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特開2022-70123光硬化性樹脂組成物およびこれを用いる光造形物の製造方法
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  • 特開-光硬化性樹脂組成物およびこれを用いる光造形物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070123
(43)【公開日】2022-05-12
(54)【発明の名称】光硬化性樹脂組成物およびこれを用いる光造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/34 20060101AFI20220502BHJP
   B29C 64/106 20170101ALI20220502BHJP
   B29C 64/264 20170101ALI20220502BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220502BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20220502BHJP
【FI】
C08F220/34
B29C64/106
B29C64/264
B33Y10/00
B33Y70/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020179162
(22)【出願日】2020-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000214250
【氏名又は名称】ナガセケムテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】特許業務法人河崎・橋本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 功治
(72)【発明者】
【氏名】尾添 弘章
(72)【発明者】
【氏名】藤 彰宏
【テーマコード(参考)】
4F213
4J100
【Fターム(参考)】
4F213AA21
4F213AA29
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL12
4F213WL23
4J100AL08Q
4J100AL63R
4J100AL66Q
4J100AL66R
4J100AL67P
4J100AL67R
4J100AM17Q
4J100AM19Q
4J100AM21Q
4J100BA02P
4J100BA02Q
4J100BA02R
4J100BA03Q
4J100BC07R
4J100BC75P
4J100CA04
4J100CA05
4J100CA23
4J100DA00
4J100DA47
4J100JA32
(57)【要約】
【課題】耐熱性および機械強度に優れた光造形物を与える低温貯蔵時の安定性に優れた光硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】重合性化合物と、光重合開始剤と、を含み、前記重合性化合物は、それぞれ窒素を含有する第1化合物および第2化合物を含み、前記第1化合物は、イソシアヌル環と3つの(メタ)アクリロイル基を有するトリアクリレート化合物であり、前記第2化合物は、イソシアヌル環と2つの(メタ)アクリロイル基を有するジアクリレート化合物および1つの(メタ)アクリロイル基を有するモノアクリルアミド化合物からなる群より選択される少なくとも1種であり、前記第1化合物と前記第2化合物との合計質量に占める前記第1化合物の割合が、50質量%以上、90質量%以下である、光硬化性樹脂組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性化合物と、光重合開始剤と、を含み、
前記重合性化合物は、それぞれ窒素を含有する第1化合物および第2化合物を含み、
前記第1化合物は、イソシアヌル環と3つの(メタ)アクリロイル基を有するトリアクリレート化合物であり、
前記第2化合物は、イソシアヌル環と2つの(メタ)アクリロイル基を有するジアクリレート化合物および1つの(メタ)アクリロイル基を有するモノアクリルアミド化合物からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記第1化合物と前記第2化合物との合計質量に占める前記第1化合物の割合が、50質量%以上、90質量%以下である、光硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記第2化合物の50質量%以上が前記ジアクリレート化合物であり、
前記重合性化合物の質量に占める前記第1化合物と前記第2化合物との合計の割合が、30質量%以上、60質量%以下である、請求項1に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記第2重合性化合物の50質量%以上が前記モノアクリルアミド化合物であり、
前記重合性化合物の質量に占める前記第1化合物と前記第2化合物との合計の割合が、50質量%以上、80質量%以下である、請求項1に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記トリアクリレート化合物が、トリス(アクリロイルオキシアルキル)イソシアヌレートを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記モノアクリルアミド化合物が、窒素原子を含むヘテロ環を有する複素環式アクリルアミドを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記重合性化合物が、更に、多環式脂肪族のジ(メタ)アクリレートを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記重合性化合物の質量に占める前記多環式脂肪族のジ(メタ)アクリレートの割合が、15質量%以上、70質量%以下である、請求項6に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
前記重合性化合物が、更に、4つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリ(メタ)アクリレートを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
前記重合性化合物の質量に占める前記4つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリ(メタ)アクリレートの割合が、5質量%以上、25質量%以下である、請求項8に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
前記光硬化性樹脂組成物を-30℃で72時間冷却後、23℃まで昇温し、その後、23℃で48時間静置したときに全体が液状を呈する、請求項1~9のいずれか1項に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
