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▶ 阪口 正則の特許一覧

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  • 特開-心臓弁尖に人工腱索を装着する器具 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069246
(43)【公開日】2022-05-11
(54)【発明の名称】心臓弁尖に人工腱索を装着する器具
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/24 20060101AFI20220428BHJP
   A61F 2/08 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
A61F2/24
A61F2/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020178330
(22)【出願日】2020-10-23
(71)【出願人】
【識別番号】718007210
【氏名又は名称】阪口 正則
(72)【発明者】
【氏名】阪口 正則
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA21
4C097AA27
4C097BB04
4C097BB09
4C097CC05
4C097CC06
4C097CC12
4C097CC13
4C097CC14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】シンプルな構造により、心臓心尖部からのアプローチで、心臓弁尖に人工腱索を装着し、逸脱した弁尖の修復を行い、低侵襲で容易かつ確実に人工腱索再建法を可能とするシステムを提供する。
【解決手段】長軸方向に中空構造を持つ鉗子1を、心臓の心尖部から心臓内腔に挿入し、逸脱した弁尖組織を把持する。鉗子の中空構造には、弁尖組織を二枚の返し針の付いた板で挟む構造を有する人工腱索と弁尖組織への固定を強固にするクリップおよびこれらの取り付けを補助する部品が、鉗子の柄の部分に内挿されている。弁尖組織を把持した鉗子内で、返し針付き人工腱索を弁尖組織へ誘導し、弁尖組織へ接合する。クリップで返し針の付いた板の部分を弁尖組織ごと挟み込み、人工腱索との接合部の固定を補強する。鉗子および取り付け補助部品を心臓内腔から抜去し、人工腱索の装着が完了する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓弁尖に人工腱索を装着する器具であって、その手法において、中空構造を持つ鉗子で心臓弁尖を把持し、その鉗子の中空構造を通して返し針の付いた人工腱索が心臓弁尖へ誘導され、その返し針部分を、心臓弁尖を把持した鉗子の内腔の心臓弁尖で隔てられた2つの空間に押し込むことで、心臓弁尖に人工腱索を接合する構造を持つ。
【請求項2】
心臓弁尖に装着される人工腱索であって、その先端に返し針の付いた部品を付け、その部品によって人工腱索と心臓弁尖が接続される構造を持ち、その返し針の付いた部品の構造が2枚の平行に配置された板で心臓弁尖を挟み、その平行する板の向かい合う面に返し針を設けている。
【請求項3】
請求項2に記載の人工腱索と心臓弁尖の固定を補強するために、「コ」の字型のクリップで、返し針の付いた板状の部品を心臓弁尖に押さえつける構造を持つ。
【請求項4】
請求項2に記載する人工腱索と請求項3に記載するクリップにおいて、クリップと人工腱索の返し針の付いた部品が鍵と鍵穴で結合するような構造を持ち、結合する部分に、ラックギヤ様の歯状の突起を設け、それぞれの部品が近づく一方向のみ移動しかできないようにしている。
【請求項5】
請求項2に記載する人工腱索と請求項3に記載するクリップを心臓弁尖に接合する器具であって、その人工腱索の返し針の付いた部分とクリップを保持する部品が3つ又のフォークのような形状を持ち、その中央脚の先端と2つの側脚の爪の3点で人工腱索の返し針の付いた部分が固定され、尚且つ、クリップの動作が中央脚の長軸方向に沿った直線運動のみ行うような構造をもつ。
【請求項6】
