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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070112
(43)【公開日】2022-05-12
(54)【発明の名称】車両用警報装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20220502BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20220502BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20220502BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20220502BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D119:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020179147
(22)【出願日】2020-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達也
(72)【発明者】
【氏名】南部 彰
(72)【発明者】
【氏名】アブヅルラヒム ムハッマドイクマル ビン
(72)【発明者】
【氏名】江崎 之進
(72)【発明者】
【氏名】井戸 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】田代 貴文
(72)【発明者】
【氏名】松元 涼
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC08
3D232DA15
3D232DA23
3D232DA64
3D232DD02
3D232DD07
3D232DE14
3D232EC23
3D232GG01
3D333CB02
3D333CB13
3D333CB15
3D333CC06
3D333CE41
(57)【要約】
【課題】警報としてステアリングホイールを振動させる際の違和感を低減することができる車両用警報装置を提供する。
【解決手段】車両の制御装置は、ステアリングホイールに付与されるトルクを発生するモータおよびモータの駆動を制御する。制御装置は、自車両が走行路から逸脱する状況が発生したとき、警報としてステアリングホイールが振動するようにモータの駆動を制御する。また、制御装置は、車両が走行路から逸脱する状況が生じたとき、ステアリングホイールの警報としての振動の大きさの変化を打ち消すようにモータの駆動を制御する。制御装置は、ステアリングホイールを振動させるべく、定められた一定の振幅で周期的に変化する波動として警報トルクT2を演算する。制御装置は、ステアリングホイールの警報としての振動の大きさの変化が打ち消されるように警報トルクT2を補正するフィルタ65を有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールの操舵に連動する車両の操舵機構に付与されるトルクを発生するモータと、
運転者に対して警報を発するべき特定の状況が生じたとき、前記警報として前記ステアリングホイールが定められた一定の大きさで振動するように前記モータの駆動を制御する制御装置と、を有し、
前記警報として前記ステアリングホイールを振動させる期間、前記ステアリングホイールの操舵状態に応じて前記ステアリングホイールの警報としての振動の大きさが変化することを前提として、
前記制御装置は、前記特定の状況が生じたとき、前記ステアリングホイールの警報としての振動の大きさの変化を打ち消すように前記モータの駆動を制御する車両用警報装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記特定の状況が生じたとき、前記ステアリングホイールを振動させるべく、定められた一定の振幅で周期的に変化する波動として前記モータに発生させるべきトルクである警報トルクを演算する警報トルク演算部と、
前記特定の状況が生じたとき、前記ステアリングホイールの操舵状態に応じた前記ステアリングホイールの警報としての振動の振幅の変化を打ち消すように、前記警報トルク演算部により演算される前記警報トルクを補正する補正処理部と、を有している請求項1に記載の車両用警報装置。
【請求項3】
前記補正処理部は、前記ステアリングホイールの操舵状態に応じた前記ステアリングホイールの警報としての振動の変動成分を打ち消すためのフィルタである請求項2に記載の車両用警報装置。
【請求項4】
前記操舵機構は、前記ステアリングホイールと車両の転舵輪との間が動力伝達可能に連結された構造を有するものであって、
前記制御装置は、前記ステアリングホイールの操舵状態に基づき前記ステアリングホイールの操舵方向と同方向のトルクであるアシストトルクを演算するアシストトルク演算部と、
前記警報トルク演算部により演算される前記警報トルクと前記アシストトルク演算部により演算される前記アシストトルクとを加算することにより前記モータが発生すべき最終的なトルクを演算する加算器と、を有する請求項2または請求項3に記載の車両用警報装置。
【請求項5】
前記操舵機構は、前記ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達が分離された構造を有するものであって、
前記制御装置は、前記ステアリングホイールの操舵状態に基づき前記ステアリングホイールの操舵方向と反対方向のトルクである操舵反力トルクを演算する操舵反力トルク演算部と、
前記警報トルク演算部により演算される前記警報トルクと前記操舵反力トルク演算部により演算される前記操舵反力トルクとを加算することにより前記モータが発生すべき最終的なトルクを演算する加算器と、を有する請求項2または請求項3に記載の車両用警報装置。
