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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069890
(43)【公開日】2022-05-12
(54)【発明の名称】分析装置、及び分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/76 20060101AFI20220502BHJP
【FI】
G01N27/76
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020178829
(22)【出願日】2020-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】515295968
【氏名又は名称】株式会社カワノラボ
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】河野 誠
(72)【発明者】
【氏名】阿部 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 俊人
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AB06
2G053BA07
2G053BB11
2G053CA18
2G053CA20
2G053CB29
(57)【要約】
【課題】分析対象の粒子状物質が所期の粒子状物質であるか否かを判定することができる分析装置を提供する。
【解決手段】分析装置10は、磁場生成部20と、観察部30と、処理部42と、記憶部41とを備える。磁場生成部20は、磁場を生成して、分析対象の粒子状物質pを磁気泳動させる。観察部30は、分析対象pを観察する。処理部42は、観察部30の観察結果から分析対象pの磁気泳動速度を測定し、分析対象pの磁気泳動速度と粒子径とに基づいて、分析対象pの体積磁化率を測定する。記憶部41は、基準粒子状物質の体積磁化率を示す基準データ43を記憶する。処理部42は、分析対象pの体積磁化率を基準データ43と比較することにより、分析対象pを分析する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場を生成して、分析対象の粒子状物質を磁気泳動させる磁場生成部と、
前記分析対象を観察する観察部と、
前記観察部の観察結果から前記分析対象の磁気泳動速度を測定し、前記分析対象の磁気泳動速度と粒子径とに基づいて、前記分析対象の体積磁化率を測定する処理部と、
基準粒子状物質の体積磁化率を示す基準データを記憶する記憶部と
を備え、
前記処理部は、前記分析対象の体積磁化率を前記基準データと比較することにより、前記分析対象を分析する、分析装置。
【請求項2】
前記処理部は、前記観察部の観察結果から前記分析対象の粒子径を測定する、請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記基準粒子状物質は表面膜を有し、
前記基準データは、前記表面膜が所期の状態である際の粒子状物質の体積磁化率を示し、
前記処理部は、前記分析対象の表面膜の状態を分析する、請求項1又は請求項2に記載の分析装置。
【請求項4】
前記基準データは、内部が所期の状態である際の粒子状物質の体積磁化率を示し、
前記処理部は、前記分析対象の内部の状態を分析する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の分析装置。
【請求項5】
前記基準データは、所期の粒子状物質の体積磁化率を示し、
前記処理部は、前記分析対象が前記所期の粒子状物質であるか否かを判定する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の分析装置。
【請求項6】
前記処理部は、前記分析対象が、がん細胞由来の細胞外小胞であるか否かを判定する、請求項5に記載の分析装置。
【請求項7】
前記基準データは、少なくとも1種類の前記基準粒子状物質の体積磁化率を示し、
前記処理部は、前記分析対象の体積磁化率と、前記少なくとも1種類の基準粒子状物質の体積磁化率とを比較して、前記少なくとも1種類の基準粒子状物質のうちの1つに前記分析対象が該当するか否かを判定する、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の分析装置。
【請求項8】
前記処理部は、前記少なくとも1種類の基準粒子状物質のうちの1つに前記分析対象が該当すると判定した場合、前記分析対象の粒子径を分析する、請求項7に記載の分析装置。
【請求項9】
前記基準データは、少なくとも1種類の基準粒子状物質の体積磁化率と粒子径とを示し、
前記処理部は、前記分析対象の体積磁化率及び粒子径と、前記少なくとも1種類の基準粒子状物質の体積磁化率及び粒子径とを比較して、前記少なくとも1種類の基準粒子状物質のうちの1つに前記分析対象が該当するか否かを判定する、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の分析装置。
【請求項10】
前記記憶部は、少なくも1種類の細胞外小胞の体積磁化率と、前記細胞外小胞を放出する細胞との関係を示すデータである細胞特定データを更に記憶し、
前記基準データは、前記少なくとも1種類の基準粒子状物質の体積磁化率として、前記少なくとも1種類の細胞外小胞の体積磁化率を示し、
前記分析対象は、細胞外小胞であり、
前記処理部は、前記少なくとも1種類の細胞外小胞のうちの1つに前記分析対象が該当すると判定した場合、前記細胞特定データを参照して、前記分析対象を放出した細胞を判定する、請求項7から請求項9のいずれか1項に記載の分析装置。
【請求項11】
磁気泳動する分析対象の粒子状物質を観察するステップと、
観察結果から前記分析対象の磁気泳動速度を測定する第1測定ステップと、
前記分析対象の磁気泳動速度と粒子径とに基づいて、前記分析対象の体積磁化率を測定する第2測定ステップと、
前記分析対象の体積磁化率を基準データと比較することにより、前記分析対象を分析する分析ステップと
を包含し、
前記基準データは、基準粒子状物質の体積磁化率を示す、分析方法。
【請求項12】
前記第1測定ステップにおいて、前記観察結果から前記分析対象の磁気泳動速度と粒子径とを測定する、請求項11に記載の分析方法。
【請求項13】
前記基準粒子状物質は表面膜を有し、
前記基準データは、前記表面膜が所期の状態である際の粒子状物質の体積磁化率を示し、
前記分析ステップにおいて、前記分析対象の表面膜の状態を分析する、請求項11又は請求項12に記載の分析方法。
【請求項14】
前記基準データは、内部が所期の状態である際の粒子状物質の体積磁化率を示し、
