(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070375
(43)【公開日】2022-05-13
(54)【発明の名称】雰囲気調整剤及び雰囲気調整剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/04 20060101AFI20220506BHJP
C01B 32/30 20170101ALI20220506BHJP
C01B 32/50 20170101ALI20220506BHJP
B01J 23/745 20060101ALI20220506BHJP
B01J 20/22 20060101ALI20220506BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
C12N1/04
C01B32/30
C01B32/50
B01J23/745 M
B01J20/22 A
B01J20/30
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020179401
(22)【出願日】2020-10-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000231970
【氏名又は名称】パウダーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】菊地 悠矢
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 智之
【テーマコード(参考)】
4B065
4G066
4G146
4G169
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065BC12
4B065BC41
4B065BD23
4B065BD27
4G066AA05D
4G066AA14D
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4G066AA47D
4G066AA61C
4G066AB05B
4G066AB06B
4G066BA20
4G066BA23
4G066BA25
4G066BA26
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA37
4G066DA03
4G066FA02
4G066FA37
4G146AA06
4G146AB01
4G146AC02A
4G146AC02B
4G146AC04A
4G146AC04B
4G146AC27A
4G146AC27B
4G146AD11
4G146CB19
4G146CB20
4G146CB32
4G146CB34
4G146JA02
4G146JC05
4G146JD02
4G169AA03
4G169BA08C
4G169BB10A
4G169BB10B
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BD02A
4G169BD02B
4G169BD08A
4G169BD08B
(57)【要約】
【課題】本件発明の課題は、反応性が高く、且つ、高価な製造設備等を用いずとも製造過程における雰囲気調整能の低下を抑制することができる雰囲気調整剤及び雰囲気調整剤の製造方法を提供することにある。
【解決手段】上記課題を解決するために、主剤と、アルカリ剤と、水と、担持体と、活性炭とを含み、主剤がアスコルビン酸類であり、アルカリ剤と、水と、担持体と、活性炭とを含む主剤以外の構成成分からなる混合物と、固体の状態の主剤とを含み、主剤の水に対する溶解度に応じて主剤量が所定値とされることを特徴とする雰囲気調整剤とする。また、当該雰囲気調整剤を製造する際には、アスコルビン酸類を水に溶解させる工程を含まないものとする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主剤と、アルカリ剤と、水と、担持体と、活性炭とを含む雰囲気調整剤であって、
前記主剤がアスコルビン酸類であり、
前記主剤の水に対する溶解度をa(g/100g-H2O)(25℃)、当該雰囲気調整剤に含まれる主剤量をx(g)、全水分量をb(g)としたとき、以下の関係式(1)を満たし、
前記アルカリ剤、前記水、前記担持体及び前記活性炭を含む前記主剤以外の構成成分からなる混合物と、固体の状態の前記主剤とを含むことを特徴とする雰囲気調整剤。
1.3< x/((a/100)×b)≦ 25.0・・・(1)
【請求項2】
前記活性炭は、当該雰囲気調整剤に含まれる全水分量の40質量%以上95質量%以下を含浸水として含む平均体積粒径が0.1mm未満の含水活性炭である請求項1に記載の雰囲気調整剤。
【請求項3】
前記含水活性炭の含浸水量は、当該含水活性炭100質量部に対して45質量部以上である請求項2に記載の雰囲気調整剤。
【請求項4】
前記含水活性炭から前記含浸水を除いた活性炭成分を、前記主剤100質量部に対して、125質量部以下含む請求項2又は請求項3に記載の雰囲気調整剤。
【請求項5】
前記活性炭のt-plot法マイクロ孔容積が0.3cm3/g以上である請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の雰囲気調整剤。
【請求項6】
前記活性炭の水銀圧入法によるモード細孔直径(測定範囲0.04~9.0μm)が0.050μm以上である請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の雰囲気調整剤。
【請求項7】
前記主剤100質量部に対して、当該雰囲気調整剤に含まれる全水分量が20質量部以上150質量部以下である請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の雰囲気調整剤。
【請求項8】
前記主剤100質量部に対して、前記アルカリ剤として炭酸カリウムを35質量部以上150質量部以下含む請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の雰囲気調整剤。
【請求項9】
前記主剤100質量部に対して、反応触媒として硫酸第一鉄七水和物を30質量部以上250質量部以下の範囲で含む請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の雰囲気調整剤。
