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特開2022-69887自動車用外板パネルのプレス成形方法及びプレス成形装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069887
(43)【公開日】2022-05-12
(54)【発明の名称】自動車用外板パネルのプレス成形方法及びプレス成形装置
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/26 20060101AFI20220502BHJP
   B21D 24/00 20060101ALI20220502BHJP
   B21D 24/04 20060101ALI20220502BHJP
   B21D 53/88 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
B21D22/26 D
B21D24/00 F
B21D24/00 G
B21D24/00 H
B21D24/04 Z
B21D53/88 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020178824
(22)【出願日】2020-10-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】岸上 靖廣
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA04
4E137AA07
4E137AA10
4E137AA13
4E137AA15
4E137AA28
4E137BA01
4E137BA02
4E137BA05
4E137BA06
4E137BB01
4E137BC06
4E137BC09
4E137CA09
4E137DA13
4E137EA02
4E137EA04
4E137EA08
4E137EA23
4E137GA01
4E137GA15
4E137GA16
4E137GB02
4E137HA01
4E137HA02
4E137HA04
4E137HA05
(57)【要約】
【課題】線ずれを防止してキャラクタラインを形成する自動車用外板パネルのプレス成形方法及びプレス成形装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る自動車用外板パネルのプレス成形方法は、金属素板101を、キャラクタライン113とパネル面部115及びパネル面部117を有する自動車用外板パネル111にプレス成形するものであって、ダイ5をパンチ3側に相対移動させ、パネル面部117を成形するパンチ側成形面部3cから突出した設けられたパンチ側弾性体9と、パネル面部115を成形するダイ側成形面部5bから突出して設けられたダイ側弾性体11と、を金属素板101に当接させるステップと、パンチ側弾性体9とダイ側弾性体11とを金属素板101に当接させたままダイ5をパンチ3側に成形下死点まで相対移動させ、パンチ側弾性体9及びダイ側弾性体11を押し潰しながら自動車用外板パネル111をプレス成形するステップと、を含む。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パンチと、該パンチに対向するダイと、該ダイの端部に対向するブランクホルダと、を用い、金属素板を、キャラクタラインとその両側に連続するパネル面部とを有する自動車用外板パネルにプレス成形する自動車用外板パネルのプレス成形方法であって、
前記パンチは、前記キャラクタラインを形成する稜線部と、前記パネル面部を成形するパンチ側成形面部と、前記金属素板における前記キャラクタラインに相当するキャラクタライン相当部を挟んだ両側の部位のうちプレス成形過程において張力の大きい側の部位であり、前記キャラクタライン相当部から離れた位置を該キャラクタライン相当部に沿って当接可能となるように、前記パンチ側成形面部よりも前記ダイ側に突出して支持されたパンチ側弾性体と、を有し、
前記ダイは、前記稜線部と協働して前記キャラクタラインを形成する谷線部と、前記パネル面部を成形するダイ側成形面部と、前記金属素板における前記キャラクタライン相当部を挟んだ両側の部位のうちプレス成形過程において張力の小さい側の部位であり、前記キャラクタライン相当部から離れた位置を該キャラクタライン相当部に沿って当接して押圧可能となるように、前記ダイ側成形面部よりも前記パンチ側に突出して支持されたダイ側弾性体と、を有し、
前記ダイと前記ブランクホルダとで前記金属素板の両端部を挟持した状態で前記ダイを前記パンチ側に相対移動させ、前記パンチ側弾性体と前記ダイ側弾性体とをそれぞれ前記金属素板に当接させる弾性体当接ステップと、
前記パンチ側弾性体と前記ダイ側弾性体とを前記金属素板に当接させたまま前記ダイを前記パンチ側に成形下死点まで相対移動させて、前記稜線部と前記谷線部とで前記キャラクタラインが形成された前記自動車用外板パネルをプレス成形するプレス成形ステップと、を含み、
前記パンチ側弾性体の前記パンチ側成形面部からの突出量は、前記弾性体当接ステップにおいて前記パンチの前記稜線部が前記金属素板に当接する前に前記パンチ側弾性体が前記金属素板に当接し、かつ成形下死点において前記パンチ側成形面部と面一となるように設定し、
前記ダイ側弾性体の前記ダイ側成形面部からの突出量は、前記弾性体当接ステップにおいて前記金属素板に前記パンチの前記稜線部が当接して前記金属素板が塑性変形する前に前記ダイ側弾性体が前記金属素板に当接し、かつ、前記プレス成形ステップにおいて前記金属素板を押圧する前記ダイ側弾性体の荷重と該ダイ側弾性体の前記金属素板との摩擦係数との積で与えられる摩擦力が、前記キャラクタライン相当部を挟んで両側の部位に作用する張力の差の絶対値以上となるように設定する、ことを特徴とする自動車用外板パネルのプレス成形方法。
【請求項2】
パンチと、該パンチに対向するダイと、該ダイの端部に対向するブランクホルダと、を用い、金属素板を、キャラクタラインとその両側に連続するパネル面部とを有する自動車用外板パネルにプレス成形する自動車用外板パネルのプレス成形方法であって、
前記パンチは、前記キャラクタラインを形成する稜線部と、前記パネル面部を成形するパンチ側成形面部と、前記金属素板における前記キャラクタラインに相当するキャラクタライン相当部を挟んだ両側の部位のうちプレス成形過程において張力の小さい側の部位であり、前記キャラクタライン相当部から離れた位置を該キャラクタライン相当部に沿って当接可能となるように、前記パンチ側成形面部よりも前記ダイ側に突出して支持されたパンチ側弾性体と、を有し、
前記ダイは、前記稜線部と協働して前記キャラクタラインを形成する谷線部と、前記パネル面部を成形するダイ側成形面部と、前記金属素板における前記キャラクタライン相当部を挟んだ両側の部位のうちプレス成形過程において張力の大きい側の部位であり、前記キャラクタライン相当部から離れた位置を該キャラクタライン相当部に沿って当接して押圧可能となるように、前記ダイ側成形面部よりも前記パンチ側に突出して支持されたダイ側弾性体と、を有し、
前記ダイと前記ブランクホルダとで前記金属素板の両端部を挟持した状態で前記ダイを前記パンチ側に相対移動させ、前記パンチ側弾性体と前記ダイ側弾性体とをそれぞれ前記金属素板に当接させる弾性体当接ステップと、
前記パンチ側弾性体と前記ダイ側弾性体とを前記金属素板に当接させたまま前記ダイを前記パンチ側に成形下死点まで相対移動させて、前記稜線部と前記谷線部とで前記キャラクタラインが形成された前記自動車用外板パネルをプレス成形するプレス成形ステップと、を含み、
前記パンチ側弾性体の前記パンチ側成形面部からの突出量は、前記パンチの前記稜線部が前記金属素板に当接する前に前記パンチ側弾性体が前記金属素板に当接し、かつ成形下死点において前記パンチ側成形面部と面一となるように設定し、
前記ダイ側弾性体の前記ダイ側成形面部からの突出量は、前記弾性体当接ステップにおいて前記金属素板に前記パンチの前記稜線部が当接して前記金属素板が塑性変形する前に前記ダイ側弾性体が前記金属素板に当接し、かつ、前記プレス成形ステップにおいて前記金属素板を押圧する前記ダイ側弾性体の荷重と該ダイ側弾性体の前記金属素板との摩擦係数との積で与えられる摩擦力が、前記キャラクタライン相当部を挟んで両側の部位に作用する張力の差の絶対値以上となるように設定する、ことを特徴とする自動車用外板パネルのプレス成形方法。
【請求項3】
前記パンチ側弾性体は、プレス成形方向に沿って移動可能、かつ、前記パンチ側弾性体を前記ダイ側に加圧して支持するパンチ側可動体を介して前記パンチ側に設けることを特徴とする請求項1又は2に記載の自動車用外板パネルのプレス成形方法。
【請求項4】
前記ダイ側弾性体は、プレス成形方向に沿って移動可能、かつ、前記ダイ側弾性体を前記パンチ側に加圧して支持するダイ側可動体を介して、前記ダイ側に設けることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の自動車用外板パネルのプレス成形方法。
【請求項5】
パンチと、該パンチに対向するダイと、該ダイの端部に対向するブランクホルダと、を用い、金属素板を、キャラクタラインとその両側に連続するパネル面部とを有する自動車用外板パネルにプレス成形する自動車用外板パネルのプレス成形装置であって、
前記パンチは、前記キャラクタラインを形成する稜線部と、前記パネル面部を成形するパンチ側成形面部と、前記金属素板における前記キャラクタラインに相当するキャラクタライン相当部を挟んだ両側の部位のうちプレス成形過程において張力の大きい側の部位であり、前記キャラクタライン相当部から離れた位置を該キャラクタライン相当部に沿って当接可能となるように、前記パンチ側成形面部よりも前記ダイ側に突出して支持されたパンチ側弾性体と、を有し、
