(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069712
(43)【公開日】2022-05-12
(54)【発明の名称】複合材料
(51)【国際特許分類】
B23K 35/30 20060101AFI20220502BHJP
B23K 35/14 20060101ALI20220502BHJP
C22C 19/03 20060101ALI20220502BHJP
C22C 19/07 20060101ALI20220502BHJP
C22C 9/06 20060101ALI20220502BHJP
C22C 27/04 20060101ALN20220502BHJP
【FI】
B23K35/30 310D
B23K35/14 F
B23K35/30 310C
B23K35/30 310E
B23K35/30 310Z
C22C19/03 G
C22C19/07 G
C22C9/06
C22C27/04 101
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020178511
(22)【出願日】2020-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000220103
【氏名又は名称】株式会社アライドマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 直也
(57)【要約】
【課題】密着強度が高い複合材料を提供する。
【解決手段】複合材料1は、鉄系合金層11と、鉄系合金層11の上に設けられた中間層12と、前記中間層12の上に設けられたタングステンを含む層13とを備え、前記中間層は、純ニッケルからなるか、または、銅、コバルトおよび鉄からなる群より選ばれた少なくとも一種を合計で0質量%を超え71質量%以下含み、ニッケルを29質量%以上100質量%未満含む合金である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系合金層と、
前記鉄系合金層の上に設けられた中間層と、
前記中間層の上に設けられたタングステンを含む層とを備え、
前記中間層は、
純ニッケルからなるか、または、
銅、コバルトおよび鉄からなる群より選ばれた少なくとも一種を合計で0質量%を超え71質量%以下含み、ニッケルを29質量%以上100質量%未満含む合金からなる、複合材料。
【請求項2】
前記中間層の厚みが50μm以下である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記タングステンを含む層の相対密度が97%以上である、請求項1から2のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項4】
前記鉄系合金層と、前記タングステンを含む層との間において直径10μm以上のボイドの数が1cm2あたり10個以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複合材料は、たとえば特開2000-246549号公報(特許文献1)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の複合材料においては、中間層の耐熱性が低く、接合部が破断しやすいという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の複合材料は、鉄系合金層と、鉄系合金層の上に設けられた中間層と、中間層の上に設けられたタングステンを含む層とを備え、中間層は純ニッケルからなるか、または、銅、コバルトおよび鉄からなる群より選ばれた少なくとも一種を合計で0質量%を超え71質量%以下含み、ニッケルを29質量%以上100質量%未満含む合金からなる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施の形態に従った複合材料の断面図である。
【
図2】接合強度を評価する方法を説明するための、治具および治具に固定された複合材料の断面図である。
【
