(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069875
(43)【公開日】2022-05-12
(54)【発明の名称】撹拌・脱泡処理用の容器及びその製造方法、並びに、撹拌・脱泡処理装置及びその運転方法
(51)【国際特許分類】
B01F 29/90 20220101AFI20220502BHJP
B01D 19/00 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
B01F9/22
B01D19/00 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020178798
(22)【出願日】2020-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000145286
【氏名又は名称】株式会社写真化学
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】中村 友紀
(72)【発明者】
【氏名】井上 洋貴
【テーマコード(参考)】
4D011
4G036
【Fターム(参考)】
4D011AA06
4D011AD06
4G036AA26
(57)【要約】
【課題】被処理物が泡立ち難く且つ被処理物の分散性を高めることができる撹拌・脱泡処理用の容器を提供する。
【解決手段】被処理物5を撹拌・脱泡処理する撹拌・脱泡処理装置100で用いられ、被処理物5を内部に収容する有底筒状の撹拌・脱泡処理用の容器1であって、収容する被処理物5と接触する内部表面の少なくとも一部に、不規則な形状の複数の凹凸2が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を撹拌・脱泡処理する撹拌・脱泡処理装置で用いられ、前記被処理物を内部に収容する有底筒状の撹拌・脱泡処理用の容器であって、
収容する前記被処理物と接触する内部表面の少なくとも一部に、不規則な形状の複数の凹凸が形成されている撹拌・脱泡処理用の容器。
【請求項2】
収容する前記被処理物と接触する内部表面の少なくとも一部に、複数の前記凹凸を構成する複数の凸部の頂点同士の間隔、及び、複数の前記凹凸を構成する複数の凹部の底点同士の間隔の少なくとも一方が不規則に形成されている請求項1に記載の撹拌・脱泡処理用の容器。
【請求項3】
収容する前記被処理物と接触する内部表面の少なくとも一部に、複数の前記凹凸を構成する複数の凸部のそれぞれの頂点の高さ、及び、複数の前記凹凸を構成する複数の凹部のそれぞれの底点の深さの少なくとも一方が不規則に形成されている請求項1又は2に記載の撹拌・脱泡処理用の容器。
【請求項4】
複数の前記凹凸の表面粗さRaは3μm以上100μm未満の範囲である請求項1~3の何れか一項に記載の撹拌・脱泡処理用の容器。
【請求項5】
ブラスト処理又は溶射処理又は砥粒付着処理により複数の前記凹凸が形成されている請求項1~4の何れか一項に記載の撹拌・脱泡処理用の容器。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載の撹拌・脱泡処理用の容器の製造方法であって、
前記撹拌・脱泡処理用の容器の内部表面の少なくとも一部に複数の粒子を付着させることにより、又は、前記撹拌・脱泡処理用の容器の内部表面の少なくとも一部を窪ませることにより、前記撹拌・脱泡処理用の容器の内部表面の少なくとも一部に、不規則な形状の複数の凹凸を形成する撹拌・脱泡処理用の容器の製造方法。
【請求項7】
請求項1~5の何れか一項に記載の撹拌・脱泡処理用の容器と、
前記撹拌・脱泡処理用の容器が搭載される容器ホルダーと、
前記容器ホルダーを自転軸心周りに自転させ且つ前記自転軸心を公転させる駆動機構とを備える撹拌・脱泡処理装置。
【請求項8】
