(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069371
(43)【公開日】2022-05-11
(54)【発明の名称】不織布用織物および搬送ベルト
(51)【国際特許分類】
D04H 3/16 20060101AFI20220428BHJP
D06M 15/693 20060101ALI20220428BHJP
D06M 23/16 20060101ALI20220428BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20220428BHJP
D03D 11/00 20060101ALI20220428BHJP
【FI】
D04H3/16
D06M15/693
D06M23/16
D03D1/00 Z
D03D11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017205
(22)【出願日】2021-02-05
(31)【優先権主張番号】P 2020178233
(32)【優先日】2020-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000229818
【氏名又は名称】日本フイルコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】野村 裕亮
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 理貴
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 喜史
【テーマコード(参考)】
4L031
4L033
4L047
4L048
【Fターム(参考)】
4L031AB32
4L033AB05
4L033AC15
4L033CA68
4L047EA00
4L047EA06
4L048AC13
4L048BA09
4L048CA09
4L048DA38
(57)【要約】 (修正有)
【課題】不織布の搬送に適したベルトにおけるグリップ性を更に向上する新たな技術を提供する。
【解決手段】不織布18が搬送される表面側にJISK6397のRグループ(主鎖に不飽和炭素結合をもつゴム)に分類されるゴム製樹脂が塗布されている、不織布用織物ベルト12を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布が搬送される表面側にJISK6397のRグループ(主鎖に不飽和炭素結合をもつゴム)に分類されるゴム製樹脂が塗布されている不織布用織物。
【請求項2】
前記ゴム製樹脂は、スチレンブタジエンゴムであることを特徴とする請求項1に記載の不織布用織物。
【請求項3】
不織布が搬送される表面側にJISK6397のMグループ(ポリメチレンタイプの飽和主鎖をもつゴム)に分類されるゴム製樹脂が塗布されている不織布用織物。
【請求項4】
前記ゴム製樹脂は、アクリルゴムであることを特徴とする請求項3に記載の不織布用織物。
【請求項5】
前記ゴム製樹脂は、硬化前は水溶性であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の不織布用織物。
【請求項6】
前記表面側の静摩擦係数が0.25~0.90の範囲であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の不織布用織物。
【請求項7】
不織布が搬送される表面側に、織物を構成する糸の材質と異なる樹脂が塗布されており、
前記表面側の静摩擦係数が0.25~0.90の範囲であることを特徴とする不織布用織物。
【請求項8】
不織布が搬送される表面側を垂直方向に傾けた不織布用多層織物に綿を押し当て、手を離してから落下するまでの時間が10秒以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の不織布用織物。
【請求項9】
不織布が搬送される表面側における経糸が形成する経糸ナックルの高さと、緯糸が形成する緯糸ナックルの高さとの差が100μm以上であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の不織布用織物。
【請求項10】
導電性糸が織り込まれていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の不織布用織物。
【請求項11】
前記樹脂は、硬化後のデュロメータ硬さが10~80であることを特徴とする請求項7に記載の不織布用織物。
【請求項12】
不織布が搬送される表面側に硬化後のデュロメータ硬さが10~80である樹脂が塗布されている不織布用織物。
【請求項13】
前記デュロメータ硬さが50~80であることを特徴とする請求項12に記載の不織布用織物。
【請求項14】
前記デュロメータ硬さが10~20であることを特徴とする請求項12に記載の不織布用織物。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれか1項に記載の不織布用織物で構成された、スパンボンド不織布用の搬送ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布の搬送に用いられる織物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、走行する無端状のメッシュベルト上に繊維集合体を供給した後、当該繊維集合体を搬送しながら不織布を形成する装置が考案されている。近年、搬送速度の高速化に伴い、メッシュベルトに要求される性能の一つとして、メッシュベルト上に供給された繊維集合体が安定して搬送される(搬送時に繊維集合体が浮いたりずれたりしない)グリップ性が挙げられる。
【0003】
例えば、優れたシートサポート性(グリップ性)を付加するために、表面側縦糸と表面側横糸からなる表面層と裏面側縦糸と裏面側横糸からなる裏面層からなる不織布用二層織物において、接結糸として機能する表面側接結縦糸と接結糸として機能する裏面側接結縦糸とが略垂直方向に配置された第一の縦糸対と、表面側縦糸と裏面側縦糸とが垂直方向に重ねて配置された第二の縦糸対と、2本の表面側縦糸を隣接して並置した第三の縦糸対と、からなる不織布用二層織物が考案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、搬送速度の更なる高速化に伴い、グリップ性について更なる向上が求められている。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的の一つは、不織布の搬送に適したベルトにおけるグリップ性を更に向上する新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の不織布用織物は、不織布が搬送される表面側にJISK6397のRグループ(主鎖に不飽和炭素結合をもつゴム)に分類されるゴム製樹脂が塗布されている。
【0008】
この態様によると、ベルトにおけるグリップ性を向上できる。
【0009】
ゴム製樹脂は、スチレンブタジエンゴムであってもよい。
【0010】
本発明の他の態様も、不織布用織物である。この不織布用織物は、不織布が搬送される表面側にJISK6397のMグループ(ポリメチレンタイプの飽和主鎖をもつゴム)に分類されるゴム製樹脂が塗布されている。
【0011】
この態様によると、ベルトにおけるグリップ性を向上できる。
【0012】
ゴム製樹脂は、アクリルゴムであってもよい。
【0013】
ゴム製樹脂は、硬化前は水溶性であってもよい。これにより、硬化前のゴム製樹脂が水溶性であれば、硬化時に溶媒が揮発しても、環境面や人体への健康面に与える悪影響を低減できる。
【0014】
表面側の静摩擦係数が0.25~0.90の範囲であってもよい。これにより、ベルトにおけるグリップ性を向上できる。静摩擦係数が0.90以下であれば、製造時の不織布ウェブがベルト上で十分に拡散し、ウェブの均一性が損なわれない。また、静摩擦係数が0.25以上であれば、不織布ウェブに対する十分なグリップ力が得られる。
【0015】
本発明の別の態様もまた、不織布用織物である。この不織布用織物は、不織布が搬送される表面側に、織物を構成する糸の材質と異なる樹脂が塗布されており、表面側の静摩擦係数が0.25~0.90の範囲である。
【0016】
この態様によると、静摩擦係数が0.90以下であれば、製造時の不織布ウェブがベルト上で十分に拡散し、ウェブの均一性が損なわれない。また、静摩擦係数が0.25以上であれば、不織布ウェブに対する十分なグリップ力が得られる。そのため、ベルトにおけるグリップ性を向上できる。
