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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070109
(43)【公開日】2022-05-12
(54)【発明の名称】車両用警報装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20220502BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20220502BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20220502BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20220502BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D119:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020179144
(22)【出願日】2020-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達也
(72)【発明者】
【氏名】南部 彰
(72)【発明者】
【氏名】アブヅルラヒム ムハッマドイクマル ビン
(72)【発明者】
【氏名】三浦 卓磨
(72)【発明者】
【氏名】田代 貴文
(72)【発明者】
【氏名】松元 涼
(72)【発明者】
【氏名】江崎 之進
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC08
3D232DA15
3D232DA23
3D232DA64
3D232DD02
3D232DE14
3D232EB11
3D232EC23
3D232GG01
3D333CB02
3D333CB13
3D333CB15
3D333CC06
3D333CE41
3D333CE52
(57)【要約】
【課題】警報としてのステアリングホイールの振動を停止する際の違和感を低減することができる車両用警報装置を提供する。
【解決手段】車両の操舵装置は、ステアリングホイールに付与されるトルクを発生するモータおよびモータの駆動を制御する制御装置を有している。制御装置は、たとえば自車両が走行路から逸脱する状況が発生したとき、警報としてステアリングホイールが振動するようにモータの駆動を制御する。また、制御装置は、自車両が走行路から逸脱する状況が発生したとき、警報としてのステアリングホイールの振動がその振動の周期の終わりで終了するように、初期設定される継続時間を補正する。すなわち制御装置は、ステアリングホイールを振動させるべく周期的に変化する波動として警報トルクT2を演算するところ、この警報トルクT2の振動がその周期の終わりで終了するように継続時間を設定する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールの操舵に連動する車両の操舵機構に付与されるトルクを発生するモータと、
運転者に対して警報を発するべき特定の状況が生じたとき、前記警報として前記ステアリングホイールが振動するように前記モータの駆動を制御する制御装置と、を有し、
前記警報として前記ステアリングホイールの振動を継続させる継続時間が初期設定されることを前提として、
前記制御装置は、前記特定の状況が生じたとき、前記警報としてのステアリングホイールの振動がその振動の周期の終わりで終了するように、前記初期設定される継続時間を補正する車両用警報装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記特定の状況が生じたとき、前記ステアリングホイールを振動させるべく周期的に変化する波動として前記モータに発生させるべきトルクである警報トルクを演算する警報トルク演算部を有し、
前記警報トルク演算部は、前記特定の状況が生じたとき、前記警報トルクの振動周波数および前記初期設定される継続時間に基づき、前記初期設定される継続時間を補正する請求項1に記載の車両用警報装置。
【請求項3】
前記操舵機構は、前記ステアリングホイールと車両の転舵輪との間が動力伝達可能に連結された構造を有するものであって、
前記制御装置は、前記ステアリングホイールの操舵状態に基づき前記ステアリングホイールの操舵方向と同方向のトルクであるアシストトルクを演算するアシストトルク演算部と、
