(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069857
(43)【公開日】2022-05-12
(54)【発明の名称】建築構造物の施工方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20220502BHJP
F16L 5/04 20060101ALI20220502BHJP
F16L 5/10 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
E04B1/94 F
F16L5/04
F16L5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020178752
(22)【出願日】2020-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】特許業務法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 秀全
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001FA01
2E001GA01
2E001HB01
2E001HE01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐火用環状部材の脱離を抑制することができる建築構造物の施工方法を提供する。
【解決手段】施工方法は、複合部材10を準備する準備工程と、複合部材を建築位置に設置する設置工程と、を備える。複合部材は、貫通孔144が形成された梁材11または柱材である被補強部材と、被補強部材を補強する補強用環状部材12と、耐火被覆材により形成された耐火用環状部材と、耐火用環状部材の脱離を抑制する脱離抑制部材14であって、耐火用環状部材の貫通孔を取り囲む内周に接続している管状部141を有する脱離抑制部材と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の貫通孔が形成された梁材または柱材である被補強部材と、
前記被補強部材を補強する補強用環状部材であって、第2の貫通孔が形成され、かつ、前記被補強部材の前記第1の貫通孔を取り囲む内周に接続している補強用環状部材と、
耐火被覆材により形成された耐火用環状部材であって、第3の貫通孔が形成され、かつ、前記補強用環状部材の前記第2の貫通孔を取り囲む内周に接続している耐火用環状部材と、
前記耐火用環状部材の脱離を抑制する脱離抑制部材であって、第4の貫通孔が形成され、かつ、前記耐火用環状部材の前記第3の貫通孔を取り囲む内周に接続している管状部を有する脱離抑制部材と、を備える複合部材を準備する準備工程と、
前記複合部材を建築位置に設置する設置工程と、を備える、
建築構造物の施工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の建築構造物の施工方法であって、
前記脱離抑制部材の剛性は、前記耐火用環状部材の剛性よりも高い、
建築構造物の施工方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の建築構造物の施工方法であって、
前記準備工程において、
前記管状部の前記第4の貫通孔の貫通方向の一方の端部から前記貫通方向視における前記管状部の外側に突出している一端側フランジ部を備える前記脱離抑制部材を準備し、
前記耐火用環状部材に前記脱離抑制部材を組み付ける際に、前記耐火用環状部材の前記第3の貫通孔の周りの表面に前記一端側フランジ部を当接させる、
建築構造物の施工方法。
【請求項4】
請求項3に記載の建築構造物の施工方法であって、
前記準備工程において、
前記耐火用環状部材に前記脱離抑制部材を組み付ける際に、
前記一端側フランジ部の前記貫通方向視の内側の端部から前記貫通方向の前記一方とは反対の他方に突出している突出部を更に備える前記脱離抑制部材を準備し、
次に、前記突出部を前記第3の貫通孔に挿入し、前記耐火用環状部材の前記第3の貫通孔の周りの表面に前記一端側フランジ部を当接させるとともに、前記突出部の前記他方の端部を折り曲げることにより、前記管状部の前記貫通方向の前記他方の端部から前記管状部の外側に突出している他端側フランジ部を形成する、
