(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069432
(43)【公開日】2022-05-11
(54)【発明の名称】構造物の補強または補修方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20220428BHJP
【FI】
E04G23/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173400
(22)【出願日】2021-10-22
(31)【優先権主張番号】P 2020178365
(32)【優先日】2020-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徳重 英信
(72)【発明者】
【氏名】村岡 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】寺境 光俊
(72)【発明者】
【氏名】山下 剛司
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA01
2E176AA09
2E176BB05
(57)【要約】
【課題】構造物の形状および/または大きさ等に無関係に、コンクリート構造物および/または木造構造物等の構造物を補強または補修する新規な方法を提供する。
【解決方法】構造物に補強用繊維シートを接着して構造物を補強または補修する方法であって、構造物に対して、補強用繊維シート及び熱可塑性エポキシ樹脂を重ねて接触させる。次いで、構造物上において、補強用繊維シート及び熱可塑性エポキシ樹脂の周縁部の少なくとも一部を少なくとも封止シートによって包括し、封止シートを封止する。次いで、熱可塑性エポキシ樹脂を加熱処理して溶融させ、封止シート及び構造物により画定される内部空間を真空排気する。次いで、封止シートにより熱可塑性エポキシ樹脂を補強用繊維シートに対して押圧等して、熱可塑性エポキシ樹脂を、補強用繊維シートを構成する繊維シートの間隙及び構造物の表面に存在する空隙または間隙に含浸させ、その後、熱可塑性エポキシ樹脂を冷却及び固化させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に補強用繊維シートを接着して前記構造物を補強または補修する方法であって、
前記構造物に対して、前記補強用繊維シート及び熱可塑性エポキシ樹脂を重ねて接触させるステップと、
前記構造物上において、前記補強用繊維シート及び前記熱可塑性エポキシ樹脂の周縁部の少なくとも一部を少なくとも封止シートによって包括するとともに、前記封止シートを封止するステップと、
前記熱可塑性エポキシ樹脂を加熱処理して溶融させるとともに、前記封止シート及び前記構造物により画定される内部空間を真空排気するとともに、前記封止シートにより前記熱可塑性エポキシ樹脂を前記補強用繊維シートに対して押圧または前記補強用繊維シートを前記熱可塑性エポキシ樹脂に対して押圧させ、前記熱可塑性エポキシ樹脂を、前記補強用繊維シートを構成する繊維シートの間隙及び前記構造物の表面に存在する空隙または間隙に含浸させるステップと、
前記熱可塑性エポキシ樹脂を冷却及び固化させるステップと、
を含むことを特徴とする、構造物の補強または補修方法。
【請求項2】
前記封止シートは金属シートを含み、前記熱可塑性エポキシ樹脂の加熱処理は、前記封止シートの外面から電磁誘導加熱によって行うことを特徴とする、請求項1に記載の構造物の補強または補修方法。
【請求項3】
前記熱可塑性エポキシ樹脂は、溶射法にて前記構造物上に形成することを特徴とする、請求項1または2に記載の構造物の補強または補修方法。
【請求項4】
前記溶射法は、粉末式フレーム溶射法であることを特徴とする、請求項3に記載の構造物の補強または補修方法。
【請求項5】
前記熱可塑性エポキシ樹脂は、前記構造物上または前記補強用繊維シート上に離散的に存在することを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の構造物の補強または補修方法。
【請求項6】
前記熱可塑性エポキシ樹脂は、前記封止シートまたは前記金属シートの、前記構造物側の内面に離散的に配設することを特徴とする、請求項5に記載の構造物の補強または補修方法。
【請求項7】
前記熱可塑性エポキシ樹脂を前記構造物の焼き付きまたは劣化が生じない温度範囲で加熱溶融することを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の構造物の補強または補修方法。
【請求項8】
前記構造物はコンクリートからなり、前記熱可塑性エポキシ樹脂を150℃以上250℃以下の温度で加熱溶融することを特徴とする、請求項7に記載の構造物の補強または補修方法。
【請求項9】
