(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069974
(43)【公開日】2022-05-12
(54)【発明の名称】ダイヤモンド電極及びその製法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/461 20060101AFI20220502BHJP
C01B 32/28 20170101ALI20220502BHJP
C25B 11/04 20210101ALI20220502BHJP
B01J 3/06 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
C02F1/461 Z
C01B32/28
C25B11/12
C25B11/04 A
B01J3/06 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020178954
(22)【出願日】2020-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000147811
【氏名又は名称】トーメイダイヤ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤野 聡
(72)【発明者】
【氏名】片柳 昌明
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 宣博
【テーマコード(参考)】
4D061
4G146
4K011
【Fターム(参考)】
4D061DA01
4D061DA08
4D061DB09
4D061EB29
4G146AA04
4G146AA17
4G146AB07
4G146AC02B
4G146AD17
4G146AD23
4G146CB05
4G146CB11
4G146CB13
4G146CB19
4G146CB22
4G146CB34
4G146MA09
4G146MB03
4G146MB14
4G146MB30
4G146NA02
4G146NA04
4G146NA21
4G146NA25
4G146NB01
4G146NB06
4G146NB09
4G146NB19
4K011AA16
4K011AA26
4K011DA11
(57)【要約】
【課題】
電解による水処理設備の過酷な化学的環境において安定した性能を示す電極材、並びにかかる電極材を高効率で製造可能な方法を提供すること。
【解決手段】
(1)周期律表四、五、六族の遷移金属からなり扁平な表面を有する基板、及び該基板表面上に密着接合された単層又は複数層の導電性のダイヤモンド粒子を有し、かつ上記基板表面と該表面に隣接配置された導電性ダイヤモンド粒子とが遷移金属炭化物を介して接合されていることを特徴とする導電性ダイヤモンド電極。
(2) 周期律表四、五、六族の遷移金属からなり扁平な表面を有する基板材を高融点金属材製の容器内に置き、該表面に接してさらに導電性ダイヤモンド粉体を配置して固定し、処理圧力温度に加圧加熱することにより上記基板表面と隣接導電性ダイヤモンド粒子との間に生じた金属炭化物を介して両者を接合することを特徴とする導電性の向上した導電性ダイヤモンド電極の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期律表四、五、六族の遷移金属からなり扁平な表面を有する基板、及び該基板表面上に密着接合された単層又は複数層の導電性のダイヤモンド粒子を有し、かつ上記基板表面と該表面に隣接配置された導電性ダイヤモンド粒子とが遷移金属炭化物を介して接合されていることを特徴とする導電性ダイヤモンド電極。
【請求項2】
前記遷移金属種がTi、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、Wから選ばれる一種又は複数種である、請求項1に記載の導電性ダイヤモンド電極。
【請求項3】
前記金属炭化物が導電性ダイヤモンドと基板材金属との反応により生成した化合物である、請求項1に記載のダイヤモンド電極。
【請求項4】
前記金属炭化物が導電性ダイヤモンドと遷移金属粉末との反応により生成した化合物である、請求項1に記載のダイヤモンド電極。
【請求項5】
前記導電性ダイヤモンド粒子が前記基板表面上に配置されている、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の導電性ダイヤモンド電極。
