(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070326
(43)【公開日】2022-05-13
(54)【発明の名称】内腔の微小変形の検査方法および検査装置
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20220506BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20220506BHJP
【FI】
A61B10/00 M
G06T7/00 616
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020179336
(22)【出願日】2020-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100163212
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156535
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】小味 昌憲
(72)【発明者】
【氏名】七島 篤志
(72)【発明者】
【氏名】平井 俊範
(72)【発明者】
【氏名】圓崎 将大
(72)【発明者】
【氏名】今村 直哉
【テーマコード(参考)】
5L096
【Fターム(参考)】
5L096AA06
5L096AA09
5L096BA06
5L096BA13
5L096DA02
5L096FA23
5L096HA02
5L096HA09
(57)【要約】
【課題】脈管構造の撮像情報から精度よく疾病の診断を行うことができる内腔の微小変形の検査方法および検査装置を提供する。
【解決手段】撮像情報から脈管構造の内腔の変動データを取得するステップS01~S03と、前記変動データに対してフーリエ解析を用いた数理処理を行うステップS04~S06と、前記数理処理により得られる内腔の内表面の微小変形量と基準量を比較するステップS07と、前記比較の結果により疾病を特定するステップS08と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像情報から脈管構造の内腔の変動データを取得するステップと、
前記変動データに対してフーリエ解析を用いた数理処理を行うステップと、
前記数理処理により得られる内腔の内表面の微小変形量と基準量を比較するステップと、
前記比較の結果により疾病を特定するステップと、を有することを特徴とする内腔の微小変形の検査方法。
【請求項2】
前記脈管構造は、胆管であることを特徴とする請求項1に記載の内腔の微小変形の検査方法。
【請求項3】
前記脈管構造は、総胆管であることを特徴とする請求項1に記載の内腔の微小変形の検査方法。
【請求項4】
前記変動データは、前記脈管構造の平均内径のデータであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の内腔の微小変形の検査方法。
【請求項5】
前記微小変形量は、前記数理処理により得られるパワースペクトル密度関数を周波数区間で積分したパワースペクトル密度関数積分値であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の内腔の微小変形の検査方法。
【請求項6】
撮像情報から脈管構造の内腔の変動データを取得する前処理部と、
前記変動データに対してフーリエ解析を用いた数理処理を行う数理処理部と、
前記数理処理により得られる内腔の内表面の微小変形量と基準量を比較する比較処理部と、
前記比較処理により得られた結果により疾病を特定する特定処理部と、を有することを特徴とする内腔の微小変形の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内における脈管構造の撮像情報から疾病の診断を行うための内腔の微小変形の検査方法および検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内における脈管構造としては、例えば血管、気管、消化器を構成する胆管等が挙げられる。これらの脈管構造は非常に細く、病変により内腔が変形すると狭窄を起こしやすいため、各種疾病の原因となることが知られている。
【0003】
