(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022007008
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】金属構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20220105BHJP
F28F 3/12 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
B23K20/12 310
F28F3/12 D
B23K20/12 360
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020109641
(22)【出願日】2020-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】506263882
【氏名又は名称】京浜ラムテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】特許業務法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】柴田 尚憲
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA06
4E167AA08
4E167BG00
4E167BG12
4E167BG22
4E167DB01
(57)【要約】
【課題】優れた密封性を有する密封空間を効率よく形成可能であると共に、密封空間の設計自由度を向上させることができる金属構造体の製造方法を提供すること。
【解決手段】少なくとも一つの密封空間を内部に有する金属構造体の製造方法であって、製造方法は、2つの金属部材の準備工程と、2つの金属部材の組立工程と、2つの金属部材の間に少なくとも一つの密封空間が形成されるように、2つの金属部材を接合する接合部をツールの移動経路に沿って形成する密封工程と、ツールを組立体の上面における抜取位置から抜き取る前に、ツールが抜取位置に到達した場合に形成される終端接合部を拡張するように接合部を形成するためにツールを移動させる拡張工程とを含むことを特徴とする。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの密封空間を内部に有する金属構造体の製造方法であって、
前記金属構造体は、互いに垂直方向に重ね合わされた状態で摩擦撹拌接合により接合される2つの金属部材を含み、前記2つの金属部材は、互いに前記垂直方向に重ね合わされることにより、前記2つの金属部材の間に前記少なくとも一つの密封空間となるための内部空間を有する組立体を形成するように構成され、
前記製造方法は、
前記2つの金属部材を準備する準備工程と、
前記2つの金属部材を前記垂直方向に重ね合わせることにより前記組立体を形成する組立工程と、
前記摩擦撹拌接合のためのツールを回転させながら前記組立体の上面に挿入し、前記ツールを移動させることにより、前記2つの金属部材の間に前記少なくとも一つの前記密封空間が形成されるように、前記2つの金属部材を前記垂直方向に接合する接合部を前記ツールの移動経路に沿って形成する密封工程と、
前記ツールを前記組立体の前記上面における抜取位置から抜き取る前に、前記ツールが前記抜取位置に到達した場合に形成される終端接合部を拡張するように前記接合部を形成するために前記ツールを移動させる拡張工程と
を含むことを特徴とする。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法であって、
前記拡張工程では、前記終端接合部の外縁全周に前記接合部が重なるように前記ツールを移動させることにより、前記終端接合部を拡張する。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法であって、
前記拡張工程では、前記抜取位置を囲う環を描くように前記ツールを移動させることにより、前記終端接合部を拡張する。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1に記載の製造方法であって、
前記製造方法は、
拡張された前記終端接合部の内側に位置する前記抜取位置へ前記ツールを移動させ、前記抜取位置から前記ツールを抜き取る抜取工程を含むことを特徴とする。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1に記載の製造方法であって、
