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特開2022-69256ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩の新規製法
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  • 特開-ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩の新規製法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069256
(43)【公開日】2022-05-11
(54)【発明の名称】ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩の新規製法
(51)【国際特許分類】
   C07D 401/12 20060101AFI20220428BHJP
   A61K 31/4439 20060101ALI20220428BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
C07D401/12
A61K31/4439
A61P9/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020178340
(22)【出願日】2020-10-23
(71)【出願人】
【識別番号】000207252
【氏名又は名称】ダイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083301
【弁理士】
【氏名又は名称】草間 攻
(72)【発明者】
【氏名】保志場 友哉
(72)【発明者】
【氏名】伏間 貴士
【テーマコード(参考)】
4C063
4C086
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063BB07
4C063CC12
4C063DD06
4C063EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086AA04
4C086BC17
4C086GA07
4C086GA13
4C086GA15
4C086NA20
4C086ZA54
(57)【要約】
【課題】 効率良く単峰性の粒度分布形状を有するダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩の結晶形態Iを調製する製造方法を提供すること。
【解決手段】 ダビガトランエテキシラート塩基(遊離塩基)の溶液に、種結晶としてダビガトランエテキシラート・メタンスルホネート(ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩)の結晶形態Iを添加し、15分~48時間撹拌した後にメタンスルホン酸を添加し、撹拌することによる単峰性粒度分布を有するダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩の結晶形態Iを得る製造方法である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(II):
【化1】
で示されるエチル3-[(2-{[4-(ヘキシルオキシカルボニルアミノ-イミノ-メチル)-フェニルアミノ]-メチル}-1-メチル-1H-ベンズイミダゾール-5-カルボニル)-ピリジン-2-イル-アミノ]-プロピオネート(以下、「ダビガトランエテキシラート」と記す)の遊離塩基の溶液に、種結晶として次式(I):
【化2】
で示されるダビガトランエテキシラート・メタンスルホネート(ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩)の結晶形態Iを添加し、15分~48時間撹拌した後にメタンスルホン酸を添加し、単峰性粒度分布を有する、式(I)で示されるダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(結晶形態I)を得る製造方法。
【請求項2】
用いる溶媒がアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのケトン系溶媒である請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩の新規製法に関する。
【背景技術】
【0002】
直接トロンビン阻害剤として、非弁膜症心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制剤であるダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(一般名:JAN)は、販売名「プラザキサ(登録商標)」の商品名で臨床的に使用されている医薬品である(非特許文献1)。
【0003】
ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩は、次式(I):
【0004】
【化1】
【0005】
で示される化学名、エチル3-[(2-{[4-(ヘキシルオキシカルボニルアミノ-イミノ-メチル)-フェニルアミノ]-メチル}-1-メチル-1H-ベンズイミダゾール-5-カルボニル)-ピリジン-2-イル-アミノ]-プロピオネート・メタンスルホネート(以下、「ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩」と記す)であり、従来の製法によれば、次式(II):
【0006】
【化2】
【0007】
で示されるエチル3-[(2-{[4-(ヘキシルオキシカルボニルアミノ-イミノ-メチル)-フェニルアミノ]-メチル}-1-メチル-1H-ベンズイミダゾール-5-カルボニル)-ピリジン-2-イル-アミノ]-プロピオネート(以下、「ダビガトランエテキシラート塩基」と記す)に対してアセトン溶媒中でメタンスルホン酸溶液を滴下し、メタンスルホン酸塩化することで結晶形態Iを得ている(特許文献1~3、特に特許文献1の実施例1)。
【0008】
従来の製造方法では、得られるダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)の結晶形態Iの粒度分布は多峰性となっており、極大割合を安定化することは難しい。
このような粒度分布が不安定となる製造方法では、粒度が細かくなった場合には、原薬製造プロセスにおいてはろ過性が悪化する一方、製剤化した場合には、製剤からの溶出が速くなる問題が発生する。
また、粒度が粗くなった場合には、製剤からの溶出が遅くなる問題が発生するために、工業的には安定した粒度分布となるダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩の製造方法が求められている。
【0009】
しかしながら、先行技術においては、ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩の製造方法と、得られたダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩の粒度分布との関係性は明らかとなっておらず、いまだ解決方法が示されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第6595578号掲載公報
【特許文献2】特許第5566332号掲載公報
