(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070186
(43)【公開日】2022-05-12
(54)【発明の名称】消臭機能と抗ウイルス機能、並びに抗菌機能や静電気除電が可能な繊維製品
(51)【国際特許分類】
D03D 15/40 20210101AFI20220502BHJP
D03D 15/20 20210101ALI20220502BHJP
D02G 3/06 20060101ALI20220502BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20220502BHJP
【FI】
D03D15/00 C
D03D15/00 E
D03D15/00 H
D02G3/06
B32B15/08 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020189002
(22)【出願日】2020-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】399082058
【氏名又は名称】株式会社ミューファン
(72)【発明者】
【氏名】嶌崎 佐太郎
【テーマコード(参考)】
4F100
4L036
4L048
【Fターム(参考)】
4F100AB24B
4F100AK01A
4F100AK01C
4F100AK41A
4F100AK41C
4F100BA03
4F100DA16
4F100EJ30
4F100EJ33
4F100GB72
4F100JC00
4L036MA04
4L036MA05
4L036MA39
4L036PA21
4L036UA25
4L048AA04
4L048AA12
4L048AA40
4L048AA46
4L048AB12
4L048AB27
4L048AB28
4L048DA22
(57)【要約】
【課題】 一種類の素材で、抗菌防臭機能、静電気除電機能、消臭機能、抗ウイルス機能を繊維製品に実現できる事は難しかった。本発明は機能術現に必要な素材の混率は違っても、それらすべてを、或は選別して一つの素材で実現できる事を課題としている。
【解決方法】
プラスチックフィルム2枚に真空蒸着法など周知の方法で純銀層を2乃至は1層、サンドイッチ構造(フィルム/銀/接着剤/銀/フィルム、或はフィルム/銀/接着剤/フィルム)に持つ積層フィルムに微細な孔を設け、その後スリットして、スリット断面及びフィルム部分に純銀層を露出したスリット糸は、撚糸をして主原料繊維糸と純粋なスリット糸のみの混率を2~8重量%均一に配置した織物や編物という生地を得て、当該スリット糸や生地からなる繊維製品は課題を解決できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが4~12ミクロンのプラスチックフィルム2枚で純銀層を2層(各層とも純銀層の厚みは同じ30~40nm)、或は1層(純銀層の厚みは60~80nm)をサンドイッチ状に有する積層フィルムを得て、
スリット工程前に、スリット幅を維持でき、スリット糸の形状や強度に影響を与えないような10~15ミクロン前後の微細な孔を出来るだけ多数設け、水分の表張力により水分の該孔へ侵入させないように設けたスリット糸を得て、当該純銀属層を構成する原子単位で隆起状態である銀原子集団の働きを高め、及び該銀原子集団から溶出する銀イオン量を増やす事が出来て、
スリット幅0.15~0.23mmのスリット糸の純粋な該スリット糸は撚糸される糸の太さや繊維種により重量比率が変化するので、主素材となる繊維種との純粋な該スリット糸の混率計算に注意を払い、(前記スリット幅の違いによる純粋なスリット糸の重量の違いは、大きくはない。)