前記警報トルク演算部により演算される前記警報トルクと前記アシストトルク演算部により演算される前記アシストトルクとを加算することにより前記モータが発生すべき最終的なトルクを演算する加算器と、を有する請求項2に記載の車両用警報装置。
【請求項4】
前記操舵機構は、前記ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達が分離された構造を有するものであって、
前記制御装置は、前記ステアリングホイールの操舵状態に基づき前記ステアリングホイールの操舵方向と反対方向のトルクである操舵反力トルクを演算する操舵反力トルク演算部と、
前記警報トルク演算部により演算される前記警報トルクと前記操舵反力トルク演算部により演算される前記操舵反力トルクとを加算することにより前記モータが発生すべき最終的なトルクを演算する加算器と、を有する請求項2に記載の車両用警報装置。
【請求項5】
前記特定の状況は、自車両が走行路から逸脱する状況を含んでいる請求項1~請求項4のうちいずれか一項に記載の車両用警報装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記特定の状況を判定する車載の上位制御装置により生成される警報指令が受信されることを契機として、前記警報としての前記ステアリングホイールの振動を開始させる請求項1~請求項5のうちいずれか一項に記載の車両用警報装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用警報装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両が走行路から逸脱する場合、運転者に対して警告を行う装置が存在する。たとえば特許文献1の警報装置は、ステアリングシャフトに駆動力を付与するモータ、およびモータを制御する制御装置を有している。ステアリングシャフトにはステアリングホイールが取り付けられている。制御装置は、車両が走行路から逸脱する旨判定される期間、ステアリングホイールが振動するようにモータに対する給電を制御する。
【0003】
制御装置は、ステアリングホイールの操舵角に応じてモータへ供給される電流に微小振動成分を重畳させる。微小振動成分は正弦波状に変化する電流であって、その電流の値はあらかじめ制御装置に記憶されている。微小振動成分がモータの電流に重畳されるとモータのトルクが微小変化するため、ステアリングホイールが微小振動する。この微小振動を通じて車両が走行路から逸脱する状況であることを運転者に認識させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-251171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の警報装置を含め警報としてステアリングホイールを振動させる従来一般の警報装置においては、つぎのようなことが懸念される。すなわち、警報としてのステアリングホイールの振動を終了するタイミングによっては、周期的に変化するステアリングホイールの振動がその周期の途中で停止されることがある。この場合、警報として発生させる振動の大きさによるものの、モータのトルク、ひいては操舵トルクの値が急激に変化するおそれがある。そして、この操舵トルクの急変に対して運転者が違和感を覚えることが懸念される。
【0006】
本発明の目的は、警報としてのステアリングホイールの振動を停止する際の違和感を低減することができる車両用警報装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成し得る車両用警報装置は、ステアリングホイールの操舵に連動する車両の操舵機構に付与されるトルクを発生するモータと、運転者に対して警報を発するべき特定の状況が生じたとき、前記警報として前記ステアリングホイールが振動するように前記モータの駆動を制御する制御装置と、を有している。前記警報として前記ステアリングホイールの振動を継続させる継続時間が初期設定されることを前提として、前記制御装置は、前記特定の状況が生じたとき、前記警報としてのステアリングホイールの振動がその振動の周期の終わりで終了するように、前記初期設定される継続時間を補正する。
【0008】
この構成によれば、警報としてのステアリングホイールの振動を停止する際のモータのトルク、ひいては操舵トルクの急変が抑制される。このため、警報としてのステアリングホイールの振動を停止する際の運転者の違和感を低減することができる。
【0009】
上記の車両用警報装置は、前記制御装置は、前記特定の状況が生じたとき、前記ステアリングホイールを振動させるべく周期的に変化する波動として前記モータに発生させるべきトルクである警報トルクを演算する警報トルク演算部を有していてもよい。この場合、前記警報トルク演算部は、前記特定の状況が生じたとき、前記警報トルクの振動周波数および前記初期設定される継続時間に基づき、前記初期設定される継続時間を補正するようにしてもよい。