建築構造物の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、建築構造物の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築構造物の梁材または柱材(例えば、鉄骨梁や鉄骨柱)に配管等を通すための貫通孔(以下、「第1の貫通孔」という。)が形成される場合がある。
【0003】
そのような場合に、梁材または柱材(以下、「被補強部材」という。)の第1の貫通孔を取り囲む内周に、例えば金属により形成された補強用環状部材を設けることにより被補強部材を補強した構成が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の構成において、建築物の耐火性を向上させるために、補強用環状部材に形成された貫通孔(以下、「第2の貫通孔」という。)を取り囲む内周に、耐火被覆材(例えば、耐火性を有する熱膨張性ゴム材)により形成された耐火用環状部材を設けた構成が考えられる。
【0006】
この構成を実現(施工)する方法として、例えば、建築構造物において、被補強部材、補強用環状部材、および耐火用環状部材を設置(施工)する場所(以下、「部材設置場所」という。)で施工者等が以下の作業を行う方法が考えられる。まず被補強部材を設置し、さらに被補強部材の第1の貫通孔を取り囲む内周に補強用環状部材を組み付け、さらに補強用環状部材の第2の貫通孔を取り囲む内周に耐火用環状部材を組み付ける。これにより、被補強部材、補強用環状部材、および耐火用環状部材の設置が完了し、次に、耐火用環状部材に形成された貫通孔(以下、「第3の貫通孔」という。)に配管等を挿入する。この方法においては、部材設置場所での足場の確保が困難であることや、採寸等の当該工程に付随する作業を要する等の理由から、作業負担が大きくなる。また、耐火用環状部材が設置されてから耐火用環状部材の第3の貫通孔に配管等が挿入されるとき(通常、建方の完了後)までの間に、耐火用環状部材が雨等に曝されることにより、補強用環状部材から脱離するおそれがある。
【0007】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0009】
(1)本明細書に開示される施工方法は、第1の貫通孔が形成された梁材または柱材である被補強部材と、前記被補強部材を補強する補強用環状部材であって、第2の貫通孔が形成され、かつ、前記被補強部材の前記第1の貫通孔を取り囲む内周に接続している補強用環状部材と、耐火被覆材により形成された耐火用環状部材であって、第3の貫通孔が形成され、かつ、前記補強用環状部材の前記第2の貫通孔を取り囲む内周に接続している耐火用環状部材と、前記耐火用環状部材の脱離を抑制する脱離抑制部材であって、第4の貫通孔が形成され、かつ、前記耐火用環状部材の前記第3の貫通孔を取り囲む内周に接続している管状部を有する脱離抑制部材と、を備える複合部材を準備する準備工程と、前記複合部材を建築位置に設置する設置工程と、を備える。
【0010】
本施工方法においては、上述の準備工程および設置工程を行うことにより、建築構造物において、被補強部材、補強用環状部材、および耐火用環状部材を所定の設置場所(以下、「部材設置場所」という。)に設置する。本施工方法によれば、部材設置場所以外の場所(例えば、施工現場の作業スペースや、工場)で準備工程の複合部材の準備(製造)を行うことにより、部材設置場所で施工者等が補強用環状部材等を組み付ける作業を行うことを要さずに、被補強部材等を部材設置場所に設置することができる。従って、本施工方法によれば、部材設置場所における施工の効率を向上させることができる。
【0011】
ここで、仮に上記複合部材が上記脱離抑制部材を備えない構成においては、設置工程において上記複合部材が設置されてから耐火用環状部材の第3の貫通孔に配管等が挿入されるまでの間に、耐火用環状部材が雨等に曝されることにより、補強用環状部材から脱離するおそれがある。
【0012】
これに対し、本施工方法においては、耐火用環状部材の内周に接続している管状部を有する脱離抑制部材の存在により、耐火用環状部材が補強用環状部材から脱離することを抑制することができる。
【0013】
