IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 山三商事株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-履物 図1
  • 特開-履物 図2
  • 特開-履物 図3
  • 特開-履物 図4
  • 特開-履物 図5
  • 特開-履物 図6
  • 特開-履物 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070074
(43)【公開日】2022-05-12
(54)【発明の名称】履物
(51)【国際特許分類】
   A43B 13/14 20060101AFI20220502BHJP
   A43B 13/22 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
A43B13/14 A
A43B13/22 A
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020179101
(22)【出願日】2020-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】399010545
【氏名又は名称】山三商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 剛
(72)【発明者】
【氏名】巻渕 文彰
【テーマコード(参考)】
4F050
【Fターム(参考)】
4F050AA01
4F050AA11
4F050BA07
4F050BA46
4F050BA56
(57)【要約】
【課題】踵着地時の荷重を踵の内側で支承することができる履物を提供する。
【解決手段】使用者が歩行する際に接地する底部1の接地面に溝部が設けられた履物であって、前記接地面の踵部21を含む後側領域Aには、前記履物の長軸Lより外側に位置する点Xを中心として湾曲放射状に設けられた第一溝3を複数並設し、前記接地面の前記後側領域Aを除く前側領域Bには、前記履物の長軸Lより内側に位置する点Yを中心として湾曲放射状に設けられた第二溝4を複数並設する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が歩行する際に接地する底部の接地面に溝部が設けられた履物であって、
前記接地面の踵部を含む後側領域には、前記履物の長軸より外側に位置する点Xを中心として湾曲放射状に設けられた第一溝が複数並設され、
前記接地面の前記後側領域を除く前側領域には、前記履物の長軸より内側に位置する点Yを中心として湾曲放射状に設けられた第二溝が複数並設されていることを特徴とする履物。
【請求項2】
使用者が歩行する際に接地する底部の接地面に溝部が設けられた履物であって、
前記接地面の踵部を含む後側領域には、前記履物の長軸より外側に位置する点Xを中心として放射状に設けられた第一溝が複数並設され、
前記接地面の前記後側領域を除く前側領域には、前記履物の長軸より内側に位置する点Yを中心として放射状に設けられた第二溝が複数並設され、
前記後側領域には、前記第一溝と交差する第三溝が複数並設され、この第三溝と前記第一溝とで区画された複数の後側接地ブロックが設けられ、
前記前側領域には、前記第二溝と交差する第四溝が複数並設され、この第四溝と前記第二溝とで区画された複数の前側接地ブロックが設けられていることを特徴とする履物。
【請求項3】
請求項2記載の履物において、前記第一溝は前記点Xを中心として湾曲放射状に設けられていることを特徴とする履物。
【請求項4】
請求項2,3いずれか1項に記載の履物において、前記第二溝は前記点Yを中心として湾曲放射状に設けられていることを特徴とする履物。
【請求項5】
請求項2~4いずれか1項に記載の履物において、隣り合う2つの前記第一溝に挟まれる複数の前記後側接地ブロックの少なくとも一部は、内側に位置するものほど大きくなるように構成されていることを特徴とする履物。
【請求項6】
請求項2~5いずれか1項に記載の履物において、隣り合う2つの前記第二溝に挟まれる複数の前記前側接地ブロックの少なくとも一部は、外側に位置するものほど大きくなるように構成されていることを特徴とする履物。
【請求項7】
請求項1~6いずれか1項に記載の履物において、前記前側領域は、爪先部と中間部とを含むことを特徴とする履物。
【請求項8】
請求項7記載の履物において、前記中間部は、踏付け部と踏まず部の一部とを含むことを特徴とする履物。