従来、このような脈管構造における疾病の診断や進行度の評価は、MRIやCTによって得られた脈管構造の撮像画像を基に内腔の変形を目視確認する画像診断により行われている。
【0004】
目視確認による画像診断を補助する技術として、例えば、特許文献1に示されるMRI画像表示方式は、MRIによる絶対値像と実数値像の特性を利用し、撮像画像の全体領域を絶対値像で表示し、詳細な情報を得たい病巣領域等の指定領域のみを実数値像で表示する二段階表示を行うことにより、画像診断の効率を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62-037780号公報(第2頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような画像診断においては、撮像画像から目視確認できる内腔の変形に基づいて医師の判断により疾病の診断や進行度の評価が行われるため、診断精度が医師の知識や経験に依存してしまい、疾病の見落としや誤診断が発生する虞があった。
【0007】
発明者らは、脈管構造の撮像情報に対して所定の解析を行い内腔の微小変形を数値化することにより、特定の疾病を客観的に診断するための指標として有意差が認められることを見出した。さらに、この指標を用いた診断を従前の目視確認による画像診断を併用することで診断の精度向上に寄与できることが判明した。
【0008】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、脈管構造の撮像情報から精度よく疾病の診断を行うことができる内腔の微小変形の検査方法および検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明の内腔の微小変形の検査方法は、
撮像情報から脈管構造の内腔の変動データを取得するステップと、
前記変動データに対してフーリエ解析を用いた数理処理を行うステップと、
前記数理処理により得られる内腔の内表面の微小変形量と基準量を比較するステップと、
前記比較の結果により疾病を特定するステップと、を有することを特徴としている。
この特徴によれば、撮像情報から得られた脈管構造の内腔の変動データに対してフーリエ解析を用いた数理処理を行うことにより、内腔の内表面の微小変形を数値化することができるため、精度よく疾病の診断を行うことができる。
【0010】
前記脈管構造は、胆管であることを特徴としている。
この特徴によれば、胆管は心拍の影響を受けず、内腔の内表面の微小変形を正確に数値化することができるため、精度よく疾病の診断を行うことができる。
【0011】
前記脈管構造は、総胆管であることを特徴としている。
この特徴によれば、総胆管の内腔の内表面の微小変形量は胆管における複数の疾病をそれぞれ特徴的に反映するという知見が得られたため、この知見を利用することでより精度よく疾病の診断を行うことができる。
【0012】
前記変動データは、前記脈管構造の平均内径のデータであることを特徴としている。
この特徴によれば、脈管構造を表すパラメータの内、平均内径は疾病を特徴的に反映するという知見が得られたため、この知見を利用しフーリエ解析を用いた数理処理によって内腔の内表面の微小変形をより正確に数値化することができる。
【0013】
前記微小変形量は、前記数理処理により得られるパワースペクトル密度関数を周波数区間で積分したパワースペクトル密度関数積分値であることを特徴としている。
この特徴によれば、フーリエ解析を利用した数理処理の内、パワースペクトル密度関数積分値は疾病を特徴的に反映するという知見が得られたため、この知見を利用し内腔の内表面の微小変形をより正確に数値化することができる。
【0014】
本発明の内腔の微小変形の検査装置は、
撮像情報から脈管構造の内腔の変動データを取得する前処理部と、
前記変動データに対してフーリエ解析を用いた数理処理を行う数理処理部と、
前記数理処理により得られる内腔の内表面の微小変形量と基準量を比較する比較処理部と、
前記比較処理により得られた結果により疾病を特定する特定処理部と、を有することを特徴としている。
この特徴によれば、撮像情報から得られた脈管構造の内腔の変動データに対してフーリエ解析を用いた数理処理を行うことにより、内腔の内表面の微小変形を数値化することができるため、精度よく疾病の診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例における検査装置の構成を示す図である。
【
図2】実施例における検査方法の手順を示す図である。
