(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069865
(43)【公開日】2022-05-12
(54)【発明の名称】防錆材料および防錆処理方法
(51)【国際特許分類】
C23F 11/00 20060101AFI20220502BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20220502BHJP
C09D 5/08 20060101ALI20220502BHJP
C09D 129/04 20060101ALI20220502BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220502BHJP
C09D 131/04 20060101ALI20220502BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
C23F11/00 F
C23C26/00 A
C09D5/08
C09D129/04
C09D7/61
C09D131/04
C09D183/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020178765
(22)【出願日】2020-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】591077678
【氏名又は名称】インフラテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520418617
【氏名又は名称】株式会社三友
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】松崎 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】込山 貴仁
(72)【発明者】
【氏名】西 康博
(72)【発明者】
【氏名】川中 昌樹
【テーマコード(参考)】
4J038
4K044
4K062
【Fターム(参考)】
4J038CE021
4J038CF021
4J038HA206
4J038KA05
4J038KA20
4J038MA08
4J038MA14
4J038PA18
4J038PB05
4J038PC02
4K044AA02
4K044AB02
4K044BA12
4K044BA21
4K044BB03
4K044BB11
4K044BC02
4K044CA29
4K044CA53
4K062AA01
4K062BA08
4K062BC08
4K062CA02
4K062FA12
4K062GA10
(57)【要約】
【課題】鋼材の腐食を長期間防止し、かつ必要に応じて容易に剥離研掃できる防錆被覆方法およびその材料を提供する。
【解決手段】ポリビニルアルコールと、水酸化カルシウムと、水と、を含み、前記ポリビニルアルコールと前記水酸化カルシウムとの質量比は、0.5~1.5:8.5~9.5であり、前記ポリビニルアルコールと前記水との質量比は、0.5~1.5:8.5~9.5である、防錆材料。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールと、
水酸化カルシウムと、
水と、を含み、
前記ポリビニルアルコールと前記水酸化カルシウムとの質量比は、0.5~1.5:8.5~9.5であり、
前記ポリビニルアルコールと前記水との質量比は、0.5~1.5:8.5~9.5である、防錆材料。
【請求項2】
前記水酸化カルシウムの平均粒子径D50は5~100μmである、請求項1に記載の防錆材料。
【請求項3】
水溶性ポリ酢酸ビニルをさらに含み、
前記水溶性ポリ酢酸ビニルと前記ポリビニルアルコールとの質量比は、0.5~1.5:8.5~9.5である、請求項1または2に記載の防錆材料。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の防錆材料を、鋼材の表面に厚み0.3~3.0mm塗布し、当該防錆材料を乾燥させて防錆層を形成する防錆層形成工程を備える、防錆処理方法。
【請求項5】
