(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022007015
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】ダンパー装置、ダンパーシステムおよびこれを備えた免震構造物
(51)【国際特許分類】
F16F 15/023 20060101AFI20220105BHJP
F16F 9/48 20060101ALI20220105BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
F16F15/023 A
F16F9/48
E04H9/02 331B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020109654
(22)【出願日】2020-06-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 宏一
(72)【発明者】
【氏名】田中 栄次
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J069
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AD03
2E139BA12
2E139BD34
2E139BD35
2E139CA02
2E139CB04
2E139CB05
2E139CB07
2E139CC02
3J048AA06
3J048AC04
3J048BG04
3J048CB21
3J048DA06
3J048EA38
3J069AA50
3J069CC10
3J069CC37
3J069EE02
3J069EE65
(57)【要約】
【課題】地震動の加速度成分が上部建物に直接伝達することを抑えることができ、片効き機能を有するダンパー装置、ダンパーシステムおよびこれを備えた免震構造物を提供する。
【解決手段】作動流体Fが封入されたシリンダー12と、シリンダー12の内部を左右に区画するピストン14と、ピストン14に連結されるとともにシリンダー12の右から外側に突出するピストンロッド16と、ピストン14に設けられるとともにピストン14の左右を連通可能な開閉弁20と、シリンダー12から分岐して左右方向に配置されるバイパス管22を備えるダンパー装置10であって、ピストン14は、バイパス管22の分岐位置26を跨いで摺動可能であり、開閉弁20には、作動流体Fに通過抵抗を与えるための穴34が開けられており、開閉弁20は、ピストン14が右方向に動くと開き、ピストン14が左方向に動くと閉じるようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体が封入されたシリンダーと、前記シリンダーの内部において一方向と他方向の双方に摺動可能に設けられるとともに前記シリンダーの内部を一方側と他方側に区画するピストンと、前記ピストンに連結されるとともに前記シリンダーの他方側から外側に突出するピストンロッドと、前記ピストンに設けられるとともに前記ピストンの一方側と他方側を連通可能な開閉弁と、前記シリンダーから分岐して平行に配置されるバイパス管を備えるダンパー装置であって、
前記ピストンは、前記バイパス管の分岐位置を跨いで摺動可能であり、前記開閉弁には、前記作動流体に通過抵抗を与えるための穴が開けられており、前記開閉弁は、前記ピストンが他方向に動くと開き、前記ピストンが一方向に動くと閉じることを特徴とし、片効き機能により見かけ上の負剛性を実現するダンパー装置。
【請求項2】
軸体を囲むように隙間をあけて設けられた円筒状の内側リンクと、前記内側リンクの外側に隙間をあけて配置された外側リンクと、前記内側リンクと前記外側リンクとの間に設けられた請求項1に記載のダンパー装置とを含んで構成されることを特徴とするダンパーシステム。
【請求項3】
前記軸体と、前記内側リンクの間に隙間が設けられていることを特徴とする請求項2に記載のダンパーシステム。
【請求項4】
前記軸体は、上部躯体から下側に向けて突出するとともに下部躯体の上面に対して滑動可能に当接するシアキーであることを特徴とする請求項2または3に記載のダンパーシステム。
【請求項5】
請求項1に記載のダンパー装置、または、請求項2~4のいずれか一つに記載のダンパーシステムを備えることを特徴とする免震構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンパー装置、ダンパーシステムおよびこれを備えた免震構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、免震建物は積層ゴム等の免震装置を使って建物の固有周期を伸ばすことにより、地震入力の低減を図る構造として知られている。応答加速度を大きく低減でき、地震時の家具の転倒抑制などにも有効である。