図3】耐熱性を評価する方法を説明するための、固定台および固定台に固定された複合材料の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0008】
本開示の複合材料は、鉄系合金層と、鉄系合金層の上に設けられた中間層と、中間層の上に設けられたタングステンを含む層とを備え、中間層は純ニッケルからなるか、または、銅、コバルトおよび鉄からなる群より選ばれた少なくとも一種を合計で0質量%を超え71質量%以下含み、ニッケルを29質量%以上100質量%未満含む合金からなる。鉄系合金層、中間層およびタングステンを含む層の積層構造を、以下、タングステン-鉄系合金クラッド材料という。
【0009】
タングステン-鉄系合金クラッド材料のタングステンを含む層の厚さは用途に応じて適宜選択できる。
【0010】
タングステンを含む層のタングステンの粒径は20μm以上であることが好ましい。20μm未満の微細組織では、タングステンを含む層が脆く割れやすいため、圧着工程後に所望の構造とならないおそれがある。タングステンの粒径の測定方法は、まず電子線後方散乱回折により結晶粒界像を撮影する。結晶粒界は黒く、結晶粒は白く映るので、画像解析ソフト(Image-Pro Plus)にて、各結晶粒の長軸の長さをカウントし、その平均値を算出することで行う。
【0011】
通常、タングステン-鉄系合金クラッド材料のタングステンを含む層の厚さは5mm以下が好ましい。タングステンを含む層の厚さが5mm以下であれば鉄系合金層とタングステンを含む層との間に熱膨張係数の差があってもタングステンを含む層が変形することで鉄系合金層からタングステンを含む層が剥離するのを確実に抑制できる。ただし、タングステンを含む層の厚みが1mmを超え5mm以下範囲では、鉄系金属との接合の際、熱膨張係数の差による熱応力の影響により接合が難しい場合があるため、HIP(Hot Isostatic Press)およびホットプレスを用いた予備接合工程が必要になる。
【0012】
タングステン-鉄系合金クラッド材料のタングステンを含む層の素材の厚さは1mm以下がより好ましい。この範囲では、鉄系金属との接合の際、熱膨張係数の差による熱応力の影響がほとんどみられず、クラッド材をより容易に製造できる。
【0013】
タングステンを含む層の相対密度の測定方法は、以下の通りである。
タングステンを含む層直下の中間層および鉄系合金を、機械研磨および電解研磨で完全に除去してタングステンを含む層のみを取り出す。取り出したタングステンを含む層を、JIS Z 8807(2012)に基づき、液中ひょう量法で密度を測定し、測定した密度をタングステンを含む層の理論密度で除した値を、タングステンを含む層の相対密度とする。
【0014】
タングステン-鉄系合金クラッド材料のタングステンを含む層の相対密度は97%以上が好ましい。これ未満であると、タングステンを含む層中に、直径10μm以上のボイドが生じ、接合界面へのボイドの残留が起こりやすくなるおそれがあるなお、「おそれがある」とは、僅かながらそのようになる可能性があることを示し、高い確率でそのようになることを意味するものではない。
【0015】
タングステン-鉄系合金クラッド材料のタングステンを含む層の厚さは0.05mm以上が好ましい。
【0016】
厚さが0.05mm未満では、接合工程においてタングステンを含む層が破れるおそれがある。接合後のタングステンを含む層で、破れのあるところとないところが混在し、所望の構造にならないおそれがある。
【0017】
タングステン-鉄系合金クラッド材料のタングステンを含む層の厚さは0.08mm以上がより好ましい。厚さが0.08mm以上の範囲では、接合前の準備段階での取り扱いで、タングステンを含む層の折れやシワが入る可能性が減り、より容易にクラッド材を製造できる。タングステンを含む層の厚みは、好ましくは0.05mm以上5mm以下である。タングステンを含む層の厚みは、より好ましくは0.08mm以上1mm以下である。
【0018】
タングステンを含む層の厚さのバラツキは、タングステンを含む層の厚さの10%以内が好ましい。
【0019】
