(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070388
(43)【公開日】2022-05-13
(54)【発明の名称】壁体構造物の構築方法
(51)【国際特許分類】
E02D 17/18 20060101AFI20220506BHJP
E02D 5/03 20060101ALI20220506BHJP
E02D 7/20 20060101ALI20220506BHJP
E02D 7/18 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
E02D17/18 Z
E02D5/03
E02D7/20
E02D7/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020179426
(22)【出願日】2020-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】509066488
【氏名又は名称】株式会社第一基礎
(74)【代理人】
【識別番号】100104330
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 誠二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光一
【テーマコード(参考)】
2D044
2D049
2D050
【Fターム(参考)】
2D044CA06
2D044CA10
2D049EA02
2D049FB03
2D049FB05
2D049FB14
2D050AA12
2D050CB22
2D050CB31
(57)【要約】 (修正有)
【課題】控え工などの拘束装置を有する壁体構造物の効率的な施工を可能にする壁体構造物の構築方法を提供する。
【解決手段】壁体構造物10を構築しようとする地盤に盛土12を築堤する工程と、盛土12が築堤された地盤に、互いに嵌合された多数の壁体構成部材16によって形成される壁体14を所定手段で埋設する工程と、壁体14の背面側の所定高さまで第1裏込材18を配置する工程と、壁体14の側方変位を拘束する拘束装置を壁体14に設置する工程と、第1裏込材18の上方の空間に少なくとも1層の第2裏込材18aを配置する工程とを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁体構造物の構築方法であって、
前記壁体構造物を構築しようとする地盤に盛土を築堤する工程と、
前記盛土が築堤された地盤に、互いに嵌合された多数の壁体構成部材によって形成される壁体を所定手段で埋設する工程と、
前記壁体の背面側の所定高さまで第1裏込材を配置する工程と、
前記壁体の側方変位を拘束する拘束装置を前記壁体に設置する工程と、
前記第1裏込材の上方の空間に少なくとも1層の第2裏込材を配置する工程と、
を含むことを特徴とする構築方法。
【請求項2】
前記第1裏込材が、前記盛土の一部であることを特徴とする請求項1に記載された壁体構造物の構築方法。
【請求項3】
前記第2裏込材が、前記壁体の外側に位置する前記盛土の一部を流用したものであることを特徴とする請求項1又は2に記載された壁体構造物の構築方法。
【請求項4】
前記盛土を形成する材料が、土砂、石材、改良土、スラグ、又は経時硬化性材料のうち少なくとも1種以上の材料であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された壁体構造物の構築方法。
【請求項5】
壁体構造物の構築方法であって、
前記壁体構造物を構築しようとする地盤に、互いに嵌合された多数の壁体構成部材によって形成される壁体を所定手段で埋設する工程と、
前記壁体の背面側の所定高さまで第1裏込材を配置する工程と、
前記壁体の側方変位を拘束する拘束装置を前記壁体に設置する工程と、
前記第1裏込材の上方の空間に少なくとも1層の第2裏込材を配置する工程と、
を含むことを特徴とする構築方法。
【請求項6】
前記拘束装置が、前記壁体の前記背面側において地盤に支持された根入れ部材と、前記壁体の所定部位と前記根入れ部材の所定部位を連結する連結材とを有することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載された壁体構造物の構築方法。
【請求項7】
前記連結材が、抗張力部材であることを特徴とする請求項6に記載された壁体構造物の構築方法。
【請求項8】
前記拘束装置が、前記壁体の前記背面側又は前面側において地盤に支持された根入れ部材と、前記壁体の頭部と前記根入れ部材の頭部を連結する連結構造物とを有することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載された壁体構造物の構築方法。
