IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧 ▶ 国立大学法人名古屋大学の特許一覧

<>
  • 特開-塗料用色材、及び、塗布物の製造方法 図1
  • 特開-塗料用色材、及び、塗布物の製造方法 図2
  • 特開-塗料用色材、及び、塗布物の製造方法 図3
  • 特開-塗料用色材、及び、塗布物の製造方法 図4A
  • 特開-塗料用色材、及び、塗布物の製造方法 図4B
  • 特開-塗料用色材、及び、塗布物の製造方法 図5
  • 特開-塗料用色材、及び、塗布物の製造方法 図6
  • 特開-塗料用色材、及び、塗布物の製造方法 図7A
  • 特開-塗料用色材、及び、塗布物の製造方法 図7B
  • 特開-塗料用色材、及び、塗布物の製造方法 図8
  • 特開-塗料用色材、及び、塗布物の製造方法 図9
  • 特開-塗料用色材、及び、塗布物の製造方法 図10A
  • 特開-塗料用色材、及び、塗布物の製造方法 図10B
  • 特開-塗料用色材、及び、塗布物の製造方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069718
(43)【公開日】2022-05-12
(54)【発明の名称】塗料用色材、及び、塗布物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20220502BHJP
   C09D 7/41 20180101ALI20220502BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/41
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020178521
(22)【出願日】2020-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】特許業務法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 利幸
(72)【発明者】
【氏名】山口 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】竹岡 敬和
(72)【発明者】
【氏名】坂井 美紀
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CC032
4J038CG002
4J038HA026
4J038HA166
4J038HA446
4J038JA34
4J038JB16
4J038KA08
4J038NA01
4J038PC02
4J038PC03
4J038PC08
4J038PC10
(57)【要約】
【課題】構造色と色素色とによる新奇な発色を呈する塗料用色材を提供する。
【解決手段】塗料用色材は、構造色の波長に応じた粒径の粒子を含む基材と、有機有彩色色素と、を含有し、基材による構造色と有機有彩色色素とによる発色を呈し、発色が塗布厚によって調整可能であることを特徴とする。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造色の波長に応じた粒径の粒子を含む基材と、
有機有彩色色素と、を含有し、
前記基材による構造色と前記有機有彩色色素とによる発色を呈し、
前記発色が塗布厚によって調整可能であることを特徴とする、塗料用色材。
【請求項2】
請求項1に記載の塗料用色材であって、
前記有機有彩色色素は、前記構造色と反対色の関係にある色を呈する、塗料用色材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の塗料用色材であって、
前記基材は、前記有機有彩色色素によって着色されている、塗料用色材。
【請求項4】
塗布物の製造方法であって、
構造色の波長に応じた粒径の粒子を含む基材と、色素色を呈する有機有彩色色素と、を含有する塗料を、支持体上に塗布する工程と、
前記支持体上の前記塗料の厚みを調整して、前記色素色と前記構造色とによる発色を調整する工程と、を備える、塗布物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塗料用色材、及び、塗布物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料用色材に関して、光の吸収による色素色とは異なる、構造色を呈する色材が知られている。構造色は、色材の構造に起因する可視光の干渉や散乱によって生じる色である。そのため、構造色を呈する色材では、一般的な有機系の顔料や染料等と比較して太陽光による退色が生じにくく、一般的な有機系および無機系の顔料等と比較して環境負荷が生じにくい利点を有する。