本開示における厚さのバラツキとは、タングステンを含む層の厚さを5か所測定した際の標準偏差をいう。標準偏差を求めるには、まず、5点の厚みの平均値を算出する。偏差(各厚みから平均値を差し引いた値)を求める。偏差を2乗する。2乗された5点の偏差の合計を算出する。合計をデータの総数(5)で割って分散を求める。分散の正の平方根を求めてこれを標準偏差とする。
【0020】
タングステンを含む層の厚さの測定方法は、以下の通りである。
クラッド材料の断面を電子線マイクロアナライザーで観察し、タングステンを含む層と鉄系合金層を厚さ方向にWDX分析のラインスキャンを行なう。タングステンを含む層の構成元素の総和が50質量%以上となる範囲をタングステンを含む層の厚さとした。
【0021】
タングステン-鉄系合金クラッド材料の母材側、鉄系合金の厚さは、用途により適宜決めることができる。
【0022】
鉄系合金の厚みは、通常、1mm以上30mm未満である。タングステン-鉄系合金クラッド材料の母材側、鉄系合金の組成は、用途により適宜決めることができる。鉄系合金とは、鉄を第一成分(最も含有率が高い成分)とする合金であり、純鉄、普通鋼、特殊鋼、鋳鉄、鋳鋼の群に属するものである。
【0023】
タングステン-鉄系合金クラッド材料のタングステンを含む層の組成は、用途により適宜決めることができる。ただし、タングステンを含む層のタングステンの含有率は70質量%以上、好ましくは90質量%以上である。
【0024】
タングステン-鉄系合金クラッド材料の中間層の厚さは、50μm以下が好ましい。50μmを超えると、中間層で破断するおそれがある。中間層厚さの測定方法は、以下の通りである。
【0025】
クラッド材料の断面を電子線マイクロアナライザーで観察し、タングステンを含む層と鉄系合金層を厚さ方向にWDX分析のラインスキャンを行なう。中間層の構成元素の総和が50質量%以上となる範囲を中間層の厚さとした。
【0026】
タングステン-鉄系合金クラッド材料の中間層の組成は、純ニッケルまたはニッケルを含む合金からなる。ニッケルを含む合金におけるニッケル以外の成分は鉄、コバルト、銅のいずれか一つまたは複数で、用途に応じて選ぶことができる。この組成とすることで、一般的な銅合金および銅ろうの溶融開始温度(800℃~1083℃)、およびニッケルろうの溶融開始温度(875℃~1080℃)と同等、あるいはそれ以上の溶融開始温度を持つ高い耐熱性を有する中間層となる。さらに、中間層の熱膨張係数の制御が可能となり、用途に応じた最適なクラッド材料の設計が可能になる。中間層の導入方法としては、中間層の組成を有する箔の挿入、めっき、蒸着、スパッターなどがある。
【0027】
中間層は、以下のいずれかであることが好ましい。中間層は、純ニッケルと、不可避的不純物およびからなる。中間層は、ニッケル合金と、不可避的不純物とからなる。
【0028】
タングステン-鉄系合金クラッド材料の中間層の組成は、ニッケルの含有率が少なくとも29質量%以上である。
【0029】
この組成範囲ではクラッド材の耐熱性が増し、一般的な銅合金や銅ろう、ニッケルろうよりも十分高い1200℃以上の溶融開始温度となる。また、この組成範囲では、耐酸化性が増すため、被接合材の調製工程において、中間層の酸化を抑えることができ、より容易にクラッド材の作製が可能になる。
【0030】
タングステン-鉄系合金クラッド材料の中間層の組成は、ニッケルの含有率が40質量%以上67%未満であるニッケル-銅合金が最も好ましい。残部は銅および不可避的不純物である。
【0031】
この組成では、耐酸化性がより高いため、最も容易にクラッド材を作成することが可能になる。
【0032】
また、中間層が非磁性となるため、クラッド材全体の磁気特性に及ぼす影響が小さくなる。そのため、例えば医療機器等の強磁性体を避けるべき機器における、遮蔽用構造材料などへの適用が可能になり、産業上の利用範囲が増えるため最も好ましい。
【0033】
熱を伝達しにくい中間層としてニッケル合金を用いる場合にはニッケルの割合が50質量%以上で銅の割合が50質量%未満であることが好ましい。この場合、銅が50質量%以上であるニッケル合金と比較して熱伝導性が低下するためタングステンを含む層から鉄系合金層への熱の伝達を抑制できる。
【0034】