請求項1~5の何れか一項に記載の撹拌・脱泡処理用の容器と、前記撹拌・脱泡処理用の容器が搭載される容器ホルダーと、前記容器ホルダーを自転軸心周りに自転させ且つ前記自転軸心を公転させる駆動機構とを備える撹拌・脱泡処理装置において、前記撹拌・脱泡処理用の容器に前記被処理物を収容した状態で、前記撹拌・脱泡処理用の容器を遠心加速度が4G以上1000G以下の範囲で公転させる撹拌・脱泡処理装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被処理物を撹拌・脱泡処理する撹拌・脱泡処理装置で用いられ、被処理物を内部に収容する有底筒状の撹拌・脱泡処理用の容器及びその製造方法、並びに、撹拌・脱泡処理装置及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2019-51495号公報)には、公転体と、その公転体に保持される自転体と、公転体と自転体とを回転駆動する駆動機構と、自転体に取り付けられ被処理材料を収納する容器とを備える処理装置が記載されている。容器の内周面には、容器の自転軸に沿って延在した複数の突条部を形成してある。そして、駆動機構が、自転体を公転体よりも高い回転速度で回転させる。これにより、高粘度の材料でも短時間でマイクロバブルの起泡を可能としている。具体的には、容器の内周面に形成された突起部が被処理材料に衝突して泡を巻き込むと共に微細化することで、効率的に多くのマイクロバブルを含有させることを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の容器は、被処理物を泡立たせることを目的に形成されたものであるが、被処理物の分散性は高めつつ、被処理物の泡立ちを抑制することが求められる場合もある。
【0005】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、被処理物が泡立ち難く且つ被処理物の分散性を高めることができる撹拌・脱泡処理用の容器及びその製造方法、並びに、撹拌・脱泡処理装置及びその運転方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態に係る撹拌・脱泡処理用の容器の構成は、被処理物を撹拌・脱泡処理する撹拌・脱泡処理装置で用いられ、前記被処理物を内部に収容する有底筒状の撹拌・脱泡処理用の容器であって、
収容する前記被処理物と接触する内部表面の少なくとも一部に、不規則な形状の複数の凹凸が形成されている。
ここで、収容する前記被処理物と接触する内部表面の少なくとも一部に、複数の前記凹凸を構成する複数の凸部の頂点同士の間隔、及び、複数の前記凹凸を構成する複数の凹部の底点同士の間隔の少なくとも一方が不規則に形成されていてもよい。
また、収容する前記被処理物と接触する内部表面の少なくとも一部に、複数の前記凹凸を構成する複数の凸部の頂点の高さ、及び、複数の前記凹凸を構成する複数の凹部の底点の深さの少なくとも一方が不規則に形成されていてもよい。
【0007】
上記構成によれば、容器の内部表面の少なくとも一部に形成された不規則な形状の複数の凹凸によって撹拌・脱泡処理中の被処理物の流れの局所的な変化が小さくなるため、空気を巻き込みにくい状況になると考えられる。
従って、被処理物が泡立ち難く且つ被処理物の分散性を高めることができる撹拌・脱泡処理用の容器を提供できる。
【0008】
本開示に係る撹拌・脱泡処理用の容器の更に別の構成は、複数の前記凹凸の表面粗さRaは3μm以上100μm未満の範囲である。
【0009】
上記構成によれば、内部表面に形成された複数の凹凸の表面粗さRaが3μm以上100μm未満の範囲である容器により撹拌・脱泡処理を行うことで、撹拌・脱泡処理中の被処理物の流れを効果的に乱して被処理物の分散性を高めることができ、且つ、効果的に被処理物が泡立ち難くすることができる。
【0010】
本開示に係る撹拌・脱泡処理用の容器の更に別の構成は、ブラスト処理又は溶射処理又は砥粒付着処理により複数の前記凹凸が形成されている。
【0011】
上記構成によれば、複数の凹凸を、ブラスト処理又は溶射処理又は砥粒付着処理により容器の内部表面に効果的に形成することができる。
【0012】
