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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022069979
(43)【公開日】2022-05-12
(54)【発明の名称】シートベルト用リトラクタ
(51)【国際特許分類】
   B60R 22/28 20060101AFI20220502BHJP
   B60R 22/46 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
B60R22/28 107
B60R22/46 128
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020178963
(22)【出願日】2020-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000117135
【氏名又は名称】芦森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 真生
(72)【発明者】
【氏名】山川 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】石▲崎▼ 貴雄
【テーマコード(参考)】
3D018
【Fターム(参考)】
3D018DA07
(57)【要約】
【課題】ブッシュの強度確保が容易で、かつ、ブッシュの配置の作業性が良好なシートベルト用リトラクを提供する。
【解決手段】一実施形態に係るシートベルト用リトラクタは、巻取ドラム3と、巻取ドラム3の一方の側面に対向して配置されたロック部材と、巻取ドラム3とロック部材5との相対回転により衝撃エネルギーを吸収する衝撃エネルギー吸収部材4を含む。ロック部材5は、巻取ドラム3の回転軸を中心とする筒状の軸支部52を含み、巻取ドラム3は、軸支部52内に挿入されて軸支部52に相対回転可能に支持される突出部35を含む。樹脂製のブッシュ7が、ロック部材5の軸支部52と巻取ドラム3の突出部35との間に設けられている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する一対の側壁を含むハウジングと、
ウエビングを巻き取る、前記一対の側壁の間に前記ウエビングの巻取方向と引出方向に回転可能に収容された巻取ドラムと、
前記巻取ドラムの一方の側面に対向して配置され、前記ウエビングの引出力が所定値未満の場合に前記巻取ドラムに対して相対回転不能となり、前記ウエビングの引出力が前記所定値を超える場合に前記巻取ドラムに対して相対回転可能となるように前記巻取ドラムに結合された、緊急時に前記ハウジングに対するウエビング引出方向への回転が阻止されるロック部材と、
前記巻取ドラムと前記ロック部材との間に設けられて、前記巻取ドラムと前記ロック部材との相対回転により衝撃エネルギーを吸収する衝撃エネルギー吸収部材と、を備え、
前記ロック部材は、前記巻取ドラムの回転軸を中心とする筒状の軸支部を含み、
前記巻取ドラムは、前記軸支部内に挿入されて前記軸支部に相対回転可能に支持される突出部を含み、
樹脂製のブッシュが、前記ロック部材の前記軸支部と前記巻取ドラムの前記突出部との間に設けられていることを特徴とするシートベルト用リトラクタ。
【請求項2】
前記ブッシュには、径方向内向きまたは径方向外向きに突出する複数のリブが周方向に分散して設けられている、請求項1に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項3】
前記巻取ドラムには、当該巻取ドラムの回転軸を中心とする、前記突出部の先端面から窪む凹部が設けられており、
前記ロック部材は、前記突出部の先端面と対向する円盤部と、前記凹部内に位置するように前記円盤部から突出するボス部を含む、請求項1または2に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項4】
前記ボス部の外周面には、雄ネジが形成されており、