当該スリット糸と天然繊維或は合成繊維との撚糸を有する生地であって、経糸または緯糸に、又は経糸、緯糸に双方に均等に配置され、当該撚糸が有する純粋な当該スリット糸が該生地重量比2%以上織込まれた生地からなり、
或は同様な混率構成からなる経編、或は丸編といった生地からなり、既に発生しているアンモニア・酢酸・イソ吉草酸・ノネナール・硫化水素という臭気を消臭できる機能と、優れた静電気除電機能や抗菌性を活かした防臭機能を併せ持ち、それらの機能を有するスリット糸の撚糸と他の糸、或は該スリット糸の撚糸を均等に配置された生地からなら繊維製品。
【請求項2】
請求項1に記載のスリット糸の撚糸に含まれる純粋なスリット糸の混率が生地重量の2~8%である生地からなる、或は当該スリット糸と他の糸との組み合わせからなるアクセサリーやコサージュのような小物繊維製品でもあり、抗菌防臭機能や静電気除電機能のみならず、請求項1に記載の消臭機能も有し、加えて抗ウイルス機能を有する繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
抗菌剤を有する生地による繊維製品の抗菌性は副次効果として繊維製品に防臭機能をもたらす事は出来ても、既に発生している臭気を消臭できるとは限らない。本発明は金属銀、また金属銀から溶出する銀イオンを利用して静電気除電機能や抗菌防臭機能だけではなく、物理的作用によらない悪臭の消臭機能も併せ持つ繊維製品製造技術に関するものである。また昨年末ごろから中国から始まった新型コロナウイルスによる感染症は、WHOからパンデミックと認定され日本を含む世界中で人々の健康被害や、感染を恐れる人々の社会活動の停滞やそれに伴う経済活動の縮小が世界的な不安と不景気を起こしている中、抗菌防臭性のある繊維製品は近年日本の技術的先進性もあり世界で評価を受けているが、抗菌性があれば抗ウイルス性が自動的に伴うものではないので、積極的な消臭機能に加えて抗ウイルス機能をも持つ繊維製品の製造技術に関する。
【背景技術】
【0001】
例えば銀陽イオン500ppm程度イオン交換により銀陽イオンを担持したセラミックのような
混錬し紡糸して得られる抗菌性を活かす事のできるポリエステル糸は現存する。
(後述する[特許文献2]を参照)
【0002】
該抗菌ポリエステル糸を無加工のポリエステル糸に20~30%程度均等配置させて製造した生地に於いて、例えばポリエステル糸の組成である高分子樹脂の分子間を透過して溶出する銀イオンは生地を水に浸漬した場合の銀陽イオンの溶出がある。抗菌試験時には、後述する特許文献2からは銀陽イオンの濃度は定かではないが抗菌防臭性は実現できても、リン脂質膜を持つエンベロップウイルスの失活効果を実現できる程度の銀陽イオンの溶出は期待できない。
【0003】
特許文献2にある銀系抗菌剤による銀陽イオンの溶出量を増やすために、銀系抗菌剤をポリエステル樹脂への配合量を増やそうとしても、銀系抗菌剤は当該樹脂にとって当該樹脂との接着性のない無機質の異物でしかなく、該抗菌剤のサイズの限界もあり紡糸する際には繊度(糸の太さ)、伸度や強度への悪影響が大きく、配合量を増やす事により溶出する銀陽イオン濃度を高めるには限界がある。
【0004】
後に記載の先行技術文献[特許文献1]に挙げるポリエステルフィルム2枚で銀層2層、或は1層をサンドイッチ状に保有する積層フィルムをスリットして、銀層がスリット断面から露出した糸
2~3%程度均等に分散させて製造した生地に於いては溶出する銀陽イオンは多くても、[非特許文献]にあるように150ppb程度であり、広いスペクトルに渡る抗菌性は実現できてもこの程度の銀陽イオン濃度では、エンベロップウイルスを失活させる事はできない。尚、上記銀陽イオンの濃度はJIS-L-1902(2015年版)による抗菌試験(試験所要時間は18時間)の際に現れる大まかな濃度である。
尚、そもそも既存の銀イオン溶出を実現する源の糸構造も、本発明と[特許文献1]及び[特許文献2]とは根本的な相違があり、本発明は[特許文献1]に記載の銀スリット糸を進歩させたものである。