【請求項6】
前記導電性ダイヤモンド粒子が前記表面の平面に関して嵌入している、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の導電性ダイヤモンド電極。
【請求項7】
前記導電性ダイヤモンド粒子がホウ素を含有する請求項1乃至6のいずれか一項に記載のダイヤモンド電極。
【請求項8】
周期律表四、五、六族の遷移金属からなり扁平な表面を有する基板材を高融点金属材製の容器内に置き、該表面に接してさらに導電性ダイヤモンド粉体を配置して固定し、処理圧力温度に加圧加熱することにより上記基板表面と隣接導電性ダイヤモンド粒子との間に生じた金属炭化物を介して両者を接合することを特徴とする導電性の向上した導電性ダイヤモンド電極の製造方法。
【請求項9】
ダイヤモンドが熱力学的に安定な圧力温度条件下で前記加圧加熱反応を行う、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ダイヤモンドが熱力学的に準安定な圧力温度条件下で前記加圧加熱反応を行う、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
上記の加圧加熱処理を、HIP、ホットプレス、プラズマ放電焼結方法から選ばれる一種によって行う、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
先に加圧処理によってダイヤモンド粒子を基板表面に嵌入させ次いで加熱処理を行う、請求項8乃至11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダイヤモンド電極、特にオゾン水発生や様々な規模における汚染水の浄化を目的とした水処理設備用に適する導電性のダイヤモンドを用いた電極、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水処理に利用可能な導電性ダイヤモンド電極を得る方法として、シリコンまたはニオブ、タンタルなどの金属基板上に、CVD法によってボロン(ホウ素)含有のダイヤモンド膜を形成する方式が広く用いられている。
【0003】
基板金属材の上に導電性のダイヤモンド粒子を分布させ、或いは導電性ダイヤモンド膜を形成する方法は確立されている。例えば特許文献1には導電性ダイヤモンド粒子を導電性ろう材を用いて導電性基板上に接合し、ダイヤモンド粒子間の隙間を絶縁材料で埋める構成が記載されている。
一方、特許文献2には導電性基材上に接触配置した導電性ダイヤモンド粒子を絶縁物の被覆層を用いて固定した電極が記載されている。
或いは基板材料としてチタンを用い、CVD法で導電性ダイヤモンド膜を被覆する方法も知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-325417号公報
【特許文献2】特開2005-89789号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「電解用ダイヤモンド電極」橘武史、横田嘉宏。神戸製鋼技報vol.60, No.1, p.77 (2010)
【0006】
しかしCVD法によるダイヤモンド膜は、高品質のダイヤモンドが得られるものの、形成速度がμm/hのオーダーと小さく製作に長時間を要するのが欠点となっている。
一方ボロン含有の導電性ダイヤモンド粒子を導電性基板上に固定した電極は、製造方法については、CVD法に比べて製作時間が短く、大量生産に適している。そこで導電性の基板材料に導電性ダイヤモンド砥粒を強固に接合し、長期間の使用に耐える電極を実現する手段の開発が望まれていた。
【0007】
上記の電極材は一般的に、使用の際に厳しい酸化環境に曝され続けることから、粒子を固定している絶縁材料の劣化による粒子の保持力の低下、固定用のろう材の溶出に伴う粒子と基板間の接触不良による性能低下が避けられない課題となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明は電解による水処理設備の過酷な化学的環境において安定した性能を示す電極材、並びにかかる電極材を高効率で製造可能な方法を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは導電性ダイヤモンド粒子としてボロンドープダイヤモンド粒子を用い、これと導電性金属基板とを化学結合によって接合することで、上記の問題点を効果的に克服できることを知見した。即ちバルクのダイヤモンド粒子と遷移金属製の基板とを直接接触させ、或いは遷移金属粉末を介して接触させた状態で加熱することによって、接触面における固相反応、または接触部近傍における焼結反応によって遷移金属炭化物層が形成され、この中間層を介して、ボロンドープダイヤモンドと遷移金属基板とが強力に接合される。