全体が液状を呈する前記光硬化性樹脂組成物を5℃で1月静置したときに、その後も全体が液状を呈する、請求項1~10のいずれか1項に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項12】
前記光硬化性樹脂組成物の硬化物について、ASTM D648に準拠して荷重0.45MPaでエッジワイズ法により測定される荷重たわみ温度が、280℃以上である、請求項1~11のいずれか1項に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項13】
光硬化により形成される層状の硬化パターンが複数層積層された積層構造を有する三次元光造形物を形成するために用いられる、請求項1~12のいずれか1項に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項14】
3Dプリンタ用の三次元光造形用材料である、請求項1~13のいずれか1項に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項15】
請求項1に記載の光硬化性樹脂組成物を用いて光造形物を形成する工程を含み、
前記光造形物を形成する工程は、
前記光硬化性樹脂組成物の液膜を形成し、液膜を光硬化させてパターンを形成する工程(i)と、
前記パターンに接するように別の液膜を形成する工程(ii)と、
前記パターン上の前記別の液膜を光硬化させて別のパターンを積層する工程(iii)と、を含む、光造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性樹脂組成物およびこれを用いる光造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3Dプリンタなどの三次元光造形技術の発達に伴い、光造形物の耐熱性および機械強度の向上への要求が高まってきている。例えば、特許文献1は、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレートなどの化合物、2官能以上の(メタ)アクリレート化合物、及び、光ラジカル重合開始剤を含み、ウレタン(メタ)アクリレート化合物を含有しないか、又は、ウレタン(メタ)アクリレート化合物の含有量が、硬化性組成物の全質量に対し、0質量%を超え4質量%未満であり、得られる硬化物の架橋点間分子量が50g/mol以上2,000以下g/molである立体成型に用いられるシート用硬化性組成物を提案している。また、前記2官能以上の(メタ)アクリレート化合物として、イソシアヌル環構造を有する2官能以上の(メタ)アクリレート化合物を用い得ることが教示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-19276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、イソシアヌル環と3つの(メタ)アクリロイル基を有するトリアクリレート化合物を用いることで、耐熱性および機械強度が顕著に向上した光造形物を与える光硬化性樹脂組成物が得られることを見出した。一方、イソシアヌル環と3つの(メタ)アクリロイル基を有するトリアクリレート化合物は、常温での結晶性が高いため、低温貯蔵時に光硬化性樹脂組成物の一部または全部が固化してしまうという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面は、重合性化合物と、光重合開始剤と、を含み、前記重合性化合物は、それぞれ窒素を含有する第1化合物および第2化合物を含み、前記第1化合物は、イソシアヌル環と3つの(メタ)アクリロイル基を有するトリアクリレート化合物であり、前記第2化合物は、イソシアヌル環と2つの(メタ)アクリロイル基を有するジアクリレート化合物および1つの(メタ)アクリロイル基を有するモノアクリルアミド化合物からなる群より選択される少なくとも1種であり、前記第1化合物と前記第2化合物との合計質量に占める前記第1化合物の割合が50質量%以上、90質量%以下である、光硬化性樹脂組成物に関する。
【0006】
本発明の他の側面は、上記の光硬化性樹脂組成物を用いて光造形物を形成する工程を含み、前記光造形物を形成する工程は、前記光硬化性樹脂組成物の液膜を形成し、液膜を光硬化させてパターンを形成する工程(i)と、前記パターンに接するように別の液膜を形成する工程(ii)と、前記パターン上の前記別の液膜を光硬化させて別のパターンを積層する工程(iii)と、を含む、光造形物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
耐熱性および機械強度に優れた光造形物を与える低温貯蔵時の安定性に優れた光硬化性樹脂組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る光硬化性樹脂組成物を用いて光造形物を形成する工程を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態に係る光硬化性樹脂組成物について具体的に説明するが、以下の実施形態は本発明を限定するものではなく、種々の変更および改変が可能である。
【0010】
なお、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基またはメタクリロイル基またはこれらの両方を意味する。同様に、(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタクリレートまたはこれらの両方を意味する。同様に、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」または「メタクリル」またはこれらの両方の意味を有する。
【0011】
光造形物は、当該光造形物の機能を発現するために必要な耐熱性および機械強度が必要である。一方、硬化することによりそのような光造形物を与える光硬化性樹脂組成物には、光硬化性だけでなく、優れた作業性、反応性等が求められる。イソシアヌル環と3つの(メタ)アクリロイル基を有するトリアクリレート化合物は、光造形物の耐熱性および機械強度の向上に大きく貢献するが、低温貯蔵時に結晶化し、光硬化性樹脂組成物の少なくとも一部を固化させてしまうことがある。光硬化性樹脂組成物が固化すると、その作業性が低下するだけでなく、固化した部分の硬化反応が制限され、期待された光造形物の物性が得られないことがある。光造形物の耐熱性および機械強度と、低温貯蔵時の光硬化性樹脂組成物の安定性とはトレードオフの関係になることが多く、これらを両立させることは難しい。更に、光造形物には、硬化時の低収縮性、形状精度なども求められる。光硬化性樹脂組成物には、低粘度、速い硬化速度なども求められる。
【0012】
本発明の実施形態に係る光硬化性樹脂組成物(以下、「光硬化性樹脂組成物A」とも称する。)およびこれを用いて形成された光造形物は、上記のような様々な要求を高い満足度で満たし得る。
【0013】
[光硬化性樹脂組成物A]
光硬化性樹脂組成物Aは、重合性化合物と、光重合開始剤とを含む。重合性化合物は、それぞれ窒素を含有する第1化合物および第2化合物を含む。
【0014】