【0003】
しかし、近年、大きな地震波形が観測されることが多く、免震建物の変位が設計想定値よりも大きくなって擁壁に衝突するという懸念が提起されている。さらに、最近は長周期長時間地震動への対策も必要とされてきており、周期を伸ばすだけではなく、さらなる変位抑制を図ることが重要となってきている。
【0004】
変位抑制に着目すれば、ダンパー(例えば特許文献1を参照)などを大量に設定して減衰を増やすことや、擁壁への衝突を回避するためのストッパーを設けることなどが有効である。しかし、これらの対策は建物の短周期化につながり、免震構造が持つ長周期化による応答加速度低減とは相反する。このようなことから、応答加速度低減効果を損なわずに、応答変位を抑制するような構造が求められている。
【0005】
応答加速度低減効果を損なわずに、応答変位を抑制するような従来の装置としては、例えば特許文献2~4に示すような硬化型装置と回転慣性装置を組み合わせた装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-053404号公報
【特許文献2】特開2017-003089号公報
【特許文献3】特開2017-003090号公報
【特許文献4】特開2019-178532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記の従来の特許文献2等の回転慣性装置によれば、見かけ上は負の剛性を実現でき、免震建物をさらに長周期化できるため、硬化型装置負荷による加速度増大と相殺する効果を得ることができる。しかし、回転慣性装置は地面と建物を質量項で連結した装置であるため、地震動が短周期成分を多く含む場合は、加速度成分を多く上部建物に伝達してしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、上記の回転慣性装置が加速度成分を多く上部建物に伝達するという問題に対処しつつ、見かけ上の負剛性を実現可能な片効き機能を有するダンパー装置、ダンパーシステムおよびこれを備えた免震構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るダンパー装置は、作動流体が封入されたシリンダーと、前記シリンダーの内部において一方向と他方向の双方に摺動可能に設けられるとともに前記シリンダーの内部を一方側と他方側に区画するピストンと、前記ピストンに連結されるとともに前記シリンダーの他方側から外側に突出するピストンロッドと、前記ピストンに設けられるとともに前記ピストンの一方側と他方側を連通可能な開閉弁と、前記シリンダーから分岐して平行に配置されるバイパス管を備えるダンパー装置であって、前記ピストンは、前記バイパス管の分岐位置を跨いで摺動可能であり、前記開閉弁には、前記作動流体に通過抵抗を与えるための穴が開けられており、前記開閉弁は、前記ピストンが他方向に動くと開き、前記ピストンが一方向に動くと閉じることを特徴とし、片効き機能により見かけ上の負剛性を実現する。
【0010】
また、本発明に係るダンパーシステムは、軸体を囲むように隙間をあけて設けられた円筒状の内側リンクと、前記内側リンクの外側に隙間をあけて配置された外側リンクと、前記内側リンクと前記外側リンクとの間に設けられた上記のダンパー装置とを含んで構成されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る他のダンパーシステムは、上述した発明において、前記軸体と、前記内側リンクの間に隙間が設けられていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る他のダンパーシステムは、上述した発明において、前記軸体は、上部躯体から下側に向けて突出するとともに下部躯体の上面に対して滑動可能に当接するシアキーであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る免震構造物は、上述したダンパー装置、または、上述したダンパーシステムを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るダンパー装置によれば、作動流体が封入されたシリンダーと、前記シリンダーの内部において一方向と他方向の双方に摺動可能に設けられるとともに前記シリンダーの内部を一方側と他方側に区画するピストンと、前記ピストンに連結されるとともに前記シリンダーの他方側から外側に突出するピストンロッドと、前記ピストンに設けられるとともに前記ピストンの一方側と他方側を連通可能な開閉弁と、前記シリンダーから分岐して平行に配置されるバイパス管を備えるダンパー装置であって、前記ピストンは、前記バイパス管の分岐位置を跨いで摺動可能であり、前記開閉弁には、前記作動流体に通過抵抗を与えるための穴が開けられており、前記開閉弁は、前記ピストンが他方向に動くと開き、前記ピストンが一方向に動くと閉じるので、ピストンロッドに圧縮荷重が作用するとピストンが一方向(例えば左方向)に動いて開閉弁が閉じるとともに、開閉弁が閉じた状態で作動流体が穴を通過する際に大きな減衰力が発生する。このダンパー装置で地面と上部建物を連結すれば、地震動の加速度成分が上部建物に直接伝達することを抑える効果を奏する。
