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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069722
(43)【公開日】2022-05-12
(54)【発明の名称】塗料用色材、及び、塗布物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09C 3/08 20060101AFI20220502BHJP
   C09C 1/28 20060101ALI20220502BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20220502BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
C09C3/08
C09C1/28
C09D7/62
C09D201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020178525
(22)【出願日】2020-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】特許業務法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 利幸
(72)【発明者】
【氏名】山口 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】竹岡 敬和
(72)【発明者】
【氏名】坂井 美紀
【テーマコード(参考)】
4J037
4J038
【Fターム(参考)】
4J037AA18
4J037CB26
4J037DD05
4J037EE03
4J037FF02
4J038HA446
4J038JC38
4J038KA08
4J038KA20
4J038NA01
4J038PC02
4J038PC03
4J038PC08
4J038PC10
(57)【要約】
【課題】構造色と色素色とによる新奇な発色を呈する塗料用色材を提供する。
【解決手段】支持体に塗布される塗料用色材が提供される。この塗料用色材は、コア部と、コア部の周囲に形成されたタンニン酸鉄を含む色素層と、を有し、構造色の波長に応じた粒径を有する粒子を含有し、構造色と色素層とによる発色を呈し、発色が塗布厚によって調整可能であることを特徴とする。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体に塗布される塗料用色材であって、
コア部と、前記コア部の周囲に形成されたタンニン酸鉄を含む色素層と、を有し、構造色の波長に応じた粒径を有する粒子を含有し、
前記色素層と前記構造色とによる発色を呈し、
前記発色が塗布厚によって調整可能であることを特徴とする、塗料用色材。
【請求項2】
請求項1に記載の塗料用色材であって、
前記発色が、前記塗布厚に加え、前記支持体の吸水性によって調整可能であることを特徴とする、塗料用色材。
【請求項3】
コア部と、前記コア部の周囲に形成されたタンニン酸鉄を含む色素層と、を有し、構造色の波長に応じた粒径を有する粒子を含有する塗料を、支持体に塗布する工程と、
前記支持体上の前記塗料の厚みを調整して、前記色素層と前記構造色とによる発色を調整する工程と、を備える、塗布物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塗料用色材、及び、塗布物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料用色材に関して、光の吸収による色素色とは異なる、構造色を呈する色材が知られている。構造色は、色材の構造に起因する可視光の干渉や散乱によって生じる色である。そのため、構造色を呈する色材では、一般的な有機系の顔料や染料等と比較して太陽光による退色が生じにくく、一般的な有機系および無機系の顔料等と比較して環境負荷が生じにくい利点を有する。例えば、特許文献1には、コアシェル構造を有する粒子を含有し、構造色が発現した膜を形成可能な組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-47231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、構造色は様々な利点を有する。