前記2つの金属部材は、互いに前記垂直方向に重ね合わされた場合に、前記垂直方向に互いに面接触する部分を有し、
前記拡張工程では、前記ツールは、前記垂直方向に互いに面接触する部分を通過する。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1に記載の製造方法であって、
前記拡張工程では、前記ツールは、拡張された前記終端接合部が平面視において前記密封空間との間に距離を有するように移動する。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1に記載の製造方法であって、
前記密封空間は、内部と外部との間での流体の出入りを防止するように構成されている。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1に記載の製造方法であって、
前記金属構造体は、熱交換、加熱又は冷却すべき対象物に対して接触又は近接するように設置される伝熱用金属構造体である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の金属構造体として、本体部と蓋部とを備える金属構造体がある。本体部には、蓋溝が形成される。本体部の蓋溝の底面には、更に凹溝が形成される。蓋溝には、蓋部が嵌め合わされる。蓋溝周辺において、本体部と蓋部とが接合される。これにより、凹溝と蓋部とにより囲われる空間が、密封空間となる。密封空間は、流体の流路として使用可能となる。このような金属構造体は、伝熱用金属構造体として使用され得る。伝熱用金属構造体は、例えば、熱交換、加熱又は冷却すべき対象物に接触若しくは近接するように配置される。例えば、対象物から熱を逃がす場合には、当該流路に冷却媒体を流し、対象物から、金属本体部及び冷却媒体へ熱を伝達させる。
【0003】
特許文献1は、金属構造体に関して、摩擦攪拌接合により、蓋溝周辺における本体部と蓋部とを接合することにより、内部空間を形成する技術を開示している。内部空間は、密封空間として使用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、優れた密封性を有する密封空間を効率よく形成可能であると共に、密封空間の設計自由度を向上させることができる金属構造体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上述の課題について検討を行い、以下の知見を得た。
【0007】
一般的に、摩擦撹拌接合において、ツールによる接合作業が終了した時、ツールは、回転した状態で上方に移動することにより、材料の表面(上面)から抜き取られる。このとき、抜取位置に、ツールの抜取に起因する凹部が形成される場合がある。この凹部は、意図せずに形成されてしまう。凹部の形状は、一様にならない。そのため、摩擦撹拌接合により密封空間を有する金属構造体を製造する場合には、凹部の形状によっては、凹部と内部空間とが連通してしまうおそれがある。この方法により、安定的に密封空間を形成することは困難である。
【0008】
この課題に対しては、ツールを水平方向に組立体の側面まで移動させ、組立体の側面から抜き取る方法が採用可能である。この方法によれば、ツールが材料の表面(上面)から抜き取られることが無いので、凹部が形成されない。しかしながら、組立体の側面からツールを抜き取るためには、ツールは、密封空間を避けつつ、側面まで水平移動しなければならない。そのための経路を確保する必要がある。結果として、金属構造体における密封空間のレイアウトが制約を受けてしまう。密封空間の設計自由度が低下してしまう。例えば、伝熱用金属構造体においては、密封空間の形状は、熱交換の効率に影響を及ぼす重要なファクターである。そのため、密封空間の設計自由度は確保されることが好ましい。また、ツールの経路が長すぎると、製造に要する時間が長くなってしまい、製造効率が低下する。
【0009】
従って、優れた密封性を有する密封空間を効率よく形成可能とすると共に、密封空間の設計自由度を向上させるためには、抜取のためのツールの移動をなるべく短くしつつ、密封性を確保するように、ツールを如何に上方に抜き取るかが重要となる。
【0010】
本発明は、上述の知見に基づいて完成した発明であり、以下の構成を採用できる。
(1) 少なくとも一つの密封空間を内部に有する金属構造体の製造方法であって、
前記金属構造体は、互いに垂直方向に重ね合わされた状態で摩擦撹拌接合により接合される2つの金属部材を含み、前記2つの金属部材は、互いに前記垂直方向に重ね合わされることにより、前記2つの金属部材の間に前記少なくとも一つの密封空間となるための内部空間を有する組立体を形成するように構成され、
