(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022007003
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】免震装置およびこれを備えた免震構造物
(51)【国際特許分類】
F16F 15/04 20060101AFI20220105BHJP
F16F 1/18 20060101ALI20220105BHJP
F16F 1/40 20060101ALI20220105BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
F16F15/04 E
F16F15/04 P
F16F1/18 Z
F16F1/40
E04H9/02 331A
E04H9/02 331E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020109633
(22)【出願日】2020-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 宏一
(72)【発明者】
【氏名】田中 栄次
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J059
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AD03
2E139CA02
2E139CA24
2E139CB04
2E139CB05
2E139CB07
2E139CB20
2E139CC11
3J048AA03
3J048BA08
3J048BC04
3J048BG04
3J048EA38
3J059AA04
3J059AC01
3J059BA11
3J059BA43
3J059BB09
3J059DA16
3J059GA42
(57)【要約】
【課題】地震の規模に応じて段階的に応答変位を抑制することができる免震装置およびこれを備えた免震構造物を提供する。
【解決手段】積層ゴム14と、積層ゴム14の下端に固定されたシアキー16と、シアキー16を囲むように間隔をあけて設けられた複数の円筒状のリンク18と、隣り合うリンク18間に設けられるとともにリンク18どうしを離す方向に付勢する板ばね20と、最外側のリンク18の外方向への移動を規制するためにこのリンク18の外側に配置された規制体24を備えるようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層ゴムと、前記積層ゴムの下端に配置されたシアキーと、前記シアキーを囲むように間隔をあけて設けられた複数の円筒状のリンクと、隣り合う前記リンク間に設けられるとともに前記リンクどうしを離す方向に付勢する板ばねと、最外側の前記リンクの外方向への移動を規制するために前記リンクの外側に配置された規制体を備えることを特徴とする免震装置。
【請求項2】
前記積層ゴムの過大な変位を制限するための変位制限治具が前記積層ゴムの外側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の免震装置。
【請求項3】
前記シアキーと、最内側に設けられる前記リンクの間に隙間が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の免震装置。
【請求項4】
前記シアキーは、上部躯体に固定された前記積層ゴムから下側に向けて突出するとともに下部躯体の上面に対して滑動可能に当接していることを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の免震装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一つに記載の免震装置を備えることを特徴とする免震構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置およびこれを備えた免震構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、免震建物は積層ゴム等の免震装置を使って建物の固有周期を伸ばすことにより、地震入力の低減を図る構造として知られている。応答加速度を大きく低減でき、地震時の家具の転倒抑制などにも有効である。
【0003】
しかし、近年、大きな地震波形が観測されることが多く、免震建物の変位が設計想定値よりも大きくなって擁壁に衝突するという懸念が提起されている。さらに、最近は長周期長時間地震動への対策も必要とされてきており、周期を伸ばすだけではなく、さらなる変位抑制を図ることが重要となってきている。
【0004】
