAG)、Xkr4ΔC、ならびに点突然変異(332番目のグルタミンがグルタミン酸で置換されている(Q332E)、331番目のロイシンがフェニルアラニンで置換されている(L331F)、および322番目のイソロイシンがセリンで置換されている(I322S))を有するXkr4変異体をコードするDNAを、pNEFベクター(文献10)およびpMXs-puroベクター(文献27)にそれぞれ導入した。ヒトXkr4、Xkr8、およびXkr9 cDNAは、そのN末端にV5をタグ付けされ、内因性のリボソームエントリーサイト(IRES)駆動性のピューロマイシン耐性遺伝子を有するplentiに導入した。V5-Xkr4-FLAGおよびV5-Xkr4ΔC-FLAGも同様にレンチウイルスベクターに導入した。N末端にSPOTがタグ付けされ、かつC末端にFLAGがタグ付けされたマウスXkr4ΔC(SPOTXkr4ΔC-FLAG)、およびN末端にV5がタグ付けされ、かつC末端にtagRFP(Evrogen)がタグ付けされたマウスXkr4ΔC(Xkr4ΔC-RFP)をplentiベクターに挿入した。
【0164】
ヒトXRCC4のcDNAは、PLB細胞から生成した第1のcDNA鎖をテンプレートとして使用してPCRにより増幅した。以下のXRCC4変異体を、plentiベクターにおいてN末端またはC末端にtagRFPを融合させた:野生型(WT)、カスパーゼ非切断型(2DA)、カスパーゼ切断N末端断片(ΔC、1-265)およびC末端断片(ΔN、266-336)、欠失変異体(116-336、156-336、204-336、246-336、256-336、1-305、1-285、256-285)、核移行シグナルにおける変異体(270番目のアルギニンがアラニンで置換されている(R270A)、271番目のリジンがアラニンで置換されている(K271A)、272番目のアルギニンがアラニンで置換されている(R272A)、273番目のアルギニンがアラニンで置換されている(R273A)、275番目のアルギニンがアラニンで置換されている(R275A))。自己切断性2Aペプチド(T2A;EGRGSLLTCGDVEENPGP(配列番号15))配列を、XRCC4のcDNAとTagRFPとの間に導入して、XRCC4-WT-2A-RFPまたはXRCC4-R270A-2A-RFPを作成した。XRCC4に対するショートガイドRNA(sgRNA)が細胞内で安定して発現された場合、XRCC4-sgRNA)に対してサイレンシング変異を導入した(XRCC4 cDNAにおけるXRCC4 sgRNAターゲットシーケンス 5’-tggagactgatctttataagcgg-3’(配列番号16)を、5’-ttagaaacagatctatacaaacgt-3’(配列番号17)に変更した。下線はPAM配列を示す)。
【0165】
lentiCas9-BlastにおけるFLAG配列をHAに置き換え、Cas9-HAを発現させるために用いた。マウスXkr4(5’-gcggcgctgtgcctgcgcct-3’:配列番号18)、ヒトXRCC4(5’-tggagactgatctttataag-3’:配列番号19)、ヒトAPAF1(5’-agcattgtagaatgatacgt-3’:配列番号20)、ヒト・シトクロムC(5’-acagccgccaataagaacaa-3’:配列番号21)に対するsgRNAのためのレンチウイルス発現ベクターは、plentiGuide-Puroベクター(文献15、Addgene#52963)を用いて構築した。XRCC4 KO細胞を樹立するために、XRCC4に対するsgRNAを、plentiGuide(puro-)ベクターに挿入し、次のように構築した: plentiGuide-puroにおけるEF1αプロモーターおよびピューロマイシン耐性遺伝子をSmaIおよびMluI部位での切除により除去し、T4ポリメラーゼを用いて平滑末端を生成させた後にT4リガーゼでライゲーションした。ヒトCAD(5’-gaacatcgcggccgagaccc-3’:配列番号22)、およびマウスXkr8(5’-cttagacgtggtcgtaggcc-3’:配列番号23)に対するsgRNAを発現させるために、pX330ベクター(文献28)を使用した。
【0166】
(細胞株の樹立)
TMEM16Fを欠くBa/F3細胞を準備した(文献29)。Xkr8に対するsgRNAをコードするpX330ベクターをTMEM16F KO Ba/F3細胞にエレクトロポレーションし、その3日後に限界希釈を行った。各クローンからゲノムDNAを回収した後、ゲノムDNAにおけるXkr8ロケーティング領域をシーケンシングのために増幅し、Xkr8がノックアウトされていることを確認した(本明細書中「BDKO」という)。CADに対するsgRNAをコードするpX330ベクターを、CRISPR/Cas9でトランスフェクトしたPLB細胞にエレクトロポレーションし、限界希釈を行って単一クローンを得た。CAD欠失は、ゲノムのシーケンシング、ウェスタンブロッティング、およびアポトーシス刺激後のDNA断片化アッセイにより確認した。XRCC4ノックアウト細胞は、XRCC4に対するsgRNAをコードするレンチウイルスの感染によって樹立した。単一クローンは限界希釈法により得られ、XRCC4のノックアウトは、ゲノムシーケンシングおよび抗XRCC4抗体を用いたウェスタンブロット法により確認した。
【0167】
レトロウイルスは、レトロウイルスベクターpMXs-puro、pGag-pol IRES-bsr(北村俊雄博士から贈与された)およびpCMV-VSV-G(理研)をHEK293T細胞にトランスフェクトすることによって調製した。トランスフェクションの48時間後に、レトロウイルスを含む培養上清を回収、ろ過し、6,000×gで16時間、遠心分離して濃縮し、Ba/F3細胞に感染させるために用いた。2.0μg/mlピューロマイシンで選択することにより、安定なトランスフェクタントを得た。
【0168】
Cas9-HA、Xkrs、XRCC4およびそれらの変異体のsgRNAまたはcDNAの発現のためのレンチウイルスは、レンチウイルスベクターpCMV-VSVG-RSV-Rev(理研)およびpCAG-HIVgp(理研)をHEK293T細胞にトランスフェクトすることにより作製した。レンチウイルスを含む培養上清を回収し、ろ過し、6,000×gで16時間、遠心分離して濃縮し、BDKO、PLBおよびHCT116細胞を観戦させるために用いた。
幾つかの実験では、2.0μg/mlピューロマイシンまたは10μg/mlブラストサイジンを用いて細胞を培養することにより、安定なトランスフェクタントを選択した。
【0169】
(スタウロスポリン(STS)によるアポトーシス刺激)
PLB細胞を、5×10細胞/mlにて播種した。翌日、細胞を計数し、1×10細胞/mlとなるように予め37℃となるように保温した新しい培地に再懸濁し、細胞懸濁培地を培養インキュベーターにて2時間インキュベートした。STS(LCラボラトリーズ)を前記細胞懸濁培地に終濃度10μMとなるよう添加し、所定時間インキュベートした。幾つかの実験では、アポトーシス刺激の1時間前に、全カスパーゼ(pan-caspase)阻害剤である20μMのQ-VD-OPh(Cayman)を前処理しました。
【0170】
(脂質スクランブルアッセイ)
1×10細胞を1mM CaClおよびMgClを含有するHBSS(Gibco)(HBSS/Ca/Mg)にて洗浄し、500μlのHBSS/Ca/Mgに再懸濁して、氷上で7分間インキュベートした。1μMのニトロベンゾオキサジアゾールをコンジュゲートしたホスファチジルコリン(本明細書中「NBD-PC」ともいう、Avanti)を含む等量のHBSS/Ca/Mgを細胞懸濁液に加え、氷上で10分間インキュベートした。次いで、5mg/mlの脂肪酸非含有BSA(Sigma)を含むHBSS/Ca/Mgを1μMのDAPI(Dojindo)と共に5分間混合して、取り込まれなかったNBD-PCを除去した。取り込まれたNBD-PCを有する残留する蛍光シグナルを、フローサイトメトリーにより、非ネクローシス細胞集団(DAPI陰性)において測定した。細胞数に応じて、他のパラメーターは同じ比率となるよう変更した。NBD-PC取込みは、インキュベーション温度4℃または15℃のいずれかで実施した。
【0171】
脂質スクランブルに必要な細胞外二価カチオンを観察するために、細胞を、所定濃度のCaClおよび/またはMgClを含むまたは含まない500μlのHEPESバッファー(10mM Hepes-NaOH(pH7.4)および140mM NaCl)中に再懸濁し、氷上で10分間インキュベートした後に、脂質スクランブルアッセイを行った。1μMのNBDPCを含む等量のHEPESバッファーを加え、氷上で所定時間インキュベートした。NBD-PCと共にインキュベートした後、サンプルを5mg/mlの脂肪酸非含有BSAおよび1μMのDAPIを含むHEPESバッファーと混合し、フローサイトメトリーにより分析した。幾つかの実験では、2μMのA23187(Sigma)を、NBD-PCを含有するバッファーの細胞懸濁液に加え、氷上で4分間インキュベートした。
【0172】
(細胞内カルシウム流入の測定)
