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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022006982
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】レーザ加工機、及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/146 20140101AFI20220105BHJP
   B23K 26/144 20140101ALI20220105BHJP
【FI】
B23K26/146
B23K26/144
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020109591
(22)【出願日】2020-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】514135111
【氏名又は名称】マイクロプロセス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137394
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】宮岸 喜幸
(72)【発明者】
【氏名】小関 良治
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD18
4E168CB03
4E168CB07
4E168DA43
4E168EA11
4E168FA05
4E168FB05
4E168FC04
4E168JA16
4E168JA17
4E168JA25
(57)【要約】
【課題】 熱影響を低減することができるレーザ加工機を提供することを目的とする。
【解決手段】
本実施形態のレーザ加工機1は、加工用のレーザ光を加工対象物に照射するレーザ照射部50と、前記加工対象物の、前記レーザ照射部によりレーザ光が照射される位置の近傍に対して、液体を照射する冷却液照射部53と、レーザ照射部50により照射されるレーザ光の光軸に対して直交する方向に高圧ガスを噴出するガス噴出部56とを有する。レーザ照射部50は、レーザ光及びアシストガスを出すノズルを含み、冷却液照射部53は、前記ノズルの周囲から、ミスト状の液体を照射する。また、冷却液照射部53は、前記ノズルと同軸で、このノズルの外周に設けられた同軸ノズルを含み、この同軸ノズルから、ミスト状の水を照射する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工用のレーザ光を加工対象物に照射するレーザ照射部と、
前記加工対象物の、前記レーザ照射部によりレーザ光が照射される位置の近傍に対して、液体を照射する冷却液照射部と、
前記レーザ照射部により照射されるレーザ光の光軸に対して直交する方向に高圧ガスを噴出するガス噴出部と
を有するレーザ加工機。
【請求項2】
前記レーザ照射部は、レーザ光及びアシストガスを出すノズルを含み、
前記冷却液照射部は、前記ノズルの周囲から、ミスト状の液体を照射する
請求項1に記載のレーザ加工機。
【請求項3】
前記冷却液照射部は、前記ノズルと同軸で、このノズルの外周に設けられた同軸ノズルを含み、この同軸ノズルから、ミスト状の水を照射する
請求項2に記載のレーザ加工機。
【請求項4】
前記レーザ照射部は、前記加工対象物に対して相対的に移動しながら、レーザ光を照射し、
前記ガス噴出部は、前記ノズルの近傍において、前記レーザ照射部の移動方向に高圧ガスを噴出する
請求項2に記載のレーザ加工機。
【請求項5】
加工用のレーザ光を加工対象物に照射するレーザ照射ステップと、
前記加工対象物の、前記レーザ光が照射される位置の近傍に対して、液体を照射する冷却液照射ステップと、
前記記レーザ照射部により照射されるレーザ光の光軸に対して直交する方向に高圧ガスを噴出するガス噴出ステップと
