(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069258
(43)【公開日】2022-05-11
(54)【発明の名称】プラスチック光学製品及びプラスチック眼鏡レンズ
(51)【国際特許分類】
G02B 1/115 20150101AFI20220428BHJP
G02B 1/14 20150101ALI20220428BHJP
G02B 1/18 20150101ALI20220428BHJP
G02C 7/10 20060101ALI20220428BHJP
G02C 7/00 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
G02B1/115
G02B1/14
G02B1/18
G02C7/10
G02C7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020178342
(22)【出願日】2020-10-23
(71)【出願人】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124420
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏寿
【テーマコード(参考)】
2H006
2K009
【Fターム(参考)】
2H006BA01
2H006BA04
2H006BA06
2H006BE01
2H006BE05
2K009AA09
2K009AA15
2K009BB11
2K009CC03
2K009CC21
2K009CC42
2K009DD02
2K009DD03
(57)【要約】
【課題】より一層目立ち難い反射光を呈するプラスチック光学製品を提供する
【解決手段】プラスチック光学製品1は、プラスチック製の基材2の両面側に、それぞれ中間膜4を介して光学多層膜6が形成されたものである。各光学多層膜6は、SiO
2から成るSiO
2層10とZrO
2から成るZrO
2層12とが、基材2に最も近い層をSiO
2層として交互に合計7層配置されたものである。そして、基材2の側から3層目L3に配置されたSiO
2層10の物理膜厚は、210nm以上270nm以下である。又、基材2の側から2層目L2に配置されたZrO
2層12の物理膜厚は、7nm以上12nm以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック製の基材の少なくとも片面側に、直接又は中間膜を介して光学多層膜が形成されたプラスチック光学製品であって、
前記光学多層膜は、SiO2から成るSiO2層とZrO2から成るZrO2層とが、前記基材に最も近い層を前記SiO2層として交互に合計7層配置されたものであり、
前記基材の側から3層目に配置された前記SiO2層の物理膜厚は、210nm以上270nm以下であり、
前記基材の側から2層目に配置された前記ZrO2層の物理膜厚は、7nm以上12nm以下である
ことを特徴とするプラスチック光学製品。
【請求項2】
前記基材の側から4層目に配置された前記ZrO2層の物理膜厚は、22nm以上41nm以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のプラスチック光学製品。
【請求項3】
前記基材に最も近い層である前記SiO2層の物理膜厚は、20nm以上50nm以下である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプラスチック光学製品。
【請求項4】
前記基材の側から5層目に配置された前記SiO2層の物理膜厚と前記基材の側から6層目に配置された前記ZrO2層の物理膜厚との和は、74nm以上80nm以下である
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れかに記載のプラスチック光学製品。
【請求項5】
前記中間膜は、ハードコート膜である
ことを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れかに記載のプラスチック光学製品。
【請求項6】
前記光学多層膜が形成された面における視感度反射率は、0.8%以下である
ことを特徴とする請求項1ないし請求項5の何れかに記載のプラスチック光学製品。
【請求項7】
前記光学多層膜が形成された面における反射光は、白色又は青白色である