【請求項9】
前記所定手段が、バイブロハンマを用いた振動貫入、又は油圧圧入装置による圧入貫入であることを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載された壁体構造物の構築方法。
【請求項10】
前記第1裏込材及び前記第2裏込材が、土砂、石材、改良土、スラグ、又は経時硬化性材料のうち少なくとも1種以上の材料であることを特徴とする請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載された壁体構造物の構築方法。
【請求項11】
前記第1裏込材を配置する工程と前記拘束装置を設置する工程との間に、前記壁体構成部材の所定部位に構造物延長方向通し材である腹起を設置する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載された壁体構造物の構築方法。
【請求項12】
前記第2裏込材を配置する工程の後に、前記壁体の背面側の前記第1裏込材及び前記第2裏込材がない空間に、埋立材を投入する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載された壁体構造物の構築方法。
【請求項13】
少なくとも前記第2裏込材の表面に上げ越しを施すことを特徴とする請求項1から請求項12までのいずれか1項に記載された壁体構造物の構築方法。
【請求項14】
前記壁体構成部材が、鋼矢板、鋼管矢板、軽量鋼矢板、箱型矢板、又はコンクリート矢板であって、嵌合継手を有するものであることを特徴とする請求項1から請求項13までのいずれか1項に記載された構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、壁体構造物の構築方法に関する。より詳細には、本発明は、控え工などの拘束装置を有する壁体構造物の効率的な施工を可能にする、壁体構造物の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼矢板を所定間隔隔てて2列に基礎地盤に埋設させることによって形成される二重鋼矢板式構造物の施工では、基礎地盤に埋設された2列の鋼矢板壁の上方部同士をタイロッド等の連結材で連結した後、鋼矢板壁の間の空間に中詰土を複数回に分けて充填し、所要の設計品質が確保されるように、充填した中詰土をその都度締め固める作業が行われている。
【0003】
このような中詰材の充填作業では、ローラーやダンパー等の締固め機械を中詰材の上面に載置する必要があるが、従来の方法では、締固め作業の時点で中詰材の上方に連結材が設置されているため、締固め作業の能率が極めて悪いうえ、中詰材の上面と連結材との間の空間に出し入れ可能な大きさの締固め機械しか使用できない、という課題があった。このような課題を克服すべく、本発明者は、二重鋼矢板式構造物に関する新規な構築方法を提案した(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
構造安定性を確保するために設置される控え工などの拘束装置を有する壁体構造物の施工においても、二重鋼矢板式構造物における上記課題と同様の課題が存在する。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みて開発されたものであって、控え工などの拘束装置を有する壁体構造物の効率的な施工を可能にする、壁体構造物の構築方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願請求項1に記載された壁体構造物の構築方法は、前記壁体構造物を構築しようとする地盤に盛土を築堤する工程と、前記盛土が築堤された地盤に、互いに嵌合された多数の壁体構成部材によって形成される壁体を所定手段で埋設する工程と、前記壁体の背面側の所定高さまで第1裏込材を配置する工程と、前記壁体の側方変位を拘束する拘束装置を前記壁体に設置する工程と、前記第1裏込材の上方の空間に少なくとも1層の第2裏込材を配置する工程とを含むことを特徴とするものである。
【0008】
本願請求項2に記載された壁体構造物の構築方法は、前記請求項1の構築方法において、前記第1裏込材が、前記盛土の一部であることを特徴とするものである。
【0009】
本願請求項3に記載された壁体構造物の構築方法は、前記請求項1又は2の構築方法において、前記第2裏込材が、前記壁体の外側に位置する前記盛土の一部を流用したものであることを特徴とするものである。
【0010】
本願請求項4に記載された壁体構造物の構築方法は、前記請求項1から請求項3のうちいずれか1項の構築方法において、前記盛土を形成する材料が、土砂、石材、改良土、スラグ、又は経時硬化性材料のうち少なくとも1種以上の材料であることを特徴とするものである。