前記ダイは、前記稜線部と協働して前記キャラクタラインを形成する谷線部と、前記パネル面部を成形するダイ側成形面部と、前記金属素板における前記キャラクタライン相当部を挟んだ両側の部位のうちプレス成形過程において張力の小さい側の部位であり、前記キャラクタライン相当部から離れた位置を該キャラクタライン相当部に沿って当接して押圧可能となるように、前記ダイ側成形面部よりも前記パンチ側に突出して支持されたダイ側弾性体と、を有し、
前記パンチ側弾性体の前記パンチ側成形面部からの突出量は、前記ダイを前記パンチ側に相対移動させたときに前記パンチの前記稜線部が前記金属素板に当接する前に前記パンチ側弾性体が前記金属素板に当接し、かつ成形下死点において前記パンチ側成形面部と面一となるように設定され、
前記ダイ側弾性体の前記ダイ側成形面部からの突出量は、前記ダイを前記パンチ側に相対移動させたときに前記金属素板に前記パンチの前記稜線部が当接して前記金属素板が塑性変形する前に前記ダイ側弾性体が前記金属素板に当接し、かつ、前記金属素板を押圧する前記ダイ側弾性体の荷重と該ダイ側弾性体及び前記金属素板の摩擦係数との積で与えられる摩擦力が、前記キャラクタライン相当部を挟んで両側の部位に作用する張力の差の絶対値以上となるように設定されている、ことを特徴とする自動車用外板パネルのプレス成形装置。
【請求項6】
パンチと、該パンチに対向するダイと、該ダイの端部に対向するブランクホルダと、を用い、金属素板を、キャラクタラインとその両側に連続するパネル面部とを有する自動車用外板パネルにプレス成形する自動車用外板パネルのプレス成形装置であって、
前記パンチは、前記キャラクタラインを形成する稜線部と、前記パネル面部を成形するパンチ側成形面部と、前記金属素板における前記キャラクタラインに相当するキャラクタライン相当部を挟んだ両側の部位のうちプレス成形過程において張力の小さい側の部位であり、前記キャラクタライン相当部から離れた位置を該キャラクタライン相当部に沿って当接可能となるように、前記パンチ側成形面部よりも前記ダイ側に突出して支持されたパンチ側弾性体と、を有し、
前記ダイは、前記稜線部と協働して前記キャラクタラインを形成する谷線部と、前記パネル面部を成形するダイ側成形面部と、前記金属素板における前記キャラクタライン相当部を挟んだ両側の部位のうちプレス成形過程において張力の大きい側の部位であり、前記キャラクタライン相当部から離れた位置を該キャラクタライン相当部に沿って当接して押圧可能となるように、前記ダイ側成形面部よりも前記パンチ側に突出して支持されたダイ側弾性体と、を有し、
前記パンチ側弾性体の前記パンチ側成形面部からの突出量は、前記ダイを前記パンチ側に相対移動させたときに前記パンチの前記稜線部が前記金属素板に当接する前に前記パンチ側弾性体が前記金属素板に当接し、かつ成形下死点において前記パンチ側成形面部と面一となるように設定され、
前記ダイ側弾性体の前記ダイ側成形面部からの突出量は、前記ダイを前記パンチ側に相対移動させたときに前記金属素板に前記パンチの前記稜線部が当接して前記金属素板が塑性変形する前に前記ダイ側弾性体が前記金属素板に当接し、かつ、前記金属素板を押圧する前記ダイ側弾性体の荷重と該ダイ側弾性体の前記金属素板との摩擦係数との積で与えられる摩擦力が、前記キャラクタライン相当部を挟んで両側の部位に作用する張力の差の絶対値以上となるように設定されている、ことを特徴とする自動車用外板パネルのプレス成形装置。
【請求項7】
前記パンチ側弾性体は、プレス成形方向に沿って移動可能、かつ、前記パンチ側弾性体を前記ダイ側に加圧して支持するパンチ側可動体を介して前記パンチ側に設けられていることを特徴とする請求項5又は6に記載の自動車用外板パネルのプレス成形装置。
【請求項8】
前記ダイ側弾性体は、プレス成形方向に沿って移動可能、かつ、前記ダイ側弾性体を前記パンチ側に加圧して支持するダイ側可動体を介して前記ダイ側に設けられていることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか一項に記載の自動車用外板パネルのプレス成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属素板をキャラクタラインが形成された自動車用外板パネルにプレス成形する、自動車用外板パネルのプレス成形方法及びプレス成形装置に関する。
なお、本発明において、金属素板とは、熱延鋼板、冷延鋼板、あるいは鋼板に表面処理(電気亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき、有機皮膜処理等)が施された表面処理鋼板をはじめ、ステンレス鋼、アルミニウム、マグネシウム等、各種金属から構成される板のことをいう。
【背景技術】
【0002】
自動車のドアアウタ、フロントフェンダあるいはリアフェンダ等に使用される自動車用外板パネルは、自動車のデザイン性及び張り剛性を高める観点から、その外表面にキャラクタラインが付される場合が多い。キャラクタラインは、通常、プレス金型のパンチに設けられた稜線部に金属素板(ブランク)を押し当て、ダイの谷線部で挟持することによって付与される。特に近年では、自動車のデザイン性のさらなる向上を図るため、シャープな(即ち稜線部の曲率が大きい(曲率半径が小さい))キャラクタラインを付与することが求められるようになってきている。
【0003】
ところで、この種のプレス成形では、キャラクタラインが付与されるべき部位以外の部位にパンチの稜線部が接触して線状模様が発生することがある。このような線状模様は、塗装後にも残留し外板パネルの線ずれ不良と呼ばれる外観不良となる。この線ずれ不良は、シャープなキャラクタラインを付与すべく、断面半径の小さな円弧により稜線部の先端が形成されているパンチを用いてプレス成形を行う場合に特に顕著になることから、自動車のデザイン性向上の阻害要因となっている。
【0004】
このような線状模様の発生を抑制してキャラクタラインを付与する技術がこれまでにいくつか提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ダイスとブランクホルダに意匠凹部の成形補助断面形状を設けてブランクの周縁を挟持することにより該ブランクの中央部をパンチの成形面に沿うように予め曲げ変形させ、その後にパンチで成形して意匠面を形成する方法が開示されている。
特許文献2には、キャラクタラインを成形する線状凸部が設けられたプレス面に吸引口が形成され、該吸引口から気体流路を介して吸引する吸引装置により金属板を前記プレス面に吸着させてプレス加工することにより、金属板の移動を抑制して線ずれを防止する方法が開示されている。
特許文献3には、ポンチ角とクッションパッドにより素材を一次成形加工した後、ポンチを下降させながら絞り成形及び張出し成形を行うことにより、前記ポンチ角が当接した金属素材の部位に生じる線ずれを防止する技術が開示されている。
【0006】
特許文献4には、稜線部を備えたプレス成形品を製造するに際し、中間形状を成形する第1プレス成形工程と、該中間形状をさらに成形する第2プレス成形工程により、線ずれを解消して高品質のプレス成形品を得る技術が開示されている。
特許文献5には、パンチの先端部に弾性体を設け、パンチの初期当たりによる曲げ癖の発生を抑制するとともに、発生した曲げ癖がキャラクターラインから移動することを抑制することで、キャラクターライン成形時における線ずれを抑制する技術が開示されている。
特許文献6には、弾性体からなるダイパッドとパンチの先端部とでブランクにキャラクタラインを成形し、該成形されたキャラクタラインを前記ダイパッドと前記パンチとで拘束したままダイとパンチとでキャラクタライン以外の部位を成形する技術が開示されている。
特許文献7には、キャラクターラインを成形する凸R部を有する下型に板状のワークを押し付け、該ワークが前記凸R部になついた以降に該凸R部の近傍に押圧パッドをワークに当接させて、ワークの滑りを抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5876786号公報
【特許文献2】特開2015-199102号公報
【特許文献3】特公昭63-58652号公報
【特許文献4】特許第5959702号公報
【特許文献5】特開2018-103249号公報
【特許文献6】特開2018-158351号公報
【特許文献7】特開2018-183786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1~特許文献7に開示されている技術には、以下のような課題があった。
【0009】
特許文献1に開示されている技術では、成形補助断面形状を設けたダイスとブランクホルダによる変形はパンチによる拘束が無く、意匠凹部に対応するブランク両端部しか拘束できないため、当該曲げ変形は直線形状に制限されていた。
特許文献2に開示されている技術では、通常のプレス成形では使用されない吸引装置が必要となり、また、吸引口の形状が成形品表面に転写される課題があった。
特許文献3に開示されている技術では、成形途中に部分的に最終製品形状を成形するため、成形未完了部位との間に面ひずみが生じる課題があった。
【0010】
特許文献4に開示されている技術では、中間形状を成形する金型と目標形状を成形する金型とが異なり、金型交換等の工程数が増加して問題であった。
特許文献5に開示されている技術では、稜線部の凸側を弾性体で成形するため、稜線部の形状通りに成形されない課題があった。