【請求項10】
主剤と、アルカリ剤と、水と、担持体と、活性炭とを含む雰囲気調整剤の製造方法であって、
前記主剤がアスコルビン酸類であり、且つ、前記主剤を前記水に溶解する工程を含まず、
前記アルカリ剤、前記水、前記担持体及び前記活性炭を含む前記主剤以外の構成成分からなる混合物を得る工程と、
前記混合物に前記主剤を固体の状態で加える工程と、
を含むことを特徴とする雰囲気調整剤の製造方法。
【請求項11】
前記主剤の水に対する溶解度をa(g/100g-H2O)(25℃)、当該雰囲気調整剤に含まれる主剤量をx(g)、全水分量をb(g)としたとき、以下の関係式(1)を満たすように、前記主剤及び前記水の配合量を決定する請求項10に記載の雰囲気調整剤の製造方法。
1.3< x/((a/100)×b)≦ 25.0・・・(1)
【請求項12】
前記活性炭に対して、当該雰囲気調整剤に含まれる全水分量の40質量%以上95質量%以下を予め含浸させておき、この含浸水を含む活性炭を用いて前記混合物を得る請求項10又は請求項11に記載の雰囲気調整剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雰囲気調整剤及びその製造方法に関し、詳しくは、反応性が高く、且つ製造工程での劣化を抑制することのできる雰囲気調整剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界には様々な生物が存在しており、その中には酸素が存在しない雰囲気で生育する嫌気性微生物や、酸素が大気雰囲気よりも低い濃度で生育する微好気性微生物などが存在する。研究機関等において、これら微生物を培養する場合には、生育雰囲気中の酸素や炭酸ガスなどの濃度を培養に適した濃度にコントロールする必要がある。また、バイオテクノロジー分野などにおいて細胞を培養する場合も、培養雰囲気中の酸素や炭酸ガス濃度を必要に応じて調整しなければならない。そのような際の手軽な雰囲気調整方法として、アスコルビン酸類を雰囲気中の酸素と反応させて、雰囲気中の酸素を除去し、これと同時に炭酸ガスを放出する雰囲気調整剤を用いることが行われている(特許文献1、特許文献2及び特許文献3参照)。
【0003】
これらの雰囲気調整剤ではアスコルビン酸類の水溶液を調整し、これを多孔質担体である活性炭に含浸させることで、アスコルビン酸類の酸化反応に必要な水分をアスコルビン酸類の水溶液から供給しつつ、アスコルビン酸類と酸素とを接触させてアスコルビン酸類の酸化反応を進行させるものとしている。
【0004】
ところで、従来より、食品等の保管用途で用いられる脱酸素剤においても、アスコルビン酸類の酸化反応を利用して食品等の保管雰囲気を無酸素状態に維持することが行われてきた。しかしながら、このような従来の脱酸素剤と比較すると、細菌や細胞を培養する際に用いる雰囲気調整剤では遙かに短時間で培養雰囲気を所望の酸素濃度及び濃度に調整しなければならない。特に、嫌気性培養雰囲気を調整するには雰囲気中の酸素を速やかに吸収する必要がある。そこで、特許文献1~特許文献3では、飽和濃度に近い高濃度のアスコルビン酸類の水溶液を比表面積の大きな粒状の活性炭に含浸させることで、アスコルビン酸類と酸素との接触面積を広く確保し、反応初期における二酸化炭素発生量が大きく、短時間で所望の培養雰囲気を調整することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5682831号公報
【特許文献2】特許第5714790号公報
【特許文献3】特許第6593564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1~特許文献3に開示の雰囲気調整剤は初期における反応性が高いため、製造過程においてもアスコルビン酸類の水溶液が酸素と接触すると酸化反応が進行し、雰囲気調整能が低下してしまう。それを防ぐには、製造時の各工程を窒素雰囲気に保つための大がかりな製造設備が必要になる。
【0007】
そこで、本件発明の課題は、反応性が高く、且つ、高価な製造設備等を用いずとも製造過程における雰囲気調整能の低下を抑制することができる雰囲気調整剤及び雰囲気調整剤の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本件発明に係る雰囲気調整剤は、主剤と、アルカリ剤と、水と、担持体と、活性炭とを含む雰囲気調整剤であって、前記主剤がアスコルビン酸類であり、前記主剤の水に対する溶解度をa(g/100g-H2O)(25℃)、当該雰囲気調整剤に含まれる主剤量をx(g)、全水分量をb(g)としたとき、以下の関係式(1)を満たし、前記アルカリ剤、前記水、前記担持体及び前記活性炭を含む前記主剤以外の構成成分からなる混合物と、固体の状態の前記主剤とを含むことを特徴とする。
1.3< x/((a/100)×b)≦ 25.0・・・(1)
【0009】
本件発明に係る雰囲気調整剤において、前記活性炭は、当該雰囲気調整剤に含まれる全水分量の40質量%以上95質量%以下を含浸水として含む平均体積粒径が0.1mm未満の含水活性炭であることが好ましい。
【0010】
本件発明に係る雰囲気調整剤において、前記含水活性炭の含水量は、当該含水活性炭100質量部に対して45質量部以上であることが好ましい。
【0011】
本件発明に係る雰囲気調整剤において、前記含水活性炭から前記含浸水を除いた活性炭成分を、前記主剤100質量部に対して、125質量部以下含むことが好ましい。
【0012】
本件発明に係る雰囲気調整剤において、前記活性炭のt-plot法マイクロ孔容積が0.3cm3/g以上であることが好ましい。
【0013】
本件発明に係る雰囲気調整剤において、前記活性炭の水銀圧入法によるモード細孔直径(測定範囲0.04~9.0μm)が0.050μm以上であることが好ましい。
【0014】
本件発明に係る雰囲気調整剤において、前記主剤100質量部に対して、当該雰囲気調整剤に含まれる全水分量が20質量部以上150質量部以下であることが好ましい。
【0015】
本件発明に係る雰囲気調整剤において、前記主剤100質量部に対して、前記アルカリ剤として炭酸カリウムを35質量部以上150質量部以下含むことが好ましい。
【0016】
本件発明に係る雰囲気調整剤において、前記主剤100質量部に対して、反応触媒として硫酸第一鉄七水和物を30質量部以上250質量部以下の範囲で含むことが好ましい。