請求項5に記載する人工腱索とクリップを保持する部品であって、人工腱索糸を収納するトンネル様の空間を、中央脚から支持棒の柄にかけて長軸に沿って設けている。
【請求項7】
心臓弁尖に装着された請求項2に記載する人工腱索と請求項3に記載するクリップの結合体を、請求項5に記載する保持部品から取り外す部品であって、二股のフォーク様の形状で、二股の先端形状が三角形をした突起を有する部分を、クリップと保持部品の側脚との間に、両側から同時にくさびを打ち込むように押し進めることで、側脚を外側へ押し広げ、人工腱索を固定している爪をはずし、保持部品から解放する構造を有する。
【請求項8】
請求項7の方法を実施するため、請求項5に記載する人工腱索とクリップを保持する部品において、三角形の突起が通過するための穴を側脚の付け根に設けている。
【請求項9】
心臓弁尖を把持する鉗子であって、鉗子の組織を把持する部分に隙間を設け、組織の挫滅を防ぎ、把持する部分の閉鎖時には、先端が閉じた構造を持つ。
【請求項10】
心臓弁尖を把持する鉗子であって、返し針付き人工腱索を弁尖組織に固定する部品を収納および作動し得るための中空構造を持つ。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓弁膜症の治療において、心臓の弁尖に人工腱索を取り付ける器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、心臓弁膜症とりわけ僧帽弁逸脱症に関しては、抗凝固療法の必要性や心臓機能の温存の点から、人工弁置換術よりは自己弁形成(修復)術が選択される傾向にある。弁形成手術においては、一般的には人工心肺を用い、直視下に様々な修復法がなされているのが現状である。近年、左胸部の小切開創から心臓心尖部を露出し、その心尖部から特殊な縫合器具を挿入することで、僧帽弁の逸脱弁尖に人工腱索を装着し、心尖部方向へ人工腱索を牽引する方法による弁逆流の修復法が試みられている。人工心肺装置を用いることなく、低侵襲であるが、制限された形状の器具を用いて、弁尖の病変部分を適切に把持する操作が困難であり、あまり普及していないと考えられる。より確実に、病変の弁尖を捕捉し、人工腱索を装着するためは、装着器具のみならず、人工腱索自体にも抜本的な改良が必要と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2011-500228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、心臓超音波診断装置の進歩や、X線透視装置を備えた手術室の普及により、より複雑な弁の修復方法が行える環境が整いつつあり、様々な僧帽弁修復の器具が考案されている。僧帽弁閉鎖不全症に対する人工腱索再建法は、病変の逸脱した弁尖に人工腱索を装着し、左心室側へ牽引することで、僧帽弁の逆流を止める手術方法である。心臓の心尖部から心筋を貫通し、目的とする弁尖部位へ人工腱索を装着することが可能であれば、心臓超音波診断法の画像をもとに、この人工腱索の長さを調節することで、人工心肺用いずに同様の弁修復を行うことが出来る。このような弁修復を目的とした手術器具は考案されているが、手技上の困難もあり、臨床においてあまり普及していない。
【0005】
手術器具としての使用を考えるうえで、確実に動作するという点は不可欠であり、器具の機械的な構造は可能な限りシンプルである必要があると考えられる。また、心臓弁尖は膜様の構造であり、このような形状の組織に人工腱索糸を固定するためには、特殊な形状の部品の考案が必要とされる。
【0006】
本発明は、以上のような問題点を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の主要部品は、弁尖を把持する鉗子、人工腱索糸とその先端に付着する返し針の付いた弁尖固定部品およびそれらの取り付け器具とで構成される。弁尖固定部品は、平行に位置する2枚の板状の部分で心臓弁尖を挟むような構造とし、弁尖と接する内側に返し針を装着することで弁尖が脱落しないようにしている。
【0008】
目的とする病変弁尖部位への人工腱索の装着には、長軸方向に中空構造を持つ鉗子を用いる。心臓の心尖部から挿入した鉗子で心臓弁尖を把持したのち、鉗子の中空構造を利用し、返し針付きの弁尖固定部品で病変弁尖を挟み、人工腱索を固定する。弁尖への固定をより強固にするために、弁尖を挟み込んだ弁尖固定部品の板状部位をクリップで抑え込み、心臓弁尖と2枚の板を圧着させる。