【0011】
本願請求項5に記載された壁体構造物の構築方法は、前記壁体構造物を構築しようとする地盤に、互いに嵌合された多数の壁体構成部材によって形成される壁体を所定手段で埋設する工程と、前記壁体の背面側の所定高さまで第1裏込材を配置する工程と、前記壁体の側方変位を拘束する拘束装置を前記壁体に設置する工程と、前記第1裏込材の上方の空間に少なくとも1層の第2裏込材を配置する工程とを含むことを特徴とするものである。
【0012】
本願請求項6に記載された壁体構造物の構築方法は、前記請求項1から請求項5のうちいずれか1項の構築方法において、前記拘束装置が、前記壁体の前記背面側において地盤に支持された根入れ部材と、前記壁体の所定部位と前記根入れ部材の所定部位を連結する連結材とを有することを特徴とするものである。
【0013】
本願請求項7に記載された壁体構造物の構築方法は、前記請求項6の構築方法において、前記連結材が、抗張力部材であることを特徴とするものである。
【0014】
本願請求項8に記載された壁体構造物の構築方法は、前記請求項1から請求項5のうちいずれか1項の構築方法において、前記拘束装置が、前記壁体の前記背面側又は前面側において地盤に支持された根入れ部材と、前記壁体の頭部と前記根入れ部材の頭部を連結する連結構造物とを有することを特徴とするものである。
【0015】
本願請求項9に記載された壁体構造物の構築方法は、前記請求項1から請求項8のうちいずれか1項の構築方法において、前記所定手段が、バイブロハンマを用いた振動貫入、又は油圧圧入装置による圧入貫入であることを特徴とするものである。
【0016】
本願請求項10に記載された壁体構造物の構築方法は、前記請求項1から請求項9のうちいずれか1項の構築方法において、前記第1裏込材及び前記第2裏込材が、土砂、石材、改良土、スラグ、又は経時硬化性材料のうち少なくとも1種以上の材料であることを特徴とするものである。
【0017】
本願請求項11に記載された壁体構造物の構築方法は、前記請求項1から請求項10のうちいずれか1項の構築方法において、前記第1裏込材を配置する工程と前記拘束装置を設置する工程との間に、前記壁体構成部材の所定部位に構造物延長方向通し材である腹起を設置する工程をさらに含むことを特徴とするものである。
【0018】
本願請求項12に記載された壁体構造物の構築方法は、前記請求項1から請求項11のうちいずれか1項の構築方法において、前記第2裏込材を配置する工程の後に、前記壁体の背面側の前記第1裏込材及び前記第2裏込材がない空間に、埋立材を投入する工程をさらに含むことを特徴とするものである。
【0019】
本願請求項13に記載された壁体構造物の構築方法は、前記請求項1から請求項12のうちいずれか1項の構築方法において、少なくとも前記第2裏込材の表面に上げ越しを施すことを特徴とするものである。
【0020】
本願請求項14に記載された壁体構造物の構築方法は、前記請求項1から請求項13のうちいずれか1項の構築方法において、前記壁体構成部材が、鋼矢板、鋼管矢板、軽量鋼矢板、箱型矢板、又はコンクリート矢板であって、嵌合継手を有するものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、第1裏込材の投入・均し作業、拘束装置の設置作業、第2裏込材の投入・均し作業の順に構築作業が行われるため、詳細には後述するように、壁体の壁高部分に最終的に発生する曲げモーメントがかなり小さくなるとともに、効率的な均し作業が可能になる。また、拘束装置が連結材を有する形態では、連結材に、第1裏込材の投入・均しに起因する張力の発生がないため、連結材に最終的に発生する張力もかなり小さくなる。このため、壁体構造物の安全性を高めることができる。また、拘束装置が連結材を有する形態では、均し機械の選択も自由に行うことができるとともに、従来の構築方法と比べて、壁体構成部材や連結材に耐力的に余裕ができる場合が多い。逆に言うと、本発明に基づく施工手順、力学的挙動を反映した構造計算法で設計すると、経済的・合理的な壁体構造物を実現できる。さらに、盛土を築堤する形態では、鋼矢板などの壁体構成部材の自立安定性に寄与するとともに、作業足場等への利用が可能となる場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る壁体構造物の構築方法を示した一連の図である。
【
図2】
図1に示した構築方法によって構築された壁体構造物を模式的に示した断面図である。
【
図3】
図3(a)は、壁体を形成するハット形鋼矢板を示した平面図、
図3(b)は、ハット形鋼矢板の嵌合個所を示した拡大図である。
【
図4】
図4(a)は、第1及び第2頭部連結材を示した斜視図、
図4(b)は、断面方向連結材を示した斜視図、
