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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022070412
(43)【公開日】2022-05-13
(54)【発明の名称】揚重装置
(51)【国際特許分類】
   B66B 9/02 20060101AFI20220506BHJP
   B66B 9/187 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
B66B9/02 A
B66B9/187
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020179465
(22)【出願日】2020-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391028889
【氏名又は名称】三成研機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】599016110
【氏名又は名称】株式会社エスシー・マシーナリ
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 忍
(72)【発明者】
【氏名】古口 光
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 豊
(72)【発明者】
【氏名】浅野 毅
(72)【発明者】
【氏名】下坪 章光
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 克弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 廣次
(72)【発明者】
【氏名】山 尚史
(72)【発明者】
【氏名】本保 裕文
【テーマコード(参考)】
3F301
【Fターム(参考)】
3F301AA13
3F301BA08
3F301DD02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】稼働時の騒音を大幅に低減することができるラックピニオン駆動方式を有する揚重装置を提供する。
【解決手段】鉛直方向に沿って敷設され、ラックギアが形成されたラックレールRと、ラックギアに噛合するピニオンギアPを回転駆動する少なくとも1つの駆動部20と、運搬用スペースが設けられ、駆動部20により駆動されてラックレールRを昇降する移動部2と、移動部2に固定され駆動部20を覆うように形成されたカバー部と、を備えることを特徴とする、揚重装置である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に沿って敷設され、ラックギアが形成されたラックレールと、
前記ラックギアに噛合するピニオンギアを回転駆動する少なくとも1つの駆動部と、
運搬用スペースが設けられ、前記駆動部により駆動されて前記ラックレールを昇降する移動部と、
前記移動部に固定され前記駆動部を覆うように形成されたカバー部と、を備えることを特徴とする、揚重装置。
【請求項2】
前記移動部は、
前記ラックレールを走行する昇降枠と、
前記昇降枠に設けられ前記運搬用スペースが形成されたケージと、
前記移動部は、前記昇降枠に設けられ前記駆動部を支持する駆動枠と、を備え、
前記カバー部は、前記駆動枠を形成する枠体の各開口を覆う複数の板状部材を備える、
請求項1に記載の揚重装置。
【請求項3】
複数の前記板状部材により前記駆動部の一部を覆うように箱状に形成された箱部材を備える、
請求項2に記載の揚重装置。
【請求項4】
前記板状部材は、弾性部材により板状に形成された制震板を備える、
請求項2から3のうちいずれか1項に記載の揚重装置。
【請求項5】
前記板状部材は、
前記制震板において前記駆動部に面した一面側に貼付された吸音材と、
前記制震板の他面側に貼付された騒音を遮音する遮音材と、を備える、
請求項4に記載の揚重装置。
【請求項6】
前記カバー部は、前記駆動枠を形成する枠体の各開口のうち前記ピニオンギア及び前記ラックレールを覆うように形成されたギアカバー部材を備える、