を有するレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工機、及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、被切断材の表面にレーザー光を照射して被切断材を切断するレーザー切断装置であって、レーザー光を被切断材の表面に向けて照射する照射ノズルと、被切断材の表面のレーザー光照射部周辺に向けて冷却用の水を霧状に噴霧する水噴霧ノズルとが備えられていることを特徴とするレーザー切断装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-52081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、熱影響を低減することができるレーザ加工機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るレーザ加工機は、加工用のレーザ光を加工対象物に照射するレーザ照射部と、前記加工対象物の、前記レーザ照射部によりレーザ光が照射される位置の近傍に対して、液体を照射する冷却液照射部と、前記レーザ照射部により照射されるレーザ光の光軸に対して直交する方向に高圧ガスを噴出するガス噴出部とを有する。
【0006】
好適には、前記レーザ照射部は、レーザ光及びアシストガスを出すノズルを含み、前記冷却液照射部は、前記ノズルの周囲から、ミスト状の液体を照射する。
【0007】
好適には、前記冷却液照射部は、前記ノズルと同軸で、このノズルの外周に設けられた同軸ノズルを含み、この同軸ノズルから、ミスト状の水を照射する。
【0008】
好適には、前記レーザ照射部は、前記加工対象物に対して相対的に移動しながら、レーザ光を照射し、前記ガス噴出部は、前記ノズルの近傍において、前記レーザ照射部の移動方向に高圧ガスを噴出する。
【0009】
また、本発明に係るレーザ加工方法は、加工用のレーザ光を加工対象物に照射するレーザ照射ステップと、前記加工対象物の、前記レーザ光が照射される位置の近傍に対して、液体を照射する冷却液照射ステップと、前記記レーザ照射部により照射されるレーザ光の光軸に対して直交する方向に高圧ガスを噴出するガス噴出ステップとを有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】レーザ加工機1の構成を例示する図である。
図2】パルス発振器3の構成を例示する図である。
図3】合成パルスレーザ光304のエネルギーの平均出力と増幅段数との関係を例示する図である。
図4】放電励起によるガス温度上昇の解析を例示する図である。
図5】寄生発振フィルタ130の内部構造及び除去原理を例示する図である。
図6】SF6ガスのCO2レーザ光透過率とエネルギー密度との関係を示す図である。
図7】加工部5における加工ヘッド60の構成を例示する図である。
図8】レーザ加工時における加工ヘッド60を例示する図である。
図9】実施例と比較例とのレーザ加工面における蓄熱温度分布のシミュレーションを例示した図である。
図10】実施例と比較例とのレーザ加工面を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、本発明がなされた背景を説明する。
炭素繊維複合材(以下炭素繊維強化プラスチックと称呼する場合もある)に対する加工手法として、例えば、消耗が無く安定して使用することができるレーザ加工が国内外で有望視されている。炭素繊維複合材は、保護材であるプラスチック樹脂(融点:300℃)が炭素繊維(融点:3,000℃)を覆う構成であり、薄板の複合材であれば、ドイツのフランホッファー研究所が、短パルス光により高速で何度も走査することにより加工を実現している。これは、一般的にリモート切断(アブレーション加工)と呼ばれている。リモート切断においては、板厚2mmぐらいまでの加工までが限界である。
また、プラスチック樹脂と炭素繊維とを何層にも重ねた板厚2mm以上となる厚板の複合材では、レーザ加工による切断が難しくなる。具体的には、熱影響の拡大と、複合材の厚さが増すことによりレーザ光が複合材の側面で吸収される割合が多くなり加工点までレーザ光を導光することが出来ず、加工に要する十分なパワーを伝搬する事が出来ないこととの課題がある。またリモート切断では、アシストガス等による積極的な冷却が出来ないため加工に限界がある。
【0013】
そこで、上記事情を一着眼点にして本発明の実施形態を創作するに至った。本発明の実施形態によれば、レーザ加工後に気化冷却を行うことにより、熱影響を抑えることが可能である。以下、このような本発明の実施形態によるレーザ加工機1を図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、レーザ加工機1の構成を例示する図である。
図1に例示するように、レーザ加工機1は、2つのパルスレーザ光を合成及び増幅したパルスレーザ光を用いて、例えば炭素繊維複合材である加工対象物Wの切断又は穴あけ加工を行う加工機である。レーザ加工機1は、MOPAが1つになったオールインワン構造となっている。