前記製造方法は、
前記2つの金属部材を準備する準備工程と、
前記2つの金属部材を前記垂直方向に重ね合わせることにより前記組立体を形成する組立工程と、
前記摩擦撹拌接合のためのツールを回転させながら前記組立体の上面に挿入し、前記ツールを移動させることにより、前記2つの金属部材の間に前記少なくとも一つの前記密封空間が形成されるように、前記2つの金属部材を前記垂直方向に接合する接合部を前記ツールの移動経路に沿って形成する密封工程と、
前記ツールを前記組立体の前記上面における抜取位置から抜き取る前に、前記ツールが前記抜取位置に到達した場合に形成される終端接合部を拡張するように前記接合部を形成するために前記ツールを移動させる拡張工程と
を含むことを特徴とする。
【0011】
(1)の製造方法によれば、終端接合部が拡張されるように接合部が形成される。終端接合部は、終端接合部の径方向外側へ拡張される。従って、ツールが抜取位置から上方に抜き取られることにより抜取位置に凹部が形成されても、凹部の周囲に接合部を残存させることができる。残存した接合部により、凹部を介して金属構造体の外部と内部(例えば、密封空間)とが連通することを防止又は抑制できる。よって、高い密封性が得られる。さらに、これにより、ツールを上方に抜き取ることが可能になるので、ツールを側面まで移動させるための経路の確保が不要になる。よって、密封空間の設計自由度を向上させることができる。
【0012】
一つの実施形態として、以下の態様が採用されることができる。
(2) (1)の製造方法であって、
前記拡張工程では、前記終端接合部の外縁全周に前記接合部が重なるように前記ツールを移動させることにより、前記終端接合部を拡張する。
【0013】
(2)の製造方法によれば、終端接合部は、外周全周に接合部が重なるように拡張されている。そのため、ツール抜取時に凹部と内部空間とをより確実に分離できる。より高い密封性が得られると共に、密封空間の設計自由度をより向上させることができる。
【0014】
一つの実施形態として、以下の態様が採用されることができる。
(3) (1)又は(2)の製造方法であって、
前記拡張工程では、前記抜取位置を囲う環を描くように前記ツールを移動させることにより、前記終端接合部を拡張する。
【0015】
(3)の製造方法によれば、高い密封性を有する密封空間をより効率よく形成できると共に、密封空間の設計自由度をより向上させることができる。
【0016】
一つの実施形態として、以下の態様が採用されることができる。
(4) (1)~(3)のいずれか1の製造方法であって、
前記製造方法は、
拡張された前記終端接合部の内側に位置する前記抜取位置へ前記ツールを移動させ、前記抜取位置から前記ツールを抜き取る抜取工程を含むことを特徴とする。
【0017】
(4)の製造方法によれば、より高い密封性が得られると共に、密封空間の設計自由度をより向上させることができる。
【0018】
一つの実施形態として、以下の態様が採用されることができる。
(5) (1)~(4)のいずれか1の製造方法であって、
前記2つの金属部材は、互いに前記垂直方向に重ね合わされた場合に、前記垂直方向に互いに面接触する部分を有し、
前記拡張工程では、前記ツールは、前記垂直方向に互いに面接触する部分を通過する。
【0019】
(5)の製造方法においては、組立工程において2つの金属部材が互いに垂直方向に重ね合わされた場合に垂直方向に互いに面接触する部分は、例えば、重力及び/又は治具により互いに垂直方向に当接するため、間隙の発生が抑制又は防止されることができる。拡張工程では、ツールが、前記垂直方向に互いに面接触する部分を通過する。その結果、拡張された終端接合部は、垂直方向に互いに面接触する部分を含む。そのため、拡張された終端接合部におけるボイドの発生が抑制又は防止されることができる。より高い密封性が得られると共に、密封空間の設計自由度をより向上させることができる。
【0020】
一つの実施形態として、以下の態様が採用されることができる。
(6) (1)~(5)のいずれか1の製造方法であって、
前記拡張工程では、前記ツールは、拡張された前記終端接合部が平面視において前記密封空間との間に距離を有するように移動する。
【0021】
(6)の製造方法によれば、拡張された前記終端接合部が平面視において密封空間と重ならない。終端接合部と密封空間との間に距離が確保されることにより、より高い密封性が得られると共に、密封空間の設計自由度をより向上させることができる。