請求項2から5のうちいずれか1項に記載の揚重装置。
【請求項7】
前記ギアカバー部材は、前記ラックレールの軸方向に沿って分割されている、
請求項6に記載の揚重装置。
【請求項8】
分割された前記ギアカバー部材における隙間を遮蔽する遮蔽部材を備える、
請求項7に記載の揚重装置。
【請求項9】
前記ギアカバー部材と前記ピニオンギアとの間の距離を調整自在な固定部材を備える、
請求項6から8のうちいずれか1項に記載の揚重装置。
【請求項10】
前記カバー部と前記駆動枠との接合部に弾性を有する充填材が充填されている、
請求項2から9のうちいずれか1項に記載の揚重装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自体の駆動力によって昇降する揚重装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、建設現場において仮設される工事用エレベータ(揚重装置)は、ラックピニオン駆動方式により昇降する機構を採用するものが多い。この駆動方式を備える揚重装置は、作業員や資機材を搭載するケージを備え、ケージは、複数の駆動装置を有する昇降フレームに支持されている。複数の駆動装置の出力軸には各々ピニオンギアが取り付けられている。各ピニオンギアは、ラックギアが形成されたラックレールに噛合している。複数の駆動装置は、各ピニオンギアを回転駆動してケージが支持された昇降フレームを昇降させる。
【0003】
この揚重装置によれば、自体の駆動力により昇降することができ、工事の進捗状況に合わせて鉛直方向にラックレールを継ぎ足せば昇降範囲を延長することができる。更にこの揚重装置によれば、ラックレールを継ぎ足す際に、駆動装置の制動装置を作動させることで任意の位置に昇降フレームを停止させておくことができる。このように上記揚重装置は、簡素且つ安価な構成を備えつつも信頼性が高いことから、主流となりつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-284179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の揚重装置によれば、減速機の出力軸に直接ピニオンギアが取付けられて駆動装置が構成されている。駆動装置は、昇降フレームの下部に剛接される。ピニオンギアとラックレールとは、確実に噛合させるために高い精度の位置関係が求められる。そのため、ラックギアの形成面と反対側のラックレールの背部には、ピニオンギアと協働してラックレールを挟持するアジャストローラが配置され、ピニオンギアとラックレールとの間に一定のバックラッシュが確保されるように調整されている。
【0006】
また複数台の駆動装置のピニオンギアがラックレールと適正な形で正対することが必要とされ、揚重装置の上下に設けられたガイドローラアッセンブリにより、芯調整が行われることにより昇降フレームの姿勢が調整し対応されている。ただし、工事進捗に合わせて積み上げられるラックレールの鉛直精度、上記ケージの姿勢精度確保には限界があり、本来ラックピニオンに求められるような数百ミクロンのオーダには収め切れない状況にある。
【0007】
そのためラックピニオン部は、大きな転動音が発生すると共に、加振源となり、駆動軸を介して構成部材を振動させている。昇降機には、乗降用のケージが直結されており、加振源から振動が伝達される。ケージに伝達される振動は乗り心地の悪化に直結すると共に、ケージから振動が放射される。ケージから放射される振動は、ケージの放射面積が大きいため、大きな個体伝搬音を生じさせる。
【0008】
上記要因により、ラックピニオン駆動式の揚重装置は、非常に大きな騒音を発生することが課題となる。大型の工事用揚重装置の場合ではケージ内外近傍で100dBを超える場合があり、騒音を低減することが求められている。ラックピニオン駆動式の揚重装置は、空中伝搬するラックピニオン接触部の転動音、インバータの高調波音、ラックピニオンの振動に起因する駆動装置のうなり音、ケージ等の固体伝搬音等が音源となり大きな騒音を発生することが知られている。
【0009】