図4(c)は、壁体構造物の頭部に形成される頂版を示した斜視図である。
【
図5】
図1の構築方法の変形形態を示した一連の図である。
【
図6】本発明の第1の実施形態に係る壁体構造物の構築方法において、第1裏込材の投入工程、拘束装置の設置工程、および第2裏込材の投入工程におけるハット形鋼矢板に作用する曲げモーメントの変化を説明するための一連の図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る壁体構造物の構築方法を示した一連の図である。
【
図8】
図7に示した構築方法によって構築された壁体構造物を模式的に示した断面図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態に係る壁体構造物の構築方法において、第1裏込材の投入工程、拘束装置の設置工程、および第2裏込材の投入工程におけるハット形鋼矢板に作用する曲げモーメントの変化を説明するための一連の図である。
【
図10】本発明の第2の実施形態に係る構築方法によって構築された壁体構造物の変形形態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1の実施形態)
次に図面を参照して、本発明の好ましい実施形態に係る壁体構造物の構築方法について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る壁体構造物の構築方法を示した一連の図、
図2は、
図1に示した構築方法によって構築された壁体構造物10を模式的に示した断面図である。
図1及び
図2に示される壁体構造物10は、いわゆる控え工式鋼矢板壁と称される壁体構造物である。
【0024】
最初に、壁体構造物10を構築しようとする地盤に、盛土12を築堤する(
図1(a)参照)。盛土12は、後述する壁体14の施工時における壁体14の自立安定性を確保するとともに、後述する第1裏込材18の一部となる。盛土12は、土砂、石材、改良土、スラグ、又は経時硬化性材料のうち少なくとも1種以上の材料によって形成される。
【0025】
次いで、盛土12が築堤された地盤に、互いに嵌合された多数の壁体構成部材16によって形成される壁体14を埋設する(
図1(b)参照)。
【0026】
壁体構成部材16としては、例えばハット形鋼矢板16が用いられる。ハット形鋼矢板16は、
図3(a)に示されるように、土水圧等の荷重が作用した場合に主として曲げモーメントに抵抗するフランジ16a、アーム部16b及び継手部16cと、主としてせん断力に抵抗するウェブ16dとを有している。より詳細に説明すると、ハット形鋼矢板16では、フランジ16aの両縁部から外方に向かって拡がるように一対のウェブ16dがそれぞれ連続して配置され、各ウェブ16dにフランジ16aと略平行になるようにアーム部16bがそれぞれ連続して配置されており、各アーム部16bに継手部16cがそれぞれ連続して設けられている。
【0027】
ハット形鋼矢板16の継手部16cの一方には上方開口爪16c1が形成され、継手部16cの他方には下方開口爪16c2が形成されている。上方開口爪16c1と下方開口爪16c2は、互いに相補する形状に形作られており、一方のハット形鋼矢板16の継手部16cの上方開口爪16c1に、隣接する他方のハット形鋼矢板16の継手部16cの下方開口爪16c2を嵌め込むことによって、或いは、一方のハット形鋼矢板16の継手部16cの下方開口爪16c2に、隣接する他方のハット形鋼矢板16の継手部16cの上方開口爪16c1を嵌め込むことによって、所望の枚数のハット形鋼矢板16を嵌合させることができる。
図3(b)は、ハット形鋼矢板16の継手部の嵌合個所を示した拡大図である。
【0028】
壁体14の下方部が埋設される地盤には、改良土によって形成される地盤も含まれる。壁体14の地盤への埋設は、バイブロハンマを用いた振動貫入や油圧圧入装置による圧入貫入によって行われる。
【0029】
次いで、壁体14の背面側に第1裏込材18を投入して、所定形状に均す(
図1(c)参照)。第1裏込材18の投入の影響により、壁体14は、詳細には後述するように、外側に変形することとなる。なお、投入材として、土砂、石材、改良土、スラグ、又は経時硬化性材料のうち少なくとも1種以上の材料が用いられる。投入材として、ハット形鋼矢板16の外側に位置する盛土12を利用してもよい。
【0030】
次いで、必要に応じて、ハット形鋼矢板16の所定部位に構造物延長方向通し材である腹起20を設置する。
【0031】
次いで、壁体14の側方変位を拘束する拘束装置22を壁体14に設置する(
図1(d)参照)。
