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特開2022-69856α,α’-ジクロロキシレンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069856
(43)【公開日】2022-05-12
(54)【発明の名称】α,α’-ジクロロキシレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/14 20060101AFI20220502BHJP
   C07C 22/04 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
C07C17/14
C07C22/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020178751
(22)【出願日】2020-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 亮太
(72)【発明者】
【氏名】小澤 康平
(72)【発明者】
【氏名】折田 祐介
(72)【発明者】
【氏名】筒井 英之
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB46
4H006AC30
4H006BC10
4H006BC11
4H006BE53
4H006EA21
(57)【要約】
【課題】蒸留精製時に分離困難であった核塩素化体と核塩素化体からさらに側鎖塩素化が進行した塩素化体等の不純物の生成を抑制して、高純度なα,α’-ジクロロキシレンを得ることを目的とする。
【解決手段】α,α’-ジクロロキシレンの製造方法であって、原料キシレンを含む沸騰状態の反応液を有する反応釜で、キシレンの側鎖メチル基を塩素化する工程を有し、前記反応液の塩素化度が高くなるのに従って、前記反応釜内を減圧して、前記反応液を沸騰状態に保持することを特徴とするα,α’-ジクロロキシレンの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
α,α’-ジクロロキシレンの製造方法であって、原料キシレンを含む沸騰状態の反応液を有する反応釜で、キシレンの側鎖メチル基を塩素化する工程を有し、前記反応液の塩素化度が高くなるのに従って、前記反応釜内を減圧して、前記反応液を沸騰状態に保持することを特徴とするα,α’-ジクロロキシレンの製造方法。
【請求項2】
前記反応釜内を減圧し、且つ前記反応液の液温を調節して、前記反応液を沸騰状態に保持することを特徴とする請求項1に記載のα,α’-ジクロロキシレンの製造方法。
【請求項3】
前記反応液の温度が235℃未満になるよう前記反応釜内の圧力を減圧することを特徴とする請求項1または2に記載のα,α’-ジクロロキシレンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α,α’-ジクロロキシレンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
α,α’-ジクロロキシレンは、芳香環の側鎖メチル基中にクロロ基をそれぞれ1つ有する2官能性化合物である。α,α’-ジクロロキシレンは、異性体として、オルト体、メタ体、パラ体が存在し、いずの異性体も高機能ポリマーの原料としての有用である。
【0003】
α,α’-ジクロロキシレンはキシレンの側鎖塩素化反応によって生成することができる。通常、側鎖塩素化反応はラジカル反応であり、逐次反応となることから、2つあるメチル基にそれぞれ1つの塩素が結合した状態で合成反応を停止することは困難であり、目的とするα,α’-ジクロロキシレンを高選択性で得ることは困難であった。
【0004】
特許文献1には、キシレングリコールを原料として、濃塩酸による塩素置換反応によって、α,α’-ジクロロキシレンを製造する方法が開示されている。この方法に従えば、α-クロロキシレン体、α,α-ジクロロキシレン体などの副生成物は、生成しないが、原料となるキシレングリコールが高価であること、加圧条件が必要であることから、工業的に良い方法とは言い難い。
【0005】
また、非特許文献1には、塩化ベンジルのクロロメチル化反応によるα,α’-ジクロロキシレンの製造方法が開示されている。非常に温和な条件で反応が進行するものの、生成物はジクロロオルトキシレン、ジクロロメタキシレン、ジクロロパラキシレンの異性体混合物である。また、触媒として塩化亜鉛や過塩素酸の使用量が多く、この方法も工業的に良い方法とは言えない。