【0015】
また、本発明に係るダンパーシステムによれば、軸体を囲むように隙間をあけて設けられた円筒状の内側リンクと、前記内側リンクの外側に隙間をあけて配置された外側リンクと、前記内側リンクと前記外側リンクとの間に設けられた上記のダンパー装置とを含んで構成されるので、軸体を上部躯体に固定し、外側リンクを下部躯体に固定すれば、地震動の加速度成分が上部建物に直接伝達することを抑えるダンパーシステムを提供することができる。
【0016】
また、本発明に係る他のダンパーシステムによれば、前記軸体と、前記内側リンクの間に隙間が設けられているので、軸体の変位が隙間よりも小さい微小変位であれば内側リンクに接触しない。このため、微小変位時にダンパー装置の機能を発揮させないようにすることができるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係る他のダンパーシステムによれば、前記軸体は、上部躯体から下側に向けて突出するとともに下部躯体の上面に対して滑動可能に当接するシアキーであるので、上部躯体から下部躯体に軸力を伝達しつつ、水平の任意方向の変位に有効に対応することができるという効果を奏する。
【0018】
また、本発明に係る免震構造物によれば、上述したダンパー装置、または、上述したダンパーシステムを備えるので、地震動の加速度成分が上部建物に直接伝達することを抑えることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明に係るダンパー装置の実施の形態を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、本発明に係るダンパー装置の実施の形態を示す動作説明図である。
【
図3】
図3は、本発明に係るダンパーシステムの実施の形態を示す図であり、(1)は平断面図、(2)は側断面図である。
【
図4】
図4は、本発明に係るダンパーシステムの他の実施の形態を示す平断面図である。
【
図6】
図6は、本発明に係る免震構造物の実施の形態を示す図であり、(1)は平断面図、(2)は側断面図である。
【
図7】
図7は、ダンパー装置等の復元力特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係るダンパー装置、ダンパーシステムおよびこれを備えた免震構造物の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0021】
(ダンパー装置)
まず、本発明のダンパー装置の実施の形態について説明する。
図1に示すように、本発明の実施の形態に係るダンパー装置10は、オイルなどの粘性体F(作動流体)が封入されるとともに左右方向の筒軸を有する筒状容器のシリンダー12と、シリンダー12の内部に設けられ、シリンダー12の内部を左右に区画するピストン14と、ピストン14の右端面に連結してシリンダー12の右から外側右方に突出するピストンロッド16と、シリンダー12の左から外側左方に延びるロッド18と、開閉弁20と、バイパス管22を備える。
【0022】
バイパス管22は、シリンダー12から分岐して左右方向に配置されており、シリンダー12の左端側と左右方向略中央に分岐位置がある。ピストン14は、バイパス管22の左右方向略中央の分岐位置26を跨いでシリンダー12内部を左右方向に摺動可能である。ピストンロッド16およびロッド18の端部16A、18Aは、ダンパー装置10が平面内の任意方向に伸び引きされても良いように、ボールジョイントとなっている。これらは、減衰対象の躯体28に対して回動自在に固定される。
【0023】
開閉弁20は、ピストン14を左右に連通する通路30の左側の開口部の縁に設けた支軸32に対して回動自在に取り付けられる。開閉弁20には、粘性体Fに通過抵抗を与えるための小穴34が開けられている。ピストン14が右方向に動くと、通路30内外の粘性体Fの流れによって開閉弁20は開いた状態となり、開口部を介してピストン14の左右の室を連通する。一方、ピストン14が左方向に動くと、通路30内外の粘性体Fの流れによって開閉弁20は開口部を閉じる。ただし、開閉弁20が閉じた状態でも粘性体Fは開閉弁20に設けた小穴34を通過可能である。粘性体Fが小穴34を通過することによって減衰作用が発生する。
【0024】
上記構成の動作および作用について
図2を参照しながら説明する。
図2(1)に示すように、ピストンロッド16が縮んだ状態から引張荷重を加えると、バイパス管22および開いた開閉弁20から粘性体Fが容易に移動できるため、減衰力は極めて小さい状態になる。