前記構造物は木材からなり、前記熱可塑性エポキシ樹脂を150℃以上250℃以下の温度で加熱溶融することを特徴とする、請求項7に記載の構造物の補強または補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物および/または木造建築物等の構造物の補強または補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物および/または木造構造物等の構造物を補強または補修する方法として、当該構造物に対して、ガラス繊維および/または炭素繊維等の補強用繊維を巻き付け、さらにこれら補強用繊維に熱可塑性樹脂を含浸させ、当該樹脂を固化することによる方法が用いられていた(特許文献1参照)。この方法によれば、例えば1cm幅当たり50000デニール以上の繊度の高い布状に編織した補強用繊維を使用するとともに、当該繊維に樹脂を含浸させ、樹脂が硬化する前に構造物に巻き付けて補強の作業を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記方法は補強用繊維を構造物に巻き付けて補強するものであるため、構造物の形状及び大きさ等に制限があり、例えば、橋梁および/または水路などの配管内部へは補強用繊維を巻き付けることができないため、これら構造物の補強は困難であるという問題があった。
【0005】
本発明は、構造物の形状および/または大きさ等に無関係に、コンクリート構造物および/または木造構造物等の構造物を補強または補修する新規な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく、本発明は、構造物に補強用繊維シートを接着して前記構造物を補強または補修する方法であって、前記構造物に対して、前記補強用繊維シート及び熱可塑性エポキシ樹脂を重ねて接触させるステップと、前記構造物上において、前記補強用繊維シート及び前記熱可塑性エポキシ樹脂の周縁部の少なくとも一部を少なくとも封止シートによって包括するとともに、前記封止シートを封止するステップと、前記熱可塑性エポキシ樹脂を加熱処理して溶融させるとともに、前記封止シート及び前記構造物により画定される内部空間を真空排気するとともに、前記封止シートにより前記熱可塑性エポキシ樹脂を前記補強用繊維シートに対して押圧または前記補強用繊維シートを前記熱可塑性エポキシ樹脂に対して押圧させ、前記熱可塑性エポキシ樹脂を、前記補強用繊維シートを構成する繊維シートの間隙及び前記構造物の表面に存在する空隙または間隙に含浸させるステップと、前記熱可塑性エポキシ樹脂を冷却及び固化させるステップと、を含むことを特徴とする、構造物の補強または補修方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、補強用繊維シートを用い、これに対して熱可塑性エポキシ樹脂を接着剤として用い、当該熱可塑性エポキシ樹脂の加熱溶融後の冷却固化に基づく接着効果によって、補強用繊維シートを構造物に接着するようにしている。したがって、従来のような、補強用繊維を巻き付けることが困難な、例えば橋梁の裏面および/または配管内部などにも上記補強用繊維シートを貼り付け、接着することができる。この結果、構造物の形状および/または大きさ等に無関係に、コンクリート構造物および/または木造構造物等の構造物を補強または補修する新規な方法を提供することができる。「Aおよび/またはB」という表現は「AおよびBのうち少なくとも一方」を意味する。
【0008】
また,熱可塑性エポキシ樹脂の加熱溶融時に被施工面から水蒸気等のガスが発生するが、本発明では、当該熱可塑性エポキシ樹脂の加熱溶融の際に、当該熱可塑性エポキシ樹脂及び補強用繊維シートを包括する封止シート内を真空排気するようにしている。したがって、上記ガスが熱可塑性エポキシ樹脂を介した補強用繊維シートの構造物への接着を妨げる障害物となることがない。なお、熱可塑性エポキシ樹脂及び補強用繊維シートを封止シートで包括しているので、湿潤下、さらには水中においても、構造物に対する補強または補修が可能である。
【0009】
なお、上記真空排気により、封止シートが熱可塑性エポキシ樹脂を圧迫するので、当該熱可塑性エポキシ樹脂は補強用繊維シートの間隙内、さらには構造物の表面に存在する空隙または間隙に良好に入り込み、補強用繊維シートと構造物との間の接着剤としてより有効に機能するようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の構造物の補強または補修方法を示す概略構成図である。
【
図2】熱可塑性エポキシ樹脂の離散的配設状態を示す図である。
【
図3】熱可塑性エポキシ樹脂の離散的配設状態を示す図である。
【
図4】熱可塑性エポキシ樹脂の離散的配設状態を示す図である。
【
図5】熱可塑性エポキシ樹脂の離散的配設状態を示す図である。
【
図6】本発明の構造物の補強または補修方法の変形例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の詳細及びその他の特徴について、実施の形態に基づいて説明する。