本発明は、稼働時の騒音を大幅に低減することができるラックピニオン駆動方式を有する揚重装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達するために、本発明は、自体の駆動力によって昇降する揚重装置であって、鉛直方向に沿って敷設され、ラックギアが形成されたラックレールと、前記ラックギアに噛合するピニオンギアを回転駆動する少なくとも1つの駆動部と、運搬用スペースが設けられ、前記駆動部により駆動されて前記ラックレールを昇降する移動部と、前記移動部に固定され前記駆動部を覆うように形成されたカバー部と、を備えることを特徴とする揚重装置である。
【0011】
本発明によれば、カバー部が駆動部を覆うように形成されていることにより、稼働時に駆動部から発生する機械騒音で最も支配的とされる、電動機騒音を遮断することができる。
【0012】
本発明の前記移動部は、前記ラックレールを走行する昇降枠と、前記昇降枠に設けられ前記運搬用スペースが形成されたケージと、前記移動部は、前記昇降枠に設けられ前記駆動部を支持する駆動枠とを備え、前記カバー部は、前記駆動枠を形成する枠体の各開口を覆う複数の板状部材を備えていてもよい。
【0013】
本発明によれば、カバー部が備える複数の板状部材が枠体の各開口を覆うように形成されているため、枠体への設置工程を簡略化することができる。
【0014】
また、本発明は、複数の前記板状部材により前記駆動部の一部を覆うように箱状に形成された箱部材を備えていてもよい。
【0015】
本発明によれば、枠体の開口から突出した器材があっても器材を覆う箱状の形状のカバー部材の製作工程及び設置工程を簡略化することができる。
【0016】
本発明の前記板状部材は、弾性部材により板状に形成された制震板を備えていてもよい。
【0017】
本発明によれば、板状部材において板状の制震板が撓んで枠体に伝搬する振動による、カバー部から外部に伝搬する音響放射を防止することができる。
【0018】
本発明の前記板状部材は、前記制震板において前記駆動部に面した一面側に貼付された吸音材と、前記制震板の他面側に貼付された騒音を遮音する遮音材と、を備えていてもよい。
【0019】
本発明によれば、音源に近い板状部材において吸音材と、遮音材とを貼付することにより、防音効果を高めることができる。
【0020】
本発明の前記カバー部は、前記駆動枠を形成する枠体の各開口のうち前記ピニオンギア及び前記ラックレールを覆うように形成されたギアカバー部材を備えていてもよい。
【0021】
本発明によれば、ギアカバー部材が音源となるピニオンギアとラックレールを覆うように形成されているため、ピニオンギアとラックレールにおいて発生する転動音や接触音の空気伝搬を抑制することができる。
【0022】
本発明の前記ギアカバー部材は、前記ラックレールの軸方向に沿って分割されていていてもよい。
【0023】
本発明によれば、ピニオンギアとラックレールの近傍の部材が入り組んだ狭小部分に対してもギアカバー部材が分割されているので、現場での作業性を損なうことなく簡便に取り付けることができる。
【0024】
本発明は、分割された前記ギアカバー部材における隙間を遮蔽する遮蔽部材を備えていてもよい。
【0025】
本発明によれば、分割された前記ギアカバー部材における隙間を遮蔽部材により遮蔽することで、ピニオンギアとラックレールにおいて発生する転動音や接触音の隙間から生じる空気伝搬を更に抑制することができる。
【0026】
本発明は、前記ギアカバー部材と前記ピニオンギアとの間の距離を調整自在な固定部材を備えていてもよい。
【0027】
本発明によれば、固定部材によりギアカバー部材とピニオンギアとの間の距離を調整することで、ピニオンギアとラックレールの近傍の部材が入り組んだ狭小部分に対してもピニオンギアが干渉すること無くギアカバー部材を容易に取り付けることができる。
【0028】
本発明は、前記カバー部と前記駆動枠との接合部に弾性を有する充填材が充填されていてもよい。
【0029】