【0017】
不織布が搬送される表面側を垂直方向に傾けた不織布用多層織物に綿を押し当て、手を離してから落下するまでの時間が10秒以下であってもよい。これにより、不織布を搬送するベルトから不織布がリリースされやすくなる。
【0018】
不織布が搬送される表面側における経糸が形成する経糸ナックルの高さと、緯糸が形成する緯糸ナックルの高さとの差が100μm以上であってもよい。これにより、不織布用織物の表面側と不織布との摩擦抵抗を大きくできる。
【0019】
導電性糸が織り込まれていてもよい。
【0020】
樹脂は、硬化後のデュロメータ硬さが10~80であってもよい。これにより、ベルトにおけるグリップ性を向上できる。
【0021】
本発明のさらに別の態様もまた、不織布用織物である。この不織布用織物は、不織布が搬送される表面側に硬化後のデュロメータ硬さが10~80である樹脂が塗布されている。または、不織布が搬送される表面側に硬化後のデュロメータ硬さが50~80である樹脂が塗布されている不織布用織物であってもよい。または、不織布が搬送される表面側に硬化後のデュロメータ硬さが10~20である樹脂が塗布されている不織布用織物であってもよい。
【0022】
この態様によると、ベルトにおけるグリップ性を向上できる。
【0023】
本発明のさらに別の態様は、搬送ベルトである。このベルトは、上述の不織布用多層織物で構成されている。
【0024】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、不織布の搬送に適したベルトを構成する新たな不織布用織物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】スパンボンド法により不織布を製造する製造装置の概略構成を示す図である。
【
図2】不織布に対する不織布用多層織物のグリップ性能を測定するための装置の概略構成を示す模式図である。
【
図3】不織布用多層織物の静摩擦力を測定するための装置の概略構成を示す模式図である。
【
図4】リリース性評価試験を説明するための模式図である。
【
図5】実施例1-1に係る不織布用多層織物の完全組織を示す意匠図である。
【
図6】
図5に示す意匠図における各経糸に沿った断面図である。
【
図7】実施例1-1~実施例1-4に係る不織布用多層織物と比較例1に係る不織布用多層織物の摩擦力の値を比較したグラフを示す図である。
【
図8】実施例2に係る不織布用多層織物の完全組織を示す意匠図である。
【
図9】
図8に示す意匠図における各経糸に沿った断面図である。
【
図10】実施例3に係る不織布用多層織物の完全組織を示す意匠図である。
【
図11】
図10に示す意匠図における各経糸に沿った断面図である。
【
図12】実施例4に係る不織布用多層織物の完全組織を示す意匠図である。
【
図13】
図12に示す意匠図における各経糸に沿った断面図である。
【
図14】実施例5に係る不織布用多層織物の完全組織を示す意匠図である。
【
図15】
図14に示す意匠図における各経糸に沿った断面図である。
【
図16】実施例6に係る不織布用多層織物の完全組織を示す意匠図である。
【
図17】
図16に示す意匠図における各経糸に沿った断面図である。
【
図18】実施例7に係る不織布用多層織物の完全組織を示す意匠図である。
【
図19】
図18に示す意匠図における各経糸に沿った断面図である。
【
図20】静摩擦係数測定結果のグラフを示す図である。
【
図21】実施例8に係る不織布用多層織物の完全組織を示す意匠図である。
【
図22】
図21に示す意匠図における各経糸に沿った断面図である。
【
図23】実施例9に係る不織布用多層織物の完全組織を示す意匠図である。
【
図24】
図23に示す意匠図における各経糸に沿った断面図である。
【
図25】他の静摩擦係数測定結果のグラフを示す図である。
【
図26】実施例1-1~実施例1-4の不織布用多層織物に対する耐シャワー試験の結果を示す図である。
【
図27】比較例1及び実施例1-1~実施例1-4に係る不織布用多層織物に対する粘着性試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述される全ての特徴やその組合せは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0028】
従来、不織布の製造方法として、スパンボンド法、メルトブロー法等の様々な方法が考案されている。例えば、スパンボンド法とは、溶融した樹脂ポリマーを延伸し、不織布用ベルト上でシートとして集積することで不織布を製造する方法である。このようなスパンボンド法は、特に高速での生産に適しており、近年では1000mm/min前後の速度でベルトが使用される。そのため、スパンボンド法においては、特にベルトのグリップ力が求められる。
図1は、スパンボンド法により不織布を製造する製造装置の概略構成を示す図である。
【0029】
図1に示す不織布製造装置10は、無端状の不織布用ベルト12と、不織布用ベルト12を支持し駆動する複数の駆動ローラ14と、不織布用ベルト12の上に溶融した樹脂ポリマーを紡糸延伸して吐出するエジェクター16と、不織布用ベルト12の上に吐出された樹脂ポリマーが繊維状の集合体として堆積した不織布18を、不織布用ベルト12の裏面側から吸引する吸引装置20と、隣接する吸引装置20の間に不織布用ベルト12を挟むように配置されているプレスロール21と、不織布18を熱圧着してシート状の不織布22にエンボス加工するカレンダーロール24と、を備える。不織布用ベルト12は、不織布用織物の一方の端部を他方の端部とループ接合することで形成されている。
【0030】
このような不織布用ベルト12は、繊維の刺さり込みがないこと、防汚性、洗浄性、走行性、剛性、除電性能、不織布の安定性(グリップ性)等の様々な特性が求められる。近年は不織布製造装置の高速化に伴い、不織布の搬送安定性(グリップ性)が特に求められている。例えば、グリップ力が小さい場合、不織布を不織布用ベルト上で搬送する際に、形成される不織布が不織布用ベルト上で動くことで折れ込みが入ることがあり、不織布の良品率の低下を招くおそれがある。
【0031】
そこで、不織布用多層織物に要求される特性の一つであるグリップ力を向上するための構成として、本願発明者らは、搬送する不織布と接触する側にある上面側織物の摩擦抵抗に着目した。
【0032】
はじめに、上面側織物の表面の摩擦抵抗を大きくした不織布用多層織物の効果を示すための評価方法、織物の静摩擦力の測定方法、リリース性評価試験について説明する。
【0033】
[グリップ性評価方法]
図2は、不織布に対する不織布用多層織物のグリップ性能を測定するための装置の概略構成を示す模式図である。
【0034】
測定装置100は、引張試験機102と、測定治具104と、を備える。引張試験機102は、精密万能試験機オートグラフAG-IS(株式会社島津製作所製)および引張試験機用ロードセル(100N)を用いた。測定治具104は、サクションボックス106を用いた。サクションボックス106は、不織布用多層織物108が載置される載置部106aと、不織布用多層織物108の裏面側から吸引するために載置部106aに形成された吸引穴106bと、水平方向に配置された不織布110の引っ張り方向を引張試験機102のチャック102aに向くようにするためのローラ106cと、を有する。
【0035】
測定方法は、はじめにサクションボックス106の載置部106aの上に不織布用多層織物108を載置する。測定に用いた不織布用多層織物108は、幅200mm、長さ300mmの帯状のものである。次に、不織布用多層織物108の上に不織布110を積載する。不織布110は、幅90mm、長さ600mmの帯状のものであり、一端をチャック102aに固定する。
【0036】
次に、吸引穴106bの下方から吸引装置で吸引する。吸引装置の吸引力は18.44kPa、風量は1.40m3/minである。この状態で、引張試験機102による引張試験を開始する。試験条件は以下の通りである。
引張速度:100mm/min
ストローク:100mm
N数(測定回数):3回
測定結果の表示:応力
【0037】
[静摩擦力の試験方法]
図3は、不織布用多層織物の静摩擦力を測定するための装置の概略構成を示す模式図である。
【0038】
図3に示す測定装置120は、引張試験機102と、測定用台122と、測定用台122の上に載置された不織布用多層織物108と、不織布18を不織布用多層織物108に押し付けるための重り128と、を備える。なお、重り128と不織布18との間には、綿124が配置されている。