【0010】
この構成によれば、運転者に対して警報を発するべき特定の状況が生じたとき、警報トルクの振動周波数および初期設定される継続時間に基づき、警報トルクの振動がその振動の周期の終わりで終了する時間を補正後の継続時間を得ることができる。
【0011】
上記の車両用警報装置において、前記操舵機構は、前記ステアリングホイールと車両の転舵輪との間が動力伝達可能に連結された構造を有するものであってもよい。この場合、前記制御装置は、前記ステアリングホイールの操舵状態に基づき前記ステアリングホイールの操舵方向と同方向のトルクであるアシストトルクを演算するアシストトルク演算部と、前記警報トルク演算部により演算される前記警報トルクと前記アシストトルク演算部により演算される前記アシストトルクとを加算することにより前記モータが発生すべき最終的なトルクを演算する加算器と、を有していてもよい。
【0012】
この構成によれば、アシストトルクを発生するモータを利用して、ステアリングホイールに警報としての振動を発生させることができる。
上記の車両用警報装置において、前記操舵機構は、前記ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達が分離された構造を有するものであってもよい。この場合、前記制御装置は、前記ステアリングホイールの操舵状態に基づき前記ステアリングホイールの操舵方向と反対方向のトルクである操舵反力トルクを演算する操舵反力トルク演算部と、前記警報トルク演算部により演算される前記警報トルクと前記操舵反力トルク演算部により演算される前記操舵反力トルクとを加算することにより前記モータが発生すべき最終的なトルクを演算する加算器と、を有していてもよい。
【0013】
この構成によれば、操舵反力トルクを発生するモータを利用して、ステアリングホイールに警報としての振動を発生させることができる。
上記の車両用警報装置において、前記特定の状況は、自車両が走行路から逸脱する状況を含んでいてもよい。
【0014】
この構成によれば、警報としてのステアリングホイールの振動を通じて運転者に自車両が走行路から逸脱する状況であることを認識させることができる。
上記の車両用警報装置において、前記制御装置は、前記特定の状況を判定する車載の上位制御装置により生成される警報指令が受信されることを契機として、前記警報としての前記ステアリングホイールの振動を開始させるようにしてもよい。
【0015】
この構成によれば、上位制御装置からの警報指令に基づき、警報としてのステアリングホイールの振動を発生させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の車両用警報装置によれば、警報としてのステアリングホイールの振動を停止する際の違和感を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】車両用警報装置を操舵装置に具体化した第1の実施の形態の構成図。
図2】第1の実施の形態の操舵装置の制御装置のブロック図。
図3】警報トルクの経時的な変化の比較例を示すグラフ。
図4】第1の実施の形態の警報トルクの経時的な変化を示すグラフ。
図5】車両用警報装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に具体化した第2の実施の形態の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1の実施の形態>
以下、車両用警報装置を車両の操舵装置に具体化した第1の実施の形態を説明する。この操舵装置は電動パワーステアリング装置である。
【0019】
図1に示すように、操舵装置10は、ステアリングホイール11と転舵輪12,12との間の動力伝達経路として機能するステアリングシャフト13、ピニオンシャフト14および転舵シャフト15を有している。これらステアリングシャフト13、ピニオンシャフト14および転舵シャフト15は車両の操舵機構を構成する。転舵シャフト15は車幅方向(図1中の左右方向)に沿って延びている。転舵シャフト15の両端にはタイロッド16,16を介して転舵輪12,12が連結されている。ピニオンシャフト14は、転舵シャフト15に対して交わるように設けられている。ピニオンシャフト14のピニオン歯14aは、転舵シャフト15のラック歯15aに噛み合わされている。ステアリングホイール11の回転操作に連動して転舵シャフト15が直線運動する。転舵シャフト15の直線運動がタイロッド16を介して左右の転舵輪12,12に伝達されることにより、転舵輪12,12の転舵角θが変更される。