本発明によれば、カバー部と駆動枠との接合部に弾性を有する充填材を充填することにより、カバー部における気密性を向上させると共に、防音性能を高めることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、ラックピニオン駆動方式を有する揚重装置の稼働時の騒音を大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施形態に係る揚重装置の構成の概略を示す側面断面図である。
図2】揚重装置の構成の概略を示す背面図である。
図3】レール用フレームの構成を示す斜視図である。
図4】カバー部の構成を示す斜視図である。
図5】カバー部の構成を示す斜視図である。
図6】カバー部の構成を示す斜視図である。
図7】ギアカバーの構成を示す斜視図である。
図8】板状部材の構成を示す断面図である。
図9】ギアカバーと板状部との取り付け状態を示す断面図である。
図10】カバー部と駆動枠5との取り付け状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る揚重装置の実施形態について説明する。実施形態に係る揚重装置は、自体の駆動力によって昇降する。
【0033】
図1から図2に示されるように、揚重装置1は、鉛直方向に沿って敷設されたラックレールRと、ラックレールRに沿って移動する移動部2とを備える。
【0034】
ラックレールRは、構造物の壁面W等に固定されたレール用フレームBに固定されている。以下、便宜上、壁面Wを正対する方向(図の-X方向)から見た面を正面と呼ぶ。レール用フレームBは、例えば、鉛直方向に延在するトラス構造を有する枠体に形成されている。レール用フレームBは、鉛直方向に所定距離の範囲においてモジュールB1化して構成されており、モジュールB1を上部に継ぎ足すことで上方に延長することができる。
【0035】
レール用フレームBの背面側は、壁面Wに固定部材Kを介して固定されている。レール用フレームBの正面側には、ラックレールRが固定されている。レール用フレームBの両側面には、鉛直方向に沿って延在する一対のガイドレールGが固定されている。ラックレールR及び一対のガイドレールGは、モジュールB1と同じ長さの単位に分割されている。ラックレールR及び一対のガイドレールGは、モジュールB1に固定され、モジュールB1の増設と共に増設され、上方に延長される。
【0036】
図3に示されるように、ラックレールRは、一側面側に平歯のラックギアR1が形成されている。ラックギアR1には、後述のようにピニオンギアが噛合する。ラックレールRの他側面側は、平坦に形成されている。ラックレールRの他側面側には、後述のようにアジャストローラが走行する。ピニオンギアとアジャストローラは、移動部2を支持すると共に、ラックレールRを挟持しながら上下方向に走行する。
【0037】
ガイドレールGは、ラックレールRと平行に設けられている。ガイドレールGは、複数のガイドローラDにより挟持されている。複数のガイドローラDは、後述のように移動部2に設けられ、移動部2を支持すると共に、上下方向の移動を案内する。
【0038】
移動部2は、運搬用スペースが設けられ、後述の駆動部により駆動されてラックレールRを昇降する。移動部2は、ラックレールRに沿って走行する昇降枠3を備える。昇降枠3は、正面視して矩形の枠体に形成されている。昇降枠3の四隅は、複数のガイドローラDを介してガイドレールGに支持される4個の支持部4を備える。
【0039】
支持部4は、例えば、ガイドレールGの正面側を支持する1個のガイドローラDと、ガイドレールGの背面側を支持する2個のガイドローラDと、ガイドレールGの側面側を支持する1個のガイドローラDと、を備える。支持部4は、4個のガイドローラDにより昇降枠3を支持すると共に、ガイドレールGを挟持しながら昇降枠3の上下方向の移動を案内する。
【0040】
昇降枠3には、運搬用スペースが形成されたケージ10が固定されている。昇降枠3とケージとの間は、弾性部材により形成された複数の第1固定部材E1により連結されている。これにより、昇降枠3に発生した振動がケージ10に伝搬することが防止される。第1固定部材E1の構成については後述する。
【0041】
ケージ10は、箱型の枠体に形成されている。ケージ10は、軽量化を図るため壁面、床、天井、扉がグレーティングにより形成されている。昇降枠3において、ケージ10の下部は、支持枠3Aの上部に支持されている。
