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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069782
(43)【公開日】2022-05-12
(54)【発明の名称】繊維処理用害虫忌避組成物
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/30 20060101AFI20220502BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20220502BHJP
   A01N 31/06 20060101ALI20220502BHJP
   A01N 37/18 20060101ALI20220502BHJP
   A01N 47/16 20060101ALI20220502BHJP
   A01N 43/80 20060101ALI20220502BHJP
   A01N 31/02 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
A01N25/30
A01P17/00
A01N31/06
A01N37/18 Z
A01N47/16 A
A01N43/80 102
A01N31/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020178628
(22)【出願日】2020-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100162422
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 将
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 景子
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AC06
4H011BA05
4H011BB03
4H011BB06
4H011BB10
4H011BB13
4H011BC03
4H011BC04
4H011BC07
(57)【要約】
【課題】害虫忌避剤の繊維への付着効率が良い害虫忌避組成物を提供する。
【解決手段】繊維の浸漬処理のための害虫忌避組成物であって、
(A)カチオン性界面活性剤
(B)害虫忌避剤、及び
(C)平均エチレンオキサイド付加モル数が15以上のノニオン性界面活性剤
を含有し、(B)成分に対する(A)成分の質量比(A)/(B)が0.2より大きく10以下である、害虫忌避組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維の浸漬処理のための害虫忌避組成物であって、
(A)カチオン性界面活性剤
(B)害虫忌避剤、及び
(C)平均エチレンオキサイド付加モル数が15以上のノニオン性界面活性剤
を含有し、(B)成分に対する(A)成分の質量比(A)/(B)が0.2より大きく10以下である、害虫忌避組成物。
【請求項2】
(A)/(B)が6.5以下である、請求項1に記載の害虫忌避組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の害虫忌避組成物を含む処理液で繊維を浸漬処理することを含む、繊維に害虫忌避剤を付着させる方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の害虫忌避組成物を含む処理液で繊維を浸漬処理することを含む、害虫忌避剤が付着した繊維を調製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維処理用害虫忌避組成物に関する。詳細には、本発明は、害虫忌避剤の繊維への付着効率が良い繊維処理用害虫忌避組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、東南・南アジアなどの温暖な地域では蚊媒介感染症が大きな問題となっている。蚊媒介感染症にはワクチンや治療薬のないものが多数存在しており、これらの疾病から身を守るためには蚊に刺されることを防ぐしかない。防蚊の一手段として、防蚊機能の付与された衣類を着用することが挙げられる。市場には防蚊機能性衣類が存在するが種類は多くなく、着るものが制限されることが課題である。
一般衣類上で一般家庭において害虫忌避効果を得るためには、害虫忌避剤を含むスプレー剤の適用が考えられる。例えば、特許文献1では、害虫忌避剤を含むスプレー剤を繊維に噴霧して害虫忌避効果を判定している。しかしながら、スプレー剤では、スプレー剤を衣類全体にくまなく噴霧せねばならず、毎日行うには処理負担が大きい。また、特許文献1には、繊維への害虫忌避剤の付着効率については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-6823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明者らは浸漬処理によって衣類に害虫忌避効果を付与することを試みた。
しかしながら、害虫忌避剤を処理液に分散させただけでは繊維への害虫忌避剤の付着効率が低いことが課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、効率よく衣類へ害虫忌避剤を付着させるべく検討を行ったところ、カチオン性界面活性剤と特定のエチレンオキサイド鎖長のノニオン界面活性剤を併用し、カチオン性界面活性剤と害虫忌避剤を特定の比率に収めることによって、害虫忌避剤の繊維への付着率が向上することを見出した。
本発明は、例えば、下記〔1〕~〔4〕に関するものである。
〔1〕繊維の浸漬処理のための害虫忌避組成物であって、
(A)カチオン性界面活性剤
(B)害虫忌避剤、及び
(C)平均エチレンオキサイド付加モル数が15以上のノニオン性界面活性剤
を含有し、(B)成分に対する(A)成分の質量比(A)/(B)が0.2より大きく10以下である、害虫忌避組成物。
〔2〕(A)/(B)が6.5以下である、前記〔1〕に記載の害虫忌避組成物。
〔3〕前記〔1〕又は〔2〕に記載の害虫忌避組成物を含む処理液で繊維を浸漬処理することを含む、繊維に害虫忌避剤を付着させる方法。
〔4〕前記〔1〕又は〔2〕に記載の害虫忌避組成物を含む処理液で繊維を浸漬処理することを含む、害虫忌避剤が付着した繊維を調製する方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、害虫忌避剤を繊維へ効率よく付着させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の一態様は、(A)~(C)成分を含む害虫忌避組成物に関する。
【0008】
[(A)成分]
本発明の害虫忌避組成物において、(A)成分としてカチオン性界面活性剤を配合することにより、害虫忌避剤の繊維への付着率を向上させることが可能になる。