例えば、特許文献1には、コアシェル構造を有する粒子を含有し、構造色が発現した膜を形成可能な組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-47231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、構造色は様々な利点を有する。そのため、構造色を用いてこれまでにない新奇な発色を得ることができる技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の第1の形態によれば、塗料用色材が提供される。この塗料用色材は、構造色の波長に応じた粒径の粒子を含む基材と、有機有彩色色素と、を含有し、前記基材による構造色と前記有機有彩色色素とによる発色を呈し、前記発色が塗布厚によって調整可能であることを特徴とする。
このような形態によれば、塗料用色材は、塗布厚を変化させることで、構造色の反射光と色素色の反射光との強度比を変化させ、発色の色相を任意に変化させることができる。そのため、塗料用色材は、塗布厚によって有機有彩色色素と構造色とによる発色を調整可能な、新奇な発色を呈する。
(2)上記形態において、前記有機有彩色色素は、前記構造色と反対色の関係にある色を呈してもよい。このような形態によれば、構造色の反射光が強められた場合と、色素色の反射光が強められた場合とで発色の差異が大きくなり、塗布厚の変化による発色の変化がより大きくなる。
(3)上記形態において、前記基材は、前記有機有彩色色素によって着色されていてもよい。このような形態によれば、基材が有機有彩色色素によって着色されているため、塗料用色材の構造色と有機有彩色色素とによる発色を簡易に実現させることができる。
(4)本開示の第2の形態によれば、塗布物の製造方法が提供される。この製造方法は、構造色の波長に応じた粒径の粒子を含む基材と、色素色を呈する有機有彩色色素と、を含有する塗料を、支持体上に塗布する工程と、前記支持体上の前記塗料の厚みを調整して、前記色素色と前記構造色とによる発色を調整する工程と、を備える。このような形態によれば、塗料用色材の塗布厚によって有機有彩色色素と構造色とによる発色が調整された、新奇な発色を呈する塗布物を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】塗布物の製造方法の一例を示す工程図。
図2】実験結果を示す図。
図3】サンプルAの塗布状態における反射スペクトルを示す図。
図4A】サンプルAの塗布状態における反射光強度と反射光強度比とを示す図。
図4B】サンプルAの塗布状態における塗布厚と反射光強度比との関係を示す図。
図5】サンプルAの塗布状態における色空間を示す図。
図6】サンプルBの塗布状態における反射スペクトルを示す図。
図7A】サンプルBの塗布状態における反射光強度と反射光強度比とを示す図。
図7B】サンプルBの塗布状態における塗布厚と反射光強度比との関係を示す図。
図8】サンプルBの塗布状態における色空間を示す図。
図9】サンプルCの塗布状態における反射スペクトルを示す図。
図10A】サンプルCの塗布状態における反射光強度と反射光強度比とを示す図。
図10B】サンプルCの塗布状態における塗布厚と反射光強度比との関係を示す図。
図11】サンプルCにおける色空間を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.実施形態:
本開示の塗料用色材は、構造色の波長に応じた粒径の粒子を含む基材と、色素色を呈する有機有彩色色素とを、含有している。塗料用色材は、構造色と色素色とによる発色を呈する。なお、構造色とは、色材の構造に起因する可視光の干渉や散乱によって生じる色である。そのため、構造色を呈する色材では、一般的な有機系の顔料や染料等と比較して太陽光による退色が生じにくい。また、有機有彩色色素とは、有彩色の色素色を呈する、有機化合物からなる色素である。色素色とは、ある物質において、ある波長領域の光が吸収され、吸収されなかった波長領域の光が反射されることによって生じる色である。
【0009】
なお、有機有彩色色素としては、例えば、アゾ系、ベンズイミダゾロン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ジオキサジン系、ジケトピロロピロール系、キノフタロン系、イソインドリノン系、イソインドリン系、ペリレン系、ペリノン系、フラバンスロン系、ピランスロン系、アンスラピリミジン系、キサンテン系、ジスアゾ系、トリアリールメタン系、メチン系、又は、ローダミン系等の、金属元素を含まない色素を用いることができる。
【0010】