【0005】
繊維製品を銀イオンにより抗菌化すると副次効果として細菌由来の悪臭を防ぐことは出来るが、既に発生しているアンモニア、酢酸、イソ吉草酸、ノネナールや硫化水素と言った悪臭を消臭する事は難しいと考えられていた。純銀をサンドイッチ構造に持つスリスリット断面に露出する純銀やそれから溶出する銀陽イオンは抗菌防臭機能があっても、既に発生している臭いの消臭機能はないとされてきた。
【0006】
後述する[特許文献3]には少なくともポリエステルフィルムの片面に純銀を真空蒸着させたフィルムを断裁して、希クエン酸溶媒にて得た銀イオン水の製造方が記載されている。この方法で得た銀イオン水には少なくとも一部の銀イオンにはカルボキシル基が1座、乃至は2座配位結合していて錯体陰イオン化している銀イオンが含まれている。
【0007】
該銀イオン水の銀イオン濃度を200ppbに調整して綿糸1g当たり2.51g噴霧した綿ガーゼでは抗ウイルス活性値=2.8という有効値を得られている。綿糸1g当たりの保水量は1.6g程度であるから勿論抗ウイルス試験検体の綿ガーゼからは液だれが起こっているが、含まれる錯体銀陰イオンは綿ガーゼを構成する綿糸に吸着されるので、液だれがあても当該銀陰イオンはガーゼ生地に残留するので有効な抗ウイルス性を実現できている。
【0008】
エンベロップウイルスは名前の如くリン脂質膜を有するウイルスであり、錯体陰イオン化している銀イオンの方が界面活性剤と同様に脂質と相性が良く該脂質膜を透過できて膜を破壊できるのでウイルスの失活に役立つが、銀陽イオンではより高いイオン濃度が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4196175号
【特許文献2】特許第5288531号
【特許文献3】特許第5988476号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】国立大学法人京都工芸繊維大学と株式会社ミューファンとの共同研究報告書第14頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
金属である純銀、該純銀から溶出する銀陽イオンを活かして抗菌機能による細菌由来の悪臭を防臭するだけではなく、アンモニア・酢酸・イソ吉草酸・ノネナール・硫化水素と言った既に発生して繊維製品に付着する悪臭を消臭できる機能を、静電気除電機能とも併せて繊維製品に発現させる事を一つの課題としている。
【0012】
上記した純銀層を持つスリット糸から溶出する銀イオンは陽イオンであるが、生地への該スリット糸の混率を増やす事で静電気除電機能のみならず、銀陽イオン濃度を高めて抗菌防臭機能に加えて、抗ウイルス機能を繊維製品に付与させる事が可能な事ももう一つの課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成としたことを特徴とする。
先ず、厚み4~12ミクロンのプラスチックフィルムを基材として、純銀を真空蒸着法に代表される周知の方法で厚み30~40nmの銀層を設け、同様に得た純銀層を有するプラスチックフィルムの銀層同士を内側にしてラミネートをして積層フィルムを得て、スリット工程前に該積層フィルムに10~15ミクロン程度の孔を設け、その後切幅0.15~0.23mmにスリットして扁平糸であるスリット糸を得る。(以後、これを「銀2層スリット糸」と称する。)なお、請求項1に記載の微細な孔を設けるためにはフィルム厚とスリット幅を十分に勘案して孔のサイズや数及びにその配置を考慮し、該スリット糸自体の形状や強度を十部に保全しなければならない。
【0014】
上記と同様に純銀層の厚みを60~80nmで有するプラスチックフィルムを得て、純銀層を有しない同じ厚みのプラスチックフィルムと銀層を内側にラミネートした積層フィルムを得て、上記と同様の工程を経てスリット糸を得る。(以後、これを「銀1層スリット糸」と称する。)