【0042】
支持枠3Aは、昇降枠3の正面方向に突出した箱形の枠体に形成されている。ケージ10と支持枠3Aとの間は、後述の複数の第1固定部材E1により連結されている。これにより、昇降枠3に発生した振動がケージ10に伝搬することが防止される。支持枠3Aの下方には、昇降枠3を昇降させる駆動部20を支持する駆動枠5が設けられている。
【0043】
駆動枠5は、昇降枠3の正面において支持枠3Aの枠内に固定されている。駆動枠5は、箱形の枠体に形成されている。駆動枠5と昇降枠3とは、後述の複数の連結部材Cにより支持されている。連結部材Cは、駆動枠5を昇降枠3に対して上下方向の所定範囲内に移動自在に支持する。駆動枠5と支持枠3Aとは、弾性部材により形成された複数の第2固定部材E2により連結されている。駆動枠5の上部と支持枠3Aの上部との間は、複数の第2固定部材E2により連結されている。駆動枠5の下部と支持枠3Aの下部との間は、複数の第2固定部材E2により連結されている。
【0044】
駆動枠5の内部には、少なくとも1つの駆動部20が固定されている。駆動部20は、駆動枠5に設けられた板状部6に固定されている。板状部6は、昇降枠3に正対する面に平行に取り付けられている。板状部6には、鉛直方向に沿って3個の円形の穴6Hが形成されている。駆動部20は、穴6Hから出力軸が突出するように板状部6に固定されている。
【0045】
駆動枠5において、例えば、3個の駆動部20が鉛直方向に沿って配置されている。駆動部20は、例えば、駆動源のモータ21を備える。モータ21の出力軸(不図示)には、回転数を低減すると共に、トルクを増大させて出力する減速機22が接続されている。減速機22の出力軸23には、ラックレールRのラックギアR1に噛合するピニオンギアPが接続されている。減速機22の出力軸とピニオンギアPとの間は、弾性部材により形成された継手部30により連結されている。継手部30については後述する。
【0046】
ピニオンギアPは、ラックレールRの一側面側のラックギアR1に噛合している。ラックレールRにおいて、ラックギアR1と反対側の他側面側には、ピニオンギアPに隣接してアジャストローラJが設けられている。
【0047】
アジャストローラJは、ピニオンギアPとラックギアR1との噛合におけるバックラッシュを確保するために設けられている。アジャストローラJとピニオンギアPとによりラックレールRを挟持する。ピニオンギアPが駆動部20により回転駆動され、ラックレールRのラックギアR1と噛合してラックレールRに沿って走行する際に、アジャストローラJは、ピニオンギアPとの間隔を保持してピニオンギアPがラックギアR1から逸脱することを防止する。
【0048】
ピニオンギアP及びアジャストローラJは、昇降枠3の上部にも設けられている。昇降枠3の上部に設けられたピニオンギアP及びアジャストローラJは、駆動部20により駆動されるものではなく、フリー回転するように設けられている。昇降枠3の上部におけるピニオンギアP及びアジャストローラJは、駆動部20により駆動されたピニオンギアPの駆動トルクにより発生する昇降枠3の回転を規制する。
【0049】
これにより、ガイドレールGに沿って走行する複数のガイドローラDにピニオンギアPの駆動トルクにより発生する昇降枠3の回転が伝達せず、移動部2の昇降が円滑に行われる。上記構成により、駆動部20は、ピニオンギアPを回転駆動することでラックレールRに沿って昇降することができる。
【0050】
次に、揚重装置1の振動、防音対策について説明する。
【0051】
図4から図6に示されるように、主な騒音の発生源である駆動部20は、カバー部40により覆われている。カバー部40は、駆動部20を覆う形状に形成されている。カバー部40が駆動部20を覆うことにより、揚重装置1の稼働時に駆動部20から発生する機械騒音で最も支配的とされる、電動機騒音を遮断する。
【0052】
カバー部40は、駆動枠5を形成する枠体の各開口を覆う複数の板状部材41-46を備える。駆動枠5は、例えば、L断面、H断面、矩形断面等の断面形状を有する枠部材5Aにより略直方体の枠状に形成されている。駆動枠5には、枠部材5Aに囲まれた複数の矩形の開口が形成されている。複数の板状部材41-46は、各開口の形状に合わせて矩形の板状に形成されている。各板状部材41-46は、面方向における開口の形状や数に応じて適宜分割されていてもよい。板状部材41,42は、駆動枠5の側方の開口を覆うように矩形の板状に形成されている。