【0022】
一つの実施形態として、以下の態様が採用されることができる。
(7) (1)~(6)のいずれか1の製造方法であって、
前記密封空間は、内部と外部との間での流体の出入りを防止するように構成されている。
【0023】
(7)の製造方法によれば、高い密封性が得られると共に、密封空間の設計自由度を向上させることができる。密封空間の内部と外部とで流体の出入りを効果的に防止できる。
【0024】
一つの実施形態として、以下の態様が採用されることができる。
(8) (1)~(7)のいずれか1の製造方法であって、
前記金属構造体は、熱交換、加熱又は冷却すべき対象物に対して接触又は近接するように設置される伝熱用金属構造体である。
【0025】
(8)の製造方法によれば、高い密封性が得られると共に、密封空間の設計自由度を向上させることができる。密封空間を流体の流路とすることにより、例えば、流体の密封性に優れた流路が密に配置された金属構造体を実現できる。即ち、高い密封性により、優れた伝熱性を有する金属構造体を実現できる。即ち、(8)の製造方法によれば、効率よく、伝熱用として好適な金属構造体を製造できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、優れた密封性を有する密封空間を効率よく形成可能であると共に、密封空間の設計自由度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1(a)は、準備工程を説明するための模式的な断面図であり、
図1(b)は、組立工程を説明するための模式的な断面図であり、
図1(c)は、密封工程を説明するための模式的な断面図である。
【
図2】
図2(a)~(c)は、密封工程を説明するための模式的な平面図である。
【
図3】
図3(a)は、密封工程においてツールが抜取位置に到達した時の様子を模式的に示す平面図であり、
図3(b)は、その断面図である。
【
図4】
図4(a)は、拡張工程を模式的に示す平面図であり、
図4(b)は、その断面図である。
【
図5】
図5(a)は、拡張工程を模式的に示す平面図であり、
図5(b)は、その断面図である。
【
図6】
図6(a)は、抜取工程を模式的に示す平面図であり、
図6(b)は、その断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
実施形態に係る金属構造体の製造方法について、以下に説明する。実施形態に係る金属構造体は、2つの金属部材として、蓋部2と本体部1とを含む。本体部1及び蓋部2は、金属部材の一例である。なお、図中、垂直方向Wは、2つの金属部材(本体部1及び蓋部2)が重ね合わされる方向であり、2つの金属部材が接合される方向であり、ツール5が挿入される方向である。短手方向Pは、矩形状の密封空間3の短手方向に相当する。長手方向Qは、矩形状の密封空間3の長手方向に相当する。短手方向P及び長手方向Qは、垂直方向Wと直交する方向、即ち水平方向である。
【0029】
<準備工程>
先ず、
図1(a)に示すように、準備工程では、本体部1及び蓋部2が準備される。
【0030】
本体部1は、断面視矩形状の板状体である。本体部1は、金属製である。本体部1を構成する金属は、摩擦攪拌の摩擦熱によって軟化することにより塑性流動可能な金属材料である。当該金属としては、例えば、銅、アルミニウム、又はこれらの少なくとも1種を含む合金が挙げられる。
【0031】
本体部1は、上面1uに、凹部1rを有している。凹部1rは、断面視矩形状の空間を有する。凹部1rは、蓋部2が嵌合されることにより凹部1r内に蓋部2を受け入れるように構成されている。
【0032】
凹部1rの底面1vには、密封空間3が形成されている。なお、密封空間3は、本体部1と蓋部2とが接合されることにより、液密であるように密封される。本体部1と蓋部2とが接合された後、金属構造体は、後述する貫通孔3aに、流体の注入管又は排出管が接続されることにより、密封空間3に流体が供給されるように構成される。よって、本実施形態における液密とは、流体の注入口又は排出口を除いて、液密であることを意味する。従って、注入口及び排出口においては、金属構造体の外部と密封空間との間の流体の出入りが可能であるが、注入口又は排出口以外の位置では、金属構造体の外部と密封空間との間の流体の出入りは行われない。
【0033】