【0017】
上記課題を解決するために、本件発明に係る雰囲気調整剤の製造方法は、主剤と、アルカリ剤と、水と、担持体と、活性炭とを含む雰囲気調整剤の製造方法であって、前記主剤がアスコルビン酸類であり、且つ、前記主剤を前記水に溶解する工程を含まず、前記アルカリ剤、前記水、前記担持体及び前記活性炭を含む前記主剤以外の構成成分からなる混合物を得る工程と、前記混合物に前記主剤を固体の状態で加える工程と、を含むことを特徴とする。
【0018】
本件発明に係る雰囲気調整剤の製造方法において、前記主剤の水に対する溶解度をa(g/100g-H2O)(25℃)、当該雰囲気調整剤に含まれる主剤量をx(g)、全水分量をb(g)としたとき、以下の関係式(1)を満たすように、前記主剤及び前記水の配合量を決定することが好ましい。
1.3< x/((a/100)×b)≦ 25.0・・・(1)
【0019】
本件発明に係る雰囲気調整剤の製造方法において、前記活性炭に対して、当該雰囲気調整剤に含まれる全水分量の40質量%以上95質量%以下を予め含浸させておき、この含浸水を含む活性炭を用いて前記混合物を得ることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本件発明によれば、反応性が高く、且つ、高価な製造設備等を用いずとも製造過程における雰囲気調整能の低下を抑制することができる雰囲気調整剤及び雰囲気調整剤の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本件発明に係る雰囲気調整剤の好ましい実施の形態を説明する。
【0022】
1.雰囲気調整剤
本件発明に係る雰囲気調整剤は、主剤と、アルカリ剤と、水と、担持体と、活性炭とを含み、主剤がアスコルビン酸類であり、主剤の水に対する溶解度をa(g/100g-H2O)(25℃)、当該雰囲気調整剤に含まれる主剤量をx(g)、全水分量をb(g)としたとき、以下の関係式(1)を満たし、主剤以外の構成成分からなる混合物と、固体の状態の主剤とを含むことを特徴とする。
1.3< x/((a/100)×b)≦ 25.0・・・(1)
【0023】
当該雰囲気調整剤は主剤であるアスコルビン酸類の酸化反応を利用して、雰囲気中の酸素を吸収し、二酸化炭素を放出することにより、培養雰囲気の酸素濃度及び二酸化炭素濃度を調整する。アスコルビン酸類の酸化反応は水(液相)を反応場として塩基性条件下で行われる。従って、水は必須の構成成分である。従来の雰囲気調整剤では、主剤を水溶液として担持体に含浸させる形態が採用されているのに対し、本件発明では主剤以外の成分からなる混合物と固体の状態の主剤とを含む形態を採用する。従来の雰囲気調整剤では製造時にアスコルビン酸類の水溶液を調整する工程を要するため、製造工程を窒素雰囲気に保つ等アスコルビン酸類の水溶液と酸素との接触を抑制しなければ、アスコルビン酸類の酸化反応が進行し、雰囲気調整能が低下するおそれがある。また、アスコルビン酸類の水溶液を調製する際に飽和濃度に近い高濃度の水溶液を調製しなければ、雰囲気調整剤中の主剤配合量が低下し、反応性の高い雰囲気調整剤を得ることが困難になる。
【0024】
これに対して、本件発明では、上記式(1)を満たすように主剤を配合し、主剤以外の成分からなる混合物と、固体の状態の主剤とを含む形態を採用している。すなわち、本件発明に係る雰囲気調整剤では、主剤を水に対して溶解させるのではなく、溶解度を超えた量の主剤を固体で含むことで、水含有量に対して主剤含有量を多くすることができる。また、当該雰囲気調整剤では、後述するように、例えば、活性炭に予め水を含浸させておき、雰囲気調整剤が使用される際にはその含浸水を利用してアスコルビン酸類の酸化反応を進行させることができる。これらのことから、反応性の高い雰囲気調整剤を得ることができる。その一方、当該雰囲気調整剤では、製造時におけるアスコルビン酸類の水溶液を調整する工程を不要とすることができる。つまり、製造時にも主剤を固体(粉体)の状態で取り扱うことができるため、大気下で当該雰囲気調整剤を製造しても、主剤の酸化反応が進行せず、製造過程における雰囲気調整能の低下を抑制することができる。従って、製造過程を窒素雰囲気に維持するための大がかりで高価な製造設備がなくとも、簡易な製造設備で当該雰囲気調整剤を製造することができる。以下、当該雰囲気調整剤の各構成成分について順に詳述する。なお、当該雰囲気調整剤は、主剤、アルカリ剤、水、担持体、活性炭に加えて、反応触媒を含んでもよい。従って、以下では反応触媒についても説明する。
【0025】
(1)主剤
主剤とするアスコルビン酸類として、L-アスコルビン酸、その立体異性体であるエリソルビン酸(D-イソアスコルビン酸)、及びこれらの塩或いは水和物を用いることができる。例えば、L-アスコルビン酸塩としては、L-アスコルビン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸カリウム、L-アスコルビン酸カルシウムなどが挙げられる。また、エリソルビン酸塩としては、エリソルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸カリウム、エリソルビン酸カルシウムなどが挙げられる。主剤として、これらの中から一種以上を用いることができる。
【0026】
特に、本件発明に係る雰囲気調整剤において、主剤の水に対する溶解性は高すぎず、適度な溶解性を示すことが好ましい。例えば、L-アスコルビン酸ナトリウムは、水に対する溶解度が62(g/100g-H2O)(25℃)であり、水に対する溶解性が高い。従来の雰囲気調整剤のように、アスコルビン酸類の水溶液を担持体に担持/含浸させて用いる場合は、アスコルビン酸ナトリウム等の水に対する溶解性の高いものを主剤とした方が、より高濃度のアスコルビン酸類の水溶液を担持体に担持させることができ、反応性の高い雰囲気調整剤を得る上で好ましいと考える。一方、本件発明では主剤を固体の状態で含むため、水に対する溶解性がアスコルビン酸塩ほど高くなくとも、所望の量の主剤を含有させることができ、後述のとおり反応性の高い雰囲気調整剤を得ることができる。さらに、同量の主剤を用いる場合、従来に比して担持体の配合量を減らすことができるため、全体を軽量化することができると共に、材料コストを低減することができる。また、水に対する溶解性が高くなりすぎると、製造工程において主剤が吸湿し、酸化反応が進行するおそれがある。一方、水に対する溶解性をほとんど示さない場合、反応性の高い雰囲気調整剤を得ることが困難になる場合がある。従って、上述のとおり、主剤の水に対する溶解性は適度であることが好ましい。