本開示の一実施形態に係る撹拌・脱泡処理用の容器の製造方法の構成は、前記撹拌・脱泡処理用の容器の内部表面の少なくとも一部に複数の粒子を付着させることにより、又は、前記撹拌・脱泡処理用の容器の内部表面の少なくとも一部を窪ませることにより、前記撹拌・脱泡処理用の容器の内部表面の少なくとも一部に、不規則な形状の複数の凹凸を形成する。
【0013】
上記構成によれば、撹拌・脱泡処理用の容器の内部表面の少なくとも一部に複数の粒子を付着させることにより、又は、撹拌・脱泡処理用の容器の内部表面の少なくとも一部を窪ませることにより、撹拌・脱泡処理用の容器の内部表面の少なくとも一部に、不規則な形状の複数の凹凸を形成することができる。その結果、容器の内部表面の少なくとも一部に形成された不規則な形状の複数の凹凸によって撹拌・脱泡処理中の被処理物の流れの局所的な変化が小さくなるため、空気を巻き込みにくい状況になると考えられる。
従って、被処理物が泡立ち難く且つ被処理物の分散性を高めることができる撹拌・脱泡処理用の容器の製造方法を提供できる。
【0014】
上記目的を達成するための本開示に係る撹拌・脱泡処理装置の構成は、上記撹拌・脱泡処理用の容器と、
前記撹拌・脱泡処理用の容器が搭載される容器ホルダーと、
前記容器ホルダーを自転軸心周りに自転させ且つ前記自転軸心を公転させる駆動機構とを備える。
【0015】
上記構成によれば、撹拌・脱泡処理装置は、収容する被処理物と接触する内部表面の少なくとも一部に不規則な形状の複数の凹凸が形成されている容器を容器ホルダーに搭載し、駆動機構によって容器ホルダーを自転軸心周りに自転させ且つ自転軸心を公転させる。その結果、容器の内部表面の少なくとも一部に形成された不規則な形状の複数の凹凸によって撹拌・脱泡処理中の被処理物の流れの局所的な変化が小さくなるため、空気を巻き込みにくい状況になると考えられる。
従って、被処理物が泡立ち難く且つ被処理物の分散性を高めることができる撹拌・脱泡処理装置を提供できる。
【0016】
本開示に係る撹拌・脱泡処理装置の運転方法の構成は、上記撹拌・脱泡処理用の容器と、前記撹拌・脱泡処理用の容器が搭載される容器ホルダーと、前記容器ホルダーを自転軸心周りに自転させ且つ前記自転軸心を公転させる駆動機構とを備える撹拌・脱泡処理装置において、前記撹拌・脱泡処理用の容器に前記被処理物を収容した状態で、前記撹拌・脱泡処理用の容器を遠心加速度が4G以上1000G以下の範囲で公転させる。
【0017】
上記構成によれば、撹拌・脱泡処理用の容器に被処理物を収容した状態で、撹拌・脱泡処理用の容器を遠心加速度が4G以上1000G以下の範囲で公転させることで、被処理物を容器内部の凹凸に押さえつける力がある程度大きくなり、被処理物の分散性を高めるためのずり応力が確保される。加えて、繊維状の材料や粒子が含まれる被処理物において、それらを解繊や解砕する以上に破断や粉砕してしまうことを防止できる。
従って、被処理物が泡立ち難く且つ被処理物の分散性を高めることができる撹拌・脱泡処理装置の運転方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】撹拌・脱泡処理装置の例を示す構成図である。
【
図2】容器の横断面の形状を模式的に描いた図である。
【
図3】容器の内部表面に形成される凹凸の断面を模式的に描いた図である。
【
図4】容器の内部表面に形成される凹凸の断面を模式的に描いた図である。
【
図5】容器の内部表面に形成される凹凸の断面を模式的に描いた図である。
【
図6】容器の凹凸の形状の測定結果を示す図である。
【
図7】容器の凹凸の形状の測定結果を示す図である。
【
図8】撹拌効果についての評価結果と起泡抑制効果についての評価結果とを示す表である。
【
図9】容器の横断面の形状を模式的に描いた図である。
【
図10】セルロース繊維の解繊試験の結果を示す図である。
【
図11】セラミックス粉末の解砕試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照して実施形態に係る撹拌・脱泡処理装置100及び撹拌・脱泡処理用の容器1について説明する。