【0020】
また、操舵装置10は、運転者による操舵を補助するための力であるアシストトルクを生成する構成として、モータ21および減速機構22を有している。モータ21は、アシストトルクの発生源であるアシストモータとして機能する。モータ21としては、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。モータ21は、減速機構22を介してピニオンシャフト23に連結されている。ピニオンシャフト23のピニオン歯23aは、転舵シャフト15のラック歯15bに噛み合わされている。モータ21の回転は減速機構22によって減速されて、当該減速された回転力がアシストトルクとしてピニオンシャフト23を介して転舵シャフト15に伝達される。モータ21の回転に応じて、転舵シャフト15は車幅方向に沿って移動する。
【0021】
ちなみに、操舵装置10は、転舵シャフト15にアシストトルクを付与するタイプでなくてもよい。操舵装置10は、たとえばステアリングシャフト13にアシストトルクを付与するタイプであってもよい。この場合、図1に二点鎖線で示すように、モータ21は、減速機構22を介してステアリングシャフト13に連結される。ピニオンシャフト23は割愛してもよい。
【0022】
また、操舵装置10は、制御装置50を有している。制御装置50は、各種のセンサの検出結果に基づきモータ21を制御する。センサには、トルクセンサ51、車速センサ52および回転角センサ53が含まれている。トルクセンサ51は、ステアリングホイール11の回転操作を通じてステアリングシャフト13に加わる操舵トルクTを検出する。車速センサ52は、車速Vを検出する。回転角センサ53はモータ21に設けられている。回転角センサ53はモータ21の回転角θを検出する。制御装置50は、モータ21に対する通電制御を通じて操舵トルクTに応じたアシストトルクを発生させるアシスト制御を実行する。制御装置50は、トルクセンサ51を通じて検出される操舵トルクT、車速センサ52を通じて検出される車速V、および回転角センサ53を通じて検出される回転角θに基づき、モータ21に対する給電を制御する。
【0023】
ここで、車両にはその安全性あるいは利便性をより向上させるための様々な運転支援機能を実現する運転支援システムが搭載されることがある。運転支援システムとしては、たとえば車線逸脱警報システムが挙げられる。この場合、車両には車線逸脱警報システムの制御装置が制御装置50に対する上位制御装置500として搭載される。上位制御装置500は、たとえばフロントガラスに設置したカメラを通じて車線を認識し、車両が車線を踏み越えるおそれがある旨判定されるとき、制御装置50に対する警報指令Sを生成する。警報指令Sは、運転者に対して警報を発するべき特定の状況が生じたとして制御装置50に警報の出力を促すための電気信号である。上位制御装置500は、運転席などに設けられる図示しないスイッチの操作を通じて、自己の運転支援機能をオンとオフとの間で切り替える。すなわち、上位制御装置500は運転支援機能がオンされている期間だけ動作する。ちなみに、上位制御装置500は、先のカメラに設けられることもある。
【0024】
つぎに、制御装置50について詳細に説明する。
図2に示すように、制御装置50は、マイクロコンピュータ50Aおよび駆動回路50Bを有している。マイクロコンピュータ50Aは、トルクセンサ51を通じて検出される操舵トルクTh、および車速センサ52を通じて検出される車速Vに基づき電流指令値Iを演算する。駆動回路50Bは、マイクロコンピュータ50Aにより演算される電流指令値Iに応じた駆動電力をモータ21へ供給する。
【0025】
マイクロコンピュータ50Aは、アシストトルク演算部61、警報トルク演算部62、加算器63、および電流指令値演算部64を有している。これらの演算部はマイクロコンピュータ50AのCPU(中央処理装置)が制御プログラムを実行することによって実現される機能部分である。ただし、各演算部がソフトウェアによって実現されることはあくまでも一例であって、少なくとも一部の演算部をロジック回路などのハードウェアによって実現してもよい。
【0026】
アシストトルク演算部61は、トルクセンサ51を通じて検出される操舵トルクTh、および車速センサ52を通じて検出される車速Vに基づきモータ21が発生すべきトルクであるアシストトルクT1を演算する。アシストトルク演算部61は、操舵トルクTの絶対値が増加するほど、また車速Vが遅くなるほど、より大きい絶対値のアシストトルクT1を演算する。
【0027】