【
図3】実施例における胆管の3次元画像データを示す図である。尚、
図3の紙面右側には、1目盛り10mmのスケールバー(計7目盛り)が示されている。
【
図4】
図3において線で示される胆管の指定範囲における内腔のストレートCPRおよびその長軸に垂直な断面の平均内径の変動データを示す図である。尚、
図4において平均内径を示す縦軸は、紙面下側から0.0~5.0mmの範囲で1.0mm毎に計6目盛りが示されており、指定範囲方向の長さを示す横軸は、紙面左側から0~100mmの範囲で50mm毎に計3目盛りが示されている。
【
図5】
図4のストレートCPRの長軸に垂直な断面を示す図である。尚、
図5の紙面右側には、1目盛り1mmのスケールバー(計9目盛り)が示されている。
【
図6】
図4の変動データを離散フーリエ解析して得られるパワースペクトル密度関数を示す図である。
【
図7】パワースペクトル密度関数を周波数区間で積分して得られるパワースペクトル密度関数積分値を基に導かれた胆管の疾病の種類や進行度に対応する基準量としての統計データを示す図である。
【
図8】パワースペクトル密度関数の傾きによる解析の結果を示す図である。
【
図9】変動データの離散フーリエ変換による位相解析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明者らは、MRIやCTにより得られた生体内の脈管構造の撮像情報としての3次元画像データから取得した内腔の変動データに対してフーリエ解析を用いた数理処理を行い、これにより得られた内腔の内表面の微小変形量が特定の疾病の診断に利用できるとの知見を得た。研究の結果から、特に胆管における疾病の診断に有意性が確認できたことから、先ず従来の胆管における疾病の診断方法について説明する。
【0017】
胆管は、肝臓から十二指腸まで延び胆汁が通る管腔臓器であり、胆のうから延びる胆のう管や膵臓から延びる膵管が合流している。胆管の内部には、胆汁が常に停滞しており、通常は生理的な要因により胆管から十二指腸内へゆっくりと移動していく。膵管と胆管が十二指腸壁外で合流する先天性の疾病である膵胆管合流異常症では、胆汁が胆管を逆流することがあり、この逆流による内腔の慢性的傷害により将来のがん化を招く虞があることから、膵胆管合流異常症に見られる胆管の拡張を基に胆管の疾病の診断や進行度の評価が行われる。
【0018】
従来、胆管の疾病の診断や進行度の評価は、MRIやCTにより得られた胆管の3次元画像データに対する医師の目視確認による画像診断だけでなく、この3次元画像データを利用して、胆のう管との合流部分から十二指腸までを結ぶ総胆管における内腔の最大径(内径)を基に拡張の有無を確認することにより行われる。尚、総胆管の内径は、通常3~7mmであり、一般的な診断では7mm以上は拡張疑い、11mm以上は明らかな拡張として評価される。しかしながら、総胆管では、胆のうが摘出されている場合や加齢等の様々な要因によって疾病がなくても拡張が生じることが知られており、総胆管の最大径による拡張の評価だけで胆管の疾病の診断や進行度の評価を行うことは難しかった。
【0019】
本発明は、総胆管の最大径によらず、胆管の3次元画像データから取得した内腔の変動データに対してフーリエ解析を用いた数理処理を行い、内腔の微小変形を数値化することにより、精度よく胆管の疾病の診断や進行度の評価を行うものである。
【0020】
本発明に係る内腔の微小変形の検査方法および検査装置を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例0021】
(検査装置)
図1に示されるように、本実施例における内腔の微小変形の検査装置1は、MRIやCTにより得られた胆管の3次元画像データ(
図3参照)を図示しない撮像機器から取得する情報取得部2と、情報取得部2から受け取った脈管構造の3次元画像データを基に内腔の変動データを取得する前処理部3と、当該変動データに対してフーリエ解析を用いた数理処理を行う数理処理部4と、数理処理により得られる内腔の内表面の微小変形量と基準量(
図7参照)を比較する比較処理部5と、比較処理部5により得られた結果から疾病を特定する特定処理部6と、から主に構成されている。
【0022】
詳しくは、前処理部3は、胆管の3次元画像データから指定範囲(
図3の線L参照)における胆管の内腔のストレートCPR(Curved Planar Reconstruction)(