(A)成分は、カチオン界面活性剤であり、水溶性のものでもよく、水不溶性のものでもよく、これらの混合物を用いてもよい。
ここで「水溶性」とは、25℃の水100gに1g以上が溶解することをいう。「水不溶性」とは、25℃の水100gへの溶解度が1g未満であることをいう。
【0009】
(水溶性のカチオン界面活性剤)
水溶性のカチオン界面活性剤のなかで好適なものとしては、下記の一般式(I)もしくは一般式(II)で表される3級アミン化合物の中和物又は4級化物、及び水溶性のカチオン性高分子化合物が挙げられる。
【0010】
【化1】
[式(I)中、R1は、エステル基、エーテル基又はアミド基で分断されていてもよい炭素数12~20の炭化水素基を表す。複数のR2は、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1~4のアルキル基又は炭素数2~4のヒドロキシアルキル基を表す。式(II)中、複数のR3は、同一でも異なっていてもよく、それぞれエステル基、エーテル基又はアミド基で分断されていてもよい炭素数8~12の炭化水素基を表す。R4は、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数2~4のヒドロキシアルキル基を表す。]
【0011】
・一般式(I)もしくは一般式(II)で表される3級アミン化合物の中和物又は4級化物
本発明において「エステル基、エーテル基又はアミド基で分断されていてもよい炭化水素基」とは、炭素鎖の途中(隣り合う炭素原子と炭素原子との間)に、エステル基、エーテル基及びアミド基の一種以上を有していてもよい炭化水素基を意味する。
前記式(I)中、R1の炭化水素基としては、直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基又はアルケニル基が挙げられる。R1の炭素数は、14~20が好ましく、14~18がより好ましい。なかでも、R1の炭化水素基としては、炭素数14~20の炭化水素基が好ましく、炭素数14~20の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基又はアルケニル基がより好ましく、炭素数14~18の直鎖状のアルキル基がさらに好ましい。
前記式(I)中、R2としては、メチル基、エチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基が好ましく、メチル基、ヒドロキシエチル基がより好ましい。
【0012】
前記式(II)中、R3の炭化水素基としては、直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基又はアルケニル基が挙げられる。R3の炭素数は、10~12が好ましい。なかでも、R3の炭化水素基としては、高温保存時の分散安定性の観点から、直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基又はアルケニル基が好ましい。R3として具体的には、デシル基、ドデシル基、デシロイルオキシエチル基が好ましい。
前記式(II)中、R4としては、メチル基、エチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基が好ましく、メチル基、ヒドロキシエチル基がより好ましい。
【0013】
前記の一般式(I)又は一般式(II)で表される3級アミン化合物の中和物を形成する酸としては、塩酸、硫酸、メチル硫酸等が挙げられる。該中和物としては、前記式(I)又は前記式(II)で表される3級アミン化合物を予め中和したものを使用してもよく、これらの酸(塩酸、硫酸、メチル硫酸等)のいずれかを含有する水溶液中に、該3級アミン化合物の液状物又は固体状物を投入して得られたものを使用してもよく、該3級アミン化合物とこれらの酸のいずれかとを同時に水に投入して得られたものを使用してもよい。
該3級アミン化合物の4級化物を形成する4級化剤としては、塩化メチル、ジメチル硫酸等が挙げられる。
【0014】
前記の一般式(I)もしくは一般式(II)で表される3級アミン化合物の中和物又は4級化物としては、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジドデシルジメチルアンモニウムクロライド、ステアロイルオキシエチル-N,N-ジヒドロキシエチル-N-メチルアンモニウムメチルサルフェート、N,N-ジデシロイルオキシエチル-N-ヒドロキシエチル-N-メチルアンモニウムメチルサルフェートが好ましい。
なかでも、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジドデシルジメチルアンモニウムクロライド、ステアロイルオキシエチル-N,N-ジヒドロキシエチル-N-メチルアンモニウムメチルサルフェートがより好ましい。
【0015】
・水溶性のカチオン性高分子化合物
水溶性のカチオン性高分子化合物としては、カチオン化度が0.1%以上であるものが好ましく、0.1~35%であるものがより好ましい。特に、カチオン化度が2.5%以上であるものが好ましく、2.5~20%であるものが最も好ましい。
【0016】
ここで「カチオン化度」とは、水溶性のカチオン性高分子化合物がカチオン性モノマーの重合体、カチオン性モノマーとノニオン性モノマーとの共重合体、及びノニオン性重合体の一部をカチオン性基で変性又は置換したもの(カチオン化セルロースなど)の場合には下記式(1)により、また、水溶性のカチオン性高分子化合物がカチオン性モノマーとアニオン性モノマーとの共重合体、及びカチオン性モノマーとアニオン性モノマーとノニオン性モノマーとの共重合体の場合には下記式(2)により算出される値と定義する。
カチオン化度(%)=X×Y×100 ・・・式(1)
[X:高分子化合物のカチオン性基中のカチオン化された原子(窒素等)の原子量
Y:高分子化合物1g中に含まれるカチオン性基のモル数]
【0017】
カチオン化度(%)=X×(Y-Z)×100 ・・・式(2)
[X:高分子化合物のカチオン性基中のカチオン化された原子(窒素等)の原子量
Y:高分子化合物1g中に含まれるカチオン性基のモル数
Z:高分子化合物1g中に含まれるアニオン性基のモル数
(Zのアニオン性基とは、高分子鎖中のモノマー単位に含まれるカルボキシ基、スルホン酸基などが挙げられる。具体的には、アクリル酸中のカルボン酸などである。ただし、カチオン性基の対イオンは含まない。)]
【0018】
カチオン化度の算出例として、下記一般式(III)で表されるMERQUAT280(NALCO社製、質量比でm:n=80:20)の場合を以下に示す。
【0019】
【化2】
【0020】
X:14(窒素原子の原子量)
Y:4.95×10-3(カチオン性基の1g中の質量0.8gとカチオン性基の分子量より算出)
Z:2.78×10-3(アニオン性基の1g中の質量0.2gとアニオン性基の分子量より算出)