【請求項9】
請求項1~8いずれか1項に記載の履物において、前記後側領域の外側寄り部分は、内側寄り部分より硬質となるように構成されていることを特徴とする履物。
【請求項10】
請求項1~9いずれか1項に記載の履物について、前記後側領域の外側寄り部分は、内側寄り部分より厚く形成され、前記接地面が前記後側領域において外側から内側に向かって傾斜するように構成されていることを特徴とする履物。
【請求項11】
請求項1~10いずれか1項に記載の履物において、前記前側領域の内側寄り部分は、外側寄り部分より硬質となるように構成されていることを特徴とする履物。
【請求項12】
請求項1~11いずれか1項に記載の履物において、前記前側領域の内側寄り部分は、外側寄り部分より厚く形成され、前記接地面が前記前側領域において内側から外側に向かって傾斜するように構成されていることを特徴とする履物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、履物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人は靴を履いて歩行する際に、踵側で着地した後、爪先側に向かって靴の外側(小指側)から内側(親指側)の順に着地し、体重(重心)を移動する所謂ローリング動作(あおり動作)をすることが知られている。
【0003】
従って、歩行の際に足裏にかかる重心の移動も、進行方向に向かって直線的ではなく、概ね逆S字の曲線を描くと言われている。
【0004】
これまで、前記ローリング動作を促進し、適正な歩行を提供するため、例えば、特許文献1に開示される靴底構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-29717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される構造は、ローリング動作の促進作用はあっても、足の疲労を軽減するという発想はない。
【0007】
本発明者は、歩行の軌跡を最適化するにあたり一歩の軌跡を詳細に分析したところ、これまでの靴は踵着地時の体重の受け方に改善の余地があることを見出した。
【0008】
すなわち、図7に図示したように、人の足膝下の骨は内側の脛骨Kと外側の腓骨Hとで構成されているが、荷重を受けるのは主に内側の太い脛骨Kであるべきであり、本発明者は、前記ローリング動作により、踵で着地した後に外(腓骨側)で荷重を受けず、内側(脛骨側)で荷重を受けるように構成することで、歩行による疲労をより軽減できる本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、踵着地時の荷重を踵の内側で支承することができる履物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0011】
使用者が歩行する際に接地する底部1の接地面に溝部が設けられた履物であって、
前記接地面の踵部21を含む後側領域Aには、前記履物の長軸Lより外側に位置する点Xを中心として湾曲放射状に設けられた第一溝3が複数並設され、
前記接地面の前記後側領域Aを除く前側領域Bには、前記履物の長軸Lより内側に位置する点Yを中心として湾曲放射状に設けられた第二溝4が複数並設されていることを特徴とする履物に係るものである。
【0012】
また、使用者が歩行する際に接地する底部1の接地面に溝部が設けられた履物であって、
前記接地面の踵部21を含む後側領域Aには、前記履物の長軸Lより外側に位置する点Xを中心として放射状に設けられた第一溝3が複数並設され、
前記接地面の前記後側領域Aを除く前側領域Bには、前記履物の長軸Lより内側に位置する点Yを中心として放射状に設けられた第二溝4が複数並設され、
前記後側領域Aには、前記第一溝3と交差する第三溝5が複数並設され、この第三溝5と前記第一溝3とで区画された複数の後側接地ブロック7が設けられ、
前記前側領域Bには、前記第二溝4と交差する第四溝6が複数並設され、この第四溝6と前記第二溝4とで区画された複数の前側接地ブロック8が設けられていることを特徴とする履物に係るものである。
【0013】
また、請求項2記載の履物において、前記第一溝3は前記点Xを中心として湾曲放射状に設けられていることを特徴とする履物に係るものである。
【0014】
また、請求項2,3いずれか1項に記載の履物において、前記第二溝4は前記点Yを中心として湾曲放射状に設けられていることを特徴とする履物に係るものである。