【0053】
板状部材43は、駆動枠5の上方の開口を覆うように矩形の板状に形成されている。板状部材44は、駆動枠5の正面の開口を覆うように矩形の板状に形成されている。板状部材45は、駆動枠5の下面の開口を覆うように矩形の板状に形成されている。板状部材46は、駆動枠5の背面の開口を覆うように矩形の板状に形成されている。複数の板状部材41-46が駆動枠5の枠体の各開口を覆うように形成されているため、枠体への設置工程を簡略化することができる。
【0054】
駆動枠5の背面において、駆動枠5の枠体の開口から駆動部20の後部の一部が突出している。駆動枠5の背面においてカバー部40は、複数の板状部材により駆動枠5の枠体から突出した駆動部20の一部を覆うように箱状に形成された箱部材46Hを備える。箱部材46Hは、例えば、5枚の矩形の板状に形成された板状部材により形成されている。箱部材46Hは、例えば、正面が開口した箱状に形成されている。箱部材46Hは、内部空間に駆動枠5の枠体から突出した駆動部20の一部を収容する。
【0055】
箱部材46Hによれば、駆動枠5の枠体から突出した器材があっても、箱部材46Hを箱状の形状に形成する製作工程及び設置工程を簡略化することができる。上記構成により、駆動枠5は、カバー部40により防音される。カバー部40に覆われる空間は、駆動部20の放熱性及びメンテナンス性が考慮されたカバーリング容積に設定されている。
【0056】
駆動枠5の正面において、板状部6から複数のピニオンギアP、ラックレールRの一部、複数のアジャストローラJが突出している。駆動枠5の正面において、カバー部40は、複数のピニオンギアP、ラックレールRの一部、複数のアジャストローラJを覆うように形成されたギアカバー部材47を備える。ギアカバー部材47は、例えば、ラックレールRの軸方向に沿って分割されている。ギアカバー部材47は、例えば、複数のピニオンギアPを覆うように形成されたピニオンギアカバー48と、複数のアジャストローラJを覆うように形成されたアジャストローラカバー49とを備える。
【0057】
ピニオンギアカバー48は、例えば、複数のピニオンギアPを覆うように背面と両側面の一方の直交する2面が開口した箱状に形成されている。アジャストローラカバー49は、例えば、複数のアジャストローラJを覆うように背面と両側面の一方の直交する2面が開口した箱状に形成されている。ピニオンギアカバー48と、アジャストローラカバー49とは、開口が対向するように駆動枠5に固定されている。
【0058】
ギアカバー部材47によれば、音源となる複数のピニオンギアP、ラックレールRの一部、複数のアジャストローラJを覆うように形成されているため、ピニオンギアP、ラックレールRの一部、複数のアジャストローラJにおいて発生する転動音や接触音の空気伝搬を抑制することができる。
【0059】
ギアカバー部材47によれば、ピニオンギアカバー48と、アジャストローラカバー49とに分割されているため、駆動部分となるピニオンギアP、ラックレールRの一部、複数のアジャストローラJの配置関係やサイズ等の設計変更をせずに駆動枠5に取り付けることができる。ギアカバー部材47は、ピニオンギアカバー48と、アジャストローラカバー49とに分割されているため、移動部2がレール用フレームBに据え付けられた状態において駆動枠5に後付けにより取り付けることができる。
【0060】
ギアカバー部材47によれば、ピニオンギアカバー48と、アジャストローラカバー49とに分割されているため、ピニオンギアPとラックレールRの近傍の部材が入り組んだ狭小部分に対しても現場での作業性を損なうことなく簡便に取り付けることができる(図1参照)。
【0061】
図7に示されるように、ピニオンギアカバー48と、アジャストローラカバー49との間は、例えば、ラックレールRの幅に比して若干広い幅に離間して固定されている。ピニオンギアカバー48と、アジャストローラカバー49との間には、隙間が生じている。ギアカバー部材47は、ピニオンギアカバー48と、アジャストローラカバー49とに分割されて配置されて生じた隙間を遮蔽する遮蔽部材50を備える。遮蔽部材50は、例えば、テープ、ブラシ等により形成されている。