そのため、構造色を用いてこれまでにない新奇な発色を得ることができる技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の第1の形態によれば、支持体に塗布される塗料用色材が提供される。この塗料用色材は、コア部と、前記コア部の周囲に形成されたタンニン酸鉄を含む色素層と、を有し、構造色の波長に応じた粒径を有する粒子を含有し、前記色素層と前記構造色とによる発色を呈し、前記発色が塗布厚によって調整可能であることを特徴とする。
このような形態によれば、塗料用色材において、塗布厚を変化させることで、構造色の反射光と色素層の反射光との強度比を変化させ、発色を任意に変化させることができる。そのため、塗料用色材は、塗布厚によって発色を調整可能な、新奇な発色を呈する。
(2)上記形態において、前記発色が、前記塗布厚に加え、前記支持体の吸水性によって調整可能であることを特徴としてもよい。このような形態によれば、塗料用色材は、塗布厚に加え、支持体の吸水性によっても発色を調整可能な、新奇な発色を呈する。
(3)本開示の第2の形態によれば、塗布物の製造方法が提供される。この製造方法は、コア部と、前記コア部の周囲に形成されたタンニン酸鉄を含む色素層と、を有し、構造色の波長に応じた粒径を有する粒子を含有する塗料を、支持体に塗布する工程と、前記支持体上の前記塗料の厚みを調整して、前記色素層と前記構造色とによる発色を調整する工程と、を備える。このような形態によれば、塗料用色材の塗布厚によって発色が調整された、新奇な発色を呈する塗布物を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】塗料用色材の製造方法の一例を示す図。
図2】塗料用色材における色素層の追加形成方法の一例を示す図。
図3】塗布物の製造方法の一例を示す工程図。
図4】実験において作製されたサンプルとしての塗布物を示す図。
図5】サンプル1およびサンプル6の反射スペクトルを示す図。
図6】サンプル1における塗布厚と反射光強度比との関係を示す図。
図7】サンプル4の反射スペクトルを示す図。
図8】サンプル4における塗布厚と反射光強度比との関係を示す図。
図9】サンプル5の反射スペクトルを示す図。
図10】サンプル5における塗布厚と反射光強度比との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.実施形態:
本開示の塗料用色材は、コア部と、コア部の周囲に形成されたタンニン酸鉄を含む色素層と、を有し、構造色の波長に応じた粒径を有する粒子を含有している。塗料用色材は、色素層と構造色とによる発色を呈する。なお、構造色とは、色材の構造に起因する可視光の干渉や散乱によって生じる色である。そのため、構造色を呈する色材では、一般的な有機系の顔料や染料等と比較して太陽光による退色が生じにくい。
【0009】
本開示の塗料用色材は、塗料用色材が支持体に塗布される際の塗布厚を変化させることで、構造色の反射光と色素層による反射光との強度比を変化させ、その発色を任意に変化させることができる。すなわち、塗料用色材は、その発色を塗布厚によって調整可能である。これによって、同じ塗料用色材を用いた場合であっても、その塗布厚によって発色を異ならせることができるため、例えば、塗布の方法や、塗布に用いる道具等を異ならせ、塗料用色材の塗布厚を異ならせることによって、塗料用色材の発色の違いを容易に楽しむことができる。
【0010】
塗料用色材に含まれる粒子は、色素層をシェル部とする、いわゆるコアシェル形状を有している。すなわち、コア部と、コア部の周囲に形成された色素層とが一体となることによって、この粒子が形成されている。なお、以下では、本実施形態における、コア部の周囲に色素層が形成された粒子を、色材粒子とも呼ぶ。本実施形態では、コア部として、粒径が揃った球状に形成されたシリカ粒子が用いられる。コア部としては、低いHaze値を有する、透明または半透明の材料を用いると好ましい。なお、Haze値とは、材料の曇り度合いを示す指標であり、JISK7136に基づいて測定できる。
【0011】