【0015】
また、請求項2~4いずれか1項に記載の履物において、隣り合う2つの前記第一溝3に挟まれる複数の前記後側接地ブロック7の少なくとも一部は、内側に位置するものほど大きくなるように構成されていることを特徴とする履物に係るものである。
【0016】
また、請求項2~5いずれか1項に記載の履物において、隣り合う2つの前記第二溝4に挟まれる複数の前記前側接地ブロック8の少なくとも一部は、外側に位置するものほど大きくなるように構成されていることを特徴とする履物に係るものである。
【0017】
また、請求項1~6いずれか1項に記載の履物において、前記前側領域Bは、爪先部22と中間部23とを含むことを特徴とする履物に係るものである。
【0018】
また、請求項7記載の履物において、前記中間部23は、踏付け部24と踏まず部25の一部とを含むことを特徴とする履物に係るものである。
【0019】
また、請求項1~8いずれか1項に記載の履物において、前記後側領域Aの外側寄り部分は、内側寄り部分より硬質となるように構成されていることを特徴とする履物に係るものである。
【0020】
また、請求項1~9いずれか1項に記載の履物について、前記後側領域Aの外側寄り部分は、内側寄り部分より厚く形成され、前記接地面が前記後側領域Aにおいて外側から内側に向かって傾斜するように構成されていることを特徴とする履物に係るものである。
【0021】
また、請求項1~10いずれか1項に記載の履物において、前記前側領域Bの内側寄り部分は、外側寄り部分より硬質となるように構成されていることを特徴とする履物に係るものである。
【0022】
また、請求項1~11いずれか1項に記載の履物において、前記前側領域Bの内側寄り部分は、外側寄り部分より厚く形成され、前記接地面が前記前側領域Bにおいて内側から外側に向かって傾斜するように構成されていることを特徴とする履物に係るものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明は上述のように構成したから、踵着地時の荷重を踵の内側で支承することで歩行による疲労を軽減できる履物となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例1に係る左足用の靴の底面図である。
図2】実施例1に係る左足用の靴の底面図である。
図3】実施例1に係る左足用の靴の側面図である。
図4】実施例1に係る左足用の靴の平面図である。
図5】足甲頂点付近の血管と締付調整部との関係を示す概略図である。
図6】実施例2に係る左足用の靴の底面図である。
図7】腓骨と脛骨の関係を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0026】
接地面の後側領域Aに並設される第一溝3同士の間隔は外側から内側に向かって広がるため、歩行時における踵着地後、踵部にかかる荷重が前方へ移動することによる屈曲変形は、内側ほど大きく、これにより、踵部にかかる荷重は内側へ誘導され、踵着地後において踵外側で荷重を受けることが防止される。
【0027】
前側領域Bにおいては、並設される第二溝4同士の間隔は内側から外側に向かって広がるため、底部の屈曲変形が前方に向かって順次進行する際、荷重は外側に誘導され、ローリング動作は阻害されない。
【0028】
従って、本発明に係る履物は歩行に際し、図1中矢印Tで示すように、踵で着地した後、後側領域Aにおいて踵中央から内側への体重移動が促進されつつ前側領域Bへと着地が進行する。そして、前側領域Bにおいてはローリング動作に伴う外側への体重移動が促進され踏付け部から爪先部へと着地が進行し、爪先部で蹴り出し動作が行われる。速く歩くほど重心は中心寄りとなるため、前記各促進作用は特にゆっくりと歩行する場合に顕著に発揮され、矢印Tに示すような踵側から爪先側に向かっての中心→内側→中心→外側→中心への体重移動が良好に行われる。
【0029】
従って、本発明によれば、踵着地時において踵内側での荷重受けが達成され、爪先により蹴り出すまでの適正な荷重の支承が行われる。よって、人体への負担を可及的に抑制した歩行動作を実現できることになる。
【実施例0030】
本発明の具体的な実施例1について図面に基づいて説明する。
【0031】
本実施例は、使用者が歩行する際に接地する底部1(ソール部)の接地面に溝部が設けられた靴に本発明を適用した例である。なお、靴に限らずサンダル等、他の履物にも適用できる。図1~4に示す靴はいずれも左足用である。なお、図中、符号2は甲被部(アッパー部)である。