【請求項6】
前記特定の状況は、自車両が走行路から逸脱する状況を含んでいる請求項1~請求項5のうちいずれか一項に記載の車両用警報装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記特定の状況を判定する車載の上位制御装置により生成される警報指令が受信されることを契機として、前記警報としての前記ステアリングホイールの振動を開始させる請求項1~請求項6のうちいずれか一項に記載の車両用警報装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用警報装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両が走行路から逸脱する場合、運転者に対して警告を行う装置が存在する。たとえば特許文献1の警報装置は、ステアリングシャフトに駆動力を付与するモータ、およびモータを制御する制御装置を有している。ステアリングシャフトにはステアリングホイールが取り付けられている。制御装置は、車両が走行路から逸脱する旨判定される期間、ステアリングホイールが振動するようにモータに対する給電を制御する。
【0003】
制御装置は、ステアリングホイールの操舵角に応じてモータへ供給される電流に微小振動成分を重畳させる。微小振動成分は正弦波状に変化する電流であって、その電流の値はあらかじめ制御装置に記憶されている。微小振動成分がモータの電流に重畳されるとモータのトルクが微小変化するため、ステアリングホイールが微小振動する。この微小振動を通じて車両が走行路から逸脱する状況であることを運転者に認識させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-251171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の警報装置では、警報としてステアリングホイールを振動させる期間、モータの電流に重畳される微小振動成分の振幅は所定の値に維持される。このため、特許文献1の警報装置によれば、警報としてのステアリングホイールの振動の強度が微小振動成分の振幅に応じた振動強度に維持されることが期待される。
【0006】
ところが、たとえ微小振動成分の振幅が所定の値に維持される場合であれ、ステアリングホイールの操舵角に応じてモータへ供給される電流が変化することによって、運転者が感じるステアリングホイールの振動強度が変化するおそれがある。このステアリングホイールの振動強度の変化に対して、運転者が操舵感触として違和感を覚えるおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、警報としてステアリングホイールを振動させる際の違和感を低減することができる車両用警報装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成し得る車両用警報装置は、ステアリングホイールの操舵に連動する車両の操舵機構に付与されるトルクを発生するモータと、運転者に対して警報を発するべき特定の状況が生じたとき、前記警報として前記ステアリングホイールが定められた一定の大きさで振動するように前記モータの駆動を制御する制御装置と、を有している。前記警報として前記ステアリングホイールを振動させる期間、前記ステアリングホイールの操舵状態に応じて前記ステアリングホイールの警報としての振動の大きさが変化することを前提として、前記制御装置は、前記特定の状況が生じたとき、前記ステアリングホイールの警報としての振動の大きさの変化を打ち消すように前記モータの駆動を制御する。
【0009】
この構成によれば、運転者に対して警報を発するべき特定の状況が生じたとき、ステアリングホイールの警報としての振動の大きさがステアリングホイールの操舵状態に応じて変化することが抑えられる。すなわち、運転者に対して警報を発するべき特定の状況が生じたとき、ステアリングホイールは、その操舵状態にかかわらず、定められた一定の大きさで振動する。このため、警報としてステアリングホイールを振動させる際の違和感を低減することができる。
【0010】
上記の車両用警報装置において、前記制御装置は、前記特定の状況が生じたとき、前記ステアリングホイールを振動させるべく、定められた一定の振幅で周期的に変化する波動として前記モータに発生させるべきトルクである警報トルクを演算する警報トルク演算部と、前記特定の状況が生じたとき、前記ステアリングホイールの操舵状態に応じた前記ステアリングホイールの警報としての振動の振幅の変化を打ち消すように、前記警報トルク演算部により演算される前記警報トルクを補正する補正処理部と、を有していてもよい。
【0011】
この構成によれば、警報トルク演算部により演算される警報トルクに対して補正処理部による補正処理が施されることにより、ステアリングホイールの操舵状態に応じたステアリングホイールの警報としての振動の振幅の変化が打ち消される。このため、運転者に対して警報を発するべき特定の状況が生じたとき、ステアリングホイールの操舵状態にかかわらず、警報トルクに応じた振動が発生する。
【0012】
上記の車両用警報装置において、前記補正処理部は、前記ステアリングホイールの操舵状態に応じた前記ステアリングホイールの警報としての振動の変動成分を打ち消すためのフィルタであってもよい。
【0013】
この構成によれば、警報トルク演算部により演算される警報トルクがフィルタによって処理されることにより、ステアリングホイールの操舵状態に応じたステアリングホイールの警報としての振動の変動成分が打ち消される。このため、運転者に対して警報を発するべき特定の状況が生じたとき、ステアリングホイールの操舵状態にかかわらず、警報トルクに応じた振動が発生する。