250万個のXkr4ΔC Q332Eを発現するBDKO細胞を、10%FBSを含むRPMI1640中、1μMのFluo4-AM(Invitrogen)にて前処理し、37℃で30分間インキュベートした。インキュベーション後、5×10細胞をHEPESバッファーで1回洗浄し、0.125mMのカルシウムまたは2mMのカルシウムを含むHEPESバッファーに再懸濁した。氷上で10分間インキュベートした後、細胞を10μg/mlのPI(Dojindo)を含むHEPESバッファーを用いて、2μMのA23187と共にまたは無しにおいて、1分間混合した。Fluo4シグナルはフローサイトメーターにて観察した。
【0173】
(アネキシンV染色)
PS露出は、アネキシンV-Cy5(BioVision)を用いて染色することにより測定した。5×10細胞を200μlの氷冷アネキシンバッファー(10mM Hepes-NaOH(pH7.4)、140mM NaCl、2.5mM CaCl)に再懸濁し、アネキシンVCy5を含む等量のアネキシンバッファーと混合しました。氷上で15分間インキュベートした後、DAPIを終濃度1μMにて添加した。非ネクローシス細胞集団(DAPI陰性)中のアネキシンV-Cy5シグナルをフローサイトメトリーにより分析した。
【0174】
(cDNAライブラリーの構築、およびXkr4ΔC変異体の同定)
cDNAライブラリーを調製するために、全RNAを、RNeasyミニキット(Qiagen)を使用して10個のPC6細胞から調製し、Oligotex-dT30<スーパー>mRNA精製キット(Takara)を使用してmRNA精製を行った。cDNAライブラリーを、In-Fusion SMARTer Directional cDNA Library Construction Kit(Clontech)を使用説明書に幾つかの変更を加えて用い、前記精製mRNAから作製した。簡潔には、mRNAを、キットに付属されたIn-Fusion SMARTer CDSプライマーおよびSMARTerオリゴを用い、逆転写酵素によって第1のcDNA鎖生成に適用し、続いてプライマー5’-AAGCAGTGGTATCAACGCAGAGT-3’(配列番号24)および5’-CGGGGTACGATGAGACACCA-3’(配列番号25)を用いたPrimestar GXL DNA Polymerase (Takara)によって第2のcDNA鎖を生成した。増幅したcDNAを1%アガロースゲルにロードし、臭化エチジウムで染色し、LEDライト下で2つの部分に分離した: 低分子量(LMW)(1.0-2.5kbps)および高分子量(HMW)(2.5-6.0kbps)。cDNAを切り出したゲルから精製し、NEBuilder HiFi DNAアセンブリ(New England Biolabs)(文献30)を用いてNcoIで切断したpMXs-HiFiベクターに挿入し、ElectroMAX DH10Bコンピテントセル(Thermo Fisher Scentific)にエレクトロポレーションし、HMWおよびLMW cDNAライブラリーのそれぞれについて10枚の15cm Lysogenyブロス(LB)寒天プレートに播種した。翌日、コロニーをLB培地で収集し、Maxiprep(Qiagen)に適用した。各ライブラリーのクローン数は、HMWで2100万であり、LMWで610万であった。pMXs-HiFiベクターを、以下の配列をpMXsベクター(文献27)のBamHIおよびSalIサイトに挿入した、それらをアニーリングすることより構築した。
5’-ggatcccagaagcagtggtatcaaccatggtctcatcgtaccccgccagcacagtggtcgac-3’(配列番号26)
【0175】
(cDNAライブラリーのスクリーニング)
HMWのcDNAライブラリーを、レトロウイルスベクターpGag-pol IRES-bsrおよびpCMV-VSV-Gを用いて、10枚の10cmプレートのHEK293T細胞(各2×10細胞)にトランスフェクトした。トランスフェクションの2日後に、上清を回収し、0.22μmのフィルターでろ過し、遠心分離した(6,000×g、16時間、4℃)。翌日、ウイルスペレットを、前記上清の20倍の濃度にて培地に再懸濁し、8μg/mlのポリブレン(Nacalai)の存在下で、1×10細胞/mlの濃度のBDKO細胞と共に混合した。感染後6時間で、培地を新しい培地に交換し、3日間培養し、脂質スクランブルアッセイに適用した。その後、フローサイトメトリーFACS AriaII(Beckton Dickinson)で選別(sort)した。数ラウンド(3~4回)のソーティング後に、10細胞からゲノムDNAを、後述するフェノール/クロロホルム抽出によって調製し、組み込まれたcDNAをPrimestar GXL DNAポリメラーゼと、プライマー5’-cccatatggccatatgagatctta-3’(配列番号27)および5’-caaaatggcgttacttaagctagc-3’(配列番号28)とを用いたPCRによって増幅した。その後、増幅産物を、NEBuilderを用いたBglIIおよびNheIにより切断されたpCX4BSR(文献31)に挿入した。大腸菌DH10Bへのエレクトロポレーションの後、第2のcDNAライブラリーを精製し、次のラウンドのスクリーニングに適用した。スクリーニング後、ゲノムDNAを調製し、組み込まれたcDNAのPCR増幅に適用し、アガロースゲルから切り出してpCX4BSRベクターに挿入した。ベクターに挿入された配列をシーケンシングにかけ、得られた配列をBlastサーチにより分析した。
【0176】
(ゲノムDNA精製)
cDNAライブラリースクリーニング後、ゲノムDNAを以下のように調製した。簡潔には、1000万個の細胞をPBSで2回洗浄し、100μg/mlのプロテイナーゼKを含む1mlのGenome Lysisバッファー(100mM Tris-HCl(pH8.5)、200mM NaCl、5mM EDTA、0.2%SDS)に再懸濁して、55℃で3時間インキュベートした。次いで、等量のイソプロパノールを加え、穏やかに反転させた。出現したスプール状のDNAを回収し、70%エタノールで洗浄し、50μg/mlのRNaseAを含む1mlのTEに再懸濁し、37℃で1時間インキュベートし、室温で一晩回転させた。翌日、前記DNA溶液にTE飽和フェノールを加えてよく混合し、遠心分離して上清液を回収し、次いで、再度TE飽和フェノール抽出にかけた。次に、DNAを含む上清を等量のフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコールと混合し、遠心分離した。その上清(約500μl)を1/10量の3M 酢酸ナトリウムおよび2倍量の100%エタノールと混合し、穏やかに反転させた。スロープ状のDNAを回収し、70%エタノールで洗浄し、100μlのTEに再懸濁し、65℃で10分間インキュベートして、4℃で保存した。
【0177】
(脂質スクランブル活性が強い細胞の樹立)
脂質スクランブルアッセイを行うために、BDKO細胞をV5-Xkr4ΔCFLAGおよびCas9-HAでトランスフェクトした。4,000万個の細胞を、終濃度1μMのNBD-PCを用いた脂質スクランブルアッセイにかけた。15℃で7分間NBD-PCと共にインキュベートした後、細胞膜上の外層における脂質を、5分間の脂肪酸非含有BSAによって除去し、NBD-PCを取り込んだ細胞をFACS AriaIIを用いて選別し、DAPIで染色された死細胞をゲートアウトした。収集した細胞を展開し、次のソーティングに適用した。ソーティングを6回繰り返し、脂質スクランブル活性が強い細胞が得られた。得られた高脂質スクランブル細胞(high lipid-scrambling cells)をPC6と称する。
【0178】
(CRISPR sgRNAライブラリーを用いたリバイバルスクリーニング)
Cas9-HAおよびXkr4ΔC-RFPを発現するCAD KO PLB細胞に、Gecko sgRNAライブラリーA&B(文献15、Addgene#1000000049)を約40%の感染効率にて感染させた。細胞を2.0μg/mlのピューロマイシンと共に2日間、ピューロマイシン無しで3日間培養した後、前記細胞を150mlの新たな培地に5×10細胞/mlの濃度で播種した。翌日、20ml培地中の2000万個のPLB細胞を、培養インキュベーターにて3時間培養し、20μlの10mM STS(終濃度10μM)で刺激し、3時間インキュベートした。次いで、細胞をNBD-PC取込みアッセイにかけ、NBD-PC取込みが欠失した細胞をフローサイトメトリーにて回収した。約5万個の細胞を1回の実験で集め、これを1日に5回実施した: 総数1×10個の細胞を1次スクリーニングにかけた。合計270,000個の細胞をフローサイトメトリーで収集し、Geno Plus Genomic DNA抽出キット(Viogene)に適用して、得られたゲノムDNA(合計3μg)をPCRにかけて、Primestar GXLポリメラーゼとプライマー5’-gttttaaaatggactatcatatgc-3’(配列番号29)および5’-tatccatctttgcacccgggc-3’(配列番号30)とを用いて組込まれたsgRNAエンコードを、32チューブ用の25μlスケールにて増幅した。PCR条件は以下のとおりである: 95℃で3分間の変性、その後98℃で10秒、55℃で15秒、68℃で30秒の28サイクル、および68℃で30秒の最終伸長。PCR反応混合物を1本の1.5mlチューブにプールし、そこから160μlをアガロースゲルにロードして425bpsのバンドを切り出した。PCR産物は、Gel/PCR抽出キット(Fastgene)を使用して精製し、NdeIおよびSmaIで切断したplentiGuide-puroベクター(250ng)と混合し、50℃で1時間NEBuilderと共にインキュベートし、エタノール沈殿にかけた。次に、沈殿物を157.5μlの10%グリセロールに再懸濁し、そこから103μlの溶液を63μlのDH10Bと混合した。3つの70μlの混合物をエレクトロポレーションキュベットに移し、NEPA Porator(Nepa Gene)を使用して2700Vでパルスし、5ml SOCに再懸濁し、37℃で2時間、穏やかに振とうしながら培養し、15cm LBプレート(1プレートあたり1ml)に播種した。翌日、コロニーをカウントし(220万クローン)、PBS中に回収し、Midiprepキット(Roche)にかけた。得られたプラスミドを使用してレンチウイルスを生成し、次のラウンドのソーティングにかけ、NBD-PC陰性の細胞集団が明確に現れるまで繰り返した。