【0032】
まず本実施例の底部1について説明する。
【0033】
図1,2に図示したように、底部1の接地面の踵部21を含む後側領域Aには、靴の長軸Lより外側であって底部外に位置する点Xを中心として放射状に設けられた第一溝3が複数並設されている。本実施例では、第一溝3は点Xを中心に湾曲放射状に設けられている。なお、点Xを底部外ではなく底部内に位置させる構成としても良い。
【0034】
また、接地面の後側領域Aを除く前側領域Bには、靴の長軸Lより内側であって底部外に位置する点Yを中心として放射状に設けられた第二溝4が複数並設されている。本実施例では、第二溝4は点Yを中心に湾曲放射状に設けられている。なお、点Yを底部外ではなく底部内に位置させる構成としても良い。溝を湾曲放射状に設けることで、体重移動に合わせての屈曲が一層良好に行われる。
【0035】
ここで、靴の長軸Lとは、図2に図示したように、靴の外周上、最も離れた2点を通る直線である。また、靴の短軸Sとは、靴の長軸方向における中点と外周上の2点を通り長軸Lに直交する直線である。
【0036】
本実施例では、第一溝3は、長軸Lより外側で底部1(接地面)の長軸方向中央位置より後側の点Xから放射状に設けられている。即ち、点Xは長軸Lと短軸Sとで内外および前後に区切られた4つのエリア(外前、外後、内前および内後)の内、外後エリアに設けられる。
【0037】
また、第二溝4は、長軸Lより内側で前記長軸方向中央位置より前側の点Yから放射状に設けられている。即ち、点Yは前記4つのエリアの内、内前エリアに設けられる。
【0038】
また、後側領域Aには、第一溝3と交差する第三溝5が複数並設され、この第三溝3と第一溝5とで陸部が区画されて複数の後側接地ブロック7が形成されている。本実施例においては、第一溝3は概ね短軸側(内外方向)に延びるように、第三溝5は概ね長軸側(前後方向)に延びるように設けられる。
【0039】
具体的には、後側接地ブロック7は、四角形状の先端接地面(略平坦な先端面)を有し、断面視においてやや先細のテーパー形状(台形状)を呈する。
【0040】
隣り合う2つの第一溝3に挟まれる複数の後側接地ブロック7の少なくとも一部は、内側に位置するものほど大きくなっている。
【0041】
具体的には、第一溝3は接地面の外側から内側に広がる湾曲放射状に設けられているため、この第一溝3間の後側接地ブロックの先端接地面は、扇状に外側ほど小さく内側ほど大きくなる(体積も同様に内側ほど大きくなる。)。
【0042】
また、前側領域Bには、第二溝4と交差する第四溝6が複数並設され、この第四溝4と第二溝6とで陸部が区画されて複数の前側接地ブロック8が形成されている。本実施例においては、第二溝4は概ね短軸側(内外方向)に延びるように、第四溝6は概ね長軸側(前後方向)に延びるように設けられる。
【0043】
具体的には、前側接地ブロック8は、四角形状の先端接地面(略平坦な先端面)を有し、断面視においてやや先細のテーパー形状(台形状)を呈する。
【0044】
また、第四溝6は第二溝4と同様に、靴の長軸Lより内側であって底部外に位置する点Zを中心として湾曲放射状に設けられている(点Zも上記他の点同様に底部内に位置させても良い。)。本実施例では、第四溝6は、長軸Lより内側で底部(接地面)の長軸方向中央位置より後側の点Zから放射状に設けられている。即ち、点Zは前記4つのエリアの内、内後エリアに設けられる。
【0045】
隣り合う2つの第二溝4に挟まれる複数の前側接地ブロック8の少なくとも一部は、外側に位置するものほど大きくなっている。
【0046】
具体的には、第二溝4および第四溝6は内側から外側に広がる湾曲放射状に設けられているため、前側接地ブロック8の先端接地面は、扇状に内側ほど小さく外側ほど大きくなる(体積も同様に外側ほど大きくなる。)。
【0047】
各溝の湾曲度合い、広がり度合いを適宜設定することで、踵着地直後の内側への体重移動およびローリング動作の促進作用を適宜調整できる。なお、第三溝5以外の各溝は始端から終端まで等幅等深さで延設されている(第三溝5は後端側を幅広くしている)が、履物の用途に応じて溝深さ・溝幅は適宜設定できる。第三溝5は、後から前に向かってやや外側に湾曲するように略等間隔で並設されている。なお、本実施例では第三溝5は放射状に設けていない構成であるが、放射状に設けても良い。この場合、例えば、前記4つのエリアの内、外前エリアに設けられた点を中心として湾曲放射状に設けても良い。
【0048】