変位抑制に着目すれば、ダンパーなどを大量に設定して減衰を増やすことや、擁壁への衝突を回避するためのストッパーを設けることなどが有効である。しかし、これらの対策は建物の短周期化につながり、免震構造が持つ長周期化による応答加速度低減とは相反する。このようなことから、応答加速度低減効果を損なわずに、応答変位を抑制するような構造が求められている。
【0005】
応答加速度低減効果を損なわずに、応答変位を抑制するような従来の装置としては、例えば特許文献1に示すような装置が知られている。また、例えば特許文献2~4に示すような硬化型装置と回転慣性装置を組み合わせた装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-096501号公報
【特許文献2】特開2017-003089号公報
【特許文献3】特開2017-003090号公報
【特許文献4】特開2019-178532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記の従来の特許文献1等の装置では、応答加速度の低減効果を損なうことなく、地震の規模に応じて段階的に応答変位を抑制することは難しい。このため、このような問題を解決することができる装置が求められていた。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、応答加速度の低減効果を損なうことなく、地震の規模に応じて段階的に応答変位を抑制することができる免震装置およびこれを備えた免震構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る免震装置は、積層ゴムと、前記積層ゴムの下端に配置されたシアキーと、前記シアキーを囲むように間隔をあけて設けられた複数の円筒状のリンクと、隣り合う前記リンク間に設けられるとともに前記リンクどうしを離す方向に付勢する板ばねと、最外側の前記リンクの外方向への移動を規制するために前記リンクの外側に配置された規制体を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他の免震装置は、上述した発明において、前記積層ゴムの過大な変位を制限するための変位制限治具が前記積層ゴムの外側に設けられていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る他の免震装置は、上述した発明において、前記シアキーと、最内側に設けられる前記リンクの間に隙間が設けられていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る他の免震装置は、上述した発明において、前記シアキーは、上部躯体に固定された前記積層ゴムから下側に向けて突出するとともに下部躯体の上面に対して滑動可能に当接していることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る免震構造物は、上述した免震装置を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る免震装置によれば、積層ゴムと、前記積層ゴムの下端に配置されたシアキーと、前記シアキーを囲むように間隔をあけて設けられた複数の円筒状のリンクと、隣り合う前記リンク間に設けられるとともに前記リンクどうしを離す方向に付勢する板ばねと、最外側の前記リンクの外方向への移動を規制するために前記リンクの外側に配置された規制体を備えるので、小規模地震時には、積層ゴムがせん断変形して免震効果を発揮する。一方、大規模地震時には、積層ゴム下部のシアキーが水平方向に変位し、リンクに接触してリンク間隔が接近し、この間の板ばねがリンクを離す方向に弾性的に付勢する。これによりシアキーに反力が作用するため、任意の水平方向変位に有効に対応することができる。したがって、応答加速度の低減効果を損なうことなく、地震の規模に応じて段階的に応答変位を抑制することができるという効果を奏する。
【0015】
また、本発明に係る他の免震装置によれば、前記積層ゴムの過大な変位を制限するための変位制限治具が前記積層ゴムの外側に設けられているので、積層ゴムの過大な変位を制限することができるという効果を奏する。
【0016】
また、本発明に係る他の免震装置によれば、前記シアキーと、最内側に設けられる前記リンクの間に隙間が設けられているので、シアキーの変位が隙間よりも小さい微小変位であれば最内側のリンクに接触しない。このため、微小変位時に機能を発揮させないようにすることができるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係る他の免震装置によれば、前記シアキーは、上部躯体に固定された前記積層ゴムから下側に向けて突出するとともに下部躯体の上面に対して滑動可能に当接しているので、上部躯体から下部躯体に軸力を伝達しつつ、水平の任意方向の変位に有効に対応することができるという効果を奏する。