【0039】
引張試験機102は、精密万能試験機オートグラフAG-ISおよび引張試験機用ロードセル(100N)を用いた。測定用台122は、端部にプーリー122aが設けられている。重り128は、様々な重量のものが用意されており、本実施の形態では重量が100~975gの重りを用いた。不織布18の一端には、引張試験機102と連結しているスプリング126の一端が固定されている被牽引部127が固定されている。そして、所定の重量の重り128を綿124を挟んで不織布18上に載置し、引張試験機102により不織布18を引っ張る力を徐々に増加させ、動き始めの力を静摩擦力として測定する。
【0040】
[リリース性評価試験]
図4は、リリース性評価試験を説明するための模式図である。
図4に示す試験方法では、はじめに壁130に不織布用多層織物108を固定する。次に、不織布用多層織物108に綿132を押し当て、綿132から手を離し、綿132が落下するか否かを観察した。
【0041】
次に、不織布用ベルトを構成する不織布用織物について説明する。なお、不織布用ベルト12を構成する不織布用織物は、単層であっても、多層であってよいが、以下では不織布用多層織物を例に説明する。以下の説明において、「経糸」とは、不織布用多層織物をループ状の不織布用ベルトとした場合に、不織布の搬送方向に沿って伸びている糸であり、「緯糸」とは、経糸に対して交差する方向に伸びている糸である。また、「上面側織物」とは、不織布用多層織物を不織布用ベルトとして利用する場合に、不織布用ベルトの両面のうち不織布が搬送される表面側に位置する織物であり、「下面側織物」とは、不織布用ベルトの両面のうち主として駆動ローラが当接する裏面側に位置する織物である。なお、単に「表面」とは、上面側織物や下面側織物の露出している側の面であり、上面側織物の「表面」とは、不織布用ベルトにおける表面側に相当するが、下面側織物の「表面」とは、不織布用ベルトにおける裏面側に相当する。
【0042】
また、「意匠図」とは織物組織の最小の繰り返し単位であって織物の完全組織に相当する。つまり、「完全組織」が前後左右に繰り返されて「織物」が形成される。また、「ナックル」とは経糸が1本または複数本の緯糸の上、または下を通って表面に突出した部分をいう。また、「オフスタック構造」とは、上下に配置される同じ方向の糸が垂直に重ならないよう配置されている構造を示している。
【0043】
また、「糸の交点支持力」とは、ナックル部における経糸と緯糸の相互間に掛かる力のことであり、一般に1本の糸に掛かるナックルは交点支持力が強く、複数の糸に掛かるロングナックルは交点支持力が低くなる傾向にある。そのため、交点支持力が最も高くなる組織は平織組織である。平織組織では、全てのナックルが1本の糸に掛かるナックルを構成するため、ナックル密度が最も高くなるためである。
【0044】
また、「接結糸」とは、上面側織物(または下面側織物)を構成する経糸の少なくとも一部の経糸であって、本来ならば上面側織物(または下面側織物)の緯糸のみを織り込むべき経糸が、下面側織物(または上面側織物)の緯糸を裏面側(または表面側)から織り込むことで、上面側織物と下面側織物を接結する糸である。
【0045】
また、繊維の刺さり込みとは、糸のナックル交点間に繊維が入り込んでしまう現象である。繊維の刺さり込みが生じると、(1)不織布の欠点が発生したり、(2)刺さり込んだ部分の織物の通気度が低下することで、サクションによる吸引効果が低下し、不織布のグリップ性が低下したりする、等の問題が発生する。
【0046】
なお、以下の織物を構成する上面側経糸および下面側経糸は、φ0.30~0.50mm程度の範囲が好ましいが、必ずしもこの範囲に限られない。同様に、上面側緯糸はφ0.30~0.60mm程度の範囲が好ましく、下面側緯糸はφ0.40~0.70mm程度の範囲が好ましいが、必ずしもこの範囲に限られない。
【0047】
(実施例1-1)
以下、実施例1-1に係る不織布用多層織物の構成について図面を参照して説明する。
図5は、実施例1-1に係る不織布用多層織物の完全組織を示す意匠図である。
図6は、
図5に示す意匠図における各経糸に沿った断面図である。なお、
図5において、経糸対(4Uと4U’及び8Uと8U’)は、上面側経糸が並置されているため、便宜上2列に分けて記載してある。
【0048】
意匠図において、経糸はアラビア数字、例えば1、2、3・・・で示す。緯糸は、ダッシュを付したアラビア数字、例えば1'、2'、3'・・・で示す。上面側糸はU、U’を付した数字、下面側糸はLを付した数字、例えば1'U、2'L等で示す。また、上面側織物と下面側織物とを接結する接結糸はbを付した数字で示した。
【0049】
また、意匠図において、▲印は、本来的には下面側経糸を構成する糸が上面側緯糸の上に配置されていることを示し、×印は、上面側経糸が上面側緯糸の上に配置されていることを示し、△印は、本来的には上面側経糸を構成する糸が下面側緯糸の下に配置されていることを示し、○印は、下面側経糸が下面側緯糸の下に配置されていることを示している。なお、
図6において、上面側経糸は実線で、下面側経糸は点線で示している。
【0050】
図5に示す第1の実施の形態に係る不織布用多層織物40は、左側から1つの経糸対A(1Ubと1Lb)、2つの経糸対B(2Uと2L及び3Uと3L)、1つの経糸対C(4Uと4U’)、1つの経糸対A(5Ubと5Lb)、2つの経糸対B(6Uと6L及び7Uと7L)、1つの経糸対C(8Uと8U’)、及び上面側緯糸(1’U,2’U,3’U,4’U)と、下面側緯糸(1’L,2’L,3’L,4’L)によって構成された表面平織組織による多層織物である。
【0051】
また、
図6に示すように、経糸対Aを構成する接結糸として機能する上面側経糸1Ubは、下面側緯糸1’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸2’Uと下面側緯糸2’Lとの間を通った後、上面側緯糸3’Uの上側を通って表面側ナックルを形成した後、上面側緯糸4’Uと下面側緯糸4’Lとの間を通って織り合わされている。
【0052】
また、経糸対Aを構成する接結糸として機能する下面側経糸1Lbは、上面側緯糸1’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸2’Uと下面側緯糸2’Lとの間を通った後、下面側緯糸3’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成した後、上面側緯糸4’Uと下面側緯糸4’Lとの間を通って織り合わされている。
【0053】
また、経糸対Bを構成する上面側経糸2Uは、上面側緯糸1’Uの下側を通った後、上面側緯糸2’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸3’Uの下側を通った後、上面側緯糸4’Uの上側を通って再び表面側ナックルを形成するように織り合わされている。
【0054】
また、経糸対Bを構成する下面側経糸2Lは、下面側緯糸1’Lの上側を通った後、下面側緯糸2’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成し、次いで下面側緯糸3’Lの上側を通った後、下面側緯糸4’Lの下側を通って再び裏面側ナックルを形成するように織り合わされている。
【0055】
また、経糸対Bを構成する上面側経糸3Uは、上面側緯糸1’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸2’Uの下側を通った後、上面側緯糸3’Uの上側を通って再び表面側ナックルを形成した後、上面側緯糸4’Uの下を通って織り合わされている。
【0056】
また、経糸対Bを構成する下面側経糸3Lは、下面側緯糸1’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成し、次いで下面側緯糸2’Lの上側を通った後、下面側緯糸3’Lの下側を通って再び裏面側ナックルを形成した後、下面側緯糸4’Lの上を通って織り合わされている。
【0057】
また、経糸対Cを構成する上面側経糸4Uは、上面側緯糸1’Uの下側を通った後、上面側緯糸2’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸3’Uの下側を通った後、上面側緯糸4’Uの上側を通って再び表面側ナックルを形成するように織り合わされている。
【0058】