【0014】
上記の車両用警報装置において、前記操舵機構は、前記ステアリングホイールと車両の転舵輪との間が動力伝達可能に連結された構造を有するものであってもよい。この場合、前記制御装置は、前記ステアリングホイールの操舵状態に基づき前記ステアリングホイールの操舵方向と同方向のトルクであるアシストトルクを演算するアシストトルク演算部と、前記警報トルク演算部により演算される前記警報トルクと前記アシストトルク演算部により演算される前記アシストトルクとを加算することにより前記モータが発生すべき最終的なトルクを演算する加算器と、を有していてもよい。
【0015】
この構成によれば、運転者に対して警報を発するべき特定の状況が生じたとき、アシストトルクを発生するモータを利用して、ステアリングホイールに警報としての振動を発生させることができる。また、警報トルクの振幅はステアリングホイールの操舵状態に応じて変化するアシストトルクの影響を受けるところ、上記の車両用警報装置によれば、ステアリングホイールの警報としての振動の大きさがアシストトルクに応じて変化することが抑えられる。
【0016】
上記の車両用警報装置において、前記操舵機構は、前記ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達が分離された構造を有するものであってもよい。この場合、前記制御装置は、前記ステアリングホイールの操舵状態に基づき前記ステアリングホイールの操舵方向と反対方向のトルクである操舵反力トルクを演算する操舵反力トルク演算部と、前記警報トルク演算部により演算される前記警報トルクと前記操舵反力トルク演算部により演算される前記操舵反力トルクとを加算することにより前記モータが発生すべき最終的なトルクを演算する加算器と、を有していてもよい。
【0017】
この構成によれば、運転者に対して警報を発するべき特定の状況が生じたとき、操舵反力トルクを発生するモータを利用して、ステアリングホイールに警報としての振動を発生させることができる。また、警報トルクの振幅はステアリングホイールの操舵状態に応じて変化する操舵反力トルクの影響を受けるところ、上記の車両用警報装置によれば、ステアリングホイールの警報としての振動の大きさが操舵反力トルクに応じて変化することが抑えられる。
【0018】
上記の車両用警報装置において、前記特定の状況は、自車両が走行路から逸脱する状況を含んでいてもよい。
この構成によれば、警報としてのステアリングホイールの振動を通じて運転者に自車両が走行路から逸脱する状況であることを認識させることができる。
【0019】
上記の車両用警報装置において、前記制御装置は、前記特定の状況を判定する車載の上位制御装置により生成される警報指令が受信されることを契機として、前記警報としての前記ステアリングホイールの振動を開始させるようにしてもよい。
【0020】
この構成によれば、上位制御装置からの警報指令に基づき、警報としてのステアリングホイールの振動を発生させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の車両用警報装置によれば、警報としてステアリングホイールを振動させる際の違和感を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】車両用警報装置を操舵装置に具体化した第1の実施の形態の構成図。
図2】第1の実施の形態の操舵装置の制御装置のブロック図。
図3】第1の実施の形態の警報トルクの経時的な変化を示すグラフ。
図4】操舵装置の比較例のブロック線図。
図5】第1の実施の形態の操舵装置のブロック線図。
図6】車両用警報装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に具体化した第2の実施の形態の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1の実施の形態>
以下、車両用警報装置を車両の操舵装置に具体化した第1の実施の形態を説明する。この操舵装置は電動パワーステアリング装置である。
【0024】
図1に示すように、操舵装置10は、ステアリングホイール11と転舵輪12,12との間の動力伝達経路として機能するステアリングシャフト13、ピニオンシャフト14および転舵シャフト15を有している。これらステアリングシャフト13、ピニオンシャフト14および転舵シャフト15は車両の操舵機構を構成する。転舵シャフト15は車幅方向(図1中の左右方向)に沿って延びている。転舵シャフト15の両端にはタイロッド16,16を介して転舵輪12,12が連結されている。ピニオンシャフト14は、転舵シャフト15に対して交わるように設けられている。ピニオンシャフト14のピニオン歯14aは、転舵シャフト15のラック歯15aに噛み合わされている。ステアリングホイール11の回転操作に連動して転舵シャフト15が直線運動する。転舵シャフト15の直線運動がタイロッド16を介して左右の転舵輪12,12に伝達されることにより、転舵輪12,12の転舵角θが変更される。
【0025】
また、操舵装置10は、運転者による操舵を補助するための力であるアシストトルクを生成する構成として、モータ21および減速機構22を有している。モータ21は、アシストトルクの発生源であるアシストモータとして機能する。モータ21としては、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。モータ21は、減速機構22を介してピニオンシャフト23に連結されている。ピニオンシャフト23のピニオン歯23aは、転舵シャフト15のラック歯15bに噛み合わされている。モータ21の回転は減速機構22によって減速されて、当該減速された回転力がアシストトルクとしてピニオンシャフト23を介して転舵シャフト15に伝達される。モータ21の回転に応じて、転舵シャフト15は車幅方向に沿って移動する。