前記巻取ドラムに対して前記巻取ドラムの軸方向に移動可能、かつ、前記巻取ドラムに対して相対回転不能に前記凹部内に嵌合するとともに、前記雄ネジに螺合するストッパーナットをさらに備える、請求項3に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項5】
前記巻取ドラムには、当該巻取ドラムの他方の側面側に底を有する中心穴が設けられており、
前記衝撃エネルギー吸収部材は、前記中心穴内に挿入され、その一端側が前記中心穴の底で前記巻取ドラムに対して相対回転不能に結合されたトーションバーであり、
前記ボス部は環状であり、前記トーションバーの他端側が前記ロック部材に対して相対回転不能に前記ボス部内に嵌合している、請求項4に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項6】
前記トーションバーは、前記ロック部材の円盤部を貫通して延びており、
前記トーションバーにおける前記ロック部材の円盤部から張り出す部分には、前記ロック部材を保持するためのEリングが装着されており、
前記Eリングは、前記ロック部材を前記巻取ドラムに押し付けるように湾曲した形状を有する、請求項5に記載のシートベルト用リトラクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃エネルギー吸収部材を含むシートベルト用リトラクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両衝突時などの緊急時にウエビングの引き出しを防止するシートベルト用リトラクタが知られている。シートベルト用リトラクタでは、ウエビングを巻き取る巻取ドラムがハウジングの一対の側壁の間に回転可能に収容される。
【0003】
一般的に、シートベルト用リトラクタは、緊急時に乗員の体に作用する衝撃エネルギーを吸収する衝撃エネルギー吸収部材を含む。衝撃エネルギー吸収部材は、巻取ドラムと、巻取ドラムの一方の側面に対向して配置されたロック部材との間に設けられる。ロック部材は、緊急時にウエビング引出方向への回転が阻止されるものであり、ウエビングの引出力が所定値未満の場合に巻取ドラムに対して相対回転不能となり、ウエビングの引出力が所定値を超える場合に巻取ドラムに対して相対回転可能となるように巻取ドラムに結合される。
【0004】
例えば、衝撃エネルギー吸収部材はトーションバーである。トーションバーは、ウエビングの引出力が所定値を超えるときのロック部材と巻取ドラムとの相対回転によって捩れて塑性変形し、これにより衝撃エネルギーが吸収される。
【0005】
例えば、特許文献1に開示されたシートベルト用リトラクタでは、巻取ドラム(特許文献1では「ボビン」と称呼)に、ロック部材と反対の側面側に底を有する中心穴が設けられ、その中心穴内にトーションバーが挿入されている。トーションバーの一端部は巻取ドラムの中心穴の底で巻取ドラムと結合され、他端部はロック部材に結合されている。
【0006】
さらに、特許文献1のシートベルト用リトラクタでは、巻取ドラムのロック部材側の側面に、中心穴よりも大径の嵌合凹部が設けられ、ロック部材には、その嵌合凹部に軸支される筒状のボス部(ボス部内にはトーションバーが挿通)が設けられている。嵌合凹部の内周面とボス部の外周面との間には、摺動性を高めるためにブッシュが設けられている。これにより、ロック部材と巻取ドラムとの相対回転時の摩擦抵抗を小さくして衝撃エネルギー吸収時の荷重を安定させると共に、ボス部と嵌合凹部との間のガタツキを吸収して異音の発生を防止している。
【0007】
また、特許文献2に開示されたシートベルト用リトラクタでは、特許文献1と同様に、巻取ドラムのロック部材側の側面に、トーションバーが挿入される中心穴よりも大径の嵌合凹部が設けられている。ロック部材(特許文献2では「パウルホルダ」と称呼)には、巻取ドラムの嵌合凹部内に挿入される筒状のボス部(特許文献2では「カラム」と称呼)が設けられている。ボス部の外周面には雄ネジが形成されており、この雄ネジにストッパーナット(特許文献2では「ストッパ部材」と称呼)が螺合している。ストッパーナットは、巻取ドラムの嵌合凹部内に相対回転不能かつ軸方向に移動可能に嵌合しており、衝撃エネルギー吸収時のロック部材と巻取ドラムとの相対回転により軸方向に移動してロック部材のフランジに当接することで、それ以上のロック部材と巻取ドラムとの相対回転を規制する。つまり、ストッパーナットのストロークによって、ロック部材と巻取ドラムとの相対回転数(ウエビングの引出量)が定められる。