特許文献6に開示されている技術では、キャラクタラインを弾性体からなるダイパッドで成形するため、複数のキャラクタラインが近接する場合、該キャラクタラインを目標とする形状どおりに成形することができない課題があった。
特許文献7に開示されている技術では、表面の造形が複雑な場合、押圧パッドをワークに当接させる適切なタイミングが設定できず、押圧パッドによりワークに当て痕が発生する課題があった。
【0011】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、プレス成形の工数を増加させずに線ずれを防止して、目標とするキャラクタラインを形成する自動車用外板パネルのプレス成形方法及びプレス成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明に係る自動車用外板パネルのプレス成形方法は、パンチと、該パンチに対向するダイと、該ダイの端部に対向するブランクホルダと、を用い、金属素板を、キャラクタラインとその両側に連続するパネル面部とを有する自動車用外板パネルにプレス成形するものであって、
前記パンチは、前記キャラクタラインを形成する稜線部と、前記パネル面部を成形するパンチ側成形面部と、前記金属素板における前記キャラクタラインに相当するキャラクタライン相当部を挟んだ両側の部位のうちプレス成形過程において張力の大きい側の部位であり、前記キャラクタライン相当部から離れた位置を該キャラクタライン相当部に沿って当接可能となるように、前記パンチ側成形面部よりも前記ダイ側に突出して支持されたパンチ側弾性体と、を有し、
前記ダイは、前記稜線部と協働して前記キャラクタラインを形成する谷線部と、前記パネル面部を成形するダイ側成形面部と、前記金属素板における前記キャラクタライン相当部を挟んだ両側の部位のうちプレス成形過程において張力の小さい側の部位であり、前記キャラクタライン相当部から離れた位置を該キャラクタライン相当部に沿って当接して押圧可能となるように、前記ダイ側成形面部よりも前記パンチ側に突出して支持されたダイ側弾性体と、を有し、
前記ダイと前記ブランクホルダとで前記金属素板の両端部を挟持した状態で前記ダイを前記パンチ側に相対移動させ、前記パンチ側弾性体と前記ダイ側弾性体とをそれぞれ前記金属素板に当接させる弾性体当接ステップと、
前記パンチ側弾性体と前記ダイ側弾性体とを前記金属素板に当接させたまま前記ダイを前記パンチ側に成形下死点まで相対移動させて、前記稜線部と前記谷線部とで前記キャラクタラインが形成された前記自動車用外板パネルをプレス成形するプレス成形ステップと、を含み、
前記パンチ側弾性体の前記パンチ側成形面部からの突出量は、前記弾性体当接ステップにおいて前記パンチの前記稜線部が前記金属素板に当接する前に前記パンチ側弾性体が前記金属素板に当接し、かつ成形下死点において前記パンチ側成形面部と面一となるように設定し、
前記ダイ側弾性体の前記ダイ側成形面部からの突出量は、前記弾性体当接ステップにおいて前記金属素板に前記パンチの前記稜線部が当接して前記金属素板が塑性変形する前に前記ダイ側弾性体が前記金属素板に当接し、かつ、前記プレス成形ステップにおいて前記金属素板を押圧する前記ダイ側弾性体の荷重と該ダイ側弾性体の前記金属素板との摩擦係数との積で与えられる摩擦力が、前記キャラクタライン相当部を挟んで両側の部位に作用する張力の差の絶対値以上となるように設定する、ことを特徴とするものである。
【0013】
(2)本発明に係る自動車用外板パネルのプレス成形方法は、パンチと、該パンチに対向するダイと、該ダイの端部に対向するブランクホルダと、を用い、金属素板を、キャラクタラインとその両側に連続するパネル面部とを有する自動車用外板パネルにプレス成形するものであって、
前記パンチは、前記キャラクタラインを形成する稜線部と、前記パネル面部を成形するパンチ側成形面部と、前記金属素板における前記キャラクタラインに相当するキャラクタライン相当部を挟んだ両側の部位のうちプレス成形過程において張力の小さい側の部位であり、前記キャラクタライン相当部から離れた位置を該キャラクタライン相当部に沿って当接可能となるように、前記パンチ側成形面部よりも前記ダイ側に突出して支持されたパンチ側弾性体と、を有し、
前記ダイは、前記稜線部と協働して前記キャラクタラインを形成する谷線部と、前記パネル面部を成形するダイ側成形面部と、前記金属素板における前記キャラクタライン相当部を挟んだ両側の部位のうちプレス成形過程において張力の大きい側の部位であり、前記キャラクタライン相当部から離れた位置を該キャラクタライン相当部に沿って当接して押圧可能となるように、前記ダイ側成形面部よりも前記パンチ側に突出して支持されたダイ側弾性体と、を有し、
前記ダイと前記ブランクホルダとで前記金属素板の両端部を挟持した状態で前記ダイを前記パンチ側に相対移動させ、前記パンチ側弾性体と前記ダイ側弾性体とをそれぞれ前記金属素板に当接させる弾性体当接ステップと、
前記パンチ側弾性体と前記ダイ側弾性体とを前記金属素板に当接させたまま前記ダイを前記パンチ側に成形下死点まで相対移動させて、前記稜線部と前記谷線部とで前記キャラクタラインが形成された前記自動車用外板パネルをプレス成形するプレス成形ステップと、を含み、
前記パンチ側弾性体の前記パンチ側成形面部からの突出量は、前記パンチの前記稜線部が前記金属素板に当接する前に前記パンチ側弾性体が前記金属素板に当接し、かつ成形下死点において前記パンチ側成形面部と面一となるように設定し、
前記ダイ側弾性体の前記ダイ側成形面部からの突出量は、前記弾性体当接ステップにおいて前記金属素板に前記パンチの前記稜線部が当接して前記金属素板が塑性変形する前に前記ダイ側弾性体が前記金属素板に当接し、かつ、前記プレス成形ステップにおいて前記金属素板を押圧する前記ダイ側弾性体の荷重と該ダイ側弾性体の前記金属素板との摩擦係数との積で与えられる摩擦力が、前記キャラクタライン相当部を挟んで両側の部位に作用する張力の差の絶対値以上となるように設定する、ことを特徴とするものである。
【0014】
(3)上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、
前記パンチ側弾性体は、プレス成形方向に沿って移動可能、かつ、前記パンチ側弾性体を前記ダイ側に加圧して支持するパンチ側可動体を介して、前記パンチ側に設けることを特徴とするものである。
【0015】
(4)上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、
前記ダイ側弾性体は、プレス成形方向に沿って移動可能、かつ、前記ダイ側弾性体を前記パンチ側に加圧して支持するダイ側可動体を介して前記ダイ側に設けることを特徴とするものである。
【0016】
(5)本発明に係る自動車用外板パネルのプレス成形装置は、パンチと、該パンチに対向するダイと、該ダイの端部に対向するブランクホルダと、を用い、金属素板を、キャラクタラインとその両側に連続するパネル面部とを有する自動車用外板パネルにプレス成形するものであって、
前記パンチは、前記キャラクタラインを形成する稜線部と、前記パネル面部を成形するパンチ側成形面部と、前記金属素板における前記キャラクタラインに相当するキャラクタライン相当部を挟んだ両側の部位のうちプレス成形過程において張力の大きい側の部位であり、前記キャラクタライン相当部から離れた位置を該キャラクタライン相当部に沿って当接可能となるように、前記パンチ側成形面部よりも前記ダイ側に突出して支持されたパンチ側弾性体と、を有し、
前記ダイは、前記稜線部と協働して前記キャラクタラインを形成する谷線部と、前記パネル面部を成形するダイ側成形面部と、前記金属素板における前記キャラクタライン相当部を挟んだ両側の部位のうちプレス成形過程において張力の小さい側の部位であり、前記キャラクタライン相当部から離れた位置を該キャラクタライン相当部に沿って当接して押圧可能となるように、前記ダイ側成形面部よりも前記パンチ側に突出して支持されたダイ側弾性体と、を有し、
前記パンチ側弾性体の前記パンチ側成形面部からの突出量は、前記ダイを前記パンチ側に相対移動させたときに前記パンチの前記稜線部が前記金属素板に当接する前に前記パンチ側弾性体が前記金属素板に当接し、かつ成形下死点において前記パンチ側成形面部と面一となるように設定され、
前記ダイ側弾性体の前記ダイ側成形面部からの突出量は、前記ダイを前記パンチ側に相対移動させたときに前記金属素板に前記パンチの前記稜線部が当接して前記金属素板が塑性変形する前に前記ダイ側弾性体が前記金属素板に当接し、かつ、前記金属素板を押圧する前記ダイ側弾性体の荷重と該ダイ側弾性体及び前記金属素板の摩擦係数との積で与えられる摩擦力が、前記キャラクタライン相当部を挟んで両側の部位に作用する張力の差の絶対値以上となるように設定されている、ことを特徴とするものである。
【0017】
(6)本発明に係る自動車用外板パネルのプレス成形装置は、パンチと、該パンチに対向するダイと、該ダイの端部に対向するブランクホルダと、を用い、金属素板を、キャラクタラインとその両側に連続するパネル面部とを有する自動車用外板パネルにプレス成形するものであって、
前記パンチは、前記キャラクタラインを形成する稜線部と、前記パネル面部を成形するパンチ側成形面部と、前記金属素板における前記キャラクタラインに相当するキャラクタライン相当部を挟んだ両側の部位のうちプレス成形過程において張力の小さい側の部位であり、前記キャラクタライン相当部から離れた位置を該キャラクタライン相当部に沿って当接可能となるように、前記パンチ側成形面部よりも前記ダイ側に突出して支持されたパンチ側弾性体と、を有し、