警報トルク演算部62は、上位制御装置500により生成される警報指令Sを取り込む。警報トルク演算部62は、警報指令Sが取り込まれるとき、運転者に注意を促す警報を発するための処理として警報トルクT2を演算する。警報トルクT2は、モータ21が発生するトルクに微小な振動を発生させる観点に基づき設定される微小振動成分である。警報トルクT2は、時間に対して正と負の値が周期的に変化する波動である正弦波として設定される。警報トルク演算部62は、上位制御装置500から警報指令Sが出力されている期間、定められた出力パターンで警報トルクT2の出力を継続する。警報トルク演算部62は、上位制御装置500からの警報指令Sが途絶えたとき、警報トルクT2の出力を停止する。このとき、警報トルクT2の値は「0」である。
【0028】
ちなみに、警報トルクT2の出力パターンは、設計段階であらかじめ初期設定されるものであって、警報トルクT2の出力の継続と休止とが交互に組み合わせられてなる。警報トルクT2の振幅、警報トルクT2の振動周波数、警報トルクT2の出力を継続する継続時間、および警報トルクT2の出力を休止する休止時間は、制御装置50の図示しない記憶装置に記憶されている。
【0029】
加算器63は、アシストトルク演算部61により演算されるアシストトルクT1と、警報トルク演算部62により演算される警報トルクT2とを加算することにより目標アシストトルクT3を演算する。上位制御装置500により警報指令Sが生成されないとき、アシストトルク演算部61により演算されるアシストトルクT1がそのまま目標アシストトルクT3として使用される。
【0030】
電流指令値演算部64は、加算器63により演算される目標アシストトルクT3に基づきモータ21に対する電流指令値Iを演算する。電流指令値Iは、モータ21が目標アシストトルクT3を発生するために必要とされる電流の目標値である。
【0031】
警報トルク演算部62により微小振動成分である警報トルクT2が演算される場合、電流指令値Iは警報トルクT2の出力パターンに応じて振動する。このため、駆動回路50Bからモータ21へ供給される駆動電流、ひいてはモータ21が発生するトルクも警報トルクT2の出力パターンに応じて振動する。これにより、ステアリングホイール11が微小振動する。運転者は、操舵感触としてステアリングホイール11の微小な振動を感じることにより、車両が走行路から逸脱する状況であることを認識可能となる。
【0032】
ところが、このように構成した操舵装置10においては、つぎのことが懸念される。すなわち、警報トルクT2の周波数および警報トルクT2の出力を継続する継続時間は設計段階であらかじめ設定されるところ、この設定される警報トルクT2の周波数あるいは継続時間によっては正弦波である警報トルクT2の出力がその周期の途中で停止されるおそれがある。この警報トルクT2の停止に起因してモータ21のトルク、ひいては操舵トルクTが急変するおそれがある。
【0033】
警報トルクT2の出力パターンの一例は、つぎの通りである。
図3のグラフに示すように、上位制御装置500から警報指令Sが出力されることを契機として警報トルクT2の出力が開始される(時刻t0)。警報トルクT2は、継続時間ΔTAだけ継続して出力された後(時刻t1)、休止時間ΔTPだけ出力が休止される。休止時間ΔTPが経過すると(時刻t2)、再び警報トルクT2が継続時間ΔTAだけ継続して出力される。以後、上位制御装置500から警報指令Sが出力されている期間、警報トルクT2の出力と休止とが交互に繰り返される。
【0034】
この図3のグラフに示す例では、警報トルクT2の振動の3周期目の途中で継続時間ΔTAが経過して警報トルクT2の出力が停止される。このとき、警報トルクT2の値は、その出力が停止されるときの値T20から「0」へ変化する。この警報トルクT2の変化量ΔT2がモータ21のトルクの変化、ひいて操舵トルクTの変化として現れる。警報トルクT2の出力が停止された際の警報トルクT2の変化量ΔT2の値が大きいときほど、操舵トルクTの変化量が大きくなるため、運転者の感じる違和感もより大きくなる。これは、設計段階で設定される警報トルクT2の振幅の値が大きいときほど顕著である。
【0035】
そこで、本実施の形態において、警報トルク演算部62は警報トルクT2の継続時間ΔTAをつぎのようにして補正する。
警報トルク演算部62は、まず次式(1)を使用して正弦波である警報トルクT2の振動回数Nを演算する。振動回数Nとは、正弦波である警報トルクT2が継続時間ΔTA内で振動する回数をいう。
【0036】
N=round(f・ΔTA) …(1)
ただし、「f」は警報トルクT2の振動周波数、「ΔTA」は警報トルクT2の継続時間である。「round()」は、指定の数値を四捨五入するための関数である。
