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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069775
(43)【公開日】2022-05-12
(54)【発明の名称】マススペクトル処理装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20220502BHJP
   H01J 49/00 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
G01N27/62 D
H01J49/00 360
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020178618
(22)【出願日】2020-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 歩
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA04
2G041GA03
2G041GA06
(57)【要約】
【課題】マススペクトルに含まれるケミカルノイズをそれが有する周期性を利用して効果的に除去する。
【解決手段】抽出部32は、マススペクトル31に含まれるケミカルノイズの基本パターンを抽出する。生成部38は、基本パターンに対する強度補正により生成された複数の疑似断片の連結体として、疑似ケミカルノイズを生成する。除去部39は、マススペクトルから疑似ケミカルノイズを除去する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マススペクトルに含まれるケミカルノイズの基本パターンを抽出する抽出部と、
前記基本パターンに対する強度補正により生成された複数の疑似断片の連結体として疑似ケミカルノイズを生成する生成部と、
前記マススペクトルから前記疑似ケミカルノイズを除去する除去部と、
を含むことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項2】
請求項1記載のマススペクトル処理装置において、
前記抽出部は、
前記ケミカルノイズの質量ピッチに従って前記マススペクトルから複数の実断片を切り出す切り出し器と、
前記複数の実断片に基づいて前記基本パターンを生成するパターン生成器と、
を含むことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項3】
請求項2記載のマススペクトル処理装置において、
前記抽出部は、前記マススペクトルの解析により前記質量ピッチを求めるピッチ判定器を含む、
ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項4】
請求項3記載のマススペクトル処理装置において、
前記ピッチ判定器は、前記マススペクトルに対して設定されたケミカルノイズ参照範囲内のマススペクトル部分を用いた自己相関演算により前記質量ピッチを求める、
ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項5】
請求項2記載のマススペクトル処理装置において、
前記パターン生成器は、
前記複数の実断片に基づいて強度関数を演算する関数演算器と、
前記強度関数に基づいて前記複数の実断片を規格化する規格化器と、
前記規格化後の複数の実断片に基づいて前記基本パターンを生成する演算器と、
を含む、ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項6】
請求項1記載のマススペクトル処理装置において、
前記生成部は、
前記マススペクトルから求められる強度関数に基づいて前記基本パターンに対して強度補正を適用することにより複数の疑似断片を生成する補正器と、
前記複数の疑似断片を連結することにより前記疑似ケミカルノイズを構成する連結器と、
を含むことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項7】
請求項1記載のマススペクトル処理装置において、
前記生成部は、
前記基本パターンに基づいて複数の仮断片の連結体を構成する連結器と、
前記マススペクトルから求められる強度関数に基づいて前記複数の仮断片に対して強度補正を適用することにより前記疑似ケミカルノイズを生成する補正器と、
を含むことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項8】
請求項1記載のマススペクトル処理装置において、
前記疑似ケミカルノイズを除去する前及び後の2つのマススペクトルを表示する表示処理部を含む、
ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項9】
請求項8記載のマススペクトル処理装置において、
前記表示処理部は、更に前記疑似ケミカルノイズを表示する、
ことを特徴とするマススペクトル処理装置。
【請求項10】
マススペクトルに含まれるケミカルノイズの基本パターンを抽出する工程と、
前記基本パターンに対して強度補正を適用することにより生成される複数の疑似断片の連結体として疑似ケミカルノイズを生成する工程と、
前記マススペクトルから前記疑似ケミカルノイズを除去する工程と、
を含むことを特徴とするマススペクトル処理方法。
【請求項11】
情報処理装置において実行されるマススペクトル処理用のプログラムであって、
マススペクトルに含まれるケミカルノイズの基本パターンを抽出する機能と、
前記基本パターンに対して強度補正を適用することにより生成される複数の疑似断片の連結体として疑似ケミカルノイズを生成する機能と、
前記マススペクトルから前記疑似ケミカルノイズを除去する機能と、
を含むことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマススペクトル処理装置及び方法に関し、特に、マススペクトルに含まれる特定のノイズ成分の除去に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析システムは、一般に、質量分析装置とマススペクトル処理装置とにより構成される。マススペクトル処理装置においては、試料の質量分析により生成されたマススペクトルが処理される。
【0003】
マススペクトル中に質量軸(m/z軸)上において周期性を有するノイズ成分が含まれることがある。例えば、イオン源として、MALDI(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization)法に従うイオン源を用いた場合、そのようなノイズ成分が生じ易い。周期性を有するノイズ成分は、一般に、電気的ノイズに由来するものではなく、観測対象以外の物質(典型的には試料中の夾雑物)に由来するものであると解されている。そのような点に着目し、周期性をもったノイズ成分は、一般に、ケミカルノイズと称される。本明細書においても、周期性を有するノイズ成分をケミカルノイズと称する。
【0004】
ケミカルノイズは、質量軸(m/z軸)上において連なる複数の繰り返し単位により構成される。繰り返し単位の幅、つまりケミカルノイズの質量ピッチは、典型的には、1u近傍の値であるが、それはケミカルノイズを生じさせた物質に依存する。ケミカルノイズは、マススペクトルにおいて特に低質量側で顕著に生じる。
【0005】
特許文献1には、マススペクトルからケミカルノイズを除外する技術が開示されている。この技術では、繰り返し単位に相当する注目ウインドウの内部が複数のチャンネルに分割され、個々のチャンネルごとにバックグラウンド成分が除去されている。注目ウインドウは、固定された幅を有している。バックグラウンド成分の強度は、注目ウインドウの前後に離散的に分布する8個のチャンネルの参照により生成された強度ヒストグラムから演算されており、それは概して平均強度である。特許文献1に開示された技術は、ケミカルノイズの基本形を抽出しそれを利用してケミカルノイズの除去を行うものではない。なお、特許文献2の図2には、ケミカルノイズが示されている。しかし、特許文献2には、ケミカルノイズを除去する技術は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-201899号公報
【特許文献2】特表2004-519665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マススペクトルの観察、解析等に先立って、マススペクトルに含まれるケミカルノイズを効果的に除去しておくことが求められる。これに関し、波形フィッティング法を利用して、マススペクトル中のベースライン成分を推定した上で、マススペクトルからベースライン成分を減算することが考えられる。しかし、そのような方法では、通常、100u以上の大きな変動しか抑圧できず、ケミカルノイズを十分に除去することはできない。
【0008】