金属構造体は、密封空間と接続された注入口及び/又は排出口を有していてもよく、有していなくてもよい。金属構造体は、例えば、注入口及び/又は排出口に配管等が接続された状態で用いられてもよい。金属構造体は、例えば、注入口及び/又は排出口に封止部材(栓等)が設けられた状態で用いられてもよい。密封空間は、例えば、液密又は気密であってもよい。
図1(a)では、密封空間3として、接合後に密封空間3となる空間が示されている。密封空間3は、長手方向Qに延びる矩形状の空間である。
【0034】
蓋部2は、断面視矩形状の板状体である。蓋部2は、金属製である。蓋部2を構成する金属は、摩擦攪拌の摩擦熱によって軟化することにより塑性流動可能な金属材料である。当該金属としては、例えば、銅、アルミニウム、又はこれらの少なくとも1種を含む合金が挙げられる。本体部1と蓋部2とは、同じ金属で構成されてもよく、異なる金属で構成されてもよい。蓋部2の厚さは、凹部1rの深さと同じ又は実質的に同じである。
【0035】
<組立工程>
組立工程では、
図1(b)に示すように、本体部1と蓋部2とが垂直方向Wに重ね合わされる。蓋部2が、本体部1の凹部1rに嵌合されるように、蓋部2が、本体部1上に載置される。これにより、密封空間3を有する組立体10aが形成される。組立体10aは、互いに組み合わせられ且つ接合されていない2つの金属部材(本体部1及び蓋部2)を含む。金属構造体は、例えば、少なくとも1つの密封空間3を内部に有するように互いに接合された少なくとも2つの金属部材(本体部1及び蓋部2)からなる。
【0036】
このとき、本体部1の上面1uと、蓋部2の上面2uとの間には、境界6が生じる。また、蓋部2の底面2bが、凹部1rの底面1vと垂直方向Wに面接触する。この部分は、「垂直方向に互いに面接触する部分」11である。底面1v及び底面2bは、少なくとも「垂直方向に互いに面接触する部分」11において、水平方向と平行である。
【0037】
なお、凹部1rは、必ずしも形成されていなくてもよい。密封空間3となる空間が形成され且つ凹部1rが形成されていない本体部1の上面に、板状の蓋部2が載置されることにより、組立体10aが構成されてもよい。この場合においても、2つの金属部材の間には、垂直に互いに面接触する部分が生じる。
【0038】
<密封工程>
密封工程は、
図1(c)に示すように、組立体10aに対して行われる。密封工程では、本体部1と蓋部2とが摩擦撹拌接合により接合される。摩擦撹拌用装置(図示せず)のツール5が、当該密封工程で用いられる。ツール5は、耐熱性及び耐摩耗性が高い材料により形成されている。ツール5は、先端に先細りの先端部5aを有する円柱状体である。ツール5は、回転しながら移動するように、摩擦撹拌用装置が備える駆動装置により制御される。
【0039】
摩擦撹拌用装置としては、従来公知の装置が採用可能である。具体的に、ツール5は、回転しながら、本体部1及び蓋部2に対する相対的な昇降移動と、本体部1及び蓋部2に対する相対的な水平移動とを行うことが可能である。昇降移動は、垂直方向Wへの移動である。水平移動は、例えば、短手方向P又は長手方向Qへの移動である。ツール5の先端部5aには、外周面に螺旋状のネジ溝(図示せず)が設けられている。なお、組立体10aは、治具(図示せず)により、移動しないように固定される。蓋部2は、治具(図示せず)により、本体部1に対して固定される。
【0040】
密封工程では、ツール5が、回転させられながら、組立体10aの上面に挿入される。ツール5の挿入方向は、特に限定されない。ツール5のうち、例えば、先端部5aが、組立体10a内に挿入される。回転するツール5の先端部5aが組立体10aに挿入された場合、
図1(c)に示すように、先端部5aが挿入された領域に加え、その領域の周囲にも、接合部7が形成される。従って、接合部7の深さは、先端部5aが挿入された深さよりも大きい。接合部7の幅は、先端部5aの径よりも大きい。先端部5aは、接合部7が少なくとも底面1vに到達するように挿入される。
【0041】
先端部5aは、底面1vに到達するように挿入される。接合部7の深さは、蓋部2の厚さよりも大きい。接合部7の深さは、本体部1及び蓋部2の厚さの合計よりも小さい。即ち、接合部7は、底面1vに到達するが、本体部1を貫通しない。その結果、ツール5が通過した位置では、接合部7が形成されることにより、本体部1と蓋部2とが接合される。
【0042】
次に、密封工程におけるツール5の水平方向への動きについて、
図2(a)~(c)を参照して説明する。先ず、平面視における各構成について説明する。
図2(a)に示すように、本体部1は、平面視において、矩形状を有する。より具体的に、本体部1は、図中縦方向を長手方向とする矩形状を有する。
