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特開2022-69845補強鋼板組立体及び既設構造物の補強方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069845
(43)【公開日】2022-05-12
(54)【発明の名称】補強鋼板組立体及び既設構造物の補強方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20220502BHJP
【FI】
E01D22/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020178735
(22)【出願日】2020-10-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-04-07
(71)【出願人】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【弁理士】
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】岩本 ▲靖▼
(72)【発明者】
【氏名】坂上 晃一
(72)【発明者】
【氏名】八木 敏博
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA03
2D059GG40
2D059GG55
(57)【要約】
【課題】土留めなどの作業空間を確保するための仮設工事が不要で、偏圧が作用しても補強鋼板を圧入することができる補強鋼板組立体及び既設構造物の補強方法を提供する。
【解決手段】柱状の既設構造物(橋脚P1)の耐震補強として用いられる複数枚の補強鋼板2から組み立てられた補強鋼板組立体1において、複数枚の補強鋼板2が接合されて既設構造物(橋脚P1)の断面形状と一定距離離間した相似の断面形状となった筒状に組み立てられた補強鋼板組立体本体3と、この補強鋼板組立体本体3の内周面3aから内側に向け突設され、前記既設構造物(橋脚P1)との間に充填材6を充填するスペースを確保する複数のスペーサ4と、これらの複数のスペーサ4の少なくとも一つに横方向に軸支されて縦方向に回転自在なローラ5を設ける。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状の既設構造物の耐震補強として用いられる複数枚の補強鋼板から組み立てられた補強鋼板組立体であって、
複数枚の前記補強鋼板が接合されて前記既設構造物の断面形状と一定距離離間した相似の断面形状となった筒状に組み立てられた補強鋼板組立体本体と、
前記補強鋼板組立体本体の内周面から内側に向け突設され、前記既設構造物との間に充填材を充填するスペースを確保する複数のスペーサと、
これらの複数のスペーサの少なくとも一つに横方向に軸支されて縦方向に回転自在なローラと、が設けられていること
を特徴とする補強鋼板組立体。
【請求項2】
前記既設構造物は、外部から作用する土圧及び水圧のいずれか一方又は両方に偏りがあり、前記ローラは、外部から作用する圧力が高い側にのみ設けられ、前記スペーサは、内端にローラが取り付けられたローラ付きスペーサと、内端にローラが取り付けられていないローラ無しスペーサの二種類が設けられていること
を特徴とする補強鋼板組立体。
【請求項3】
前記ローラは、前記スペーサにばね材を介して取り付けられていること
を特徴とする請求項1又は2に記載の補強鋼板組立体。
【請求項4】
柱状の既設構造物の周りに請求項1ないし3のいずれか1項に記載の補強鋼板組立体を設置して補強する既設構造物の補強方法であって、
前記補強鋼板組立体を圧入する圧入工程を有し、
前記圧入工程では、前記ローラを前記既設構造物に当接して回転させて前記スペーサが前記既設構造物に押し付けられる圧力を低減して圧入すること
を特徴とする既設構造物の補強方法。
【請求項5】
前記圧入工程では、前記ばね材で前記ローラを前記既設構造物へ押圧するように付勢して、前記既設構造物の外周表面の凹凸に追随させつつ前記補強鋼板組立体を圧入すること