図1は、本ステップを概略的に示す図である。
【0012】
図1は、本発明の構造物の補強または補修方法を示す概略構成図である。本発明では、最初に、構造物11に対して補強用繊維シート13を熱可塑性エポキシ樹脂12を介して貼り付ける。構造物11としては、コンクリート構造物および/または木造構造物等を挙げることができる。
【0013】
また、本実施形態では、構造物11と補強用繊維シート13との間に熱可塑性エポキシ樹脂12を配設するようにしているが、熱可塑性エポキシ樹脂12と補強用繊維シート13とが積層し、当該積層体が構造物11に接触するようにして配設すれば、溶融した熱可塑性エポキシ樹脂12は補強用繊維シート13の間隙内さらには構造物の表面に存在する空隙または間隙に良好に入り込むようになる。例えば、構造物11と熱可塑性エポキシ樹脂12との間に補強用繊維シート13を配設してもよい。
【0014】
補強用繊維シート13としては、炭素繊維シートおよび/またはガラス繊維シートなどの高強度繊維シートの他、アラミド繊維シートなどの比較的柔軟で伸縮性に富む繊維シートを用いることができる。前者の高強度繊維シートは主として強度が重視される、例えば橋梁裏面等への使用に適しており、後者の柔軟で伸縮性に富む繊維シートは、コンクリートブロック等の隅角部等のように、強度に加えて柔軟性が要求されるような箇所への使用に適している。
【0015】
また、炭素繊維シート等は導電性を有するので、例えば、鉄道車両用のトンネル内部の補強などの場合には、鉄道車両のパンタグラフ等へ悪影響を及ぼすことが想定される。したがって、このような構造物への補強または補修に対しては、アラミド繊維シートおよび/またはガラス繊維シートが好ましい。なお、上記補強用繊維シートは、一般には補強用繊維を長尺布状に編織して形成する。
【0016】
また、熱可塑性エポキシ樹脂12は、構造物11及び補強用繊維シート13に対して接着性を呈するものである。
【0017】
この熱可塑性エポキシ樹脂12は、エポキシ基を2つ有する(a)第1の2官能化合物と、フェノール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基、メルカプト基、イソシアネート基及びシアネートエステル基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を2つ有する(b)第2の2官能化合物と、を含む化合物を重付加反応により直鎖状に重合した重合型熱可塑性エポキシ樹脂である。
【0018】
熱可塑性エポキシ樹脂12は、以下に示すように特に水酸基を有し、当該水酸基が構造物11及び補強用繊維シート13と反応するので、これらに対する接着性を呈するようになると推察される。
【0019】
エポキシ基を2つ有する(a)第1の2官能化合物としては、例えば、カテコールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、t-ブチルヒドロキノンジグリシジルエーテル、フタル酸ジグリシジルエーテル等のベンゼン環を1個有する一核体芳香族ジエポキシ化合物類、ジメチロールシクロヘキサンジグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチル-3,4-エポキシシクロヘキセニルカルボキシレート、リモネンジオキシド等の脂環式エポキシ化合物類、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタンジグリシジルエーテル、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタンジグリシジルエーテル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンジグリシジルエーテル等のビスフェノール型エポキシ化合物及びこれらが部分縮合したオリゴマー混合物(ビスフェノール型エポキシ樹脂)、3,3’,5,5’-テトラメチルビス(4-ヒドロキシフェニル)メタンジグリシジルエーテル、3,3’,5,5’-テトラメチルビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテルジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0020】
また、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、メチルヒドロキノンジグリシジルエーテル、2,5-ジ-t-ブチルヒドロキノンジグリシジルエーテル、ビフェニル型またはテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂類、ビスフェノールフルオレン型またはビスクレゾールフルオレン型エポキシ樹脂等の、単独では結晶性を示し、室温で固形であっても200℃以下の温度で融解し液状となるエポキシ樹脂は使用することができる。