レーザ加工機1は、パルス発振器3と、加工部5とを有する。パルス発振器3は、伝送ミラー7に対して加工レーザ30を出射し、伝送ミラー7は、出射された加工レーザ30を加工部5に伝送する。そして、加工部5は、伝送された加工レーザ30を加工対象物Wに照射する。このとき加工部5は、加工対象物Wに対して相対的に移動しながら、レーザ光を照射する。
【0015】
図2は、パルス発振器3の構成を例示する図である。
図2に例示するように、パルス発振器3は、第1マスターオシレータ100、第2マスターオシレータ102、ビームコンバイナ110、光増幅器120、寄生発振フィルタ130、及び、伝送ミラー140を有する。
【0016】
第1マスターオシレータ100は、共振器とAOモジュレータとにより、偏光パルスレーザ光(第1パルスレーザ光300)を生成し出力する。第1マスターオシレータ100の発振器構造は、電気光変換効率の良い高速軸流が好ましい。第1マスターオシレータ100は、伝送ミラー140Aを介して、第2マスターオシレータ102が出力する偏光パルスレーザ光に対して直交する第1パルスレーザ光300を出力する。出力された第1パルスレーザ光300は、ビームコンバイナ110に入射する。
また、第1マスターオシレータ100は、平均出力280w~320wの偏光パルスレーザ光を出力し、本例では平均出力300wである。また、第1パルスレーザ光300は、250kHzのパルス(周期:4μsec)で発振している。
【0017】
第2マスターオシレータ102は、共振器とAOモジュレータとにより、偏光パルスレーザ光(第2パルスレーザ光302)を生成し出力する。第2マスターオシレータ102の発振器構造は、電気光変換効率の良い高速軸流が好ましい。第2マスターオシレータ102は、第1マスターオシレータ100が出力する第1パルスレーザ光300に対して、直交する第2パルスレーザ光302を出力する。出力された第2パルスレーザ光302は、ビームコンバイナ110に入射する。
また、第2マスターオシレータ102は、平均出力280w~320wの偏光パルスレーザ光を出力し、本例では平均出力300wである。また、第2パルスレーザ光302は、250kHzのパルス(周期:4μsec)で発振している。
【0018】
ビームコンバイナ110は、直交する2つの偏光パルスレーザ光を光学的に合成する光学部品である合成手段の一例であり、第1マスターオシレータ100から出力された第1パルスレーザ光300と、第2マスターオシレータ102から出力された第2パルスレーザ光302とを1本のレーザ光に合成する。本例のビームコンバイナ110は、平均出力300wである第1パルスレーザ光300と、平均出力300wであり第2パルスレーザ光302とを、平均出力600wであるレーザ光(合成パルスレーザ光304)に合成する。また本例のビームコンバイナ110は、炭酸ガスレーザ用の偏光ビームコンバイナである。なお、ビームコンバイナ110は、合成手段の一例である。
【0019】
光増幅器120は、ビームコンバイナ110により合成された合成パルスレーザ光304を増幅する光学用の増幅器である。光増幅器120は、複数段の増幅器を含み、炭素繊維強化プラスチックの切断に適した出力となる程度の増幅器の数となっている。本例の光増幅器120は、第1増幅器122、第2増幅器124、第3増幅器126、及び、第4増幅器128の4つの増幅器を含み、これらは直列に接続されている。光増幅器120は、4つの増幅器を介して、平均出力600wの合成パルスレーザ光304を平均出力3000wの合成パルスレーザ光304に増幅する。このように、合成パルスレーザ光304のモードやパルス条件を維持した状態で、出力を上げることができる。なお、光増幅器120は、増幅手段の一例である。
【0020】
寄生発振フィルタ130は、光増幅器120により増幅された合成パルスレーザ光304から、寄生発振のレーザ光(寄生発振光)を除去する。ここで、寄生発振光とは、光増幅器120により増幅の段階でガラスチューブ内面等で反射増幅(寄生発振)された領域の光であり、切断加工に悪影響を与える光である。寄生発振フィルタ130は、可飽和吸収ガスを内部循環させながら格納しており、可飽和吸収ガス中に合成パルスレーザ光304を通すことで、寄生発振光を除去する。本例では、可飽和吸収ガスは、SF6ガスであり、寄生発振フィルタ130は、SF6ガスによるフィルタリングにより寄生発振レーザ光を除去する。なお、寄生発振フィルタ130は、本発明に係るフィルタの一例である。
【0021】