図1(d)に示される拘束装置22は、壁体14から所定距離隔てて壁体14の背面側に埋設された根入れ部材22aと、第1裏込材18の天端よりも上方の個所においてハット形鋼矢板16と根入れ部材22aとを連結する連結材22bとを有する。連結材22bとしては、例えば、タイロッドやタイワイヤー等の抗張力部材が用いられる。
【0032】
なお、腹起20及び連結材22bを設置する際に、第1裏込材18を足場として利用することができる。連結材22bを設置する段階では、壁体14は、上述のように、第1裏込材18の投入の影響により外側に変形している。この変位を残留させたまま、連結材22bを設置すると、連結材22bに発生する張力は、連結材22bの自重や施工管理上導入する締め付け力の影響を除けば、実質的にゼロである。したがって、連結材22bに発生する張力は、第2裏込材18を充填した以降の影響により発生する張力となり、従来の壁体構造物の構築方法と比べると、最終的に連結材22bに発生する張力が小さくなる。
【0033】
次いで、第1裏込材18の表面より上方の空間に投入材を投入し、所定形状に均して第2裏込材18aとする(
図1(e)参照)。投入材として、土砂、石材、改良土、スラグ、又は経時硬化性材料のうち少なくとも1種以上の材料が用いられる。投入材として、ハット形鋼矢板16の外側に位置する盛土12を利用してもよい。また、第2裏込材18aの表面には、第2裏込材18aの沈下対策として、上げ越しを施してもよい。なお、
図1(e)及び
図1(f)では、第2裏込材18aが単一の層として図示されているが、第2裏込材18aを複数の層から構成してもよい。
【0034】
次いで、壁体14の背面側の盛土12、第1裏込材18、第2裏込材18aがない空間に、埋立材24を投入する(
図1(e)参照)。なお、必要に応じて、壁体14の前面側に位置する盛土12(
図1(f)において破線で図示)を取り除いてもよい。
【0035】
図4(a)~
図4(c)は、壁体構造物10の上部工26の例を示した図である。すなわち、
図4(a)に示される形態では、壁体14の頭部に、壁体14の延長方向に延びるように第1頭部連結材26aを設置し、根入れ部材20aの頭部に、第1頭部連結材26と平行に延びるように第2頭部連結材26bを設置し、第1頭部連結材26aと第2頭部連結材26bとの間に保護材(コンクリート等)26cを配置することによって、壁体構造物10の上部が補強されている。また、
図4(b)に示される形態では、複数本の断面方向連結材26dによって、第1頭部連結材26aと第2頭部連結材26bが連結され、
図4(a)の形態よりもさらに強固な剛結構造となっている。さらに、
図4(c)に示される形態では、壁体14と根入れ部材20aの頭部がコンクリート製の頂版26eで連結され、壁体構造物10の上部が補強されている。
【0036】
図4(a)~
図4(c)に例示されるような上部工26を設ける代わりに又は
図4(a)及び
図4(b)に例示されるような上部工26に加えて、埋立材24の表面に、埋立材24を保護するための保護工(図示せず)を設けてもよい。保護工としては、現場施工コンクリート、プレキャストコンクリート版、又は鋼板が用いられる。
【0037】
壁体14の外側に位置する盛土12を一部又は全部撤去することにより、壁体構造物10が完成する(
図1(f)参照)。
図1(f)では、壁体14の外側に位置する盛土12が撤去された状態が破線で図示されている。壁体14の外側に位置する盛土12を一部又は全部撤去する前に、当該盛土12の上面を作業足場として利用して上部工26を施工してもよい。なお、盛土12を残置することもありうる。盛土12の取り扱いは、計画設計条件に依存する。
【0038】
図6は、第1裏込材18の投入工程、拘束装置22の設置工程、および第2裏込材18aの投入工程におけるハット形鋼矢板16に作用する曲げモーメントの変化を説明するための一連の図である。
図6では、設計地盤面より上方の曲げモーメントのみを描いている。第1裏込材18が投入され、所定形状に均された状態では、ハット形鋼矢板16には、
図6(a‐2)に示されるような土圧が作用することにより、ハット形鋼矢板16は、外側(前面側)に変形するが、その際にハット形鋼矢板16に作用する曲げモーメントは、
図6(a‐3)に示される通りである(なお、ハット形鋼矢板16の外側に位置する盛土12を除去した場合には、ハット形鋼矢板16の変形は、一層大きくなる)。拘束装置22が設置される(
図6(b‐1))と、連結材22bの設置個所におけるハット形鋼矢板16の側方変位が拘束されるので、当該箇所に支点が設けられた構造モデル(
図6(b‐2))と同等とみなされる。この状態で第2裏込材18aが投入され所定形状に均される(
図6(c‐1))と、ハット形鋼矢板16には、
図6(c‐2)に示されるような土圧が作用する(
図6(c‐2)においてハッチングは、
図6(a‐2)における土圧を示す)が、その際にハット形鋼矢板16に作用する曲げモーメントは、