を特徴とする請求項4に記載の既設構造物の補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋脚などの柱状の既設構造物の耐震補強として用いられる複数枚の補強鋼板から組み立てられた補強鋼板組立体及びそれを用いた既設構造物の補強方法に関し、より詳しくは、ローラスペーサ付き補強鋼板組立体及びそれを用いた既設構造物の補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、既設RC橋脚の耐震補強工法としては、RC巻立て工法や鋼板巻立て工法などが知られている。しかし、これらの工法は、鋼矢板などの土留め・仮締切を設置し、締切内掘削、排水を行って作業空間を確保する必要があった。このため、既設構造物直下の厳しい制約条件下では、鋼矢板が短尺で多くの継施工が必要となることから、施工が困難で、工期が長く、工費も高額となるなどの問題があった。
【0003】
このような問題を解決するために、特許文献1には、本願出願人が提案した、既設のRC橋脚に鋼板を巻き立て、圧入し、水中不分離型無収縮モルタルにより既設橋脚と一体化することにより耐震補強を行う既設RC橋脚耐震補強用の圧入装置及びそれを用いた鋼板圧入工法が開示されている(特許文献1の明細書の段落[0026]~[0030]、図面の図8図14等参照)。
【0004】
特許文献1に記載の圧入装置及びそれを用いた鋼板圧入工法は、鋼矢板等による土留めや仮締切などの作業空間を確保するための仮設工事が不要であり、掘削は鋼板と既設橋脚とのわずかな隙間に限定されるため、工費・工期を削減することができ、環境にも優しいという特徴がある。また、圧入工法であるため堤防などの開削ができない施工条件でも補強工事を行うことができるという優れた特徴があった。
【0005】
また、特許文献2には、補強鋼板に座屈防止部材を設け、この座屈防止材を圧入装置で圧入する際に橋脚の側壁と補強鋼板との間に所定の間隙を形成するためのスペーサとして機能させる柱状構造物の補強構造及び柱状構造物の補強方法が開示されている(特許文献2の明細書の段落[0037]、図面の図1図4図9図10等参照)。
【0006】
特許文献2に記載の柱状構造物の補強構造及び柱状構造物の補強方法は、鋼板圧入時に作用する曲げモーメントをアーム及び支圧板により受けて橋脚に伝達できるため、伸縮式ジャッキの反力を受ける側の構造を小型化して、経済的に安価な圧入装置とすることができるという優れた特徴があった。
【0007】
しかし、特許文献1に記載の圧入装置及びそれを用いた鋼板圧入工法及び特許文献2に記載の柱状構造物の補強構造及び柱状構造物の補強方法は、傾斜地などで偏土圧(偏圧)が作用する状態で補強鋼板を圧入する場合、山側の土圧(偏圧)が補強鋼板に作用することで、補強鋼板が谷側に押され、既設構造物に補強鋼板の内側に突設したスペーサが干渉し、既設構造物を損傷させるという問題があった。また、スペーサが既設構造物に干渉することで、圧入抵抗となり、補強鋼板の圧入に支障が生じるという問題もあった。
【0008】
このような問題を解決するには、補強鋼板に土圧を作用させないように土留めを設置することが考えられるが、傾斜地のような狭隘な作業条件下で土留めを施工することは、制約条件が多く施工性、経済性が悪化するという問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012-167474号公報
【特許文献2】特開2014-141829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、土留めなどの作業空間を確保するための仮設工事が不要で、偏圧が作用しても補強鋼板を圧入することができる補強鋼板組立体及び既設構造物の補強方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る補強鋼板組立体は、柱状の既設構造物の耐震補強として用いられる複数枚の補強鋼板から組み立てられた補強鋼板組立体であって、複数枚の前記補強鋼板が接合されて前記既設構造物の断面形状と一定距離離間した相似の断面形状となった筒状に組み立てられた補強鋼板組立体本体と、内周面から内側に向け突設され、前記既設構造物との間に充填材を充填するスペースを確保する複数のスペーサと、これらの複数のスペーサの少なくとも一つに横方向に軸支されて縦方向に回転自在なローラと、が設けられていることを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る補強鋼板組立体は、請求項1に係る補強鋼板組立体において、前記既設構造物は、外部から作用する土圧及び水圧のいずれか一方又は両方に偏りがあり、前記ローラは、外部から作用する圧力が高い側にのみ設けられ、前記スペーサは、内端にローラが取り付けられたローラ付きスペーサと、内端にローラが取り付けられていないローラ無しスペーサの二種類が設けられていることを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る補強鋼板組立体は、請求項1又は2に係る補強鋼板組立体において、前記ローラは、前記スペーサにばね材を介して取り付けられていることを特徴とする。