【0006】
塩素ガスを用いた、光照射下でのキシレンの側鎖塩素化法によるα,α’-ジクロロキシレンの製造方法も知られている。特許文献2には、塩素化の選択性を上げるため、アセトニトリル-ベンゼンの混合溶媒中で光塩素化する方法が開示されている。この方法は選択性を上げるために転化率を下げていることから製造法としては効率が低くコスト高となってしまう。
【0007】
また、特許文献3には、高純度のα,α’-ジクロロキシレンの製造方法が記載されている。反応温度を低く保つことで、溶解度の低いα,α’-ジクロロキシレンを固体として析出させ、純度94-96%の生成物を得ている。この製造法では、反応液が途中でスラリー状態になるため、光反応としては本質的に不利であり、収率は高くない。また、技術の発達に従って、高機能性ポリマーが要求するモノマーの純度も高く、市場要求に対してはこの純度であっても満足できるものではない。
【0008】
製造コストや効率を考えた場合、塩素ガスによる側鎖塩素化法が工業的には適していると考えられる。この製造方法で生成する不純物として、1つのメチル基に2つ以上の塩素が結合したα,α-ジクロロキシレンや、さらに塩素化が進んだ過塩素化体、ベンゼン環に直接塩素が結合した核塩素化体が副生することが知られている。これら不純物の生成を抑えつつ転化率を上げることができれば、効率的にα,α’-ジクロロキシレンの製造が可能となると考えられる。
【0009】
特許文献4には、上記不純物の生成を抑制するために、中間体である反応系中のα-モノクロロキシレンの濃度を高く保つα,α’-ジクロロキシレンの製造方法が記載されている。この方法では中間体のα-モノクロロキシレンの濃度を高くする必要があることから、α,α’-ジクロロキシレンの製造効率は低く、転化率を上げると不純物が増加する傾向がある。また、結果として得られた反応液中の組成比に側鎖過塩素化体の記載はあるが核塩素化体の記載はない。
【0010】
特許文献5には、1,4-ビス(トリクロロメチル)ベンゼン化合物の製造方法が記載されている。この製造方法では、ベンゼン環への核塩素化反応の原因が、副生するHClであると記載されており、反応中に反応液を沸騰状態に保つことで反応系内のHCl濃度を下げ、核塩素置換が抑制できると記載されている。しかし、通常、側鎖塩素置換が進行するにつれ反応液の沸点が上昇することから、沸騰状態を保つことは容易ではない。反応の進行を見ながら徐々に反応温度を上げる方法を採用することが好ましいとされているが、160℃を限度とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平02-292232号公報
【特許文献2】米国特許第3442960号明細書
【特許文献3】特開昭53-65830号公報
【特許文献4】特開昭63-72632号公報
【特許文献5】特開2019-156766号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】工業化学雑誌1968-71(6)-869
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述のようにα,α’-ジクロロキシレンの製造方法では、工業的製法としては塩素ガスによる側鎖塩素化反応が有用であると考えられる。しかし、従来技術のいずれの方法も、過塩素化体や核塩素化体等の副生物を抑制するために、転化率を低く抑えた条件で反応を停止し、原料キシレンと低塩素化中間体を回収リサイクルする方法であり、製造効率が悪くコスト高となっている。
【0014】
通常、核塩素化反応はルイス酸が触媒となって進行するが、α,α’-ジクロロキシレンの製造では、反応で副生するHClが触媒になって進行すると考えられる。HClのようなブレンステッド酸は、ルイス酸同様に核塩素化反応の触媒と成り得る。そこで、α,α’-ジクロロキシレンの製造時に、反応系中のHCl濃度を下げることができれば、核塩素化反応を抑えることが可能である。
【0015】
特許文献5には、沸点温度で還流しながら塩素ガスを吹き込むことが記載されており、これにより、反応が速やかに進行するとともに、副生したHClを反応系外に除く効果があることが記載されている。しかし、通常、側鎖塩素置換が進行するにつれ反応液の沸点が上昇することから、沸騰状態を保つことは容易ではない。そこで塩素ガスと反応しない低沸点の溶媒を用いることが考えられるが、この条件に合致する溶媒種は限られている。また大量の溶媒を用いる場合は、製造効率が低下し、コスト高となっていた。