カチオン化度(%)=X×(Y-Z)×100
=14×(4.95×10-3-2.78×10-3)×100
≒3.0
前記式(2)により、カチオン化度は3.0(%)と算出される。
【0021】
なお、上述したカチオン化度の算出法によれば、ノニオン性モノマーの重合体、及びアニオン性モノマーの重合体のカチオン化度は0%となる。
【0022】
水溶性のカチオン性高分子化合物は、ポリエチレングリコールを標準物質としてゲルパーメーションクロマトグラフィ法で測定される重量平均分子量(Mw)が1000~5000000であるものが好ましく、3000~1000000であるものがより好ましく、5000~500000であるものがさらに好ましい。
Mwが前記範囲であると、害虫忌避組成物の粘度の増加が抑制されて、使用性をより良好なものとすることが可能となる。
【0023】
水溶性のカチオン性高分子化合物の具体例としては、MERQUAT100(NALCO社製)、アデカカチオエースPD-50(旭電化工業(株))、ダイドールEC-004、ダイドールHEC、ダイドールEC(大同化成工業(株)製)等の塩化ジメチルジアリルアンモニウムの重合体;MERQUAT550 JL5(NALCO社製)等の塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体、MERQUAT280(NALCO社製)等の塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリル酸共重合体、レオガードKGP(ライオン(株)製)等のカチオン化セルロース、LUVIQUAT-FC905(B・A・S・F社製)等の塩化イミダゾリニウム・ビニルピロリドン共重体、LUGALVAN-G15000(B・A・S・F社製)等のポリエチレンイミン、ポバールCM318((株)クラレ製)等のカチオン化ポリビニルアルコール、キトサン等のアミノ基を有する天然系の高分子誘導体、ジエチルアミノメタクリレート・エチレンオキシド等が付加された親水基を有するビニルモノマーとの共重合体等が挙げられる。
なかでも、塩化ジメチルジアリルアンモニウムの重合体、カチオン化セルロースが特に好ましい。
【0024】
(水不溶性のカチオン界面活性剤)
水不溶性のカチオン界面活性剤のなかで好適なものとしては、下記の一般式(IV)で表される3級アミン化合物の中和物又は4級化物が挙げられる。
【0025】
【化3】
[式中、複数のR5は、同一でも異なっていてもよく、エステル基、エーテル基又はアミド基で分断されていてもよい炭素数8~22の炭化水素基を表す。R6は、炭素数1~4のアルキル基もしくは炭素数2~4のヒドロキシアルキル基、又はエステル基、エーテル基もしくはアミド基で分断されていてもよい炭素数8~22の炭化水素基を表す。]
【0026】
前記式(IV)中、R5の炭化水素基としては、直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基又はアルケニル基が挙げられる。R5の炭素数は、10~22が好ましく、10~20がより好ましい。なかでも、R5の炭化水素基としては、エステル基又はアミド基で分断されてもよい炭素数10~22の炭化水素基が好ましく、エステル基もしくはアミド基で分断されてもよい炭素数10~20の直鎖状のアルキル基又はアルケニル基がさらに好ましい。
前記式(IV)中、R6のアルキル基、ヒドロキシアルキル基としては、メチル基、エチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基が好ましく、メチル基、ヒドロキシエチル基がより好ましい。R6の炭化水素基は、前記R5の炭化水素基と同様である。
【0027】
前記の一般式(IV)で表される3級アミン化合物の中和物を形成する酸、該3級アミン化合物の4級化物を形成する4級化剤は、上記式(I)又は式(II)で表される3級アミン化合物における場合と同様のものが挙げられる。
【0028】
前記の一般式(IV)で表される3級アミン化合物の中和物又は4級化物としては、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジパルミチルジメチルアンモニウムクロライド、ジオレイルジメチルアンモニウムクロライド、N,N-ジステアロイルオキシエチル-N-メチル,N-ヒドロキシエチルアンモニウムメチルサルフェート、N,N-ジオレオイルオキシエチル-N-メチル,N-ヒドロキシエチルアンモニウムメチルサルフェート等が挙げられる。
なかでも、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジオレイルジメチルアンモニウムクロライド、N,N-ジステアロイルオキシエチル-N-メチル,N-ヒドロキシエチルアンモニウムメチルサルフェート、N,N-ジオレオイルオキシエチル-N-メチル,N-ヒドロキシエチルアンモニウムメチルサルフェートが特に好ましい。
【0029】
(A)成分は、1種単独で、又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
(A)成分としては、繊維への吸着性が特に良好であることから、前記式(I)で表される3級アミン化合物の中和物もしくは4級化物、前記式(IV)で表される3級アミン化合物の中和物もしくは4級化物、又はこれらの混合物が好ましい。なかでも、前記の式(I)又は式(IV)で表される3級アミンの4級化物、又はこれらの混合物がより好ましい。
【0030】
(A)成分の配合量は、配合目的を達成できる量である限り特に限定されないが、害虫忌避組成物が乳化系である場合、即ち(A)成分が水中でベシクルを形成し、害虫忌避組成物の外観が半透明から乳濁である場合、害虫忌避組成物の総質量に対し、好ましくは0.1質量%以上25質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上20質量%以下、更に好ましくは1質量%以上18質量%以下である。このように害虫忌避組成物が乳化系である場合、(A)成分の配合量が25質量%以下であると、液晶ができにくく乳化系の製造性が良好であり、0.1質量%以上であると、害虫忌避剤の繊維への付着率向上効果がより良好である。
害虫忌避組成物が可溶化系である場合、即ち(A)成分が水中でミセルを形成し、害虫忌避組成物の外観が透明である場合、(A)成分の配合量は、害虫忌避組成物の総質量に対し、好ましくは0.1質量%以上50質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上40質量%以下、更に好ましくは1質量%以上35質量%以下である。このように害虫忌避組成物が可溶化系である場合、(A)成分の配合量が50質量%以下であると、使用時に泡立ち使用性が良好であり、0.1質量%以上であると、害虫忌避剤の繊維への付着率向上効果がより良好である。
本発明の害虫忌避組成物は、上記のとおり乳化系でも可溶化系でもよいが、疎水的な害虫忌避剤をより多く抱え込めるという点では、乳化系がより好ましい。