前記防錆層形成工程後、前記防錆層に撥水剤を塗布して撥水層を形成する撥水層形成工程を備える、請求項4に記載の防錆処理方法。
【請求項6】
前記撥水層形成工程後、前記撥水層にシリコンシーラントを塗布してシリコンシーラント層を形成するシリコンシーラント層形成工程を備える、請求項5に記載の防錆処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防錆材料および防錆処理方法に関し、特に鋼材に塗布しても剥離研掃が容易な防錆材料および防錆処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋、鋼板など、建設分野に使用される鋼材は、特殊鋼を除けば、工場から出荷された時点では、表面に黒錆びと呼ばれる安定した酸化被膜が形成されており、酸、塩分または水と酸素などの腐食因子の複合作用により、酸化被膜が破壊されない限り、鋼材の腐食は進行しない。
【0003】
しかしながら、建設現場や工場などで、使用前の鋼材をこれらの腐食因子が完全に遮断された環境で保存することは、コストやスペースの制約から難しい。
【0004】
一旦腐食した鋼材は、不働態被膜が破壊され、断面欠損を生じることから、如何なる方法によっても初期の性能を完全に回復することはできない。そのため、鋼材の腐食は経済損失が大きく、また、錆落としの作業は、過酷な労働であるうえ、グラインダーなどによる騒音被害の原因となる。
【0005】
また、コンクリートの補強材または型枠として使用される鋼材は、特殊な場合を除いて、無塗装の状態で使用されるため、防錆のために鋼材表面を塗料などで被覆した場合は、使用前にこれを剥離研掃し、鋼材表面を露出させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、防錆性能の優れた塗料ほど鋼材に強固に接着するため、鋼材使用前の剥離研掃が困難となる。
【0008】
そこで、簡易に鋼材を防錆する方法として、鋼材の表面に鉱物油や油脂を塗布する方法が多用されている(例えば、特許文献1)。しかしながら、コンクリートの補強材のように、コンクリートとの強固な付着が必要な鋼材の場合は、これらの鉱物油や油脂が鋼材のコンクリートへの付着力を低下させる原因となる。また、これらの鉱物油や油脂は、降雨により容易に溶失するため、屋外環境下において鋼材に対して長期間防錆性能を維持することはできない。
【0009】
一般に、鋼材の表面に塗布または施工することが容易な鉱物油や油脂などは、防錆性能が長期間持続しないという課題がある。一方、長期間の防錆が可能な塗料などは、塗布後の剥離研掃作業に手間と時間が掛かるという課題がある。
【0010】
すなわち、使用前の鋼材の一時的な防錆に使用される防錆材には、「剥がれにくいが、剥がしやすい」と言う、相矛盾した性能が要求される。
【0011】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、防錆期間を鉱物油や油脂などよりも長期化できると共に、鋼材の使用前には、高圧洗浄またはスチームクリーナーなどの方法で容易に剥離研掃できる防錆材料および防錆処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の防錆材料は、ポリビニルアルコールと、水酸化カルシウムと、水と、を含み、前記ポリビニルアルコールと前記水酸化カルシウムとの質量比は、0.5~1.5:8.5~9.5であり、前記ポリビニルアルコールと前記水との質量比は、0.5~1.5:8.5~9.5である。
【0013】
前記水酸化カルシウムの平均粒子径D50は5~100μmであってもよい。
【0014】
水溶性ポリ酢酸ビニルをさらに含み、前記水溶性ポリ酢酸ビニルと前記ポリビニルアルコールとの質量比は、0.5~1.5:8.5~9.5であってもよい。
【0015】
また、上記課題を解決するため、本発明の防錆処理方法は、本発明の防錆材料を、鋼材の表面に厚み0.3~3.0mm塗布し、当該防錆材料を乾燥させて防錆層を形成する防錆層形成工程を備える。
【0016】
前記防錆層形成工程後、前記防錆層に撥水剤を塗布して撥水層を形成する撥水層形成工程を備えてもよい。
【0017】