【0010】
本発明における電極材はバルクの導電性ダイヤモンド粒子が遷移金属製基板の表面に分布され、これらのダイヤモンド粒子と基板面とが遷移金属炭化物層を介して密着接合されていることを特徴とする。従って本発明の要旨は次のとおりである。
【0011】
[1] 周期律表四、五、六族の遷移金属からなり扁平な表面を有する基板、及び該基板表面上に密着接合された単層 又は複数層の導電性のダイヤモンド粒子を有し、かつ上記基板表面と該表面に隣接配置された導電性ダイヤモンド粒子とが遷移金属炭化物を介して接合されていることを特徴とする導電性ダイヤモンド電極。
【0012】
また本発明の電極材は本質的に次の各段階を有する方法によって効率的に製造され、以下の方法も本発明の一側面を構成する。
【0013】
[2] 周期律表四、五、六族の遷移金属からなり扁平な表面を有する基板材を高融点金属材製の容器内に置き、該表面に接してさらに導電性ダイヤモンド粉体を配置して固定し、処理圧力温度に加圧加熱することにより上記基板表面と隣接導電性ダイヤモンド粒子との間に生じた金属炭化物を介して両者を接合することを特徴とする導電性の向上した導電性ダイヤモンド電極の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明電極材は、導電性ダイヤモンド粒子と遷移金属基板とが化学結合によって接合していることから、基板とダイヤモンド粒子との間の電気的な接触抵抗はなく、安定した長期間の稼働が可能である。
【0015】
またダイヤモンド粒子と基板との接合に結合材を要しないことから、本発明の電極材を用いても処理水に溶け出す金属イオンはなく、事故などにより偶発的に溶け出すことがあっても生体に危害を及ぼすことはない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は本発明による電極材の一構成例を示した説明図である。
【
図2】
図2は本発明による電極材の一部分の詳細を示す説明図である。
【
図3】
図3は本発明による電極材製法における材料の配置例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の電極材1の作用面は、遷移金属から成る基板2と、その表面に分布・固着されたバルクの導電性ダイヤモンド粒子3とで構成されている。ダイヤモンド粒子の形状は様々であり従ってその製造工程におけるダイヤモンド粒子と基板表面との接触状態も粒子ごとに異なるが、しかしいずれもダイヤモンド粒子3が基板2の表面と密着状態で加圧加熱されることにより、基板表面にダイヤモンドから炭素原子が供給されて遷移金属の炭化物層4が形成される。従ってダイヤモンド3と遷移金属炭化物層4とは連続しており、遷移金属炭化物層は遷移金属とも連続していることから、導電性ダイヤモンド粒子と遷移金属基板との化学結合による強固な接合が得られる。
ボロンドープダイヤモンド粒子の固定に遷移金属粉末を用いる際に、金属粉末と金属基板材料とが別種の遷移金属であっても、粉末と基板とは固相反応による合金化により強固な接合が形成される。
【0018】
電極として用いる導電性ダイヤモンド粒子としては、ホウ素をドープした高圧・高温合成ダイヤモンドが入手の容易さから好ましく、粒子サイズは取扱いの容易さから20~300μmの範囲が好ましい。
【0019】
基板上に接合されるボロンドープダイヤモンド粒子は単一層の場合が多いことから、電極の作用面積を増加させる手段として、予めレーザービーム加工などの方法で基板表面に溝切り加工や穴あけ加工などの方法を用いてパターン形成するのが有効である。
【0020】
基板表面に散布したボロンドープダイヤモンド粒子が、充填カプセルの取り扱いの段階で移動や偏りを生じて基板上における分布が不均一になるのを防ぐ手段の一つとして、基板表面に目開き250μm程度のチタン製金網を予め貼り付けておくのが有効である。
【0021】