【0026】
ちなみに、操舵装置10は、転舵シャフト15にアシストトルクを付与するタイプでなくてもよい。操舵装置10は、たとえばステアリングシャフト13にアシストトルクを付与するタイプであってもよい。この場合、図1に二点鎖線で示すように、モータ21は、減速機構22を介してステアリングシャフト13に連結される。ピニオンシャフト23は割愛してもよい。
【0027】
また、操舵装置10は、制御装置50を有している。制御装置50は、各種のセンサの検出結果に基づきモータ21を制御する。センサには、トルクセンサ51、車速センサ52および回転角センサ53が含まれている。トルクセンサ51は、ステアリングホイール11の回転操作を通じてステアリングシャフト13に加わる操舵トルクTを検出する。車速センサ52は、車速Vを検出する。回転角センサ53はモータ21に設けられている。回転角センサ53はモータ21の回転角θを検出する。制御装置50は、モータ21に対する通電制御を通じて操舵トルクTに応じたアシストトルクを発生させるアシスト制御を実行する。制御装置50は、トルクセンサ51を通じて検出される操舵トルクT、車速センサ52を通じて検出される車速V、および回転角センサ53を通じて検出される回転角θに基づき、モータ21に対する給電を制御する。
【0028】
ここで、車両にはその安全性あるいは利便性をより向上させるための様々な運転支援機能を実現する運転支援システムが搭載されることがある。運転支援システムとしては、たとえば車線逸脱警報システムが挙げられる。この場合、車両には車線逸脱警報システムの制御装置が制御装置50に対する上位制御装置500として搭載される。上位制御装置500は、たとえばフロントガラスに設置したカメラを通じて車線を認識し、車両が車線を踏み越えるおそれがある旨判定されるとき、制御装置50に対する警報指令Sを生成する。警報指令Sは、運転者に対して警報を発するべき特定の状況が生じたとして制御装置50に警報の出力を促すための電気信号である。上位制御装置500は、運転席などに設けられる図示しないスイッチの操作を通じて、自己の運転支援機能をオンとオフとの間で切り替える。すなわち、上位制御装置500は運転支援機能がオンされている期間だけ動作する。ちなみに、上位制御装置500は、先のカメラに設けられることもある。
【0029】
つぎに、制御装置50について詳細に説明する。
図2に示すように、制御装置50は、マイクロコンピュータ50Aおよび駆動回路50Bを有している。マイクロコンピュータ50Aは、トルクセンサ51を通じて検出される操舵トルクTh、および車速センサ52を通じて検出される車速Vに基づき電流指令値Iを演算する。駆動回路50Bは、マイクロコンピュータ50Aにより演算される電流指令値Iに応じた駆動電力をモータ21へ供給する。
【0030】
マイクロコンピュータ50Aは、アシストトルク演算部61、警報トルク演算部62、加算器63、および電流指令値演算部64を有している。これらの演算部はマイクロコンピュータ50AのCPU(中央処理装置)が制御プログラムを実行することによって実現される機能部分である。ただし、各演算部がソフトウェアによって実現されることはあくまでも一例であって、少なくとも一部の演算部をロジック回路などのハードウェアによって実現してもよい。
【0031】
アシストトルク演算部61は、トルクセンサ51を通じて検出される操舵トルクTh、および車速センサ52を通じて検出される車速Vに基づきモータ21が発生すべきトルクであるアシストトルクT1を演算する。アシストトルク演算部61は、操舵トルクTの絶対値が増加するほど、また車速Vが遅くなるほど、より大きい絶対値のアシストトルクT1を演算する。
【0032】
警報トルク演算部62は、上位制御装置500により生成される警報指令Sを取り込む。警報トルク演算部62は、警報指令Sが取り込まれるとき、運転者に注意を促す警報を発するための処理として警報トルクT2を演算する。警報トルクT2は、モータ21が発生するトルクに微小な振動を発生させる観点に基づき設定される微小振動成分である。警報トルクT2は、時間に対して周期的に変化する波動である正弦波として設定される。警報トルク演算部62は、上位制御装置500から警報指令Sが出力されている期間、定められた出力パターンで警報トルクT2の出力を継続する。警報トルク演算部62は、上位制御装置500からの警報指令Sが途絶えたとき、警報トルクT2の出力を停止する。このとき、警報トルクT2の値は「0」である。
【0033】
ちなみに、警報トルクT2の出力パターンは、設計段階であらかじめ初期設定されるものであって、警報トルクT2の出力の継続と休止とが交互に組み合わせられてなる。警報トルクT2の振幅、警報トルクT2の振動周波数、警報トルクT2の出力を継続する継続時間、および警報トルクT2の出力を休止する休止時間は、制御装置50の図示しない記憶装置に記憶されている。
【0034】
加算器63は、アシストトルク演算部61により演算されるアシストトルクT1と、警報トルク演算部62により演算される警報トルクT2とを加算することにより目標アシストトルクT3を演算する。上位制御装置500により警報指令Sが生成されないとき、アシストトルク演算部61により演算されるアシストトルクT1がそのまま目標アシストトルクT3として使用される。
【0035】
電流指令値演算部64は、加算器63により演算される目標アシストトルクT3に基づきモータ21に対する電流指令値Iを演算する。電流指令値Iは、モータ21が目標アシストトルクT3を発生するために必要とされる電流の目標値である。
【0036】