【0043】
本体部1の上面1uには、1つの凹部1rが形成されている。凹部1rは、平面視において、長手方向Qが短手方向Pより長い角丸長方形(オーバル形)である。蓋部2も、平面視において、角丸長方形である。蓋部2は、蓋部2が凹部1rに嵌合されることができる形状及び大きさを有している。本体部1及び蓋部2が垂直方向Wに重なることにより、垂直方向Wに互いに面接触する部分11が、密封空間3の外縁全周を囲うように形成される。
【0044】
蓋部2には、複数の貫通孔3aが形成されている。貫通孔3aの数は、例えば、2である。貫通孔3aは、後述する密封空間3に対する冷媒等の流体の注入口又は排出口として用いられる。貫通孔3aは、金属構造体の外部と密封空間3とを連通する。貫通孔は、垂直方向Wに臨む金属構造体(組立体10a)の2つの面(上面1u及び2u、並びに、その反対側の面)のうち、いずれか1つの面に形成されてもよく、両面に形成されてもよい。貫通孔は形成されなくてもよい。
【0045】
貫通孔は、ツールが挿入されない面(上面1u及び2u)には形成されないことが好ましい。ツールが挿入されない面の密封空間に対する密封性が維持される。これにより、本体部1は、熱交換、加熱又は冷却すべき対象物に対して接触又は近接する伝熱面として好適に利用されることができる。
【0046】
図2(a)は、ツール5(図示せず)が組立体10aの挿入位置4に挿入された様子を示す。ツール5は、境界6の位置から、組立体10aに挿入されている。ツール5が挿入された位置に、接合部7が形成されている。ツール5は、密封空間3となる空間を囲うように、境界6に沿って水平方向に移動する。
図2(b)は、ツール5が境界6に沿って移動している時の組立体10aを示している。
図2(c)は、ツール5が抜取位置9に到達した時の組立体10aを示している。
図2(b)及び(c)において、太い矢印は、ツール5の移動経路を模式的に示している。
【0047】
密封工程においてツール5が水平移動する時の移動経路は、例えば、
図2(a)~
図2(c)に示すように、密封空間3となる空間を囲う平面視環状経路を含む。当該移動経路に沿って接合部7を形成することにより、密封空間3が形成されることができる。密封工程におけるツール5の移動経路は、例えば、挿入位置4と抜取位置9との間に、密封空間3の周囲を囲う平面視環状経路を含む。
【0048】
ツール5の移動経路は、密封空間3の外縁全周を囲う「垂直方向に互いに面接触する部分」11を全周にわたって通過する。「垂直方向に互いに面接触する部分」11では、垂直方向における間隙の発生が抑制又は防止されることができる。「垂直方向に互いに面接触する部分」11を辿りながら密封空間3の外周全周を囲うようにツール5が移動する。密封空間3の外縁全周において、「垂直方向に互いに面接触する部分」11は、少なくとも部分的に接合される。その結果、「垂直方向に互いに面接触する部分」11の中で2つの金属部材(本体部1及び蓋部2)が垂直方向に接合された部分が、密封空間3の外縁全周に位置する。これにより、より高い密封性が得られる。
【0049】
図3(a)は、ツール5が抜取位置9に到達した時の様子を模式的に示す平面図であり、
図3(b)は、その断面図である。図中、抜取位置9は、ツール5が上方に抜き取られる時のツール5の先端部5aの平面視中心位置を指している。抜取位置9に位置するツール5の先端部5aの回転により、終端接合部8が形成されている。
【0050】
終端接合部8は、ツール5が抜取位置9に位置する時のツール5の回転により形成される接合部を指す。
図3(a)及び(b)に示される終端接合部8は、未だ拡張されていない。終端接合部8の基本外縁8orは、拡張されていない状態の外縁を示している。言い換えると、基本外縁8orは、ツール5が抜取位置9に位置する時のツール5の回転により形成される接合部の外縁に相当する。終端接合部8の基本外縁8orは、抜取位置9に位置するツール5の先端部5aの周囲を囲うように位置している。
【0051】
図3(a)において、終端接合部8の基本外縁8orの上方に描かれた接合部7は、挿入位置4からツール5が移動し始めた時に形成されている(
図2(a)参照)。その一方で、抜取位置9の下方に描かれた接合部7は、ツール5が抜取位置9に到達する直前に形成されている(
図2(b)及び(c))。即ち、
図3(a)及び
図3(b)に示すようにツール5が抜取位置9に到達することによって、
図2(c)に示すような平面視環状の接合部7が、密封空間3を囲うように形成される。
【0052】