【0027】
ここで、主剤の水に対する溶解性を主剤の水に対する溶解度で表す。但し、溶解度は一般にある溶質が一定量の溶媒に溶ける限界量をいうものとし、ここでは25℃の水100g(100ml)に対する溶解度を表すものとする。このとき、主剤の水に対する溶解度が45(g/100g-H2O)(25℃)以下1(g/100g-H2O)(25℃)以上であることが好ましい。このような範囲内の溶解度を有するアスコルビン酸類として、エリソルビン酸(溶解度:40g/100g-H2O)、アスコルビン酸(溶解度:33(g/100g-H2O)(25℃)、エリソルビン酸塩(例えば、エリソルビン酸ナトリウムの溶解度:16(g/100g-H2O)(25℃)が挙げられ、これらを主剤とすることが好ましい。但し、二種類以上の主剤を用いる場合についても、それぞれの溶解度が当該範囲内であることが好ましい。
【0028】
さらに、主剤の水に対する溶解度は、40(g/100g-H2O)(25℃)以下5(g/100g-H2O)(25℃)以上であることがより好ましく、30(g/100g-H2O)(25℃)以下8(g/100g-H2O)(25℃)以上であることがさらに好ましく、20(g/100g-H2O)(25℃)以下10(g/100g-H2O)(25℃)以上であることが一層好ましい。より具体的には水に対する溶解度が概ね当該範囲内であるエリソルビン酸塩を主剤とすることがさらに好ましい。エリソルビン酸塩は、入手が容易であり、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩と比較すると安価であるため、これらを主剤として用いる場合と比較すると安価に当該雰囲気調整剤を製造することができる。
【0029】
また、主剤の配合量は、上記式(1)を満たすものとする。主剤の水に対する溶解度に応じて、上記式(1)を満たすように主剤の配合量を決定することで、アスコルビン酸類の酸化反応を効率よく進行させることができ、反応性の高い雰囲気調整剤を得ることができる。
【0030】
ここで、反応性のより高い雰囲気調整剤を得る上で、上記式(1)の下限値は1.5であることがより好ましい。特に、嫌気培養用雰囲気を調整するには、微好気培養用雰囲気を調整するときと比較すると、雰囲気中の酸素をより迅速に吸収する必要がある。雰囲気調整剤中の全水分量や活性炭に含浸された含浸水量によっても酸素吸収速度は変動するが、嫌気培養用雰囲気を調整するには上記下限値は2.0であることがより好ましく、3.0であることがさらに好ましい。また、上記式(1)の上限値が大きくなりすぎると、主剤の水に対する溶解度と全水分量とに対して、主剤量が多くなり過ぎてしまう。この場合、酸素吸収速度が低下し、主剤量を増加する効果が薄れてしまう。当該観点から上記式(1)の上限値は20.0であることが好ましく、18.0であることがより好ましく、15.0であることがさらに好ましい。なお、上記式(1)において、これらの好ましい値を採用する場合、下限値に関し不等号を等号付不等号に置換してもよいし、上限値に関し等号付不等号を不等号に置換してもよい。なお、二種以上のアスコルビン酸類を主剤として用いる場合、各アスコルビン酸類を所定の混合比で混合した主剤の混合物が、100mlの水(25℃)に対して溶ける限界量をいうものとする。所定の混合比とは、主剤として二種以上のアスコルビン酸類を用いる際のそれらの混合比をいうものとする。
【0031】
また、主剤の平均体積粒径は20μm以上600μm以下であることが好ましく、後述するとおり活性炭の平均体積粒径より大きいことが好ましい。なお、主剤の「平均体積粒径」は、ふるい分け法によりメッシュ毎に粒子を選別した後、メッシュ間に存在する粒子の平均粒径をメッシュ間の中央値とし、重量頻度との積から算出した値とした。
【0032】
(2)アルカリ剤
上述のとおり、アスコルビン酸類の酸化反応は塩基性条件下で行われるため、本件発明に係る雰囲気調整剤においてアルカリ剤は必須の構成成分である。本件発明では、アルカリ剤として、例えば、アルカリ金属炭酸塩を好ましく用いることができる。アルカリ金属炭酸塩を用いることで、アスコルビン酸類の酸化反応に伴い雰囲気中に放出される二酸化炭素量を調整することができる。アルカリ金属炭酸塩として、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム等を好ましく用いることができる。
【0033】
ここで、上記のようにエリソルビン酸塩を主剤として用いる場合、アルカリ剤として炭酸カリウムを用いることが特に好ましい。炭酸カリウムの水に対する溶解度は113.5(g/100g-H2O)(25℃)であり、水に対する溶解性が極めて高い。一方、エリソルビン酸塩の水に対する溶解度は上述のとおりであり、炭酸カリウムと比較すると水に対する溶解性は低い。主剤及びアルカリ剤共に水に対する溶解性の低い化合物を用いた場合、アスコルビン酸類の酸化反応を迅速に進行させるための好ましい反応場を調整することが困難になり、反応性の高い雰囲気調整剤を得ることが困難になる。一方、主剤及びアルカリ剤共に水に対する溶解性の高い化合物を用いた場合、これらを混合した際にアルカリ剤によりアスコルビン酸類が分解されたり、アスコルビン酸類の酸化反応が過剰に進行するなどして、当該雰囲気調整剤を製造するまでの間に主剤の酸素吸収能が低下したり、その流動性が低下するおそれがある。
【0034】
これらのことから、水に対する溶解性が比較的低いエリソルビン酸塩を主剤として用い、水に対する溶解性が極めて高い炭酸カリウムを用いることにより、製造工程の間に主剤が分解されたり、酸化反応が進行するのを防止することができ、且つ、当該雰囲気調整剤の流動性を良好に維持することができる。
【0035】
なお、主剤がエリソルビン酸塩以外である場合も、アルカリ剤として炭酸カリウムを用いると、他のアルカリ剤を用いた場合と比較して、粉体特性(流動性、見掛密度等)が良好で高い酸素吸収能を得ることができる。さらに、炭酸カリウムの添加量を適宜調整することにより、二酸化炭素の発生量を制御することが容易になり、当該雰囲気調整剤を嫌気培養用、微好気培養用等の用途に応じた酸素濃度及び二酸化炭素濃度に調整することが容易になる。一方、上記観点から、水に対する溶解度が高いアスコルビン酸塩を主剤とする場合は、アスコルビン酸塩と比較すると水に対する溶解度が低い炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムをアルカリ剤とすることも好ましい。