第1化合物は、イソシアヌル環と3つの(メタ)アクリロイル基を有するトリアクリレート化合物であり、光造形物の耐熱性および機械強度の向上に顕著に貢献する。一方、第2化合物は、イソシアヌル環と2つの(メタ)アクリロイル基を有するジアクリレート化合物および1つの(メタ)アクリロイル基を有するモノアクリルアミド化合物からなる群より選択される少なくとも1種であり、光造形物の耐熱性および機械強度の向上に貢献するとともに、第1化合物に起因する低温貯蔵時の光硬化性樹脂組成物Aの固化を抑制する。
【0015】
ここで、第1化合物と第2化合物との合計質量に占める第1化合物の割合は、50質量%以上、90質量%以下である。この組成を有する光硬化性樹脂組成物Aは、かなり多くの第1化合物を含むにも関わらず、低温貯蔵時に固化しにくく、優れた貯蔵安定性を有する。
【0016】
第1化合物と第2化合物との合計質量に占める第1化合物の割合が50質量%未満では、光造形物の耐熱性および機械強度を十分な満足度で両立することは困難である。また、第1化合物と第2化合物との合計質量に占める第1化合物の割合が90質量%を超えると、低温貯蔵時の光硬化性樹脂組成物Aの安定性を確保することが困難である。光造形物の耐熱性および機械強度と低温貯蔵時の光硬化性樹脂組成物Aの安定性とをより高い満足度で両立するには、第1化合物と第2化合物との合計質量に占める第1化合物の割合を、60質量%以上、87質量%以下とすることが望ましい。
【0017】
[重合性化合物]
重合性化合物とは、特に限定されないが、連鎖重合する化合物をいい、連鎖重合には、付加重合、開環重合などが含まれる。負荷重合には、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、配位重合などが含まれる。重合反応は、光増感重合であってもよい。重合性化合物には、重合性モノマー、重合性オリゴマーなどが含まれる。
【0018】
重合性モノマーおよび重合性オリゴマーにおける「重合性」とは、光重合開始剤を利用する硬化反応に関与する重合性基を有するモノマーもしくはオリゴマーであることを意味する。また、重合性オリゴマーとは、少なくとも、構成ユニットの繰り返し部分(繰り返し数は2以上)を含むものをいい、重合性モノマーと区別される。
【0019】
光硬化性樹脂組成物Aの粘度は、25℃において、例えば、10mPa・s以上、3000mPa・s以下である。高い光造形性を確保しやすい点で、25℃における粘度は、2000mPa・s以下、更には1000mPa・s以下が好ましい。なお、光硬化性樹脂組成物Aの粘度は、例えば、コーンプレート型のE型粘度計を用いて、20rpmの回転速度で測定することができる。
【0020】
なお、光硬化性樹脂組成物Aからの重合性化合物の分離は、例えば、遠心分離、抽出、晶析、カラムクロマトグラフィー、再結晶などの公知の分離法を利用して行うことができる。重合性化合物の同定は、例えば、光硬化性樹脂組成物Aを、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、マススペクトルなどを用いて分析することにより行うことができる。
【0021】
[第1化合物]
第1化合物は、イソシアヌル環と3つの(メタ)アクリロイル基を有するトリアクリレート化合物(以下、「トリアクリレート化合物A」とも称する。)である。トリアクリレート化合物Aは、重合性モノマーに分類される。トリアクリレート化合物Aを主成分とする硬化物は、例えば230℃以上のTgを有する。ここで、主成分とは、硬化物の50質量%以上(例えば70質量%以上)が第1化合物に由来することをいう。第1化合物は、光造形物の耐熱性および機械強度の向上に大きく寄与する成分である。
【0022】
一方、第1化合物は、単独では常温で固体であり、高い結晶性を有するため、光硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性に大きく影響する。光造形物の耐熱性および機械強度を十分に向上させつつ、光硬化性樹脂組成物の低温貯蔵時の安定性を確保するためには、第1化合物を少なくとも第2化合物と混合して用いる必要がある。
【0023】
トリアクリレート化合物Aは、イソシアヌル環の3つの窒素原子にそれぞれ結合する3つの置換基を有する。3つの置換基は、それぞれが(メタ)アクリロイル基を有する。トリアクリレート化合物Aは、例えば、式(1):
【0024】
【化1】
【0025】
で表すことができる。ここでR1、R2およびR3は、それぞれ独立の有機基である。有機基は、直鎖状もしくは分岐鎖状の脂肪族基であることが望ましく、脂肪族基の水素原子の少なくとも1つが置換されていてもよい。中でも、立体障害が小さく、かつ高いTgを確保しやすい点で、直鎖状のアルキレン基が望ましい。すなわち、トリアクリレート化合物Aは、3つの置換基として3つのアクリロイルオキシアルキル基を有するトリス(アクリロイルオキシアルキル)イソシアヌレートを含んでもよい。ここで、3つのアクリロイルオキシアルキル基のアルキレン鎖の炭素数は、立体障害がより小さく、かつより高いTgを確保しやすい点で、それぞれ独立に1~4が望ましく、2~3でもよい。例えば、アクリロイルオキシアルキル基は、アクリロイルオキシエチル基であってもよい。具体的には、トリアクリレート化合物Aは、式(2):
【0026】
【化2】
【0027】
で表されるトリス(2-アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート(もしくは、トリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリアクリレート)であってもよい。トリアクリレート化合物Aは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、トリアクリレート化合物Aの70質量%以上、更には90質量%以上もしくは100%がトリス(アクリロイルオキシアルキル)イソシアヌレートもしくはトリス(2-アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレートであってもよい。
【0028】
[第2化合物]
第2化合物は、イソシアヌル環と2つの(メタ)アクリロイル基を有するジアクリレート化合物(以下、「ジアクリレート化合物A」とも称する。)および1つの(メタ)アクリロイル基を有するモノアクリルアミド化合物(以下、単に「モノアクリルアミド化合物A」とも称する。)からなる群より選択される少なくとも1種である。窒素を含有する第2化合物は、窒素を含有する第1化合物との親和性が高く、かつ固化しにくいため、固化しやすい第1化合物と併存することで、第1化合物の固化を高度に抑制する作用を有する。
【0029】
(ジアクリレート化合物A)
ジアクリレート化合物Aは、トリアクリレート化合物Aの3つの置換基のうちの1つを(メタ)アクリロイル基を有さない置換基もしくは原子(例えば水素、フッ素など)に置換した構造を有する。ジアクリレート化合物Aを主成分とする硬化物は、高い耐熱性と機械強度を有する。ここで、主成分とは、硬化物の50質量%以上(例えば70質量%以上)がジアクリレート化合物Aに由来することをいう。
【0030】