銀2層スリット糸も銀一層スリット糸も、純銀層を設ける前工程として純銀層とプラスチックフィルムの接着力を高めるためにプラズマ加工をして基材になる該フィルムの表面に細かな傷を付けても構わないし、基材になる該フィルム上に純銀層との接着力を高めるためにアンカーコートを施すことが層間剥離、又層間剥離による純銀層のダメージや欠落を防ぐために重要である。
【0015】
上記のようにして得た2通りのスリット糸は、織物・編物といった生地を得る時に掛かるテンションで必要以上に伸びる事により純銀層にクラックができて純銀の持つ機能が阻害される、或は機能の持続性を短くしてしまう懸念があるために、出来れば生地の主素材となる繊維種と同じ、乃至は主素材となる繊維種と相性の良い糸(ここで相性とは、生地の地合・風合と染色工程上の合理性を鑑みて容認できる事を意味する。)、各々のスリット糸1対1、或は各々のスリット糸1対2、或は各々のスリット糸1対多数の糸と撚糸する事が好ましい。なお、当該スリット糸と撚糸される糸は、長繊維糸、短繊維糸や違う繊維種混合の有無を問わない。撚糸方法は1対1のS撚り、或はZ撚りを加えて1対2のダブルカバーなど周知の撚糸方法から生地企画を勘案して選ぶことが出来る。
【0016】
上記のように得た銀2層スリット糸、或は銀1層スリット糸の撚糸は織物であれ、編物であれ、対主原料糸との純粋な当該スリット糸の混率は2~5%で均等に分散されていれば当該織物、或は編物からなる繊維製品はアンモニア・酢酸・イソ吉草酸・ノネナール・硫化水素といった臭気を消臭できる。勿論前記の混率があれば静電気除電機能や抗菌防臭機能は同時に発現する。
【0017】
又、銀2層或は銀1層スリット糸、或はそれらの撚糸と他の糸を組み合わせて、アクセサリーなどの小物繊維製品にも上記の混率を実現すれば、請求項に記載の機能が発現する事は言うまでもない。
【0018】
また上記のように得た銀2層スリット糸、或は銀1層スリット糸の撚糸は織物であれ、編物であれ、主原料糸との純粋な当該スリット糸が混率4~8%程度で均等に分散されていれば、両スリット糸からは抗菌性をもたらすに足りるより高い銀陽イオンの溶出があるので、当該織物或は編物からなる繊維製品は少なくとも新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスのようなエンベロップウイルスに対しそれらを失活させる事が出来る。当然前述の混率があれば静電気除電機能も伴う。
【発明の効果】
【0019】
従来、銀イオンは陽イオンであれ、陰イオンであれ、細菌に対する殺傷効果があるので繊維の抗菌防臭機能を活かした繊維製品に幅広く利用されてきた。又、銀2層スリット糸、銀1層スリット糸はその静電気放電力が高く静電気除電製品に役立ってきたし、更に銀は光や熱の反射・輻射力が高いので熱遮断機能を活かした裏地やカーテンが高い評価を受けて来た。(特許文献1を参照)
【0020】
本発明は、上記のような機能に加え、微細な孔を設けられた銀2層スリット糸、或は銀1層スリット糸が均等に配置された生地からなる、或は他の糸との混合糸からなる繊維製品は、上記機能とは一部別のメカニズムにより消臭機能も発揮できるし、抗ウイル性を持つので、人々の快適な生活に貢献でき、また病の予防や健康の維持に役立てる事も可能である。当然特許文献1に記載のスリット糸には両端面のみに純銀層露出があるが、孔を設ける事でサンドイッチ状の純銀層の露出が多くなるので、純銀層の露出が増えるし、銀イオに溶出も増えるので、純粋なスリット糸の混率は下げる事が出来る。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ここで請求項1に記載の発明の形態を詳しく述べる。