図1は、撹拌・脱泡処理装置100の例を示す構成図である。図示するように、撹拌・脱泡処理装置100は、被処理物5を内部に収容する有底筒状の撹拌・脱泡処理用の一つ又は複数の容器1と、一つ又は複数の撹拌・脱泡処理用の容器1が搭載される容器ホルダー106と、容器ホルダー106を自転軸心X1の周りに自転させ且つ自転軸心X1を公転させる駆動機構Dとを備える。一つの容器ホルダー106に一つの容器1が搭載される場合、撹拌・脱泡処理装置100は、回転時のバランスを取るための錘を備えてもよい。
【0020】
図1に示す本実施形態の駆動機構Dは、公転歯車101、回転ドラム102、公転軸103、駆動モータ104、公転テーブル105、容器ホルダー106、自転歯車108、中間歯車109、太陽歯車110、歯車111、歯車112、及び、歯車113を備える。
【0021】
駆動機構Dにおいて、公転歯車101を有する回転ドラム102は、軸受を介して固定軸である公転軸103に対して回転自在に支持されている。駆動モータ104による回転運動が、公転歯車101を介して回転ドラム102に伝達され、回転ドラム102は、公転軸103の公転軸心X2を軸に回転する。公転テーブル105は、回転ドラム102に連結されて固定されており、回転ドラム102と共に回転する。容器ホルダー106は、公転テーブル105に対してその自転軸心X1を軸に回転自在に支持されている。そのため、容器ホルダー106は、公転テーブル105の回転により、公転軸103の公転軸心X2を中心に回転(即ち、公転)する。
【0022】
容器ホルダー106は、自転歯車108を有している。自転歯車108は、軸受を介して公転テーブル105に回転自在に支持されている中間歯車109と噛合する。中間歯車109は、太陽歯車110と噛合する。太陽歯車110は、回転ドラム102の外側に配置されており、回転ドラム102に対して、軸受を介して回転自在に支持されている。
【0023】
太陽歯車110は、歯車111に噛合する。歯車111には、互いに噛合する歯車112及び歯車113を介して、パウダーブレーキ等の制動装置114の制動力が伝達される。
【0024】
太陽歯車110は、制動装置114により加えられる制動力が無い場合(即ち、制動力が0の場合)、回転ドラム102に従動して回転する。
【0025】
制動装置114の制動力が歯車111を介して太陽歯車110に伝達された場合、太陽歯車110の回転速度が回転ドラム102の回転速度に比べて減少し、太陽歯車110の回転速度と回転ドラム102に連結されている公転テーブル105の回転速度との間に差が生じる。その結果、太陽歯車110に対して、中間歯車109が相対的に回転する。中間歯車109は、自転歯車108と噛合するため、自転歯車108が回転し、容器ホルダー106は、自転軸心X1を軸に回転(即ち、自転)する。
【0026】
尚、上記撹拌・脱泡処理装置100は、1つの駆動モータ104により容器ホルダー106を公転及び自転させる構成例を示したが、撹拌・脱泡処理装置100の構成は
図1の例に限定するものではない。例えば、公転用駆動モータと自転用駆動モータを別々に備え、容器ホルダー106を公転及び自転させてもよく、他の構成であってもよい。
【0027】
図1においては、2つの容器1を搭載している。この構成により、2つ以上の複数の容器1を同時に撹拌・脱泡処理を行うことができる。そして、撹拌・脱泡処理装置100の運転方法としては、撹拌・脱泡処理用の容器1と、撹拌・脱泡処理用の容器1が搭載される容器ホルダー106と、容器ホルダー106を自転軸心X1の周りに自転させ且つ自転軸心X1を公転させる駆動機構Dとを備える撹拌・脱泡処理装置100において、撹拌・脱泡処理用の容器1に被処理物5を収容した状態で、撹拌・脱泡処理用の容器1を遠心加速度が4G以上1000G以下の範囲で公転させる。遠心加速度は、23G以上であってもよいし、40G以上であってもよい。遠心加速度は、750G以下であってもよいし、500G以下であってもよい。
【0028】
