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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069423
(43)【公開日】2022-05-11
(54)【発明の名称】米由来組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20220428BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20220428BHJP
【FI】
A23L7/10 Z
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021172747
(22)【出願日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2020178415
(32)【優先日】2020-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000151863
【氏名又は名称】東洋ライス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】雜賀 慶二
(72)【発明者】
【氏名】田宮 徹弥
(72)【発明者】
【氏名】加納 義博
【テーマコード(参考)】
4B018
4B023
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018MD07
4B018MD19
4B018MD23
4B018MD26
4B018MD28
4B018MD50
4B018ME02
4B018MF02
4B023LC09
4B023LE30
4B023LG03
4B023LP02
4B023LP14
(57)【要約】
【課題】玄米中に存在する未知の成分を含めた栄養成分を比較的高濃度で含み、なおかつ、嗜好性が良好な米由来組成物を提供する。
【解決手段】玄米由来の成分から構成される組成物であって、前記組成物の含水率が13重量%である乾燥重量において、(1)ビタミンE:100g当たり13mg以上、(2)ナイアシン:100g当たり35mg以上、及び(3)フィチン酸:100g当たり4000mg以上を含むことを特徴とする米由来組成物に係る。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
玄米由来の成分から構成される組成物であって、前記組成物の含水率が13重量%である乾燥重量において、下記成分:
(1)ビタミンE:100g当たり13mg以上、
(2)ナイアシン:100g当たり35mg以上及び
(3)フィチン酸:100g当たり4000mg以上
を含むことを特徴とする米由来組成物。
【請求項2】
リポポリサッカライド(LPS):100g当たり1200μg以上をさらに含む、請求項1に記載の米由来組成物。
【請求項3】
含水率13%の乾燥重量当たり下記成分:
(1)グルコース:100g当たり0.5g以上
(2)γ-アミノ酪酸(GABA):100g当たり45mg以上及び
(3)γ-オリザノール:100g当たり150mg以上
をさらに含む、請求項1又は2に記載の米由来組成物。
【請求項4】
米由来組成物を製造する方法であって、
(1)玄米を搗精するに際し、歩留率95~88%の範囲の全て又はその一部で発生した層構成成分を採取する工程、
(2)前記層構成成分100重量部と水30重量部以上とを含む混合物を調製する工程、
(3)前記混合物を一定時間熟成することにより熟成物を製造する工程、
を含むことを特徴とする米由来組成物の製造方法。
【請求項5】
さらに熟成物を乾燥する工程を含む、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
搗精するに際して、玄米の表面からムラ剥離することなく、均等に精白する工程を含む、請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれかに記載の米由来組成物を含む経口摂取用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米由来組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
玄米は、稲の種子である籾から籾殻が除去されたものであり、古くから食用、飼料用、醸造用等に使用されている。
【0003】
玄米の構造としては、図1の玄米10の点線部Aの拡大図である図2及び図3のように示される。図2では、上層が玄米表面部であり、下層(中心部)に向かって玄米深層部になっている。図2に示すとおり、玄米は、玄米表面部から順に表皮21,果皮22,種皮23,糊粉細胞層24、亜糊粉細胞層25を有し、中心部は胚乳(澱粉細胞層)26から構成されていることが知られている。表皮21から糊粉細胞層24までは糠層とも呼ばれている。また、表皮21は、容易に発芽しないようにロウ質の防水層からなるロウ層とも呼ばれるものである。ただし、文献によっては、糊粉細胞層24は胚乳に属し、糠層には入らないとの説もある。しかし、本発明者らは、糊粉細胞層24には澱粉が全く含有されていないことから、糊粉細胞層24は胚乳に属さないとの見解を持っている。
【0004】
また、図3には、玄米の胚芽領域における層構成を示す。玄米の頭部Hに存在する胚芽50は、その表面部から順に胚芽の表層部52、胚芽の主要部53、胚芽の胚盤54aを含む胚芽基底部54から構成されている。そして、胚乳26の破砕細胞群55には、胚盤54aが接着されている。
【0005】
玄米を精米することで白米を製造する際に副産物として産出されるのが米糠である。すなわち、米糠は、玄米10から精白した際に除去され表皮21に付着している塵埃(図示せず)、表皮21、果皮22、種皮23、糊粉細胞層24、亜糊粉層25、胚芽50、胚乳側の破砕細胞群55の胚盤54aとの接着部によって主として構成されている。
【0006】
米糠には、多種の栄養成分が豊富に含まれていることが知られている。例えばビタミン類のほか、γ-オリザノール、γ-アミノ酪(GABA)、フェルラ酸、フィチン酸、イノシトール、アントシアニン、ポリフェノール類、ミネラル、タンパク、食物繊維等のように、生体にとって有用な成分が含まれている。このため、米糠は、従来より漬物(糠床)、肥料、飼料等に利用されているが、とりわけ近年では、米糠に含有されている成分を利用した食品、サプリメント、医薬品、化粧品等の開発が盛んに進められている。
【0007】
例えば、米糠を8~10時間水に浸漬・膨潤する一次工程と90~100℃で40~50分間加熱・攪拌する二次工程とミキサーで3~4分間微粒子化して濾過する三次工程からなることを特徴とするLPS(リポポリサッカライド)含有米糠エキスの製造方法が知られている(特許文献1)。
【0008】
例えば、米糠に日本酒、酒粕、酒麹等を発酵触媒体として、3~20%投入し日本酒、酒粕、酒麹等の発酵菌により発酵されたことを特徴とする米糠発酵飲料の製造方法が知られている(特許文献2)。
【0009】
例えば、米糠の乳化液を、乳酸菌と酵母、又はプロピオン酸生産菌、又は乳酸菌と酵母とプロピオン酸生産菌で発酵させた米糠発酵組成物がある(特許文献3)。
【0010】
例えば、米糠の発酵物を極性溶媒で抽出してなる生理活性組成物が提案されている(特許文献4)。
【0011】
例えば、肌糠100重量部に対し水50~300重量部、酵素0.3~5重量部を配合し、得られた配合液に含まれる酵素を反応させて肌糠成分を分解し、調味液を得ることを特徴とする調味液の製造方法が知られている(特許文献5)。
【0012】
また、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用を有する有色素米もしくはその糠の抽出物を有効成分として含有することを特徴とするサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤が知られている(特許文献6)。
【0013】
その他にも、米の胚乳外縁部のデンプン分解酵素の還元糖生成に与える影響(非特許文献1)、米糠に含有されるフェルラ酸等の機能性(非特許文献2)等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2018-174905
【特許文献2】特開2005-261407
【特許文献3】特開2010-124739
【特許文献4】特開2002-265377
【特許文献5】特開2016-135118
【特許文献6】特開2001-163796
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】「米の浸漬におけるデンプン分解酵素の活性と品種および産地間での差異」日本食品科学工学会誌 第61巻第6号(2014年6月)