図2(2)に示すように、ピストンロッド16が伸びてくるとバイパス管22を通る粘性体Fはなくなるが、開閉弁20は開いた状態のため、減衰力は小さいままである。
図2(3)に示すように、ピストンロッド16が伸びている状態から圧縮荷重を加えた場合は、開閉弁20が閉じるため、粘性体Fは開閉弁20に設けられた小穴34を通るだけとなり、大きな減衰力が発生する。
図2(4)に示すように、さらにピストンロッド16が縮んでくると、開閉弁20は閉じているもののバイバス管22を通って粘性体Fが移動できるのでダンパーの減衰力は小さくなる。
【0025】
このように、本実施の形態によれば、ピストンロッド16に圧縮荷重が作用するとピストン14が左方向に動いて開閉弁20が閉じるとともに、開閉弁20が閉じた状態で粘性体Fが小穴34を通過する際に大きな減衰力が発生する。このダンパー装置10で地面と上部建物を連結すれば、減衰項で連結することとなるため、地震動の加速度成分が上部建物に直接伝達することを抑えることができる。また、このダンパー装置10は、通常のダンパー装置にバイパス管22と開閉弁20を付加した簡単な構成であり、圧縮加力時のみ減衰力が高まる片効きダンパー装置ということができる。
【0026】
(ダンパーシステム)
次に、本発明のダンパーシステムの実施の形態について説明する。
図3に示すように、本発明の実施の形態に係るダンパーシステム40は、上層の柱42(上部躯体)に固定されたシアキー44(軸体)と、シアキー44の外側周囲に間隔をあけて設けられた円筒状の内側リンク46と、内側リンク46の外側に間隔をあけて設けられた円筒状の外側リンク48と、内側リンク46と外側リンク48との間に設けられた上記のダンパー装置10と、下層の梁50(下部躯体)に固定された規制体52とを備える。ダンパー装置10は、ピストンロッド16を伸ばした状態でシリンダー12の筒軸方向を水平にして外側リンク48の円の半径方向に配置される。本実施の形態のダンパー装置10は、平面視で円の周方向に等間隔に8つ設けているが、本発明はこれに限るものではなく、これ以外の個数を配置してもよい。
【0027】
シアキー44は、上層の柱42の下面から鉛直下方に突出した円柱状の部材であり、外周面から水平に張り出した鍔状の押え板54を有している。この押え板54は、内側リンク46の上下方向の動きを抑えるためのものである。シアキー44の下面は、下層の躯体50Aの上面に固定された滑り板56に当接している。したがって、シアキー14は、上層の柱42から下層の躯体50Aに軸力を伝達しつつ、滑り板56に沿って水平方向に滑動可能である。このように、シアキー44は、上部の軸力を支持する滑り支承を構成する。なお、シアキー44の下面はこのような配置に限るものではなく、隙間を設けて下層の躯体50Aから浮かせて配置してもよい。
【0028】
内側リンク46は、シアキー44の軸線Zと略同軸状に配置される鋼製の円筒体であり、滑り板56に沿って水平方向に滑動可能に設けられる。内側リンク46の外周面には、ダンパー装置10のピストンロッド16のボールジョイントの端部16Aが回動自在に固定される。内側リンク46は、上方に位置する押え板54によって上下方向の動きが規制されている。内側リンク46は、例えば円形鋼管を輪切りにして作製することができる。内側リンク46とシアキー44との間には、隙間G(ギャップ)が設けられている。シアキー44の水平方向の変位が隙間Gよりも小さい微小変位であれば内側リンク46に接触しないので、微小変位時にダンパー装置の機能を発揮させないようにすることができる。
【0029】
外側リンク48は、規制体52の内周側に固定される。外側リンク48の内周面には、ダンパー装置10のロッド18のボールジョイントの端部18Aが回動自在に固定される。外側リンク48は、例えば円形鋼管を輪切りにして作製することができる。
【0030】
規制体52は、外側リンク48の外方向への移動を規制するためのものであり、外側リンク48の外側の下層の梁50上に配置される。この規制体52は、ボルト58で梁50上に固定された水平プレート60と、水平プレート60の上面から突出する直角三角状の鉛直プレート62からなる。鉛直プレート62は、梁50の延在方向に延びており、鉛直辺に外側リンク48が固定される。規制体52は下層の梁50に固定されるので、規制体52とシアキー44は水平方向(軸線Zの方向と直交する方向)に相対移動可能である。
【0031】
上記構成の動作および作用について説明する。
地震時に柱42とともにシアキー44が水平移動すると、内側リンク46に接触して内側リンク46が水平変位し、ダンパー装置10のピストンロッド16が伸びている状態から収縮する。これにより、ダンパー装置10のピストン14の開閉弁20が閉じ、粘性体Fが小穴34を通過する際に大きな減衰力が発生する。ダンパー装置10の両端はボールジョイントで連結されているため、シアキー14の任意方向の水平変位に有効に対応することができる。