前記分析ステップにおいて、前記分析対象の内部の状態を分析する、請求項11から請求項13のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項15】
前記基準データは、所期の粒子状物質の体積磁化率を示し、
前記分析ステップにおいて、前記分析対象が前記所期の粒子状物質であるか否かを判定する、請求項11から請求項14のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項16】
前記分析ステップにおいて、前記分析対象が、がん細胞由来の細胞外小胞であるか否かを判定する、請求項15に記載の分析方法。
【請求項17】
前記基準データは、少なくとも1種類の前記基準粒子状物質の体積磁化率を示し、
前記分析ステップにおいて、前記分析対象の体積磁化率と、前記少なくとも1種類の基準粒子状物質の体積磁化率とを比較して、前記少なくとも1種類の基準粒子状物質のうちの1つに前記分析対象が該当するか否かを判定する、請求項11から請求項16のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項18】
前記分析ステップにおいて、前記少なくとも1種類の基準粒子状物質のうちの1つに前記分析対象が該当すると判定した場合、前記分析対象の粒子径を更に分析する、請求項17に記載の分析方法。
【請求項19】
前記基準データは、少なくとも1種類の基準粒子状物質の体積磁化率と粒子径とを示し、
前記分析ステップにおいて、前記分析対象の体積磁化率及び粒子径と、前記少なくとも1種類の基準粒子状物質の体積磁化率及び粒子径とを比較して、前記少なくとも1種類の基準粒子状物質のうちの1つに前記分析対象が該当するか否かを判定する、請求項11から請求項16のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項20】
前記基準データは、前記少なくとも1種類の基準粒子状物質の体積磁化率として、少なくとも1種類の細胞外小胞の体積磁化率を示し、
前記分析対象は、細胞外小胞であり、
前記分析ステップにおいて、前記少なくとも1種類の細胞外小胞のうちの1つに前記分析対象が該当すると判定した場合、前記少なくも1種類の細胞外小胞の体積磁化率と、前記細胞外小胞を放出する細胞との関係を示すデータを参照して、前記分析対象を放出した細胞を判定する、請求項17から請求項19のいずれか1項に記載の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析装置、及び分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者等は過去に、粒子の体積磁化率を用いて、媒体に対する粒子の親和性を定量的に評価する方法を提案した(特許文献1)。また、本発明者等は過去に、粒子の体積磁化率を用いて、粒子の官能基の量を分析する方法を提案した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2016/208723号
【特許文献2】国際公開第2016/208724号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、粒子状物質を分析する方法について鋭意研究を続け、本発明を完成するに至った。本発明は、分析対象の粒子状物質が所期の粒子状物質であるか否かを判定することができる分析装置、及び分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の分析装置は、磁場生成部と、観察部と、処理部と、記憶部とを備える。前記磁場生成部は、磁場を生成して、分析対象の粒子状物質を磁気泳動させる。前記観察部は、前記分析対象を観察する。前記処理部は、前記観察部の観察結果から前記分析対象の磁気泳動速度を測定し、前記分析対象の磁気泳動速度と粒子径とに基づいて、前記分析対象の体積磁化率を測定する。前記記憶部は、基準粒子状物質の体積磁化率を示す基準データを記憶する。前記処理部は、前記分析対象の体積磁化率を前記基準データと比較することにより、前記分析対象を分析する。
【0006】
ある実施形態において、前記処理部は、前記観察部の観察結果から前記分析対象の粒子径を測定する。
【0007】
ある実施形態において、前記基準粒子状物質は表面膜を有する。
【0008】
ある実施形態において、前記基準データは、前記表面膜が所期の状態である際の粒子状物質の体積磁化率を示す。
【0009】
ある実施形態において、前記処理部は、前記分析対象の表面膜の状態を分析する。
【0010】
ある実施形態において、前記基準データは、内部が所期の状態である際の粒子状物質の体積磁化率を示す。
【0011】
ある実施形態において、前記処理部は、前記分析対象の内部の状態を分析する。
【0012】
ある実施形態において、前記基準データは、所期の粒子状物質の体積磁化率を示す。
【0013】
ある実施形態において、前記処理部は、前記分析対象が前記所期の粒子状物質であるか否かを判定する。
【0014】
ある実施形態において、前記処理部は、前記分析対象が、がん細胞由来の細胞外小胞であるか否かを判定する。
【0015】
ある実施形態において、前記基準データは、少なくとも1種類の前記基準粒子状物質の体積磁化率を示す。
【0016】
ある実施形態において、前記処理部は、前記分析対象の体積磁化率と、前記少なくとも1種類の基準粒子状物質の体積磁化率とを比較して、前記少なくとも1種類の基準粒子状物質のうちの1つに前記分析対象が該当するか否かを判定する。
【0017】
ある実施形態において、前記処理部は、前記少なくとも1種類の基準粒子状物質のうちの1つに前記分析対象が該当すると判定した場合、前記分析対象の粒子径を分析する。
【0018】
ある実施形態において、前記基準データは、少なくとも1種類の基準粒子状物質の体積磁化率と粒子径とを示す。
【0019】
ある実施形態において、前記処理部は、前記分析対象の体積磁化率及び粒子径と、前記少なくとも1種類の基準粒子状物質の体積磁化率及び粒子径とを比較して、前記少なくとも1種類の基準粒子状物質のうちの1つに前記分析対象が該当するか否かを判定する。
【0020】
ある実施形態において、前記記憶部は、細胞特定データを更に記憶する。前記細胞特定データは、少なくも1種類の細胞外小胞の体積磁化率と、前記細胞外小胞を放出する細胞との関係を示すデータである。
【0021】
ある実施形態において、前記基準データは、前記少なくとも1種類の基準粒子状物質の体積磁化率として、前記少なくとも1種類の細胞外小胞の体積磁化率を示す。
【0022】
ある実施形態において、前記分析対象は、細胞外小胞である。
【0023】