本開示の塗料用色材は、塗料用色材が支持体に塗布される際の塗布厚を変化させることで、構造色の反射光と色素色の反射光との強度比を変化させ、その発色を任意に変化させることができる。すなわち、塗料用色材は、その発色を塗布厚によって調整可能である。
【0011】
基材に含まれる粒子は、上述したように、構造色の波長に応じた粒径を有している。粒子は、例えば、塗料用色材が支持体に塗布された際に、支持体上で周期性を有して配列する。塗料用色材は、この粒子の配列によって、粒子の粒径に応じた波長の構造色を呈する。例えば、粒子が配列することによって、面心立方格子のコロイド結晶が形成されている場合、構造色の波長λと、コロイド結晶の平均の屈折率nと、粒子の粒径Dとは、以下の式(1)の関係をとる。
λ=1.633nD … (1)
平均の屈折率nは、コロイド結晶を構成する成分iの屈折率nと体積分率Φによって、以下の式(2)のように定まる。
=Σn Φ… (2)
なお、以下では、塗料用色材が支持体に塗布された状態のことを、「塗布状態」とも呼ぶ。
【0012】
本実施形態では、基材として、構造色の波長に応じて粒径を揃えられた球状のポリスチレン粒子が用いられる。本実施形態のように基材として球状の粒子が用いられる場合、塗布状態における基材の配列の周期が短くなり、色材の角度依存性が低くなる。これに対して、例えば、基材が一様な膜を有する薄膜状や多層膜状に形成されている場合、基材の配列の周期が長くなる。この場合、基材の配列は、いわゆる薄膜干渉モデルや多層膜干渉モデルに近いものとなるため、色材の角度依存性が高くなる。なお、色材の角度依存性が高い場合、色材を見る角度や、色材への光の照射方向によって色材の色が異なって視認されやすい。
【0013】
基材としては、ポリスチレン粒子の他、例えば、他のスチレン系樹脂、アクリル樹脂等の汎用樹脂や、シリカ(SiO)、チタニア(TiO)、セリア(CeO)等の無機物等の、種々の粒子を用いることができる。基材としては、低いHaze値を有する、いわゆる透明または半透明の粒子を用いると好ましい。なお、Haze値とは、材料の曇り度合いを示す指標であり、JISK7136に基づいて測定できる。
【0014】
また、本実施形態の基材は、有機有彩色色素によって着色されている。基材が有機有彩色色素によって着色されていることで、塗料用色材の構造色と有機有彩色色素とによる発色を簡易に実現させることができる。なお、基材は、例えば、その内部に有機有彩色色素を取り込むことによって着色されていてもよいし、その表面に有機有彩色色素を付着させることによって着色されていてもよい。例えば、本実施形態のように基材がポリスチレン粒子である場合、スチレンモノマーに有機有彩色色素を添加して重合することによって、ポリマーの構造内に有機有彩色色素を取り込ませたものであってもよいし、重合後のポリスチレン粒子表面に有機有彩色色素を付着させたものであってもよい。また、他の実施形態では、基材が有機有彩色色素によって着色されていなくてもよい。この場合、例えば、塗料用色材が、基材として無色のポリスチレン粒子と、インク等の有機有彩色色素とを含有していてもよい。
【0015】
有機有彩色色素は、構造色と反対色の関係にある色を呈すると好ましい。反対色の関係とは、マンセル色相環において、ある2色の色相角度の差が、150度から210度の範囲内にある状態を指す。この場合、塗料用色材の構造色の反射光が強められた場合と、色素色の反射光が強められた場合とで発色の差異が大きくなり、塗布厚の変化による発色の変化がより大きくなる。また、構造色と有機有彩色色素による色素色とが、補色の関係にあるとより好ましい。「補色の関係」とは、互いに組み合わせることで無彩色を表現可能な色彩の関係を指し、より具体的には、マンセル色相環において、ある2色の色相角度の差が165度から195度の範囲内にある状態を指す。なお、塗布厚の変化による発色の変化を更に大きくするには、色素色と構造色との色相角度の差が180度であると、更に好ましい。
【0016】
塗料用色材は、黒色粒子を更に含んでいてもよい。塗料用色材が黒色粒子を含むことで、塗料用色材の構造色による発色がより鮮明となる。黒色粒子としては、例えば、カーボンブラック(CB)や、マグネタイト、黒色に着色されたポリスチレン粒子等が用いられる。黒色粒子の材料や大きさは、例えば、塗料用色材の構造色による発色を阻害しにくい観点で選択されると好ましい。
【0017】