図6(c‐3)に示される通りである。
図6(a‐3)と
図6(c‐3)を重ね合わせると、
図6(d‐1)の状態においてハット形鋼矢板16に作用する曲げモーメントが得られる(
図6(d‐2)参照)。
【0039】
上記の構築方法の効果についてより詳細に説明する。第1裏込材18の投入・均し作業が行われるときには、壁体14の上部には拘束装置22(連結材22b)による支持がなく、いわゆる自立壁状態になっており、この状態に対応した応答(変形、曲げモーメント分布等)を呈している。拘束装置22が設置されると、第2裏込材18aの投入・均し作業が行われるが、この時点では、壁体14の上部は拘束装置22によって側方変位が拘束されている。そのため、第2裏込材18aの投入・均し作業においては、拘束装置22により側方変位が拘束された状態に対応した応答(変形、曲げモーメント分布等)を呈することとなる。そして、自立壁状態時の応答と、拘束装置22による側方変位拘束時の応答とを合成した応答が、最終的な壁体14の応答(変形、曲げモーメント分布等)となる。壁体14の壁高部分の殆どの範囲において、曲げモーメント分布の向きは、自立壁の状態と側方変位拘束時の状態とでは異なるため、合成された曲げモーメントは、かなり小さなものとなる(
図6(d‐2)参照)。また、連結材22bには、第1裏込材18の投入・均しに起因する張力の発生がないため、連結材22bに最終的に発生する張力もかなり小さくなる。このため、壁体構造物10の安全性を高めることができる。さらに、拘束装置22を設置する前に第1裏込材18の投入・均し作業を行うため、第1裏込材18の均し作業時には当該作業の障害となる連結材22bが存在せず、効率的な均し作業が可能になるとともに、均し機械の選択の自由度も大きくなる。
【0040】
上述の実施形態では、壁体構造物10を構築しようとする地盤に盛土12が築堤されているが、盛土12を設けなくともよい。
図5は、盛土12が設けられていない場合における壁体構造物10の構築方法を示した一連の図である。
【0041】
すなわち、互いに嵌合された多数の壁体構成部材16によって形成される壁体14を、地盤に埋設する(
図5(a)参照)。次いで、壁体14の背面側に、所定高さまで投入材を投入し所定形状に均して、第1裏込材18とする(
図5(b)参照)。次いで、必要に応じて、ハット形鋼矢板の所定部位に構造物延長方向通し材である腹起20を設置する。次いで、壁体14の側方変位を拘束する拘束装置22を壁体14に設置する(
図1(c)参照)。
図1(c)に示される拘束装置22は、壁体14から所定距離隔てて壁体14の背面側に埋設された根入れ部材22aと、第1裏込材18の天端よりも上方の個所においてハット形鋼矢板16と根入れ部材22aとを連結する連結材22bとを有する。連結材22bとしては、例えば、タイロッドやタイワイヤー等の抗張力部材が用いられる。次いで、第1裏込材18の表面より上方の空間に投入材を投入し所定形状に均して第2裏込材18aとする(
図5(d)参照)。次いで、壁体14の背面側の第1裏込材18、第2裏込材18aがない空間に、埋立材24を投入する(
図1(d)参照)。最後に、任意的ではあるが、第2裏込材18a及び埋立材24の表面に、第2裏込材18a及び埋立材24を保護するための保護材26cを設ける(
図5(e)参照)。なお、盛土を設けない形態においても、盛土を設ける上記形態と同様に、上部工26を設置してもよい。
【0042】
盛土12を設けない形態でも、盛土12を設ける形態と同様に、第1裏込材18及び第2裏込材18aの材料となる投入材として、土砂、石材、改良土、スラグ、又は経時硬化性材料のうち少なくとも1種以上の材料が用いられる。
【0043】
盛土12を設けない形態においても、盛土12を設ける形態と同様に、壁体構造物10の安全性を高めることができるとともに、効率的な均し作業が可能になり、均し機械の選択の自由度も大きくなる。
【0044】
(第2の実施形態)
図7は、本発明の第2の実施形態に係る壁体構造物の構築方法を示した一連の図、
図8は、
図7に示した構築方法によって構築された壁体構造物30を模式的に示した断面図である。
図7及び
図8に示される壁体構造物30は、いわゆる水中ストラット式鋼矢板壁と称される壁体構造物である。
【0045】
最初に、壁体構造物30を構築しようとする地盤に、盛土32を築堤する(
図7(a)参照)。盛土32は、後述する壁体34の施工時における壁体34の自立安定性を確保するとともに、後述する第1裏込材38の一部となる。盛土32は、盛土12と同様に、土砂、石材、改良土、スラグ、又は経時硬化性材料のうち少なくとも1種以上の材料によって形成される。
【0046】
次いで、盛土32が築堤された地盤に、互いに嵌合された多数の壁体構成部材36によって形成される壁体34を、所定個所に埋設する(