前記ダイは、前記稜線部と協働して前記キャラクタラインを形成する谷線部と、前記パネル面部を成形するダイ側成形面部と、前記金属素板における前記キャラクタライン相当部を挟んだ両側の部位のうちプレス成形過程において張力の大きい側の部位であり、前記キャラクタライン相当部から離れた位置を該キャラクタライン相当部に沿って当接して押圧可能となるように、前記ダイ側成形面部よりも前記パンチ側に突出して支持されたダイ側弾性体と、を有し、
前記パンチ側弾性体の前記パンチ側成形面部からの突出量は、前記ダイを前記パンチ側に相対移動させたときに前記パンチの前記稜線部が前記金属素板に当接する前に前記パンチ側弾性体が前記金属素板に当接し、かつ成形下死点において前記パンチ側成形面部と面一となるように設定され、
前記ダイ側弾性体の前記ダイ側成形面部からの突出量は、前記ダイを前記パンチ側に相対移動させたときに前記金属素板に前記パンチの前記稜線部が当接して前記金属素板が塑性変形する前に前記ダイ側弾性体が前記金属素板に当接し、かつ、前記金属素板を押圧する前記ダイ側弾性体の荷重と該ダイ側弾性体の前記金属素板との摩擦係数との積で与えられる摩擦力が、前記キャラクタライン相当部を挟んで両側の部位に作用する張力の差の絶対値以上となるように設定されている、ことを特徴とするものである。
【0018】
(7)上記(5)又は(6)に記載のものにおいて、
前記パンチ側弾性体は、プレス成形方向に沿って移動可能、かつ、前記パンチ側弾性体を前記ダイ側に加圧して支持するパンチ側可動体を介して前記パンチ側に設けられていることを特徴とするものである。
【0019】
(8)上記(5)乃至(7)のいずれかに記載のものにおいて、
前記ダイ側弾性体は、プレス成形方向に沿って移動可能、かつ、前記ダイ側弾性体を前記パンチ側に加圧して支持するダイ側可動体を介して前記ダイ側に設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、稜線部を有するパンチと、該パンチに対向して谷線部を有するダイと、該ダイの端部に対向するブランクホルダと、を用い、金属素板を、前記稜線部と前記谷線部とで形成されたキャラクタラインとその両側に連続するパネル面部とを有する自動車用外板パネルにプレス成形する過程において、パンチ側成形面部から突出させたパンチ側弾性体を金属素板におけるキャラクタライン相当部から離れた位置に当接させて支持することでパンチの稜線部による金属素板の初期曲げ痕の発生を防止することができ、かつ、ダイ側成形面部から突出させたダイ側弾性体をパンチ側弾性体と反対側であってキャラクタライン相当部から離れた位置に当接させて押圧することにより、キャラクタライン相当部を挟んで金属素板の両側に作用する張力差に比べ、ダイ側成形面部から突出させて押し潰されたダイ側弾性体と金属素板との摩擦力を大きくすることで前記張力差による前記金属素板の移動を防止することができ、線ずれを低減してキャラクタラインが形成された自動車用外板パネルをプレス成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施の形態1に係る自動車用外板パネルのプレス成形方法及びプレス成形装置の構成を説明する図である。
図2】本発明の実施の形態1に係る自動車用外板パネルのプレス成形方法及びプレス成形装置によるプレス成形過程おいて、押し潰されたダイ側弾性体により金属素板を押圧する荷重Pと、金属素板に生じる張力F1及びF2とを説明する図である。
図3】本発明の実施の形態1の他の態様に係る自動車用外板パネルのプレス成形方法及びプレス成形装置の構成を説明する図である。
図4】本発明の実施の形態2に係る自動車用外板パネルのプレス成形方法及びプレス成形装置の構成を説明する図である。
図5】本発明の実施の形態2の他の態様に係る自動車用外板パネルのプレス成形方法及びプレス成形装置の構成を説明する図である。
図6】実施例において成形対象とした外板パネルと、外板パネルのパネル面部の形状と線ずれを評価する際の配置を説明する図である。
図7】実施例において、プレス成形解析により求められた外板パネルの断面形状の結果を示す図である。
図8】実施例において、プレス成形解析により求められた外板パネルの面ひずみの評価値Δsの結果を示す図である。
図9】従来の自動車用外板パネルのプレス成形方法及びプレス成形装置の動作と、プレス成形過程において生じる線ずれを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態1及び実施の形態2に係る自動車用外板パネルのプレス成形方法及びプレス成形装置を説明するに先立ち、キャラクタラインを有する自動車用外板パネルのプレス成形において生じる線ずれについて説明する。
【0023】
<線ずれが生じる理由>
本発明で対象とする自動車用外板パネル111は、一例として図9(d)に示すように、キャラクタライン113とその両側に連続するパネル面部115及びパネル面部117とを有するものであり、紙面表裏方向に延在する稜線部53aを有するパンチ53と、紙面表裏方向に延在する谷線部55aを有するダイ55と、ダイ55の両端部に対向するブランクホルダ57と、を備えたプレス成形装置51を用いて、以下のように絞り成形される。
【0024】
まず、図9(a)に示すように、金属素板101の端部101a及び端部101bそれぞれをダイ55とブランクホルダ57で挟持する。そして、金属素板101を挟持した状態のまま、図9(a)~(d)に示すように、ダイ55及びブランクホルダ57をパンチ53側に成形下死点まで相対移動させ、パンチ53の稜線部53aとダイ55の谷線部55aとでキャラクタライン113が形成された自動車用外板パネル111をプレス成形する。
【0025】
このプレス成形過程においてダイ55をパンチ53側に相対移動させると、まず、パンチ53の稜線部53aが金属素板101に当接し、金属素板101に初期曲げが発生する(図9(b))。そして、ダイ55とパンチ53とにより絞り成形が進行する過程において、金属素板101には初期曲げ痕を境として端部101a側と端部101b側のそれぞれに向かう方向に張力が発生する(図9(b)、(c))。
【0026】
このような金属素板101に発生する張力は、初期曲げ痕から端部101a及び端部101bまでのそれぞれの距離やプレス成形方向に対するパネル面部115及びパネル面部117(図9(d))の角度、又は、これらによる稜線部53aから端部101a及び端部101bまでの成形方向深さ等の違いにより、初期曲げ痕を境として差が生じる。
【0027】
例えば、パンチ53の稜線部53aからプレス成形方向に引いた線を基準としてパネル面部115との鋭角をθa、パネル面部117との鋭角をθbとし、パネル面部117の角度θbがパネル面部115の角度θaに比べて小さい場合(図9(d)参照)、プレス成形過程においては金属素板101における端部101a側(部位105)に生じる張力に比べて端部101b側(部位107)に生じる張力の方が大きくなる(図9(b)、(c))。
【0028】
そして、このように初期曲げ痕を境として張力差が生じると、金属素板101においては張力の大きい側への滑りが生じ、初期曲げ痕は張力の大きい端部101b側へとずれる(図9(c))。そして、初期曲げ痕は、成形下死点においてパンチ53とダイ55とにより潰されて、線状の模様、すなわち線ずれが発生する(図9(d))。
【0029】
このように、キャラクタライン113が形成された自動車用外板パネル111における線ずれは、その絞り成形過程において金属素板101に生じる張力の不均衡が発生要因となる。そして、張力の不均衡が発生する要因としては、前述のように、パンチ53の稜線部53aが当接する部位から金属素板101の端部101a及び端部101bまでのそれぞれの距離や角度の違いを原因とする金属素板101の端部101a及び端部101bにおける成形深さの違いが挙げられる。
【0030】
すなわち、金属素板101の端部101a側と端部101b側とで成形深さが違う場合、絞り成形過程において成形深さが大きい端部101b側に生じる張力の方が大きくなり、成形深さが小さい端部101a側との張力差により金属素板101が端部101b側に滑り、線ずれが発生する。
【0031】
次に、本発明の実施の形態1及び実施の形態2に係る自動車用外板パネルのプレス成形方法及びプレス成形装置について説明する。なお、以下の説明においては、同一又は対応する機能を有する構成要素については同一の符号を付し、重複する説明を避けることとした。
【0032】
[実施の形態1]
<プレス成形装置>
本実施の形態1に係る自動車用外板パネルのプレス成形装置1(以下、単に「プレス成形装置1」という)は、一例として図1に示すように、金属素板101を、キャラクタライン113とその両側に連続するパネル面部115及びパネル面部117を有する自動車用外板パネルにプレス成形するものであって、パンチ3と、ダイ5と、ブランクホルダ7と、パンチ側弾性体9と、ダイ側弾性体11と、を備えたものである。
【0033】
ここで、図1(a)は成形開始前の状態、(b)はパンチ側弾性体9及びダイ側弾性体11が金属素板101に当接している状態、(c)はパンチ側弾性体9により金属素板101を支持している状態、(d)はダイ側弾性体11により金属素板101を押圧している状態、(e)は成形下死点での状態を示す。
【0034】
また、本実施の形態1で成形対象とする自動車用外板パネル111(図1(e))は、前述の図9に示すように、プレス成形過程において、金属素板101におけるキャラクタライン相当部103を境に端部101a側に生じる張力に比べて端部101b側に生じる張力の方が大きいものとする(図2参照)。
【0035】
≪パンチ≫
パンチ3は、図1に示すように、稜線部3aと、稜線部3aを挟んで両側に位置するパンチ側成形面部3b及びパンチ側成形面部3cと、溝部3dと、を有する。
【0036】
稜線部3aは、キャラクタライン113(図1(e))を形成するものである。