警報トルク演算部62により微小振動成分である警報トルクT2が演算される場合、電流指令値Iは警報トルクT2の出力パターンに応じて振動する。このため、駆動回路50Bからモータ21へ供給される駆動電流、ひいてはモータ21が発生するトルクも警報トルクT2の出力パターンに応じて振動する。これにより、ステアリングホイール11が微小振動する。運転者は、操舵感触としてステアリングホイール11の微小な振動を感じることにより、車両が走行路から逸脱する状況であることを認識可能となる。
【0037】
警報トルクT2の出力パターンの一例は、つぎの通りである。
図3のグラフに示すように、上位制御装置500から警報指令Sが出力されることを契機として警報トルクT2の出力が開始される(時刻t0)。警報トルクT2は、継続時間ΔTAだけ継続して出力された後(時刻t1)、休止時間ΔTBだけ出力が休止される。休止時間ΔTBが経過すると(時刻t2)、再び警報トルクT2が継続時間ΔTAだけ継続して出力される。以後、上位制御装置500から警報指令Sが出力されている期間、警報トルクT2の出力と休止とが交互に繰り返される。なお、継続時間ΔTAにおいて、警報トルクT2の振幅は所定の値に維持される。
【0038】
つぎに、操舵装置10のブロック線図について説明する。ただし、ここでは警報トルク演算部62により生成される警報トルクT2を外乱とみなす。また、以下の説明において、括弧書きで示される「s」はラプラス演算子である。
【0039】
図4に示すように、制御装置50は、トルクセンサ51の構成要素であるトーションバー(T/B)のねじれ角に基づき検出される操舵トルクT(s)に応じてプラントPを制御する。プラントPは、制御装置50の制御対象であって、モータ21および車両の操舵機構を含む。操舵機構は、ステアリングシャフト13およびピニオンシャフト14を含む。
【0040】
制御装置50は、ステアリングホイール11の操舵角θとプラントPの出力であるピニオン角θps(s)との差に応じてプラントPに対する入力としてのアシストトルクT1の値を決定するといえる。ここではステアリングホイール11に警報としての振動を発生させるための警報トルクT2を外乱とみなすため、警報トルクT2はプラントPに対する入力としてのアシストトルクT1に加算される。
【0041】
先の図4のブロック線図を前提として、操舵トルクT(s)は、つぎのモデル式1で表される。
【0042】
【数1】
ただし、モデル式1における「C(s)」は制御装置50の伝達関数、「P(s)」はプラントPの伝達関数である。また、モデル式1の右辺第1項は、運転者によるステアリングホイール11の操舵量を示す操舵項である。モデル式1の右辺第2項は、ステアリングホイール11に対する逆入力の大きさ、ここでは外乱とみなす警報としてのステアリングホイール11の振動の大きさを示す逆入力項である。
【0043】
ちなみに、モデル式1は、つぎのようにして導出される。
まず、プラントPの出力であるピニオン角θps(s)は、つぎのモデル式2で表される。
【0044】
【数2】
また、操舵トルクT(s)は、つぎのモデル式3で表される。
【0045】
【数3】
つぎに、モデル式2をモデル式3に代入することにより、つぎのモデル式4が得られる。
【0046】
【数4】
モデル式4の右辺第2項を左辺へ移動させた後に左辺を「T(s)」でくくることにより、つぎのモデル式5が得られる。
【0047】
【数5】
このモデル式5を「T(s)」について解けば、先のモデル式1が得られる。
【0048】
ここで、モデル式1の右辺第2項である逆入力項は、正弦波である警報トルクT2(s)と、この警報トルクT2(s)に乗算される係数としての部分「P(s)/(1+P(s)C(s))」とに分けることができる。この警報トルクT2(s)に対する係数としての部分の値は、ステアリングホイール11の操舵状態に応じたステアリングホイール11の警報としての振動の変動成分をモデル化したものである。警報トルクT2(s)に対する係数としての部分の値は、正弦波である警報トルクT2(s)に乗算されることからステアリングホイール11のトータルとしての振動の振幅に影響を及ぼす。そして、この警報トルクT2(s)に対する係数としての部分の分母には、制御装置50の伝達関数C(s)が含まれている。これは、たとえ警報トルク演算部62により正弦波として演算される警報トルクT2(s)の振幅が所定の値に維持される場合であれ、プラントPに対する入力としてのアシストトルクT1(s)の値によってステアリングホイール11のトータルとしての振動の振幅が増減することを示す。
【0049】
これにより、操舵装置10においては、つぎのようなことが懸念される。すなわち、アシストトルクT1(s)の変化に応じて逆入力項の値、ひいてはステアリングホイール11のトータルとしての振動の振幅が増減する。これに伴い、操舵トルクT(s)、すなわち運転者が感じる警報としてのステアリングホイール11の振動強度が変化する。この警報としてのステアリングホイール11の振動強度が変化することに対して運転者が操舵感触として違和感を覚えるおそれがある。
【0050】
たとえば、ステアリングホイール11がその中立位置の付近に維持されるときと、車両を旋回させるべくステアリングホイール11をより大きく操舵しているときとでは、警報としてのステアリングホイール11の振動に対する運転者の感じ方が異なる。具体的には、車両をより大きく旋回させるときほど運転者の操舵を補助するためのアシストトルクT1(s)の値がより大きくなるため、逆入力項の値、ひいてはステアリングホイール11のトータルとしての振動の振幅はより小さい値になる。したがって、運転者は警報としてのステアリングホイール11の振動をより感じにくくなる。逆に、車両をより直進状態に近づけようとするときほど運転者の操舵を補助するためのアシストトルクT1(s)の値がより小さくなるため、逆入力項の値、ひいてはステアリングホイール11のトータルとしての振動の振幅はより大きい値になる。したがって、運転者は警報としてのステアリングホイール11の振動をより感じやすくなる。
【0051】