(2)上記施工方法において、前記脱離抑制部材の剛性は、前記耐火用環状部材の剛性よりも高い構成としてもよい。本施工方法によれば、脱離抑制部材の剛性が耐火用環状部材の剛性以下である構成と比較して、耐火用環状部材が補強用環状部材から脱離することを、より効果的に抑制することができる。
【0014】
(3)上記施工方法において、前記準備工程において、前記管状部の前記第4の貫通孔の貫通方向の一方の端部から前記貫通方向視における前記管状部の外側に突出している一端側フランジ部を備える前記脱離抑制部材を準備し、前記耐火用環状部材に前記脱離抑制部材を組み付ける際に、前記耐火用環状部材の前記第3の貫通孔の周りの表面に前記一端側フランジ部を当接させる構成としてもよい。本施工方法によれば、耐火用環状部材に脱離抑制部材を組み付ける際に、脱離抑制部材の一端側フランジ部を利用することにより、耐火用環状部材に対する脱離抑制部材の位置決めを容易に行うことができる。さらに、上記施工方法により得られる建築構造物においては、一端側フランジ部の存在により、耐火用環状部材が上記一方側に変位することを抑制(ひいては、補強用環状部材から脱離することを抑制)することができる。
(4)上記施工方法において、前記準備工程において、前記耐火用環状部材に前記脱離抑制部材を組み付ける際に、前記一端側フランジ部の前記貫通方向視の内側の端部から前記貫通方向の前記一方とは反対の他方に突出している突出部を更に備える前記脱離抑制部材を準備し、次に、前記突出部を前記第3の貫通孔内に挿入し、前記耐火用環状部材の前記第3の貫通孔の周りの表面に前記一端側フランジ部を当接させるとともに、前記突出部の前記他方の端部を折り曲げることにより、前記管状部の前記貫通方向の前記他方の端部から前記管状部の外側に突出している他端側フランジ部を形成する構成としてもよい。本施工方法により得られる建築構造物においては、他端側フランジ部の存在により、耐火用環状部材が上記他方側に変位することを抑制(ひいては、補強用環状部材から脱離することを抑制)することができる。本施工方法によれば、このような効果を奏する建築構造物を容易に実現(施工)することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態の建築構造物100の断面構成を示す説明図
【
図2】
図1に示す建築構造物100の側面構成を示す説明図
【
図3】
図1に示す建築構造物100の側面構成を示す説明図
【
図4】本実施形態の建築構造物100の施工方法の概要を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.実施形態:
A-1.本実施形態の建築構造物100の構成:
図1は、本実施形態の建築構造物100の断面構成を示す説明図である。
図2および
図3は、
図1に示す建築構造物100の側面構成を示す説明図である。
図1、
図2および
図3には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。
図2は、X軸負方向視における建築構造物100の側面構成を示し、
図3は、X軸正方向視における建築構造物100の側面構成を示している。なお、
図1、
図2および
図3では、建築構造物100のうち、後述する平板11の貫通孔111の周辺のみを示しており、その他の部分の図示は省略してある。また、
図2および
図3では、後述する配管20の図示は省略してある。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を「上方向」といい、Z軸負方向を「下方向」というものとするが、建築構造物100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
【0017】
建築構造物100は、建築物の一部を構成する構造物であって、複合部材10と、配管20とを備えている。
【0018】
複合部材10は、平板11と、補強用環状部材12と、耐火用環状部材13と、脱離抑制部材14とを備えている。
【0019】
平板11は、梁(本実施形態では、鉄骨梁)のウェブを構成する部材である。平板11は、配管20を通すための貫通孔111(以下、「第1の貫通孔111」という。)を有している。なお、平板11は、特許請求の範囲における被補強部材に相当する。
【0020】
第1の貫通孔111の貫通方向(第1の貫通孔111が平板11を貫通する方向)は、X軸方向である。