色素層はタンニン酸鉄を含み、タンニン酸鉄に起因する色素色を呈する。色素色とは、ある物質において、ある波長領域の光が吸収され、吸収されなかった波長領域の光が反射されることによって生じる色である。一般的な有機系または無機系の顔料や染料等は、この色素色を呈する。なお、タンニン酸鉄は、例えば、塩化鉄(III)等の鉄塩とタンニン酸との反応によって生成することが知られている。また、タンニン酸鉄は、液性によって異なる発色を呈することが知られている。具体的には、タンニン酸鉄は、pHが3.0~6.0の条件下では二量化して青紫色を呈し、pHが7.0以上の条件下では三量化して赤褐色や赤紫色を呈する。
【0012】
色材粒子は、上述したように、構造色の波長に応じた粒径を有している。色材粒子は、例えば、塗料用色材が支持体に塗布された際に、支持体上で周期性を有して配列する。塗料用色材は、この色材粒子の配列によって、色材粒子の粒径に応じた波長の構造色を呈する。例えば、色材粒子が配列することによって、面心立方格子のコロイド結晶が形成されている場合、構造色の波長λと、コロイド結晶の平均の屈折率nと、色材粒子の粒径Dとは、以下の式(1)の関係をとる。
λ=1.633nD … (1)
平均の屈折率nは、コロイド結晶を構成する成分iの屈折率nと体積分率Φによって、以下の式(2)のように定まる。
=Σn Φ… (2)
なお、以下では、塗料用色材が支持体に塗布された状態のことを、「塗布状態」とも呼ぶ。
【0013】
色材粒子の粒径は、コア部の大きさと色素層の厚みとによって決定される。例えば、本実施形態では、色材粒子の粒径は、コア部を構成するシリカ粒子の粒径と、色素層の厚みとを、合計した値となる。従って、コア部の径や色素層の厚みを調整することによって、色材粒子の粒径を調整し、塗布状態において所望の構造色を発現させることができる。
【0014】
本実施形態のように、塗料用色材が、色材粒子の配列によって構造色を発現させる場合、構造色を発現させる部分の構造の周期が短くなり、色材の発色の角度依存性が低くなる。これに対して、例えば、色材が、一様な膜を有する薄膜状や多層膜状に形成された部分によって構造色を発現させる場合、構造色を発現させる部分の構造の周期が長くなる。この場合、構造色を発現させる部分の構造は、いわゆる薄膜干渉モデルや多層膜干渉モデルに近いものとなるため、色材の角度依存性が高くなる。なお、色材の角度依存性が高い場合、色材を見る角度や、色材への光の照射方向によって色材の色が異なって視認されやすい。
【0015】
塗料用色材は、支持体に塗布されて用いられる。支持体としては、例えば、ガラス材料や、セラミックス材料、金属材料、樹脂材料、紙、布等の種々の材質および形状のものを用いることができる。
【0016】
なお、塗料用色材は、塗布厚に加え、塗料用色材が塗布される支持体の吸水性によって発色を調整可能であってもよい。支持体の吸水性は、例えば、支持体の材質によって調整されてもよいし、支持体にコーティング等の処理を施すことによって調整されてもよい。
【0017】
図1は、本実施形態の塗料用色材の製造方法の一例を示す図である。この製造方法では、まず、ステップS110にて、第1液と第2液とを準備する。第1液とは、溶質として鉄(Fe)を含む溶液に、コア部を形成するシリカ等の粒子が懸濁した懸濁液である。第2液とは、タンニン酸を含む溶液である。次に、ステップS120にて、第1液と第2液とを混合し、第1液と第2液との混合液を生成させる。ステップS120では、例えば、水等に第1液と第2液とを交互に投入し、撹拌等によって第1液と第2液とを混合する。ステップS120が実行されることによって、第1液と第2液との混合液において、色材粒子が形成される。その後、ステップS130にて、ステップS120において生成された色材粒子を洗浄することで、塗料用色材が得られる。ステップS130では、例えば、色材粒子に純水を加えたものを遠心分離し、遠心分離によって生じる上澄みを廃棄する操作を繰り返すことによって、色材粒子に付着した不純物を洗い流すことができる。なお、ステップS120の実行を開始してから、ステップS130の実行を開始するまでの間に、混合液のpH調整を行ってもよい。例えば、ステップS120の完了後等に、混合液に、水酸化ナトリウム等の塩基を添加することによって、塗布状態における色素層による発色を変化させることができる。
【0018】