【0008】
さらに、特許文献2のシートベルト用リトラクタでは、ボス部の先端に筒状部を設け、この筒状部と嵌合凹部の内周面との間にブッシュを設けたり(特許文献2の図10参照)、ボス部の先端部の外周面と嵌合凹部の内周面との間に樹脂やゴム製のリング部材を設けてボス部の振動による異音発生を防止したり(特許文献2の図11参照)している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3689515号公報
【特許文献2】特許第4006827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1のシートベルト用リトラクタのように巻取ドラムの嵌合凹部内にブッシュを設ける場合、巻取ドラムの強度の点から嵌合凹部の直径をあまり大きくできず、ブッシュの内径が比較的小さくなる。それ故、ブッシュの幅や厚みを大きくすることができず、ブッシュの強度確保が困難となる場合がある。
【0011】
また、特許文献2のシートベルト用リトラクタのように、ボス部の先端に設けられた筒状部と嵌合凹部の内周面との間にブッシュを設けた場合、嵌合凹部の断面形状はストッパーナットを相対回転不能かつ軸方向に移動可能に内嵌するために非円形であるので、ブッシュの外周面の形状も非円形となり、ブッシュの組付けには位置合わせが必要となる。しかも、ブッシュを嵌合凹部の奥に配置する必要があるため、作業性が悪い。
【0012】
そこで、本発明は、ブッシュの強度確保が容易で、かつ、ブッシュの配置の作業性が良好なシートベルト用リトラクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために、本発明のシートベルト用リトラクタは、互いに対向する一対の側壁を含むハウジングと、ウエビングを巻き取る、前記一対の側壁の間に前記ウエビングの巻取方向と引出方向に回転可能に収容された巻取ドラムと、前記巻取ドラムの一方の側面に対向して配置され、前記ウエビングの引出力が所定値未満の場合に前記巻取ドラムに対して相対回転不能となり、前記ウエビングの引出力が前記所定値を超える場合に前記巻取ドラムに対して相対回転可能となるように前記巻取ドラムに結合された、緊急時に前記ハウジングに対するウエビング引出方向への回転が阻止されるロック部材と、前記巻取ドラムと前記ロック部材との間に設けられて、前記巻取ドラムと前記ロック部材との相対回転により衝撃エネルギーを吸収する衝撃エネルギー吸収部材と、を備え、前記ロック部材は、前記巻取ドラムの回転軸を中心とする筒状の軸支部を含み、前記巻取ドラムは、前記軸支部内に挿入されて前記軸支部に相対回転可能に支持される突出部を含み、樹脂製のブッシュが、前記ロック部材の前記軸支部と前記巻取ドラムの前記突出部との間に設けられていることを特徴とする。
【0014】
上記の構成によれば、ロック部材の軸支部と巻取ドラムの突出部との間にブッシュが設けられているので、それらの摺動性を向上させることができる。これにより、衝撃エネルギー吸収時の荷重を安定させることができる。しかも、ブッシュは樹脂製であるので、軸支部内での突出部のガタツキによる異音発生を防止することができる。
【0015】
さらに、ブッシュはロック部材の筒状の軸支部内に設けられるので、特許文献1のように巻取ドラムの嵌合凹部内にブッシュを設けるよりもブッシュの内径を大きくでき、ブッシュの強度確保が容易になる。また、特許文献2のようにストッパーナットを設ける場合でも、ブッシュの形状はストッパーナットと嵌合する凹部の断面形状が複雑になることに影響を受けず、特許文献2のようにブッシュを凹部の奥に配置する必要もないので配置の作業性が良好である。
【0016】