ことを特徴とする請求項1ないし請求項6の何れかに記載のプラスチック光学製品。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7の何れかに記載のプラスチック光学製品が用いられている
ことを特徴とするプラスチック眼鏡レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック製の基材を有する光学製品であるプラスチック光学製品、及びプラスチック眼鏡レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック光学製品である可視域用のプラスチックレンズとして、特許第5211289号公報(特許文献1)に記載されたものが知られている。
このレンズでは、反射防止膜としての光学多層膜が基材の表面に形成されている。その光学多層膜は、低屈折率層と高屈折率層を交互に計7層以上積層したものであり、加工安定性及び一般に好まれる外観を確保する観点から、反射率の分光分布がW型となり、中央の山の極大点が波長520nm付近に位置するものとされている。かような反射防止膜が形成されたプラスチックレンズを入射側から見ると、薄い緑色の反射光が観察される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このプラスチックレンズでは、反射光が緑色である。
緑色は、ヒトの目が最も明るさを強く感じる色である。即ち、緑色は、ヒトの目が光の各波長ごとの明るさを感じる強さを最大感度に対する比率で表した比視感度曲線の極大点(波長555nm)に近い。
よって、上記プラスチックレンズの反射光は、僅かな反射率により薄いものの、緑色であることにより目立つものとなる。換言すれば、上記プラスチックレンズにおける比視感度を加味した視感度反射率は、比較的に高い。
特に、上記プラスチックレンズが眼鏡レンズとして使用される場合、装用者からの反射光は、第三者にとって比較的に目立つものとなる。
【0005】
本発明の主な目的は、より一層目立ち難い反射光を呈するプラスチック光学製品,プラスチック眼鏡レンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、プラスチック製の基材の少なくとも片面側に、直接又は中間膜を介して光学多層膜が形成されたプラスチック光学製品であって、前記光学多層膜は、SiO2から成るSiO2層とZrO2から成るZrO2層とが、前記基材に最も近い層を前記SiO2層として交互に合計7層配置されたものであり、前記基材の側から3層目に配置された前記SiO2層の物理膜厚は、210nm以上270nm以下であり、前記基材の側から2層目に配置された前記ZrO2層の物理膜厚は、7nm以上12nm以下であることを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、上記発明において、前記基材の側から4層目に配置された前記ZrO2層の物理膜厚は、22nm以上41nm以下であることを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、上記発明において、前記基材に最も近い層である前記SiO2層の物理膜厚は、20nm以上50nm以下であることを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、上記発明において、前記基材の側から5層目に配置された前記SiO2層の物理膜厚と前記基材の側から6層目に配置された前記ZrO2層の物理膜厚との和は、74nm以上80nm以下であることを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明は、上記発明において、前記中間膜は、ハードコート膜であることを特徴とするものである。
請求項6に記載の発明は、上記発明において、前記光学多層膜が形成された面における視感度反射率は、0.8%以下であることを特徴とするものである。
請求項7に記載の発明は、上記発明において、前記光学多層膜が形成された面における反射光は、白色又は青白色であることを特徴とするものである。