ある実施形態において、前記処理部は、前記少なくとも1種類の細胞外小胞のうちの1つに前記分析対象が該当すると判定した場合、前記細胞特定データを参照して、前記分析対象を放出した細胞を判定する。
【0024】
本発明の分析方法は、磁気泳動する分析対象の粒子状物質を観察するステップと、観察結果から前記分析対象の磁気泳動速度を測定する第1測定ステップと、前記分析対象の磁気泳動速度と粒子径とに基づいて、前記分析対象の体積磁化率を測定する第2測定ステップと、前記分析対象の体積磁化率を基準データと比較することにより、前記分析対象を分析する分析ステップとを包含する。前記基準データは、基準粒子状物質の体積磁化率を示す。
【0025】
ある実施形態では、前記第1測定ステップにおいて、前記観察結果から前記分析対象の磁気泳動速度と粒子径とを測定する。
【0026】
ある実施形態において、前記基準粒子状物質は表面膜を有する。
【0027】
ある実施形態において、前記基準データは、前記表面膜が所期の状態である際の粒子状物質の体積磁化率を示す。
【0028】
ある実施形態では、前記分析ステップにおいて、前記分析対象の表面膜の状態を分析する。
【0029】
ある実施形態において、前記基準データは、内部が所期の状態である際の粒子状物質の体積磁化率を示す。
【0030】
ある実施形態では、前記分析ステップにおいて、前記分析対象の内部の状態を分析する。
【0031】
ある実施形態において、前記基準データは、所期の粒子状物質の体積磁化率を示す。
【0032】
ある実施形態では、前記分析ステップにおいて、前記分析対象が前記所期の粒子状物質であるか否かを判定する。
【0033】
ある実施形態では、前記分析ステップにおいて、前記分析対象が、がん細胞由来の細胞外小胞であるか否かを判定する。
【0034】
ある実施形態において、前記基準データは、少なくとも1種類の前記基準粒子状物質の体積磁化率を示す。
【0035】
ある実施形態では、前記分析ステップにおいて、前記分析対象の体積磁化率と、前記少なくとも1種類の基準粒子状物質の体積磁化率とを比較して、前記少なくとも1種類の基準粒子状物質のうちの1つに前記分析対象が該当するか否かを判定する。
【0036】
ある実施形態では、前記分析ステップにおいて、前記少なくとも1種類の基準粒子状物質のうちの1つに前記分析対象が該当すると判定した場合、前記分析対象の粒子径を更に分析する。
【0037】
ある実施形態において、前記基準データは、少なくとも1種類の基準粒子状物質の体積磁化率と粒子径とを示す。
【0038】
ある実施形態では、前記分析ステップにおいて、前記分析対象の体積磁化率及び粒子径と、前記少なくとも1種類の基準粒子状物質の体積磁化率及び粒子径とを比較して、前記少なくとも1種類の基準粒子状物質のうちの1つに前記分析対象が該当するか否かを判定する。
【0039】
ある実施形態において、前記基準データは、前記少なくとも1種類の基準粒子状物質の体積磁化率として、少なくとも1種類の細胞外小胞の体積磁化率を示す。
【0040】
ある実施形態において、前記分析対象は、細胞外小胞である。
【0041】
ある実施形態では、前記分析ステップにおいて、前記少なくとも1種類の細胞外小胞のうちの1つに前記分析対象が該当すると判定した場合、前記少なくも1種類の細胞外小胞の体積磁化率と、前記細胞外小胞を放出する細胞との関係を示すデータを参照して、前記分析対象を放出した細胞を判定する。
【発明の効果】
【0042】
本発明の分析装置及び分析方法によれば、分析対象の粒子状物質が所期の粒子状物質であるか否かを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本発明の実施形態1に係る分析装置の模式図である。
図2】(a)及び(b)は本発明の実施形態1に係る粒子状物質の動きを示す図である。
図3】本発明の実施形態1に係る分析装置の構成を示す図である。
図4】本発明の実施形態1に係る粒子状物質の体積磁化率の測定結果の一例を示す図である。
図5】本発明の実施形態1に係る分析方法を示すフローチャートである。
図6】本発明の実施形態1に係る分析装置の変形例の構成を示す図ある。
図7】本発明の実施形態2に係る複数種類の基準粒子状物質の体積磁化率の測定結果の一例を示す図である。
図8】本発明の実施形態3に係る分析装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されない。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合がある。また、図中、同一又は相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0045】
[実施形態1]
まず図1を参照して、本実施形態の分析装置10を説明する。図1は、本実施形態に係る分析装置10の模式図である。分析装置10は、粒子状物質pを分析する。より具体的には、分析装置10は、粒子状物質pの表面膜の状態を分析する。
【0046】
本実施形態において、粒子状物質pは、ミセルである。ミセルの表面膜は、親水性部分と親油性(疎水性)部分とを有する。より具体的には、ミセルの表面膜は、親水基を外に向け、親油基を内に向けた構造を有する。例えば、ミセルは、油性成分が界面活性剤(表面膜)で覆われた構造を有する。
【0047】
図1に示すように、分析装置10は、磁場生成部20と、観察部30と、演算部40とを備える。磁場生成部20の近傍にセル21が配置される。磁場生成部20は、磁場を生成してセル21内の粒子状物質pを磁気泳動させる。観察部30は、セル21内の粒子状物質pを観察する。演算部40は、観察部30による観察の結果から、粒子状物質pの粒子径及び磁気泳動速度を測定する。また、演算部40は、粒子状物質pの粒子径及び磁気泳動速度に基づいて、粒子状物質pの体積磁化率を測定する。そして、演算部40は、粒子状物質pの体積磁化率に基づいて、粒子状物質pの表面部の状態を分析する。以下、分析装置10について更に詳細に説明する。
【0048】
磁場生成部20は、磁場勾配(磁束密度の勾配)を生成して、セル21内の粒子状物質pに磁気力を作用させる。この結果、粒子状物質pが磁気泳動する。本実施形態において、磁場生成部20は、磁場勾配を生成する一対の永久磁石を備える。一対の永久磁石を構成する2つの永久磁石は、例えば100μm以上500μm以下の一定距離の空隙を空けて配置される。セル21は、2つの永久磁石の間の空隙に配置される。
【0049】
本実施形態において、セル21はキャピラリー管である。キャピラリー管は管状部材の一例である。セル21の材質は、可視光あるいはレーザー光Lを透過し得る材質であれば特に限定されない。例えば、セル21は、ガラス製あるいはプラスチック製であり得る。
【0050】