前記ブッシュには、径方向内向きまたは径方向外向きに突出する複数のリブが周方向に分散して設けられてもよい。この構成によれば、ブッシュが軸支部の内周面と突出部の外周面の双方に全面に亘って面接触する構成に比べて、より優れた摺動性を得ることができる。特に、ブッシュのリブの高さを、当該ブッシュと軸支部の内周面または突出部の外周面との間のクリアランスよりも大きくすれば、ロック部材の軸支部と巻取ドラムの突出部とを組付ける際にブッシュの突出部の先端が変形する。これにより、ブッシュをロック部材の軸支部と巻取ドラムの突出部との間にガタなく組付けることができ、軸支部内での突出部のガタツキによる異音発生を防止することができる。
【0017】
例えば、前記巻取ドラムには、当該巻取ドラムの回転軸を中心とする、前記突出部の先端面から窪む凹部が設けられており、前記ロック部材は、前記突出部の先端面と対向する円盤部と、前記凹部内に位置するように前記円盤部から突出するボス部を含んでもよい。
【0018】
前記ボス部の外周面には、雄ネジが形成されており、上記のシートベルト用リトラクタは、前記巻取ドラムに対して前記巻取ドラムの軸方向に移動可能、かつ、前記巻取ドラムに対して相対回転不能に前記凹部内に嵌合するとともに、前記雄ネジに螺合するストッパーナットをさらに備えてもよい。この構成によれば、ストッパーナットのストロークによって、ロック部材と巻取ドラムとの相対回転数(ウエビングの引出量)を定めることができる。
【0019】
例えば、前記巻取ドラムには、当該巻取ドラムの他方の側面側に底を有する中心穴が設けられており、前記衝撃エネルギー吸収部材は、前記中心穴内に挿入され、その一端側が前記中心穴の底で前記巻取ドラムに対して相対回転不能に結合されたトーションバーであり、前記ボス部は環状であり、前記トーションバーの他端側が前記ロック部材に対して相対回転不能に前記ボス部内に嵌合してもよい。
【0020】
前記トーションバーは、前記ロック部材の円盤部を貫通して延びており、前記トーションバーにおける前記ロック部材の円盤部から張り出す部分には、前記ロック部材を保持するためのEリングが装着されており、前記Eリングは、前記ロック部材を前記巻取ドラムに押し付けるように湾曲した形状を有してもよい。この構成によれば、Eリングによって巻取ドラムの軸方向におけるロック部材のガタツキを防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ブッシュの強度確保が容易で、かつ、ブッシュの配置の作業性が良好なシートベルト用リトラクが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係るシートベルト用リトラクタの斜視図である。
図2図1に示すシートベルト用リトラクタの分解斜視図である。
図3図1に示すシートベルト用リトラクタの分解斜視図である。
図4】ハウジングユニットの分解斜視図である。
図5】巻取ドラムユニットの分解斜視図である。
図6】巻取ドラムユニットの分解斜視図である。
図7】巻取ドラムユニットの一部断面側面図である。
図8図7のVIII-VIII線に沿った断面図である。
図9図7のIX-IX線に沿った断面図である。
図10】変形例のシートベルト用リトラクタにおける巻取ドラムユニットの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1図3に、本発明の一実施形態に係るシートベルト用リトラクタ1を示す。このシートベルト用リトラクタ1は、車両衝突時などの緊急時にシートベルトであるウエビング10の引き出しを防止するものである。
【0024】
具体的に、シートベルト用リトラクタ1は、ハウジングユニット1Aと、巻取ドラムユニット1Bと、プリテンショナーユニット1Cと、ロックユニット1Dと、巻取バネユニット1Eを含む。
【0025】
以下、説明の便宜上、巻取ドラムユニット1Bの軸方向を左右方向というとともに、左右方向と直交する図1の左下方向を前方、その反対側を後方という。また、左右方向および前後方向と直交する図1の上側を上方、下側を下方という。
【0026】
ハウジングユニット1Aは、図4に示すように、板金製のハウジング21と、ハウジング21に取り付けられた板金製のブラケット25と、ブラケット25に取り付けられた樹脂製のプロテクタ26を含む。プロテクタ26は矩形筒状であり、このプロテクタ26の内側にウエビング10が挿通される。