図4の下図参照)を生成するストレートCPR生成部30と、ストレートCPRの長軸に垂直な断面(
図5参照)の平均内径の変動データ(
図4の上図参照)を生成する変動データ生成部31を有している。
【0023】
尚、ストレートCPRとは、管腔部位の再構成画像による2次元展開図であり、3次元画像データにおいて屈曲する指定範囲(
図3の線L参照)を直線状に補正したものである。ここで、
図3の線Lは総胆管の範囲である。また、本実施例においては、変動データを折れ線グラフにより示している(
図4の上図参照)。また、
図4の変動データは胆管の平均内径を示しており、横軸は指定範囲方向の長さ、縦軸は平均内径である。
【0024】
数理処理部4は、変動データを離散フーリエ変換するフーリエ解析部40と、離散フーリエ変換された変動データから変動のパワースペクトル密度関数(PSD関数,
図6参照)を算出するPSD関数算出部41と、パワースペクトル密度関数を周波数区間で積分しパワースペクトル密度関数積分値(PSD関数積分値)を算出するPSD関数積分値算出部42を有している。
【0025】
尚、パワースペクトル密度関数積分値は、脈管構造の内腔の内表面の微小変形を示す数値であり、その値が大きいほど内腔の変形度のパワーが大きいこととなる。
【0026】
比較処理部5は、比較処理に用いる基準量としての統計データ(
図7参照)が記憶される記憶部7と接続されている。基準量としての統計データ(
図7参照)は、予め多数のサンプルを用いて、胆管の疾病の種類や進行度に対応するパワースペクトル密度関数積分値を求めたものである。
【0027】
尚、
図7に示されるように、本実施例における基準量としての統計データは、約50例の胆管の3次元画像データから得られた平均内径の変動データを基にパワースペクトル密度関数積分値をそれぞれ算出し、横軸項目に記載された6つの疾患群(総胆管正常、膵胆管合流異常(拡張なし)、膵胆管合流異常(拡張あり)、胆管がん早期、肝門部胆管がん(浸潤)、遠位胆管がん(浸潤))に分けて、各群のデータ分布を統計的にまとめたものである。
【0028】
特定処理部6は、表示部8に接続されるとともに、比較処理部5を介して記憶部7と接続されている。
【0029】
(検査方法)
次に、本実施例における検査装置1を用いた内腔の微小変形の検査方法について
図2のフローチャートを用いて説明する。先ず、情報取得部2が図示しない撮像機器から胆管の3次元画像データを取得(ステップS01)すると、前処理部3を構成するストレートCPR生成部30により胆管の3次元画像データから指定範囲における内腔のストレートCPRの生成(ステップS02)が行われ、さらに変動データ生成部31によりストレートCPRの長軸に垂直な断面の平均内径の変動データの生成(ステップS03)が行われる。
【0030】
次いで、数理処理部4を構成するフーリエ解析部40によりステップS03で得られた変動データに対して離散フーリエ変換(ステップS04)が行われ、PSD関数算出部41により離散フーリエ変換された変動データから変動のパワースペクトル密度関数の算出(ステップS05)が行われ、さらにPSD関数積分値算出部42によりパワースペクトル密度関数を周波数区間で積分しパワースペクトル密度関数積分値の算出(ステップS06)が行われる。
【0031】
次いで、比較処理部5によりステップS06で得られたパワースペクトル密度関数積分値と記憶部7から取得した基準量との比較(ステップS07)が行われ、特定処理部6により比較処理の結果から胆管の疾病の特定(ステップS08)が行われる。
【0032】
尚、ステップS08における胆管の疾病の特定については、
図7において矩形で表される範囲の基準量に基づくと、パワースペクトル密度関数積分値が15~45mm
2の範囲であれば総胆管正常、15~160mm
2の範囲であれば膵胆管合流異常(拡張なし)、160~770mm
2の範囲であれば膵胆管合流異常(拡張あり)、140~710mm
2の範囲であれば胆管がん早期、85~370mm
2の範囲であれば肝門部胆管がん(浸潤)、345~650mm
2の範囲であれば遠位胆管がん(浸潤)の疑いがあると特定される。すなわち、ステップS06で得られたパワースペクトル密度関数積分値が例えば170mm
2の場合は、膵胆管合流異常(拡張あり)、胆管がん早期、肝門部胆管がん(浸潤)のいずれかの疑いがあると特定され、400mm
2の場合は、膵胆管合流異常(拡張あり)、胆管がん早期、遠位胆管がん(浸潤)のいずれかの疑いがあると特定される。