図2および
図3に示すように、X軸方向視(第1の貫通孔111の貫通方向視)において、平板11は略矩形であり、第1の貫通孔111は略円形である。
【0021】
補強用環状部材12は、平板11を補強するための部材であり、貫通孔121(以下、「第2の貫通孔121」という。)を有する環状をなしている。補強用環状部材12は、例えば金属などにより構成される。
【0022】
第2の貫通孔121の貫通方向(第2の貫通孔121が平板11を貫通する方向)は、第1の貫通孔111の貫通方向と同様に、X軸方向である。
図2および
図3に示すように、X軸方向視(第2の貫通孔121の貫通方向視)において、補強用環状部材12の外周と内周とはいずれも略円形であり、従って、第2の貫通孔121は、第1の貫通孔111と同様に、略円形である。
【0023】
図1に示すように、補強用環状部材12は、平板11の第1の貫通孔111を取り囲む内周に接続(接触)している。なお、本実施形態では、補強用環状部材12は、溶接により平板11に接合されている(
図1の符号15は溶接痕15を示している)が、これ以外の方法(例えば、接着テープによる接着)により平板11に接続していてもよい。
【0024】
なお、本実施形態では、補強用環状部材12は、
図1に示すように、X軸正方向に向かうにつれて拡径するテーパー形状をなしており、補強用環状部材12のX軸正方向側の端部は、平板11と接続されるための4つの段差部(S1~S4)を有している。4つの段差部(S1~S4)はそれぞれ、第1の貫通孔111の寸法が異なる平板11に対応することができる。本実施形態では、一例として、X軸正方向側から3番目の段差部S3に平板11が接続されている。
【0025】
耐火用環状部材13は、建築物の耐火性を向上させるための部材であって、貫通孔131(以下、「第3の貫通孔131」という。)を有する環状をなしている。第3の貫通孔131の貫通方向(第3の貫通孔131が耐火用環状部材13を貫通する方向)は、第1の貫通孔111の貫通方向と同様に、X軸方向である。X軸方向視(第3の貫通孔131の貫通方向視)において、耐火用環状部材13の外周と内周とはいずれも略円形であり、従って、第3の貫通孔131は、第1の貫通孔111と同様に、略円形である。耐火用環状部材13は、耐火被覆材(例えば、熱膨張性耐火ゴム)により構成される。耐火用環状部材13は、補強用環状部材12の第2の貫通孔121を取り囲む内周に接続(接触)している。耐火用環状部材13は、高温時に膨張し、耐火層として機能することにより、建築物の耐火性を向上させる。なお、本実施形態では、耐火用環状部材13は、粘着テープ(不図示)により補強用環状部材12に接着されているが、これ以外の方法により補強用環状部材12に接続していてもよく、接着等されておらず、補強用環状部材12に単に接触しているだけでもよい。
【0026】
脱離抑制部材14は、耐火用環状部材13の脱離(耐火用環状部材13が補強用環状部材12から脱離すること)を抑制する部材である。脱離抑制部材14には、配管20を通すための貫通孔144(以下、「第4の貫通孔144」という。)が形成されている。脱離抑制部材14の詳細構成については後述する。
【0027】
配管20は、脱離抑制部材14の第4の貫通孔144に挿入されている。なお、本実施形態では、配管20は、粘着テープ(不図示)により耐火用環状部材13(より詳細には、後述する管状部141)に接着されているが、これ以外の方法により脱離抑制部材14に接続していてもよく、接着等されておらず、脱離抑制部材14に単に接触しているだけでもよい。
【0028】
A-2.脱離抑制部材14の詳細構成:
脱離抑制部材14は、
図1、
図2および
図3に示すように、管状部141と、4つの一端側フランジ部142と、4つの他端側フランジ部143とを備えている。脱離抑制部材14は、例えば金属または樹脂などにより構成される。本実施形態では、脱離抑制部材14の剛性が耐火用環状部材13の剛性よりも高くなるような脱離抑制部材14の構成(特に、材質、形状など)となっている。この「剛性」は、「軸剛性」と「曲げ剛性」と「せん断剛性」との少なくとも1つを意味する。従って、例えば、脱離抑制部材14の「軸剛性」が耐火用環状部材13の「軸剛性」よりも高い、という条件を満たしていれば、脱離抑制部材14の「曲げ剛性」が耐火用環状部材13の「曲げ剛性」以下であってもよい。なお、本実施形態では、脱離抑制部材14としてダクトを用いている。