【0014】
請求項4に係る既設構造物の補強方法は、柱状の既設構造物の周りに請求項1ないし3のいずれか1項に記載の補強鋼板組立体を設置して補強する既設構造物の補強方法であって、前記補強鋼板組立体を圧入する圧入工程を有し、前記圧入工程では、前記ローラを前記既設構造物に当接して転動させて前記スペーサが前記既設構造物に押し付けられる圧力を低減して圧入することを特徴とする。
【0015】
請求項5に係る既設構造物の補強方法は、請求項4に記載の既設構造物の補強方法において、前記圧入工程では、前記ばね材で前記ローラを前記既設構造物へ押圧するように付勢して、前記既設構造物の外周表面の凹凸に追随させつつ前記補強鋼板組立体を圧入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1~5に係る発明によれば、橋脚などの補強する構造物が傾斜地等に設置され、外部から偏圧が作用する条件下でも構造物を損傷することなく、補強鋼板を圧入して補強工事を行うことができる。また、請求項1~5に係る発明によれば、スペーサと既設構造物との間にローラを設けることになるので、圧入抵抗が抑えられ、補強鋼板の圧入をスムーズに行うことができる。そして、請求項1~5に係る発明によれば、土留めなどの作業空間を確保するための仮設工事が不要となり、困難な条件下であっても補強工事の施工性、経済性が向上する。
【0017】
特に、請求項2に係る発明によれば、ローラが外部から作用する圧力が高い側にのみ設けられているので、前記作用効果を奏しつつ、不必要なローラを削減して、補強鋼板組立体の製作コストを低減することができる。また、請求項2に係る発明によれば、ローラ付きスペーサとローラ無しスペーサの二種類のスペーサが設けられているので、圧入時に補強鋼板組立体に偏圧がかかった場合でも適切な位置に補強鋼板組立体をガイドして圧入することができる。
【0018】
特に、請求項3に係る発明によれば、ローラがばね材を介してスペーサに取り付けられているので、ばね材で既設構造物の外周表面の凹凸に追随して補強鋼板組立体にかかる外圧の偏りを少なくして既設構造物に伝達することができる。このため、既設構造物を損傷するおそれをより低減することができるだけでなく、圧入抵抗をさらに抑えて、補強鋼板の圧入をスムーズに行うことができる。
【0019】
特に、請求項4に係る発明によれば、ローラを既設構造物に当接して転動させてスペーサが既設構造物に押し付けられる圧力を低減して圧入するので、圧入抵抗を抑えて、補強鋼板の圧入をスムーズに行うことができる。
【0020】
特に、請求項5に係る発明によれば、ばね材でローラを既設構造物へ押圧するように付勢して、既設構造物の外周表面の凹凸に追随させつつ圧入するので、補強鋼板組立体にかかる外圧の偏りを少なくして既設構造物に伝達することができる。このため、既設構造物を損傷するおそれをより低減することができるだけでなく、圧入抵抗をさらに抑えて、補強鋼板の圧入をスムーズに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の実施形態に係る補強鋼板組立体で補強した橋脚を示す側面図である。
図2図2は、同上の補強鋼板組立体で補強した橋脚を示す水平断面図である。
図3図3は、図2のA部拡大図である。
図4図4は、図2のB部拡大図である。
図5図5は、図3のC-C線断面図である。
図6図6は、本実施形態に係る既設構造物の補強方法の各工程を示すフローチャートである。
図7図7は、本実施形態に係る既設構造物の補強方法の反力用鋼板設置工程を示す工程説明図である。
図8図8は、本実施形態に係る既設構造物の補強方法の圧入装置設置工程を示す工程説明図である。
図9図9は、本実施形態に係る既設構造物の補強方法の補強鋼板組立工程を示す工程説明図である。
図10図10は、本実施形態に係る既設構造物の補強方法の圧入工程を示す工程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る補強鋼板組立体及び既設構造物の補強方法の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