上記目的を達成するために、請求項8に記載の発明は、プラスチック眼鏡レンズであって、上記発明のプラスチック光学製品が用いられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の主な効果は、より一層目立ち難い反射光を呈するプラスチック光学製品,プラスチック眼鏡レンズが提供されることである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係るプラスチック光学製品の模式的な断面図である。
【
図2】実施例1~4における可視域及び隣接域での分光反射率分布を示すグラフである。
【
図3】実施例5~7における可視域及び隣接域での分光反射率分布を示すグラフである。
【
図4】実施例8及び比較例1~3における可視域及び隣接域での分光反射率分布を示すグラフである。
【
図5】実施例1~7の色度をプロットしたCIE色度図である。
【
図6】実施例8及び比較例1~3の色度をプロットしたCIE色度図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施の形態の例が説明される。
本発明は、以下の形態に限定されない。
【0010】
図1に示されるように、本発明に係るプラスチック光学製品1は、板状の基材2と、その両面側(各成膜面M)に中間膜4を介して形成される光学多層膜6と、各光学多層膜6の上(基材2と反対側,空気側)に形成される表層膜8と、を有している。
各中間膜4、各光学多層膜6及び各表層膜8は、基材2から見て同じ構成である。
尚、基材2は、ブロック状等、板状以外の形状であっても良い。各成膜面Mは、平面であっても良いし、曲面であっても良いし、成膜面M毎に互いに異なる形状であっても良い。又、各中間膜4及び各表層膜8の少なくとも何れかは、省略されても良い。更に、各中間膜4、各光学多層膜6及び各表層膜8の少なくとも何れかは、各面において基材2から見て異なる構成であっても良い。又更に、中間膜4、光学多層膜6及び表層膜8の少なくとも何れかは、基材2の片面のみに形成されていても良い。
【0011】
基材2の材料として、プラスチックが用いられ、好ましくは、熱硬化性樹脂が用いられ、例えばポリウレタン樹脂、チオウレタン樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリ4-メチルペンテン-1樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂、あるいはこれらの組合せが用いられる。又、屈折率が高く好適な基材2の材料として、例えばポリイソシアネート化合物と、ポリチオール及び含硫黄ポリオールの少なくとも一方と、を付加重合して得られるポリウレタン樹脂が用いられ、更に屈折率が高く好適な基材2の材料として、エピスルフィド基と、ポリチオール及び含硫黄ポリオールの少なくとも一方と、を付加重合して得られるエピスルフィド樹脂が用いられる。
基材2には、好ましくは紫外線吸収剤が添加される。
【0012】
各中間膜4は、基材2と光学多層膜6との間に配置される膜であり、例えばハードコート膜である。尚、各中間膜4の少なくとも一方は、ハードコート膜に代えてハードコート膜以外の膜とされても良いし、ハードコート膜の基材2側及び空気側の少なくとも一方にハードコート膜以外の膜が追加されたものであっても良い。
ハードコート膜は、好適には、基材2の表面にハードコート液を均一に施すことで形成される。
又、ハードコート膜の材料として、好ましくは無機酸化物微粒子を含むオルガノシロキサン系樹脂を用いることができる。この場合のハードコート液は、好ましくは、水あるいはアルコール系の溶媒に、オルガノシロキサン系樹脂及び無機酸化物微粒子ゾルを主成分とした溶質を分散(混合)して調製される。オルガノシロキサン系樹脂は、アルコキシシランを加水分解し縮合させることで得られるものが好ましい。又、オルガノシロキサン系樹脂の具体例として、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルシリケート、又はこれらの組合せが挙げられる。これらアルコキシシランの加水分解縮合物は、当該アルコキシシラン化合物あるいはそれらの組合せを、塩酸等の酸性水溶液で加水分解することにより製造される。