【0062】
遮蔽部材50にテープを用いる場合、ピニオンギアカバー48と、アジャストローラカバー49とが駆動枠5に固定された後に隙間を遮蔽するように貼付される。遮蔽部材50にブラシを用いる場合、ピニオンギアカバー48、アジャストローラカバー49の対向する一対の縁のいずれか一方或いは両方にブラシが設けられ、ピニオンギアカバー48と、アジャストローラカバー49とが駆動枠5に固定された後に隙間が遮蔽される。
【0063】
遮蔽部材50によれば、分割されたギアカバー部材47における隙間を遮蔽することで、駆動部分となるピニオンギアP、ラックレールRの一部、複数のアジャストローラJにおいて発生する転動音や接触音の隙間から生じる空気伝搬を抑制することができる。
【0064】
上述した各板状部材41-46、箱部材46Hを形成する各板状部材、ギアカバー部材47を構成する各板状部材は、例えば、制震板により形成されている。制震板は、例えば、ブチルゴム等の板状の弾性部材により形成されている。各板状部材41-46及び箱部材46Hを形成する各板状部材によれば、駆動枠5の枠体に振動が伝搬した状態において、板状の制震板が撓んで振動のエネルギーを吸収することにより、カバー部40から外部に伝搬する音響放射を防止することができる。
【0065】
図8に示されるように、各板状部材41-46、箱部材46Hを形成する各板状部材、ギアカバー部材47を構成する各板状部材は、制震板において駆動部20に面した一面側に貼付された吸音材Qと、制震板の他面側に貼付された騒音を遮音する遮音材Sと、を備える。駆動部20等の音源に近い各板状部材の一面側において吸音材Qは、空気中に伝搬する音波の振動を熱エネルギーに変換させる事で音を減衰させる。吸音材Qは、例えば、ウレタンスポンジ、グラスウール、フェルト等の素材を用いて形成されている。
【0066】
各板状部材の他面側において遮音材Sは、空気中を伝搬する音波を遮ると共に跳ね返し、外部に騒音を透過させずに遮音する。遮音材Sは、例えば、鉛等の密度が高い素材により形成されている。各板状部材に吸音材Qと、遮音材Sとを貼付することにより、防音効果を更に高めることができる。
【0067】
図9に示されるように、ギアカバー部材47(ピニオンギアカバー48)は、固定部材Lにより板状部6に固定されている。固定部材Lは、ピニオンギアPとの間の距離を調整自在とするように形成されている。固定部材Lは、例えば、L断面形状に形成された棒状の部材である。固定部材Lは、鉛直方向に沿って板状部6に溶接やボルト及びナット(不図示)により固定されている。固定部材Lは、平面視して板状部6に沿って固定される帯状の第1板状部L1と、第1板状部L1に直交する第2板状部L2とを備える。
【0068】
第2板状部L2には、水平方向に沿って長穴LHが形成されている。固定部材とギアカバー部材47とは、ボルトX及びナットYにより固定されている。ギアカバー部材47は、ボルトXを固定部材Lの長穴LHに沿って移動させ、ナットYを締めて固定することで水平方向におけるピニオンギアPとの間の距離を調整することができる。
【0069】
固定部材によれば、ギアカバー部材47とピニオンギアPとの間の距離を調整することで、ピニオンギアPとラックレールRの近傍の部材が入り組んだ狭小部分に対してもピニオンギアPが干渉すること無くギアカバー部材を容易に取り付けることができる。固定部材Lは、ピニオンギアカバー48について図示している。固定部材Lは、ピニオンギアカバー48と同様に49を板状部6に固定するためにも用いられる。
【0070】