本発明の目的は、マススペクトルに含まれるケミカルノイズをそれが有する周期性を利用して効果的に除去することにある。あるいは、本発明の目的は、真のピークが保存され易いケミカルノイズ除去技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るマススペクトル処理装置は、マススペクトルに含まれるケミカルノイズの基本パターンを抽出する抽出部と、前記基本パターンに対する強度補正により生成された複数の疑似断片の連結体として疑似ケミカルノイズを生成する生成部と、前記マススペクトルから前記疑似ケミカルノイズを除去する除去部と、を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明に係るマススペクトル処理方法は、マススペクトルに含まれるケミカルノイズの基本パターンを抽出する工程と、前記基本パターンに対して強度補正を適用することにより生成される複数の疑似断片の連結体として疑似ケミカルノイズを生成する工程と、前記マススペクトルから前記疑似ケミカルノイズを除去する工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明に係るプログラムは、情報処理装置において実行されるマススペクトル処理用のプログラムであって、マススペクトルに含まれるケミカルノイズの基本パターンを抽出する機能と、前記基本パターンに対して強度補正を適用することにより生成される複数の疑似断片の連結体として疑似ケミカルノイズを生成する機能と、前記マススペクトルから前記疑似ケミカルノイズを除去する機能と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、マススペクトルに含まれるケミカルノイズをその周期性を利用して効果的に除去できる。あるいは、本発明によれば、真のピークが保存され易いケミカルノイズ除去技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係るマススペクトル処理装置を示すブロック図である。
図2】ケミカルノイズ処理部の構成例を示すブロック図である。
図3】ケミカルノイズを含有するマススペクトルの一例を示す図である。
図4】マススペクトルに基づく自己相関係数の演算を説明するための図である。
図5】自己相関係数の分布を示す図である。
図6】強度積算値の変化を示す図である。
図7】複数の実断片の規格化を示す図である。
図8】基本パターンから生成される強度補正後の複数の疑似断片を示す図である。
図9】推定されたケミカルノイズの一例を示す図である。
図10】ケミカルノイズ除去後のマススペクトルの一例を示す図である。
図11】マススペクトルの第1部分を示す拡大図である。
図12】マススペクトルの第2部分を示す拡大図である。
図13】マススペクトルの第3部分を示す拡大図である。
図14】表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
(1)実施形態の概要
実施形態に係るマススペクトル処理装置は、抽出部、生成部、及び、除去部を含む。抽出部は、マススペクトルに含まれるケミカルノイズの基本パターンを抽出する。生成部は、基本パターンに対する強度補正により生成された複数の疑似断片の連結体として疑似ケミカルノイズを生成する。除去部は、マススペクトルから疑似ケミカルノイズを除去する。
【0016】
上記構成によれば、ケミカルノイズの基本パターンを基礎として疑似ケミカルノイズを生成できるので、疑似ケミカルノイズの品質つまりケミカルノイズの推定精度を高められる。換言すれば、マススペクトルから疑似ケミカルノイズを除去する際に、真のピークを保存できる可能性を高められ、また、ケミカルノイズを効果的に除去できる。
【0017】
ケミカルノイズは、周期性を有し、複数の繰り返し単位により構成されるものである。個々の繰り返し単位は、ほぼ同様の形態を有する。つまり、複数の繰り返し単位それら全体から基本パターンを抽出し得る。基本パターンは、基本形態又は共通波形であり、疑似断片から見るならばテンプレートである。もっとも、ケミカルノイズをマクロ観察すると、ケミカルノイズの強度が質量軸に沿って変化する傾向(低質量側においてより強度が大きくなる傾向)が認められる。かかる強度変化に影響されないように、基本パターンが抽出される。ケミカルノイズそれ全体から又はその大部分から基本パターンを抽出すれば、より優良な基本パターンが得られる可能性を高められる。
【0018】
疑似ケミカルノイズの生成に際しては、実施形態において、強度補正及び連結の2つの工程が実行される。いずれかの工程が先に実行されてもよいし、それらが同時に実行されてもよい。具体的には、基本パターンに対して強度補正を適用して複数の疑似断片を生成した上でそれらを連結してよいし、基本パターンに基づいて複数の仮断片の連結体を構成した上で複数の仮断片に対して強度補正を適用してもよい。疑似断片は、マススペクトルから切り出される実断片に対比される概念であり、強度補正後の模擬断片又は人工断片である。仮断片は、基本パターンそれ自体に相当し、強度補正前の断片である。
【0019】