粒子状物質pは、例えばマイクロシリンジ、マイクロポンプ、又はオートサンプラーにより、媒体mと共にセル21に導入される。あるいは、粒子状物質pは、サイフォンの原理に基づいて、媒体mと共にセル21に導入され得る。あるいは、粒子状物質pを含む液滴を毛細管現象によってセル21(キャピラリー管)に導入してもよい。粒子状物質pを含む液滴がキャピラリー管の一方端に滴下されると、毛細管現象によって液滴がキャピラリー管を流れる。
【0051】
粒子状物質pは、媒体m中に存在する。媒体m中に1つの粒子状物質pが存在してもよいし、媒体m中に複数の粒子状物質pが存在してもよい。媒体m中に複数の粒子状物質pが存在する場合、複数の粒子状物質pは、媒体m中で分散していてもよいし、媒体m中で偏在していてもよい。媒体mは、液体であってもよく、気体であってもよい。例えば、媒体mは、電解質水溶液、培養液、有機溶媒、又は空気である。分析装置10は、媒体m中に存在する複数の粒子状物質pの個々の体積磁化率を測定する。
【0052】
粒子状物質pの体積磁化率は、粒子状物質pの表面膜の状態によって異なる。詳しくは、粒子状物質pの体積磁化率は、表面膜の量によって異なる。あるいは、粒子状物質pの体積磁化率は、表面膜が消失しているか否かによって異なる。したがって、分析装置10は、粒子状物質pの体積磁化率に基づいて、粒子状物質pの表面膜が所期の状態であるか否かを分析することができる。あるいは、分析装置10は、粒子状物質pの体積磁化率に基づいて、粒子状物質pの表面膜が消失しているか否かを判定することができる。
【0053】
観察部30は、セル21内の粒子状物質pを観察して、観察結果を示す信号を生成する。演算部40は、観察部30が生成する信号に基づいて、粒子状物質pの粒子径及び磁気泳動速度を測定する。演算部40は、記憶部41と、処理部42とを備える。
【0054】
記憶部41は、プログラム及び設定情報などを記憶する。記憶部41は、例えば、ストレージデバイス及び半導体メモリーによって構成され得る。ストレージデバイスは、例えば、HDD(Hard Disk Drive)である。記憶部41は、半導体メモリーとして、例えば、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)を有し得る。処理部42は、記憶部41に記憶されたプログラムを実行することによって、数値計算や情報処理、機器制御のような様々な処理を行う。処理部42は、例えばCPU(Central Processing Unit)のようなプロセッサーによって構成される。演算部40として、例えばパーソナルコンピューターのような汎用コンピューターが用いられる。
【0055】
処理部42は、観察部30の観察結果から、セル21内における粒子状物質pの位置の時間的な変化を測定する。例えば、処理部42は、所定の時間間隔ごとに、セル21内における粒子状物質pの位置を測定する。換言すると、異なる時刻の粒子状物質pの位置を測定する。処理部42は、粒子状物質pの位置の時間的な変化から、粒子状物質pの磁気泳動速度を測定する。
【0056】
また、処理部42は、観察部30が生成する信号から、粒子状物質pの粒子径を測定する。処理部42は、更に、粒子状物質pの粒子径及び磁気泳動速度に基づいて、粒子状物質pの体積磁化率を測定する。
【0057】
例えば、処理部42は、以下の式(1)に基づいて、粒子状物質pの体積磁化率を算出する。
v={2(χs-χm)r2/9ημo}B(dB/dx)・・・(1)
【0058】
式(1)において、vは粒子状物質pの磁気泳動速度であり、χsは粒子状物質pの体積磁化率であり、χmは媒体mの体積磁化率であり、rは粒子状物質pの半径であり、ηは媒体mの粘性率であり、μoは真空の透磁率であり、Bは磁束密度であり、dB/dxは磁場勾配(磁束密度の勾配)である。式(1)は、セル21(キャピラリー管)の軸方向(x方向)において粒子状物質p及び媒体mが受ける磁気力の差と、粘性抵抗力とがほぼ等しいことから導かれる。
【0059】
なお、磁気泳動速度v及び粒子状物質pの体積磁化率χsは、処理部42が測定した測定値である。粒子状物質pの半径rは、例えば、処理部42が、測定した粒子状物質pの粒子径から算出する。媒体mの体積磁化率χm、媒体mの粘性率η、真空の透磁率μo、磁束密度B、及び磁場勾配dB/dxは、記憶部41に予め記憶されている。例えば、ユーザーは、キーボード、マウス又はタッチディスプレイのような入力装置を操作して、媒体mの体積磁化率χm、媒体mの粘性率η、真空の透磁率μo、磁束密度B、及び磁場勾配dB/dxを記憶部41に記憶させることができる。媒体mの体積磁化率χm、媒体mの粘性率η、真空の透磁率μoは、例えば文献値である。磁束密度B、及び磁場勾配dB/dxは、例えば測定値である。
【0060】
記憶部41は、基準粒子状物質の体積磁化率を示す基準データ43を記憶している。本実施形態において、基準データ43は、表面膜の状態が所期の状態である際の粒子状物質pの体積磁化率を示す。処理部42は、粒子状物質p(分析対象)の体積磁化率を基準データ43と比較することにより、粒子状物質p(分析対象)の表面膜の状態を分析する。より具体的には、処理部42は、粒子状物質p(分析対象)の表面膜が所期の状態であるか否かを分析する。あるいは、処理部42は、粒子状物質p(分析対象)の表面膜が消失しているか否かを分析する。
【0061】
なお、基準データ43は、所期の粒子状物質pの体積磁化率を測定することによって作成される。本実施形態の基準データ43は、表面膜の状態が所期の状態である際の粒子状物質pの体積磁化率を測定することによって作成される。
【0062】
続いて図2(a)及び図2(b)を参照して、粒子状物質pの動きを説明する。図2(a)及び図2(b)は、粒子状物質pの動きを示す図である。詳しくは、図2(a)及び図2(b)は、粒子状物質p及び媒体mの体積磁化率と粒子状物質pの移動方向との関係を示す。図2(a)及び図2(b)に示すように、磁場生成部20は、磁極がN極の永久磁石20aと、磁極がS極の永久磁石20bとを備える。2つの永久磁石20a、20bは、セル21を挟んで対向する。
【0063】
図2(a)に示すように、粒子状物質pの体積磁化率が媒体mの体積磁化率よりも小さい場合、粒子状物質pは磁場(磁場生成部20)から遠ざかる方向に移動する。一方、図2(b)に示すように、粒子状物質pの体積磁化率が媒体mの体積磁化率よりも大きい場合、粒子状物質pは磁場(磁場生成部20)に近づく方向に移動する。
【0064】
図2(a)及び図2(b)に示すように、粒子状物質pの動きは、粒子状物質p及び媒体mの体積磁化率に応じて決定される。なお、粒子状物質pは永久磁石20a、20bの端部の近傍において力を受ける。例えば、粒子状物質pは永久磁石20a、20bの端部の近傍から±200μm程度の範囲で力を受ける。