【0037】
つぎに、警報トルク演算部62は、次式(2)を使用して警報トルクT2の振動周期Tを演算する。
T=round(1/f) …(2)
つぎに、警報トルク演算部62は、先の式(1)により得られる振動回数N、および先の式(2)により得られる振動周期Tを次式(3)に適用することにより、警報トルクT2の最終的な継続時間ΔTBを演算する。
【0038】
ΔTB=T・N …(3)
以上で、警報トルクT2の継続時間の補正処理が完了となる。ちなみに、継続時間ΔTBは、設計段階で設定される継続時間ΔTAよりも長い時間になるときもあるし、短い時間になるときもある。
【0039】
このように警報トルクT2の継続時間ΔTAを継続時間ΔTBに補正することによって、つぎの作用を奏する。ただし、ここでは補正後の継続時間ΔTBは補正前の継続時間ΔTAよりも長い時間に設定されている。
【0040】
図4のグラフに示すように、上位制御装置500から警報指令Sが出力されることを契機として警報トルクT2の出力が開始される(時刻t10)。警報トルクT2は、設計段階で設定された継続時間ΔTAが経過しても(時刻t11)休止されることなく継続して出力される。そして警報トルクT2は、ちょうどその振動の周期、ここでは3周期の終わりとなる補正後の継続時間ΔTBが経過するタイミングで(時刻T12)、その出力が休止される。
【0041】
警報トルクT2の振動がその周期の終わりとなる間際、正弦波である警報トルクT2の値は「0」へ向けて徐々に変化し、補正後の継続時間ΔTBが経過するタイミングで「0」に至る。すなわち、警報トルクT2の出力が休止されるとき、警報トルクT2の値が急激に「0」になることが抑制される。このように、警報トルクT2の値が急激に変化することが抑えられることによって、モータ21のトルク、ひいては操舵トルクTが急激に変化することが抑制される。
【0042】
以後、上位制御装置500から警報指令Sが出力されている期間、警報トルクT2の出力と休止とが交互に繰り返される。
ちなみに、補正前の継続時間ΔTAが経過する前、あるいは補正後の継続時間ΔTBが経過する前において、警報を発するべき特定の状況が解消されることによって上位制御装置500からの警報指令Sの出力が停止されることが想定される。この場合であれ、警報トルク演算部62は、補正後の継続時間ΔTBが経過するまでの期間、警報トルクT2の出力を継続する。
【0043】
したがって、第1の本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)警報としてステアリングホイール11の振動を継続させる継続時間ΔTAは設計段階で初期設定されるところ、この初期設定される継続時間ΔTAは正弦波である警報トルクT2の振動の周期の終わりで振動が終了する継続時間ΔTBに補正される。この補正後の継続時間ΔTBを使用することにより、警報トルクT2の出力を停止する際のモータ21のトルク、ひいては操舵トルクTの急変が抑制される。このため、警報としてのステアリングホイール11の振動を停止する際の運転者の違和感を低減することができる。
【0044】
(2)また、初期設定される継続時間ΔTAは、警報トルクT2の振動の周期の終わりで振動が終了するように補正される。このため、警報としてのステアリングホイール11の振動、すなわち正弦波である警報トルクT2の振動の周期の終わりで振動が終了するように、警報トルクT2の振動周波数および警報としてのステアリングホイール11の振動の継続時間を厳密に設定する必要がない。したがって、設計者の設計自由度が向上する。
【0045】
(3)正弦波である警報トルクT2などの振動周波数は、運転者の操舵感触により大きく影響を与える要素である。このため、警報トルクT2などの振動周波数は、車両テストを経て多数の微調整を繰り返しながら決定されることがある。本実施の形態によれば、警報トルクT2の振動周波数にかかわらず、警報トルクT2の振動の周期の終わりで振動が終了するように警報としてステアリングホイール11を振動させる継続時間が補正される。したがって、車両用警報装置としての操舵装置単体の制御ロジックを変更することなく、多数の周波数調整に対して対応することができる。
【0046】
(4)アシストトルクを発生するモータ21を利用して、ステアリングホイール11に警報としての振動を発生させることができる。
<第2の実施の形態>
つぎに、車両用警報装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に具体化した第2の実施の形態を説明する。なお、第1の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付してその詳細な説明を割愛する。