基板上にボロンドープダイヤモンド粒子を高密度で固定する方法としては、基板全面に有機接着剤を塗布してダイヤモンド粒子を載せ、圧縮した状態で乾燥し、付着しなかった粒子を除いて反応カプセル内に装填する。この際に隣り合った基板との間には黒鉛シートまたはセラミックスシートを挟み、基板間の溶着を防止することで、複数枚の基板をカプセルへ仕込むことができる。このカプセルは加圧・焼結反応に先立って不活性雰囲気中で500℃程度に加熱し、揮発成分の除去、ならびに有機物成分を炭化しておくことが好ましい。
【0022】
本発明において使用する遷移金属はTi、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo及びWが好適で、これらの金属種から選ばれる一種又は複数種を組成又は配合して利用することができる。これらの金属は炭素との化合性が強いため、両材を隣接配置して加熱することによりダイヤモンドの基板金属材の表面に炭化物層が形成される。
【0023】
本発明においてダイヤモンド粒子は遷移金属の基板面に加圧密着下で加熱される。この操作によってダイヤモンドの炭素原子が基板材中へ拡散して炭化物を形成するので、ダイヤモンド粒子と基板材との間に強力な接合が生じる。加熱によって、基板面が部分的に溶融又は軟化した状態で加圧されるとダイヤモンド粒子の基板側の端部が基板にめり込み乃至埋没し(圧入・嵌入)基板材によって包み込まれることになるので、埋没した両材の接触面ではさらに密で強力な接合が得られる。
【0024】
導電性のダイヤモンドは複数の供給元からボロンドープダイヤモンドとして、各様のサイズの製品が市販されており、本発明ではこれらのダイヤモンド材を利用することができる。
【0025】
加熱処理温度としては基板の金属材が軟化乃至部分的に溶融する温度が望ましいが、炭化物形成反応は固相間でも進行することから必須ではなく、例えばTiについては1000℃以上で効果が認められる。加圧条件についてはこのような温度においてダイヤモンドが熱力学的に安定な領域の超高圧条件で好適な電極材を得ることができるが、長時間の加熱を必要としないことから、ダイヤモンドが熱力学的に準安定な圧力温度条件下でも良好な製品を得ることができる。後者の処理にはHIP、ホットプレス、プラズマ放電などによる焼結方法が利用可能である。
【0026】
加圧操作及び加熱操作はどちらを先行させてもよく、例えばダイヤモンド粒子を基板に圧入(嵌入)させてから加熱しても、或いは加熱軟化させてから嵌入させることも可能である。
【0027】
以下に本発明を実施例によって説明する。
【実施例0028】
厚さ0.15mmのニオブ薄板製の外径63mm、深さ6mmのカプセル11を用意し、
図3に概略示すように底部から次の充填順序で反応材料を充填し、厚さ約2mmの加圧・加熱試料を製作した。
カプセル11の底に底板として厚さ0.5mmのチタン板12を敷いてその上に粒径45μm以下のチタン粉(トーホーテック社製TC-450)13を2g散布し、さらに粒径約50μmのボロンドープダイヤモンド(ZZDM Superabrasives社製、以下同様) #270/325、14を20g入れ、厚さ0.5mmのチタン板15で蓋をした。この充填されたカプセルを5.5 GPa、1300℃の圧力・温度条件に10分間保持した。
【0029】
取り出した反応生成物は未焼結のダイヤモンド粉の存在によって底板部と蓋部とに分離することができ、底板部では焼結チタン粉によってダイヤモンド粒子が固定されていることが認められた。一方蓋部はほぼ一層のダイヤモンド粒子がめり込んだチタン板として回収された。チタン板の厚さは約0.5mmであり、ダイヤモンド粒子とチタン板との間の結合は強固で、アルミナ砥石を用いた研削作業においても砥粒の脱落は認められず、炭化チタンを介した化学結合が生じていると認められた。
【0030】
得られたチタン板からワイヤーカツト加工によって30mm角の板を切り出し、オゾン発生用の電極として耐久テストを行った。陰極は30mm角のSUS板とし、中間に厚さ0.2mmのナフィオン膜を挟んで固定した。
【0031】
このセットを水道水中に沈めて8Vの電圧を加えると、1.5Aの電流が流れ、オゾン臭のガス発生を確認した。1000時間の連続運転後も電圧上昇、電流低下の現象は認められず、またダイヤモンド粒子の脱落もなく、十分な耐久性を有していることが認められた。
この充填されたカプセルを5.5GPa、1300℃の圧力・温度条件に10分間保持した。回収品は間に挟んだグラファイト板の個所で上下に外れ、ダイヤモンド粒子が炭化チタンを介して接合したニオブ板、ダイヤモンド粒子が埋め込まれたチタン板として回収できた。