実施形態において、抽出部は、切り出し器、及び、パターン生成器を含む。切り出し器は、ケミカルノイズの質量ピッチに従ってマススペクトルから複数の実断片を切り出す。パターン生成器は、複数の実断片に基づいて基本パターンを生成する。ケミカルノイズが存在する範囲にわたって多数の実断片を参照することにより、基本パターンの品質をより高められる。もっとも、ケミカルノイズが存在する範囲に対して複数の参照範囲を設定し、個々の参照範囲ごとに基本パターンを生成してもよい。
【0020】
実施形態において、抽出部は、マススペクトルの解析により質量ピッチを求めるピッチ判定器を含む。質量ピッチはケミカルノイズを生じさせた物質に依存して変動するので、マススペクトルを実際に解析して質量ピッチを判定するものである。実施形態において、ピッチ判定器は、マススペクトルに対して設定されたケミカルノイズ参照範囲内のマススペクトル部分を用いた自己相関演算により質量ピッチを求める。マススペクトル全体に対してケミカルノイズ参照範囲が設定されてもよい。質量ピッチは、ケミカルノイズにおける繰り返し単位の繰り返し周期であり、また、繰り返し単位の質量幅である。自己相関演算の他、空間周波数の周波数解析等によっても、質量ピッチを特定し得る。
【0021】
実施形態において、パターン生成器は、関数演算器、規格化器、及び、基本パターンを生成する演算器を含む。関数演算器は、複数の実断片に基づいて強度関数を演算する。規格化器は、強度関数に基づいて複数の実断片を規格化する。演算器は、規格化後の複数の実断片に基づいて基本パターンを生成する。規格化により、複数の実断片間において強度を揃えることが可能となる。規格化後の複数の実断片の積算又は平均化により基本パターンを生成し得る。
【0022】
実施形態において、生成部は、補正器、及び、連結器を含む。補正器は、マススペクトルから求められる強度関数に基づいて基本パターンに対して強度補正を適用することにより複数の疑似断片を生成する。連結器は、複数の疑似断片を連結することにより疑似ケミカルノイズを構成する。あるいは、連結器は、基本パターンに基づいて複数の仮断片の連結体を構成する。補正器は、マススペクトルから求められる強度関数に基づいて複数の仮断片に対して強度補正を適用することにより疑似ケミカルノイズを生成する。
【0023】
実施形態に係るマススペクトル処理装置は、疑似ケミカルノイズを除去する前及び後の2つのマススペクトルを表示する表示処理部を含む。この構成によれば、ケミカルノイズ除去処理が適正に遂行されたことを確認でき、また、ケミカルノイズ除去効果の程度を視覚的に特定し得る。表示処理部は、更に疑似ケミカルノイズを表示する。この構成によれば、マススペクトル中のケミカルノイズを視覚的に特定し得る。疑似ケミカルノイズの通常表示及び拡大表示の両方を行ってもよい。2つの試料間において2つの疑似ケミカルノイズが対比されてもよい。これにより、試料中の夾雑物が定性解析又は定量解析されてもよい。
【0024】
実施形態に係るマススペクトル処理方法は、抽出工程、生成工程、及び、除去工程を含む。抽出工程では、マススペクトルに含まれるケミカルノイズの基本パターンが抽出される。生成工程では、基本パターンに対して強度補正を適用することにより生成される複数の疑似断片の連結体として疑似ケミカルノイズが生成される。除去工程では、マススペクトルから疑似ケミカルノイズが除去される。
【0025】
上記マススペクトル処理方法は、ハードウエアの機能として又はソフトウエアの機能として実現される。後者の場合、マススペクトル処理方法を実行するプログラムが、ネットワークを介して又は可搬型記憶媒体を介して情報処理装置へインストールされる。情報処理装置の概念には、コンピュータ、マススペクトル処理装置、質量分析システム等が含まれる。
【0026】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る質量分析システムが示されている。この質量分析システムは、試料の質量分析を実施し、これにより得られるマススペクトルを処理するものである。質量分析システムは、質量分析装置10及び情報処理装置12により構成される。
【0027】
質量分析装置10は、イオン源14、質量分析部16及び検出器18を有する。イオン源14において、試料のイオン化により、イオンが生成される。生成されたイオンは質量分析部16へ送られる。イオン源14は、例えば、MALDI(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization)法に従うイオン源である。他のイオン化法に従うイオン源が使用されてもよい。
【0028】