先ず厚み4~12ミクロンのプラスチックフィルムに、真空蒸着法、或はイオン蒸着法、スパッタリング法などの周知の方法で膜厚30~40nmの純銀層を設け、同様に得た純銀層を有するフィルムと純銀層を内側にしてラミネートし、純銀層が2層ある積層フィルムを得る。請求項1に記載の微細な孔を与えるにはプラスチックフィルムの厚みが薄い方が有利であるが、孔の数やそれらの配置によりスリット幅による問題が無ければ該基材フィルムの厚みは決定的な問題にはならない。
【0022】
又は、上記の方法で得た純銀層を持つプラスチックフィルムの純銀層を保護するために純銀層を有しない同じ厚みのプラスチックフィルムをラミネートし、純銀層の厚みが60~80nmで純銀層1層の積層フィルムを得る、或は銀2層の積層フィルムを得るための基材プラスチックフィルムはポリエステルフィルムの調達が容易であり、厚みのバリエーションも豊富でコストも合理的なので最適である。勿論基材となるプラスチックフィルムはポリエステルに限定されるものではない。ラミネートに必要な接着剤はウレタン系、ポリエステル系,アクリル系など周知の接着剤から選ばれるが、架橋型ウレタン系が好ましい。
【0023】
上記のように得られた積層フィルムをスリット工程の前に、例えていうなら生け花の剣山を模して細い鋼の針を設けた布、或は薄い金属板を巻き付けたロールとゴムロールの間を通し、スリット後の糸に形状や強度的な悪影響を及ぼさない程度に10~15ミクロン程度の出来るだけ多数の孔を当該積層フィルムに設ける事で、2枚の基材ポリエステルフィルムに保護されている銀層の露出を両端面だけでなく更に基材フィルムの偏平幅にも存在させる事ができ、銀層を構成する銀原子集団の露出を増やす事、及び溶出する銀イオ濃度を高める事が可能になり、請求項1・2に記載の各機能が孔を設けていない同様な銀スリット糸より低い混率で実現できる。尚、積層フィルムに孔を設ける際には該鋼の針は一直線状に孔を設けられるようにすること、横ぶれの無い状態で孔をあける工程に送り込まれる事で、スリット時にスリット糸の形状に(例えばスリット端面の一部に、直線的でない三日月状である「)」このような変形)をもたらす事を防げる。
【0024】
又、設けられた孔は、例えば衣服のベルトのように空洞になっている必要は無く、純銀層を露出できれば良いので、突き出たプラスチックフィルムはそのままでもスリット糸の形状を変えないし手触りに違和感も起こさず、且つ滑り止めにもなるので構わないし、スリットの前にロール状のやすりやカンナ状歯等でそぎ落とす事もできる。
【0025】
現状のスリット工程では、一定程度の幅の積層フィルムをロール状に捲き上げて、巻出し部分に固定し、あくまでも例えであるが、6cm幅にロールアップされた積層フィルムを0.15mm幅にスリットする時には401枚のロータリーカッターとして連なる円形切歯とそれを受け止めるゴムロールの間を通され400本のスリット糸が出来上がり、各1本のスリット糸は扇形に分かれて巻き取られる。この時には積層フィルムが横にぶれると綺麗に均等な0.15mm幅のスリット糸にはならない。詰まり現状のスリット機器でも積層フィルムがスリットされる時には該積層フィルムは横ぶれを起こさずにロータリーカッター部分に送り込まれるのである。
【0026】
この様な装置の原理を活かして、横ぶれせずに積層フィルムが送り込まれ、鋼の針が薄い金属板に一直線に配置され。上部ロールに巻き付けられ、下部の受けロールがゴムロールなど弾性のある素材ロールであればその間を通る積層フィルムには一直線上に孔を設けられる。当該針の横の間隔や縦の間隔は、積層フィルム2枚の厚みやスリット幅を鑑みて決める事で、仕上がるスリット糸の形状や強度に影響を与えない微細な孔を設けられた銀2層、或は銀1層スリット糸を得ることができる。
勿論スリット工程前に積層フィルムに孔を設ける時には上記原理を活かしながら、積層フィルムの幅は上記に例えたスリット時と同じである必要は無く、より広い巾で円形切歯を増やしたロータリーカッターを行う事も可能である。