本実施例では、前側接地ブロック8は後側内寄りほど小さく、前側外寄りほど大きくなるように第二溝4および第四溝6の夫々の間隔、中心点および湾曲度合いを設定している。
【0049】
更に、底部1の硬さおよび厚さ(接地ブロックの溝底部に対する突出高さ)を以下のように適宜設定することで、一層良好に逆S字重心移動を促すことができる。
【0050】
底部1の前記後側領域Aの外側寄り部分(長軸Lより外側の部分)は、内側寄り部分(長軸Lより内側の部分)より硬質となるように構成しても良い。例えば、外側寄り部分を内側寄り部分より硬い素材で形成したり、(第一溝3間の)外側の後側接地ブロック7ほど小さくしたりすることで、外側寄り部分を内側寄り部分より硬く(荷重により変形し難く)することができる。例えば、最も外側の第三溝5より外側の一列の後側接地ブロック7を、最も内側の第三溝5より内側の一列の後側接地ブロック7より硬くする(これらの間の後側接地ブロック7は内側から外側に向かって徐々に硬くなるように設定する。)。
【0051】
また、前記後側領域Aの外側寄り部分は、内側寄り部分より厚く(溝底部に対する突出高さを高く)形成し、前記接地面が前記後側領域Aにおいて外側から内側に向かって靴の正面視(または背面視)において上り傾斜するように構成しても良い。例えば、各後側接地ブロック7の先端接地面を外側から内側に向かって傾斜する傾斜面とし、且つ、底部1の接地面の後側領域Aが全体として外側から内側に向かって傾斜する傾斜面となるように各後側接地ブロック7同士の先端接地面の傾斜度合いを設定する。なお、この傾斜は歩行に支障がない程度の傾斜とする。
【0052】
また、前記前側領域Bの内側寄り部分は、外側寄り部分より硬質となるように構成しても良い。例えば、内側寄り部分を外側寄り部分より硬い素材で形成したり、(第二溝4間の)内側の前側接地ブロック8ほど小さくしたりすることで、内側寄り部分を外側寄り部分より硬くすることができる。例えば、土踏まず部近傍の前側接地ブロック8を、踏付け部24の小指付根近傍の前側接地ブロック8より硬くする(これらの間の前側接地ブロック8は外側から内側に向かって徐々に硬くなるように設定する。)。
【0053】
また、前記前側領域Bの内側寄り部分は、外側寄り部分より厚く形成し、前記接地面が前記前側領域Bにおいて内側から外側に向かって靴の正面視(または背面視)において上り傾斜するように構成しても良い。例えば、各前側接地ブロック8の先端接地面を内側から外側に向かって傾斜する傾斜面とし、且つ、底部1の接地面の前側領域Bが全体として内側から外側に向かって傾斜する傾斜面となるように各前側接地ブロック8同士の先端接地面の傾斜度合いを設定する。なお、この傾斜は歩行に支障がない程度の傾斜とする。
【0054】
本実施例では、前側領域Bは爪先部22と中間部23とを含む。具体的には、中間部23は、踏付け部24(各指の付根近傍領域)と、踏まず部25(土踏まず部およびその外側部分を含む領域)の一部とで構成される。踏まず部25には、後側領域Aと前側領域Bとを区画する第五溝9が設けられている。第五溝9は第一溝3を兼ねても良い。
【0055】
第五溝9は、接地面の長軸方向中央位置より後側に設けられている。また、第五溝9は、内側から外側に向かって後側に傾斜している。本実施例では略45°で傾斜する構成である。
【0056】
従って、第五溝9で区画された踏まず部25の一部が後側領域Aに含まれ、残部が前側領域Bに含まれる。この場合、踵着地後の内側への体重移動からローリング動作に伴う外側への体重移動が一層良好に行われることになる。
【0057】
なお、後側領域Aは少なくとも踵部21が含まれていれば良く、例えば、後側領域Aと前側領域Bとを、踵部21と踏まず部25との間で第五溝9により区画しても良い。
【0058】
各接地ブロックには適宜滑り止め用の凹凸部を設けることができる。本実施例においては、特にグリップが必要な後側領域内寄り、前側領域外寄りの接地ブロックに凹凸部を設けている。具体的には、段階的にグリップ力が大きくなるように、体重移動の初期部分の接地ブロックには凹凸を設けず、後側領域および前側領域における体重移動の終期部分(後側領域内寄りおよび前側領域外寄り)の接地ブロックには、段階的に滑り難くなるように凹凸部を設けている。
【0059】
なお、本実施例では、各溝を湾曲状に設けているが、直線状に設けても良い。また、第三溝5および第四溝6の一方または双方は放射状に設けても平行に設けても良く、また、第三溝5および第四溝6の一方または双方を設けない構成としても良い。
【0060】