図2は、塗料用色材における色素層の追加形成方法の一例を示す図である。図2に示すように、塗料用色材の色素層の周囲に、更に、タンニン酸鉄を含む層を形成させることによって、色素層の厚みを増大させることができる。まず、ステップS210にて、第3液と第4液とを準備する。第3液とは、溶質としてFeを含む溶液に色材粒子が懸濁した懸濁液である。第4液とは、第2液と同様にタンニン酸を含む溶液である。次に、ステップS220にて、図1のステップS120において第1液と第2液とを混合するのと同様に、第3液と第4液とを混合し、第3液と第4液との混合液を生成させる。ステップS220が実行されることによって、混合液において、色材粒子の色素層の周囲に、更に色素層が形成され、色素層の厚みが増大する。そして、ステップS230にて、図1のステップS120と同様に、ステップS220において得られた色材粒子を洗浄する。図1に示した製造方法と同様に、ステップS220の実行を開始してから、ステップS230の実行を開始するまでの間に、混合液のpHを調整してもよい。なお、例えば、色素層の追加形成を行わなくてもよいし、色素層の追加形成を2回以上行ってもよい。このように、色素層の追加形成を行う回数を調整することによって、塗料用色材における色素層の厚みを調整できる。
【0019】
図3は、塗布物の製造方法の一例を示す工程図である。塗布物は、支持体上に、本実施形態の塗料用色材を含む塗料が塗布されることによって、製造される。この製造方法では、まず、ステップS310にて、塗料と支持体とを準備する。なお、塗料としては、例えば、塗料用色材を水等の液体に分散させたものを用いることができる。液体として水以外を用いる場合、例えば、色材粒子や色素層との化学反応等によって塗料用色材の色素層による発色や構造色を失わせない液体を選択すると好ましい。また、塗料は、例えば、塗料の保存性等を向上させるための添加剤を含んでいてもよい。次に、ステップS320にて、色素色と構造色とによる発色が予め定められた発色となるように、支持体上の塗料の厚みを調整しつつ、支持体に塗料を塗布する。具体的には、ステップS320では、例えば、乾燥後の塗料の厚みが予め定められた厚みとなるように、支持体への塗料の塗布回数や塗布量を調整する。支持体への塗料の塗布は、完成した塗布物が構造色を呈する方法であればよく、例えば、支持体への塗料の滴下や噴霧によって行われてもよいし、筆や刷毛等を用いて行われてもよいし、スピンコートによって行われてもよい。その後、ステップS330にて、支持体上に塗布した塗料を自然乾燥等によって乾燥させる。
【0020】
なお、支持体上の塗料用色材の厚みの調整を、例えば、ステップS320において塗布を行った後や、ステップS330において乾燥を行った後に行ってもよい。また、ステップS310において準備する支持体の吸水性を調整することによって、支持体の吸水性によっても、塗料用色材の塗布状態における発色を調整できる。
【0021】
以上で説明した本実施形態の塗料用色材は、コア部と、タンニン酸鉄からなる色素層とを有し、構造色の波長に応じた粒径を有する色材粒子を含有している。これによって、塗料用色材は、塗布厚を変化させることで、構造色の反射光と色素層による反射光との強度比を変化させ、発色を任意に変化させることができる。そのため、塗料用色材は、塗布厚によって発色を調整可能な、新奇な発色を呈する。また、本実施形態の塗料用色材は、色素層と構造色とによる発色を呈するため、例えば、一般的な有機系の顔料や染料等の色素色のみを発色する色材と比較して、太陽光等によって色を失いにくい。更に、色素層による発色は構造色と比較して太陽光等によって退色しやすいため、例えば、塗布物における発色の経年変化を楽しむことができる他、発色の経年変化を経年の指標とすることができる。加えて、コア部を形成する材料として、例えば、シリカ、あるいは、シリカを50質量%以上含有するガラス等の材料を用いることによって、一般的な有機系および無機系の顔料等と比較して色材による環境負荷を低減し、かつ、色材の新奇な発色を実現できる。
【0022】
また、本実施形態では、塗料用色材は、塗布厚に加え、支持体の吸水性によって発色を調整する。そのため、塗料用色材は、塗布厚に加え、支持体の吸水性によっても発色を調整可能な、新奇な発色を呈する。
【0023】
B.実験結果:
実験用に、種々の色材を作製した。また、サンプルとして、作製した色材を支持体に塗布して塗布物を作製し、作製した塗布物の反射スペクトルを測定することによって、上記実施形態の効果を検証した。
【0024】
色材として、色材Aから色材Eの5種類を作製した。色材Aから色材Cを、図1に示した製造方法に従って作製し、更に、図2に示した方法によって色素層を追加形成させた。また、色材Dおよび色材Eを、後述する方法によって作製した。なお、コア部のシリカ粒子の原料となるシリカ粒子水懸濁液としては、富士化学株式会社製のシリカ粒子水懸濁液を用いた。具体的には、色材Aおよび色材Bの作製では、平均粒径268.3nmのシリカ粒子を26.3質量%含むシリカ粒子水懸濁液を、色材Cの作製では、平均粒径322.4nmのシリカ粒子を26.8質量%含むシリカ粒子水懸濁液を、それぞれ用いた。なお、これらのシリカ粒子の平均粒径は、動的光散乱法による粒度分布の測定結果に基づいて算出された。具体的には、動的光散乱法による測定結果から算出されるシリカ粒子のメディアン径(D50)を、平均粒径とした。なお、各シリカ粒子水懸濁液の密度は、全て2.2g/cmである。また、各色材の作製に用いたシリカ粒子水懸濁液に含まれるシリカ粒子の平均粒径を、各色材のコア部の平均粒径とした。タンニン酸の原料としては、キシダ化学株式会社製のタンニン酸(分子量1701.19)を用いた。
【0025】
色材Aの作製では、まず、塩化鉄(III)六水和物の濃度が40g/Lの塩化鉄(III)六水和物水溶液0.05mLと、シリカ粒子水懸濁液0.55mLとを、ボルテックスを用いて混合することによって、ステップS110の第1液を調製した。第1液の調製に先立って、シリカ粒子水懸濁液に超音波を90分間照射することで、シリカ粒子水懸濁液におけるシリカ微粒子の分散性を向上させた。第2液としては、タンニン酸の濃度が13g/Lのタンニン酸水溶液を0.6mL準備した。次に、ステップS120にて、シリンジを用いて、第1液と第2液とを1滴(約0.03mL)ずつ交互に、それぞれ計0.6mLを、25mLの純水に投入し、スターラーを用いて撹拌して混合することによって、第1液と第2液との混合液を調製し、色材粒子を得た。ステップS120の完了後、混合液に1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液0.2mLを添加することによって、混合液のpHを8.0に調整した。その後、ステップS130において、まず、混合液を遠心分離し、遠心分離によって生じた上澄みを廃棄することによって、色材粒子を含む残渣を得た。次に、残渣に純水を加えたものをボルテックスによって混合し、混合によって得られた懸濁液を更に遠心分離し、遠心分離によって生じた上澄みを廃棄する操作を繰り返すことによって、色材粒子を洗浄した。
【0026】
更に、ステップS130において得られた色材粒子を水に懸濁させることによって0.55mLの懸濁液を調製し、調製した色材の懸濁液と、ステップS110と同様の塩化鉄(III)六水和物水溶液とを、ボルテックスを用いて混合することによって、図2に示したステップS210の第3液を調製した。その後、ステップS120およびステップS130と同様に、ステップS220およびステップS230を行い、色材粒子の周囲に色素層を追加して形成した。なお、色材Aでは、色素層の追加形成工程においても、ステップS220の完了後において、ステップS120の完了後と同様に、混合液のpH調整を行った。また、この色素層の追加形成を、計2回ずつ行った。
【0027】
色材Bの作製では、ステップS120の完了後、および、ステップS220の完了後にpH調整を行わなかったこと以外、色材Aと同様の手順を実行した。なお、色材Bの作製では、ステップS120の完了後、および、ステップS220の完了後のpHは5.0であった。色材Cの作製では、ステップS110において、塩化鉄(III)六水和物の濃度が40g/Lの塩化鉄(III)六水和物水溶液0.05mLと、シリカ粒子水懸濁液0.55mLとを、ボルテックスを用いて混合することによって、第1液を調製した。ステップS210にて、ステップS130において色材を水に懸濁させることによって0.55mLの懸濁液を調製し、調製した色材の懸濁液と、ステップS110と同様の塩化鉄(III)六水和物水溶液とを、ボルテックスを用いて混合して第3液を調製した。なお、色材Cの作製では、色材Bの作製と同様に、ステップS120の完了後、および、ステップS220の完了後にpH調整を行わなかった。色材Cの作製では、色材Bの作製の場合と同様に、ステップS120の完了後、および、ステップS220の完了後のpHは5.0であった。また、色材Cの作製では、特に説明しない部分については、色材Bの作製と同様の手順を実行した。