【0021】
フェノール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基、メルカプト基、イソシアネート基及びシアネートエステル基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を2つ有する(b)第2の2官能化合物としては、例えば、1分子中にフェノール性水酸基を2つ有する化合物が好ましい。
【0022】
この種の化合物としては、例えば、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、t-ブチルヒドロキノン、2,5-ジ-t-ブチルヒドロキノン等のベンゼン環1個を有する一核体芳香族ジヒドロキシ化合物類、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールAD)、ビス(ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、ビスフェノールフルオレン、ビスクレゾールフルオレン等のビスフェノール類、ジヒドロキシナフタレン等の縮合環を有する化合物、ジアリルレゾルシン、ジアリルビスフェノールA、トリアリルジヒドロキシビフェニル等のアリル基を導入した2官能フェノール化合物等が挙げられる。
【0023】
上記化合物(a)と化合物(b)とは、次に例示するように重付加反応により直鎖状に重合することができる。直鎖状に重合したことは、溶剤への可溶性、熱溶融性等で確かめることができる。なお、本発明の目的を阻害しないかぎり、一部に架橋構造が存在することを排除するものではない。
【0024】
【化1】
上記重合反応に用いる重合触媒としては、リン系触 媒の他、1,2-アルキレンベンズイミダゾール(TBZ)、及び2-アリール-4,5 -ジフェニルイミダゾール(NPZ)が挙げられる。これらは、1種または2種以上を組 み合わせて用いられる。リン系触媒は、再流動性を向上させるので好適である。
【0025】
上記リン系触媒としては、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、トリ-o-トリルホスフィン、トリ-m-トリルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、シクロヘキシルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン-トリフェニルボラン錯体、トリ-m-トリルホスフィン-トリフェニルボラン錯体等が挙げられる。これらの中では、トリ-o-トリルホスフィン、トリ-m-トリルホスフィン-トリフェニルボラン錯体が好ましい。
【0026】
重合触媒の使用量は、通常は、上記化合物(a)100質量部に対して、0.1~10質量部、更には0.4~6質量部、特には1~5質量部であるのが、短時間重合性と可使時間とのバランスが優れている点から好ましい。
【0027】
また、熱可塑性エポキシ樹脂12の分子量はフェノール類および/またはNMP等の溶剤によって調整する。分子量調整により250℃での粘度を10Pa・s以下とすることができる。したがって、250℃以下の温度で熱可塑性エポキシ樹脂12を加熱溶融することができ、構造物11がコンクリートの場合でも、当該コンクリートの劣化を抑制して補強、補修を行うことができる。したがって、例えば、温度5℃以下の湿潤環境でも、熱可塑性エポキシ樹脂12の粘度を50Pa・s以下とすることができ、寒冷地においても容易に加熱溶融して、構造物11の補強、補修を行うことができる。
【0028】
さらに、上記化合物(a)の分子量を調整することにより、200℃での粘度を100Pa・s以下とすることができる。したがって、200℃以下の温度で熱可塑性エポキシ樹脂12を加熱溶融することができ、構造物11が木材の場合でも、当該木材の劣化、焼き付きを抑制して補強、補修を行うことができる。したがって、例えば、温度5℃以下の湿潤環境でも、熱可塑性エポキシ樹脂12の粘度を100Pa・s以下とすることができ、寒冷地においても容易に加熱溶融して、構造物11の補強、補修を行うことができる。
【0029】
なお、現状、加熱溶融可能な温度の下限値は150℃である。
【0030】
なお、上記粘度は、粘弾性測定装置にて周波数1Hzなる条件で測定したものである。
【0031】
熱可塑性エポキシ樹脂12は、板状でもよいし、また、不織布のような繊維状でもよい。隅角部などの平面ではない被施工曲面に対しては、不織布のような繊維状の樹脂形態が好ましい。
【0032】
なお、上述のような形状の熱可塑性エポキシ樹脂12は、プライマと樹脂原料とを混合し、粘度を上述のような範囲に設定したスラリーを形成した後、当該スラリーを塗布または延伸処理した後に塗布することにより形成することができる。