容器1に収容する被処理物5の質量が200g以上500g未満である場合は、公転の遠心加速度が400G以上1000G以下であることが望ましい。容器1に収容する被処理物5の質量が500g以上1,000g未満である場合は、公転の遠心加速度が200G以上450G以下であることが望ましい。容器1に収容する被処理物5の質量が1,000g以上3,000g未満である場合は、公転の遠心加速度が60G以上250G以下であることが望ましい。容器1に収容する被処理物5の質量が3,000g以上10,000g以下である場合は、公転の遠心加速度が10G以上75G以下であることが望ましい。容器1に収容する被処理物5の質量が10,000g以上30,000g以下である場合は、公転の遠心加速度が4G以上15G以下であることが望ましい。
【0029】
上記遠心加速度となる範囲内で、
図1に記載する公転の回転半径rは、5cm以上60cm以下であってもよく、公転の回転速度は、100rpm以上3500rpm以下であってもよい。例えば、公転の回転半径rが約40cm、公転回転速度が約100rpmである場合、遠心加速度は約4.47Gとなる。また、公転の回転半径rが約14cm、公転回転速度が約2500rpmである場合、遠心加速度は約978.25Gとなる。
【0030】
公転の遠心加速度が4G以上の場合、容器1の内部での被処理物5の姿勢の変化が大きくなり(即ち、重力によって容器1の内部の下方に留まることを低減することができ)、容器1の内部表面の凹凸2との接触面積が大きくなる。また、公転の遠心加速度が4G以上の場合、被処理物5を容器1の内部表面の凹凸2に押さえつける力が大きくなる。これらにより、被処理物5の解砕(即ち、細かい粒子の凝集ほぐす処理)や解繊(即ち、繊維の絡まりをほぐす処理)のためのずり応力が大きくなるため、被処理物5の分散効果が大きくなる。一方、公転の遠心加速度が1000G以下の場合、繊維状の材料や粒子が含まれる被処理物5において破断や粉砕が低減される。また、公転の遠心加速度が1000G以下の場合、比重の高い材料を含む被処理物5であっても分離や再凝集が低減される。これらにより、被処理物5の分散効果が良好となる。また、公転の遠心加速度が1000G以下の場合、構成部品等の強度要求を低減することができ、撹拌・脱泡処理装置100の設置専有面積やコストを低減することができる。
【0031】
撹拌・脱泡処理装置100の容器1の自転の回転速度は、50rpm以上で2000rpm以下であってもよい。自転回転速度が50rpm以上の場合、解砕や解繊のためのずり応力が大きくなるため、被処理物5の分散効果が大きくなる。自転回転速度が2000rpm以下の場合、破断や粉砕が低減される。また、撹拌・脱泡処理装置100の自転回転速度は、公転回転速度に対して0.2倍以上であってもよいし、0.5倍以上であってもよい。撹拌・脱泡処理装置100の自転回転速度は、1.75倍以下であってもよいし、1.5倍以下であってもよい。被処理物5は、液体及び固体の何れを含んでいてもよい。
【0032】
図2は、容器1の横断面の形状を模式的に描いた図である。尚、
図2で描いている凹凸2の形状は例示目的で記載したものであり、実際の形状を忠実に描いたものではない。また、容器1の縦断面を見た場合も同様の凹凸2が形成されている。
容器1は、金属、樹脂などの様々な材料を用いて形成でき、凹凸2も、様々な材料を用いて形成できる。
【0033】
図1及び
図2に示すように、容器1は、被処理物5を内部に収容する有底筒状に形成されている。そして、容器1は、収容する被処理物5と接触する内部表面の少なくとも一部に、不規則な形状の複数の凹凸2が形成されている。尚、本実施形態では、容器1の内部表面全体(即ち、底面及び側面)に凹凸2を形成してある。例えば、ブラスト処理又は溶射処理又は砥粒付着処理により、容器1の内部表面に複数の微細な凹凸2が形成されている。
【0034】
例えば、容器1は、収容する被処理物5と接触する内部表面の少なくとも一部に、複数の凹凸2を構成する複数の凸部3の頂点3a同士の間隔、及び、複数の凹凸2を構成する複数の凹部4の底点4a同士の間隔の少なくとも一方が不規則に形成されている(
図3~5参照)。
【0035】