【0027】
ハウジング21は、断面コ字状に形成されており、車体に固定される、左右方向および前後方向に平行な背板22と、この背板22の左右の両辺から折れ曲がる一対の側壁23,24を含む。側壁23,24は、左右方向で互いに対向している。側壁23,24には、巻取ドラムユニット1Bが挿通される円形の開口23a,24aがそれぞれ設けられている。
【0028】
ブラケット25は、背板22の前端部に取り付けられている。側壁23,24の前辺の下部同士は連結バー27で連結されている。また、側壁23,24の後辺の中間部同士は連結バー28で連結されており、後辺の下部同士は連結バー29で連結されている。
【0029】
巻取ドラムユニット1Bは、ウエビング10を巻き取る巻取ドラム3(図2および図3参照)を含む。この巻取ドラム3は、ハウジング21の側壁23,24の間にウエビング10の巻取方向および引出方向に回転可能に収容されている。
【0030】
図1図3に示すように、ハウジング21の右側の側壁23には上述したプリテンショナーユニット1Cが取り付けられ、左側の側壁24には上述したロックユニット1Dが取り付けられている。上述した巻取バネユニット1Eはロックユニット1Dに取り付けられている。
【0031】
プリテンショナーユニット1Cは、車両衝突時に巻取ドラム3をウエビング巻取方向に回転させるものである。巻取バネユニット1Eは、巻取ドラム3をウエビング巻取方向に付勢するものである。これらのユニット1C,1Eの構成は特許第6047243号公報に詳細に記載されているため、本明細書ではその説明を省略する。
【0032】
巻取ドラムユニット1Bは、巻取ドラム3の左側の側面に対向して配置されたロック部材5を含む。本実施形態では、ロック部材5にラチェットギヤ52aが形成されており、そのラチェットギヤ52aに係合可能なパウル11がハウジング21の左側の側壁24に揺動可能に取り付けられている。
【0033】
より詳しくは、パウル11は、図4に示すように、側壁24の内側(右側)に位置するベース部11aと、ベース部11aから左向きに突出する筒状のボス部11bと、ベース部11aの前方に位置する、ベース部11aよりも肉厚の爪部11cと、爪部11cから左向きに突出するピン11dを含む。
【0034】
ハウジング21の側壁24には、開口24aから前方に向かって斜め下向きに延びる切欠き24bが設けられており、この切欠き24bにパウル11の爪部11cが挿入されている。また、側壁24には、切欠き24bの直ぐ後ろ側に円形の貫通穴24dが設けられており、この貫通穴24d内にパウル11のボス部11bが嵌合している。ボス部11bには中心穴が設けられており、その中心穴に側壁24の左側からパウルリベット12の軸部が嵌合している。
【0035】
さらに、側壁24の左側には、パウル11と一体的に揺動する操作片13が配置されている。操作片13には、パウルリベット12の頭部と嵌合する嵌合穴13aと、パウル11のピン11dに挿通される貫通穴13bが設けられている。さらに、操作片13には、左向きに突出するピン13cが設けられており、このピン13cに捩りバネ14の一端14bが係合している。捩りバネ14は、操作片13を介してパウル11を下向きに付勢するためのものである。
【0036】
また、側壁24には、開口24aの下方に、略矩形の開口24cが設けられている。この開口24cにはセンサカバー16が挿入され、センサカバー16内には車両センサ15が配置されている。車両センサ15は、車両の加速度が大きく変化したこと(第1緊急時(例えば、車両衝突時))を検知するためのものである。
【0037】
図示は省略するが、ロックユニット1Dは、ウエビング10が急激に引き出されたこと(第2緊急時)を検知するためのウエビングセンサを内蔵する。ロックユニット1Dは、ウエビングセンサまたは車両センサ15によって緊急時が検知されたときに、パウル11を上向きに揺動させてパウル11の爪部11cをロック部材5のラチェットギヤ52aに係合させ、ハウジング21に対するロック部材5のウエビング引出方向への回転を阻止する。
【0038】