【0179】
NBD-PC取込みが陰性であり、かつカスパーゼ3活性な細胞を、以下のように、フローサイトメトリーにより収集した: sgRNAライブラリーを、Xkr4ΔC-RFPを発現するCAD KO PLB細胞により低い感染力(10%)で感染させ、各細胞に単一のsgRNAレンチウイルスを導入した。1週間のピューロマイシン選択の後、RFP陽性およびPC取込み陰性の細胞をフローサイトメトリーで収集し、PBS中の1%パラホルムアルデヒドを2分間用いて固定化し、メタノールで透過処理を行い、抗活性化型カスパーゼ3抗体で染色し、カスパーゼ3活性陽性細胞を選別した。
【0180】
(局在試験(Localization study))
Xkr4のEGFP融合体またはXRCC4のtagRFP融合体の局在は、CFI Plan Apo 100×油浸対物レンズ、1.40NAまたはCFI Plan Apo 40×ドライ対物レンズ、0.95NAを使用したNikon A1共焦点顕微鏡により観察した。XRCC4のtagRFP融合体の局在を視覚化するために、XRCC4およびその変異体を発現するPLB細胞を、10μMSTSを用いて、または用いずに2.5時間処理し、5mg/mlの脂肪酸非含有BSAおよび20μMのDRAQ5(BioStatus)を含む氷冷HBSS中に再懸濁した。観察前に、細胞をガラス底ディッシュ(IWAKI)に播種し、蛍光画像を取得した。微分干渉コントラスト(DIC)画像も取得して、細胞の形態を視覚化した。画像はimageJ1.52pにより処理した。
【0181】
(DNA断片化アッセイ)
5×10個のPLB細胞およびCAD KO細胞を、10μMのSTSを用いて4時間刺激した。細胞を収集して、PBSで1回洗浄し、100μg/mlのProteinaseKを含む500μLのGenome Lysisバッファーで溶解し、55℃で一晩インキュベートしました。ゲノムDNAを沈殿させるために、500μlのイソプロパノールを加えて混合し、20,000×gで5分間遠心分離した。沈殿物を70%エタノールでリンスし、20μlのTEバッファーに再懸濁した。サンプルを1%アガロースゲルにロードし、DNA断片化を紫外線下で臭化エチジウムを用いて染色することにより視覚化した。
【0182】
(合成ペプチドのエレクトロポレーション)
XRCC4のアミノ酸266-285(C20:IAPSRKRRQRMQRNLGTEPK(配列番号7))、N末端にメチオニンを有するC20(C21:MIAPSRKRRQRMQRNLGTEPK(配列番号13))、270番目のアルギニンがアラニンで置換されているC20(C20-R270A:IAPSAKRRQRMQRNLGTEPK(配列番号14))、271番目のリジンがアラニンで置換されているC20(C20-K271A:IAPSRARRQRMQRNLGTEPK(配列番号8))に対応する合成ペプチドは、SCRUM社(東京、日本)から入手した。これらのペプチドを、終濃度10μMにて100μlのOpti-MEM(Gibco)中の1×10細胞に添加した。エレクトロポレーションは、ELEPO21(Nepa Gene)によって実施した。エレクトロポレーション後、細胞を、直ちに37℃に予め温めた10%FBSを含むRPMI1640と混合した。その半分(5×10細胞)を上記のようにアネキシンV-Cy5で染色し、フローサイトメトリーにて分析した。
【0183】
C20の局在は、Xkr4WT-GFPまたはXkr4ΔCGFPを発現するHCT116にて観察された。簡潔には、2×10個の細胞を、ペプシン可溶化ラットコラーゲンタイプI(Nippi)5μg/cmコーティングガラス底24ウェルプレート(IWAKI)に播種し、2日間培養した。テトラメチルローダミンで標識したC20(C20-TMR)を、300μlのOpti-MEM中に希釈して、終濃度2μMとし、CUY900-13-3-5接着細胞電極(adherent cell electrode)を備えたELEPO21にてエレクトロポレーションした。エレクトロポレーション後、細胞をPBS中の4%PFAを用いてRTにて10分間固定化し、共焦点顕微鏡にて観察した。
【0184】
(ブルーネイティブPAGE(BN-PAGE))
BN-PAGEは、NativePAGE Novex Bis-Tris Gel System(Life Technologies)を用いて実施した。可溶化膜画分を調製するために、1×10細胞を6mlの冷却したバッファーA(10mM Tris-HCl(pH7.4)、1mM CaCl、1mM p-APMSF、1mM NaF)に再懸濁し、氷上のDounceホモジナイゼーション(60回ストローク)を用いて破壊した。次いで、等量の冷却したバッファーB(10mM Tris-HCl(pH7.4)、0.1M NaCl、0.5M スクロース、1mM CaCl、10mM MgCl、1mM p-APMSF、1mM NaF)を添加し、4℃、800×gにて10分間遠心分離した。上清を回収し、さらに4℃、8,000×gにて10分間遠心した。ペレットを除去した後、上清を4℃、100,000×gにて50分間の超遠心分離にかけた。ペレット化した膜画分を、可溶化バッファー(20mM Tris-HCl(pH7.4)、100mM 6-アミノカプロン酸、50mM NaCl、10%(vol/vol)グリセロール、1mM CaCl、1mM p-APMSF、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Nacalai)、1mM NaFおよび1%n-ドデシル-β-D-マルトシド(DDM)(Dojindo)/0.01%コレステリルヘミスクシネート(CHS)(Sigma))と共に4℃にて3時間インキュベートすることにより溶解させた。4℃、20、000×gで30分間の遠心分離を実施して、不溶性の物質を除去した。可溶化膜画分の量を、BCA Protein Assayキット(Thermo Fisher Scientific)により測定し、可溶化バッファーを用いて0.6μg/μlに調整した。次に、サンプルを、NativePAGE Novex4-16%(wt/vol)Bis-Trisゲルにロードし、150Vにて35分間4℃での電気泳動により分離した。カソードバッファー中のCBB G-250濃度を0.02から0.002%に変更し、サンプルをさらに150Vにて120分間電気泳動した。ゲルをSDSランニングバッファー(25mM Tris、190mM グリシン、0.1%SDS、(pH8.3))を用いてRTにて20分間インキュベートし、次いで、0.1Aにて1時間PVDFメンブレンに転写し、ウェスタンブロッティングを行った。
【0185】
(SDS-PAGE)