【0028】
色材Dおよび色材Eは、塩化鉄(III)六水和物水溶液と第2液とを混合することによって作製した。具体的には、塩化鉄(III)六水和物の濃度が40g/Lの塩化鉄(III)六水和物水溶液0.05mlと、タンニン酸の濃度が13g/Lの第2液0.6mLとを、25mLの純水に投入し、スターラーを用いて撹拌して混合することによって、色材を得た。色材Dの作製では、混合液の調整が完了した後、混合液に1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液0.2mLを添加することによって、混合液のpHを8.0に調整した。色材Eの作製では、混合液のpH調整を行わず、混合液の調整が完了した後の混合液のpHは5.0であった。なお、色材Dの作製および色材Eの作製では、洗浄工程を実行しなかった。
【0029】
色材Bおよび色材Cに含まれる色材粒子の平均粒径を、コア部の平均粒径と同様の方法によって算出した。なお、測定した色材粒子の平均粒径から、コア部の粒径を差し引くことによって、コア部の周囲に形成された色素層の厚みを算出できる。
【0030】
図4は、実験において作製されたサンプルとしての塗布物を示す図である。図4には、各サンプルの作製に用いられた色材の種類および支持体の種類、並びに、各サンプルにおける色素層による発色および構造色が示されている。図4に示した各サンプルを、図3に示した塗布物の製造方法に従って、色材を支持体に塗布した後に乾燥させることによって作製した。図4に示すように、サンプル1からサンプル3と、サンプル6と、サンプル7とでは、支持体として、ニッカトー社製の白色の素焼き板を用いた。サンプル4では、支持体として、透明ガラス板、具体的には、松波硝子工業社製の透明スライドガラスを用いた。サンプル5では、支持体として、白色の画用紙、具体的には、キャンソン社製の白色モンバルキャンソン紙を用いた。各サンプルの作製において、色材の塗布量を調整することによって、各サンプルについて、異なる塗布厚を有する複数の塗布物を作製した。
【0031】
塗布物の反射スペクトルを、オーシャンオプティクス社製の小型ファイバー光学分光器USB2000 Miniature Fiber Optic Spectrometerを使用して測定した。具体的には、白色光を、サンプルに対して、その入射角が垂直となるように照射し、相対反射スペクトルを測定した。相対反射スペクトル測定におけるリファレンス試料としては、Ocean Photonics社製のPTFE標準白色板WS-1を用いた。白色光源としては、ハロゲンランプを使用した。なお、支持体として透明ガラスを用いたサンプル4では、白色の画用紙上にサンプルを載置して測定を行った。また、測定した反射スペクトルから、反射光強度比を算出した。反射光強度比とは、色素層による発色の反射光強度に対する構造色の反射光強度の比である。
【0032】
塗布物の塗布厚を、塗布物の断面のSEM(走査型電子顕微鏡)像を用いて算出した。具体的には、塗布物ごとに4枚の断面SEM像を観測し、SEM像1枚ごとに2点ずつ、支持体を除いた部分の厚みを測定し、測定した計8点の厚みの平均値を算出することで、塗布物の塗布厚を算出した。
【0033】
色材Bの色材粒子の平均粒径は286.7nmであり、色材Cの色材粒子の平均粒径は373.6nmであった。色材Bおよび色材Cでは、コア部としてのシリカ粒子にタンニン酸鉄が吸着することによって、コア部の周囲にタンニン酸鉄を含む色素層が形成され、コア部の平均粒径よりも大きい平均粒径を有する色材粒子が形成されたと考えられる。また、色材Cの色材粒子の平均粒径は、色材Bの色材粒子の平均粒径よりも大きかった。色材Cと、色材Bとでは、上述した色素層の追加形成の回数がそれぞれ同じであるため、色材Cでは、コア部の平均粒径に起因して、色材粒子の平均粒径が大きかったと考えられる。
【0034】