また、経糸対Cを構成する上面側経糸4U’は、上面側緯糸1’Uの上側を通って表面側ナックルを形成した後、上面側緯糸2’Uの下側を通って、次いで上面側緯糸3’Uの上側を通って表面側ナックルを形成した後、上面側緯糸4’Uの下側を通って織り合わされている。
【0059】
また、経糸対Aを構成する接結糸として機能する上面側経糸5Ubは、上面側緯糸1’Uと下面側緯糸1’Lとの間を通った後、上面側緯糸2’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸3’Uと下面側緯糸3’Lとの間を通った後、下面側緯糸4’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成している。
【0060】
また、経糸対Aを構成する接結糸として機能する下面側経糸5Lbは、上面側緯糸1’Uと下面側緯糸1’Lとの間を通った後、下面側緯糸2’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸3’Uと下面側緯糸3’Lとの間を通った後、上面側緯糸4’Uの上側を通って表面側ナックルを形成している。
【0061】
また、経糸対Bを構成する上面側経糸6Uは、上面側緯糸1’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸2’Uの下側を通った後、上面側緯糸3’Uの上側を通って再び表面側ナックルを形成した後、上面側緯糸4’Uの下を通って織り合わされている。
【0062】
また、経糸対Bを構成する下面側経糸6Lは、下面側緯糸1’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成した後、下面側緯糸2’Lの上側を通った後、次いで下面側緯糸3’Lの下側を通って再び裏面側ナックルを形成し、次いで下面側緯糸4’Lの上側を通って織り合わされている。
【0063】
また、経糸対Bを構成する上面側経糸7Uは、上面側緯糸1’Uの下側を通った後、上面側緯糸2’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸3’Uの下側を通った後、上面側緯糸4’Uの上側を通って再び表面側ナックルを形成している。
【0064】
また、経糸対Bを構成する下面側経糸7Lは、下面側緯糸1’Lの上側を通った後、下面側緯糸2’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成した後、下面側緯糸3’Lの上側を通った後、次いで下面側緯糸4’Lの下側を通って再び裏面側ナックルを形成している。
【0065】
さらに、経糸対Cを構成する上面側経糸8Uは、上面側緯糸1’Uの上側を通って表面側ナックルを形成した後、上面側緯糸2’Uの下側を通って、次いで上面側緯糸3’Uの上側を通って再び表面側ナックルを形成した後、上面側緯糸4’Uの下側を通って織り合わされている。
【0066】
さらに、経糸対Cを構成する上面側経糸8U’は、上面側緯糸1’Uの下側を通った後、上面側緯糸2’Uの上側を通って表面側ナックルを形成した後、次いで上面側緯糸3’Uの下側を通った後、上面側緯糸4’Uの上側を通って再び表面側ナックルを形成している。
【0067】
実施例1-1に係る不織布用多層織物40は、不織布が搬送される表面側に、織物を構成する糸の材質と異なる樹脂(例えば、JISK6397のMグループ(ポリメチレンタイプの飽和主鎖をもつゴム)に分類されるゴム製樹脂)が塗布されている。これにより、ベルトにおけるグリップ性を向上できる。ここで、実施例1-1に係るゴム製樹脂は、アクリルゴム(アクリル酸エステル類と他の物質(エチレンやアクリロニトリル)とのゴム状共重合体)である。また、ゴム製樹脂は、水溶性であってもよい。
【0068】
実施例1-1に係る不織布用多層織物に塗布されたアクリルゴムの硬化後の硬さは、デュロメータ硬さ(ショアA)で15であった。
【0069】
(実施例1-2)
実施例1-2に係る不織布用多層織物は、実施例1-1に係る不織布用多層織物と同様の完全組織を有し、不織布が搬送される表面側に、織物を構成する糸の材質と異なる樹脂が塗布されている。具体的には、JISK6397のRグループ(主鎖に不飽和炭素結合をもつゴム)に分類されるゴム製樹脂が塗布されている点が実施例1-1と異なる。これにより、ベルトにおけるグリップ性を向上できる。ここで、実施例1-2に係るゴム製樹脂は、スチレンブタジエンゴムである。また、ゴム製樹脂は、水溶性であってもよい。
【0070】
実施例1-2に係る不織布用多層織物に塗布されたスチレンブタジエンゴムの硬化後の硬さは、デュロメータ硬さ(ショアA)で80であった。
【0071】
(実施例1-3)
実施例1-3に係る不織布用多層織物は、実施例1-2に係る不織布用多層織物の表面に塗布されているゴム製樹脂と同じスチレンブタジエンゴムが塗布されているが、樹脂の硬度を高めるために、塗布する際の樹脂の濃度を変更している。実施例1-3に係る不織布用多層織物に塗布されたスチレンブタジエンゴムの硬化後の硬さは、デュロメータ硬さ(ショアA)で50であった。
【0072】
(実施例1-4)
実施例1-4に係る不織布用多層織物は、実施例1-2に係る不織布用多層織物の表面に塗布されているゴム製樹脂と同じスチレンブタジエンゴムが塗布されているが、樹脂の硬度を高めるために、塗布する際の樹脂の濃度を変更している。実施例1-4に係る不織布用多層織物に塗布されたスチレンブタジエンゴムの硬化後の硬さは、デュロメータ硬さ(ショアA)で15であった。
【0073】
(比較例1)
比較例1に係る不織布用多層織物は、実施例1-1に係る不織布用多層織物40と比較して、不織布が搬送される表面側にゴム製樹脂が塗布されていない点が異なり、それ以外は実質的に同じである。
【0074】
(比較例2)
比較例2に係る不織布用多層織物は、比較例1に係る不織布用多層織物と比較して、不織布が搬送される表面側に粘着性樹脂(例えば、シリコーン樹脂)が塗布されている点が異なり、それ以外は実質的に同じである。
【0075】
(比較例3)
比較例3に係る不織布用多層織物は、比較例1に係る不織布用多層織物と比較して、不織布が搬送される表面側にエンボス加工が施されている点が異なり、それ以外は実質的に同じである。
【0076】
図7は、実施例1-1~実施例1-4に係る不織布用多層織物と比較例1に係る不織布用多層織物の摩擦力の値を比較したグラフを示す図である。
図7に示すように、実施例1-1に係る不織布用多層織物の摩擦力は0.20[kgf]以上であり、比較例1に係る不織布用多層織物の摩擦力(0.05[kgf]未満)の4倍以上である。つまり、実施例1-1に係る不織布用多層織物を用いた不織布用ベルトは、グリップ性を向上できる。
【0077】
また、実施例1-2に係る不織布用多層織物の摩擦力は0.084[kgf]、実施例1-3に係る不織布用多層織物の摩擦力は0.141[kgf]、実施例1-4に係る不織布用多層織物の摩擦力は0.297[kgf]であり、いずれも比較例1に係る不織布用多層織物の摩擦力(0.05[kgf]未満)の約2~6倍である。つまり、実施例1-1におけるアクリルゴムだけでなく、スチレンブタジエンゴムが表面側に塗布された実施例1-2~実施例1-4に係る不織布用多層織物を用いた不織布用ベルトも、グリップ性を向上できる。また、塗布する際のゴム製樹脂の濃度を調整することで、塗布量が変わり、摩擦力の大きさを調整できる。換言すると、ゴム製樹脂の塗布量によってゴム製樹脂が塗布された織物表面側の硬度を調整し、不織布用多層織物の摩擦力の大きさを調整できる。
【0078】
図20は、静摩擦係数測定結果のグラフを示す図である。グラフの横軸を重りの重量[kg]、グラフの縦軸を引張応力[kgf]とし、一次近似曲線(切片0)を引いたときの傾きが静摩擦係数である。比較例1に係る不織布用多層織物(ラインL1)の静摩擦係数は0.18程度である。これに対し、アクリルゴムを塗布した実施例1-1に係る不織布用多層織物(ラインL2、L3、L4)の静摩擦係数は0.32~0.47の範囲である。なお、塗布する樹脂の濃度や、塗布する際のベルト(不織布用多層織物)の移動速度を調整することによって、静摩擦係数(グリップ力)の調整が可能である。
【0079】
ラインL2~ラインL4の傾きの相違は、塗布する際の樹脂濃度の違いによってもたらされている。具体的には、ベルトを22m/minの移動速度で長さ方向に移動させながら、固定したスプレーによって樹脂の質量%濃度が20%(ラインL2)、50%(ラインL3)、80%(ラインL4)の樹脂含有溶液を、実施例1-1に係る不織布用多層織物の表面に塗布した。
【0080】
図25は、他の静摩擦係数測定結果のグラフを示す図である。