【0065】
続いて図3を参照して、分析装置10について更に説明する。図3は、分析装置10の構成を示す図である。図3に示すように、分析装置10は、光源50を更に備える。また、観察部30は、拡大部32及び撮像部34を備える。
【0066】
光源50は、可視光成分を含む比較的高い強度の光を出射する。光源50は、セル21に光を照射する。この結果、粒子状物質pに光が照射される。光源50から出射される光の波長スペクトルは比較的ブロードであってもよい。光源50として、例えば、ハロゲンランプが好適に用いられる。
【0067】
セル21に導入された粒子状物質pは、拡大部32によって適当な倍率で拡大されて、撮像部34で撮像される。撮像部34の撮像結果(撮像部34が撮像した画像)から、粒子状物質pの位置を特定できる。例えば、拡大部32は対物レンズを含み、撮像部34は電荷結合素子(Charge Coupled Device:CCD)を含む。あるいは、撮像部34の各画素は、フォトダイオード又は光電子倍増管で構成されてもよい。撮像部34は、例えば、所定の時間間隔ごとに粒子状物質pを撮像する。なお、撮像部34は、光源50から出射されてセル21を透過した光を撮像してもよいし、光源50から出射されて粒子状物質pによって散乱された光を撮像してもよい。
【0068】
演算部40(処理部42)は、撮像部34の撮像結果から、粒子状物質pの位置の時間的な変化を測定し、粒子状物質pの位置の時間的な変化から粒子状物質pの磁気泳動速度を測定する。
【0069】
また、演算部40(処理部42)は、粒子状物質pの撮像結果から粒子状物質pの粒子径を測定する。例えば、演算部40(処理部42)は、以下の処理を実行する。即ち、まず、撮像部34によって撮像された画像をモノクロ化し、その輝度を数値化する。次に、輝度値の微分値をしきい値と比較して粒子状物質pの境界を設定する。次に、設定した境界から粒子状物質pの面積を検出し、その面積に対応する円の半径から粒子径を算出する。あるいは、粒子状物質pの中心を規定し、粒子状物質pの中心を通過する複数の直線を引き、各直線において粒子状物質pの境界と交わる2つの点の間の距離の平均を算出する。
【0070】
続いて図4を参照して、粒子状物質pの体積磁化率の測定結果について説明する。図4は、粒子状物質pの体積磁化率の測定結果の一例を示す図である。詳しくは、図4は、第1粒子状物質p1の体積磁化率の測定結果と、第2粒子状物質p2の体積磁化率の測定結果とを示す。
【0071】
第1粒子状物質p1は、表面膜の状態が所期の状態の粒子状物質pである。換言すると、第1粒子状物質p1は、基準粒子状物質である。一方、第2粒子状物質p2は、表面膜の状態が所期の状態から変化した粒子状物質pである。あるいは、第2粒子状物質p2は、表面膜が消失した粒子状物質pである。
【0072】
図4において、横軸は体積磁化率を示し、縦軸は粒子数の割合を示す。また、図4において、グラフ61(実線)は第1粒子状物質p1の体積磁化率の測定結果を示し、グラフ62(破線)は第2粒子状物質p2の体積磁化率の測定結果を示す。
【0073】
グラフ61は、セル21に導入した複数の第1粒子状物質p1の個々の体積磁化率を測定して作成した。同様に、グラフ62は、セル21に導入した複数の第2粒子状物質p2の個々の体積磁化率を測定して作成した。具体的には、グラフ61は、第1粒子状物質p1の個々の体積磁化率を測定し、測定した体積磁化率ごとに第1粒子状物質p1の数の割合を算出することによって作成した。同様に、グラフ62は、第2粒子状物質p2の個々の体積磁化率を測定し、測定した体積磁化率ごとに第2粒子状物質p2の数の割合を算出することによって作成した。
【0074】
詳しくは、第1粒子状物質p1は、分散剤を含有する生クリームである。分散剤を含有する生クリームは、所期の状態においてミセル構造を有する。詳しくは、分散剤が表面膜を構成する。第2粒子状物質p2は、分散剤を含有する生クリームを常温環境下に30分放置して作製した。分散剤を含有する生クリームを常温環境下で一定期間以上放置すると、分散剤が表面膜を維持することができなくなり、その結果、表面膜の状態が所期の状態から変化する。具体的には、表面膜の量が減少する。あるいは、表面膜が消失する。
【0075】
図4に示すように、第1粒子状物質p1と第2粒子状物質p2とでは、体積磁化率が異なる。体積磁化率が異なるのは、表面膜の状態が所期の状態から変化したためである。具体的には、表面膜の量が変化したためである。あるいは、表面膜が消失したためである。したがって、第2粒子状物質p2(分析対象)の体積磁化率を第1粒子状物質p1(基準粒子状物質)の体積磁化率(基準データ43)と比較することにより、第2粒子状物質p2(分析対象)の表面膜の状態を分析することができる。あるいは、表面膜が消失したか否かを分析することができる。
【0076】
以上、本実施形態の分析装置10について説明した。本実施形態によれば、粒子状物質pの表面膜の状態を分析することができる。また、本実施形態によれば、ミセル構造を有する食材を分析して評価することができる。
【0077】
なお、粒子状物質pは表面膜を有する粒子であればよく、ミセルに限定されない。例えば、粒子状物質pはベシクルであり得る。より詳しくは、粒子状物質pは、例えば、リポソーム、又は細胞外小胞(Extra Microvesicle;EV)であり得る。ベシクルの表面膜は、脂質からなる。より具体的には、ベシクルの表面膜は、脂質二重層を有する。リポソームは、表面膜がリン脂質からなるベシクルである。リポソームは、カプセル性材料として、DDS(ドラッグデリバリーシステム)に用いられる。細胞外小胞は、細胞から放出されるベシクルである。細胞外小胞は、細胞外小胞を放出する細胞の細胞内成分の一部を含む。
【0078】
本実施形態では、粒子状物質pの表面膜の状態を分析したが、粒子状物質pの内部の状態を分析してもよい。詳しくは、粒子状物質pの内部の状態が所期の状態であるか否かを分析してもよい。この場合、基準データ43は、内部の状態が所期の状態である際の粒子状物質pの体積磁化率を示す。換言すると、基準粒子状物質は、内部の状態が所期の状態の粒子状物質pである。
【0079】
あるいは、粒子状物質pが所期の粒子状物質であるか否かを分析してもよい。この場合、基準データ43は、所期の粒子状物質の体積磁化率を示す。
【0080】