【0033】
また、
図7に示される矩形の上下の髭で示される範囲を第2基準量として、第2基準量の範囲にあるものを、各疾病について要注意の対象として特定するようにしてもよい。
【0034】
ステップS08で特定された胆管の疾病の種類や進行度の評価は、表示部8に表示されることにより、医師の診断に利用される。
【0035】
尚、特定処理部6は、医師による最終的な診断が行われた後、その診断情報をステップS06で得られたパワースペクトル密度関数積分値に紐付けて記憶部7に記憶・学習させることにより、基準値の精度を向上させるようになっていてもよい。
【0036】
このように、MRIやCTにより得られた胆管の3次元画像データから得られる変動データに対してフーリエ解析を用いた数理処理を行うことにより、内腔の内表面の微小変形を数値化することができるため、総胆管の最大径によらず精度よく疾病の診断を行うことができる。
【0037】
また、本発明の内腔の微小変形の検査方法は、胆管の疾病の診断に用いられることにより、血管等の他の脈管構造と比べて心拍の影響を受けず、内腔の内表面の微小変形を正確に数値化することができるため、精度よく疾病の診断を行うことができる。
【0038】
さらに、胆管の3次元画像データから総胆管を指定範囲(
図3の線L参照)として検査を行うことにより、総胆管の内腔の内表面の微小変形量は胆管における複数の疾病をそれぞれ特徴的に反映することが発明者らの実験によって確認された。また、総胆管を指定範囲とした検査により、肝門部領域に発生した肝門部胆管がんについても特定することができる(
図7参照)。これによれば、本発明の内腔の微小変形の検査方法は、指定範囲以外に発生した疾病に関しても指定範囲の内腔の内表面に影響を与えるものであれば特定することができる。
【0039】
また、胆管の3次元画像データから生成したストレートCPRの長軸に垂直な断面の平均内径のデータを変動データとして使用することにより、ストレートCPRの長軸に垂直な断面における断面積、長径、短径、周囲長、信号強度等の他のパラメータを使用した場合と比べてフーリエ解析を用いた数理処理によって内腔の内表面の微小変形をより正確に数値化できることが発明者らの実験によって確認された。尚、信号強度とは、ストレートCPR(
図4の下図参照)における白色の強度、すなわち輝度のことである。
【0040】
また、フーリエ変換処理を利用した数理処理の内、パワースペクトル密度関数の傾き(
図8)等よりも、パワースペクトル密度関数積分値を使用することにより、内腔の内表面の微小変形をより正確に数値化できることが発明者らの実験によって確認された。尚、内腔の内表面の微小変形量を表すものとして、パワースペクトル密度関数積分値以外にも、パワースペクトル密度関数の傾き(
図8参照)や変動データの離散フーリエ変換による位相解析(
図9参照)の結果を使用してもよいことは言うまでもない。
【0041】
また、数理処理により得られる内腔の内表面の微小変形量は、視覚化される必要はなく、少なくとも数値として得られるものであればよい。
【0042】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0043】
例えば、前記実施例では、胆管の3次元画像データとして最大値投影法(Maximum Intensity Projection:MIP)により得られたもの(
図3参照)を使用したが、これに限らず、3次元画像データは平均値投影法、多断面再構成法またはヴォリュームレンダリング法により得られたものであってもよい。
【0044】
また、前記実施例では、総胆管を指定範囲とした態様について説明したが、これに限らず、例えば総胆管を中部胆管、下部胆管、十二指腸乳頭部に区分して指定範囲を設定し、それぞれの指定範囲に対して同様の検査を行ってもよい。また、総胆管に合流する胆のう管や膵管との合流部分で区分してもよく、例えば、総胆管と膵管との合流部分で区切ることにより、膵胆管合流異常症の検査に特化させてもよい。尚、このように、指定範囲を絞ることにより、内腔の内表面の微小変化をより正確に捉えることができるとともに、凹凸の大きさや位置についても特定できるものと推測される。
【0045】
また前記実施例では、本発明に係る内腔の微小変形の検出方法および検出装置を胆管の診断に使用する態様について説明したが、これに限らず、例えば動脈硬化症や気管支狭窄のような内腔の径の変化が疾病に繋がる可能性がある他の脈管構造にも応用可能である。