図20と同様に、比較例1に係る不織布用多層織物(ラインL1)の静摩擦係数は0.18程度である。これに対し、スチレンブタジエンゴムを塗布した、表面の硬さが異なる実施例1-2~実施例1-4に係る不織布用多層織物(ラインL5、L6、L7)の静摩擦係数は0.33~0.82の範囲である。なお、塗布する樹脂の濃度や硬化後の樹脂の硬度や、塗布する際のベルト(不織布用多層織物)の移動速度を調整することによって、静摩擦係数(グリップ力)の調整が可能である。
【0081】
ラインL5~ラインL7の傾きの相違は、塗布する際の樹脂濃度の違いによってもたらされている。具体的には、ベルトを22m/minの移動速度で長さ方向に移動させながら、固定したスプレーによって樹脂の質量%濃度が20%(ラインL2)、50%(ラインL3)、80%(ラインL4)の樹脂含有溶液を、各実施例に係る不織布用多層織物の表面に塗布した。
【0082】
次に、リリース性評価試験の結果を表1に示す。
【0083】
【0084】
表1に示すように、加工を施していない比較例1に係る不織布用多層織物およびゴム製樹脂が塗布されている実施例1-1に係る不織布用多層織物では、綿が直ちに落下した。一方、比較例2に係る不織布用多層織物および比較例3に係る不織布用多層織物では、綿は不織布用多層織物に付着したまま落下しなかった。綿が落下するか否かは、
図1に示す不織布を製造する過程において、不織布用ベルト12から不織布18が剥離しやすいか否か(リリース性)に対応する。
【0085】
このように、実施例1-1に係る不織布用多層織物40は、不織布が搬送される表面側を垂直方向に傾けた不織布用多層織物に綿を押し当て、手を離してから落下するまでの時間が10秒以下である。これにより、実施例1-1に係る不織布用多層織物は、不織布を搬送するベルトから不織布がリリースされやすくなる。グリップ性能とリリース性能は基本的にはトレードオフであるが、ゴム性樹脂を塗布した本実施の形態に係る不織布用多層織物からなる不織布用ベルトでは、高いグリップ性能と良好なリリース性能を両立できる。
【0086】
なお、本実施の形態に係る不織布用多層織物は、不織布が搬送される表面側にゴム製樹脂あるいは織物を構成する糸の材質と異なる樹脂が塗布されている場合、表面側の静摩擦係数が0.25~0.90の範囲であることが好ましい。これにより、本実施の形態に係る不織布用多層織物を用いた不織布用ベルトは、グリップ性を向上できる。不織布用多層織物の表面側の静摩擦係数の調整は、例えば、不織布が搬送される表面側における経糸が形成する経糸ナックル(
図5に示す×印の位置)の高さと、緯糸が形成する緯糸ナックルの高さ(例えば、
図5に示す×印の隣接位置)との差が100μm以上であってもよい。これにより、不織布用織物の表面側と不織布との摩擦抵抗を大きくできる。また、ナックルの高低差により、低いナックルに塗布された樹脂は高いナックルによって表面摩耗から保護される。
【0087】
本実施の形態に係る不織布用多層織物は、不織布が搬送される表面側の硬度が所定の範囲である樹脂が塗布されていてもよい。具体的には、硬化後のデュロメータ硬さが10~80の樹脂が好ましい。硬度が10より小さい(柔らかい)とリリース性が低下する。一方、硬度が80より大きい(硬い)とグリップ性が低下する。これにより、リリース性とグリップ性を両立する不織布用多層織物を実現できる。なお、本実施の形態に係るデュロメータ硬さは、ゴム硬度計タイプA標準型(DM-104A:ムラテックKDS株式会社製)の円柱状の圧子を用いて測定されたものである。
【0088】
[耐シャワー試験]
本実施の形態に係る不織布用多層織物からなるベルトを使用し続けると、ベルト上に汚れが付着、堆積する。そのため、高圧のシャワーで汚れを洗浄する必要があり、耐シャワー性が高いことが求められる。ここで、耐シャワー性が高いとは、高圧のシャワーで洗浄する際に、織物の表面に塗布されている樹脂が剥離しにくいことを言う。耐シャワー性が低いと、樹脂の剥離により不織布用多層織物のグリップ性能が低下する。
【0089】
具体的な試験方法は、不織布用多層織物の表面に2.5~20MPaのシャワー圧力で水を噴射する。シャワーを噴射する範囲は、不織布用多層織物の経糸方向に10cmの範囲であり、シャワーを20cm/minの移動速度で一往復させた。その後、前述のグリップ性評価を行った。
【0090】
図26は、実施例1-1~実施例1-4の不織布用多層織物に対する耐シャワー試験の結果を示す図である。
図26に示すように、アクリルゴムが表面側に塗布された実施例1-1に係る不織布用多層織物では、シャワー圧力が6MPaでグリップ力が低下していることがわかる。一方、実施例1-2、実施例1-3に係る不織布用多層織物は、シャワー圧力が20MPaでもグリップ力がほとんど低下せず、耐シャワー性が高いことがわかる。また、実施例1-2、実施例1-3に係る不織布用多層織物は、シャワー圧力が20MPaでもグリップ力がほとんど低下せず、耐シャワー性が高いことがわかる。また、実施例1-4に係る不織布用多層織物は、シャワー圧力が15MPa程度まではグリップ力の低下が抑えれている。
【0091】
以上から、耐シャワー性については、表面側にJISK6397のRグループ(主鎖に不飽和炭素結合をもつゴム)に分類されるゴム製樹脂が塗布されている不織布用多層織物が好ましい。より好ましくは、塗布されている樹脂の硬化後のデュロメータ硬さが80以下(60以下)である。
【0092】
[粘着性試験]
不織布用多層織物の表面の樹脂の粘着力が高いと、搬送する不織布がベルト表面から浮きにくくなるため、安定した搬送が可能となる。一方、ベルトから次工程へ移る際のリリース性が低下するため、不織布製造装置や製造条件に応じた適切な粘着力が必要になる。
【0093】
具体的な試験方法について説明する。はじめに、グリップ性評価で用いたサイズの不織布用多層織物からなるベルトサンプルを試験機にセットする。次に、幅90mm、長さ394mmのティッシュペーパの一端をチャックで挟み、全体が載置されるようにベルトサンプルの上に垂らす。その後、重さ2.4kgの円柱状の重りをティッシュペーパ上で転がし、ティッシュペーパとベルトサンプルを密着させる。そして、ティッシュペーパの一端を挟むチャックを150cm/minの速度で上方向に80cm引っ張り、そのときにティッシュペーパにかかる引張応力(粘着力)[kgf]を測定する。
【0094】
図27は、比較例1及び実施例1-1~実施例1-4に係る不織布用多層織物に対する粘着性試験の結果を示す図である。
図27に示すように、実施例1-1に係る不織布用多層織物は粘着力が高いため、ベルト上の不織布を安定的に搬送できる。一方、実施例1-2~実施例1-4に係る不織布用多層織物は、粘着力が比較例1より高く、実施例1-1よりも低いため、安定した搬送と良好なリリース性を実現できる。
【0095】
以上のように、硬化後のデュロメータ硬さが50~80の樹脂を塗布することで、グリップ力が向上した、高い耐シャワー性を有する不織布用多層織物を実現できる。また、デュロメータ硬さが10~20の樹脂を塗布することで、非常に高いグリップ力を有する不織布用多層織物が得られるため、このような樹脂を織物の不織布が搬送される表面側に塗布することは、グリップ力が特に必要となる不織布の製造において好適である。一方、デュロメータ硬さが80より大きい樹脂を塗布すると、グリップ力を向上させることが難しくなる。また、デュロメータ硬さ10より小さい樹脂を塗布すると、リリース不良や樹脂の剥離が発生し易くなる。
【0096】
(実施例2)
以下、実施例2に係る不織布用多層織物の構成について図面を参照して説明する。
図8は、実施例2に係る不織布用多層織物の完全組織を示す意匠図である。
図9は、
図8に示す意匠図における各経糸に沿った断面図である。
【0097】
以下の各意匠図において、経糸はアラビア数字、例えば1、2、3・・・で示す。接結糸はFを付した数字、非接結糸はSを付した数字で表す。緯糸は、ダッシュを付したアラビア数字、例えば1'、2'、3'・・・で示す。上面側緯糸はUを付した数字、下面側緯糸はLを付した数字、例えば1'U、2'L等で示す。
【0098】
また、意匠図において、■印は接結糸が上面側緯糸の上側に配置されていることを示し、□印は接結糸が下面側緯糸の下側に配置されていることを示し、×印は非接結糸が上面側緯糸の上側に配置されていることを示している。
【0099】
実施例2に係る不織布用多層織物50は、多層織物であり、上面側緯糸と下面側緯糸は上下に重ならないように配置されている。意匠図での糸の重なりは意匠図左部の糸を示す数字によって表現されている。