【特許文献3】特許第5348842号掲載公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】プラザキサ(登録商標)カプセル添付文書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは上記の現状を鑑み、ダビガトランエテキシラート塩基をメタンスルホン酸によりダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩として調製する工程において、効率良く単峰性の粒度分布形状を有するダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩の結晶形態Iを調製する製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる課題を解決するべく検討した結果、ダビガトランエテキシラート塩基、すなわち遊離塩基の溶液に、ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩の結晶形態Iを種結晶として添加して撹拌後、メタンスルホン酸を滴下することで、単峰性の粒度分布形状を有するダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩の結晶形態Iが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は具体的には、式(II)のダビガトランエテキシラート塩基(遊離塩基)の溶液に、種結晶として式(I)のダビガトランエテキシラート・メタンスルホネート(ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩)の結晶形態Iを添加し、15分~48時間撹拌した後にメタンスルホン酸を添加し、単峰性粒度分布を有する、式(I)で示されるダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩の結晶形態Iを得る製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法により、単峰性粒度分布のダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩の結晶形態Iを安定的に、かつ再現性良く調製することができる。
得られるダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩が単峰性粒度分布を有する結晶状態であることは、粒子の均一性が高いものであることより、製剤化においては粒度が均一に揃った状態であり、取り扱い性もよく、また、製剤からの溶出性も安定的であり、良好なものである利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施例1で得られたダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩の粒度分布チャートである。
図2図2は、実施例2で得られたダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩の粒度分布チャートである。
図3図3は、比較例1で得られたダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩の粒度分布チャートである。
図4図4は、比較例2で得られたダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩の粒度分布チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、上記したように、式(II)のダビガトランエテキシラート塩基(遊離塩基)の溶液に、種結晶として式(I)のダビガトランエテキシラート・メタンスルホネート(ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩)の結晶形態Iを少量添加し、撹拌した後にメタンスルホン酸を添加し、単峰性の粒度分布を有する、式(I)で示されるダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩の結晶形態Iを得る製造方法である。
【0018】
かかる製造方法を化学式で示せば、具体的には以下のとおりとなる。
【0019】
【化3】
【0020】
製造に用いる溶媒としては、ダビガトランエテキシラート塩基(II)を飽和状態に溶解し、ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)を析出させる溶媒であれば特に限定されないが、本発明者らの検討によればアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒を用いるのが良い。
その場合の溶媒量は用いるダビガトランエテキシラート塩基(II)を飽和させる溶媒量であればよく、具体的には、ダビガトランエテキシラート塩基(II)に対して、10~20倍量とするのが良く、より好ましくは15倍量程度である。
【0021】
添加するダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)の結晶形態Iの種結晶としての添加量は、0.02~1当量程度であり、0.02当量未満であると種結晶が溶解してしまい、種結晶としての効果が得られない。
好ましくは、0.05~0.1当量添加するのが良い。
【0022】
ダビガトランエテキシラート塩基(II)からダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)への結晶化における種結晶添加後の撹拌温度と撹拌時間は、一概に限定できないが、撹拌時間としては15分~48時間、好ましくは15分~2時間程度であり、15~30分程度でも十分である。
撹拌温度は、15~45℃程度が好ましく、より好ましくは26~33℃である。
【0023】
本発明の製造方法においては、種結晶添加時点から約15分以上撹拌した後にメタンスルホン酸の溶液を添加する。種結晶添加後の撹拌時間が少ない場合には、得られるダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)が多峰性の粒度分布を有する結晶となり、好ましいものではない(後記する比較例1を参照)。
メタンスルホン酸の添加は、用いた溶媒と同様の溶媒による混合液として添加するのが良い。
なお、添加に際しては、あらかじめ添加したダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)の結晶形態Iの種結晶の一部を溶解させたダビガトランエテキシラート塩基(II)の飽和溶液を調製し、その飽和溶液に対してメタンスルホン酸を添加する。不飽和溶液のまま添加を開始すると、目的とするダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)の結晶が二峰性の粒度分布となる。
【0024】
ダビガトランエテキシラート塩基(II)の飽和溶液へのメタンスルホン酸の添加は、時間をかけて滴下する方法をとるのが良く、滴下時間は1.5時間程度、好ましくは20分~40分程度をかけて滴下するのがよい。
【0025】