【0031】
[(B)成分]
本発明の害虫忌避組成物において、(B)成分として害虫忌避剤が配合される。
(B)成分としては、害虫忌避作用を有するものであれば特に限定されず、天然に存在する成分を用いても合成品を用いてもよく、例えば、以下のものが例示される。
ジャスモン、ジヒドロジャスモン、ジャスモン酸メチル、ジヒドロジャスモン酸メチル、メチルオイゲノール、イソオイゲノール、サリチル酸アミル、サリチル酸イソアミル、サリチル酸ヘキシル、サリチル酸シス-3-ヘキセニル、サリチル酸ベンジル、ベンズアルデヒド、ベンジルアルコール、2-フェニルエチルアルコール、2-フェノキシエタノール、α-アミルケイ皮アルデヒド、桂皮アルコール、桂皮アルデヒド、桂皮酸エチル、桂皮酸プロピル、桂皮酸イソプロピル、酢酸シンナミル、安息香酸アミル、安息香酸イソアミル、安息香酸ヘキシル、安息香酸シス-3-ヘキセニル、安息香酸ヘプチル、安息香酸オクチル、ファルネソール、ネロリドール、フェトール、テトラハイドロリナロール、ボルニルアセテート、ミルセニルアセテート、セドリルアセテート、ラベンダリーアセテート、シトロネリルイソブチレート、テルピニルプロピオネート、リナリルホルメート、シトロネリルチグレート、ノピルアセテート、ベチベリルアセテート、リラール、シトロネリルオキシアセトアルデヒド、2,6,10-トリメチル-9-ウンデカナール、ヨノン、ダマスコン、ヌートカトン、セドリルメチルエーテル、シトロネロール、シトラール、β-ピネン、酢酸シトロネリル、シンナミックアルデヒド、ノニルアルコール、チモール、オイゲノール、ベンジルホーメイト、ベンジルアセテート、ベンジルプロピオネート、ベンジルブチレート、ベンジルバレレート、ベンジルカプロエート、リナロール、α-ヘキシルケイ皮アルデヒド、レモングラス油、ラベンダー油、オレンジ油、ベチバー油、パチョウリ油、カナンガ油、クローブ油、カジェプット油、シトロネラ油、ナツメグ油、ペッパー油、サンダルウッド油、バルク油、ガージン油、ジンジャー油、カンポー油、キュウベブュ油、コーンミント油、アニス油、ラング油、シナモン油、メース油、パロマローサ油、フェンネル油、カラムス油、タイムス油、ニーム油、シナモンリーフ油、ジャスミン油、ネロリ油、ペパーミント油、ベルガモット油、ゼラニウム油、プチグレン油、レモン油、ユーカリ油、タイム油、α-ピネン、ゲラニオール、シトロネラール、カンファー等。
【0032】
また、(B)成分としては、ディート、イカリジン、メンタン骨格を有する忌避成分、ピレスロイド系化合物等を用い得る。
メンタン骨格とは、メンタン(シクロヘキサン環の2つの炭素原子にそれぞれメチル基およびイソプロピル基が1つずつ結合した飽和炭化水素)の炭素骨格を示し、下記構造式
(b1)で表されるo-メンタン骨格、構造式(b2)で表されるm-メンタン骨格、構造式(b3)で表されるp-メンタン骨格がある。メンタン骨格中、炭素-炭素結合の一部が二重結合となっていてもよい。メンタン骨格を有する忌避成分としては、p-メンタン骨格を有するものが好ましい。
【0033】
【化4】
【0034】
メンタン骨格を有する忌避成分は、メンタン骨格を構成する炭素原子に水素原子が結合した炭化水素であってもよく、該炭化水素の水素原子が置換基で置換されたものであってもよい。該置換基としては、たとえば、水酸基、エーテル性酸素原子(-O-)、アミノ基、アルキル基、カルボン酸基、アシル基、エステル基、アミド基等が挙げられる。これらの中でも、置換基として水酸基を有するものが好ましい。
メンタン骨格を有する忌避成分としては、特に限定されないが、p-メンタン、p-メンタン-3,8-ジオール、l-メントール、ユーカリプトール、L-カルボン、イソメントン、d-リモネン、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオール等が挙げられる。
【0035】
ピレスロイド系化合物としては、特に限定されないが、3-フェノキシベンジル-dl-シス/トランス-3-(2,2-ジクロロビニル)-2,2-ジメチルシクロプロパン-1-カルボキシラート(一般名、ペルメトリン)、2-ジメチル-3-(2-メチルプロペニル)シクロプロパンカルボン酸(3-フェノキシフェニル)メチルエステル(一般名、フェノトリン)、(5-ベンジル-3-フリル)メチルdl-シス/トランス-クリサンテマート(一般名、レスメトリン)、5-ベンジル-3-フリルメチル-dl-シス/トランス-クリサンテマート(一般名、クリスロンホルテ)等が挙げられる。
【0036】
本発明の害虫忌避組成物において、(B)成分は、製造性の観点から、常圧100℃以下で液体形態をとれるものが好ましい。
本発明の害虫忌避組成物において、(B)成分は、害虫忌避作用を有する化合物として公知のもののなかから、忌避対象の害虫に応じて適宜選択し得る。害虫としては、蚊、ハエ類、アブ類、イガ類等の飛翔害虫等が挙げられる。蚊としては、例えばアカイエカ、チカイエカ等のイエカ類、ヒトスジシマカ等のヤブカ類、ユスリカ類等が挙げられる。本発明の害虫忌避組成物は、特に、蚊忌避用として有用である。
(B)成分としては、上記の中でも効果の観点から、p-メンタン-3,8-ジオール、ディート、イカリジン、ゲラニオールが好ましい。更に、(B)成分としては、組成安定性の観点から、p-メンタン-3,8-ジオール、ディート、イカリジンが好ましく、においが強いと不快感をもたらす場合があるため、よりにおいの少ないp-メンタン-3,8-ジオール、イカリジンがより好ましい。
(B)成分は、1種単独で、又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0037】
(B)成分の配合量は、配合目的を達成できる量である限り特に限定されないが、製剤安定性の観点から、害虫忌避組成物の総質量に対し、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。また、効果の観点から、(B)成分の配合量は、害虫忌避組成物の総質量に対し、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。
【0038】
本発明の害虫忌避組成物において、(B)成分に対する(A)成分の質量比(A)/(B)は、0.2より大きく10以下であり、好ましくは0.2より大きく6.5以下である。より好ましくは、(A)/(B)は、0.5以上2以下である。(A)/(B)が0.2より大きく10以下であると、害虫忌避剤の繊維への付着率向上効果が良好である。害虫忌避剤に対してカチオン性界面活性剤が多すぎると、布表面が飽和してそれ以上害虫忌避剤が付きにくくなる場合があり、カチオン性界面活性剤が少なすぎるとカチオンの量が足りずロスが大きくなる場合がある。
【0039】
[(C)成分]