【0036】
本件発明に係る雰囲気調整剤において、アルカリ剤は、主剤100質量部に対して、10質量部以上400質量部以下含まれることが好ましく、上述のとおり嫌気培養用、微好気培養用等の用途に応じて、主剤の種類に応じてアルカリ剤の含有量を適宜調整することが好ましい。
【0037】
例えば、主剤としてエリソルビン酸塩を用い、アルカリ剤として炭酸カリウムを用いる場合、嫌気培養用雰囲気を調整する際は、エリソルビン酸塩100質量部に対して炭酸カリウムを35質量部以上150質量部以下含むことが好ましい。より迅速に嫌気培養用雰囲気に調整する上で、エリソルビン酸塩100質量部に対して炭酸カリウムを40質量部以上含むことがより好ましく、40質量部を超えて含むことがさらに好ましい。また、同様に、エリソルビン酸塩100質量部に対して130質量部以下含むことがより好ましく、100質量部以下含むことがさらに好ましく、90質量部以下含むことが一層好ましい。
【0038】
(3)水
水は、当該雰囲気調整剤を構成する主剤以外の構成成分を馴染ませ、主剤の酸化反応の場を提供するための必須の構成成分である。本発明では、主剤を100質量部としたとき、当該雰囲気調整剤に含まれる全水分量は20質量部以上150質量部以下であることが好ましい。反応性の高い雰囲気調整剤を得る上で、当該全水分量は主剤100質量部に対して30質量部以上であることがより好ましく、40質量部以上であることがさらに好ましく、50質量部以上であることが一層好ましい。また、当該全水分量は主剤100質量部に対して140質量部以下であることが好ましく、120質量部以下であることがさらに好ましい。
【0039】
本件発明に係る雰囲気調整剤では、水を担持体と、活性炭のそれぞれに担持(含浸)された状態で存在することが好ましい。すなわち、上記全水分量は担持体に担持された水(以下、「担持水」と称する。)の量と、活性炭に担持(含浸)された水(以下、「含浸水」と称する。)の量との合計値である。そして、当該雰囲気調整剤に含まれる全水分量の40質量%以上95質量%以下が含浸水として活性炭に含浸されていることが好ましい。反応性の高い雰囲気調整剤を得る上で、全水分量の45質量%以上、より好ましくは55質量%以上が含浸水として活性炭に含浸されていることが好ましい。また、当該雰囲気調整剤に含まれる全水分量の5質量%以上60質量%以下が担持体に担持されていることが好ましい。
【0040】
さらに、当該雰囲気調整剤において担持水は主剤100質量部に対して5質量部以上100質量部未満であることが好ましい。本件発明では雰囲気調整剤を製造する際に液体として添加する水(以下、「添加水」と称する。)を主に担持体に担持させ、添加水とは別に含浸水を予め含む含水活性炭を用いることが好ましい。つまり、担持水量と添加水量が実質的に同じであることが好ましい。この場合、担持体が担持できる水量を超えない程度の添加水量であることが好ましい。担持体が担持可能な水量を超えて添加水量が増加すると、担持体にその全量を担持させることが困難になり、担持水に対して余剰分の添加水が当該雰囲気調整剤中に存在することになる。当該雰囲気調整剤では、主剤を固体の状態で含有することを特徴とする。しかしながら、担持水に対して余剰分の添加水が当該雰囲気調整剤中に存在すると、担持体が水分を保持しきれず流動性が悪くなる、あるいは主剤を固体の状態で維持することが困難になる。また、当該雰囲気調整剤の製造工程において、主剤が添加水と接触し、或いは吸湿し、主剤の酸化反応が進行してしまう場合もある。そこで、添加水を全て担持体に担持させるべく担持体の含有量を増加させると、主剤の酸化反応に寄与する構成成分に比して、担持体の含有量を増加させる必要がある。その場合、主剤の酸化反応を効率良く進行させることが困難になり、反応性の高い雰囲気調整剤を得ることが困難になる。そこで、担持水の含有量は主剤100質量部に対して80質量部未満であることがより好ましく、50質量部未満であることがより好ましく、40質量部未満であることが一層好ましい。また、担持水が少なくなりすぎると、アルカリ剤等の主剤以外の成分を担持水に溶解させて、水溶液として担持体に担持させることが困難になる。当該観点から、担持水の含有量は主剤100質量部に対して10質量部以上であることが好ましく、15質量部以上であることがより好ましい。
【0041】
一方、含浸水は主剤100質量部に対して10質量部以上200質量部以下であることが好ましい。活性炭に当該雰囲気調整剤に含まれる全水分量の40質量%以上95質量%以下を含浸水とし、主剤に対して含浸水が上記範囲内となるように水を含ませることで、主剤の酸化反応に必要な水分量を十分に確保することができる。さらに、主剤を水に溶解させた水溶液を担持体や活性炭に担持(含浸)させる場合では、水の量が多くなると、主剤やアルカリ剤の濃度が薄くなり、反応性の高い雰囲気調整剤を得ることが困難になる。一方、本件発明によれば微粉の粉末状の活性炭に水を含浸させておくことで、主剤やアルカリ剤を水溶液の状態に調整せずとも、主剤の酸化反応に必要な水分を供与することができる。
【0042】
(4)反応触媒
本件発明に係る雰囲気調整剤は、アスコルビン酸類の酸化反応を促進するための反応触媒を含むことが好ましい。反応触媒として、例えば、クエン酸鉄、フタロシアニン鉄等の有機金属系触媒を用いることもできるが、鉄、ニッケル、銅、マンガン等の遷移金属の塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、又は複塩、或いはこれらの水和物等の無機系触媒を用いることが好ましい。反応触媒を含む構成とすることにより、酸素吸収能の高い雰囲気調整剤を得ることができる。特に、当該雰囲気調整剤では、反応触媒として硫酸第一鉄七水和物を用いることが好ましい。
【0043】