【0029】
管状部141は、上述した第4の貫通孔144の略全体を構成する孔が形成された管状をなしている。第4の貫通孔144の貫通方向(第4の貫通孔144が管状部141を貫通する方向)は、第1の貫通孔111の貫通方向と同様に、X軸方向である。
図2および
図3に示すように、X軸方向視(第4の貫通孔144の貫通方向視)において、管状部141の外周と内周とはいずれも略円形であり、従って、第4の貫通孔144は、第1の貫通孔111と同様に、略円形である。管状部141は、耐火用環状部材13の内周に接続(接触)している。なお、本実施形態では、管状部141は、粘着テープ(不図示)により耐火用環状部材13に接着されているが、これ以外の方法により耐火用環状部材13に接続していてもよく、接着等されておらず、耐火用環状部材13に単に接触しているだけでもよい。
【0030】
一端側フランジ部142は、
図1および
図2に示すように、管状部141のX軸正方向(管状部141の第4の貫通孔144の貫通方向の一方)の端部からX軸方向視(第4の貫通孔144の貫通方向視)において管状部141の外側に突出している部分である。一端側フランジ部142は、X軸方向視において、耐火用環状部材13の第3の貫通孔131の周りの表面と、補強用環状部材12の第2の貫通孔121の周りの表面とに重なっている。
【0031】
他端側フランジ部143は、
図1および
図3に示すように、管状部141のX軸負方向(第4の貫通孔144の貫通方向の他方)の端部からX軸方向視(第4の貫通孔144の貫通方向視)において管状部141の外側に突出している部分である。他端側フランジ部143は、X軸方向視において、耐火用環状部材13の第3の貫通孔131の周りの表面と、補強用環状部材12の第2の貫通孔121の周りの表面とに重なっている。
【0032】
配管20は、脱離抑制部材14の管状部141の第4の貫通孔144に挿入されている。
【0033】
A-3.本実施形態の建築構造物100の施工方法:
図3は、本実施形態の建築構造物100の施工方法の概要を示すフローチャートである。
【0034】
本実施形態の建築構造物100の施工方法では、はじめに、上述した平板11と補強用環状部材12と耐火用環状部材13と脱離抑制部材14とを備える複合部材10を準備する(S11)。以下、S11の工程を「準備工程S11」といい、建築構造物100において、平板11、補強用環状部材12、および耐火用環状部材13を設置する所定の場所を「部材設置場所」という。部材設置場所における施工の効率を向上させるために、準備工程S11は、部材設置場所以外の場所(例えば、施工現場の作業スペースや、工場)で行われることが好ましい。
【0035】
また、準備工程S11では、例えば、平板11に補強用環状部材12を組み付けることにより得られる部材に、脱離抑制部材14に耐火用環状部材13を組み付けることにより得られる部材を組み合わせることにより、複合部材10を準備(作製)する。
【0036】
また、本実施形態では、準備工程S11において耐火用環状部材13に脱離抑制部材14を組み付ける際には、まず、一端側フランジ部142と、一端側フランジ部142のX軸方向視(第4の貫通孔144の貫通方向視)の内側の端部からX軸負方向(第4の貫通孔144の貫通方向の他方)に突出している突出部(管状部141および他端側フランジ部143となる部分)とを備える脱離抑制部材14を準備する。このような脱離抑制部材14は、例えば、以下のように準備することができる。まず、管状部141となる部材として、例えば金属または樹脂などよりなる管状部材(以下、単に「管状部材」という。)を準備し、一端側フランジ部142および他端側フランジ部143となる部材として、例えば金属または樹脂などよりなる複数(本実施形態では、4つ)の板状部材(以下、単に「板状部材」という。)を準備する。次に、管状部材の各所に各板状部材を接続(例えば、接合または接着)し、また、各板状部材の一方(X軸正方向)の端部を折り曲げることにより、一端側フランジ部142を形成する。以上のようにして、一端側フランジ部142と、一端側フランジ部142のX軸方向視の内側の端部からX軸負方向に突出している突出部(141、143)とを備える脱離抑制部材14が得られる。