【0100】
図8に示す実施例2に係る不織布用多層織物50は、接結糸Fと、非接結糸Sと、上面側緯糸Uと、下面側緯糸Lによって構成された表面平織組織による多層織物である。
【0101】
図8に示すように、接結糸4Fは、上面側緯糸1’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで下面側緯糸2’Lの上側を通った後、上面側緯糸3’Uの下側を通って、下面側緯糸4’Lと下面側緯糸6’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成している。次いで上面側緯糸7’Uの下側を通った後、下面側緯糸8’Lの上側を通っている。
【0102】
また、接結糸3Fは、隣接する接結糸4Fと対になっている。接結糸3Fは上面側緯糸5’Uの上側で表面側ナックルを形成している。そして、接結糸3Fおよび接結糸4Fの2本によって、上面側緯糸1’U及び上面側緯糸5’U上でナックルを形成しながら表面上に1本分の上面側経糸組織を形成している。
【0103】
非接結糸1Sは、上面側緯糸1’Uの上側を通って、表面側ナックルを形成し、次いで、上面側緯糸3’Uの下側を通った後、上面側緯糸5’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、上面側緯糸7’Uの下側を通っている。
【0104】
また、非接結糸2Sは、上面側緯糸1’Uの下側を通った後、上面側緯糸3’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで、上面側緯糸5’Uの下側を通った後、上面側緯糸7’Uの上側を通って表面側ナックルを形成する。
【0105】
実施例2に係る不織布用多層織物50においては、
図8に示すように、接結糸F、非接結糸S共にそれぞれ2本1組となっており、非接結糸1S,2Sと接結糸3F,4Fとが組となり、非接結糸5S,6Sと接結糸7F,8Fとが組となっている。
【0106】
次に、
図8に示す緯糸について説明する。上面側緯糸(1’U,3’U,5’U,7’U)と下面側緯糸(2’L,4’L,6’L,8’L)の線径に制限はないが、下面側緯糸は織物の剛性を高めるため太径の糸が好ましく、上面側緯糸は表面密度を高めるために下面側緯糸よりも細いものが好ましい。また、不織布用多層織物50における上面側緯糸と下面側緯糸はオフスタック構造になっている。不織布用多層織物50は、オフスタック構造を採用することで、上面側緯糸と下面側緯糸の密着性が上がり、空間密度が小さくなるため、繊維の抜け落ちが抑制されている。
【0107】
また、不織布用多層織物50は、意匠図から明らかなように、表面側ナックルに対し裏面側ナックルが少ない構造となっている。
【0108】
上述のように、不織布用多層織物50は、上面側経糸(1S,2S,3F,5S,6S,7F)と上面側緯糸(1’U,3’U,5’U,7’U)とからなる上面側織物と、下面側経糸(4F,8F)と下面側緯糸(2’L,4’L,6’L,8’L)とからなる下面側織物とが接結されている。上面側経糸が有する第1の経糸(3F,7F)は、上面側織物と下面側織物とを接結する第1の接結糸として機能し、下面側経糸が有する第2の経糸(4F,8F)は、上面側織物と下面側織物とを接結する第2の接結糸として機能する。
【0109】
実施例2に係る不織布用多層織物50は、不織布が搬送される表面側に、織物を構成する糸の材質と異なる樹脂(例えば、JISK6397のMグループ(ポリメチレンタイプの飽和主鎖をもつゴム)に分類されるゴム製樹脂)が塗布されている。
【0110】
このように、不織布用多層織物50は、搬送する不織布と接触する側にある上面側織物に、静摩擦係数が高くなるような樹脂が塗布されているため、不織布を搬送する際の安定性(グリップ性)が向上する。
【0111】
一方、上面側経糸は、上面側緯糸の上を通過した後に、隣接する上面側緯糸の下かつ下面側緯糸の上を通過する第3の経糸(1S,2S,5S,6S)を有している。これにより、上面側緯糸(1’U,3’U,5’U,7’U)が不織布を搬送する表面側から突出しないこととなる。
【0112】
また、不織布用多層織物50は、完全組織における上面側経糸の数(6本)が下面側経糸の数(2本)よりも多い。これにより、不織布を搬送する側(表面側)の組織が密になり、繊維支持性、平滑性、ナックル交点支持性が高まるとともに、その反対側の裏面側が疎になり、通気性が高まる。
【0113】
また、実施例2に係る不織布用多層織物50においても、
図6に示す模式図と同様に、上面側緯糸(1'U,3'U,5'U,7'U)は、上面側経糸(1S,2S,5S,6S)との交差部が上面側経糸の上面から突出しないように織られている。
【0114】
不織布用多層織物50は、前述のように、対となる第1の接結糸3Fと第2の接結糸4Fとを備えている。第1の接結糸3Fは、2本以上の下面側緯糸8’L,2’Lの下側を通って第1の下面側交差部を形成し、第2の接結糸4Fは、2本以上の下面側緯糸(4L’,6’L)の下側を通って第2の下面側交差部を形成する。第1の下面側交差部および第2の下面側交差部は、不織布の搬送方向に対して交互に並ぶように形成されている。
【0115】
このように、不織布用多層織物50の下面側織物の裏面側においては、各接結糸が2本以上の下面側緯糸の下側を通って各下面側交差部を形成する。そのため、各接結糸は、下面側織物の裏面側において露出が多くなり、マシンやロールと擦れる(摩耗する)面積が大きくなる。その結果、耐摩耗性が大きくなり、多層織物をベルトとして使用する際の寿命を長くできる。
【0116】
なお、実施例2に係る不織布用多層織物50においては、上面側織物の上面側経糸密度が50~90[%]の範囲が好ましく、下面側織物の下面側経糸密度が10~40[%]の範囲が好ましい。
【0117】
(実施例3)
以下、実施例3に係る不織布用多層織物の構成について図面を参照して説明する。
図10は、実施例3に係る不織布用多層織物の完全組織を示す意匠図である。
図11は、
図10に示す意匠図における各経糸に沿った断面図である。
【0118】
実施例3に係る不織布用多層織物60は、多層織物であり、上面側緯糸と下面側緯糸は上下に重ならないように配置されている。意匠図での糸の重なりは意匠図左部の糸を示す数字によって表現されている。
【0119】
図10に示す実施例3に係る不織布用多層織物60は、接結糸Fと、上面側緯糸Uと、下面側緯糸Lによって構成された多層織物である。また、上面側緯糸は下面側緯糸よりも細い。
【0120】
図11に示すように、接結糸1Fは、下面側緯糸1’Lの上側を通った後、上面側緯糸2’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで下面側緯糸3’Lの上側を通って、下面側緯糸5’Lと下面側緯糸7’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成している。次いで上面側緯糸8’Uの下側を通っている。
【0121】
接結糸2Fは、下面側緯糸1’Lと下面側緯糸3’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸4’Uの下側を通って、上面側緯糸6’Uの上側を通って表面側ナックルを形成している。次いで下面側緯糸7’Lの上側を通り、上面側緯糸8’Uの下側を通っている。
【0122】
接結糸3Fは、下面側緯糸1’Lの上側を通った後、下面側緯糸3’Lと下面側緯糸5’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸6’Uの下側を通った後、下面側緯糸7’Lと上面側緯糸8’Uの上側を通って表面側ナックルを形成している。
【0123】
接結糸4Fは、下面側緯糸1’Lの下側を通った後、下面側緯糸3’Lと上面側緯糸4’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで下面側緯糸5’Lの上側と上面側緯糸6’Uの下側を通って、下面側緯糸7’Lの下側で裏面側ナックルを形成している。次いで上面側緯糸8’Uの下側を通っている。
【0124】
実施例3に係る不織布用多層織物60は、不織布が搬送される表面側に、織物を構成する糸の材質と異なる樹脂(例えば、JISK6397のMグループ(ポリメチレンタイプの飽和主鎖をもつゴム)に分類されるゴム製樹脂)が塗布されている。
【0125】
このように、不織布用多層織物60は、搬送する不織布と接触する側にある上面側織物に、静摩擦係数が高くなるような樹脂が塗布されているため、不織布を搬送する際の安定性(グリップ性)が向上する。