本発明の害虫忌避組成物において、(C)成分として平均エチレンオキサイド付加モル数が15以上のノニオン性界面活性剤を配合することにより、害虫忌避剤の繊維への付着率を向上させることが可能になる。また、(C)成分により、構造粘性及び凍結復元性を組成物へ付与し得る。
(C)成分としては、公知のものが利用でき、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸アルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルポリグルコシド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。
本発明の害虫忌避組成物において、(C)成分として、カチオンベシクルまたはミセルに共存しやすいものが好ましい。そのため、好ましい(C)成分は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸アルキルエステルである。
【0040】
(C)成分がアルコール又は脂肪酸のエチレンオキサイド付加物である場合、アルコール及び脂肪酸の各炭素鎖部分は直鎖でも分岐鎖でもよく、不飽和基を含んでいてもよい。また、炭素鎖に分布があってもよい。
(C)成分の原料としては、エクソンモービル社製エクサール、BASF社製LUTENSOL(ルテンゾール)シリーズ、協和発酵工業製オキソコールや、Shell社製DOBANOLシリーズなどを使用できる。
(C)成分がアルコールのエチレンオキサイド付加物である場合、1級アルコール及び2級アルコールのいずれも使用できる。炭素数13のアルコールは、例えばドデセンを原料として製造されるが、その出発原料としてはブチレンでもプロピレンでもよい。
【0041】
(C)成分は、エチレンオキサイド(EO)付加物であるところ、EOと共にプロピレンオキサイド(PO)又はブチレンオキサイド(BO)を付加したものであってもよい。なお、EOを付加した後、PO又はBOを付加しても、あるいはPO又はBOを付加した後、EOを付加してもよい。EOの平均付加モル数としては15以上250以下が好ましく、より好ましくは30以上200以下、特に好ましくは40以上150以下である。EOの平均付加モル数が15以上であると、害虫忌避剤の繊維への付着率向上効果が良好である。EOの平均付加モル数が250以下であると、疎水性の物質を可溶化または乳化する場合にも問題なく使用し得る。
【0042】
(C)成分の具体例としては、ノニルアルコールにEOを平均9モル及びPOを平均1モル付加した物、一級イソノニルアルコールの平均EO40モル付加物、ラウリルアルコールの平均EO15~100モル付加物、一級イソへキサデシルアルコールの平均EO60モル付加物、一級イソトリデシルアルコールの平均EO15~100モル付加物、トリデシルアルコールの平均EO50モル付加物等が挙げられる。
市販品としては、日本エマルジョン製エマレックスシリーズ、三洋化成製エマルミンシリーズ、ライオン化学製TDAシリーズ、日本触媒製ソフタノールシリーズ、BASF社または第一工業製薬社製LUTENSOLシリーズ、青木油脂工業社製ブラウノンシリーズ等を使用できる。
(C)成分は公知物質であり、市場で容易に入手可能である、又は、調製可能である。
(C)成分は単一種類を使用してもよく、複数種類を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
(C)成分の配合量は、配合目的を達成できる量である限り特に限定されないが、害虫忌避組成物の総質量に対し、好ましくは0.1質量%以上15質量%以下、より好ましくは0.2質量%以上10質量%以下である。
本発明の害虫忌避組成物において、(C)成分に対する(A)成分の質量比(A)/(C)は、特に限定されないが、好ましくは0.8以上50以下、より好ましくは0.9以上30以下、更に好ましくは1以上20以下である。(A)/(C)が0.8以上50以下であると、害虫忌避剤の繊維への付着率向上効果がより良好である。
【0044】
[任意成分]
本発明の害虫忌避組成物は、上記(A)~(C)成分以外にも、以下のような他の成分を任意に配合し得る。任意成分としては、以下に挙げる成分に限定されるものではない。
【0045】
<香料>
本発明の害虫忌避組成物には、香料を配合してもよい。
香料としては当該技術分野で汎用の香料を使用可能であり特に限定されないが、使用できる香料原料のリストは、様々な文献、例えば「Perfume and Flavor Chemicals」,Vol.I and II,Steffen Arctander,Allured Pub.Co.(1994)および「合成香料 化学と商品知識」、印藤元一著、化学工業日報社(1996)および「Perfume and Flavor Materials of Natural Origin」,Steffen Arctander,Allured Pub.Co.(1994)および「香りの百科」、日本香料協会編、朝倉書店(1989)および「Perfumery Material Performance V.3.3」,Boelens Aroma Chemical Information Service(1996)および「Flower oils and Floral Compounds In Perfumery」,Danute Lajaujis Anonis,Allured Pub.Co.(1993)等に記載されている。
香料は、1種類の香料を単独で用いてもよく、2種類以上からなる混合物として用いて
もよい。
香料の配合量は、配合目的を達成できる量である限り特に限定されないが、害虫忌避組成物の総質量に対して、好ましくは0.1~3%質量%であり、より好ましくは0.5~2質量%、更に好ましくは0.5~1.5質量%である。
【0046】
<増粘剤>
本発明の害虫忌避組成物には、消費者の嗜好性を高めるため、公知の増粘剤を配合してもよい。
増粘剤としては、例えば特定のポリマーが挙げられ、具体的にはRheovis-FRC(BASF社製)などが挙げられる。
【0047】
<無機塩>
本発明の害虫忌避組成物には、無機塩を配合してもよい。無機塩は、害虫忌避組成物の粘度をコントロールして使用性を向上するために配合され得る。
具体例としては、塩化カルシウム、塩化マグネシウムや塩化ナトリウム等が挙げられ、
なかでも塩化カルシウム及び塩化マグネシウムが好ましい。
無機塩は、1種類を単独で用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
無機塩の配合量は、配合目的を達成できる量である限り特に限定されないが、害虫忌避組成物の総質量に対し、好ましくは0.001~2質量%、より好ましくは0.005~1質量%、更に好ましくは0.01~0.5質量%である。無機塩の含量が0.001質量%以上であると使用性(特に洗濯機投入性)を更に改善できる。なお、無機塩増量による粘度調整効果には限度があるため、コスト面から2質量%以下が好ましい。
【0048】
<水>
本発明の害虫忌避組成物は、好ましくは水を含む水性組成物である。