【非特許文献2】「米糠含有成分の機能性とその向上」日本食品科学工学会誌 第59巻第7号(2012年7月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、これらの米糠に関する従来技術は、基本的には胚乳以外の全ての米糠を用いることを前提とするため、これを食しようとする場合は米糠特有のエグ味、苦み等により嗜好性が著しく低下してしまう。米糠由来の健康食品も販売されているものの、いずれの製品も広く普及していない。その理由は、さほどの健康効果も生じないうえ、独特のエグ味、苦み、糠臭さ等により美味しさ(嗜好性)という点で問題があるからである。例えば、糠漬け、油脂のみ搾ったこめ油等も市販されているものの、上記と同様の理由から消費者に敬遠される傾向にある。
【0017】
しかも、米糠を全て利用する場合には、塵埃の混入だけでなく、残留農薬の問題も少なからず存在する。近年の国産玄米には、ほとんど農薬が残留しているものはないが、稀には僅かながら残留農薬のある玄米もあり、それらを個々に調べて不使用にすることは現実的でない。塵埃又は農薬が残留しているとしても、いずれも玄米の表面に残留していて、それ以外の箇所にはなく、白米はもちろんのこと、表皮を剥離した玄米でも、農薬を摂取することはないが、米糠を直接又はそれを原料としたものでは、残留農薬を摂取するリスクが皆無とは言い切れない。
【0018】
一方、米糠の特定成分だけを取り出すべく、溶媒による抽出工程、分離工程等を実施する方法があるが、使用する溶媒による毒性のリスクのほか、抽出により既知又は未知の有用成分が除去されてしまうおそれがある。しかも、上記のように、たとえ抽出等を行っても、米糠特有のエグ味、苦み、糠臭さ等の問題は完全に払拭できない。
【0019】
以上のような観点から、米糠の有用成分をとりこぼすことなく高濃度で取り出しつつも、米糠特有のエグ味、苦み、糠臭さ等の問題を解消して良好な嗜好性を実現するということは、二律背反的なことであり、それらを両立させることは困難とされている。
【0020】
従って、本発明の主な目的は、玄米中に存在する未知の成分を含めた栄養成分を比較的高濃度で含み、なおかつ、嗜好性が良好な米由来組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、米糠全てを用いるのではなく、玄米の特定部分、すなわちa)玄米において糠層と胚乳の境界部分である、胚乳の上方(表面側)の特定の層を構成する物質群と、b)胚芽と胚乳の境界部に存在する物質群とを選択的に取り出し、これを熟成させることによって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0022】
すなわち、本発明は、下記の米由来組成物及びその製造方法に関する。
1. 玄米由来の成分から構成される組成物であって、前記組成物の含水率が13重量%である乾燥重量において、下記成分:
(1)ビタミンE:100g当たり13mg以上、
(2)ナイアシン:100g当たり35mg以上、及び
(3)フィチン酸:100g当たり4000mg以上
を含むことを特徴とする米由来組成物。
2. リポポリサッカライド(LPS):100g当たり1200μg以上をさらに含む、前記項1に記載の米由来組成物。
3. 含水率13%の乾燥重量当たり下記成分:
(1)グルコース:100g当たり0.5g以上、
(2)γ-アミノ酪酸(GABA):100g当たり45mg以上、及び
(3)γ-オリザノール:100g当たり150mg以上
をさらに含む、前記項1又は2に記載の米由来組成物。
4. 米由来組成物を製造する方法であって、
(1)玄米を搗精するに際し、歩留率95~88%の範囲の全て又はその一部で発生した層構成成分を採取する工程、
(2)前記成分100重量部と水30重量部以上とを含む混合物を調製する工程、
(3)前記混合物を一定時間熟成することにより熟成物を製造する工程、
を含むことを特徴とする米由来組成物の製造方法。
5. さらに熟成物を乾燥する工程を含む、前記4に記載の製造方法。
6. 搗精するに際して、玄米の表面からムラ剥離することなく、均等に精白する工程を含む、前記項4又は5に記載の製造方法。
7. 前記項1~3のいずれかに記載の米由来組成物を含む経口摂取用組成物。
【発明の効果】
【0023】
本発明による究極的な効果は、かねてからの我が国の「国難」ともされている医療費の膨張によって国の財政が危険にさらされているところ、その原因となっている国民の大半が重大な疾病又はそれに至らない体調不良の原因の少なくとも一部が「玄米にしか含有しない未知の栄養素の欠乏症」によるものであるという知見と、それに基づき開発された本件発明によって、上記のような国難を解消することを期待することができることである。すなわち、本発明は、医療費の低減と病魔で苦しむ国民の健康増進を図ることを究極的な目的とするものである。
【0024】
まず、上記の発明の経緯について以下に説明する。まず、図7に示す厚労省が公表している日本の医療費を見ると、昨今では約50兆円にも達している医療費も、過去に遡るほど少なくなっており、昭和30年頃まで遡及するとほぼゼロである。このことは、昭和30年頃に全国民の生活を大きく変える何かがあって、それが原因で国民を不健康にし、その結果として医療費の膨張という現象に至ったと推察される。
【0025】
そこで、昭和30年頃より我が国で、国民の生活に大きな変化を与えたものとして考えてみると、その頃より自動車の普及が始まり、それによる国民の運動不足が増えたことが原因とも考えられるが、それ以上に変化を与えたものして、本発明者が重視しているのは、日本人の主食のコメが、昭和30年頃に出現した新型の『噴風式』によつて、旧型の精米機では、できなかった精白度を想いのままに高めることが可能になり、消費者のニーズに合わせ、それまでの糠層が僅かに残った『不完全精白米』から徐々に精白度が高まり、やがて今日のように真っ白な『過精白米』が市場に出回ることになり、それによって糠に含まれている総ての栄養素を摂取できなくなり、国民の健康度が低下し、病人又はいわゆる半病人が蔓延する結果になっていったと考えたのである。しかし、歴史を紐解くと、この様な『白米病』は今回が初めてではなく、過去にも前例がある。すなわち、幕末から明治時代にかけて首都圏において、突如として発生した『江戸患い』である。当時は地方の元気な人がお江戸に転居すると発病し、地方に戻ると治ることから、江戸の風土病とされ、『江戸患い』と呼称されていて、日露戦争での陸軍の戦病死者の大半が『江戸患い』が占めるようになり、当時の政府も重大視する社会問題となった。そして、鈴木梅太郎農学博士らによって、『江戸患い』の原因は『脚気』と言う病であり、それは白米食によるビタミンB1の欠乏症であることを解明したことから、政府は胚芽米を奨励したのである。
【0026】
これに対し、海軍の軍医は、それよりはるか以前から、兵士に白米食と他の食事をさせてみて、『江戸患い』の原因は白米食によるものであることを実証し、兵士に白米食を禁じていて、ロシアのバルチック艦隊との日本海海戦において完勝できた背景には、海軍兵士は誰も『江戸患い』に罹患せず、元気溌剌だったことが理由として考えられる。
【0027】
このように、白米病は、当時は凄い大事件だったのに、『江戸患い』も自然に終息したことからか、当時の政府は、それまで『江戸患い』が無かったのに、突如として『江戸患い』が発生するに至った原因を究明していないことであり、惜しむらくは、その時に、新しい精米法の「混砂精米法」による過精白米によって、重要な栄養素が欠落したのが原因であることまで追求していれば、今日のような国難を招くことはなかったと考えられる。
【0028】
しかし、『江戸患い』は自然に終息したために、後世の人は『江戸患い』が終息した原因は、胚芽米の普及によるものだろうとのことになっているが、それは事実に反する。なぜならば、本発明者の1人が幼少期の昭和10年代には、本発明者が知る限りでは、人々は胚芽米ではなく、白米を食していたのだから、当然に白米病の罹患者があるべきところ、誰も脚気にはならなかったからである。それは、その頃の白米は混砂精米法が禁じられて以後の「糠層が僅かに残った不完全精白米」になっていたから、昨今のような真っ白な過精白米ではなかったからである。
【0029】
そうなると、『江戸患い』がどうして終息したのか、そこには全く別の理由がある。それは突如として『江戸患い』が発生したことと関係があるが、その原因は、幕末の江戸の精米業者らに、玄米を精米する際、磨き砂を加えると簡単に精白され、しかも真っ白で美味な白米に仕上がる、いわゆる『混砂精米法』が考案され、それが一挙に広まり、完全精白米どころか、玄米の栄養素を含有する箇所を完全に取り切った『過精白米』を人々が食することになったことが『江戸患い』の根本的な要因であると本発明者は確信している。しかし、当時は人々の間から、『砂を加えてコメを精米するなんて不潔だから止めろ』との声が上がり、条例によって前記混砂式が禁じられ、その結果人々は止むなく元の『不完全精白米』に戻らざるを得ず、それによって『江戸患い』が終息したのであり、これが『江戸患い』の原因が新しい精米法の『混砂精米法』であることが解明され、それによって禁じられたのであれば、今日の国難は起きていなかったし、『江戸患い』の教訓を生かせたであろうことを思うと、実に残念なことといえる。