本件発明に係る雰囲気調整剤において、反応触媒の含有量は、反応触媒の種類等に応じて適宜調整することができるが、主剤100質量部に対して、反応触媒を30質量部以上250質量部以下含むことが好ましい。反応触媒の含有量が30質量部未満の場合、培養雰囲気を迅速に所望の酸素濃度及び二酸化炭素濃度に調整することが困難になる。当該雰囲気調整剤は、後述するように、反応触媒についても、基本的には水に溶解させることなく、他の成分に対して固体(粉体)の状態で混合する。反応触媒の一部は例えば担持水に溶け込むことがあったとしても、余剰の反応触媒は粉体の状態で他の成分と混合されることになる。このような状態であっても、予め粉末状の活性炭に例えば飽和量の水分を含浸水として含浸させて含水活性炭として当該雰囲気調整剤に含有させておくことで、含浸水を利用して反応場を得ることができ、反応触媒を機能させることができる。
【0044】
(5)担持体
本件発明に係る雰囲気調整剤は、水を担持することのできる担持体を含む。担持体を含む構成とすることにより、当該雰囲気調整剤の構成成分を造粒して、粉体として取り扱うことが可能になる。担持体としては、ゼオライト、湿式シリカ、バーミキュライト、モンモリロナイト等の多孔質物質を用いることができる。これらの多孔質物質の中から1種類以上を単独で又は混合して用いることができる。
【0045】
担持体の平均体積粒径は、0.01mm以上3mm以下であることが好ましく、0.1m以上2mm以下であることがより好ましく、0.2m以上1.2mm以下であることがさらに好ましい。
【0046】
本件発明に係る雰囲気調整剤において、担持体の含有量は、主剤100質量部に対して、50質量部以上500質量部以下含まれることが好ましい。担持体の含有量が50質量部未満では、脱酸素反応に要する水等を十分に担持することができず、反応性の高い雰囲気調整剤を得ること及び造粒物の粉体としての特性を維持することが困難になる。これらの観点から、担持体の含有量は60質量部以上であることがより好ましく、70質量部以上であることがさらに好ましい。一方、担持体の含有量が500質量部を超えて多くなると、主剤に対する担持体の含有量が多く、主剤と雰囲気中の酸素とを効率よく接触させることができなくなる。そのため、当該雰囲気調整剤の単位質量当たりの酸素吸収量が低下するため好ましくない。これらの観点から、担持体の含有量は350質量部以下であることがより好ましく、200質量部以下であることがさらに好ましい。特に、嫌気培養用雰囲気を調整する際には、担持体の含有量は200質量部以下であることが反応性の高い雰囲気調整剤を得る上で好ましい。
【0047】
(6)含水活性炭
本件発明に係る雰囲気調整剤では、上記担持体とは別に活性炭を含有する。ここで、当該活性炭は概ね平均体積粒径が0.2mm未満、より好ましくは0.1mm未満の粉末状の活性炭であることが好ましい。さらに、当該活性炭は主剤よりも平均体積粒径が小さいことが好ましい。また、上記担持体よりも平均体積粒径が小さいことが好ましい。特に、平均体積粒径が5μm以上15μm以下であることが好ましい。
【0048】
活性炭も多孔質物質であり水を含浸することができる。上述のとおり、活性炭は予め所定の量の水を含浸水として予め含む含水活性炭であることが好ましい。ここで所定量の水を含浸水として予め含むとは、活性炭が他の構成成分と混合等される前に、活性炭の細孔内に所定量の水が既に含浸されていることをいうものとする。
【0049】
含水活性炭の含水量、すなわち含水活性炭における含浸水の割合は、含水活性炭100質量部に対して45質量部以上であることが好ましく、50質量部以上であることがより好ましく、55質量部以上であることがさらに好ましく、57質量部以上であることが一層好ましい。
【0050】
一方、当該含水活性炭から含浸水を除いた活性炭成分を主剤100質量部に対して125質量部以下であることが好ましく、100質量部以下であることがより好ましく、70質量部以下であることがさらに好ましく、55質量部以下であることが一層好ましく、45質量部以下であることがより一層好ましい。また、下限値は、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、15質量部以上であることがさらに好ましい。
【0051】
主剤に対して粒径の小さい活性炭に予め水を含浸させておくことで、主剤粒子の表面に複数の活性炭が付着したような状態となり、主剤を水に溶解させた水溶液を担持体に含浸させずとも、当該雰囲気調整剤の使用時に水分を主剤に効率良く供給して迅速に雰囲気中の酸素濃度及び二酸化炭素濃度を調整することが可能になる。
【0052】
また、活性炭のt-Plot法マイクロ孔容積は0.30cm3/g以上であることが好ましく、0.40cm3/g以上であることがより好ましく、0.50cm3/g以上であることがさらに好ましい。t-Plot法マイクロ孔容積は、130℃で8時間の真空脱気による前処理を実施した後に、例えば、マイクロトラック・ベル社製BELSORP-miniIIを用いて測定することができる。具体的には、定容法を用いた窒素による吸着脱離等温線を測定し、解析をマイクロトラック・ベル社推奨のHarkins-Jura-BEL.t基準曲線を用いて算出することにより、上記値を得ることができる。
【0053】
活性炭を含む多孔質物質は多数の細孔を有し、細孔は孔径によってマクロ孔、メソ孔、マイクロ孔等に分けられる。全細孔容積は、孔径によらず全ての細孔の容積を表す。マクロ孔、メソ孔、マイクロ孔の順に孔径が小さくなる。本件発明に係る雰囲気調整剤では、全細孔容積の値と、反応性の高さ(酸素吸収速度、二酸化炭素放出速度の速さ等)との相関は特に認められなかった。その一方、マイクロ孔容積と反応性の高さには相関が認められ、マイクロ孔容積が大きくなるほど、反応性の向上が認められた。その理由は解明できていないが、主剤を固体の状態で含む当該雰囲気調整剤では、主剤の酸化反応を進行させる際にマイクロ孔に含浸された水分が強く寄与するのでは無いかと推察される。また、マイクロ孔には、孔径の大きなマクロ孔やメソ孔と比較すると毛細管現象により吸水しやすく、全細孔容積が同じである場合マイクロ孔容積が大きい方が含水率の高い活性炭が得られやすいと考えられる。後述の実施例においても説明するとおり、活性炭における含水率の高さと反応性の高さにも相関性が認められる。これらのことから、マイクロ孔容積が大きい方が主剤の酸化反応を効率的に進行させることができ、反応性の高い雰囲気調整剤が得られるものと考える。
【0054】