【0027】
上記の微細な孔を積層フィルムに儲ける方法は上記の方法に限らず、例えばシルクスクリーンのような形態で鋼の針を設けた板、又は金属板をはめた枠を用意し、それを積層フィルムに押し当てて微細な孔を設けても良い。こうする事で通常のスリットのみをした銀2層、銀1層スリット糸は両端にしか銀層が露出していないが、より多くの純銀層の露出が実現できる。
このように得られた積層フィルムを切幅0.15~0.23mmにスリットして、銀2層スリット糸、或は銀1層スリット糸を得る。尚、本発明に記載のスリット糸は横断面が丸くなく長方形をなしているので、露出する純銀層のみによる放電ではなく4か所の角が静電気放電を補助してくれる。
【0028】
前記のように、当該2通りのスリット糸のみでは単独で織物に使用する、或は編物に使用するとテンションが掛かり該スリット糸を構成しているプラスチックフィルムが伸びて内蔵される銀層はその伸びに追随できずクラックが入り(該クラックが原因で両スリット糸には低電圧では導電性がない。)、プラスチックフィルムが元に戻っても銀層はその縮みに調和追随できず銀層が壊れ、或は欠落しての銀層が働く機能が壊れる、或は機能の寿命が短くなってしまう。
【0029】
それを避けるためには、織物、編物を構成する主原料の繊維種と同じ繊維種の糸、或は主原料になる繊維種と生地の地合や染色工程などを鑑みて相性の良い繊維種の糸と撚糸して、2通りのスリット糸を補強する事が肝要である。撚糸は両スリット糸1本に対し1本、乃至は2本、更には多数本となり、周知の方法による撚糸乏から選ぶことができる。
【0030】
織物、編物の主原料は天然繊維、合成繊維の何れでも構わないが、アクリル繊維、ウール等の動物蛋白質繊維は、両スリット糸から溶出する銀イオンは陽イオンであるので、カチオン染色をするアクリル繊維はアニオンを多量に有していて銀イオンとイオン中和を起こし、又ウール等動物蛋白質繊維はシステイン、或は他の含硫アミノ酸を有し、時にはチオール官能基を持ち銀陽イオンと直ぐに反応して硫化銀を形成し抗微生物機能は発揮しにくいので注意を要する。なお、純銀層が関与する静電気除電機能、熱遮断機能と特に本出願に記載する消臭機能は別のメカニズムによるので抗微生物機能とは違い発現する。因みに銀陽イオンが少なくとも5ppm以上の濃度の銀イオン水で処理をすれば、ウール生地は抗菌性を発揮できるが、本発明の趣旨とは外れるので詳細記述は省く。。
【0031】
上記の例外を除く天然繊維、合成繊維を主原料として、織物、編物を製造する場合に銀2層スリットの撚糸、或は銀1層スリット糸の撚糸を均等に分散させることで得られる生地や、他の糸と組み合わせて、生地を使用していないコサージュのような小さな繊維製品は、抗菌防臭機能、静電気除電機能に加えて、光触媒によるものも併せて化学的消臭機能や、抗ウイルス機能を発揮できる。ただその小物繊維製品では機能が及ぶ広さには留意しなければならない。なお前記2通りの銀2層、或は銀1層スリット糸が請求項1と請求項2に記載の機能を発揮できる混率は以下の通りである。
【0032】
先ず銀1層スリット糸の撚糸を使用して織物、或は編物を製造する場合、織物なら経糸或は緯糸に、又は経糸・緯糸双方に主原料との重量比2~8%程度の純粋な当該スリット糸を均等に織り込む、経編なら経糸主原料の糸重量比2~8%の純粋スリット糸量を均等に配置して編込む、丸編・横編みなら編主原料糸に対し純粋スリット糸を重量比2~8%程度を均等に配置して編込むとアンモニア・酢酸・イソ吉草酸・ノネナール・硫化水素の臭気をほぼ消臭出来る生地を得る事ができる。
【0033】
アンモニアと2通りのスリット糸のスリット断面及び孔に露出している銀は、水分があれば銀は銀陽イオンとして溶出するが、アンモニアは配位子なので銀がイオン化していても、イオン化していない金属銀にも配位結合して元のアンモニアの分子構造が変わるので、アンモニア臭が殆ど無くなる。