本実施例は底部1を上述のように構成したから、接地面の後側領域Aに並設される第一溝3同士の間隔は外側から内側に向かって広がるため(内側ほど上下方向に屈曲し易く)、歩行時における踵着地後、踵部にかかる荷重が前方へ移動することによる屈曲変形は、内側ほど大きく、これにより、踵部にかかる荷重は内側へ誘導され、踵着地後において踵外側で荷重を受けることが防止される。
【0061】
前側領域Bにおいては、並設される第二溝4同士の間隔は内側から外側に向かって広がるため、底部の屈曲変形が前方に向かって順次進行する際、荷重は外側に誘導され、ローリング動作は阻害されない。
【0062】
従って、本実施例は歩行に際し、図1中矢印Tで示すように、踵で着地した後、後側領域Aにおいて踵中央から内側への体重移動が促進されつつ前側領域Bへと着地が進行する。そして、前側領域Bにおいてはローリング動作に伴う外側への体重移動が促進され踏付け部から爪先部へと着地が進行し、爪先部で蹴り出し動作が行われる。
【0063】
また、第一溝3間の後側接地ブロック7は内側ほど大きくなり、第二溝4間の前側接地ブロック8は外側ほど大きくなる。そのため、後側領域内端および前側領域外端に近づくほど良好なグリップ力が発揮されることになり、ふらつき・ぐらつきが生じ難く、安定して良好な体重移動ができるものとなる。
【0064】
従って、本実施例の底部1によれば、踵着地時において踵内側での荷重受けが達成され、爪先により蹴り出すまでの適正な荷重の支承が行われる。よって、人体への負担を可及的に抑制した歩行動作を実現できることになる。
【0065】
本実施例の甲被部2は、図3,4に図示したように、足甲部2aの外側寄りに、対向状態で複数の紐通し孔11が並設された一対の羽根部12と、この紐通し孔11に挿通される靴紐13とで構成された締付調整部10が設けられている。
【0066】
本実施例は、靴紐13として、紐長手方向に前記紐通し孔11の孔径よりも大径に形成されると共に、伸縮自在に弾性変形して引っ張り操作により該引っ張り操作方向に伸長弾性変形して前記紐通し孔11の孔径よりも小径に変形するこぶ状部13aが複数並設されたこぶ領域部を有する靴紐13を採用している。
【0067】
この靴紐13は、前記紐通し孔11に挿通され前記足甲部2aに装着された状態にて最後に通過させる紐通し孔11を通過して引き出された前記こぶ領域部を引っ張り操作することで、前記紐通し孔11の内側に係止するこぶ状部13aが前記引っ張り操作により伸長弾性変形して前記紐通し孔11よりも小径となり、前記紐通し孔11を通過移動して締め上げることができ、この締め上げ状態にて前記引っ張り操作を解除することで、前記紐通し孔11を通過した前記こぶ状部13aが、小径状態から紐通し孔11の孔径よりも大径なもとの状態(非変形状態)に戻り変形し、前記最後に通過した紐通し孔11に対して戻り通過移動不能な状態となる。
【0068】
また、本実施例の靴紐13としては、両端部に設けられる前記こぶ領域部の間の略全域(長手方向中央部)にわたって紐通し孔11の孔径よりも小径で且つ略一定の太さに形成される太さ一定領域部が設けられたものを採用している。なお、前記こぶ領域部間に、上述の太さ一定領域部ではなく、紐通し孔11の孔径よりも小径な小径こぶ部が間隔をおいて複数並設された小径こぶ領域部が設けられたものを採用しても良い。
【0069】
また、本実施例の羽根部12同士の間隔は、隙間なくぴったりと閉じることが可能となる間隔に設定されている。即ち、靴紐13の締付調整によって、羽根部12同士の間に隙間がない一直線の境界を呈する外観とすることもできる。
【0070】
また、甲被部2には、前記靴紐11の両端部を夫々止着可能な止着部14が、前記足甲部2aの外側寄りに設けられている。本実施例においては、止着部14は、締付調整部10より外側であって、外側の前記羽根部12の最上位の紐通し孔11および内側の前記羽根部12の前記最上位の紐通し孔11の鉛直下方位置に設けられている。
【0071】
また、外側の前記羽根部12の最上位の紐通し孔11と内側の前記羽根部12の最上位の紐通し孔11とは、夫々の鉛直下方への直線が平行となるような位置(靴の前後方向においてずれた位置)に設けられている。
【0072】
止着部14は、紐通し孔11と同様に、こぶ状部13aが小径状態では通過移動可能で、もとの大径状態では通過移動不能な靴紐挿通孔(図示省略)を有している。具体的には、丸みを帯びたほぼ菱形状の表面部の裏側に靴紐挿通孔が穿設された表面部に隠れる大きさの基部(図示省略)が設けられている。靴紐挿通孔は、鉛直方向(上下方向)を向く孔であり、靴長手方向に2つ平行に並設されている。この靴紐挿通孔に最上位の紐通し孔11を通過した靴紐13の端部を、夫々上記同様に通過させ戻り通過不能とすることで、体裁よく止着することができる。