また、容器1は、収容する被処理物5と接触する内部表面の少なくとも一部に、複数の凹凸2を構成する複数の凸部3の頂点3aの高さ、及び、複数の凹凸2を構成する複数の凹部4の底点4aの深さの少なくとも一方が不規則に形成されている。
【0036】
図3~
図5は、容器1の内部表面に形成される凹凸2の断面を模式的に描いた図である。尚、
図3~
図5で描いている凹凸2の形状は例示目的で記載したものであり、実際の形状を忠実に描いたものではない。
図3~
図5では、容器1の円弧状の内部表面を直線状に表現して描いている。
図3に示す例では、複数の凸部3の頂点3a同士の間隔及び複数の凸部3の高さが不規則に形成されている。
図4に示す例では、複数の凹部4の底点4a同士の間隔及び複数の凹部4の底点4aの深さが不規則に形成されている。
図5に示す例では、複数の凸部3の頂点3a同士の間隔及び複数の凸部3の高さが不規則に形成され、且つ、複数の凹部4の底点4a同士の間隔及び複数の凹部4の底点4aの深さが不規則に形成されている。
【0037】
本実施形態において、例えば、複数の凹凸2の表面粗さ(算術平均粗さ)Raは3μm以上100μm以下の範囲である。複数の凹凸2の表面粗さRaは3μm以上30μm未満であってもよいし、30μm以上100μm未満であってもよい。
【0038】
図6及び
図7は、凹凸2の形状の測定結果を示す図である。具体的には、
図2は、複数の凹凸2の表面粗さRaが16μmの場合の例であり、
図3は、複数の凹凸2の表面粗さRaが38μmの場合の例である。
【0039】
次に、撹拌・脱泡処理用の容器1の製造方法について説明する。
本実施形態では、撹拌・脱泡処理用の容器1の内部表面の少なくとも一部に複数の粒子を付着させることにより、又は、撹拌・脱泡処理用の容器1の内部表面の少なくとも一部を窪ませることにより、撹拌・脱泡処理用の容器1の内部表面の少なくとも一部に、不規則な形状の複数の凹凸2を形成する凹凸形成処理を実施する。
【0040】
例えば、複数の凹凸2を形成する凹凸形成処理の具体例としては、容器1の内部表面に粒体を投射するブラスト処理、容器1の内部表面に、加熱により少なくとも一部が溶融した粒体を吹き付ける溶射処理、容器1の内部表面に、砥粒を付着させる砥粒付着処理などがある。
【0041】
ブラスト処理は、投射する粒体(例えば、研磨剤)により内部表面を窪ませる処理であり、例えば投射する粒体の大きさ、量などを変えることで凹凸2の形状等を変更できる。そして、ブラスト処理の場合は、容器1の内部表面に被膜を形成しなくてもよい。溶射処理の場合は、使用目的に合わせて容器1の材料と溶射材料との選択が可能になり、耐食性及び耐熱性などの機能を付加することも可能になる。溶射材料は、単一材料でもよいし、複数種の材料を組み合わせて用いてもよい。砥粒付着処理の場合は、例えば電着処理などにより、砥粒の種類、砥粒の形状、大きさ、凸部3の存在密度(即ち、砥粒密度)などを設定でき、メッキの種類により耐食性を持たせることもできる。
【0042】
次に、撹拌・脱泡処理用の容器1を用いて被処理物5の撹拌・脱泡処理を行った結果を説明する。尚、以下の説明では、先ず、被処理物5の撹拌・脱泡処理を行った場合の撹拌効果と起泡抑制効果との検証結果の全体を説明した後、個別の検証条件及び検証結果について具体的に説明する。
【0043】
図8は、撹拌効果についての評価結果と起泡抑制効果についての評価結果とを示す表である。具体的には、撹拌効果を検証するために、セルロース繊維の解繊試験及びセラミックス粉末の解砕試験を行い、起泡抑制効果を検証するために、被処理物5への気泡混入試験を行った。
【0044】
各試験は、内部表面の表面粗さRaが「~3μm(3μm未満)」、「3μm~30μm(3μm以上30μm未満)」、「30μm~100μm(30μm以上100μm未満)」、「100μm~1000μm(100μm以上1000μm未満)」、「1000μm~(1000μm以上)」の5種類の容器1を用いて行った。尚、内部表面の表面粗さRaが「1000μm~(1000μm以上)」の容器1は、
図9に示す容器1を用いた。この