【0034】
酢酸及びイソ吉草酸は有機酸であり弱酸ではあるが、ガス化している時には分子単位ばらばらになってその集団がガスをなしている。両スリット糸の断面及び孔に露出している純銀は真空蒸着の際には銀原子単位で蒸気化して純銀層を形成していて超微細なサイズではあるが個々の銀原子はそれぞれ個別に隆起状態を保ち、且つ金属結合も弱いので、分子単位で弱酸である酢酸・イソ吉草酸とも反応して銀塩を形成し、両臭気は元の分子構造とは違ってしまい臭いを殆ど無くす。
【0035】
後述する実施例にも述べるが、両スリット糸端面のスリット断面や設けた孔に露出している純銀には光触媒作用があるので、有機物である酢酸・イソ吉草酸・ノネナールを分解して炭酸ガスと水に変化させ臭気を無くすというメカズムも働いていると考えられる。アンモニアは有機物ではないので、上述した銀乃至は銀イオンへの配位結合による消臭機能のみが働いていると考察する事が正しい。
【0036】
本発明に記載の請求項2に於ける抗ウイルス機能を発現させる事が出来る形態の詳細を以下のように述べる。
特許文献3により得られた銀イオン水には、pHが酸性に維持されている限り、溶解している銀イオンは殆どが錯体陰オン化していて、錯体陰イオン化している銀イオンはリン脂質膜を持つエンベロップウイルスの該脂質膜を透過して壊すので(界面活性剤がエンベロップウイルスを不活化する機能とほぼ同じ)、銀イオン濃度を200ppbに希釈した銀イオン水を噴霧したガーゼ生地では抗ウイルス活性値は2.8という有効値を得る事が出来ている。
【0037】
両スリット糸から溶出する銀イオンは陽イオンであるから、錯体陰イオン化した銀イオンよりもリン酸脂質からなるエンベロップウイルスの脂質膜を壊すには、上記抗ウイルス活性値を参考にすると錯体銀陰イオンより高い濃度の銀陽イオンが必要になる。
【0038】
そこで、抗ウイルス機能のある生地及び繊維製品を得るためには主原料との重量比で、抗菌防臭機能に足りる銀スリット糸の主原料糸との重量比より高い混率が求められることになる。ただ、上記のように銀陰イオンによるガーゼ生地の抗ウイルス活性値は2.8であり、抗ウイルス試験に於ける抗ウイルス活性値は2.0以上なので、本発明に記載の銀2層或は銀1層スリット糸の混率は該スリット糸より溶出する銀陽イオン量と、参考になる銀陰イオン量との兼ね合いを目安に純粋な両スリット糸の主原料糸との混率を決めれば良い事になる。
【0039】
非特許文献に挙げた京都繊維工芸大学との共同研究によれば、孔が設けられていない0.15mm幅でフィルム厚が9ミクロンの銀2層スリット糸1gからpH=6.1程度の中性域では200mlの水に1時間で溶解する銀陽イオンは約18ppbであった。抗ウイルス試験で試験試料生地に滴下されるウイルス混濁液は0.2mlであり、試験試料生地は0.4g取り出される。試験試料に於ける重量比で10%の銀2層スリット糸の撚糸相手がポリエスエル20d/2本とすると、当該撚糸相手であるポリエステル糸2本の重量は0.02g強であり、純粋な銀2層スリット糸は0.02g弱となる。なお、両試験ではウイルス液を添加後に振とうされるので、振とうのないよりは銀イオン溶出量は増える。
詰まり純粋な銀2層スリット糸が主原料との重量比で5%以上あれば、試験試料生地に含まれる銀2層スリット糸から溶出する銀陽イオンは少なくとも360ppb弱となり、銀2層スリット糸からは抗ウイルス試験の実施時間が2時間であり実験開始時に振とうされるので、溶出する銀陽イオンは凡そではあるが360ppbよりは増える事となる。
【0040】
上記の大まかな計算から、主原料の重量の5%以上の純粋な銀2層スリット糸が均等に分散された混率の生地があれば、抗ウイルス性のある生地を得ることが出来て、該生地を使用した、或は銀2層スリット糸を適度な混率で使用した繊維製品は抗ウイルス性があるという事になる。