【0037】
パンチ側成形面部3b及びパンチ側成形面部3cは、それぞれ、パネル面部115及びパネル面部117(図1(e))を成形する。
パンチ側成形面部3bは、プレス成形過程において金属素板101に作用する張力が小さい側の部位105をパネル面部115(図1(e))に成形する。
一方、パンチ側成形面部3cは、プレス成形過程において金属素板101に作用する張力が大きい側の部位107をパネル面部117(図1(e))に成形する。
【0038】
溝部3dは、パンチ側成形面部3cに凹状に形成されたものであり、パンチ側弾性体9が設けられる。
【0039】
≪ダイ≫
ダイ5は、図1に示すように、谷線部5aと、谷線部5aを挟んで両側に連続するダイ側成形面部5b及びダイ側成形面部5cと、溝部5dと、を有する。
【0040】
谷線部5aは、パンチ3の稜線部3aと協働してキャラクタライン113を形成する。
【0041】
ダイ側成形面部5bは、パンチ側成形面部3bと協働してパネル面部115を成形し、ダイ側成形面部5cは、パンチ側成形面部3cと協働してパネル面部117を成形する。
【0042】
ダイ側成形面部5bは、プレス成形過程において金属素板101に作用する張力が小さい側の部位105をパネル面部115に成形する。
一方、ダイ側成形面部5cは、プレス成形過程において金属素板101に作用する張力が大きい側の部位107をパネル面部117に成形する。
【0043】
溝部5dは、ダイ側成形面部5bに凹状に形成されたものであり、ダイ側弾性体11が設けられる。
【0044】
≪ブランクホルダ≫
ブランクホルダ7は、図1に示すように、ダイ5の両端部に対向して配置され、ダイ5と協働して金属素板101の端部101a及び端部101bを挟持するものである。
【0045】
≪パンチ側弾性体≫
パンチ側弾性体9は、図1に示すように、金属素板101におけるキャラクタライン113に相当するキャラクタライン相当部103を挟んだ両側の部位105及び部位107のうちプレス成形過程において張力の大きい側の部位107であり、キャラクタライン相当部103から離れた位置をキャラクタライン相当部103に沿って当接可能となるように、パンチ側成形面部3cよりもダイ5側に突出して溝部3dに設置されたものであり、金属素板101に当接するパンチ側当接面部9aを有する。
【0046】
パンチ側弾性体9のパンチ側成形面部3cからの突出量は、ダイ5をパンチ3側に相対移動させた際に、パンチ3の稜線部3aが金属素板101に当接する前にパンチ側弾性体9のパンチ側当接面部9aが金属素板101に当接するように設定されている。
【0047】
そして、パンチ側弾性体9は、成形下死点まではパンチ側成形面部3cよりも突出して金属素板101に当接して支持した状態で稜線部3aによる金属素板101の曲げ形状を緩やかにし、かつ、成形下死点(図1(e))において金型形状(パンチ側成形面部3cの形状)に沿って変形、すなわち、パンチ側当接面部9aがパンチ側成形面部3cと面一になるまで変形(プレス成形方向に収縮)しうる硬さと形状を有するものであればよい。
このようなパンチ側弾性体9の具体的な材料としては、ショア硬さが40~100HSのゴム材料又はウレタン材料が例示できる。
【0048】
≪ダイ側弾性体≫
ダイ側弾性体11は、金属素板101におけるキャラクタライン相当部103を挟んだ両側の部位105及び部位107のうちプレス成形過程において張力の小さい側の部位105であり、キャラクタライン相当部103から離れた位置をキャラクタライン相当部103に沿って当接して押圧可能となるように、ダイ側成形面部5bよりもパンチ3側に突出して設置されたものであり、金属素板101に当接するダイ側当接面部11aを有する。
【0049】
ダイ側弾性体11のダイ側成形面部5bからの突出量は、ダイ5をパンチ3側に相対移動させたときに、金属素板101にパンチ3の稜線部3aが当接して金属素板101が塑性変形する前にダイ側当接面部11aが当接し、かつ、プレス成形過程において押し潰されたダイ側弾性体11の収縮により金属素板101の部位105を押圧する荷重と、ダイ側弾性体11(ダイ側当接面部11a)の金属素板101との摩擦係数と、の積で与えられるダイ側弾性体11と金属素板101との間の摩擦力が、キャラクタライン相当部103を挟んで両側の部位105及び部位107に作用する張力の差の絶対値以上となるように設定されている。
【0050】
稜線部3aによる金属素板101の塑性変形は、例えば、金属素板101における稜線部3aが当接した部位のひずみが下記の式(1)により算出されるひずみε0を超えたときに生じると判断することができる。
ε0=t/2R ・・・ (1)
ここで、Rはキャラクタライン113の曲げの曲率半径、tは金属素板101の板厚である。
【0051】
さらに、ダイ側弾性体11と金属素板101との間の摩擦力は、下記の式(2)を満たすようにする。
【0052】
|F1-F2|≦P×μe ・・・ (2)
【0053】
ここで、F1及びF2は、図2に示すとおり、キャラクタライン相当部103を挟んで両側の部位105及び部位107のそれぞれに作用する張力、Pは、ダイ側弾性体11の収縮により金属素板101を押圧する荷重(図2)、μeは、ダイ側弾性体11と金属素板101との摩擦係数である。
【0054】
荷重Pは、ダイ側当接面部11aがダイ側成形面部5bと面一になるまで押し潰されたときの収縮量により算出されるものとすればよく、ダイ側弾性体11の収縮量は、ダイ側弾性体11のダイ側成形面部5bからの突出量と等しいものとする。
【0055】
摩擦係数μeは、予め摺動試験等により測定すればよい。若しくは、ダイ側弾性体11として後述するようにゴム材料又はウレタン材料を用いた場合、摩擦係数μeは、一般的に、μe=0.1~0.3(潤滑油)、μe≒0.5~0.6(乾燥)であるので、これらの値を用いてもよい。
【0056】
プレス成形過程においてキャラクタライン相当部103を挟んで両側の部位105及び部位107に作用する張力の差(式(2)中のF1-F2)は、予め、実際に自動車用外板パネル111にプレス成形する過程において金属素板101に作用する張力を歪みゲージ等を用いて測定した実験、あるいは、自動車用外板パネル111の有限要素法(FEM)等によるプレス成形解析により求めればよい。
【0057】
なお、ダイ側弾性体11は、成形下死点において金型形状(ダイ側成形面部5bの形状)に沿って変形、すなわち、ダイ側当接面部11aがダイ側成形面部5bと面一になるまで変形(プレス成形方向に収縮)しうる硬さと形状を有するものであればよい。
このようなダイ側弾性体11の具体的な材料としては、ショア硬さが40~100HSのゴム材料又はウレタン材料が例示できる。
【0058】
<プレス成形方法>
本実施の形態1に係る自動車用外板パネルのプレス成形方法は、図1に示すように、パンチ3とダイ5とブランクホルダ7とパンチ側弾性体9とダイ側弾性体11とを備えたプレス成形装置1を用いて、金属素板101を、キャラクタライン113とその両側に連続するパネル面部115及びパネル面部117とを有する自動車用外板パネル111にプレス成形するものであって、弾性体当接ステップと、プレス成形ステップと、を含む。
【0059】
パンチ側弾性体9は、前述のとおり、金属素板101におけるキャラクタライン相当部103を挟んだ両側の部位105及び部位107のうちプレス成形過程において張力の大きい側の部位107であり、キャラクタライン相当部103から離れた位置をキャラクタライン相当部103に沿って当接可能となるようにパンチ側成形面部3cよりもダイ5側に突出して溝部3dを設置する。
【0060】
ダイ側弾性体11は、前述のとおり、金属素板101におけるキャラクタライン相当部103を挟んだ両側の部位105及び部位107のうちプレス成形過程において張力の小さい側の部位105であり、キャラクタライン相当部103から離れた位置をキャラクタライン相当部103に沿って当接して押圧可能となるようにダイ側成形面部5bよりもパンチ3側に突出して溝部5dに設置する。
以下、弾性体当接ステップ及びプレス成形ステップの各ステップについて説明する。
【0061】
≪弾性体当接ステップ≫
弾性体当接ステップは、図1(a)~(b)に示すように、ダイ5とブランクホルダ7とで金属素板101の端部101a及び端部101bを挟持した状態でダイ5をパンチ3側に相対移動させ、パンチ側弾性体9のパンチ側当接面部9aとダイ側弾性体11のダイ側当接面部11aとをそれぞれ金属素板101に当接させるステップである。
【0062】
パンチ側弾性体9のパンチ側成形面部3cからの突出量は、パンチ3の稜線部3aが金属素板101に当接する前にパンチ側当接面部9aが金属素板101に当接し、かつ、成形下死点においてパンチ側当接面部9aがパンチ側成形面部3cと面一となるように設定する。
【0063】
ダイ側弾性体11のダイ側成形面部5bからの突出量は、金属素板101におけるパンチ3の稜線部3aが当接した部位が塑性変形する前にダイ側当接面部11aが金属素板101に当接し、成形下死点においてダイ側当接面部11aがダイ側成形面部5bと面一となるように設定する。
稜線部3aによる金属素板101の塑性変形は、例えば、前述した式(1)を用いて求めたひずみε0により判断することができる。
【0064】
さらに、ダイ側弾性体11の突出量は、前述した式(2)に示すように、弾性体当接ステップの後に続くプレス成形ステップにおいて押し潰されたダイ側弾性体11のプレス成形方向における収縮(変形)による荷重Pと、ダイ側弾性体11及び金属素板101の摩擦係数μeとの積で与えられる摩擦力が、金属素板101におけるキャラクタライン相当部103を挟んで端部101a及び端部101b側のそれぞれに作用する張力F1及びF2の差の絶対値|F1-F2|以上となるように設定する。