【0016】
また、塩素化が進行するに伴い反応液の沸点が上昇するため、反応を無溶媒で行う場合は、沸騰状態を保つためには熱媒も昇温する必要があり、高温加熱できるような設備投資が必要となり、固定費の増大を招く。また、沸騰状態を保つために高温加熱するといっても、昇温温度にも限度があった。本発明は、蒸留精製時に分離困難であった核塩素化体と核塩素化体からさらに側鎖塩素化が進行した塩素化体等の不純物の生成を抑制して、高純度なα,α’-ジクロロキシレンを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、反応液の沸点が上昇しても、反応釜内を減圧して、反応液を沸騰状態に保つことにより、溶媒を用いないでも、沸騰状態の反応液で、塩素化を実施することができることを見出し、以下に示すα,α’-ジクロロキシレンの製造方法を見出した。塩素化が進行するにつれ反応液の沸点は上昇するが、釜内を減圧することで反応液の沸点を一定に保つことができ、核塩素化反応の原因となる反応液中の溶存HClの濃度を低下させることが可能である。
【0018】
すなわち、本発明は、α,α’-ジクロロキシレンの製造方法であって、原料キシレンを含む沸騰状態の反応液を有する反応釜で、キシレンの側鎖メチル基を塩素化する工程を有し、前記反応液の塩素化度が高くなるのに従って、前記反応釜内を減圧して、前記反応液を沸騰状態に保持することを特徴とするα,α’-ジクロロキシレンの製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造法は従来法に比べ、蒸留精製時に分離困難であった核塩素化体と核塩素化体からさらに側鎖塩素化が進行した塩素化体等の不純物の生成が抑制され、高純度なα,α’-ジクロロキシレンを通常の蒸留精製で得ることができる。また、本製法は釜内を減圧することにより沸点を調節しながら塩素化を行えることから、従来法のような溶媒を用いる必要はなく、釜効率を最大限に高めることが可能であり、コスト的にも非常に有利である。
本製法を用いることで、蒸留精製で分離困難であった上記の副生物生成も抑制でき、高純度α,α’-ジクロロキシレンの製造が可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、α,α’-ジクロロキシレンの製造方法であって、原料キシレンを含む沸騰状態の反応液を有する反応釜で、キシレンの側鎖メチル基を塩素化する工程を有し、前記反応液の塩素化度が高くなるのに従って、前記反応釜内を減圧して、前記反応液を沸騰状態に保持することを特徴とするα,α’-ジクロロキシレンの製造方法である。
【0021】
本明細書で用いる用語キシレンとは、オルトキシレン、メタキシレンまたはパラキシレンを意味する。また、α,α’-ジクロロキシレンとは、α,α’-ジクロロオルトキシレン、α,α’-ジクロロメタキシレンまたはα,α’-ジクロロパラキシレンを意味する。
【0022】
キシレンの塩素化反応は、通常、光照射下、無溶媒で塩素ガスを吹き込むことによって行われる。溶媒を用いる場合であっても、反応液の沸点を保ったまま塩素化反応を行うことができれば、核塩素化体の生成を抑えることが可能である。しかし、この塩素化条件に耐えうる溶媒は、塩素化反応を起こさない性質であることが必要であり種類が限られている。例えば、ベンゾトリフルオリド、4-クロロベンゾトリフルオリド、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどが挙げられる。しかし、核塩素化体の生成を抑制するため、沸騰状態を保持するのに大量の溶媒が必要となり、結果的に釜効率の悪化を招き収量が低下するため、工業的には溶媒を用いない方が望ましい。
【0023】
本発明の製造方法では、キシレンの塩素化反応を、反応液の沸点上昇に従って反応釜内の圧力を減圧調節し、反応液の沸騰状態を保つようにして行う。
減圧調節については、塩素化度から計算で想定される組成の反応液が、その時点の熱媒温度で沸騰状態になるよう、真空ポンプの調圧バルブで減圧調節することができる。ここで、塩素化度とは、キシレン1モルに対して反応により結合した塩素のモル数を数値で表したものである。本発明の製造方法では、例えば、反応液の塩素化度をモニターし、塩素化度に応じて調圧バルブで減圧調節する。例えば、メタキシレンの場合、塩素化度が1で、釜内圧力53kPaでは反応液の沸点は約150℃になる。塩素化度が2の場合、釜内圧力13kPaで反応液の沸点は約156℃になる。