【0073】
また、靴紐13の長さは、両端が止着部14に止着した状態で地面(床)に接触しない長さとする。具体的には、両端が止着部14に止着した状態でソール部1より上の位置となる長さとする。
【0074】
なお、止着部14を外側寄りと内側寄りに夫々設ける構成としても良い。この場合、外側の羽根部12の最後に通過する紐通し孔11および内側の羽根部12の最後に通過する紐通し孔11を通過した端部を夫々、外側の羽根部12より外側寄りの止着部14および内側の羽根部12より内側寄りの止着部14に夫々止着することになる。また、この場合、靴紐挿通孔は各止着部14に夫々1つずつ設ける。
【0075】
また、本実施例は、爪先保持部20を構成する表部材17と裏部材(図示省略)との間に該爪先保持部20を補強する先芯部材が設けられておらず、且つ、踵保持部19を構成する表部材18と裏部材(図示省略)との間に該踵保持部19を補強する月型芯部材が設けられていない。従って、使用者の爪先および踵が先芯部材および月型芯部材により圧迫されない(動きが阻害され難い。)。
【0076】
本実施例では、踵が抜けないように、踵保持部19(の外側)に踵の抜けを防止する足幅方向に延びる帯状の抜け防止体15が設けられている。抜け防止体15は踵の後側外形状に沿って半円弧状に設けられている。抜け防止体15は、適度な伸縮性を有する素材、例えばシリコン等で作製することができる。図中符号16はプルストラップである。
【0077】
本実施例は甲被部2を上述のように構成したから、締付調整部10が、図5に図示したように、足30の足甲頂点付近の血管31からずれた足甲部2aの外側寄りに設けられることで、締め上げ時の足甲頂点付近の血管31の圧迫、締付調整部10の羽根部等の厚みによる当該血管31の圧迫が生じ難くなる。
【0078】
また、靴紐13として引っ張り操作によりこぶ状部13aを伸長弾性変形可能なものを採用することで、靴紐13による血管の圧迫も可及的に抑制される。
【0079】
更に、靴紐13の(例えば最後にして最上位の紐通し孔11を通過した)両端部をいずれも足甲部2aの外側寄りに設けた止着部14に止着することによっても、足甲頂点付近の重要な血管31の圧迫が可及的に阻止される。
【0080】
更に、靴紐13の両端部が共に足甲部2aの外側寄りに揃って設けられることでデザイン上も極めて美しいものとなる。
【0081】
また、爪先保持部20に先芯部材を設けず、且つ、踵保持部19に月型芯部材を設けずに、踵保持部19に踵の抜けを防止する足幅方向に延びる帯状の抜け防止体15を設けることで、踵の抜けを防止しつつ、靴の前後方向(爪先・踵方向)からの圧迫を低減でき、足の血管の圧迫を良好に抑制できるものとなる。
【0082】
従って、本実施例の甲被部2は、足甲頂点付近の血管を圧迫し難く、可及的に全身の血行・血流を阻害し難いものとなり、よって、本実施例は、上記底部1の構成と相まって、人体に可及的に負担をかけずに良好な歩行動作が行えるものとなる。
【0083】
なお、図面では左足用の靴について説明しているが、右足用の靴についても(対称となるだけで)同様である。
【実施例0084】
実施例2は、図6に図示したように、後側領域Aから前側領域Bへと途切れることなく滑らかに連続する連通溝40を配した例である。
【0085】
即ち、連通溝40の後側領域Aに存在する部分を第三溝5とし、前側領域Bに存在する部分を第四溝6とした(第三溝5と第四溝6とを一連に設けた)例である。なお、前側領域Bには第四溝6のみを設けた部分も存在する。
【0086】
後端から前端に至る連通溝40を設けることで、上述の踵側から爪先側への体重移動が滑らかに行われ易くなる。また、連通溝40は矢印Tと同様に逆S字状に湾曲した(蛇行した)構成としているが、直線状に設ける等、履物の用途に応じて形状は適宜設定することができる。
【0087】
その余は実施例1と同様である。
【符号の説明】
【0088】
1 底部
3 第一溝
4 第二溝
5 第三溝
6 第四溝
7 後側接地ブロック
8 前側接地ブロック
21 踵部
22 爪先部
23 中間部
24 踏付け部
25 踏まず部
A 後側領域
B 前側領域
L 長軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7