前記撥水層形成工程後、前記撥水層にシリコンシーラントを塗布してシリコンシーラント層を形成するシリコンシーラント層形成工程を備えてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明であれば、防錆期間を鉱物油や油脂などよりも長期化できると共に、鋼材の使用前には、高圧洗浄またはスチームクリーナーなどの方法で容易に剥離研掃できる防錆材料および防錆処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】鋼材に防錆層を形成した態様の一例を示す側面断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、鉄筋や鋼製型枠など、無塗装の状態で使用する鋼材を、施工現場やストックヤードに一時的に保管する場合において、酸、塩分、水および酸素など、鋼材表面の不働態被膜を破壊する有害因子を遮断することにより、長期間防錆性能を維持するとともに、当該鋼材の使用時には、容易に剥離研掃できる防錆被覆を形成することのできる、防錆材料および防錆処理方法の発明を完成した。
【0021】
以下、本発明の防錆材料および防錆処理方法の一態様について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0022】
[防錆材料]
本発明の防錆材料は、ポリビニルアルコールと、水酸化カルシウムと、水と、を含む。
【0023】
〈ポリビニルアルコール〉
ポリビニルアルコール(PVA)は、水溶性で熱可塑性のプラスチックであり、接着性や酸素バリア性、造膜性、耐薬品性に優れており、耐久性の強い被膜を形成することができる。
【0024】
このような特性を有するPVAを採用することにより、鋼材と防錆被覆の境界面における接着剤として十分な接着性を満足しつつ、水を用いた高圧洗浄あるいはスチームクリーナーにより防錆層を容易に剥離研掃することが可能となる。
【0025】
また、PVAは、例えば酢酸ビニルモノマーを重合し、得られたポリ酢酸ビニル樹脂をケン化することにより製造することができる。この製法の場合、親水性の水酸基のみならず疎水性の酢酸基を有する場合があるが、ケン化度が95.5~96.5の範囲にあるPVAを用いることで、接着性と剥離研掃性を満足することができる。また、酢酸基をまったく含まないケン化度が100の完全ケン化PVAを用いてもよい。
【0026】
〈水酸化カルシウム〉
水酸化カルシウム(Ca(OH)2)は、カルシウムの水酸化物であり、固体はカルシウムイオンと水酸化物イオンからなるイオン結晶である。強いアルカリ性を示すことから、黒錆びの保護に有効であり、酸化を防止する。また、体質顔料としてPVAの硬化収縮を低減し、防錆層の割れを防止することができる。
【0027】
水酸化カルシウムとしては、防錆層の形成に好適なものを採用することができる。例えば、平均粒子径D50が5~100μmの水酸化カルシウム粉末(消石灰)を採用することができる。D50が5μm未満の場合には、吸油量が高くなることでPVAとの混合バランスが偏り、防錆に十分な量の水酸化カルシウムを防錆材料に含めることが困難となるおそれがある。また、D50が100μmを超える場合には、PVAの硬化収縮により防錆層の強度低下や割れを生じさせる原因となるおそれがある。
【0028】
〈水〉
水は、PVAを溶解し、水酸化カルシウムを分散させる分散媒としての役割を果たす。過度に不純物が含まれないものを用いることが好ましく、水道水や純水を用いることができる。
【0029】
本発明の防錆材料において、ポリビニルアルコールと水酸化カルシウムとの質量比は、0.5~1.5:8.5~9.5である。質量比がこの範囲内にあることで、接着性、剥離研掃性、防錆性を満足することができる。
【0030】
例えば、ポリビニルアルコールを10質量%含有する水溶液と水酸化カルシウム粉末(消石灰)を、質量比で1:0.9の割合で混合して防錆材料を製造することを、標準とすることができる。ただし、防錆材料の粘性は、水酸化カルシウム粉末の粒度、気温、湿度などの諸条件により変化することがある。そこで、これらの諸条件を考慮して、防錆材料の施工に最適な粘性が得られるように、ポリビニルアルコール、水酸化カルシウム、水の割合を適宜調整することができる。
【0031】