ここで、荷重P、摩擦係数μe及び張力の差の絶対値|F1-F2|は、前述した式(2)を満たすようにすればよい。
【0065】
≪プレス成形ステップ≫
プレス成形ステップは、図1(b)~(e)に示すように、パンチ側当接面部9aとダイ側当接面部11aとを金属素板101に当接させたままダイ5をパンチ3側に成形下死点まで相対移動させて、稜線部3aと谷線部5aとでキャラクタライン113が形成された自動車用外板パネル111をプレス成形するステップである。
【0066】
<線ずれが防止される理由>
本実施の形態1に係る自動車用外板パネルのプレス成形方法及びプレス成形装置により、線ずれを防止して自動車用外板パネル111をプレス成形することができる理由を、図1及び図2に基づいて以下に説明する。
【0067】
まず、ダイ5がパンチ3側に相対移動し、パンチ3の稜線部3aに先行してパンチ側弾性体9のパンチ側当接面部9aが金属素板101における部位107のパンチ3側に当接し、さらに、ダイ側弾性体11のダイ側当接面部11aが部位105のダイ5側に当接する(図1(a)~(b))。
【0068】
続いて、ダイ5をパンチ3側にさらに相対移動させると、パンチ側弾性体9が部位107に当接しながら変形して部位107を支持することにより、金属素板101においてはキャラクタライン相当部103から部位107にかけて徐々に曲げ変形して緩やかな形状となる(図1(c))。そのため、金属素板101に稜線部3aが当接したとしても、当該当接した部位が塑性変形した初期曲げ痕の発生(図9参照)を防止することができる。
【0069】
その上、ダイ5をパンチ3側にさらに相対移動させる過程においては、ダイ側弾性体11が部位105に当接して変形し、部位105をパンチ側成形面部3bに押圧する(図1(d))。
【0070】
このとき、パンチ3の稜線部3aが金属素板101に当接すると、金属素板101においてはキャラクタライン相当部103を境界として端部101a及び端部101bのそれぞれに向かう方向に張力F1及びF2が発生する(図2)。この端部101a側の張力F1と端部101b側の張力F2との間には差があるため、金属素板101においては張力の小さい端部101a側から大きい端部101b側への滑りが生じるおそれがある(図9参照)。
【0071】
しかしながら、張力の小さい側の部位105に当接して押し潰されたダイ側弾性体11と金属素板101との摩擦により、張力の大きい端部101b側への金属素板101の滑りを防ぎ、稜線部3aにより塑性変形したキャラクタライン相当部103のずれを防ぐことができる(図1(d))。
【0072】
このように、パンチ側弾性体9によりキャラクタライン相当部103から部位107にかけて曲げ変形を緩和し、かつ、ダイ側弾性体11により金属素板101が張力の大きい端部101b側に滑るのを防いで、ダイ5を成形下死点まで相対移動させることができる(図1(d)~(e))。
【0073】
そして、成形下死点において、パンチ3の稜線部3aとダイ5の谷線部5aによりキャラクタライン113が形成され、パンチ側弾性体9のパンチ側当接面部9aがパンチ側成形面部3cと面一に変形してパネル面部117が成形され、ダイ側弾性体11のダイ側当接面部11aがダイ側成形面部5bと面一に変形してパネル面部115が成形される(図1(e))。
【0074】
その結果、線ずれを防止してキャラクタライン113が形成された自動車用外板パネル111をプレス成形することができる。
【0075】
<他の態様>
上述の本発明の実施の形態1に係る自動車用外板パネルのプレス成形方法及びプレス成形装置においては、図1に示したように、パンチ側弾性体9は、溝部3dの底部に支持されたものであり、ダイ側弾性体11は、溝部5dの底部に支持されたものであった。
【0076】
もっとも、本実施の形態1の他の態様として、図3に一例として示すプレス成形装置21のように、パンチ側弾性体9は、パンチ側可動体23を介して溝部3dに設けられ、ダイ側弾性体11は、ダイ側可動体25を介して溝部5dに設けられたものであってもよい。
【0077】
ここで、図3(a)は成形開始前の状態、(b)はパンチ側弾性体9及びダイ側弾性体11が金属素板101に当接している状態、(c)はパンチ側弾性体9により金属素板101を支持している状態、(d)はダイ側弾性体11により金属素板101を押圧している状態、(e)は成形下死点での状態を示す。なお、図3において、プレス成形装置21を構成する各部について、図1に示すプレス成形装置1と同一及び対応する部分には図1に付したものと同一の符号を付している。
【0078】
パンチ側可動体23は、図3に示すように、パンチ側弾性体9をダイ5側に加圧して支持するものであり、パンチ側弾性体9が取り付けられてプレス成形方向に沿って移動可能なパッド23aと、パッド23aに圧力を作用させる圧力源23bと、を備えてなる。ここで、圧力源23bとしては、空気圧や油圧、ウレタン等が例示できる。
【0079】
そして、パンチ側可動体23は、図3(b)~(e)に示すプレス成形過程において押し潰されたパンチ側弾性体9が溝部3dの底部側に押し戻され、成形下死点においては、図3(e)に示すように、押し潰されて変形(収縮)したパンチ側弾性体9のパンチ側当接面部9aがパンチ側成形面部3cと面一になるように、パンチ側弾性体9をダイ5側に加圧する圧力源23bの圧力が設定されている。
【0080】
ここで、パンチ側可動体23により支持されたパンチ側弾性体9のパンチ側成形面部3cからの突出量は、前述した実施の形態1と同様に設定されている。
【0081】
ダイ側可動体25は、図3に示すように、ダイ側弾性体11をパンチ3側に加圧して支持するものであり、ダイ側弾性体11が取付られてプレス成形方向に沿って移動可能なパッド25aと、パッド25aに圧力を作用させる圧力源25bと、を備えてなる。ここで、圧力源25bとしては、空気圧や油圧、ウレタン等が例示できる。
【0082】
そして、ダイ側可動体25は、図3(b)~(e)に示すプレス成形過程において押し潰されたダイ側弾性体11が溝部5dの底部側に押し戻され、成形下死点においては、図3(e)に示すように、押し潰されて変形(収縮)したダイ側弾性体11のダイ側当接面部11aがダイ側成形面部5bと面一になるように、ダイ側弾性体11をパンチ3側に加圧する圧力源25bの圧力が設定されている。
【0083】
ここで、ダイ側可動体25により支持されたダイ側弾性体11のダイ側成形面部5bからの突出量は、前述した式(2)に示すように、ダイ側弾性体11と金属素板101との摩擦力(荷重Pと摩擦係数μeとの積)が、キャラクタライン相当部103を挟んで両側に作用する張力の差の絶対値(|F1-F2|)以上となるように設定されている。なお、荷重Pは、押し潰されたダイ側弾性体11の収縮による荷重とする。
【0084】
本実施の形態1の他の態様に係る自動車用外板パネルのプレス成形方法及びプレス成形装置の作用効果は以下のとおりである。
【0085】
本実施の形態1の他の態様において、パンチ側弾性体9は、図3に示すように、パンチ側可動体23の圧力源23bによりダイ5側に加圧されて支持されている。そのため、図3(b)~(d)に示すように、ダイ5のパンチ3側への相対移動によりパンチ側弾性体9が変形(収縮)しても、パンチ側弾性体9をダイ5側に加圧したまま金属素板101に当接させて支持することができる。
【0086】
これにより、前述した本実施の形態1(図1参照)と比較すると、パンチ側弾性体9の材質や形状・寸法の変更に加えてパンチ側弾性体9を支持する圧力源23bの圧力を調整することで、金属素板101における稜線部3aとパンチ側弾性体9のパンチ側当接面部9aとが当接する部位の曲げ変形を緩やかな形状として、稜線部3aによる初期曲げ痕の発生を防ぐための自由度を増してプレス成形することが可能となる。
【0087】
さらに、本実施の形態1の他の態様において、ダイ側弾性体11は、図3に示すように、ダイ側可動体25の圧力源25bによりパンチ3側に加圧されて支持されている。そのため、ダイ側弾性体11と金属素板101との間に十分な摩擦力が得られない場合や、ダイ側弾性体11の収縮により金属素板101を押圧する荷重が十分に大きくなる前に金属素板101における張力差(F1-F2)が大きくなる場合等であっても、圧力源25bによりダイ側弾性体11が取り付けられたパッド25aにさらに荷重を作用させることで、金属素板101が滑るのを防ぐために金属素板101を押圧するダイ側弾性体11の荷重を調整する自由度が増す。
【0088】
以上、本実施の形態1の他の態様に係る自動車用外板パネルのプレス成形方法及びプレス成形装置においても、線ずれをより効果的に防いでキャラクタライン113を形成した自動車用外板パネル111にプレス成形することができる。
【0089】
本実施の形態1及び他の態様において、ダイ側弾性体11により金属素板101を押圧する位置について、前述したように(図1及び図3参照)、部位105におけるキャラクタライン相当部103から離れた位置をキャラクタライン相当部103に沿ってダイ側弾性体11が当接して押圧するようにしている。
【0090】
そして、溝部5dは、キャラクタライン相当部103から離れた位置であって、比較的平坦で応力の高くないパネル面部115を成形するダイ側成形面部5bにある。そのため、特許文献7に記載された技術のように、キャラクタライン相当部103近傍に溝部5dを設けた場合に溝部5dの角がキャラクタライン相当部103近傍に当接して線状疵を発生させる問題はない。
【0091】
なお、ダイ側弾性体11を収納する溝部5dは、溝部5dのキャラクタライン相当部103側の角が、谷線部5aからダイ側成形面部5bの幅の10%以上の距離を離れるようにするとよい。