より詳しくは、ロックユニット1Dは、当該ロックユニット1D内で所定角度だけ回転するクラッチを含み、このクラッチに捩りバネ14の他端14aが係合している。なお、ロックユニット1Dの構成は特許第6509634号公報に詳細に記載されているため、本明細書ではロックユニット1Dについてのこれ以上の説明は省略する。
【0039】
次に、図5図9を参照して、巻取ドラムユニット1Bについて詳細に説明する。巻取ドラムユニット1Bは、上述した巻取ドラム3およびロック部材5の他に、衝撃エネルギー吸収部材4、ストッパーナット6、ブッシュ7およびEリング8を含む。
【0040】
衝撃エネルギー吸収部材4は、巻取ドラム3とロック部材5との間に設けられ、巻取ドラム3とロック部材5との相対回転により、緊急時に乗員の体に作用する衝撃エネルギーを吸収する。この衝撃エネルギー吸収部材4を介してロック部材5が巻取ドラム3に結合されることで、ロック部材5は、ウエビング10の引出力が所定値α未満の場合に巻取ドラム3に対して相対回転不能となり、ウエビング10の引出力が所定値αを超える場合に巻取ドラム3に対して相対回転可能となっている。
【0041】
巻取ドラム3には、プリテンショナーユニット1C側である右側の側面側に底を有する中心穴38が設けられている。本実施形態では、衝撃エネルギー吸収部材4がその中心穴38内に挿入されたトーションバー4Aである。上述した所定値αは、トーションバー4Aが捩れて塑性変形するときの荷重である。
【0042】
より詳しくは、巻取ドラム3は、アルミニウム合金などのダイキャストにより製造されたものであり、中空のドラム本体31と、ドラム本体31の両端部から径方向外向きに広がる一対のフランジ32,33と、プリテンショナーユニット1C側である右側でドラム本体31の内部を閉塞する底壁36を含む。さらに、巻取ドラム3は、右側のフランジ32から右向きに突出する周壁34と、ドラム本体31の左側の端面(フランジ33の外側面と面一の面)から左向きに突出する突出部35を含む。
【0043】
周壁34は巻取ドラム3の中心軸を中心とする筒状であり、周壁34の内径はドラム本体31の外径よりも大きい。周壁34の内周面にが、プリテンショナーユニット1Cから回転力を受けるギヤ34aが形成されている。突出部35の輪郭は、巻取ドラム3の中心軸を中心とする円形であり、突出部35の輪郭の直径は、ドラム本体31の外径よりも小さい。
【0044】
さらに、巻取ドラム3には、当該巻取ドラム3の回転軸を中心とする、突出部35の先端面から窪む凹部39が設けられている。このため、突出部35は筒状である。また、底壁36の中心からは、右向きにボス部37が突出している。このボス部37がプリテンショナーユニット1Cに回転可能に支持される。
【0045】
凹部39内には上述したストッパーナット6が挿入され、ロック部材5は、ストッパーナット6および突出部35を覆うような形状を有している。
【0046】
より詳しくは、ロック部材5は、突出部35の先端面と対向する円盤部51と、円盤部51の周縁部から右向きに延びる、巻取ドラム3の回転軸を中心とする筒状の軸支部52と、軸支部52の先端部から径方向外向きに広がるフランジ53を含む。巻取ドラム3の突出部35は、軸支部52内に挿入されて当該軸支部52に相対回転可能に支持される。上述したラチェットギヤ52aは、軸支部52の外周面に形成されている。
【0047】
さらに、ロック部材5には、巻取ドラム3の凹部39内に位置するように円盤部51から右向きに突出する環状のボス部54を含む。ボス部54の外周面には雄ネジ55(図7参照)が形成されており、この雄ネジ55にストッパーナット6が螺合している。
【0048】
ストッパーナット6は、巻取ドラム3に対して巻取ドラムの軸方向に移動可能、かつ、巻取ドラム3に対して相対回転不能に凹部39内に嵌合している。つまり、凹部39の内周面には、巻取ドラム3の軸方向に延びる複数の溝39aが周方向に分散して設けられている。一方、ストッパーナット6には、溝39a内に嵌合する、径方向外向きに突出する複数のリブ61が設けられている。ストッパーナット6の厚さは、凹部39の深さよりも小さい。
【0049】