全細胞ライセートを、プロテアーゼ阻害剤カクテル(ナカライ)を含む可溶化バッファー(20mM Tris-HCl(pH7.4)、100mM 6-アミノカプロン酸、50mM NaCl、10%(vol/vol)グリセロール、1mM CaCl、1mM p-APMSF、1mM NaFおよび1%DDM/0.01%CHS)またはRIPAバッファー(50mM Hepes-NaOHバッファー(pH8.0)、150mM NaCl、1%NP-40、0.1%SDS、0.5%デオキシコール酸ナトリウム)を用い、4℃にて1時間インキュベートして調製した。インキュベーション後、サンプルを4℃にて20,000×gで20分間遠心分離した。上清を回収し、タンパク質濃度をBCA Protein Assayキットにより測定した。次いで、サンプルを、可溶化バッファーおよび5×SDSサンプルバッファー(200mM Tris-HCl(pH6.8)、10%SDS、25%グリセロール、5%メルカプトエタノール、0.05%ブロモフェノールブルー)を用いて、0.1~1.0μg/μlに調整し、10%ポリアクリルアミドゲル(BIOCRAFT)にロードした。サンプルを、35mAにて40分間電気泳動し、0.1Aにて60分間PVDFメンブレンに転写した。前記メンブレンを5,000倍希釈した抗V5-HRP(Invitrogen)、5,000倍希釈した抗FLAG-HRP(Sigma)、4,000倍希釈した抗tRFPウサギpAb(Evrogen、AB233)、2,000倍希釈した抗XRCC4マウスmAb(SantaCruz、C-4)、500倍希釈した抗CADマウスmAb(SantaCruz、F-11)、4,000倍希釈した抗切断型カスパーゼ3ウサギmAb(細胞シグナリングテクノロジー #9661)、またはGST-Xkr4 N末端(アミノ酸1~110)を用いて免疫したウサギで生じたXkr4に対する抗血清の5,000倍希釈物を用い、次いで、10,000倍希釈したHRP結合ヤギ抗マウスまたはウサギIgG(Dako)を用いてプローブ化した。化学発光シグナルは、Immobilon Western化学発光HRP基質(Millipore)を用い、FUSION化学発光イメージングシステム(Vilber)にて検出した。化学発光後のPVDFメンブレン上の総タンパク質は、CBB染色(WAKO)によって視覚化した。前記メンブレンをCBB染色バッファー(0.25%CBB R250、50%メタノール、10%酢酸)と共に室温にて2~30分間インキュベートし、次いで、脱染バッファー(10%メタノールおよび10%酢酸)により洗浄した。
【0186】
(免疫沈降)
SPOTタグ(文献32)をXkr4のN末端に融合させた。SPOT-Xkr4ΔC-FLAGおよびXRCC4-RFPを発現する1000万個のXRCC4 KO PLB細胞を、400gでの5分間の遠心分離により回収し、10μM STSによる37℃での2.5時間のアポトーシス刺激後に、アネキシンバッファーで洗浄した。次いで、膜画分を調製し、上記のように可溶化した。膜ライセートを抗SPOTナノボディ結合磁性アガロースビーズ(SPOT-Trap、ChromoTek)と共にインキュベートし、4℃にて2時間回転させた。前記ビーズを、冷却した洗浄バッファー(20mM Tris-HCl(pH7.5)、100mM 6-アミノカプロン酸、50mM NaCl、1mM CaCl、および0.03%DDM/0.003%CHS)で3回洗浄し、質量分析にかけるか、またはサンプルバッファー(40mM Tris-HCl(pH6.8)、2%SDS、5%グリセロール、0.01%ブロモフェノールブルー)により95℃で5分間沸騰して溶出させた。溶出されたサンプルを、SDS-PAGEおよびウェスタンブロッティングにより分析した。
【0187】
(質量分析)
免疫沈降後に、磁性アガロースビーズSPOT-Trapを、50mMの重炭酸アンモニウムでさらに2回洗浄した。前記ビーズ上のタンパク質を、200ngのトリプシン/Lys-Cミックス(Promega)を添加して、37℃にて16時間消化した。消化された生成物を、還元し、アルキル化し、酸性化し、およびGL-Tip SDB(GL Sciences)を用いて脱塩した。溶出液を、SpeedVac濃縮器で蒸発させ、0.1%のトリフルオロ酢酸および3%のアセトニトリル(ACN)中に溶解した。得られたペプチドのLCMS/MS分析を、ナノエレクトロスプレーイオンソース(Thermo Fisher Scientific)を介してOrbitrap Fusion質量分析計に接続されたEASY-nLC 1200 UHPLCにて行った。ペプチドを、内径75μm×150mm 18の逆相カラム(Nikkyo Technos)にて、0~100分間で4~32%の直接的なACN勾配、続いて、10分間で80%にACNを増加させることで、分離した。質量分析計は、最大デューティサイクルが3秒のデータ依存取得モード(datadependent acquisition mode)で操作した。MS1スペクトルは、120,000の分解能、4×10の自動ゲインコントロール(AGC)ターゲット、および375~1,500m/zの質量範囲で測定した。HCD MS/MSスペクトルは、AGCターゲットが1×10、分離ウィンドウが1.6m/z、最大注入時間が100ミリ秒、および正規化した衝突エネルギーが30の線形イオントラップにて取得した。ダイナミックエックスクルージョンは、20秒に設定した。生データは、Proteome Discovererバージョン2.3(Thermo Fisher Scientific)とSequestHT検索エンジンを使用して、マウスXkr4タンパク質を補足してヒト(H.sapiens)に限定したSwissProtデータベースに対して直接分析した。検索パラメーターは以下とした: (a)酵素としてのトリプシンが最大2つの消失切断(missed cleavages);(b)プリカーサー質量の許容が10ppm;(c)断片質量許容が0.6Da;(d)固定修飾としてのシステインのカルバミドメチル化;および(e)可変修飾としてのタンパク質N末端のアセチル化およびメチオニンの酸化。ペプチドは、パーコレーターノードを用いて偽発見率1%にてフィルターをかけた。ラベル無しのプリカーサーイオン定量を、プリカーサーイオン定量化ノードを使用して実行し、すべてのペプチドにわたる各サンプルの存在度(abundance value)の合計が等しくなるように正規化を行った。
【0188】
ヒトXRCC4およびマウスXkr4の選択された複数のペプチドを、高解像度MSを用いたMS/MSベースのターゲット定量法であるPRMによって測定した。LC-MS/MS分析は、ナノエレクトロスプレーイオンソース(Thermo Fisher Scientific)を介してQ Exactive Plus質量分析計に接続されたEASY-nLC 1200 UHPLCにて実行した。ターゲットMS/MSスキャンは、解像度が70,000、AGCターゲットが2×10、分離ウィンドウが4.0m/z、最大注入時間が2秒、および正規化された衝突エネルギーが27のタイムスケジュールされたインクルージョンリスト(inclusion list)により取得した。遷移のタイムアライメントおよび相対定量化は、PinPointバージョン1.4(Thermo Fisher Scientific)を用いて実施した。
【0189】
(NGSデータのマッピング)
生データは、fastqファイル(sgRNA配列およびバーコード配列を含む)および2つのリファレンスcsvファイル(リファレンスsgRNA配列を含む)として受けた。リファレンスファイルには、各リファレンスsgRNA配列は、それが取得されたオリジナルの遺伝子に従って列挙され、ユニーク識別タグ(UID)が割り当てられている。いずれの場合も、6つのユニークリファレンスsgRNA配列(異なるUIDを有する)が同じ遺伝子に由来した。
【0190】
fastqファイルおよびリファレンスcsvファイルは、3つの内製コンピューターコードを用いて処理した。第1のコード(文献33)は、fastqファイル中の遺伝子からバーコード配列を除去し、次いで、すべての配列(fastqファイル中の遺伝子およびリファレンスファイル中のsgRNAシーケンスの両方)を整数シーケンス(シトシン=1、アデニン=2など)に変換する。このコードは、整数配列の2つのリストを出力し、その1つはfastqファイルに含まれる遺伝子に関し、もう1つは2つのリファレンスファイルに含まれるsgRNAに関する。次いで、これらの出力は、第2のコード(C++で記述される)によって読み取られ、それは、リファレンスリスト中で各sgRNAがfastqファイル中の遺伝子のなかで出現する回数をカウントする。次に、これらのカウントは、第3のコード(Rで記述される)に転換され、それは、リファレンスリストから各sgRNAがfastqファイル中の遺伝子のなかで出現する回数を示すスプレッドシートを作成する。このスプレッドシートを作成するために、我々はまずそれらが元来取得された遺伝子に従ってリファレンスsgRNAをグループ分けする。次に、そのグループを、fastqファイルの遺伝子のなかで少なくとも1回出現したリファレンスsgRNAの数に従ってランク付けする。
【0191】
上記のマッピング手順では、Rが文字列データ(生の遺伝子配列)を読み取って処理する能力と、大量の整数データをループする際のC++の速度を利用している。
【0192】
[実施例1]
恒常的に脂質スクランブル活性を示すXkr4変異体
Xkr4は、アポトーシス過程においてカスパーゼによりそのC末端が切断される。C末端が切断されたXkr4は、二量体を形成し、スクランブラーゼ活性を生じる。これにより、細胞膜の内側に位置しているホスファチジルセリン(PS)が細胞膜の外側に露出される。しかし、Xkr4のC末端の切断のみで、PSが細胞膜の外側に露出するには十分ではない(文献12)。
【0193】
野生型のXkr4(Xkr4WT)をコードする遺伝子を有するプラスミド、およびカスパーゼによりそのC末端が切断されたXkr4(本明細書中「Xkr4ΔC」ともいう)をコードする遺伝子(文献15)を有するプラスミドをPLB細胞にトランスフェクトし、Xkr4WTおよびXkr4ΔCを恒常的に発現するトランスフェクタントをそれぞれ調製した。
【0194】