【0092】
同様に、本実施の形態1及び他の態様において、パンチ側弾性体9により金属素板101を押圧する位置は、前述したように、部位107におけるキャラクタライン相当部103から離れた位置(図1及び図3参照)をキャラクタライン相当部103に沿ってパンチ側弾性体9を当接させるようにしている。
【0093】
この点、特許文献7に記載された技術のように、キャラクタライン相当部103近傍にパンチ側弾性体9を設置すると、当該近傍はキャラクタライン113が成形される応力の高い位置であるため、溝部3dの角がキャラクタライン相当部103近傍に当接して線状疵を発生させやすい。
【0094】
これに対して本実施の形態1及び他の態様では、図1及び図3に示すように、溝部3dはキャラクタライン相当部103から離れた位置であり、比較的平坦で応力の高くないパネル面部117を成形するパンチ側成形面部3bにある。そのため、特許文献6に記載の技術のようにキャラクタライン相当部103近傍に溝部3dを設けた場合の上記の線状疵を発生させる問題はない。
【0095】
なお、パンチ側弾性体9を収納する溝部3dは、溝部3dのキャラクタライン相当部103側の角が、稜線部3aからパンチ側成形面部3cの幅の10%以上の距離を離れるようにするとよい。
【0096】
さらに、本実施の形態1及び他の態様により、図1及び図3に示すように金属素板101を自動車用外板パネル111にプレス成形するに際して、パンチ側弾性体9とダイ側弾性体11とを金属素板101に当接させる順序については、特に制限はない。
【0097】
具体的には、パンチ3の稜線部3aが金属素板101に当接する前にパンチ側弾性体9が金属素板101に当接するようにパンチ側弾性体9の突出量が設定され、かつ、パンチ3の稜線部3aが金属素板101に当接して塑性変形する前にダイ側弾性体11が金属素板101に当接するようにダイ側弾性体11の突出量が設定されていれば、パンチ側弾性体9が先に当接、ダイ側弾性体11が先に当接、又は、パンチ側弾性体9とダイ側弾性体11とが同時に当接、のいずれであってもよい。
【0098】
[実施の形態2]
前述した本発明の実施の形態1は、図1に示すように、金属素板101を自動車用外板パネル111にプレス成形する過程において、キャラクタライン相当部103を挟んで張力の大きい側の部位107にパンチ側弾性体9を当接させて支持し、張力の小さい側の部位105にダイ側弾性体11を当接させて押圧するものであった。
【0099】
これに対して、本発明の実施の形態2に係る自動車用外板パネルのプレス成形装置及びプレス成形方法は、図4に一例として示すプレス成形装置31のように、金属素板101を自動車用外板パネル111にプレス成形する過程において、金属素板101における張力の小さい側の部位105にパンチ側弾性体9を当接させて支持し、金属素板101における張力の大きい側の部位107にダイ側弾性体11を当接させて押圧するものである。
【0100】
ここで、図4(a)は成形開始前の状態、(b)はパンチ側弾性体9及びダイ側弾性体11が金属素板101に当接している状態、(c)はパンチ側弾性体9により金属素板101を支持している状態、(d)はダイ側弾性体11により金属素板101を押圧している状態、(e)は成形下死点での状態を示す。なお、図4において、プレス成形装置31を構成する各部について、図1に示すプレス成形装置1と同一及び対応する部分には図1に付したものと同一の符号を付している。
【0101】
パンチ側弾性体9は、図4に示すように、部位105におけるキャラクタライン相当部103から離れた位置をキャラクタライン相当部103に沿って当接可能となるように、パンチ側成形面部3bよりもダイ5側に突出して溝部3dに設置されたものである。
【0102】
ダイ側弾性体11は、図4に示すように、部位107におけるキャラクタライン相当部103から離れた位置をキャラクタライン相当部103に沿って当接して押圧可能となるように、ダイ側成形面部5cよりもパンチ3側に突出して溝部5dに設置されたものである。
【0103】
パンチ側弾性体9のパンチ側成形面部3bからの突出量、及び、ダイ側弾性体11のダイ側成形面部5cからの突出量は、それぞれ、前述した実施の形態1と同様に設定されている。
【0104】
そして、本実施の形態2に係る自動車用外板パネルのプレス成形方法は、図1に示した実施の形態1と同様、図4に示すように、パンチ3とダイ5とブランクホルダ7とパンチ側弾性体9とダイ側弾性体11とを備えたプレス成形装置31を用いて、金属素板101を、キャラクタライン113とその両側に連続するパネル面部115及びパネル面部117とを有する自動車用外板パネル111にプレス成形するものであって、弾性体当接ステップと、プレス成形ステップと、を含む。
【0105】
弾性体当接ステップは、図4(a)~(b)に示すように、ダイ5とブランクホルダ7とで金属素板101の両側の端部101a及び端部101bを挟持した状態でダイ5をパンチ3側に相対移動させ、パンチ側弾性体9のパンチ側当接面部9aとダイ側弾性体11のダイ側当接面部11aとをそれぞれ金属素板101に当接させるステップである。
【0106】
プレス成形ステップは、図4(b)~(e)に示すように、パンチ側当接面部9aとダイ側当接面部11aとを金属素板101に当接させたままダイ5をパンチ3側に成形下死点まで相対移動させて、稜線部3aと谷線部5aとでキャラクタライン113が形成された自動車用外板パネル111をプレス成形するステップである。
【0107】
<線ずれが防止される理由>
本実施の形態2に係る自動車用外板パネルのプレス成形方法及びプレス成形装置により、線ずれを防止して自動車用外板パネル111をプレス成形することができる理由を、主に図4に基づいて以下に説明する。
【0108】
まず、ダイ5をパンチ3側に相対移動させて、パンチ3の稜線部3aに先行してパンチ側成形面部3bに設けられたパンチ側弾性体9が金属素板101における部位105のパンチ3側に当接し、さらに、ダイ側成形面部5cに設けられたダイ側弾性体11が部位107のダイ5側に当接する(図4(a)~(b))。
【0109】
次いで、パンチ側当接面部9aが部位105のパンチ3側に当接して支持し、かつ、ダイ側当接面部11aが部位107に当接して押圧した状態のまま、ダイ5をパンチ3側に相対移動させると、パンチ3の稜線部3aが金属素板101におけるキャラクタライン相当部103に当接する(図4(c))。
【0110】
続いて、ダイ5をパンチ3側にさらに相対移動させると、プレス成形が進むにしたがってパンチ側弾性体9が変形する。そのため、稜線部3aが当接するキャラクタライン相当部103からパンチ側弾性体9が当接する部位105にかけては徐々に曲げ変形して緩やかな形状となる。
【0111】
これにより、ダイ側弾性体11が部位107を押圧する前に稜線部3aが金属素板101に当接した場合に塑性変形して初期曲げ痕が発生するのを防止することができる。
【0112】
また、ダイ5をパンチ3側にさらに相対移動させる過程において、張力の大きい側となる部位107に当接して押し潰されたダイ側弾性体11と金属素板101との摩擦により、張力の大きい端部101b側への金属素板101の滑りを防ぎ、稜線部3aにより塑性変形したキャラクタライン相当部103のずれを防ぐことができる(図4(c)~(d))。
【0113】
このように、パンチ側弾性体9によりキャラクタライン相当部103から部位105にかけて曲げ変形を緩和し、かつ、ダイ側弾性体11により金属素板101が張力の大きい端部101b側に滑るの防いで、ダイ5を成形下死点まで相対移動させることができる(図4(d)~(e))。
【0114】
そして、成形下死点において、パンチ3の稜線部3aとダイ5の谷線部5aによりキャラクタライン113が形成され、パンチ側弾性体9のパンチ側当接面部9aがパンチ側成形面部3bと面一に変形してパネル面部115が成形され、ダイ側弾性体11のダイ側当接面部11aがダイ側成形面部5cと面一に変形してパネル面部117が成形される(図4(e))。
【0115】
その結果、線ずれを防止してキャラクタライン113が形成された自動車用外板パネル111にプレス成形することができる。
【0116】
<他の態様>
上述の本発明の実施の形態2に係る自動車用外板パネルのプレス成形方法及びプレス成形装置においては、図4に示すように、パンチ側弾性体9は、パンチ側成形面部3bに形成された溝部3dの底部に支持され、ダイ側弾性体11は、ダイ側成形面部5cに形成された溝部5dの底部に支持されたものであった。
【0117】
もっとも、本実施の形態2の他の態様として、図5に一例として示すプレス成形装置41のように、パンチ側弾性体9は、パンチ側可動体23を介して溝部3dの底部に支持され、ダイ側弾性体11は、ダイ側可動体25を介して溝部5dの底部に支持されたものであってもよい。
【0118】
ここで、図5(a)は成形開始前の状態、(b)はパンチ側弾性体9及びダイ側弾性体11が金属素板101に当接している状態、(c)はパンチ側弾性体9により金属素板101を支持している状態、(d)はダイ側弾性体11により金属素板101を押圧している状態、(e)は成形下死点での状態を示す。なお、図5において、プレス成形装置41を構成する各部について、図1に示すプレス成形装置1と同一及び対応する部分には図1に付したものと同一の符号を付している。
【0119】
そして、本実施の形態2の他の態様において、パンチ側弾性体9のパンチ側成形面部3bからの突出量、及び、ダイ側弾性体11のダイ側成形面部5cからの突出量は、それぞれ、前述した実施の形態1の他の態様と同様に設定されている。
【0120】