(メタ)アクリロイル基を有さない置換基としては、ヒドロキシアルキル基、アリル基(CH2=CH-CH2-)などが挙げられる。ヒドロキシアルキル基のアルキレン鎖の炭素数は、立体障害がより小さく、かつより高いTgを確保しやすい点で、1~4が望ましく、2~3でもよい。例えば、ヒドロキシアルキル基は、2-ヒドロキシエチル基であってもよい。ジアクリレート化合物Aは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、ジアクリレート化合物Aの70質量%以上、更には90質量%以上もしくは100%がトリスヒドロキシアルキルルイソシアヌレートジアクリレートもしくはトリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートジアクリレートであってもよい。
【0031】
第2化合物の50質量%以上がジアクリレート化合物Aであってもよく、70質量%以上もしくは90質量%以上がジアクリレート化合物Aであってもよい。このように第2化合物の主成分がジアクリレート化合物Aである場合、重合性化合物の質量に占める第1化合物と第2化合物との合計の割合は、30質量%以上としてもよく、35質量%以上としてもよく、40質量%以上としてもよい。また、重合性化合物の質量に占める第1化合物と第2化合物との合計の割合は、60質量%以下としてもよく、55質量%以下としてもよく、50質量%以下としてもよく、45質量%以下としてもよい。範囲を限定する場合、これらの上限と下限は任意に組み合わせ得る。例えば、重合性化合物の質量に占める第1化合物と第2化合物との合計の割合は、30質量%以上、60質量%以下でもよく、30質量%以上、50質量%以下でもよく、35質量%以上、55質量%以下でもよい。
【0032】
(モノアクリルアミド化合物A)
モノアクリルアミド化合物Aは、常温(25℃)で低粘度の液状を呈し得る。また、モノアクリルアミド化合物Aを主成分とする硬化物は、例えば130℃以上のTgを有し得るため、高い機械強度を有する造形物が得られやすい。ここで、主成分とは、硬化物の50質量%以上(例えば70質量%以上)がモノアクリルアミド化合物Aに由来することをいう。
【0033】
モノアクリルアミド化合物Aは、例えば、窒素含有化合物と(メタ)アクリル酸との酸アミドとして得ることができる。(メタ)アクリル酸と酸アミドを構成する窒素含有化合物としては、脂肪族アミン(トリエチルアミン、エタノールアミンなど)、脂環式アミン(シクロヘキシルアミンなど)、芳香族アミン(アニリンなど)、窒素含有環状化合物などが挙げられる。窒素含有環状化合物は、窒素原子を含むヘテロ環を有し、ヘテロ環は5員環~8員環が好ましく、5員環や6員環であってもよい。ヘテロ環はエーテル酸素等を含む複素環であってもよい。窒素含有環状化合物の具体例としては、ピロール、ピロリジン、ピペリジン、ピリミジン、モルホリン、チアジンなどが挙げられる。ヘテロ環は、芳香族性を有してもよいが、脂環式が望ましい。
【0034】
中でも、窒素原子を含むヘテロ環を有する複素環式(メタ)アクリルアミドは、より低粘度であり、立体障害が小さく、高いTgを確保しやすい。モノアクリルアミド化合物Aとして、アクリロイルモルフォリンを用いてもよい。モノアクリルアミド化合物Aの70質量%以上、更には90質量%以上もしくは100%が複素環式(メタ)アクリルアミドもしくはアクリロイルモルフォリンであってもよい。
【0035】
アクリロイルモルフォリン以外のモノアクリルアミド化合物Aとしては、例えば、N-アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミドなどを用いてもよい。ここで、アルキル基の水素原子は、ヒドロキシ基、アミノ基などに置換されていてもよい。アルキル基の炭素数は、例えば1~6であってもよい。より具体的には、ジメチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミドなどを用いてもよい。
【0036】
第2重合性化合物の50質量%以上がモノアクリルアミド化合物Aであってもよく、70質量%以上もしくは90質量%以上がモノアクリルアミド化合物Aであってもよい。このように第2化合物の主成分がモノアクリルアミド化合物Aである場合、重合性化合物の質量に占める第1化合物と第2化合物との合計の割合は、50質量%以上としてもよく、55質量%以上としてもよく、60質量%以上としてもよい。また、重合性化合物の質量に占める第1化合物と第2化合物との合計の割合は、80質量%以下としてもよく、75質量%以下としてもよく、70質量%以下としてもよい。範囲を限定する場合、これらの上限と下限は任意に組み合わせ得る。例えば、重合性化合物の質量に占める第1化合物と第2化合物との合計の割合は、50質量%以上、80質量%以下としてもよく、55質量%以上、75質量%以下としてもよく、60質量%以上、75質量%以下としてもよい。
【0037】
[第3化合物]
光硬化性樹脂組成物Aに含まれる重合性化合物は、更に、第1化合物とも第2化合物とも異なる第3化合物を含み得る。第1化合物および第2化合物以外の重合性化合物は、第3化合物に分類される。光硬化性樹脂組成物中の第3化合物の含有量は、第1化合物および第2化合物の合計含有量によって決まる。以下、第3化合物について説明する。
【0038】
(重合性モノマー)
第3化合物として使用し得る重合性モノマーは、単官能でもよく、多官能でもよい。重合性モノマーが有する重合性基は、例えば、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などの重合性炭素-炭素不飽和結合を有する基などが挙げられ、(メタ)アクリロイル基が好ましい。この場合、高い硬化速度が得られ、光造形などの造形用途に適している。
【0039】
単官能の重合性モノマー(以下、第1モノマーとも称する。)としては、例えば、ビニル系モノマー、アリル系モノマー、アクリル系モノマーなどが挙げられる。ビニル系モノマーとしては、ビニル基を有するモノマー、例えば、一価アルコールのビニルエーテル、芳香族ビニルモノマー(スチレンなど)、脂環族ビニルモノマー、ビニル基を有する複素環化合物(N-ビニルピロリドンなど)などが例示できる。アリル系モノマーとしては、アリル基を有するモノマー、例えば、一価アルコールのアリルエーテルなどが挙げられる。アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリロイル基を有するモノマー、例えば、一価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸などが挙げられる。第1モノマーは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
一価アルコールは、脂肪族アルコール、脂環式アルコール、芳香族アルコールのいずれであってもよい。脂肪族アルコールは、芳香環、脂肪族環、または複素環を有してもよい。脂肪族環は、架橋環であってもよい。脂肪族アルコールとしては、例えば、アルキルアルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、2-ヒドロキシプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコールなどのC1-20アルキルアルコールなど)、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、フタル酸とエチレングリコールとのモノエステル、フェノキシエチルアルコール、シクロヘキサンメタノールなどが挙げられる。脂環式アルコールとしては、シクロヘキサノール、メントール、ボルネオール、イソボルネオール、ジシクロペンタニルアルコールなどの脂環式C5-20アルコール(脂環式C5-10アルコールなど)などが挙げられる。芳香族アルコールとしては、フェノール、ナフトールなどの芳香族C6-10アルコールなどが挙げられる。複素環式アルコールとしては、例えば、窒素、酸素、および/または硫黄などを環の構成原子として含む複素環基(4員~8員の複素環基など)を有する脂肪族アルコール(C1-4脂肪族アルコールなど)が挙げられる。複素環式アルコールとしては、例えば、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコールなどが例示できる。