【0030】
そして、前記混砂式が禁じられて以後は、以前と同じ旧式の精米法に戻ったままであったが、昭和30年頃より、再び任意に精白度が高められる『混砂精米法』とは異なる『噴風式』の精米機が登場したことから、美味で真っ白な『過精白米』が普及しだしたのであり、それが今日のように第二の白米病が蔓延する結果になったのである。しかし、明治時代とは異なり、昭和30年頃からは副食が豊かになったこともあり、『江戸患い』のようなビタミンB1の欠乏による脚気にはならなかったが、今日のような多種多様の生活習慣病と言う形態になっているのであろうと本発明者が仮説を立てたのである。その仮説の当否を確かめるために、もともと病弱で病気のデパートと揶揄されていた本発明者が実験台となって、独自に開発した深層糠層の「亜糊粉層」を残し、且つ美味で環境にも良いコメ(以下『亜糊粉層残存米』と言う)の常食を始めたところ、それ以外に何も変えたことをしていないのに、実験していることを忘れた頃に、糖尿病、慢性副鼻腔炎等の諸々の病の改善及び治癒していることによって仮説から確信に変わったのである。その事実を知った本願出願人の職員らも社員食堂及び各家庭において、それまでの過精白米から『亜糊粉層残存米』の常食に切り替えた者が多くなり、数年後に図8に示すように、全国の企業の医療費を把握している公的機関作成の「事業所カルテ」によって本願出願人の職員とその家族の医療費が全国平均、和歌山県平均、同業者平均の医療費よりも約半額になるほど低額になっていることが明らかになっている。それに加え、後年において、経済産業省の事業の一環として行われた「わかやまヘルスケアプラットホーム」の公開検証において、和歌山県内の本願出願人以外に2企業も含めて実際にその『亜糊粉層残存米』を各企業の職員及びそれらの家族の数百人が常食をした結果においても同様のことが確認できている。しかも、その2企業の場合は、『亜糊粉層残存米』を食べ始める前の年度に比べ、格段に医療費が低減していることが、前記公的機関作成による各「貴事業所の健康基本情報」のまとめ(図9)によって示されている。従って、「過精白米」を常食している世の人々が『亜糊粉層残存米』を常食又は準常食に切り替えれば、医療費が低減することが明らかになったのである。ところが、それによってさらに重大なことが発見できた。すなわち、本発明者は、昔から病弱の身をなんとか健康体になるようにとバランスのとれた副食と総合栄養剤を服用し、栄養的な不足がないように努めていたにもかかわらず、前記のような疾病が全く改善されなかったところ、糠層が僅かに残った『亜糊粉層残存米』を常食することによって、かくも健康効果があると言う結果によって、そこで始めて「糠」には、多様多種の副食及び総合栄養剤にはない『米糠にのみ含有する未知の成分』が存在することと、それが欠乏したことによる世の人々の『米糠にのみ存在する成分』の欠乏症によって多くの人々が病んでいたことが判明したことである。
【0031】
ここであらためて『未知の成分』について述べるが、我が国では昭和25年より、『日本食品標準成分表』として食品の成分が公表されていて、今日まで新しい成分が発見される都度それを加えて改定され、その都度改訂版として、いわゆる『五訂』とか『七訂』になって改正されているが、前回の『五訂』の成分項目数は36項目だったものがその後に公表された『七訂』の成分項目数はビオチン等を含む51項目に増え、新しい成分が発見される都度、更新されているように、人類は食品の含有成分について、まだまだ全てを把握しているわけではなく、前記の通り『米糠にのみ含有する未知の成分』が存在することが判明したことは決して不思議ではないのである。昔は、玄米は『コウベイ』との名称で、効能が『滋養強壮』との医食同源の漢方薬であったのに、人間の浅知恵から、肝心の栄養素を取り去った過精白米にして食していたことが全ての根源だったのである。従って、今後国民が、過精白米の摂取を止め、加工コストが過精白米よりも低く、しかも美味で環境にも良い『亜糊粉層残存米』を常食すれば、病魔から解放され、国にとっても医療費が急減するはずである。
【0032】
ところが、なお重大な未解決の問題がある。それは、現在人は運動量が減ったことにより、昔人ほどの米を食べることは非現実的でとなっている点である。昔人は、例えば宮沢賢治のように1日に4合(およそ茶碗13杯)の玄米を食していたようだが、それに基づいて計算すると、玄米と過精白米の割合は100対88であるから、昔人は、およそ茶碗13杯の過精白米と同時に茶碗1杯半の米糠をともに摂取し、それによって人体の健康を維持するために消費する諸栄養素を補っていたことになる。従って、それに倣えば元気溌剌になれるはずであるが、昔人とは異なり運動量が激減した現在人は、到底食べられる量でないし、何よりも臭くてエグ味のある米糠を、しかも茶碗1杯半も食べることができるわけがない。ちなみに、過精白米ではなく、『亜糊粉層残存米』を常食していればある程度は健康に必要な栄養素を摂取できるものの、それとても食べ過ぎれば炭水化物の摂取過剰となるから、どうしても小食となり、その結果『米糠にのみ存在する成分』が不足することは免れないし、だからと云って臭くてエグ味のある米糠はやはり食することもできない。
【0033】
そこで、本発明者がさらに鋭意研究を続けた結果、玄米の構造(層構成)自体に着目し、各層の物質を検討しつつ、特定の範囲の層を選択的に採取し、これに一定の処理を施したところ、予想外にもほとんどの栄養成分が米糠よりも高濃度となるだけでなく、ほのかな甘みと香ばしさをもつ米由来組成物が得られることを見出し、ついに本発明を完成するに至った。
【0034】
すなわち、本発明によれば、玄米中に存在する未知の成分を含めた栄養成分を比較的高濃度で含み、なおかつ、嗜好性が良好な米由来組成物を提供することができる。
【0035】
本発明の米由来組成物は、a)玄米の糠層と胚乳の境界部の胚乳外縁層と、b)胚盤と胚乳の境界部という特定層a)及びb)を出発材料としているが、この出発材料には玄米の胚を発芽させる時の様々な栄養素が密集する箇所で構成されており、玄米の全ての栄養素が集中して含まれ、しかも個々の栄養素が玄米に含まれている自然な割合で含有されている。そして、これを本格的に熟成することによって、それらの栄養素は高い倍率にて増産されるので、当該特定層a)及びb)の熟成物は玄米に対する割合が極めて少量であるにもかかわらず、昔人の食事のように「米糠にのみ含有される未知の栄養素」を含む大量の玄米の栄養素に相当する栄養素を摂取することができることに加え、そこに未知の成分が含まれていればそれも摂取することができる。従って、『亜糊粉層残存米』を常食していればなおさらのこと、本発明組成物を、例えば成人1日当たり約10g以下(好ましくは3~6g程度)という比較的少量の摂取であっても健康増進への寄与が期待できる。
【0036】
しかも、本発明の米由来組成物は、そのままの状態(調理等をしなくても)でも、米糠の独特のエグ味、苦み、糠臭さ等がないだけでなく、ほのかな甘みがあるので食しやすいものとなっている。すなわち、これまでの米糠から予想できないレベルの良好な嗜好性を発揮することができる。このため、加工・調理を施すことなく、そのままの形態で食することができるほか、例えばパン、麺類等の既製の食品に添加する添加剤として利用すれば当該食品の本来の食味を低下させることなく栄養を補強することができる。
【0037】
また、本発明の米由来組成物の製造方法では、玄米中に含まれる酵素を利用して熟成することを特徴としているため、余計な微生物等を必要とせず、また抽出等の工程も実施しないことから、比較的簡便な方法であるにもかかわらず、最大限の栄養成分が維持された組成物を製造することができる。
【0038】
このような特徴を有する本発明の米由来組成物により、自然な形での『米糠にのみ含有する未知の成分』を含む米糠の栄養素の摂取が可能となり、生体における組織細胞の環境の向上による新陳代謝の活性化、さらには免疫機能の活性化に繋がり、ひいては健康維持・増進、疾病予防、老化防止等に貢献できることが期待される。その結果、国難となっている我が国の医療費の削減にも大きく寄与することができる。さらには、本発明の米由来組成物には病から身を護る自然免疫力の健全な働きを保持する成分も含有されることから、毎年流行するインフルエンザウィルス又は2020年から大流行した新型コロナウィルス感染症(COVID-19)等の予防効果も期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】玄米の外観を示す模式図である。