質量比がこの範囲から外れ、例えばポリビニルアルコールが多い場合には、硬化収縮により防錆層が割れるおそれがあり、また、防錆性を満足することができないおそれがある。また、水酸化カルシウムが多い場合には、接着性を満足することができないおそれがある。
【0032】
また、ポリビニルアルコールと水との質量比は、0.5~1.5:8.5~9.5である。例えば、ポリビニルアルコールは質量濃度10%の水溶液の状態で使用することを標準とすることができるが、この水溶液の粘性は、使用するポリビニルアルコールの重合度およびけん化度により変化することがある。そのため、防錆材料の施工に最適な粘性が得られるように、ポリビニルアルコールと水との質量比を適宜調整することができる。これらの質量比が上記の範囲内にあることで、接着性を満足すると共に、施工作業性が良好となり、鋼材へ防錆層を容易に施工することができる。
【0033】
また、質量比がこの範囲から外れ、例えばポリビニルアルコールが多い場合には、ポリビニルアルコールの硬化収縮により防錆層が割れるおそれがあり、また、ポリビニルアルコールの方が水よりも高価なために、防錆材料の材料費が高くなりすぎるおそれがある。また、水が多い場合には、結果としてポリビニルアルコールの量が少なくなることで接着性を満足することができなおそれがあり、また、水酸化カルシウムが沈降してハードケーキ状になる等により貯蔵安定性を満足しないおそれがある。さらに、水が少なすぎると防錆材料の粘度が高くなることで、施工作業性を満足しないおそれがある。
【0034】
〈水溶性ポリ酢酸ビニル〉
ポリ酢酸ビニル(PVAc)は例えば酢酸ビニルをラジカル重合して得られる熱可塑性樹脂であり、本発明の防錆材料は、水溶性のポリ酢酸ビニルを含むことで、接着増強剤として鋼材に対する防錆層の接着強度を高めることができる。例えば、鋼材表面の清掃を十分に行うことができず、鋼材の表面に鉱物油等が残存している状態の鋼板に対して、良好な接着性を発揮することができる。
【0035】
ポリ酢酸ビニルは一般的には水に不溶の性質をもつポリマーであるが、酢酸ビニルモノマーを、PVCを保護コロイドとして乳化重合させることで水溶性となる。
【0036】
水溶性ポリ酢酸ビニルとしては、鋼材に対する良好な接着性を満足する防錆層の形成に好適なものを採用することができる。
【0037】
ポリ酢酸ビニルは、本発明の防錆材料が良好な接着性を満足する程度に含めることができる。例えば、水溶性ポリ酢酸ビニルとポリビニルアルコールとの質量比は、0.5~1.5:8.5~9.5であることで、良好な密着性を満足することができる。水溶性ポリ酢酸ビニルが少ないと、鋼材の表面に鉱物油等が残存している場合において、良好な密着性を満足しないおそれがある。また、水溶性ポリ酢酸ビニルが多いと、接着力が強くなりすぎ、剥離研掃が難しくなる。
【0038】
(その他の材料)
本発明の防錆材料は、上記の材料に加え、更なる材料を含んでもよい。例えば、水酸化カルシウムのポリビニルアルコールへの湿潤性や分散性を向上させるべく、湿潤剤や分散剤を含んでもよい。また、レベリング剤等の添加剤や水以外の溶剤を適宜含んでもよい。
【0039】
〈防錆材料の製造方法〉
本発明の防錆材料を得ることができれば、その製造方法は特に限定されない。例えば、PVAまたはPVAとPVAcを水と混合して混合物とし、この混合物に必要に応じて添加剤を加え、更に水酸化カルシウム粉末(消石灰)を加えて、適宜ミル分散やディゾルバー分散等の処理をすることで、防錆材料を製造することができる。
【0040】
[防錆処理方法]
次に、本発明の防錆処理方法について、
図1に示す鋼材に防錆層を形成した態様の一例を示す側面断面概略図を参照しつつ説明する。
【0041】
〈防錆層形成工程〉
本発明の防錆処理方法は、上記した本発明の防錆材料を、鋼材100の表面に厚み0.3~3.0mm塗布し、当該防錆材料を乾燥させて防錆層200を形成する防錆層形成工程を備える。
【0042】
防錆層形成工程では、防錆材料を鋼材100へ容易に塗布できるよう、必要に応じて水等を加えて防錆材料の粘度を調整しつつ、防錆に十分な膜厚を確保することが重要であり、厚みが上記の範囲であればこれらを満たすことができる。
【0043】