次に、拡張工程を実施する。拡張工程は、このように、例えば、接合部7が密封空間3を囲うように形成された後に実施される。本実施形態の拡張工程では、先ず、ツール5が、抜取位置から距離R移動し、その後、抜取位置9を中心とした半径Rの円を描くように移動する(
図4(a)、
図4(b)、
図5(a)及び
図5(b)参照)。
【0053】
抜取位置9を中心とした半径Rの円は、抜取位置を囲う環の一例である。環としては、例えば、真円、楕円、多角環など、任意の環形状が挙げられる。本実施形態において、距離R(半径R)は、終端接合部8の基本外縁8orの直径以下である。このように、本実施形態の拡張工程では、終端接合部8の基本外縁8orの全周に接合部が重なるように、ツール5を移動させることにより、終端接合部8が拡張される。拡張された終端接合部8は、「垂直方向に互いに面接触する部分」11を含む。基本外縁8orと拡張外縁8exとの間は、環状の領域となる。この領域は、「垂直方向に互いに面接触する部分」11を含む。これにより、密封性をより向上させることができる。
【0054】
図5(a)に示すように、終端接合部8の拡張外縁8exは、平面視環状である。終端接合部8の基本外縁8orも、平面視環状である。拡張外縁8exは、全周において基本外縁8orから径方向に拡張されている。拡張外縁8exは、環状の基本外縁orから径方向外側に離れた位置に位置する。
【0055】
本実施形態の拡張工程は、ツール5が抜取位置9を中心とした半径Rの円を1周描いた時点で終了する。周回数は特に限定されず、複数周であってもよい。
図5(a)及び
図5(b)は、拡張工程が終了した時点の様子を示している。
【0056】
次に、抜取工程を実施する。本実施形態の抜取工程では、ツール5が、先ず、抜取位置9に戻される。続いて、ツール5が抜取位置9から上方に移動することにより、ツール5は、組立体10a(金属構造体)から抜き取られる。
【0057】
本実施形態の製造方法によれば、終端接合部8が拡張されるように接合部7が形成されているので、ツール5が抜取位置9から上方に抜き取られることにより抜取位置9に凹部(図示せず)が形成されても、凹部の周囲に接合部7(具体的には、拡張された終端接合部8)を残存させることができる。
【0058】
残存した接合部7により、凹部を介して、組立体10a(金属構造体)の外部と内部(例えば、密封空間3)とが連通することを防止又は抑制できる。よって、高い密封性が得られる。さらに、これにより、ツール5が上方に抜き取ることが可能になる。そのため、ツール5を組立体10a(金属構造体)の側面まで移動させるための経路の確保が不要になる。よって、密封空間3の設計自由度を向上させることができる。
【0059】
本願発明は、上述した実施形態に限定されない。実施形態として、以下の形態が採用されることができる。
【0060】
本実施形態では、密封工程において密封空間を形成するようにツールを挿入位置から抜取位置まで移動した後に、拡張工程を行うことにより、終端接合部を拡張し、続いて、ツールを抜取位置に戻して、ツールを抜取位置から上方に抜き取る。しかし、これらの操作の順序は、本実施形態に限定されない。ツールが抜取位置から上方に抜き取られる前に終端接合部が拡張されていることが必要とされるが、それ以外の操作の順序は、特に限定されない。
【0061】
例えば、挿入位置と抜取位置とが同じである場合に、先ず、挿入位置において挿入位置(抜取位置)を囲う環を描くようにツールが移動することにより、拡張された終端接合部を事前に形成しておき、その後に、密封空間を形成するようにツールを抜取位置まで移動し、抜取位置からツールを抜き取ってもよい。
【0062】
この場合、ツールが抜取位置に到達した時には、既に、拡張された終端接合部が形成されていることになる。即ち、ツールが一旦抜取位置に到達してから、拡張工程及び抜取工程を、拡張工程、抜取工程の順に行ってもよく、ツールが抜取位置に到達する前に拡張工程を行っていてもよい。即ち、密封工程及び拡張工程の順序については、密封工程又は拡張工程のいずれが先であってもよい。密封工程と拡張工程と抜取工程とは、ツールの挿入が維持された状態で行われ、途中でツールの抜取は行われない。
【0063】
密封工程と拡張工程と抜取工程とを1セットの工程とした場合、1セットの工程により、1つ又は複数の密封空間を形成することができる。その一方で、複数セットの工程により、1つの密封空間を形成することもできる。
【0064】