図2図1のA部分において、玄米の表面から深層部までの層構成を示す略断面図である。
図3図1のB部分(胚芽領域)において、胚芽の各部と玄米の表面から深層部までの層構成を示す略断面図である。
図4】本発明の米由来組成物の製造に使用できる精米装置の一例の概略図である。
図5】1台による1回通過式精米機に用いられる均圧型精白ロールを示す概略図である。
図6】実施例3における組成分析の結果を示すグラフである。
図7】下記のデータ1)~3)に基づいて本願出願人が作成したグラフである。1)厚生労働省が公表している国民の医療費URL, https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/17/index.html2)農林水産省が公表しているコメの消費量URL, https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/index.htmlhttps://www.e-stat.go.jp/stat-earch/files?page=1&layout=datalist&toukei=00500300&tstat=000001017950&cycle=8&year=20181&month=0&tclass1=000001032890&tclass2=0000011385033)国土交通省が公表している自動車保有台数及び生産台数の推移URL,https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=dataset&toukei=00600330&stat_infid=000031974570
図8】本願出願人において『深層糠層残存米』を準常食している職員及びその家族の平均医療費と、和歌山県平均及び同業者平均の医療費を示す図である。
図9】経済産業省の事業の一環として行われた「わかやまヘルスケアプラットホーム」の公開検証において各「貴事業所の健康基本情報」を基に作成した医療費の比較結果を示すグラフである。
図10】試験例2において、試料A~Dの食パンの外観観察の結果を示す
【発明を実施するための形態】
【0040】
1.米由来組成物
本発明の米由来組成物(本発明組成物)は、玄米由来の成分から構成される組成物であって、前記組成物の含水率が13重量%である乾燥重量において、下記成分:
(1)ビタミンE:100g当たり13mg以上、
(2)ナイアシン:100g当たり35mg以上、及び
(3)フィチン酸:100g当たり4000mg以上
を含むことを特徴とする。
【0041】
本発明組成物は、総て玄米由来の成分から構成されることが特徴の一つである。より具体的には、玄米に含まれる特定層からなる成分全てを原料とし、それに実質的に水だけで他に何も加えることなく熟成して生成する物質から本発明組成物が構成される。従って、本発明において、「玄米由来の成分」とは、玄米の上記特定層に本来的に含まれる物質のほか、前記熟成により生成又は増加した物質の双方を含む。従って、水及び玄米由来の成分以外の成分は、本発明組成物には実質的に含まれない。水及び玄米由来の成分以外の成分も含む組成物は、後記に示す経口摂取用組成物に該当することとなる。
【0042】
なお、上記の玄米に含まれる「特定層」については、後記「2.米由来組成物の製造方法」において詳述する。
【0043】
本発明組成物においては、上記のように、未知の成分以外は少なくともビタミンE、ナイアシン及びフィチン酸が特別に多いのが特長である。なお、本発明組成物の各成分の含有量は、特にことわりがない限り、本発明組成物の含水率が13%である時の含有量を示す。
【0044】
ビタミンEは、本発明組成物100g当たり13mg以上含有される。特に、13~40mg/100gであることが好ましい。ビタミンEは、過酸化脂質の生成を抑制し、血管を健康に保つ機能を有することのほか、血中のLDLコレステロールの酸化を抑制する機能等を有するものである。なお、本発明において、単位「mg/100g」、「mg/100g」、「μg/100g」は、いずれも本発明組成物100g当たりの含有量を示す(以下においても同じ。)。
【0045】
ナイアシンは、本発明組成物100g当たり35mg以上含有される。特に、42~55mg/100gであることが好ましい。ナイアシンは、エネルギー代謝中の酸化還元酵素の補酵素として機能するものであり、循環系、消化系、神経系等の働きを促進する効果がある。
【0046】
フィチン酸は、本発明組成物100g当たり4000mg以上含有される。特に、4200~11000mg/100gであることが好ましい。フィチン酸は、生体に有用なビタミン、ミネラル等の吸収を促進する機能があるほか、有害物質を排出しやすくしたりする働きをもつ。
【0047】
さらに、本発明組成物は、リポポリサッカライド(LPS)は、本発明組成物100g当たり1200μg以上含有されることが望ましく、特に1500~2500μg/100gであることがより望ましい。LPSは、例えば人体のマクロファージを活性化し、感染防御、創傷治癒、代謝調節の機能あるいは免疫機能を高める成分として、近年世の注目を集めているものである。
【0048】
またさらに、本発明組成物は、以下のように、グルコース、γ-アミノ酪酸(GABA)及びγ-オリザノールの特定量が含まれることが望ましい。
【0049】
グルコースは、本発明組成物100g当たり0.5g以上含有されることが好ましく、特に1~3g/100gであることがより好ましい。
【0050】
γ-アミノ酪酸(GABA)は、本発明組成物100g当たり45mg以上含有されることが好ましく、特に50~250mg/100gであることがより好ましい。
【0051】
γ-オリザノールは、本発明組成物100g当たり150mg以上含有されることが好ましく、特に160~30mg/100gであることがより好ましい。
【0052】
これらの成分のほか、本発明組成物には、玄米、米糠等に含まれる成分も含まれる。ここで、本発明組成物の優位性を示すため、本発明組成物の含有成分(本発明組成物100g当たりに含まれる重量を示す。かっこ内は好ましい範囲を示す。)を日本食品標準成分表2015年版(七訂)において列挙されている玄米、白米、米糠の含有成分とともに表1に示す。
【0053】




【表1】
(注1) 一般財団法人日本食品分析センターでの分析値
(注2) 公益財団法人日本食品油脂検査協会での分析値
(注3)「コメにおける4-アミノ酪酸(GABA)増量法の 開発ならびにその利用」筑波大学 三枝 貴代 2016年
(注4)「小麦ふすまにはオリザノール様成分が米ぬかに匹敵する高い濃度で含まれる」国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(注5) 「コメ(Oryza sativa)新品種の成分検討に関する合意文書: 食品 飼料の主要な栄養成分 抗栄養成分」平成17年2月 社団法人 農林水産先端技術産業振興センター
(注6) 本願出願人において、ライセート試薬を用いたエンドトキシン試験法(比濁法)により測定した分析値
(注7) 本願出願人において、Megazyme社製グルコース測定キットを用いてGOPOD法により測定した分析値
【0054】
本発明組成物の形態は、限定的ではないが、通常は粉末状の形態をとることができる。その外観は、一般に、乾いた糠状である。また、本発明組成物の粒度は、一般的な米糠と同程度であり、通常は80~150μm程度の範囲内にあるが、これに限定されない。
【0055】
本発明組成物の含水率は、通常は5~14重量%の範囲内で適宜調節することができるが、この範囲に限定されない。例えば、水又はその他の液体に本発明組成物を分散させてなる液状物の形態であっても良い。
【0056】
2.米由来組成物の製造方法
本発明の米由来組成物は、例えば下記の方法によって好適に製造することができる。すなわち、米由来組成物を製造する方法であって、
(1)玄米を搗精するに際し、歩留率95~88%の範囲の全て又はその一部で発生した層構成成分を採取する工程(採取工程)、
(2)前記層構成成分100重量部と水30重量部以上とを含む混合物を調製する工程(混合物調製工程)、
(3)前記混合物を一定時間熟成することにより熟成物を製造する工程(熟成工程)、
を含むことを特徴とする米由来組成物の製造方法を好適に採用することができる。
【0057】
採取工程
採取工程では、玄米を搗精するに際し、歩留率95~88%の範囲の全て又はその一部で発生した層構成成分(玄米の表層部を構成する成分)を採取する。
【0058】
なお、本発明において、歩留率とは、玄米の重量に対して、玄米の表層部を削り取った後の重量の割合をいい、精米歩合ともいう。ちなみに、一般に市販されている白米の歩留率は約90%である。