[補強鋼板組立体]
先ず、図1図5を用いて、本発明の実施形態に係る補強鋼板組立体について説明する。本実施形態では、耐震補強を行う既設構造物として既設橋梁B1の鉄筋コンクリート製の橋脚P1を例示して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る補強鋼板組立体1で補強した橋脚P1を示す側面図であり、図2は、本実施形態に係る補強鋼板組立体1で補強した橋脚P1の水平断面図である。また、この橋脚P1は、図1に示すように、傾斜地SGに設置されており、橋脚P1には、外圧として山側の土圧が谷側の土圧より高くなった偏土圧が作用している。
【0024】
図1図2に示すように、本実施形態に係る補強鋼板組立体1は、複数枚の補強鋼板2が接合された補強鋼板組立体本体3と、この補強鋼板組立体本体3の内周面から内側に向け突設された複数のスペーサ4,・・・,4と、これらの複数のスペーサ4に軸支されて縦方向に回転自在なローラ5など、から構成されている。なお、図2に示すように、補強鋼板組立体1と既設構造物である橋脚P1との隙間には、水和反応で硬化する経時硬化材であるモルタルやコンクリート等の充填材6で充填されて硬化され、補強鋼板組立体1と橋脚P1とが一体化されている。
【0025】
(補強鋼板)
補強鋼板2は、構造設計に応じた所定厚さ(図示形態では9mm)の矩形状(長方形状)の鋼板である。勿論、補強鋼板2の形状や厚さは、補強する既設の構造物の断面形状や構造設計に応じて適宜設定してよいことは云うまでもない。
【0026】
(補強鋼板組立体本体)
補強鋼板組立体本体3は、複数枚の補強鋼板2の端面同士が溶接接合されて橋脚P1の外周側面から一定距離離間した橋脚P1の断面形状と相似の断面形状となった筒状に組み立てられている。補強鋼板2同士の接合は、本実施形態では、溶接接合されているが、リベット接合やボルト接合など機械的に接合しても構わない。
【0027】
また、図1図2に示すように、既設構造物として例示する橋脚P1は、断面が矩形状(長方形)となっており、補強鋼板組立体本体3の断面形状も矩形状(長方形)となっている。補強鋼板組立体本体3の内周面3aと、橋脚P1の外周側面とは、一定距離(本実施形態では100mm)離間して隙間G1が形成され、この隙間G1に充填材6が充填されている。
【0028】
(スペーサ)
スペーサ4は、座屈防止機能等必要強度に応じた所定の鋼材からなり、補強鋼板組立体本体3の内周面3aから橋脚P1側となる内側に垂設された上下方向に帯状に延びる帯状鋼材41の内側面の内端に、上下方向に延びる平板鋼材42が垂直に接合された部材である。このスペーサ4は、内周面3aと橋脚P1との間に充填材6を充填するスペースを確保する機能と、補強鋼板組立体1の圧入時に補強鋼板2が座屈するのを防止する機能を有している。
【0029】
また、スペーサ4は、後述のローラ5が内端に取り付けられたローラ付きスペーサ4aと、このようなローラ5が内端に取り付けられていないローラ無しスペーサ4bと、の二種類のスペーサが設けられている。図2に示すように、傾斜地SGにより高い土圧がかかる橋脚P1の山側及びその側面側には、ローラ付きスペーサ4aが設けられ、比較的土圧が小さい谷側には、ローラ無しスペーサ4bが設けられている。
【0030】
図3は、図2のA部拡大図であり、図4は、図2のB部拡大図である。また、図5は、図3のC-C線断面図である。図3図5に示すように、ローラ付きスペーサ4aの突出長さL1は、隙間G1の半分程度となる53mm程度となっており、図4に示すように、ローラ無しスペーサ4bの突出長さL2は、隙間G1より少し短い10mm程度の遊びを設けた90mm程度となっている。
【0031】
(ローラ)
ローラ5は、図3に示すように、ローラ付きスペーサ4aの内端である平板鋼材42の内側面に、コイルスプリングからなる一対のばね材7及び一対の山形鋼材である一対のL型アングル8を介して取り付けられている。なお、ばね材7は、コイルスプリングに限られず、板ばねなど他のばね材であってもよいことは云うまでもない。
【0032】
詳細には、ローラ付きスペーサ4aの平板鋼材42と一対のL型アングル8との間に、ばね材7がそれぞれ介装されており、L型アングル8にローラ5が水平(横方向)に軸支されている。このため、ローラ5は、縦回転自在となっており、補強鋼板組立体1の圧入時のローラ付きスペーサ4aと橋脚P1との摩擦抵抗が極めて低減される構造となっている。また、橋脚P1の外周側面の凹凸により、橋脚P1の外周側面の凸部と一部のローラ5に応力が集中することをばね材7により分散させて防ぐことができる。