【0037】
突出部(141、143)を第3の貫通孔131内に挿入する際には、一端側フランジ部142を耐火用環状部材13の第3の貫通孔131の周りの表面に当接させる。このように耐火用環状部材13に脱離抑制部材14を組み付ける際には、耐火用環状部材13に対する脱離抑制部材14の位置決めを容易に行うことができる。さらに、突出部(141、143)のX軸負方向の端部を折り曲げることにより、管状部141の貫通方向の他方の端部から管状部141の外側に突出している他端側フランジ部143を形成する。以上のようにして、耐火用環状部材13への脱離抑制部材14の組み付けは完了する。
【0038】
次に、鉄骨の建方において、複合部材10を建築位置に設置する(S12)。この際、従来の施工方法のように、部材設置場所で、施工者等が平板11の第1の貫通孔111を取り囲む内周に補強用環状部材12を組み付ける作業や、補強用環状部材12の第2の貫通孔121を取り囲む内周に耐火用環状部材13を組み付ける作業を行う必要は無い。以下、S12の工程を「設置工程S12」という。
【0039】
次に、脱離抑制部材14の管状部141に配管20を挿入し、配管20を設置する(S13)。以下、S13の工程を「配管工程S13」という。
【0040】
上述した準備工程S11、設置工程S12、配管工程S13を経て、本実施形態の建築構造物100は完成する。
【0041】
A-4.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の建築構造物100の施工方法は、第1の貫通孔111が形成された平板11と補強用環状部材12と耐火用環状部材13と脱離抑制部材14とを備える複合部材10を準備する準備工程S11と、複合部材10を建築位置に設置する設置工程S12と、を備える。補強用環状部材12は、平板11を補強する補強用環状部材12であって、第2の貫通孔121が形成され、かつ、平板11の第1の貫通孔111を取り囲む内周に接続している。耐火用環状部材13は、耐火被覆材により形成された部材であって、第3の貫通孔131が形成され、かつ、補強用環状部材12の第2の貫通孔121を取り囲む内周に接続している。脱離抑制部材14は、耐火用環状部材13の脱離を抑制する部材であって、第4の貫通孔144が形成され、かつ、耐火用環状部材13の内周に接続している管状部141を有する。
【0042】
本施工方法においては、上述の準備工程S11および設置工程S12を行うことにより、平板11、補強用環状部材12、および耐火用環状部材13を部材設置場所に設置する。本施工方法によれば、部材設置場所以外の場所(例えば、施工現場の作業スペースや、工場)で準備工程S11の複合部材10の準備(製造)を行うことにより、部材設置場所で施工者等が補強用環状部材12等を組み付ける作業を行うことを要さずに、平板11等を部材設置場所に設置することができる。従って、本施工方法によれば、部材設置場所における施工の効率を向上させることができる。
【0043】
ここで、仮に複合部材10が脱離抑制部材14を備えない構成においては、設置工程S12において複合部材10が設置されてから耐火用環状部材13の第3の貫通孔131に配管20が挿入されるまでの間に、耐火用環状部材13が雨等に曝されることにより、補強用環状部材12から脱離するおそれがある。
【0044】
これに対し、本施工方法においては、耐火用環状部材13の内周に接続している管状部141を有する脱離抑制部材14の存在により、耐火用環状部材13が補強用環状部材12から脱離することを抑制することができる。
【0045】
また、本施工方法においては、脱離抑制部材14の剛性は、耐火用環状部材13の剛性よりも高い。そのため、本施工方法によれば、脱離抑制部材14の剛性が耐火用環状部材13の剛性以下である構成と比較して、耐火用環状部材13が補強用環状部材12から脱離することを、より効果的に抑制することができる。
【0046】