【0059】
出発材料となる玄米の組織について説明する。図1には玄米粒10の外観を示すが、図1のA部分の層構成を図2に示し、図1のB部分(胚芽領域)の層構成を図3に示す。
【0060】
玄米粒10は、その表面(外側)から順に、表皮(ロウ層)21、果皮22、種皮23、糊粉層24、亜糊粉層25の各層と、それらによって包まれた胚乳26(貯蔵デンプン細胞群)とから成り立っている。特に、本発明では、玄米の1)ロウ層による表皮21からタンパク質、油脂、タンパク質分解酵素であるプロテアーゼ等に富む糊粉層24の下層部24aを除き、それにより上層の「糠層外層部27」と、2)糊粉層24の特徴ももつが、デンプンも含有されオリゴ糖類、グルコースを生成する糖化酵素であるα-アミラーゼ等にも富む亜糊粉層25だけではなく、糊粉層24の下層部24aから胚乳26の表層部26aに至る「胚乳外縁部28」と、さらには3)主にデンプンで構成される「胚乳26」に分類する。
【0061】
また、図3には胚芽領域における層構成を示す。玄米の頭部Hに存在する胚芽50は、その表面から胚芽の表層部52、胚芽の主要部53、胚芽の胚盤54aを含む胚芽基底部54から構成されている。そして、胚乳26の破砕細胞群55には、胚盤54aが接着されている。
【0062】
採取工程では、それらの構成の中で、(1)亜糊粉層25の表裏に隣接する糊粉層24の下層部24a及びその胚乳側に隣接する胚乳表層部26aから構成される「胚乳外縁部28」、ならびに(2)農薬付着のおそれがある胚芽の表層部52を除いた胚芽の主要部53、胚盤54a及び破砕細胞層55の一部又は全部(好ましくは全部)を「主要部」とし、これを層構成成分として採取することができる(以下、このような主要部を構成する層(特定の表層部)を「特定層」ともいう。)。すなわち、本発明の採取工程では、特定層を構成する成分(特に、特定層を構成する成分全て)を糠粉として効率的に採取することができる。
【0063】
一般に、米糠は、玄米を精白するときに除去されるすべての部分をまとめて「米糠」と総称されており、玄米の表面から構成される糠層の特徴をあまり考慮されていなかったが、本発明者の研究によれば、食味が良くない主な理由は、単に米糠だからというのではなく、エグ味又は苦みと、さらには糠臭さの原因となる成分は、糊粉層24の下層部24aを除いた糊粉層24より表皮21に及ぶ「糠層外層部27」が米糠中に含まれるためである。
【0064】
すなわち、本発明では、玄米において糠層と胚乳の境界部分である、胚乳外縁部28を構成する物質群及び胚盤と胚乳の境界部が、栄養成分に富んでいるだけでなく酵素が比較的高濃度で含有されていること、さらには米糠の食味が良くない主な理由は、単に米糠だからというのではなく、エグ味又は苦みの原因となる糠層の「糠層外層部27」が米糠中に混ざっているためであることを見出し、玄米の特定の部分だけを選択的に原料として利用するものである。より具体的には、塵埃の混入及び残留農薬のリスクがあり、かつ、米糠のエグ味又は苦みの原因となる「糠層外層部27」を除き、玄米の糠層と胚乳の境界部である「胚乳外縁部28」と、胚芽の主要部53と胚乳26との巾広い境界部とを主材として、玄米の栄養素をそのまま含み、かつ、失活していない酵素を含む物質群を採取し、その熟成物がグルコース、オリゴ糖類、アミノ酸、LPS、GABA等に富み、米糠の独特のエグ味、苦み又は糠臭さが効果的に低減され、米糠そのものよりも甘みが増して摂取しやすいことを見出したものである。
【0065】
このように、本発明では、糠層とは異なり、それらの糠層より下層にある特定層(とりわけ、栄養素も豊富でタンパク質、デンプン、それらの分解酵素であるプロテアーゼ、α-アミラーゼに富む亜糊粉層だけでなく、その近傍も含めた層)を構成する成分全てに加え、もう一つの特定層である胚盤54a及び破砕細胞層55等の胚芽の主要部53と胚乳26の境界部を採取することにより、玄米の栄養素を高濃度で取り出し、しかも得られた全成分の熟成物は美味な食品として提供することができる。
【0066】
本発明では、以上のように、玄米表層から「糠層外層部27」及び胚芽の表層部51を剥離し、その上で胚乳に残された亜糊粉層及びその近傍層の部分(酵素含有米由来組成物)と胚芽とからなる特定層を採取し、さらにはこれらを熟成することによって、米糠の独特のエグ味、苦み又は糠臭さがなく、甘みがあり摂取しやすい経口摂取用組成物等を提供することができる。
【0067】
出発材料として用いる玄米は、特に限定されず、いずれの品種、産地等のものも使用することができる。その中でも、α-アミラーゼ酵素の活性度が高く、かつ、LPS含有量も高い玄米を好適に用いることが望ましい。従って、例えば土壌菌が豊富な田地で栽培され、かつ、古米化していない新鮮な玄米が好ましい。なお、LPSには、免疫活性効果が有効なものと無効なものがあることをLPSの研究歴14年の本発明者らは発見しており、そのためには本発明の実施品についてはマウスを用いた免疫力試験にて有効なLPSであったか否かを確かめることが好ましい。
【0068】
上記のように、採取工程においては、玄米を搗精するに際し、玄米の糠層を均等に剥離しつつ、最終的に歩留率95~88%の範囲の全て又はその一部で発生した成分(糠粉)を採取する。これにより、本発明の特定層構成成分を効率的に採取することができる。
【0069】
前記「全て」とは、歩留率95%から歩留率88%までの全範囲で採取(副生)された層構成成分を意味する。また、前記「その一部」とは、歩留率95%から歩留率88%までの範囲の一部の層構成成分を意味する。一部を採取する場合としては、例えば上記歩留率95%~88%の内の93%から90.5%までの範囲の成分を採取する場合が挙げられる。
【0070】
玄米を搗精する方法としては、上記の歩留率の範囲内のものをより確実に収集するという見地より、第1段階と第2段階に分けられ、先ず第1段階として、ムラ剥離しない条件下で玄米の糠層を表面から少しずつ薄く均等に剥離することが好ましい。すなわち、本発明において、糠層の不味な構成成分と分け、できるだけ混入を避け、特定層構成成分を選択的に収集するためには、米粒の表面を全面にわたって極めて薄く削り取りつつ、ムラ剥離をせず、搗精することが重要である。これは、玄米粒の表面から全面にわたって少しずつ極めて薄く、均等に削り取り、ムラ剥離をしないことを達成できる精米装置である限り、いずれも使用することができる。例えば、特許第4708059号に記載されている精米方法又はそれを実行できる精米装置を好適に用いることができる。
【0071】
かかる精米装置の一例を図4に示す。この精米装置40の内の、玄米張込口11より第1昇降機12を経て、供給された玄米を貯蔵する玄米タンク13からの玄米供給を受ける第1精米機14、及び第2昇降機15から低白度中途精白米の供給を受ける第2精米機16、及び第3昇降機17から中白度中途精白米の供給を受ける第3精米機18であるが、その第1精米機14、第2精米機16、第3精米機18はいずれも摩擦式精米機であることが望ましい。但し、第1精米機14のみは研削式にすることもできる。摩擦式精米機の運転条件は、限定的ではないが、特に毎分900回転以上の高速回転で運転されることが望ましい。
【0072】
また、各精米機の構成も、限定的ではないが、特に精白除糠網筒として、その内面が若干微細な凹凸を有し、従来のものに比べて凸部が低くなっていて滑面に近い精白除糠網筒を用いることが好ましい。
【0073】
精米装置40の第1精米機14は玄米を僅かに精白するだけであり、第2精米機16及び第3精米機18は、いずれも1)精白除糠網の内面がほとんど滑面状となっていること、2)いずれの精米機も軽負荷しかかけないこと、3)いずれも毎分900回以上の高速回転をさせていることが好ましい。そして、第1精米機から第3精米機までの精米機の負荷をほぼ同じにすることである。要するに、第3精米機から排出する精白米を歩留率95%又はそれより僅かに低くなるように玄米の精白度を高めるのに、第1精米機から第3精米機のそれぞれの精米機にてなるべく少しずつ精白度を高めることが好ましい。それらの作用により、精白時において、従来のように一度に分厚く糠層が削ぎ落とされたり、ムラ剥離されることはない。また、通常の精米機のように低歩留率の時から胚芽が根こそぎ脱落することもない。従って、第3精米機18までのいずれの精米機から排出する中途精白米は、いずれも通常の場合に比べて斑精白がなく、かつ、胚芽の主要部53又は胚盤54aの残存度が高いのが特徴である。そして、第3精米機18から排出する米粒の表面は全面的に糊粉層24の下層部24aによって覆われ、さらに胚芽領域においても残存している胚芽50の主要部53は、その表層部52はほとんど削りとられているものの、ほとんどの米粒にて残芽していて、残芽していない米粒は稀であるが、ほとんど一般の白米の脱芽状況とは異なる。
【0074】