そこで本実施の形態では、警報としてステアリングホイールを振動させる際の違和感を低減するために、マイクロコンピュータ50Aとしてつぎの構成を採用している。
先の図2に二点鎖線で示すように、マイクロコンピュータ50Aは、フィルタ65を有している。フィルタ65は、警報トルク演算部62により演算される警報トルクT2(s)に対して所定の補正処理を行う補正処理部として機能する。フィルタ65は、警報トルク演算部62と加算器63との間の演算経路に設けられている。フィルタ65は、警報トルク演算部62により演算される警報トルクT2(s)に対してフィルタ処理を施すことにより、ステアリングホイール11の警報としての振動に対するアシストトルクT1(s)の影響を除去する。
【0052】
図5のブロック線図に示すように、フィルタ65の伝達特性は、モデル式1の右辺第2項における警報トルクT2(s)に対する係数としての部分の逆特性を有している。すなわち、フィルタ65の伝達特性は、モデル式1の右辺第2項における警報トルクT2(s)に対する係数としての部分の逆数として表される。したがって、マイクロコンピュータ50Aにフィルタ65を設けた場合、操舵トルクT(s)は、つぎのモデル式6で表される。
【0053】
【数6】
モデル式6からも分かるように、警報トルク演算部62により演算される警報トルクT2(s)に対してフィルタ65によるフィルタ処理が施されることによって、モデル式6の右辺第二項における警報トルクT2(s)に対する係数としての部分の値が「1」となる。これは、モデル式6の右辺第二項である逆入力項が警報トルクT2(s)のみを含んで構成されることと同義である。このため、警報トルク演算部62により正弦波として演算される警報トルクT2(s)の振幅が所定の値に維持される場合、プラントPに対する入力としてのアシストトルクT1(s)の値によって逆入力項の値、ひいてはステアリングホイール11の警報としての振動の振幅が増減することはない。警報トルクT2(s)の振幅は所定の値に維持されるため、ステアリングホイール11の警報としての振動強度は警報トルクT2(s)の振幅に応じた所定の強度に維持される。
【0054】
このため、たとえばステアリングホイール11がその中立位置の付近に維持されるときと、車両を旋回させるべくステアリングホイール11をより大きく操舵しているときとで、ステアリングホイール11の警報としての振動に対する運転者の感じ方が同じになる。具体的には、車両をより大きく旋回させるときほど運転者の操舵を補助するためのアシストトルクT1(s)の値がより大きくなるところ、この場合であれステアリングホイール11の警報としての振動の振幅がアシストトルクT1(s)の影響を受けて変化することはない。また、車両をより直進状態に近づけようとするときほど運転者の操舵を補助するためのアシストトルクT1(s)の値がより小さくなるところ、この場合であれステアリングホイール11の警報としての振動の振幅がアシストトルクT1(s)の影響を受けて変化することはない。したがって、運転者は、ステアリングホイール11の操舵状態にかかわらず、警報トルク演算部62により演算される警報トルクT2(s)の振幅に応じたステアリングホイール11の警報としての振動を手応えとして感じることが可能である。
【0055】
したがって、第1の本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)制御装置50は、運転者に対して警報を発するべき特定の状況として、たとえば自車両が走行路から逸脱する状況が生じたとき、ステアリングホイール11の警報としての振動の大きさの変化を打ち消すようにモータ21の駆動を制御する。このため、ステアリングホイール11の警報としての振動の大きさがステアリングホイール11の操舵状態に応じて変化することが抑えられる。すなわち、運転者に対して警報を発するべき特定の状況が生じたとき、ステアリングホイール11は、その操舵状態にかかわらず、定められた一定の大きさで振動する。このため、警報としてステアリングホイール11を振動させる際の違和感を低減することができる。
【0056】
(2)警報トルク演算部62により演算される警報トルクT2(s)に対してフィルタ65による補正処理が施されることにより、ステアリングホイール11の操舵状態に応じたステアリングホイール11の警報としての振動の振幅に対するアシストトルクT1(s)の影響が除去される。このため、ステアリングホイール11の操舵状態にかかわらず、運転者は警報トルク演算部62により演算される警報トルクT2(s)の振幅に応じたステアリングホイール11の警報としての振動を感じることが可能である。本実施の形態では、警報トルクT2(s)の振幅は所定の値に維持されるため、運転者はステアリングホイール11の操舵状態にかかわらず、大きさが同じ程度の均一な振動を感じることができる。
【0057】
(3)先の図5に示されるように、フィルタ65は、ステアリングホイール11の操舵状態に応じたステアリングホイール11の警報としての振動の変動成分をモデル化した変動成分モデルの逆特性を有している。すなわち、変動成分モデルは先のモデル式1の警報トルクT2(s)に対する係数として表される部分であって、フィルタ65はその変動成分モデルの逆モデルを有している。このため、警報トルク演算部62と加算器63との間の演算経路にフィルタ65を設けるだけで、ステアリングホイール11の操舵状態に応じたステアリングホイール11の警報としての振動の変動成分を打ち消すことができる。
【0058】