図1は、塗布物の製造方法の一例を示す工程図である。塗布物は、支持体上に、本実施形態の塗料用色材を含む塗料が塗布されることによって、製造される。この製造方法では、まず、ステップS110にて、塗料と支持体とを準備する。なお、塗料としては、例えば、塗料用色材を水等の液体に分散させたものを用いることができる。液体として水以外を用いる場合、塗料用色材の構造色や色素色の発色を失わせないために、基材や有機有彩色色素との反応性が低い液体を選択すると好ましい。また、支持体としては、ガラス材料や、セラミックス材料、金属材料、樹脂材料、紙、布等の種々の材質および形状のものを用いることができる。次に、ステップS120にて、色素色と構造色とによる発色が予め定められた発色となるように、支持体上の塗料の厚みを調整しつつ、支持体に塗料を塗布する。具体的には、ステップS120では、例えば、乾燥後の塗料の厚みが予め定められた厚みとなるように、支持体への塗料のコーティング回数やコーティング量を調整する。その後、ステップS130にて、支持体上に塗布した塗料を自然乾燥や加温等によって乾燥させる。なお、支持体上の塗料用色材の厚みの調整を、例えば、ステップS120において塗布を行った後や、ステップS130において乾燥を行った後に行ってもよい。
【0018】
以上で説明した本実施形態の塗料用色材は、構造色の波長に応じた粒径の粒子を含む基材と、色素色を呈する有機有彩色色素とを含有し、基材と有機有彩色色素とによる発色が塗布厚によって調整可能であることを特徴とする。これによって、塗料用色材は、塗布厚を変化させることで、構造色の反射光と色素色の反射光との強度比を変化させ、発色の色相を任意に変化させることができる。そのため、塗料用色材は、塗布厚によって色相を調整可能な、有機有彩色色素と構造色とによる新奇な発色を呈する。また、本実施形態の塗料用色材は、構造色と色素色とによる発色を呈するため、例えば、一般的な有機系の顔料や染料等の色素色のみを発色する色材と比較して、太陽光等によって色を失いにくい。更に、色素色は構造色と比較して太陽光等によって退色しやすいため、例えば、塗布物における発色の経年変化を楽しむことができる他、発色の経年変化を経年の指標とすることができる。加えて、基材として、例えば、ポリスチレン等の材料を用いることによって、一般的な有機系および無機系の顔料等と比較して色材による環境負荷を低減し、かつ、色材の新奇な発色を実現できる。
【0019】
また、本実施形態では、有機有彩色色素は、構造色と反対色の関係にある色を呈する。そのため、塗料用色材の構造色の反射光が強められた場合と、色素色の反射光が強められた場合とで発色の差異が大きくなり、塗料用色材の塗布厚の変化による発色の変化が、より大きくなる。
【0020】
また、本実施形態では、基材は、有機有彩色色素によって着色されている。そのため、塗料用色材の構造色と有機有彩色色素とによる発色を簡易に実現させることができる。
【0021】
B.実験結果:
実験用サンプルとして、種々の塗料用色材を作製した。また、作製した塗料用色材を支持体に塗布して塗布物を作製し、作製した塗布物の反射スペクトルを測定することによって、上記実施形態の効果を検証した。
【0022】
図2は、実験結果を示す図である。図2には、各サンプルにおける、有機有彩色色素の色と、黒色粒子の有無とが、示されている。また、各サンプルの塗布状態における構造色と色素色とが示されている。図2において、例えば、サンプルAは、黄色色素を含み、黒色粒子を含まないことが示されている。また、サンプルAは、塗布状態において、青色の構造色と、黄色の色素色とによる発色を呈したことが示されている。
【0023】
図2に示す各サンプルを、基材と、黒色粒子とを、適宜混合することによって、以下に示す方法で作製した。基材としては、有機有彩色色素によって着色された、着色ポリスチレンビーズを用いた。黒色粒子としては、黒色の色素によって着色されたポリスチレンビーズを用いた。各ポリスチレンビーズの原料として、ポリサイエンス社製の球状ポリスチレンの水懸濁液Polybead Polystyrene Microspheres(2.5%Solids-Latex)を用いた。以下では、黄色、赤色、黒色で着色されたポリスチレンビーズ、および、無着色のポリスチレンビーズを、それぞれ、PS黄、PS赤、PS黒、および、PS白とも表記する。なお、PS黄、および、PS赤は、スチレンモノマーに有機有彩色色素を添加して重合することによって、ポリマーの構造内に有機有彩色色素を取り込ませたものであり、PS黒は、同様に、ポリマーの構造内に黒色の色素を取り込ませたものである。また、PS黄の懸濁液のコード番号は15707であり、粒径は180nmである。PS赤の懸濁液のコード番号は15705であり、粒径は210nmである。PS黒の懸濁液のコード番号は24290であり、粒径は190nmである。PS白の懸濁液のコード番号は07304であり、粒径は190nmである。CBの原料としては、東海カーボン社製の、22.06wt%水分散品である、AquaBlack162を用いた。
<サンプルA>
PS黄を用いた。