ここで、玄米粒の頭部Hに存在する胚芽50の形状の説明をする。胚芽50は、玄米の頭部Hの近くに存在していて、それが胚乳26に大半が埋没していて、さらに埋没している部分が逆円錐状の形状の尖った先端部は胚乳26の深部に向けて全て埋め込まれた状態になっているが、通常の精米機によって一般的な白米にすると、胚芽50がほとんど脱芽するが、その抜け跡の胚乳にはポッカリとすり鉢状の陥没穴が空いていて、胚芽の主要部53はもちろんのこと、尖った基底部54まで根こそぎなくなり、さらに胚芽の基底部の胚盤54aと接着していたはずの胚乳26側の破砕細胞群55の一部又は全部までが除去されている。これに対し、前記第3精米機18から排出する中途精白米に僅かに含まれる脱芽米であってすら、その脱芽状況は、ほとんど破砕細胞群55はもちろんのこと、胚盤54aの一部までもが僅かに残っている。従って、第3精米機18から排出された中途精白米の米粒はほとんど胚芽の主要部53から破砕細胞群55の全部又は一部までが残っていて、それを昇降機19を経て、第4精米機20にて第2段階の搗精を行う。すなわち、第2段階として、第4精米機20は第2精米機16、第3精米機18と同じ摩擦式精米機でも良いが、糊粉層24の下層部24aから胚乳表層部26aまでの「胚乳外縁部28」のみでなく、胚芽の主要部53と胚乳26の境界部も採集するために、第4精米機20は通常の摩擦式精米機にし、それもそのままでも良いが、さらに回転数を毎分約500回(例えば400~600回転)に低速にすることが望ましい。そうすることで、通常の白米以上に胚芽53及び破砕細胞群55までがえぐり取られるからである。ここでは、胚盤54a、破砕細胞層55等の胚芽の主要部53と胚乳26の境界部を採集するためには、強い圧力で搗精することが好ましい。胚乳26は岩盤のように硬い細胞群であり、通常の精米機又はさらには回転数を低回転にして剥離性を高めた精米機を用いても搗精が進みにくいことから、本性質を利用することで、胚盤54a、破砕細胞層55等の胚芽の主要部53と胚乳26の境界部を効率良く採集できる。そのような第4精米機20によって、最終の歩留率88.0%又はそれより僅かに高い歩留率になった精白米が第4精米機20から排出されるが、その精白米粒は、いずれも市販されている過精白米状の通常の白米又はそれ以上に胚芽部分が除去されていることが好まれる用途もあり、それによって第4精米機20の精白除糠筒(図示せず)から排除された糠粉を取り出すことができる。なお、第4精米機20によって精白された精白米は、残芽しない白米を好む消費者に提供されることになる。
【0075】
ここで先に述べたところの、第3精米機18から排出する精白米の歩留率を95%以下とする理由等について説明する。これは、そのあたりから精米機の精白除糠網筒から排出する糠粉には、玄米中の栄養素の密度曲線が高まるからであり、また第2段階の第4精米機から排出する精白米の歩留率を通常の白米のような88%又はそれ以上とするのは、その段階あたりで精白除糠網筒から排出する糠粉が玄米中の栄養素の密度曲線が落ちてしまうからである。要するに、玄米の栄養素が集中している箇所は、歩留率が95%から向上曲線に入り、88%に下降する曲線の中にある。また、第1精米機14~第3精米機18によって、歩留率95%に至る間の高歩留率の時に排出する糠粉には、臭み及びエグ味が含まれているから、そのような第1段階時に排出する糠粉と次工程の第2段階にて排出する糠粉の混入も避けるということもある。
【0076】
従って、本発明の実施に当たっては、量を多く採取するには第4精米機20によって上記条件の最上から最下の歩留率の糠粉を採取すれば良いし、少量で高密度の栄養素を多く得ようとすると、例えば歩留率93%~90%の時、それよりさらに幅を狭めることで極めて少量で極めて栄養素が高密度の糠粉を採取することもできる。採集する歩留り範囲は95%から88%までの間であれば限定されないが、後記する「熟成工程」を経て得られる熟成物が本発明組成物の成分値範囲を満たすように、採集する歩留率を上記範囲内で適宜調整することもできる。
【0077】
ここで採取される糠粉には、他の糠粉(一般的な米糠)にはない特徴を有している。この点について、精米装置による作用との関係に触れつつ具体的に説明すると、以下のとおりである。
【0078】
すなわち、一般の米糠と比べて玄米の栄養素が前記「胚乳外縁部28」と、胚芽表層部52が削り取られた胚芽の主要部53、及びその胚芽の基底部54、特に胚盤54a、それが接着している破砕細胞群55等の含有率が極めて高いことである。その理由は、本発明の製造方法では、第3精米機から排出する精白米はかなり精白度が高まっているにもかかわらず、「胚乳外縁部28」が均等に残り、さらに胚芽の主要部53、胚芽の基底部54(胚盤54aを含む)、さらには基底部が密着していた胚乳の接合部に当たる破砕細胞群55が、それぞれの米粒にほとんど残存し、それが第2段階の第4精米機20にて最終搗精が行われることにより、それらの物がほとんど除去され、第4精米機20の精白除糠網筒から排出されるからである。
【0079】
従って、本発明において採取された糠粉には、通常の糠粉よりも栄養素を多く含有し、特にビタミンE、ナイアシン、フィチン酸等が豊富に含まれる。要するに、その糠粉には、玄米が保有する栄養素が集中的に取り出されているといえる。
【0080】
ただし、LPSだけは例外である。なぜならばLPSには有効なものと、そうでないものがあり、さらには玄米の糠層の外側ほどLPSが多く、深層になるほど少ないから(深層糠の亜糊粉層にもLPSが多いとの特許文献1は不実である。)、第4精米機20の精白除糠網筒から排出する糠粉にはLPSが多いと言うわけではないが、少しは含んでいる。それゆえに、糠層が取り去られた一般的な白米にはLPSがほとんどないわけである。しかし、LPS(グラム陰性菌リポポリサッカライド)を含むグラム陰性菌は炊飯時の加熱で死滅するものの、生米時にはまだ生きているので、浸漬及び炊飯過程の低温時には一種の熟成が行われることで、少なかったLPSは著しく増加する点が前記糠層を残存した米と一般的な白米とは異なるところであり、しかも第4精米機20の精白除糠網筒から排出する糠粉には、臭み及びエグ味がなく、ほのかな甘味があってむしろ美味であるのも特徴である。
【0081】
図4の精米装置では4台連座式となっているが、前述した第1段階の目的を達成できる限り、3台又は2台連座式でも良く、またバッチ式で貯蔵タンク等を設け単機の循環方式にて特に軽負荷にて仕上げても良い。そして、第1段階まで搗精し、そこで発生した糠粉を除外し、次の第2段階の時に所望の糠粉を取り出しても良い。
【0082】
また、第1段階を1台の1回通過式精米機で実施する場合は、図5に示す精白ロールを備えた精米機で実施することが好ましい。図5は、1台による1回通過式精米機に用いられる均圧型精白ロールを示す(但し、精米機全体の図示は省略する)。図5(b)は、図5(a)の長尺方向の側面からみた図である。その特徴は、円筒状の胴体31の外面に縦走する2本の突条32、32’が、始点34と終点35の中ほどの曲点(アールを有する)33にて、167度前後の角度で矢印方向に曲がっていることである。しかも、始点34と終点35を結ぶ線が精白ロールの軸線方向と平行になっている。
【0083】
図5における符号36・36’・36’’・36’’’は、いずれも突条32の背陰部に開口した噴風口である。その精白ロールの作用は、精白室内に回転自在に設けられた精白ロールの右(図)に接続して、一体的に設けられた送米ラセン(図示せず)により、精白室内に送られた玄米は、送米ラセンと共に回転する精白ロールの突条32、32’によって、高圧状で攪拌されるが、精白ロールの突条32、32’は曲点33にて回転方向(矢印)に対して、約167度の角度で曲がっているため、中央部に高圧がかかることがない。
【0084】
また、曲点33から、終点35までは、僅かではあるが米の流れとは逆らう方向になっているため、終点35の近傍にある排出口に設けられた圧迫板(いずれも図示せず)の圧迫力も適圧で済むということは、終点35付近が極めて低圧になることもない。
【0085】
このようにして得られる特定層構成成分からなる糠粉は、「胚乳外縁部28」及び胚芽に関する特定層を構成する成分の全てを含み、かつ、好ましくは臭み又はエグ味の成分を実質的に含んでいないため、米糠が本来有する組成が実質的に維持されており、そこに存在し得る未知成分も含んだ状態となっている。
【0086】
ここで、特定層構成成分も例外ではないが、精米機によって玄米粒から剥離され、粉砕化された精米加工後の糠粉は、油脂分解酵素と、基質が接触し、油脂分解による酸敗が急速に進行し、未知の栄養素が存在する場合にそれが急減する蓋然性が高く、さらに糠臭さ及びエグ味の増大による風味劣化が顕著になる。米糠油の採油等の米糠加工業者においては、一般的には3日以内に米糠を処理することが望ましいと言われているが、酸敗は精米加工直後から急激に進行し、徐々に緩やかになる曲線になることから、本工程で採集した糠粉は速やかに後述の工程で処理することが好ましく、特に半日以内(例えば6時間以内)に後述の工程に使用されることがより好ましい。