(4)先のモデル式1の警報トルクT2(s)に対する係数として表される変動成分モデルには、プラントPの伝達関数P(s)が含まれている。このプラントPの伝達関数P(s)は、温度変化に伴う摩擦の変化、車両が走行する路面の状態、あるいは乗車人数などに応じて変化する。このため、警報トルク演算部62により演算される警報トルクT2(s)に対してフィルタ65による補正処理が施されることにより、ステアリングホイール11の警報としての振動の振幅に対するアシストトルクT1(s)の影響のみならず、プラントPの温度変化に伴う摩擦の変化、路面の状態、あるいは乗車人数などの影響も除去される。したがって、ステアリングホイール11の操舵状態に応じた警報としての振動の変動成分のみならず、温度変化による摩擦の変化、路面の状態、あるいは乗車人数などに応じた警報としての振動の変動成分を打ち消すことができる。
【0059】
(5)アシストトルクを発生するモータ21を利用して、ステアリングホイール11に警報としての振動を発生させることができる。
<第2の実施の形態>
つぎに、車両用警報装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に具体化した第2の実施の形態を説明する。なお、第1の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付してその詳細な説明を割愛する。
【0060】
図6に示すように、ステアバイワイヤ式の操舵装置100は、ステアリングホイール11に操舵反力トルクを付与する反力ユニット100Aを有している。操舵反力トルクとは、運転者によるステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用するトルクをいう。操舵反力トルクをステアリングホイール11に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。
【0061】
反力ユニット100Aは、ステアリングホイール11が連結されるステアリングシャフト13、およびステアリングシャフト13に設けられるトルクセンサ51を有している。ただし、ステアリングシャフト13は、車両の操舵機構を構成するものであって、転舵輪12との間の動力伝達が分離されている。
【0062】
また、反力ユニット100Aは、反力モータ101、減速機構102、回転角センサ103および制御装置104を有している。
反力モータ101は、操舵反力トルクの発生源である。反力モータ101は、減速機構102を介して、ステアリングシャフト13に連結されている。減速機構102は、ステアリングシャフト13におけるトルクセンサ51を基準とするステアリングホイール11と反対側の部分に設けられている。ステアリングシャフト13における反力モータ101が発生するトルクは、操舵反力トルクとしてステアリングシャフト13に付与される。
【0063】
回転角センサ103は反力モータ101に設けられている。回転角センサ103は反力モータ101の回転角θを検出する。
制御装置104は、反力モータ101の駆動制御を通じて操舵トルクTに応じた操舵反力トルクを発生させる反力制御を実行する。制御装置104は、トルクセンサ51を通じて検出される操舵トルクTに基づき目標操舵反力トルクを演算し、この演算される目標操舵反力トルクを反力モータ101に発生させるべく反力モータ101への給電を制御する。制御装置104は、回転角センサ103を通じて検出される反力モータ101の回転角θに基づきステアリングシャフト13の回転角である操舵角θを演算する。
【0064】
制御装置104は、先の図2に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。すなわち、図2に括弧書きの符号を付して示すように、制御装置104は、マイクロコンピュータ104Aおよび駆動回路104Bを有している。マイクロコンピュータ104Aは、操舵反力トルク演算部161、警報トルク演算部162、加算器163、および電流指令値演算部164を有している。
【0065】
操舵反力トルク演算部161は、トルクセンサ51を通じて検出される操舵トルクTh、および車速センサ52を通じて検出される車速Vに基づきモータ21が発生すべきトルクである操舵反力トルクT11を演算する。操舵反力トルク演算部161は、操舵トルクTの絶対値が増加するほど、また車速Vが遅くなるほど、より大きい絶対値の操舵反力トルクT11を演算する。
【0066】
警報トルク演算部162は、上位制御装置500により生成される警報指令Sを取り込む。警報トルク演算部162は、警報指令Sが取り込まれるとき、運転者に注意を促す警報を発するための処理として警報トルクT12を演算する。警報トルクT12の出力パターンとしては、先の第1の実施の形態と同様の出力パターンが採用される。すなわち、上位制御装置500から警報指令Sが出力されている期間、警報トルクT2の出力の継続と休止とが交互に繰り返される。
【0067】
加算器163は、操舵反力トルク演算部161により演算される操舵反力トルクT11と、警報トルク演算部162により演算される警報トルクT12とを加算することにより目標操舵反力トルクT13を演算する。上位制御装置500により警報指令Sが生成されないとき、操舵反力トルク演算部161により演算される操舵反力トルクT11がそのまま目標操舵反力トルクT13として使用される。
【0068】
電流指令値演算部164は、加算器163により演算される目標操舵反力トルクT13に基づき反力モータ101に対する電流指令値Iを演算する。
このように構成した操舵装置100において、操舵トルクTh(s)は、先のモデル式1と同様に表される。ただし、先のモデル式1において警報トルクT2(s)を警報トルクT12(s)と読み替える。そして、この読み替えたモデル式1からつぎのことが分かる。すなわち、ステアバイワイヤ式の操舵装置100において、プラントPに対する入力である操舵反力トルクT11(s)の値によってステアリングホイール11の警報としての振動の振幅が増減する。
【0069】