一方、無機酸化物微粒子の材質の具体例として、酸化亜鉛、二酸化ケイ素(シリカ微粒子)、酸化アルミニウム、酸化チタン(チタニア微粒子)、酸化ジルコニウム(ジルコニア微粒子)、酸化スズ、酸化ベリリウム、酸化アンチモン、酸化タングステン、酸化セリウムの各ゾルを単独であるいは何れか2種以上を混晶化したものが挙げられる。無機酸化物微粒子の直径は、ハードコート膜の透明性確保の観点から、1nm(ナノメートル)以上100nm以下であることが好ましく、1nm以上50nm以下であるとより好ましい。又、無機酸化物微粒子の配合量(濃度)は、ハードコート膜における硬度及び強靱性の少なくとも一方の適切な度合における確保という観点から、ハードコート膜の全成分中の40wt%(重量パーセント)以上60wt%以下を占めることが好ましい。加えて、ハードコート液には、硬化触媒として、アセチルアセトン金属塩、及びエチレンジアミン四酢酸金属塩の少なくとも一方等が付加されても良い。更に、ハードコート液には、基材2に対する密着性確保及び形成の容易化の少なくとも何れか等の必要に応じて、界面活性剤、着色剤、溶媒等が添加されても良い。
ハードコート膜の物理膜厚は、0.5μm(マイクロメートル)以上4.0μm以下とすると好ましく、1.0μm以上3.0μm以下とするとより好ましい。この膜厚範囲の下限は、これより薄いと十分な硬度を得難いことから定まる。一方、上限は、これより厚くするとクラック又は脆さの発生等、物性に関する問題が発生する可能性が飛躍的に高まることから定まる。
更に、中間膜4として、ハードコート膜の密着性を向上する観点から、ハードコート膜と基材2表面の間にプライマー膜が付加されても良い。プライマー膜の材質として、例えばポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、有機ケイ素系樹脂、又はこれらの組合せが挙げられる。プライマー膜は、好適には基材2の表面にプライマー液を均一に施すことで形成される。プライマー液は、好ましくは、水又はアルコール系の溶媒に上記の樹脂材料と無機酸化物微粒子を混合させた液である。
【0013】
プラスチック光学製品1の各光学多層膜6は、中間膜4に対して形成される。尚、中間膜4が省略される場合、光学多層膜6は、基材2(各成膜面M)に対して形成される。
各光学多層膜6は、光学的な機能を発揮するために形成され、例えば、反射防止膜、ミラー、ハーフミラー、NDフィルター、バンドパスフィルターである。各光学多層膜6の機能は、互いに異なっていても良い。
各光学多層膜6は、例えば真空蒸着法あるいはスパッタ法により形成される。各光学多層膜6の製法は、製造の用意さを確保する観点から、同一であることが好ましい。尚、各光学多層膜6の製法は、互いに異なっていても良い。
各光学多層膜6は、金属酸化物である低屈折率材料から形成された低屈折率層と、金属酸化物である高屈折率材料から形成された高屈折率層とを交互に積層して形成される。
プラスチック光学製品1において、各光学多層膜6は、全体として7層(全7層)を有する構造である。更に、各光学多層膜6において、最も基材2側の層(基材2に最も近い層)を1層目L1とすると、奇数層目が低屈折率層であり、偶数層目が高屈折率層である。
低屈折率材料は、酸化ケイ素(SiO2)である。よって、各光学多層膜6の奇数層は、SiO2層10となる。尚、低屈折率材料は、フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化マグネシウム(MgF2)、あるいはSiO2を含むこれらの二種以上の混合物であっても良い。
更に、高屈折率材料は、酸化ジルコニウム(ZrO2)である。よって、各光学多層膜6の偶数層は、ZrO2層12となる。尚、高屈折率材料は、酸化チタン(TiO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化セレン(CeO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化イットリウム(YO2)あるいはZrO2を含むこれらの二種以上の混合物であっても良い。
各光学多層膜6では、高屈折率材料及び低屈折率材料が1種ずつ用いられるため、膜設計が容易であり、成膜コストが低廉である。
【0014】
各光学多層膜6における各種の層は、次に示される各種の特徴を適宜有している。
即ち、各光学多層膜6における基材2側から数えて(以下同様)3層目L3のSiO2層10の物理膜厚は、反射光を目立ち難くするため、210nm以上270nm以下とされる。
又、2層目L2のZrO2層12の物理膜厚は、7nm以上12nm以下とされる。この物理膜厚が7nm未満であると、薄すぎて膜厚の精度の確保が困難となり、この物理膜厚が12nmを超えると、目立ち難い反射光が確保し難くなる。
更に、4層目L4のZrO2層12の物理膜厚は、反射光を目立ち難くするため、22nm以上41nm以下とされる。