【0009】
必要に応じて、複数本の人工腱索を同様の手順で弁尖へ固定する。心臓超音波検査画像の評価をもとに、人工腱索の適切な長さを決定し、人工腱索の他端を心尖部へ固定することで、心臓弁逸脱の修復を可能とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、心拍動下の状況で人工心肺を用いることなく、僧帽弁形成術における人工腱索再建法を、より簡便かつ確実に施行することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に関する人工腱索装着システムの一例を示す斜視図である。
図2】返し針付き人工腱索の全体図および要部拡大図である。
図3】人工腱索固定器具の斜視図および構成部品の斜視図である。
図4】返し針付き人工腱索およびクリップの斜視図および動作前後の側面図である。
図5】支持棒の斜視図および支持棒に返し針付き人工腱索およびクリップを装着した際の要部上面図および側面図である。
図6】押込み棒の斜視図とクリップ動作前後の斜視図である。
図7】支持棒に開放部品を取り付けたときの斜視図と、クリップ装着後の弁尖固定部品が支持棒から取り外される動作前後の上面図である。
図8】クリップ装着動作における人工腱索固定器具の経時変化図である。
図9】中空鉗子の要部拡大斜視図である。
図10】人工腱索装着システムの側面図および中空鉗子内での人工腱索固定器具の動作を示した要部拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は心臓弁尖に腱索を装着する器具の一例であり、主に、弁尖を掴むための中空構造を持つ鉗子と人工腱索固定器具で構成される。心臓内腔に挿入される要部は、細い棒状の形態をしており、その断面は、円もしくは楕円状の周囲が滑らかな辺縁で、長軸径は概ね1cm以下で作成される。
【0013】
図2は、人工腱索固定器具の構成部品の一つである返し針付き人工腱索の全体斜視図および要部拡大図である。図のごとく人工腱索糸の先端には、弁尖組織と接続する弁尖固定部品を設け、その弁尖固定部品は、弁尖組織を挟み込むため、2枚の板を平行に置いた構造を有する。2枚の板の各内側面は、複数本の返し針を有し、弁尖組織に刺入し得る構造となっている。弁尖組織が2枚の平行板から脱落しないように、返し針は平行版に対して、組織が抜け落ちない方向へ、斜めに配置されている。
【0014】
図3は、人工腱索固定器具およびのその構成部品の斜視図である。弁尖組織を挟んだ弁尖固定部品を、より強固に弁尖組織へ固定するために、コの字型のクリップを用いる。支持棒は、返し針付き人工腱索およびクリップを適切な位置関係に保持する部品であり、押込み棒は、弁尖固定部品にクリップを押し付ける動作を担う。弁尖組織へ固定された返し針付き人工腱索およびクリップを、支持棒からはずすための部品が開放部品である。
【0015】
図4は、返し針付き人工腱索およびクリップの斜視図およびその動作前後における側面図である。弁尖固定部品の平行板を弁尖組織に圧着するために、クリップを弁尖固定部品に重ね合わすように平行移動させ、クリップの締め付け圧を弁尖固定部品の平行板に伝える。平行板はクリップの作用で内側へ変形するように、適度な弾性を持つ素材で作成される。 弁尖固定部品およびクリップには、それぞれ結合する鍵および鍵穴があり、接続された弁尖固定部品とクリップが分解しないように、鍵および鍵穴にラックギヤ様の歯状レールを設け、一方向のみに相対的移動を行うようにする。
【0016】
図5は、支持棒の斜視図と、返し針付き人工腱索およびクリップを支持棒に装着したときの要部上面図および側面図である。下段は、クリップを除去し、弁尖固定部品と支持棒の位置関係を分かり易く示した図である。支持棒は、三つ又のフォークのような形状をしており、長軸方向の中心には一貫した孔を設けている。支持棒に返し針付き人工腱索を装着した状態において、人工腱索糸をこの孔(以後、中心孔と表記)に収納しておく構造である。また、側脚の付け根には、開放部品の要部が通る側孔を設けている。支持棒への返し針付き人工腱索およびクリップの装着は、まず、クリップの鍵穴を中央脚に通した後、人工腱索糸を中心孔に収納し、返し針付き人工腱索の弁尖固定部品を、クリップと直列するような位置関係を保ち、支持棒の2つの側脚に設けられた固定爪で引っ掛けるように固定する。弁尖固定部品は、2つの固定爪と中央脚の先端の3点で支持棒に固定される。また、クリップの動作が円滑に行えるように、中央脚と鍵の外径は一致させておく。