好ましくは、鉄系合金層と、タングステンを含む層との間において直径10μm以上のボイドの数が1cm2あたり10個以下である。
【0035】
ボイドの数を減少させるためには、タングステンの板材を中間層に接触させることが好ましい。タングステンの板材にはボイドが存在しないか、存在しても数が少ないため、これを中間層と接触させることで、製造工程においてボイドが発生することを防止できる。
【0036】
図1は、実施の形態に従った複合材料1の断面図である。
図1で示すように、複合材料1は、鉄系合金層11と、鉄系合金層11の上に積層された中間層12と、中間層12上に積層されたタングステンを含む層13とを有する。この実施の形態では複合材料は三層構造とされているが、さらに多くの層が積層されていてもよい。たとえば、下から鉄系合金層11、中間層12、タングステンを含む層13、中間層12および鉄系合金層11が積層されていてもよい。さらに、下からタングステンを含む層13、中間層12、鉄系合金層11、中間層12およびタングステンを含む層13が積層されていてもよい。
【0037】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示を実施例に基づいて説明する。
【0038】
(1)実施例のサンプルの作成、中間層の厚み評価
表1の試料番号1のタングステン-鉄系合金クラッド材料の製造について説明する。
【0039】
(1-1)被接合材の調製工程
タングステンを含む層の原料としては、液中ひょう量法による密度測定で相対密度99.9%以上、厚さが0.3mmのタングステン圧延板を用意した。
【0040】
このタングステン圧延板を、シャーリング装置で、B(幅)100mm×L(長さ)100mmの寸法に切断した。基材となる鉄系合金(鋼材)には、厚さ8mmのSUS316Lの板を用い、バンドソー切断でB100mm×L100mmに切断した。
【0041】
中間層としては、厚さ10μm、純度99質量%以上の純ニッケル箔を用いた。これらの原材料を表1に示す。
【0042】
【0043】
表1における「タングステン圧延材の組成」とは、タングステンを含む層となるタングステン圧延材の加工前の組成、「タングステン圧延材の厚さ(mm)」とはタングステン圧延材の加工前の厚さ、「鋼材組成」とは鋼材の加工前の組成、「鋼材の厚さ(mm)」とは鋼材の加工前の厚さ、「中間層の組成」とは中間層の原料の加工前の組成、「中間層の厚さ(μm)」とは、中間層の原料の加工前の厚さをいう。
【0044】
試料番号1について、タングステン圧延材、SUS316L材の表面は新生面を出すために#80の耐水ペーパーにて研磨した。
【0045】
上記3種類の部材を、上からタングステン圧延板、純Ni箔、SUS316L板、純Ni箔、タングステン圧延板の順に積層した後、固定のためこれらの積層物の外周を溶接した。
【0046】
タングステン圧延板の密度は95%以上が好ましい。
これ以下であると、接合工程後のタングステンを含む層の密度が97%未満となるおそれがある。これにより、接合界面へのボイドが残留しやすくなるとともに、接合工程中にタングステンを含む層にクラックが生じやすく、所望の構造が得られないおそれがある。
【0047】
タングステン圧延板、純Ni箔およびSUS316L板を積層して構成される被接合材の固定は、溶接以外に、タングステンやモリブデン箔での包み込み、積層物のリベット止め、またはボルト止めでもよい。その後接合工程を経て、タングステン-鉄系合金クラッド材を得ることができる。
【0048】
被接合材の積層は、タングステンを含む層―中間層―鉄系金属層の3層構造でも作製できる。この構造の場合はクラッド材の上下のタングステンを含む層と鉄系金属の伸び率の差が大きいため、通常の上下対称の圧延ロールで3層構造を加工すると反りが生じやすい。
【0049】
この場合でも、上下ロール間でロール径やロール周速を変化可能な非対称圧延機で作製はできる。タングステンを含む層―中間層―鉄系金属―中間層―タングステンを含む層の5層とすれば、上下での伸び率の差は対称となり、通常の上下対称ロールでの製造が容易となる。その後接合工程を経て、タングステン-鉄系合金クラッド材を得ることができる。