図4に示すように、サンプル1からサンプル5は、色素層による発色と、色材粒子の粒径に対応する構造色とを、呈した。具体的には、それぞれ色材Aを用いたサンプル1とサンプル4とサンプル5とは、色素層の赤褐色と構造色の緑色とによる発色を呈した。色材Bを用いたサンプル2は、色素層の青紫色と構造色の緑色とによる発色を呈した。色材Cを用いたサンプル3は、色素層の青紫色と構造色の赤色とによる発色を呈した。色材Dを用いたサンプル6は、色素層の赤褐色を呈し、構造色を呈さなかった。色材Eを用いたサンプル7は、色素層の青紫色を呈し、構造色を呈さなかった。色材Dおよび色材Eは、コア部を有していないため、サンプル6およびサンプル7は構造色を呈さなかったと考えられる。
【0035】
色材Cを用いたサンプル3と、色材Aまたは色材Bを用いたサンプルとでは、構造色の色相が異なっていた。上述したように、色材Cに含まれる色材粒子の粒径は、色材Bに含まれる色材粒子の粒径よりも大きい。また、上述したように、色材Aの作製方法と色材Bの作製方法との相違点はpH調整の有無のみであるため、色材Aの色材粒子の平均粒径は、色材Bの色材粒子の平均粒径と同程度と考えられる。そのため、サンプル3では、色材粒子の粒径に対応して、色材Aや色材Bを用いたサンプルと比較して、より長波長の赤色の構造色を呈したと考えられる。従って、塗料用色材において、例えば、構造色の波長と色材粒子の粒径との関係を実験によって予め調べ、所望の構造色が発現するように色材粒子の粒径を調整することによって、所望の構造色を発現させることができる。
【0036】
図5は、サンプル1およびサンプル6の反射スペクトルを示す図である。サンプル1では、各塗布厚において、緑色の構造色の反射光が観測された。具体的には、塗布5.17μm、塗布厚7.78μm、塗布厚28.54μm、および、塗布厚48.59μmの場合に波長555.04nmの位置に、塗布厚144.67μmの場合に波長543.45nmの位置に、構造色の反射光が観測された。また、サンプル1およびサンプル6では、波長700nm~750nmの位置に、色素層による赤色ないし赤褐色の反射光が観測された。
【0037】
図6は、サンプル1における塗布厚と反射光強度比との関係を示す図である。なお、図6における反射光強度比は、波長700nmの位置における反射光強度に対する、各塗布厚の、上述した波長における構造色の反射光強度の比として、算出された。図6に示すように、サンプル1では、塗布厚が大きいほど、反射光強度比が大きかった。また、サンプル1を目視すると、塗布厚が大きいほど、より緑みが強かった。サンプル1では、塗布厚が大きいほど、粒子が周期性を有して配列した部分が厚み方向に増加し、色素層による発色の反射光に対する構造色の反射光が強くなったと考えられる。
【0038】
図7は、サンプル4の反射スペクトルを示す図である。サンプル4では、各塗布厚において、サンプル1と同様に、緑色の構造色の反射光が観測された。具体的には、塗布厚4.70μmの場合に波長553.5nmの位置、塗布厚17.00μmの場合に波長567.4nmの位置、塗布厚23.60μmの場合に波長551.18nmの位置、塗布厚180.00μmの場合に波長538.03nmの位置、塗布厚326.00μmの場合に波長526.41nmの位置に、構造色の反射光が観測された。また、サンプル4では、サンプル1と同様に、波長700nm~750nmの位置に、色素層による赤色ないし赤褐色の反射光が観測された。
【0039】
図8は、サンプル4における塗布厚と反射光強度比との関係を示す図である。なお、図8における反射光強度比は、図6に示したサンプル1における反射光強度比と同様に算出された。図8に示すように、サンプル4では、サンプル1と同様に、塗布厚が大きいほど、反射光強度比が大きかった。また、サンプル4を目視すると、サンプル1と同様に、塗布厚が大きいほど、より緑みが強かった。従って、サンプル4では、サンプル1と同様に、塗布厚が大きいほど、粒子が周期性を有して配列した部分が厚み方向に増加し、色素層による発色の反射光に対する構造色の反射光が強くなったと考えられる。
【0040】