PLB細胞および前記トランスフェクタントの各々に対して、スタウロスポリン(STS)によるアポトーシス刺激を与え、各細胞によるニトロベンゾオキサジアゾールをコンジュゲートしたホスファチジルコリン(NBD-PC)の取込みを、フローサイトメトリーを用いて測定した(図1(a)~(c))(上記「材料および方法」の(STSによるアポトーシス刺激)および(脂質スクランブルアッセイ)参照)。
【0195】
PLB細胞(parental)では、STSによるアポトーシス刺激を与えなかった場合(Control)も与えた場合(STS)も、細胞へのホスファチジルコリン(PC)の取込みは観察されなかった(図1(a))。Xkr4WTを発現するトランスフェクタント(本明細書中「Xkr4WT発現細胞」ともいう)では、STSによるアポトーシス刺激を与えた場合、細胞へのPC取込みが観察された(図1(b)STS)。これらの結果は、Xkr4WTが、アポトーシス刺激により脂質スクランブラーゼ活性が生じることを示す。
【0196】
Xkr4ΔCを発現するトランスフェクタント(本明細書中「Xkr4ΔC発現細胞」ともいう)では、STSによるアポトーシス刺激を与えなかった場合、細胞へのPC取込みは観察されなかった(図1(c)Control)。この結果は、細胞によるPC取込みにおいて、Xkr4のC末端切断だけでは、培養液に添加されたPCを取り込むためのスクランブラーゼ活性を生じさせるのに十分ではないことを示す。Xkr4ΔC発現細胞にSTSによるアポトーシス刺激を与えた場合、細胞へのPC取込みが観察された(図1(c)STS)。この結果は、Xkr4ΔCが、アポトーシス刺激によりスクランブル活性を生じるXkr4WTと同様に、アポトーシス刺激により脂質スクランブル活性を生じることを示す。
【0197】
PLB細胞(parental)、Xkr4WTおよびXkr4ΔCを発現するトランスフェクタントについてアネキシンV染色を行った(図1(d)~(f))(上記「材料および方法」の(アネキシンV染色)参照)。図1(e)および(f)は、PC取込みが生じたトランスフェクタントXlr4WTおよびXkr4ΔCでは(図1(b)および(c))、PSが露出されることを示す。これらの結果は、Xkr4ΔCが、PC取込みだけでなく、アポトーシス刺激によってPS露出が生じることを示す。
【0198】
Xkr4WTおよびXkr4ΔCのC末端にEGFPがタグ付けされたXkr4WT-GFPおよびXkr4ΔC-GFPを発現するPLB細胞をそれぞれ調製した。STSによるアポトーシス刺激後、Xkr4ΔCは、Xkr4WTと同様、細胞膜上に局在していた(図2)。この結果は、Xkr4ΔCが、Xkr4WTと同様に、アポトーシス刺激により細胞膜上で脂質スクランブル活性を生じることを示す。
【0199】
Xkr4WTまたはWkr4ΔCを発現するPLB細胞を、全カスパーゼ阻害剤Q-VD-OPhと共に培養した後、STSを用いて3時間アポトーシス刺激を与えた(図3)。Xkr4WT発現細胞は、カスパーゼ阻害剤を用いて前処理すると、STSによるアポトーシス刺激による脂質スクランブル活性が生じなかった(図3(a)および(b))。Wkr4ΔC発現細胞でも、Xkr4WT発現細胞の場合と同様の結果が得られた(図3(c)および(d))。図1図3により示される結果は、Xkr4ΔCが、Xkr4WTと同様に、アポトーシス刺激により誘導されるカスパーゼによって細胞膜上で脂質スクランブル活性を生じることを示す。
【0200】
Xkr4WTまたはWkr4ΔCを発現するPLB細胞の細胞膜溶解液を調製し、ブルーネイティブPAGE(BN-PAGE)またはSDS-PAGEによる生化学的分析を行った(図4)。BN-PAGEによる生化学的分析は、抗Xkr4抗体を用いたウェスタンブロッティングは、アポトーシス刺激前は、Xkr4WTは単量体で存在し、Xkr4ΔCは二量体で存在することを示す(図4(a))。SDS-PAGEによる生化学的分析は、Xkr4またはXkr4ΔCがそれぞれ対応する分子量を有することを示す(図4(b))。これらの結果は、Xkr4ΔCが、Xkr4WTと同様に、細胞膜上で二量体を形成するが、脂質スクランブル活性を生じるには十分ではないことを示す。
【0201】
(脂質スクランブル活性が強い細胞の樹立)
Xkr4がどのように活性化されるかを理解するために、恒常的な脂質スクランブル活性を示す細胞を取得する。2種類のユビキタスなスクランブラーゼであるXkr8(文献10)およびTMEM16F(文献9)が欠失したBa/F3細胞(BDKO)においてXkr4ΔCを安定的に発現するトランスフェクタントを調製した。培養により増殖させたトランスフェクタントに対して脂質スクランブルアッセイを行い、NBD-PC由来の蛍光強度が高いトランスフェクタント、即ちPCを取り込む細胞をフローサイトメトリーにより回収する過程を、6回繰り返した(図5(a))。前記過程を繰り返すことにより、NBD-PC由来の蛍光強度が高いトランスフェクタントを得た(図5(b))。図5(b)の各グラフは、前記過程を実施した回数(PC0~PC5)に応じたフローサイトメトリーの結果を示し、各グラフ中の実線で囲った四角の領域は、非ネクローシス細胞集団においてPCを取り込む細胞(PC-uptake-positive cells)を示す。
【0202】
前記過程の繰り返し回数が増える(PC0からPC5)に従って、この領域に含まれるトランスフェクタントの数が増加した。Xkr4ΔCを発現するトランスフェクタントから出発して(図6(a))、前記過程を6回繰り返すことによって、アポトーシス刺激なしに、恒常的に脂質スクランブル活性を示す細胞(PC6)が得られた(図6(b))。Xkr4に対するsgRNAレンチウイルスをPC6細胞に感染させた。得られた感染PC6細胞(PC6+sgXrk4)では、PC取込みは観察されなかった(図6(c))。PC6またはPC6+sgXkr4の細胞ライセート全体をSDS-PAGEにかけ、抗V5抗体を使用したウェスタンブロッティング(WB)を行った(図6(d))。前記WBにより、V5-Xkr4ΔC-FLAGが検出される。このWBの結果は、PC6+sgXrk4がXkr4を発現していないことを示す。これらの結果は、PC6細胞における恒常的な脂質スクランブル活性が、Xkr4に依存することを示す。
【0203】
(cDNAライブラリーの構築、およびXkr4ΔC変異体の同定)
PC6におけるXkr4に依存する恒常的な脂質スクランブル活性は、Xkr4ΔCに作用する内因性のタンパク質をコードする遺伝子に突然変異が導入されたことに起因する可能性がある。PC6細胞から全RNAを抽出し、逆転写酵素を用いて第1のcDNA鎖を生成させた。得られた第1のcDNAを、プライマー5’-AAGCAGTGGTATCAACGCAGAGT-3’(配列番号31)および5’-CGGGGTACGATGAGACACCA-3’(配列番号32)を用いたPCRによって第2のcDNA鎖を生成させた。得られた第2のcDNAをアガロースゲル電気泳動により、低分子量(LMW)(1.0-2.5kbps)のcNDAと、高分子量(HMW)(2.5-6.0kbps)のcDNAとに分離した。LMWおよびHMWのそれぞれを有するプラスミドを用いて、ElectroMAX DH10Bを形質導入した。この結果、LMWについて610万形の形質導入体クローンを含むLMWのcDNAライブラリーが得られ、およびHMWについて2100万の形質導入体クローンを含むLMWのcDNAライブラリーが得られた。
【0204】
(cDNAライブラリースクリーニング)
HMWの第1のcDNAライブラリーを、レトロウイルスベクターpGag-pol IRES-bsrおよびpCMV-VSV-Gを用いて、HEK293T細胞にトランスフェクトした。トランスフェクタントからレトロウイルスを回収した。回収したレトロウイルスをBDKO細胞に感染させ、1LPC0細胞集団を得た。1LPC0細胞集団を、脂質スクランブルアッセイにかけ、フローサイトメトリーにより脂質スクランブル活性を有する細胞(0.6%)を得た(図7(a))。得られた細胞集団を培養して、再度、脂質スクランブルアッセイにかけて、脂質スクランブル活性を有する細胞集団を得る過程を3回繰り返し、1LPC3細胞集団中で脂質スクランブル活性を有する細胞(91.9%)を得た(図7(b))。1LPC3細胞集団から得られた前記細胞のゲノムDNAを調製し(上記「材料および方法」に記載の(ゲノムDNA生成)を参照)、前記ゲノムDNAに組込まれたHMWの第1のcDNAライブラリー由来のcDNAを、プライマー5’-cccatatggccatatgagatctta-3’(配列番号33)および5’-caaaatggcgttacttaagctagc-3’ (配列番号34)を用いたPCRによって増幅した。得られたPCR断片をアガロースゲル電気泳動した結果、いくつかのバンドが観察された。このため、前記PCR断片を用いて第2のcDNAライブラリーを調製した。
【0205】