又更に、1層目L1のSiO2層10の物理膜厚は、20nm以上50nm以下とされる。この物理膜厚が20nm未満であると、薄すぎて膜厚の精度の確保が困難となり、この物理膜厚が50nmを超えると、1層目L1に接触する部分(特にハードコート膜である中間膜4)との密着性が確保し難くなる。
加えて、5層目L5のSiO2層10の物理膜厚と6層目L6のZrO2層12の物理膜厚との和が、反射光をより一層目立ち難くするため、20nm以上50nm以下とされている。
【0015】
又、光学多層膜6が直接又は間接的に形成された各成膜面Mに関し、D65光源、2°視野における片面の視感度反射率が0.8%以下であれば、これまでに見受けられない程に低い視感度反射率によって、極めて目立ち難い反射光を呈するプラスチック光学製品1が提供される。
そして、反射光の色彩は、より一層目立ち難くする観点から、白色(無彩色)及び青白色が好ましく、白色(無彩色)が特に好ましい。反射光の色彩は、xy表色系におけるxy座標(x,y)で定性的に捉えることができる。xy座標(x,y)は、CIE(国際照明委員会)色度図で表される。
【0016】
各表層膜8は、光学多層膜6より空気側に配置される膜であり、例えば防汚膜(撥水膜,撥油膜)である。この場合、プラスチック光学製品1において、更に防汚機能が付与される。尚、各中間膜4の少なくとも一方は、防汚膜に代えて防汚膜以外の膜とされても良いし、防汚膜の基材2側及び空気側の少なくとも一方に、耐傷膜を始めとする防汚膜以外の膜が追加されたものであっても良い。
防汚膜は、例えば有機ケイ素化合物を重縮合させたものである。重縮合によって、被膜の厚膜化及び緻密化が可能となり、光学多層膜6との密着性及び表面硬度が高くなって、撥水性に加え撥油性も呈するものとなり、汚れの拭き取り性に優れた被膜が得られ易くなる。
防汚膜は、公知の蒸着法あるいはイオンスパッタリング法等により形成される。
重縮合前の有機ケイ素化合物は、好ましくは、-SiRyX3-y(Rは1価の有機基、Xは加水分解可能な基、yは0から2までの整数)で表される含ケイ素官能基を有する化合物である。ここで、Xとしては、例えば-OCH3,-OCH2CH3等のアルコキシ基、-OCOCH3等のアシロキシ基、-ON=CRaRb等のケトオキシム基(Ra,Rbはそれぞれ一価の有機基を表す)、-Cl,-Br等のハロゲン基、-NRcRd等のアミノ基(Rc,Rdはそれぞれ一価の有機基を表す)等の基が挙げられる。
このような有機ケイ素化合物としては、含フッ素有機ケイ素化合物が好適である。含フッ素有機ケイ素化合物は、撥水撥油性、電気絶縁性、離型性、耐溶剤性、潤滑性、耐熱性、消泡性に総合的に優れている。特に、分子内にパーフルオロアルキル基あるいはパーフルオロポリエーテル基を持つ分子量1000~50000程度の比較的大きな有機ケイ素化合物は、防汚性に優れる。
【0017】
そして、上記のプラスチック光学製品1をプラスチック眼鏡レンズとして用いて、目立ち難い反射光を呈して美観に優れた眼鏡が作製される。
【実施例0018】
次いで、本発明の実施例1~8、及び本発明に属さない比較例1~3が、適宜図面を用いて説明される。尚、本発明は、以下の実施例に限定されない。又、本発明の捉え方により、実施例が比較例となったり、比較例が実施例となったりすることがある。
【0019】
≪基材2等≫
これらの実施例ないし比較例における基材2は、何れも眼鏡用の熱硬化性樹脂製であって、プラスチック眼鏡レンズとして標準的な大きさの円形である。
基材2は、実施例ないし比較例において共通しており、レンズ中心厚が1.9mmで度数がS-0.00である球面レンズであって、屈折率が1.60であるチオウレタン樹脂製である。尚、基材2に対して染色等は行っておらず、基材2自体は無色透明である。
【0020】
≪ハードコート膜等≫
又、これら実施例ないし比較例においては、中間膜4として、ハードコート液の塗布により形成されるハードコート膜が両面に付与された。
基材2に接するハードコート膜は、ハードコート液を基材2へ塗布して加熱することにより、次のように形成された。
即ち、まず、反応容器中に、メタノール206g(グラム)、メタノール分散チタニア系ゾル300g(日揮触媒化成株式会社製,固形分30%)、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン60g、γーグリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン30g、テトラエトキシシラン60gが滴下され、その混合液中に0.01N(規定濃度)の塩酸水溶液を滴下、撹拌して加水分解が行われた。