更に、活性炭の水銀圧入法によるモード細孔直径(測定範囲0.04~9.0μm)が0.050μm以上であることが好ましい。モード細孔直径(測定範囲0.04~9.0μm)は、例えば、AntonPaar社製水銀圧入ポロシメータPoreMaster33GTを用いて、高圧範囲20~5000psiの測定条件で、細孔直径0.04μmから9.0μmの範囲を測定し、付属のソフトウェアで解析することにより得ることができる。
【0055】
上述のとおり、本件発明に係る雰囲気調整剤ではマイクロ孔容積が大きい活性炭を含む構成とした方が反応性の高い雰囲気調整剤を得ることができる。さらに、本件発明に係る雰囲気調整剤では、モード細孔直径の大きさと、反応性の高さとの間に相関が認められ、モード細孔直径の大きい活性炭を用いた方が、より反応性の高い雰囲気調整剤を得ることができる。その理由についても解明できていないが、次のように推察する。測定範囲0.006μm~9.0μmとしてモード細孔直径を測定した場合、モード細孔直径と反応性の高さとの間に相関は認められなかった。一方、上記測定範囲では相関が認められた。このことから、モード細孔直径が上記範囲内であるマイクロ孔は、マイクロ孔の中でも孔径が比較的大きく、毛細管現象により良好に吸水する。一方、マイクロ孔の孔径が小さくなりすぎると、毛細管現象による水の細孔内への侵入が難しくなり、毛細管現象による吸水作用よりも表面吸着による作用が大きくなる。その場合、活性炭を水に浸漬しても細孔内への吸水が困難になり、また、細孔内に吸着された水分子は孔壁との間に生じる水素結合により外部に放出しにくくなる。よって、モード細孔直径の比較的大きなマイクロ孔とすることで、活性炭に含浸させる水分量を多くすることができると共に、主剤の酸化反応の際に水分の放出も良好になり、反応性の高い雰囲気調整剤が得られやすくなるのではないかと推察される。
【0056】
(7)各構成成分の含有割合
次に、当該雰囲気調整剤の構成成分全量に対する各構成成分の含有割合を説明する。但し、構成成分全量には主剤、アルカリ剤、水、担持体、活性炭が含まれ、当該雰囲気調整剤が反応触媒等のその他の成分を含む場合は当該その他の成分全てを含むものとする。
【0057】
本件発明に係る雰囲気調整剤を嫌気培養用雰囲気調整剤として用いる場合、その構成成分全量に対して、主剤を10質量%以上35質量%以下、アルカリ剤を10質量%以上
15質量%以下、水を10質量%以上25質量%以下(うち、担持水を3質量%以上25質量%以下、含浸水を0質量%以上20質量%以下)、反応触媒を15質量%以下、担持体を15質量%以上25質量%以下、活性炭(但し、活性炭成分のみ)を4質量%以上15質量%以下含むことが好ましい。このような含有割合で、これらの成分を含有することにより、反応性の高い嫌気培養用雰囲気調整剤を得ることができる。
【0058】
一方、本件発明に係る雰囲気調整剤を微好気培養用雰囲気調整剤として用いる場合、その構成成分全量に対して、主剤を5質量%以上10質量%以下、アルカリ剤を15質量%以上25質量%以下、水を20質量%以上25質量%以下(うち、担持水を3質量%以上25質量%以下、含浸水を0質量%以上20質量%以下)、反応触媒を20質量%以下、担持体を15質量%以上25質量%以下、活性炭(但し、活性炭成分のみ)を5質量%以上15質量%以下含むことが好ましい。このような含有割合で、これらの成分を含有することにより、反応性の高い微好気培養用雰囲気調整剤を得ることができる。
【0059】
2.雰囲気調整剤の製造方法
次に、本件発明に係る雰囲気調整剤の製造方法の一例について説明する。本件発明に係る雰囲気調整剤の製造方法は、主剤を水に溶解する工程を含まず、アルカリ剤、水、担持体及び活性炭を含む主剤以外の構成成分からなる混合物を得る工程と、混合物に主剤を加える工程とを含む。その際、例えば、以下に説明するように、原料を準備する工程と、主剤以外の構成成分(担持体、アルカリ剤、水、活性炭(含水活性炭)、反応触媒)を所定の順序で混合する工程とを含むことが好ましい。以下、各工程について順に説明するが、本件発明に係る雰囲気調整剤の製造方法は以下に説明する方法に限定されるものではなく、主剤を水に溶解する工程を含まず、アルカリ剤、水、担持体及び活性炭を含む主剤以外の構成成分からなる混合物を得る工程と、この混合物に主剤を加える工程とを含む限り、適宜変更可能である。
【0060】
(1)原料を準備する工程
主剤、アルカリ剤、担持体、水、活性炭を所定量ずつ準備する。また、必要に応じて反応触媒を準備する。これらの各構成成分については上述のとおりであるため、ここでは説明を省略する。但し、水は担持体に担持させる担持水量分を添加水として準備することが好ましい。活性炭については、予め所定量の含浸水を含む上記含水活性炭を準備することが好ましい。所定量の含水活性炭を準備する際は、含水量が上記割合の市販の含水活性炭を活性炭成分が所定量となるように準備してもよいし、乾燥状態にある活性炭を所定量準備し、当該活性炭に対して含水量が上記割合になるように予め水を含浸させておいてもよい。また、活性炭に含浸させる含浸水分と担持体に担持させる担持水分とを添加水(水)として用意しておき、担持体と添加水とを混合する前に、活性炭と添加水全量を混合しておき、活性炭に予め含浸水分の水を含浸させておいてもよい。以下では、含水活性炭を用い、担持水量分のみを添加水として準備する場合を例に挙げて説明する。
【0061】
(2)主剤以外の構成成分を所定の順序で混合する工程
各原料をそれぞれ所定量ずつ準備した後、主剤以外の構成成分を混合する。その際、担持体に対して添加水を担持させた後に、上記含水活性炭を混合することが好ましい。さらには、以下のa)~d)の順に各成分を混合しながら、主剤以外の成分からなる混合物を調製することが好ましい。
【0062】
a)所定量の担持体と、所定量のアルカリ剤とを混合する。
b)上記a)の混合物に対して添加水を混合する。
c)上記b)の混合物に対して含水活性炭を混合する。
d)上記c)の混合物に対して反応触媒を混合する。
【0063】
但し、上記各混合工程ではそれぞれの成分が互いに十分に馴染むまで混合するものとする。例えば、アルカリ剤として炭酸カリウムを用いると、a)の混合工程で担持体とアルカリ剤とが十分に混合された後に、b)の混合工程で添加水を加えて混合することで、添加水に炭酸カリウムが溶け込み、それが担持体に担持される。その状態で、c)の混合工程によりアルカリ剤の溶け込んだ水を担持した担持体と、含水活性炭とが混合され、d)により反応触媒が混合される。a)~d)では主剤を添加していないため、a)~d)の各混合工程を大気下で行うことができ、それぞれの構成成分を十分に混合することができる。