第1のcDNAライブラリーと同様にして、第2のcDNAライブラリーからレトロウイルスを調製し、調製したウイルスを用いてBDKO細胞に感染させ、2LPC0細胞集団を得た。2LPC0細胞集団を、脂質スクランブルアッセイにかけ、フローサイトメトリーにより脂質スクランブル活性を有する細胞(11.7%)を得た(図7(c))。得られた細胞集団(2LPC1)を培養して、脂質スクランブルアッセイにかけた結果、脂質スクランブル活性を有する細胞が92.5%得られた(図7(d))。2LPC1細胞集団から得られた前記細胞のゲノムDNAに組込まれた第2のcDNAライブラリー由来のcDNAをPCRによって増幅した。得られたPCR断片をアガロースゲル電気泳動した結果、ほぼ単一のバンドが観察された。得られたPCR断片をシーケンシングした。その結果、同定された遺伝子はすべて、Xker4に対して単一の点突然変異(I322S、L331F、またはQ332E)を有するXkr4ΔC変異体をコードしていた。この結果は、PC6におけるXkr4に依存する恒常的な脂質スクランブル活性は、同定された点突然変異によってXkr4ΔC自体が変化することによって生じたものであることを示す。
【0206】
Xkr4は第1~第10の膜貫通領域を有し、I322Sは第4の膜貫通領域における変異であり、L331FおよびQ332Eは第5の膜貫通領域における変異である。
【0207】
[実施例2]
恒常的な活性型Xkr4変異体の特徴
全長(FL)のXkr4、Xkr4ΔC(「ΔC」ともいう)、前記点突然変異を有するXkr4ΔC(それぞれ「ΔC I322S」、「ΔC L331F」および「ΔC Q332E」という)、全長Xkr4に点突然変異Q332Eを有するFL Q332EをBDKO細胞(parental)において発現するトランスフェクタントをそれぞれ調製した。
【0208】
調製したトランスフェクタントについて、脂質スクランブルアッセイを行った(図8(a))。このアッセイでは、STSによるアポトーシス刺激は与えていない。脂質スクランブルアッセイを開始後、ΔC I322S、ΔC L331FおよびΔC Q332Eを発現するBDKO細胞では、時間の経過にともなってPC取込みが増加することが観察された(図8(a))。細胞膜の内側に位置するPSが細胞膜の外側に露出しているかを試験するために、調製したトランスフェクタントについてアネキシンV染色を行った(図8(b))(上記「材料および方法」の(アネキシンV染色)参照)。図8(b)は、PC取込みが増加したトランスフェクタント(ΔC I322S、ΔC L331FおよびΔC Q332E)では、PSが露出されていることを示す。Q332Eを有する全長のXkr4(FL Q332E)では、PC取込みもPS露出も観察されなかった(図8(a)および(b))。これらの結果は、Xkr4のC末端の切断と、同定された点突然変異(ΔC I322S、ΔC L331FまたはΔC Q332E)との組合せによって、Xkr4による脂質スクランブル活性およびPS露出が生細胞であっても生じることを示す。
【0209】
調製したトランスフェクタントから全細胞ライセートを調製し、細胞ライセートをSDS-PAGE後に、V5-Xkr4-FLAGを検出するための抗V5抗体を用いたウェスタンブロッティングに適用し、Xkr4を検出した。その結果は、各トランスフェクタントは、対応する分子量を有するXkr4をそれぞれ発現していた(図9(a)上段)。Xkr4FL、Q332Eを有するXkr4FL(Xkr4FL-Q332E)、Xkr4ΔC、Q332Eを有するXkr4ΔC(Xkr4ΔC-Q332E)をそれぞれ発現するトランスフェクタントから全細胞ライセートを調製し、細胞ライセートをBN-PAGE後に、V5-Xkr4-FLAGを検出するための抗V5抗体を用いたウェスタンブロッティングに適用し、Xkr4を検出した。この結果、Xkr4ΔC-Q322Eは、Xkr4ΔCと同様、二量体を形成していた(図9(b)上段)。これは、Xkr4ΔCによる二量体化は、同定された点突然変異Q322Eによって影響を受けないことを示す。図8および図9で示された結果は、C末端の切断によって二量体を形成したXkr4は、同定された点突然変異によって、立体構造が変化して活性化され得ることを示す。これらの結果は、C末端の切断によって二量体を形成したXkr4が、何らかの活性化因子によって調節される構造変化により、脂質スクランブル活性を生じるようになる可能性を示唆する。
【0210】
同定された点突然変異を有するXkr4変異体を用い、脂質スクランブル活性に必須の成分を特定する。カルシウムイオンもマグネシウムイオンも含まない緩衝液中のXkr4ΔC Q332E発現細胞は、前記緩衝液にNBD-PCを添加してもPCを取り込まなかった(図10(a))。緩衝液中にカルシウムイオンを含めることで、緩衝液中のXkr4ΔC Q332E発現細胞は、PCを取り込んだ(図10(c)および(d))。緩衝液中に含めるカルシウムイオン濃度を増加させると、Xkr4ΔC Q332E発現細胞によるPCの取込み量が増加した(図10(e))。
【0211】
Xkr4ΔC Q332Eを発現するトランスフェクタントを、細胞外カルシウムイオン濃度0mM、0.125mMまたは2mMを含む条件下で、NBD-PCと混合し、前記トランスフェクタントによるPC取込みを調べた。PC取込みアッセイにおいて、2μM カルシウムイオノフォアA23187を含めた場合(A23)と含めなかった場合(-)とで、PC取込みに変化はなかった(図11(a))。Xkr4ΔC Q332Eを発現するトランスフェクタントを、1μMのFluo4-AMと共に30分間インキュベートし、0.125mMまたは2mMの細胞外カルシウムの存在下、2μMのA23187を用いて刺激し、フローサイトメトリーにて分析した。A23187を用いて刺激した場合と刺激しなかった場合とで、Fluo4-AM取込みに変化はなかった(図11(b))。これらの結果は、カルシウムイオノフォアA23187はXkr4によるスクランブル活性を増強させるものではないことを示し、これは、Xkr4の細胞外領域のカルシウムが重要であることを示唆する。Xkr4WTまたはXkr4ΔCを発現するトランスフェクタントを、0.4mMのカルシウムを含む培地中でSTSと共に3時間培養し、次いで、2.5mMの細胞外カルシウムを含むまたは含まない条件下で、PC取込みアッセイを実施した。STSによるアポトーシス刺激によって活性化されたXkr4FLもXkr4ΔCも脂質スクランブル活性にカルシウムが必要であった(図11(c))。このため、Xkr4の細胞外領域のカルシウムが脂質スクランブル活性に重要であることは、生きている細胞におけるXkr4ΔC変異体に特異的なものではないことを示す。
【0212】
[実施例3]
リバイバルスクリーニングによるXkr4活性化因子の同定
細胞外カルシウムの存在下で、Xkr4は2つのステップで活性化される。1つのステップは、C末端の切断によって誘発される二量体化である。もう1つのステップは、実施例2において示唆されたように、何らかの活性化因子によって調節される構造変化である。死にかけている細胞において当該活性化要因を特定するために、CRISPR sgRNAライブラリーを利用する。しかしながら、一般に、死にかけている細胞を用いて、ターゲットsgRNAを濃縮することは、該細胞が増殖しないために困難である。この困難性を克服するために、「リバイバルスクリーニング」と称する新たなスクリーニング系を開発した(上記「材料および方法」の(CRISPR sgRNAライブラリーを用いたリバイバルスクリーニング)参照)。
【0213】
リバイバルスクリーニングでは、レンチウイルスが感染して細胞ゲノムDNAに組込まれたターゲットsgRNAが復活し、スクリーニングの次のラウンドのためのsgRNAライブラリーにおいて濃縮される。これは、レンチウイルスのsgRNAが細胞に感染して、感染細胞のゲノムDNAに当該sgRNAが組み込まれる。特定の指標に基づいてsgRNAが組み込まれた細胞を選択することによって、前記細胞から、前記指標に対応するsgRNAが濃縮される。選択された感染細胞からゲノムDNAを調製し、ゲノムDNAに組込まれたsgRNAを回収して、新たなレンチウイルスsgRNAライブラリーを生成する。この結果、リバイバルスクリーニングでは、スクリーニングの次のラウンドのために調製されるsgRNAライブラリーにおいて、特定の指標に対応するsgRNAが濃縮される(図12)。
【0214】
(CRISPR sgRNAライブラリーを用いたリバイバルスクリーニング)
リバイバルスクリーニングを容易に実行にするために、アポトーシスDNase CAD(文献14)を欠失させたPLB細胞を樹立する。CADに対するsgRNAをコードするpX330ベクターを、CRISPR/Cas9でトランスフェクトしたPLB細胞にエレクトロポレーションし、限界希釈を行って単一クローンを得ることによって、CAD KO PLB細胞を樹立した(図13)。C末端にtagRFPを融合させたXkr4ΔC(Xkr4ΔC-RFP)をコードするDNA配列が挿入されたプラスミドを調製した。CAD KO PLB細胞を、前記プラスミドを用いてトランスフェクションした。得られたトランスフェクタントに、レンチウイルスsgRNAライブラリーを感染させた。レンチウイルスsgRNAライブラリーはヒト全遺伝子の各遺伝子につき6つの異なるターゲットsgRNAを含む(文献15)。
【0215】