水としては、水道水、精製水、純水、蒸留水、イオン交換水など、いずれも用いることができる。なかでもイオン交換水が好適である。
水の配合量は特に限定されず、所望の成分組成を達成するために適宜配合することができる。
【0049】
<抗菌剤>
本発明の害虫忌避組成物には、処理した繊維上での菌の増殖を抑え、更には微生物の分解物由来の嫌なにおいの発生を抑えるために、抗菌剤を配合することができる。
抗菌剤とは、処理した繊維上での菌の増殖を抑え、更には微生物の分解物由来の嫌なにおいの発生を抑える効果を有する成分である。
抗菌剤としては、当該技術分野で知られているものを特に制限なく用いることができる。具体例としては、四級アンモニウム塩(塩化ベンザルコニウム、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド)などのカチオン性殺菌剤、ダイクロサン、トリクロサン、ビス-(2-ピリジルチオ-1-オキシド)亜鉛、ポリヘキサメチレンビグアニジン塩酸塩、8-オキシキノリンや、ポリリジン等が挙げられる。
抗菌剤の配合量は、配合効果を発現させることができる量である限り特に限定されない。
【0050】
<水溶性溶剤>
本発明の害虫忌避組成物には、外観安定性の向上または凍結復元性等の粘度安定性向上のために、水溶性溶剤が配合されてもよい。
水溶性溶剤とは、任意の比率で水と混ざり、透明な混合液を提供できる溶剤をいう。具体例としては、炭素数2~3の1級アルコール(例えば、エタノールや、イソプロパノール等)、炭素数2~6のグリコール類(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールや、ジプロピレングリコール等)、並びに炭素数3~8の多価アルコール類(例えば、グリセリンや、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等)等が挙げられる。
これらの中では、害虫忌避組成物から生ずる香気への影響なく、かつ、低価格である点で、エタノール、グリセリン、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレン
グリコールモノブチルエーテルが好ましく、エタノールがより好ましい。
水溶性溶剤は公知物質であり、市場で容易に入手可能であるか、又は調製可能である。
水溶性溶剤は1種類を単独で用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
水溶性溶剤の配合量は、配合目的を達成できる限り特に限定されないが、害虫忌避組成物の総質量に対して、好ましくは0.01~40質量%、より好ましくは0.05~35質量%、更に好ましくは0.1~30質量%である。
【0051】
<染料及び/又は顔料>
染料及び/又は顔料は、害虫忌避組成物の外観を向上する目的で配合することができる。
染料及び/又は顔料としては、当該技術分野で汎用の染料及び顔料を特に制限なく用いることができる。添加できる染料の具体例は、例えば、染料便覧(有機合成化学協会編,昭和45年7月20日発行,丸善株式会社)などに記載されている。
染料及び/又は顔料は、1種類の染料又は顔料を単独で用いてもよく、2種類以上からなる混合物として用いてもよい。
染料及び/又は顔料の配合量は、配合効果を発現させることができる量である限り特に限定されないが、害虫忌避組成物の総質量に対し、好ましくは0.0001~0.01質量%、より好ましくは0.0001~0.005質量%である。
【0052】
<防腐剤>
防腐剤は、主に、害虫忌避組成物の防腐力及び殺菌力を強化して、長期保存中の防腐性を保つために配合することができる。
防腐剤としては、当該技術分野で知られているものを特に制限なく使用できる。具体的には、イソチアゾロン系の有機硫黄化合物、ベンズイソチアゾロン系の有機硫黄化合物、安息香酸類、2-ブロモ-2-ニトロ-1,3-プロパンジオール等が挙げられる。
イソチアゾロン系の有機硫黄化合物の例としては、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-ブチル-3-イソチアゾロン、2-ベンジル-3-イソチアゾロン、2-フェニル-3-イソチアゾロン、2-メチル-4,5-ジクロロイソチアゾロン、5-クロロ-2-メチル-3-イソチアゾロン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンや、これらの混合物などが挙げられる。なかでも、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンと2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンが好ましく、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンと2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンとの混合物がより好ましく、前者が約77質量%と後者が約23質量%との混合物(例えば、商品名:ケーソンCG-ICP(Rohm&Haas社))が特に好ましい。
ベンズイソチアゾロン系の有機硫黄化合物の例としては、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(例えば、商品名:Nipacide BIT 20(クラリアントジャパン株式会社))や、2-メチル-4,5-トリメチレン-4-イソチアゾリン-3-オンや、類縁化合物としてのジチオ-2,2-ビス(ベンズメチルアミド)や、これらの混合物などが挙げられる。中でも、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンが特に好ましい。 安息香酸類の例としては、安息香酸又はその塩、パラヒドロキシ安息香酸又はその塩、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチルや、パラオキシ安息香酸ベンジル等が挙げられる。
防腐剤は公知物質であり、市場で容易に入手可能であるか、又は調製可能である。
防腐剤は1種類を単独で用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
防腐剤の配合量は、害虫忌避組成物の総質量に対して0.0001~1質量%であることが好ましい。
【0053】
<機能性粒子>
機能性粒子は、繊維製品へ特定の機能(例えば芳香)を付与する効果を害虫忌避組成物へ付与するために配合することができる。
機能性粒子の粒子径は10μm~30μmであることが好ましい。前記粒子径を有する機能性粒子は、繊維製品への吸着性に優れ、かつ、害虫忌避組成物中に安定に分散することができる。
機能性粒子を構成する素材は特に限定されず、配合目的に応じて適宜選択できる。