質量分析部16は、個々のイオンが有する質量電荷比(m/z)に基づいて個々のイオンに対して質量分析を実行する。質量分析部16として、飛行時間型質量分析計、四重極型質量分析計等を用い得る。質量分析部16を通過した各イオンが検出器18で検出される。質量分析部16内に検出器18が組み込まれてもよい。
【0029】
検出器18から質量電荷比ごとのイオン量を示すアナログ検出信号が出力される。図示されていない信号処理回路において、アナログ検出信号がデジタル検出信号に変換される。デジタル検出信号が情報処理装置12へ送られる。
【0030】
情報処理装置12は、コンピュータにより構成される。情報処理装置12は、プロセッサ20、入力器22及び表示器24を有する。情報処理装置12において、質量分析装置10の動作が制御されてもよい。プロセッサ20は例えばプログラムを実行するCPUで構成される。
【0031】
図1においては、プロセッサ20が発揮する複数の機能が複数のブロックにより表現されている。プロセッサ20は、スペクトル生成部26、ケミカルノイズ処理部28、及び、表示処理部30として機能する。入力器22は、キーボード、ポインティングデバイス等により構成される。表示器24は、LCD等により構成される。
【0032】
スペクトル生成部26は、デジタル検出信号に基づいてマススペクトルを生成する。スペクトル生成部26が質量分析装置10内に設けられてもよい。生成されたマススペクトルを示すデータがケミカルノイズ処理部28及び表示処理部30へ送られている。
【0033】
ケミカルノイズ処理部28は、マススペクトルに含まれる周期性を有するノイズ成分つまりケミカルノイズを除去するものである。ケミカルノイズ除去後のマススペクトルを示すデータが表示処理部30へ送られている。
【0034】
表示処理部30は、画像合成機能、画像拡大機能、カラー演算機能、等を有する。表示処理部30により、表示器に表示される画像が構成される。その画像には、ケミカルノイズ除去前のマススペクトル、ケミカルノイズ除去後のマススペクトル、疑似ケミカルノイズ、等が含まれ得る。入力器22を用いて、ユーザーにより、マススペクトル中の参照範囲、ケミカルノイズ除去範囲、その他の様々なパラメータ、が指定される。
【0035】
図2には、図1に示したケミカルノイズ処理部28が有する複数の機能が複数のブロックにより表現されている。なお、図2は、実施形態に係るマススペクトル処理方法において実行されるアルゴリズム又は複数の工程を示すものでもある。
【0036】
ケミカルノイズ処理部28は、抽出部32、生成部38及び除去部39を有する。ケミカルノイズは、質量軸(m/z軸)に沿って並ぶ複数の繰り返し単位により構成される。抽出部32は、複数の繰り返し単位それら全体から基本パターンを抽出するものである。抽出部32は、質量ピッチ演算部33、強度関数演算部34、及び、基本パターン生成部36、を有する。
【0037】
マススペクトル31に対してユーザーにより参照範囲が設定される。参照範囲内のマススペクトル部分が質量ピッチ演算部33、強度関数演算部34、基本パターン生成部36へ送られる。参照範囲は、例えば、マススペクトル31においてケミカルノイズが存在する範囲をカバーするように又はその大部分をカバーするように設定される。ケミカルノイズが存在する範囲は、ケミカルノイズをマクロ観察した場合において、マススペクトル31の低質量側の質量端(最小質量)からケミカルノイズの強度が実質的にベースライン付近のノイズレベルに到達するまでの範囲として定義され得る。その範囲内において、低質量側の質量端から7割又は8割以上の範囲を参照範囲として定めてもよい。もちろん、マススペクトル31の全体を参照範囲として定めてもよい。参照範囲については後に図4を用いて更に説明する。
【0038】
質量ピッチ演算部33は、自己相関器42及びピッチ判定器44を有する。自己相関器42は、参照範囲内のマススペクトル部分とそれを質量軸方向にシフトさせたものとの間で自己相関係数を演算する。シフト量を段階的に変更しながら複数の自己相関係数が演算される。シフト量の範囲は、例えば、0.5u~2.5uである。シフト量の刻みは、例えば、0.005uである。これにより自己相関係数の分布が生成される。ピッチ判定器44は、自己相関係数の分布に基づいて、質量ピッチを判定するものである。その具体例については後に図5を用いて説明する。質量ピッチは、通用、1u近傍範囲内の値である。ケミカルノイズを生じさせた物質によって質量ピッチが変化し得る。質量ピッチを測定、演算することにより、ケミカルノイズ除去効果をより高められる。
【0039】
質量ピッチを特定する情報がピッチ判定器44から切り出し器46,54へ送られる。切り出し器46,54は実質的に同じ機能を有しており、それらは事実上、単一の切り出し器により構成される。図2においては、複数の機能の関係を分かり易く表現するために、2つの切り出し器46,54が明示されている。