【0033】
[既設構造物の補強方法]
次に、図6図10を用いて、本発明の実施形態に係る既設構造物の補強方法について説明する。前述の傾斜地SGに建造された既設橋梁B1の鉄筋コンクリート製の橋脚P1の周りに前述の補強鋼板組立体1を設置して補強する場合を例示して説明する。図6は、本実施形態に係る既設構造物の補強方法の各工程を示すフローチャートであり、図7は、本実施形態に係る既設構造物の補強方法の反力用鋼板設置工程を示す工程説明図である。
【0034】
(1.反力用鋼板設置工程)
図6図7に示すように、本実施形態に係る既設構造物の補強方法では、先ず、既設構造物である橋脚P1に反力用鋼板を設置する反力用鋼板設置工程を行う。
【0035】
具体的には、本工程では、橋脚P1の上部にあと施工アンカーを設置して、このあと施工アンカーにボルト止めして反力用鋼板S1を固定して設置する。
【0036】
(2.圧入装置設置工程)
図6図8に示すように、本実施形態に係る既設構造物の補強方法では、次に、前工程で設置した反力用鋼板S1に圧入装置M1を取り付けて設置する圧入装置設置工程を行う。図8は、本実施形態に係る既設構造物の補強方法の圧入装置設置工程を示す工程説明図である。
【0037】
具体的には、本工程では、反力用鋼板S1にボルト接合して、橋脚P1の上部に圧入装置M1を支持固定する。勿論、圧入装置M1の橋脚P1への支持固定は、ボルト接合に限られず、どのように固定してもよいことは云うまでもない。
【0038】
この圧入装置M1は、油圧で駆動する直動機構であり、前述の補強鋼板組立体1を圧入する複数の伸縮ジャッキM10と、これらの伸縮ジャッキM10の圧力を補強鋼板組立体1に均等に伝達する鋼材からなる押圧治具M11など、から構成されている。
【0039】
(3.補強鋼板組立工程)
図6図9に示すように、本実施形態に係る既設構造物の補強方法では、次に、傾斜地SG上において1段分の補強鋼板組立体1を組み立てる補強鋼板組立工程を行う。図9は、本実施形態に係る既設構造物の補強方法の補強鋼板組立工程を示す工程説明図である。
【0040】
具体的には、本工程では、前述の補強鋼板2の左右の端面同士を溶接して接合し、橋脚P1の外周側面から一定距離離間した角筒状に1段分の補強鋼板組立体1を組み立てる。本実施形態では、橋脚P1の断面形状が長方形状(矩形状)となっているので、それと相似の断面形状である長方形状の枠体となるように組み立てる。勿論、橋脚P1の断面形状が円形、楕円形、小判形である場合は、その断面形状と相似の断面形状となるように組み立てる。また、補強鋼板2の端面同士の接合も、溶接接合に限られず、リベット接合やボルト接合など機械的に接合しても構わない。
【0041】
(4.圧入工程)
図6図10に示すように、本実施形態に係る既設構造物の補強方法では、次に、前圧入装置設置工程で橋脚P1の上部に取り付けた圧入装置M1を用いて、前補強鋼板組立工程で組み立てた補強鋼板組立体1を橋脚P1の周囲の地盤に圧入する圧入工程を行う。このとき、補強鋼板組立体本体3の内周面3aと橋脚P1との隙間G1に侵入してきた土砂は、ウォータージェットなどを用いて高圧水を噴射して排土する。図10は、本実施形態に係る既設構造物の補強方法の圧入工程を示す工程説明図である。
【0042】
(補強鋼板組立→圧入の繰り返し)
図6に示すように、本実施形態に係る既設構造物の補強方法では、次に、前述の補強鋼板組立工程と圧入工程とを複数回繰り返し、補強鋼板組立体1を完成させるとともに、補強鋼板組立体1の下端が構造設計に応じた所定の深さに到達するまで圧入する(図1参照)。
【0043】
このとき、補強鋼板組立工程において、補強鋼板2の所定の段数毎に、補強鋼板組立体本体3の内周面3aに上下方向に延びる前述のスペーサ4を溶接等で取り付ける。また、図2に示したように、高い土圧がかかる橋脚P1の山側及びその側面側には、ローラ付きスペーサ4aを接合し、谷側には、ローラ無しスペーサ4bを接合する。
【0044】
このとき、圧入工程では、ローラ5を橋脚P1に当接させて回転させ、ローラ付きスペーサ4aが橋脚P1に押し付けられる圧力を低減して圧入するとともに、ばね材7でローラ5を橋脚P1へ押圧するように付勢して、橋脚P1の外周表面の凹凸に追随させつつ補強鋼板組立体1を圧入する。
【0045】