ストッパーナット6は、衝撃エネルギー吸収時のロック部材5と巻取ドラム3との相対回転により軸方向に移動してロック部材5の円盤部51(ボス部54の基端)に当接することで、それ以上のロック部材5と巻取ドラム3との相対回転を規制する。つまり、ストッパーナット6のストロークによって、ロック部材5と巻取ドラム3との相対回転数(ウエビングの引出量)が定められる。
【0050】
上述したトーションバー4Aは、軸部41と、軸部41の両端部に設けられたスプライン状の連結部42,43を含む。右側の連結部42は巻取ドラム3の中心穴38の底で巻取ドラム3と結合され、左側の連結部42はロック部材5のボス部54と結合されている。つまり、中心穴38の底には連結部42と嵌合する嵌合穴36aが設けられ、ボス部54には連結部43と嵌合する嵌合穴54aが設けられている。連結部42が嵌合穴36a内に嵌合することでトーションバー4Aが巻取ドラム3に対して相対回転不能となり、連結部43が嵌合穴54a内に嵌合することでトーションバー4Aがロック部材5に対して相対回転不能となっている。換言すれば、トーションバー4Aの一端側が中心穴38の底で巻取ドラム3に対して回転不能に結合され、他端側がロック部材5に対して回転不能にボス部54内に嵌合している。
【0051】
ウエビング10の引出力が所定値αを超える場合に、トーションバー4Aの軸部41が捩れて塑性変形することで衝撃エネルギーが吸収され、ロック部材5に対して巻取ドラム3が相対回転する。
【0052】
本実施形態では、トーションバー4Aがロック部材5の円盤部51を貫通して延びる先端部44を含む。この先端部44がロックユニット1Dに回転可能に支持される。なお、トーションバー4Aが先端部44を含まずに、ロックユニット1Dに回転可能に支持される軸部がロック部材5に設けられてもよい。
【0053】
先端部44における円盤部51から張り出す部分には、ロック部材5を保持するためのEリング8が装着されている。つまり、先端部44には、Eリング8との係合用の溝44aが設けられている。Eリング8は湾曲した形状を有しており、先端部44に取り付けられる際に、ロック部材5の円盤部51に当接されつつ溝44aに取り付けられることで弾性変形して、ロック部材5を巻取ドラム3に押し付けた状態で保持する。
【0054】
また、図5及び図6に示すように、巻取ドラム3のドラム本体31にはフランジ32の近傍に、所定深さ窪む取付凹部31aが形成されており、取付凹部31aの底面部には、中心穴38に貫通する取付孔31bが形成されている。
【0055】
図8に示すように、トーションバー4Aの連結部42が中心穴38の嵌合穴36a内に嵌合した状態で、スチール材等により形成された固定ネジ60を取付孔31bにねじ込み、固定ネジ60の先端を連結部42に押し付けることで、連結部42が嵌合穴36a内にガタなく、軸方向に移動不能に結合され、トーションバー4Aが中心穴38内に保持される。
【0056】
上述したロック部材5の軸支部52の内周面と巻取ドラム3の突出部35の外周面との間には、樹脂製のブッシュ7が設けられている。本実施形態では、突出部35が根元側の大径部と先端側の小径部を含み、その小径部がブッシュ7内に嵌合している。
【0057】
ブッシュ7を構成する樹脂は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリアセタールである。本実施形態では、ブッシュ7に、径方向外向きに突出する複数のリブ71が周方向に分散して設けられている。すなわち、ブッシュ7は、突出部35の外周面に面接触し、軸支部52の内周面に複数個所で線接触する。ただし、本実施形態とは逆に、リブ71が径方向内向きに突出してもよい。換言すれば、ブッシュ7は、軸支部52の内周面に面接触し、突出部35の外周面に複数個所で線接触してもよい。
【0058】
また、ブッシュ7のリブ71の高さを、当該ブッシュ7と軸支部52の内周面との間のクリアランスよりも大きくし、ロック部材5の軸支部52と巻取ドラム3の突出部35とを組付ける際にブッシュ7の突出部35の先端が変形するようにしてもよい。これにより、ブッシュ7をロック部材5の軸支部52と巻取ドラム3の突出部35との間にガタなく組付けることが容易にでき、軸支部52内での突出部35のガタツキによる異音発生を防止することができる。なお、リブ71が径方向内向きに突出する場合は、リブ71の高さを、ブッシュ7と突出部35の外周面との間のクリアランスよりも大きくすればよい。