【0017】
図6は、押込み棒の異なる2方向からの斜視図とクリップ動作前後の斜視図である。押込み棒には、支持棒と開放部品の柄の部分が通る穴を長軸方向に開けている。また、クリップを押し込む時に、支持棒の側脚との接触を避けるために、押し出し棒の先端には、クリップを押し込むための、突出部を上下に設けている。
【0018】
図7は、支持棒に開放部品を取り付けたときの斜視図であり、この開放部品の動作により、クリップ装着後の弁尖固定部品が支持棒から取り外される。開放部品の2つの三角突起は支持棒の中央脚と側脚の間に入り込むように位置する。この2つの三角突起を、図7の下段のごとく、クリップと側脚の間に同時に押し付けることで、側脚が外側へ手を広げるように変形し、弁尖固定部品を固定する固定爪がはずれ支持棒から取り外される。このような動作を行うために、2つの三角突起は支持棒の側孔を通り、支持棒の三つ又のフォークの外で連結させており、外部から開放部品を長軸方向に押し込む動作で、一連の取り外し操作を行うことが出来る。
【0019】
図8は、返し針付き人工腱索が、心臓弁尖へ取り付けられるまでの一連の動作を図示したものである。上段は一連の動作の初期状態であり、この状態から、人工腱索固定器具を心臓弁尖へ近づける方向(以後、正方向と表記)へ移動させる。弁尖固定部品で心臓弁尖を挟み込んだ状態が2段目の図である。3段目の図は、押し込み棒のみを正方向へ移動させ、弁尖固定部品が心臓弁尖にクリップで圧着された状態を示したものである。この状態は、返し針付き人工腱索が心臓弁尖に固定された状態である。4段目の図は、開放部品のみを正方向へ移動させ、支持棒から弁尖固定部品を取り外した状態を示している。最下段の図は、返し針付き人工腱索とクリップの集合体のみを心臓弁尖に取り付けた状態で、その他の部品を取り除くために、支持棒、押し込み棒および開放部品の一塊を心臓弁尖から離れる方向(以後、負方向と表記)へ移動させた状態を示したものである。以上の一連の動作が、各部品の正方向および負方向の一直線上の移動動作によって行われる。
【0020】
図9は、心臓弁尖を把持する中空鉗子の要部拡大斜視図である。この鉗子は、内部に中空構造を設け、その中空構造内で人工腱索固定器具が、長軸方向の直線移動を成し得るようにしている。中空鉗子の弁尖組織を把持する部分には、鉗子で弁尖を掴んだ際に、弁尖組織の挫滅を防ぐため、隙間を設けている。また、心臓内腔に中空鉗子を挿入する際に、鉗子の先端が、心臓内腔の構造物(腱索、弁尖、乳頭筋など)に引っ掛かって組織を損傷することのないように、鉗子の閉鎖位においては、鉗子の先端が図のように閉じた構造としている。
【0021】
人工腱索装着システムは、図10に示すように、中空鉗子内に人工腱索固定器具を内挿した状態で一連の操作を行う。中空鉗子内での人工腱索固定器具の配置は、以下に記述するように、鉗子の把持面と弁尖固定部品の平行板が平行に位置する状態にしておく。中空鉗子で心臓弁尖を把持した状態において、中空鉗子の把持部分の内腔は、心臓弁尖で仕切られた半月状の空間が上下に二つ出来るような構造となっている。この上下の空間に弁尖固定部品の平行板を押し込むことで、心臓弁尖を二枚の平行板が挟み込んだ状態で返し針付き人工腱索が接合される。以降のクリップ装着までの動作は前述のとおりである。
【0022】
以上の構造により、心臓内腔の作業領域が制限された状況において、弁尖組織に人工腱索を取り付けることが出来る。
【符号の説明】
【0023】
1…中空鉗子 2…人工腱索固定器具 3…弁尖固定部品
4…人工腱索糸 5…平行板 6…返し針
7…返し針付き人工腱索 8…クリップ 9…支持棒
10…開放部品 11…押込み棒 12…鍵
13…鍵穴 14…歯状レール 15…中心孔
16…側脚 17…側孔 18…中央脚
19…固定爪 20…突出部 21…三角突起
22…心臓弁尖 23…隙間


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10