このように、補強鋼板組立体本体3の内周面3aにスペーサ4を取り付けることにより、補強鋼板組立体1を圧入する際の地盤の貫入抵抗に対抗して座屈しない剛性の高いものとすることができる。このため、圧入工程において、補強鋼板組立体1が上下方向に押圧されて座屈することを防止することができる。
【0046】
また、補強鋼板組立体1には、高い土圧がかかる橋脚P1の山側及びその側面側には、ローラ付きスペーサ4a、即ちローラ5が設置されている。このため、傾斜地SGなどで偏土圧(偏圧)が作用する状態で圧入する場合であっても、スペーサ4が橋脚P1と干渉し、橋脚P1を損傷させるおそれを低減することができる。
【0047】
さらに、補強鋼板組立体1には、ローラ付きスペーサ4aとローラ無しスペーサ4bの二種類のスペーサが設けられているので、圧入時に補強鋼板組立体1に偏圧がかかった場合でも適切な位置に補強鋼板組立体1をガイドして圧入することができる。
【0048】
その上、圧入時にローラ付きスペーサ4aのローラ5を回転させて圧入することにより、補強鋼板組立体1の圧入時の橋脚P1とスペーサ4との摩擦抵抗が極めて低減される。このため、圧入工程による圧入作業もスムーズに安全かつ短時間で行うことができる。
【0049】
それに加え、ローラ付きスペーサ4aのローラ5は、ばね材7を介して取り付けられており、橋脚P1の外周側面の凹凸により、橋脚P1の外周側面の凸部と一部のローラ5に応力が集中することをばね材7により分散させて防ぐことができる。このため、圧入工程による圧入作業をさらにスムーズに安全かつ短時間で行うことができる。
【0050】
(5.洗浄工程)
図6に示すように、本実施形態に係る既設構造物の補強方法では、次に、圧入時のクリアランスである隙間G1を洗浄する洗浄工程を行う。
【0051】
具体的には、本工程では、補強鋼板組立体本体3の内周面3aや橋脚P1の表面及び隙間G1に付着した土砂や浮遊物を、ウォータージェットなどを用いて高圧水を噴射して洗い流して洗浄する。
【0052】
(6.充填材充填工程)
図6に示すように、本実施形態に係る既設構造物の補強方法では、次に、前述の隙間G1(図2等参照)に前述の充填材6を充填する充填材充填工程を行う。
【0053】
本工程では、前洗浄工程で洗浄されて綺麗になった隙間G1に、モルタルやコンクリート等のセメント系の水和反応で硬化する経時硬化材からなる充填材6を充填する。なお、充填する充填材6は、セメント系経時硬化材に限られず、フィラーなどにエポキシ系樹脂などの樹脂系の接着材を混ぜた充填材とすることもできる。
【0054】
充填材充填工程が終了後、経時硬化材(充填材6)が硬化する所定の養生期間をおいて充填材6を硬化させ、補強鋼板組立体1と橋脚P1を一体化する。これにより、本実施形態に係る既設構造物の補強方法が終了する。
【0055】
以上説明した本実施形態に係る補強鋼板組立体及び既設構造物の補強方法によれば、例示したように橋脚P1などの補強する構造物が傾斜地SG等に設置され、外部から偏圧が作用する条件下でも構造物である橋脚P1を損傷することなく、補強鋼板組立体1を圧入して橋脚P1の補強工事を行うことができる。また、従来の補強方法と比べて土留めなどの作業空間を確保するための仮設工事が不要となり、偏圧が作用する困難な条件下であっても補強工事の施工性、経済性が向上する。
【0056】
そして、本実施形態に係る補強鋼板組立体及び既設構造物の補強方法によれば、スペーサ4と橋脚P1との間にローラ5を設けるので、圧入抵抗が抑えられ、補強鋼板組立体1の圧入をスムーズに行うことができ、圧入作業を安全かつ短時間で行うことができる。また、補強鋼板組立体1には、ローラ付きスペーサ4aとローラ無しスペーサ4bの二種類のスペーサが設けられているので、圧入時に補強鋼板組立体1に偏圧がかかった場合でも適切な位置に補強鋼板組立体1をガイドして圧入することができる。
【0057】
さらに、本実施形態に係る補強鋼板組立体及び既設構造物の補強方法によれば、ばね材7でローラ5を既設構造物へ押圧するように付勢して、既設構造物の外周表面の凹凸に追随させつつ圧入するので、補強鋼板組立体にかかる外圧の偏りを少なくして既設構造物に伝達することができる。このため、既設構造物を損傷するおそれをより低減することができるだけでなく、圧入抵抗をさらに抑えて、補強鋼板の圧入をスムーズに行うことができる。
【0058】
以上、本発明の実施形態に係る既設構造物の補強方法について詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0059】