図9に示す容器1は、内部表面に自転軸心X1に沿った線状突起(高さ:2mm)を円周にわたって規則的に設けたものであり、表面粗さRa=1000μm以上に相当する。表面粗さRaが3μm未満の容器1の内部表面は、凹凸形成処理はなされておらず、ほぼ平滑である。
【0045】
図8に示すように、セルロース繊維の解繊試験及びセラミックス粉末の解砕試験の結果からは、内部表面の表面粗さRaが30μm以上の容器1が、最も被処理物5の撹拌効果が高いことが分かる。また、内部表面の表面粗さRaが3μm以上の容器1も、被処理物5の撹拌効果が比較的高いことが分かる。
【0046】
また、
図8に示すように、気泡混入試験の結果からは、内部表面の表面粗さRaが30μm未満の容器1が、最も被処理物5の起泡抑制効果が高いことが分かる。また、内部表面の表面粗さRaが100μm未満の容器1も、被処理物5の起泡抑制効果が比較的高いことが分かる。
【0047】
内部表面の凹凸2の表面粗さRaが3μm以上30μm未満である容器1では、起泡性は低いまま、被処理物5に加える摩擦応力が確保されて、被処理物5の分散性は高くなる。また、内部表面の凹凸2の表面粗さRaが30μm以上100μm未満である容器1では、凹凸2が大きくなったことで自転による被処理物5の流れは多少乱れるが、凹凸2が不規則になっているため被処理物5の流れの乱れ方は小さくなる。よって、被処理物5の起泡性を抑制しつつ、容器1の自転による被処理物5の流れが乱されるため被処理物5の分散性は高くなる。
【0048】
それと比較して、内部表面の凹凸2の表面粗さRaが3μm未満の容器1は、容器1の内部表面が平滑であるため起泡性は低いが、被処理物5に対しての摩擦応力が小さくなり、被処理物5の分散性は低くなる。また、内部表面の凹凸2の表面粗さRaが1000μm以上になると、自転による被処理物5の流れの乱れが大きくなり、比較的空気を巻き込みやすく起泡性が高くなる。
【0049】
以上のように、内部表面に形成された複数の凹凸2の表面粗さRaが3μm以上100μm未満の範囲である容器1により撹拌・脱泡処理を行うことで、撹拌・脱泡処理中の被処理物5の流れを効果的に乱して被処理物5の分散性を高めることができ、且つ、効果的に被処理物5が泡立ち難くすることができると言える。
【0050】
次に、
図8の表で示したセルロース繊維の解繊試験及びセラミックス粉末の解砕試験の具体的な条件及び結果、並びに、起泡抑制効果を検証するための気泡混入試験の具体的な条件について説明する。
【0051】
〔撹拌効果〕
(1)セルロース繊維の解繊試験
撹拌・脱泡処理の条件は以下の通りである。
被処理物5:セルロース 2.4g、水 77.6g
公転回転速度:1000rpm
自転回転速度:1000rpm
時間:300秒
【0052】
図10は、セルロース繊維の解繊試験の結果を示す図である。具体的には、上記条件で撹拌・脱泡処理する前後での被処理物5を光学顕微鏡によって観察した結果を示す画像である。撹拌・脱泡処理用の容器1はSUS製である。尚、
図10に示す解繊試験の結果は、内部表面が未処理(凹凸2を形成する加工を行っていない)の容器1(表面粗さRa=0.4μm)、内部表面に溶射処理を行った容器1(表面粗さRa=16μm)、内部表面に砥粒を付着させる処理を行った容器1(表面粗さRa=38μm)を用いて行ったものである。
【0053】
図10から分かるように、撹拌・脱泡処理を行っていない未処理の状態では、セルロース繊維が大きな、又は絡まりあった塊になっている。また、内部表面が未処理の容器1(Ra=0.4μm)を用いて撹拌・脱泡処理を行った場合も、比較的大きく絡まりあったセルロース繊維の塊が残存していた。
【0054】
それと比較して、内部表面に溶射処理を行った容器1(Ra=16μm)、内部表面に砥粒を付着させる処理を行った容器1(Ra=38μm)を用いて撹拌・脱泡処理を行った場合、セルロース繊維の塊は小さく、又はほぐれた状態となっており、セルロース繊維の分散性は高まっていた。
【0055】
(2)セラミックス粉末の解砕試験
撹拌・脱泡処理の条件は以下の通りである。
被処理物5:アルミナ 47.4g、水 28g
公転回転速度:1000rpm