【0047】
図5に示すように、ステアバイワイヤ式の操舵装置100は、ステアリングホイール11に操舵反力トルクを付与する反力ユニット100Aを有している。操舵反力トルクとは、運転者によるステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用するトルクをいう。操舵反力トルクをステアリングホイール11に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。
【0048】
反力ユニット100Aは、ステアリングホイール11が連結されるステアリングシャフト13、およびステアリングシャフト13に設けられるトルクセンサ51を有している。ただし、ステアリングシャフト13は、車両の操舵機構を構成するものであって、転舵輪12との間の動力伝達が分離されている。
【0049】
また、反力ユニット100Aは、反力モータ101、減速機構102、回転角センサ103および制御装置104を有している。
反力モータ101は、操舵反力トルクの発生源である。反力モータ101は、減速機構102を介して、ステアリングシャフト13に連結されている。減速機構102は、ステアリングシャフト13におけるトルクセンサ51を基準とするステアリングホイール11と反対側の部分に設けられている。ステアリングシャフト13における反力モータ101が発生するトルクは、操舵反力トルクとしてステアリングシャフト13に付与される。
【0050】
回転角センサ103は反力モータ101に設けられている。回転角センサ103は反力モータ101の回転角θを検出する。
制御装置104は、反力モータ101の駆動制御を通じて操舵トルクTに応じた操舵反力トルクを発生させる反力制御を実行する。制御装置104は、トルクセンサ51を通じて検出される操舵トルクTに基づき目標操舵反力トルクを演算し、この演算される目標操舵反力トルクを反力モータ101に発生させるべく反力モータ101への給電を制御する。制御装置104は、回転角センサ103を通じて検出される反力モータ101の回転角θに基づきステアリングシャフト13の回転角である操舵角θを演算する。
【0051】
制御装置104は、先の図2に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。すなわち、図2に括弧書きの符号を付して示すように、制御装置104は、マイクロコンピュータ104Aおよび駆動回路104Bを有している。マイクロコンピュータ104Aは、操舵反力トルク演算部161、警報トルク演算部162、加算器163、および電流指令値演算部164を有している。
【0052】
操舵反力トルク演算部161は、トルクセンサ51を通じて検出される操舵トルクTh、および車速センサ52を通じて検出される車速Vに基づきモータ21が発生すべきトルクである操舵反力トルクT11を演算する。操舵反力トルク演算部161は、操舵トルクTの絶対値が増加するほど、また車速Vが遅くなるほど、より大きい絶対値の操舵反力トルクT11を演算する。
【0053】
警報トルク演算部162は、上位制御装置500により生成される警報指令Sを取り込む。警報トルク演算部162は、警報指令Sが取り込まれるとき、運転者に注意を促す警報を発するための処理として警報トルクT12を演算する。警報トルクT12の出力パターンとしては、先の第1の実施の形態と同様の出力パターンが採用される。すなわち、上位制御装置500から警報指令Sが出力されている期間、警報トルクT2の出力の継続と休止とが交互に繰り返される。
【0054】
加算器163は、操舵反力トルク演算部161により演算される操舵反力トルクT11と、警報トルク演算部162により演算される警報トルクT12とを加算することにより目標操舵反力トルクT13を演算する。上位制御装置500により警報指令Sが生成されないとき、操舵反力トルク演算部161により演算される操舵反力トルクT11がそのまま目標操舵反力トルクT13として使用される。
【0055】
電流指令値演算部164は、加算器163により演算される目標操舵反力トルクT13に基づき反力モータ101に対する電流指令値Iを演算する。
さて、警報トルク演算部162により微小振動成分である警報トルクT12が演算される場合、電流指令値Iは警報トルクT12の出力パターンに応じて振動する。このため、駆動回路104Bから反力モータ101へ供給される駆動電流、ひいては反力モータ101が発生する操舵反力トルクも警報トルクT12の出力パターンに応じて振動する。これにより、ステアリングホイール11が振動する。運転者は、操舵感触としてステアリングホイール11の微小な振動を感じることにより、車両が走行路から逸脱する状況であることを認識可能となる。