【0064】
(3)主剤以外の構成成分からなる混合物に、主剤を固体の状態で加える工程
例えば上記a)~d)の混合工程を経て得られた主剤以外の全構成成分からなる混合物に、主剤を固体の状態で加えることにより、本件発明に係る雰囲気調整剤を得ることができる。このように、主剤以外の構成成分からなる混合物に、主剤を加える工程よりも前に、水を担持体に担持させ、或いは含水活性炭に含浸水として含浸させておくことにより、当該工程においても、主剤と水とが直接接触することを抑制することができる。そのため、当該工程についても主剤の酸化反応の進行を抑制することができるため、当該工程を大気下で行うことが可能になる。また、活性炭に対して予め水を含浸させた含水活性炭を用いることで、造粒効果が得られ、活性炭が微粉であっても、粉立ち等を抑制しつつ、主剤以外の構成成分が良好に混合された混合物を造粒物として得ることができる。そして、この混合物に主剤を固体の状態で加えた際も、混合物と主剤とをよく混ざり合わせることができる。また、上述のとおり、主剤の配合量を式(1)を満たすようにすることで、反応性の高い雰囲気調整剤を得ることができる。
【0065】
(4)充填工程
上記主剤以外の構成成分からなる混合物に、主剤を固体の状態で加える工程は、当該雰囲気調整剤を通気性包装材に充填包装する工程において行うことができる。例えば、所定量の上記混合物と、所定量の主剤とを、通気性包装材に充填することで、所定量の雰囲気調整剤を通気性包装材に充填しつつ、上記の工程を行うことができる。このように、通気性包装材に充填包装した場合には、上記混合物と主剤とが通気性包装材に投入される際に生じる衝撃等により、両者は混じり合う。また、予め、主剤以外の構成成分からなる混合物と、主剤とを混合したものを通気性包装材に充填してもよい。
【0066】
ここで、通気性包装材は、酸素透過性を有するシート状、或いはフィルム状の包装材であればどのようなものであってもよく、有孔樹脂フィルム、紙、不織布などの適度な通気性を有するものであればいずれも使用することができる。特に、通気性に加えて、ヒートシール性を兼ね備えた包装材が好適であり、例えば、有孔(ポリエステル/ポリエチレン)フィルム、紙、有孔ポリエチレンフィルムの順にラミネートした積層体や、紙又は不織布と、有孔ポリエチレンフィルムとをラミネートした積層体等であることが好ましい。その他、ポリエチレン不織布等も使用することができる。当該通気性包装材に、上記雰囲気調整剤を所定量ずつ充填し、開口部を閉じることにより、製品としての雰囲気調整剤包装体が得られる。
【0067】
以下、実施例及び比較例を示して本件発明を具体的に説明する。但し、本件発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【実施例0068】
平均体積粒径が266.6μmのエリソルビン酸ナトリウム(主剤)100質量部(13.5g)に対して、水(添加水)を22.2質量部(3.0g)、硫酸第一鉄七水和物(反応触媒)を37.0質量部(5.0g)、含水活性炭(含水率60質量%)96.3質量部(13.0g)、炭酸カリウム(アルカリ剤)を44.4質量部(6.0g)、ゼオライト(担持体)を74.1質量部(10.0g)を用いて、次のようにして本件発明に係る雰囲気調整剤を製造した。なお、括弧内に示した数値は実際に各成分秤量した値を示す。また、含水活性炭として活性炭成分に対して含水率が60質量%となるように予め水を含浸させたフタムラ化学株式会社製の含水活性炭(SA1000W60)を用いた。また、主剤全量を100質量部としたとき、当該含水活性炭は38.5質量部(5.2g)の活性炭成分と、57.8質量部(7.8g)の含浸水を含む(表1参照)。このとき主剤の配合量に関し、上記式(1)の値は7.80である(表2参照)。また、実施例1で用いた含水活性炭を活性炭「A」とする(表3参照)。当該活性炭の平均体積粒径は約10μmであり、その他のt-plot法マイクロ孔容積、水銀圧入法によるモード細孔直径他の各種物性は表3に示すとおりである。
【0069】
大気下において、ゼオライト全量と炭酸カリウム全量とを混合し、これらが十分に混合された後、水(添加水)全量を添加した。その後、含水活性炭全量を添加して混合した後、硫酸第一鉄七水和物を添加し、さらに混合した。このようにして主剤以外の成分が全て十分に混合された混合物を得た。そして、主剤以外の全ての成分からなる混合物全量に、主剤全量を加えて、主剤以外の成分からなる混合物と、固体の状態の主剤とを含む雰囲気調整剤とし、これを外寸80mm×260mmの通気性包装材袋に24gずつ充填し本実施例の雰囲気調整剤包装体とした。なお、通気性包装材として、紙/有孔ポリエチレン/ワリフの3層ラミネート構造で、王研式透気度(透気抵抗度)が45~60秒を示すものを用いた。また、より詳細には、上記通気性包装材袋は、3辺と長手方向中央位置にそれぞれ5mmシール幅によりヒートシール部が設けられることにより、外寸80mm×130mmの2箇所の充填部が形成されており、この2箇所の充填部に対してそれぞれ12gの雰囲気調整剤が充填され、1包の雰囲気調整剤包装体が構成される。
実施例2では実施例1と同じ活性炭成分を有するが、含浸水を含まない乾燥状態の活性炭(フタムラ化学株式会社製の活性炭(SA1000))(活性炭「B」)(表1、表3参照)を用いた。そして、当該活性炭を主剤100質量部(24.1g)に対して38.6質量部(9.3g)用意すると共に、主剤100質量部に対して水(添加水)を79.7質量部(19.2g)用意した。他の成分については、主剤100質量部に対して実施例1と略同じ配合量になるようにゼオライトを73.9質量部(17.8g)、炭酸カリウムを44.4質量部(10.7g)、硫酸第一鉄七水和物を36.9質量部(8.9g)秤量した。そして、活性炭全量に対して水全量を添加することで、活性炭及び水の混合物を用意し、ゼオライト全量と炭酸カリウム全量とを混合した後に、この活性炭及び水の混合物を添加したことを除いて、実施例1と同様にして実施例2の雰囲気調整剤を製造し、これを用いて本実施例の雰囲気調整剤包装体を得た。なお、活性炭及び水の混合物において、水の一部は活性炭に含浸されたが、全量を活性炭に含浸させることはできなかった。また、実施例2において主剤の配合量に関し上記式(1)の値は7.81である(表2参照)。