特に、橋脚P1などの補強する構造物が傾斜地SGに設置され、外部から偏土圧が作用する場合を例示して説明した。しかし、偏土圧が構造物に作用する場合に限られず、外部から作用する土圧及び水圧のいずれか一方又は両方に偏りがあり、偏圧が構造物に作用する場合も好適に本発明を適用することができる。
【0060】
また、鋼板で補強する構造物として、断面形状が矩形の鉄筋コンクリート製の橋脚P1を例示して説明したが、断面形状が矩形の物に限られず、断面形状が円形、楕円形、小判形の構造物にも適用することができることは云うまでもない。その上、鋼板で補強する構造物は、橋脚やコンクリート構造物に限られず、本発明は、耐震補強として外側に鋼板を圧入して補強することができる柱状の構造物であれば適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1:補強鋼板組立体
2:補強鋼板
3:補強鋼板組立体
3a:内周面
4:スペーサ
4a:ローラ付きスペーサ
4b:ローラ無しスペーサ
41:帯状鋼材
42:平板鋼材
5:ローラ
6:充填材
7:ばね材
8:L型アングル(山形鋼)
M1:圧入装置
M10:伸縮ジャッキ
M11:押圧治具
G1:隙間
B1:既設橋梁
P1:橋脚(構造物)
SG:傾斜地
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2021-01-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から作用する土圧及び水圧のいずれか一方又は両方に偏りがある柱状の既設構造物の耐震補強として用いられる複数枚の補強鋼板から組み立てられた補強鋼板組立体であって、
複数枚の前記補強鋼板が接合されて前記既設構造物の断面形状と一定距離離間した相似の断面形状となった筒状に組み立てられた補強鋼板組立体本体と、
前記補強鋼板組立体本体の内周面から内側に向け突設され、前記既設構造物との間に充填材を充填するスペースを確保する複数のスペーサと、
これらの複数のスペーサの少なくとも一つに横方向に軸支されて縦方向に回転自在なローラと、を備え、
前記ローラは、外部から作用する圧力が高い側にのみ設けられ、前記スペーサは、内端にローラが取り付けられたローラ付きスペーサと、内端にローラが取り付けられていないローラ無しスペーサの二種類が設けられていること
を特徴とする補強鋼板組立体。
【請求項2】
前記ローラは、前記スペーサにばね材を介して取り付けられていること
を特徴とする請求項1に記載の補強鋼板組立体。
【請求項3】
柱状の既設構造物の周りに請求項1又は2に記載の補強鋼板組立体を設置して補強する既設構造物の補強方法であって、
前記補強鋼板組立体を圧入する圧入工程を有し、
前記圧入工程では、前記ローラを前記既設構造物に当接して回転させて前記スペーサが前記既設構造物に押し付けられる圧力を低減して圧入すること
を特徴とする既設構造物の補強方法。
【請求項4】
柱状の既設構造物の周りに請求項2に記載の補強鋼板組立体を設置して補強する既設構造物の補強方法であって、
前記補強鋼板組立体を圧入する圧入工程を有し、
前記圧入工程では、前記ローラを前記既設構造物に当接して回転させて前記スペーサが前記既設構造物に押し付けられる圧力を低減して圧入するとともに、前記ばね材で前記ローラを前記既設構造物へ押圧するように付勢して、前記既設構造物の外周表面の凹凸に追随させつつ前記補強鋼板組立体を圧入すること
を特徴とする既設構造物の補強方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
請求項1に係る補強鋼板組立体は、外部から作用する土圧及び水圧のいずれか一方又は両方に偏りがある柱状の既設構造物の耐震補強として用いられる複数枚の補強鋼板から組み立てられた補強鋼板組立体であって、複数枚の前記補強鋼板が接合されて前記既設構造物の断面形状と一定距離離間した相似の断面形状となった筒状に組み立てられた補強鋼板組立体本体と、前記補強鋼板組立体本体の内周面から内側に向け突設され、前記既設構造物との間に充填材を充填するスペースを確保する複数のスペーサと、これらの複数のスペーサの少なくとも一つに横方向に軸支されて縦方向に回転自在なローラと、を備え、前記ローラは、外部から作用する圧力が高い側にのみ設けられ、前記スペーサは、内端にローラが取り付けられたローラ付きスペーサと、内端にローラが取り付けられていないローラ無しスペーサの二種類が設けられていることを特徴とする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