【0041】
重合性モノマーは脂肪族環を有することが好ましい。この場合、硬化反応が効率よく進行しやすく、高強度の造形物が得られやすく、硬化の際の歪みが少なくなる。具体的には、脂環式アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルを重合性モノマーとして用いることが好ましい。
【0042】
多官能の重合性モノマー(以下、第2モノマーとも称する。)を用いる場合、硬化により架橋構造が形成されるため、硬化物の強度をさらに高めやすくなる。第2モノマーとしては、重合性基を2個以上有するものが使用できる。重合性基の個数は、例えば、2~4個であり、2個または3個であってもよい。第2モノマーは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。複数種の第2モノマーを用いる場合、各第2モノマーにおける重合性基の種類は全て同じであってもよく、一部が同じであってもよく、全てが異なっていてもよい。
【0043】
第2モノマーとしては、例えば、ポリオールの少なくとも2つのヒドロキシ基が、ビニルエーテル基、アリルエーテル基、アクリロイルオキシ基、およびメタクリロイルオキシ基からなる群より選択される少なくとも一種で置き換わった化合物が挙げられる。ポリオールは、脂肪族ポリオール、脂環式ポリオール、芳香族ポリオールのいずれであってもよい。アルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ヘキサンジオールなどのC2-10アルキレングリコールが挙げられる。脂肪族ポリオールには、芳香環、脂肪族環または複素環を有するものも含まれる。このような脂肪族ポリオールとしては、シクロヘキサンジメタノール、ベンゼンジメタノール、ジオキサングリコールなどが挙げられる。第2モノマー(具体的には、第2モノマーを形成するポリオール)が脂肪族環、複素環を有することが好ましい。この場合、硬化反応が効率よく進行しやすい。また、高い強度の造形物が得られやすく、硬化の際の歪みが少ない。より具体的には、ビニル基を有する複素環化合物、脂環式アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル、複素環式アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(例えばジオキサングリコールジアクリレート)などを第2モノマーとして用いることが好ましい。
【0044】
以下、好ましい第3化合物の具体例について更に説明する。
(多環式脂肪族のジ(メタ)アクリレート)
多環式脂肪族のジ(メタ)アクリレートを主成分とする硬化物は、例えば170℃以上のTgを有し得るため、高い機械強度を有する造形物が得られやすく、硬化の際の歪みも少ない。また、多環式脂肪族のジ(メタ)アクリレートは、低粘度であり、硬化速度も速い。多環式脂肪族とは、脂環式化合物のうち、炭素環を2つ以上有する脂肪族化合物をいう。多環式脂肪族としては、ビシクロウンデカン、デカヒドロナフタレン、トリシクロデカンジメタノールなどが挙げられる。多環式脂肪族のジ(メタ)アクリレートは、例えば、多環式脂肪族ポリオールの少なくとも2つのヒドロキシ基が(メタ)アクリロイルオキシ基で置き換わった構造を有する。硬化物のTgが高い代表的な多環式脂肪族のジ(メタ)アクリレートの具体例として、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートを挙げることができる。トリシクロデカンジメタノールジアクリレートの構造を以下に示す。
【0045】
【化3】
【0046】
(4つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリ(メタ)アクリレート)
4つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリ(メタ)アクリレートを主成分とする硬化物は、例えば230℃以上のTgを有し得るため、高い機械強度を有する造形物が得られやすい。4つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリ(メタ)アクリレートの(メタ)アクリロイル基の数は、硬化時の収縮率を考慮すると、6以下が望ましく、5以下がより望ましい。
【0047】
4つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリ(メタ)アクリレートは、例えば4つ以上のヒドロキシ基を有する脂肪族ポリオールの少なくとも4つのヒドロキシ基が(メタ)アクリロイルオキシ基で置き換わった構造を有する。4つ以上のヒドロキシ基を有する脂肪族ポリオールとしては、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、糖アルコールなどが挙げられる。4つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリ(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどを挙げることができる。中でも、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレートは、硬化物のTgが高く、低温安定性が高く、低粘度であり、硬化時の収縮率が比較的小さい点で好ましい。ジトリメチロールプロパンテトラアクリレートの構造を以下に示す。
【0048】
【化4】
【0049】
第3化合物に占める多環式脂肪族のジ(メタ)アクリレートおよび4つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリ(メタ)アクリレートの合計割合は、90質量%以上とすることが望ましい。
【0050】
(イソシアヌル環を有する第3化合物)
第3化合物は、例えば、イソシアヌル環と1つの(メタ)アクリロイル基を有するモノアクリレート化合物(以下、「モノアクリレート化合物A」とも称する。)を含んでもよい。モノアクリレート化合物Aは、トリアクリレート化合物Aの3つの置換基のうちの2つを(メタ)アクリロイル基を有さない置換基もしくは原子(例えば水素、フッ素など)に置換した構造を有する。(メタ)アクリロイル基を有さない置換基については、ジアクリレート化合物Aの場合と同様である。モノアクリレート化合物Aの具体例としては、トリスヒドロキシアルキルルイソシアヌレートモノアクリレートもしくはトリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートモノアクリレートが挙げられる。
【0051】