また、本施工方法においては、準備工程S11において、管状部141のX軸正方向(第4の貫通孔144の貫通方向の一方)の端部からX軸方向視(第4の貫通孔144の貫通方向視)における管状部141の外側に突出している一端側フランジ部142を備える脱離抑制部材14を準備する。さらに、耐火用環状部材13に脱離抑制部材14を組み付ける際に、耐火用環状部材13の第3の貫通孔131の周りの表面に一端側フランジ部142を当接させる。そのため、本施工方法によれば、脱離抑制部材14の一端側フランジ部142を利用することにより、耐火用環状部材13に対する脱離抑制部材14の位置決めを容易に行うことができる。さらに、本施工方法により得られる建築構造物100においては、一端側フランジ部142の存在により、耐火用環状部材13がX軸正方向に変位することを抑制(ひいては、補強用環状部材12から脱離することを抑制)することができる。
【0047】
また、本施工方法においては、準備工程S11において、耐火用環状部材13に脱離抑制部材14を組み付ける際に、一端側フランジ部142のX軸方向視(第4の貫通孔144の貫通方向視)の内側の端部からX軸負方向(第4の貫通孔144の貫通方向の他方)に突出している突出部(141、143)を更に備える脱離抑制部材14を準備する。次に、突出部(141、143)を第3の貫通孔131内に挿入し、耐火用環状部材13の第3の貫通孔131の周りの表面に一端側フランジ部142を当接させるとともに、突出部(141、143)のX軸負方向の端部を折り曲げることにより、管状部141の貫通方向の他方の端部から管状部141の外側に突出している他端側フランジ部143を形成する。本施工方法により得られる建築構造物100においては、他端側フランジ部143の存在により、耐火用環状部材13がX軸負方向に変位することを抑制(ひいては、補強用環状部材12から脱離することを抑制)することができる。本施工方法によれば、このような効果を奏する建築構造物100を容易に実現(施工)することができる。
【0048】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0049】
上記実施形態は、平板11の第1の貫通孔111(より厳密には、脱離抑制部材14の第4の貫通孔144)に配管20が挿入される構成であるが、平板11の第1の貫通孔111に配管20以外の部材が挿入される構成であってもよい。
【0050】
上記実施形態では、各貫通孔(第1の貫通孔111、第2の貫通孔121、第3の貫通孔131、第4の貫通孔144)の貫通方向に直交する断面の形状は略円形であるが、略円形以外の形状(例えば、四角形)であってもよい。また、各貫通孔の形状に対応して、補強用環状部材12、耐火用環状部材13、および脱離抑制部材14の各形状も適宜変更されてもよい。
【0051】
上記実施形態(または変形例、以下同様)において、鉄骨梁(のウェブ)を構成する平板11を、鉄骨梁以外の梁材、または柱材(以下、「被補強部材」という。)に置き換えた構成を採用してもよい。この構成においても、第1の貫通孔が形成された梁材または柱材である被補強部材と、被補強部材を補強する補強用環状部材と、耐火被覆材により形成された耐火用環状部材と、耐火用環状部材の脱離を抑制する脱離抑制部材と、を備える複合部材を準備する準備工程と、複合部材を建築位置に設置する設置工程と、を備えることにより、部材設置場所における施工の効率を向上させることができ、かつ、耐火用環状部材が補強用環状部材から脱離することを抑制することができる。
【0052】
上記実施形態では、脱離抑制部材14は、4つの一端側フランジ部142と、4つの他端側フランジ部143とを備えているが、一端側フランジ部142や他端側フランジ部143の個数は特に限定されるものではない。例えば、一端側フランジ部142と他端側フランジ部143との一方または両方が、X軸方向視において管状部141の全周にわたって形成される環状をなす1個のものであってもよい。
【0053】
上記実施形態において、脱離抑制部材14は、一端側フランジ部142を備えずに管状部141のみを備えていてもよい。
【0054】
上記実施形態において、脱離抑制部材14の剛性が耐火用環状部材13の剛性以下でああってもよい。
【符号の説明】
【0055】
10:複合部材 11:梁材 12:補強用環状部材 13:耐火用環状部材 14:脱離抑制部材 15:溶接痕 20:配管 100:建築構造物 111:第1の貫通孔 121:第2の貫通孔 131:第3の貫通孔 141:管状部 142:一端側フランジ部 143:他端側フランジ部 144:第4の貫通孔 S11:準備工程 S12:設置工程 S13:配管工程