例えば、DDSに用いられるカプセル性材料(カプセル状製品)は、内部に特定の成分(薬物又は生理活性物質)を封入するが、製造バラツキに起因して、内部に特定の成分が封入されない場合がある。内部に特定の成分を封入するカプセル性材料と、内部に特定の成分を封入していないカプセル性材料とでは、体積磁化率が異なる。したがって、内部に特定の成分を封入するカプセル性材料の体積磁化率を用いて基準データ43を作成し、分析対象のカプセル性材料の体積磁化率を基準データ43と比較することにより、カプセル性材料の内部に特定の成分が封入されているか否か(粒子状物質pの内部の状態が所期の状態であるか否か)を分析することができる。換言すると、カプセル性材料が良品か否かを分析することができる。なお、基準データ43は、内部に特定の成分が封入されていないカプセル性材料の体積磁化率を用いて作成してもよい。
【0081】
また、例えば、がん細胞由来の細胞外小胞は、腫瘍抗原を含む場合がある。あるいは、細胞外小胞を構成するたんぱく質の種類が、がん細胞由来の細胞外小胞と、がん化していない細胞由来の細胞外小胞との間で異なる場合がある。あるいは、細胞外小胞を構成する特定のたんぱく質の量が、がん細胞由来の細胞外小胞と、がん化していない細胞由来の細胞外小胞との間で異なる場合がある。その結果、がん細胞由来の細胞外小胞は、がん化していない細胞由来の細胞外小胞と異なる体積磁化率を有する。したがって、がん細胞由来の細胞外小胞の体積磁化率を用いて基準データ43を作成し、分析対象の細胞外小胞の体積磁化率と基準データ43とを比較することにより、細胞外小胞が、がん細胞由来の細胞外小胞であるか否か(粒子状物質pが所期の粒子状物質であるか否か)を分析することができる。換言すると、患者が、がんを患っているか否かを診断することができる。なお、基準データ43は、がん化していない細胞由来の細胞外小胞の体積磁化率を用いて作成してもよい。
【0082】
続いて、図5を参照して、本実施形態の分析方法について説明する。図5は、本実施形態の分析方法を示すフローチャートである。本実施形態の分析方法は、図1図4を参照して説明した分析装置10を使用して実行し得る。
【0083】
図5に示すように、まず、磁気泳動する粒子状物質p(分析対象)を観察する(ステップS1)。次に、観察結果から粒子状物質pの磁気泳動速度と粒子径とを測定する(ステップS2)。次に、測定した磁気泳動速度及び粒子径に基づいて、粒子状物質pの体積磁化率を測定する(ステップS3)。次に、測定した体積磁化率を基準データ43と比較することにより、粒子状物質pを分析する(ステップS4)。より具体的には、粒子状物質pの表面膜の状態を分析する。あるいは、粒子状物質pの内部の状態を分析する。あるいは、粒子状物質pが、所期の粒子状物質であるか否かを分析する。
【0084】
粒子状物質pの体積磁化率を測定する際には、磁場生成部20がセル21内の粒子状物質pを磁気泳動させ、観察部30が、磁気泳動中の粒子状物質pを観察する。そして、処理部42が、観察部30による観察の結果から、粒子状物質pの体積磁化率を測定する。
【0085】
粒子状物質pを分析する際には、処理部42が、粒子状物質pの体積磁化率を、記憶部41が記憶する基準データ43と比較する。基準データ43は、既に説明したように、表面膜の状態が所期の状態である際の粒子状物質pの体積磁化率を示す。あるいは、基準データ43は、内部の状態が所期の状態である際の粒子状物質pの体積磁化率を示す。あるいは、基準データ43は、所期の粒子状物質pの体積磁化率を示す。
【0086】
以上、図1図5を参照して本発明の実施形態1について説明した。本実施形態によれば、分析対象の粒子状物質pを分析することができる。具体的には、分析対象の表面膜の状態が所期の状態であるか否かを分析することができる。また、分析対象の内部が所期の状態であるか否かを分析することができる。また、分析対象が所期の粒子状物質であるか否かを分析することができる。
【0087】
なお、1μm未満の粒子径を測定する際には、レーザー光Lを粒子状物質pに照射して、粒子状物質pのブラウン運動を解析する。例えば、リポソームや細胞外小胞のようなベシクルは、粒子径が1μm未満である。
【0088】
図6は、本実施形態の分析装置10の変形例の構成を示す図ある。図6に示すように、分析装置10は、レーザー装置60を更に備えてもよい。レーザー装置60は、レーザー光Lを出射する。レーザー装置60は、セル21にレーザー光Lを照射する。この結果、粒子状物質pにレーザー光Lが照射される。観察部30は、セル21内の粒子状物質pによって散乱されたレーザー光L(散乱光)によって粒子状物質pを観察する。具体的には、撮像部34が、拡大部32を介して、粒子状物質pによって散乱されたレーザー光Lを撮像する。
【0089】
演算部40(処理部42)は、撮像部34の撮像結果から、粒子径を測定する。具体的には、セル21(キャピラリー管)の軸方向(x方向)に直交する方向(y方向)における粒子状物質pの位置の変化(変位)の分散から拡散係数を算出し、この拡散係数から粒子状物質pの粒子径を測定する。詳しくは、粒子状物質pは、セル21(キャピラリー管)の軸方向(x方向)に磁場勾配の影響を受けるが、セル21の軸方向に直交する方向(y方向)には磁場勾配の影響をほとんど受けない。したがって、y方向における粒子状物質pの位置の変位の分散から拡散係数Dを算出することができる。具体的には、拡散係数Dは、ブラウン運動を行う粒子状物質pのy方向の移動距離の2乗を2倍の時間で除算して、算出することができる。
【0090】
演算部40(処理部42)は、以下の式(2)に基づいて、拡散係数Dから粒子状物質pの粒子径を測定する。式(2)において、dは粒子状物質pの粒子径であり、kはボルツマン定数であり、Tは絶対温度であり、ηは媒体mの粘性率である。
d=kT/(3πηD)・・・(2)
【0091】
なお、図6に示す分析装置10は、光源50から光を出射する際には、レーザー装置60からのレーザー光Lの出射を停止させ、レーザー装置60からレーザー光Lを出射する際には、光源50からの光の出射を停止させる。
【0092】
[実施形態2]
続いて図1~3、図5、及び図7を参照して本発明の実施形態2について説明する。但し、実施形態1と異なる事項を説明し、実施形態1と同じ事項についての説明は割愛する。実施形態2は、分析対象の種類を分析する点で実施形態1と異なる。
【0093】
まず図1を参照して、本実施形態の分析装置10を説明する。本実施形態において、基準データ43は、複数種類の基準粒子状物質の体積磁化率を示す。処理部42は、分析対象の粒子状物質pの体積磁化率を基準データ43と比較することにより、分析対象の粒子状物質pの種類を分析する。より具体的には、処理部42は、分析対象が複数種類の基準粒子状物質のうちの1つに該当するか否かを判定する。分析対象が複数種類の基準粒子状物質のうちの1つに該当する場合、処理部42は、該当する基準粒子状物質の種類から、分析対象の種類を特定する。本実施形態では更に、処理部42は、分析対象の粒子径を分析する。
【0094】