<サンプルB>
PS赤を用いた。
<サンプルC>
PS黒と、PS黒に対して体積比で30倍のPS黄と、を混合して作製した。
<サンプルD>
PS黒と、PS黒に対して体積比で30倍のPS白と、を混合して作製した。なお、サンプルDでは、PS白を無着色の基材として用いた。
<サンプルE>
PS白を用いた。なお、サンプルEでは、サンプルDと同様に、PS白を無着色の基材として用いた。
【0024】
作製した各サンプルを、図1に示した塗布物の製造方法に従って、支持体に塗布した後に乾燥させ、塗布物を作製した。各サンプルを用いた塗布物は、支持体としての透明ガラス基板上にサンプルを滴下し、スピンコートを行って作製した。各サンプルの滴下量を調整することによって、各サンプルについて、異なる塗布厚を有する複数の塗布物を調整した。なお、スピンコートにおける回転数や回転時間は、それぞれ、200~600rpm、1~20分間の範囲で、サンプルの滴下量に応じて調整した。
【0025】
塗布物の反射スペクトルを、日本分光社製の紫外可視近赤外分光光度計V-670を用いて測定した。具体的には、白色光を、白い紙の上に載置された塗布物に対して、その入射角が垂直となるように照射し、入射角に対して10°の位置において、絶対反射スペクトルを測定した。白色光源としては、V-670に備え付けのハロゲンランプを使用した。また、測定した反射スペクトルから、反射光強度比を算出した。なお、反射光強度比とは、色素色の反射光強度に対する構造色の反射光強度の比である。更に、測定した反射スペクトルから、L*a*b*表色系における色度の色座標を表す、a*値およびb*値を算出した。
【0026】
塗布物の塗布厚を、塗布物の断面のSEM(走査型電子顕微鏡)像から算出した。具体的には、塗布物ごとに4枚の断面SEM像を観測し、SEM像1枚ごとに2点ずつ、支持体を除いた部分の厚みを測定し、測定した計8点の厚みの平均値を算出することで、塗布物の塗布厚を算出した。
【0027】
図2に示すように、サンプルAおよびサンプルCは、青色の構造色と、黄色の色素色とを呈した。サンプルBは、青色の構造色と、赤色の色素色とを呈した。サンプルDおよびサンプルEは、有機有彩色色素を含まないため、色素色を呈さず、青色の構造色のみを呈した。なお、サンプルAおよびサンプルCにおいて、構造色と色素色とは、互いに補色の関係にある。
【0028】
図3は、サンプルAの塗布状態における反射スペクトルを示す図である。図3には、サンプルAを用いた塗布物の各塗布厚における反射スペクトルが示されている。図3に示すように、サンプルAでは、青色の構造色の反射光が観測された。また、サンプルAでは、波長580nmの位置に、黄色の色素色の反射光が観測された。
【0029】
図4は、サンプルAの塗布状態における反射光強度と、反射光強度比とを、示す図である。図4Bは、サンプルAの塗布状態における塗布厚と反射光強度比との関係を示す図である。図4Aおよび図4Bに示すように、サンプルAでは、塗布厚が大きいほど、反射光強度比が大きかった。サンプルAでは、塗布厚が大きくなることによって、ポリスチレン粒子が周期性を有して配列した部分が厚み方向に増加し、構造色の反射光が強くなったと考えられる。
【0030】
図5は、サンプルAの塗布状態における色空間を示す図である。なお、図5には、サンプルAを用いた塗布物のL*a*b*表色系におけるa*値およびb*値が示されており、L*値は示されていない。図5に示すように、サンプルAでは、塗布厚が増加することによって、b*値が減少した。すなわち、サンプルAでは、塗布厚が増加することによって、黄みが弱くなった。サンプルAでは、塗布厚が大きくなることで、色素色による黄色の反射光の強度に対して、構造色による青色の反射光の強度が強まり、発色が変化したと考えられる。
【0031】
図6は、サンプルBの塗布状態における反射スペクトルを示す図である。図6に示すように、サンプルBでは、青色の構造色の反射光が観測された。また、サンプルBでは、波長700nmの位置に、赤色の色素色の反射光が観測された。
【0032】
図7Aは、サンプルBの塗布状態における反射光強度と、反射光強度比とを、示す図である。図7Bは、サンプルBの塗布状態における塗布厚と反射光強度比との関係を示す図である。図7Aおよび図7Bに示すように、サンプルBでは、サンプルAと同様に、塗布厚が大きいほど、反射光強度比が大きかった。
【0033】