撹拌に伴って、目的とするダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)の結晶が析出し、冷却後固液分離を行い、ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)を採取し、メチルイソブチルケトンを振り掛け洗浄することにより、湿結晶を得、減圧乾燥することにより目的とするダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)を得ることができる。
得られた目的とするダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)は、結晶形態Iを有する結晶であり、粒度分布は単峰性であった。
【実施例0026】
以下に本発明を実施例、比較例を記載することにより、より詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0027】
実施例1:種結晶添加後、攪拌2時間
ダビガトランエテキシラート塩基(II)の25gに、アセトン308mLを加え懸濁させた。懸濁液を40℃に加熱し、ダビガトランエテキシラート塩基(II)の溶解を確認した後に降温し、29℃にてダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)の結晶形態Iの1.37gを種結晶として添加した。
種結晶添加時点から2時間撹拌した後、メタンスルホン酸3.58gとアセトン23.7mLの混合溶液(予備冷却したもの)を30分間かけて28℃帯に保ちながら滴下することで懸濁液を得た。
滴下後に40分間撹拌し、5℃まで降温し、固液分離し、メチルイソブチルケトン250mLで振掛け洗浄することで湿結晶34.1gを得た。湿結晶を40~50℃で乾燥することで、ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)を25.4g(収率:93.0%)得た。
得られたダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)は結晶形態Iの結晶であり、その結晶の粒度分布は単峰性であった。
その粒度分布チャートを図1として示した。
【0028】
実施例2:種結晶添加後、攪拌1時間
ダビガトランエテキシラート塩基(II)の70.0kgに、アセトン876Lを加え懸濁させた。懸濁液を40℃に加熱し、ダビガトランエテキシラート塩基(II)の溶解を確認した後に熱時ろ過し、アセトン66Lを用いてろ過ラインを洗浄し、先のろ液と混合した。
得られたダビガトランエテキシラート塩基(II)のろ液を30℃に調整した後、ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)の結晶形態Iの3.9kgを、種結晶として添加した。
種結晶添加時点から1時間撹拌した後、メタンスルホン酸10.2kgとアセト66Lの混合溶液5℃に冷却し、この液をダビガトランエテキシラート塩基(II)の溶解液へ28℃付近に保ちながら定流量ポンプを用いて30分間かけて滴下し、ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)の懸濁液を得た。
滴下後に30分間撹拌し、5℃に冷却した。遠心分離後、メチルイソブチルケトン674Lで振掛け洗浄し、ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)の湿結晶93.7kgを得た。
湿結晶を40~50℃で25時間コニカル乾燥することにより目的とするダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)を76.3kg(収率94.2%)得た。
得られたダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)は結晶形態Iの結晶であり、その結晶の粒度分布は単峰性であった。
その粒度分布チャートを図2として示した。
【0029】
比較例1:種結晶添加後、攪拌1分
ダビガトランエテキシラート塩基(II)の25gに、アセトン308mLを加え懸濁させた。懸濁液を40℃に加熱し、ダビガトランエテキシラート塩基(II)の溶解を確認した後に降温し、29℃にてダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)の結晶形態Iの1.37gを種結晶として添加した。
種結晶添加時点から1分後にメタンスルホン酸3.58gとアセトン23.7mLの混合溶液(予備冷却したもの)を30分間かけて28℃付近に保ちながら滴下することで懸濁液を得た。
滴下後に40分間撹拌し、5℃まで降温し、固液分離し、メチルイソブチルケトン250mLで振掛け洗浄することで湿結晶36.8gを得た。湿結晶を40~50℃で乾燥することで、ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)を27.2g(収率:99.8%)得た。
得られたダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)の粒度分布は二峰性であった。
その粒度分布チャートを図3として示した。
【0030】
比較例2:種結晶添加なし
ダビガトランエテキシラート塩基(II)の71.94gに、アセトン919.6mLを加え懸濁させた。懸濁液を40℃に加熱し、ダビガトランエテキシラート塩基(II)の溶解を確認した後に熱時ろ過した。ろ液を35℃に調整後、メタンスルホン酸10.7gとアセト70.7mLの混合溶液をダビガトランエテキシラート塩基(II)の溶解液へ35℃付近に保ちながら30分間かけて滴下し、ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)の懸濁液を得た。
滴下後に35℃にて1時間撹拌し、5℃に冷却後、固液分離し、メチルイソブチルケトン250mLで振掛け洗浄し、ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)の湿結晶119.0gを得た。
湿結晶を30hPa/40~50℃にて減圧乾燥することにより目的とするダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)を76.48g(収率93.8%)得た。
得られたダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)の粒度分布は多峰性であった。
その粒度分布チャートを図4として示した。
【0031】
なお、上記実施例及び比較例における粒度分布測定条件は、以下のとおりである。
粒度測定装置:Malvern Mastersizer 3000
分散ユニット名:Hydro MV
分散媒名:ジイソプロピルエーテル
試料添加量:レーザー散乱強度8%
【0032】
以上の実施例及び比較例からも明らかなように、本発明の製造方法により、目的とするダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)を単峰性の粒度分布を有する結晶形態Iの結晶として調製することができる特異なものであることが判明する。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明により、単峰性の粒度分布を有するダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(I)を、結晶形態Iの結晶として調製することができ、単峰性粒度分布を有する結晶状態であることより、製剤からの溶出性も良好なものである点で、その産業上の利用性は多大なものである。
図1
図2
図3
図4