【0126】
(実施例4)
以下、実施例4に係る不織布用多層織物の構成について図面を参照して説明する。
図12は、実施例4に係る不織布用多層織物の完全組織を示す意匠図である。
図13は、
図12に示す意匠図における各経糸に沿った断面図である。
【0127】
実施例4に係る不織布用多層織物70は、多層織物であり、上面側緯糸と下面側緯糸は上下に重ならないように配置されている。意匠図での糸の重なりは意匠図左部の糸を示す数字によって表現されている。
【0128】
図12に示す実施例4に係る不織布用多層織物70は、接結糸Fと、上面側緯糸Uと、下面側緯糸Lによって構成された多層織物である。また、上面側緯糸は下面側緯糸よりも太い。
【0129】
図13に示すように、接結糸1Fは、上面側緯糸7’Uと上面側緯糸1’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで下面側緯糸2’Lの上側と上面側緯糸3’Uの下側を通った後、下面側緯糸4’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成している。次いで上面側緯糸5’Uの下側を通った後、下面側緯糸6’Lの上側を通っている。
【0130】
接結糸2Fは、上面側緯糸1’Uの下側を通った後、下面側緯糸2’Lの上側を通って、上面側緯糸3’Uと上面側緯糸5’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで下面側緯糸6’Lの上側を通った後、上面側緯糸7’Uの下側を通って、下面側緯糸8’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成している。
【0131】
接結糸3Fは、上面側緯糸1’Uと上面側緯糸3’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで下面側緯糸4’Lの上側を通った後、下面側緯糸6’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成している。次いで上面側緯糸7’Uの下側を通った後、下面側緯糸8’Lの上側を通っている。
【0132】
接結糸4Fは、上面側緯糸1’Uの下側通った後、下面側緯糸2’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸3’Uの下側および下面側緯糸4’Lの上側を通った後、上面側緯糸5’Uの上側と上面側緯糸7’Uの上側を通って表面側ナックルを形成している。次いで上面側緯糸8’Lの上側を通っている。
【0133】
実施例4に係る不織布用多層織物70は、不織布が搬送される表面側に、織物を構成する糸の材質と異なる樹脂(例えば、JISK6397のMグループ(ポリメチレンタイプの飽和主鎖をもつゴム)に分類されるゴム製樹脂)が塗布されている。
【0134】
このように、不織布用多層織物70は、搬送する不織布と接触する側にある上面側織物に、静摩擦係数が高くなるような樹脂が塗布されているため、不織布を搬送する際の安定性(グリップ性)が向上する。
【0135】
(実施例5)
以下、実施例5に係る不織布用多層織物の構成について図面を参照して説明する。
図14は、実施例5に係る不織布用多層織物の完全組織を示す意匠図である。
図15は、
図14に示す意匠図における各経糸に沿った断面図である。
【0136】
実施例5に係る不織布用多層織物80は、多層織物であり、上面側緯糸と下面側緯糸は上下に重なるように配置されている。意匠図での糸の重なりは意匠図左部の糸を示す数字によって表現されている。
【0137】
図14に示す実施例5に係る不織布用多層織物80は、接結糸Fと、上面側緯糸Uと、下面側緯糸Lによって構成された多層織物である。
【0138】
図15に示すように、接結糸1Fは、上面側緯糸1’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸2’Uと下面側緯糸2’Lとの間を通った後、下面側緯糸3’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成している。次いで上面側緯糸4’Uと下面側緯糸4’Lとの間を通っている。
【0139】
接結糸2Fは、上面側緯糸1’Uと下面側緯糸1’Lとの間を通った後、上面側緯糸2’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸3’Uと下面側緯糸3’Lとの間を通った後、下面側緯糸4’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成している。
【0140】
接結糸3Fは、上面側緯糸1’Uと下面側緯糸1’Lとの間を通った後、下面側緯糸2’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸3’Uと下面側緯糸3’Lとの間を通った後、上面側緯糸4’Uの上側を通って表面側ナックルを形成している。
【0141】
接結糸4Fは、下面側緯糸1’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸2’Uと下面側緯糸2’Lとの間を通った後、上面側緯糸3’Uの上側を通って表面側ナックルを形成している。次いで上面側緯糸4’Uと下面側緯糸4’Lとの間を通っている。
【0142】
実施例5に係る不織布用多層織物80は、不織布が搬送される表面側に、織物を構成する糸の材質と異なる樹脂(例えば、JISK6397のMグループ(ポリメチレンタイプの飽和主鎖をもつゴム)に分類されるゴム製樹脂)が塗布されている。
【0143】
このように、不織布用多層織物80は、搬送する不織布と接触する側にある上面側織物に、静摩擦係数が高くなるような樹脂が塗布されているため、不織布を搬送する際の安定性(グリップ性)が向上する。
【0144】
(実施例6)
以下、実施例6に係る不織布用多層織物の構成について図面を参照して説明する。
図16は、実施例6に係る不織布用多層織物の完全組織を示す意匠図である。
図17は、
図16に示す意匠図における各経糸に沿った断面図である。
【0145】
実施例6に係る不織布用多層織物90は、多層織物であり、上面側緯糸と下面側緯糸は上下に重なるように配置されている。意匠図での糸の重なりは意匠図左部の糸を示す数字によって表現されている。
【0146】
図16に示す実施例6に係る不織布用多層織物90は、接結糸Fと、上面側緯糸Uと、下面側緯糸Lによって構成された多層織物である。
【0147】
図17に示すように、接結糸1Fは、上面側緯糸1’Uと上面側緯糸2’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで下面側緯糸3’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成している。次いで上面側緯糸4’Uと下面側緯糸4’Lとの間を通っている。
【0148】
接結糸2Fは、上面側緯糸1’Uと下面側緯糸1’Lとの間を通過し、上面側緯糸2’Uと上面側緯糸3’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで下面側緯糸4’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成している。
【0149】
接結糸3Fは、上面側緯糸4’Uと上面側緯糸1’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで下面側緯糸2’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成している。次いで上面側緯糸3’Uと下面側緯糸3’Lとの間を通っている。
【0150】
接結糸4Fは、下面側緯糸1’Lの下側通って裏面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸2’Uと下面側緯糸2’Lとの間を通過し、上面側緯糸3’Uの上側と上面側緯糸4’Uの上側を通って表面側ナックルを形成している。
【0151】
実施例6に係る不織布用多層織物90は、不織布が搬送される表面側に、織物を構成する糸の材質と異なる樹脂(例えば、JISK6397のMグループ(ポリメチレンタイプの飽和主鎖をもつゴム)に分類されるゴム製樹脂)が塗布されている。
【0152】
このように、不織布用多層織物90は、搬送する不織布と接触する側にある上面側織物に、静摩擦係数が高くなるような樹脂が塗布されているため、不織布を搬送する際の安定性(グリップ性)が向上する。