機能性粒子の具体例としては機能性カプセルが挙げられる。機能性カプセルは、カプセル内に内包された芯物質に起因する様々な機能を害虫忌避組成物及び/又は繊維製品へ付与するために配合される。
機能性カプセルは、芯物質と、当該芯物質を覆う壁物質とから構成される。
【0054】
芯物質としては、当該技術分野においてカプセル封入物質として一般的に用いられているものを特に制限なく用いることができる。具体例としては、香料、精油、増白剤、害虫忌避剤、シリコーン、ワックス、香味料、ビタミン、スキンケア剤、酵素、プロバイオティクス、染料、顔料、香料前駆体、冷感剤、温感剤、フェロモン等の誘引剤、抗菌剤、漂白剤、香味料、甘味料、ワックス、薬剤、肥料や、除草剤等が挙げられる。本発明の害虫忌避組成物において、このように(B)成分は機能性粒子中に芯物質として含まれていてもよい。
芯物質は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせてもよい。
【0055】
壁物質としては、当該技術分野においてカプセル化材料として一般的に用いられているものを特に制限なく用いることができる。例えば、ゼラチンや寒天等の天然系高分子、油脂やワックス等の油性膜形成物質、ポリアクリル酸系、ポリビニル系、ポリメタクリル酸系、メラミン系、ウレタン系等の合成高分子物質などを挙げることができ、それら1種を単独又は2種以上を適宜併用することができる。
【0056】
香料を芯物質として用いた機能性カプセルは、カプセル化香料とも呼ばれる。カプセル化香料の具体例としては、フィルメニッヒ社製のBLUEFLOWERPOP「FFMHN2814」、ジボダン社製のGREEN BREEZE CAPS、ORCHARD GARDEN CAPS、RAINBOW CAPS、VELVET CAPS、AURORACAPS、およびCOSMICCAPS;IFF社製のUNICAP101、およびUNICAP503等が挙げられる。
冷感剤を芯物質として用いた機能性カプセルは、冷感カプセルとも呼ばれる。冷感カプセルの具体例としては、SALVONA Technologies社製のMultiSal SalCool、HydroSal FreshCool、SalSphere SalCoolや、日華化学株式会社製のネオアージュAROMA-C等が挙げられる。
温感剤を芯物質として用いた機能性カプセルは、温感カプセルとも呼ばれる。温感カプセルの具体例としては、三木理研株式会社製のリケンレジンRMC-TOや、SALVONA Technologies社製のHydrosal Heatなどが挙げられる。
その他の機能性カプセルの具体例としては、三木理研株式会社製のリケンレジンNFHO-W(抗菌効果)、リケンレジン、RMC-HBP(防虫効果)およびRMC-PT(防虫効果)、大和化学工業株式会社製のアニンセンPCR-U(防虫効果)およびアニンセンCLC-3600S(防虫効果)などが挙げられる。
【0057】
機能性粒子は公知物質であり、市場で容易に入手可能であるか、又は調製可能である。
機能性粒子は1種類を単独で用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
機能性粒子の配合量は、配合目的を達成できる限り特に限定されないが、害虫忌避組成物の総質量に対して、好ましくは0.02~5質量%、より好ましくは0.1~3質量%である。
【0058】
[害虫忌避組成物のpH]
本発明の害虫忌避組成物のpHは特に限定されないが、保存経日に伴う(A)成分の分子中に含まれ得るエステル基の加水分解を抑制する観点から、25℃におけるpHを1~6の範囲に調整することが好ましく、2~4の範囲に調整することがより好ましい。
pH調整には、塩酸、硫酸、リン酸、アルキル硫酸、安息香酸、パラトルエンスルホン酸、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩や、アルカリ金属珪酸塩などのpH調整剤を用いることができる。
【0059】
[害虫忌避組成物の粘度]
本発明の害虫忌避組成物の粘度は、その使用性を損なわない限り特に限定されないが、25℃における粘度が800mPa・s未満であることが好ましい。保存経日による粘度上昇を考慮すると、製造直後の害虫忌避組成物の25℃における粘度が700mPa・s未満であるのがより好ましく、600mPa・s未満であるのがさらに好ましい。このような範囲にあると、洗濯機への投入の際のハンドリング性等の使用性が良好である。
なお、害虫忌避組成物の粘度は、B型粘度計(TOKIMEC社製)を用いて測定することができる。
【0060】
[害虫忌避組成物の製造方法]
本発明の害虫忌避組成物の製造方法は、特に限定されず、(A)~(C)成分を混合することにより、害虫忌避組成物を製造することができる。例えば、乳化系の場合は以下に限定されるものではないが、60℃に加温した配合釜に(A)~(C)成分を添加して混合し、60℃に加温したイオン交換水に防腐剤を加えて調製した水相を、ホモミキサーにて10,000rpmでせん断をかけながら投入し、1分間攪拌して室温に冷ますことにより、害虫忌避組成物を製造することができる。可溶化系の場合は以下に限定されるものではないが、(A)~(C)成分とイオン交換水および任意成分を室温にて混合することで害虫忌避組成物を調製できる。
【0061】
[害虫忌避組成物の使用方法]
使用方法に特に制限はなく、一般の液体柔軟剤組成物として用いられるような組成物と同様の方法で使用できる。例えば、害虫忌避組成物の使用方法として、洗濯のすすぎの段階ですすぎ水へ本発明の害虫忌避組成物を溶解させて被処理物(繊維)を浸漬処理する方法や、本発明の害虫忌避組成物をたらいのような容器中の水に溶解させ、更に被処理物(繊維)を入れて浸漬処理する方法が挙げられる。
本発明の害虫忌避組成物は、使用時には、上記のように水に希釈され得るが、希釈に用いる水は特に限定されない。家庭で通常洗濯に使用する水でもよく、高硬度の地域であっても同様であるし、イオン交換水などでもよい。
本発明の害虫忌避組成物を水で希釈したもの(処理液)による被処理物(繊維)の処理は、被処理物(繊維)が十分に浸る量の処理液を用いることによって行えばよい。例えば、浴比(繊維に対する処理液の質量比)は、特に限定されないが、より良い害虫忌避剤の繊維への付着率向上効果の観点から、好ましくは30以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは15以下、特に好ましくは10以下である。また、浴比は、実際の使用の態様に鑑み、好ましくは5以上である。
【0062】
本発明の害虫忌避組成物を水で希釈してなる処理液において、(A)~(C)成分の濃度は特に限定されないが、(A)成分の濃度としては、好ましくは30ppm以上3000ppm以下、より好ましくは50ppm以上1000ppm以下、更に好ましくは100ppm以上500ppm以下である。処理液中の(A)成分の濃度が30ppm以上3000ppm以下であると、害虫忌避剤の繊維への付着率向上効果がより良好である。