図7(b)参照)。壁体構成部材36としては、壁体構造物10の場合と同様に、例えばハット形鋼矢板が用いられる。
【0047】
壁体34の下方部が埋設される地盤には、改良土によって形成される地盤も含まれる。壁体34の地盤への埋設は、バイブロハンマを用いた振動貫入や油圧圧入装置による圧入貫入によって行われる。
【0048】
次いで、壁体34の背面側に第1裏込材38を投入して、所定形状に均す(
図7(c)参照)。第1裏込材38の投入の影響により、壁体34は、外側に変形することとなる。
【0049】
次いで、必要に応じて、ハット形鋼矢板36の所定部位に構造物延長方向通し材である腹起40を設置する。
【0050】
次いで、壁体34の側方変位を拘束する拘束装置42を壁体34に設置する(
図7(d)参照)。
図7(d)に示される拘束装置42は、壁体34から所定距離隔てて壁体34の前面側に埋設された根入れ部材42a(例えば、鋼管杭)と、壁体34の頭部と根入れ部材42aの頭部を連結する連結構造物42bとを有し、壁体34と根入れ部材42aと連結構造物42bから形成されたラーメン構造を補強するための補強部材42cが根入れ部材40aの所定部位と連結構造物42bの所定個所を接続している。
【0051】
図8(b)は、
図8(a)において線8b‐8bに沿って見た図であり、根入れ部材42aと補強部材42cとの接合部の詳細を示したものである。
図8(b)に示される接合部は、補強部材42cの一端に溶接にて固定されたさや管42a1が根入れ部材42aの所定部位に嵌挿され、さや管42a1と根入れ部材42aとの間の空間にモルタルが充填されたものである。なお、
図8(b)に示される接合部は例示的なものであり、補強部材42cを根入れ部材42aに強固に固定することができるものであれば、他の形態を採用してもよい。
【0052】
なお、腹起40及び拘束装置42の連結構造物42bを設置する際に、第1裏込材38を足場として利用することができる場合がある。拘束装置42を設置する段階では、壁体34は、上述のように、第1裏込材38の投入の影響により外側に変形している。
【0053】
次いで、第1裏込材38の天端より上方の空間に投入材を投入し、所定形状に均して第2裏込材38aとする(
図7(e)参照)。投入材として、土砂、石材、改良土、スラグ、又は経時硬化性材料のうち少なくとも1種以上の材料が用いられる。投入材として、ハット形鋼矢板36の外側に位置する盛土32を利用してもよい。また、第2裏込材38aの表面には、第2裏込材38aの沈下対策として、上げ越しを施してもよい。なお、
図7(e)及び
図7(f)では、第2裏込材38aが単一の層として図示されているが、第2裏込材18aを複数の層から構成してもよい。
【0054】
次いで、壁体34の背面側の盛土32、第1裏込材38、第2裏込材38aがない空間に、埋立材44を投入する(
図7(e)参照)。なお、必要に応じて、壁体34の前面側に位置する盛土32(
図7(c)~
図7(f)において破線で図示)を取り除いてもよい。
【0055】
壁体構造物30にも、壁体構造物10と同様に、埋立材44を保護するための保護材46cを埋立材44の表面に設けてもよい。保護材46cとしては、現場施工コンクリート、プレキャストコンクリート版、又は鋼板が用いられる。
【0056】
壁体34の外側に位置する盛土32を一部又は全部撤去することにより、壁体構造物30が完成する。
図7(f)では、壁体34の外側に位置する盛土32が撤去された状態が破線で図示されている。なお、盛土32を残置することもありうる。盛土32の取り扱いは、計画設計条件に依存する。
【0057】
図9は、第1裏込材38の投入工程、拘束装置42の設置工程、および第2裏込材38aの投入工程におけるハット形鋼矢板36に作用する曲げモーメントの変化を説明するための一連の図である。
図9では、設計地盤面より上方の曲げモーメントのみを描いている。第1裏込材38が投入され、所定形状に均された状態では、ハット形鋼矢板36には、
図9(a‐2)に示されるような土圧が作用することにより、ハット形鋼矢板36は、外側(前面側)に変形するが、その際にハット形鋼矢板36に作用する曲げモーメントは、
図9(a‐3)に示される通りである(なお、ハット形鋼矢板36の外側に位置する盛土32を除去した場合には、ハット形鋼矢板36の変形は、一層大きくなる)。拘束装置42が設置される(
図9(b‐1))と、拘束装置42の設置個所におけるハット形鋼矢板36の側方変位が拘束されるので、当該箇所に支点が設けられた構造モデル(
図9(b‐2))と同等とみなされる(厳密に言うと、側方変位のみを拘束する拘束装置22とは異なり、拘束装置42の設置個所は剛結またはそれに近い状態になるが、簡単化のため、単純支持点が設けられた構造モデルとみなす)。この状態で第2裏込材38aが投入され所定形状に均される(