【0050】
試料番号1と同様の方法により、実施例である試料番号2から23についても原料を準備した。その内容を表1および表2に示す。
【0051】
【0052】
(1-2)接合工程
試料番号1に関して固定した被接合材を水素雰囲気中で900℃、10分間加熱したのち、二段圧延機を用いてアルゴン雰囲気中で圧着した。圧着により、T4.5mm×B100mm×L180mmのタングステン-鉄系合金のクラッド材を得た。得られたクラッド材から、断面観察用のサンプル、W層の密度評価用のサンプル、X線CTによる密着度評価用のサンプルを、B10mm×L10mmの寸法で各1個ずつ切り出した。また、せん断試験用サンプルとして、B10mm×L1mm寸法で5本切り出した。
【0053】
圧着前加熱の雰囲気は、水素雰囲気のような還元雰囲気または窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気が好ましい。
【0054】
圧着時の雰囲気は、大気中、水素雰囲気のような還元雰囲気または窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気いずれでも可能であるが、酸化防止の観点では、窒素、アルゴン雰囲気のような不活性雰囲気下で行われることがより好ましい。
【0055】
圧着温度は、800℃以上が好ましい。800℃未満であると、被接合材の軟化が不十分となり、界面の接合がおこらないおそれがある。圧着温度は、900℃以上がさらに好ましい。900℃以上では、被接合材の軟化が十分起こるため、界面の接合がより容易となる。
【0056】
圧着温度は、1200℃以下が好ましい。1200℃を超えると、中間層及び鉄系合金が溶融して圧延ができないおそれがある。圧着温度は、1000℃以下がより好ましい。1000℃を超えると、圧着時にタングステンを含む層と鉄系金属との延性の差が大きくなり、圧着が難しくなる恐れがある。1000℃以下ではこの差が小さくなり、圧着が容易になる。
【0057】
(1-3)断面評価
得られたサンプルを切り出し、断面を耐水ペーパー#500による粗研磨、ダイヤモンド懸濁液を用いたバフ研磨を行い鏡面とした後、電子線マイクロアナライザー(日本電子(株)製 JXA-8200)を用いて断面観察を行った。
【0058】
厚さ方向にラインスキャンをすることで、各層の組成および厚さを求めた。各層の厚さは、ラインスキャンの結果各層の構成元素の総和が50質量%以上であった領域を各層の厚さとした。タングステンを含む層においては構成元素はタングステンである。鉄系合金層においては構成元素は鉄、クロム、ニッケルおよびモリブデンである。中間層においては構成元素はニッケルである。試料番号2から23についても、同様にタングステンを含む層、鉄系合金層および中間層の組成を分析した。その結果、各層の組成は表1の出発物質の組成と同一であった。
【0059】
上記評価から、タングステンを含む層の厚さが0.2mm、鉄系合金の厚さが4.3mmであることを確認した。中間層は厚さが7μmで、薄く分布していることを確認した。
【0060】
試料番号2から23についても、同様にタングステンを含む層、鉄系合金層および中間層を分析した。その結果を表3に示す。
【0061】
【0062】
(2)比較例1のサンプルの作成、中間層の厚み評価
比較例として、試料番号24における、ろう付けによるタングステン-鉄系合金接合品を製作し、同様に電子線マイクロアナライザーを用いて断面評価を行った。
【0063】
ろう付けは、T0.2mm×B100mm×L100mmのタングステン圧延材と、T5mm×B100mm×L100mmのSUS316L板材(鋼材)を、市販のNi系ろう材であるBNi-2(クロム7質量%、ホウ素3質量%、シリコン4.5質量%、鉄3質量%、炭素0.05質量%、残部ニッケル)でろう付けすることで製作した。その原材料を表2に示す。
【0064】
タングステン圧延材とSUS316L板の表面を#80の耐水ペーパーで研磨した後に、タングステン圧延材/BNi-2/SUS316L板材の順に積層した。接合工程は、積層した状態で上部に9.8Nの荷重をかけた状態で真空中にて加熱し、ろう材の液相出現温度よりも十分高い1050℃で保持したのち、炉冷した。