浸漬処理の時間は、特に限定されないが、害虫忌避剤の被処理物(繊維)全体への吸着にかかる時間を考慮し、3分間以上であることが好ましい。浸漬処理の時間について上限は特にないが、例えば15分間行えば十分であると考えられる。
浸漬処理時は、ムラづきして十分な効果が得られない箇所が出る可能性を防ぐために、被処理物(繊維)全体に処理液を行き渡らせるために攪拌することが好ましい。攪拌の方法や回数に特に限定はなく、トングのような道具や手などで攪拌してもよいし、洗濯機のような機械を用いてもよい。
浸漬処理時の処理液の温度は特に限定されないが、より良い害虫忌避剤の繊維への付着率向上効果の観点から、0℃以上70℃未満が好ましい。
【0063】
本発明の害虫忌避組成物で処理可能な繊維の種類は特に限定されず、綿や絹、ウール等の天然繊維でもよいし、ポリエステル等の化学繊維でもよい。ここで、繊維は繊維製品であってもよく、本発明の害虫忌避組成物で処理可能な繊維製品としては、例えば、衣類、カーテン、ソファーカバー、カーペット、タオル、ハンカチ、シーツ、ブランケットや、マクラカバー等が挙げられる。
繊維に付着した害虫忌避剤の量の測定は、公知の分析方法により適宜行うことができる。例えば、繊維に付着した害虫忌避剤の量の測定は、メタノール等の溶剤で抽出した後、ガスクロマトグラフ/水素炎イオン化型検出器(GC-FID)を用いて行うことができる。
【0064】
また、本発明の一態様は、(A)~(C)成分を含有する害虫忌避組成物を含む処理液で繊維を浸漬処理することを含む、繊維に害虫忌避剤を付着させる方法に関する。このような態様に関しても、上記記載の事項のいずれをも適用し得る。
【0065】
また、本発明の一態様は、(A)~(C)成分を含有する害虫忌避組成物を含む処理液で繊維を浸漬処理することを含む、害虫忌避剤が付着した繊維を調製する方法に関する。このような態様に関しても、上記記載の事項のいずれをも適用し得る。
【実施例0066】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、実施例において成分配合量はすべて質量%(指定のある場合を除き、純分換算)を示す。
【0067】
[(A)成分]
・a-1:N,N-ジステアロイルオキシエチル-N-メチル,N-ヒドロキシエチルアンモニウムメチルサルフェート(特開2003-12471の実施例4に記載の化合物)
・a-2:塩化ジオレイルジメチルアンモニウム(リポカード2O-75I/ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)
【0068】
[(B)成分]
・b-1:p-メンタン-3,8-ジオール(高砂香料工業社製)
・b-2:イカリジン(ランクセス社製)
・b-3:ディート(東京化成工業社製)
【0069】
[(C)成分]
・c-1:ポリオキシエチレンイソトリデシルエーテル(BASF社製のルテンゾールTO3にエチレンオキサイドを付加させたもの)
平均エチレンオキサイド付加モル数は60である。
・c-2:ポリオキシエチレンラウリルエーテル(ブラウノン EL-151H-50/青木油脂工業社製)
平均エチレンオキサイド付加モル数は100である。
・c-3(比較例):ポリオキシエチレンイソカプリルエーテル(Lutensol XP100-80/第一工業製薬社製)
平均エチレンオキサイド付加モル数は10である。
【0070】
[任意成分]
・防腐剤:ケーソンCG-ICP(Rohm&Haas社)
・95%エタノール(日本アルコール社製)
・イオン交換水
【0071】
[害虫忌避組成物の調製方法]
60℃に加温した配合釜に(A)~(C)成分を添加して混合した。別途、水相として、60℃に加温したイオン交換水に防腐剤を加えたものを調製した。(A)~(C)成分を添加して混合してある配合釜に、ホモミキサーにて10,000rpmでせん断をかけながら水相を投入した。1分間攪拌して室温に冷まし、害虫忌避組成物(実施例1~6及び比較例1~5)を調製した。調製した害虫忌避組成物の組成は、下記表1に示すとおりである。
比較例6~8の基準組成物は、95%エタノールに忌避剤を所定量添加し、室温にて攪拌し調製した。
【0072】
[害虫忌避組成物による害虫忌避剤の繊維への付着量の評価]
<評価布の前処理>
綿メリヤス布(谷頭商店製)をノニオン界面活性剤(ポリオキシエチレンイソカプリルエーテル(Lutensol XP100-80/第一工業製薬社製))8g、浴比30倍、45℃の水道水での洗浄10分間と、続く注水すすぎ10分間5回とのサイクルを2回行った後、室温にて乾燥し、10cmx10cmに裁断した。
【0073】
<浸漬処理と乾燥>
上記のとおり前処理した10cmx10cmの綿メリヤス布を7枚水道水に浸し、2槽式洗濯機(東芝製VH-30S)にて1分脱水した。
水道水150mL中に上記のとおり調製した害虫忌避組成物又は基準組成物を添加し十分に攪拌した後、脱水後の布7枚を浸し、適宜ピンセットで3分間攪拌して処理した。このように浸漬処理した後の布を上記2槽式洗濯機にて1分間脱水し、室内にて室温で自然乾燥させた。なお、具体的な浸漬処理の条件は以下のとおりであった。
・水道水:25℃
・浴比:10
・害虫忌避組成物又は基準組成物の添加量:害虫忌避剤((B)成分)が35mgになる量
具体的には、実施例1~5、比較例1、2及び6~8では、組成物0.7g/150mL。実施例6では、1.167g/150mL。比較例3では、組成物3.5g/150mL。比較例4及び5では、組成物0.35g/150mL。
【0074】
<害虫忌避剤布残量の抽出>
200mLのビーカーに135mLのメタノール(メタノール-Plus-/関東化学社製)を入れ、乾燥後の布すべてを細断し十分メタノールに浸るようにビーカーに入れた。内標として0.2%w/w ブチルカルビトール(ブチルジグリコ-ル(84)/日本乳化剤社製)/メタノール溶液を15mLホールピペットで添加した。ビーカーを超音波洗浄装置に入れ30分間処理した。
検量線用のサンプルをメスフラスコにて作成した。サンプルを0.45μm非水系フィルターでろ過し、ガスクロマトグラフィー(GC)用バイアルに入れてGCサンプルとした。下記の条件下GC-FIDで測定し、サンプルと内標のピーク面積を算出した。サンプルピーク面積/内標ピーク面積から検量線を作成し、害虫忌避剤濃度を算出した。150mL中の量に換算して綿メリヤス7枚に付着していた害虫忌避剤の量(害虫忌避剤布残量)を算出した。実施例1~6及び比較例1~5で処理した場合の害虫忌避剤布残量が、基準組成物で処理した場合と比較してどの程度増加したかを算出した。結果を下記表1に示す。
【0075】
測定条件
カラム:DB1-HT 15m×0.25mm
カラム温度:70℃(5分)→昇温5℃/分→140℃(ホールドなし)→昇温20℃/分→300℃(5分)
気化室温度:320℃
注入口温度:320℃
FID検出器温度:350℃
注入量:1.0μL
スプリット比:20
線速度:30cm/秒
ガス:He,H2
【0076】
【表1】