【0056】
また、警報としてステアリングホイール11の振動が開始され際、警報トルクT12の出力を継続する継続時間ΔTAが先の第1の実施の形態と同様にして補正される。すなわち、警報トルクT2の出力を継続する継続時間ΔAは、正弦波である警報トルクT12の振動の周期の終わりで振動が終了する継続時間ΔTBに補正される。この補正によって、警報トルクT12の振動がその周期の終わりとなる間際、正弦波である警報トルクT12の値は「0」へ向けて徐々に変化し、補正後の継続時間ΔTBが経過するタイミングで「0」に至る。すなわち、警報トルクT12の出力が休止されるとき、警報トルクT12の値が急激に「0」になることが抑制される。
【0057】
したがって、第2の実施の形態によれば、ステアバイワイヤ方式の操舵装置において、先の第1の実施の形態の(1)~(4)と同様の効果に加え、つぎの効果を得ることができる。
【0058】
(5)操舵反力トルクを発生する反力モータ101を利用して、ステアリングホイール11に警報としての振動を発生させることができる。
<他の実施の形態>
なお、第1および第2の実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
【0059】
・第1および第2の実施の形態において、運転支援機能として車線逸脱を防止するための警報の他、居眠り防止あるいは衝突回避のための警報としてステアリングホイール11に振動を発生させてもよい。
【0060】
・第1および第2の実施の形態において、何らかの運転支援機能が停止される場合、その機能停止を警告するための警報としてステアリングホイール11に振動を発生させてもよい。たとえば、車両に車線維持支援システムが搭載されている場合、車両が走行路から逸脱する状況に至ったとき、車線維持支援システムの機能が実行停止される。このとき、ステアリングホイール11の振動を通じて車線維持支援システムの機能が実行停止されることを運転者に警告するようにしてもよい。ちなみに、車線維持支援システムとは、たとえば高速道路を走行する際、運転者の運転負荷を軽減することを目的として、車両が車線の中央付近を維持して走行するようにステアリングホイール11の操作を支援するシステムをいう。
【0061】
・第1および第2の実施の形態では、警報トルクT2を正と負の値が周期的に変化する正弦波として設定したが、これに限らず、一定の周期を有する波動であればよい。たとえば、警報トルクT2を三角波あるいは矩形波のような非正弦波として設定してもよい。
【0062】
・第1の実施の形態では、ステアリングホイール11に警報としての振動を発生させるために微小振動成分である警報トルクT2をアシストトルクT1に加算したが、つぎのようにしてもよい。すなわち、アシストトルクT1に基づき演算される電流指令値に微小振動成分である警報電流を加算する。このようにしても、ステアリングホイール11に警報としての振動を発生させることができる。
【0063】
・第2の実施の形態では、ステアリングホイール11に警報としての振動を発生させるために微小振動成分である警報トルクT12を操舵反力トルクT11に加算したが、つぎのようにしてもよい。すなわち、操舵反力トルクT11に基づき演算される電流指令値に微小振動成分である警報電流を加算する。このようにしても、ステアリングホイール11に警報としての振動を発生させることができる。
【0064】
・第1の実施の形態では、アシストトルクを発生するモータ21を利用してステアリングホイール11に警報としての振動を発生させたが、このモータ21とは別個にステアリングホイール11に警報としての振動を発生させるための専用のアクチュエータを設けてもよい。このアクチュエータはモータを含む。
【0065】
・第2の実施の形態では、操舵反力トルクを発生する反力モータ101を利用してステアリングホイール11に警報としての振動を発生させたが、この反力モータ101とは別個にステアリングホイール11に警報としての振動を発生させるための専用のアクチュエータを設けてもよい。このアクチュエータはモータを含む。
【符号の説明】
【0066】
10…操舵装置(車両用警報装置)
11…ステアリングホイール
21…モータ(アシストモータ)
50…制御装置
61…アシストトルク演算部
62…警報トルク演算部
63…加算器
100…操舵装置(車両用警報装置)
101…反力モータ
104…制御装置
161…操舵反力トルク演算部
162…警報トルク演算部
163…加算器
500…上位制御装置
図1
図2
図3
図4
図5