【0040】
強度関数演算部34は、切り出し器46、積算器48、プロット生成器50、及び、関数演算器52を有する。切り出し器46は、参照範囲内のマススペクトル部分を質量ピッチ単位で切り出して複数の実断片を生成するものである。積算器48は、個々の実断片を積算つまり積分し、積算値を求める。参照範囲内の質量最小値から質量最高値までにわたる複数の積算値が求められる。
【0041】
プロット生成器50は、質量軸と積算値軸とからなる二次元座標上に複数の積算値を示す複数の点を配置することにより、積算値プロットを生成する。関数演算器52は、積算値プロットを近似する関数として、強度関数を演算する。強度関数に基づいて、個々のm/zに対応する強度が規格化値及び強度補正値として求められる。強度関数を示すデータが基本パターン生成部36及び疑似ケミカルノイズの生成部38へ送られている。
【0042】
基本パターン生成部36は、切り出し器54、規格化器56、及び、平均化器58を有する。切り出し器54は、上記切り出し器46と同じ機能を有する。すなわち、参照範囲内のマススペクトル部分から質量ピッチに一致する幅を有する実断片を順次切り出す。これにより多数の実断片が生成される。
【0043】
規格化器56は、各実断片を強度関数から特定される強度(規格化値)で割ることにより、各実断片を規格化する。複数の実断片の規格化は、それらの振幅を揃える処理と言い得る。強度関数を用いることなく、個々の実断片の最大値を100%に揃える他の規格化処理を実施してもよい。平均化器58は、規格化後の複数の実断片の積算又は平均化により基本パターンを生成する。基本パターンは、複数の実断片が有する基本形態又は共通パターンである。基本パターンにおける縦軸スケールは任意に定め得る。その意味において、規格化後の複数の実断片の積算と規格化後の複数の実断片の平均化は同視し得るものである。生成された基本パターンを示すデータが生成部38に送られている。基本パターンは、マスター断片とも言い得る。積算及び平均化以外の方法により基本パターンが生成されてもよい。
【0044】
生成部38は、補正器60、及び、連結器62で構成される。それらの配置順序を逆にしてもよい。実施形態では、補正器60は、基本パターンに対して強度関数から求まる複数の強度補正値を乗算することにより、複数の疑似断片を生成する。連結器62は、複数の疑似断片をその並び順で連結することにより疑似ケミカルノイズを生成する。疑似ケミカルノイズは、人工的に生成されたケミカルノイズモデルとも言い得る。
【0045】
なお、生成部38において、まず、複数の基本パターンが複数の仮断片として連結された上で、次に、各仮断片に対して強度補正が適用されてもよい。その場合にも、上記同様の疑似ケミカルノイズを生成し得る。
【0046】
除去部39は、実施形態において、減算器40で構成される。減算器40は、マススペクトル31から以上のように生成された疑似ケミカルノイズを減算する。これにより、ケミカルノイズ除去後のマススペクトルが得られる。それを示すデータが表示処理部へ送られる。
【0047】
以下、以上説明した各処理を具体的に説明する。
【0048】
図3の上段には、ケミカルノイズ除去前のマススペクトル66が示されている。図3の下段には、マススペクトル66の一部70の拡大図68が示されている。繰り返し単位の質量幅がΔmcで示されている。
【0049】
図4には、ケミカルノイズ除去前のマススペクトル72に対して設定される参照範囲74が示されている。マススペクトル72において低質量側の質量端からケミカルノイズの全体を実質的にカバーする範囲として参照範囲74が定められ得る。その場合、ユーザーにより参照範囲74が定められてもよいし、自動的に参照範囲74が定められてもよい。
【0050】
参照範囲74内のマススペクトル部分74Aが自己相関演算用のテンプレートとされる。そのテンプレート74Aと、テンプレート74Aから質量軸方向に段階的にシフトした同一内容を有する複数のマススペクトル部分74B,・・・,74Nとの間で、複数の自己相関係数が演算される(符号76a,・・・,76n-1を参照)。シフト範囲の上限がDで示されており、シフトピッチがΔdで示されている。
【0051】
図5には、自己相関係数の分布78が示されている。横軸はシフト量を示している。その単位はuである。縦軸は自己相関係数の大きさを示している。図示の例では、分布78において、2つのピークA,Bが生じている。例えば、Aで特定される質量が質量ピッチとされる。2つのピークA,Bの間隔Yが質量ピッチとされてもよい。自己相関係数に対して閾値を設け、分布78において閾値以上の部分を参照してもよい。例えば、閾値以上の部分が生じた時点で、質量ピッチを特定してもよい。閾値以上の部分が複数個生じた場合には、その中においてもっとも自己相関係数の高い点を特定することにより、質量ピッチを判定してもよい。閾値以上の部分が存在しない場合、処理を終了させてもよい。