【0018】
また、本発明に係る免震構造物によれば、上述した免震装置を備えるので、応答加速度の低減効果を損なうことなく、地震の規模に応じて段階的に応答変位を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明に係る免震装置の実施の形態を示す側断面図である。
【
図3】
図3は、
図1のB-B線に沿った平断面図であり、(1)は実施例1、(2)は実施例2である。
【
図4】
図4は、本実施の形態に係る免震装置で得られる復元力特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る免震装置およびこれを備えた免震構造物の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0021】
図1および
図2に示すように、本発明の実施の形態に係る免震装置10は、上層の梁12(上部躯体)に固定された積層ゴム14と、積層ゴム14の下側に固定されたシアキー16と、シアキー16の外側周囲に間隔をあけて設けられた複数の円筒状のリンク18と、板ばね20と、下層の梁22(下部躯体)に固定された規制体24とを備える。シアキー16と、リンク18と、板ばね20と、規制体24からなる機構を硬化型装置と呼ぶものとする。
【0022】
積層ゴム14は、ゴム層と鋼板とを上下方向に複数積層した円柱状のものである。積層ゴム14は梁12の下面にプレート26を介して固定される。積層ゴム14の外側には、積層ゴム14の過大な変位を制限するための変位制限治具28が積層ゴム14から間隔をあけて設けられている。変位制限治具28は、ボルト30でプレート26に固定された水平プレート32と、水平プレート32の下面から突出する直角三角状の鉛直プレート34からなる。鉛直プレート34の斜辺は、側面視で下に行くにしたがって積層ゴム14から離れるように傾斜し、平面視で積層ゴム14の中心から放射方向に延びている。変位制限治具28は、周方向に間隔をあけて4つ以上配置することが望ましい。例えば、
図3(1)に示すように、積層ゴム14を中心とする円の周方向に等間隔に4つ配置してもよいし、
図3(2)に示すように、8つ配置してもよい。
【0023】
シアキー16は、積層ゴム14の下面に設けたプレート26から鉛直下方に突出した円柱状の部材である。シアキー16の上端の外周面からは、鍔状の押え板36が水平に張り出している。この押え板36は、リンク18の上下方向の動きを抑えるためのものである。シアキー16の下面は、下層の躯体22Aの上面に固定された滑り板38に当接している。したがって、シアキー16は、上層の梁12から積層ゴム14を介して下層の躯体22Aに軸力を伝達しつつ、滑り板38に沿って水平方向に滑動可能である。このように、シアキー16は、上部の軸力を支持する滑り支承を構成する。なお、シアキー16の下面はこのような配置に限るものではなく、隙間を設けて下層の躯体22Aから浮かせて配置してもよい。
【0024】
リンク18は、シアキー16の軸線Zと略同軸状に配置される鋼製の円筒体であり、滑り板38に沿って水平方向に滑動可能に設けられる。リンク18は、例えば円形鋼管を輪切りにして作製することができる。リンク18は、上方に位置する押え板36によって上下方向の動きが規制されている。また、最外側のリンク18は、規制体24の内周側に固定される。最内側のリンク18とシアキー16との間には、隙間G(ギャップ)が設けられている。シアキー16の水平方向の変位が隙間Gよりも小さい微小変位であれば最内側のリンク18に接触しないので、微小変位時に硬化装置の機能を発揮させないようにすることができる。
【0025】
板ばね20は、隣り合う円筒状のリンク18間の隙間に設けられるとともにリンク18どうしを離す方向に弾性的に付勢する矩形板状のものである。各隙間の板ばね20は、平面視で円の周方向等間隔に4つ設けられている。板ばね20の板面は水平方向を向いており、板面の中心部はボルト40で内側(円の半径方向内側)のリンク18の外周面に固定される。板ばね20の側縁は外側のリンク18の内周面に当接している。なお、板ばね20は、1枚板に限るものではなく、重ね板ばねを用いてもよい。
【0026】
規制体24は、最外側のリンク18の外方向への移動を規制するためのものであり、最外側のリンク18の外側の下層の梁22上に配置される。この規制体24は、ボルト42で梁22上に固定された水平プレート44と、水平プレート44の上面から突出する直角三角状の鉛直プレート46からなる。鉛直プレート46は、梁22の延在方向に延びており、鉛直辺には最外側のリンク18が固定される。規制体24は下層の梁22に固定されるので、規制体24とシアキー16は水平方向(軸線Zの方向と直交する方向)に相対移動可能である。