第3化合物は、トリアリルイソシアヌレートを含んでもよい。トリアリルイソシアヌレートは、イソシアヌル環と3つのアリル基を有するため、第1化合物および第2化合物に類似する耐熱性と機械的強度の向上が期待できる。
【0052】
以下、本発明の好ましい実施形態を列挙する。
(第1実施形態)
重合性化合物と、光重合開始剤と、を含み、
前記重合性化合物は、それぞれ窒素を含有する第1化合物および第2化合物を含み、
前記第1化合物は、イソシアヌル環と3つの(メタ)アクリロイル基を有するトリアクリレート化合物Aであり、
前記第2化合物は、イソシアヌル環と2つの(メタ)アクリロイル基を有するジアクリレート化合物Aおよび1つの(メタ)アクリロイル基を有するモノアクリルアミド化合物Aからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記第1化合物と前記第2化合物との合計質量に占める前記第1化合物の割合が、50質量%以上、90質量%以下であり、
前記重合性化合物に占める前記第1化合物と前記第2化合物との合計質量の割合が、20質量%以上、80質量%以下である、光硬化性樹脂組成物。
【0053】
(第2実施形態)
第1実施形態において、前記第2化合物の50質量%以上、更には70質量%以上、更には90質量%以上が前記ジアクリレート化合物Aであり、
前記重合性化合物の質量に占める前記第1化合物と前記第2化合物との合計の割合が、35質量%以上、60質量%以下、もしくは35質量%以上、55質量%以下、もしくは40質量%以上、50質量%以下である、光硬化性樹脂組成物。
【0054】
(第3実施形態)
第1実施形態において、前記第2重合性化合物の50質量%以上、更には70質量%以上、更には90質量%以上が前記モノアクリルアミド化合物Aであり、
前記重合性化合物の質量に占める前記第1化合物と前記第2化合物との合計の割合が、50質量%以上、80質量%以下、もしくは55質量%以上、75質量%以下、もしくは60質量%以上、70質量%以下である、光硬化性樹脂組成物。
【0055】
(第4実施形態)
第1実施形態において、前記重合性化合物が、更に、多環式脂肪族のジ(メタ)アクリレートを含み、前記重合性化合物の質量に占める前記多環式脂肪族のジ(メタ)アクリレートの割合が、15質量%以上、60質量%以下である、光硬化性樹脂組成物。
【0056】
(第5実施形態)
第2実施形態において、前記重合性化合物が、更に、多環式脂肪族のジ(メタ)アクリレートを含み、前記重合性化合物の質量に占める前記多環式脂肪族のジ(メタ)アクリレートの割合が、30質量%以上、60質量%以下、もしくは35質量%以上、55質量%以下である、光硬化性樹脂組成物。
【0057】
(第6実施形態)
第3実施形態において、前記重合性化合物が、更に、多環式脂肪族のジ(メタ)アクリレートを含み、前記重合性化合物の質量に占める前記多環式脂肪族のジ(メタ)アクリレートの割合が、15質量%以上、40質量%以下もしくは20質量%以上、35質量%以下である、光硬化性樹脂組成物。
【0058】
(第7実施形態)
第4実施形態において、前記重合性化合物が、更に、4つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリ(メタ)アクリレートを含み、前記重合性化合物の質量に占める前記4つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリ(メタ)アクリレートの割合が、5質量%以上、20質量%以下である、光硬化性樹脂組成物。
【0059】
(第8実施形態)
第5または第6実施形態において、前記重合性化合物が、更に、4つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリ(メタ)アクリレートを含み、前記重合性化合物の質量に占める前記4つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリ(メタ)アクリレートの割合が、5質量%以上、15質量%以下である、光硬化性樹脂組成物。
【0060】
[光重合開始剤]
光硬化性樹脂組成物Aに含まれる光重合開始剤は、光の作用により活性化して、重合性化合物の重合を開始させる。光重合開始剤としては、例えば、光の作用によりラジカルを発生するラジカル重合開始剤のほか、光の作用により酸(またはカチオン)を生成するもの(具体的には、カチオン発生剤)が挙げられる。光重合開始剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。光重合開始剤は、重合性化合物のタイプ、例えば、ラジカル重合性であるか、カチオン重合性であるかなどに応じて選択される。ラジカル重合開始剤(ラジカル光重合開始剤)としては、例えば、アルキルフェノン系光重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤などが挙げられる。以下に光重合開始剤を例示するが、これらに限定されるものではない。
【0061】
アルキルフェノン系光重合開始剤としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノンなどが挙げられる。
【0062】
アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニル-ホスフィンオキサイドなどが挙げられる。
(その他)
光硬化性樹脂組成物Aは、さらに、その他の公知の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、チオール化合物、アミン化合物、着色剤、UV吸収剤、酸化防止剤、重合禁止剤、消泡材、充填剤、安定剤などを含むことができる。
【0063】
(貯蔵安定性)
光硬化性樹脂組成物Aは、以下の<条件1~3>のうちの少なくとも条件1を満足するものであることが望ましく、条件1、2を満足することがより望ましく、条件1~3を全て満足することが最も望ましい。
【0064】
<条件1>
光硬化性樹脂組成物Aを-30℃で72時間冷却後、23℃まで昇温し、その後、23℃で48時間静置したときに光硬化性樹脂組成物Aの全体が液状を呈する。-30℃で72時間冷却後の光硬化性樹脂組成物Aは固化した状態でもよい。
【0065】
<条件2>
全体が液状を呈する光硬化性樹脂組成物Aを5℃で1月静置したとき、その後も光硬化性樹脂組成物Aの全体が液状を呈する。
【0066】
<条件3>
全体が液状を呈する光硬化性樹脂組成物Aに、トリス(2-アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート(トリアクリレート化合物A)の結晶を全体の0.1質量%分添加した後、5℃で72時間静置したとき、その後も光硬化性樹脂組成物Aの全体(ただし添加した結晶を除く)が液状を呈する。
【0067】
条件1を満たす光硬化性樹脂組成物Aは、仮に、極低温で光硬化性樹脂組成物Aの少なくとも一部が固化した場合であっても、その後、室温(23℃)に戻すと安定な液状に戻るため、例えば冷凍保存が可能である。
【0068】
条件2を満たす光硬化性樹脂組成物Aは、例えば、低温(5℃)で光硬化性樹脂組成物Aを長期間保存する場合でも、常に全体が安定な液状を維持するため、冬季もしくは寒冷地でも安心して光硬化性樹脂組成物Aを使用することができる。
【0069】