次に、フロー調整剤0.5gおよび触媒1.0gが加えられ、室温で3時間撹拌されてハードコート液が形成された。
そして、このハードコート液が基材2両面に塗布され、120℃で1.5時間加熱硬化されて、膜厚2.5μmのハードコート膜が形成された。
【0021】
≪実施例1~8,比較例1~3の光学多層膜6等≫
更に、実施例1~8,比較例1~3では、両面におけるハードコート層の上に、それぞれ光学多層膜6及び表層膜8が、互いに同一の構成で形成された。
光学多層膜6は、反射防止膜であって、全7層であり、真空蒸着法により、まず光学製品の凸面側(表面側)へ形成され、次に光学製品の凹面側(裏面側)へ形成された。
光学多層膜6の奇数層に配置されるSiO2層10は、キヤノンオプトロン株式会社製SiO2を蒸着源として、通常蒸着により真空チャンバ内で成膜された。
光学多層膜6の偶数層に配置されるZrO2層12は、キヤノンオプトロン株式会社製ZrO2を蒸着源として、イオンアシスト蒸着により真空チャンバ内で成膜された。イオンアシストにおけるイオンアシストガスは、希ガスであるアルゴンガス(Arガス)と酸素ガス(O2ガス)との混合ガスとされ、イオンアシストの出力は、500V(ボルト)の加速電圧及び300mA(ミリアンペア)の加速電流においてなされた。各ZrO2層12の屈折率は、SiO2の屈折率より大きく、成膜レート、成膜温度(真空チャンバ温度)、真空度、イオンアシスト処理の有無、イオンアシスト時の加速電圧の高さ、ガスの種類等により調整することができる。
【0022】
表層膜8は、防汚膜(撥水撥油膜)であり、キヤノンオプトロン株式会社製OF-SRにより、光学多層膜6の上に5.00nm厚で成膜された。
実施例1~8,比較例1~3の光学多層膜6(1層目L1~7層目L7)及び表層膜8は、次の表1~表3の各上部に記載された通りに形成された。尚、各層の屈折率は、全て波長500nmにおける屈折率であり、実施例1~8,比較例1~3における全てのSiO2層10で同一の値となり(1.469)、又全てのZrO2層12で同一の値となり(2.106)、更に全ての表層膜8で同一の値となった(1.350)。
【0023】
【0024】
【0025】
≪実施例1~8,比較例1~3の反射率分布、視感度反射率、色度等≫
実施例1~8,比較例1~3について、可視域(ここでは400nm以上780nm以下の波長域)及び隣接域(ここでは380nm以上400nm以下の波長域)での分光反射率分布(
図2~
図4)、及び凸面側の視感度反射率(D65光源,2°視野)が測定された(表1~表3の各下部下側)。
又、実施例1~8,比較例1~3について、色度、即ちxy表色系でのx及びy(D65光源,2°視野)が測定された(表1~表3の各下部上側)。
図5,
図6に、実施例1~8,比較例1~3の(x,y)をプロットしたCIE色度図が示される。
【0026】
比較例1の3層目L3の物理膜厚(L3)は200.00nmであって210nm未満であり、2層目L2の物理膜厚(L2)は6.00nmであって7nm未満であり、5層目L5の物理膜厚と6層目L6の物理膜厚(L5+L6)は93.00nmであって80nmを上回っている。比較例1の視感度反射率は0.55%であり、0.8%以下であって極めて良好である。しかし、比較例1では色度(x,y)=(0.25,0.38)となり、僅かな反射により発生する反射光が緑色を呈していて、色度において目立つものとなっている。比較例1の分光反射率分布は、中央の極大値が500nm付近に位置しているW型となっている。
比較例2のL3=226.00nmであって210nm以上270nm以下の範囲内に入っており、L2=14.00nmであって12nmを上回っており、4層目L4の物理膜厚(L4)は41.50nmであって41nmを上回っており、L5+L6=80.50nmであって80nmを上回っている。比較例2の視感度反射率は0.63%であり、0.8%以下であって極めて良好である。しかし、比較例2では色度(x,y)=(0.30,0.26)となり、僅かな反射により発生する反射光が桃色を呈していて、色度において目立つものとなっている。比較例2の分光反射率分布は、1.0%程度となる極大値が2つ(475nm,610nm付近に)存在するWW型となっている。