【0087】
混合物調製工程
混合物調製工程では、前記の特定層構成成分100重量部と水30重量部以上とを含む混合物を調製する。
【0088】
水の配合量は、通常は特定層構成成分100重量部に対して30重量部以上とすれば良く、特に150~500重量部とすることが好ましく、その中でも200~400重量部とすることがより好ましい。これにより、特定層構成成分中に含まれる酵素を効果的に活性化させることができる。
【0089】
混合は、公知又は市販のミキサー、ニーダー等の混合装置、攪拌装置等を用いて実施することができる。また、前記装置は、業務用であっても良いし、家庭用であっても良い。
【0090】
熟成工程
熟成工程では、前記混合物を一定時間熟成することにより熟成物を製造する。熟成工程は、微生物を系外から導入することなく、特定層構成成分中に含まれる酵素を利用することでグルコース、オリゴ糖類、γ-アミノ酪酸(GABA)、LPS等を高濃度で含む熟成物を得ることができる。
【0091】
本発明では、熟成に先立って、予め混合物の粉砕処理(製粉化)を行う工程を実施することもできる。これにより、特定層構成成分中に含まれる細胞を破壊することでそこに含まれる酵素を放出させたり、あるいはデンプン、タンパク質等の物質を細粉化して表面積を増大させて反応性(酵素反応)をより高めることができる。
【0092】
粉砕処理は、公知又は市販の粉砕装置を用いて実施することができる。粉砕装置は、混合物が水を含むことから湿式粉砕が行える装置を好適に用いることができる。例えば、ハンマーミル、回転ミル、ジェットミル等が使えるが、これに限定されない。
【0093】
熟成条件は、一般的には温度10~50℃程度で60~1200分程度で混合物を静置することが好ましく、さらには25~40℃程度で240~480分熟成することで成分の富化が大きくすることができるのでより望ましいが、これらの範囲に限定されない。
【0094】
また、本発明では、系外から微生物(酵母等)を反応系に添加せずに実施することが好ましい。これにより、特定層構成成分中に含まれる酵素で熟成することにより所望の熟成物を効果的に得ることができる。もっとも、混合物に当初から含まれている微生物による反応は、本発明の効果を妨げない範囲内で許容される。
【0095】
また、熟成は、混合物に酸素(空気)を供給しながら実施することが好ましい。これにより、混合物中に含まれる乳酸菌等の雑菌の増殖を抑制し、γ-アミノ酪酸(GABA)、LPS等をより増加させることが可能となる。酸素の供給方法は、限定的でなく、一般的に採用されている曝気処理の方法を適用することができる。より具体的には、混合物中に空気をバブリングする方法等を採用することができる。酸素の供給は、連続的であっても良いし、間欠的であっても良い。
【0096】
加熱・乾燥工程
上記のようにして得られた熟成物は、通常は水を含む液状の形態で得ることができるので、そのまま液状の形態で使用することもできるが、必要に応じて加熱することもできる。加熱により、例えば熟成物の殺菌、デンプンのアルファ化促進、熟成物の乾燥等を行うことができる。
【0097】
乾燥方法は、自然乾燥又は加熱乾燥のいずれであっても良い。加熱乾燥する場合の温度は、熟成物中に含まれる水以外の成分が揮発したり、変質しない条件であれば良く、例えば60~90℃程度とできるが、これに限定されない。
【0098】
また、乾燥工程では、固液分離(ろ過、遠心分離等)は実施しない。すなわち、熟成物中に含まれる水以外の成分を全て被乾燥物中に含まれるように乾燥工程を実施する。
【0099】
乾燥の程度は、特に限定されないが、通常は外観が粉末状になるまで乾燥処理を施せば良い。より具体的には、含水率が14重量%以下の範囲内(例えば10~14重量%)となるように乾燥すれば良い。このように含水率を制御することによって、例えば流通段階、保管段階等における雑菌の繁殖を効果的に抑制することができる。含水率が14重量%以下となると、本発明の熟成物は、通常は乾いた糠状になり、良好な流動性等も得ることができる。
【0100】
その他の工程
本発明の製造方法では、上記のように、原料である特定層構成成分に含まれる未知の成分も含めた成分のすべてをなるべく利用しようとするものであるため、ある成分が除外されるような処理(例えば、固液分離処理、抽出処理等)は実施しないことが望ましい。
【0101】
他方、本発明組成物では、他の成分(栄養成分等)をいずれかの工程で添加することは排除されないが、玄米が本来する組成を実質的に維持するという見地からは、特段の効果がない限り、例えば錠剤にするための他の成分を導入しないことが好ましい。
【0102】
3.経口摂取用組成物
本発明は、本発明組成物を含む経口摂取用組成物も包含する。従って、本発明組成物をそのまま経口摂取用組成物として使用することができるほか、本発明組成物及び他の成分を含む混合物も経口摂取用組成物として使用することができる。本発明組成物は、米糠特有のエグ味、糠臭さ等が効果的に抑制されている一方、ほのかな甘みを有するので、そのまま食することもできるほか、食品に添加しても食品の味を損ねることはない。
【0103】
上記の他の成分としては、例えば栄養成分のほか、食品添加物(香料、甘味料、着色料、防腐剤、乳化剤等)が挙げられる。これらは、本発明の効果を妨げない範囲内で添加することができる。
【0104】
本発明熟成物及び熟成物含有混合物は、例えば食品、医薬品(医薬部外品を含む。)、サプリメント、食品添加剤等として用いることができる。
【0105】
また、本発明組成物を配合した食品も、本発明の経口摂取用組成物に包含される。本発明組成物を配合できる食品としては、特に限定されず、例えばベーカリー製品(パン、ケーキ等)、穀物類、菓子類、麺類、惣菜類、乳製品(牛乳、チーズ、ヨーグルト、あめ玉、プリン等)、各種の飲料(清涼飲料水、酒類、ビール類、)、調味料、特殊栄養用途食品等が挙げられる。
【0106】
食品に添加する場合の添加量は、添加する食品の種類等に応じて適宜設定することができ、例えば食品中における本発明組成物の含有量が1~10重量%程度の範囲内となるように設定することができるが、これに限定されない。
【0107】
食品に添加する場合は、本発明の効果が妨げられない限りは、食品の製造段階で配合しても良いし、食品が製造された後に配合しても良い。
【実施例0108】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0109】
実施例1
市販されている一般的な慣行栽培による令和元年産長野コシヒカリの玄米を出発材料として用いた。
第1段階としてその玄米を従来の株式会社東洋精米機製作所(現 東洋ライス株式会社)の製造にかかる精米機「DCM-60型」(図5の精白ロールを備えた精米機)を用い、軽負荷で米粒群にあまり圧力がかからないようにし、同機にて玄米(糯米)を通常の10分の7の負荷にて、玄米の表面から糠層を徐々に且つ均一に取り除き、歩留率95%の中途精白米に仕上げ、その際に発生した米糠を除去した後、第2段階として別の通常の精米機(図示せず)を毎分500回の低速回転にて歩留率88.0%にて仕上げた際の糠粉(特定層構成成分)を全部採取した。
次いで、採集後1時間以内に前記糠粉50gに水200gをボールに入れ、混合した後、1時間ごとに数回撹拌し、室温で5時間の熟成を行った。このようにして液状の熟成物を得た。続いて、液状熟成物を70℃の加熱下で水分含有量14%になるまでそのまま乾燥することで粉状の試料1を得た。
なお、実施例1においては、慣行栽培の原料玄米を用いたが、有機栽培によって土壌菌がとっても豊富な「特別栽培米」、さらには「有機JAS米」を用いれば、試料1より高い含有量を有する組成物が得られることが期待される。
【0110】
試験例1
実施例1で得られた試料1の成分、食味等をそれぞれ調べた。
(1)組成分析
実施例1で得られた試料1の成分を分析した。その結果を表2の試料1に示す。なお、参考のため、表2には、日本食品標準成分表2015年版(七訂)で列挙されている玄米、白米、米糠の成分も併せて表記する。
【0111】
【表2】
(注1) 一般財団法人日本食品分析センターでの分析値
(注2) 公益財団法人日本食品油脂検査協会での分析値
(注3)「コメにおける4-アミノ酪酸(GABA)増量法の 開発ならびにその利用」筑波大学 三枝 貴代 2016年
(注4)「小麦ふすまにはオリザノール様成分が米ぬかに匹敵する高い濃度で含まれる」国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(注5) 「コメ(Oryza sativa)新品種の成分検討に関する合意文書: 食品 飼料の主要な栄養成分 抗栄養成分」平成17年2月 社団法人 農林水産先端技術産業振興センター