レンチウイルスsgRNAライブラリーで感染させた細胞を、STSで3時間刺激して、アポトーシス刺激を与えた後、PC取込みアッセイを行った。RFP陽性であり、かつPC取込みが陰性である細胞集団をフローサイトメトリーにより回収した(図14(a))。回収した細胞からゲノムDNAを調製し、ゲノムDNAに組み込まれたsgRNA領域を回収して、再度、レンチウイルスsgRNAライブラリーを作製した。作製したレンチウイルスsgRNAライブラリーを、前記トランスフェクタントに感染させ、感染細胞にSTSによるアポトーシス刺激を与えた後、PC取込みアッセイを行った。このサイクルを3回繰り返すことで、24.5%のPC取込み陰性の細胞を含む細胞集団(sgPC3)を得た(図13(c))。このサイクルをさらに1回繰り返し、sgPC4細胞集団を得た。
【0216】
sgPC4細胞集団のゲノムDNAを回収して、回収したゲノムDNA中に組み込まれたsgRNAをコードする領域を増幅し、増幅断片を次世代シーケンシング(NGS)分析にかけ、遺伝子マッピングを行った(上記「材料および方法」の(NGSデータのマッピング)参照)。1種または2種のsgRNAに対応する遺伝子を除外した後、得られた遺伝子を総リード数のスコアに基づいてランク付けした(図13)。ランク付けした14位までの遺伝子を以下の表にまとめた。
【表1】
【0217】
表1で示されるように、チトクロームC(CYCS)およびAPAF1が上位14位までの遺伝子リスト中に見出された。CYCSは、アポトーシス刺激を受けるとミトコンドリアから放出される。次いで、CYCSはAPAF1に結合し、カスパーゼ9(Casp9)およびカスパーゼ3(Casp3)を順次活性化する。このように、CYCSおよびAPAF1はいずれも、カスパーゼ9の活性化に必要な因子である。この結果は、リバイバルスクリーニングがアポトーシス過程において二量体Xkr4による脂質スクランブル活性を調節する何らかの活性化因子を探索するために機能していることを示す。
【0218】
前記活性化因子の候補遺伝子を絞り込むために、さらなるスクリーニングを行った。sgRNAライブラリーが導入された細胞の中で、RFPが陽性であり、かつPC取込みが陰性である細胞を含む細胞集団(sgPC5)をフローサイトメトリーにより回収した。回収したsgPC6細胞を、固定し、透過処理を行いった。その後、処理された細胞に抗活性化型カスパーゼ3抗体による染色を行い、カスパーゼ3活性化細胞の分類を行った。前記sgPC6細胞からレンチウイルスsgRNAライブラリーを作製して、前記レンチウイルスsgRNAを用いて得られたsgPC6細胞集団を用いてさらにスクリーニングを行った(図16)。
【0219】
前記スクリーニングにより得られたsgPC7細胞からゲノムDNAに組込まれたsgRNAを含む領域について、前記と同様にしてNGS分析を行った。NGS分析により得られた遺伝子を総リード数のスコアに基づいてランク付けし、8位までの遺伝子を以下の表にまとめた。
【表2】
【0220】
表2で示されるように、XRCC4と称される遺伝子が、読取りの合計値においてCYCSおよびAPAF1よりも高かった。sgPC7のNGS分析で示されたXRCC4の読取りの合計値(表2)は、sgPC4のNGS分析で示されたXRCC4の読取りの合計値(表1)と比べて、40倍以上濃縮されたことを示す(図17)。この結果は、XRCC4が、Xkr4の活性化因子として最も有力な候補であることを示す。
【0221】
[実施例4]
カスパーゼ切断型XRCC4によるXkr4の調節
実施例3において、Xkr4の活性化因子として示された上位3つの候補遺伝子に対するsgRNAを導入したPLB細胞に対してSTSによるアポトーシス刺激を与え、前記細胞におけるカスパーゼ3活性およびPC取込みに対する影響を調べた(図18)。XRCC4に対するsgRNAを用いても、前記細胞におけるカスパーゼ3活性に対する影響は観察されなかった(図18(a)上段および図18(b)上段)。CYCSまたはAPAF1に対するsgRNAを用いた場合、前記細胞におけるカスパーゼ3活性が低下した(図18(c)上段および図18(d)上段)。これらの結果は、アポトーシス過程において、CYCSおよびAPAF1はカスパーゼ3よりも上流に影響を及す因子であり、XRCC4はカスパーゼ3よりも下流に影響を及ぼす因子であることを示す。前記3つの遺伝子に対するsgRNAを用いた場合、前記細胞におけるPC取込みは低下した(図18(a)~(d)下段)。これらの結果は、XRCC4は、アポトーシス過程においてカスパーゼ3よりも下流において影響を及ぼし、結果的に脂質スクランブル活性に影響を及ぼす因子であることを示す。
【0222】
アポトーシス刺激を受けた細胞におけるPC取込みに対するXRCC4の影響を調べるために、XRCC4ノックアウトPLB細胞(XRCC4-/-細胞)を調製した(図19(a))。調製したXRCC4-/-細胞がXRCC4を発現していないことは、坑CAD抗体を用いたウェスタンブロッティングにより確認した(図19(b))。XRCC4は、アミノ酸265(文献16、17)にカスパーゼ-3の切断部位を有し、アポトーシス刺激により切断される。この切断部位の2つのアスパラギン酸をアラニンとする変異(2DA)により、カスパーゼによる切断に対して耐性となる(図19(c)上段、XRCC4 2DA(STS +))。前記XRCC4-/-細胞を、野生型のXRCC4(WRCC4 WT)またはカスパーゼ非切断型のXRCC4(XRCC4 2DA)をコードする遺伝子を有するプラスミドを用いてトランスフェクトした。得られたトランスフェクタントに対してSTSによるアポトーシス刺激を与え、前記トランスフェクタントにおけるPC取込みに対する影響を、NBD-PCを用いた脂質スクランブルアッセイにより調べた(図20(a)~(c))。XRCC4-/-細胞では、STSによるアポトーシス刺激後のPC取込みは観察されなかった(図20(a))。XRCC4 WTを発現するXRCC4-/-細胞では、STSによるアポトーシス刺激後のPC取込みが観察された(図20(b))。これらの結果は、XRCC4がアポトーシス刺激による脂質スクランブル活性に関与することを示す。XRCC4 2DAを発現するXRCC4-/-細胞では、STSによるアポトーシス刺激後のPC取込みは観察されなかった(図20(c))。この結果は、カスパーゼによるXRCC4の切断が、アポトーシス刺激によるXkr4の脂質スクランブル活性を調節することを示す。
【0223】
恒常的な脂質スクランブル活性を与える点突然変異(Q322E)を有するC末端切断型Xkr4変異体(Xkr4ΔC Q322E)を発現するPLB細胞に、XRCC4およびCYCSに対するsgRNAを導入した。前記細胞に対してSTSによるアポトーシス刺激を与え、前記細胞におけるPC取込みに対する影響を調べた(図20(e)~(f))。XRCC4に対するsgRNAおよびCYCSに対するsgRNAのいずれを用いても、前記細胞におけるPC取込みに影響はなかった。これらの結果は、カスパーゼによるXRCC4の切断が、アポトーシス刺激によるXkr4の脂質スクランブル活性を調節するとの上記示唆を裏付ける。また、これらの結果は、Xkr4ΔCにおいて恒常的な脂質スクランブル活性を与える点突然変異は、アポトーシス刺激による脂質スクランブル活性におけるXRCC4の関与を回避できることを示す。
【0224】
N末端にV5をタグ付けしたXkr4、Xkr8およびXkr8を発現するコードするプラスミドを用いてXRCC4 KO PLB細胞をトランスフェクトし、各Xkrを発現するトランスフェクタントを作製した。さらに、XRCC4 WT-RFPを発現すようにトランスフェクトし、各XkrおよびXRCC4 WTを共発現するトランスフェクタントを作製した。XRCC4 KO PLB細胞(XRCC4-/-)、各Xkrを発現するトランスフェクタント、および各XkrおよびXRCC4 WTを共発現するトランスフェクタントの全細胞ライセートを調製し、前記細胞ライセートをSDS-PAGEおよびウェスタンブロッティングに適用した。ウェスタンブロッティングでは、抗V5抗体(図21上段)および抗RFP抗体(図21中段)を用いた。図21は、所定のトランスフェクトが調製されたことを示す。
【0225】
作製した前記トランスフェクタントについて脂質スクランブルアッセイを行った(図22)。STSによるアポトーシス刺激により、試験したすべてのトランスフェクトでカスパーゼ3活性が観察された(図22(g)~(l))。XRCC4をノックアウトしたPLB細胞においてXkr4を発現させて、STSによるアポトーシス刺激を与えても、PC取込みは観察されなかった(図22(a))。さらにXRCC4 WTを発現させると、PC取込みが観察された(図22(d))。これらの結果は、カスパーゼによるXRCC4の切断が、アポトーシス刺激によるXkr4の脂質スクランブル活性を調節するとの上記示唆を裏付ける。
【0226】
Xkr4に変えて、Xkr8またはXkr9を発現するXRCC4 KO PLB細胞では、XRCC4 WTを共発現させていなくても、STSによるアポトーシス刺激を与えると、PC取込みが観察された(図22(b)および(c))。これらの結果は、アポトーシス刺激による脂質スクランブル活性を調節において、カスパーゼによるXRCC4の切断はXkr4に特異的な活性化因子であることを示す。
【0227】