なお、図3図4A、および図4Bと、図6図7Aおよび図7Bと、に示すように、基材としてPS赤を用いたサンプルBにおける構造色のスペクトルは、基材としてPS黄を用いたサンプルAにおける構造色のスペクトルよりも長波長側に観測された。PS黄の粒径は180nmであり、PS赤の粒径は210nmであるため、サンプルBの構造色のスペクトルは、基材であるPS赤の粒径に対応して、サンプルAの構造色のスペクトルと比較して、より長波長側に出現したと考えられる。すなわち、サンプルBにおける構造色の青色と、サンプルAにおける構造色の青色とは、それぞれの基材の粒径の違いに起因して、それぞれ異なっている。従って、塗料用色材において、例えば、構造色の波長と粒径との関係を実験によって予め調べ、所望の構造色を発現させる粒径を有する粒子を基材として用いることによって、所望の構造色を発現させることができる。
【0034】
図8は、サンプルBの塗布状態における色空間を示す図である。図8には、図5と同様に、サンプルBを用いた塗布物のL*a*b*表色系における、a*値およびb*値が示されている。図8に示すように、サンプルBでは、塗布厚の増加によって、a*値が減少した。また、サンプルBでは、塗布厚の増加によって、b*値が減少し、負の値をとった。すなわち、サンプルBでは、塗布厚が大きくなることで、赤みと黄みとが弱くなり、かつ、青みが強くなった。サンプルBでは、塗布厚が大きくなることで、色素色による赤色の反射光の強度に対して、構造色による青色の反射光の強度が強まり、発色の色相が変化したと考えられる。
【0035】
図9は、サンプルCの塗布状態における反射スペクトルを示す図である。図9に示すように、サンプルCでは、サンプルAと同様に、青色の構造色の反射光と、黄色の色素色の反射光とが観測された。
【0036】
図10Aは、サンプルCの塗布状態における反射光強度と、反射光強度比とを、示す図である。図10Bは、サンプルCの塗布状態における塗布厚と反射光強度比との関係を示す図である。図10Aおよび図10Bに示すように、サンプルCでは、サンプルAおよびサンプルBと同様に、塗布厚が大きいほど、反射光強度比が大きかった。また、サンプルCと、図4に示したサンプルAとを比較すると、サンプルCにおける反射光強度比は、サンプルAにおける反射光強度比よりも大きかった。サンプルCでは、黒色粒子であるPS黒が、構造色の反射光の多重散乱を抑制して、構造色の反射光を強めたと考えられる。
【0037】
図11は、サンプルCの塗布状態における色空間を示す図である。図11には、図5と同様に、サンプルCのL*a*b*表色系におけるa*値およびb*値が示されている。図11に示すように、サンプルCでは、サンプルAと同様に、塗布厚が増加することによって、b*値が減少した。また、サンプルCでは、塗布厚の増加によって、b*値が減少することで負の値をとり、黄みが弱くなるだけでなく、青みが強くなった。
【0038】
なお、サンプルAやサンプルCでは、構造色と色素色とが互いに反対色の関係、特に、補色の関係にあるため、構造色と色素色とが互いに反対色の関係や補色の関係にないサンプルBと比較して、塗布厚の変化に対する発色の変化がより大きい。すなわち、サンプルAやサンプルCでは、塗布厚の増加によって、色素色と補色の関係にある構造色の反射光が強められるため、塗布厚の差による発色の差が大きくなる。特に、図11に示したサンプルBでは、塗布厚の増加によって、黄みが強い発色から青みが強い発色へと変化しており、例えば、赤みが強い発色から青みが強い発色へと変化した場合と比較して、その色相の変化が大きい。なお、色相の変化は、ある色が、色相環において対角である180度の位置に位置する色へと変化する場合、最も大きくなる。
【0039】
図10Aや、図10B図11に示したような実験結果を参照することで、塗料用色材の塗布厚によって、塗料用色材を含む塗料を支持体等に塗布した場合の発色を任意に調整できる。具体的には、図10A図10Bに示した塗布厚と反射光強度比との関係、および、図11に示した色空間とを参照して、特定の発色を実現するための塗布厚を調べ、その塗布厚となるように支持体上に塗料用色材を塗布することによって、塗料用色材を意図した色相に発色させることができる。なお、この場合、例えば、図10Aや、図10B図11の実験結果を解析して関数でフィッティングし、フィッティングした関数に基づいて特定の発色を実現するための塗布厚を調べてもよい。なお、同様に、図4A図4B図5に示したような実験結果を参照し、塗料用色材の発色を調整してもよい。また、図7Aや、図7B図8に示したような実験結果を参照し、塗料用色材の発色を調整してもよい。
【0040】
以上で説明した実験結果によれば、構造色の波長に応じた粒径の粒子を含む基材と、色素色を呈する有機有彩色色素とを含有する塗料用色材は、塗布厚によって有機有彩色色素と構造色とによる発色を調整可能な、新奇な発色を呈することが確認できた。
【0041】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10A
図10B
図11