【0027】
上記構成の動作および作用について説明する。
図4は、上記の免震装置10で得られる復元力特性である。図のギャップは、隙間Gの寸法に対応している。この図に示すように、小規模地震時には、積層ゴム14の作動領域となり、通常の免震構造物と同じような挙動を示す。地震動が大きくなると、積層ゴム14の外側に配置された変位制限治具28によって、積層ゴム14の過大な変形が抑制される。これにより、積層ゴム14が破断するなどの致命的な事象を回避することできる。
【0028】
滑り支承を構成する滑り板38とシアキー16の静的摩擦力を超えた時点で、シアキー16が水平移動して滑り板38上を滑り始める。復元力特性としては荷重を維持しつつ変形が進むこととなる。この作用によって荷重が増えないことにより、免震構造物全体の長周期化にも寄与することができる。
【0029】
さらに地震動が大きくなると、シアキー16が最内側のリンク18に接触して硬化型装置の作動領域となる。この作用により、過大な変位が抑制され、擁壁衝突などの重大な事象を回避することができる。すなわち、シアキー16が最内側のリンク18に接触すると、その外側のリンク18との間隔が狭くなり、さらにその外側のリンク18との間隔が狭くなる。このようにシアキー16が変位した側のリンク18どうしが互いに接近する。すると、これらの間に配置された板ばね20がリンク18を離す方向に弾性的に付勢し、シアキー16に反力が作用する。これにより、シアキー16の任意方向の水平変位に有効に対応することができる。任意方向の地震に対し、応答加速度の低減効果を損なうことなく、地震の規模に応じて段階的に応答変位を抑制することができる。また、硬化型装置は、リンク18と板ばね20による簡単な構成のため、容易に設置することができる。
【0030】
次に、本実施の形態の免震構造物について説明する。
この免震構造物は、免震層に上記の免震装置10を備えた免震建物である。この免震構造物によれば、上記の免震装置10を備えるので、任意方向の地震に対し、応答加速度の低減効果を損なうことなく、地震の規模に応じて段階的に応答変位を抑制することができる。
【0031】
以上説明したように、本発明に係る免震装置によれば、積層ゴムと、前記積層ゴムの下端に配置されたシアキーと、前記シアキーを囲むように間隔をあけて設けられた複数の円筒状のリンクと、隣り合う前記リンク間に設けられるとともに前記リンクどうしを離す方向に付勢する板ばねと、最外側の前記リンクの外方向への移動を規制するために前記リンクの外側に配置された規制体を備えるので、小規模地震時には、積層ゴムがせん断変形して免震効果を発揮する。一方、大規模地震時には、積層ゴム下部のシアキーが水平方向に変位し、リンクに接触してリンク間隔が接近し、この間の板ばねがリンクを離す方向に弾性的に付勢する。これによりシアキーに反力が作用するため、任意の水平方向変位に有効に対応することができる。したがって、応答加速度の低減効果を損なうことなく、地震の規模に応じて段階的に応答変位を抑制することができる。
【0032】
また、本発明に係る他の免震装置によれば、前記積層ゴムの過大な変位を制限するための変位制限治具が前記積層ゴムの外側に設けられている。
【0033】
また、本発明に係る他の免震装置によれば、前記シアキーと、最内側に設けられる前記リンクの間に隙間が設けられているので、シアキーの変位が隙間よりも小さい微小変位であれば最内側のリンクに接触しない。このため、微小変位時に機能を発揮させないようにすることができる。
【0034】
また、本発明に係る他の免震装置によれば、前記シアキーは、上部躯体に固定された前記積層ゴムから下側に向けて突出するとともに下部躯体の上面に対して滑動可能に当接しているので、上部躯体から下部躯体に軸力を伝達しつつ、水平の任意方向の変位に有効に対応することができる。
【0035】
また、本発明に係る免震構造物によれば、上述した免震装置を備えるので、応答加速度の低減効果を損なうことなく、地震の規模に応じて段階的に応答変位を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上のように、本発明に係る免震装置およびこれを備えた免震構造物は、地震に対する応答加速度の低減効果を損なわずに応答変位を抑制する免震構造に有用であり、特に、地震の規模に応じて段階的に応答変位を抑制するのに適している。
【符号の説明】
【0037】
10 免震装置
12 梁(上部躯体)
14 積層ゴム
16 シアキー
18 リンク
20 板ばね
22 梁(下部躯体)
22A 躯体
24 規制体
26 プレート
28 変位制限治具
30,40,42 ボルト
32,44 水平プレート
34,46 鉛直プレート
36 押え板
38 滑り板
G 隙間
Z 軸線