XRCC4は、核内のDNA修復複合体の構成要素である(文献18、19)。C末端にRFPをタグ付けしたXRCC4 WT(XRCC4 WT-RFP)を発現するトランスフェクタントにおいて、XRCC4は核内にのみ観察された(図23(a)上段)。XRCC4 WT-RFPを発現する前記トランスフェクタントにSTSによるアポトーシス刺激を与えた場合、XRCC4は細胞質にも観察された(図23(a)下段)。N末端にRFPをタグ付けしたXRCC4 WT(RFP-WRCC4 WT)を発現するトランスフェクタントでは、STSによるアポトーシス刺激を与えても、XRCC4は核内にのみ観察された(図23(b))。これらの結果は、XRCC4は、アポトーシス刺激により切断され、C末端断片が細胞質に拡散したことを示す。
【0228】
C末端またはN末端にRFPをタグ付けしたカスパーゼ非切断型のXRCC4(XRCC4 2DA-RFPまたはRGP-XRCC4 2DA)を発現するトランスフェクタントでは、アポトーシスを与えても(STS+)与えなくても(STS-)、XRCC4は細胞内にのみ観察された(図23(c)および(d))。カスパーゼ非切断型のXRCC4 2DAは、STSによるアポトーシス刺激を与えても、切断されず(図24(a)左から4番目のレーン)、PC取込みも生じなかった(図24(c))。XRCC4 WTは、STSによるアポトーシス刺激を与えると、切断され(図24(a)左から2番目のレーン)、PC取込みが生じた(図24(b))。これらの結果は、アポトーシス刺激によるXkr4の脂質スクランブル活性を調節するのに、カスパーゼによって生じたXRCC4のC末端断片が核内から細胞質に拡散することが重要であることを示す。
【0229】
[実施例5]
細胞質のXRCC4断片によるXkr4の調節
XRCC4/Nは、二量体化ドメインおよびDNA修復タンパク質の結合ドメインとして機能する(文献18、20、21)(図25)。Xkr4を調節するXRCC4の最小領域を決定するために、全長の野生型XCCR4(1-336)からN末端が部分的に欠失したXRCC4の欠失変異体(116-336、156-336、204-336、248-336、256-336および226-336(ΔN)、C末端が部分的に欠失したXRCC4の欠失変異体(1-305、1-285および1-265(ΔC))、および短鎖長のXRCC4断片(Mini)を発現するXRCC4 KO PLB細胞を作製した。前記細胞に対して、脂質スクランブルアッセイを行った(図26)。カスパーゼ切断部位(アミノ酸265位と266位との間)よりN末端側の10アミノ酸を含むXRCC4/256-336は、PC取込みを示した(図26(g)、図27(a))。カスパーゼ切断部位よりN末端側のXRCC4/Nと比較して、カスパーゼ切断部位よりC末端側のXRCC4/Cには、天然変性領域を有する既知の結合パートナーはなかった(図27(b))。XRCC4/1-285は、カスパーゼ切断部位よりC末端側の20アミノ酸しか含んでいないが、PC取込みを示した(図26(j)、図27(c))。カスパーゼ切断型ΔNは完全なPC取込みを示さなかった(図26(h))。カスパーゼ切断型ΔCはPC取込みを示さなかった(図26(k))。これらの結果は、切断されたXRCC4のC末端断片においてアミノ酸266位のイソロイシンが露出される必要があることを示す。実際、XRCC4/256-285(Mini)(カスパーゼ切断部位よりC末端側の20アミノ酸とN末端側の10アミノ酸を含む)は、PC取込みを示した(図26(l)、図27(f))。これらの結果は、アミノ酸256位-285位の配列を含むXRCC4のC末端断片がアポトーシス刺激によるXkr4の脂質スクランブル活性を誘導するのに十分であることを示す。
【0230】
XRCC4/256-285(Mini)のうち、アポトーシス刺激によるXkr4の脂質スクランブル活性を誘導するアミノ酸配列を調べるために、より短いペプチド断片を調製した。XRCC4のアミノ酸266位~285位の20アミノ酸長からなるペプチド(C20)およびC20のN末端にメチオニンをさらに含むペプチド(C21)を人工的に合成した(図28(a))。合成ペプチドC20またはC21を、Xkr4 WTまたはXkr4ΔCを発現するBDKO細胞にエレクトロポレーションにて導入し、PS露出アッセイを行った(図28(b)および(c))。合成ペプチドC20およびXkr4ΔCとの組合せにおいてPS露出が観察された。この結果は、XRCC4のアミノ酸266位~285位の配列を含むペプチドがアポトーシス刺激によるXkr4の脂質スクランブル活性を誘導するのに十分であることを示す。
【0231】
さらに、核局在化シグナル(NLS)を含む、合成ペプチドC20におけるXkr4を調節するための重要なアミノ酸残基を決定するために、XRCC4中の正に帯電したアミノ酸残基(270位のアルギニン、271位のリジン、272位のアルギニン、273位のアルギニンおよび275位のアルギニン)をアラニンに置換したペプチド C20-R270A、C20-K271A、C20-R272A、C20-R273AおよびC20-R275Aを調製した。XRCC4断片の変異体 C20-R270A、C20-K271A、C20-R272AおよびC20-R273Aは細胞質に分布し(図29(a~e))、XRCC4断片の変異体 C20-R275Aは核内に分布した(図29(f))。前記XRCC4断片の変異体をコードするプラスミドを用いてV5-Xkr4ΔC-FLAGを発現するXRCC4 KO PLB細胞をトランスフェクトし、STSによるアポトーシス刺激を与えた。XRCC4断片の変異体 C20-K271A、C20-R272A、C20-R273AおよびC20-R275AではPC取込み活性が観察され(図30(c~f)、図31(a))、XRCC4断片の変異体 C20-R270AではPC取込み活性は観察されなかった(図30(b)、図31(a))。これらの結果は、XRCC4断片の核での分布は脂質スクランブル活性に必要ではないことを示す。XRCC4断片の変異体 C20-R270AはXkr4を完全に活性化しなかった(図31(b))。この結果は、270位のアルギニン残基がXkr4を調節するのに重要であることを示す。
【0232】
[実施例6]
Xkr4とXRCC4のC末端断片との直接的な結合
Xkr4が細胞質のXRCC4断片によってどのように活性化されるかを調べるために、SPOTおよびFLAGタグを融合したXkr4ΔC(SPOT-Xkr4ΔC-FLAG)を、XRCC4 WTまたはXRCC4 R270Aを発現するXRCC4 KO PLB細胞で発現させた(図32(a))。期待されたように、STSによるアポトーシス刺激を与えた場合、SPOT-Xkr4ΔC-FLAGは、XRCC4 WTとの組合せにより、脂質スクランブル活性を効率的に誘発し(図32(b)上段)、一方、XRCC4 R270Aとの組合せでは、脂質スクランブル活性を十分に誘発しなかった(図32(b)下段)。
【0233】
前記細胞の細胞膜ライセートを調製し、前記細胞膜ライセートを、抗SPOTナノボディを用いた免疫沈降に適用し、質量分析にかけた。この質量分析により、坑SPOTナノボディを用いた免疫沈降によって回収されたSPOT-Xkr4ΔC-FLAGに会合していたペプチドが同定されることが期待される。ラベルフリー定量は、XRCC4 WTが最も信頼性の高いアポトーシス依存性のXkr4相互作用物質の1つであることを明らかにした(図33)。XRCC4/Cの2つの隣接するトリプシン消化ペプチド1(アミノ酸286位~296位:MAPQENQLQEK(配列番号40))およびペプチド2(アミノ酸297位~310位:ENSRPDSSLPETSK(配列番号41))が質量分析により同定された(図34(a))。並列反応モニタリング(PRM)を用いた標的定量(targeted quantification)は、前記2つのペプチドが、XRCC4 WTを発現する細胞にSTSによるアポトーシス刺激を与えた後に、増加したことを示す(図34(b~e))。
【0234】
XRCC4 WT由来のペプチド断片とXkr4との相互作用は、STSによるアポトーシス刺激を与えた細胞からの全細胞ライブラリーを、Xkr4免疫沈降して得られた沈殿物を、XRCC4を検出するウェスタンブロッティングにより確認した(図35(a))。前記相互作用をインタクト細胞において確認するために、蛍光TMRをコンジュゲートしたC20ペプチド(C20-TMR)をエレクトロポレーションによりXkr4 WT-GFPまたはXkr4ΔC-GFPを発現するHCT116細胞に導入し、導入したC20-TMRとXkr4 WT-GFPまたはXkr4ΔC-GFPとの局在を観察した(図35(b)および(c))。GFP由来の蛍光強度はXkr4の細胞内の分布を反映する。図35(c)中段および下段におけるGFP由来の蛍光強度におけるピークは、細胞膜を反映する。図35(d)下段は、C20-TEM由来の蛍光強度のピークと、Xkr4ΔC-GFP由来の蛍光強度のピークとが重なることを示す。この結果は、各タンパク質XRCC4のペプチド断片が、細胞死の過程にある細胞において原形質膜タンパク質であるXkr4と直接会合することによって、脂質スクランブル活性を誘導することを示す。
【0235】
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