比較例3のL3=280.00nmであって270nmを上回っており、L2=6.20nmであって7nm未満であり、L4=21.00nmであって22nm未満であり、L5+L6=80.50nmであって80nmを上回っている。比較例3では色度(x,y)=(0.29,0.33)となり、僅かな反射により発生する反射光が白色(無彩色)を呈していて、色度において目立たないものとなっている。しかし、比較例3の視感度反射率は0.91%であり、0.8%を0.1ポイントを超えて上回っていて、優れた度合に達していない。比較例3の分光反射率分布は、極大値が475,580nm付近に位置するWW型となっている。又、比較例3では、1層目L1の物理膜厚(L1)が55.00nmであって50nmを上回っており、光学多層膜6のハードコート膜に対する密着性が十分に確保されない。
実施例8のL3=220.00nmであって210nm以上270nm以下の範囲内に入っており、L2=10.50nmであって7nm以上12nm以下の範囲内に入っており、L4=43.50nmであって41nmを僅かに上回っており、L5+L6=72.50nmであって74nm未満である。実施例8では色度(x,y)=(0.24,0.30)となり、僅かな反射により発生する反射光が白色(無彩色)を呈していて、色度において目立たないものとなっている。又、実施例8の視感度反射率は0.83%であり、0.8%を僅かに(0.03ポイント)上回っていて、実施例1~7に比べると若干劣るものの、優れた視感度反射率が確保される。実施例8の分光反射率分布は、極大値が475nm付近に位置するW型となっている。
【0027】
これらに対し、実施例1~7では、何れも、L3は210nm以上270nm以下の範囲内に入っており、L2は7nm以上12nm以下の範囲内に入っており、L4は22nm以上41nm以下の範囲内に入っている。又、L5+L6は74nm以上80nm以下の範囲内に入っている。よって、実施例1~7の光学多層膜6は反射防止性能を有し、各視感度反射率は、何れも0.8%以下という極めて優れた度合となっている。又、僅かな反射により発生する反射光の各色度は、白色(無彩色)又は青白色となっており、ヒトには無色透明又は薄い水色として視認され、目立ち難いものとなっている。各透過率分布は、極大値が450nm以上475nm以下の範囲内に位置するW型となっている。
更に、実施例1~7では、何れも、L1は20nm以上50nm以下の範囲内に入っている。よって、1層目L1が形成し易く、又ハードコート膜に対する密着性が十分に確保される。
【0028】
≪まとめ等≫
実施例1~8は、プラスチック製の基材2の両面側に、ハードコート膜である中間膜4を介して光学多層膜6が形成されたプラスチック眼鏡レンズであって、各光学多層膜6は、SiO2から成るSiO2層10とZrO2から成るZrO2層12とが、基材2に最も近い1層目L1をSiO2層10として交互に合計7層配置されたものである。そして、実施例1~8において、基材2の側から3層目L3に配置されたSiO2層10の物理膜厚は、210nm以上270nm以下であり、基材2の側から2層目に配置されたZrO2層12の物理膜厚は、7nm以上12nm以下である。よって、反射光が目立ち難いものとなる。
又、実施例1~7において、基材2の側から4層目L4に配置されたZrO2層12の物理膜厚は、22nm以上41nm以下である。よって、反射光がより目立ち難いものとなる。
更に、実施例1~8において、基材2に最も近い1層目L1であるSiO2層10の物理膜厚は、20nm以上50nm以下である。よって、光学多層膜6がより形成し易く、中間膜4に対する優れた密着性が確保される。
加えて、実施例1~7において、基材2の側から5層目L5に配置されたSiO2層10の物理膜厚と基材2の側から6層目L6に配置されたZrO2層12の物理膜厚との和は、74nm以上80nm以下である。よって、反射光が更に目立ち難いものとなる。
又、中間膜4は、ハードコート膜である。よって、プラスチック光学製品1の硬度ひいては耐久性が良好なものとなる。
更に、実施例1~7において、光学多層膜6が形成された凸面における視感度反射率は、0.8%以下である。よって、視感度反射率が極めて低いものとなり、反射光がより一層目立ち難いものとなる。
又更に、実施例1~8において、光学多層膜6が形成された面における反射光は、白色又は青白色である。よって、反射光がより一層目立ち難いものとなる。