【0033】
また、熱可塑性エポキシ樹脂12を板状に形成する場合には、プラズマ溶射法、アーク溶射法、RFプラズマ溶射法、電磁加速プラズマ溶射法、線爆溶射法、電熱爆破粉体溶射法、溶線式フレーム溶射、粉末式フレーム溶射、溶棒式フレーム溶射などのフレーム溶射、高速フレーム溶射(HVOF、HVAF)、レーザ溶射、レーザ・プラズマ複合溶射、コールドスプレー法等の溶射法を用いることもできる。
【0034】
特に上記溶射法の中でも気泡の少ない高密度な熱可塑性エポキシ樹脂12の層(膜)を簡易に形成し、溶融した熱可塑性エポキシ樹脂12が補強用繊維シート13の間隙内さらには構造物の表面に存在する空隙または間隙に良好に入り込むようにできるとの観点から、粉末式フレーム溶射法を用いることが好ましい。この方法を用いる場合は、熱可塑性エポキシ樹脂12の原料粉末をフレーム式の溶射ガンに投入すればよい。
【0035】
粉末式フレーム溶射法を用いる場合の、熱可塑性エポキシ樹脂12の樹脂原料の平均粒径は10~750μmの範囲であることが好ましい。また、溶射ガンの温度は100~2000℃の範囲であることが好ましい。さらに、溶射ガンからの吐出量は1~50g/分、吐出速度は100~5000m/分程度であることが好ましい。また、溶射距離は10~20cmであることが好ましい。これらの条件を満足することにより、上述した気泡の少ない高密度な熱可塑性エポキシ樹脂12の層(膜)を簡易に形成できる。
【0036】
なお、本発明において、熱可塑性エポキシ樹脂12は、構造物11と補強用繊維シート13との間の全面に存在するように設ける必要はない。例えば、
図2に示すように、本発明の補強用繊維シートをコンクリートブロック等の隅角部等に貼り付ける場合は、当該隅角部等に熱可塑性エポキシ樹脂12を存在しないように、例えばコンクリートブロック上にドット状に配設して、補強用繊維シート13が隅角部の形状に合致するように接触させることができる。
【0037】
熱可塑性エポキシ樹脂12をドット状に配設するに際して、その形状は半球状、角錐状、円錐台形状等の任意の形状とすることができる。また、その底面の大きさ(直径あるいは長辺の長さ)は、例えば0.01~100mmとすることができる。さらに、その配置密度は、1~100個/cm2とすることができる。これによって、熱可塑性エポキシ樹脂12をドット状に配設した場合でも十分な接着強度を保持することができる。
【0038】
同様に、
図3に示すように、熱可塑性エポキシ樹脂12をドット状に配設する代わりに、ストリップ状に配設することもできる。この場合も、補強用繊維シート13が隅角部の形状に合致するように接触させることができる。
【0039】
熱可塑性エポキシ樹脂12をストリップ状に配設するに際して、その断面形状は半球状、角錐状、円錐台形状等の任意の形状とすることができる。また、その底面の幅は、例えば0.01~100mmとすることができる。さらに、その配置密度は、1~100本/cm2とすることができる。これによって、熱可塑性エポキシ樹脂12をストリップ状に配設した場合でも十分な接着強度を保持することができる。
【0040】
同様に、本発明において、
図4に示すように、補強用繊維シートを配管内部に貼り付ける場合も、補強用繊維シートの全面に熱可塑性エポキシ樹脂を設ける必要はなく、配管内部にドット状に配設して、補強用繊維シートが配管内部の形状に合致するように接触させることができる。
【0041】
鉄系の材料から構成される管路においても、熱可塑性エポキシ樹脂12をドット状に配設するに際して、その形状は半球状、角錐状、円錐台形状等の任意の形状とすることができる。また、その底面の大きさ(直径あるいは長辺の長さ)は、例えば0.01~100mmとすることができる。さらに、その配置密度は、1~100個/cm2とすることができる。これによって、熱可塑性エポキシ樹脂12をドット状に配設した場合でも十分な接着強度を保持することができる。
【0042】
また、yに示すように、熱可塑性エポキシ樹脂12をドット状に配設する代わりに、ストリップ状に配設することもできる。この場合も、補強用繊維シート13が配管の形状に合致するように接触させることができる。
【0043】
熱可塑性エポキシ樹脂12をストリップ状に配設するに際して、その断面形状は半球状、角錐状、円錐台形状等の任意の形状とすることができる。また、その底面の幅は、例えば0.01~100mmとすることができる。さらに、その配置密度は、1~100本/cm2とすることができる。これによって、熱可塑性エポキシ樹脂12をストリップ状に配設した場合でも十分な接着強度を保持することができる。
【0044】
但し、上記いずれの場合も、補強用シートの全面に熱可塑性エポキシ樹脂を設けることを排除するものではなく、コンクリートブロックおよび/または配管内に配設する補強用繊維シート13上に配設することもできる。
【0045】