自転回転速度:1000rpm
時間:120秒
【0056】
図11は、セラミックス粉末の解砕試験の結果を示すグラフである。具体的には、上記条件で撹拌・脱泡処理する前後でのセラミックス粉末の粒度分布を示すグラフである。尚、
図11に示す解砕試験の結果は、内部表面が未処理(即ち、凹凸2を形成する加工を行っていない)の樹脂製の容器1(表面粗さRa=3μm未満)、内部表面に溶射処理を行ったSUS製の容器1(表面粗さRa=16μm)を用いて行ったものである。
【0057】
図11から分かるように、撹拌・脱泡処理前の被処理物5には、粒径が1μm以上のアルミナが多数含まれている。そして、上記条件で撹拌・脱泡処理を行った場合、内部表面が未処理の樹脂製の容器1(Ra=3μm未満)、内部表面に溶射処理を行ったSUS製の容器1(Ra=16μm)の何れの場合も、粒径が1μm以上のアルミナが減少し、アルミナの凝集体の解砕が行われていることが分かる。特に、内部表面に溶射処理を行ったSUS製の容器1を用いた場合、粒径が1μm以上のアルミナが非常に少なくなり、粒径が約0.1μm~約0.3μmのアルミナ1次粒子が増加している。つまり、本解砕試験において、内部表面に溶射処理を行ったSUS製の容器1(Ra=16μm)が最も良好な結果であった。
【0058】
〔起泡抑制効果〕
起泡抑制効果を検証するための気泡混入試験における撹拌・脱泡処理の条件は以下の通りである。
被処理物5:粘度調整液(水、CMC(カルボキシメチルセルロース)) 50g
公転回転速度:1000rpm
自転回転速度:1000rpm、1500rpm
時間:300秒
【0059】
<別実施形態>
<1>
上記実施形態では、撹拌・脱泡処理装置100の構成について具体例を挙げて説明したが、その構成は適宜変更可能である。
【0060】
<2>
上記実施形態では、幾つかの材料を被処理物5として例示したが、被処理物5の種類は上述した材料に限定されず、様々な材料を用いることができる。
【0061】
<3>
上記実施形態において、上述したような不規則な形状の凹凸2は、収容する被処理物5と接触する内部表面の少なくとも一部に形成されていることでもよい。例えば、上述したような不規則な形状の凹凸2が、容器1の内部の底面に形成され、容器1の内部の側面には形成されていない形態でもよい。或いは、上述したような不規則な形状の凹凸2が、容器1の内部の側面に形成され、容器1の内部の底面には形成されていない形態でもよい。このように、上述したような不規則な形状の凹凸2を容器1の内部のどこに形成するのかは適宜設計可能である。
【0062】
<4>
上記実施形態において、凹凸2の形状、寸法、間隔などは上述したものに限定されず、適宜設計可能である。
また、凹凸2を形成する際のブラスト処理において、投射する粒体の大きさ、量などは適宜設計可能である。溶射処理において、溶射材料は、単一材料でもよいし、複数種の材料を組み合わせて用いてもよい。砥粒付着処理において、砥粒の種類、砥粒の形状、大きさなどは適宜設計可能である。ダイヤモンド、炭化ケイ素、金属などを砥粒として用いることもできる。
【0063】
<5>
上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用でき、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本開示の実施形態はこれに限定されず、本開示の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変できる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本開示は、被処理物が泡立ち難く且つ被処理物の分散性を高めることができる撹拌・脱泡処理用の容器及びその製造方法、並びに、撹拌・脱泡処理装置及びその運転方法に利用できる。
【符号の説明】
【0065】
1 容器
2 凹凸
3 凸部
3a 頂点
4 凹部
4a 底点
5 被処理物
100 撹拌・脱泡処理装置
106 容器ホルダー
D 駆動機構
X1 自転軸心