このように、パンチ側可動体23によりパンチ側弾性体9を支持することで、図5(b)~(d)に示すプレス成形過程においては、前述した実施の形態1の他の態様と同様に、金属素板101における稜線部3aとパンチ側弾性体9のパンチ側当接面部9aとが当接する部位の曲げ変形を緩やかな形状として初期曲げ痕の発生を防ぐための自由度を増してプレス成形することが可能となる。
【0121】
さらに、ダイ側可動体25によりダイ側弾性体11を支持することで、図5(b)~(e)に示すプレス成形過程においては、前述した実施の形態1の他の態様と同様に、金属素板101が滑るのを防ぐために部位107を押圧するダイ側弾性体11の荷重を調整する自由度が増す。
【0122】
以上、本実施の形態2の他の態様に係る自動車用外板パネルのプレス成形方法及びプレス成形装置においても、線ずれをより効果的に防いでキャラクタライン113を形成した自動車用外板パネル111をプレス成形することができる。
【0123】
なお、パンチ側弾性体9を収納する溝部3d(図4及び図5)は、溝部3dのキャラクタライン113側の角が、稜線部3aからパンチ側成形面部3bの幅の10%以上の距離を離れるようにするとよい。
ダイ側弾性体11を収納する溝部5d(図4及び図5)は、溝部5dのキャラクタライン113側の角が、谷線部5aからダイ側成形面部5cの幅の10%以上の距離を離れるようにするとよい。
これにより、前述した特許文献7に記載の技術のように、溝部3dの角又は溝部5dの角がキャラクタライン相当部103の近傍に当接して線状疵を発生させる問題はない。
【0124】
さらに、本実施の形態2及び他の態様に係る自動車用外板パネルのプレス成形方法及びプレス成形装置により、金属素板101を自動車用外板パネル111にプレス成形する過程においては、前述した実施の形態1及び他の態様と同様、パンチ側弾性体9とダイ側弾性体11とを金属素板101に当接させる順序については、特に制限はない。
【0125】
なお、本発明において、パンチ側弾性体を収容する溝部は、プレス成形過程におけるパンチ側弾性体の変形を収納するため、当該溝部の幅をパンチ側弾性体よりも広くしておく必要がある。
同様に、ダイ側弾性体を収容する溝部は、プレス成形過程におけるダイ側弾性体の変形を収納するため、当該溝部の幅をダイ側弾性体よりも広くしておく必要がある。
【実施例0126】
本発明に係る自動車用外板パネルのプレス成形方法及びプレス成形装置により、自動車用外板パネルをプレス成形してキャラクタラインを形成したときの線ずれの防止効果を検証する実施例を行ったので、以下、これについて説明する。
【0127】
本実施例では、キャラクタラインを有する自動車用外板パネルを模擬した外板パネルを本発明に係るプレス成形方法によりプレス成形するプレス成形解析を行い、該プレス成形された外板パネルの線ずれ発生の有無を評価した。
【0128】
プレス成形解析では、金属素板として厚さ0.7mmの鋼板SGCC-Fを用い、図6に示す、キャラクタライン123とその両側に連続するパネル面部125及びパネル面部127を有する外板パネル121を解析対象とした。
【0129】
ここで、キャラクタライン123の曲率半径は3mm、パネル面部125及びパネル面部127のプレス成形方向に対する角度はそれぞれθa=85°及びθb=65°とし、パネル面部125及びパネル面部127の幅(キャラクタラインとの境界から端部までの長さ)は、いずれも、50mmとした。
【0130】
本実施例では、従来例として、パンチとダイとブランクホルダとを備えたプレス成形装置により金属素板を外板パネルに絞り成形する過程(図9参照)のプレス成形解析を行った。
【0131】
そして、角度の小さい(θb=65°)パネル面部127側と角度の大きい(θa=85°)パネル面部125側とのプレス成形過程において生じる張力の差を求めたところ、202kNであった。
【0132】
次に、発明例として、図1に示すような、パンチ3とダイ5とブランクホルダ7とパンチ側弾性体9とダイ側弾性体11とを備えたプレス成形装置1を用い、金属素板101を外板パネル121(図6)にプレス成形するプレス成形解析を行った。
【0133】
当該プレス成形解析において、パンチ側弾性体9は、パンチ側成形面部3cからダイ5側に突出させてパンチ側成形面部3cの溝部3dに設けた。そして、プレス成形方向とのなす鋭角の小さいパネル面部127に相当する部位であってキャラクタライン123に相当するキャラクタライン相当部103から離れた位置(パンチ3の溝部3dのキャラクタライン相当部103側の境界がパンチ側成形面部3cの幅の10%位置)にパンチ側弾性体9を当接させるように設定した。
ここで、パンチ側弾性体9のパンチ側成形面部3cからの突出量は、パンチ3の稜線部3aが金属素板101に当接する前にパンチ側当接面部9aが金属素板101に当接するように、5mmに設定した。
【0134】
一方、ダイ側弾性体11は、ダイ側成形面部5bからパンチ3側に突出させてダイ側成形面部5bの溝部5dに設けた。そして、プレス成形方向とのなす鋭角の大きいパネル面部125に相当する部位であってキャラクタライン相当部103から離れた位置(ダイ5の溝部5dのキャラクタライン相当部103側の境界がダイ側成形面部5bの幅の10%位置)に当接させて押圧させるものとした(図1参照)。
ここで、ダイ側弾性体11のダイ側成形面部5bからの突出量は、従来例に係るプレス成形過程(図9参照)において、キャラクタライン相当部103を挟んで両側に作用する張力の差(=202kN)に基づいて12mmに設定した。
【0135】
なお、当該プレス成形解析において、パンチ側弾性体9とダイ側弾性体11の材質はいずれも硬質ウレタンとし、パンチ側弾性体9とダイ側弾性体11はいずれも、金属素板101との摩擦係数は0.6、弾性係数は253N/mmとした。
【0136】
図7に、プレス成形解析により得られた外板パネル121の断面形状の結果を示す。ここで図7は、図6に示すように、プレス成形方向に対する角度が小さい側のパネル面部127が水平となるように外板パネル121の断面形状の結果を回転させて配置し、パネル面部127に平行な水平方向(=パネル面部127の幅方向)を横軸とし、パネル面部127に対して直交方向(=プレス成形方向)を縦軸とした座標平面上において、外板パネル121におけるキャラクタライン123を中心とする部位の断面形状を拡大して示したものである。
【0137】
図7より、発明例と比べると、従来例においては、単位面積あたりの張力が大きい側となるパネル面部127に線ずれに起因する凹形状及び凸形状(図7中において点線楕円で囲んだ部位)が見られた。
【0138】
図8に、プレス成形解析により得られた外板パネル121について面ひずみを評価した結果を示す。図8は、前述した図6に示すように、プレス成形方向に対する鋭角が小さい側のパネル面部127が水平となるように配置したときのパネル面部127の水平方向の座標を横軸とし、各水平方向位置における面ひずみの評価値Δsを縦軸としたグラフである。
【0139】
ここで、面ひずみの評価値Δsは、以下に示す公知の参考文献に記載のとおり、3点ゲージ(固定スパンL)による山高さの最大・最小差で表したものである。
(参考文献)薄鋼板成形技術研究会編、プレス成形難易ハンドブック第4版、「第5章 面形状精度不良と成形難易評価」、pp.218-221、日刊工業新聞社、(2017)
【0140】
図8より、面ひずみの評価値Δsの最大値と最小値との差は、従来例においては0.017であるのに対し、発明例においては0.006であった。これより、パンチ側弾性体9を金属素板101に当接させて曲げ変形が緩やかな形状となるように支持し、ダイ側弾性体11で金属素板101を押圧してプレス成形することで、パネル面部127における面ひずみが減少したことが分かる。
【0141】
以上、本発明によれば、線ずれを防止してキャラクタラインが形成させた自動車用外板パネルをプレス成形できることが実証された。
【0142】
なお、図7及び図8は、前述した実施の形態1と同様、パンチ側弾性体9を金属素板101における張力の大きい側の部位107、ダイ側弾性体11を張力の小さい側の部位105に設けた場合の結果であった。
【0143】
もっとも、パンチ側弾性体9を張力の小さい側の部位105、ダイ側弾性体11を張力の大きい側の部位107に設けた場合(図4)や、パンチ側可動体23でパンチ側弾性体9を支持し、かつ、ダイ側可動体25でダイ側弾性体11を支持した場合(図3及び図5)についても同様にプレス成形解析を行った。
これらの結果は紙面の都合上省略したが、いずれの場合においても、線ずれを防止してキャラクタラインが形成された外板パネルをプレス成形できることを確認した。
【符号の説明】
【0144】
1 プレス成形装置
3 パンチ
3a 稜線部
3b パンチ側成形面部
3c パンチ側成形面部
3d 溝部
5 ダイ
5a 谷線部
5b ダイ側成形面部
5c ダイ側成形面部
5d 溝部
7 ブランクホルダ
9 パンチ側弾性体
9a パンチ側当接面部
11 ダイ側弾性体
11a ダイ側当接面部
21 プレス成形装置
23 パンチ側可動体
23a パッド
23b 圧力源
25 ダイ側可動体
25a パッド
25b 圧力源
31 プレス成形装置
41 プレス成形装置
51 プレス成形装置(従来技術)
53 パンチ
53a 稜線部
55 ダイ
55a 谷線部
57 ブランクホルダ
101 金属素板
101a 端部
101b 端部
103 キャラクタライン相当部
105 部位
107 部位
111 自動車用外板パネル
113 キャラクタライン
115 パネル面部
117 パネル面部
121 外板パネル(実施例)
123 キャラクタライン
125 パネル面部
127 パネル面部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9