より詳しくは、本実施形態の基準データ43は、複数種類の基準粒子状物質のそれぞれの体積磁化率と粒子径とを示す。処理部42は、分析対象の粒子状物質pの体積磁化率と粒子径とを基準データ43と比較することにより、分析対象の粒子状物質pの種類を分析する。更に、処理部42は、分析対象が複数種類の基準粒子状物質のうちの1つに該当する場合、分析対象の粒子径を特定する。例えば、処理部42は、分析対象の粒子径として、分析対象の粒子径の測定値を取得する。
【0095】
図7は、複数種類の基準粒子状物質の体積磁化率の測定結果の一例を示す図である。換言すると、図7は、本実施形態の基準データ43の一例を示す。詳しくは、図7は、第1基準粒子状物質~第3基準粒子状物質のそれぞれの体積磁化率の測定結果を示す。
【0096】
図7において、横軸は粒子径を示し、縦軸は体積磁化率を示す。また、図7において、グラフ71は第1基準粒子状物質pr1の体積磁化率の測定結果を示し、グラフ72は第2基準粒子状物質pr2の体積磁化率の測定結果を示し、グラフ73は第3基準粒子状物質pr3の体積磁化率の測定結果を示す。
【0097】
グラフ71は、セル21に導入した複数の第1基準粒子状物質pr1の個々の体積磁化率と粒子径とを測定して作成した。具体的には、グラフ71は、第1基準粒子状物質pr1の個々の体積磁化率と粒子径とを測定し、粒子径0.5μm刻みで体積磁化率の平均値及び粒子径の平均値を算出することによって作成した。グラフ72及びグラフ73もグラフ71と同様に作成した。
【0098】
詳しくは、グラフ71は市販コーヒー飲料Aの体積磁化率及び粒子径の測定結果を示し、グラフ72は市販コーヒー飲料Bの体積磁化率及び粒子径の測定結果を示し、グラフ73は市販コーヒー飲料Cの体積磁化率及び粒子径の測定結果を示す。市販コーヒー飲料A~市販コーヒー飲料Cはいずれも牛乳成分を含む商品であった。
【0099】
図7に示すように、市販コーヒー飲料A~市販コーヒー飲料Cは、体積磁化率と粒子径との関係が互いに異なっていた。したがって、分析対象の体積磁化率及び粒子径と基準データ43とを比較することにより、分析対象が市販コーヒー飲料A~市販コーヒー飲料Cのうちの1つに該当するか否かを判定することができる。また、分析対象が市販コーヒー飲料A~市販コーヒー飲料Cのうちの1つに該当する場合、分析対象の種類を、市販コーヒー飲料A~市販コーヒー飲料Cのうちの一つに特定することができる。更に、分析対象の種類を特定した後に、分析対象の粒子径を分析することができる。詳しくは、分析対象の粒子径の分布を特定することができる。
【0100】
続いて図5を参照して、本実施形態の分析方法について説明する。図5に示すように、まず、磁気泳動する粒子状物質p(分析対象)を観察する(ステップS1)。次に、観察結果から粒子状物質pの磁気泳動速度と粒子径とを測定する(ステップS2)。次に、測定した磁気泳動速度及び粒子径に基づいて、粒子状物質pの体積磁化率を測定する(ステップS3)。次に、測定した体積磁化率及び粒子径を基準データ43と比較することにより、分析対象の粒子状物質pの種類を分析するとともに、分析対象の粒子径を分析する(ステップS4)。
【0101】
以上、図1~3、図5、及び図7を参照して本発明の実施形態2について説明した。本実施形態によれば、粒子状物質p(分析対象)の種類及び粒子径を分析することができる。
【0102】
なお、セル21に導入する分析対象は1種類であってもよいし、複数種類であってもよい。本実施形態によれば、セル21に複数種類の分析対象を導入して、各分析対象の種類及び粒子径を分析することができる。
【0103】
また、本実施形態において、基準データ43は、複数種類の基準粒子状物質の体積磁化率と粒子径とを示したが、基準データ43は1種類の基準粒子状物質の体積磁化率と粒子径とを示してもよい。
【0104】
また、本実施形態において、処理部42は、分析対象の体積磁化率及び粒子径と基準データ43とを比較したが、処理部42は、分析対象の体積磁化と基準データ43とを比較してもよい。
【0105】
また、本実施形態において、基準データ43は、基準粒子状物質の体積磁化率と粒子径とを示したが、基準データ43は、基準粒子状物質の体積磁化率と粒子径とのうち、体積磁化率のみを示してもよい。
【0106】
また、本実施形態において、処理部42は、分析対象の粒子径として、分析対象の粒子径の測定値を取得したが、分析対象の粒子径は分析対象の粒子径の測定値に限定されない。例えば、処理部42は、分析対象の粒子径を、基準データ43から取得してもよい。
【0107】
また、本実施形態において、処理部42は分析対象の粒子径を分析したが、分析対象の粒子径を分析する処理は省略されてもよい。
【0108】
[実施形態3]
続いて図5及び図8を参照して本発明の実施形態3について説明する。但し、実施形態1、2と異なる事項を説明し、実施形態1、2と同じ事項についての説明は割愛する。実施形態3は、細胞外小胞を放出する細胞を判定する点で実施形態1、2と異なる。
【0109】
図8は、本実施形態の分析装置10の模式図である。本実施形態において、基準データ43は、複数種類の基準粒子状物質の体積磁化率及び粒子径として、複数種類の細胞外小胞の体積磁化率及び粒子径を示す。
【0110】
処理部42は、実施形態2と同様に、分析対象の粒子状物質pの体積磁化率及び粒子径を基準データ43と比較することにより、分析対象が複数種類の基準粒子状物質(細胞外小胞)のうちの1つに該当するか否かを判定する。本実施形態において、分析対象の粒子状物質pは、細胞外小胞である。
【0111】
複数種類の基準粒子状物質(細胞外小胞)のうちの1つに分析対象が該当する場合、処理部42は、実施形態2と同様に、該当する基準粒子状物質(細胞外小胞)の種類から、分析対象(細胞外小胞)の種類を特定する。本実施形態では、処理部42は、特定した分析対象(細胞外小胞)の種類から、分析対象を放出した細胞の種類を判定する。
【0112】
詳しくは、図8に示すように、記憶部41は、細胞特定データ44を更に記憶する。細胞特定データ44は、細胞外小胞(基準粒子状物質)の種類と、細胞外小胞を放出する細胞の種類との関係を示す。処理部42は、分析対象(細胞外小胞)の種類を特定した場合、細胞特定データ44を参照して、分析対象を放出した細胞の種類を判定する。例えば、基準データ43は、プランクトン由来の細胞外小胞の体積磁化率を示してもよい。この場合、細胞特定データ44は、細胞外小胞の種類と、細胞外小胞を放出するプランクトンの種類との関係を示す。あるいは、基準データ43は、乳酸菌由来の細胞外小胞の体積磁化率を示してもよい。この場合、細胞特定データ44は、細胞外小胞の種類と、細胞外小胞を放出する乳酸菌の種類との関係を示す。
【0113】