防錆材料の塗布の厚みが0.3mm未満の場合は、防錆性を満足しないおそれがあり、また、防錆材料を鋼材100の表面全体に被覆できずに鋼材100の表面が部分的に露出するおそれがある。また、塗布の厚みが3.0mm以上の場合は2回以上塗付することが必要となるおそれがあり、施工時間や材料コストを考慮すると好ましくない場合がある。
【0044】
防錆材料は、例えば刷毛、ローラー、スプレーなどを用いて鋼材100の表面に塗布することができる。塗布の厚みは、例えば0.45mmを標準とすることができるが、鋼材100に要求される防錆期間に応じて、厚みを適宜調整することができる。また、防錆材料の厚みを正確に測定することが困難な場合には、防錆材料を塗布後に目視で鋼材100が透けて見えることがない厚さに塗布することができていれば、経験上は0.3mm以上の厚みを確保している。
【0045】
〈撥水層形成工程〉
本発明の防錆処理方法は、防錆層形成工程後、防錆層200に撥水剤を塗布して撥水層300を形成する撥水層形成工程を備えてもよい。
【0046】
撥水剤としては、例えばシリコンやフッ素を撥水成分とする撥水剤を用いることができる。防錆層200の表面に撥水層300を形成することで、水溶性のポリビニルアルコールが溶出することで防錆層200が脆弱化することを防止または抑制することができ、防錆効果をより長期間持続させることができる。
【0047】
撥水剤の塗布は、例えば防錆層200の硬化乾燥を待って行うことができる。撥水剤の塗布は、刷毛やローラーにより行うことができ、特にスプレーによる散布が効率的である。
【0048】
撥水剤の塗布量は、例えば200g/m2を標準とすることができるが、必要な塗布量は防錆層200の厚さや要求される防錆効果の持続性により変化するため、100~300g/m2の範囲で塗布量を調製することができる。例えば、防錆層200の表面がしっとりと濡れる程度に塗布し、適宜塗布回数を調整して所望の塗布量とすることができる。
【0049】
〈シリコンシーラント層形成工程〉
本発明の防錆処理方法は、撥水層形成工程後、撥水層300にシリコンシーラントを塗布してシリコンシーラント層400を形成するシリコンシーラント層形成工程を備えてもよい。
【0050】
撥水層300を形成することで、防錆層200の防錆効果をより長期間持続させることができるが、鋼材100の保管環境によっては、撥水層300が物理的接触や機械的接触、風化等により破損や離脱するおそれがある。このようなおそれのある場合は、トップコートとしてさらにシリコンシーラント層400を形成することにより、耐擦過性能や耐衝撃性能を付与することで、防錆効果をさらに維持させることができる。なお、シリコンシーラントは、撥水層300を省略して防錆層200へ直接塗布することもできる。
【0051】
シリコンシーラントの塗布は、防錆層200や撥水層300の乾燥を待って行うことができる。シリコンシーラントの塗布厚さは、想定される物理的接触や機械的接触、風化等の程度に応じて0.2~1mm程度に適宜調整することができる。
【0052】
(その他の工程)
本発明の防錆処理方法は、上記の工程に加え、更なる工程を含んでもよい。例えば、鋼材表面の油分や不純物等を除去する表面調整工程や、防錆層200、撥水層300、シリコンシーラント層400の各層を十分に乾燥させる乾燥工程、これらの各層が問題無く形成されたか確認する工程等が挙げられる。
【実施例0053】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
本発明の防錆材料を用いた防錆処理方法の有効性を確認するため、下記の4種類の試験体を作成し、JIS K 5600の屋外暴露耐候性に基づき、2019年11月からこれらの試験体を屋外に暴露し、防錆層の劣化および鋼板の腐食状況等を確認した。
【0055】
〈試験体1:無処理鋼板〉
錆の発生していない1m2の鋼板100をそのまま試験体1とした。なお、試験面以外の部分が腐食することが試験結果に影響しないよう、試験面以外の部分は、腐食しないように防錆塗料で被覆した。
【0056】
〈試験体2〉
試験体1の表面に、以下の防錆材料Aを以下の手順で塗布し、十分に乾燥させて防錆層200を形成したものを試験体2とした。
【0057】
(防錆材料A)
ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製 クラレポバール27-96 けん化度:95.5~96.5)を水に溶解させて、質量比がPVA:水=1:9のPVA水溶液を作成した。そして、PVA水溶液を攪拌しつつ、水酸化カルシウム粉末(位登産業株式会社製特号消石灰 D50:10.5μm)を質量比がPVA水溶液:水酸化カルシウム粉末=10:9となるようにPVA水溶液に加えてディゾルバー分散し、防錆材料Aを製造した。
【0058】
(防錆処理方法)
試験体1である鋼材100の表面に、防錆材料Aをローラーで厚みが約0.45mmとなるように塗布し、十分に乾燥させて防錆層200を形成したものを試験体2とした。
【0059】
〈試験体3〉
試験体2の防錆層200の表面にシリコン樹脂及びフッ素樹脂の混合物を撥水成分とする撥水剤(SKプラニング社製No.855)をスプレーにて200g/m2塗布し、十分に乾燥させて撥水層300を形成したものを試験体3とした。
【0060】
〈試験体4〉
試験体3の撥水層300の表面にトップコートとしてシリコンシーラント(セメダイン株式会社製シリコーンHI300)を塗布厚さが約0.5mmとなるように塗布し、十分に乾燥させてシリコンシーラント層400を形成したものを試験体4とした。
【0061】
(結果)
試験体1は屋外暴露を開始してから約1週間で鋼材100の表面に腐食が発生した。一方で、防錆層200を備える試験体2は、屋外暴露を開始してから3週間以上経過しても鋼材100は腐食せず、1か月弱経過後に鋼板100に腐食が認められた。そして、試験体3は屋外暴露を開始してから6カ月を経過しても鋼材100の腐食は発生しなかったが、2020年7月の豪雨時に防錆層200に小さな欠損が発生し、その部分が腐食し始めた。また、試験体4は2020年9月に至るまで鋼材100は腐食せず、防錆層200、撥水層300およびシリコンシーラント層400のいずれにも劣化は認められていない。
【0062】
屋外暴露の結果より、防錆層200が鋼材100の腐食を抑制する効果が認められ、撥水層300およびシリコンシーラント層400がこの効果を長期間維持させることがわかった。
【0063】
[実施例2]
本発明の防錆処理方法により形成した防錆被覆の剥離研掃の容易さを確認するため、試験体4の作成手順と同様に、鋼板100の表面に防錆層200、撥水層300およびシリコンシーラント層400を形成し、実施例1と同様の条件で約1か月屋外に暴露した。そして、暴露後に高圧洗浄およびスチームクリーナーを用いて、防錆層200、撥水層300およびシリコンシーラント層400に剥離研掃処理を行った。
【0064】
その結果、防錆層200、撥水層300およびシリコンシーラント層400のいずれも、高圧洗浄およびスチームクリーナーのいずれによっても容易に剥離研掃できることが確認された。
【0065】
[評価試験3]
試験体2において作成した防錆材料Aに対し、質量比でPVA:PVAc=10:1となるように水溶性ポリ酢酸ビニル(コニシ株式会社製CH18)を添加し、攪拌して防錆材料Bを製造した。
【0066】
鋼材100の表面の清掃が不十分な場合を想定し、表面に鉱物油が残存している状態の鋼板100に防錆材料A、Bを塗布して、それぞれ試験体2の場合と同様に防錆層200を形成した。防錆材料Aを用いた場合を試験体5、防錆材料Bを用いた場合を試験体6とした。
【0067】
次に、試験体5、6に対し、放水(水圧0.03MPa)を行って、防錆層200の接着力を評価した。
【0068】
結果として、試験体5は防錆層200の剥離がやや認められたものの、試験体6の防錆層200は剥離せず、良好な密着力を示した。この結果より、鋼材100の清掃が十分に行うことができない場合であっても、PVAcが防錆層200の密着力を十分に維持できることがわかった。
【0069】
[まとめ]
本発明の防錆材料および防錆処理方法は、無塗装の状態で使用する鋼材の一時的な防錆処理として、防錆性能が長期間保持されるのみならず、剥離研掃が容易であることから、実務面において産業への貢献度が大きい。また、防錆材料の原料は安価かつ大量に入手することが容易で、建設分野や自動車分野で長年使用され、その安全性が確認されているものであることから、環境保護の観点からも産業上有用である。