(注6) 本願出願人において、ライセート試薬を用いたエンドトキシン試験法(比濁法)により測定した分析値
(注7) 本願出願人において、Megazyme社製グルコース測定キットを用いてGOPOD法により測定した分析値
【0112】
(2)食味等について
試料1の食味を官能評価にて確認したところ、きな粉に似たほのかな甘みが感じられ、従来の米糠にあるような特有の臭み及びエグ味は認められなかった。
また、試料1をAISSY株式会社の味覚センサー「レオ」(但し「エグ味」は対象外)で分析し、その甘味の判定を行った(AISSY株式会社にて分析)。その結果を表3に示す。なお、表3には、同じ玄米の米糠(歩留率100~90%)を同様に分析した結果を併せて示す。
【0113】
【表3】
【0114】
表1及び表2の結果からも明らかなように、本発明組成物は、通常の米糠に含まれる成分と同じ種類の各成分が含まれており、かつ、大半の成分については通常の米糠よりも高濃度で含有されていることがわかる。しかも、食味は、官能評価及び分析試験のいずれにおいても、通常の米糠よりも良好な嗜好性を有していることもわかる。
【0115】
実施例2
実施例1の乾燥前の液状熟成物50g(水分80%の液状)及び牛乳50gを混合し鍋で、沸騰させた後、塩とホワイトペッパーで味を調え、ポタージュスープを得た。得られたポタージュスープは、ほのかな甘みがあり、食味が良好であった。
【0116】
実施例3
強力粉237.5g、実施例1の試料1(12.5g,小麦粉の約5%の代替)、脱脂粉乳5g、砂糖17g、食塩5g、サラダ油10g、ドライイースト2.5g及び水180gを市販のホームベーカリー(「SD‐MB1」パナソニック製)に投入後、食パンモード(モード3)で焼き上げ、本発明組成物入りの食パン(図6の試料C)を得た。また、上記と同様にして実施例1の試料1を小麦粉の10%の代替として使用した食パンも得た(図6の試料D)。
【0117】
試験例2
実施例3で得られた各試料の成分、食味等をそれぞれ調べた。
(1)組成について
実施例3で得られた各試料の成分を調べた。本発明品入りの食パンと通常の小麦のみで作られた食パン(図6の試料A)、小麦全粒紛4割配合で作られた食パン(図6の試料B)との成分の比較を図6に示す。
なお、図6の数値は、次の理由により推定値を示す。食パンの水分含量として38%と想定し、各材料の栄養素は日本食品標準成分表2015年版(七訂)から引用した。食パン(図6の試料A,B)の配合として、パン酵母(イースト) 1%、食塩2%、上白糖4%、脱脂粉乳2%、ショートニング4%、小麦粉(強力1等粉又は全粒粉)の配合を想定し、栄養素量を算出した。また、試料A,Bのγ-オリザノール、総フェルラ酸、フィチン酸は、文献を参考にした推定値である。試料B,Cの成分値は、原材料の分析値をもとに算出した推定値である。LPSは、それぞれの原料にあたる小麦粉、試料1の原料の状態で測定した分析値をもとに算出した値である。
図6の結果からも明らかなように、本発明品である試料C,Dは、一部の成分を除いて、各成分が高濃度で含有されていることがわかる。
【0118】
(2)食味等について
試料A~Dの食パンの食感、風味等について官能評価を実施した。成人10名のパネリストによって、試料Aを基準として試料B,C,Dの官能評価を実施した結果を表4に示す。評価基準は、以下のように設定し、各パネリストの評価点の平均値で表わした。また、併せて、各試料の外観を観察した結果を図10に示す。
1)「柔らかさ」:試料Aと比較して、―2(硬い),―1(やや硬い),0(変わらない),+1(やや柔らかい),+2(柔らかい)
2)「しっとりさ」:試料Aと比較して、―2(パサパサする),―1(ややパサパサする),0(変わらない),+1(ややしっとりする),+2(しっとりする)
3)「香り」:試料Aと比較して、―2(においがする),―1(ややにおいがする),0(変わらない)
【0119】
【表4】
【0120】
表4の結果からも明らかなように。試料C,Dは、普通の食パン(試料A)と比べて、食感、味及び香りに遜色ないものであることがわかる。また、図10に示すように、試料C,Dは、膨化も良好であった。
【0121】
これに対し、試料Bは、葉酸、食物繊維等は高含有量であるものの、とても固く、不味であった。実際、試料Bのような小麦全粒紛のみの食パンは、一般的に普及又は流通しておらず、市販されている小麦全粒紛パンの小麦全粒紛の配合比率は1割から多くとも4割にすぎない。
【0122】
これらを併せ考えると、本発明品入りの食パンは、小麦食パンの本来の食味を損なわせることなく、栄養素を大幅に向上させることができることがわかる。
【0123】
実施例4
市販されている一般的な慣行栽培による令和2年産長野コシヒカリの玄米を出発材料として用いたうえで、中途精白米における歩留率を95%とし、かつ、第2段階における歩留率を93%としたほかは、実施例1と同様にして糠粉(特定層構成成分)を全部採取した。次いで、実施例1と同様にして、前記糠粉の熟成及び乾燥を行うことにより、粉状の試料2を得た。
【0124】
実施例5
市販されている一般的な慣行栽培による令和2年産長野コシヒカリの玄米を出発材料として用いたうえで、中途精白米における歩留率を90%とし、かつ、第2段階における歩留率を88%としたほかは、実施例1と同様にして糠粉(特定層構成成分)を全部採取した。次いで、実施例1と同様にして、前記糠粉の熟成及び乾燥を行うことにより、粉状の試料3を得た。
【0125】
試験例3
実施例4~5で得られた試料2(実施例4),試料3(実施例5)の成分をそれぞれ分析した。その結果を表5に示す。なお、参考のため、表5には、日本食品標準成分表2015年版(七訂)で列挙されている米糠の成分も併せて表記する。
【0126】
【表5】
(注1) 一般財団法人日本食品分析センターでの分析値
(注2) 公益財団法人日本食品油脂検査協会での分析値
(注3)「コメにおける4-アミノ酪酸(GABA)増量法の 開発ならびにその利用」筑波大学 三枝 貴代 2016年
(注4)「小麦ふすまにはオリザノール様成分が米ぬかに匹敵する高い濃度で含まれる」国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(注5) 「コメ(Oryza sativa)新品種の成分検討に関する合意文書: 食品 飼料の主要な栄養成分 抗栄養成分」平成17年2月 社団法人 農林水産先端技術産業振興センター
(注6) 本願出願人において、ライセート試薬を用いたエンドトキシン試験法(比濁法)により測定した分析値
(注7) 本願出願人において、Megazyme社製グルコース測定キットを用いてGOPOD法により測定した分析値
【0127】
表5の結果からも明らかなように、本発明組成物は、ほとんどの成分が米糠よりも豊富に含まれることがわかる。
【0128】
実施例6
市販されている一般的な慣行栽培による令和2年産長野コシヒカリの玄米を出発材料として用いたうえで、実施例4と同様の中途精白米における歩留率を95%とし、かつ、第2段階における歩留率を93%とした糠粉(特定層構成成分)を全部採取した。次いで、熟成工程の熟成条件である熟成時間を60分としたほかは、実施例1及び実施例4と同様にして、前記糠粉の熟成及び乾燥を行うことにより、粉状の試料4を得た。
【0129】
実施例7
市販されている一般的な慣行栽培による令和2年産長野コシヒカリの玄米を出発材料として用いたうえで、実施例5と同様の中途精白米における歩留率を90%とし、かつ、第2段階における歩留率を88%とした糠粉(特定層構成成分)を全部採取した。次いで、熟成工程の熟成条件である熟成時間を60分としたほかは、実施例1及び実施例4と同様にして、前記糠粉の熟成及び乾燥を行うことにより、粉状の試料5を得た。
【0130】
試験例4
実施例6~7で得られた試料4(実施例6),試料5(実施例7)の成分をそれぞれ分析した。その結果を表6に示す。なお、参考のため、表6には、日本食品標準成分表2015年版(七訂)で列挙されている米糠の成分も併せて表記する。
【0131】
【表6】
(注1) 一般財団法人日本食品分析センターでの分析値
(注2)「コメにおける4-アミノ酪酸(GABA)増量法の 開発ならびにその利用」筑波大学 三枝 貴代 2016年
(注3) 本願出願人において、ライセート試薬を用いたエンドトキシン試験法(比濁法)により測定した分析値
(注4) 本願出願人において、Megazyme社製グルコース測定キットを用いてGOPOD法により測定した分析値
【0132】
表6の結果からも明らかなように、熟成工程の熟成時間が60分程度であっても、熟成により特定の成分が富化され、これらの成分が米糠よりも豊富に含まれる組成物が得られることがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10