また、熱可塑性エポキシ樹脂を構造物と補強用繊維シートとの間にドット状に配設等して、接着剤としての熱可塑性エポキシ樹脂の量を適宜調整するようにできる。
【0046】
上記のように、熱可塑性エポキシ樹脂12をドット状あるいはストリップ状に配設するには、構造物11あるいは補強用繊維シート13上に直接配設こともできるが、以下に説明する封止シート15上、具体的には金属シート14上に配設することもできる(
図6参照)。この場合、封止シート15で構造物11上に配設された補強用繊維シート13を包括する際に、当該補強用シート13上に熱可塑性エポキシ樹脂12をドット状あるいはストリップ状に配設することができる。
【0047】
次いで、
図1に示すように、本発明では、例えばガラスシートからなる封止シート15の内面に、熱伝導性に優れた、例えば、アルミニウム、銅などの金属からなる金属シート14が配設されたシートで、構造物11上に配設された熱可塑性エポキシ樹脂12及び補強用繊維シート13からなる構造体を包括し、さらに封止シート15上に高周波電源17に接続されたコイル16を配設する。なお、上記包括に際しては、例えば、封止シート15の端部を養生テープ18で固定する。
【0048】
次いで、高周波電源17のスイッチをオンにし、コイル16に電流を流し、当該電流に基づく電磁誘導によって封止シート15下面の金属シート14を加熱し、熱可塑性エポキシ樹脂12を加熱溶解する。同時に、封止シート15の端部に設けられた排気口15Aから封止シート15内部を真空排気する。
【0049】
このとき、熱可塑性エポキシ樹脂12の加熱溶融時に、構造物11の被施工面から水蒸気等のガスが発生するが、本発明では、熱可塑性エポキシ樹脂12の加熱溶融の際に、当該熱可塑性エポキシ樹脂12及び補強用繊維シート13を包括する金属シート14、すなわち封止シート15内を真空排気するようにしている。したがって、上記ガスが熱可塑性エポキシ樹脂12を介した補強用繊維シート13の構造物11への接着を妨げる障害物となることがない。
【0050】
なお、熱可塑性エポキシ樹脂及び補強用繊維シートを金属シート14、すなわち封止シート15で包括しているので、湿潤下、さらには水中においても、構造物11に対する補強または補修が可能である。
【0051】
なお、上記真空排気により、金属シート14、しいては補強用繊維シート13が熱可塑性エポキシ樹脂12を圧迫するので、当該熱可塑性エポキシ樹脂12は補強用繊維シート13の間隙内さらには構造物11の表面に存在する空隙または間隙に良好に入り込み、補強用繊維シート13と構造物11との間の接着剤としてより有効に機能するようになる。
【0052】
さらに、熱可塑性エポキシ樹脂12を加熱溶融する方法として,ブロア(熱風)加熱および/またはヒーター内蔵ローラによる圧着法を用いずに、金属シート14の電磁誘導加熱を用いているので、熱効率および/または温度制御性も良好で,湿潤下、さらには水中においても、構造物11に対する補強または補修が可能である。
【0053】
以上説明したように、本発明によれば、補強用繊維シートを用い、これに対して熱可塑性エポキシ樹脂を接着剤として用い、当該熱可塑性エポキシ樹脂の接着効果によって、補強用繊維シートを構造物に接着するようにしている。したがって、従来のような、補強用繊維を巻き付けることが困難な、例えば橋梁の裏面および/または配管内部などにも上記補強用繊維シートを貼り付け、接着することができる。
【実施例0054】
(実施例)
構造物11としてコンクリート片を用い、これに低粘度化した熱可塑性エポキシ樹脂12(原料はナガセケムテックス社製)を介して、#200g/m2の炭素繊維シート13(日鉄ケミカル&マテリアル社製)を配設し、アルミ箔14被覆ガラスクロス15(アスカゼ21)で熱可塑性エポキシ樹脂12及び炭素繊維シート13を包括した。
【0055】
次いで、高周波電源17に接続されたコイル16をガラスクロス15上に配設し、熱可塑性エポキシ樹脂12を220℃に加熱して溶融させ、炭素繊維シート13の間隙内に含浸させ、熱可塑性エポキシ樹脂12を接着剤として炭素繊維シート13をコンクリート片11に接着させた。なお、220℃における粘度は約1Pa・Sであった。また、この粘度は粘弾性測定装置にて周波数1Hzなる条件で測定した。
【0056】
以上のようにして熱可塑性エポキシ樹脂12でコンクリート片11と炭素繊維シート13とを接着させた後、炭素繊維シート13を剥離しようとしたところ、コンクリート片11の表層部分が破壊してしまった。すなわち、炭素繊維シート13は熱可塑性エポキシ樹脂12によって構造物であるコンクリート片11に強固に接着していることが判明した。
【0057】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態および/またはその変形は、発明の範囲および/または要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。