【0032】
本実施の形態のダンパーシステム40によれば、任意方向の地震に対し、応答加速度の低減効果を損なわずに応答変位を抑制することができる。また、上記のダンパー装置10を用いているので、地震動の加速度成分が上部躯体に直接伝達することを抑えることができる。
【0033】
上記の実施の形態においては、ダンパー装置10を平面視で点対称に設けた場合を例にとり説明したが、本発明のダンパーシステムはこれに限るものではない。例えば
図4に示すようなダンパーシステム70を採用してもよい。この図に示すように、変形例のダンパーシステム70は、内側リンク46の前後左右の四方にダンパー装置10を設置したものである。内側リンク46の外周面に設けた固定治具72に対するピストンロッド16の連結高さは、左右方向に配置されるダンパー装置10と、前後方向に配置されるダンパー装置10とで異なる高さに設定する。ダンパー装置10のロッド18は規制体52に固定された固定治具74に固定する。これにより、シアキー44の移動による干渉を回避することができる。また、内側リンク46とシアキー44の間には隙間Gを設けている。このようにしても、上記と同様の作用効果を奏することができる。
【0034】
(免震構造物)
次に、本発明の免震構造物の実施の形態について説明する。
図6に示すように、本発明の実施の形態に係る免震構造物100は、免震層76に上記のダンパーシステム70と、積層ゴムからなる免震装置78と、硬化型装置80を備えた免震建物である。免震構造物100は、免震層76に配置される積層ゴムからなる免震装置78の一部をダンパーシステム70に置換して構築することができる。
【0035】
硬化型装置80は、
図5および
図6に示すように、上層の柱42に固定されたシアキー44と、シアキー44の外側周囲に間隔をあけて設けられた複数の円筒状のリンク82と、板ばね84と、下層の梁50に固定された規制体52とを備える。
【0036】
リンク82は、シアキー44と略同軸状に配置される鋼製の円筒体であり、滑り板56に沿って水平方向に滑動可能に設けられる。リンク82は、上方に位置する押え板54によって上下方向の動きが規制されている。また、最外側のリンク82は、規制体52の内周側に固定される。最内側のリンク82とシアキー44との間には、隙間が設けられている。シアキー44の水平方向の変位が隙間よりも小さい微小変位であれば最内側のリンク82に接触しないので、微小変位時にダンパー装置の機能を発揮させないようにすることができる。
【0037】
板ばね84は、隣り合う円筒状のリンク82間の隙間に設けられるとともにリンク82どうしを離す方向に弾性的に付勢する矩形板状のものである。各隙間の板ばね84は、平面視で円の周方向等間隔に4つ設けられている。板ばね84の板面は水平方向を向いており、板面の中心部はボルト86で内側(円の半径方向内側)のリンク82の外周面に固定される。板ばね84の側縁は外側のリンク82の内周面に当接している。なお、板ばね84は、1枚板に限るものではなく、重ね板ばねを用いてもよい。
【0038】
この硬化型装置80の動作および作用について説明する。地震時に柱42とともにシアキー44が水平移動すると、最内側のリンク82に接触してその外側のリンク82との間隔が狭くなり、さらにその外側のリンク82との間隔が狭くなる。このようにシアキー44が変位した側のリンク82どうしが互いに接近する。すると、これらの間に配置された板ばね84がリンク82を離す方向に弾性的に付勢し、シアキー44に減衰力が作用する。任意方向の地震に対し、応答加速度の低減効果を損なわずに応答変位を抑制することができる。
【0039】
上記の免震構造物100によれば、上記のダンパーシステム70を備えるので、任意方向の地震に対し、応答加速度の低減効果を損なわずに応答変位を抑制することができる。また、回転慣性装置の代わりにダンパーシステム70を用いて、見かけ上の負の剛性を実現するとともに、ダンパーによるエネルギー吸収能力も有効利用することができる。
【0040】
(復元力特性)
次に、上記のダンパー装置10、ダンパーシステム40,70、免震構造物100で得られる復元力特性について説明する。
【0041】
図7(1)は、上記の従来の回転慣性装置による復元力特性である。この図に示すように、回転慣性装置は加速度に対して有効であり、ばねなどの剛性装置とは逆位相の動きをするため、横軸を変位とすると、負勾配の復元力特性となる。そのため、建物全体の剛性を見かけ上低減した効果があり、すなわち、免震建物のさらなる長周期化に寄与する。しかし、上述したように、質量項で地面と建物を連結している装置のため、加速度成分を多く伝達してしまうという欠点がある。また、装置のガタツキ等による想定外の減衰は存在するものの、明示的な減衰性能を期待することはできない。