続いて図5を参照して、本実施形態の分析方法について説明する。図5に示すように、まず、磁気泳動する分析対象の粒子状物質p(細胞外小胞)を観察する(ステップS1)。次に、観察結果から粒子状物質pの磁気泳動速度と粒子径とを測定する(ステップS2)。次に、測定した磁気泳動速度及び粒子径に基づいて、粒子状物質pの体積磁化率を測定する(ステップS3)。次に、測定した体積磁化率及び粒子径を基準データ43と比較することにより、粒子状物質p(細胞外小胞)の種類を分析するとともに、粒子状物質pの粒子径を分析する(ステップS4)。本実施形態では、更に、細胞特定データ44を参照して、特定した粒子状物質p(細胞外小胞)の種類から、粒子状物質pを放出した細胞の種類を判定する(ステップS4)。
【0114】
以上、図5及び図8を参照して本発明の実施形態3について説明した。本実施形態によれば、分析対象(細胞外小胞)の種類及び粒子径を分析することができる。
【0115】
なお、セル21に導入する分析対象(細胞外小胞)は1種類であってもよいし、複数種類であってもよい。本実施形態によれば、セル21に複数種類の分析対象を導入して、各分析対象(細胞外小胞)の種類及び粒子径を分析することができる。
【0116】
また、本実施形態において、基準データ43は、複数種類の基準粒子状物質(細胞外小胞)の体積磁化率と粒子径とを示したが、基準データ43は1種類の基準粒子状物質(細胞外小胞)の体積磁化率と粒子径とを示してもよい。
【0117】
また、本実施形態において、処理部42は、分析対象(細胞外小胞)の体積磁化率及び粒子径と基準データ43とを比較したが、処理部42は、分析対象の体積磁化と基準データ43とを比較してもよい。
【0118】
また、本実施形態において、基準データ43は、基準粒子状物質(細胞外小胞)の体積磁化率と粒子径とを示したが、基準データ43は、基準粒子状物質の体積磁化率と粒子径とのうち、体積磁化率のみを示してもよい。
【0119】
また、本実施形態において、処理部42は、分析対象の粒子径として、分析対象(細胞外小胞)の粒子径の測定値を取得したが、分析対象の粒子径は分析対象の粒子径の測定値に限定されない。例えば、処理部42は、分析対象(細胞外小胞)の粒子径を、基準データ43から取得してもよい。
【0120】
また、本実施形態において、処理部42は分析対象(細胞外小胞)の粒子径を分析したが、分析対象の粒子径を分析する処理は省略されてもよい。
【0121】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について説明した。本発明の実施形態によれば、分析対象の粒子状物質が所期の粒子状物質であるか否かを判定することができる。なお、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施できる。
【0122】
例えば、本発明の実施形態では、磁場生成部20が一対の永久磁石20a、20bを備えたが、磁場生成部20は、磁場勾配を生成するために一対の磁極片(ポールピース)を備えてもよい。あるいは、磁場生成部20は、磁場勾配を生成するために、電磁石、磁気回路、又は超電導磁石を備えてもよい。磁場生成部20が一対の磁極片を備える場合、一対の磁極片を構成する2つの磁極片は、例えば100μm以上500μm以下の一定距離の空隙を空けて配置される。セル21は、2つの磁極片の間の空隙に配置される。磁極片は、例えば、磁化された鉄片であり得る。鉄片は、例えば永久磁石、電磁石、磁気回路、又は超電導磁石によって磁化し得る。
【0123】
また、本発明の実施形態では、セル21がキャピラリー管であったが、セル21は、ガラスセル又はプラスチックセルであってもよい。ガラスセル及びプラスチックセルは、粒子状物質pを含む媒体mを保持する凹部を有する。あるいは、ガラスセル及びプラスチックセルは、粒子状物質pを含む媒体mが流れる流路を有する。セル21が、マイクロ流路を有するガラスセル又はプラスチックセルである場合、粒子状物質pを含む液滴がマイクロ流路の一方端に滴下されると、毛細管現象によって液滴がマイクロ流路を流れる。
【0124】
また、図6を参照して説明した実施形態では、分析装置10が光源50とレーザー装置60とを備えたが、分析装置10は、光源50とレーザー装置60とのうち、レーザー装置60のみを備えてもよい。
【0125】
なお、レーザー装置60を使用する場合、例えば動的光散乱法又は静的光散乱法に基づいて粒子状物質pの粒子径を測定してもよい。また、レーザー光Lを粒子状物質pに照射する場合、キャピラリー管は、その軸方向に直交する断面形状が正方形の正方形型キャピラリーであることが好ましい。正方形型キャピラリーを使用することにより、セル21の側面のうちレーザー光Lが照射される面を鏡面仕上げにすることが容易になる。
【0126】
また、本発明の実施形態では、演算部40(処理部42)が粒子状物質pの粒子径を測定したが、撮像部34が撮像した画像をディスプレイに表示させ、ディスプレイに表示された画像から、分析者が粒子状物質pの粒子径を測定してもよい。あるいは、撮像部34が撮像した画像を印刷して、印刷した画像から、分析者が粒子状物質pの粒子径を測定してもよい。この場合、分析者は、入力装置を操作して、粒子径を示すデータを記憶部41に記憶させる。
【0127】
また、本発明の実施形態では、基準粒子状物質及び分析対象の粒子径が測定されたが、基準粒子状物質及び分析対象の粒子径の少なくとも一方に文献値が用いられてもよい。この場合、分析者は、入力装置を操作して、粒子径(文献値)を示すデータを記憶部41に記憶させる。
【0128】
また、本発明の実施形態では、演算部40(処理部42)が基準粒子状物質の体積磁化率を測定したが、基準粒子状物質の体積磁化率は、SQUID素子、又は磁気天秤などを用いて測定されてもよい。この場合、分析者は、入力装置を操作して、基準粒子状物質の体積磁化率を示すデータを記憶部41に記憶させる。あるいは、基準粒子状物質の体積磁化率は文献値であってもよい。この場合、分析者は、入力装置を操作して、基準粒子状物質の体積磁化率(文献値)を示すデータを記憶部41に記憶させる。
【0129】
また、本発明の実施形態では、撮像部34が所定の時間間隔ごとに粒子状物質pを撮像することにより、粒子状物質pの磁気泳動速度を測定したが、レーザー装置60を使用して、例えばレーザードップラー法に基づいて粒子状物質pの磁気泳動速度を測定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明は、医薬品分野、環境化学分野、食品分野、化粧品分野、及び再生医療分野等に有用である。
【符号の説明】
【0131】
10 分析装置
20 磁場生成部
21 セル
30 観察部
40 演算部
41 記憶部
42 処理部
43 基準データ
m 媒体
p 粒子状物質
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8