【0065】
接合したサンプルは切り出した後、断面を耐水ペーパー#500による粗研磨、ダイヤモンド懸濁液を用いたバフ研磨を行い鏡面とした後、電子線マイクロアナライザー(日本電子(株)製 JXA-8200)を用いて試料番号1と同じ評価を行った。
【0066】
その結果、タングステンを含む層の厚さが0.2mm、鉄系金属層の厚さが5mmであった。中間層からろう材成分の被接合材中への拡散が見られ、分厚く分布しており57μmの厚さであった。このことから、実施例においては、従来技術よりも薄く均一な中間層を有する接合材を得ることができると認められた。
【0067】
比較例として試料番号25および26についても同様の加工を行った。それらの結果を表2に示す。BNi-5の組成は、クロム19質量%、シリコン10質量%、残部ニッケルである。BNi-7の組成は、クロム13質量%、リン10質量%、残部ニッケルである。試料番号26は、試料番号25と同様のろう付けによる製作で、ろう材の種類を変えた例である。
【0068】
(3)タングステンを含む層の密度の評価
得られた試料番号1から26のサンプルの鉄系金属層の厚さ分を平面研削盤で研磨除去した後、電解研磨を行って中間層を除去し、タングステンを含む層のみを取り出した。取り出したタングステンを含む層を、JIS Z 8807(2012)に基づき、液中ひょう量法で密度を測定した。
【0069】
測定にあたっては、空気中で測定したタングステンを含む層の質量と、水中で測定したタングステンの質量を測定し、これを基にタングステンを含む層の密度を求めた。測定した密度をタングステンを含む層の理論密度で除した値をタングステンを含む層の相対密度とした。
【0070】
測定の結果、試料番号1は99.9%の相対密度であり、タングステンを含む層は十分緻密であることを確認した。試料番号2から26のサンプルについても、97%以上の相対密度を有していることを確認した。
【0071】
(4)密着度評価
試料番号1に関して、得られたサンプルの密着度をX線CTにより評価した。マイクロフォーカスX線CT装置(島津製作所製 inspeXio SMX-225CT FPD HR)にて評価した。管電圧を200kV、ワーキングディスタンスを10mm、分解能10μmの条件で撮影した。サンプルを撮影したデータから、タングステン直下の直径10μm以上のボイド数をカウントし、1cm2当たりのボイド数を求めた。その結果を表4に示す。
【0072】
【0073】
上記評価から、10μm以上のボイドは検出しなかったので、1cm2当たりのボイド数は0個とした。
【0074】
試料番号24についても試料番号1と同じ評価を行なった。マイクロフォーカスX線CT装置(島津製作所製 inspeXio SMX-225CT FPD HR)、管電圧200kV、ワーキングディスタンス10mm、分解能10μmの条件でサンプルを撮影した。
【0075】
φ0.1mmの人工欠陥を事前に導入したサンプルでは、X線CT像において欠陥部が黒色、健全部が白色に映ることを確認した。そのため、X線CT像の黒色の箇所を欠陥部とした。測定で得られた画像を、画像解析ソフト(Image-Pro Plus)を用いて、タングステン直下の直径10μm以上のボイド数をカウントし、1cm2当たりのボイド数を算出した。
【0076】
なお、欠陥の直径の定義は、欠陥部の面積を画像から求めて、欠陥形状を円と仮定して、面積から円の直径に換算した値とした。一連の測定の結果、1cm2当たりのボイド数は26個であった。このことから、本開示は、従来技術よりもボイドが少なく、高密着度の接合が可能であると認められた。他の試料においてもボイドの数を同様の方法で調べた。その結果を表4に示す。
【0077】
(5)接合強度評価
サンプルの接合強度の評価は、せん断強度試験で行った。
図2は、接合強度を評価する方法を説明するための、治具および治具に固定された複合材料の断面図である。
【0078】
表3における試料番号1-26をB10mm×L1mmの寸法に切り出してせん断試験用の複合材料1の試験片を作製した。その試験片を、表面のタングステンを含む層13の厚さ分だけ治具21から突き出した状態となるように治具21の凹部22にセットした。