【0042】
図7(2)は、一般的なダンパー装置の復元力特性である。この図に示すように、履歴が右回りにループすることでエネルギーを吸収する。シアキー44と内側リンク46との間にギャップ(隙間G)を設けることで、
図7(3)のように復元力特性にくびれを作ることができる。本実施の形態のダンパーシステム40のようにギャップと片効き機能がある場合の1つのダンパー装置10の復元力特性は
図7(4)のようになる。
【0043】
ダンパーシステム40はシアキー44を中心に点対称に配置されているので、相対する2つのダンパー装置10の復元力特性は
図7(5)のようになる。このダンパーシステム40で得られる復元力特性は、図中に点線で示したような負勾配の剛性を持つ装置に減衰機能が付加された復元力特性であるともいえる。
【0044】
図7(6)は、
図5に示した硬化型装置80の復元力特性の例である。
図7(7)は、硬化型装置80と本実施の形態の片効き式のダンパー装置10(ダンパーシステム70)を組み合わせた場合の復元力特性である。この図に示すように、変位が大きくなる領域では硬化型装置80で変位の抑制を行い、除荷時には片効き式のダンパー装置10でエネルギー吸収を行うという理想的な復元力特性が実現できていることがわかる。
【0045】
以上説明したように、本発明に係るダンパー装置によれば、作動流体が封入されたシリンダーと、前記シリンダーの内部において一方向と他方向の双方に摺動可能に設けられるとともに前記シリンダーの内部を一方側と他方側に区画するピストンと、前記ピストンに連結されるとともに前記シリンダーの他方側から外側に突出するピストンロッドと、前記ピストンに設けられるとともに前記ピストンの一方側と他方側を連通可能な開閉弁と、前記シリンダーから分岐して平行に配置されるバイパス管を備えるダンパー装置であって、前記ピストンは、前記バイパス管の分岐位置を跨いで摺動可能であり、前記開閉弁には、前記作動流体に通過抵抗を与えるための穴が開けられており、前記開閉弁は、前記ピストンが他方向に動くと開き、前記ピストンが一方向に動くと閉じるので、ピストンロッドに圧縮荷重が作用するとピストンが一方向(例えば左方向)に動いて開閉弁が閉じるとともに、開閉弁が閉じた状態で作動流体が穴を通過する際に大きな減衰力が発生する。このダンパー装置で地面と上部建物を連結すれば、地震動の加速度成分が上部建物に直接伝達することを抑える効果を奏する。
【0046】
また、本発明に係るダンパーシステムによれば、軸体を囲むように隙間をあけて設けられた円筒状の内側リンクと、前記内側リンクの外側に隙間をあけて配置された外側リンクと、前記内側リンクと前記外側リンクとの間に設けられた上記のダンパー装置とを含んで構成されるので、軸体を上部躯体に固定し、外側リンクを下部躯体に固定すれば、地震動の加速度成分が上部建物に直接伝達することを抑えるダンパーシステムを提供することができる。
【0047】
また、本発明に係る他のダンパーシステムによれば、前記軸体と、前記内側リンクの間に隙間が設けられているので、軸体の変位が隙間よりも小さい微小変位であれば内側リンクに接触しない。このため、微小変位時にダンパー装置の機能を発揮させないようにすることができる。
【0048】
また、本発明に係る他のダンパーシステムによれば、前記軸体は、上部躯体から下側に向けて突出するとともに下部躯体の上面に対して滑動可能に当接するシアキーであるので、上部躯体から下部躯体に軸力を伝達しつつ、水平の任意方向の変位に有効に対応することができる。
【0049】
また、本発明に係る免震構造物によれば、上述したダンパー装置、または、上述したダンパーシステムを備えるので、地震動の加速度成分が上部建物に直接伝達することを抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上のように、本発明に係るダンパー装置、ダンパーシステムおよびこれを備えた免震構造物は、地震に対する応答加速度の低減効果を損なわずに応答変位を抑制する免震構造に有用であり、特に、地震動の加速度成分が上部建物に直接伝達することを抑えるのに適している。
【符号の説明】
【0051】
10 ダンパー装置
12 シリンダー
14 ピストン
16 ピストンロッド
16A,18A 端部
18 ロッド
20 開閉弁
22 バイパス管
26 分岐位置
28,50A 躯体
30 通路
32 支軸
34 小穴
40,70 ダンパーシステム
42 柱(上部躯体)
44 シアキー(軸体)
46 内側リンク
48 外側リンク
50 梁(下部躯体)
52 規制体
54 押え板
56 滑り板
58,86 ボルト
60 水平プレート
62 鉛直プレート
72,74 固定治具
76 免震層
78 免震装置
80 硬化型装置
82 リンク
84 板ばね
100 免震構造物
F 粘性体(作動流体)
G 隙間
Z 軸線