図10に示されるように、板状部材41-46、箱部材46Hを形成する各板状部材は、固定部材Zにより駆動枠5の枠部材5Aに固定されている。固定部材Zは、例えば、L断面形状に形成された棒状の部材である。固定部材Zは、鉛直方向に沿って枠部材5Aに溶接やボルト及びナット(不図示)により固定されている。固定部材Zは、枠部材5Aに沿って固定される帯状の第1板状部Z1と、第1板状部Z1に直交する第2板状部Z2とを備える。固定部材Zが枠部材5Aに固定された状態において、第2板状部Z2は、各板状部材41-46の接合部となる。各板状部材41-46は、第2板状部Z2との間に弾性を有する充填材Tが充填される。充填材Tは、例えば、硬化型のシリコン充填材である。硬化前の液状の充填材Tは、例えば、各板状部材41-46が取り付けられる前に、第2板状部Z2の接合面側に塗布される。
【0071】
第2板状部Z2に各板状部材41-46が取り付けられると、第2板状部Z2と各板状部材41-46との間に充填材Tが隙間なく広がる。はみ出た充填材Tは拭き取られる。所定時間が経過すると、充填材Tは、硬化し弾性体となる。即ち、カバー部40と駆動枠5との接合部に弾性を有する充填材を充填することにより、カバー部40と駆動枠5との間には隙間が無く密着し、カバー部40における気密性を向上させると共に、振動を吸収して防音性能を高めることができる。
【0072】
上述したように揚重装置1によれば、安価で且つ、簡易的なカバー部40の固定方法を用いて騒音を大幅に低減できる。揚重装置1によれば、防音に用いる構成を簡素化することで、重量の増加を低減し、積載重量に大きな影響を与えること無く騒音を大幅に低減できる。揚重装置1によれば、駆動部20の放熱性及びメンテナンス性を考慮してカバーリング容積としている。揚重装置1によれば、カバー部40に覆われる空間が所定の容積に設定されていることにより、駆動部20の放熱性を確保すると共に、メンテナンス性をも確保することができる。
【0073】
揚重装置1によれば、駆動枠5、駆動部20、ピニオンギアP、ラックレールR、アジャストローラJ等の設計変更をせずにカバー部40を取り付けることができ、施工性を向上することができる。揚重装置1によれば、移動部2をレール用フレームBに据え付けた状態においてカバー部40を取り付けることができ、施工性を向上することができる。揚重装置1によれば、ギアカバー部材47により駆動部20、ピニオンギアP、ラックレールR、アジャストローラJを覆って保護することにより、異物等の侵入を阻止しトラブルを未然に防ぐことができる。
【0074】
揚重装置1によれば、防音対策を行うことにより、発生する騒音の支配的な空気伝搬音を抑制し全体騒音レベルを大幅に低減することができる。揚重装置1によれば、騒音発生に基づく稼働制約等がなくなり、資材楊重、作業員移動の効率を大幅に向上させることができる。揚重装置1によれば、資材搬送ロボットと連動することで、長時間において稼働することができる。
【0075】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態においては、工事用の揚重装置を例示したがこれに限らず、工事用以外の揚重装置や、人以外の物を運搬する揚重装置に適用してもよい。また、上述した構成は、水平方向、斜め方向に移動するラックピニオンを利用した移動体に適用してもよい。
【符号の説明】
【0076】
1…揚重装置、2…移動部、3…昇降枠、3A…支持枠、4…支持部、5…駆動枠、5A…枠部材、6…板状部、6H…穴、10…ケージ、20…駆動部、21…モータ、22…減速機、23…出力軸、30…継手部、40…カバー部、41…板状部材、41-45…板状部材、41-46…板状部材、42…板状部材、43…板状部材、44…板状部材、45…板状部材、46…板状部材、46H…箱部材、47…ギアカバー部材、48…ピニオンギアカバー、49…アジャストローラカバー、50…遮蔽部材、B…レール用フレーム、B1…モジュール、C…連結部材、D…ガイドローラ、E1…第1固定部材、E2…第2固定部材、G…ガイドレール、J…アジャストローラ、K…固定部材、L…固定部材、L1…第1板状部、L2…第2板状部、LH…長穴、P…ピニオンギア、Q…吸音材、R…ラックレール、R1…ラックギア、S…遮音材、T…充填材、W…壁面、X…ボルト、Y…ナット、Z…固定部材、Z1…第1板状部、Z2…第2板状部
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8
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図10