【0052】
自己相関を利用する方法以外の方法により、質量ピッチが特定されてもよい。例えば、空間周波数解析により横軸方向の基本周期が特定されてもよい。他の方法により、質量ピッチが演算されてもよい。質量ピッチを実測することにより、基本パターンの品質を高めることができ、ひいてはケミカルノイズ除去効果をより高められる。
【0053】
図6には、複数の積算値のマッピングにより生成されたプロット80が示されている。プロット80に基づいてそれを近似する関数82が特定され、関数82が強度関数とされる。関数82は例えば指数関数である。関数82の特定に際しては最小二乗法等を用い得る。なお、各積算値は、個々の断片の面積に相当する。
【0054】
図7の左側には、マススペクトルから質量ピッチごとに切り出された複数の実断片の内の一部の実断片84A、84B,84Cが示されている。切り出された複数の実断片に対しては規格化が適用される。すなわち、個々の実断片が強度関数によって定められる強度により除算される。図7の右側には、規格化後の複数の実断片の一部86A,86B,86Cが示されている。強度関数に基づいて、各実断片における中心質量に対応する強度が規格化値として特定され得る。
【0055】
図8の左側には、基本パターン88が示されている。規格化後の複数の実断片の平均化等により、基本パターン88が生成される。平均化(又は積算)以外の方法で、基本パターン88が生成されてもよい。縦軸方向の重心演算、中央値抽出等を用いることが考えられる。基本パターン88の生成に先立って、個々の実断片に対して前処理が適用されてもよいし、基本パターン88の生成後に基本パターン88に対して後処理が適用されてもよい。前処理又は後処理として、平滑化、エッジ強調、等が挙げられる。
【0056】
図8の右側には、基本パターンに基づいて生成される振幅補正後の複数の疑似断片の内の一部90A,90B,90Cが示されている。振幅補正に際しては、振幅関数で特定される強度が強度補正値として利用される。強度関数に基づいて、各疑似断片における中心質量に対応する強度が強度補正値として特定されてもよい。質量軸上において並ぶ振幅補正後の複数の疑似断片をその順列で連結することにより、疑似ケミカルノイズが生成される。既に説明したように、まず、複数の仮断片を連結した上で、続いて、個々の仮断片に対して質量補正を適用することにより、複数の疑似断片の連結体としての疑似ケミカルノイズが構成されてもよい。
【0057】
図9の上段には、疑似ケミカルノイズ92が示されている。図9の下段には、疑似ケミカルノイズ92の一部96の拡大図94が示されている。
【0058】
図10の上段には、ケミカルノイズ除去後のマススペクトル98が示されている。図10の下段には、マススペクトル98の一部102の拡大図100が示されている。図示されるように、ケミカルノイズが効果的に除去されている。その結果、多数の真のピークが明確に表れている。特に、小さな強度を有する真のピークが明確に表れている。
【0059】
図11図14には、ケミカルノイズ除去の前及び後が示されている。各図の上段にはケミカルノイズ除去前のマススペクトルの一部104A,104B,104Cが示され、各図の下段にはケミカルノイズ除去後のマススペクトルの一部106A,106B,106Cが示されている。
【0060】
図14には、表示例が示されている。表示された画像108には、オリジナルのマススペクトル110、疑似ケミカルノイズ112、及び、ケミカルノイズ除去後のマススペクトル114が表示されている。図示の例において、3つの質量軸は平行であり、それらのスケールも一致している。また、3つの強度軸のスケールは一致している。符号116はケミカルノイズの範囲を示している。
【0061】
例えば、疑似ケミカルノイズをカラー表現し、それをグレースケールで表示されたオリジナルマススペクトル110に重畳表示してもよい。
【0062】
以上説明した実施形態によれば、マススペクトルに含まれるケミカルノイズをその周期性を利用して効果的に除去できる。
【符号の説明】
【0063】
10 質量分析装置、12 情報処理装置、14 イオン源、16 質量分析部、18 検出器、20 プロセッサ、26 スペクトル生成部、28 ケミカルノイズ処理部、30 表示処理部、33 質量ピッチ演算部、34 強度関数演算部、36 基本パターン生成部、38 生成部、39 除去部。
図1
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