拡張工程は、密封工程と連続して行われ、拡張工程におけるツール挿入深さは、密封工程におけるツール挿入深さと同じ又は実質的に同じであることが好ましい。ここでいう実質的は、ツールの回転及び移動に起因するズレが許容されることを意味する。密封工程において、ツールの移動経路が、密封空間の外縁全周において「垂直方向に互いに面接触する部分」を含むと共に、拡張工程において、拡張される終端接合部が、「垂直方向に互いに面接触する部分」を含むことが好ましい。密封空間の密封性を高めることができる。
【0065】
本実施形態では、抜取位置9は、挿入位置4と同じである。しかし、抜取位置は、必ずしも、挿入位置と同じである必要はない。本実施形態では、密封空間3を形成するために密封空間3を囲うように設定される平面視環状経路は、挿入位置4及び抜取位置9の両方を含む。しかし、平面視環状経路は、必ずしも、挿入位置又は抜取位置を含む必要はない。
【0066】
抜取位置は、平面視環状経路の外側、即ち平面視環状経路よりも密閉空間から離れた位置であってもよい。その場合、ツールは、例えば、密封空間を密封するように平面視環状経路に沿って移動した後に、平面視環状経路の外側に位置する抜取位置まで移動し、抜取位置において拡張工程を実施してもよい。抜取位置が平面視環状経路の外側に位置するので、平面視において平面視環状経路と密封空間と距離が比較的短い場合であっても、終端接合部を拡張することができる。
【0067】
上述した製造方法により製造された金属構造体の用途は、特に限定されない。金属構造体は、例えば、密封空間3が空洞である状態で用いられる中空金属構造体であってもよい。金属構造体は、熱交換、加熱又は冷却すべき対象物に対して接触又は近接するように設置される伝熱用金属構造体として好適に使用可能である。金属構造体は、密封空間3が流体の流路又は貯留部として機能するように好適に使用可能である。当該流体は、例えば、気体又は液体である。
【0068】
金属構造体が伝熱用金属構造体として用いられる場合、流体は、例えば、冷媒等の伝熱用流体である。金属構造体は、例えば、車両に搭載される車両用部材としては用いられない。金属構造体は、例えば、非耐振用途で用いられる。金属構造体は、例えば、エンジンや車両走行に起因する振動を受ける環境下では使用されない。
【0069】
金属構造体は、例えば、真空において用いられる。なお、真空とは、大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間の状態をいう。金属構造体は、例えば、500℃以上の冷却対象物に対して接触又は近接するように設置される。金属構造体は、例えば、500℃以上の雰囲気下で用いられる。金属構造体は、500℃以上においても密封空間からの流体の漏出を防止できる密封性を有する。従って、金属構造体は、上述のように高温であり且つ真空の環境下において、伝熱用金属構造体として好適に用いられ得る。金属構造体は、例えば、バッキングプレートとして好適に用いられ得る。この場合、冷却対象物としては、例えば、スパッタリングターゲットが挙げられる。
【0070】
なお、金属構造体の製造方法は、更に以下の工程を有していてもよい。例えば、金属構造体の製造方法は、組立工程と密封工程との間に、本体部1と蓋部2との仮接合工程を有していてもよい。仮接合工程は、点状及び/又は破線状に、摩擦撹拌接合を行う工程である。仮接合工程の前では、本体部1と蓋部2とは接合されていない。密封工程では、本体部1と蓋部2とが線状に接合される。このように、非接合状態と、線状での接合状態との間に、点状及び/又は破線状での接合を行うことにより、変形がより効果的に防止又は抑制されることができる。また、密封工程の後に、密封工程により生じたバリを除去するための平坦処理が行われてもよい。さらに、密封工程において、ツール5を傾斜させてもよい。また、本願発明と同様の方向にて、抜取位置の下に柱状の突起を残しておき、拡張工程及び抜取工程を実施することにより、リーク対策とすることも可能である。
【0071】
また、上述の実施の形態および実施例において挙げた数値、材料、構造、形状などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じて、これらと異なる数値、材料、構造、形状などを用いてもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 本体部
1r 凹部
1u 上面
1v 底面
2 蓋部
2b 底面
2u 上面
3 密封空間
3a 貫通孔
4 挿入位置
5 ツール
5a 先端部
6 境界
7 接合部
8 終端接合部
8or 基本外縁
8ex 拡張外縁
9 抜取位置
10a 組立体
11 垂直方向に互いに面接触する部分