【0153】
(実施例7)
以下、実施例7に係る不織布用多層織物の構成について図面を参照して説明する。
図18は、実施例7に係る不織布用多層織物の完全組織を示す意匠図である。
図19は、
図18に示す意匠図における各経糸に沿った断面図である。
【0154】
実施例7に係る不織布用多層織物92は、多層織物であり、上面側緯糸と下面側緯糸は上下に重なるように配置されている。意匠図での糸の重なりは意匠図左部の糸を示す数字によって表現されている。
【0155】
図18に示す実施例7に係る不織布用多層織物92は、接結糸Fと、上面側緯糸Uと、下面側緯糸Lによって構成された多層織物である。
【0156】
図19に示すように、接結糸1Fは、上面側緯糸1’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸2’Uと下面側緯糸2’Lとの間を通過し、下面側緯糸3’Lと下面側緯糸4’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成している。
【0157】
接結糸2Fは、下面側緯糸4’Lと下面側緯糸1’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸2’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸3’Uと下面側緯糸3’Lとの間を通っている。
【0158】
接結糸3Fは、上面側緯糸1’Uと下面側緯糸1’Lとの間を通過し、次いで下面側緯糸2’Lと下面側緯糸3’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸4’Uの上側を通って表面側ナックルを形成している。
【0159】
接結糸4Fは、下面側緯糸1’Lと下面側緯糸2’Lの下側を通って裏面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸3’Uの上側を通って表面側ナックルを形成し、次いで上面側緯糸4’Uと下面側緯糸4’Lとの間を通っている。
【0160】
実施例7に係る不織布用多層織物92は、不織布が搬送される表面側に、織物を構成する糸の材質と異なる樹脂(例えば、JISK6397のMグループ(ポリメチレンタイプの飽和主鎖をもつゴム)に分類されるゴム製樹脂)が塗布されている。
【0161】
このように、不織布用多層織物92は、搬送する不織布と接触する側にある上面側織物に、静摩擦係数が高くなるような樹脂が塗布されているため、不織布を搬送する際の安定性(グリップ性)が向上する。
【0162】
(実施例8)
図21は、実施例8に係る不織布用多層織物の完全組織を示す意匠図である。
図22は、
図21に示す意匠図における各経糸に沿った断面図である。
【0163】
図21に示す実施例8に係る不織布用多層織物94は、左側から経糸対A(1Ubと1Lb)、経糸対B(2Uと2L)、経糸対C(3Ubと3Lb)、経糸対D(4Uと4L)、及び上面側緯糸(1’U,2’U,3’U,4’U)と、下面側緯糸(1’L,2’L,3’L,4’L)によって構成された表面平織組織による多層織物である。
【0164】
図21、
図22に示す構成を有することによって、実施例8に係る不織布用多層織物94は、表面側の上面側織物および裏面側の下面側織物の織組織が共に平織組織である。表面に規則正しく平織組織が形成された不織布用多層織物94を利用した不織布用ベルトは、不織布ウェブを支持する織物の繊維支持点数が多いため、不織布ウェブサポート性を向上できる。また、平織の上面側織物は、交点支持力が高くなり、繊維の刺さり込みが抑制される。
【0165】
また、実施例8に係る不織布用多層織物94は、
図22に示すように、経糸接結糸(1Ub,1Lb,3Ub,3Lb)による第1のナックルの高さh1(基準位置Xからの高さ)と、上面側経糸(2U,4U)による第2のナックルの高さh2(基準位置Xからの高さ)との差が、80μm程度になるような条件で製織されている。つまり、第1のナックルと第2のナックルとの高さの差|h1-h2|が、従来の不織布用多層織物におけるナックルの高さの差|h1-h2|よりも大きいことで、不織布に対するグリップ性が向上する。なお、実施例8においては、第1のナックルの高さh1が、第2のナックルの高さh2よりも高くなっている。基準位置Xは、ナックル同士の高さの差を算出できるものであれば、どの位置であっても構わない。
【0166】
また、実施例8に係る不織布用多層織物94は、経糸のナックルに高低差をつけることができるため、低いナックルに塗布された樹脂は摩耗から保護される。その結果、樹脂によるグリップ性向上の効果を長続きさせることができる。
【0167】
(実施例9)
図23は、実施例9に係る不織布用多層織物の完全組織を示す意匠図である。
図24は、
図23に示す意匠図における各経糸に沿った断面図である。
【0168】
実施例9に係る不織布用多層織物96は、上面側経糸(1Ub,2U)と上面側緯糸(1’U,2’U,3’U,4’U)とから構成される上面側織物と、下面側経糸(1Lb,2L)と下面側緯糸(1’L,2’L,3’L,4’L)とから構成される下面側織物とが経糸接結糸(1Ub,1Lb)で接結されている。そして、実施例9に係る不織布用多層織物96は、実施例8に係る不織布用多層織物94における上面側経糸(3Ub,4U)と、下面側経糸(3Lb,4L)がないこと以外は、実施例8に係る不織布用多層織物94と織り方やナックルの大きさは同じである。そして、実施例9に係る不織布用多層織物においても、第1のナックルと第2のナックルとの高さの差|h1-h2|が、従来の不織布用多層織物におけるナックルの高さの差|h1-h2|よりも大きいことで、不織布に対するグリップ性が向上する。
【0169】
また、実施例9に係る不織布用多層織物96は、経糸のナックルに高低差をつけることができるため、低いナックルに塗布された樹脂は摩耗から保護される。その結果、樹脂によるグリップ性向上の効果を長続きさせることができる。
【0170】
(変形例)
一部の経糸は、完全組織に含まれる緯糸よりも更に外側の両端部でループを形成し、不織布が搬送される表面側に上面側織物が位置するように、各ループにピントル線を通すことで、各不織布用多層織物が無端状の不織布用ベルトとなる。
【0171】
各糸の直径は、例えば、0.10~1.20mmの範囲である。例えば、上面側経糸の直径が0.40mm、下面側経糸の直径が0.40mm、上面側緯糸0.50mm、下面側緯糸の直径が0.50mmであってもよい。
【0172】
なお、上述の実施の形態や各実施例に係る経糸や緯糸に用いられる糸は、用途や使われる場所によって適宜選択すればよい。例えば、糸の断面形状は円形に限らず、四角形状や星型等の糸や、楕円形状、中空、芯鞘構造等の糸が使用できる。また、糸の材質としても、目的の特性を満たす範囲で自由に選択でき、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、アラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、綿、ウール、金属、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性エラストマー等が使用できる。もちろん、共重合体やこれらの材質に目的に応じて様々な物質をブレンドしたり含有させた糸を使用したりしてもよい。一般的に不織布用織物を構成する糸には剛性があり、寸法安定性に優れるポリエステルモノフィラメントを用いるのが好ましい。また、導電性のカーボン糸が織り込まれていてもよい。
【0173】
樹脂は、コーターロール、スプレー、刷毛、浸漬によってベルトに塗布されてもよい。特にスプレーによる塗布では、樹脂の塗布斑が少なく、樹脂が網目を塞いでしまう可能性が低くなる。また、予め本実施の形態に係る樹脂をコーティングした表面が高摩擦な糸を織込むことでベルトのグリップ力を高めてもよい。本実施の形態に係る不織布用織物の用途としては、スパンボンド法、メルトブロー法、水流交絡、乾式法、エアーレイド法、カレンダー法、湿式法、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法における不織布の製造に好適である。
【0174】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0175】
10 不織布製造装置、 12 不織布用ベルト、 18 不織布、 40,50,60,70,80,90,92,108 不織布用多層織物、 132 綿。