そこで本実施の形態では、マイクロコンピュータ104Aとして、つぎの構成を採用している。すなわち、先の図2に括弧書きの符号を付して示すように、マイクロコンピュータ104Aは、フィルタ165を有している。フィルタ165は、警報トルク演算部162と加算器163との間の演算経路に設けられている。フィルタ165は、警報トルク演算部162により演算される警報トルクT12(s)に対してフィルタ処理を施すことにより、ステアリングホイール11の警報としての振動に対する操舵反力トルクT11(s)の影響を除去する。
【0070】
図5のブロック線図に括弧書きの符号を付して示すように、フィルタ165の伝達特性は、警報トルクT2(s)を警報トルクT12(s)と読み替えた先のモデル式1の右辺第2項における警報トルクT12(s)に対する係数としての部分の逆特性を有している。すなわち、フィルタ165の伝達特性は、先の読み替えたモデル式1の右辺第2項における警報トルクT12(s)に対する係数としての部分の逆数として表される。したがって、マイクロコンピュータ104Aにフィルタ165を設けた場合、操舵トルクT(s)は、先のモデル式6と同様に表される。ただし、先のモデル式6において警報トルクT2(s)を警報トルクT12(s)と読み替える。
【0071】
ちなみに、本実施の形態において、プラントPは反力モータ101および操舵機構を含む。操舵機構は、ステアリングシャフト13を含む。
さて、先の読み替えたモデル式6からも分かるように、警報トルク演算部162により演算される警報トルクT12(s)に対してフィルタ165によるフィルタ処理が施されることによって、先の読み替えたモデル式6の右辺第二項における警報トルクT12(s)に対する係数としての部分の値が「1」となる。これは、先の読み替えたモデル式6の右辺第二項である逆入力項が警報トルクT12(s)のみを含んで構成されることと同義である。このため、警報トルク演算部162により正弦波として演算される警報トルクT12(s)の振幅が所定の値に維持される場合、プラントPに対する入力である操舵反力トルクT11(s)の値によって逆入力項の値、ひいてはステアリングホイール11の警報としての振動の振幅が増減することはない。警報トルクT12(s)の振幅は所定の値に維持されるため、ステアリングホイール11の警報としての振動強度は警報トルクT12(s)の振幅に応じた所定の強度に維持される。
【0072】
したがって、第2の実施の形態によれば、ステアバイワイヤ方式の操舵装置において、先の第1の実施の形態の(1)~(4)と同様の効果に加え、つぎの効果を得ることができる。
【0073】
(6)操舵反力トルクを発生する反力モータ101を利用して、ステアリングホイール11に警報としての振動を発生させることができる。
<他の実施の形態>
なお、第1および第2の実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
【0074】
・第1および第2の実施の形態において、運転支援機能として車線逸脱を防止するための警報の他、居眠り防止あるいは衝突回避のための警報としてステアリングホイール11に振動を発生させてもよい。
【0075】
・第1および第2の実施の形態において、何らかの運転支援機能が停止される場合、その機能停止を警報するための警報としてステアリングホイール11に振動を発生させてもよい。たとえば、車両に車線維持支援システムが搭載されている場合、車両が走行路から逸脱する状況に至ったとき、車線維持支援システムの機能が実行停止される。このとき、ステアリングホイール11の振動を通じて車線維持支援システムの機能が実行停止されることを運転者に警報するようにしてもよい。ちなみに、車線維持支援システムとは、たとえば高速道路を走行する際、運転者の運転負荷を軽減することを目的として、車両が車線の中央付近を維持して走行するようにステアリングホイール11の操作を支援するシステムをいう。
【0076】
・第1の実施の形態では、ステアリングホイール11に警報としての振動を発生させるために微小振動成分である警報トルクT2をアシストトルクT1に加算したが、つぎのようにしてもよい。すなわち、アシストトルクT1に基づき演算される電流指令値に微小振動成分である警報電流を加算する。このようにしても、ステアリングホイール11に警報としての振動を発生させることができる。
【0077】
・第2の実施の形態では、ステアリングホイール11に警報としての振動を発生させるために微小振動成分である警報トルクT12を操舵反力トルクT11に加算したが、つぎのようにしてもよい。すなわち、操舵反力トルクT11に基づき演算される電流指令値に微小振動成分である警報電流を加算する。このようにしても、ステアリングホイール11に警報としての振動を発生させることができる。
【0078】
・第1の実施の形態では、アシストトルクを発生するモータ21を利用してステアリングホイール11に警報としての振動を発生させたが、このモータ21とは別個にステアリングホイール11に警報としての振動を発生させるための専用のアクチュエータを設けてもよい。このアクチュエータはモータを含む。
【0079】
・第2の実施の形態では、操舵反力トルクを発生する反力モータ101を利用してステアリングホイール11に警報としての振動を発生させたが、この反力モータ101とは別個にステアリングホイール11に警報としての振動を発生させるための専用のアクチュエータを設けてもよい。このアクチュエータはモータを含む。
【符号の説明】
【0080】
10…操舵装置(車両用警報装置)
11…ステアリングホイール
21…モータ
50…制御装置
61…アシストトルク演算部
62…警報トルク演算部
63…加算器
65…フィルタ(補正処理部)
100…操舵装置(車両用警報装置)
101…反力モータ
104…制御装置
161…操舵反力トルク演算部
162…警報トルク演算部
163…加算器
165…フィルタ(補正処理部)
500…上位制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6