【0024】
釜内圧力を減圧する操作は、従来からの圧力調節の手段を用いることができる。本発明の製造方法では、例えば、メタキシレンの塩素化度に応じて、事前にそれぞれの塩素化度での比重を測っておき、装置にある比重計と連動させて自動で減圧の程度を調節することができる。
【0025】
本発明製造方法では、反応液の沸点の上昇に従って釜内を減圧することに加えて、反応液の液温を調節することで、反応液を沸騰状態に保持することができる。釜内圧力と液温を同時に調節することで、反応液の液温を過剰に高くすることなく、沸騰状態を保つことができ、また、減圧の程度を固定した場合でも反応液温調節することで、通常容易に操作可能な範囲で操作することができる。この場合でも、塩素化度を上げることが可能であり、反応液を沸騰状態に保持していることから反応液内の溶存HCl濃度は低く保たれており、このため核塩素化体の生成が抑えられる。
【0026】
本発明の製造方法の塩素化反応の反応温度は、減圧によって反応液の沸騰状態が保持されている温度である。減圧によって、沸騰状態が保持されている限り、反応液温を熱媒で昇温することなく、一定にコントロールすることができる。塩素化度が高くなるにつれ反応液の沸点が上昇するので、釜内圧力を常圧~絶対圧で、0.1kPa刻みで調節して、反応液温を一定にコントロールすることができる。
反応液は、常圧で塩素化度が2になると、沸点が235℃となるため、反応温度については、反応液温を235℃未満で、沸騰状態を保つように釜内圧力をコントロールできれば、特に液温調節を行う必要はない。
【0027】
また、釜内圧力のコントロールと同時に熱媒温度も昇温して沸騰状態を保持することもできる。釜内圧力をコントロールする場合でも、液温調節することで、通常の容易に操作可能な範囲で操作することができる。また、真空ポンプの能力の選択幅が広がる。反応液の沸点を235℃未満、好ましくは230℃以下、より好ましくは200℃以下となるように反応液を調節することができる。
【0028】
本発明の製造方法は、紫外線含有光照射または熱による活性化、あるいはこれらを組み合わせて実施することができる。その際にラジカル開始剤を加えてもよい。光としては紫外線含有光であれば、自然光、水銀ランプ、水素放電管など光反応で通常使用される光源を外部または内部照射で使用することができる。ラジカル開始剤としては、過酸化ベンゾイルなどの過酸化物系ラジカル開始剤またはアゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系ラジカル開始剤を用いることができる。ラジカル開始剤の使用量は、原料となるキシレンに対し0.001~1モル%が好ましく、0.001~0.1モル%がさらに好ましい。
【0029】
一般的にベンゼン環側鎖のラジカル塩素化反応では、原料または装置由来の微量の金属の存在が問題となることがある。これらの金属成分はごく微量でもルイス酸として作用するため、望まないベンゼン核への塩素化が進行することがある。キシレンの異性体の内、特にメタキシレンではこの核塩素化反応が起こる傾向が強い。この微量金属成分の作用を抑えるため、添加剤を加えることができる。添加剤としては、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンオキシドなどのリン化合物、またはピリジン、ヘキサメチレンテトラミンなどの窒素化合物などのルイス塩基を用いることができる。添加剤の使用量としては原料となるキシレンに対し0.1~10000wtppmが好ましく、1~1000wtppmがさらに好ましい。
【0030】
本発明の製造方法では、キシレンの塩素化に塩素ガスを用いる。塩素化反応で使用する塩素ガスは単独で供給してもよいが、窒素などの不活性ガスと混合してもよい。塩素ガスの使用量は、原料となるキシレンに対し1~5モルが好ましく、1.5~2.5モルがさらに好ましい。
【0031】
本発明の塩素化反応で得られたα,α’-ジクロロキシレンを含む反応液は、蒸留操作で分離困難な副生物である核塩素化体および核塩素化体の側鎖塩素化物が非常に少ない。したがって、通常の減圧蒸留条件で精製して、高純度なα,α’-ジクロロキシレンを得ることができる。
【0032】