伝送ミラー140は、偏向パルスレーザ光を伝送する光学用ミラーである。伝送ミラー140は、伝送ミラー140A、伝送ミラー140B、及び伝送ミラー140Cを含む。伝送ミラー140Aは、第1マスターオシレータ100から出力された第1パルスレーザ光300を反射させビームコンバイナ110に伝送する。また、伝送ミラー140Bは、第2増幅器124から出射された合成パルスレーザ光304を伝送ミラー140Cに伝送し、伝送ミラー140Cは、伝送ミラー140Bから伝送された合成パルスレーザ光304を第3増幅器126に伝送する。本例の伝送ミラー140A、伝送ミラー140B、及び伝送ミラー140Cは、ゼロシフト全反射ミラーである。
【0022】
次に、光増幅器120の増幅段数及びレーザチューブ内径を説明する。
(光増幅器120:増幅段数の選択)
図3は、合成パルスレーザ光304のエネルギーの平均出力と増幅段数との関係を例示する図である。縦軸に合成パルスレーザ光304のエネルギー平均出力を、横軸に増幅段数をとり、増幅段数による平均出力の変化を示した。
図3に例示するように、出力制限のある直交する2つのAOMで取り出される第1パルスレーザ光300及び第2パルスレーザ光302をビームコンバイナ110により合成し、1本の合成パルスレーザ光304とする。増幅前における合成パルスレーザ光304の出力を、平均出力0.5mJ@250kHz、平均出力1.5mJ@250kHz、及び平均出力3.0mJ@250kHzとして比較した。
解析結果から、増幅後における合成パルスレーザ光304の出力を平均出力3000w@250kHz以上として得るには、増幅前における合成パルスレーザ光304の出力を平均出力1.5mJ@250kHz以上、かつ、増幅段数を6段以下であると解った。すなわち、増幅前における合成パルスレーザ光304の出力を高めると、増幅器の数を減らすことができるため、結果として小型化することができる。よって、増幅前における合成パルスレーザ光304の出力に応じて炭素繊維複合材の切断に適した出力を得られるよう増幅器の数を適宜選択できる。なお、本例では、増幅前における合成パルスレーザ光304の出力を平均出力600wとし、4段の増幅を経て、増幅後における合成パルスレーザ光304の出力を平均出力3000wとしている。
【0023】
(光増幅器120:レーザチューブ内径の選択)
図4は、放電励起によるガス温度上昇の解析を例示する図である。縦軸にガス温度を、横軸にガラス内径をとり、ガラス内径によるガス温度の変化を示した。
光増幅器120は、2つのマスターオシレータの発振器と同様の構造とした。ただし、図4に例示するように、放電によるレーザガス温度上昇が300℃を越えるとレーザ光増幅の低下と、発生したレーザ光の吸収とが生じる。そのため、レーザチューブ内径をΦ15mm以上17mm以下としガス流速を上げ単位時間流量を増すことで、ガス温度上昇を低減させた。
【0024】
次に、寄生発振フィルタ130を詳細に説明する
図5は、寄生発振フィルタ130の内部構造及び除去原理を例示する図である。図5(A)は、寄生発振フィルタ130の内部構造を例示し、図5(B)は、寄生発振フィルタ130の除去原理を例示する図である。
図5(A)に例示するように、寄生発振フィルタ130は、集光レンズとコリメータレンズとを備え、集光レンズの焦点位置を通るように可飽和吸収ガスが通り内部で循環する構造となっている。
光増幅器120から出射した合成パルスレーザ光304は、集光レンズから入射し焦点位置にて集光する。集光した合成パルスレーザ光304は、寄生発振フィルタ130に格納された可飽和吸収ガスの中を通過する。このとき、可飽和吸収ガスは、集光レンズの焦点位置近傍において、合成パルスレーザ光304に対して直交する方向に流れ高速循環している。これにより、焦点位置近傍において、可飽和吸収ガスの劣化のない、フレッシュな可飽和吸収ガスと合成パルスレーザ光304とが常に反応可能となり、250kHzの繰返しパルスに対応することができる。可飽和吸収ガス内を通過した合成パルスレーザ光304は、コリメータレンズからコリメートされ出射し、加工レーザ光30となる。
【0025】
図5(B)に例示するように、合成パルスレーザ光304を光増幅器120で増幅(PM)した際に、ガラスチューブ内面の反射等で発生した寄生発振レーザ光も同時に増幅する。そのため、増幅した寄生発振レーザ光は、レーザ加工に悪影響を及ぼすため除去する必要がある。合成パルスレーザ光304は、寄生発振フィルタ130内にて集光レンズにより集光し、集光部にシングルモード及び高次モードを出現させる。このとき、焦点位置近傍において、シングルモードのレーザ光のスポット径は、回折限界付近まで絞り込まれる。一方、焦点位置近傍において、高次モードのレーザ光(いわゆる、寄生発振レーザ光に相当)のスポット径は、シングルモードのレーザー光のスポット径よりも大きくなる。光増幅器120で増幅した合成パルスレーザ光304は、エネルギー密度が高いパルスレーザ光となっているため、例えば、スペイシャルフィルタにより高次モードのレーザ光の除去を行っても、ナイフエッジピンホールの一部が加熱溶融され損傷部分が発生する。そのため、通常使われるピンホールでの高次モードの除去は難しい。そこで、可飽和吸収ガスであるSF6ガスをスペイシャルフィルタのように機能させることで、高次モードのレーザ光を除去し加工に良好なレーザ光にすることができる。