請求項に係る補強鋼板組立体は、請求項1に係る補強鋼板組立体において、前記ローラは、前記スペーサにばね材を介して取り付けられていることを特徴とする。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
請求項に係る既設構造物の補強方法は、柱状の既設構造物の周りに請求項1又は2に記載の補強鋼板組立体を設置して補強する既設構造物の補強方法であって、前記補強鋼板組立体を圧入する圧入工程を有し、前記圧入工程では、前記ローラを前記既設構造物に当接して転動させて前記スペーサが前記既設構造物に押し付けられる圧力を低減して圧入することを特徴とする。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
請求項に係る既設構造物の補強方法は、柱状の既設構造物の周りに請求項2に記載の補強鋼板組立体を設置して補強する既設構造物の補強方法であって、前記補強鋼板組立体を圧入する圧入工程を有し、前記圧入工程では、前記ローラを前記既設構造物に当接して回転させて前記スペーサが前記既設構造物に押し付けられる圧力を低減して圧入するとともに、前記ばね材で前記ローラを前記既設構造物へ押圧するように付勢して、前記既設構造物の外周表面の凹凸に追随させつつ前記補強鋼板組立体を圧入することを特徴とする。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0016
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0016】
請求項1~に係る発明によれば、橋脚などの補強する構造物が傾斜地等に設置され、外部から偏圧が作用する条件下でも構造物を損傷することなく、補強鋼板を圧入して補強工事を行うことができる。また、請求項1~に係る発明によれば、スペーサと既設構造物との間にローラを設けることになるので、圧入抵抗が抑えられ、補強鋼板の圧入をスムーズに行うことができる。そして、請求項1~に係る発明によれば、土留めなどの作業空間を確保するための仮設工事が不要となり、困難な条件下であっても補強工事の施工性、経済性が向上する。さらに、請求項1~4に係る発明によれば、ローラが外部から作用する圧力が高い側にのみ設けられているので、前記作用効果を奏しつつ、不必要なローラを削減して、補強鋼板組立体の製作コストを低減することができる。また、請求項2に係る発明によれば、ローラ付きスペーサとローラ無しスペーサの二種類のスペーサが設けられているので、圧入時に補強鋼板組立体に偏圧がかかった場合でも適切な位置に補強鋼板組立体をガイドして圧入することができる。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0017
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
特に、請求項に係る発明によれば、ローラがばね材を介してスペーサに取り付けられているので、ばね材で既設構造物の外周表面の凹凸に追随して補強鋼板組立体にかかる外圧の偏りを少なくして既設構造物に伝達することができる。このため、既設構造物を損傷するおそれをより低減することができるだけでなく、圧入抵抗をさらに抑えて、補強鋼板の圧入をスムーズに行うことができる。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0019】
特に、請求項に係る発明によれば、ローラを既設構造物に当接して転動させてスペーサが既設構造物に押し付けられる圧力を低減して圧入するので、圧入抵抗を抑えて、補強鋼板の圧入をスムーズに行うことができる。
【手続補正11】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0020
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0020】
特に、請求項に係る発明によれば、ばね材でローラを既設構造物へ押圧するように付勢して、既設構造物の外周表面の凹凸に追随させつつ圧入するので、補強鋼板組立体にかかる外圧の偏りを少なくして既設構造物に伝達することができる。このため、既設構造物を損傷するおそれをより低減することができるだけでなく、圧入抵抗をさらに抑えて、補強鋼板の圧入をスムーズに行うことができる。