【0041】
銀1層スリット糸、及び銀2層スリット糸は撚糸しなければ強度が足りず、織物・編物といった生地には直接使用する事は決して好ましくない事は前述したが、溶出する銀イオンによるメカニズムで機能を発現させる場合には、撚糸相手となる当該スリット糸以外の糸との重量比率を慎重に見極め、純粋な銀2層スリット糸、或は銀1スリット糸の混率を定めなければならない。
【実施例0042】
ここで本発明の詳細を説明するために実施例を挙げる。以下に述べる実施例により本発明に限定を受けるものではない事を申し添える。又、以下の各実施例は、特許文献1に記載されている、本発明とは違う、孔を設けていない銀2層、或は銀1層のスリット糸を使用したものであり、本発明に記載の銀2層、或は銀1層スリット糸を使用すれば、各実施例に記載の両スリット糸よりも低い混率で本発明に記載の機能は、主にスリット糸から露出している純銀が除電機能以外の機能の源であるkあら、実施できる事明らかである。
【0043】
また、ここに挙げる実施例1は絹織物に関するので、当該業界の慣例である糸の呼称や撚糸の呼称を使用して説明をする。なお、糸の太さや経糸・緯糸の本数は他の素材による織物・編物の慣例に沿って繊度(糸の太さ)も含め以後の記述を行う事とする。
【0044】
先ず実施した絹織物於ける経糸の構成は以下の通りであり、当該絹織物は所謂紋織りであった。
31デニールの絹糸2本を撚り合わせ、62デニールとした糸を経糸として94本/1cmに配置した。
緯糸は3通りの糸を次の通り準備して紋織りの絹織物を製造した。緯糸は理論上は多重に経糸と絡むことに思えるが後述するように綺麗な紋織生地を得る事ができた。
エヌキ糸1:21デニールの絹糸を8本撚り合わせて168デニールのあわせ諸撚糸とした。
エヌキ糸2:21デニールの絹糸8本と、ポリエステル9μフィルム2枚の銀一層スリット糸(純銀層の厚みは60nm)、スリット幅0.15mmの糸とポリエステル糸20デニール2本で該スリット糸とS撚り・Z撚りした糸を250回/mあたり撚り合わせて、あわせ諸撚糸として、エヌキ糸1を7本にエヌキ糸2を1本の割合で織込んだ。
地ヌキ糸:27デニールの絹糸を8本撚り合わせ216デニールとして駒八丁撚糸を38本/1cm織込んで、絹糸は総じて紺色に先染めされていたので所々銀色に輝く紋織絹織物を得た。
なお、絹織物織機による紋織物の特徴ではあるが、緯糸は別段2重構造になっているようには見えず、紋織独特の生地表裏に見える柄や織込まれた銀糸の見え方も違っていた。
本実施例に使用した純粋なスリット糸の混率は生地全体重量の3%であった。
上記のように得た銀1層スリット糸撚糸を含んだ、実施例1の記載の紋織絹織物を(一財)カケンテストセンターに於いて、JIS-L-1094による静電気除電試験と、(一社)繊維評価技術評議会の定める検知管法による消臭試験を実施したので、そのデータを以下に記載する。
横編機でプレーティング編を以下の要領で製造した。プレーティング編とは1度に表側と裏側に違う編状態を製造できる編み方である。因みにプレーティング編は靴下製造の際にも使われる編み方である。
先ず、編生地の混率の高い方を主原料と考え、綿糸の一種であるコンパクトツイスト綿糸100番手を2本撚り主原料として表層にした。尚、当該100番手双糸は通常の綿糸60番手の双糸に該当する。
9ミクロンのポリエステルフィルムを基材フィルムとし、銀層の厚みは30nmの銀2層スリット糸をスリット幅0.15mmとして得て、ポリエステル20デニールの糸2本の1本をS撚り、他の1本をZ撚りして銀2層スリット糸の撚糸を得てプレーティング編を行い、片側には該綿糸が、もう一方には銀2層スリット糸の撚糸が表裏を構成している横編生地を得た。
本実施例の純粋なスリット糸の混率は生地総重量の5%であった。