【0026】
図6は、合成パルスレーザ光304におけるSF6ガスの透過率曲線を例示する図である。
図6に例示するように、エネルギー密度が低い高次モード領域に対して、エネルギー密度が高いシングルモード領域の透過率が大きい。つまり、レーザエネルギー密度に依存してSF6ガスの吸収割合に違いがある。このため、集光レンズにより集光されたシングルモード領域のレーザー光は、焦点位置近傍において、エネルギー密度が高くなり可飽和吸収ガスであるSF6ガスを透過する。一方、エネルギー密度の低い高次モード領域のレーザー光は、焦点位置近傍において、エネルギー密度が低くなり可飽和吸収ガスであるSF6ガスにより吸収される。入射光によりSF6ガスは、振動励起されレーザ光を吸収する。通常は、レーザ光のエネルギー密度が低いためSF6ガスの解離は発生しない。光励起されたSF6ガスは、数~数10nsecで分子間衝突効果の励起や緩和が行われる。この吸収パラメータは、ガス圧・混合比や温度に依存するため安定した動作を保障するためにはパルス間にフレッシュなSF6ガスと置換する必要がある。
従って、寄生発振フィルタ130は、集光レンズの焦点位置近傍において、合成パルスレーザ光304に対して直交する方向にSF6ガスを高速循環させることにより、フレッシュな可飽和吸収ガスと合成パルスレーザ光304とを常に反応させることで、合成パルスレーザ光304から、寄生発振レーザ光を除去することができる。
【0027】
図7は、加工部5における加工ヘッド60の構成を例示する図である。
図1に例示した加工部5は、加工対象物Wに対して相対的に移動しながら、レーザ光を照射する。加工部5は、加工ヘッド60を有し、加工ヘッド60を通じて加工レーザ光30を加工対象物Wに照射する。なお、加工ヘッド60は、第1ノズル61と第2ノズル63を含む。図7に例示するように、加工部5は、レーザ照射部50と、冷却液照射部53と、ガス噴出部56とを有する。レーザ照射部50は、第1ノズル61を含み、冷却液照射部53は、第2ノズル63を含む。但し、内部空間S1を陽圧力にするためガス噴出部56を削除する組合せもある。
【0028】
レーザ照射部50は、加工用のレーザ光(加工レーザ光30)及びアシストガスを第1ノズル噴出口61Aから出す第1ノズル61を含み、この第1ノズル61から加工レーザ光30を加工対象物Wに照射する。レーザ照射部50は、加工対象物Wに対して相対的に移動しながら、レーザ光を照射する。また、第1ノズル61には集光レンズ65が設けられる。なお、集光レンズ65は、放物面鏡で集光するように変更してもよい。
【0029】
冷却液照射部53は、供給される冷却液を第2ノズル噴出口63Aから出す第2ノズル63を含み、加工対象物Wの、レーザ照射部5により加工レーザ光30が照射される位置の近傍に対して、冷却液を照射する。また、冷却液照射部53に含まれる第2ノズル63は、第1ノズル61と同軸で、第1ノズル61の外周に設けられた同軸ノズルであり、第1ノズル噴出口61Aの周囲から冷却液を照射する。ここで、冷却液照射部53から照射される冷却液は、ミスト状の液体であり、本例ではミスト状の水(水ミストと称呼する)である。
【0030】
ガス噴出部56は、ガス噴出部56は、第1ノズル61の第1ノズル噴出口61Aと集光レンズ65との間の位置おいて、第1ノズル61内を進む加工レーザ光30の光軸に対して直交する方向に高圧ガスを噴出する。具体的には、ガス噴出部56は、第1ノズル61の近傍において、レーザ照射部50の移動方向に高圧ガスを噴出する。なお高圧ガスとは、本例では圧縮空気である。また、ガス噴出部56は、ガス流路562、及びガス排出部564を含み、互いに対向する位置に設けられる。
【0031】
次に、レーザ加工機1のレーザ加工方法を説明する。
図8は、加工対象物Wを加工しているレーザ加工機1を例示する図である。
図8に例示するように、レーザ加工機1は、加工部5を高速移動させながら、加工対象物W(CFRP又はCFRTP)の表面に加工レーザ光30を照射し加工を行う。本例では、加工部5を4m/secの速度で高速移動させながら、一回の走査におけるレーザ加工での除去加工深さDを10~100μm程度とする。また、予め集光レンズ65の焦点距離は厚さに比例して自動調整したものとする。