条件3を満たす光硬化性樹脂組成物Aは、仮に、種結晶を添加した場合であっても、種結晶が固化を誘発することがなく、液状状態を維持できるため、極めて高い安定性を有するといえる。
【0070】
光硬化性樹脂組成物Aは、光照射により硬化させて三次元光造形物(「光造形物」もしくは「硬化物」とも称する。)を形成するのに適している。本発明には、光硬化性樹脂組成物Aの光造形物も含まれる。光造形物は、例えば、光硬化により形成される層状の硬化パターンが複数層積層された積層構造を有する。このような光造形物は、3Dプリンタにより製造することができる。すなわち、光硬化性樹脂組成物Aは、3Dプリンタ用の三次元光造形用材料として好適である。
【0071】
[光造形物]
光造形物は、例えば、電子機器、電気機器、医療機器、電化製品、ロボット関連製品、車両関連製品など、高い耐熱性と機械強度が要求される様々な用途に用いられる。
【0072】
光造形物は、例えば、光硬化性樹脂組成物の液膜を形成し、液膜を硬化させてパターンを形成する工程(i)と、パターンに接するように別の液膜を形成する工程(ii)と、パターン上の別の液膜を硬化させて別のパターンを積層する工程(iii)と、を含む製造方法により製造できる。通常は、引き続き、工程(ii)と工程(iii)とが複数回繰り返される。
【0073】
(荷重たわみ温度(HDT))
光硬化性樹脂組成物Aの硬化物の荷重たわみ温度(HDT)は、ASTM D648に準拠して、荷重0.45MPaでエッジワイズ法により測定される。HDTは、例えば200℃以上であり、光硬化性樹脂組成物Aの組成によっては、240℃以上もしくは280℃以上のHDTを達成し得る。このような硬化物は極めて高い耐熱性を有するといえる。
【0074】
荷重たわみ温度(HDT)は、光硬化性樹脂組成物Aの硬化物もしくは光造形物で形成された試験片を用いて測定される。試験片としては、高さ12.7mm、幅6.4mm、長さ127mmのものが使用される。複数(例えば、5つ)の試験片について、荷重たわみ温度(HDT)を測定し、平均化することにより平均値を求める。HDTは、たわみ量が2.6mmになる温度である。
【0075】
(引張強度)
光硬化性樹脂組成物Aの硬化物の引張強度は、ASTM D638に準拠して測定される。引張強度は、例えば50MPa以上であり、光硬化性樹脂組成物Aの組成によっては、60MPa以上もしくは70MPa以上を達成し得る。このような硬化物は極めて高い機械強度を有するといえる。
【0076】
引張強度は、光硬化性樹脂組成物Aの硬化物もしくは光造形物で形成された試験片を用いて測定される。試験片としては、通常、厚み4mmで、平行部幅6mm、全長115mm、平行部長さ33mm(Type IV)のものが使用される。測定は、23℃、チャック間距離65mm、引張速度5mm/分の条件で行われる。なお、測定には、市販の引張試験機が使用される。引張強度は、試験片が破断するまでに計測される最大応力である。複数(例えば、5つ)の試験片について、引張強度を測定し、平均化することにより平均値を求める。
【0077】
HDTおよび引張強度の試験片は、例えば、後述の工程(i)~工程(iii)を繰り返す光造形物の製造方法で作製される。1層あたりの液膜もしくは二次元パターンの厚みは25μm~100μmである。
【0078】
[光造形物の製造方法]
光造形物の製造方法は、光硬化性樹脂組成物Aを用いて光造形物を形成する工程を含む。光造形物を形成する工程は、光硬化性樹脂組成物Aの液膜を形成し、液膜を光硬化させてパターンを形成する工程(i)と、当該パターンに接するように別の液膜を形成する工程(ii)と、当該パターン上の別の液膜を光硬化させて別のパターンを積層する工程(iii)とを含む。
【0079】
以下にバット式の光造形の手順について例示する。
図1は、樹脂槽(バット)を備える光造形装置(パターニング装置)を用いて三次元造形物を形成する場合の一例である。図示例では、吊り下げ方式の造形について示すが、光硬化性樹脂組成物を用いて三次元光造形することができる方法であれば特に制限されない。また、光照射(露光)の方式についても特に制限されず、点露光でも、面露光でもよい。
【0080】
パターニング装置1は、パターン形成面2aを備えるプラットフォーム2と、光硬化性樹脂組成物5を収容した樹脂槽3と、面露光方式の光源としてプロジェクタ4とを備える。
【0081】
(i)液膜を形成し、硬化させてパターンを形成する工程
工程(i)では、(a)に示すように、まず、樹脂槽3に収容された光硬化性樹脂組成物5に、プラットフォーム2のパターン形成面2aを、プロジェクタ4(つまり、樹脂槽3の底面)に向けた状態で浸漬させる。このときに、パターン形成面2aとプロジェクタ4(または樹脂槽3の底面)との間に液膜7a(液膜a)が形成されるように、パターン形成面2a(またはプラットフォーム2)の高さを調整する。次いで、(b)に示すように、プロジェクタ4から液膜7aに向けて、光Lを照射(面露光)することで、液膜7aを光硬化させてパターン8a(パターンa)を形成する。
【0082】
パターニング装置1では、樹脂槽3が、光硬化性樹脂組成物5の供給ユニットとしての役割を有する。液膜に光源から光が照射されるように、樹脂槽の少なくとも、液膜とプロジェクタ4との間に存在する部分(図示例では、底面)は露光波長に対して透明であることが望ましい。プラットフォーム2の形状、材質、およびサイズなどは特に制限されない。
【0083】
液膜aを形成した後、光源から液膜aに向かって光照射することにより、液膜aを光硬化させる。光照射は、公知の方法で行うことができる。露光方式は、特に制限されず、点露光でも面露光でもよい。光源としては、光硬化に使用される公知の光源が使用できる。点露光方式の場合には、例えば、プロッター式、ガルバノレーザ(またはガルバノスキャナ)方式、SLA(ステレオリソグラフィー)方式などが挙げられる。面露光方式の場合には、光源としてプロジェクタを用いると簡便である。プロジェクタとしては、LCD(透過型液晶)方式、LCoS(反射型液晶)方式、およびDLP(登録商標、Digital Light Processing)方式などが例示できる。露光波長は、光硬化性樹脂組成物の構成成分(特に、開始剤の種類)に応じて適宜選択できる。
【0084】
(ii)パターンaと光源との間に液膜を形成する工程
工程(ii)では、工程(i)で得られたパターンaと、光源との間に、光硬化性樹脂組成物を供給して、液膜(液膜b)を形成する。つまり、パターン形成面に形成されたパターンa上に液膜bを形成する。光硬化性樹脂組成物の供給は、工程(i)についての説明が参照できる。
【0085】
例えば、工程(ii)では、図1の(c)に示すように、二次元パターン8a(二次元パターンa)を形成した後、パターン形成面2aをプラットフォーム2ごと上昇させてもよい。そして、二次元パターン8aと樹脂槽3の底面との間に光硬化性樹脂組成物5を供給することにより、液膜7b(液膜b)を形成することができる。
【0086】
(iii)パターンa上に別のパターンbを積層する工程
工程(iii)では、工程(ii)で形成した液膜bに対して、光源から露光して、液膜bを光硬化させ、パターンaに別のパターン(液膜bの光硬化により得られるパターンb)を積層する。このようにパターンが厚み方向に積層されることで、三次元造形パターンを形成することができる。
【0087】