【0059】
以上説明したように、本実施形態のシートベルト用リトラクタ1では、ロック部材5の軸支部52と巻取ドラム3の突出部35との間にブッシュ7が設けられているので、それらの摺動性を向上させることができる。これにより、衝撃エネルギー吸収時の荷重を安定させることができる。しかも、ブッシュ7は樹脂製であるので、軸支部52内での突出部35のガタツキによる異音発生を防止することができる。
【0060】
さらに、ブッシュ7はロック部材5の筒状の軸支部52内に設けられるので、特許文献1のように巻取ドラムの嵌合凹部内にブッシュを設けるよりもブッシュ7の内径を大きくでき、ブッシュ7の強度確保が容易になる。ブッシュ7に作用する応力をσ、巻取ドラム3の突出部35から半径方向に作用する力をF、ブッシュ7の内径をD、ブッシュ7の軸方向長さをLとしたときに、σ=F÷(D×L)であるので、ブッシュ7の内径が大きいと有利である。
【0061】
また、ブッシュ7の形状はストッパーナット6と嵌合する凹部39の断面形状が複雑になることに影響を受けず、特許文献2のようにブッシュを凹部の奥に配置する必要もないので配置の作業性が良好である。
【0062】
さらに、本実施形態では、Eリング8が湾曲した形状を有するので、Eリング8によって巻取ドラム3の軸方向におけるロック部材5のガタツキを防止することができる。
【0063】
(変形例)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0064】
例えば、特許文献1と同様にストッパーナット6は無くてもよい。ただし、ストッパーナット6が在れば、ストッパーナット6のストロークによって、ロック部材5と巻取ドラム3との相対回転数(ウエビングの引出量)を定めることができる。
【0065】
また、プリテンショナーユニット1Cは無くてもよい。この場合、巻取バネユニット1Eがロックユニット1Dと反対側の側壁23に取り付けられてもよい。
【0066】
さらに、ブッシュ7にリブ71が設けられず、ブッシュ7が軸支部52の内周面と突出部35の外周面の双方に全面に亘って面接触してもよい。ただし、ブッシュ7にリブ71が設けられれば、ブッシュ7が軸支部52の内周面と突出部35の外周面の双方に全面に亘って面接触する構成に比べて、より優れた摺動性を得ることができる。
【0067】
また、ロック部材5の構成は、軸支部52以外は適宜変更可能である。例えば、図10に示すような構成のロック部材5’が採用されてもよい。ロック部材5’には軸部56が設けられており、軸部56がロックユニット1Dに回転可能に支持される。このロック部材5’にはラチェットギヤ52aが形成されておらず、特許文献1や特許文献2のようにパウル9が保持されている。パウル9は、緊急時にロックユニット1Dによって、ロック部材5’の輪郭内に位置する退避位置から輪郭外に張り出す突出位置に移動される。この場合、図示は省略するが、ハウジング21の側壁24の開口24aの内周面に内歯のラチェットギヤが形成される。
【0068】
また、衝撃エネルギー吸収部材4は、巻取ドラム3とロック部材5(または5’)の相対回転により衝撃エネルギーを吸収するものであれば、トーションバー4Aに限られない。例えば、衝撃エネルギー吸収部材4は、巻取ドラム3とロック部材5(または5’)の相対回転により曲げ変形されて衝撃エネルギーを吸収するワイヤなどでもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 シートベルト用リトラクタ
10 ウエビング
21 ハウジング
23,24 側壁
3 巻取ドラム
35 突出部
38 中心穴
39 凹部
5,5’ ロック部材
51 円盤部
52 軸支部
54 ボス部
55 ねじ山
4 衝撃エネルギー吸収部材
4A トーションバー
6 ストッパーナット
7 ブッシュ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10