ステップ100(S100)において、レーザ照射部50は、レーザ発振器3から出射された加工レーザ光30を集光レンズ65に入射させ、入射させた加工レーザ光30を焦点位置にて集光させる。すなわち、レーザ照射部50は、加工対象物Wに加工レーザ光30を照射する。このパルスレーザ加工時において、加工対象物Wの表面から飛散した微粒子(アブレーション粒子)が発生する。
【0032】
ステップ102(S102)において、冷却液照射部53は、加工対象物Wの加工面のうち、加工レーザ光30が照射される位置の近傍に水ミストを照射する。照射された水ミストは、加工対象物Wの表面にて蒸発するため、既にレーザ加工を終えた加工対象物Wの表面を気化冷却させ、レーザ加工後の温度上昇を防止する。これにより、熱蓄積と熱影響とを抑えることができる。
【0033】
ステップ104(S104)において、ガス噴出部56は、ガス噴出部56は、第1ノズル61の第1ノズル噴出口61Aと集光レンズ65との間の位置おいて、レーザ照射部50の第1ノズル61から照射されるレーザ光の光軸に対して直交する方向に第1ノズル61の内部から外部に向かって高圧ガスである圧縮空気を噴出し、第1ノズル61の内部に侵入したアブレーション粒子を、第1ノズル61の外部に排出する。これにより、集光レンズ65にアブレーション粒子が付着することを防止する。
このように、S100~S104を繰り返すことにより、レーザ加工パス間中に温度上昇した加工対象物Wの加工面を積極的に冷却できるため、熱伝導による温度上昇を低減することができる。なお、S102及びS104は、実行する順序を入れ替えてもよいし、同じタイミングで行ってもよい。
【0034】
図9は、実施例と比較例とのレーザ加工面における蓄熱温度分布のシミュレーションを例示した図である。図9(A)は、実施例の蓄熱温度分布のシミュレーションを例示した図であり、図9(B)は、比較例の蓄熱温度分布のシミュレーションを例示した図である。
加工対象物Wの加工面の冷却を行う場合(実施例)と、加工対象物Wの加工面の冷却を行わない場合(比較例)とで、蓄熱温度分布のシミュレーションを行った。
図9(A)に例示するように、実施例では、パスとパスの短時間に加工対象物Wの加工面を冷却する場合、熱影響部(HAZ)領域を最小に低減できる結果が得られた。一方で、図9(B)に例示するように、比較例では、パスとパスの間に加工対象物Wの加工面を冷却しない場合、熱伝導により400℃近くに樹脂層が加熱され、HAZ領域が拡大する結果が得られた。また、加工対象物W(CFRP)の温度が1,000℃異なる結果が得られた。
【0035】
図10は、実施例と比較例とのレーザ加工面を例示した図である。図10(A)は、実施例のレーザ加工面を例示した図であり、図10(B)は、比較例のレーザ加工面を例示した図である。
加工対象物Wの加工面の冷却を行う場合(実施例)と、加工対象物Wの加工面の冷却を行わない場合(比較例)とで、加工対象物Wのレーザ加工を行った。
図10(A)に例示するように、実施例では、レーザ加工を行いながら加工対象物Wの加工面を積極的に気化冷却することにより、HAZ領域を最小に低減できることを確認した。一方で、図10(B)に例示するように、比較例では、レーザ加工を行いながら加工対象物Wの加工面を冷却していないため、樹脂層が加熱されるためHAZ領域の拡大が見られることを確認した。
【0036】
以上説明したのように、従来のリモート切断では、レーザ出力が低く、かつ、冷却が不十分であるため、加工対象物Wの表面に熱伝導吸収され加工底部までレーザエネルギーが到達せず、厚板の加工対象物Wの加工が困難であったが、本実施形態のレーザ加工機1によれば、レーザ加工を終えた加工対象物Wの表面を積極的に気化冷却させ、レーザ加工後の温度上昇を防止することにより、熱影響を抑えることができる。これにより、良好な加工面を得ることができる。また、熱影響を抑えながら高出力レーザ加工を繰り返し行うことができるため、例えば3mm以上6mm以下である厚板の加工対象物Wの切断加工も行うことができる。
【符号の説明】
【0037】
1…レーザ加工機
3…パルスレーザ共振器
100…第1マスターオシレータ
102…第2マスターオシレータ
110…ビームコンバイナ
120…光増幅器
130…寄生発振フィルタ
140…伝送ミラー
5…加工部
50…レーザ照射部
53…冷却液照射部
56…ガス噴出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10