例えば、図1の(d)に示すように、パターン8a(パターンa)と樹脂槽3の底面との間に形成された液膜7b(液膜b)に、プロジェクタ4から露光して、液膜7bを光硬化させる。この光硬化により、液膜7bがパターン8b(パターンb)に変換される。このようにして、パターン8aにパターン8bを積層することができる。
光源や露光波長などは、工程(i)についての記載を参照できる。
【0088】
(iv)工程(ii)と工程(iii)とを繰り返す工程
第1工程は、工程(ii)と工程(iii)とを複数回繰り返す工程(iv)を含むことができる。この工程(iv)により、複数のパターンbが厚み方向に積層されることになり、さらに立体的な造形パターンが得られる。繰り返し回数は、所望する三次元造形物(三次元造形パターン)の形状やサイズなどに応じて適宜決定できる。
【0089】
例えば、図1の(e)に示すように、パターン形成面2a上にパターン8a(パターンa)およびパターン8b(パターンb)が積層された状態のプラットフォーム2を上昇させる。このとき、パターン8bと樹脂槽3の底面との間に液膜7b(液膜b)が形成される。そして、図1の(f)に示すように、プロジェクタ4から液膜7bに対して露光し、液膜7bを光硬化させる。これにより、パターン8b上に別のパターン8b(パターンb)が形成される。そして、(e)と(f)とを交互に繰り返すことで、複数のパターン8b(二次元パターンb)を積層させることができる。
【0090】
工程(iii)や工程(iv)で得られた三次元造形パターンに未硬化の光硬化性樹脂組成物が付着している場合、溶剤による洗浄処理を施してもよい。
【0091】
工程(iii)や工程(iv)で得られた三次元造形パターンには、必要に応じて、後硬化を施してもよい。後硬化は、パターンに光照射することで行うことができる。光照射の条件は、光硬化性樹脂組成物の種類や得られたパターンの硬化の程度などに応じて適宜調節できる。後硬化は、パターンの一部に対して行ってもよく、全体に対して行ってもよい。
【0092】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0093】
(1)光硬化性樹脂組成物の調製
表1に示す成分を表2~表3に示す質量比で混合し、攪拌しながら80℃のオーブンで3時間以上加熱して、固形成分を溶解させることにより均一な液状の光硬化性樹脂組成物Aを調製した。
【0094】
(2)評価
上記(1)で得られた光硬化性樹脂組成物について以下の評価を行った。
【0095】
(a)粘度
E型粘度計(TVE-20H、東機産業(株))を用いて、25℃にて、20rpmの回転速度で光硬化性樹脂組成物の粘度を測定した。
【0096】
(b)HDT
3Dプリンタ(Phrozen社製のSonic mini)を用いて、1層当たりの照射時間5秒およびz軸(高さ方向)のピッチ50μmの条件で、既述の試験片を作製した。この試験片を用いて、既述の条件下、ASTM D648に準拠してHDT(℃)を測定した。
【0097】
(c)引張強度
3Dプリンタ(Phrozen社製のSonic mini)を用いて、1層当たりの照射時間5秒およびz軸(高さ方向)のピッチ50μmの条件で、既述の試験片を作製した。この試験片を用いて、既述の条件下、ASTM D638に準拠して引張強度(MPa)を測定した。
【0098】
HDTおよび引張強度の試験片は、XYZ PRINTING社製のEeezCure180を用いて片面あたり10分間(合計20分間)の光照射を行い、後硬化を行った。その後、230℃のオーブンで30分間、試験片をアニールした。
【0099】
(d)低温安定性
既述の条件1~3を満たすか否かを調べ、
条件1~3の全てを満たす場合を◎、
条件1および条件2を満たす場合を〇、
条件1のみを満たす場合を△、
条件1~条件3を全て満たさない場合を×と評価した。
【0100】
実施例および比較例の評価結果を表2および表3に示す。Entry No.1~5が実施例、6~14が比較例である。試験片のアニール中にひび割れて測定を中止した場合は、表2、3に*印を示す。未測定の場合は-印を示す。
【0101】
【表1】
【0102】
表1中の成分表示は以下を示す。
「ACMO」:アクリロイルモルフォリン(第2化合物)
「SR833NS」:トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(多環式脂肪族のジアクリレート)
「M370」:トリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリアクリレート(トリアクリレート化合物A(第1化合物))
「M-313」:以下のトリアクリレート化合物A(第1化合物)とジアクリレート化合物A(第2化合物)との混合物
トリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリアクリレート65質量%(第1化合物)
トリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートジアクリレート35質量%(第2化合物)
「M-923」:以下のトリアクリレート化合物A(第1化合物)とジアクリレート化合物A(第2化合物)とモノアクリレート化合物A(第3化合物)との混合物
トリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリアクリレート40質量%
トリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートジアクリレート50質量%
トリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートモノアクリレート10質量%
「AD-TMP」:ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(4つのアクリロイル基を有するポリアクリレート)
「Omnirad TPO-H」:ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(光重合開始剤)
「Omnirad 819」:フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(光重合開始剤)
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
本発明を現時点での好ましい実施態様に関して説明したが、そのような開示を限定的に解釈してはならない。種々の変形および改変は、上記開示を読むことによって本発明に属する技術分野における当業者には間違いなく明らかになるであろう。したがって、添付の請求の範囲は、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、すべての変形および改変を包含する、と解釈されるべきものである。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明に係る光硬化性樹脂組成物は、光造形用途で三次元光造形物を形成する材料として適している。
【符号の説明】
【0107】
1:光造形装置、2:プラットフォーム、2a:パターン形成面、3:樹脂槽、4:プロジェクタ、5:光硬化性樹脂組成物、6:離型剤層、7a:液膜a、7b:液膜b、8a:二次元パターンa、8b:二次元パターンb、L:光
図1