【0079】
タングステンを含む層13に圧子23を当てて、万能試験機(インストロン社製5985型)を用い、試験片が破断するまで矢印24で示す圧縮方向に荷重を加えた。試験片の破断箇所を表4において示す。
【0080】
破断が「母材破断」である場合には、母材であるタングステンを含む層13中での破壊が起こったことを示す。接合強度としては母材のタングステンを含む層13の強度と同等以上であると認められた。
【0081】
比較例である試料番号24から26のろう付けにより作製したサンプルでも同様の評価を行った結果、タングステン直下の接合界面で破断した。これにより、試料番号24から26では中間層12による接合界面が破壊しやすく、接合強度が不足していることが分かる。
【0082】
図3は、耐熱性を評価する方法を説明するための、固定台および固定台に固定された複合材料の断面図である。耐熱性を評価するため
図3の様に、固定台32上に固定治具31を用いて複合材料1を固定した。1200℃の窒素炉で15分間加熱したところ試料番号24-26の物には中間層の溶融によるズレが観られ本来の形状が維持できておらず試料番号1から23に関しては1200℃の温度では耐熱性が高い事が認められた。
【0083】
従来から用いられる鉄系合金(鉄、鋼、ステンレス鋼等)では、放射線の遮蔽性、高温の機械的特性、耐水素脆化性などが求められる装置の構造材には適さない場合がある。これらの構造材に関して、タングステンであれば、高密度、高融点、水素脆化しない特性を有するため、これらの構造材に適する可能性がある。
【0084】
ただし、タングステンは難加工性のため、単独では構造材に適用しがたく、特に構造材の施工に求められる溶接性はで前記鉄系合金に劣るため、単独での構造材への適用は難しい。このため、タングステンと鉄系合金とをろう付けで複合化して用いられる場合があった。しかし、ろう付けなど従来技術による複合化では、タングステンや鉄系合金よりも、はるかに低融点の接合層が存在することにより、タングステンの耐熱性を活かしきれない課題があった。さらに、接合層にボイドまたは脆弱な反応層が残留することで、機械的特性、特に強度が低い課題があった。タングステンと鉄系合金との間に、接合層として両者よりも強度が低い、銅クロム合金または銅ベリリウム合金などの銅合金を介した複合化の例もある。しかし、これら銅合金の融点は鉄系合金よりもはるかに低く、耐熱性と接合層の強度に課題があった。
【0085】
本開示の複合材料は、これらの課題を解決すべく、高強度で産業上広く用いられる鉄系合金と高密度、高融点、水素脆化しない特性を有するタングステンとの複合化において、耐熱性を有し、かつ接合欠陥が少ない中間層により、耐熱性と高強度とを実現するものである。
【0086】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0087】
1 複合材料、11 鉄系合金層、12 中間層、13 タングステンを含む層、21 治具、22 凹部、23 圧子、31 固定治具、32 固定台。
【手続補正書】
【提出日】2022-01-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系合金層と、
前記鉄系合金層の上に設けられた中間層と、
前記中間層の上に設けられたタングステンを含む層とを備え、
前記中間層は、
純ニッケルからなるか、または、
銅、コバルトおよび鉄からなる群より選ばれた少なくとも一種を合計で0質量%を超え71質量%以下含み、ニッケルを29質量%以上100質量%未満含む合金からなり、
前記タングステンを含む層のタングステンの含有率は70質量%以上であり、
前記中間層の厚みが50μm以下である、複合材料。
【請求項2】
前記タングステンを含む層の相対密度が97%以上である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記鉄系合金層と、前記タングステンを含む層との間において直径10μm以上のボイドの数が1cm2あたり10個以下である、請求項1または2に記載の複合材料。