図9(c‐1))と、ハット形鋼矢板36には、
図9(c‐2)に示されるような土圧が作用する(
図9(c‐2)においてハッチングは、
図9(a‐2)における土圧を示す)が、その際にハット形鋼矢板36に作用する曲げモーメントは、
図9(c‐3)に示される通りである。
図9(a‐3)と
図9(c‐3)を重ね合わせると、
図9(d‐1)の状態においてハット形鋼矢板36に作用する曲げモーメントが得られる(
図9(d‐2)参照)。
【0058】
上記の構築方法の効果についてより詳細に説明する。第1裏込材38の投入・均し作業が行われるときには、壁体34の上部には拘束装置42による支持がなく、いわゆる自立壁状態になっており、この状態に対応した応答(変形、曲げモーメント分布等)を呈している。拘束装置42が設置されると、第2裏込材38aの投入・均し作業が行われるが、この時点では、壁体34の上部は拘束装置42によって、少なくとも側方変位が拘束されている。そのため、第2裏込材38aの投入・均し作業においては、拘束装置42により側方変位が拘束された状態に対応した応答(変形、曲げモーメント分布等)を呈することとなる。そして、自立壁状態時の応答と、拘束装置42による側方変位拘束時の応答とを合成した応答が、最終的な壁体34の応答(変形、曲げモーメント分布等)となる。壁体34の壁高部分の殆どの範囲において、曲げモーメント分布の向きは、自立壁の状態と側方変位拘束時の状態とでは異なるため、合成された曲げモーメントは、かなり小さなものとなる(
図9(d‐2)参照)ので、壁体構造物30の安全性を高めることができる。
【0059】
上述の実施形態では、壁体構造物30を構築しようとする地盤に盛土32が築堤されているが、壁体構造物10の場合と同様に、盛土32を設けなくともよい。
【0060】
盛土32を設けない形態でも、第1裏込材38及び第2裏込材38aの材料となる投入材として、土砂、石材、改良土、スラグ、又は経時硬化性材料のうち少なくとも1種以上の材料が用いられる。盛土32を設けない形態においても、盛土32を設ける形態と同様に、壁体構造物30の安全性を高めることができる。
【0061】
図10は、本発明の第2の実施形態に係る構築方法によって構築された壁体
構造物30の変形形態を示した図である。すなわち、
図10(a)に示される壁体構造物30は、いわゆる後方斜め支え式鋼矢板と称される壁体構造物であり、拘束装置42は、壁体34の背面側に埋設された根入れ部材42a(例えば、鋼管杭)と、壁体34の頭部と根入れ部材42aの頭部を連結する連結構造物42bとを有する。また、
図10(b)に示される壁体構造物30は、いわゆる前方斜め支え杭式鋼矢板壁と称される壁体構造物であり、拘束装置42は、壁体34の前面側に埋設された根入れ部材42aと、壁体34の頭部と根入れ部材42aの頭部を連結する連結構造物42bと、壁体の前面側に斜めに埋設され、頭部が連結構造物42bに固定された補強部材42cとを有する。
【0062】
上述の第1及び第2の実施形態では、壁体構成部材16、36としてハット形鋼矢板が用いられているが、ハット形鋼矢板以外の鋼矢板(U形鋼矢板、Z形鋼矢板、BOX形鋼矢板など)、鋼管矢板(円形鋼管矢板、角形鋼管矢板)、軽量鋼矢板、箱型矢板、又はコンクリート矢板(溝形コンクリート矢板、波形コンクリート矢板)であって、嵌合継手を有するものを壁体構成部材16、36として用いてもよい。
【0063】
本発明は、以上の発明の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0064】
例えば、前記実施形態では、控え工式鋼矢板壁、水中ストラット式鋼矢板壁等を例にして壁体構造物の構築方法について説明されているが、壁体の側方変位を拘束する拘束装置を備える壁体構造物であれば、他の型式の壁体構造物についても本発明の構築方法を適用することができる。
【0065】
また、図示されている裏込材の層の形状や構成要素の細部は、単なる例示的なものにすぎず、これらの形状や細部を修正してもよい。
【符号の説明】
【0066】
10 壁体構造物(第1の実施形態)
12 盛土
14 壁体
16 壁体構成部材(ハット形鋼矢板)
18 第1裏込材
18a 第2裏込材
20 腹起
22 拘束装置
22 根入れ部材
22b 連結材
24 埋立材
26 上部工
26a 第1頭部連結材
26b 第2頭部連結材
26c 保護材
26d 断面方向連結材
26e コンクリート製の頂版
30 壁体構造物(第2の実施形態)
32 盛土
34 壁体
36 壁体構成部材(ハット形鋼矢板)
38 第1裏込材
38a 第2裏込材
40 腹起
42 拘束装置
42a 根入れ部材
42b 連結構造物
42c 補強部材
44 埋立材
46c 保護材