図9は、サンプル5の反射スペクトルを示す図である。サンプル5では、各塗布厚において、サンプル1およびサンプル4と同様に、緑色の構造色の反射光が観測された。具体的には、塗布厚45.11μmの場合に波長545.77nmの位置、塗布厚78.59μmの場合に波長543.45nmの位置、塗布厚122.44μmの場合に波長531.80nmの位置に構造色の反射光が観測された。また、サンプル5では、サンプル1およびサンプル4と同様に、波長700nm~750nmの位置に、色素層による赤色ないし赤褐色の反射光が観測された。
【0041】
図10は、サンプル5における塗布厚と反射光強度比との関係を示す図である。なお、図10における反射光強度比は、図6に示したサンプル1および図8に示したサンプル4における反射光強度比と同様に算出された。図10に示すように、サンプル5では、サンプル1およびサンプル4と同様に、塗布厚が大きいほど、反射光強度比が大きかった。また、サンプル5を目視すると、サンプル1およびサンプル4と同様に、塗布厚が大きいほど、より緑みが強かった。サンプル5では、サンプル1およびサンプル4と同様に、塗布厚が大きいほど、粒子が周期性を有して配列した部分が厚み方向に増加し、色素層による発色の反射光に対する構造色の反射光が強くなったと考えられる。
【0042】
図5および図6に示したサンプル1では、図7および図8に示したサンプル4と比較して、反射光強度比が大きく、また、塗布厚の増加に対する反射光強度比の増加の程度が大きい。サンプル1の支持体は素焼き板であるため、サンプル4の支持体であるガラス板よりも高い吸水性を有している。従って、サンプル1の作製時、支持体上で塗料を乾燥させる工程において、塗料に含まれる液体成分が支持体に吸収されやすい。そのため、素焼き板よりも低い吸水性を有するガラス板等が支持体として用いられる場合と比較して、支持体への液体成分の吸収による拡散に伴って色材粒子の配列が乱され、粒子が周期性を有して配列しにくかったと考えられる。一方で、サンプル4では、支持体上で塗料を乾燥させる工程において、塗料に含まれる液体成分が支持体に吸収されにくいため、粒子が周期性を有して配列しやすかったと考えられる。
【0043】
また、図9および図10に示したサンプル5では、図4および図5に示したサンプル1と比較して、反射光強度比が大きく、また、塗布厚の増加に対する反射光強度比の増加の程度が大きい。また、図7および図8に示したサンプル4と比較して、反射光強度比が小さく、また、塗布厚の増加に対する反射光強度比の増加の程度が小さい。サンプル5の支持体は画用紙であるため、ガラス板より高く、素焼き板より低い吸水性を有している。従って、サンプル5では、支持体上で塗料を乾燥させる工程において、サンプル1と比較して粒子が周期性を有して配列しやすく、かつ、サンプル4と比較して粒子が周期性を有して配列しにくかったと考えられる。
【0044】
なお、図6図8図10に示したような実験結果を参照することで、塗料用色材の塗布厚によって、塗料用色材を含む塗料を支持体等に塗布した場合の発色を任意に調整できる。例えば、図6に示した実験結果を参照する場合、図6に示した塗布厚と反射光強度比との関係、および、反射光強度比と発色との関係を調べ、その塗布厚となるように支持体上に塗料用色材を塗布することによって、塗料用色材を意図した色相等に発色させることができる。なお、反射光強度比と発色との関係を、例えば、ある反射光強度比における発色を目視で確認することによって調べてもよいし、反射スペクトルからL*a*b*表色系等の色空間におけるL*値やa*値やb*値を算出し、これらの値と反射光強度比との関係を調べてもよい。この場合、例えば、図6の実験結果や、L*a*b*色空間における各値の変化等を解析して関数でフィッティングし、フィッティングした関数に基づいて特定の発色を実現するための塗布厚を調べてもよい。また、例えば、塗布厚と発色との関係を調べてもよい。更に、図6図8図10に示したような、それぞれ異なる吸水性を有する支持体を用いて塗料用色材を作製した場合の実験結果を参照することで、支持体の吸水性と発色との関係を調べ、支持体の吸水性によって塗布物の発色を調整できる。
【0045】
以上で説明した実験結果によれば、コア部と、コア部の周囲に形成されたタンニン酸鉄を含む色素層とを有する粒子を含有する塗料用色材は、塗布厚によって発色を調整可能な、新奇な発色を呈することが確認できた。
【0046】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10