蒸留で留出される未反応のキシレン、α-クロロキシレンなどの低沸点成分は回収してリサイクルすることが可能である。
【0033】
本発明で得られるα,α’-ジクロロキシレンは純度が高いことから、高機能ポリマーや電子情報材料の原料など多くの用途に使用することができる。
【実施例0034】
以下に実施例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0035】
本発明のα,α’-ジクロロキシレンの製造方法は、反応液の塩素化度が高くなるのに従って、前記反応釜内を減圧して、前記反応液を沸騰状態に保持することを特徴とする。上述したように、反応液は、常圧で塩素化度が2になると、沸点が235℃となる。したがって、反応温度については、反応液温が235℃未満の範囲であれば、沸騰状態を保つように釜内圧力をコントロールするだけで、特に液温調節を行う必要はないことは、理論上明らかである。以下の実施例では、実操業の例として、反応釜内を減圧し且つ反応液の液温を調節して、反応液を沸騰状態に保持する場合の例を記載した。
【0036】
(実施例1)
200mLのフラスコにメタキシレン90g(0.848mol)、トリフェニルホスフィンオキシド0.01g(100wtppm)を仕込んだ。混合液を140℃に昇温し、200W高圧水銀ランプ照射下、塩素ガスを0.21g/minの流量で10時間バブリングした。この間、反応液の塩素化度をモニターし、真空ポンプの調圧バルブを手動で操作して、釜内を101kPa(常圧)から徐々に減圧して、最終的に釜内圧力約7kPaで反応を終了した。この時の塩素化度は2.1であり、反応液中のα,α’-ジクロロメタキシレンは47.8GC%、核塩素化体は合計0.3GC%であった。
反応終了液を蒸留用フラスコに移し、圧力を2.7kPaに減圧した後、熱媒を120℃に昇温した。2時間全還流させた後、還流比10で留出させ、収率36.8%、純度99.9GC%でα,α’-ジクロロメタキシレンを得た。蒸留品に含まれる核塩素化体の合計は0.04GC%であった。
【0037】
(比較例1)
常圧下で行い、溶媒を使用した例
1000mLのフラスコにメタキシレン360g(3.39mol)、4-クロロベンゾトリフルオリド360g(7.24mol)、トリフェニルホスフィンオキシド0.04g(100wtppm)を仕込んだ。常圧下で、混合液を140~160℃に昇温して沸騰状態を維持し、200W高圧水銀ランプ照射下、塩素ガスを1.68g/minの流量で6時間バブリングした。この時の塩素化度は2.0であり、反応液中のα,α’-ジクロロメタキシレンは47.8GC%、核塩素化体は合計0.4GC%であった。
反応終了液を蒸留用フラスコに移し、圧力を2.7kPaに減圧した後、熱媒を120℃に昇温した。2時間全還流させた後、還流比10で留出させ、収率22.7%、純度99.9GC%でα,α’-ジクロロメタキシレンを得た。蒸留品に含まれる核塩素化体の合計は0.05GC%であった。
【0038】
比較例1は、溶媒を用いて、常圧下で、反応液を昇温して沸騰状態を保持し、塩素化度2.0で、反応液中のα,α’-ジクロロメタキシレンを得た例である。溶媒を用いても高純度な目的物を得ることができたが、釜効率は悪化している。この比較例では原料キシレンと同量の溶媒を用いているので、単純計算で1回の操作で収量は無溶媒の場合に比べ半分の量となる。また、低沸点溶媒の回収操作が必要になり、全体の操作は煩雑になる。
【0039】
(比較例2)
常圧下で行い、溶媒を使用しなかった例
500mLのフラスコにメタキシレン500g(4.71mol)、トリフェニルホスフィンオキシド0.05g(100wtppm)を仕込んだ。常圧下で、混合液を120℃に昇温し、200W高圧水銀ランプ照射下、塩素ガスを0.68g/minの流量で16時間バブリングした。この時の塩素化度は2.1であり、反応液中のα,α’-ジクロロメタキシレンは44.6GC%、核塩素化体は合計7.7GC%であった。
反応終了液を蒸留用フラスコに移し、圧力を2.7kPaに減圧した後、熱媒を120℃に昇温した。2時間全還流させた後、還流比10で留出させ、収率25.6%、純度97.8GC%でα,α’-ジクロロメタキシレンを得た。蒸留品に含まれる核塩素化体の合計は2.2GC%であった。
【0040】
比較例2は、溶媒を使用せず、また反応液を昇温しないで行った。その結果、塩素化度が上昇すると沸騰状態を保持できず、高純度な目的物を得ることができなかった。